(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】水処理システムおよび水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20241111BHJP
B01D 21/00 20060101ALI20241111BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20241111BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20241111BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20241111BHJP
C02F 9/00 20230101ALI20241111BHJP
【FI】
C02F1/28 D
B01D21/00 C
B01D21/01 A
B01D21/30 A
C02F1/52 Z
C02F9/00
(21)【出願番号】P 2020130697
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 法光
(72)【発明者】
【氏名】早見 徳介
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162583(JP,A)
【文献】特開2005-288309(JP,A)
【文献】特開平08-309109(JP,A)
【文献】特開2015-157239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
B01D 21/00-21/34
C02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の水質に基づき、前記原水の濁質の凝集沈澱に必要な凝集剤の注入率である第1の凝集剤注入率を算出する第1の凝集剤注入率算出部と、
前記原水中の臭気物質濃度と、前記原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機体炭素濃度のうちの少なくとも何れかならびに、前記第1の凝集剤注入率とに基づき、前記原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率である第1の粉末活性炭注入率を算出する活性炭注入率算出部
とを備え、
前記活性炭注入率算出部は、
前記原水に対する目標臭気物質濃度を前記臭気物質濃度で除して得られる目標臭気物質濃度残存率に基づき、前記臭気物質の吸着処理のために必要な粉末活性炭の注入率である第2の粉末活性炭注入率を算出する臭気対応活性炭注入率算出部と、
前記原水に対する目標紫外線吸光度を前記紫外線吸光度で除して得られる目標紫外線吸光度残存率に基づき、前記原水中の溶解性有機物の吸着処理のために必要な粉末活性炭の注入率である第3の粉末活性炭注入率を算出する有機物対応活性炭注入率算出部と、
前記第2の粉末活性炭注入率と、前記第3の粉末活性炭注入率とのうち、値が大きい方を、前記第1の粉末活性炭注入率として決定する活性炭注入率決定部とを有する、水処理システム。
【請求項2】
原水の水質に基づき、前記原水の濁質の凝集沈澱に必要な凝集剤の注入率である第1の凝集剤注入率を算出する第1の凝集剤注入率算出部と、
前記原水中の臭気物質濃度と、前記原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機体炭素濃度のうちの少なくとも何れかならびに、前記第1の凝集剤注入率とに基づき、前記原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率である第1の粉末活性炭注入率を算出する活性炭注入率算出部とを備え、
前記第1の凝集剤注入率算出部は、
少なくとも、前記紫外線吸光度と、前記溶解性有機体炭素濃度と、前記第1の凝集剤注入率とに基づいて、前記粉末活性炭と前記凝集剤とが併用処理された後の、前記原水中の臭気物質濃度残存率推定値を算出する臭気物質濃度残存率推定部と、
前記原水に対する目標臭気物質濃度を前記臭気物質濃度で除して得られる目標臭気物質濃度残存率よりも、前記臭気物質濃度残存率推定値の方が、値が大きい場合、前記臭気物質濃度残存率推定値を、前記目標臭気物質濃度残存率と一致させるのに必要な凝集剤注入率である第2の凝集剤注入率を算出する第2の凝集剤注入率算出部と、
前記第1の凝集剤注入率の値が、前記第2の凝集剤注入率の値以上である場合、前記第1の凝集剤注入率を凝集剤注入率として決定し、前記第1の凝集剤注入率よりも、前記第2の凝集剤注入率の方が値が大きい場合、前記第2の凝集剤注入率を、前記凝集剤注入率として決定する凝集剤注入率決定部とを有する
、水処理システム。
【請求項3】
原水の水質に基づき、前記原水の濁質の凝集沈澱に必要な凝集剤の注入率である第1の凝集剤注入率を算出する第1の凝集剤注入率算出部と、
前記原水中の臭気物質濃度と、前記原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機体炭素濃度のうちの少なくとも何れかならびに、前記第1の凝集剤注入率とに基づき、前記原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率である第1の粉末活性炭注入率を算出する活性炭注入率算出部とを備え、
前記活性炭注入率算出部は、
少なくとも、前記紫外線吸光度と、前記溶解性有機体炭素濃度とに基づいて、前記原水の紫外線吸光度を目標紫外線吸光度まで低減するために必要な溶解性有機物質対応の
第3の粉末活性炭注入率を算出する有機物対応活性炭注入率算出部と、
少なくとも、前記紫外線吸光度と、前記溶解性有機体炭素濃度と、前記第1の凝集剤注入率とに基づいて、前記粉末活性炭と前記凝集剤とが併用処理された後の、前記原水中の臭気物質濃度残存率推定値を算出する臭気物質濃度残存率推定部と、
前記原水に対する目標臭気物質濃度を前記臭気物質濃度で除して得られる目標臭気物質濃度残存率と、前記臭気物質濃度残存率推定値とを比較し、前記臭気物質濃度残存率推定値が前記目標臭気物質濃度残存率以下の場合、
前記第3の粉末活性炭注入率を
前記第1の粉末活性炭注入率とするデータ処理部と、
前記臭気物質濃度残存率推定値が、前記目標臭気物質濃度残存率よりも値が大きい場合、前記臭気物質濃度残存率推定値と前記目標臭気物質濃度残存率とに基づいて、臭気物質除去に必要な
第2の粉末活性炭注入率を算出する活性炭注入率算出部と、
前記
第2の粉末活性炭注入率と、前記
第3の粉末活性炭注入率とのうち、値が大きい方を、前記臭気物質の吸着処理のための粉末活性炭注入率として決定する活性炭注入率決定部とを有する
、水処理システム。
【請求項4】
前記溶解性有機体炭素濃度および前記蛍光強度は、前記紫外線吸光度の一次関数として表現される、請求項1
乃至3のうち何れか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
