(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】断熱材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20241111BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241111BHJP
B32B 3/04 20060101ALI20241111BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
F16L59/02
B32B5/26
B32B3/04
C04B38/00 301C
(21)【出願番号】P 2020043417
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林 翔太
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐太朗
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-010423(JP,A)
【文献】特開2010-151280(JP,A)
【文献】特開2001-262067(JP,A)
【文献】特開2002-090048(JP,A)
【文献】特開2014-035043(JP,A)
【文献】特開2014-035041(JP,A)
【文献】特開2012-145204(JP,A)
【文献】特開2002-267092(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141189(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0005753(KR,A)
【文献】国際公開第2017/170498(WO,A1)
【文献】特開2019-065264(JP,A)
【文献】特開2012-081701(JP,A)
【文献】特開2007-230858(JP,A)
【文献】特開2018-141523(JP,A)
【文献】特許第6441519(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0215640(US,A1)
【文献】米国特許第04038447(US,A)
【文献】米国特許第03353975(US,A)
【文献】特開2020-186164(JP,A)
【文献】特開2021-064510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、増粘剤と、を有する断熱層を備え、
該多孔質構造体は、粉砕処理されており面取りされた形状を有し、
該断熱層における該多孔質構造体の含有量は、該多孔質構造体および該補強繊維を除く成分の100質量部に対して50質量部以上280質量部以下であり、
該断熱層における該補強繊維の含有量は、該多孔質構造体および該補強繊維を除く成分の100質量部に対して5質量部以上200質量部以下であり、
該断熱層は、500℃下で30分間保持する熱重量分析における質量減量率が10%以下であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記金属酸化物のナノ粒子は、シリカ粒子である請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記補強繊維は、ガラス繊維およびアルミナ繊維から選ばれる一種以上である請求項1または請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記多孔質構造体は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルである請求項1ないし
請求項3のいずれかに記載の断熱材。
【請求項5】
前記補強繊維の直径は、6.5μm以上18μm以下、長さは3mm以上25mm以下である請求項1ないし
請求項4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項6】
前記断熱層と、該断熱層に積層される第一基材と、を備える請求項1ないし
請求項5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
前記第一基材は、ガラスクロスである
請求項6に記載の断熱材。
【請求項8】
前記断熱層と、前記第一基材と、該断熱層を挟んで該第一基材とは反対側に積層される第二基材と、を備える
請求項6または
請求項7に記載の断熱材。
【請求項9】
前記第二基材は、ガラスクロスである
請求項8に記載の断熱材。
【請求項10】
前記断熱層を挟んで前記第一基材および前記第二基材が積層される本体部と、該断熱層の周囲に該第一基材と該第二基材とが重なる周縁部と、を有する
請求項8または
請求項9に記載の断熱材。
【請求項11】
前記周縁部において、前記第一基材と前記第二基材とは融着されている
