(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】状態推定装置、状態推定プログラム、および状態推定方法
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
F16K31/06 320Z
F16K31/06 320A
(21)【出願番号】P 2020038869
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 武司
(72)【発明者】
【氏名】久保山 豊
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 貴章
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-124183(JP,A)
【文献】特開2008-241039(JP,A)
【文献】特開2007-239751(JP,A)
【文献】特開平01-295003(JP,A)
【文献】特開2002-092087(JP,A)
【文献】特開平04-067876(JP,A)
【文献】特開2010-005495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0033162(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0069904(KR,A)
【文献】特許第5465365(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 9/08 - 9/12
F15B 13/042- 13/044
F15B 19/00
F15B 20/00 - 21/12
F16K 31/06 - 31/11
F16K 37/00
F16K 39/00 - 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における前記第1可動部の目標位置または実位置と、前記作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを前記作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を生成するために取得する第1取得部と、
前記第1取得部により取得された情報に基づいて、前記推定基準を生成する生成部と、
前記生成部が前記推定基準を生成した後の時点において、前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とを取得する第2取得部と、
前記第2取得部により取得された情報と前記推定基準とに基づいて前記作動流体の漏れ量を推定する推定部と
を備える状態推定装置。
【請求項2】
前記推定部は前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とに基づいて前記作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を使用して前記作動流体の漏れ量を推定する請求項1に記載の状態推定装置。
【請求項3】
前記推定基準は前記作動流体の漏れ量の測定値とその漏れ量が測定された時点の前または後の所定期間内に前記制御弁が使用されたときの前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置との関係に基づいて生成されたものである請求項2に記載の状態推定装置。
【請求項4】
前記推定基準は前記作動流体の漏れ量の測定値とその漏れ量が測定された時点の前または後の所定期間内に前記制御弁が使用されたときの前記第1可動部の目標位置と前記第1可動部に前記目標位置が設定されてから前記第1可動部の実位置が前記目標位置に到達するまでに要するオフセット時間の経過後の前記第2可動部の実位置との関係に基づいて生成されたものである請求項3に記載の状態推定装置。
【請求項5】
前記オフセット時間は前記第1可動部の物理パラメータと前記第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流から算出される請求項4に記載の状態推定装置。
【請求項6】
前記
第2取得部は前記第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流をさらに取得し、
前記推定部は前記
第2取得部により取得された前記第1可動部の目標位置と前記第2可動部の実位置と前記第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流とに基づいて前記作動流体の漏れ量を推定する請求項5に記載の状態推定装置。
【請求項7】
前記推定基準は前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とから算出される特徴量と前記作動流体の漏れ量の測定値との関係に基づいて生成されたものであり、
前記推定部は前記
第2取得部により取得された前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とから前記特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいて前記作動流体の漏れ量を推定する請求項2から6のいずれかに記載の状態推定装置。
【請求項8】
前記特徴量は前記第1可動部の実位置が前記作動流体の流量を最小にするための中立位置にあるときの前記第2可動部の移動速度である請求項7に記載の状態推定装置。
【請求項9】
前記
第2取得部は前記推定基準を生成するために使用された前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とが記録されたときの制御弁の使用環境と同様の使用環境における前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とを取得する請求項2から8のいずれかに記載の状態推定装置。
【請求項10】
前記使用環境は前記制御弁の制御対象が停止され、かつ、前記第1可動部および前記第2可動部の固着防止動作が行われている状況である請求項9に記載の状態推定装置。
【請求項11】
前記推定部により推定された前記作動流体の漏れ量が一定以上である場合にその旨を報知する報知部をさらに備える請求項1から10のいずれかに記載の状態推定装置。
【請求項12】
前記報知部は前記推定部により推定された前記作動流体の漏れ量が初期値から一定以上増加した場合にその旨を報知する請求項11に記載の状態推定装置。
【請求項13】
前記報知部は前記作動流体の漏れ量が閾値を超えるまでの時間を推定して報知する請求項11または12に記載の状態推定装置。
【請求項14】
前記制御弁はエンジンに供給される燃料の量を調整するための制御弁である請求項1から13のいずれかに記載の状態推定装置。
【請求項15】
当該制御弁は複数の気筒を有するエンジンのそれぞれの気筒に供給される燃料の量を調整するためにそれぞれの気筒に設けられ、
前記推定部は前記複数の気筒に設けられた複数の制御弁のそれぞれに関する情報を比較することにより前記制御弁の異常を判定する請求項14に記載の状態推定装置。
【請求項16】
コンピュータを、
第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における前記第1可動部の目標位置または実位置と、前記作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを前記作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を生成するために取得する第1取得部、
前記第1取得部により取得された情報に基づいて、前記推定基準を生成する生成部、
前記生成部が前記推定基準を生成した後の時点において、前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とを取得する第2取得部、
前記第2取得部により取得された情報と前記推定基準とに基づいて前記作動流体の漏れ量を推定する推定部
として機能させるための状態推定プログラム。
【請求項17】
コンピュータに、
第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における前記第1可動部の目標位置または実位置と、前記作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを前記作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を生成するために取得する第1の取得ステップと、
前記第1の取得ステップにおいて取得された情報に基づいて、前記推定基準を生成するステップと、
前記推定基準が生成された後の時点において、前記第1可動部の目標位置または実位置と前記第2可動部の実位置とを取得する第2の取得ステップと、
前記第2の取得ステップにおいて取得された情報と前記推定基準とに基づいて前記作動流体の漏れ量を推定する推定ステップと
を実行させる状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁の状態を推定するための状態推定装置、制御弁、状態推定プログラム、および状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などの移動体に搭載されたエンジンを制御するために、油圧サーボバルブなどの制御弁が使用される。電気的に制御可能な制御弁を使用してエンジンへの燃料の供給やエンジンからの排気などをきめ細かく制御することにより、エンジンの熱効率を向上させることができ、燃料の消費量を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶は、洋上を航行するため、搭載された制御弁に故障や不具合などが発生したとしても即座に対処できるとは限らない。従来は、船舶が港湾に停泊しているときなどに、故障や不具合などが発生した制御弁を取り外し、工場などに持ち込んで点検して、必要な修理や交換などを実施していた。しかし、船舶が航行不能な状態に陥って多大な損害を生じる事態を抑えるためには、制御弁の状態を的確に把握し、故障や不具合により動作不能となる前に適切な処置を講じておくことが非常に重要である。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御弁の状態をより精確に推定するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の状態推定装置は、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得する取得部と、取得部により取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部とを備える。
【0007】
本発明のさらに別の態様は、制御弁である。この制御弁は、位置を指定するための制御信号に応じて位置が変化し、位置に応じて作動流体の流量が制御される第1可動部と、第1可動部の目標位置または実位置と作動流体の流量に応じて位置が変化する第2可動部の実位置とを取得する取得部と、第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とに基づいて作動流体の漏れ量を推定するための推定モデルを使用して、取得部により取得された第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部とを備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、状態推定プログラムである。このプログラムは、コンピュータを、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得する取得部、取得部により取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部として機能させる。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、状態推定方法である。この方法は、コンピュータに、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得するステップと、取得するステップにおいて取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定ステップとを実行させる。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制御弁の状態をより精確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る管理システムの構成を示す図である。
【
図2】船舶に搭載された油圧サーボバルブの周辺の構成を概略的に示す図である。
【
図3】油圧サーボバルブの構成を概略的に示す図である。
【
図4】パイロットバルブの弁体の第1方向の位置とポートの開閉状態を模式的に示す模式図である。
【
図5】サーボバルブ制御装置の構成を示す図である。
【
図6】学習装置および状態推定装置の構成を示す図である。
【
図7】本実施形態の状態推定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図8】実施例1-1に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図9】実施例1-2に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図10】実施例1-3に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図11】実施例1-4に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図12】実施例1-5に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図13】実施例2に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図14】パイロットバルブのスプールとメインバルブのスプールの動作を模式的に示す図である。
【
図15】実施例3に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図16】実施例4に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図17】パイロットバルブのスプールとメインバルブのスプールの動作を模式的に示す図である。
【
図18】実施例5に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図19】メインバルブのスプールの位置センサの状態を示す図である。
【
図20】実施例6に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【
図21】実施例7に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る管理システムの構成を示す。管理システム1は、制御弁の動作に関連する情報に基づいて制御弁を管理する。管理システム1は、任意の制御弁を管理するために利用可能であるが、本実施形態では、船舶2に搭載されたエンジンを制御するための油圧サーボバルブを管理する例について主に説明する。管理システム1は、学習装置300および状態推定装置400を備える。学習装置300は、油圧サーボバルブに関連する情報に基づいて油圧サーボバルブの状態を推定するための推定モデルを学習する。状態推定装置400は、学習装置300により学習された推定モデルを使用して油圧サーボバルブの状態を推定する。
【0016】
学習装置300は、推定モデルを学習するための学習データを使用して推定モデルを学習する。学習データは、船舶2において実際に油圧サーボバルブまたは油圧サーボバルブと同種の別の油圧サーボバルブが使用されたときに記録されたログデータであってもよいし、油圧サーボバルブまたは油圧サーボバルブと同種の別の油圧サーボバルブが船舶2以外の試験環境などにおいて使用されたときに記録された試験データであってもよいし、油圧サーボバルブの動作をシミュレートするためのシミュレータにより生成されたシミュレーションデータであってもよいし、それらのうちの2以上の組合せであってもよい。以降、とくに明記しない限り、ログデータまたは試験データは、状態を推定する対象となる油圧サーボバルブ自体が使用または試験されたときに記録されたログデータまたは試験データであってもよいし、当該油圧サーボバルブと同種の別の油圧サーボバルブが使用または試験されたときに記録されたログデータまたは試験データであってもよいし、それらの組合せであってもよい。
【0017】
学習データとしてログデータを使用する場合、状態を推定する対象となる油圧サーボバルブと同様の環境で実際に油圧サーボバルブが使用されたときに収集されたログデータに基づいて推定モデルを学習することができるので、推定モデルの精度を向上させることができる。この場合、船舶2にログデータを記憶するためのログデータ記憶装置を搭載し、船舶2が着岸したときなどにログデータ記憶装置からログデータを読み出して学習装置300に供給してもよい。また、船舶2に船陸間通信のための通信装置を搭載し、通信網3を介して船舶2から学習装置300にログデータを送信してもよい。
【0018】
学習データとして試験データまたはシミュレーションデータを使用する場合、様々な状態または環境において油圧サーボバルブが使用されたときのデータを大量に生成することができるので、推定モデルの精度および汎用性を向上させることができる。例えば、発生頻度が非常に低い故障が実際に発生したときのログデータを入手することが困難であったとしても、その故障を試験的に発生させたときの試験データや、その故障をシミュレーションしたときのシミュレーションデータを使用して推定モデルを学習することにより、そのような故障も的確に推定することが可能な推定モデルを生成することができる。
【0019】
学習装置300は、状態推定装置400において使用されている学習済みの推定モデルをさらに学習して更新してもよい。
【0020】
状態推定装置400は、船舶2に搭載された油圧サーボバルブに関連する情報を取得し、推定モデルを使用して油圧サーボバルブの状態を推定する。状態推定装置400は、船舶2に搭載されたログデータ記憶装置からログデータを読み出し、読み出したログデータに基づいて船舶2の過去の航行における油圧サーボバルブの状態を推定してもよい。また、状態推定装置400は、船舶2に搭載された船陸間通信のための通信装置から通信網3を介して油圧サーボバルブに関連する情報を受信し、受信した情報に基づいて航行中の船舶2における油圧サーボバルブの状態を推定してもよい。また、状態推定装置400は、船舶2に搭載され、油圧サーボバルブに関連する情報をリアルタイムに取得して油圧サーボバルブの状態を推定してもよい。この場合、状態推定装置400による推定結果は、船陸間通信により船舶2の所有者、管理主体、保守主体などに送信されてもよい。
【0021】
