(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】バニラ風味増強剤、並びにそれを含有するバニラフレーバー組成物及び可食性組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241111BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 101A
A23L27/00 101Z
(21)【出願番号】P 2019181589
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018205061
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茜
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 潤
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-144086(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108514011(CN,A)
【文献】特開2004-329097(JP,A)
【文献】特開2006-204287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分を含有するバニラ風味増強剤
であって、
前記甘味成分が、ステビア抽出物、スクラロース、及びアスパルテームよりなる群から選択される少なくとも1種である場合は、前記甘味成分が、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に対して甘味閾値未満の量で用いられるためのものである、バニラ風味増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載するバニラ風味増強剤を含有するバニラフレーバー組成物:
但し、バニラ風味増強剤が、ステビア抽出物、スクラロース、及びアスパルテームよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分を含有す
る場合、バニラフレーバー組成物の当該甘味成分の含有量はそれぞれ甘味の閾値未満であ
り、
バニラ風味増強剤が、甘味成分としてラカンカ抽出物を含有する場合、バニラフレーバー組成物の当該ラカンカ抽出物の含有量は、甘味の閾値未満又はモグロシドVの量に換算して0.25~75ppmである。
【請求項3】
請求項1に記載するバニラ風味増強
剤を含有する
バニラフレーバー含有可食性組成物:
但し、バニラ風味増強剤が、ステビア抽出物、スクラロース、及びアスパルテームよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分を含有す
る場合、
バニラフレーバー含有可食性組成物の当該甘味成分の含有量はそれぞれ甘味の閾値未満であ
り、
バニラ風味増強剤が、甘味成分としてラカンカ抽出物を含有する場合、バニラフレーバー含有可食性組成物の当該ラカンカ抽出物の含有量は、甘味の閾値未満又はモグロシドVの量に換算して0.25~75ppmである。
【請求項4】
糖類を含有する口腔用または経口用組成物である請求項3に記載する可食性組成物。
【請求項5】
ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分をバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に配合することを特徴とする、バニラフレーバー組成物または
バニラフレーバー含有可食性組成物のバニラ風味増強方法:
但し、甘味成分が、ステビア抽出物、スクラロース、及びアスパルテームよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、当該甘味成分のバニラフレーバー組成物または
バニラフレーバー含有可食性組成物への配合量は、各甘味成分の甘味の閾値未満であり、
甘味成分がラカンカ抽出物である場合、当該甘味成分のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物への配合量は、甘味の閾値未満又はモグロシドVの量に換算して0.25~75ppmである。
【請求項6】
前記バニラフレーバー含有可食性組成物が糖類を含有する口腔用または経口用組成物である、請求項5に記載するバニラ風味増強方法。
【請求項7】
ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分をバニラフレーバー組成物または
バニラフレーバー含有可食性組成物に配合する工程を有する、バニラ風味が増強したバニラフレーバー組成物または
バニラフレーバー含有可食性組成物の製造方法:
但し、甘味成分が、ステビア抽出物、スクラロース、及びアスパルテームよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、当該甘味成分のバニラフレーバー組成物または
バニラフレーバー含有可食性組成物への配合量は、各甘味成分の甘味の閾値未満であ
り、
甘味成分がラカンカ抽出物である場合、当該甘味成分のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物への配合量は、甘味の閾値未満又はモグロシドVの量に換算して0.25~75ppmである。
【請求項8】
前記可食性組成物が糖類を含有する口腔用または経口用組成物である、請求項7に記載する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバニラ風味増強剤に関する。また本発明はバニラ風味増強剤を含有するバニラフレーバー組成物及び可食性組成物に関する。さらに本発明はバニラ風味が増強されてなるバニラフレーバー組成物及び可食性組成物の製造方法、並びにバニラフレーバー組成物及び可食性組成物についてバニラ風味を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然のバニラ香料は、ラン科バニラ属の蔓性植物であるバニラの成熟果実を発酵及び乾燥を繰り返した後(キュアリング工程後)のバニラビーンズから抽出される香料であり、主成分であるバニリンを初めとする多くの香気成分(アニスアルデヒド、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリルエチルエーテルなど)を含有しており、それらの香りが複雑に絡み合った独特の甘い芳香を有する。しかしながら、このキュアリング等の工程は、数ヶ月もの長い熟成時間を要するうえ、天候や気温等の制約を大きく受けるため、その品質を安定に保つことは容易ではない。このため、良質な天然バニラ香料は希少であり非常に高価である。
【0003】
このため、市場では天然バニラ香料の香りを模倣したフレーバーとして、オイゲノールやグアヤコール等を原料とする合成化合物やリグニンの発酵等により製造される合成バニリンを主体とするフレーバー(バニラ香料様合成香料)が多く流通している。これらの合成香料は安価であり安定供給も可能である。しかしながら、バニラエキスから得られる甘い香りは、バニリンを主成分に数百もの化学物質が絶妙な比率で配合されることで醸し出される香りであり、これを人工的にしかも安価に再現することは困難である。そのため、バニラ香料様合成香料について、簡便な方法でバニラエキス感を増強して天然バニラ香料が有する深みのある風味に近づけるための工夫が求められている。この工夫のひとつとして、ホップやブロッコリーに含まれ新鮮なオニオン臭を有するジメチルトリスルフィドを合成香料に微量(0.2~200ppb)配合することで、従来のバニラ香料様合成香料に不足しているバニラエキス感(バニラエキスが有する天然感及び高級感ある良質な風味)を付与する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、天然バニラ香料についても、前述するように芳醇な熟成感に富むバニラエキスを安定した品質で安定的に得ることはなかなか容易ではない。このため、バニラエキスの品質のバラツキを解消して、良質な品質を安定に保つための工夫が種々提案されている。例えば、天然のバニラエキスに含まれている香気成分(1-オクテン-3-オン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、トランス-2-ノネナール、3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、またはメチル2-メチル-3-フリルジスルフィド)を品質改良剤としてバニラエキスに補填することで、安定した品質のバニラエキスを提供することが提案されている(特許文献2~6)。
【0005】
このように、良質な風味を有するバニラフレーバーを開発することを目的として、天然バニラ香料やバニラ香料様合成香料(これらを総称して「バニラフレーバー」と称する)に良質な香気成分を補填または付与する方法は、従来より広く提案されており、簡便で安価な方法であることから大きな期待が寄せられている。一方、香気成分以外の成分、具体的には甘味成分を、甘味を呈さない量~甘味を呈する量で用いることで、バニラフレーバーのバニラ風味が増強することは従来知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-115241号公報
【文献】特開2015-44894号公報
【文献】特開2015-44895号公報