請求項10に記載の断熱材。
【請求項12】
前記周縁部には、前記第一基材と前記第二基材とを固定する固定部材が配置される
請求項10または
請求項11に記載の断熱材。
【請求項13】
前記固定部材は、弾性を有する
請求項12に記載の断熱材。
【請求項14】
請求項6に記載の断熱材の製造方法であって、
前記多孔質構造体と、前記補強繊維と、前記金属酸化物のナノ粒子が液体に分散している分散液と、前記増粘剤と、を有する断熱層用塗料を調製する塗料調製工程と、
該断熱層用塗料を前記第一基材に塗布する塗布工程と、
を有することを特徴とする断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲルなどの多孔質構造体を用いた断熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルの熱伝導率は、空気のそれよりも小さい。このため、シリカエアロゲルの高い断熱性を活かした断熱材の開発が進んでいる。例えば特許文献1には、水分散性ポリウレタンによって結合されたシリカエアロゲルを含み、熱伝導率が0.025W/m・K以下の物品が記載されている。当該物品のように、シリカエアロゲルを固定するために、ウレタン樹脂などのバインダーが使用される。
【0003】
しかしながら、ウレタンバインダーを使用した従来の断熱材を500℃程度の高温雰囲気で使用すると、有機成分であるウレタンバインダーが分解、劣化して、ガスが発生したり、クラックが生じて形状が保持できないおそれがある。また、ウレタンバインダーは比較的軟質であるため、圧縮されると断熱材が潰れてしまい、断熱構造を維持することが難しいという問題があった。
【0004】
他方、例えば特許文献2~5には、ケイ酸塩などの無機化合物をバインダーとして使用した複合材料が提案されている。すなわち、特許文献2には、シリカエアロゲルと、有機バインダーまたは無機バインダーと、ガラス繊維と、を有する複合材料が記載されており、無機バインダーとしては水ガラス(ケイ酸ナトリウム)が記載されている。特許文献3には、エアロゲルを、水溶性バインダーおよび粉末ケイ酸ナトリウムなどの無機バインダーを用いて固形化した断熱材が記載されている。特許文献4には、不織布(バッティング)の上に、エアロゲルおよびケイ酸ナトリウムなどの無機バインダーを有する層が形成された可撓性絶縁構造体が記載されている。特許文献5には、シリカエアロゲル、水熱反応により結晶を形成できるセラミックス原料液、界面活性剤、および補強繊維を有する断熱材組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-534958号公報
【文献】特表平11-513349号公報
【文献】特開2004-10423号公報
【文献】特開2017-155402号公報
【文献】国際公開第2013/141189号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
断熱材には、その用途により、高温雰囲気で使用しても形状を保持できること(耐熱性)、および圧縮されても潰れや割れが生じにくく断熱性を維持できること(耐圧縮性)の両方が要求される場合がある。しかしながら、バインダーとして無機化合物を使用すると、バインダーの分解、劣化による問題は改善されるが、成形体が硬く、脆くなる。上記特許文献2~4には、単に無機バインダーを使用することしか記載されていないため、これだけでは、耐熱性および耐圧縮性を向上させることは難しい。上記特許文献5においては、水熱反応により結晶を形成できるセラミックス原料液を使用し、それを含む断熱材組成物を脱水、加熱および加圧することにより、シリカエアロゲルおよび補強繊維の表面でセラミックス結晶の合成を進行させている。形成されたセラミックス結晶は、シリカエアロゲル同士を結合するバインダーとしての役割を果たす。特許文献5に記載された製造方法によると、断熱材組成物の調製、金型内への注入および脱水、得られた一次成形体の加熱および加圧という工程が必要である。よって、工数が多く煩雑でコストがかかる。加えて、金型を用いて成形するため、薄膜化が難しい。また、形成されたセラミックス結晶は、針状、繊維状などの形状を有し、粒径が1~50μm程度のバルク結晶である(特許文献5の段落[0028]、[0057])。このため、得られる断熱材は、所望の耐熱性および耐圧縮性を満足するものではない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、断熱性だけでなく耐熱性および耐圧縮性にも優れた断熱層を有する断熱材を提供することを課題とする。