(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】精神状態改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/40 20060101AFI20241111BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20241111BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20241111BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241111BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K38/40
A23L33/19
A61K9/127
A61K47/24
A61P25/20
(21)【出願番号】P 2017254188
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上崎 聖子
(72)【発明者】
【氏名】末川 裕
(72)【発明者】
【氏名】正箱 尚久
(72)【発明者】
【氏名】今中 宏真
(72)【発明者】
【氏名】水道 裕久
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】伊藤 幸司
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-171262(JP,A)
【文献】Jpn Pharmacol Ther(薬理と医療)、2016年、Vol.44、No.9、pp.1347-1360
【文献】ミルクサイエンス、2012年、Vol.61、No.2、pp.105-113
【文献】Chem Biol Drug Des、2015年、Vol.86、pp.466-475
【文献】Chem Biol Drug Des、2014年、Vol.83、pp.560-575
【文献】J Pharm Pharmaceut Sci、2001年、Vol.4、No.2、pp.138-158
【文献】Curr Drug Deliv、2017年3月、Vol.14、No.2、pp.289-303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream III)
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを含有し、前記ラクトフェリンの過半量以上がリポソームに内包されている状態で存在する、睡眠状態及び/又は不安状態改善用の経口組成物であり、
前記組成物中のラクトフェリンの含有量が、20~
100mgであ
り、
一日あたり50~200mgのラクトフェリンが摂取されるように用いられる、組成物(ただし、前記リポソームが
、多糖修飾リポソームである組成物を除く)。
【請求項2】
ラクトフェリンを内包するリポソームを有効成分として含有する、請求項1に記載の、睡眠状態及び/又は不安状態改善用の経口組成物。
【請求項3】
医薬品組成物又は食品組成物である、請求項1又は2に記載の、睡眠状態及び/又は不安状態改善用の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠状態を質的に改善し、起床後の活動時において精神状態をよりアクティブな状態に向上させる睡眠改善用組成物に関する。詳しくは、入眠状況、眠りの継続性、起床時の気分(疲労感や不安感・当惑感などのネガティブな精神状態の軽減)を改善し、起床後の活動時において、「疲れが取れた」、「活発だった」、「頭がはっきりしていた」や「集中力が向上していた」などの自覚を与えることで精神状態をよりアクティブな状態に改善する効果が得られる精神状態改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は目覚めて活動しているときの心身の状態に深く関係していることが知られており、種々の強いストレスを受ける機会が多い近年の社会生活を送る人においては、睡眠障害などの睡眠の質的悪化が発生し、そのためにQOLが低下して苦痛を感じている人が年々増えている。近年、睡眠時の状態と日中活動時の精神状態との間に関係があると認識する人が増えるに従い、質の高い睡眠を確保したいというニーズが生まれ、高まりつつある。一方、睡眠改善の手段として、病的な水準であれば医療機関に相談し、睡眠導入剤などの医薬品の使用やカウンセリングなどを受けることが出来るが、治療を受ける状態ではないが体調不良を感じたり、気分がすぐれないことが多いなどの不調を感じている人において、簡便で有効的な手段が確保できないという課題点があった。
【0003】
このため、睡眠を改善する色々な方法が提案されている。例えば、センサーなどを活用して睡眠情報、生活習慣情報や生活状況情報を収集し、データ解析することで睡眠を質的に改善する方法を助言するシステムを活用する方法(特許文献1)、寝具に温度調節の機能を付加することで改善する方法(特許文献2)、香気成分を用い嗅覚を刺激することで改善する方法(特許文献3、4)、動植物に含まれる成分を経口摂取することで改善する方法(特許文献5~7)などが挙げられる。しかし、これらの方法では、十分な効果が得られにくかったり、継続的な実施を行いにくいだけでなく、人体由来でない物質を通常摂取されるよりも高い濃度を継続的に経口摂取するで健康障害を起こす可能性があるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-122347号公報
【文献】特開2015-167639号公報
【文献】特開2014-196250号公報
【文献】特開2015-081227号公報
【文献】特開2016-153387号公報
【文献】特開2015-199686号公報
【文献】特開2016-079096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、睡眠状態を質的に改善し、起床後の活動時における精神状態をよりアクティブな状態に改善する効果を有する経口組成物を提供する、詳しくは、入眠状況、眠りの継続性、起床時起床後の気分(疲労感や不安感・当惑感などのネガティブな精神状態の軽減)を改善し、起床後の活動時において、「疲れが取れた」、「活発だった」、「頭がはっきりしていた」や「集中力が向上していた」などの自覚を与えることで精神状態をよりアクティブな状態に改善する効果を有する経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ラクトフェリンを継続的に経口摂取することで、入眠状況、眠りの継続性を改善し、起床時の気分を「疲労感」や「不安感・当惑感」などのネガティブな精神状態の軽減させることで改善できることを見出した。さらに、継続的に経口摂取するラクトフェリンをリポソーム化した「ラクトフェリンを内包したリポソーム」に置換した場合、起床後の活動時において、「疲れが取れた」、「活発だった」、「頭がはっきりしていた」や「集中力が向上していた」などの自覚をもたらすことで精神状態をよりアクティブな状態に改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ラクトフェリンを含有し、少なくともその一部がリポソームに内包されている状態で存在する、精神状態改善用の経口組成物。
項2.
