(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】除滓機及び、その除滓機を用いた高温溶融物保持容器からの除滓方法
(51)【国際特許分類】
F27D 3/15 20060101AFI20241111BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20241111BHJP
F27D 25/00 20100101ALI20241111BHJP
【FI】
F27D3/15 S
C21C1/02
F27D25/00
(21)【出願番号】P 2021186560
(22)【出願日】2021-11-16
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敏展
(72)【発明者】
【氏名】石井 和宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幸介
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192523(JP,A)
【文献】実開昭59-153058(JP,U)
【文献】特開昭52-095595(JP,A)
【文献】実開昭50-098007(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第109622935(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/00 - 5/00
B22D 33/00 - 47/02
C21C 1/02
F27D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温溶融物保持容器内の溶湯上に浮かぶスラグを、
前記高温溶融物保持容器内の溶銑の湯面と平行な排滓方向に移動させることで、前記スラグを前記高温溶融物保持容器の外部に掻き出すスラグドラッガー式の除滓機において、
前記除滓機は、長尺のアームと、当該アームの先端に取り付けられ且つ前記スラグを移動させて外部に掻き出す掻き出し板と、を有し、
前記掻き出し板の表面に、網目状に形成されている金属製の保護部材を備え
、
前記保護部材は、網目状の金属板部材であり且つ網線部材が縦横に組み合わさった菱形形状の網目を有していて、前記網線部材の板厚Tと幅長である刻み幅Wとのいずれも8.0mm以上とされている
ことを特徴とする除滓機。
【請求項2】
前記掻き出し板は、前記排滓方向を向く平板状の掻き出し部と、前記掻き出し部の両端部に配備され且つ外側に傾斜した平面視で略ハの字形状の一対の案内板と、を有し、
前記保護部材は、前記掻き出し板の下端側において、前記掻き出し部と前記一対の案内板を周回するように覆っている
ことを特徴とする請求項1に記載の除滓機。
【請求項3】
前記保護部材は、前記掻き出し板の下部を包囲するように取り付けられており、
前記掻き出し板の下端面に対する前記保護部材の下方突出量が8mm以内とされている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の除滓機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の除滓機を用いて、高温溶融物保持容器内の溶湯上に浮かぶスラグを移動させて外部に掻き出して除滓する
ことを特徴とする高温溶融物保持容器からの除滓方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工程において、高温溶融物保持容器からスラグを除滓する際に用いられる除滓機、特に除滓機に取り付けられる掻き出し板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製鋼工場では、高炉から出銑した溶銑を取鍋などの高温溶融物保持容器に装入する。その後、取鍋内の溶銑(溶湯)に対して、脱硫などの溶銑予備処理を行ったり、脱りん処理、脱炭処理などの一次精錬や二次精錬が行われる。ところが、これらの処理では、石灰等の精錬剤を添加して処理を行うためスラグが生成される。そのため、次の処理前に除滓機(スラグドラッガー)を用いてスラグの除滓処理が行われる。
【0003】
取鍋内の溶銑からスラグを除滓する技術としては、例えば、特許文献1~4に開示されているものがある。
