(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】造林成果シミュレーション方法、造林成果シミュレーション装置および造林成果シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241111BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241111BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
A01K29/00 A
(21)【出願番号】P 2020192565
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年12月10日に令和元年度鳥獣被害対策コーディネーター育成研修にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】515072358
【氏名又は名称】株式会社野生鳥獣対策連携センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】坂田 宏志
【審査官】塚田 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-252310(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
A01G 7/00
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造林成果シミュレーション装置の入力部が、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による前記植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データ
の入力を受け付けるステップと、
前記造林成果シミュレーション装置の制御部が、前記入力データに基づいて、前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害を
計算し、計算した前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップと、を備える、造林成果シミュレーション方法。
【請求項2】
前記入力データは、前記野生動物に対する防護に関するデータをさらに含み、
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記入力データに基づいて、前記植栽木の成長と、前記野生動物による植栽木の被害とに加えて、前記野生動物に対する防護の効果を
計算し、計算した前記植栽木の成長、前記野生動物による植栽木の被害とに加えて、計算した前記野生動物に対する防護の効果に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップを含む、請求項1に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項3】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記野生動物による植栽木の被害量を
計算するステップを含む、請求項1または2に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項4】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、確率密度関数により、前記野生動物による植栽木の被害量を
計算するステップを含む、請求項3に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項5】
前記確率密度関数は、前記野生動物が前記植栽木の新しく成長した部分を加害する確率を高く見積もる関数として設定されている、請求項4に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項6】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、少なくとも前記植栽木の現在の樹高に基づいて、前記野生動物による植栽木の被害量を
計算するステップを含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項7】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の樹高をシミュレーションするステップと、
前記制御部が、前記植栽木の枯死および成長に反映させるための前記植栽木の樹勢をシミュレーションするステップと、を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項8】
前記植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、前記植栽木の樹高の成長量を
計算するステップを含み、
前記植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の現在の樹勢に基づいて、前記植栽木の樹勢の成長量を
計算するステップを含む、請求項7に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項9】
前記植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、前記野生動物による植栽木の樹高の被害量を
計算するステップを含み、
前記植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、少なくとも前記植栽木の現在の樹高に基づいて、前記野生動物による植栽木の樹勢の被害量を
計算するステップを含む、請求項7または8に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項10】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記野生動物による植栽木の被害量および被害確率を取得するとともに、前記被害確率に基づいて、前記被害量を調整するステップを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項11】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の密度、および、前記野生動物の造林地への侵入の程度を表す侵入指数に基づいて、前記被害確率を
計算するステップを含む、請求項10に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項12】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の密度、前記野生動物の密度、および、前記野生動物に対する防護の効果に基づいて、前記被害確率を