組成物に含有するラクトフェリンの過半量以上がリポソームに内包されている状態で存在する、項1に記載の精神状態改善用の経口組成物。
項3.
ラクトフェリンを内包するリポソームを有効成分として含有する項1または項2のいずれか1項に記載の、精神状態改善用の経口組成物。
項4.
医薬品組成物又は食品組成物である、項1~3のいずれか1項に記載の、精神状態改善用の経口組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入眠状況、眠りの継続性、起床時の気分を「疲労感」や「不安感・当惑感」などといったネガティブな精神状態を排除したり軽減させるという改善だけでなく、起床後の活動時において「疲れが取れた」、「活発だった」、「頭がはっきりしていた」や「集中力が向上していた」などの自覚をもたらすことにより、日中の精神状態をよりアクティブな状態に改善するこによりQOLを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】就寝時のアンケートにおける「疲れが取れた」項目の飲用期間における解析結果を示したグラフ。
【
図2】就寝時のアンケートにおける「活発だった」項目の飲用期間における解析結果を示したグラフ。
【
図3】就寝時のアンケートにおける「頭がはっきりしていた」項目の飲用期間における解析結果を示したグラフ。
【
図4】就寝時のアンケートにおける「集中力があった」項目の飲用期間における解析結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ラクトフェリンは、分子量が約8万の鉄結合性の糖蛋白質であり、哺乳動物の乳汁、唾液、涙、精液、種々の粘液等に存在する。ヒトにおいても母乳、特に出産後数日の間に多く分泌される初乳に多く存在し、新生児の免疫獲得など健康維持に関して重要な役割を果たしていると考えられている。また、ラクトフェリンは、新生児以降でも体内にも広く分布している。例えば、唾液、涙、十二指腸などの分泌液中に含まれており、新生児以外にとっても重要な役割を担っていると考えられている。本発明に用いるラクトフェリンは、コスト面から牛乳から抽出されたものが好適に用いられるが、由来は特に限定されない。また、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリンまたはホロラクトフェリンであってもよい。具体的には、哺乳類(例えば、ヒト、ウシ、水牛、ウマ、ヤギ、ヒツジ等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳等、これらの処理物である脱脂乳、ホエー等からイオン交換クロマトグラフィー等の常法により分離したラクトフェリン、ラクトフェリンから常法により鉄を除去したアポラクトフェリン、アポラクトフェリンに鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属を一部キレートさせた金属結合ラクトフェリン、または前記金属を完全にキレートさせた金属飽和ラクトフェリン、等を使用することができる。 特にウシ由来又はヒト由来のラクトフェリンが好ましい。市販品としては、例えば、森永ラクトフェリンMLF-EX(森永乳業株式会社製)、「Bioferrin」(Glanbia Nutritionals社製)、「Lactoferrin」(Fonterra社製)を好ましく用いることができる。
【0011】
本発明に用いるラクトフェリンは、少なくともその一部がリポソームに内包されていることを必要とする。特に、組成物中においてリポソームに内包されているラクトフェリンの含有量を高めることがより好ましく、組成物中に含有するラクトフェリンの過半量がリポソームに内包されている場合が更に好ましく、組成物中に含有するほぼすべてのラクトフェリンがリポソームに内包されていることが最も好ましい。加えて、本発明は「ラクトフェリンを内包するリポソーム」を有効成分として含む、精神状態改善用の経口組成物も開示する。なお、 本発明でいう「包含されている」とは、主として脂質二重膜で形成された脂質小胞体(リポソーム)の構造体の中に包含される状態を意味する。脂質二重膜であるリポソーム膜で囲まれる空間に封入されている状態で存在することが好ましいが、リポソーム膜の構成成分とともに存在していてもよく、多重膜リポソームを構成する多重膜の間に存在していてもよく、リポソームを構成する脂質二重膜のうちの最も外側に位置する膜の表面に付着又は結合する形態で存在していても良く、それらの全てもしくは一部に存在しても良い。「リポソームに包含されているラクトフェリン」は、本願において、「リポソーム化したラクトフェリン」、「ラクトフェリン内包リポソーム」、「ラクトフェリン含有リポソーム」、や単に「リポソーム化ラクトフェリン」と表現することがある。
【0012】