【文献】特開2015-44896号公報
【文献】特開2015-44897号公報
【文献】特表2015-43698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、甘味成分を用いて、バニラフレーバーを含む組成物についてバニラ風味を増強するための技術を提供することを目的とする。より詳細には、第1に、本発明はバニラ風味増強剤を提供することを目的とする。第2に、バニラ風味が増強されてなるバニラフレーバー組成物及び可食性組成物を提供することを目的とする。第3に、バニラ風味が増強されてなるバニラフレーバー組成物及び可食性組成物を製造する方法、換言すれば、バニラフレーバーを含む組成物についてバニラ風味を増強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンといった従来より甘味料として使用されている成分(以下、これらを総称して「甘味成分」と称する)にバニラフレーバーのバニラ風味を増強する作用があることを見出し、またその作用は甘味を呈さない量でも発揮することを確認した。これらの知見から、当該甘味成分をバニラ風味増強剤として、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー組成物を含む可食性組成物(例えば飲食物などの口腔用または経口用組成物)に配合することで、バニラ風味が増強されたバニラフレーバー組成物、及び可食性組成物が得られることを確認して本発明を完成した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0010】
(I)バニラ風味増強剤
(I-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するバニラ風味増強剤。
(I-2)前記ラカンカ抽出物がモグロシドVを含有するものである(I-1)に記載するバニラ風味増強剤。
(I-3)ステビア抽出物がレバウディオサイドAを含有するものである(I-1)または(I-2)に記載するバニラ風味増強剤。
【0011】
(II)バニラフレーバー組成物、及びその製造方法
(II-1)(I-1)~(I-3)のいずれか1項に記載のバニラ風味増強剤を含有する、バニラフレーバー組成物。
(II-2)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、バニラフレーバー組成物に配合することを特徴とする、バニラ風味が増強したバニラフレーバー組成物の製造方法。
【0012】
(III)バニラフレーバー含有可食性組成物、及びその製造方法
(III-1)(I-1)~(I-3)のいずれか1項に記載のバニラ風味増強剤または(II-1)に記載のバニラフレーバー組成物を含有する、可食性組成物。
(III-2)糖類および/または乳成分を含有する口腔用または経口用組成物である(III-1)に記載する可食性組成物。
(III-3)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、バニラフレーバーを含有する可食性組成物に配合することを特徴とする、バニラ風味が増強した可食性組成物の製造方法。
(III-4)前記可食性組成物が糖類および/または乳成分を含有する口腔用または経口用組成物である(III-3)に記載する製造方法。
【0013】
(IV)バニラ風味増強方法
(IV-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に配合することを特徴とする、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物のバニラ風味増強方法。
(IV-2)前記可食性組成物が糖類および/または乳成分を含有する口腔用または経口用組成物である(IV-1)に記載する製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバニラ風味増感剤は、バニラフレーバー組成物、またはバニラフレーバー組成物を含有する経口用または口腔用組成物に対して用いられることで、これらの組成物のバニラ風味を増強することができる。つまり、本発明のバニラ風味増感剤によれば、バニラフレーバー組成物、またはバニラフレーバー組成物を含有する経口用または口腔用組成物に対してバニラ風味増強効果を発揮し、バニラ風味が増強されてなるバニラフレーバー組成物、または経口用または口腔用組成物を調製し提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(I)バニラ風味増強剤
本発明のバニラ風味増強剤(以下、「本バニラ風味増強剤」と称する)は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0016】
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia
grosvenorii)は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、ショ糖(砂糖)の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0017】
本バニラ風味増強剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本バニラ風味増強剤において、モグロシドVは、ラカンカ抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV以外のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシドIVE、シメノシド、11-オキソモゴロシド、5α,6α-エポキシモグロシド)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。
【0018】
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「FD羅漢果濃縮エキスパウダー」(7質量%又は15質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(商標登録) M50」(50質量%モグロシドV含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製];並びに高純度ラカンカ抽出物(サラヤ株式会社製)等を例示することができる。
【0019】
(ステビア抽出物)
ステビアレバウディアナ・ベルトニ(Stevia
Rebaudiana
Bertoni)(本発明では「ステビア」と略称する)は、南米パラグアイを原産地とするキク科ステビア属に属する植物である。本発明が対象とするステビア抽出物は、産地の別を問わず、ステビアの葉又は茎などから、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたレバウディオサイドAを含有する抽出物である。レバウディオサイドAは、ステビア抽出物に含まれているステビオール配糖体であり、ショ糖(砂糖)の300~450倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0020】
本バニラ風味増強剤で用いられるステビア抽出物のレバウディオサイドA含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本バニラ風味増強剤において、レバウディオサイドAは、ステビア抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA以外のステビオール配糖体(ステビオサイド、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドM、ズルコサイドA、レブソサイド、ステビオールビオサイドなど)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ステビア抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ステビア抽出物中のレバウディオサイドAの含有量は、制限されないが、全体の90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上である。制限はされないが、より好ましい混合物として、レバウディオサイドAの含有量が全体の95質量%以上であり、その他の成分として他のステビオール配糖体の含有量が合計で1質量%以下、より好ましくはステビオサイド及びレバウディオサイドCの含有量が合計で0.2質量%以下であるステビア抽出物を例示することができる。なお、本発明が対象とするステビア抽出物には、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いて、上記ステビア抽出物にグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理ステビア抽出物も含まれる。また、本発明で対象とするレバウディオサイドAには、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いてレバウディオサイドAにグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理レバウディオサイドAも含まれる。好ましくは酵素非処理ステビア抽出物であり、また好ましくは酵素非処理レバウディオサイドAである。
【0021】