原水の水質に基づき、前記原水の濁質の凝集沈澱に必要な凝集剤の注入率である第1の凝集剤注入率を算出
することと、
前記原水中の臭気物質濃度と、前記原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機体炭素濃度のうちの少なくとも何れかならびに、前記第1の凝集剤注入率とに基づき、前記原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率である第1の粉末活性炭注入率を算出する
こととを備え、
前記第1の粉末活性炭注入率を算出することは、
前記原水に対する目標臭気物質濃度を前記臭気物質濃度で除して得られる目標臭気物質濃度残存率に基づき、前記臭気物質の吸着処理のために必要な粉末活性炭の注入率である第2の粉末活性炭注入率を算出することと、
前記原水に対する目標紫外線吸光度を前記紫外線吸光度で除して得られる目標紫外線吸光度残存率に基づき、前記原水中の溶解性有機物の吸着処理のために必要な粉末活性炭の注入率である第3の粉末活性炭注入率を算出することと、
前記第2の粉末活性炭注入率と、前記第3の粉末活性炭注入率とのうち、値が大きい方を、前記第1の粉末活性炭注入率として決定することとを含む、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被処理水に粉末活性炭と凝集剤とを注入し、被処理水中の臭気物質や溶解性有機物および濁質を除去する水処理システムおよび水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、河川や湖沼、貯水池等から取水した被処理水(以下、「原水」とも称する)には、臭気物質やフミン等の溶解性の天然有機物(以下、「溶解性有機物」とも称する)や、微粒子等の濁質が含まれている。
【0003】
一方、浄水場では、鉄、マンガン等の金属類の除去や消毒処理を目的として、次亜塩素酸ナトリウム等の薬品剤が注入されるが、溶解性有機物を含む原水の場合、溶解性有機物と薬品剤が化学反応してトリハロメタン類やハロ酢酸類(以下、「消毒副生成物」とも称する)を生成する。これら消毒副生成物は発癌性物質であるため、生成を抑制する必要がある。
【0004】
多くの浄水場では、原水中の臭気物質や溶解性有機物を除去するために粉末活性炭を、濁質を除去するために凝集剤を注入している。この種の水処理システムでは、原水の水質に応じて粉末活性炭の注入率を決定する必要がある。
【0005】
粉末活性炭の注入率を決定する方法としては、ジャーテスト(以下、「ビーカーテスト」とも称する)が用いられることが多い。ジャーテストとは、原水を複数のビーカーに採水し、採水した複数の原水にそれぞれ異なる量の粉末活性炭を注入して、臭気物質や溶解性有機物の除去率を評価し、処理後の臭気濃度および溶解性有機物質が目標濃度以下まで低減するために必要な最低限の粉末活性炭注入率を求める方法である。
【0006】
しかしながら、ジャーテストによって粉末活性炭の注入率を決定する上記方法は、原水の水質の変化に追随した粉末活性炭の注入が非常に難しく、注入率の過不足が生じる恐れがある。また、ジャーテストは、粉末活性炭の最適な注入率を求めるのに時間を要するため、粉末活性炭の最適な注入率が得られたときには既に、原水の水質が変化している可能性もある。
【0007】
特に、臭気物質の粉末活性炭による吸着特性に対しては、共存する溶解性有機物質の濃度や分子構造等により影響を受け、臭気物質の吸着が阻害されることが知られている。
【0008】
また、実際に投入する粉末活性炭の注入率を決定する際は、ジャーテストによって得られた注入率よりも安全側で注入率を決定するため過剰注入となってしまう。
【0009】
粉末活性炭は、凝集剤、硫酸、次亜塩素酸ナトリウム等の他の薬品に比べ単価が非常に高い。そのため、粉末活性炭の過剰注入は、薬品コストの急騰を招くおそれがあり、経済的な観点からも、粉末活性炭の過剰注入を抑制し、原水の水質の変化に応じた粉末活性炭の最適な注入率を制御する方法が望まれている。
【0010】
粉末活性炭注入率を制御する方法として、例えば、粉末活性炭処理槽内の原水について、臭気センサにより水面近傍の大気中の臭気物質を検出し、これより得られた臭気強度指示値に基づいて、原水の流量に対する粉末活性炭注入率を算出し、この粉末活性炭注入率に基づいて、粉末活性炭を制御する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
また、他の方法としては、粉末活性炭注入後の原水における微粉炭の状態を観察し、その観察結果をフィードバック信号として、前段にある活性炭の注入率を算出部に送ることで、目標とする設定流出濁度となるように、粉末活性炭の注入率を制御する制御方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら、このような従来の方法は、原水の水質については考慮されておらず、粉末活性炭の注入率の最適化を図る上で精度が不十分であった。また、特に、臭気物質の吸着特性に対しては共存する溶解性有機物質の影響が考慮されていない。
【0013】
これに対しては、臭気物質および有機物質の、粉末活性炭注入時の残存率に影響を与える係数をそれぞれ求め、必要な粉末活性炭注入率を求める方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0014】
しかしながら、粉末活性炭の注入は、必ずその後段で凝集沈澱、ろ過工程による除濁操作で対象物質を吸着した粉末活性炭を除去する必要がある。
【0015】
この場合、凝集処理工程においても、粉末活性炭の吸着対象である臭気物質や溶解性有機物質が除去されるが、従来の粉末活性炭注入制御では考慮されていないため、殆どの場合、粉末活性炭が過剰に注入される結果となっている。これにより、薬品費が過剰になるばかりか、粉末活性炭の過剰注入により、その除去に必要な凝集剤注入率の増加による費用増および、排泥量の増加に伴う処理コストの増大をもたらしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平2-284687号公報
【文献】特許第2969927号公報
【文献】特許第4153893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、粉末活性炭の注入率の最適化を図ることができる水処理システムおよび水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
実施形態の水処理システムは、第1の凝集剤注入率算出部と、活性炭注入率算出部とを備えている。第1の凝集剤注入率算出部は、原水の水質に基づき、原水の濁質の凝集沈澱に必要な凝集剤の注入率である第1の凝集剤注入率を算出する。活性炭注入率算出部は、原水中の臭気物質濃度と、原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機体炭素濃度のうちの少なくとも何れかならびに、第1の凝集剤注入率とに基づき、原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率である第1の粉末活性炭注入率を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の各実施形態に共通する、水処理方法が適用された水処理システムを、急速ろ過方式の水処理施設に適用した例を示す概念図である。