本実施形態の技術によれば、過去または現在の油圧サーボバルブの状態を的確に推定することができるので、油圧サーボバルブに故障や不具合などが生じていたとしても、迅速かつ適切に処置を講じることができる。また、油圧サーボバルブに故障や不具合などが生じていなかった場合も、将来の航行において油圧サーボバルブに故障や不具合が生じる可能性や油圧サーボバルブの寿命などを、現在または過去の油圧サーボバルブの状態から的確に予測することができる。このように、本実施形態の技術は、とくに船舶2などの移動体の安全性および効率を向上させるために、非常に重要な意義を有している。
【0022】
図2は、船舶2に搭載された油圧サーボバルブ100の周辺の構成を概略的に示す。船舶2に搭載されたエンジン80は、複数の気筒81およびセンサ82を備える。センサ82は、エンジン80の回転数、負荷、圧力、排気温度などを検知する。油圧サーボバルブ100は、複数の気筒81のそれぞれに対応して設けられ、それぞれの気筒81における燃料の噴射や排気などを制御する。本実施形態では、油圧サーボバルブ100は、スプールの位置を電気的に制御することによりアクチュエータに供給される作動油の流量を制御するパイロットバルブと、パイロットバルブにより制御されるアクチュエータの一例であるメインバルブとを備える。油圧サーボバルブ100は、メインバルブのスプールの位置に応じて、噴射弁や排気弁などを駆動するために設けられた別のアクチュエータへ供給する作動油の流量を制御する。別の例では、油圧サーボバルブ100は、メインバルブのスプールの移動により噴射弁や排気弁などを直接駆動してもよい。
【0023】
エンジン制御装置91は、船舶2の航行を制御するための図示しないコントロールパネルから入力される指示に応じて、エンジン80の回転数などを決定し、サーボバルブ制御装置110に指示を入力する。サーボバルブ制御装置110は、エンジン制御装置91からの指示に応じて、複数の油圧サーボバルブ100のメインバルブのスプールの目標位置を算出し、それぞれのメインバルブのスプールの位置が算出された目標位置となるように、それぞれのパイロットバルブのスプールの位置を制御する。サーボバルブ制御装置110は、ジャンクションボックス92を介して複数の油圧サーボバルブ100のそれぞれからメインバルブのスプールの実位置を示す情報を取得し、メインバルブのスプールの目標位置および実位置に基づいて、パイロットバルブのスプールの目標位置を算出して油圧サーボバルブ100へ出力することにより、メインバルブのスプールの位置をフィードバック制御する。サーボバルブ制御装置110は、P制御、PI制御、PID制御など、任意の方式でメインバルブのスプールの位置をフィードバック制御してもよい。
【0024】
サーボバルブ制御装置110は、エンジン制御装置91からの入力データ、油圧サーボバルブ100への出力データ、ジャンクションボックス92を介して取得される油圧サーボバルブ100およびエンジン80の状態を示す各種の検知データなどをログデータ記憶装置90に記録する。
【0025】
本図では、ログデータ記憶装置90がサーボバルブ制御装置110に接続された例を示すが、ログデータ記憶装置90は、ジャンクションボックス92に接続されてもよいし、ジャンクションボックス92と油圧サーボバルブ100の間に接続されてもよいし、油圧サーボバルブ100内に搭載されてもよい。ログデータ記憶装置90をサーボバルブ制御装置110に接続する場合は、ログデータ記憶装置90をエンジン80から比較的離れた位置に設置することができるので、エンジン80において発生する振動や熱などの影響を抑えることができる。また、既存の船舶2にログデータ記憶装置90を設置する際に必要な配線などの変更を少なくすることができる。ログデータ記憶装置90をジャンクションボックス92に接続する場合は、油圧サーボバルブ100のパイロットバルブのスプールの実位置を示すデータがサーボバルブ制御装置110に送信されないように構成されている場合であってもパイロットバルブのスプールの実位置を示すデータを取得して記録することができるので、より精確に油圧サーボバルブ100の状態を推定することができる。ログデータ記憶装置90を油圧サーボバルブ100とジャンクションボックス92の間に接続する場合は、油圧サーボバルブ100のパイロットバルブのスプールの実位置を示すデータに加えて、油圧サーボバルブ100に供給される電圧または電流の値を取得することができるので、より精確に油圧サーボバルブ100の状態を推定することができる。ログデータ記憶装置90を油圧サーボバルブ100内に搭載する場合も同様である。
【0026】
状態推定装置400が船舶2に搭載される場合、状態推定装置400は、ログデータ記憶装置90からデータを取得してもよいし、ログデータ記憶装置90に代えて設置されてもよい。この場合も、上記のように、状態推定装置400は、サーボバルブ制御装置110に接続されてもよいし、ジャンクションボックス92に接続されてもよいし、ジャンクションボックス92と油圧サーボバルブ100の間に接続されてもよいし、油圧サーボバルブ100内に搭載されてもよい。
【0027】
図3は、油圧サーボバルブ100の構成を概略的に示す。油圧サーボバルブ100は、パイロットバルブ10と、メインバルブ20を備える。パイロットバルブ10は、サーボバルブ制御装置110からの指令に基づいて被制御機器であるメインバルブ20への作動油48の送出状態を変化させることにより、メインバルブ20のスプール28の位置を制御する。
【0028】
パイロットバルブ10は、複数のボルトB1によりメインバルブ20に連結されている。パイロットバルブ10にはボルトB1を貫通させるための複数の貫通孔10hが設けられる。メインバルブ20にはボルトB1が螺合するための複数の雌ねじ20hが設けられる。複数の貫通孔10hは、複数の雌ねじ20hの位置に対応する位置に配置される。ボルトB1を貫通孔10hを通じて雌ねじ20hに螺合することにより、パイロットバルブ10はメインバルブ20に連結される。ボルトB1を外すことにより、パイロットバルブ10はメインバルブ20から分離される。
【0029】
図3のメインバルブ20の油圧系統は、作動油48を貯留するドレインタンク44と、ドレインタンク44の作動油48を加圧して送出する油圧ポンプ42とを含む。油圧ポンプ42から送出された作動油48は、メインバルブ20内のポンプ側配管部22pを通じて、メインバルブ20の内部とパイロットバルブ10とに供給される。パイロットバルブ10とメインバルブ20の内部から排出される作動油48は、メインバルブ20内のタンク側配管部22tを通じて、ドレインタンク44に戻される。ポンプ側配管部22pとタンク側配管部22tを総称するときはメインバルブ配管部という。
【0030】
パイロットバルブ10は、本体部10bと、スプール12と、ポート16と、スプール駆動部18とを主に含む。スプール12は、第1可動部として機能し、シャフト12sと、シャフト12sと一体に移動する複数の弁体14とを有する。スプール12は、スプール駆動部18によって駆動され、第1方向に進退する。以下、便宜上、スプール12がスプール駆動部18から第1方向に沿って延出する方向(
図1で下向き)を「延出方向」、「延出側」といい、その延出方向と反対の方向を「反延出方向」、「反延出側」という。
【0031】
スプール12の延出側には、スプール12を反延出方向に付勢する付勢部材12hが設けられる。付勢部材12hは、例えば、第1方向に伸縮するコイルスプリングであってもよい。スプール駆動部18は、シャフト12sを第1方向に進退させるコイルなどの電磁的なアクチュエータ(不図示)を含む。スプール駆動部18は、サーボバルブ制御装置110からの指令に基づきシャフト12sを進退させ、付勢部材12hの付勢力とのバランスにより弁体14の位置を制御する。
【0032】
弁体14は、第1方向に離隔して配置される第1弁体14aと、第2弁体14bと、第3弁体14cとを含む。第2弁体14bは、第1弁体14aの反延出側に配置され、第3弁体14cは、第1弁体14aの延出側に配置される。第1弁体14aは、その第1方向の位置に応じて、後述するAポート16aの連通状態を変化させる。本体部10bは、第1方向に延びてスプール12を収容する円筒空間10sを有する。円筒空間10sは弁体14を狭い隙間を介して囲うシリンダとして機能する。
【0033】
本体部10bにはポート16が設けられる。本実施形態のポート16は、Pポート16pと、Aポート16aと、Tポート16tとを含む。Pポート16pは、ポンプ側配管部22pに接続され、油圧ポンプ42から加圧された作動油48が供給される。Aポート16aは、メインバルブ20の作動油受入部22aに接続される。メインバルブ20のスプール28は、作動油受入部22aに供給された作動油48の圧力により移動される。Tポート16tは、タンク側配管部22tに接続され、本体部10bを流れた作動油48をタンク側配管部22tを通じてドレインタンク44に排出する。
【0034】
メインバルブ20は、第2可動部として機能するスプール28を含む。本図ではメインバルブ20の詳細を省略しているが、メインバルブ20はパイロットバルブ10と同様の構造を有していてもよい。
【0035】
パイロットバルブ10のスプール12の先端部には、スプール12の位置を検出するための位置センサ19が設けられる。メインバルブ20のスプール28の先端部には、スプール28の位置を検出するための位置センサ29が設けられる。位置センサ19により検出されたパイロットバルブ10のスプール12の実位置を示すデータと、位置センサ29により検出されたメインバルブ20のスプール28の実位置を示すデータは、配線を介してジャンクションボックス92へ送られる。
【0036】
図4は、パイロットバルブ10の弁体14の第1方向の位置とポートの開閉状態を模式的に示す模式図である。この図では説明に重要でない要素の記載を省いている。
図4(a)は、弁体14がAポート16aとPポート16pとを連通させる第1領域内に位置する状態を示す。この状態では、Aポート16aは、Pポート16pからの作動油48を作動油受入部22aに供給する(以下、「供給モード」という)。供給モードでは、メインバルブ20の作動油受入部22aにはPポート16pからの作動油48が供給される。この動作により、例えば、メインバルブ20のスプール28が、エンジン80への燃料供給量を増やす方向に移動する。
【0037】
図4(b)は、弁体14がAポート16aを遮断してPポート16pおよびTポート16tと連通させない中立領域内に位置する状態を示す(以下、中立領域内の位置を「中立位置」ともいう)。この状態では、Aポート16aは遮断され、作動油受入部22aに対して供給も回収もしない(以下、「中立モード」という)。中立モードでは、メインバルブ20の作動油受入部22aの油圧は、弁体14が中立領域に位置する直前の状態で維持される。この動作により、例えば、メインバルブ20のスプール28が直前の位置で停止し、エンジン80への燃料供給量が直前の状態に保たれる。
【0038】
図4(c)は、弁体14がAポート16aとTポート16tとを連通させる第2領域内に位置する状態を示す。この状態では、Aポート16aは、作動油受入部22aから作動油48を回収してポンプ側配管部22pに戻す(以下、「回収モード」という)。回収モードでは、メインバルブ20の作動油受入部22aの作動油48がAポート16a、Tポート16tおよびタンク側配管部22tを通じてドレインタンク44に回収される。この動作により、例えば、メインバルブ20のスプール28が、エンジン80への燃料供給量を減らす方向に移動する。
【0039】
図5は、サーボバルブ制御装置110の構成を示す。サーボバルブ制御装置110は、電源回路120、サーボバルブ制御回路130、サーボバルブ駆動回路140、電圧検出部150、およびデータ収集回路160を含む。
【0040】
電源回路120は、外部電源から供給される電力をサーボバルブ制御回路130およびサーボバルブ駆動回路140に供給する。電圧検出部150は、電源回路120に入力される電圧または電源回路120から出力される電圧を検出する。電圧検出部150に代えて、または加えて、電源回路120に入力される電流または電源回路120から出力される電流を検出する電流検出部が設けられてもよい。
【0041】
サーボバルブ制御回路130は、エンジン制御装置91からの指令に基づいて、メインバルブ20のスプール28の目標位置を算出する。サーボバルブ制御回路130は、算出された目標位置にメインバルブ20のスプール28を移動させるためのパイロットバルブ10のスプール12の目標位置を算出する。サーボバルブ制御回路130は、算出されたパイロットバルブ10のスプール12の目標位置をサーボバルブ駆動回路140に入力する。
【0042】
サーボバルブ駆動回路140は、サーボバルブ制御回路130から入力されたパイロットバルブ10のスプール12の目標位置に応じて、パイロットバルブ10のスプール駆動部18のコイルに電力を供給してスプール12を移動させる。サーボバルブ駆動回路140は、油圧サーボバルブ100内に設けられてもよい。
【0043】
パイロットバルブ10のスプール12が移動してポート16の開閉状態が変更されると、作動油48の供給または回収によってメインバルブ20のスプール28が目標位置に向けて移動する。メインバルブ20のスプール28の実位置が目標位置と一致すると、サーボバルブ制御回路130は、パイロットバルブ10のスプール12を中立位置に戻す。これにより、メインバルブ20のスプール28は目標位置で静止する。エンジン80の動作中、このような一連の制御が繰り返される。
【0044】
データ収集回路160は、電圧検出部150により検出された電圧値や、サーボバルブ制御回路130からサーボバルブ駆動回路140に入力されたパイロットバルブ10のスプール12の目標位置などのデータをログデータ記憶装置90に記録する。データ収集回路160は、センサ82により検知されたエンジン80の状態を示すデータや、位置センサ19により検知されたパイロットバルブ10のスプール12の実位置や、位置センサ29により検知されたメインバルブ20のスプール28の実位置などをジャンクションボックス92を介して取得し、ログデータ記憶装置90に記録する。
【0045】
図6は、学習装置300および状態推定装置400の構成を示す。学習装置300は、学習データ取得部301、推定モデル生成部302、および推定モデル提供部303を備える。状態推定装置400は、検知情報取得部401、状態推定部402、および推定結果出力部403を備える。
【0046】
学習データ取得部301は、油圧サーボバルブ100の状態を推定するための推定モデルを学習するのに使用される学習データを取得する。学習データは、油圧サーボバルブ100の動作に関連して取得可能なデータと、その油圧サーボバルブ100の状態を示すデータとの組を含む。学習データ取得部301は、ログデータ記憶装置90に記憶されたログデータを取得してもよいし、油圧サーボバルブ100が船舶2以外の試験環境などにおいて使用されたときに記録された試験データを取得してもよいし、油圧サーボバルブ100の動作をシミュレートするためのシミュレータにより生成されたシミュレーションデータを取得してもよい。
【0047】
学習データ取得部301は、特定の状況下で記録または生成されたデータを学習データとして取得してもよい。学習データ取得部301は、取得したデータの中から、特定の状況下で記録または生成されたデータを学習データとして選択してもよい。例えば、学習データ取得部301は、推定モデルにより推定すべき特定の状態が発生したときのログデータや、試験環境において特定の状態を発生させたときの試験データや、シミュレータにより特定の状態をシミュレートしたときのシミュレーションデータを取得または選択してもよい。学習データ取得部301は、特定の環境下で油圧サーボバルブ100を動作させたときに記録または生成されたデータを学習データとして取得してもよい。例えば、学習データ取得部301は、船舶2の種類、航路、航行時期、エンジン80の種類、気筒数、累積稼働時間などに応じてデータを分類し、それらの環境ごとに別個の推定モデルを学習してもよい。
【0048】
学習データ取得部301は、取得したデータを前処理して学習データを生成してもよい。例えば、学習データ取得部301は、推定モデルにより推定すべき状態と相関のある特徴量を、取得したデータから算出して学習データとしてもよい。また、パイロットバルブ10のスプール12の目標位置または実位置、メインバルブ20のスプール28の目標位置または実位置と、別のデータとを対応づけるために、目標位置を入力してからスプール12またはスプール28の実位置が目標位置に到達するまでのオフセット時間を調整してもよい。
【0049】
推定モデル生成部302は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において油圧サーボバルブ100の状態を推定するために使用される推定基準を生成する。推定基準は、油圧サーボバルブ100の動作に関連して取得可能なデータと油圧サーボバルブ100の状態を示すデータとを対応付けたテーブルまたはプログラムなどであってもよい。推定基準は、油圧サーボバルブ100の動作に関連して取得可能なデータと油圧サーボバルブ100の状態を示すデータとの対応関係をモデル化した推定モデルであってもよい。推定モデルは、油圧サーボバルブ100の動作に関連して取得可能なデータを入力変数とし、油圧サーボバルブ100の状態を示すデータを算出するための数式であってもよい。この場合、推定モデル生成部302は、多変量解析、重回帰分析、主成分分析などの統計学的手法により推定モデルを生成してもよい。推定モデルは、油圧サーボバルブ100の状態を示すデータを入力層に入力し、油圧サーボバルブ100の状態を示すデータを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、推定モデル生成部302は、学習データに含まれる、油圧サーボバルブ100の動作に関連して取得されるデータを入力層に入力したときに、そのデータに対応する油圧サーボバルブ100の状態を示すデータに近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、推定モデルを学習する。推定モデルは、ルールベースの推定アルゴリズムであってもよいし、任意の形式の人工知能などであってもよい。
【0050】
推定モデル提供部303は、推定モデル生成部302により生成された推定モデルを状態推定装置400に提供する。推定モデル提供部303は、状態推定装置400が製造されるときに状態推定装置400に提供されてもよい。また、状態推定装置400が製造された後も学習装置300が推定モデルを学習して推定モデルを更新する場合は、所定のタイミングで更新された推定モデルを状態推定装置400に提供してもよい。
【0051】
検知情報取得部401は、油圧サーボバルブ100の動作に関連して検知された情報を取得する。検知情報取得部401は、ログデータ記憶装置90に記憶されたデータを取得してもよいし、データ収集回路160から直接データを取得してもよいし、船陸間通信により船舶2からデータを取得してもよい。検知情報取得部401は、取得したデータに、推定モデルが生成されたときに使用された学習データと同様の前処理を実行してもよい。
【0052】
状態推定部402は、学習装置300により生成された推定モデルを使用して、油圧サーボバルブ100の状態を推定する。状態推定部402は、検知情報取得部401により取得されたデータを推定モデルに入力し、推定モデルから出力される油圧サーボバルブ100の状態を推定結果として取得する。
【0053】