リポソームは脂質小胞体であり、リン脂質を主体とした脂質を十分量の水で水和することにより形成される。一般的に、脂質二重層の数に基づいて分類され、多重膜リポソーム(MLV)と一枚膜リポソームに分類される。一枚膜リポソームは、そのサイズに応じて、更にSUV(small unilamella vesicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vesicle)などに分類される。本発明のリポソームは、これらのいずれであってもよい。好ましいのはMLVである。本発明では、リポソームの大きさは、通常30~1000nm、好ましくは30~600nm、より好ましくは50~200nmである。
【0013】
リン脂質としては、レシチン若しくはレシチン誘導体が好ましい。レシチンとしては特に制限されず、例えば、大豆レシチン、コーンレシチン、綿実油レシチン、卵黄レシチン、卵白レシチンなどを用いることができる。また、レシチンに代えて又は加えて、レシチン誘導体を用いてもよい。レシチン誘導体としては、水素添加レシチン、並びに、上記で例示したレシチン中のリン脂質にポリエチレングリコール、アミノグリカン類を導入したものなどを例示することができる。これらの中でも、大豆レシチン、卵黄レシチン、水素添加卵黄レシチンが好ましく、大豆レシチン、卵黄レシチンがより好ましい。また、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリンなど)の純度を高めた精製レシチンを用いることもできる。これらのレシチン及びレシチン誘導体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ラクトフェリンを内包するリポソーム(ラクトフェリン内包リポソーム)は、従来の方法により製造することができる。例えば、所望量のレシチン及び必要に応じて所望量のステロールを、例えばエタノールなどの適当な有機溶媒で可溶化し、減圧下に溶媒を除去し、膜脂質を作成後、これにラクトフェリンや任意の生理活性物質を含む水溶液を添加して、例えば、1000~3000rpm程度で2~5分間程度撹拌して、リポソーム懸濁液を調製することにより、ラクトフェリンを封入したリポソームを得ることができる。
【0015】
また、この方法とは別に、所望量のレシチン及び必要に応じて所望量ステロールを少量のエタノールに溶解後、水溶液又は緩衝液に分散して予備乳化を行った後、高圧で分散させて脂質二重層を形成させてリポソーム懸濁液を調製することによってもラクトフェリンを封入したリポソームを得ることができる。
【0016】
リポソーム分散液の調製方法は前記の方法には制限されず、公知の方法により調製することができる。例えば、下記の(1)~(4)の方法などが挙げられる。
(1) リン脂質(レシチン)、ラクトフェリン、及びその他の成分を混合した後、pH調製剤、多価アルコール、糖類などを含む水溶液で水和し、リポソームを形成させる方法、
(2) リン脂質(レシチン)、ラクトフェリン、及びその他の成分をアルコール又は多価アルコールなどに溶解し、pH調製剤、多価アルコール、糖類などを含む水溶液で水和し、リポソームを形成させる方法、
(3) 超音波、フレンチプレスやホモジナイザーなどを用いて、リン脂質(レシチン)、ラクトフェリン、その他の成分を水中で複合体化させ、リポソームを形成させる方法、
(4) エタノールにリン脂質(レシチン)、ラクトフェリン、その他の成分を混合溶解し、当該エタノール溶液を塩化カリウム水溶液に添加した後にエタノールを除去し、リポソームを形成させる方法。
【0017】
本発明のリポソームには、ステロールを含有させることが好ましい。ステロールとしては、コレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロールなどの動物由来のステロール;β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール、エルゴステロール、エルゴスタディエノール、シトステロール、ブラシカステロールなどの植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロールなどの微生物由来のステロール等が挙げられ、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、コレステロール又はフィトステロールが好ましく用いられる。
【0018】
リポソームにおけるレシチンとステロールのモル比は、55:45~95:5程度が好ましく、60:40~90:10程度がより好ましく、75:25~85:15程度が最も好ましい。モル比がこれらの範囲にあるとリポソーム膜の安定性が向上する。なお、レシチン又はステロールの含有量は既知の方法で測定できる。例えば、レシチンの含有量はFiske-Subbarow法など、ステロールの含有量はHPLC、比色法などによって定量できる。