【
図2】第1の実施形態の水処理システムにおける活性炭注入率算出部の構成例を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによる処理の流れを示す図である。
【
図4】凝集処理による凝集剤注入率I
paclと紫外線吸光度残存率RUV
paclとの関係の一例を示す図である。
【
図5】凝集剤注入率I
paclと併用処理係数F
DOMとの関係を示す図である。
【
図6】原水中の比吸光度SUVAと係数fとの関係を示す図である。
【
図7】粉末活性炭注入率I
carと粉末活性炭処理後臭気物質濃度残存率RC
carとの関係を示す図である。
【
図8】粉末活性炭と凝集剤の併用処理における凝集剤注入率I
paclと臭気物質濃度残存率RC
car/paclとの関係を示す図である。
【
図9】第2の実施形態の水処理システムにおける凝集剤注入率算出部の構成例を示すブロック図である。
【
図10】第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによる処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態の水処理システムおよび水処理方法を、図面を参照して説明する。
【0021】
(構成)
先ず、本発明の各実施形態に共通する、水処理方法が適用された水処理システムの構成について説明する。
【0022】
図1は、本発明の各実施形態に共通する、水処理方法が適用された水処理システムを、急速ろ過方式の水処理施設に適用した例を示す概念図である。
【0023】
なお本発明の各実施形態の水処理システムは、急速ろ過方式の水処理施設に限らず、例えば、膜ろ過方式や砂ろ過方式の水処理設備のように、他の方式の水処理施設にも適用可能である。
【0024】
図1に示すように、水処理システム1は、水処理装置2とともに水処理施設3に組み込まれている。
【0025】
水処理装置2は、原水Aに対して吸着処理および凝集沈澱を行う。吸着処理は、原水A中の臭気物質および溶解性有機物を粉末活性炭により吸着除去する処理である。凝集沈澱は、原水A中の濁質を凝集剤により凝集沈降させる処理である。
【0026】
水処理装置2は、着水井20、粉末活性炭注入装置21、凝集剤混和池30、凝集剤注入装置31、フロック形成池40、沈澱池50、ろ過池60、および浄水池70を備えている。
【0027】
着水井20は、水処理施設3によって処理される被処理水である原水Aを貯留する。着水井20は、配管91によって凝集剤混和池30に接続されており、原水Aは、着水井20から配管91を介して凝集剤混和池30に導かれる。着水井20前の配管91には、原水Aの水質を測定する水質計器セット10、原水A中の臭気物質濃度を測定する臭気センサ11、原水A中の有機物質濃度指標を測定する溶解性有機物質指標計器セット12、および原水Aの流量を測定する流量計13が備えられている。
【0028】
水質計器セット10は、限定されないが、濁度計10a、アルカリ度計10b、水温計10c、およびpH計10dを含んでおり、これらセンサは、各種水質を測定した後に、測定データを、水処理システム1に送信する。
【0029】
溶解性有機物指標計器セット12は、限定されないが、紫外線吸光度計12a、蛍光強度計12b、および溶解性有機体炭素濃度(DOC)計12cを含んでおり、これらセンサは、測定データを、水処理システム1に送信する。
【0030】
着水井20には、原水A中の臭気物質と溶解性有機物との吸着処理のために、粉末活性炭注入装置21から粉末活性炭Cが注入される。
【0031】
粉末活性炭注入装置21には、粉末活性炭Cが貯留されている。粉末活性炭注入装置21は、水処理システム1からの制御に基づき、粉末活性炭Cを着水井20に着水している原水Aに対して注入する。
【0032】
凝集剤混和池30では、原水Aに含まれる粘土質、細菌、藻類等の懸濁物質(濁質)および着水井20で注入された粉末活性炭Cが、凝集剤注入装置31から注入される凝集剤Pによって凝集され、微細なフロックが生成される。凝集剤混和池30は、例えばフラッシュミキサのような撹拌機32を備えている。
【0033】
凝集剤混和池30には、pH測定器14が設けられている。pH測定器14は、原水Aに凝集剤Pが注入された混和水BのpHを測定し、測定データを、水処理システム1に送信する。
【0034】
凝集剤注入装置31には、凝集剤Pが貯留されている。また、凝集剤注入装置31は、水処理システム1に接続されており、水処理システム1による制御に基づき、凝集剤Pを凝集剤混和池30の混和水Bに対して注入する。
【0035】
凝集剤Pとしては、アルミニウム系凝集剤および鉄系凝集剤を用いることが好ましい。アルミニウム系凝集剤の例としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PACl)などが挙げられる。また、鉄系凝集剤の例としては、塩化鉄、硫酸鉄、およびポリシリカ鉄などが挙げられる。
【0036】
フロック形成池40では、凝集剤混和池30から供給された混和水Bに含まれる微細なフロックのサイズが成長する。
図1に示す例では、フロック形成池40は、例えば2つの撹拌池40a、40bを有しているが、撹拌池の数は2つに限定されない。
【0037】
沈澱池50は、フロック形成池40の下流に設けられ、沈澱池50では、フロック形成池40で成長したフロックの沈澱分離が行われる。沈澱池50内では所定時間以上フロック混和水が滞留される。これによってフロック混和水中のフロックが沈降し、沈澱池50の下部に沈澱する。沈澱池50で沈澱したフロックは、汚泥として沈澱池50の底部から排出されて処理される。
【0038】
ろ過池60は、沈澱池50の下流に設けられている。ろ過池60には、沈澱池50において所定時間以上滞留させて得られた上澄み水Zが供給される。ろ過池60に供給された上澄み水Zは、ろ過池60に形成されたろ過層60aを通過することにより、沈澱池50で沈澱除去されなかった微小なフロックが除去される。このように微小なフロックが除去されたろ過処理水Wが、清浄水として浄水池70へ送られる。
【0039】
着水井20および凝集剤混和池30には、原水Aおよび混和水BのpHを調整するための薬剤として使用される硫酸等の注入のための酸化剤注入装置23や、藻類、細菌の消毒のための次亜塩素酸ナトリウム等の注入のための注入装置22が接続されている。
【0040】
ろ過池60にも同様に、上澄み液ZのpHを調整するための薬剤として使用される苛性ソーダ72等の注入のためのアルカリ剤注入装置61が接続されている。
【0041】
浄水池70にもまた、清浄水WのpHを調整するための薬剤として使用される苛性ソーダ等の注入のためのアルカリ剤注入装置72、藻類、細菌の消毒のための次亜塩素酸ナトリウム等の注入のための注入装置71が接続されている。