こうしたステビア抽出物は、ステビアの葉や茎等を原料として抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているステビア抽出物として、「レバウディオJ-100」、及び「レバウディオAD」(以上、いずれも守田化学工業(株)製)などを挙げることができる。これらの製品はレバウディオサイドAを90量%以上の割合で含有するレバウディオサイドA含有製品(ステビア抽出物)である。
【0022】
(スクラロース)
スクラロース(登録商標)(化学名: 1,6-Dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosyl-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside)は、ショ糖(砂糖)の約600倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分である。水に溶けやすく、安定性に優れているため、甘味料としてだけでなく、従来より広く様々な用途で食品に使用されている成分である。ちなみにスクラロースの甘味の閾値は約5ppmである。これは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0023】
(アスパルテーム)
アスパルテーム(化学名:N-(L-α-Aspartyl)-L-phenylalanine, 1-methyl ester)は、ショ糖(砂糖)の100~200倍の甘味度を有するアミノ酸に由来する甘味成分であり、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルである。ちなみにアスパルテームの甘味の閾値は約28ppmである。これは商業的に入手することができ、例えば味の素株式会社から市販されている。
【0024】
(ソーマチン)
ソーマチンは、西アフリカ原産のクズウコン科の植物Thaumatococcus danielliiの種子に多く含まれる分子量約21000の蛋白質(植物性蛋白)であり、ショ糖(砂糖)の2000~3000倍もの甘味度を有するため天然甘味料として使用されている。ちなみにソーマチンの甘味の閾値は約1ppmである。これは商業的に入手することができ、例えばソーマチンを10質量%の割合で含有する甘味料(サンスイート(商標登録)T-147)が三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0025】
(本バニラ風味増強剤)
本バニラ風味増強剤は、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本バニラ風味増強剤に含まれるラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム又は/及びソーマチンの割合は、バニラフレーバー組成物(香料組成物)、またはバニラフレーバー組成物を含有する可食性組成物に添加配合することで、バニラフレーバーのバニラ風味を増強するという目的に適うものであればよく、その限りにおいて、100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0026】
2種以上を組み合わせる態様として、好ましくはラカンカ抽出物とステビア抽出物とが少なくとも含まれる組み合わせを例示することができる。ラカンカ抽出物とステビア抽出物との併用に用いるラカンカ抽出物及びステビア抽出物は、前述の通りである。ラカンカ抽出物として、好ましくはモグロシドVの含有量が30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上のものを用い、またステビア抽出物として好ましくは、レバウディオサイドAの含有量が90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくはステビオサイド及びレバウディオサイドCの含有量が合計で0.2質量%以下のものである。このように、ラカンカ抽出物とステビア抽出物とを併用することで、ステビア抽出物を単独で使用する場合に生じ得るステビア抽出物特有の味質(苦味、後引き感)を抑えながらも、バニラ風味増強作用を有する組成物を得ることができる。なお、ラカンカ抽出物とステビア抽出物との配合比は、本発明の効果を奏することを限度として特に制限されない。一例を挙げると、本バニラ風味増強剤に含まれるレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が質量比(以下、同じ)で50:50~99:1となるような組み合わせを挙げることができる。配合比はこの範囲で適宜設定することができ、例えば60:40~99:1、70:30~99:1、80:20~99:1、または90:10~99:1の範囲を例示することができる。
【0027】
本バニラ風味増強剤は、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー組成物を含有する可食性組成物のバニラ風味を増強するために用いられる。その形態を問わないが、粉末状、顆粒状、タブレット状、およびカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、液状、およびジェル状などの半固体または液体の形態を有することができる。また一剤の形態のほか、二剤の形態(例えば、ラカンカ抽出物を含有する製剤とステビア抽出物を含有する製剤との組み合わせ物など)を有するものであってもよい。
【0028】
本バニラ風味増強剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、飲食品に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。かかる担体や添加剤としては、本バニラ風味増強剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、およびでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;および水などの溶媒を挙げることができる。また本バニラ風味増強剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、果糖ブドウ糖液糖などの糖;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの糖類を配合することもできる。さらに本バニラ風味増強剤の作用効果に悪影響を与えない範囲で、飲食品に通常使用されるような色素、または防腐剤などを配合することもでき、またバニラシードを配合することもできる。
【0029】
本バニラ風味増強剤のバニラフレーバー組成物(香料組成物)、またはバニラフレーバー組成物を含有する可食性組成物(以下、これを単に「バニラフレーバー含有可食性組成物」と称する場合がある)に対する使用量としては、本バニラ風味増強剤の主成分である甘味成分に起因する甘味を考慮して、目的に応じて選択設定することができる。例えば、前述するように、モグロシドVの甘味度はショ糖の300倍、レバウディオサイドAの甘味度はショ糖の300~450倍、スクラロースの甘味度はショ糖の600倍、アスパルテームの甘味度はショ糖の100~200倍、ソーマチンの甘味度はショ糖の2000~3000倍であり、また配合比が50:50~99:1のレバウディオサイドAとモグロシドVの混合物の甘味度はショ糖の300~450倍である。このため、例えば、本バニラ風味増強剤を、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に対して、バニラ風味を増強するだけでなく甘味付与を目的として配合する場合は、本バニラ風味増強剤の甘味成分を甘味を発揮する量(甘味の閾値以上の量)で配合することが好ましい。具体的には、例えばモグロシドVの配合量としては0.002質量%以上、レバウディオサイドAの配合量としては0.002質量%以上、スクラロースの配合量としては0.001質量%以上、アスパルテームの配合量としては0.006質量%以上、またはソーマチンの配合量としては0.0002質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本バニラ風味増強剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%以上になるように、最終のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に対して配合することができる。一方、本バニラ風味増強剤を、バニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に対して、バニラ風味を増強するだけで、甘味付与を目的としないで配合する場合は、本バニラ風味増強剤の甘味成分を甘味を呈さない量(甘味の閾値未満の量)で配合する。具体的には、モグロシドVの配合量としては0.002質量%未満、レバウディオサイドAの配合量としては0.002質量%未満、スクラロースの配合量としては0.001質量%未満、アスパルテームの配合量としては0.006質量%未満、またはソーマチンの配合量としては0.0002質量%未満となるような範囲で適宜調整することができる。また本バニラ風味増強剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%未満になるように、最終のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物に対して配合することができる。なお、実際の甘味の閾値(認知閾値)は、適用するバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物毎に個別に設定することが好ましく、閾値の設定は極限法に従って行うことが好ましい。