特許文献1は、除滓装置において、耐火物の掻き出し板に対する被覆範囲を適切に設定して掻き出し板の溶損を適切に防止できるとともに掻き出し板の高重量化を防止することを目的としている。
【0004】
具体的には、掻き出しアームの先端に溶融金属容器内の溶融金属の表面に浮遊するスラグを掻き出す掻き出し板を取付け、該掻き出し板が左右方向及び上下方向に延びる四角形状を有する除滓装置であって、前記掻き出し板に、該掻き出し板の下部の表裏面、左右両側面、及び下端面を被覆する耐火物を設け、該耐火物の前記掻き出し板に対する被覆範囲は、前記掻き出し板の下端から30mm以上300mm以下であることとされている。
【0005】
特許文献2は、除硫板の下半分の表裏両面に耐火物キャスタブルを塗着させ損傷を防止することを目的としている。
具体的には、スラグドラッガーの除硫板に対するキャスタブル塗着装置において、台板上面中央に隔板を着立した上部の左右両面に一対の突軸を設け、該板の両端を二股上に開き、該股板の上面に突縁を有する棚板を設け、隔板の左右両側にこれと平行に外囲板を着立し、外囲板の両袖を外方に折り曲げたうえ更に内方に屈曲し、該屈曲板と股板の両端縁を合接させ、両板面に設けた雌雄の懸止具を互いに懸し合わせて止め、台板の左右両端部に支持枠を着立し、平箱内に多数並列に架設したロールの上面に基板を載せ、該板上面の台板を載着し、基板をクランク装置にて往復運動させることとされている。
【0006】
特許文献3は、溶融スラグ中に繰り返し浸漬することによって、短時間で確実に除滓でき、しかも地金損失が少ないと共に、装置も安価であり、広く溶融金属容器内の浮遊スラグの除去に応用できることを目的としている。
具体的には、溶融滓の急冷除去装置において、溶融金属容器内に挿入せしめて、該溶融金属容器内に浮遊した溶融スラグの除去において、適宜厚みの子端ブロックの表面に、適宜形状の凸状体を設け、且つ、該子端ブロックに吊り手を設けることとされている。
【0007】
特許文献4は、溶銑や溶鋼をはじめとする溶融金属、又はその製造精錬時のスラグと直接的に接触するスラグ掻板等の部材の表面に、それらの溶融金属やスラグが融着しない様な被覆層を形成することを目的としている。
具体的には、金属及びスラグ付着防止被覆層の形成方法において、1、溶融状の金属あるいはスラグと接触する鉄鋼部材の表面に、Cr17~80重量%、Al2~10重量%、残部が実質的にFeから成る合金の溶射層を形成し、該溶射層表面に加熱酸化処理を施して、Al_2O_3系皮膜を形成せしめる。 2、溶融状の金属あるいはスラグと接触する鉄鋼部材をスラグ除去用のノロ掻板とする。3、溶融状の金属あるいはスラグと接触する鉄鋼部材の表面に、Cr17~80重量%、Al2~10重量%、残部が実質的にFeから成る合金の溶射層を形成し、該溶射層の表面粗度を20S以下となる如く加工をし、次いで該加工後の溶射層表面に加熱酸化処理を施して、Al_2O_3系皮膜を形成せしめる。 4、溶融状の金属あるいはスラグと接触する鉄鋼部材をスラグ除去用のノロ掻板とすることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-192523号公報
【文献】特開昭54-110106号公報
【文献】実開昭59-153058号公報
【文献】特開平01-100253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、耐火物と鉄板に関しては、1150~1450℃の範囲においてそれぞれ膨張率が異なる。そのため、特許文献1では、膨張差及び、除滓での繰り返し使用に伴って耐火物に亀裂が発生してしまい、耐火物が脱落しやすくなる。その耐火物が脱落してしまった箇所については、掻き出し板を構成する鉄板が露出してしまう虞がある。このことが起これば、スラグを除滓する際に、溶鉄と鉄板とが直接触れてしまい、鉄板の溶損が進行しやすくなる。つまり、掻き出し板の長寿命化は極めて困難となる。
【0010】
また、同文献では、耐火物を鉄板(掻き出し板)に施工するに際しては、耐火物を多く使用するための材料費や、鉄板へのスタッド設置の費用が必要となり、施工に関しての費用が増大する虞がある。