推定結果出力部403は、状態推定部402による推定結果を出力する。推定結果出力部403は、状態推定部402により油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると推定された場合に、その旨を報知してもよい。異常な状態であるか否かは、状態推定部402により出力された油圧サーボバルブ100の状態を示す状態推定データが、所定の閾値以上または所定の閾値未満になったか否か、または所定の範囲内にあるか否かによって判定されてもよいし、状態推定データの初期値からの変化量が所定の閾値以上になったか否かによって判定されてもよい。また、推定結果出力部403は、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の状態推定結果を比較することにより、油圧サーボバルブ100が異常な状態であるか否かを判定してもよい。例えば、特定の油圧サーボバルブ100の状態推定結果の値が、複数の油圧サーボバルブ100の状態推定結果の平均値から大きく外れている場合に、その油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると判定してもよい。複数の油圧サーボバルブ100のそれぞれの状態推定結果の偏差値を算出し、偏差値が所定の閾値、例えば80以上または30未満である油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると判定してもよい。
【0054】
図7は、本実施形態の状態推定方法の手順を示すフローチャートである。まず、推定モデルを生成する段階の手順を説明する。油圧サーボバルブ100を搭載した船舶2が航行するときに、油圧サーボバルブ100の動作に関連するデータがログデータ記憶装置90に記録される(ステップS10)。学習装置300の学習データ取得部301は、ログデータ記憶装置90に記録されたログデータを学習データとして取得する(ステップS12)。学習データ取得部301は、試験データやシミュレーションデータも学習データとして取得する。推定モデル生成部302は、取得された学習データに基づいて推定モデルを生成する(ステップS14)。推定モデル提供部303は、生成された推定モデルを状態推定装置400に提供する(ステップS16)。
【0055】
つづいて、推定モデルを使用して油圧サーボバルブ100の状態を推定する段階の手順を説明する。油圧サーボバルブ100を搭載した船舶2が航行するときに、油圧サーボバルブ100の動作に関連するデータがログデータ記憶装置90に記録される(ステップS20)。状態推定装置400の検知情報取得部401は、ログデータ記憶装置90に記録された検知情報を取得する(ステップS22)。状態推定部402は、取得された検知情報に基づいて、推定モデルを使用して油圧サーボバルブ100の状態を推定する(ステップS24)。推定結果出力部403は、推定結果を出力する(ステップS26)。
【0056】
本実施形態の管理システムの具体的な実施例について説明する。
【0057】
[実施例1:内部油漏れ量の推定]
パイロットバルブ10が長時間使用されると、弁体14が摩耗してバルブとしての節度が低下し、中立モードでも、Aポート16a、Pポート16pおよびTポート16tが互いに僅かに連通するようになる。中立モードにおいて作動油48がPポート16pからAポート16aに漏出すると、作動油受入部22aの油圧が徐々に上昇してエンジン80への燃料供給量が増加し、エンジン80の燃費の悪化を引き起こす。また、中立モードにおいて作動油48がAポート16aからTポート16tに漏出すると、作動油受入部22aの油圧が徐々に低下してエンジン80への燃料供給量が減少し、エンジン80の出力低下を引き起こす。作動油48の漏れ量が許容量を超えると、油圧サーボバルブ100は正常に機能しなくなり故障に至る。漏れ量を高精度で推定できれば、漏れ量が許容量を超える前に油圧サーボバルブ100を交換または修理して、予期せぬ故障を回避できる。
【0058】
前述したように、油圧サーボバルブ100が正常に動作している場合、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときにメインバルブ20のスプール28は静止するが、作動油48の漏れ量が増大すると、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときにもメインバルブ20のスプール28が移動する。本発明者らの実験により、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときのメインバルブ20のスプール28の移動速度と作動油48の漏れ量との間に強い相関関係があることが分かっている。したがって、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときのメインバルブ20のスプール28の移動速度から、パイロットバルブ10における内部油漏れ量を推定することができる。
【0059】
[実施例1-1]
図8は、実施例1-1に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、パイロットバルブ実スプール位置310、メインバルブ実スプール位置311、および内部油漏れ量実測値312を学習データとして取得する。
【0060】
パイロットバルブ実スプール位置310と、メインバルブ実スプール位置311は、内部油漏れ量が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。この時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。エンジン80の回転動作の1周期中に少なくとも数回はパイロットバルブ10のスプール12の位置が中立位置になるので、1周期分のパイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311の時系列データは、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときのメインバルブ20のスプール28の移動速度を示す情報を含んでいる。
【0061】
内部油漏れ量実測値312は、油圧サーボバルブ100における内部油漏れ量の値である。学習データとしてログデータまたは試験データを使用する場合、内部油漏れ量実測値312は、流量計などにより実測された内部油漏れ量の値である。内部油漏れ量は油圧サーボバルブ100の使用中に急激には変化しないと考えられるので、内部油漏れ量が実測された時点の前または後の所定期間には、実測された量の作動油48が内部で漏れている状態で油圧サーボバルブ100が使用されたとみなし、その所定期間に記録されたパイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311と内部油漏れ量実測値312とを対応づけて学習データとする。所定期間は、油圧サーボバルブ100の使用中に内部油漏れ量が同程度のまま変わらない期間であればよく、油圧サーボバルブ100の使用時間、エンジン80の動作時間、エンジン80の回転数などにより規定されてもよい。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、内部油漏れ量実測値312は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力された内部油漏れ量の値である。
【0062】
内部油漏れ量推定モデル生成部313は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量を推定するために使用される内部油漏れ量推定モデルを生成する。内部油漏れ量推定モデルは、パイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311の所定期間の時系列データを入力層に入力し、油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、内部油漏れ量推定モデル生成部313は、パイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、内部油漏れ量実測値312に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、内部油漏れ量推定モデルを学習する。
【0063】
内部油漏れ量推定モデル提供部314は、内部油漏れ量推定モデル生成部313により生成された内部油漏れ量推定モデルを状態推定装置400に提供する。
【0064】
検知情報取得部401は、パイロットバルブ実スプール位置410およびメインバルブ実スプール位置411を検知情報として取得する。この検知情報は、内部油漏れ量推定モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0065】
内部油漏れ量推定部412は、学習装置300により生成された内部油漏れ量推定モデルを使用して、油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量を推定する。内部油漏れ量推定部412は、検知情報取得部401により取得されたパイロットバルブ実スプール位置410およびメインバルブ実スプール位置411の時系列データを内部油漏れ量推定モデルに入力し、内部油漏れ量推定モデルから出力される内部油漏れ量を推定結果として取得する。
【0066】
内部油漏れ量推定値出力部413は、内部油漏れ量推定部412により推定された内部油漏れ量の推定値を出力する。内部油漏れ量推定値出力部413は、油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると推定された場合に、その旨を報知してもよい。異常な状態であるか否かは、内部油漏れ量推定部412により出力された内部油漏れ量の値が、所定の閾値以上であるか否かによって判定されてもよいし、内部油漏れ量の初期値からの変化量が所定の閾値以上になったか否かによって判定されてもよい。また、内部油漏れ量推定値出力部413は、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量の値を比較することにより、油圧サーボバルブ100が異常な状態であるか否かを判定してもよい。例えば、特定の油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量の値が、複数の油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量の平均値から大きく外れている場合に、その油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると判定してもよい。複数の油圧サーボバルブ100のそれぞれの内部油漏れ量の偏差値を算出し、偏差値が所定の閾値、例えば80以上または30未満である油圧サーボバルブ100が異常な状態にあると判定してもよい。
【0067】
[実施例1-2]
図9は、実施例1-2に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。実施例1-2の学習装置300は、
図8に示した実施例1-1の学習装置300の構成に加えて、特徴量算出部315を備える。また、実施例1-2の状態推定装置400は、
図8に示した実施例1-1の状態推定装置400の構成に加えて、特徴量算出部414を備える。実施例1-1と異なる点について主に説明する。それ以外の点は実施例1-1と同様である。
【0068】
学習装置300の特徴量算出部315は、学習データ取得部301により取得されたパイロットバルブ実スプール位置310またはメインバルブ実スプール位置311から、内部油漏れ量と相関のある特徴量を算出する。上述したように、内部油漏れ量は、パイロットバルブ10のスプール12が中立位置にあるときのメインバルブ20のスプール28の移動速度と相関があることが本発明者らの実験によって明らかになっているので、特徴量算出部315は、パイロットバルブ実スプール位置310が中立位置にある期間のメインバルブ実スプール位置311から、メインバルブ20のスプール28の移動速度を算出する。パイロットバルブ10のスプール12が中立位置に移動してから、メインバルブ20への作動油の供給が止まってメインバルブ20のスプール28の位置が静止するまでにタイムラグがある場合は、特徴量算出部315はタイムラグを調整してからメインバルブ20のスプール28の移動速度を算出してもよい。タイムラグの調整量は、油圧サーボバルブ100の種類や、温度、作動油48の圧力、エンジン80の回転数、負荷、排気温度などの油圧サーボバルブ100が使用される環境などに応じて、実験などによって予め定められていてもよい。
【0069】
内部油漏れ量推定モデル生成部313は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、内部油漏れ量推定モデルを生成する。内部油漏れ量推定モデル生成部313は、内部油漏れ量実測値312と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して内部油漏れ量推定モデルを生成してもよい。例えば、内部油漏れ量推定モデルは、特徴量を入力変数として内部油漏れ量を算出する数式であってもよい。この場合、内部油漏れ量推定モデル生成部313は、回帰分析などの統計的手法により数式を生成してもよい。内部油漏れ量推定モデル生成部313は、パイロットバルブ実スプール位置310、メインバルブ実スプール位置311、および特徴量を使用して内部油漏れ量推定モデルを生成してもよい。例えば、内部油漏れ量推定モデルは、パイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、内部油漏れ量を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、内部油漏れ量推定モデル生成部313は、パイロットバルブ実スプール位置310およびメインバルブ実スプール位置311の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、内部油漏れ量実測値312に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、内部油漏れ量推定モデルを学習する。
【0070】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、内部油漏れ量推定部412が使用する内部油漏れ量推定モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得されたパイロットバルブ実スプール位置410またはメインバルブ実スプール位置411から特徴量を算出する。内部油漏れ量推定モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100のパイロットバルブ実スプール位置410およびメインバルブ実スプール位置411が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。例えば、環境に応じてタイムラグの調整量を変更してもよい。これにより、内部油漏れ量の推定のロバスト性を向上させることができる。
【0071】
[実施例1-3]
図10は、実施例1-3に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。
図9に示した実施例1-2の学習装置300では、学習データ取得部301がパイロットバルブ実スプール位置310を取得したが、実施例1-3の学習装置300では、学習データ取得部301がパイロットバルブ実スプール位置310に代えてパイロットバルブ目標スプール位置316を取得する。また、
図9に示した実施例1-2の状態推定装置400では、検知情報取得部401がパイロットバルブ実スプール位置410を取得したが、実施例1-3の状態推定装置400では、検知情報取得部401がパイロットバルブ実スプール位置410に代えてパイロットバルブ目標スプール位置415を取得する。実施例1-2と異なる点について主に説明する。それ以外の点は実施例1-1または1-2と同様である。
【0072】
前述したように、ログデータ記憶装置90の接続位置によっては、油圧サーボバルブ100が使用されているときのパイロットバルブ実スプール位置を記録できない場合がある。この場合、学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置をパイロットバルブ実スプール位置に代えて使用する。これにより、ログデータ記憶装置90の接続位置によらずに取得可能なデータを使用して、内部油漏れ量推定モデルを生成することができるとともに、その内部油漏れ量推定モデルを使用して内部油漏れ量を推定することができる。
図10の例では、実施例1-2と同様に特徴量算出部315および特徴量算出部414が設けられているが、実施例1-1と同様に特徴量算出部が設けられなくてもよい。
【0073】
[実施例1-4]
図11は、実施例1-4に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。実施例1-4の学習装置300は、
図10に示した実施例1-3の学習装置300の構成に加えて、オフセット時間算出部319を備える。また、実施例1-4の学習装置300では、学習データ取得部301がコイル駆動電圧317およびパイロットバルブ物理パラメータ318をさらに取得する。また、実施例1-4の状態推定装置400では、検知情報取得部401がコイル駆動電圧416をさらに取得する。実施例1-3と異なる点について主に説明する。それ以外の点は実施例1-1~1-3と同様である。
【0074】
サーボバルブ制御装置110からパイロットバルブ10にスプール12の目標位置の指令信号が入力されてから、スプール駆動部18のコイルに電流が供給され、スプール12が実際に目標位置に到達するまでにはタイムラグがある。したがって、パイロットバルブ目標スプール位置316をパイロットバルブ実スプール位置310に代えて学習データとして使用する場合、パイロットバルブ10のスプール12の実位置がパイロットバルブ目標スプール位置316に追従するまでに要するオフセット時間を調整することにより、パイロットバルブ10のスプール12が実際に中立位置に追従したときのメインバルブ20のスプール28の位置に基づいて内部油漏れ量推定モデルを生成することができるので、内部油漏れ量推定モデルの精度を向上させることができる。
【0075】
オフセット時間算出部319は、コイル駆動電圧317とパイロットバルブ物理パラメータ318に基づいて、オフセット時間を算出する。パイロットバルブ物理パラメータ318は、例えば、スプール駆動部18の駆動回路を構成する素子の抵抗値、コイルのインダクタンス、スプール12の質量、本体部10bとスプール12との間の摩擦係数などの物理量を含む。オフセット時間算出部319は、これらの物理パラメータとコイル駆動電圧317とを含む運動方程式からオフセット時間を算出する。パイロットバルブ10のスプール12の位置、移動方向、移動速度などに応じてオフセット時間が異なりうる場合は、これらのデータをさらに使用してオフセット時間を算出してもよい。
【0076】
学習装置300が、特定の種類の油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量を推定するための内部油漏れ量推定モデルを生成する場合は、パイロットバルブ物理パラメータ318は定数として扱われてもよい。これにより、パイロットバルブ物理パラメータ318が記録されていないログデータも学習データとして使用することができる。パイロットバルブ物理パラメータ318として、油圧サーボバルブ100の種類に応じて予め定められた定数が使用されてもよい。パイロットバルブ物理パラメータ318として、油圧サーボバルブ100の出荷時に測定された物理パラメータが使用されてもよい。これにより、油圧サーボバルブ100の個体差によるパイロットバルブの物理パラメータのばらつきの影響を抑え、より精確にオフセット時間を算出することができる。パイロットバルブ物理パラメータ318として、油圧サーボバルブ100のオーバーホールなどの保守時に測定された物理パラメータが使用されてもよい。これにより、パイロットバルブ10の経年変化の影響を抑え、より精確にオフセット時間を算出することができる。
