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特許7584896SiCバルク単結晶の製造方法及びその成長装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】SiCバルク単結晶の製造方法及びその成長装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241111BHJP
   C30B 23/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/02
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020020412
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2020158385
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】19158315
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504398340
【氏名又は名称】エスアイクリスタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト エッカー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス シュトックマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル フォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】アルント-ディートリヒ ウェーバー
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-110907(JP,A)
【文献】特開2018-184324(JP,A)
【文献】特開2013-166672(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098330(WO,A1)
【文献】特開2011-168431(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108130593(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107779955(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華成長によって少なくとも1つのSiCバルク単結晶(2;33)を製造する方法であって、
a) 成長開始前に、成長坩堝(3;34)の少なくとも1つの結晶成長領域(5;36)に少なくとも1つのSiC種結晶(8;37)が配置され、前記成長坩堝(3;34)のSiC貯蔵領域(4;35)にSiC原料(6)が装入され、
b) 成長中に、前記SiC原料(6)が昇華され、その昇華された気体成分が前記少なくとも1つの結晶成長領域(5;36)へ輸送されることにより、前記少なくとも1つの結晶成長領域(5;36)でSiC成長気相(9;38)が生成され、中央中心縦軸(14)を有する前記少なくとも1つのSiCバルク単結晶(2;33)が、前記SiC成長気相(9;38)から前記少なくとも1つのSiC種結晶(8;37)上への堆積により成長する、方法において、
c) 成長開始前に、前記成長坩堝(3;34)が、前記中央中心縦軸(14)の方向において軸方向に延在する回転対称の断熱材(10;41)によって囲まれ、該断熱材(10;41)が、少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)を有し、ここで、
c1) 成長開始前に、前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)について、密度測定がX線法により行なわれ、
c2) 前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)が、交互に同心配置され、前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)の各々が、半径方向に測定された壁厚(D1,D2;D1,D2,D3)を有し、
c3) 前記断熱材(10;41)が、前記中央中心縦軸(14)の方向において軸方向に連続して配置された複数の断熱リングセグメント(29)に、仮想的に分割され、
c4) これらの断熱リングセグメント(29)の各々が、次に、接線方向に並べられて配置された複数の体積要素(31)に、仮想的に分割され、
c5) ここで、前記各体積要素(31)が、軸方向では、前記断熱リングセグメント(29)の軸方向のセグメント長に等しく50mm以下である軸方向の要素長さ(H)に亘って延在し、周方向では、50mm以下の外側接線方向の要素長さ(L)に亘って延在し、半径方向では、前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)の全ての壁厚(D1、D2;D1,D2,D3)を合計した長さに亘って延在し、
c6) これらの断熱リングセグメント(29)の各々が、全ての前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)の壁厚(D1、D2;D1,D2,D3)に亘って測定された平均断熱リングセグメント密度(ρM)を有し、
