(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 501
B41J2/14 601
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/14 607
(21)【出願番号】P 2020096346
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小森 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長見 忠信
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522755(JP,A)
【文献】特開2018-094845(JP,A)
【文献】特開2001-287360(JP,A)
【文献】特開2006-305987(JP,A)
【文献】特表2018-509318(JP,A)
【文献】特開2014-046621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に接続されている圧力室と、前記圧力室に対応して配置されている圧電アクチュエータと、前記圧力室に接続されている共通液室と、を有し、
前記共通液室から前記圧力室を介して前記吐出口に至る液体流路が構成されており、
1つの前記圧力室に対応して、1対の前記圧電アクチュエータと、前記共通液室から当該圧力室に液体を供給するための2つの個別流路と、が設けられ、
前記圧力室と、前記吐出口が形成されている吐出口形成部材との間に、振動板が設けられており、該振動板に前記圧電アクチュエータが配置されており、
前記圧電アクチュエータは、前記振動板と前記吐出口形成部材との間に設けられた支持基板に形成された開口部の内部に配置されて
おり、
前記圧力室を形成する孔部を有する第1の基板と、前記個別流路が形成された第2の基板と、前記共通液室が形成された第3の基板と、が順番に積層された積層構造を有し、前記個別流路は前記第2の基板の面と垂直な第1の方向に前記第2の基板を貫通する孔であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記支持基板はシリコンからなる、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口形成部材は樹脂によって形成されている、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータは前記吐出口形成部材に対して非接触である、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記共通液室と前記圧力室と前記吐出口とは、前記吐出口形成部材と、前記共通液室および前記圧力室が形成された基板との積層方向において、前記共通液室、前記圧力室、前記吐出口の順番に並んで位置している、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
1対の前記圧電アクチュエータは前記吐出口を中心として対称な位置に配置されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記2つの個別流路は前記吐出口を中心として対称な位置に配置されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記振動板の面と垂直な方向から見て、前記吐出口が前記共通
液室と重なる位置に配置されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、前記圧電アクチュエータと前記搬送手段とを駆動する制御手段と、を有する液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴の吐出によって記録を行うインクジェット記録装置等の液体吐出装置には、圧電アクチュエータを有する液体吐出ヘッドを備えたものがある。液体吐出ヘッドには、共通液室と、圧力室と、吐出口とを含む液体流路が構成されている。例えば、特許文献1には、共通液室から個別供給路を介して圧力室に連通し、圧力室から吐出流路を介して吐出口に連通する液体流路を有する液体吐出ヘッドが記載されている。圧力室を構成する壁の一部に圧電アクチュエータが配置されている。共通液室から圧力室へ向かう方向と、圧力室から吐出口へ向かう方向は実質的に反対向きである。すなわち、液体の流れ方向は、共通液室から個別供給路を介して圧力室に向かった後に、実質的に180度転換して圧力室から吐出流路を介して吐出口へ向かう。
【0003】
特許文献2には、共通液室から個別供給路を介して圧力室に連通し、圧力室から直接吐出口に連通する液体流路が構成されている。圧力室を構成する壁の一部に圧電アクチュエータが配置されている。共通液室から圧力室へ向かう方向と、圧力室から吐出口へ向かう方向は実質的に一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-37278号公報
【文献】特開2018-1550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている液体吐出ヘッドでは、圧電アクチュエータは、基板の、吐出口形成部材と接合される面と反対側の面に配置されている。従って、圧力室および圧電アクチュエータと吐出口との間の距離が長いため、液体の吐出量を精緻に制御することが困難であり、吐出応答性が良好ではない。
【0006】