【0077】
内部油漏れ量推定モデル生成部313は、実施例1-1または1-2と同様に、パイロットバルブ実スプール位置410およびメインバルブ実スプール位置411を入力して内部油漏れ量を出力する内部油漏れ量推定モデルを生成してもよいし、実施例1-3と同様に、パイロットバルブ目標スプール位置415およびメインバルブ実スプール位置411を入力して内部油漏れ量を出力する内部油漏れ量推定モデルを生成してもよいし、パイロットバルブ目標スプール位置415、メインバルブ実スプール位置411、およびコイル駆動電圧416を入力して内部油漏れ量を出力する内部油漏れ量推定モデルを生成してもよいし、それらに加えてパイロットバルブ物理パラメータまたはオフセット時間をさらに入力して内部油漏れ量を出力する内部油漏れ量推定モデルを生成してもよい。本図の例では、内部油漏れ量推定モデルは、パイロットバルブ目標スプール位置415、メインバルブ実スプール位置411、およびコイル駆動電圧416を入力して内部油漏れ量を出力する。サーボバルブ制御装置110の電源回路120からコイルに供給されるコイル駆動電圧416は、エンジン80の回転数などによって変動しうるので、パイロットバルブ目標スプール位置415およびメインバルブ実スプール位置411に加えてコイル駆動電圧416を入力して内部油漏れ量を出力する内部油漏れ量推定モデルを生成することにより、オフセット時間の変動の影響を抑え、推定精度を向上させることができる。
【0078】
状態推定装置400の検知情報取得部401は、内部油漏れ量推定部412が使用する内部油漏れ量推定モデルに入力を要する検知情報を取得する。本図の例では、検知情報取得部401は、パイロットバルブ目標スプール位置415、メインバルブ実スプール位置411、およびコイル駆動電圧416を取得する。内部油漏れ量推定モデルにパイロットバルブ物理パラメータを入力する必要がある場合は、検知情報取得部401は、パイロットバルブ物理パラメータをさらに取得してもよい。または、内部油漏れ量推定部412は、内部油漏れ量を推定する対象となる油圧サーボバルブ100の種類に応じた物理パラメータを予め保持しておいてもよい。また、内部油漏れ量推定モデルにオフセット時間を入力する必要がある場合は、検知情報取得部401は、オフセット時間をさらに取得してもよい。または、状態推定装置400は、コイル駆動電圧416やパイロットバルブ物理パラメータなどに基づいてオフセット時間を算出するオフセット時間算出部をさらに備えてもよい。
【0079】
[実施例1-5]
図12は、実施例1-5に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。実施例1-5の学習装置300は、
図8に示した実施例1-1の学習装置300の構成に加えて、データ選択部320を備える。また、実施例1-5の学習装置300は、
図8に示した実施例1-1の状態推定装置400の構成に加えて、データ選択部417を備える。実施例1-1と異なる点について主に説明する。それ以外の点は実施例1-1~1-4と同様である。
【0080】
本実施例では、内部油漏れ量推定モデルによる推定精度を向上させるために、状態推定装置400が内部油漏れ量を推定する対象となる油圧サーボバルブ100が使用される環境と同様の環境で油圧サーボバルブ100が使用されたときのログデータを使用して内部油漏れ量推定モデルを生成する。これにより、環境の影響を抑え、内部油漏れ量の推定のロバスト性を向上させることができる。
【0081】
データ選択部320は、学習データ取得部301により取得された学習データの中から、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録された学習データを選択する。データ選択部320は、ログデータ、試験データ、シミュレーションデータなどに含まれる油圧サーボバルブ100の使用環境を示すデータ、例えば、エンジン80の気筒81の排気温度や圧力などを参照して、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録された学習データを選択してもよい。データ選択部320は、環境ごとに学習データを分類してもよい。この場合、環境ごとに内部油漏れ量推定モデルが生成されてもよい。ログデータ、試験データ、シミュレーションデータなどの学習データは、特定の環境において記録または生成されてもよいし、記録または生成されるときに使用環境ごとに分類されてもよい。この場合、学習データ取得部301が、特定の環境において記録、生成、または分類された学習データを取得すればよいので、データ選択部320は設けられなくてもよい。
【0082】
データ選択部417は、検知情報取得部401により取得された検知情報の中から、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録された検知情報を選択する。データ選択部417は、内部油漏れ量推定部412により使用される内部油漏れ量推定モデルが生成されたときに使用された学習データが記録された環境と同様の環境において記録された検知情報を選択してもよい。使用環境ごとに生成された複数の内部油漏れ量推定モデルが状態推定装置400に保持されている場合は、内部油漏れ量推定部412は、検知情報に含まれる油圧サーボバルブ100の使用環境を示すデータを参照して、使用する内部油漏れ量推定モデルを選択してもよい。この場合、データ選択部417は設けられなくてもよい。
【0083】
特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録された学習データを使用して内部油漏れ量推定モデルが生成されてもよい。この場合、状態推定装置400は、試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録された検知情報を使用して内部油漏れ量を推定する。これにより、内部油漏れ量の推定のロバスト性を向上させることができる。
【0084】
使用環境の影響をさらに抑えるために、エンジン80が停止されているときに記録されたログデータ、試験データ、シミュレーションデータなどを学習データとして使用してもよい。エンジン80が停止されている間、エンジン制御装置91からサーボバルブ制御装置110には停止命令が出されているが、油圧ポンプ42により作動油48が加圧されている場合は、サーボバルブ制御装置110は、パイロットバルブ10のスプール12およびメインバルブ20のスプール28の固着を防止するために、エンジン80に燃料が供給されない程度の小振幅のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を繰り返し移動させる。この固着防止動作の間に記録された学習データを使用して内部油漏れ量推定モデルを生成するとともに、状態推定装置400が油圧サーボバルブ100の内部油漏れ量を推定する際にも、固着防止動作の間に記録されたログデータを使用することにより、エンジン80の動作に伴う振動などの外乱の影響を抑え、推定精度を向上させることができる。固着防止動作のパターンは、正弦波パターン、鋸状波パターン、ディザパターンなどであってもよい。異なる複数のパターンにより固着防止動作が行われる場合は、特定のパターンでの固着防止動作が行われているときに記録された学習データおよび検知情報を使用してもよい。
【0085】
[実施例1の変形例]
実施例1-1~1-5において学習データおよび検知情報として使用されたデータに加えて、エンジン回転数、エンジン負荷、作動油圧力、作動油温度などの他のデータのいずれか、またはそれらの任意の組合せが学習データおよび検知情報として使用されてもよい。これらのデータのうち、パイロットバルブ実スプール位置、パイロットバルブ目標スプール位置、メインバルブ実スプール位置などのデータに環境因子として影響を与えうるデータが選択されて使用されてもよい。これらのデータの影響が反映された内部油漏れ量推定モデルを生成することにより、内部油漏れ量の推定のロバスト性をさらに向上させることができる。
【0086】
以上の実施例1-1~1-5において説明した特徴は、任意に組み合わせて適用されてもよい。
【0087】
[実施例2:電源の故障判定]
実施例2では、電源回路120および電源回路120に電力を供給する電源の故障を判定する技術について説明する。電源または電源回路120が故障すると、油圧サーボバルブ100が正常に動作しなくなるので、エンジン80の出力低下などの異常を引き起こす。電源または電源回路120の故障を高精度で予測できれば、電源または電源回路120が故障する前に電源または電源回路120を交換または修理して、予期せぬ異常を回避できる。
【0088】
エンジン80への燃料供給および排気を制御するための油圧サーボバルブ100は、エンジン80の駆動中に一定の動作を繰り返すので、パイロットバルブ10のスプール12またはメインバルブ20のスプール28の動作波形と電源電圧波形との間には一定のパターンがみられる。したがって、正常時における動作波形と電源電圧波形のパターンと、故障の兆候が現れている時の動作波形と電源電圧波形のパターンとの相違をモデル化することによって、電源又は電源回路120の故障を判定することができる。
【0089】
図13は、実施例2に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、電源電圧321、パイロットバルブ実スプール位置310、および電源故障兆候指標値322を学習データとして取得する。
【0090】
パイロットバルブ実スプール位置310は、電源故障兆候指標値322が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。電源電圧321は、パイロットバルブ実スプール位置310が記録されたときに電圧検出部150により検出された電源電圧の時系列データである。電源電圧321は、電源回路120への入力電圧であってもよいし、電源回路120からの出力電圧であってもよいし、それら双方であってもよい。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0091】
電源故障兆候指標値322は、電源回路120の累積動作時間、電源回路120を構成するコンデンサなどの素子の劣化状態、電源回路120から放出されるエミッションノイズの実測値などに基づいて算出される。電源故障兆候指標値322の算出方法は、実験やフィールドテストなどによって定められてもよい。
【0092】
学習データとしてログデータまたは試験データを使用する場合、電源故障兆候指標値322は、上記の変数の実測値に基づいて算出される。電源故障兆候指標値322は、油圧サーボバルブ100の使用中に急激には変化しないと考えられるので、電源故障兆候指標値322を算出するための変数が実測された時点の前または後の所定期間には、電源故障兆候指標値322は変化しないとみなし、その所定期間に記録された電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310と電源故障兆候指標値322とを対応づけて学習データとする。所定期間は、油圧サーボバルブ100の使用中に電源故障兆候指標値322が同程度のまま変わらない期間であればよく、油圧サーボバルブ100の使用時間、エンジン80の動作時間、エンジン80の回転数などにより規定されてもよい。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、電源故障兆候指標値322は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力された変数の値に基づいて算出される。
【0093】
電源故障判定モデル生成部323は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において電源または電源回路120の故障を判定するために使用される電源故障判定モデルを生成する。電源故障判定モデルは、電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データを入力層に入力し、電源故障兆候指標値を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、電源故障判定モデル生成部323は、電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、電源故障兆候指標値322に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、電源故障判定モデルを学習する。
【0094】
電源故障判定モデル提供部324は、電源故障判定モデル生成部323により生成された電源故障判定モデルを状態推定装置400に提供する。
【0095】
検知情報取得部401は、電源電圧420およびパイロットバルブ実スプール位置410を検知情報として取得する。この検知情報は、電源故障判定モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0096】
電源故障判定部421は、学習装置300により生成された電源故障判定モデルを使用して、油圧サーボバルブ100の電源または電源回路120の故障を判定する。電源故障判定部421は、検知情報取得部401により取得された電源電圧420およびパイロットバルブ実スプール位置410の時系列データを電源故障判定モデルに入力し、電源故障判定モデルから出力される電源故障兆候指標値を判定結果として取得する。電源故障判定部421は、出力された電源故障兆候指標値に基づいて、電源または電源回路120の故障の有無を判定してもよい。例えば、電源故障判定部421は、出力された電源故障兆候指標値が所定の閾値以上である場合に、電源または電源回路120が故障していると判定してもよいし、電源故障兆候指標値の初期値からの変化量が所定の閾値以上になった場合に、電源または電源回路120が故障していると判定してもよい。電源故障判定部421は、出力された電源故障兆候指標値に基づいて、電源または電源回路120が故障するまでの期間、すなわち寿命を推定してもよい。例えば、電源故障判定部421は、出力された電源故障兆候指標値を変数とする数式などを使用して寿命を推定してもよい。電源故障判定モデルは、電源故障兆候指標値に代えて、または加えて、電源または電源回路120の故障の有無、または、電源または電源回路120の寿命を出力するように構成されてもよい。
【0097】
同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100のそれぞれに電源回路120が設けられる場合、電源故障判定部421は、それぞれの油圧サーボバルブ100の電源故障兆候指標値を比較することにより、電源回路120が故障しているか否かを判定してもよい。例えば、特定の油圧サーボバルブ100の電源故障兆候指標値が、複数の油圧サーボバルブ100の電源故障兆候指標値の平均値から大きく外れている場合に、その油圧サーボバルブ100の電源回路120が故障していると判定してもよい。複数の油圧サーボバルブ100のそれぞれの電源故障兆候指標値の偏差値を算出し、偏差値が所定の閾値、例えば80以上または30未満である油圧サーボバルブ100の電源回路120が故障していると判定してもよい。
【0098】
電源故障判定結果出力部422は、電源故障判定部421により判定された結果を出力する。電源故障判定結果出力部422は、電源故障判定部421により油圧サーボバルブ100の電源または電源回路120が故障していると判定された場合に、その旨を報知してもよい。電源故障判定結果出力部422は、電源故障判定部421により判定された電源または電源回路120の寿命を出力してもよい。
【0099】
本発明者らの実験により、負荷電流のピーク値に対する電源電圧の降下量が、電源または電源回路120の故障と相関関係があることが分かっている。したがって、油圧サーボバルブ100に供給される電流の値を検出するための電流計が設けられる場合は、学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ実スプール位置310に代えて、または加えて、電流計により測定された電流値が使用されてもよい。これにより、故障の判定精度を向上させることができる。
【0100】
負荷電流のピーク値に対する電源電圧の降下量は、電源電圧およびパイロットバルブ実スプール位置などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。
【0101】
学習装置300の特徴量算出部315は、学習データ取得部301により取得された電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310から、電源または電源回路120の故障と相関のある特徴量として、負荷電流のピーク値に対する電源電圧の降下量を算出する。特徴量算出部315は、パイロットバルブ実スプール位置310の変動から算出したパイロットバルブ10のスプール12の加速度または速度に基づいて、油圧サーボバルブ100に供給された電流の値を算出してもよい。特徴量算出部315は、算出された電流の値がピークとなるときの電源電圧321の値に基づいて、電源電圧の降下量を算出してもよい。電源回路120からパイロットバルブ10のスプール駆動部18のコイルに電力が供給されてから、パイロットバルブ10のスプール12が移動するまでにタイムラグがある場合は、特徴量算出部315はタイムラグを調整してからパイロットバルブ10のスプール12の加速度または速度を算出してもよい。タイムラグの調整量は、油圧サーボバルブ100の種類や、温度、作動油48の圧力、エンジン80の回転数、負荷、排気温度などの油圧サーボバルブ100が使用される環境などに応じて、実験などによって予め定められていてもよい。
【0102】
電源故障判定モデル生成部323は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、電源故障判定推定モデルを生成する。電源故障判定モデル生成部323は、電源故障兆候指標値322と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して電源故障判定モデルを生成してもよい。例えば、電源故障判定モデルは、特徴量を入力変数として電源故障兆候指標値を算出する数式であってもよい。この場合、電源故障判定モデル生成部323は、回帰分析などの統計的手法により数式を生成してもよい。電源故障判定モデル生成部323は、電源電圧321、パイロットバルブ実スプール位置310、および特徴量を使用して電源故障判定モデルを生成してもよい。例えば、電源故障判定モデルは、電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、電源故障兆候指標値を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、電源故障判定モデル生成部323は、電源電圧321およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、電源故障兆候指標値322に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、電源故障判定モデルを学習する。