c7) それぞれ部分領域において密度偏差を有する前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)が、関連する断熱リングセグメント(29)の各体積要素(31)が関連する断熱リングセグメント(29)の平均断熱リングセグメント密度(ρM)から10%を超えて逸脱しない体積要素密度(ρV)を持つように、選択されて互いに位置決めされる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記断熱材(10;41)について、0.05g/cm~0.5g/cmの材料密度を持った断熱材料が選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)が、関連する断熱リングセグメント(29)の各体積要素(31)が関連する断熱リングセグメント(29)の前記平均断熱リングセグメント密度(ρM)から5%を超えて逸脱しない体積要素密度(ρV)を有するように、選択されて互いに位置決めされることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記断熱リングセグメント(29)の各々及びこの断熱リングセグメント(29)の体積要素(31)が、該体積要素(31)の前記軸方向の要素長さ(H)が20mmであり、該体積要素(31)の前記外側接線方向の要素長さ(L)が20mmであるように、選択されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)が、それらの断熱部分円筒の半径方向壁厚(D1,D2;D1,D2,D3)が、それぞれ、5mm~50mmの範囲にあるように、選択されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)が、半径方向の壁厚(D1,D2;D1,D2,D3)のうちの任意の2つの商(中心により近いものを分母とする)が0.5~2の範囲にあるように、選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記断熱材(10;41)が、前記少なくとも2つの断熱部分円筒(19,20;42,43,44)のうちの2つの互いに隣接するもの同士が、それぞれ、0.1mm~5mmの範囲の半径方向間隔を有するように、構成されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ヨーロッパ特許出願第19158315.2に基づく優先権を主張し、参照により、その内容をここに導入する。
本発明は、昇華成長によって少なくとも1つのSiCバルク単結晶を製造する方法及びSiCバルク単結晶を製造するための成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料である炭化ケイ素(SiC)は、その優れた物理的、化学的、電気的及び光学的特性に基づき、取り分け、パワーエレクトロニクス半導体デバイス、高周波デバイス及び特殊な発光半導体デバイスの出発材料として利用されている。このようなデバイスのためには、できる限り大きい基板直径とできる限り高い品質とを有するSiC基板(=SiCウェハ)が必要である。
【0003】
SiC基板のベースとなるのは、高品質のSiCバルク単結晶であり、これは、通常、物理的気相堆積法(PVT)によって、特に、例えば特許文献1に記載されている方法(昇華法)によって、製造される。このようなSiCバルク単結晶から円板状の単結晶SiC基板が切り出され、特にいくつかの研磨ステップによってそれらの表面を多段階処理した後、デバイス製造の一環として、この基板に、例えばSiC又はGaN(窒化ガリウム)からなる少なくとも1つの単結晶エピタキシャル層が設けられる。このエピタキシャル層の特性、ひいてはエピタキシャル層から製造されるデバイスの特性、は、SiC基板又は該基板のベースとなるSiCバルク単結晶の品質に大きく依存する。
【0004】
最適な歩留まりのためには、結晶成長中に理想的な結晶形状からの逸脱によって生じ得る結晶欠陥(例えば、エッジ欠陥=変態欠陥、局所的な転位増殖等)をできる限り回避すべきである。更に、PVTプロセスを用いたSiCバルク単結晶の製造は、非常に費用が掛かり、時間が掛かる。従って、例えば熱的に引き起こされる非対称結晶構造によって後続のデバイス製造に使用することができない材料は、大幅に歩留まりを低下させ、コスト増大を招く。
【0005】
SiCバルク単結晶の製造において、グラファイト又は高融点金属からなる成長坩堝は、通常、誘導加熱又は抵抗加熱によって加熱される。成長坩堝内では、SiC原料が昇華されて、SiC種結晶上に堆積する。このようにして成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性の故に、回転対称な成長配置が使用される。
【0006】
しかしながら、熱場の偏移、従って理想的な回転対称性からの結晶形状の偏移に影響を及ぼす様々なパラメータが存在する。例えば、使用される加熱は、理想的には回転対称に行なうことができない。特に、電気的接続部、保持部等は、回転対称性からの僅かな逸脱につながる可能性がある。
【0007】
特許文献2及び特許文献3には、それぞれ、結晶成長中に成長坩堝が加熱ユニット及び断熱材内で連続的に回転させられる製造方法及び成長配置が記載されている。このようにして、加熱ユニットの不完全な回転対称性に起因する成長SiCバルク単結晶への影響を、成長期間に亘って平均化することができる。しかしながら、成長坩堝の回転運動によって引き起こされる振動は、壁材料からの炭素包含のような結晶欠陥につながる可能性がある。更に、回転非対称の温度場における回転によって引き起こされる局所的な温度変動は、結晶品質、特に転位密度、に悪影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8865324号明細書
【文献】中国特許出願公開第105442038号明細書
【文献】中国特許出願公開第105568370号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、より良好なSiCバルク単結晶を製造することができる、冒頭に述べた製造方法及び成長配置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