特許文献2は、上記と同様に耐火物と鉄板に関して1150~1450℃での膨張率が異なるため、膨張差及び、除滓での繰り返し使用に伴って耐火物に亀裂が発生してしまい、耐火物が脱落しやすくなる。その耐火物が脱落してしまった箇所については、掻き出し板を構成する鉄板が露出してしまう虞がある。このことが起これば、スラグを除滓する際に、溶銑と鉄板とが直接触れてしまい、鉄板の溶損が進行しやすくなる。
【0011】
また、同文献では、キャスタブルを施工するための専用装置が必要となり、初期投資費用が増大する虞がある。また、鉄板(掻き出し板)へキャスタブルを施工するには、スタッドの設置が必要であるため、施工費用が増大する虞がある。
特許文献3については、網目状の金属板材の詳細な仕様(寸法等)についての記載や示唆が全くされていない。また、網目状の金属板材の板厚Tが小さい場合、高温のスラグや溶銑によって板材の金属変形あるいは溶損が進行してしまう虞がある。
【0012】
特許文献4は、ノロ掻板において、Feに対して高価なCrやAlを含む溶射材料を使用することで、施工費用が増大してしまう虞がある。
また、同文献では、スラグを付着させないために溶融金属と、ノロ掻板を構成する鉄板とが直接接触してしまい、鉄板の温度が融点以上に上昇してしまう虞がある。或いは、溶融金属との接触により溶射材が低融点化することで、溶射材が溶融して鉄板が露出することとなり、鉄板と溶融金属と直接接触してしまう。このことにより、鉄板の溶融が進行してしまう虞がある。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、除滓機に取り付けられた掻き出し板を保護部材で覆っておくことで、掻き出し板の溶損を防ぐとともに、除滓作業の作業効率を向上させることができる除滓機及び、その除滓機を用いた高温溶融物保持容器からの除滓方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる除滓機は、高温溶融物保持容器内の溶湯上に浮かぶスラグを、前記高温溶融物保持容器内の溶銑の湯面と平行な排滓方向に移動させることで、前記スラグを前記高温溶融物保持容器の外部に掻き出すスラグドラッガー式の除滓機において、前記除滓機は、長尺のアームと、当該アームの先端に取り付けられ且つ前記スラグを移動させて外部に掻き出す掻き出し板と、を有し、前記掻き出し板の表面に、網目状に形成されている金属製の保護部材を備え、前記保護部材は、網目状の金属板部材であり且つ網線部材が縦横に組み合わさった菱形形状の網目を有していて、前記網線部材の板厚Tと幅長である刻み幅Wとのいずれも8.0mm以上とされていることを特徴とする。
好ましくは、前記掻き出し板は、前記排滓方向を向く平板状の掻き出し部と、前記掻き出し部の両端部に配備され且つ外側に傾斜した平面視で略ハの字形状の一対の案内板と、を有し、前記保護部材は、前記掻き出し板の下端側において、前記掻き出し部と前記一対の案内板を周回するように覆っているとよい。
【0015】
なお、好ましくは、前記保護部材は、前記掻き出し板の下部を包囲するように取り付けられており、前記掻き出し板の下端面に対する前記保護部材の下方突出量が8mm以内とされているとよい。
【0016】
本発明にかかる除滓機を用いた高温溶融物保持容器からの除滓方法は、上記の除滓機を用いて、高温溶融物保持容器内の溶湯上に浮かぶスラグを移動させて外部に掻き出して除滓することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、除滓機に取り付けられた掻き出し板を保護部材で覆っておくことで、掻き出し板の溶損を防ぐとともに、除滓作業の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】スラグ除滓処理を実施している様子を模式的に示した図である。
【
図2】本発明の除滓機(スラグドラッガー)に取り付けられる掻き出し板の概略を模式的に示した図である。
【
図3】網目状の金属板材の概略及び寸法の例を示した図である。
【
図4】本発明の除滓機(スラグドラッガー)に取り付けられる掻き出し板の使用状況の例を模式的に示した図である。
【
図5】本発明の除滓機(スラグドラッガー)に取り付けられる掻き出し板の概略及び寸法の例を示した図である。
【
図6】掻き出し板の溶損速度の結果(実施例及び比較例)を示す。
【