計算するステップを含む、請求項10に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項13】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の密度および前記野生動物の造林地への侵入の程度を表す侵入指数、または、前記植栽木の密度、前記野生動物の密度および前記野生動物に対する防護の効果に加えて、下層植生の影響にも基づいて、前記被害確率を
計算するステップを含む、請求項11または12に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項14】
前記造林成果をシミュレーションするステップは、
前記制御部が、前記植栽木の1本ごとに前記造林成果をシミュレーションするステップを含み、
前記制御部が、前記植栽木の1本ごとの枯死の有無、および、前記植栽木の1本ごとの樹高を出力する、請求項1~13のいずれか1項に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項15】
前記制御部が、前記植栽木の枯死率、前記植栽木の平均樹高、前記植栽木の樹高の頻度分布、前記植栽木の樹高の空間分布、および、前記植栽木の材積量のうちの少なくとも1つを、前記造林成果として出力するステップをさらに備える、請求項1~14のいずれか1項に記載の造林成果シミュレーション方法。
【請求項16】
植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による前記植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データ
の入力を受け付ける入力部と、
前記入力データに基づいて、前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害を
計算し、計算した前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御部と、を備える、造林成果シミュレーション装置。
【請求項17】
コンピュータを、
植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による前記植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データに基づいて、前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害を
計算し、計算した前記植栽木の成長および前記野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御手段として機能させるための造林成果シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、造林成果シミュレーション方法、造林成果シミュレーション装置および造林成果シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、森林を伐採し造林する場合において野生動物による植栽木の被害(食害)が発生することが知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記非特許文献1には、森林を伐採し造林する場合における野生動物(二ホンジカ)による植栽木の被害(食害)の発生が記載されている。上記非特許文献1には、野生動物による植栽木の枝葉の採食が、植栽木の成長、樹形および形質に影響を及ぼし、植栽木の生死に関わるため、造林地の成林に影響することが記載されている。
【0004】
また、上記非特許文献1には明記されていないが、従来、造林成果の費用対効果を予測するために、造林成果のシミュレーションが行われている。従来の造林成果のシミュレーションでは、予め知られている植栽木の成長曲線に基づいて、造林成果のシミュレーションが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】渡邉仁志、茂木靖和、岡本卓也、「2年生ヒノキ造林地の樹高と下刈り省略がシカ食害に及ぼす影響」、日本緑化工学会誌、2013年、39巻、2号、264~267頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の造林成果のシミュレーションでは、単に植栽木の成長曲線に基づいて造林成果のシミュレーションを行うだけであるため、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測を行うことが困難であるという不都合がある。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合に、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことが可能な造林成果シミュレーション方法、造林成果シミュレーション装置および造林成果シミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明の第1の局面による造林成果シミュレーション方法は、造林成果シミュレーション装置の入力部が、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データの入力を受け付けるステップと、造林成果シミュレーション装置の制御部が、入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップと、を備える。
【0009】
この発明の第1の局面による造林成果シミュレーション方法では、上記のように、造林成果シミュレーション装置の入力部が、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データの入力を受け付けるステップと、造林成果シミュレーション装置の制御部が、入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップと、を設ける。これにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測を行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0010】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、入力データは、野生動物に対する防護に関するデータをさらに含み、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、入力データに基づいて、植栽木の成長と、野生動物による植栽木の被害とに加えて、野生動物に対する防護の効果を計算し、計算した植栽木の成長、野生動物による植栽木の被害とに加えて、計算した野生動物に対する防護の効果に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップを含む。ここで、造林地では、通常、野生動物の造林地への侵入を防ぐことにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を防ぐための防護柵などが設置されている。