【0019】
得られたリポソーム化ラクトフェリンの懸濁液は、必要に応じて、リポソーム外液中のラクトフェリンを除去する操作、例えば懸濁液を濾過後,得られた濾液を透析する操作を行ってもよい。また、リポソームの懸濁液は、液状のままでも使用できるが、凍結乾燥した乾燥物として使用することもできる。リポソームは、その乾燥物を錠剤やカプセル化したものをはじめ、様々な経口摂取に適した形態とすることが可能である。
【0020】
リポソーム化ラクトフェリンの懸濁液中におけるラクトフェリン、レシチンおよびステロールの含有量は、以下のとおりである。ラクトフェリンの含有量は好ましくは10~99質量%程度、より好ましくは20~95質量%程度、さらに好ましくは30~90質量%程度。レシチンの含有量は、好ましくは1~80質量%程度、より好ましくは3~65質量%程度、さらに好ましくは5~50質量%程度。ステロールの含有量は、好ましくは0~40質量%程度、より好ましくは0.1~30質量%程度、さらに好ましくは1~20質量%程度である。また、ラクトフェリンの含有量がレシチンの含有量に比べて2倍程度までであれば、ラクトフェリンのほぼ全てがリポソームに内包させることが可能である。
【0021】
さらに、ラクトフェリン内含リポソームの表面をコーティングすることができ、このコーティング物も有効成分として利用できる。好ましいコーティングとしては、硫酸基を含有する多糖類によるコーティングがあげられる。硫酸基含有多糖類としては、フコイダン、カラギーナン、寒天、ヘパリンなどが挙げられる。また、該硫酸基含有多糖類としては、硫酸基を含まない多糖を硫酸化したものも包含され、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などであってもよい。
【0022】
硫酸基含有多糖類としては、分子量が5000~300000程度のものが好ましく用いられる。これらの硫酸基含有多糖類の中でもフコイダン及びカラギーナンを好ましく用いることができ、特にフコイダンが好ましい。硫酸基含有多糖類の使用量は、例えば、リポソームに含有されるレシチン100質量部に対して、10~500質量部程度が好ましく、20~200質量部程度がより好ましい。
【0023】
コーティングは、例えば、リポソーム化ラクトフェリンを含む懸濁液に、硫酸基含有多糖類を加え、1000~3000rpm程度で2~5分間程度撹拌することにより行うことができる。また、1つのコーティング膜の中に複数のリポソームが含まれていてもよい。なお、リポソームが硫酸基含有多糖類でコーティングされていることは、例えば、リポソーム溶液のゼータ電位が、硫酸基含有多糖類を添加して撹拌した際に変化することにより確認できる。
【0024】
本発明に係るラクトフェリン内包リポソームを含有する精神状態改善用の経口組成物は、寝つきや睡眠が十分に得られるという「質の高い睡眠」を実現させ、起きたときに眠気を感じにくく、疲労回復の実感やネガティブな思考性向になりにくいだけでなく、「疲れが取れた」、「活発だった」、「頭がはっきりしていた」や「集中力が向上していた」などの自覚をもたらすことにより、日中の活動時における精神状態をよりアクティブするという改善効果を得ることが出来る。
【0025】
本発明の精神状態改善用の経口組成物におけるラクトフェリン(ラクトフェリン単体)の含有量は、本発明の効果が奏される範囲であれば特に制限されない。例えば、1~10000mg、5~5000mg、10~2000mg、又は20~1000mg程度が例示できる。また、含有割合も特に制限はされず、例えば0.1~100質量%、1~99質量%、又は10~80質量%程度、が例示できる。当該精神状態改善用の経口組成物を摂取したときのラクトフェリンの摂取量は特に限定されないが、摂取量と得られる効果との関係から、例えば成人一日あたり10~10000mgが例示でき、この中でも20~5000mgが好ましく、30~500mgがより好ましく、50~300mgがさらに好ましく、100~200mgが最も好ましい。
【0026】
また、ラクトフェリン内包リポソームを含有する精神状態改善用の経口組成物は、成人1日当たり1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて摂取することが好ましい。子供の場合は、年齢に応じて摂取回数を制限したり、1回当たりの摂取量を制限する事が好ましい。制限の方法としては例えば、成人であれば複数個摂取するところを摂取する個数を減らしたり、タブレットや打錠剤に割線を設け、摂取量に応じて分割してから摂取する方法などが挙げられる。摂取量を適用対象はヒトが好ましいが、ヒト以外の非ヒト哺乳動物であってもよい。適用対象が非ヒト哺乳動物(例えばペット又は家畜、より具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ等)の場合も、当該ヒトの投与又は摂取量を参考として適宜設定することができる。