図7】除滓開始後における掻き出し板への付着物の有無の測定範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる除滓機3及び、その除滓機3を用いた高温溶融物保持容器1からの除滓方法の実施形態を、図を参照して説明する。以降、本実施形態の説明において、本発明の名称を単に「掻き出し板6」と呼ぶこともある。また、高温溶融物保持容器1については、金属溶解炉、金属溶湯容器、溶銑鍋、取鍋などを含むものとする。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
【0020】
一般に、製鋼工場では、高炉から出銑した溶銑Mを取鍋1に払い出す。その後、取鍋1内の溶銑M(溶湯M)に対して、脱硫などの溶銑予備処理を行ったり、脱りん処理、脱炭処理などの一次精錬や二次精錬が行われる。ところが、これらの処理では、取鍋1(溶銑鍋1)内の溶銑Mに対して石灰等の精錬剤を添加して処理を実施するため、スラグSが生成される。生成されたスラグSは、次工程で反応効率を低下させる虞がある。そのため、次の処理前に除滓機3(スラグドラッガー)を用いて、スラグSを取り除く除滓処理が行われる。
【0021】
図1に、取鍋1内の溶銑Mに対して、除滓機3を用いてスラグSを取り除く除滓処理を実施している状況を示す。
図1に示すように、スラグSの除滓処理を行うにあたっては、まず、例えば転炉にて脱りん処理を行った溶銑Mを取鍋1に払い出す。その溶銑Mが装入された取鍋1を、クレーンなどで吊り上げて除滓ステーション2に移動させる。除滓ステーション2では、取鍋1を傾動させた状態にして、溶銑M上に浮かぶスラグSを、除滓機3(スラグドラッガー3)を用いて除去する。掻き出されたスラグSは、外部に設置された排滓容器4(スラグパン)に排滓される。
【0022】
本発明にかかる掻き出し板6は、取鍋1内の溶湯M(溶銑M)上に浮かぶスラグSを移動させて外部に掻き出す除滓機3(スラグドラッガー3)に取り付けられるものである。
図1に示すように、スラグドラッガー3は、長尺のアーム5と、当該アーム5の先端に取り付けられ、スラグSを移動させて外部に掻き出す掻き出し板6と、を有している。スラグドラッガー3は、移動装置8により、除滓方向に移動可能となっている。すなわち、スラグドラッガー3は、取鍋1に対して進退自在な構成とされている。
【0023】
掻き出し板6は、アーム5が軸心方向に移動する(取鍋1に対して進退する)ことにより、除滓方向に移動可能となっている。
アーム5を介して掻き出し板6を除滓方向に移動させることによって、溶湯M上に浮かぶスラグSを、スラグドラッガー3から見て、取鍋1の奥側から手前側に移動させる。移動させたスラグSを、取鍋1の開口部1a(烏口1a)から外部へ掻き出す。外部に掻き
出されたスラグSは、取鍋1の下方手前側に設置された排滓容器4(スラグパン)に排滓される。
【0024】
図2に、本発明の除滓機3(スラグドラッガー3)に取り付けられる掻き出し板6及び金属板部材7の概略を模式的に示す(四面図)。
図2に示すように、掻き出し板6は、スラグSを移動させて掻き出す掻き出し部6aと、そのスラグSを除滓方向に案内する案内板6bと、を有している。掻き出し板6は、平面(上面)視で略凹形状とされ、開口部6cに向けて拡幅された形状となっている。掻き出し板6は、金属製の部材である。掻き出し板6は、鋼材(例えば、SS400)を用いて形成されている。
【0025】
本実施形態においては、掻き出し板6は、平面(上面)視において、掻き出し部6a側を横方向における短辺とし、開口部6c側を横方向における長辺とする。掻き出し板6の奥行き方向を、掻き出し板6の幅とする。なお、掻き出し板6の横方向における長辺(開口部6cの横方向の長さ)は、775mmとしている。
掻き出し部6aは、横方向に一定の長さを有するものである。掻き出し部6aの横方向の両端には、案内板6bが設けられている。つまり、掻き出し板6は、中央に掻き出し部6aを備え、その掻き出し部6aの側方に一対の案内板6bを備えた、平面視で略コの字形状の部材である。
【0026】
掻き出し部6aは、アーム5の軸心方向に対して直交するように設けられている。つまり、掻き出し部6aとアーム5は、平面視で略T字形状となるように配備される。掻き出し部6aは、所定の板厚を備えた金属製の平板部材とされている。
案内板6bは、除滓方向を向き且つ外側に傾斜して、掻き出し部6aの端部に配備されている。本実施形態においては、一対の案内板6bは、掻き出し部6a側からアーム5側(除滓方向)に拡幅するように(平面視で略ハの字形状に)配備されている。