そこで、上記のように構成すれば、防護柵などによる野生動物に対する防護の効果(被害の低減効果)をさらに考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測をより正確に行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0011】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、野生動物による植栽木の被害量を計算するステップを含む。このように構成すれば、野生動物による植栽木の被害量に基づいて、植栽木が野生動物による被害を受けた場合にどの程度の被害量になるかを考慮して造林成果をシミュレーションすることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、確率密度関数により、野生動物による植栽木の被害量を計算するステップを含む。このように構成すれば、野生動物による植栽木の被害量が大きくなりやすい所定の条件の確率を高く見積もるように確率密度関数を設定することにより、野生動物による植栽木の被害量を精度よく取得することができる。
【0013】
上記確率密度関数により野生動物による植栽木の被害量を取得する構成において、好ましくは、確率密度関数は、野生動物が植栽木の新しく成長した部分を加害する確率を高く見積もる関数として設定されている。このように構成すれば、野生動物が、植栽木の新しく成長した柔らかい葉の部分を好んで食べるという性質を利用(反映)して、確率密度関数により、野生動物による植栽木の被害量をより精度よく取得することができる。
【0014】
上記野生動物による植栽木の被害量を取得する構成において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、野生動物による植栽木の被害量を計算するステップを含む。このように構成すれば、現在の樹高に基づいて、樹高が高いほど野生動物による植栽木の被害の影響が大きく、樹高が低いほど野生動物による植栽木の被害の影響が小さいことを考慮して被害量を取得することができる。その結果、野生動物による植栽木の被害量を精度よく取得することができる。
【0015】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の樹高をシミュレーションするステップと、制御部が、植栽木の枯死および成長に反映させるための植栽木の樹勢をシミュレーションするステップと、を含む。このように構成すれば、植栽木の樹高と、植栽木の枯死および成長に関する樹勢とを独立してシミュレーションすることができるので、樹高が低くても樹勢が強いためになかなか枯死しない植栽木、および、樹高が高くても樹勢が弱いためにいきなり枯死する植栽木などを考慮したシミュレーションを行うことができる。また、同じ樹高でも、過去の成長および被害の蓄積などを反映した樹勢により、その後の成長の仕方を異なるものにすることができる。これらの結果、造林成果をより精度よくシミュレーションすることができる。
【0016】
この場合、植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、植栽木の樹高の成長量を計算するステップを含み、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の現在の樹勢に基づいて、植栽木の樹勢の成長量を計算するステップを含む。このように構成すれば、現在の樹高だけでなく現在の樹勢にも基づいて、樹勢が強いほど植栽木が成長しやすく(樹高が高くなりやすく)、樹勢が弱いほど植栽木が成長しにくい(樹高が高くなりにくい)ことを考慮して樹高の成長量を取得することができる。その結果、樹高の成長量を精度よく取得することができる。また、現在の樹勢に基づいて、樹勢の成長量を精度よく取得することができる。
【0017】
上記植栽木の樹高をシミュレーションするとともに、植栽木の樹勢をシミュレーションする構成において、好ましくは、植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、野生動物による植栽木の樹高の被害量を計算するステップを含み、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、制御部が、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、野生動物による植栽木の樹勢の被害量を計算するステップを含む。このように構成すれば、野生動物による植栽木の樹高の被害量および樹勢の被害量を独立して取得することができるので、野生動物による植栽木の被害の樹高への影響および樹勢への影響が異なることを考慮したシミュレーションを行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害を考慮して造林成果をより一層精度よくシミュレーションすることができる。
【0018】
また、植栽木の樹高をシミュレーションするステップでは、現在の樹高に基づいて、樹高が高ければ野生動物の口が届きにくいことから野生動物により頂芽を食べられにくく(被害量が小さく)、樹高が低ければ野生動物の口が届きやすいことから野生動物により頂芽を食べられやすく(被害量が大きく)なることを考慮して被害量を取得することができる。また、現在の樹勢に基づいて、樹勢が弱ければ新芽が少なくなることから野生動物により食べられにくく(被害量が小さく)、樹勢が強ければ新芽(食べられやすい部分)が多くなることから野生動物により食べられやすく(被害量が大きく)なることを考慮して被害量を取得することができる。これらの結果、樹高の被害量を精度よく取得することができる。
【0019】
また、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップでは、現在の樹高に基づいて、樹高が高いほど植栽木の成長が悪くなりにくく植栽木が枯死しにくく(被害量が小さく)、樹高が低いほど植栽木の成長が悪くなりやすく枯死しやすい(被害量が大きい)ことを考慮して被害量を取得することができる。その結果、樹勢の被害量を精度よく取得することができる。
【0020】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を取得するとともに、被害確率に基づいて、被害量を調整するステップを含む。このように構成すれば、野生動物による植栽木の被害確率に基づいて、植栽木が野生動物による被害を受けるか否かを考慮して造林成果をシミュレーションすることができる。また、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を独立して取得することができるので、被害量および被害確率にそれぞれ異なる要因が影響していることを考慮したシミュレーションを行うことができる。また、被害確率を考慮して被害量を調整することができるので、被害量をより精度よく取得することができる。これらの結果、野生動物による植栽木の被害を考慮して造林成果をより一層精度よくシミュレーションすることができる。