【0042】
ろ過池60からろ過処理水を排出する配管92には、ろ過処理水Wの紫外線吸光度を測定するろ過水紫外線透過率計15が備えられている。
【0043】
浄水池70には、水道水質計器セット80が備えられており、水道水質計器セット80は、水道水として放流されるろ過処理水Wの水質として、濁・色度、残塩濃度、pH、水温等を測定するための濁・色度センサ80a、残塩濃度センサ80b、pHセンサ80c、および水温センサ80d等を含んでいる。
【0044】
(第1の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムについて説明する。
【0045】
図1に示すように、水処理システム1は、原水A中の臭気物質および溶解性有機物を粉末活性炭により除去する吸着処理と、原水A中の濁質を凝集剤により凝集沈澱させる凝集沈澱処理とを順次行う水処理装置2を含む水処理施設3に適用され、構成要素として、処理水質目標設定部100、活性炭注入率算出部200、および凝集剤注入率算出部300を備えている。
【0046】
活性炭注入率算出部200、および凝集剤注入率算出部300は、これら機能を実現するプログラムを、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませることによって実現する。
【0047】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読取可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読取可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するものや、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含むことができる。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるものであってもよい。
【0048】
このような凝集剤注入率算出部300は、水質計器セット10およびpH測定器14からの測定データを受信し、受信した測定データを使って、吸着処理前の原水Aの水質に基づき、凝集沈澱処理において原水Aに注入する凝集剤Pの注入率である凝集剤注入率Ipaclを算出する。そして、算出結果である凝集剤注入率Ipaclを、活性炭注入率算出部200および凝集剤注入装置31へ出力する。
【0049】
一方、活性炭注入率算出部200は、処理水質目標設定部100からの設定データ、臭気センサ11、溶解性有機物指標計器セット12からの測定データ、および凝集剤注入率算出部300からの算出結果を受信し、受信したこれらデータを使って、吸着処理前の原水A中の臭気物質濃度CRと、吸着処理前の原水Aの紫外線吸光度UVR、蛍光強度FLR、および溶解性有機体炭素濃度DOCRのうちの少なくとも何れかと、凝集剤注入率Ipaclとに基づき、吸着処理のために原水Aに注入する粉末活性炭Cの注入率である粉末活性炭注入率Icarを算出し、粉末活性炭注入装置21に出力する。
【0050】
このために、活性炭注入率算出部200は、
図2に例示するような構成を有する。
【0051】
図2は、第1の実施形態の水処理システムにおける活性炭注入率算出部の構成例を示すブロック図である。
【0052】
活性炭注入率算出部200は、データ受信部200a、データ処理部200b、有機物対応活性炭注入率算出部203、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204、臭気対応活性炭注入率算出部207、および活性炭注入率決定部209を有する。
【0053】
データ受信部200aは、臭気センサ11、溶解性有機物指標計器セット12からの測定データ、処理水質目標設定部100によって設定された設定データ(例えば、目標臭気強度、目標溶解性有機体炭素濃度、紫外線吸光度等)、および凝集剤注入率算出部300からの算出結果(凝集剤注入率Ipacl)を受信する。
【0054】
データ処理部200bは、データ受信部200aによって受信されたこれらデータをデータ受信部200aから受け取り、格納するとともに、格納したデータを使って、必要な演算等のデータ処理を行い、この結果も格納する。このようにしてデータ処理部200bに格納されたデータは、有機物対応活性炭注入率算出部203、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204、臭気対応活性炭注入率算出部207、および活性炭注入率決定部209による使用が可能となる。
【0055】
また、データ処理部200bへは、有機物対応活性炭注入率算出部203、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204、および臭気対応活性炭注入率算出部207によって演算された結果も送られる。これによって、有機物対応活性炭注入率算出部203、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204、および臭気対応活性炭注入率算出部207によって演算された結果は、有機物対応活性炭注入率算出部203、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204、臭気対応活性炭注入率算出部207、および活性炭注入率決定部209によって共有される。
【0056】
併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204は、データ処理部200bに格納されたデータを使って、粉末活性炭処理と凝集処理とを連続して実施する併用処理後の臭気物質濃度残存率RCcar/paclを算出する。算出結果は、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204からデータ処理部200bへ送られ、データ処理部200bに格納される。
【0057】
臭気対応活性炭注入率算出部207は、データ処理部200bに格納されたデータを使って、凝集沈澱処理における原水Aに対する目標臭気物質濃度CDを、臭気物質濃度CRで除して得られる目標臭気物質濃度残存率RCTに基づき、臭気物質の吸着処理のために原水Aに注入する粉末活性炭Cの注入率である粉末活性炭注入率Icar―Dを算出する。算出結果は、臭気対応活性炭注入率算出部207からデータ処理部200bへ送られ、データ処理部200bに格納される。
【0058】
有機物対応活性炭注入率算出部203は、データ処理部200bに蓄積されたデータを使って、凝集沈澱処理における原水Aに対する目標紫外線吸光度UVDを、紫外線吸光度UVRで除して得られる目標紫外線吸光度残存率RUVTに基づき、溶解性有機物の吸着処理のために原水Aに注入する粉末活性炭Cの注入率である粉末活性炭注入率Icar―UVを算出する。算出結果は、有機物対応活性炭注入率算出部203からデータ処理部200bへ送られ、データ処理部200bに格納される。