【0027】
掻き出し板6の表面に、網目状に形成されている金属製の保護部材7を備える。つまり、掻き出し板6の表面は、網目状に形成されている金属製の保護部材7によって覆われている。保護部材7は、除滓時にスラグSが接触することで、掻き出し板6の影響(溶損など)が大きくなる箇所に対して、覆っておくものである。
保護部材7は、掻き出し板6の下端側において、掻き出し部6aと一対の案内板6bを周回するように覆われている。保護部材7は、下端から所定の高さの範囲で掻き出し板6を覆うように配備されている。
【0028】
図2に示すように、保護部材7は、掻き出し板6の下部を包囲するように取り付けられており、掻き出し板6の下端面に対する保護部材7の下方突出量が8mm以内とされている。つまり、保護部材7(金属板部材7)は、突出量が掻き出し板6の下端から下方向に8mm以内とされている。すなわち、保護部材7は、掻き出し板6の上方向を(+方向)とし下側方向を(-方向)とし下端を基準点(ゼロ)とすると、その下端の基準点から-8mm以内に覆うように配備されている。
【0029】
好ましくは、保護部材7は、少なくとも掻き出し板6の下端から8mm以内の範囲で突出させて、掻き出し板6を覆うようにするとよい。なお、保護部材7は、掻き出し板6の上方向において、下端から上方向に+150mm以下の範囲で覆うように配備されているとよい。ただし、「+150mm」は実施例の中の一例であり、この数値に限定されず、設備仕様の許容範囲内で下端から上方向に配備されるとよい。すなわち、「+150mm」は溶損速度を測定するために決定した一例(実施例)であり、覆う範囲を規定するものではない。
【0030】
理由としては、本願発明者が鋭意研究を行った結果、掻き出し板6の下端において保護部材7を突出させる量を規定(8mm)より多くすると、保護部材7が溶損してしまい、スラグSが下端部に覆われない虞があることを知見した。つまり、スラグSを効率よく掻き出せなくなる可能性がある。このことから、掻き出し板6の下端における保護部材7の突出量を前述のように規定した。
【0031】
さて、保護部材7を掻き出し板6の下部を包囲するように且つ、下方向に8mm以内で突出させて取り付けるということは、例えば、足先部分を少し余らせて足に靴下を履かせ
るようにするというイメージと略同じといえる。
図3に、網目状の保護部材7の概略及び寸法の例を示す。
保護部材7(金属板部材7)は、網目状の金属板部材であり且つ網線部材7aが縦横に組み合わさった形状を呈していて、網線部材7aの板厚Tと幅長である刻み幅Wとのいずれも8.0mm以上とされている。
【0032】
理由としては、本願発明者が鋭意研究を行った結果、保護部材7の板厚Tと刻み幅Wの範囲が規定より小さいと、掻き出し板6が溶損して露出する虞があることを知見した。このことから、保護部材7の板厚Tと刻み幅Wの範囲を前述のように規定した。
好ましくは、保護部材7は、板厚Tが8.0mm以上16.0mm以下の範囲であるとよい。また、保護部材7は、刻み幅Wが8.0mm以上16.0mm以下の範囲であるとよい。なお、板厚T及び刻み幅Wの範囲は、設備サイズ(重量)を考慮し決定した。
【0033】
なお、板厚Tと刻み幅Wの上限については、スラグドラッガー3などの設備制約によって異なってくる。保護部材7の板厚Tと刻み幅Wについては、エキスパンドメタル[XG,XS]の規格表(JIS G 3351)を参照するとよい。また、保護部材7の網目の形状については、スラグSを引っかけるように掻き出せる菱形などの四角形状が好ましい。
【0034】
保護部材7に覆われた掻き出し板6を備えた除滓機3を用いて、取鍋1(高温溶融物保持容器1)内の溶湯M上に浮かぶスラグSを移動させて外部に掻き出して除滓する。
図1に戻って、スラグSの除滓処理を行うにあたっては、まず、例えば転炉にて脱りん処理を行った溶銑Mを取鍋1に払い出す。その溶銑Mが装入された取鍋1を、クレーンなどで吊り上げて除滓ステーション2に移動させる。除滓ステーション2では、取鍋1を傾動させた状態にして、溶銑M上に浮かぶスラグSを、除滓機3(スラグドラッガー3)を用いて除去する。
【0035】
スラグドラッガー3には、下端側が網目状で金属製の保護部材7に覆われた掻き出し板6が、アーム5の先端に取り付けられている。除滓時においては、網目状で金属製の保護部材7に、スラグSが付着することとなる。これにより、掻き出し板6と溶銑Mとの接触が低減される。