また、当該断熱材を比較的簡単に製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱材は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、を有する断熱層を備え、該断熱層は、500℃下で30分間保持する熱重量分析における質量減量率が10%以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)上記課題を解決するため、本発明の断熱材の製造方法は、上記(1)の構成に加えて、前記断熱層の厚さ方向の片側に配置される第一基材を有する断熱材の製造方法であって、前記多孔質構造体と、前記補強繊維と、前記金属酸化物のナノ粒子が液体に分散している分散液と、を有する断熱層用塗料を調製する塗料調製工程と、該断熱層用塗料を前記第一基材に塗布する塗布工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の断熱材における断熱層(以下、単に「本発明の断熱層」と称す場合がある)は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体を有する。多孔質構造体の骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であり、細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、熱の移動が阻害される。これにより、本発明の断熱層は優れた断熱効果を発揮する。
【0011】
本発明の断熱層は、構成成分を結合させるバインダーとして、金属酸化物のナノ粒子を有する。バインダーとして有機材料を使用しないため、高温雰囲気で使用しても、バインダーの分解、劣化によるガスの発生やクラックの発生が生じない。よって、本発明の断熱層は、高温下においても形状を保持することができ、質量が減少しにくい。すなわち、本発明の断熱層によると、断熱層を500℃下で30分間保持し、その前後の質量から算出される質量減量率は10%以下である。
【0012】
バインダーとして金属酸化物のナノ粒子を使用すると、ウレタン樹脂などの有機材料を使用した場合と比較して、断熱層を硬質にすることができる。このため、圧縮されても断熱層が潰れにくく、断熱構造を維持することができる。また、バインダーを、上記特許文献5に記載されているバルク結晶ではなく、ナノ粒子(ナノメートルオーダーの粒子)にすることにより、無機化合物を有することによる硬さや脆さの欠点が改善される。
【0013】
加えて、本発明の断熱層は、補強繊維を有する。金属酸化物のナノ粒子と補強繊維の両方の作用により、高温下での形状保持性(耐熱性)が向上し、圧縮されても潰れにくく割れにくくなる(つまり、耐圧縮性が向上する)。これにより、圧縮されても断熱性を維持することができる。また、補強繊維を有することにより断熱層を形成するための塗料の安定性、成膜性が向上するため、断熱層の強度および耐熱性が向上する。以上より、本発明の断熱材は、断熱性、耐熱性および耐圧縮性に優れる。
【0014】
(2)本発明の断熱材の製造方法によると、多孔質構造体と、補強繊維と、金属酸化物のナノ粒子が液体に分散している分散液と、を有する断熱層用塗料を第一基材に塗布して断熱層を製造する。本発明の断熱材の製造方法によると、上記特許文献5に記載されているように、断熱層の製造過程において水熱反応を進行させてバルク結晶を合成する必要はなく、金型を使用する必要もない。よって、断熱層を比較的簡単に製造することができ、断熱層用塗料を塗布する方法を採用するため、断熱層の薄膜化が容易である。また、断熱層用塗料は、補強繊維を有するため、安定性、成膜性に優れる。よって、強度および耐熱性に優れた断熱層を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の断熱材およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、本発明の断熱材およびその製造方法は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
<断熱材>
本発明の断熱材は、断熱層を備える。最初に断熱層の構成を説明し、次にそれ以外の構成を説明する。
【0018】
[断熱層]
断熱層は、多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、を有する。多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。多孔質構造体の構造、大きさなどは、特に限定されない。例えば、骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であることが望ましい。
【0019】
多孔質構造体の最大長さを粒子径とした場合、多孔質構造体の平均粒子径は1~200μm程度が望ましい。多孔質構造体の粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔(空隙)容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、断熱層を形成するための塗料の安定性や塗工のしやすさを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径の多孔質構造体が大径の多孔質構造体間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0020】