【0059】
活性炭注入率決定部209は、データ処理部200bに蓄積された粉末活性炭注入率Icar―Dと、粉末活性炭注入率Icar―UVとのうち、値が大きい方を、吸着処理のための粉末活性炭注入率として決定する。そして、決定した粉末活性炭注入率を、粉末活性炭注入率Icarとして、粉末活性炭注入装置21へ出力する。
【0060】
次に、以上のように構成した本発明の第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例について説明する。
【0061】
図3は、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによる処理の流れを示す図である。
【0062】
はじめに、処理水質目標設定部100において、処理後のろ過処理水Wの目標値として、目標臭気物質濃度CD、目標紫外線吸光度UVD、目標濁度TuD、目標残留塩素濃度RClD、目標水素イオン濃度指数pHD等が設定される(S100)。設定されたこれらデータは、活性炭注入率算出部200へ送信され、データ受信部200aによって受信され、データ処理部200bに格納される。
【0063】
データ処理部200bでは、目標臭気物質濃度CDと、臭気センサ11で測定された原水中の臭気物質濃度CRから、下記(1)式に従って目標臭気物質濃度残存率RCTが算出される(S201)。
【0064】
RCT=CD/CR・・・(1)
データ処理部200bではまた、目標紫外線吸光度UVDと、紫外線吸光度計12aで測定された原水の紫外線吸光度UVRから、下記(2)式に従って目標紫外線吸光度残存率RUVTが算出される(S201)。
【0065】
RUVT=UVD/UVR・・・(2)
並行して、凝集剤注入率算出部300では、目標濁度TuDと、水質計器セット10の濁度計10a、アルカリ度計10b、水温計10c、およびpH計10dにより測定された、原水濁度TuR、原水アルカリ度AlkR、水温TR、および水素イオン濃度指数pHRと、凝集剤混和池30に設置されたpH測定器14により測定された混和池水素イオン濃度指数pHFと用いて、下記(3)式に従って、目標濁度TUDを達成するための凝集剤注入率Ipaclが算出される(S300)。
【0066】
Ipacl=f(TuD,TuR,AlkR,TR,pHR,pHF) ・・・(3)
ここで、粉末活性炭処理と凝集処理を併用した場合の紫外線吸光度RUVcar/paclを、粉末活性炭処理後紫外線吸光度残存率RUVcar、凝集処理後紫外線残存率RUVpacl、および併用処理係数FDOMを用いて、下記(4)式の通り定義する。
【0067】
RUV
car/pacl=F
DOM×RUV
car×RUV
pacl・・・(4)
図4は、凝集処理による凝集剤注入率I
paclと紫外線吸光度残存率RUV
paclとの関係の一例を示す図である。
【0068】
図4は発明者らが、溶解性有機体炭素濃度DOC
R=2.5(mg/L)、混和水pH
F=6.5に調整した原水に凝集剤Pを添加後、回転数150(rpm)で10分間急速撹拌した後、回転数80(rpm)で60分緩速撹拌処理した試験の結果であり、縦軸の紫外線吸光度残存率RUV
paclは、処理後紫外線吸光度UV
paclを原水紫外線吸光度UV
Rで除した値(すなわち、RUV
pacl=UV
pacl/UV
R)を示している。この試験では、溶解性有機物としてフミン酸とフルボ酸との混合割合を調整して添加した。
【0069】
図4は、フミン酸100%、フミン酸50%/フルボ酸50%混合、およびフルボ酸100%の3つの場合を示しており、フルボ酸混合割合により凝集処理による溶解性有機物除去性能が影響を受けることが分かる。
【0070】
したがって、凝集処理後の紫外線吸光度RUV
paclは、凝集剤注入率算出部300において、
図4の関係を用いて、下記(5)式および(6)式に従って算出される(S301)。
【0071】
RUVpacl=α×Ipacl+β・・・(5)
β=f(pHF,UVR,DOCR,FLR)・・・(6)
したがって、凝集処理後の紫外線吸光度RUVpaclは、以下のような関数として表現される。
【0072】
RUV
pacl=f(I
pacl,pH
F,UV
R,DOC
R,FL
R)・・・(6a)
ここで、I
paclは、凝集剤注入率(mg/L)、αは、注入率定数(-)、βは、
図4のI
pacl=0(mg/L)に対応する切片であり、混和池水素イオン濃度指数pH
Fと、原水の波長260(nm)の紫外線吸光度(abs/cm)であるE260
Rと、溶解性有機体炭素濃度DOC
R(mg/L)と原水の蛍光強度FL
Rとして、励起波長に対する蛍光波長の蛍光強度を用いて算出される。励起波長および蛍光波長としては、300(nm)乃至350(nm)、および波長400(nm)乃至450(nm)が好ましく、本実施形態では、特に、励起波長345(nm)および蛍光波長425(nm)とする。
【0073】
ところで、前述した(4)式において示される併用処理係数FDOMは、粉末活性炭処理と凝集処理との併用処理効果を示す係数である。
【0074】
図5は、凝集剤注入率I
paclと併用処理係数F
DOMとの関係を示す図である。
【0075】
図5に示す結果は、発明者らによる試験により得られた結果である。この試験は、粉末活性炭処理を、回転数150(rpm)で、60分急速撹拌後、pHを所定の値に調整し、凝集剤Pを添加して回転数150(rpm)で10分間急速撹拌し、回転数80(rpm)で60分緩速撹拌処理したものである。
【0076】
図示するように、併用処理係数FDOMは、添加する有機物のフミン酸とフルボ酸の混合割合により大きく変化し、フミン酸が多い場合は、併用処理の紫外線吸光度残存率RUVcar/paclの方が、粉末活性炭単独処理後の紫外線吸光度残存率RUVcarと、凝集剤単独処理後の紫外線吸光度残存率RUVpaclとを掛け合わせた値(RUVcar×RUVpacl)よりも小さく(FDOM<1)なる併用促進効果があり、フルボ酸の割合が多くなると、併用処理の紫外線吸光度残存率RUVcar/paclの方が、(RUVcar×RUVpacl)よりも大きく(FDOM≧1)なり、併用阻害効果となることが分かった。
【0077】
ここで、
図5において、フミン酸とフルボ酸の混合割合毎に併用処理係数F
DOMと凝集剤注入率I
paclの関係を下記(7)式で近似すると、混合割合毎の異なる係数fと指数nが求められる。
【0078】
F
DOM=f×I
pacl
n・・・(7)
そこで、原水A中の溶解性有機物におけるフミン酸とフルボ酸の混合割合に近い指標として下記(8)式で定義される比吸光度SUVAと、係数fとの関係を調べた結果、
図6に示すような関係が得られる(S202)。
【0079】
図6は、原水中の比吸光度SUVAと係数fとの関係を示す図である。
【0080】
SUVA=E260g/DOCR (abs・L/m・mg)・・・(8)
ここで、E260Rは原水Aの波長260(nm)における紫外線吸光度(abs/m)であり、DOCRは原水Aの溶解性有機体炭素濃度(mg/L)である。