特許文献2に記載されている液体吐出ヘッドでは、圧力室および圧電アクチュエータと吐出口との間の距離が短い。しかし、圧力室を構成する壁の一部が吐出口形成部材からなる。従って、液体を吐出するために圧電アクチュエータが圧力室内の液体に圧力を加える際に、吐出口形成部材が僅かに変形し、液体の吐出量が不安定になるおそれがある。吐出口形成部材の変形を防止するためには、吐出口形成部材を高剛性の材料によって形成する必要がある。それにより、液体吐出ヘッドの設計に制約が生じたり、製造の容易さや低コスト化の妨げになったりする可能性がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、液体の吐出量を制御でき、かつ吐出応答性が良好で、吐出口形成部材の材料の選択の自由度が高い液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、吐出口に接続されている圧力室と、圧力室に対応して配置されている圧電アクチュエータと、圧力室に接続されている共通液室と、を有し、共通液室から圧力室を介して吐出口に至る液体流路が構成されており、1つの圧力室に対応して、1対の圧電アクチュエータと、共通液室から当該圧力室に液体を供給するための2つの個別流路と、が設けられ、圧力室と、吐出口が形成されている吐出口形成部材との間に、振動板が設けられており、振動板に圧電アクチュエータが配置されており、圧電アクチュエータは、振動板と吐出口形成部材との間に設けられた支持基板に形成された開口部の内部に配置されており、前記圧力室を形成する孔部を有する第1の基板と、前記個別流路が形成された第2の基板と、前記共通液室が形成された第3の基板と、が順番に積層された積層構造を有し、前記個別流路は前記第2の基板の面と垂直な第1の方向に前記第2の基板を貫通する孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、液体の吐出量を制御でき、かつ吐出応答性が良好で、吐出口形成部材の材料の選択の自由度が高い液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドの底面図および断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッドの底面図および断面図である。
【
図3】本発明の液体吐出装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1(a)は、本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッド1の底面図である。
図1(b)は
図1(a)のA-A線断面図である。液体吐出ヘッド1は、基板2と、基板2に積層された吐出口形成部材3とを有する。吐出口形成部材3は、例えばシリコンや合成樹脂等によって形成されている。吐出口形成部材3には、液体を吐出する複数の吐出口4が形成されており、複数の吐出口4が吐出口列を構成している。複数の吐出口列から、種類の異なる液体、例えばブラック、イエロー、シアン、マゼンタ等のインクが吐出される。
【0012】
基板2は複数のプレートからなり、具体的には、例えば合成樹脂からなる共通液室基板5,6と、例えばシリコンからなる流路基板7,8と、二酸化ケイ素の膜からなる振動板9と、例えばシリコンからなる支持基板10と、が順番に積層された積層体である。共通液室基板6に孔部が設けられており、この孔部によって、共通液室基板5,6と流路基板7とに囲まれた空間である共通液室11が形成されている。流路基板7に孔部が設けられており、この孔部によって、共通液室11に連通する個別供給路12が形成されている。流路基板8に孔部が設けられており、この孔部によって、流路基板7,8と振動板9とに囲まれた空間であって、個別供給路12に連通する圧力室13が形成されている。すなわち、流路基板7,8は、振動板9に積層され、振動板9とともに圧力室13を構成する壁を形成している。圧力室13は個別供給路12を介して共通液室11に連通している。振動板9と支持基板10とに、互いに重なり合う孔部が設けられており、この孔部によって、圧力室13に連通する吐出流路14が形成されている。支持基板10には、吐出流路14に近接し、圧力室13に重なり合う位置にもう1つの孔部が設けられており、この孔部によって、振動板9と支持基板10とに囲まれた矩形状の開口部15が形成されている。振動板9の、圧力室13と反対側の面であって開口部15の内部に、圧力室13に対応する圧電アクチュエータ16が配置されている。圧電アクチュエータ16は、圧力室13を構成する壁の一部の、圧力室13から見て振動板9の裏面側に位置している。
【0013】
吐出口形成部材3には、液体を吐出する貫通孔であって吐出流路14に連通可能な吐出口4が設けられている。従って、吐出口形成部材3が基板2に積層された状態で、共通液室11から個別供給路12と圧力室13と吐出流路14とを通って吐出口4に至る液体流路が構成される。1つの共通液室11に複数の個別供給路12が接続されており、圧力室13と吐出流路14と吐出口4とはそれぞれ個別供給路12と同数形成されており、互いに連通している。従って、1つの共通液室11から複数系統の独立した液体流路が延びている。これらの液体流路において、共通液室11から圧力室13に向かう方向と、圧力室13から吐出口4に向かう方向は、実質的に一致している。開口部15内の圧電アクチュエータ16が、振動板9を挟んで圧力室13と対向する位置にある。
【0014】
圧電アクチュエータ16は、液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子であり、1対の電極16aと、1対の電極16aに挟まれた圧電膜16bとからなる。圧電膜16bは、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸鉛を主成分とする圧電材料によって構成された膜である。電極16aは、例えばアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金、もしくは銅または銅を主成分とする合金等で構成され、ドライバIC(不図示)に接続されている。
