(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】医療用成形体
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20241111BHJP
A61J 1/06 20060101ALI20241111BHJP
C08F 297/04 20060101ALI20241111BHJP
C08F 8/04 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61J1/06 A
C08F297/04
C08F8/04
(21)【出願番号】P 2020131721
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053150(JP,A)
【文献】特開2018-070784(JP,A)
【文献】特開2000-265019(JP,A)
【文献】特開2004-137314(JP,A)
【文献】特開2014-133848(JP,A)
【文献】特開2014-105285(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080202(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/033876(WO,A1)
【文献】特表2002-540230(JP,A)
【文献】特開平07-062046(JP,A)
【文献】特開平05-317411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 297/04
C08F 8/04
A61J 1/05
A61J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)からなる医療用成形体であって、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有
し、
該水素化ブロックコポリマーがペンタブロックコポリマーを含み、
前記環状ポリオレフィン(A)の重量平均分子量が51,000以上75,000以下であ
り、
前記環状ポリオレフィン(A)の曲げ弾性率は、1900MPa以上3000MPa以下である医療用成形体。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、請求項1に記載の医療用成形体。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項1又は2のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項4】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項5】
プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジとして用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、低吸着性、耐放射線性の優れた医療用成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネンを開環重合し、水素添加した環状ポリオレフィン(以下「COP」と称する。)からなる医療用成形体は透明性及び低吸着性が優れた医療用成形体として知られている(特許文献1)。
また、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体や、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体である環状ポリオレフィンコポリマー(以下「COC」と称する。)や、COPからなる医療用成形体は、透明且つ蛋白質低吸着医療用容器として知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-317411号公報
【文献】特開2006-116345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記COPやCOCは耐放射線性が悪く、放射線滅菌での色相変化が大きく、放射線滅菌への適用は困難である。また、医薬品を安定化させるために医療用成形体に対する更なる低吸着性の要求が必要となっている。
本発明者の検討によれば、今後の医療用成形体、例えば、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類への適用には、透明性を維持し、低吸着性、耐放射線性を向上する必要があることが見出されている。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、透明性、低吸着性、耐放射線性の優れた医療用成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィンを用いることで透明性、低吸着性、耐放射線性に優れた医療用成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1]環状ポリオレフィン(A)からなる医療用成形体であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、医療用成形体。
【0007】
[2]前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、[1]に記載の医療用成形体。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【0008】
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
[5]プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジとして用いられる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる特定の環状ポリオレフィンからなる医療用成形体は、透明性、低吸着性、耐放射線性に優れ、医療用成形体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0011】
本願に係る発明は、特定の環状ポリオレフィン(A)からなる医療用成形体についての発明である。
【0012】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、水素化ブロックコポリマーである。
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0013】
尚、「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0014】
前記芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0015】
【0016】
一般式(1)において、Rは水素又はアルキル基である。
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
これらの内、Rは水素が好ましい。
【0017】
一般式(1)において、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
これらの内、Arはフェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0018】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0019】
前記共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよい。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられ、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0020】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0021】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0022】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して30~80モル%であり、好ましくは40~75モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがない。
【0023】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して20~70モル%であり、好ましくは25~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0024】
尚、本願発明において、環状ポリオレフィンの「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0025】
水素化ブロックコポリマーは、SBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、ペンタブロック等のマルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0026】
水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0027】
前記水素化ブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは、例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0028】
水素化ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
【0029】
ここで、環状ポリオレフィン(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0030】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、透明性、低吸着性、耐放射線性のために好ましい。
環状ポリオレフィン(A)の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0031】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のMFRは、成形方法や成形体の外観の観点から0.1g/10分以上が好ましく、0.2g/10分以上がより好ましい。また材料強度の観点から200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、50g/10分以下が更に好ましい。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0032】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0033】