【0030】
本発明において「バニラ風味」とは天然のバニラエキスが有する風味(芳香)である。これは、人工の合成香料とは異なり、バニラエキス特有の深みを有する芳醇な香気(風味)として説明することができる。こうしたバニラ風味は、通常、バニラエキスから調製される天然バニラ香料を含有する飲食物を口に含んだとき、または飲み込んだときに、喉の奥から鼻腔内で感じる嗅覚による香りとが複合して感知される特性を意味し、「バニラエキス感」とも称することができる。また本発明において「バニラ風味増強」とは、バニラフレーバー組成物(香料組成物)、またはバニラフレーバー含有可食性組成物に、第三成分(バニラ風味増強剤)を添加することにより、前記組成物のバニラ風味が、当初のバニラ風味と比較して、質的又は/及び量的に、バニラエキスのバニラ風味に近づいたと感じさせる感覚である。こうした効果(感覚)は、通常、訓練された専門パネルによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、対象とするバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物にバニラ風味増強剤(候補物を含む)を添加した場合に、添加する前のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物のバニラ風味と比較して、そのバニラ風味が上記のように近づいたと感じられる場合には、当該バニラ風味増強剤(候補物)は、本発明のバニラ風味増強剤に該当すると判断することができる。この場合、評価基準とするバニラ風味(陽性対照風味)には、バニラエキスから調製される天然バニラ香料の風味が使用される。
【0031】
本発明が対象とするバニラフレーバー組成物には、バニラエキスに由来する天然バニラ香料(天然香料)、合成または半合成した化合物から調合されるバニラ香料様合成香料(合成香料及び半合成香料が含まれる)、およびこれらの混合物を挙げることができる。本発明が対象とするバニラフレーバー組成物は、好ましくは飲食品などの口腔用または経口用組成物に添加配合して用いられるフレーバー組成物(食品香料)である。
【0032】
ここでバニラエキスとしては、制限されないものの、バニラビーンズを水および/または水溶性有機溶媒を抽出溶媒として用い、または、超臨界炭酸ガスなどの超臨界ガスを抽出溶媒として用いて抽出することにより得られるバニラ抽出物が挙げられる。バニラ抽出物の抽出原料となるバニラビーンズは、市場で一般的に入手できるものであれば、特に品種などは問わず、いずれのものを用いてもよい。このようなバニラビーンズとしては、例えば、マダガスカルバニラビーンズ、メキシカンバニラビーンズ、インドネシアバニラビーンズ、タヒチバニラビーンズ及びその他のハイブリッド種などを挙げることができる。
【0033】
バニラ香料様合成香料の調製(調合)に使用される香気成分としては、制限されないものの、特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料第348-366頁に記載されている化合物を例示することができる。具体的には、例えば、2-ブチルテトラヒドロフラン、アニスアルコール、アニスアルデヒド、酢酸アニシル、アニス酸メチル、アニス酸エチル、アニソール、p-クレゾール、ベンズアルデヒド、グアヤコール、4-メチルグアヤコール、4-エチルグアヤコール、4-ビニルグアヤコール、オイゲノール、アセトフェノン、1,3-ブタンジオール、ジアセチル、アセトイン、フェノール、マルトール、2-アセチルフラン、3-メチル-2-シクロヘキセノン、バニリン、エチルバニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、イソバニリン、2-フェニルエチルアルコール、桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、桂皮酸、桂皮アルデヒド、バニリルメチルエーテル、バニリルエチルエーテル、4-ヒドロキシベンジルメチルエーテル、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、3-メチルペンタナール、ジヒドロクマリン、2,3-ジヒドロ-2,5-ジメチルフラン、3-メチルシクロペンタノン、4-エチル安息香酸、フェニル酢酸、3-フェニルプロピオン酸、3,5-ジヒドロキシ-6-メチル-2,3-ジヒドロ-4H-ピラン-4-オン、2,4-ヘキサンジオン、3-メチルノナン-2,4-ジオン、2,4-デカジエナール、2,3-ジヒドロキシベンゾフラン、アセトバニロン、2-メチル-3-ペンタノン、酢酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、2-メチル酪酸、ペンタデカン酸、5-メチル-2(3H)-フラノン、5-メチル-2-フルフラール、フルフラール、フルフリルアルコール、バレルアルデヒド、酪酸エチル、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトンなどを挙げることができる。
【0034】
(II)本バニラフレーバー組成物、及びその製造方法
本発明のバニラフレーバー組成物(以下、これを「本バニラフレーバー組成物」と称する)は、前述する本バニラ風味増強剤を含有するバニラフレーバー組成物(香料組成物)である。当該本バニラフレーバー組成物は、対象とするバニラフレーバー組成物に本バニラ風味増強剤を添加配合することで調製することができる。以下、本バニラ風味増強剤を配合する対象のバニラフレーバー組成物、つまり本バニラ風味増強剤を配合する前のバニラフレーバー組成物を「被バニラフレーバー組成物」とも称する。当該被バニラフレーバー組成物には、前記で説明した通り、バニラ香料(天然香料)、バニラ香料様合成香料、およびこれらの混合物が含まれる。好ましくは、バニラ香料様合成香料、または当該バニラ香料様合成香料とバニラ香料(天然香料)との混合物であり、より好ましくはバニラ香料(天然香料)を含まないバニラ香料様合成香料である。また好ましくは飲食品などの口腔用または経口用組成物に添加配合して用いられる食品香料である。
【0035】
被バニラフレーバー組成物に本バニラ風味増強剤を配合して調製される本バニラフレーバー組成物(香料組成物)の形状は、特に制限されず、液状や乳濁状であっても、またフリーズドライまたはスプレードライ等で乾燥された粉末または顆粒状の形状を有するものであってもよい。具体的には、バニラフレーバーを構成する1種以上の香気成分を原材料とする液剤;水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の単独又は混合の溶剤に、上記香気成分を適当な濃度で溶解させた希釈液剤;上記香気成分の溶液にデキストリン等の賦形剤を添加して、噴霧乾燥により調製したパウダー状剤等を例示することができる。被バニラフレーバー組成物中に含まれるバニラフレーバー成分の割合は、上記形状によっても相違する。制限はされないものの、バニラフレーバー(香気)を構成する成分の総量として例えば0.1~100質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0036】
被バニラフレーバー組成物に対する本バニラ風味増強剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本バニラフレーバー組成物が、本発明の効果を奏し、また本発明の目的のために使用できるものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。配合する本バニラ風味増強剤の種類によって異なるが、例えば本バニラ風味増強剤がラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物である場合、本バニラフレーバー組成物中のラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物の含有量は、制限されないものの、モグロシドVまたは/およびレバウディオサイドAの総濃度に換算して例えば0.25~10質量%の範囲から適宜選択することができる。これは最終の可食性組成物中のモグロシドVまたは/およびレバウディオサイドAの総濃度が5~50ppmになるように、可食性組成物に本バニラフレーバー組成物を0.05~0.2質量%の割合で添加配合することを想定した場合の量である。本バニラ風味増強剤がスクラロースである場合、本バニラフレーバー組成物中のスクラロースの含有量は、制限されないものの、例えば0.15~4質量%の範囲から適宜選択することができる。これは最終の可食性組成物中のスクラロースの濃度が3~20ppmになるように、可食性組成物に本バニラフレーバー組成物を0.05~0.2質量%の割合で添加配合することを想定した場合の量である。本バニラ風味増強剤がアスパルテームである場合、本バニラフレーバー組成物中のアスパルテームの含有量は、制限されないものの、例えば0.5~12質量%の範囲から適宜選択することができる。これは最終の可食性組成物中のアスパルテームの濃度が10~60ppmになるように、可食性組成物に本バニラフレーバー組成物を0.05~0.2質量%の割合で添加配合することを想定した場合の量である。本バニラ風味増強剤がソーマチンである場合、本バニラフレーバー組成物中のソーマチンの含有量は、制限されないものの、例えば0.0025~2質量%の範囲から適宜選択することができる。これは最終の可食性組成物中のソーマチンの濃度が0.05~10ppmになるように、可食性組成物に本バニラフレーバー組成物を0.05~0.2質量%の割合で添加配合することを想定した場合の量である。なお、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテームまたは/及びソーマチンは、本バニラフレーバー組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。