【0103】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、電源故障判定部421が使用する電源故障判定モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得された電源電圧420およびパイロットバルブ実スプール位置410から特徴量を算出する。電源故障判定モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100の電源電圧420およびパイロットバルブ実スプール位置410が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。例えば、環境に応じてタイムラグの調整量を変更してもよい。これにより、電源故障判定のロバスト性を向上させることができる。また、電流計を実装しなくても負荷電流のピーク値に対する電源電圧の降下量を特徴量として算出することができるので、回路の効率の向上およびコストの低減を実現することができる。
【0104】
特徴量として、パイロットバルブ10のスプール12の動作の特徴を表す物理量などが算出されてもよい。例えば、パイロットバルブ10のスプール12の加速度、速度、オーバーシュート量、遅延量などが特徴量として算出されてもよい。
【0105】
学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ実スプール位置に代えて、または加えて、パイロットバルブ目標スプール位置またはメインバルブ実スプール位置が使用されてもよい。この場合、実施例1-4と同様に、パイロットバルブ10の実スプール位置がパイロットバルブの目標スプール位置に追従するまでに要するオフセット時間を調整するために、学習装置300がオフセット時間算出部319を備えてもよい。オフセット時間算出部319は、油圧サーボバルブ100に供給される電流の値がピークとなるときの電源電圧の降下量を算出するために、油圧サーボバルブ100に供給される電流の変動と電源電圧の変動との間のオフセット時間を算出してもよい。オフセット時間を算出する方法は、実施例1-2と同様であってもよい。
【0106】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、故障判定のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、故障判定精度を向上させることができる。
【0107】
[実施例3:異物の噛み込み検知]
実施例3では、パイロットバルブ10の本体部10bとスプール12との間に異物が噛み込んだことを検知する技術について説明する。本体部10bとスプール12との間に異物が噛み込むと、パイロットバルブ10のスプール12が正常に動作しなくなるので、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置からずれてアラームが発報される。従来は、このアラームの原因を特定することはできなかったが、異物が噛み込んだことを高精度で検知できれば、アラームが発報されたときにアラームの原因を特定して適切な措置を迅速に講じることができる。
【0108】
図14は、パイロットバルブ10のスプール12とメインバルブ20のスプール28の動作を模式的に示す。
図14(a)は、油圧サーボバルブ100が正常に制御されている場合の動作例を示す。時刻t1においてメインバルブ20の目標スプール位置が入力されると、メインバルブ20のスプール28を正方向に移動させるために、時刻t2においてパイロットバルブ10の目標スプール位置として正の値が入力される。パイロットバルブ10のスプール12が目標スプール位置に追従すると、作動油がメインバルブ20に供給されて、時刻t3にメインバルブ20のスプール28が正方向に移動し始める。時刻t4においてメインバルブ20の目標スプール位置が一定値に固定され、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置に追従すると、パイロットバルブ10の目標スプール位置として中立位置が入力され、時刻t5にメインバルブ20のスプール28が目標スプール位置で静止する。
【0109】
図14(b)は、パイロットバルブ10に異物が噛み込んだ場合の動作例を示す。時刻t4までの動作は
図14(a)と同様であるが、時刻t4においてパイロットバルブ10に異物が噛み込んだとする。パイロットバルブ10の目標スプール位置として中立位置が入力されているが、異物が噛み込んでいてスプール12が移動できないので、作動油がメインバルブ20に供給され続け、メインバルブ20のスプール28は正方向に移動し続ける。メインバルブ実スプール位置のフィードバック信号が目標位置から外れていくので、メインバルブ20のスプール28を目標位置に戻すために、パイロットバルブ10の目標スプール位置として負の値が入力され続ける。メインバルブ20のスプール28は、正方向の限界位置に達すると、それ以上は移動せずに限界位置で静止する。
【0110】
このように、パイロットバルブ10のスプール12とメインバルブ20のスプール28の動作パターンは、正常時と異物が噛み込んだ時とで大きく相違する。したがって、正常時の動作パターンと異物が噛み込んだ時の動作パターンとの相違をモデル化することによって、異物の噛み込みを検知することができる。動作パターンは、異物の種類、大きさ、量などによっても異なりうるので、異物の噛み込みの有無だけでなく、噛み込んだ異物の種類、大きさ、量なども検知しうる。いったん異物を噛み込んだ後に異物が自然に除去された場合であっても、異物を噛み込んだ履歴をログデータから検出することができるので、動作不良が生じた原因の証拠として使用することができる。船舶2などにおいては、作動油は、エンジン80を制御するための油圧サーボバルブ100だけでなく、別の装置などを制御するための油圧サーボバルブにも循環されるので、油圧サーボバルブ100においていったん噛み込んだ異物が自然に除去されたとしても、その異物が別の油圧サーボバルブなどに噛み込むことがありうる。本実施例の技術によれば、油圧サーボバルブ100における異物の噛み込みを検知し、作動油の交換などの適切な保守を実施することができるので、別の装置における異物の噛み込みを抑えることができる。
【0111】
図15は、実施例3に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ目標スプール位置316、および異物データ331を学習データとして取得する。
【0112】
メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、およびパイロットバルブ目標スプール位置316は、異物データ331が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0113】
異物データ331は、パイロットバルブ10に噛み込んだ異物の有無、種類、大きさ、量などを表すデータである。学習データとしてログデータを使用する場合、異物データ331は、パイロットバルブ10に噛み込んだ異物の実測値である。学習データとして試験データを使用する場合、異物データ331は、パイロットバルブ10に噛み込ませた異物の実測値である。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、異物データ331は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力された異物のデータである。
【0114】
異物検知モデル生成部333は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において異物の噛み込みを検知するために使用される異物検知モデルを生成する。異物検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データを入力層に入力し、異物データを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、異物検知モデル生成部333は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、異物データ331に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、異物検知モデルを学習する。
【0115】
異物検知モデル提供部334は、異物検知モデル生成部333により生成された異物検知モデルを状態推定装置400に提供する。
【0116】
検知情報取得部401は、メインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、およびパイロットバルブ目標スプール位置415を検知情報として取得する。この検知情報は、異物検知モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0117】
異物検知部431は、学習装置300により生成された異物検知モデルを使用して、パイロットバルブ10における異物の噛み込みを検知する。異物検知部431は、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、およびパイロットバルブ目標スプール位置415の時系列データを異物検知モデルに入力し、異物検知モデルから出力される異物データを判定結果として取得する。異物検知部431は、出力された異物データに基づいて、パイロットバルブ10に異物が噛み込むまでの期間を推定してもよい。この場合、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の異物データを比較することにより、異物が噛み込むまでの期間を推定してもよい。
【0118】
異物検知結果出力部432は、異物検知部431により判定された結果を出力する。異物検知結果出力部432は、異物検知部431によりパイロットバルブ10に異物が噛み込んでいることが検知された場合に、その旨を報知してもよい。異物検知結果出力部432は、異物検知部431により推定された異物が噛み込むまでの期間を出力してもよい。
【0119】
異物の噛み込みの有無、または噛み込んだ異物の種類、大きさ、または量と相関のある特徴量が、メインバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、またはパイロットバルブ目標スプール位置などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。電源回路120からパイロットバルブ10のスプール駆動部18のコイルに電力が供給されてから、パイロットバルブ10のスプール12が移動し、メインバルブ実スプール位置がメインバルブ目標スプール位置に追従するまでにタイムラグがある場合は、特徴量算出部315はタイムラグを調整してから特徴量を算出してもよい。タイムラグの調整量は、油圧サーボバルブ100の種類や、温度、作動油48の圧力、エンジン80の回転数、負荷、排気温度などの油圧サーボバルブ100が使用される環境などに応じて、実験などによって予め定められていてもよい。
【0120】
学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置に代えて、または加えて、パイロットバルブ実スプール位置が使用されてもよい。学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、およびメインバルブ実スプール位置のうちいずれか2以上の組合せが使用されてもよい。
【0121】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、異物噛み込みの検知のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、異物噛み込みの検知精度を向上させることができる。
【0122】
[実施例4:作動油清浄度の推定]
実施例4では、作動油の清浄度を推定する技術について説明する。油圧サーボバルブ100の動作中に、作動油に異物が混入して清浄度が低下すると、混入した異物の影響によって、パイロットバルブ10のスプール12の動作が阻害されたり、メインバルブ20に供給される作動油の圧力が低下したりして、エンジン80などの制御対象が動作不良を起こす場合がある。また、パイロットバルブ10のスプール12に異物が噛み込む可能性が増大する。作動油の清浄度を的確に推定し、作動油の清浄度が低下したときに適切な措置を迅速に講じることにより、油圧サーボバルブ100や制御対象の動作を良好に維持することができるとともに、異物の噛み込みを防止することができる。
【0123】
微少な異物の混入(コンタミネーション)によって作動油の清浄度が低下すると、パイロットバルブ10のスプール12が摺動するときに、スプール12と本体部10bとの間に生じる摩擦力が増大し、スプール12の挙動が変化する。したがって、パイロットバルブ10のスプール駆動部18のコイルに供給される電流の波形と、パイロットバルブ10の目標スプール位置および実スプール位置の動作波形のパターンの、作動油の清浄度による相違をモデル化することによって、作動油の清浄度を推定することができる。
【0124】
図16は、実施例4に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、パイロットバルブ実スプール位置310、および作動油清浄度実測値342を学習データとして取得する。
【0125】
コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310は、作動油清浄度実測値342が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0126】
作動油清浄度実測値342は、作動油に混入した異物の数、量、大きさなどを表すデータである。学習データとしてログデータまたは試験データを使用する場合、作動油清浄度実測値342は、油圧サーボバルブ100において使用された作動油の清浄度を一般的な液中微粒子計測装置などによって測定した実測値である。作動油清浄度は、例えば、重量法、顕微鏡法、光散乱法、光遮断法、電気抵抗法、音響法、ダイナミック光散乱法などによって測定されてもよい。作動油の清浄度は油圧サーボバルブ100の使用中に急激には変化しないと考えられるので、作動油の清浄度が実測された時点の前または後の所定期間には、実測された清浄度の作動油が使用されたとみなし、その所定期間に記録されたコイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310と作動油清浄度実測値342とを対応づけて学習データとする。所定期間は、油圧サーボバルブ100の使用中に作動油の清浄度が同程度のまま変わらない期間であればよく、油圧サーボバルブ100の使用時間、エンジン80の動作時間、エンジン80の回転数などにより規定されてもよい。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、作動油清浄度実測値342は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力された作動油の清浄度の値である。
【0127】
作動油清浄度推定モデル生成部343は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において使用される作動油の清浄度を推定するために使用される作動油清浄度推定モデルを生成する。作動油清浄度推定モデルは、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データを入力層に入力し、作動油清浄度を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、作動油清浄度推定モデル生成部343は、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、作動油清浄度実測値342に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、作動油清浄度推定モデルを学習する。
【0128】
作動油清浄度推定モデル提供部344は、作動油清浄度推定モデル生成部343により生成された作動油清浄度推定モデルを状態推定装置400に提供する。
【0129】
検知情報取得部401は、コイル印加電流441、パイロットバルブ目標スプール位置415、およびパイロットバルブ実スプール位置410を検知情報として取得する。この検知情報は、作動油清浄度推定モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0130】
作動油清浄度推定部442は、学習装置300により生成された作動油清浄度推定モデルを使用して、作動油の清浄度を推定する。作動油清浄度推定部442は、検知情報取得部401により取得されたコイル印加電流441、パイロットバルブ目標スプール位置415、およびパイロットバルブ実スプール位置410の時系列データを作動油清浄度推定モデルに入力し、作動油清浄度推定モデルから出力される作動油清浄度を推定結果として取得する。
【0131】
作動油清浄度推定結果出力部443は、作動油清浄度推定部442により推定された結果を出力する。作動油清浄度推定結果出力部443は、出力された作動油清浄度に基づいて作動油の清浄化や交換などの保守の要否を判定し、作動油の保守が必要であると判定された場合にその旨を報知してもよい。例えば、作動油清浄度推定結果出力部443は、出力された作動油の清浄度が所定の閾値未満であった場合に、作動油の保守が必要であると判定してもよいし、作動油清浄度の初期値からの変化量が所定の閾値以上になった場合に、作動油の保守が必要であると判定してもよい。作動油清浄度推定結果出力部443は、作動油の保守が必要となるまでの期間を推定して出力してもよい。例えば、作動油清浄度推定結果出力部443は、出力された作動油清浄度を変数とする数式などを使用して作動油の保守が必要となるまでの期間を推定してもよい。作動油清浄度推定モデルは、作動油清浄度に代えて、または加えて、作動油の保守の要否、または、作動油の保守が必要となるまでの期間を出力するように構成されてもよい。
【0132】
同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して複数の油圧サーボバルブ100が設けられる場合、作動油清浄度推定部442は、それぞれの油圧サーボバルブ100において推定された作動油清浄度に基づいて作動油の保守の要否を判定してもよい。複数の油圧サーボバルブ100において共通の作動油が循環して使用される場合に、いずれかの油圧サーボバルブ100において推定された作動油の清浄度が所定の閾値未満であった場合、別の油圧サーボバルブ100において推定された作動油の清浄度が閾値以上であったとしても、清浄度の低い作動油が循環されて別の油圧サーボバルブ100の動作に影響を与えうる。したがって、作動油清浄度推定結果出力部443は、少なくとも1つの油圧サーボバルブ100において推定された作動油の清浄度が所定の閾値未満であった場合、作動油の保守が必要であると判定してもよい。作動油清浄度推定結果出力部443は、作動油が循環する順序にさらに基づいて作動油の保守の要否を判定してもよい。例えば、上流側の油圧サーボバルブ100において作動油の保守の要否を判定するための閾値を、下流側の油圧サーボバルブ100において作動油の保守の要否を判定するための閾値よりも高くしてもよい。作動油清浄度推定結果出力部443は、複数の油圧サーボバルブ100において推定された作動油の清浄度の平均値などの統計値を算出し、算出された統計値に基づいて作動油の保守の要否を判定してもよい。