方法に関する課題は、請求項1記載の特徴事項による方法に従って解決される。本発明による方法では、成長開始前に、成長坩堝の少なくとも1つの結晶成長領域に少なくとも1つのSiC種結晶が配置され、前記成長坩堝のSiC貯蔵領域に、SiC原料、特に粉末状のSiC原料、が導入される。成長中に、前記SiC原料が昇華され、その昇華された気体成分が前記少なくとも1つの結晶成長領域へ輸送されることにより、そこでSiC成長気相が生成され、前記SiC成長気相からの前記少なくとも1つのSiC種結晶上への堆積により、中央中心縦軸を有する少なくとも1つのSiCバルク単結晶が成長する。成長開始前に、前記成長坩堝が、回転対称に中央中心縦軸の方向において軸方向に延在し少なくとも2つの断熱部分円筒を有する絶縁材、特に断熱材、によって取り囲まれる。更に、前記少なくとも2つの断熱部分円筒が交互に同心配置され、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の各々が、半径方向に測定される壁厚を有する。前記断熱材が、連続して前記中央中心縦軸の方向において軸方向に配置された複数の断熱リングセグメントに、仮想的に分割される。これらの断熱リングセグメントの各々が、順番に、接線方向に並べて配置された複数の体積要素に仮想的に分割され、かつ、各々が前記少なくとも2つの断熱部分円筒の全ての壁厚に亘って測定された平均断熱リングセグメント密度を有する。部分領域において、それぞれ、密度偏差を有する前記少なくとも2つの断熱部分円筒が、該当する断熱リングセグメントの各体積要素が該当する断熱リングセグメントの平均断熱リングセグメント密度から10%を超えない偏差を有する体積要素密度を持つように、選択されて互いに位置決めされ、このとき、各体積要素が、軸方向では、前記断熱リングセグメントの軸方向のセグメント長に等しく50mm以下の軸方向の要素長さに亘って延在し、周方向では、50mm以下の外側接線方向の要素長さに亘って延在し、半径方向では、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の全壁厚を加えた長さに亘って延在する。
【0011】
ここで、全ての方向は、中央中心縦軸を基準にして理解されるべきである。従って、軸方向は、特に、中央中心縦軸に沿った方向であり、半径方向は、特に、中央中心縦軸に対して垂直な任意の方向である。更に、周方向(=接線方向)は、特に、中央中心縦軸の周りの周方向として理解されるべきである。体積要素の外側接線方向の要素長さは、最も外側の断熱部分円筒の外側の半径方向位置において、即ち、特に、中央中心縦軸から半径方向に最も遠くに位置する断熱部分円筒の外周面において、測定される。体積要素の外側接線方向の要素長さ及び軸方向の要素長さについても、下限は、特に10mmであり、好ましい値は、20mm、30mm、40mm又は50mmである。
【0012】
各断熱リングセグメントは、断熱材の軸方向下縁又は上縁から異なる軸方向距離を有することが好ましい。特に、全ての断熱リングセグメントの全ての体積要素は、少なくとも本質的に等しいサイズである。
【0013】
平均断熱リングセグメント密度を決定するに際して、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の壁厚が測定される半径方向において、特に、前記少なくとも2つの断熱部分円筒のうちの1つの断熱部分円筒の断熱材料が存在する領域のみが、検出される。これに対して、隣接する断熱部分円筒間の如何なる隙間も、考慮しないことが好ましい。成長中、いずれにせよ、例えば、約1hPa(=mbar)と約100hPa(=mbar)との間の、低い成長圧力のために、このような隙間には僅かなガス原子しか存在しない。成長坩堝の外側に広がるガス雰囲気は、例えば、主として、アルゴン(Ar)などの少なくとも1つの希ガスと窒素(N)とから構成される。これらの僅かなガス原子は、密度を考察する際に無視することができる。これらの僅かなガス原子は、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の著しく高密度の断熱材料と比較して無視することができる。
【0014】
本発明によれば、成長装置へのエネルギー供給量を決定する構成要素、即ち、特に誘導加熱装置又は抵抗加熱器の1つ以上の誘導コイル及び/又は複数の加熱要素、に加えて、成長装置内に熱エネルギーを保持するか又は成長装置からのエネルギー放出量を最終的に決定する断熱材も、また、成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性に重要な影響を及ぼすことが認識された。例えば、断熱材の僅かな局所的密度差が、非対称な熱放散をもたらし、従って、理想的な回転対称ではないSiCバルク単結晶をもたらすことがある。SiCバルク単結晶が製造される特に2,000℃を上回る温度範囲では、熱伝達が主に放射によって起こり、従って、断熱材の密度は熱伝達と直接相関する。
【0015】
従って、本方法によってできる限り完全に回転対称なSiCバルク単結晶を製造するためには、断熱特性を支配的な条件に的確に適合させることによって回転対称な温度場が設定されると有利である。
【0016】
SiCバルク単結晶の製造プロセスに基づいて、SiCバルク単結晶の製造方法において使用される断熱材は、提供された状態で既に、断熱部分円筒の円筒形状内部において(断熱部分円筒ごとの円筒形状内部においても、また)、様々な材料特性を有する。例えば、特に、断熱材の密度は、変動の影響を受ける可能性がある。このような材料変動は、熱伝導率に、ひいては結晶成長プロセスにおける熱除去の均質性に、ひいては成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性に、直接的な影響を及ぼす。
【0017】
更に、断熱材は、コスト上の理由からSiCバルク単結晶の製造のために複数回使用される。2,000℃を超える非常に高い温度とシリコン(Si)含有気相とによる厳しい負荷のために、断熱特性が時間と共に変化する。例えば、成長坩堝から出てくるSi含有気相成分は、断熱材中の断熱材料、特に炭素、と反応してSiCとなり、このSiCは、断熱材中に蓄積され、従って断熱特性に影響を及ぼす。特に、その蓄積されたSiCによって、断熱材料の密度が局所的に増加し、その結果、この場所で断熱効果が低下し、成長坩堝は、この場所では、残りの領域よりも温度が低くなる。
【0018】
成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性に及ぼす断熱材密度の影響を、幾つかの事例を用いてより詳細に説明する。