<その他の成分>
本発明の医療用成形体には、その他の成分として、樹脂に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0034】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、環状ポリオレフィン(A)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
【0035】
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0036】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて環状ポリオレフィン(A)に添加してもよいし、環状ポリオレフィン(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。その場合、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
溶融混練する方法の中では、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましく、通常180~320℃、好ましくは220~300℃に加熱した状態で溶融混練する。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0037】
<医療用成形体及びその製造方法>
本発明の環状ポリオレフィン(A)、又は、環状ポリオレフィン(A)にその他の成分を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、各種医療用成形体を得ることができる。
成形方法としては、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して医療用成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は200~320℃であり、好ましくは220~300℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃であり、より好ましくは50~95℃である。
【0038】
<用途>
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類等に好適に使用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0040】
[物性]
<環状ポリオレフィン(A)のポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h4/p-ジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0041】
<水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・環状ポリオレフィン(A)の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・環状ポリオレフィン(A)の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0042】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0043】
<曲げ弾性率>
射出成形機(日本製鋼所社製 射出成型機 J110AD)を用いて、シリンダー温度220~290℃、金型温度50~90℃にて、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO178に準拠してスパン間64mm、曲げ速度2mm/分で、剛性の指標である曲げ弾性率を測定した。
医療用成形体の種類によって求められる曲げ弾性率は異なるが、一般的に100~3000MPaであり、200~2800MPaが好ましく、300~2500MPaがより好ましい。
【0044】
<ヘーズ>
射出成形機(日本製鋼所社製 射出成型機 J110AD)を用いて、シリンダー温度220~290℃、金型温度50~90℃にて、厚さ2mm×幅100mm×長さ100mmの試験片を成形し、ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
ヘーズの値は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下が更に好ましい。値が小さいほど透明性に優れる。
【0045】
<吸着量>
試験対象のポリマーを溶剤であるシクロヘキサンに溶解して、ポリマー濃度0.1質量%の溶液を調製する。この溶液を水晶発振子マイクロバランス法装置のセンサーチップ上に、単位面積当たりのポリマー塗布量が20.7~62ng/mm2となるようにスピンコートし、80℃15分間乾燥して、ポリマーをセンサーチップ上に固定化する。
尚、再現性が得られるように、センサーチップ表面を予め洗浄処理しておく。例えば、波長172nmのエキシマ光を照射して洗浄する方法、ピランハ溶液をセンサーチップ表面上に滴下し、5~10分静置した後、純水で洗浄する方法を用いることができる。
吸着性評価成分としてアルブミン(ウシ由来,BSA)をリン酸緩衝液(水99.0435質量%、塩化ナトリウム0.9質量%、リン酸水素二ナトリウム0.0421質量%、リン酸二水素カリウム0.0144質量%、pHは7.1~7.3)に、所定濃度となるように溶解して試験液とする。試験液は10,000、30,000(単位は質量ppm)の2種類とする。
【0046】
センサーチップの表面を前記リン酸緩衝液中に12時間以上浸漬することで安定化させた後、再度、規定量の前記リン酸緩衝液中でセンサーを水晶発振子マイクロバランス法装置にセッティングし、発信周波数計測を開始する。30分~1時間程度、発信周波数を安定化させた後、15分毎に前記試験液を滴下する。1回の滴下量は1~5μLとする。発信周波数の測定データから、センサーへのアルブミンの吸着量を算出する。測定データの解析は解析ソフトを用いて行なうことができる。
試験液を滴下した系内のアルブミン濃度と、センサーへの吸着量との相関を表すグラフから、アルブミン1100ppm濃度(質量基準)における、センサー面積(4.8cm2)当たりのアルブミン吸着量を求める。
低吸着性の指標である吸着量は500ppm以下が好ましく、450ppm以下がより好ましい。薬剤又は蛋白質の種類や濃度によって、吸着量は異なるが、その値は低い方がより好ましい。
【0047】
<放射線照射前後の色差>
射出成形機(日本製鋼所社製 射出成型機 J110AD)を用いて、シリンダー温度220~290℃、金型温度50~90℃にて、厚さ2mm×幅100mm×長さ100mmの試験片を成形し、日本照射サービス(株)にて、それらの試験片に対して平均照射量がそれぞれ25及び50kGyとなるように放射線を照射した。
色差計(日本電色工業社製 Color Meter ZE2000)にて、耐放射線性の指標である放射線照射前後の色差(ΔE)を測定した。色差(ΔE)の値は6%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下が更に好ましい。値が小さいほど透明性に優れる。
【0048】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A-1)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC930
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・曲げ弾性率:2300MPa
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:72,000
【0049】
<環状ポリオレフィン(A-2)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC931
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):35g/10分
・曲げ弾性率:2100MPa
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率60モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率40モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:51,000
【0050】
<環状ポリオレフィン(A-3)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC932
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):0.5g/10分
・曲げ弾性率:1900MPa
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル98.7%の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.2%
・Mw:75,000
【0051】
<ノルボルネンを開環重合し、水素添加した環状ポリオレフィン(b-1)>
日本ゼオン(株)製 ZEONEX(商標登録)690R
・密度(ASTM D792):1.01g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1.4g/10分
・曲げ弾性率:2400MPa
b-1は芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有さず、本発明の環状ポリオレフィン(A)に該当しない環状ポリオレフィンである。
【0052】
<実施例1>
環状ポリオレフィン(A-1)を上記の各評価方法に記載の方法で成形し、上記方法にてヘーズ、吸着量、放射線照射前後の色差を測定した。評価結果を表1に示す。
【0053】
<実施例2、3、比較例1>
環状ポリオレフィンA-2、A-3及びb-1を用い、実施例1と同様にして各種物性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
表1より、本発明に該当する実施例1~3は透明性、低吸着性、耐放射線性に優れることがわかった。
これに対して、本発明の環状ポリオレフィン(A)に該当しない環状ポリオレフィンは低吸着性が劣り、耐放射線性が大幅に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類として非常に有用である。