【0081】
有機物対応活性炭注入率算出部203では、上記(3)式から(8)式の関係を用いて、次の手順で溶解性有機物質対応の粉末活性炭注入率Icar-UVが算出される(S203)。
【0082】
有機物対応活性炭注入率算出部203では、粉末活性炭注入率Icar-UVを算出するために、はじめに、目標紫外線吸光度残存率RUVTが、粉末活性炭と凝集剤の併用処理後RUVcar/paclとされ、下記(9)式および(10)式を用いて、粉末活性炭処理工程後の紫外線吸光度残存率RUVcarが算出される。
【0083】
RUVT=RUVcar/pacl=FDOM×RUVcar×RUVpacl・・・(9)
RUVcar=RUVT(FDOM×RUVpacl)・・・(10)
次に、下記(11)式に示す等温吸着式の関係を用いて、溶解性有機物質対応の粉末活性炭注入率Icar-UVが算出される。
【0084】
Icar-UV=f(KUV,RUVcar,E260R,DOCR)・・・(11)
ここで、KUVは粉末活性炭の性能と、吸着対象物質の性質とによって決まる吸着定数であり、あらかじめ調べられた上で設定される。
【0085】
このようにして、有機物対応活性炭注入率算出部203では、原水の紫外線吸光度UVRをUVDまで低減するために必要な溶解性有機物質対応の粉末活性炭注入率Icar-UVが算出される。
【0086】
次に、上記(11)式で算出された溶解性有機物質対応の粉末活性炭注入率Icar-UVを、粉末活性炭注入率Icarとした場合の臭気物質除去効果が推定される。
【0087】
図7は、粉末活性炭注入率I
carと粉末活性炭処理後臭気物質濃度残存率RC
carとの関係を示す図である。
【0088】
図8は、粉末活性炭と凝集剤の併用処理における凝集剤注入率Ipac
lと臭気物質濃度残存率RC
car/paclとの関係を示す図である。
【0089】
図7および
図8は何れも発明者らによる試験によって得られた結果であり、
図7は、臭気物質の粉末活性炭Cの単独処理による除去特性に関してなされた試験結果であり、
図8は、臭気物質の粉末活性炭Cと凝集剤Pとの併用処理による除去特性に関してなされた試験結果である。
【0090】
試験は臭気物質として水道原水でカビ臭物質として知られる2-メチルイソボルネオールを用い、さらに、共存有機物としてフミン酸とフルボ酸を混合添加した原水に対してなされ、
図7は、粉末活性炭処理を回転数150(rpm)で60分急速撹拌後の臭気物質濃度残存率RC
carと粉末活性炭注入率I
carの関係を示し、
図8は、粉末活性炭処理を回転数150(rpm)で60分急速撹拌後、pHを所定の値に調整し、凝集剤Pを添加して回転数150(rpm)で10分間急速撹拌、回転数80(rpm)で60分緩速撹拌処理後の、臭気物質濃度残存率RC
car/paclと凝集剤注入率I
paclの関係とを示している。
【0091】
図8では、凝集剤注入率I
pacl=0(mg/L)のy軸上には、凝集処理前の粉末活性炭処理後の臭気物質濃度残存率RC
car/paclが示されているが、粉末活性炭処理後の臭気物質濃度残存率RC
carに対して、凝集処理後の臭気物質濃度残存率RC
car/paclの方が大きくなる結果となった。これは、粉末活性炭処理で一旦吸着された臭気物質が、その後の凝集処理工程で放出されることを示唆しており、共存する有機物質の構成でフルボ酸の割合が多い程、放出割合が大きくなっている。
【0092】
以上の結果に基づき、併用処理後臭気物質濃度残存率推定部204では、粉末活性炭処理と凝集処理とを連続して実施する併用処理後の臭気物質濃度残存率RCcar/paclが、粉末活性炭注入率Icar(mg/L)、凝集剤注入率Ipacl(mg/L)、共存する有機物の指標である原水の波長260(nm)における紫外線吸光度E260R(abs/cm)、原水の溶解性有機体炭素濃度DOCR(mg/L)、フルボ酸を検知するために、励起波長345(nm)によって発光する425(nm)の蛍光強度FLR、および混和池水素イオン濃度指数pHFを用いて推定される(S204)。下記(12)式を参照されたい。
【0093】
RC
car/pacl=f(I
car,I
pacl,E260
R,DOC
R,FL
R,pH
F)・・・(12)
次に、
図3に戻って示すように、データ処理部200bでは、ステップS204で推定された臭気物質濃度残存率RC
car/paclと、ステップS201で算出された目標臭気物質濃度残存率RC
Tとが比較される(S205)。
【0094】
ステップS205における比較の結果、臭気物質濃度残存率RCcar/paclが目標臭気物質濃度残存率RCT以下の場合(S205:Yes)、データ処理部200bによって、粉末活性炭注入率Icarは、下記(13)式のように、ステップS203で求められた溶解性有機物除去に必要な粉末活性炭注入率Icar-UVとされる(S206)。
【0095】
Icar=Icar-UV (mg/L)・・・(13)
一方、ステップS205における比較の結果、臭気物質濃度残存率RCcar/paclの方が、目標臭気物質濃度残存率RCTよりも値が大きい場合(S205:No)、臭気対応活性炭注入率算出部207によって、下記(13a)式のRCcar/paclにRCTが代入されて、逆算によって、臭気物質除去に必要な粉末活性炭注入率Icar-Dが算出される(S207)。
【0096】
Icar-D=f(RCT,RCcar/pacl,UVR,DOCR,Ipacl) ・・・(13a)
そして、データ処理部200bによって、粉末活性炭注入率Icarは、ステップS207で求められた、臭気物質除去に必要な粉末活性炭注入率Icar-Dとされる(S208)。
【0097】
次に、活性炭注入率決定部209では、臭気物質除去に必要な粉末活性炭注入率Icar―Dと、溶解性有機物除去に必要な粉末活性炭注入率Icar―UVとのうち、値が大きい方が、吸着処理のための粉末活性炭注入率として決定され(S209)、決定された粉末活性炭注入率Icarで、粉末活性炭注入装置21が制御される。
【0098】
なお、上記の説明では、溶解性有機物質の代表指標として、260(nm)における紫外線吸光度E260の残存率RUVが用いられている。しかしながら、算出式において溶解性有機体炭素濃度や、励起波長345(nm)に対する蛍光波長425(nm)の蛍光強度が用いられているので、260(nm)における紫外線吸光度E260の残存率RUVは、原水の変動や異なる水源に対しても、溶解性有機物質の代表指標として汎用的に適用することができる。
【0099】
また、上記の説明では、臭気物質として2-メチルイソボルネオールが用いられた
図7および
図8の試験結果に基づいて算出式が導出されているが、他の臭気に対しても、臭気センサ出力と物質濃度との関係を予め把握し、2-メチルイソボルネオールに対する変換係数を用いることで同様に対応することができる。
【0100】