【0019】
従って、結晶成長領域の領域における断熱材密度の局所的な増加は、そこでは、より低い断熱効果をもたらし、成長界面のこの部分において温度低下を伴い、その結果として、成長速度の局所的増大をもたらす。成長中のSiCバルク単結晶は、ここでは他の場所よりも長い。成長速度は、一定温度において、主に軸方向の温度勾配によって決定される。断熱材の局所的な密度差は、局所的に異なる軸方向の温度勾配をもたらし、従って、局所的に異なる成長速度をもたらす。
【0020】
逆に、結晶成長領域の領域における断熱材密度の局所的な減少は、そこでは、より高い断熱効果をもたらし、成長界面のこの部分において温度上昇を伴い、その結果として、成長速度の局所的減少をもたらす。成長中のSiCバルク単結晶は、ここでは他の場所よりも短い。
【0021】
SiC貯蔵領域の領域における断熱材密度の局所的な増加は、そこでは、より低い断熱効果をもたらし、この部分領域において昇華速度の低下を伴い、その結果として、この場所の上方において成長速度の局所的減少をもたらす。成長中のSiCバルク単結晶は、ここでは他の場所よりも短い。
【0022】
逆に、Si貯蔵領域の領域における断熱材密度の局所的な減少は、そこでは、より高い断熱効果をもたらし、この部分領域において昇華速度の上昇を伴い、その結果として、この場所の上方において成長速度の局所的増加をもたらす。成長中のSiCバルク単結晶は、ここでは他の場所よりも長い。
【0023】
4つの全ての事例において、それぞれ結果的に、実際に所望される完全な回転対称性から逸脱したSiCバルク単結晶が生じ、その結果、品質及び歩留まりが低下する。
【0024】
温度場の回転対称性及び成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性に対するこのような悪影響を回避するために、その断熱特性の平衡が保たれる。この有利な平衡は、断熱材を複数(少なくとも2つ)の断熱部分円筒に分割することによって行なわれる。更に、これらの断熱部分円筒は、特にそれらの断熱特性に基づいて特別に選択され、その後、特に、制御された交互整列で互いに位置決めされる。ここで、尺度としては、密度、特に体積要素の密度、が使用される。適切に選択され互いに位置決めされた断熱部分円筒の場合に、後者は、体積要素がない場合に、該当する断熱リングセグメントの平均断熱リングセグメント密度から10%を超えて逸脱しないことが好ましい。その結果、それぞれ不完全に回転対称な断熱挙動を有する部品(=断熱部分円筒)から多部品構成された断熱材に関しては、部品(=断熱部分円筒)のそれぞれにおけるよりも良好な、完全ではないにしても、高レベルの回転対称性を有する総合断熱挙動が達成される。
【0025】
これにより、回転対称なSiCバルク単結晶を高品質に製造することができる。このようにして、後続処理において、バルクSiC単結晶の起こり得る何らかの非対称性に起因して、これまで発生していた材料損失が、著しく低減される。
【0026】
断熱材が含む断熱部分円筒が多ければ多いほど、断熱部分円筒の部分領域における密度偏差を、より良好に補償することができる。他方、断熱部品円筒が追加されるごとにコストも増大する。従って、断熱部分円筒の個数の技術的且つ経済的に合理的な上限は、特に5個である。従って、断熱材は、特に、2個、3個、4個、又は5個の断熱部分円筒を有することができる。技術的観点から望ましい断熱部品円筒における密度偏差の補償と経済的観点から望ましいコスト制限とに関して非常に良好な妥協点は、好ましくは3個の断熱部品円筒を有する断熱材である。
【0027】
特に、本発明による方法を使用して、1つのSiCバルク単結晶又は2つのSiCバルク単結晶を製造することができる。従って、好ましくは、成長坩堝及び成長過程当たり2つまでのバルクSiC単結晶を製造することができる。
【0028】
更に、成長坩堝は、特に、少なくとも1つの加熱コイルによって誘導的に、又は抵抗加熱によって抵抗的に、加熱することができる。
【0029】
本発明による方法の他の有利な実施形態は、請求項1に従属する請求項の特徴事項からもたらされる。
【0030】
前記断熱材について、0.05g/cmと0.5g/cmとの間、特に0.1g/cmと0.2g/cmとの間、の材料密度を持った断熱材料が選択される実施形態が好ましい。特に好適な断熱材料は、特に炭素に基づくものである。純粋な炭素、例えばグラファイト又はグラファイト状炭素の形態のもの、も使用することができる。このような炭素系断熱材料は、長繊維又は短繊維からなることが好ましい。回転対称の短繊維断熱材は、例えば、炭素繊維とフェノール樹脂との混合物の炭化、引き続く熱処理、及び機械加工によって、その最終的な形に形成される。全体として、このような断熱材料により、成長坩堝の非常に良好な断熱が達成される。
【0031】
他の有利な実施形態によれば、成長開始前に、前記少なくとも2つの断熱部分円筒において密度決定がX線法により行なわれる。特に、このX線法により、前記少なくとも2つの断熱部分円筒のそれぞれにおいて、密度分布が決定される。好ましくは、断熱材は、個々の断熱部分円筒から組み立てられた後に、断熱材の全体構造が所望の回転対称な密度分布を有するかどうかを確かめるために、最終的に再びこのようなX線検査を受けることもできる。このようなX線検査は、断熱材を再使用する前に実施することもできる。X線検査法を用いて、断熱部分円筒における密度の局所的な分布及び全体としての断熱に関して、非常に詳細な情報を決定することができる。
【0032】
他の有利な実施形態によれば、前記少なくとも2つの断熱部分円筒が、該当する断熱リングセグメントの各体積要素が該当する断熱リングセグメントの平均断熱リングセグメント密度から5%を超えない偏差を有する体積要素密度を有するように、選択されて互いに位置決めされる。この結果、断熱部分円筒内の密度分布の回転対称性が更に高くなり、その結果として、成長坩堝内の温度場の回転対称性が、更に高くなる。
【0033】
後者は、他の有利な実施形態にも適用され、それによれば、各断熱リングセグメントとこの断熱リングセグメントの体積要素とが、体積要素の軸方向の要素長さが20mmであり、体積要素の外側接線方向の要素長さが20mmであるように選択される。軸方向及び/又は外側接線方向の要素長さが減少するにつれて、断熱材の均質性が増加し、これは成長中のSiCバルク単結晶の回転対称性にプラスの結果をもたらす。