【0021】
上記野生動物による植栽木の被害確率を取得する構成において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の密度、および、野生動物の造林地への侵入の程度を表す侵入指数に基づいて、被害確率を計算するステップを含む。このように構成すれば、植栽木の密度に基づいて、周りの植栽木が多いほど(植栽木の密度が高いほど)個々の植栽木が野生動物のターゲットになりにくく(被害確率が小さく)、周りの植栽木が減るほど(植栽木の密度が低いほど)、個々の植栽木が野生動物のターゲットになりやすい(被害確率が大きい)ことを考慮して被害確率を取得することができる。また、侵入指数に基づいて、野生動物が造林地へ侵入しにくいほど(侵入指数が低いほど)植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、野生動物が造林地へ侵入しやすいほど(侵入指数が高いほど)植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。これらの結果、被害確率を精度よく取得することができる。
【0022】
上記野生動物による植栽木の被害確率を取得する構成において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の密度、野生動物の密度、および、野生動物に対する防護の効果に基づいて、被害確率を計算するステップを含む。このように構成すれば、植栽木の密度に基づいて、周りの植栽木が多いほど(植栽木の密度が高いほど)個々の植栽木が野生動物のターゲットになりにくく(被害確率が小さく)、周りの植栽木が減るほど(植栽木の密度が低いほど)、個々の植栽木が野生動物のターゲットになりやすい(被害確率が大きい)ことを考慮して被害確率を取得することができる。また、野生動物の密度に基づいて、造林地の野生動物が少ないほど(野生動物の密度が低いほど)植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、造林地の野生動物が多いほど(野生動物の密度が高いほど)植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。また、野生動物に対する防護の効果に基づいて、野生動物に対する防護の効果が高いほど植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、野生動物に対する防護の効果が低いほど植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。
【0023】
上記野生動物による植栽木の被害確率を取得する構成において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の密度および野生動物の造林地への侵入の程度を表す侵入指数、または、植栽木の密度、野生動物の密度および野生動物に対する防護の効果に加えて、下層植生の影響にも基づいて、被害確率を計算するステップを含む。このように構成すれば、野生動物が嗜好する下層植生が多いほど野生動物による被害(食害)が発生しにくいことを考慮して、被害確率を精度よく取得することができる。
【0024】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、造林成果をシミュレーションするステップは、制御部が、植栽木の1本ごとに造林成果をシミュレーションするステップを含み、制御部が、植栽木の1本ごとの枯死の有無、および、植栽木の1本ごとの樹高を出力する。このように構成すれば、植栽木の1本ごとに枯死の有無および樹高の造林成果を取得することができるので、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより一層正確に行うことができる。
【0025】
上記第1の局面による造林成果シミュレーション方法において、好ましくは、制御部が、植栽木の枯死率、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量のうちの少なくとも1つを、造林成果として出力するステップをさらに備える。このように構成すれば、植栽木の枯死率、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量のうちの少なくとも1つに基づいて、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0026】
この発明の第2の局面による造林成果シミュレーション装置は、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データの入力を受け付ける入力部と、入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御部と、を備える。
【0027】
この発明の第2の局面による造林成果シミュレーション装置では、上記のように、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データの入力を受け付ける入力部と、入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御部と、を設ける。これにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測を行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことが可能な造林成果シミュレーション装置を提供することができる。
【0028】
この発明の第3の局面による造林成果シミュレーションプログラムは、コンピュータを、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御手段として機能させる。
【0029】
この発明の第3の局面による造林成果シミュレーションプログラムでは、上記のように、コンピュータを、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を計算し、計算した植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害に基づいて、時系列的に造林成果をシミュレーションする制御手段として機能させる。これにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測を行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことが可能な造林成果シミュレーションプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、上記のように、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態による造林成果シミュレーション装置の構成を示したブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による造林成果シミュレーション装置により行われるシミュレーション結果を説明するための図である。