さらに、上記の説明では、原水の溶解性有機物質が、紫外線吸光度計12a、蛍光強度計12b、および溶解性有機体炭素濃度(DOC)計12cの3種の計器で監視されている例について記載されているが、溶解性有機体炭素濃度DOCRおよび蛍光強度FLRは、下記(14)式および(15)式に示すように、紫外線吸光度E260Rの一次関数として表現される。このため、単一の原水系で原水中の有機物構成の変動が少ない場合には、1つの代表計器である紫外線吸光度計を用いることによって、得られた紫外線吸光度E260Rから、下記(14)式および(15)式に示す換算式に従って、原水有機体炭素濃度DOCRおよび原水蛍光強度FLRを求めることによって、1つの代表計器で、他の指標の値を得ることもできる。
【0101】
DOCR=a×UVR+b・・・(14)
FLR=c×UVR+d ・・・(15)
ここで、
DOCR:原水有機体炭素濃度(mg/L)、
FLR:原水蛍光強度(-)、
UVR:原水紫外線吸光度(abs/cm)、
a:紫外線吸光度、溶解性有機体炭素濃度変換係数、
b:紫外線吸光度、溶解性有機体炭素濃度変換定数、
c:紫外線吸光度、蛍光強度変換係数、
d:紫外線吸光度、蛍光強度変換定数、
である。
【0102】
また、上述したように、粉末活性炭Cに吸着した溶解性有機物および臭気物質を、凝集剤Pによって粉末活性炭Cを捉えることで除去する場合、粉末活性炭Cの残存状態の評価指標として、波長260nmにおける紫外線吸光度E260を用いることで、適切かつ高精度の評価を実施できることができる。つまり、紫外線吸光度E260を用いて粉末活性炭Cの状態を評価した上で、粉末活性炭注入率を求めることで、原水の水質変動に追随した高精度の粉末活性炭注入率の決定、および溶解性有機物と臭気物質の除去が実現される。また結果的に、粉末活性炭の注入不足によるろ過水の溶解性有機物濃度および臭気物質の目標超過や、過剰注入による薬品費の無駄も防止される。
【0103】
上述したように、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム1は、粉炭活性炭Cと凝集剤Pとの併用によって溶解性有機物と臭気物質との両方を除去する場合、原水中臭気物質濃度CRに対する、処理後臭気物質濃度CDの比(=CD/CR)である目標臭気物質濃度残存率RCTと、原水紫外線吸光度UVRに対する、処理後紫外線吸光度UVDの比(=UVD/UVR)である目標紫外線吸光度残存率RUVTとを算出する(S201)。
【0104】
並行して、目標濁度TuD、原水濁度TuR、原水アルカリ度AlkR、水温TR、水素イオン濃度指数pHR、および混和池水素イオン濃度指数pHFに基づいて、前述した(3)式に従って、目標濁度TUDを達成するための凝集剤注入率Ipaclを算出する(S300)。
【0105】
その後、前述した(3)式から(10)式の関係、および、前述した(11)式に示す等温吸着式fから、溶解性有機物対応の粉末活性炭注入率Icar―UVを算出する(S203)。
【0106】
次に、溶解性有機物対応の粉末活性炭注入率Icar―UVを、粉末活性炭注入率Icarとし、凝集剤注入率Ipacl、紫外線吸光度E260R、溶解性有機体炭素濃度DOCR、蛍光強度FLR、および混和槽pHFに基づいて、前述した(12)式に従って、粉末活性炭と凝集剤による併用処理後臭気物質濃度残存率RCcar/paclを算出する(S204)。
【0107】
そして、併用処理後臭気物質濃度残存率RCcar/paclの値が、目標臭気物質濃度残存率RCTの値以下の場合(S205:Yes)は、粉末活性炭注入率Icarの値を、溶解性有機物対応の粉末活性炭注入率Icar―UVに設定する(S206)。
【0108】
一方、併用処理後臭気物質濃度残存率RCcar/paclの方が、目標臭気物質濃度残存率RCTよりも値が大きい場合(S205:No)は、前述した(13a)式に従って臭気物質対応の粉末活性炭注入率Icar―Dを算出し(S207)、粉末活性炭注入率Icarの値を、臭気物質対応の粉末活性炭注入率Icar―Dに設定する(S208)。
【0109】
そして、粉末活性炭注入率Icar―Dと、粉末活性炭注入率Icar―UVとのうち、値が大きい方を、吸着処理のための粉末活性炭注入率として決定し(S209)、決定した粉末活性炭注入率Icarで、粉末活性炭注入装置21を制御することができる。
【0110】
このように、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによれば、溶解性有機物除去と臭気物質除去に対する粉末活性炭Cと凝集剤Pの併用効果を考慮した粉末活性炭注入を行うことで、処理水の水質の変化に応じて、粉末活性炭Cの注入率Icarが最適値になるように制御することができる。
【0111】
これによって、無駄な粉末活性炭Cの注入が抑制されるので、従来まで注入を必要とされてきた粉末活性炭Cの量の大幅な削減を図りながら、かつ、粉末活性炭Cの注入不足によるろ過水の溶解性有機物濃度および臭気物質の目標超過や、過剰注入による薬品費の無駄も回避することによって、経済性に優れた水処理を実現することが可能となる。
【0112】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムについて説明する。
【0113】
本実施形態では、第1の実施形態と同一部位については、同一符号を用いることによって、重複説明を避ける。
【0114】
図9は、第2の実施形態の水処理システムにおける凝集剤注入率算出部の構成例を示すブロック図である。
【0115】
凝集剤注入率算出部300は、データ受信部300a、データ処理部300b、臭気物質濃度残存率推定部302、凝集剤注入率算出部304、および凝集剤注入率決定部306を有する。
【0116】
データ受信部300aは、水質計器セット10、臭気センサ11からの測定データ、およびpH測定器14からの測定データを受信する。
【0117】
データ処理部300bは、データ受信部300aによって受信されたこれらデータをデータ受信部300aから受け取るとともに、受け取ったデータを使って、必要な演算等のデータ処理を行い、この結果も格納する。このようにしてデータ処理部300bに格納されたデータ(データ受信部300aからのデータと、データ処理部300bでなされたデータ処理の結果)は、臭気物質濃度残存率推定部302、凝集剤注入率算出部304、および凝集剤注入率決定部306による使用が可能となる。
【0118】
また、データ処理部300bへは、臭気物質濃度残存率推定部302、凝集剤注入率算出部304、および凝集剤注入率決定部306によって演算された結果も送られる。これによって、臭気物質濃度残存率推定部302、凝集剤注入率算出部304、および凝集剤注入率決定部306によって演算された結果は、臭気物質濃度残存率推定部302、凝集剤注入率算出部304、および凝集剤注入率決定部306によって共有される。
【0119】