【0034】
他の有利な実施形態によれば、前記少なくとも2つの断熱部分円筒は、それらの断熱部分円筒の半径方向壁厚が、それぞれ5mm~50mm、特に10mm~20mm、の範囲にあるように、選択される。これらの壁厚により、成長坩堝の非常に良好な断熱が達成される。従って、更に、2,000℃以上に及ぶ高い成長温度において成長坩堝内に生じる熱応力によって、断熱材の機械的応力が、できる限り低く保たれる。外部では、例えばそこに存在する水冷システム内の温度が、典型的には約25℃である室温の近くにある。従って、非常に狭い空間に非常に大きな温度勾配が存在し、これが上述の熱応力をもたらし得る。
【0035】
他の有利な実施形態によれば、前記少なくとも2つの断熱部分円筒は、半径方向壁厚のうちの2つ、特に任意の2つ、の商が0.5~2の範囲にあるように、選択される。従って、半径方向壁厚は、例えば同じ大きさであってもよいが、ある程度まで、即ち2倍まで、互いに異なっていてもよい。これはまた、熱応力によって引き起こされる断熱材の機械的応力を減少させるのに役立つ。
【0036】
他の有利な実施形態によれば、前記断熱材は、前記少なくとも2つの断熱部分円筒のうちの2つの互いに隣接するもの同士が、それぞれ、0.1mm~5mm、特に1mm~2mm、の範囲の半径方向間隔を有するように構成される。隣接する断熱部分円筒の間のこの半径方向の間隔は、組み立て中に、断熱部分円筒の一方を他方に挿入することを容易にする。更に、このようにして、成長動作中の熱膨張による断熱材の機械的張力が回避される。
【0037】
成長装置に関する課題を解決するために、請求項9の特徴事項に従う成長装置が特定される。
【0038】
昇華成長によって少なくとも1つのSiCバルク単結晶を製造するための本発明による成長装置は、
それぞれSiC種結晶を受け入れるように定められた少なくとも1つの結晶成長領域と、SiC原料、特に粉末状のSiC原料、を受け入れるように定められた少なくとも1つのSiC貯蔵領域とを備えた成長坩堝、及び
成長中に前記SiC原料が昇華され、昇華された気体成分が前記少なくとも1つの結晶成長領域へ輸送され、そこでSiC成長気相が生成されることによって、中央中心縦軸を有する前記少なくとも1つのSiCバルク単結晶が、前記SiC成長気相から前記少なくとも1つのSiC種結晶上に堆積することにより、成長するように、前記成長坩堝を加熱するための加熱装置、
を有する。
前記成長坩堝は、前記中央中心縦軸の方向において軸方向に回転対称に延在し少なくとも2つの断熱部分円筒を有する断熱材によって取り囲まれており、ここで、前記少なくとも2つの断熱部分円筒が、交互に同心配置されており、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の各々が、半径方向に測定された壁厚を有する。
前記断熱材は、前記中央中心縦軸の方向において連続して軸方向に配置された複数の断熱リングセグメントに仮想的に分割されており、これらの断熱リングセグメントの各々が、順番に接線方向に並べられて配置された複数の体積要素に仮想的に分割されている。
これらの断熱リングセグメントの各々が、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の全ての壁厚に亘って測定された平均断熱リングセグメント密度を有する。
それぞれ部分領域において密度偏差を有する前記少なくとも2つの断熱部分円筒が、該当する断熱リングセグメントの各体積要素が該当する断熱リングセグメントの平均断熱リングセグメント密度から10%を超えない偏差を有する体積要素密度を持つように、選択されて互いに位置決めされており、このとき、各体積要素が、軸方向では、前記断熱リングセグメントの軸方向のセグメント長に等しく50mm以下の軸方向の要素長さに亘って延在し、周方向では、50mm以下の外側接線方向の要素長さに亘って延在し、半径方向では、前記少なくとも2つの断熱部分円筒の全壁厚を加えた長さに亘って延在する。
【0039】
本発明による成長装置の有利な実施形態は、請求項9に従属する請求項から得られる。本発明による成長装置及びその実施形態は、本発明による方法及びその実施形態に関連して既に説明したのと実質的に同じ利点を有する。
【0040】
本発明のその他の特徴、利点及び詳細を、以下に図面を参照して説明する実施例により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、SiCバルク単結晶の昇華成長中の2つの断熱部分円筒を備えた断熱材を有する成長配置の例示的な実施形態を示す縦断面図である。
図2図2は、図1による2つの断熱部分円筒を示す詳細斜視図である。
図3図3は、図1による2つの断熱部分円筒を示す詳細斜視図である。
図4図4は、多部品断熱材の断熱部分円筒のX線検査をするための検査装置の実施例を示す図である。
図5図5は、2つのSiCバルク単結晶の昇華成長中における3つの断熱部分円筒を有する断熱材を有する成長装置の他の実施例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1図5において、互いに対応する部分には同じ参照番号が付されている。更に、以下に詳述する実施例の細部は、それ自体が1つの発明であり又は発明対象の一部である。
【0043】
図1には、昇華成長によってSiCバルク単結晶2を製造するための成長装置1の実施例が示されている。成長装置1は、SiC貯蔵領域4及び結晶成長領域5を含有する成長坩堝3を含む。SiC貯蔵領域4内には、例えば、粉末状のSiC原料6があり、このSiC原料6は、予め準備された出発原料として、成長プロセスの開始前に成長坩堝3のSiC貯蔵領域4に装入される。
【0044】