【0037】
斯くして調製される本バニラフレーバー組成物は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む本バニラ風味増強剤を含有していることで、これらをいずれもを含有しないバニラフレーバー組成物(配合前の被バニラフレーバー組成物)と比較してバニラ風味が増強されてなることを特徴とする。
【0038】
バニラフレーバー組成物についてバニラ風味が増強されているか否かは、本バニラ風味増強剤が配合されたバニラフレーバー組成物(被験組成物)のバニラ風味を、本バニラ風味増強剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成のバニラフレーバー組成物(比較組成物)のバニラ風味と比較することで評価することができる。当該評価は、通常、訓練された専門パネルによる官能試験により実施される。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうがバニラ風味が上昇している場合に、被験組成物について本バニラ風味増強剤の配合によりバニラ風味が増強されていると判断することができる。
【0039】
このように、本バニラ風味増強剤の配合により被バニラフレーバー組成物のバニラ風味が増強されることで、質的または/および量的に、天然のバニラ香料により近いバニラ風味を呈する(バニラ風味を発揮する)本バニラフレーバー組成物を調製することができる。より具体的には、被バニラフレーバー組成物がバニラ香料様合成香料であれば、そのバニラ風味を、本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、質的または/および量的に、天然のバニラ香料の風味に近づけた本バニラフレーバー組成物を調製することができる。また被バニラフレーバー組成物が、天然のバニラ香料を含むものであっても、その配合量が少なくバニラ風味が物足りない場合は、それに本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、質的または/および量的に、天然のバニラ香料の風味により近づけた本バニラフレーバー組成物を調製することができる。
【0040】
(III)本可食性組成物、及びその製造方法
本発明のバニラフレーバー含有可食性組成物(以下、「本可食性組成物」とも称する)は、バニラフレーバー組成物に加えて、前述する本バニラ風味増強剤を含有する可食性組成物である。当該本可食性組成物は、バニラフレーバー組成物を含む可食性組成物に本バニラ風味増強剤を添加配合することで調製することができる。以下、本バニラ風味増強剤を配合する対象のバニラフレーバー含有可食性組成物(つまり本バニラ風味増強剤を配合する前のバニラフレーバー含有可食性組成物)を「被可食性組成物」とも称する。当該被可食性組成物は、前記で説明した通り、バニラ香料(天然香料)、バニラ香料様合成香料、またはこれらの混合物を含む可食性組成物である。好ましくは、バニラ香料様合成香料、または当該バニラ香料様合成香料と天然バニラ香料との混合物を含有する可食性組成物であり、より好ましくはバニラ香料様合成香料を含むものの、バニラ香料(天然香料)を含まない可食性組成物である。
【0041】
本発明が対象とする被可食性組成物は、具体的にはバニラ風味が必要とされる口腔用または経口用組成物であり、例えば飲食品、経口医薬品、口腔用医薬品、歯磨きや洗口液などのオーラルケア製品(医薬品または医薬部外品を含む)を挙げることができる。これらには甘味を有する組成物及び甘味を有しない組成物のいずれもが含まれる。好ましくは飲食品である。またより好ましくは糖類を有し、糖類に起因する甘味を有する組成物である。
【0042】
糖類としては、甘味を有するものであればよく、特に制限されないものの、乳糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、果糖ブドウ糖液糖、水飴、オリゴ糖、糖アルコール(例えばソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなど)などの糖類を例示することができる。本可食性組成物における糖類の含有量は、可食性組成物の種類や嗜好に応じて適宜設定することができ、特に制限されないものの、ショ糖(砂糖)の甘味度を100とした場合に、その甘味度に換算して0~50の範囲から適宜選択することができる。好ましくは5~30の割合を例示することができる。
【0043】
飲食品としては、バニラ風味が必要とされるものであればよく、制限されないものの、具体的に、コーヒー乳飲料、紅茶乳飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、乳飲料、アルコール飲料などの飲料;まんじゅう、その他種々の和菓子;クッキー、ビスケット、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ドーナッツ、ワッフル、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、チョコレート、チョコレート菓子、キャラメル、キャンディー、チューインガム、ゼリー、ホットケーキ、パンその他種々の洋菓子;ヨーグルト、プリン、ババロア等の乳製品;飴;チューインガムや風船ガムなどのガム類;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、その他種々の氷菓;フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、その他種々のペースト類;ソース、その他種々の調味料類を挙げることができる。バニラ風味は乳成分と相性がよいため、好ましくは乳成分を含有する飲食品である。乳成分を含有する飲食品としては、乳固形分を0.1~50質量%の範囲で含む飲食物を例示することができる。
【0044】
乳成分には、動物性の乳やその加工品が含まれる。またこれらに限られず、植物性の乳やその加工品も含まれる。上記の動物性の乳としては、例えば牛、水牛、山羊、羊等の哺乳類由来の乳が例示されるが、入手の容易性、コスト、及び味覚のバランスの観点から牛乳が好ましい。また、植物性の乳としては、例えば大豆、アーモンド、ココナッツ、及びライスミルク等の種子由来の乳が例示されるが、入手の容易性、コスト、及び味覚のバランスの観点から大豆乳が好ましい。
【0045】
動物性の乳の加工品としては、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳(全脂粉乳を含む)、脱脂乳(脱脂粉乳を含む)、クリーム、ホエイ、たんぱく質濃縮ホエイ、カゼイン、チーズ、バター、バターミルク、バターオイル、加糖粉乳、調整粉乳、発酵乳等を挙げることができる。これらの加工品は、粉末状、半固形状、液体状のいずれも使用できる。植物性の乳の加工品としては、前述する植物由来の乳の濃縮物、脱脂濃縮物、粉状化物、油分(植物油)等を挙げることができる。
【0046】
また経口医薬品としては、トローチ、ドリンク剤、顆粒剤、散剤(粉末剤)、錠剤、およびカプセル剤等を、口腔用医薬品としては、スプレー剤、軟膏剤、パスタ剤等を、またオーラルケア製品としては、液体歯磨き、練り歯磨き、口中洗浄剤、および口臭除去剤などを挙げることができる。
【0047】
被可食性組成物に対する本バニラ風味増強剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本可食性組成物が、本発明の効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。配合する本バニラ風味増強剤の種類によって異なるが、例えば被可食性組成物にラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物の含有量は、モグロシドVまたは/およびレバウディオサイドAの総濃度に換算して0.025ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.25ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、モグロシドVは20ppm、レバウディオサイドAは20ppmを超えると甘味を呈するようになるため、ラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を甘味を呈さない量で使用する場合は、これより少ない量になるように調整することが好ましい。ラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物の総濃度が750ppm以下になるように調整することができる。