多孔質構造体の形状は特に限定されないが、多孔質構造体間の空隙を少なくして断熱効果を高めたり、後述するように断熱層の形状保持性を高めるなどの理由から、面取りされた形状、球状などが望ましい。多孔質構造体は、製造された状態で使用してもよいが、それをさらに粉砕処理して使用してもよい。粉砕処理には、ジェットミルなどの粉砕装置または球状化処理装置などを使用すればよい。粉砕処理することにより、粒子の角が取れ、粒子が丸みを帯びた形状になる。これにより、バインダー(金属酸化物のナノ粒子)により結合されやすくなり、多孔質構造体が脱落しにくくなる(いわゆる粉落ちが少なくなる)。また、断熱層の表面が緻密になり、形状保持性が向上する。
【0021】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである多孔質構造体が望ましい。例えば、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが挙げられる。なお、エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。
【0022】
多孔質構造体は、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。例えば、少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。
【0023】
多孔質構造体の含有量は、断熱層の熱伝導率、硬さ、耐圧縮性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくし所望の耐圧縮性を実現するという観点では、多孔質構造体の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して25質量部以上であることが望ましい。50質量部以上であるとより好適である。一方、多孔質構造体が多すぎると成膜性が低下したり粉落ちしやすくなる。よって、多孔質構造体の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して280質量部以下であることが望ましい。
【0024】
補強繊維は、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在し、多孔質構造体の脱落を抑制すると共に、成膜性および耐熱性を向上させる。補強繊維の種類は特に限定されないが、高温下で使用した際に有機成分の分解、劣化を抑制するという観点から、無機系の繊維材料が望ましい。例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。
【0025】
補強繊維の大きさは、断熱層の断熱性、耐熱性、断熱層を形成する際の成膜性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、補強繊維が細すぎると、凝集しやすくなるため、断熱層を形成するための塗料の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の直径は、6.5μm以上である。反対に、補強繊維が太すぎると、補強効果が小さくなるため、成膜性や耐熱性が低下したり、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の直径は、18μm以下である。また、補強繊維が短すぎると、補強効果が小さくなるため、成膜性や耐熱性が低下するおそれがある。好適な長さは、3mm以上である。反対に、補強繊維が長すぎると、凝集しやすくなるため、断熱層を形成するための塗料の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。また、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の長さは、25mm以下である。
【0026】
補強繊維の含有量は、断熱層の成膜性、耐熱性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、成膜性を確保し、所望の耐熱性を実現するという観点では、補強繊維の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して5質量部以上であることが望ましい。一方、補強繊維が多すぎると凝集し、断熱層を形成するための塗料の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。また、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。よって、補強繊維の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して200質量部以下、さらには130質量部以下であることが望ましい。