図4に、本発明の掻き出し板6(除滓機3(スラグドラッガー3))の使用状況の例を模式的に示す。
【0036】
図4に示すように、掻き出し板6を使用する前において、除滓時にスラグSが付着するように、網目状で金属製の保護部材7を、掻き出し板6に配備する。
掻き出し板6の使用後においては、除滓時に、網目状で金属製の保護部材7にスラグSが付着することとなり、掻き出し板6と溶銑Mとの接触が低減されるので、掻き出し板6は溶損されにくくなる。つまり、掻き出し板6の長寿命化が可能となる。
[実施例]
以下に、本発明にかかる保護部材7に覆われた掻き出し板6を備えた除滓機3を用いて、取鍋1(高温溶融物保持容器1)内の溶湯M上に浮かぶスラグSを掻き出して除滓する方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0037】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
表1に、本実施例における実施条件を示す。
【0038】
【0039】
表2に、本発明にかかる保護部材7に覆われた掻き出し板6を備えた除滓機3を用いて、取鍋1内の溶湯M上に浮かぶスラグSを掻き出して除滓する方法に従って、実施した実施例及び、本発明を比較するために実施した比較例を示す。
【0040】
【0041】
図6に、掻き出し板6の溶損速度の結果(実施例及び比較例)を示す。
なお、評価の溶損速度については、実施例:158mm÷使用回数、比較例1:150mm÷使用回数、比較例2:158mm÷使用回数で算出した。
図6、表2に示すように、掻き出し板6の溶損速度について、本発明の掻き出し板6(保護部材7を規定の範囲で覆った掻き出し板6)を備えたスラグドラッガー3を用いて除滓を行った場合、掻き出し板6の溶損速度を0.13mm/ch以下とすることができることを確認した。
【0042】
表2の「下端を基準に下方向に8mm、上方向に150mm(全体で158mm)までの掻き出し板6が溶損するバッチ数」の測定結果(実施例及び比較例)を参照すると、掻き出し板6の溶損速度の低減について、例えば、本実施例1(実験番号1~5)の場合、掻き出し板6の溶損速度は、平均0.07mm/バッチとなった。
一方、比較例1(実験番号6~15)の場合、上方向に150mm(全体で150mm)までの掻き出し板の溶損速度は、平均0.66mm/バッチとなった。また、比較例2(実験番号16)の場合、上方向に150mm(全体で158mm)までの掻き出し板の溶損速度は、平均0.37mm/バッチとなった。
【0043】
以上より、本実施例によれば、掻き出し板6の溶損速度を遅くする(溶損を抑制する)ことができる。
図7に、除滓開始後における掻き出し板6への付着物の有無の測定範囲を示す。
図7、表2に示すように、除滓開始後の掻き出し板6への付着物の有無について、本発明に従って除滓を行った場合は、除滓後の掻き出し板6(保護部材7)に付着物が存在していることを確認した。
【0044】
本発明によれば、網目状で且つ金属製の保護部材7を掻き出し板6の下端から規定の範囲で覆うことで、掻き出し板6へ付着するスラグS・地金付着層の厚みの適正化(スラグSの掻き出し効率の向上)が図れ、掻き出し板6の異常な溶損を防止することができるとともに、除滓作業時の作業ロスを低減することができる。また、除滓作業における掻き出し板6の製品寿命が向上し、掻き出し板6の交換作業の頻度が低減し、除滓作業の稼働率が向上する。また、掻き出し板6の重量の増加を防止することができるようになる。
【0045】
すなわち、本発明によれば、除滓機3に取り付けられた掻き出し板6を保護部材7で覆っておくことで、掻き出し板6の溶損を防ぐとともに、除滓作業の作業効率を向上させることができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0046】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0047】
1 取鍋(高温溶融物保持容器)
1a 烏口
2 除滓ステーション
3 除滓機(スラグドラッガー)
4 排滓容器
5 アーム
6 掻き出し板
6a 掻き出し部
6b 案内板
6c 開口部
7 保護部材(金属板部材)
8 移動装置
M 溶銑(溶湯)
S スラグ