また、被可食性組成物にスクラロースを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のスクラロースの含有量としては0.02ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.03ppm以上、より好ましくは0.16ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、スクラロースの濃度が5ppmを超えると甘味を呈するようになるため、スクラロースを甘味を呈さない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。スクラロースを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のスクラロースの濃度が500ppm以下になるように調整することができる。また、被可食性組成物にアスパルテームを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のアスパルテームの含有量としては0.05ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは0.5ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、アスパルテームの濃度が28ppmを超えると甘味を呈するようになるため、アスパルテームを甘味を呈さない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。アスパルテームを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のアスパルテームの濃度が1500ppm以下になるように調整することができる。さらに被可食性組成物にソーマチンを配合して本可食性組成物を調製する場合、本可食性組成物中のソーマチンの含有量としては0.002ppm以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.004ppm以上、より好ましくは0.002ppm以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ソーマチンの濃度が1ppmを超えると甘味を呈するようになるため、ソーマチンを甘味を呈さない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ソーマチンを甘味を呈する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本可食性組成物中のソーマチンの濃度が60ppm以下になるように調整することができる。なお、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテームまたは/及びソーマチンは、本可食性組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。
【0048】
斯くして調製される本可食性組成物は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む本バニラ風味増強剤を含有することで、これらをいずれもを含有しない可食性組成物(配合前の被可食性組成物)と比較してバニラ風味が増強されてなることを特徴とする。
【0049】
可食性組成物についてバニラ風味が増強されているか否かは、バニラ風味増強剤が配合された可食性組成物(被験組成物)のバニラ風味を、本バニラ風味増強剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の可食性組成物(比較組成物)のバニラ風味と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうがバニラ風味が上昇している場合に、被験組成物についてバニラ風味増強剤の配合によりバニラ風味が増強されていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実施例の記載に従って評価することができる。
【0050】
このように、本バニラ風味増強剤の配合により被可食性組成物のバニラ風味が増強されることで、質的または/および量的に、天然のバニラ香料により近いバニラ風味を呈する(バニラ風味を発揮する)本可食性組成物を調製することができる。より具体的には、被可食性組成物が、香料としてバニラ香料様合成香料を含有する場合、その合成香料によるバニラ風味を、本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、質的または/および量的に、天然のバニラ香料の風味に近づけた本可食性組成物を調製することができる。また被可食性組成物が、天然のバニラ香料を含むものであっても、その配合量が少なくバニラ風味が物足りない場合は、それに本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、そのバニラ風味を、質的または/および量的に、天然のバニラ香料の風味により近づけた本可食性組成物を調製することができる。
【0051】
(IV)バニラフレーバー組成物または可食性組成物のバニラ風味増強方法
本発明のバニラフレーバー組成物またはバニラフレーバー含有可食性組成物のバニラ風味増強方法は、上記(II)で説明した被バニラフレーバー組成物または上記(III)で説明した被可食性組成物に、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を添加配合することによって実施することができる。ここでは、被バニラフレーバー組成物及び被可食性組成物を総称して「被対象組成物」と称する。ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンは、被対象組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)~(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被対象組成物も前記(II)及び(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0052】
被対象組成物について、それにラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、又は/及びソーマチン(以下、「ラカンカ抽出物等」と略称する)を配合することでバニラ風味が増強されたか否かは、ラカンカ抽出物等が配合されたバニラフレーバー組成物及びバニラフレーバー含有可食性組成物(被験組成物)のバニラ風味を、ラカンカ抽出物等が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成のバニラフレーバー組成物及びバニラフレーバー含有可食性組成物(比較組成物)のバニラ風味と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうがバニラ風味が上昇している場合に、被験組成物についてラカンカ抽出物等の配合によりバニラ風味が増強されていると判断することができる。
【0053】
このように、ラカンカ抽出物等の配合により被対象組成物のバニラ風味を増強することができ、その結果、質的または/および量的に、天然のバニラ香料により近いバニラ風味を呈する(バニラ風味を発揮する)組成物を調製することができる。より具体的には、被バニラフレーバー組成物がバニラ香料様合成香料であるか、または被可食性組成物が香料としてバニラ香料様合成香料を含有する組成物である場合、その合成香料によるバニラ風味を、本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、質的または/および量的に増強することができ、その結果、天然のバニラ香料の風味に近づけた本バニラフレーバー組成物または本可食性組成物を調製することができる。また被バニラフレーバー組成物が天然バニラ香料を含む調合香料であるか、または被可食性組成物が天然バニラ香料を含むものであっても、その配合量が少なくバニラ風味が物足りない場合は、それに本バニラ風味増強剤を配合するという簡便かつ安価な方法で、質的または/および量的に増強することができ、その結果、天然バニラ香料のバニラ風味により近づけた本バニラフレーバー組成物または本可食性組成物を調製することができる。
【0054】
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」の意味が包含される。
【実施例】
【0055】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また各実験例で採用したパネルはいずれも飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格した官能評価適格者である。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0056】
以下の実験例に使用した原料は下記の通りである。
(1)ラカンカ抽出物
(1-1)サンナチュレ(登録商標)M50(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを50%の割合で含むように調製された、ショ糖の約300倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(1-2)サンナチュレ(登録商標)M30(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを30%の割合で含むように調製された、ショ糖の約150倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0057】