【0027】
金属酸化物のナノ粒子は、多孔質構造体、補強繊維などの断熱層の構成成分を結合させるバインダーである。金属酸化物の種類は特に限定されず、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、ジルコニアなどが挙げられる。なかでも、多孔質構造体や補強繊維と相溶しやすく、安価で入手しやすいという理由から、シリカが好適である。すなわち、金属酸化物のナノ粒子はシリカ粒子であることが望ましい。
【0028】
本発明の断熱層は、500℃下で30分間保持する熱重量分析における質量減量率が10%以下である。熱重量分析(TGA)は、断熱層のサンプルを、500℃下の空気雰囲気で30分間保持して加熱前後の質量を測定する。質量減量率は、次式(I)により算出する。
質量減量率(%)=(W0-W1)/W0×100 ・・・(I)
[W0:加熱前のサンプル質量、W1:加熱後のサンプル質量]
本発明の断熱層は、多孔質構造体、補強繊維、金属酸化物のナノ粒子に加えて、他の成分を有してもよい。例えば、断熱層を形成するための塗料を調製する際に、多孔質構造体の分散性を向上させるために添加される増粘剤、分散剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0029】
[断熱層以外の構成]
本発明の断熱材は、断熱層のみで構成してもよいが、断熱層と他の部材とを組み合わせて構成してもよい。他の部材と組み合わせる第一の形態として、断熱層と、該断熱層に積層される第一基材と、を備える形態が挙げられる。
図1に、第一の形態の断熱材の断面模式図を示す。
図1に示すように、断熱材1は、断熱層10と第一基材11とを有している。断熱層10は、シリカエアロゲルとガラス繊維とシリカ粒子とを有している。シリカ粒子は、平均粒子径が12nmのナノ粒子である。シリカエアロゲルおよびガラス繊維は、シリカ粒子を介して結合されている。断熱層10の厚さは2mmである。第一基材11は、断熱層10の厚さ方向の片側(下側)に積層されている。第一基材11は、ガラスクロスからなる。第一基材11の厚さは0.1mmである。断熱層10の下面は第一基材11の上面近傍の網目に含浸されており、これにより、断熱層10と第一基材11とは接着されている。
【0030】
第一の形態の断熱材において、第一基材は、布帛、不織布、シート材など特に限定されないが、熱伝導率が比較的小さいものが望ましい。また、高温下においても形状保持性が高く、難燃性を有するものが望ましい。例えば、ガラス繊維や金属繊維などの無機繊維から製造される布帛、不織布が挙げられる。なかでも、ガラスクロスが好適である。第一基材は、一層から構成されるものでも、二層以上の積層体でもよい。
【0031】
他の部材と組み合わせる第二の形態として、断熱層と、該断熱層に積層される第一基材と、該断熱層を挟んで該第一基材とは反対側に積層される第二基材と、を備える形態が挙げられる。
図2に、第二の形態の断熱材の断面模式図を示す。
図2に示すように、断熱材2は、断熱層20と第一基材21と第二基材22とを有している。断熱層20および第一基材21の構成は、第一の形態と同じである。第二基材22は、断熱層20を挟んで第一基材21とは反対側(上側)に積層されている。すなわち、断熱層20は、第一基材21と第二基材22との間に介装されている。第二基材22は、ガラスクロスからなる。第二基材22の厚さは0.1mmである。断熱層20の上面は第二基材22の下面近傍の網目に含浸されており、これにより、断熱層20と第二基材22とは接着されている。
【0032】
第二の形態において、第一基材と第二基材とは、必ずしも同じである必要はないが、第二基材についても、熱伝導率が比較的小さく、高温下における形状保持性および難燃性を有するものが望ましい。第二基材としては、第一基材と同様に、ガラスクロスなど、無機繊維から製造される布帛、不織布が好適である。第二基材は、一層から構成されるものでも、二層以上の積層体でもよい。
【0033】
さらに本発明の断熱材は、上記第二の形態において、断熱層を挟んで第一基材および第二基材が積層される本体部と、断熱層の周囲に第一基材と第二基材とが重なる周縁部と、を有するよう構成することができる。この場合、周縁部において第一基材と第二基材とを固定することにより、二つの基材から形成される袋状の空間に断熱層を収容することができる。固定される周縁部は、一部でも全部でもよい。周縁部の全部を固定すると、多孔質構造体の粉落ち抑制に効果的である。固定方法は、特に限定されないが、例えば、レーザーなどを用いて第一基材と第二基材とを融着すればよい。あるいは、接着剤、クリップ部材、かしめ部材、板ばね部材などの固定部材を用いてもよい。また、熱可塑性エラストマーおよびゴムなどのエラストマー、樹脂、金属からなる部材を接着剤で固定して、固定部材としてもよい。接着剤としては、エラストマーまたは樹脂を用いた有機系の接着剤が挙げられる。例えば、接着剤が弾性を有すると、断熱材が積層方向に圧縮された場合に、その荷重を吸収することができる。この場合、接着剤の厚さを断熱層の厚さ以上にすると、断熱層の割れの抑制に効果的である。また、難燃性を高めるという観点から、有機系の接着剤であればフッ素ゴムなどの難燃性を有するものや、無機系の接着剤を用いることが望ましい。