【0015】
この液体吐出ヘッド1では、共通液室11から個別供給路12を介して圧力室13に液体(例えば液体インク)が供給された状態で、図示しないドライバICから配線基板および電気配線を介して圧電アクチュエータ16の電極16aに電力が印加される。圧電アクチュエータ16は、電力が印加されると、圧力室13の内側に向かって撓むように変形する。圧電アクチュエータ16の変形に伴って振動板9が圧電アクチュエータ16と一体的に変形し、それによって圧力室13の容積が小さくなるとともに、圧力室13内において液体に圧力が加えられる。圧力室13内において液体に圧力が加えられると、液体の一部が液滴として吐出口4から吐出する。
【0016】
本実施形態の液体吐出ヘッドでは、吐出口形成部材3と基板2の積層方向において、圧力室13は共通液室11と吐出口4との間に位置しており、圧力室13および圧電アクチュエータ16と吐出口4との間の距離が短い。従って、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、圧力室13および圧電アクチュエータ16と吐出口4との間の距離が長い液体吐出ヘッドに比べて、液体の吐出量を精緻に制御でき、かつ吐出応答性が良好である。また、本実施形態の液体吐出ヘッド1では、吐出口形成部材3が圧力室13の壁の一部を構成していない。従って、圧電アクチュエータ16が圧力室13の液体に圧力を加える際に吐出口形成部材3が変形することはなく、液体の吐出量が不安定になることが抑えられる。吐出口形成部材3を特別に剛性が高い材料によって形成する必要がなく、吐出口形成部材3の材料の選択の自由度が高い。そのため、液体吐出ヘッド1の設計に制約が生じたり、製造の容易さや低コスト化の妨げになったりすることが抑えられる。
【0017】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と同様な部分については同一の符号を付与し、説明を省略する。
図2(a)は、本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッド1の底面図である。
図2(b)は
図2(a)のA-A線断面図である。第1の実施形態では、吐出口4および圧力室13と同数の圧電アクチュエータ16および開口部15が設けられているが、このような構成に限定されない。吐出口4および圧力室13よりも多くの数の圧電アクチュエータ16および開口部15が設けられていてもよく、
図2に示す第2の実施形態では、吐出口4および圧力室13の2倍の数の圧電アクチュエータ16および開口部15が設けられている。そして、吐出口4を中心として対称な位置に、1対の圧電アクチュエータ16および開口部15がそれぞれ配置されている。圧力室13は1対の圧電アクチュエータ16を包含する大面積の平面形状を有している。そのため、共通液室11から圧力室13に液体を供給するための個別供給路12が2つ設けられている。
【0018】
本実施形態でも第1の実施形態と同様に、圧力室13および圧電アクチュエータ16と吐出口4との間の距離が短いため、液体の吐出量を精緻に制御でき、かつ吐出応答性が良好である。さらに、圧電アクチュエータ16が圧力室13の液体に圧力を加える際に吐出口形成部材3が変形することはなく、液体の吐出量が不安定になることが抑えられるため、吐出口形成部材3の材料の選択の自由度が高い。従って、液体吐出ヘッド1の設計に制約が生じたり、製造の容易さや低コスト化の妨げになったりすることが抑えられる。また、本実施形態では、各吐出口4からの吐出量を多くすることができる。それにより、特に商業印刷用などの大型の印刷機においても効率良く記録が可能である。
【0019】
以上、2つの実施形態について説明した通り、本発明によると、圧力室13と吐出口形成部材3との間に振動板9が配置され、その振動板9に圧電アクチュエータ16が配置されている。この圧電アクチュエータ16は支持基板10の開口部15の内部に位置し、吐出口形成部材3に対して非接触である。その結果、圧電アクチュエータ16が作動して圧力室13内の液体に圧力を加えても、その圧力は吐出口形成部材3にはほとんど影響を及ぼさず、変形が抑えられる。また、共通液室11と圧力室13と吐出口4とが同一方向(吐出口形成部材3と基板2の積層方向)に沿って順番に並んでおり、圧力室13および圧電アクチュエータ16と吐出口4との間の距離が短く、圧力損失が小さい。そのため、液体の吐出量を精緻に制御でき、吐出応答性が良い。ただし、本発明の液体吐出ヘッドは、前述した2つの実施形態の構成に限られず、様々な変更例が可能である。
【0020】
[液体吐出装置]
図3に、本発明の液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置を模式的に示している。本発明に係る液体吐出ヘッド1に、共通液室11に液体を供給するためのタンクを含む液体供給手段21が接続されている。液体吐出ヘッド1には、圧電アクチュエータ16に駆動電力を供給する制御手段22が接続されている。制御手段22には、図示しない記録媒体を搬送する搬送手段23も接続されている。制御手段22が、適宜のタイミングで複数の圧電アクチュエータ16を選択的に駆動するとともに、記録媒体を順次搬送するように搬送手段23を駆動する。こうして、液体吐出ヘッド1から記録媒体への液体吐出と、記録媒体の搬送とを交互に行うことにより、記録媒体への記録を行う。
【符号の説明】
【0021】
1 液体吐出ヘッド
4 吐出口
9 振動板
11 共通液室
13 圧力室
16 圧電アクチュエータ