(2)ステビア抽出物
レバウディオJ-100(乾燥粉末製品、守田化学工業(株)製)。レバウディオサイドA 95%以上含有製品。ショ糖の約300倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0058】
(3)ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物
前記ステビア抽出物と前記ラカンカ抽出物(サンナチュレ(商標登録)M50)を95:5(質量比)の割合で混合した組成物。ショ糖の約400倍の甘味度を有する。
【0059】
(4)スクラロース
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製。ショ糖の約600倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(5)アスパルテーム
味の素株式会社製。ショ糖の200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(6)ソーマチン
サンスイート(商標登録)T-147(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製):ソーマチンを10%含有する、ショ糖の約500倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(7)アセスルファムカリウム
MCフードスペシャリティーズ株式会社製。ショ糖の約200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0060】
実験例1 バニラ風味増強剤のバニラ風味増強作用の評価
(1)評価方法
パネル4名に、各種のバニラ風味増強剤(実施例1~7)を用いて調製した乳成分含有飲料1を飲み、それらのバニラ風味を評価してもらった。また比較試験として、前記バニラ風味増強剤に代えて、アセスルファムカリウム(比較例1)を配合して調製した乳成分含有飲料1についても、同様にしてバニラ風味を評価してもらい、前記バニラ風味増強剤を用いた場合に得られるバニラ風味と比較した。なお、これらの乳成分含有飲料1のバニラ風味の評価はいずれもそれらの品温を約25℃に調整したうえで実施した。
【0061】
乳成分含有飲料1(被験飲料)は、砂糖を6%濃度になるように配合した牛乳をベースとして、これに天然バニラ香料非含有のバニラフレーバー(バニラフレーバーNO.21-8802:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)(バニラフレーバーA)を0.1%、及び各バニラ風味増強剤を表1に記載する割合で添加配合して調製した。なお、各バニラ風味増強剤の添加量は、当該バニラ風味増強剤に基づく甘味度がいずれも、ショ糖0.75%濃度物と同程度の甘味になるように設定した。一方、判断基準用の乳成分含有飲料として、前記バニラフレーバーAに代えて、天然バニラ香料(バニラエキストラクト[バニリン30%含有品])(バニラフレーバーB)を0.1%または0.15%濃度になるように配合し、バニラ風味増強剤を添加しない乳成分含有飲料(陽性対照飲料1及び2)を調製した
【0062】
<乳成分含有飲料1(被験飲料):牛乳含有飲食物>
バニラフレーバーA 0.1(質量%)
バニラ風味増強剤 表1参照
6%砂糖含有牛乳 残部
全 量 100.0 質量%
【0063】
評価は、前記被験飲料処方において、バニラ風味増強剤は配合せずに、バニラフレーバーAを最終濃度が0.1%となる割合で配合した牛乳含有飲食物(陰性対照飲料)のバニラ風味を0点とし、同様にバニラ風味増強剤は配合せずに、バニラフレーバーBを最終濃度が0.1%及び0.15%となる割合で配合した牛乳含有飲食物(陽性対照飲料1及び2)のバニラ風味をそれぞれ3点及び5点とし、これらを評価基準として下記に基づいてスコア付けを行った。なお、「質的」とは天然バニラ香料が有するバニラ風味の質(濃厚な芳醇さ)により近い風味を意味し、「量的」とはバニラ風味の強さ(厚み)を意味する。
【0064】
[バニラ風味の評価スコア]
5点:質的及び量的に陽性対照飲料2と同程度のバニラ風味が感じられる
4点:質的及び量的に陽性対照飲料1よりも陽性対照飲料2に近いバニラ風味が感じられる
3点:質的及び量的に陽性対照飲料1と同程度のバニラ風味が感じられる
2点:量的に、性対照飲料よりも強いが、陽性対照飲料1よりはやや弱いバニラ風味が感じられる
1点:量的に、性対照飲料よりも強いが、陽性対照飲料1よりは明らかに弱いバニラ風味が感じられる
0点:質的及び量的に陰性対照飲料と同程度のバニラ風味(バニラ風味増強効果なし)
【0065】
(2)評価結果
斯くして評価してもらったパネル4名(A~D)の評価スコア及びその平均値を表1に示す。
【0066】
【0067】
この結果から、バニラ風味増強剤のうち、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、及びソーマチンはいずれも、天然バニラ香料非含有のバニラフレーバーを含有する飲食物に配合することで、バニラフレーバーによるバニラ風味が、天然バニラ香料のバニラ風味に質的及び量的に近づくことが確認された。その効果は、特に、ラカンカ抽出物、ラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物、及びスクラロースに強く認められた。なお、これらはいずれも高甘味度甘味料であるが、高甘味度甘味料であるアセスルファムカリウムにはその作用は認められなかった。このことから、バニラ風味の増強作用は、高甘味度甘味料が共通して有する作用ではないことが確認された。
【0068】
実験例2 ラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用の評価
(1)評価方法
前記実験例1の結果から強いバニラ風味増強作用を有することが判明したラカンカ抽出物(サンナチュレ(商標登録)M50)をバニラ風味増強剤として用いて、可食性組成物に配合する量を種々変えた乳成分含有飲料2(牛乳含有飲食物)を調製した。これを品温約25℃にした状態で、実験例1と同様にしてパネル5名にを飲んでもらい、バニラ風味を評価してもらった。
【0069】
<乳成分含有飲料2(被験飲料):牛乳含有飲食物>
バニラフレーバーA 0.1(質量%)
バニラ風味増強剤(ラカンカ抽出物) 表2参照
6%砂糖含有牛乳 残部
全 量 100.0 質量%
【0070】
具体的には、実験例1と同様に、前記被験飲料処方においてバニラ風味増強剤は配合せず、バニラフレーバーAを最終濃度が0.1%となる割合で配合した牛乳含有飲食物(陰性対照飲料)のバニラ風味を0点とし、バニラフレーバーB(天然バニラ香料)の最終濃度が0.1%及び0.15%となる割合で配合した牛乳含有飲食物(陽性対照飲料1及び2)のバニラ風味を3点及び5点とし、これを基準として、実験例1と同様にスコア付けを行った。
【0071】
(2)評価結果
パネル5名(A~E)の評価スコア及びその平均値を表2に示す。
【0072】
【0073】
この結果から、天然バニラ香料非含有のバニラフレーバーを含有する飲食物に、ラカンカ抽出物の最終濃度が0.5~150ppm、モグロシドVの量に換算して0.25~75ppmとなるような割合で配合すると、バニラフレーバーによるバニラ風味が、天然バニラ香料のバニラ風味に質的及び量的に近づくことが確認された。なお、バニラフレーバー含有飲食物中のラカンカ抽出物濃度は0.5ppmが下限ではなく、上記表2に示す被験飲料1と3のラカンカ抽出物(モグロシドV)の濃度と評価スコア結果から、被験飲料1のラカンカ抽出物(モグロシドV)の濃度をさらに1/10(少なくとも1/5)に低減してもバニラ風味増強効果があるものと考えられる(1/10のラカンカ抽出物濃度:0.05ppm、モグロシドV濃度:0.025ppm;1/5のラカンカ抽出物濃度:0.1ppm、モグロシドV濃度:0.05ppm)。同様に、バニラフレーバー含有飲食物中のラカンカ抽出物の濃度は150ppmが上限ではなく、上記表2に示す被験飲料4と9のラカンカ抽出物(モグロシドV)の濃度と評価スコア結果から、被験飲料9のラカンカ抽出物(モグロシドV)の濃度をさらに10倍以上に増大してもバニラ風味増強効果があるものと考えられる(10倍のラカンカ抽出物濃度:1500ppm、モグロシドV濃度:750ppm)。また使用したラカンカ抽出物の甘味の閾値は0.004質量%付近である(被験飲料6と7の間)。表2の結果から、ラカンカ抽出物、特にモグロシドVによるバニラ風味増強作用は、ラカンカ抽出物が呈する甘味とは無関係な作用であること、またラカンカ抽出物の甘味閾値付近でより高いバニラ風味増強作用を発揮することが確認された。
【0074】
実験例3 プリンに対するラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用
(1)プリンの調製
下記処方及び製法に従ってプリンを調製し、そのバニラ風味を評価した。
【0075】
(処方)
1 ヤシ油 4(質量%)
2 加糖凍結卵黄201) 3
3 脱脂粉乳 7
4 砂糖 10
5 ゲル化剤2) 1
6 乳化剤3) 0.1
7 色素4) 0.1
8 バニラフレーバー(表3) 表3参照
9 バニラ風味増強剤(ラカンカ抽出物)5) 表3参照
10 水 74.8
合計 100.0質量%