SiC貯蔵領域4に対向する成長坩堝3の坩堝端壁7の領域には、軸方向に結晶成長領域5内に延びるSiC種結晶8が取り付けられている。SiC種結晶8は、特に単結晶である。坩堝端壁7は、成長坩堝3の坩堝蓋として構成されていてもよい。しかし、これは必須ではない。成長すべきSiCバルク単結晶2は、結晶成長領域5内に形成されるSiC成長気相9からの堆積によって、SiC種結晶8上に成長する。成長中のSiCバルク単結晶2とSiC種結晶8とは、ほぼ等しい直径を有する。たとえ、SiC種結晶8の種径がSiCバルク単結晶2の単結晶径よりも小さくなったとしても又は大きくなったとしても、生じる偏差は20%以下である。しかし、一方での坩堝側壁13の内側と、他方での成長SiCバルク単結晶2及びSiC種結晶8との間には、間隙(図1には示されていない)があってもよい。
【0045】
図1による実施例において、成長坩堝3は、例えば少なくとも1.75g/cmの密度を有する電気的及び熱的に伝導性の黒鉛坩堝材料からなる。その坩堝の周囲には断熱材10が配置されており、この断熱材10は、図示の実施例では、複数の部分から形成されている。断熱材10は、例えば長繊維又は短繊維を有する炭素系の断熱材料からなる。この断熱材料は、図示の実施例では約0.2g/cmである材料密度を有する。
【0046】
成長坩堝3を加熱するために、断熱された成長坩堝3の外周に、加熱コイル12の形態の誘導加熱装置が配置されている。成長坩堝3は、加熱コイル12によって、成長に必要な温度まで加熱される。図示の実施例では、これらの成長温度は少なくとも2,100℃である。加熱コイル12は、成長坩堝3の導電性の坩堝側壁13に電流を誘導結合する。この電流は、本質的に、円筒形及び中空円筒形のるつぼ側壁13内を周方向に循環電流として流れ、成長坩堝3を加熱する。必要に応じて、加熱コイル12と成長坩堝3との間の相対位置は、特に、成長坩堝3内の温度又は温度プロファイルを設定し、また、所望により、変更するために、軸方向に、即ち、成長中のSiCバルク単結晶2の中心縦軸14の方向に、
変化させることができる。成長過程中に軸方向に変化可能な加熱コイル12の位置が図1に両方向矢印15で示されている。特に、加熱コイル12は、成長中のSiCバルク単結晶2の成長進行に合わせて移動される。その移動は、好ましくは下方に、即ちSiC原料6の方向に、そして、好ましくはSiCバルク単結晶2が成長するのと同じ長さだけ、例えば合計で約20mmだけ、行なわれる。この目的のために、成長装置1は、相応に構成された監視手段、制御手段及び調整手段を含んでいるが、これらは、詳しくは図示されていない。
【0047】
結晶成長領域5内のSiC成長気相9は、SiC原料6によって供給される。SiC成長気相9は、少なくともSi、SiC及びSiC(=SiCガス種)の形態のガス成分を含む。成長中のSiCバルク単結晶2上の成長界面16へのSiC原料6の原料輸送は、一方では、軸方向温度勾配に沿って行なわれる。成長界面16では、少なくとも2,100℃の、特に少なくとも2,200℃又は2,300℃もの、比較的高い成長温度が生じる。更に、成長界面16において、特に、中心縦軸14の方向で測定して、少なくとも5K/cm、好ましくは少なくとも15K/cm、の軸方向温度勾配が設定される。成長坩堝3内の温度は、成長中のSiCバルク単結晶2に向かって低下する。最高温度はSiC貯蔵領域4の領域内で約2,300℃~2,500℃である。SiC貯蔵領域4と成長界面16との間における特に100℃~150℃の温度差を有するこの温度プロファイルは、様々な手段によって達成することができる。例えば、加熱コイル12を2つ以上の軸方向の部分区間(図示せず)に分割することによって、軸方向に変化する加熱を提供することができる。更に、成長坩堝の下部において、例えば、加熱コイル12を軸方向に相応に位置決めすることによって、成長坩堝3の上部におけるよりも強い加熱効果を設定することができる。
【0048】
断熱材10は、上部るつぼ端壁7に隣接して配置され、中央縦軸14の周りに配置された中央冷却開口部17を含む上部の軸方向断熱カバー11を有する。この冷却開口部17を通して、熱の放散及び/又は成長坩堝3の監視を行なうことができる。更に、断熱材10は、SiC貯蔵領域4の下に配置された下部の軸方向断熱カバー18と、中央縦軸14に対して且つ互いに同心に、配置されている2つの断熱部分円筒19及び20とを有する。断熱部分円筒19及び20は、坩堝側壁13を取り囲んでいる。断熱部分円筒20は、断熱部分円筒19内に配置されている(図2及び図3も参照せよ)。外側の断熱部分円筒19は、半径方向に測定される壁厚D1を有し、内側の断熱部分円筒20は、同じく半径方向に測定される壁厚D2を有する。断熱材10は、成長坩堝3と同様に、中央縦軸14に対して回転対称構造を有する。これは、特に2つの断熱部分円筒19,20にも当てはまる。断熱材10は、中心中央縦軸14の方向において軸方向に延びている。
【0049】
この点でより明確である図2の部分的に透明な斜視図によれば、2つの断熱部分円筒19,20は、互いに直接接触していない。むしろ、それらの間には、0.1mm~5mm、特に1mm~2mm、の範囲の半径方向の広がりを有する間隔ギャップ21がある。図示の実施例では、間隔ギャップ21は約1mmの値を有している。この間隔ギャップ21は、組み立て中に、内側の断熱部分円筒20を外側の断熱部分円筒19内に挿入するのを容易にする。更に、これは、成長プロセス中に、2つの断熱部分円筒19,20の間に著しい機械的張力が生じないことに寄与する。
【0050】
断熱部分円筒19,20の機械的構造は、それぞれ回転対称である。しかし、このことは、全ての材料特性には当てはまらず、特に接線方向における材料密度の分布には当てはまらない。この場合、偏差が存在することがあり、その結果、断熱部分円筒19,20の壁内の密度分布は、あらゆるところで絶対的に回転対称であるというわけではない。図1には、両断熱部分円筒19,20内のSiC貯蔵領域4の高さにおける軸方向の偏差点22が例示されている。そこでは、内側の断熱部分円筒20又は外側の断熱部分円筒19における局所密度ρ0及びρ2は、両断熱部分円筒19,20において、そのほかの箇所における基本密度ρ1と異なる。内側の断熱部分円筒20の局所密度ρ0は、そこでは、基本密度ρ1より小さく、外側の断熱部分円筒19の局所密度ρ2は、そこでは基本密度ρ1より大きい。即ち、ρ0<ρ1<ρ2が当てはまる。2つの断熱部分円筒19,20は、断熱部分円筒19,20の壁厚D1及びD2に亘って観測して断熱材10において全体としてできる限り理想的な密度分布の回転対称性を有するべく、偏差点22における局所的な密度偏差が相互に十分に相殺されるように、的確に選択されて、互いに相対的に位置決めされている。断熱材10内の密度分布が回転対称である場合、成長坩堝3内に回転対称な温度場が生じ、その結果、SiCバルク単結晶2も同様に回転対称に、従って非常に均質に、欠陥なしに成長する。