【0133】
作動油の清浄度と相関のある特徴量が、コイル印加電流、パイロットバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。作動油の清浄度が低下してパイロットバルブ10のスプール12と本体部10bとの間の摩擦力が増大すると、スプール12の速度または加速度が低下すると考えられるので、特徴量算出部は、パイロットバルブ実スプール位置の変化率または変化率の変化率を算出することにより、パイロットバルブ10のスプール12の速度または加速度を算出してもよい。
【0134】
作動油清浄度推定モデル生成部343は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、作動油清浄度推定モデルを生成する。作動油清浄度推定モデル生成部343は、作動油清浄度実測値342と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して作動油清浄度推定モデルを生成してもよい。例えば、作動油清浄度推定モデルは、特徴量を入力変数として作動油清浄度を算出する数式であってもよい。この場合、作動油清浄度推定モデル生成部343は、回帰分析などの統計的手法により数式を生成してもよい。作動油清浄度推定モデルは、コイル印加電流またはパイロットバルブ目標スプール位置が所定の条件を満たすときのスプール12の速度または加速度を入力変数として作動油清浄度を算出する数式であってもよい。例えば、コイル印加電流のピーク値におけるスプール12の速度または加速度を入力変数としてもよいし、スプール12が中立位置から移動されるときのスプール12の速度または加速度を入力変数としてもよい。作動油清浄度推定モデル生成部343は、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、パイロットバルブ実スプール位置310、および特徴量を使用して作動油清浄度推定モデルを生成してもよい。例えば、作動油清浄度推定モデルは、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、作動油清浄度を出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、作動油清浄度推定モデル生成部343は、コイル印加電流341、パイロットバルブ目標スプール位置316、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、作動油清浄度実測値342に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、作動油清浄度推定モデルを学習する。
【0135】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、作動油清浄度推定部442が使用する作動油清浄度推定モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得されたコイル印加電流441、パイロットバルブ目標スプール位置415、またはパイロットバルブ実スプール位置410から特徴量を算出する。作動油清浄度推定モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100のコイル印加電流441、パイロットバルブ目標スプール位置415、パイロットバルブ実スプール位置410が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。これにより、作動油清浄度推定のロバスト性を向上させることができる。
【0136】
特徴量として、パイロットバルブ10のスプール12の動作の特徴を表す別の物理量などが算出されてもよい。例えば、パイロットバルブ10のスプール12のオーバーシュート量、遅延量などが特徴量として算出されてもよい。
【0137】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、作動油清浄度の推定のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、作動油清浄度の推定精度を向上させることができる。
【0138】
学習データおよび検知情報として使用されるデータに加えて、エンジン回転数、エンジン負荷、油圧ポンプ42により加圧された作動油の圧力、作動油に混入した異物を除去するためのフィルターの前後における作動油の圧力または流量、作動油の温度、電源電圧、電源電流などの他のデータのいずれか、またはそれらの任意の組合せが学習データおよび検知情報として使用されてもよい。これらのデータのうち、コイル印加電流、パイロットバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置などのデータに環境因子として影響を与えうるデータが選択されて使用されてもよい。作動油の清浄度だけでなく、パイロットバルブ10のスプール12や本体部10bの内壁の摩耗によっても、パイロットバルブ10のスプール12が摺動するときの摩擦力が変化しうるので、パイロットバルブ10のスプール12や本体部10bの内壁の摩耗に影響を与えうる因子、例えば、パイロットバルブ10の累積使用時間、スプール12の累積移動距離などが学習データおよび検知情報として使用されてもよい。これらのデータの影響が反映された作動油清浄度推定モデルを生成することにより、作動油清浄度の推定のロバスト性をさらに向上させることができる。
【0139】
[実施例5:位置センサ断線検知]
実施例5では、メインバルブ20のスプール28の実位置を検知するための位置センサ29が断線したことを検知する技術について説明する。位置センサ29が断線すると、スプール28の正しい実位置を示す信号を位置センサ29から受信することができなくなるので、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置からずれる。実施例3において説明したように、従来、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置からずれた場合にアラームが発報されていたが、アラームの原因を特定することはできなかった。位置センサ29が断線したことを高精度で検知できれば、アラームが発報されたときにアラームの原因を特定して適切な措置を迅速に講じることができる。
【0140】
図17は、パイロットバルブ10のスプール12とメインバルブ20のスプール28の動作を模式的に示す。
図17(a)は、油圧サーボバルブ100が正常に制御されている場合の動作例を示す。
図17(a)に示す動作例は、
図14(a)に示した動作例と同じである。
【0141】
図17(b)は、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29が断線した場合の動作例を示す。時刻t3までの動作は
図17(a)と同様であるが、時刻t6においてメインバルブ20のスプール28の位置センサ29が断線したとする。メインバルブ20の実スプール位置のフィードバック信号は、断線した直後に急激に異常値(例えば、ゼロ)に変動し、以降は異常値のまま固定される。本図の例では、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置から正方向に外れたまま固定されるので、メインバルブ20のスプール28を目標スプール位置に戻すために、パイロットバルブ10の目標スプール位置として負の最大値が入力され続ける。そのため、現実には、破線で示すように、メインバルブ20のスプール28は負方向に移動し続け、負方向の限界位置に達すると、それ以上は移動せずに限界位置で静止する。
【0142】
このように、パイロットバルブ10のスプール12とメインバルブ20のスプール28の動作パターンは、正常時と位置センサ29が断線した時とで大きく相違する。したがって、正常時の動作パターンと位置センサ29が断線した時の動作パターンとの相違をモデル化することによって、位置センサ29の断線を検知することができる。メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置からずれたことを報知するアラームが発報されてから時間が経過している場合であっても、位置センサ29が断線した履歴をログデータから検出することができるので、動作不良が生じた原因の証拠として使用することができる。本実施例の技術によれば、メインバルブ20の実スプール位置が目標スプール位置からずれたことを報知するアラームが発報された場合に、実施例3で説明した異物の噛み込みが原因なのか、本実施例で説明する位置センサ29の断線が原因なのかを的確に判別して適切な保守を実施することができる。また、位置センサ29の接触不良などによるチャタリングの発生についても、メインバルブ20の実スプール位置とパイロットバルブ10の目標スプール位置の動作パターンをモデル化することによって的確に検知することができる。これにより、位置センサ29が断線する前に異常を検知して適切な保守を実施することができるので、位置センサ29の断線に起因する動作不良の発生を防ぐことができる。
【0143】
図18は、実施例5に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、メインバルブ実スプール位置311、パイロットバルブ目標スプール位置316、および位置センサ断線データ351を学習データとして取得する。
【0144】
メインバルブ実スプール位置311およびパイロットバルブ目標スプール位置316は、位置センサ断線データ351が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0145】
位置センサ断線データ351は、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の断線の有無、タイミング、態様、原因などを表すデータである。学習データとしてログデータを使用する場合、位置センサ断線データ351は、位置センサ29が実際に断線した時の実測値である。学習データとして試験データを使用する場合、位置センサ断線データ351は、位置センサ29を断線させた時の実測値である。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、位置センサ断線データ351は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力されたデータである。
【0146】
位置センサ断線検知モデル生成部353は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において位置センサ29の断線を検知するために使用される位置センサ断線検知モデルを生成する。位置センサ断線検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データを入力層に入力し、位置センサ断線データを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、位置センサ断線検知モデル生成部353は、メインバルブ実スプール位置311およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、位置センサ断線データ351に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、位置センサ断線検知モデルを学習する。
【0147】
位置センサ断線検知モデル提供部354は、位置センサ断線検知モデル生成部353により生成された位置センサ断線検知モデルを状態推定装置400に提供する。
【0148】
検知情報取得部401は、メインバルブ実スプール位置411およびパイロットバルブ目標スプール位置415を検知情報として取得する。この検知情報は、位置センサ断線検知モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0149】
位置センサ断線検知部451は、学習装置300により生成された位置センサ断線検知モデルを使用して、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の断線を検知する。位置センサ断線検知部451は、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411およびパイロットバルブ目標スプール位置415の時系列データを位置センサ断線検知モデルに入力し、位置センサ断線検知モデルから出力される位置センサ断線データを判定結果として取得する。位置センサ断線検知部451は、出力された位置センサ断線データに基づいて、位置センサ29が断線するまでの期間を推定してもよい。この場合、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の位置センサ断線データを比較することにより、位置センサ29が断線するまでの期間を推定してもよい。
【0150】
位置センサ断線検知結果出力部452は、位置センサ断線検知部451により判定された結果を出力する。位置センサ断線検知結果出力部452は、位置センサ断線検知部451により位置センサ29が断線していることが検知された場合に、その旨を報知してもよい。位置センサ断線検知結果出力部452は、位置センサ断線検知部451により推定された位置センサ29が断線するまでの期間を出力してもよい。
【0151】
位置センサ29の断線と相関のある特徴量が、メインバルブ実スプール位置またはパイロットバルブ目標スプール位置などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。メインバルブ20のスプール28の位置センサ29が断線すると、メインバルブ実スプール位置が急激に異常値に変動するので、特徴量算出部は、メインバルブ実スプール位置の変化率または変化率の変化率を算出することにより、メインバルブ20のスプール28の速度または加速度を算出してもよい。
【0152】
位置センサ断線検知モデル生成部353は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、位置センサ断線検知モデルを生成する。位置センサ断線検知モデル生成部353は、位置センサ断線データ351と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して位置センサ断線検知モデルを生成してもよい。位置センサ断線検知モデル生成部353は、メインバルブ実スプール位置311、パイロットバルブ目標スプール位置316、および特徴量を使用して位置センサ断線検知モデルを生成してもよい。例えば、位置センサ断線検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、位置センサ断線データを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、位置センサ断線検知モデル生成部353は、メインバルブ実スプール位置311およびパイロットバルブ目標スプール位置316の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、位置センサ断線データ351に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、位置センサ断線検知モデルを学習する。
【0153】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、位置センサ断線検知部451が使用する位置センサ断線検知モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411またはパイロットバルブ目標スプール位置415から特徴量を算出する。位置センサ断線検知モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100のメインバルブ実スプール位置411およびパイロットバルブ目標スプール位置415が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。これにより、位置センサ断線検知のロバスト性を向上させることができる。
【0154】
特徴量として、メインバルブ20のスプール28の動作の特徴を表す別の物理量などが算出されてもよい。例えば、メインバルブ20のスプール28のオーバーシュート量、遅延量などが特徴量として算出されてもよい。
【0155】
学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置に代えて、または加えて、パイロットバルブ実スプール位置が使用されてもよい。この場合、実施例1-4と同様に、パイロットバルブ10の実スプール位置がパイロットバルブの目標スプール位置に追従するまでに要するオフセット時間を調整するために、学習装置300がオフセット時間算出部319を備えてもよい。オフセット時間を算出する方法は、実施例1-2と同様であってもよい。学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、およびメインバルブ実スプール位置のうちいずれか2以上の組合せが使用されてもよい。
【0156】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、位置センサ29の断線検知のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、位置センサ29の断線の検知精度を向上させることができる。
【0157】
[実施例6:位置センサ緩み検知]
実施例6では、メインバルブ20のスプール28の実位置を検知するための位置センサ29を固定するためのねじが緩むなどして位置センサ29の位置がずれたことを検知する技術について説明する。位置センサ29の位置がずれると、メインバルブ実スプール位置のフィードバック信号とメインバルブ20のスプール28の実際の位置との間にずれが生じるので、メインバルブ20のスプール28を正常に制御することができなくなり、エンジン80などの制御対象が動作不良を起こす場合がある。位置センサ29の位置がずれたことを高精度で検知できれば、ねじを締めたり位置センサ29を交換したりするなどの適切な措置を迅速に講じることができる。
【0158】
図19は、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の状態を示す。
図19(a)は、位置センサ29が正常に取り付けられた状態を示す。位置センサ29は、スプール28の上端に切られた雌ねじ30にねじ込まれている。このねじが緩むと、
図19(b)に示すように、位置センサ29とスプール28の間に隙間が生じるので、この隙間dの分だけスプール28の位置が下方にオフセットする。しかし、スプール28の位置は位置センサ29によって検知されるので、
図19(a)の場合も
図19(b)の場合も同じ位置が検知されることになり、下方にオフセットした実際のスプール28の位置を検知することはできない。