【0034】
例えば、第一基材と第二基材とが融着されている形態を第三の形態として、
図3に、第三の形態の断熱材の正面図を示す。
図4に、
図3のIV-IV断面図を示す。
図3においては、説明の便宜上、断熱層32を透過して点線で示す。
図3、
図4に示すように、断熱材3は、断熱層32と第一基材33と第二基材34とを有している。断熱層32、第一基材33、および第二基材34の構成は、第二の形態と同じである。すなわち、断熱層32は、ガラスクロスからなる第一基材33と第二基材34との間に介装されている。断熱材3は、本体部30と周縁部と31とを有している。本体部30は、断熱層32、第一基材33および第二基材34が重なっている部分である。周縁部31は、断熱層32の周囲に配置され、第一基材33および第二基材34が重なっている部分である。周縁部31には、第一基材33と第二基材34との融着により形成された融着部35が配置されている。
【0035】
周縁部に融着部ではなく固定部材が配置される形態を第四の形態として、
図5に、第四の形態の断熱材の断面図を示す。
図5は、前出
図4に対応しており、
図4と同じ部材については同じ符号で示す。
図5に示すように、断熱材3は、断熱層32と第一基材33と第二基材34とを有している。断熱層32は、ガラスクロスからなる第一基材33と第二基材34との間に介装されている。断熱材3は、本体部30と周縁部と31とを有している。周縁部31には、固定部材36が配置されている。固定部材36は、熱可塑性エラストマー製の接着剤からなる。固定部材36の厚さは、断熱層32の厚さとほぼ同じである。固定部材36により、第一基材33と第二基材34とは接着されている。
【0036】
<断熱材の製造方法>
本発明の断熱材は、多孔質構造体と、補強繊維と、金属酸化物のナノ粒子と、を有する組成物を固形化して製造することができる。例えば、多孔質構造体と、補強繊維と、金属酸化物のナノ粒子と、が水などの液体に分散した断熱層用塗料を、基材の表面に塗布し、塗膜を乾燥して製造することができる。塗布には、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。あるいは、断熱層用塗料に基材を浸漬した後、乾燥させてもよい。塗布、浸漬のいずれの方法においても、基材が布帛などの多孔質な材料からなる場合には、断熱層用塗料の一部を基材の内部に含浸させてもよい。
【0037】
以下に、本発明の断熱材の製造方法の一例として、断熱層と第一基材とを備える上記第一の形態の断熱材の製造方法を説明する。第一の形態の断熱材の製造方法は、塗料調製工程と、塗布工程と、を有する。
【0038】
(1)塗料調製工程
本工程は、多孔質構造体と、補強繊維と、金属酸化物のナノ粒子が液体に分散している分散液と、を有する断熱層用塗料を調製する工程である。断熱層用塗料は、金属酸化物のナノ粒子が液体に分散している分散液に、多孔質構造体、補強繊維、および必要に応じて添加される成分を加えて撹拌して調製すればよい。分散液を構成する液体(分散媒)は、特に限定されないが、多孔質構造体の細孔への浸入を抑制するという観点から、疎水性の液体ではなく水(純水、水道水などを含む)などの親水性の液体を用いることが望ましい。例えば、金属酸化物のナノ粒子がシリカ粒子の場合、ケイ酸ナトリウム水溶液、水を分散媒とするコロイダルシリカなどが挙げられる。金属酸化物のナノ粒子がチタニア粒子の場合、チタニアの水分散液などが挙げられる。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。自転公転撹拌装置や、メディア型撹拌装置を用いてもよい。
【0039】
(2)塗布工程
本工程は、調製された断熱層用塗料を第一基材に塗布する工程である。第一基材については、前述したように、熱伝導率が比較的小さく、高温下においても形状保持性が高く、難燃性を有するものが望ましい。例えばガラスクロスなど、ガラス繊維や金属繊維などの無機繊維から製造される布帛、不織布が好適である。また、第一基材と断熱層との接着性を向上させるため、第一基材の表面にカップリング処理を施すなどの下処理をしてから、断熱層用塗料を塗布してもよい。
【0040】
本工程は、前述したように、バーコーターなどの塗工機やスプレーなどを使用したり、断熱層用塗料に第一基材を浸漬して行えばよい。そして、断熱層用塗料の塗膜を乾燥することにより、断熱層と、該断熱層に積層される第一基材と、を備える本発明の断熱材が製造される。乾燥は、分散媒に応じて適宜行えばよく、例えば水の場合には、室温~150℃程度の温度下で所定時間保持すればよい。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0042】