【0051】
断熱材10における局所的な密度偏差の上述の有利な相殺の達成を可能にするために、まず、関連する断熱部分円筒19,20について材料密度の分布が決定される。図4から分かるように、これはX線法によって行なわれる。別の断熱部分円筒23の検査が図解されており、この断熱部分円筒23の材料密度は、2つの偏差点24及び25において、基本密度ρ1から偏差を有する。これらの局所的に偏差を有する密度は、再びρ0及びρ2で示されている。検査されるべき断熱部分円筒23の外側には、X線源26が配置されており、X線源26によりX線放射27が断熱部分円筒23上に照射される。断熱部分円筒23の内部には、検出器28が配置されており、検出器28は、断熱部分円筒23の壁を通過した後のX線放射27を検出する。次に、受け取ったX線放射27に基づいて、照射点における断熱部分円筒23の材料密度を推定することができる。このようにして、断熱部分円筒23が各点で検査される。断熱部分円筒23は、例えば回転される。検査終了時には、断熱部分円筒23内の密度分布の完全な詳細がもたらされる。その際に、特に、基本密度ρ1からの局所的な偏差がどこにあるか、及びこれらの偏差がどれだけ大きいかが分かる。
【0052】
これらの情報に基づいて、断熱材10を構築するために使用される断熱部分円筒19,20を選択し、局所的な密度偏差が相殺されるように互いに位置決めすることができる。その際に基礎をなす選択/試験基準を、図1による成長装置1の2つの断熱部分円筒19,20を有する断熱材10の例を使用して、図3の図を参照して、より詳細に説明する。
【0053】
従って、2つの断熱部分円筒19,20を有する断熱材10は、中央中心縦軸14の方向において軸方向に相前後して配置された複数の断熱リングセグメントに、仮想的に分割されている。これらのうちの一つ、即ち、断熱リングセグメント29が、例として、図3による図に示されている。これらの断熱リングセグメントの各々は、断熱材10の軸方向端部30から異なる軸方向距離aを有する。図3の例では、端部30は断熱材10の下部の軸方向端部である。これらの断熱リングセグメントの各々は、接線方向に並んで配置された複数の体積要素に、仮想的に分割される。これらのうちの一つ、即ち、体積要素31が、例として、図3による図に示されている。断熱リングセグメント29を始めとする各断熱リングセグメントは、平均断熱リングセグメント密度ρMを有し、この平均断熱リングセグメント密度ρMは、全ての断熱部分円筒において、つまり、ここでは2つの断熱部分円筒19,20において、該当する断熱リングセグメントの領域内で優勢な局所密度値を平均することによって決定される。従って、それぞれの平均断熱リングセグメント密度ρMを決定する際には、全ての存在する断熱部分円筒の壁内の密度比が、それぞれ、該当する断熱リングセグメントの領域において考慮される。対照的に、2つの断熱部分円筒19,20の間の間隔ギャップ21の比は考慮されない。関連する断熱部分円筒、ここでは断熱部分円筒19,20、は、断熱リングセグメント29の体積要素31を始めとする該当する断熱リングセグメントの各体積要素が該当する断熱リングセグメントの平均断熱リングセグメント密度ρMから高々10%しか、好ましくは高々5%しか、逸脱しない体積要素密度ρVを有するように、選択されて互いに位置決めされる。この条件は、全ての断熱リングセグメントに適用される。この検査に必要とされる断熱部分円筒19,20の局所密度値は、特に、前以て実施された図4によるX線検査から既知である。
【0054】
体積要素31は、(断熱リングセグメント29の他の各体積要素と同様に)、軸方向において、断熱リングセグメント29の軸方向セグメント長さと同じサイズである軸方向の要素長さHに亘って延びている。更に、体積要素31は、接線方向では外側の接線方向の要素長さLに亘って延びており、半径方向では関連する全ての断熱部分円筒の半径方向壁厚の合計に亘って、つまりここでは断熱部分円筒19,20の壁厚D1及びD2に亘って延びている。軸方向の要素長さH及び外側の接線方向の要素長さLは、それぞれ10mm~50mmの範囲にあり、特にそれぞれ50mm、又はそれぞれ20mmである。壁厚D1及びD2は、5mm~50mm、特に10mm~20mm、の範囲にある。それらは、必ずしもそうである必要はないが、同じサイズであってもよい。これは、2つを超える断熱部分円筒19,20がある場合にも当てはまる。
【0055】
上記の選択/試験基準を考慮して、2つの断熱部分円筒19,20が断熱材10に適したものとして選択されている。断熱部分円筒19,20は、この場合もやはり上記の選択/試験基準を考慮に入れて、互いに適切な向きで組み立てられている。このようにして製造された断熱材10は、次に、構造全体の密度分布が十分な回転対称性を有するかどうか確認するために、再び図4によるX線検査を受けることができる。
【0056】
図5は、成長装置1と同様に実施されている成長装置32の他の実施例を示す。この成長装置32を用いて、SiCバルク単結晶2と並行して第2のSiCバルク単結晶33を製造することができる。この目的のために、成長装置1において成長坩堝3内で想定される構造は、基本的に、成長坩堝3の底部にある鏡によって複製される。従って、成長装置32は成長坩堝34を含み、その成長坩堝34ではSiC貯蔵領域35が、底部にではなく中心縦軸14の方向に見て中央に、配置されている。SiC貯蔵領域35の上方には第1の結晶成長領域5があり、その下方には第2の結晶成長領域36がある。2つの結晶成長領域5及び36内では、それぞれ、2つのSiCバルク単結晶2及び33のうちの一方が成長する。成長坩堝34の底部には第2のSiC種結晶37が配置されており、その第2のSiC種結晶37上に、第2のSiCバルク単結晶33がSiC成長気相38から成長する。そのSiC成長気相38は、結晶成長領域36内に形成され、SiC貯蔵領域35内にあるSiC原料6によって供給される。このとき、第2のSiCバルク単結晶33の成長界面39は、中心縦軸14に平行に向く成長方向の方向に移動するが、その成長方向は第1のSiCバルク単結晶2の成長方向とは反対である。中心縦軸14は、2つのSiCバルク単結晶2,33に対して当てはまり、特に等しく当てはまる。そのかぎりでは、中心縦軸14は、好ましくは両方のSiCバルク単結晶2,33の共通軸である。