【0027】
本発明の精神状態改善用の経口組成物は、医薬組成物、医薬部外品組成物又は食品組成物(病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品を含む)として好ましく用いることができる。
【0028】
医薬組成物や医薬部外品として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、当該医薬組成物の形態も特に制限されず、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が例示できる。これらの形態の医薬製剤は、必要に応じて当該他の成分と、リポソーム化ラクトフェリンを組み合わせて常法により調製することができる。
【0029】
食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料が例示できる。また、当該食品組成物の形態も特に制限されず、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などの保健機能食品;病者用食品、妊産婦授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳などの特別用途食品;栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、サプリメントなどの、いわゆる健康食品;病者向け調理済み食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。これらは常法により調製することができる。特に、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などの保健機能食品;病者用食品、妊産婦授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳などの特別用途食品;栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、サプリメントなどの、いわゆる健康食品として、食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(飲料パウダー、ドリンク剤等)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤、飲料パウダー、ドリンク剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。なお、食品組成物の中でも食品添加物組成物として用いる場合には、その形態として、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。
【0030】
特に制限はされないが、本発明の精神状態改善用の経口組成物に配合することのできる上記以外の成分としては、デキストリン、セルロース、レシチン(特に大豆由来)、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウム等が特に好ましく例示される。
【0031】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
睡眠状態にラクトフェリンが与える影響の検討
試験組成物として、森永ラクトフェリンMLF-EX(森永乳業株式会社製)を用いた。 MLF-EXは、既存の天然食品添加物であるウシ由来LFを90%以上含む食品用原料である。MLF-EX以外に、デキストリン、セルロース、レシチン(大豆由来)、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムを配合し、打錠して錠剤(300mg)を製造した。製造時、当該錠剤6錠あたり、LFとして270mgを含むように原材料量を調整した(すなわち、1錠300mgあたりラクトフェリン45mgを含有する)。また、プラセボとして、MLF-EXをデキストリンで置き換えた錠剤も同様に製造した。これらの錠剤を一日6錠ずつ、4週間被験者に摂取させた。試験開始2週間前から試験開始時直前の3日間、試験開始後から2週目直前の3日間と試験開始後2週間目から4週目直前の3日間の全ての日において、朝の起床時にOSA睡眠調査票MA版(OSA sleep inventory MA version)(一般社団法人日本睡眠改善協議会公開版)を用いたアンケート調査を行った。