(1)断熱材の製造
まず、後出の表1、表2に示す配合量(単位は質量部)にて、種々の断熱層用塗料を調製した。次に、調製した断熱層用塗料を、第一のガラスクロスの表面に塗膜厚さ2mm狙いで塗布した。そして、塗膜の上に第二のガラスクロスを重ねて積層体を形成し、それを熱風オーブンに入れて80℃で1時間保持した後、100℃に昇温して質量減少が無くなる状態まで乾燥した。このようにして、[第一のガラスクロス/断熱層/第二のガラスクロス]からなるシート状の断熱材のサンプルを製造した。第一のガラスクロスは本発明における第一基材、第二のガラスクロスは本発明における第二基材の概念に含まれる。以下、各サンプルにおける断熱層用塗料の調製方法を詳しく説明する。
【0043】
[実施例1~15、17]
コロイダルシリカ(シリカ粒子の水分散液;シグマアルドリッチ社製「LUDOX(登録商標) LS」)に、増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC;シグマアルドリッチ社製のカルボキシルメチルセルロースナトリウム塩、分子量38万)を添加して撹拌した。続いて、シリカエアロゲルの粉砕処理品を添加して攪拌し、その後さらにガラス繊維を添加して撹拌して断熱層用塗料を調製した。シリカエアロゲルの粉砕処理品は、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を家庭用ミキサーを用いて粉砕処理して球状化したものであり、その平均粒子径は100μmである。ガラス繊維については、日本電気硝子(株)製「チョップドストランド」の中から、アスペクト比(長さ/直径)が異なる五種類(A~E)を選んで使用した。
【0044】
[実施例16]
シリカエアロゲルの粉砕処理品に代えて、粉砕処理をしていないシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を使用した以外は、実施例2と同様にして断熱層用塗料を調製した。実施例1~17の断熱層用塗料は、本発明の断熱層用塗料の概念に含まれる。
【0045】
[比較例1]
バインダーとして無機バインダーではなく従来の有機バインダーを使用し、ガラス繊維を添加せずに断熱層用塗料を調製した。すなわち、水に、バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」、固形分50質量%)、および増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(同上)を添加して撹拌した後、シリカエアロゲルの粉砕処理品を添加して撹拌して、比較例1の断熱層用塗料を調製した。
【0046】
[比較例2]
シリカエアロゲルを添加しない点以外は実施例1~5と同様にして、比較例2の断熱層用塗料を調製した。
【0047】
[比較例3]
ガラス繊維を添加しない点以外は実施例2、実施例6~15、17と同様にして、比較例3の断熱層用塗料を調製した。
【0048】
[比較例4]
ガラス繊維を添加しない点以外は実施例16(粉砕処理をしていないシリカエアロゲルを使用)と同様にして、比較例4の断熱層用塗料を調製した。
【表1】
【表2】
【0049】
(2)断熱層の質量減量率
本実施例の断熱材のサンプルには、断熱層以外に二枚のガラスクロスが含まれる。このため、断熱材のサンプルから断熱層のみを質量3~5mg分切り出し、それを質量減量率測定用サンプルとして、次のようにして断熱層の質量減量率を算出した。まず、質量減量率測定用サンプルを熱重量分析装置(TAインスツルメント社製「Q500」)に入れ、空気雰囲気で室温から500℃まで昇温速度80℃/分で加熱した。500℃に到達したらそのまま30分間保持し、それから質量減量率測定用サンプルを取り出して質量を測定した。そして、質量減量率測定用サンプルの初期質量をW0、500℃下、30分間保持後の質量をW1として、前述した式(I)により断熱層の質量減量率を算出した。このようにして得られた断熱層の質量減量率を、前出の表1、表2にまとめて示す。
【0050】
(3)断熱材の評価方法
製造した断熱材のサンプルについて、成膜性、断熱性、耐圧縮性、および耐熱性を次の方法により評価した。
【0051】
[成膜性]
断熱材のサンプルの外観を目視観察し、クラックの有無を調べた。前出の表1、表2中、評価結果として、クラックが確認されなかった場合を〇印で、クラックが確認された場合を×印で示す。
【0052】
[断熱性]