図19(b)の状態においては、メインバルブ実スプール位置がメインバルブ目標スプール位置に正しく追従しているように見えても、スプール28の実際の位置はメインバルブ目標スプール位置よりも下方にずれているため、制御対象の動作に不具合が生じる。本実施例では、エンジン80の気筒81に燃料を供給するための燃料噴射アクチュエータに供給される制御油の量が減少し、気筒81に供給される燃料の量が減少するので、気筒81内の圧力や気筒81からの排気の温度が低下してアラームが発報される。
【0159】
このように、位置センサ29の緩みにより位置がずれた場合には、メインバルブ実スプール位置はメインバルブ目標スプール位置に追従するが、気筒81の圧力および排気温度が低下する。したがって、気筒81の圧力や排気温度などに異常が発生してアラームが発報された場合に、メインバルブ実スプール位置がメインバルブ目標スプール位置に追従していたか否かを確認することにより、位置センサ29の異常が原因であるか否かを特定することができる。エンジン80の異常を報知するアラームが発報されてから時間が経過している場合であっても、位置センサ29が緩んだことをログデータから検出することができるので、動作不良が生じた原因の証拠として使用することができる。これにより、位置センサ29の緩みを的確に検知して適切な保守を実施することができるので、エンジン80の動作不良を改善するために要する保守の費用や工数を低減させることができる。
【0160】
図20は、実施例6に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、気筒排気温度361、および位置センサ緩みデータ362を学習データとして取得する。
【0161】
メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、および気筒排気温度361は、位置センサ緩みデータ362が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0162】
位置センサ緩みデータ362は、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の位置ずれの有無、程度、態様、原因などを表すデータである。学習データとしてログデータを使用する場合、位置センサ緩みデータ362は、位置センサ29が実際にずれた時の実測値である。学習データとして試験データを使用する場合、位置センサ緩みデータ362は、位置センサ29をずれさせた時の実測値である。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、位置センサ緩みデータ362は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力されたデータである。
【0163】
位置センサ緩み検知モデル生成部363は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400において位置センサ29の緩みを検知するために使用される位置センサ緩み検知モデルを生成する。位置センサ緩み検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、および気筒排気温度361の所定期間の時系列データを入力層に入力し、位置センサ緩みデータを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、位置センサ緩み検知モデル生成部363は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、および気筒排気温度361の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、位置センサ緩みデータ362に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、位置センサ緩み検知モデルを学習する。
【0164】
位置センサ緩み検知モデル提供部364は、位置センサ緩み検知モデル生成部363により生成された位置センサ緩み検知モデルを状態推定装置400に提供する。
【0165】
検知情報取得部401は、メインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、および気筒排気温度461を検知情報として取得する。この検知情報は、位置センサ緩み検知モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0166】
位置センサ緩み検知部462は、学習装置300により生成された位置センサ緩み検知モデルを使用して、メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の緩みを検知する。位置センサ緩み検知部462は、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、および気筒排気温度461の時系列データを位置センサ緩み検知モデルに入力し、位置センサ緩み検知モデルから出力される位置センサ緩みデータを判定結果として取得する。位置センサ緩み検知部462は、出力された位置センサ緩みデータに基づいて、位置センサ29が所定値以上ずれるまでの期間を推定してもよい。この場合、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の位置センサ緩みデータを比較することにより、位置センサ29が所定値以上ずれるまでの期間を推定してもよい。
【0167】
同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して複数の油圧サーボバルブ100が設けられる場合、位置センサ緩み検知部462は、それぞれの油圧サーボバルブ100において推定された位置センサ緩みデータに基づいて位置センサ29の緩みを検知してもよい。例えば、位置センサ緩み検知部462は、それぞれの気筒81の排気温度を比較することにより、位置センサ29の緩みを検知してもよい。位置センサ緩み検知部462は、ある気筒81の排気温度が他の気筒81の排気温度の平均値よりも所定値以上低い場合に、その気筒81に設けられた油圧サーボバルブ100の位置センサ29が緩んでいると判定してもよい。
【0168】
位置センサ緩み検知結果出力部463は、位置センサ緩み検知部462により判定された結果を出力する。位置センサ緩み検知結果出力部463は、位置センサ緩み検知部462により位置センサ29が緩んでいることが検知された場合に、その旨を報知してもよい。位置センサ緩み検知結果出力部463は、位置センサ緩み検知部462により推定された位置センサ29が所定値以上ずれるまでの期間を出力してもよい。
【0169】
位置センサ29の緩みと相関のある特徴量が、メインバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、または気筒排気温度などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。メインバルブ20のスプール28の位置センサ29の緩みの程度が大きいほど、メインバルブ実スプール位置と実際のスプール28の位置とのずれが大きくなるので、気筒の排気温度や圧力の正常値からの低下量が大きくなると考えられる。したがって、特徴量算出部は、気筒の排気温度または圧力の正常値からの低下量、変化率、変化率の変化率などを特徴量として算出してもよい。
【0170】
位置センサ緩み検知モデル生成部363は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、位置センサ緩み検知モデルを生成する。例えば、位置センサ緩み検知モデルは、特徴量を入力変数として位置センサ緩みデータを算出する数式であってもよい。この場合、位置センサ緩み検知モデル生成部363は、回帰分析などの統計的手法により数式を生成してもよい。位置センサ緩み検知モデル生成部363は、位置センサ緩みデータ362と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して位置センサ緩み検知モデルを生成してもよい。位置センサ緩み検知モデル生成部363は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、および特徴量を使用して位置センサ緩み検知モデルを生成してもよい。例えば、位置センサ緩み検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311およびメインバルブ目標スプール位置330の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、位置センサ緩みデータを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、位置センサ緩み検知モデル生成部363は、メインバルブ実スプール位置311およびメインバルブ目標スプール位置330の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、位置センサ緩みデータ362に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、位置センサ緩み検知モデルを学習する。
【0171】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、位置センサ緩み検知部462が使用する位置センサ緩み検知モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、または気筒排気温度461から特徴量を算出する。位置センサ緩み検知モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100のメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、または気筒排気温度461が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。これにより、位置センサ緩み検知のロバスト性を向上させることができる。
【0172】
特徴量として、メインバルブ20のスプール28の動作の特徴を表す別の物理量などが算出されてもよい。例えば、メインバルブ20のスプール28のオーバーシュート量、遅延量などが特徴量として算出されてもよい。
【0173】
学習データおよび検知情報として、気筒排気温度に代えて、または加えて、気筒81の圧力または圧力の最大値が使用されてもよい。また、学習データおよび検知情報として、油圧サーボバルブ100により制御される制御対象の状態や動作の良否などを示す各種のデータが使用されてもよい。
【0174】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、位置センサ緩み検知のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、位置センサ緩みの検知精度を向上させることができる。
【0175】
[実施例7:パイロットバルブの中立位置ずれ検知]
実施例7では、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれたことを検知する技術について説明する。パイロットバルブ目標スプール位置として中立位置が指令されたとき、パイロットバルブ10が正常に動作している場合は、スプール12が中立位置に移動され、メインバルブ20への作動油の供給および回収が停止されて、メインバルブ20のスプール28がメインバルブ目標スプール位置で静止する。しかし、何らかの原因によってスプール12の中立位置がずれていると、メインバルブ20への作動油の供給および回収を正常に制御することができなくなり、エンジン80などの制御対象が動作不良を起こす場合がある。パイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれたことを高精度で検知できれば、パイロットバルブ10の制御系統を保守したりパイロットバルブ10を交換したりするなどの適切な措置を迅速に講じることができる。
【0176】
パイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれる原因として、主に2つの場合がある。1つは、パイロットバルブ10のスプール12の位置を検知するための位置センサ19の異常やスプール12を駆動するための電気系統の異常などによって、スプール12を精確に中立位置に移動させることができないという電気的な原因である。もう1つは、スプール12または本体部10bが偏摩耗することによって、スプール12が中立位置にあっても弁体14がAポート16aを遮断してPポート16pおよびTポート16tの双方と連通させないようにすることができないという機械的な原因である。いずれの場合であっても、パイロットバルブ目標スプール位置として中立位置が指定されたときに、メインバルブ20のスプール28が静止せずに移動するので、メインバルブ実スプール位置のフィードバック信号がメインバルブ目標スプール位置からずれ、そのずれを補正するようにパイロットバルブ10が制御される。このように、パイロットバルブ10のスプール12とメインバルブ20のスプール28の動作パターンは、正常時とパイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれた時とで大きく相違する。したがって、正常時の動作パターンとスプール12の中立位置がずれた時の動作パターンとの相違をモデル化することによって、スプール12の中立位置ずれを検知することができる。動作パターンは、スプール12の中立位置からのずれの程度や原因などによっても異なりうるので、スプール12の中立位置ずれの有無だけでなく、中立位置ずれの原因、ずれの大きさなども検知しうる。
【0177】
スプール12が偏摩耗した場合には、スプール12が正しい中立位置にあっても弁体14でAポート16aを遮断することができないので、作動油がAポート16aから漏れ出す。この内部油漏れ量を実測することにより、スプール12の中立位置ずれが偏摩耗によるものなのか電気的な原因によるものなのかを特定することができる。内部油漏れ量は、パイロットバルブ10に流量計を設けることにより測定してもよいし、パイロットバルブ10を保守する際に外部の流量計により測定してもよいし、実施例1の技術によって推定してもよい。
【0178】
パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれが生じると、制御対象のエンジン80において、気筒81の圧力や排気温度などに異常が発生してアラームが発報される。アラームが発報された場合に、パイロットバルブ10のスプール12およびメインバルブ20のスプール28の動作パターンを確認することにより、実施例6で説明した位置センサ29の異常が原因であるのか、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれが原因であるのかを特定することができる。また、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれが原因である場合、内部油漏れ量を確認することにより、電気的な原因で中立位置がずれているのか機械的な原因で中立位置がずれているのかを特定することができる。これにより、エンジン80の動作不良の原因を的確に判定し、原因に応じて適切な保守を実施することができるので、エンジン80の動作不良を改善するために要する保守の費用や工数を低減させることができる。なお、油圧サーボバルブ100におけるフィードバック制御においてPID制御が実行される場合は、積分成分(I成分)によってある程度のずれ量が補正されるが、本実施例の技術によれば、PID制御によって中立位置ずれが補正されている場合であっても、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれを的確に検知することができる。また、P制御またはPD制御が実行される場合には、ずれ量が補正されないので、本実施例の技術がとくに有効である。
【0179】
図21は、実施例7に係る学習装置と状態推定装置の構成を示す。本実施例の学習装置300において、学習データ取得部301は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ実スプール位置310、気筒排気温度361、および中立位置ずれデータ371を学習データとして取得する。
【0180】
メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ実スプール位置310、および気筒排気温度361は、中立位置ずれデータ371が実測された時点の前または後の所定期間内に油圧サーボバルブ100が使用されたときの時系列データである。これらの時系列データは、エンジン80の回転動作の1~数周期分の時系列データであってもよい。
【0181】
中立位置ずれデータ371は、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれの有無、程度、原因などを表すデータである。学習データとしてログデータを使用する場合、中立位置ずれデータ371は、スプール12の中立位置ずれが実際に生じた時の実測値である。学習データとして試験データを使用する場合、中立位置ずれデータ371は、スプール12の中立位置ずれを生じさせた時の実測値である。学習データとしてシミュレーションデータを使用する場合、中立位置ずれデータ371は、シミュレーション条件としてシミュレータに入力されたデータである。
【0182】
中立位置ずれ検知モデル生成部373は、学習データ取得部301により取得された学習データを使用して、状態推定装置400においてパイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれを検知するために使用される中立位置ずれ検知モデルを生成する。中立位置ずれ検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ実スプール位置310、および気筒排気温度361の所定期間の時系列データを入力層に入力し、中立位置ずれデータを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、中立位置ずれ検知モデル生成部373は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ実スプール位置310、および気筒排気温度361の所定期間の時系列データを入力層に入力したときに、中立位置ずれデータ371に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、中立位置ずれ検知モデルを学習する。
【0183】
中立位置ずれ検知モデル提供部374は、中立位置ずれ検知モデル生成部373により生成された中立位置ずれ検知モデルを状態推定装置400に提供する。
【0184】
検知情報取得部401は、メインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、パイロットバルブ実スプール位置410、および気筒排気温度461を検知情報として取得する。この検知情報は、中立位置ずれ検知モデルを生成するために使用した学習データと同じ所定期間の時系列データである。
【0185】