1)キューピータマゴ株式会社製
2)ゲルアップ(登録商標)PI-983(F):三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
3)ホモゲン(登録商標)DM-S:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
4)カロチンベースNO.9400-SV:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
5)サンナチュレ(商標登録)M50:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
【0076】
(製法)
1)水と上記成分1及び2を攪拌しながら、あらかじめ粉体混合しておいた成分3~6の混合物を添加し、80℃で10分間攪拌して溶解する。
2)温水を用いて、全量補正する。
3)ホモゲナイザー(第一段階10MPa、第二段階5MPa)で均質化する。
4)93℃達温後、成分7~9を添加し、プリン容器に充填し、冷却する。
【0077】
【0078】
(2)評価方法及び結果
上記で調製したプリン(陽性対照プリン、陰性対照プリン、被験プリン1~4)をパネル4名に食べてもらい、各被験プリン1~4のバニラ風味が、陽性対照プリン及び陰性対照プリンのバニラ風味と対比して、どちらに近いかを評価してもらった。その結果、パネル全員の意見として、被験プリン1~4はいずれもバニラ風味が強く感じられ、陰性対照プリンよりも陽性対照プリンのバニラ風味に近づいていた。なかでも被験プリン1がもっともバニラ風味が強く感じられ、プリンの味質(こく感を含む)も、陽性対照プリンの味質により近いものになっていた。しかし、被験プリン2から4にかけて、ラカンカ抽出物の添加量を多くするにつれて、ラカンカ抽出物由来の甘味が表出し、バニラ風味が隠れる(弱まる)傾向が認められた。このことから、ラカンカ抽出物の添加量は、甘味を呈さない量(甘味閾値以下)か、または甘味を呈しても僅かな甘味を呈する程度に抑えておくことが好ましいと考えられる。
【0079】
実験例4 焼きプリンに対するラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用
(1)焼きプリンの調製
下記処方及び製法に従って焼きプリンを調製し、そのバニラ風味を評価した。
【0080】
(処方)
処方部A
1 牛乳 20(質量部)
2 精製ヤシ油 1
3 脱脂粉乳 3
4 砂糖 9
5 乳化剤1) 0.1
6 水 46.9
合計 80 質量部
処方部B
処方部A 80(質量部)
7 加糖凍結全卵2) 20
8 バニラフレーバー(表4) 表4参照
9 バニラ風味増強剤(ラカンカ抽出物)
3)
表4参照
合計 100 質量部
1)ホモゲン(登録商標)DM-S:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
2)キューピータマゴ株式会社製
3)サンナチュレ(商標登録)M50:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
【0081】
(製法)
1)水と上記成分1及び2を攪拌しながら、あらかじめ粉体混合しておいた成分3~5の混合物を添加し、80℃で10分間攪拌して溶解する。
2)重量補正後、ホモゲナイザー(第一段階10MPa、第二段階5MPa)で均質化する。
3)93℃達温にて殺菌し、重量補正後、10℃以下まで冷却する(処方部Aの調製)。
4)調製した処方部Aに、成分7を添加し、脱気後、成分8及び9を添加して60℃まで昇温する。
5)プリン容器に充填後、160℃で55分間焼成した後に冷却する。
【0082】
【0083】
(2)評価方法及び結果
上記で調製したプリン(陽性対照焼きプリン、陰性対照焼きプリン、被験焼きプリン1~2)をパネル4名に食べてもらい、各被験焼きプリン1~2のバニラ風味が、陽性対照焼きプリン及び陰性対照焼きプリンのバニラ風味と対比して、どちらに近いかを評価してもらった。その結果、パネル全員の意見として、被験焼きプリン1~2はいずれもバニラ風味が強く感じられ、陰性対照プリンよりも陽性対照プリンのバニラ風味に近づいていた。なかでも被験焼きプリン1がもっともバニラ風味が強く感じられ、プリンの味質(たまごの風味、こく感を含む)も、陽性対照プリンの味質により近いものになっていた。
【0084】
実験例5 バニラアイスに対するラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用
(1)バニラアイスの調製
下記処方及び製法に従ってバニラアイスを調製し、そのバニラ風味を評価した。
(処方)
1 脱脂濃縮乳 25(質量部)
2 生クリーム 18
3 水飴 7
4 20%加糖凍結卵黄1) 2.1
5 砂糖 11
6 安定剤2) 0.2
7 乳化剤3) 0.2
8 色素4) 0.01
9 バニラフレーバー(表5) 表5参照
10 バニラ風味増強剤(表5) 表5参照
合計 100.0質量部
1)キューピータマゴ株式会社製
2)サンベスト(登録商標)NN-749:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
3)ホモゲン(登録商標)DM-S:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
4)アナトーANA:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
【0085】
(製法)
1)水と上記成分1~3を攪拌しながら、あらかじめ粉体混合しておいた成分4~7の混合物を添加し、80℃で10分間攪拌して溶解する。
2)ホモゲナイザー(第一段階10MPa、第二段階5MPa)で均質化する。
3)5℃以下でエージングし、成分8~10を添加して全量を補正する。
4)調製した混合物をオーバーラン60%でフリージングする。
5)ブライン冷却槽で冷却硬化してバニラアイスを調製する。
【0086】
【0087】
(2)評価方法及び結果
上記で調製したバニラアイス(陽性対照バニラアイス、陰性対照バニラアイス、被験バニラアイス1~2)をパネル4名に食べてもらい、各被験バニラアイス1~2のバニラ風味が、陽性対照バニラアイス及び陰性対照バニラアイスのバニラ風味と対比して、どちらに近いかを評価してもらった。その結果、パネル全員の意見として、被験バニラアイス1~2はいずれもバニラ風味が強く感じられ、陰性対照バニラアイスよりも陽性対照バニラアイスのバニラ風味に近づいていた。なかでも被験バニラアイス1がもっともバニラ風味が強く感じられ、バニラアイス味質(こく感を含む)も、陽性対照プリンの味質により近いものになっていた。
【0088】
実験例6 クッキーに対するラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用
(1)クッキーの調製
下記処方及び製法に従ってクッキーを調製し、そのバニラ風味を評価した。
(処方)
1 薄力粉 100(質量部)
2 脱脂粉乳 3
3 食塩 0.5
4 膨張剤1) 0.5
5 ショートニング 25
6 無着香マーガリン 25
7 グラニュー糖 35
8 全卵 15
9 色素2) 0.05
10 バニラフレーバー(表6) 表6参照
11 バニラ風味増強剤(表6) 表6参照
合計 100.0質量部
1)サンオーバー(登録商標)O-62:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
2)カロチンベースNO.80N:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
【0089】
(製法)
1)成分1~3を粉体混合し、あらかじめ篩っておく。
2)万能混合機のボウルに成分5及び6を秤量し、ビーターを用いて126rpmにてクリーム状になるまで攪拌する。
3)得られた攪拌物に成分7を加え、再びビーターを用いて126rpmで3分間混合する。
4)これに成分8~11を加え十分混合し、次いでこれにあらかじめ篩っておいた成分1~3の粉体混合物を加えて十分混合する。
5)得られた生地を、30分間冷蔵庫で寝かす。
6)得られた生地を厚さ5mmに圧延し、クッキー形状に切り抜く(成型)。
7)これを180℃のオーブンで約12分間焼成し、放冷する。
【0090】
【0091】
(2)評価方法及び結果
上記で調製したクッキー(陽性対照クッキー、陰性対照クッキー、被験クッキー1)をパネル4名に食べてもらい、各被験クッキー1のバニラ風味が、陽性対照クッキー及び陰性対照クッキーのバニラ風味と対比して、どちらに近いかを評価してもらった。その結果、パネル全員の意見として、被験クッキー1はバニラ風味が強く感じられ、陰性対照クッキーよりも陽性対照クッキーのバニラ風味に近づいていた。
【0092】
実験例7 豆乳飲料に対するラカンカ抽出物のバニラ風味増強作用
(1)豆乳飲料の調製
市販のバニラアイス風味の豆乳飲料(豆乳飲料バニラアイス:キッコーマン飲料株式会社)にバニラフレーバー、バニラ風味増強剤を表7に記載する割合で添加し、そのバニラ風味を評価した。
【0093】
【0094】
(2)評価方法及び結果
上記で調製した豆乳飲料(陽性対照豆乳飲料、陰性対照豆乳飲料、被験豆乳飲料1)をパネル4名に飲んでもらい、各被験豆乳飲料1のバニラ風味が、陽性対照豆乳飲料及び陰性対照豆乳飲料のバニラ風味と対比して、どちらに近いかを評価してもらった。その結果、パネル全員の意見として、被験豆乳飲料1はバニラ風味が強く感じられ、陰性対照豆乳飲料よりも陽性対照豆乳飲料のバニラ風味に近づいていた。