断熱材のサンプルの熱伝導率を、英弘精機(株)製の熱伝導率測定器「クイックラムダ」を用いて測定した。この熱伝導率測定器は、熱伝導率の既知物質を検定用標準試料としてキャリブレーションした検定曲線を用いて相対的に熱伝導率を算出する。よって、まず標準試料として、比較例1のサンプルの製造方法と同じ方法で、シリカエアロゲルの配合量が異なる三種類の断熱材のサンプルを製造した。各サンプルにおけるシリカエアロゲルの配合量は、153質量部、230質量部、307質量部とした。次に、各サンプル(標準試料)の熱伝導率を、JIS A1412-2(1999)の熱流計法に準拠した英弘精機(株)製の熱流束計「HC-074」で測定し、この熱伝導率の値を使用して熱伝導率測定器のキャリブレーションを行った。前出の表1、表2中、評価結果として、熱伝導率が0.045W/m・K以下の場合を〇印で、0.045W/m・Kより大きい場合を×印で示す。
【0053】
[耐圧縮性]
断熱材のサンプルから直径60mmの円板状のサンプルを切り出して、圧縮試験用サンプルとした。圧縮試験用サンプルを圧縮試験機に設置して、3mm/minの速度で圧縮圧が15MPaになるまで圧縮した。圧縮圧が15MPaに到達したら1分間保持し、その後、同様の速度で圧縮圧が0MPa(無負荷)になる状態まで戻した。
【0054】
圧縮後の圧縮試験用サンプルの熱伝導率を、前述した熱伝導率測定器を用いて測定した。前出の表1、表2中、評価結果として、熱伝導率が0.045W/m・K以下の場合を〇印で、0.045W/m・Kより大きい場合を×印で示す。
【0055】
圧縮前と圧縮後の圧縮試験用サンプルの厚さを測定し、次式(II)により厚さ変化率を算出した。前出の表1、表2中、評価結果として、厚さ変化率が70%より小さい場合を○印で、厚さ変化率が70%以上の場合を×印で示す。
厚さ変化率(%)=(T0-T1)/T0×100 ・・・(II)
[T0:圧縮前のサンプル厚さ、T1:圧縮後のサンプル厚さ]
[耐熱性]
断熱材のサンプルを製造する時に調製した断熱層用塗料を、体積1cm3の直方体状の型に流し込み、熱風オーブンに入れて80℃で1時間保持した後、100℃に昇温して質量減少が無くなる状態まで乾燥し脱型した。得られた成形体を、さらに600℃で10分間保持し、割れの有無を調べた。前出の表1、表2中、評価結果として、割れが確認されなかった場合を〇印で、割れが確認された場合を×印で示す。
【0056】
(4)断熱材の評価結果
断熱材の評価結果を、前出の表1、表2にまとめて示す。まず、表1に示すように、無機バインダー(シリカ粒子)を使用し、補強繊維(ガラス繊維)を有する実施例1~5のサンプルにおいては、いずれも断熱層の質量減量率は10%以下であり、成膜性、断熱性、耐圧縮性、および耐熱性は良好であった。すなわち、実施例1~5のサンプルにおいては、クラックが無い薄膜状の断熱層が形成されており、熱伝導率は比較的小さく、圧縮しても潰れにくく断熱性を維持することができた。また、高温下で保持しても割れることなく形状を保持することができた。そして、シリカエアロゲルの配合量が多くなると、熱伝導率は小さくなる(断熱性は向上する)傾向が見られたが、圧縮による厚さ変化は大きくなる傾向が見られた。
【0057】
これに対して、有機バインダーを使用した比較例1のサンプルにおいては、断熱層の質量減量率は10%より大きく、成膜性および断熱性は良好であったものの、圧縮により潰れてしまい熱伝導率を測定することができず、耐圧縮性に劣る結果になった。また、高温下で保持すると割れが生じてしまい耐熱性も劣る結果になった。また、シリカエアロゲルを有しない比較例2のサンプルにおいては、所望の断熱性を得ることはできなかった。補強繊維を有しない比較例3、4のサンプルにおいては、成膜性が低下したことに加え、高温下で形状を保持することもできなかった。
【0058】
次に、表2に示すように、実施例6~17のサンプルにおいても、断熱層の質量減量率は10%以下であり、成膜性、断熱性、耐圧縮性、および耐熱性は良好であった。補強繊維の配合量を変化させた実施例6~11のサンプルを比較すると、補強繊維の配合量が多くなると、圧縮による厚さ変化は小さくなる傾向が見られ、耐圧縮性が向上することが確認された。なお、補強繊維の配合量が最も多い実施例17のサンプルにおいては、断熱層用塗料の粘度が上昇して加工性の低下がみられた。実施例12~15のサンプルにおいては、補強繊維の種類(アスペクト比)が異なるが、いずれも成膜性、断熱性、耐圧縮性、および耐熱性は良好であった。実施例16のサンプルは、実施例2のサンプルに対して、シリカエアロゲルの粉砕処理の有無が異なる。実施例2のように粉砕処理品を用いると、断熱層用塗料の粘度が低くなった。これにより、塗料調製時の混合分散時間を短縮することができ、加工性の向上が期待できる。また、シリカエアロゲルの粉落ち抑制効果や、形状保持性の向上も確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の断熱材は、自動車用断熱内装材、住宅用断熱材、家電用断熱材、電子部品用断熱材、保温保冷容器用断熱材などに好適である。
【符号の説明】
【0060】
1、2、3:断熱材、10、20、32:断熱層、11、21、33:第一基材、22、34:第二基材、30:本体部、31:周縁部、35:融着部、36:固定部材。