中立位置ずれ検知部472は、学習装置300により生成された中立位置ずれ検知モデルを使用して、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれを検知する。中立位置ずれ検知部472は、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、パイロットバルブ実スプール位置410、および気筒排気温度461の時系列データを中立位置ずれ検知モデルに入力し、中立位置ずれ検知モデルから出力される中立位置ずれデータを判定結果として取得する。中立位置ずれ検知部472は、出力された中立位置ずれデータに基づいて、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置が実際の中立位置から所定値以上ずれるまでの期間を推定してもよい。この場合、同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して設けられている複数の油圧サーボバルブ100の中立位置ずれデータを比較することにより、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置が実際の中立位置から所定値以上ずれるまでの期間を推定してもよい。
【0186】
同一のエンジン80の複数の気筒81に対応して複数の油圧サーボバルブ100が設けられる場合、中立位置ずれ検知部472は、それぞれの油圧サーボバルブ100において推定された中立位置ずれデータに基づいてパイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれを検知してもよい。例えば、中立位置ずれ検知部472は、それぞれの気筒81の排気温度を比較することにより、パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれを検知してもよい。中立位置ずれ検知部472は、ある気筒81の排気温度が他の気筒81の排気温度の平均値よりも所定値以上低い場合に、その気筒81に設けられた油圧サーボバルブ100のパイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれていると判定してもよい。
【0187】
中立位置ずれ検知結果出力部473は、中立位置ずれ検知部472により判定された結果を出力する。中立位置ずれ検知結果出力部473は、中立位置ずれ検知部472によりパイロットバルブ10のスプール12の中立位置がずれていることが検知された場合に、その旨を報知してもよい。中立位置ずれ検知結果出力部473は、中立位置ずれ検知部472により推定されたパイロットバルブ10のスプール12の中立位置が所定値以上ずれるまでの期間を出力してもよい。
【0188】
パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれと相関のある特徴量が、メインバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置、または気筒排気温度などから算出されてもよい。この場合、実施例1-2と同様に、学習装置300が特徴量算出部315をさらに備え、状態推定装置400が特徴量算出部414をさらに備えてもよい。パイロットバルブ10のスプール12の中立位置ずれの程度が大きいほど、メインバルブ実スプール位置がメインバルブ目標スプール位置からずれる程度が大きくなるので、気筒の排気温度や圧力の正常値からの変動量が大きくなると考えられる。したがって、特徴量算出部は、気筒の排気温度または圧力の正常値からの変動量、変化率、変化率の変化率などを特徴量として算出してもよい。
【0189】
中立位置ずれ検知モデル生成部373は、学習データ取得部301により取得された学習データと特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して、中立位置ずれ検知モデルを生成する。例えば、中立位置ずれ検知モデルは、特徴量を入力変数として中立位置ずれデータを算出する数式であってもよい。この場合、中立位置ずれ検知モデル生成部373は、回帰分析などの統計的手法により数式を生成してもよい。中立位置ずれ検知モデル生成部373は、中立位置ずれデータ371と特徴量算出部315により算出された特徴量を使用して中立位置ずれ検知モデルを生成してもよい。中立位置ずれ検知モデル生成部373は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、パイロットバルブ実スプール位置310、および特徴量を使用して中立位置ずれ検知モデルを生成してもよい。例えば、中立位置ずれ検知モデルは、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力し、中立位置ずれデータを出力層から出力するニューラルネットワークなどであってもよい。この場合、中立位置ずれ検知モデル生成部373は、メインバルブ実スプール位置311、メインバルブ目標スプール位置330、およびパイロットバルブ実スプール位置310の所定期間の時系列データと、その所定期間における特徴量を入力層に入力したときに、中立位置ずれデータ371に近似する値が出力層から出力されるようにニューラルネットワークの中間層を調整することにより、中立位置ずれ検知モデルを学習する。
【0190】
状態推定装置400の特徴量算出部414は、中立位置ずれ検知部472が使用する中立位置ずれ検知モデルが生成されたときに特徴量算出部315が特徴量を算出した方法と同じ方法で、検知情報取得部401により取得されたメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、パイロットバルブ実スプール位置410、または気筒排気温度461から特徴量を算出する。中立位置ずれ検知モデルが生成されたときに使用された学習データとは異なる環境において使用された油圧サーボバルブ100のメインバルブ実スプール位置411、メインバルブ目標スプール位置430、パイロットバルブ実スプール位置410、または気筒排気温度461が検知情報取得部401により取得された場合は、特徴量算出部414は環境の差異を調整してから特徴量を算出してもよい。これにより、中立位置ずれ検知のロバスト性を向上させることができる。
【0191】
特徴量として、パイロットバルブ10のスプール12またはメインバルブ20のスプール28の動作の特徴を表す別の物理量などが算出されてもよい。例えば、パイロットバルブ10のスプール12またはメインバルブ20のスプール28の加速度、速度、オーバーシュート量、遅延量などが特徴量として算出されてもよい。
【0192】
学習データおよび検知情報として、気筒排気温度に代えて、または加えて、気筒81の圧力または圧力の最大値が使用されてもよい。また、学習データおよび検知情報として、油圧サーボバルブ100により制御される制御対象の状態や動作の良否などを示す各種のデータが使用されてもよい。
【0193】
学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ実スプール位置に代えて、または加えて、パイロットバルブ目標スプール位置が使用されてもよい。この場合、実施例1-4と同様に、パイロットバルブ10の実スプール位置がパイロットバルブの目標スプール位置に追従するまでに要するオフセット時間を調整するために、学習装置300がオフセット時間算出部319を備えてもよい。オフセット時間を算出する方法は、実施例1-2と同様であってもよい。学習データおよび検知情報として、パイロットバルブ目標スプール位置、パイロットバルブ実スプール位置、メインバルブ目標スプール位置、およびメインバルブ実スプール位置のうちいずれか2以上の組合せが使用されてもよい。
【0194】
学習データおよび検知情報として、特定の環境において油圧サーボバルブ100が使用されたときに記録されたデータが使用されてもよい。この場合、実施例1-5と同様に、学習装置300がデータ選択部320をさらに備え、状態推定装置400がデータ選択部417をさらに備えてもよい。データ選択部320およびデータ選択部417は、特定のパターンでパイロットバルブ10のスプール12を動作させる試験モードにおいて油圧サーボバルブ100が動作されたときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、中立位置ずれの検知のロバスト性を向上させることができる。データ選択部320およびデータ選択部417は、エンジン80が停止され、スプールの固着防止動作が実行されているときに記録されたデータを選択してもよい。これにより、外乱の影響を抑え、中立位置ずれの検知精度を向上させることができる。
【0195】
以上の実施例1~7において説明した特徴は、任意に組み合わせて適用されてもよい。
【0196】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0197】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0198】
実施形態の説明では、油圧サーボバルブ100のパイロットバルブ10が3ポートのバルブである例を示したが、本発明はこれに限定されない。油圧サーボバルブ100は、その他の形式のバルブであってもよい。
【0199】
実施形態の説明では、油圧サーボバルブ100のパイロットバルブ10がメインバルブ20を制御する例を示したが、本発明はこれに限定されない。パイロットバルブ10の制御対象は、その他の任意のアクチュエータであってもよい。
【0200】
実施形態の説明では、油圧サーボバルブ100が船舶2のエンジン80を制御するために使用される例を示したが、本発明はこれに限定されない。油圧サーボバルブ100は、任意の制御対象を制御するために使用されてもよい。
【0201】
上述の変形例は、実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0202】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0203】
[本発明の態様]
本発明のある態様は、状態推定装置である。この状態推定装置は、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得する取得部と、取得部により取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部とを備える。この態様によると、制御弁における作動流体の漏れ量を推定する精度を向上させることができるので、制御弁の状態をより的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0204】
推定部は第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とに基づいて作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を使用して作動流体の漏れ量を推定してもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。
【0205】
推定基準は作動流体の漏れ量の測定値とその漏れ量が測定された時点の前または後の所定期間内に制御弁または制御弁と同種の制御弁が使用されたときの第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置との関係に基づいて生成されたものであってもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。
【0206】
推定基準は作動流体の漏れ量の測定値とその漏れ量が測定された時点の前または後の所定期間内に制御弁または制御弁と同種の制御弁が使用されたときの第1可動部の目標位置と第1可動部に目標位置が設定されてから第1可動部の実位置が目標位置に到達するまでに要するオフセット時間の経過後の第2可動部の実位置との関係に基づいて生成されたものであってもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。
【0207】
オフセット時間は第1可動部の物理パラメータと第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流から算出されてもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。また、推定のロバスト性を向上させることができる。
【0208】
取得部は第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流をさらに取得し、推定部は取得部により取得された第1可動部の目標位置と第2可動部の実位置と第1可動部に供給される駆動電圧または駆動電流とに基づいて作動流体の漏れ量を推定してもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。また、推定のロバスト性を向上させることができる。
【0209】
推定基準は第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とから算出される特徴量と作動流体の漏れ量の測定値との関係に基づいて生成されたものであり、推定部は取得部により取得された第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とから特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいて作動流体の漏れ量を推定してもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。
【0210】
特徴量は第1可動部の実位置が作動流体の流量を最小にするための中立位置にあるときの第2可動部の移動速度であってもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量との間で高い相関を有する特徴量を使用して作動流体の漏れ量を推定することができるので、作動流体の漏れ量の推定精度を向上させることができる。
【0211】
取得部は推定基準を生成するために使用された第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とが記録されたときの制御弁または制御弁と同種の制御弁の使用環境と同様の使用環境における第1可動部の目標位置または実位置とを取得してもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定のロバスト性を向上させることができる。
【0212】
使用環境は制御弁または制御弁と同種の制御弁の制御対象が停止され、かつ、第1可動部および第2可動部の固着防止動作が行われている状況であってもよい。この態様によると、作動流体の漏れ量の推定のロバスト性を向上させることができる。
【0213】
状態推定装置は、推定部により推定された作動流体の漏れ量が一定以上である場合にその旨を報知する報知部をさらに備えてもよい。この態様によると、制御弁の異常を的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0214】
報知部は推定部により推定された作動流体の漏れ量が初期値から一定以上増加した場合にその旨を報知してもよい。この態様によると、制御弁の異常を的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0215】
報知部は作動流体の漏れ量が閾値を超えるまでの時間を推定して報知してもよい。この態様によると、制御弁の異常を的確に予測することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0216】
制御弁はエンジンに供給される燃料の量を調整するための制御弁であってもよい。この態様によると、エンジンを制御するための制御弁の異常を的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0217】
制御弁は複数の気筒を有するエンジンのそれぞれの気筒に供給される燃料の量を調整するためにそれぞれの気筒に設けられ、推定部は複数の気筒に設けられた複数の制御弁のそれぞれに関する情報を比較することにより制御弁の異常を判定してもよい。この態様によると、エンジンを制御する制御弁の異常を的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0218】
本発明の別の態様は、制御弁である。この制御弁は、位置を指定するための制御信号に応じて位置が変化し、位置に応じて作動流体の流量が制御される第1可動部と、第1可動部の目標位置または実位置と作動流体の流量に応じて位置が変化する第2可動部の実位置とを取得する取得部と、第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置とに基づいて作動流体の漏れ量を推定するための推定基準を使用して、取得部により取得された第1可動部の目標位置または実位置と第2可動部の実位置に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部とを備える。この態様によると、制御弁における作動流体の漏れ量を推定する精度を向上させることができるので、制御弁の状態をより的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0219】
本発明のさらに別の態様は、状態推定プログラムである。この状態推定プログラムは、コンピュータを、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得する取得部、取得部により取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定部として機能させる。この態様によると、制御弁における作動流体の漏れ量を推定する精度を向上させることができるので、制御弁の状態をより的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【0220】
本発明のさらに別の態様は、状態推定方法である。この状態推定方法は、コンピュータに、第1可動部の位置に応じて作動流体の流量を制御する制御弁における第1可動部の目標位置または実位置と、作動流体の流量に応じて位置を変化させる第2可動部の実位置とを取得するステップと、取得するステップにおいて取得された情報に基づいて作動流体の漏れ量を推定する推定ステップとを実行させる。この態様によると、制御弁における作動流体の漏れ量を推定する精度を向上させることができるので、制御弁の状態をより的確に把握することができ、制御弁の状態に応じて適切な対応をすることができる。
【符号の説明】
【0221】
1・・管理システム、2・・船舶、10・・パイロットバルブ、12・・スプール、16・・ポート、18・・スプール駆動部、19・・位置センサ、20・・メインバルブ、28・・スプール、29・・位置センサ、48・・作動油、80・・エンジン、81・・気筒、82・・センサ、90・・ログデータ記憶装置、91・・エンジン制御装置、92・・ジャンクションボックス、100・・油圧サーボバルブ、110・・サーボバルブ制御装置、120・・電源回路、130・・サーボバルブ制御回路、140・・サーボバルブ駆動回路、150・・電圧検出部、160・・データ収集回路、300・・学習装置、301・・学習データ取得部、302・・推定モデル生成部、303・・推定モデル提供部、313・・内部油漏れ量推定モデル生成部、314・・内部油漏れ量推定モデル提供部、315・・特徴量算出部、319・・オフセット時間算出部、320・・データ選択部、400・・状態推定装置、401・・検知情報取得部、402・・状態推定部、403・・推定結果出力部、412・・内部油漏れ量推定部、413・・内部油漏れ量推定値出力部、414・・特徴量算出部、417・・データ選択部。