OSA睡眠調査票MA版は、第1因子:起床時眠気(sleepiness on rising)、第2因子:入眠と睡眠維持(initiation and maintenance of sleep)、第3因子:夢み(frequent dreaming)、第4因子:疲労回復(refreshing)、第5因子:睡眠時間(sleep length)の5因子形16項目の質問(4段階評価。ネガティブ評価は「1」~ポジティブ評価は「4」。例えば、第1問では、「1」非常に疲れが残っている。「2」やや疲れが残っている。「3」やや疲れが残っている。「4」非常に疲れが残っている。)で構成されるアンケートで、16問の回答結果から各因子における心理や身体状態の調査する目的で実施した。加えて、試験開始日、試験開始後2週間目の日及び4週間目の日の3回において、日本語版POMS短縮版―成人用(Profile of Mood States-Brief Form Japanese Version)((株)金子書房発行)を用いたアンケート調査を実施し、気分や疲労度などの状態チェックの評価を行なった。日本語版POMS短縮版は35項目の質問(5段階評価。例えば、第1問「人づき合いが楽しい」では、「0」全くなかった。「1」少しあった「2」まあまああった「3」かなりあった「4」非常に多くあった)で構成され、専用のツールを用いて、(混乱-当惑)(緊張-不安)などの7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表す(TMD得点)を求めるものであり、これら尺度や得点は数値が高いほどネガティブな状態であることが知られている。得られた結果を表1に示す。なお、変動値とは試験開始後の各評価点から試験開始時点の評価点を差し引いた数値を意味する。また、TMD得点(Total Mood Disturbance)は、ネガティブな気分状態を総合的に表す得点である。
【0033】
【0034】
表1に示したとおり、ラクトフェリン飲用群(LLF)は、起床時の眠気感、入眠のしやすさや睡眠状態の維持、起床時の疲労回復感において改善し、心理状態においても、ネガティブな心理状態になることを防いでいる結果を示した。一方、プラセボ群においては、起床時の眠気感や疲労回復感で悪化しており、ネガティブな精神状態に陥る傾向があるという結果を示した。本試験の実施時期は3月末から6月初旬であったが、この期間は、交感神経が相対的に強く働きやすい冬季と副交感神経が相対的に強く働きやすい夏季の季節の変わり目であり、1年を通して最も体調や精神状態が不調となりやすいことが知られている。特に精神状態においては、春にネガティブな精神状態に陥り、健常人においても季節性感情障害や抑うつ症状が発生し、精神的な既往歴のある人においては鬱病を発症・再発する人が多いことも知られている。今回、試験した時期の温湿度は、気象庁の測定データ(大阪府)では、6.5℃、58RH%~19.8℃、72RH%の範囲で変動していた。今回の試験におけるプラセボ群の試験結果が、睡眠状態の悪化やネガティブな精神状態に陥る傾向を示したことについては、季節要因が作用したものと考えられる。従って、ラクトフェリン飲用群の試験結果は、同様に季節要因を考慮すると、睡眠状態を改善し、またネガティブな精神状態からポジティブな精神状態に改善する効果があることを示していると推察できる。
【0035】
起床後の精神状態においてラクトフェリン内包リポソームが与える影響の検討
試験組成物として、ラクトフェリンを1日3粒で135mg摂取できるように設計したラクトフェリン内包リポソームを配合した錠剤Aと、ラクトフェリンを1日3粒で300mg摂取できるように設計したラクトフェリンを配合した錠剤Bを前記と同様の方法で試作し、試験に用いた。被験者は勤務時間が一定しないシフト勤務者を主とした不規則な生活を送っていると自覚しているものを用い、途中の落伍者をのぞく33名で結果を解析した。試験は、最初の1週間は被検体を摂取しない期間とし、その後2週間は被検体を摂取する期間とした。被検体は毎日、1日3粒と規定したが、摂取する時間帯や一括して摂取するか分割して摂取するなどの摂取方法などは一切制限せず、被験者に委ねた。評価は、試験を行なった3週間全てにおいて、毎日、起床時に前記と同じ「OSA睡眠調査票MA版」を使用した調査を行ない、就寝前に、「疲れが取れた」「活発だった」「頭がはっきりしていた」「集中力があった」の4項目に関して、Visual Analog Scale形式のアンケートを用いて調査した。なお、被検体Aは17名、被検体Bは16名を解析に用い、検定には分散分析法を使用した。非飲用期間の全ての項目において両群には有意差を認めなかった。飲用時の評価結果を
図1~4に示す。
【0036】
図に示したとおり、「疲れが取れた」(p≦0.001)と「活発だった」(p≦0.001)の2つの調査項目に関して有意差を認め、「頭がはっきりしていた」(p=0.058)と「集中力があった」(p=0.091)は有意な傾向を認めた。