【0057】
全体として、成長坩堝34は、SiC貯蔵領域35内の中心縦軸14の方向において中央に配置されていて中心縦軸14に対して横方向に延びる1つの横断面(図5には示されていない)に対して、中心縦軸14の方向において鏡像構造又は対称構造を有する。成長坩堝34は、中心縦軸14に対して、回転対称である。成長坩堝を加熱するために、複数の部品からなる加熱コイル40が設けられている。
【0058】
図1による成長装置1との他の相違点は、成長装置32が、中心縦軸14に対して同心配置され且つ互いに対して同心配置された3つの断熱部分円筒42,43,44を有する断熱材41を有していることである。内側の断熱部分円筒44が中間の断熱部分円筒43内に挿入されており、次に中間の断熱部分円筒43が外側の断熱部分円筒42内に挿入されている。外側の断熱部分円筒42が半径方向壁厚D1を有し、中間の断熱部分円筒43が半径方向壁厚D2を有し、内側の断熱部分円筒44が半径方向壁厚D3を有する。断熱部分円筒42,43,44の隣接する同士の間には、それぞれ間隔ギャップ21が存在する。断熱材41も回転対称構造を有し、これは、特に、3つの断熱部分円筒42,43,44にも当てはまる。
【0059】
しかし、断熱部分円筒42,43,44も、全ての材料特性において完全な回転対称性を有しているわけではない。特に密度分布に偏差が生じる。例えば、2つの偏差点45及び46が存在する。第1の偏差点45は、第1の結晶成長領域5の高さにある。そこでは、外側の断熱部分円筒42内の局所密度ρ0及び内側の断熱部分円筒44内の局所密度ρ2は、3つの断熱部分円筒42,43,44内の他の点で与えられた基本密度ρ1から逸脱している。第2の偏差点46は、第2のSiC種結晶37の高さに位置する。そこでは、中間の部分断熱円筒43における局所密度ρ0及び外側の部分断熱円筒42における局所密度ρ2が、基本密度ρ1から逸脱している。いずれの場合にも、ρ0<ρ1<ρ2が再度適用される。成長装置32においても、同様に、3つの断熱部分円筒42,43,44は、偏差点45及び46における局所的な密度偏差ができる限り互いに相殺されるように、上述の選択/試験基準に基づいて、的確に選択されて互いに相対的に位置決めされる。従って、断熱材41は、3つの断熱部分円筒42,43,44の壁厚D1,D2,D3に亘って見たときに、全体として、ほぼ理想的な回転対称密度分布を有する。この点では、成長坩堝34内にも回転対称の温度場が生じ、その結果、2つのSiCバルク単結晶2及び33が、回転対称に、従って非常に均質に、欠陥なしに成長する。
【0060】
原則として、3つの断熱部分円筒42,43,44を有する断熱材41の使用は、2つのSiCバルク単結晶2,33を成長させるための図5による成長装置32に限定されない。他の成長装置、例えば図1による成長装置1、においても、3つ(又はそれ以上)の断熱部分円筒を使用することができる。いずれの場合にも、その目的は、製造されるSiCバルク単結晶の回転対称な成長を支援するために、これらの断熱部分円筒で構成された断熱材に全体としてできるだけ完全に回転対称な密度分布を持たせることにある。
【0061】
この点では、成長装置1及び32は、高収率で更に構成要素に加工することができる高品質のSiCバルク単結晶2,33を製造することを可能にする。
【0062】
特に、それぞれ、結晶縁部における結晶表面と結晶裏面との間の長さの最大値及び最小値の差が、結晶縁部において測定される平均結晶長から最大10%の偏差を有するSiCバルク単結晶2,33を製造することができる。SiCバルク単結晶2,33から後段階で得られる単結晶SiC基板(=SiCウェハ)の基板直径と等しい加工直径によって決定される加工輪郭線において、SiCバルク単結晶2,33の結晶表面と結晶裏面との間の長さの最大値及び最小値の差は、加工輪郭線上で測定される平均結晶長から、最大5%だけ偏差を有する。特に、製造されたSiCバルク単結晶2,33は、殆ど、単一のSiCポリタイプ、例えば4HSiC、6HSiC、3CSiC又は15RSiCのみを有する。4HSiCが好ましい。更に、SiCバルク単結晶2,33の結晶構造は、僅かに傾斜した配向(=オフオリエンテーション)を有することができ、傾斜角は0°~8°の範囲であり、好ましくは4°である。SiCバルク単結晶233は、特に少なくとも100mm、好ましくは少なくとも150mm、の結晶直径を有する。結晶直径の上限は、特に250mmである。好ましい結晶直径は150mmである。更に、SiCバルク単結晶2,33は、特に、12×10-3Ωcmから26×10-3Ωcmの範囲、好ましくは16×10-3Ωcmから24×10-3Ωcmの範囲、の比電気抵抗を有する。
【符号の説明】
【0063】
1 成長装置
2 SiCバルク単結晶
3 成長坩堝
4 SiC貯蔵領域
5 結晶成長領域
6 SiC原料
7 坩堝端壁
8 SiC種結晶
9 SiC成長気相
10 断熱材
11 上部の軸方向断熱カバー
12 加熱コイル
13 坩堝側壁
14 中心縦軸
15 両方向矢印
16 成長界面
17 冷却開口
18 下部の軸方向断熱カバー
19 外側の断熱部分円筒
20 内側の断熱部分円筒
21 間隔ギャップ
22 偏差点
23 断熱部分円筒
24 偏差点
25 偏差点
26 X線源
27 X線放射
28 検出器
29 断熱リングセグメント
30 軸方向端部
31 体積要素
32 成長装置
33 SiCバルク単結晶
34 成長坩堝
35 SiC貯蔵領域
36 第2の結晶成長領域
37 第2のSiC種結晶
38 SiC成長気相
39 成長界面
40 加熱コイル
41 断熱材
42 断熱部分円筒
43 断熱部分円筒
44 断熱部分円筒
45 偏差点
46 偏差点
図1
図2
図3
図4
図5