臭気物質濃度残存率推定部302は、凝集沈澱処理における原水に対する目標臭気物質濃度CDを、臭気物質濃度CRで除して得られる目標臭気物質濃度残存率RCT(=CD/CR)に基づき算出される、溶解性有機物の吸着処理のために原水に注入する粉末活性炭Cの注入率である粉末活性炭注入率Icarと、紫外線吸光度E260Rを、溶解性有機体炭素濃度DOCRで除して得られる比吸光度SUVA(=E260R/DOCR)と、前述した(3)式に従って得られた凝集剤注入率Ipaclとを用いて、前述した(12)式に従って、粉末活性炭と凝集剤とが併用処理された後の、原水A中の臭気物質濃度残存率推定値RCcar/paclを算出する。
【0120】
凝集剤注入率算出部304は、臭気物質濃度残存率推定値RCcar/paclの方が、目標臭気物質濃度残存率RCTよりも値が大きい場合、予め設定された、併用処理による臭気物質濃度残存率特性予測式(Ipacl-D=f(RCT,RCcar/pacl,UVR,DOCR,Icar-UV))を用いて、臭気物質濃度残存率推定値RCcar/paclを、目標臭気物質濃度残存率RCTと一致させるのに必要な凝集剤注入率である凝集剤注入率Ipacl-Dを算出する。
【0121】
凝集剤注入率決定部306は、凝集剤注入率Ipaclの値が、凝集剤注入率Ipacl-Dの値以上である場合(Ipacl-D≦Ipacl)、凝集剤注入率Ipaclの値を、凝集沈澱における凝集剤注入率とし、逆に、凝集剤注入率Ipaclよりも、凝集剤注入率Ipacl-Dの方が、値が大きい場合(Ipacl-D>Ipacl)、凝集剤注入率Ipacl-Dの値を、凝集沈澱における凝集剤注入率とする。
【0122】
次に、以上のように構成した第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例について説明する。
【0123】
図10は、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによる処理の流れを示す図である。
【0124】
本実施形態における処理の流れは、第1の実施形態と、溶解性有機物対応粉末活性炭注入率で臭気物質除去が不十分な場合の対応が異なるが、それ以外は同じであるので、
図10では、
図3と同一の処理部位には、同じステップ番号を付している。
【0125】
したがって、以下では、
図3と異なる点について説明する。
【0126】
本実施形態では、第1の実施形態とは異なり、ステップS203において算出された溶解性有機物質対応の粉末活性炭注入率Icar-UVで、粉末活性炭注入装置21が制御される。
【0127】
また、本実施形態では、臭気物質濃度残存率推定部302において、粉末活性炭Cと凝集剤Pとが併用処理された後の、原水A中の臭気物質濃度残存率推定値RCcar/paclが算出される(S204a)。算出方法の詳細は、ステップS204で説明した通りである。
【0128】
また、本実施形態では、第1の実施形態とは異なり、ステップS205においてRCcar/paclがRCT以下の場合(S205:Yes)、ステップS300で算出された凝集剤注入率Ipaclで、凝集剤注入装置31が制御される(S218:Yes、S219)。
【0129】
一方、ステップS205において、RCcar/pac
lが、RCTよりも値が大きい場合(S205:No)、凝集剤注入率算出部304によって、
図8の凝集剤注入率Ipac
lと併用処理後臭気物質濃度残存率RCcar/pac
lの関係に従い、併用処理による臭気物質濃度残存率特性予測式(I
pacl-D=f(RC
T,RC
car/pacl,UV
R,DOC
R,I
car-UV))を用いて、RCcar/pac
lが目標臭気物質濃度残存率RCTと一致する臭気物質対応の凝集剤注入率Ipac
l-Dが算出される(S217)。算出された臭気物質対応の凝集剤注入率Ipac
l-Dは、データ処理部300bへ送られ、データ処理部300bで保持される。また、データ処理部300bには、ステップS300で算出された凝集剤注入率Ipac
lも保持されている。
【0130】
ステップS217の後、ステップS218では、データ処理部300bに保持されている臭気物質対応の凝集剤注入率Ipacl-Dの値と、凝集剤注入率Ipaclの値とが、凝集剤注入率決定部306によって比較される。そして、凝集剤注入率Ipaclの値が、臭気物質対応の凝集剤注入率Ipacl-Dの値以上である場合(S218:Yes)、凝集剤注入率Ipaclの値が、凝集沈澱における凝集剤注入率とされ、凝集剤注入率Ipaclの値によって凝集剤注入装置31が制御される(S219)。一方、凝集剤注入率Ipaclよりも、臭気物質対応の凝集剤注入率Ipacl-Dの方が、値が大きい場合(S218:No)、臭気物質対応の凝集剤注入率Ipacl-Dの値が凝集沈澱における凝集剤注入率とされ、凝集剤注入率Ipacl-Dの値によって凝集剤注入装置31が制御される(S220)。
【0131】
上述したように、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによれば、溶解性有機物対応の粉末活性炭注入率Icar-UVでは臭気物質の除去が不十分な場合、単価の高い粉末活性炭Cの注入率を増加させず、比較的安価な凝集剤Pの注入率を増加することで臭気物質濃度残存率を低減することができるため、過度な薬品費の上昇を抑えることが可能となる。また、粉末活性炭Cの注入率を最低限にできるので、汚泥の発生量を減らし、その処分コストの増加も抑制することが可能となる。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0133】
1・・水処理システム、2・・水処理装置、3・・水処理施設、10・・水質計器セット、10a・・濁度計、10b・・アルカリ度計、10c・・水温計、10d・・pH計、11・・臭気センサ、12・・溶解性有機物指標計器セット、12a・・紫外線吸光度計、12b・・蛍光強度計、12c・・溶解性有機体炭素濃度(DOC)計、13・・流量計、14・・pH測定器、15・・ろ過水紫外線透過率計、20・・着水井、21・・粉末活性炭注入装置、22・・次亜塩素酸ナトリウム注入装置、23・・酸化剤注入装置、30・・凝集剤混和池、31・・凝集剤注入装置、32・・撹拌機、40・・フロック形成池、40a・・撹拌池、40b・・撹拌池、50・・沈澱池、60・・ろ過池、60a・・ろ過層、61・・アルカリ剤注入装置、70・・浄水池、71・・次亜塩素酸ナトリウム注入装置、72・・アルカリ剤注入装置、80・・水道水質計器セット、80a・・濁・色度センサ、80b・・残塩濃度センサ、80c・・pHセンサ、80d・・水温センサ、91・・配管、92・・配管、100・・処理水質目標設定部、200、200A・・活性炭注入率算出部、200a・・データ受信部、200b・・データ処理部、203・・有機物対応活性炭注入率算出部、204・・併用処理後臭気物質濃度残存率推定部、204a・・臭気物質濃度残存率推定部、207・・臭気対応活性炭注入率算出部、209・・活性炭注入率決定部、230・・臭気物質濃度残存率算出部、230・・臭気物質濃度残存率算出部、240・・臭気物質濃度残存率更新部、300・・凝集剤注入率算出部、300a・・データ受信部、300b・・データ処理部、302・・臭気物質濃度残存率推定部、304・・凝集剤注入率算出部、306・・凝集剤注入率決定部