【
図3】本発明の一実施形態による樹高被害量の計算結果の一例を説明するためのグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態による樹高被害量における樹高の影響の計算結果の一例を説明するためのグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態による樹高被害量の計算結果の一例を説明するためのグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態による樹勢被害量における樹高の影響の計算結果の一例を説明するためのグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態による防護柵の効果の計算結果の一例を説明するためのグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態による造林成果シミュレーションを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
(造林成果シミュレーション装置の構成)
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態による造林成果シミュレーション装置100の構成について説明する。
【0034】
本発明の一実施形態による造林成果シミュレーション装置100は、野生動物(シカなど)の影響を考慮して、植栽木(スギおよびヒノキなど)の造林成果をシミュレーションする装置である。なお、造林成果シミュレーション装置100は、特許請求の範囲の「コンピュータ」の一例である。
【0035】
図1に示すように、造林成果シミュレーション装置100は、たとえば、パーソナルコンピュータである。造林成果シミュレーション装置100は、たとえば、ユーザから造林成果のシミュレーションの依頼を受けた作業者により操作される。また、造林成果シミュレーション装置100は、表示部11と、入力部12と、記憶部13と、制御部14とを備えている。
【0036】
表示部11は、たとえば液晶モニタであり、情報を表示可能に構成されている。表示部11は、たとえば、造林成果のシミュレーション結果を表示するように構成されている。
【0037】
入力部12は、たとえばマウスおよびキーボードであり、情報を入力可能に構成されている。入力部12は、たとえば、植栽木の成長に関するデータ、野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータ、および、野生動物に対する防護に関するデータなどを含む入力データを入力するように構成されている。
【0038】
記憶部13は、たとえばハードディスクドライブを含む記憶媒体であり、情報を記憶可能に構成されている。記憶部13には、造林成果シミュレーションプログラム13aなどの制御部17に実行させる複数のコンピュータプログラムがインストールされている。
【0039】
造林成果シミュレーションプログラム13aは、たとえば、造林成果シミュレーション装置100で作成して記憶部13に保存することが可能である。また、たとえば、造林成果シミュレーションプログラム13aは、光ディスクおよびUSBメモリなどの非一過性の可搬型記憶媒体から読み出すか、または、ネットワークを介してダウンロードすることにより、記憶部13に保存することが可能である。
【0040】
制御部14は、たとえばCPUなどのプロセッサを含む制御回路であり、造林成果シミュレーション装置100の各部を制御可能に構成されている。制御部14は、造林成果シミュレーションプログラム13aを実行することにより、造林成果シミュレーションを実行する制御手段14aとして機能する。
【0041】
ここで、本実施形態では、制御部14は、入力部12により入力された入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を考慮して、時系列的に造林成果をシミュレーションするように構成されている。具体的には、制御部14は、入力データに基づいて、植栽木の成長と、野生動物による植栽木の被害とに加えて、野生動物に対する防護の効果を考慮して、時系列的に造林成果をシミュレーションするように構成されている。より具体的には、制御部14は、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を取得するように構成されている。制御部14は、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、野生動物による植栽木の被害量を取得するように構成されている。なお、被害量および被害確率に基づく造林成果のシミュレーションの詳細については、後述する。
【0042】
また、本実施形態では、
図2に示すように、制御部14は、植栽木の1本ごとに造林成果をシミュレーションするように構成されている。また、制御部14は、所定期間ごと(たとえば、1カ月ごと)の造林成果をシミュレーションするように構成されている。また、制御部14は、植栽木の1本ごとの枯死の有無、植栽木の枯死率、植栽木の1本ごとの樹高、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量(体積)などを、造林成果として出力するように構成されている。
【0043】
また、本実施形態では、制御部14は、造林成果のシミュレーションにおいて、植栽木の樹高のシミュレーションと、植栽木の枯死および成長に反映させるための植栽木の樹勢のシミュレーションとを行うように構成されている。また、制御部14は、野生動物による植栽木の樹高の被害量を取得するとともに、樹高の被害量に基づいて、植栽木の樹高をシミュレーションするように構成されている。また、制御部14は、野生動物による植栽木の樹勢の被害量を取得するとともに、樹勢の被害量に基づいて、植栽木の樹勢をシミュレーションするように構成されている。
【0044】
(樹高シミュレーション)
樹高シミュレーションでは、植栽木の1本ごとに、所定期間当たりの植栽木の樹高の成長と野生動物による植栽木の樹高の被害がシミュレーションされることにより、所定期間の期末(たとえば、一か月後)の樹高が取得(計算)される。また、所定期間の期末の樹高に基づいて、同様のシミュレーションが行われることにより、次の所定期間の期末の樹高が取得(計算)される。そして、所定期間の期末の樹高に基づく次の所定期間の期末の樹高の取得(計算)が繰り返し再帰的に行われることにより、所定期間ごとの樹高が取得(計算)される。
【0045】
具体的には、所定期間の期末の樹高は、現在の樹高、現在の樹勢および樹高の被害量に基づいて、取得される。また、所定期間の期末の樹高は、以下の式(1)により表される、現在の樹高、現在の樹勢および樹高の被害量の3つのパラメータの関数により表される。なお、現在の樹高および現在の樹勢とは、それぞれ、所定期間の期首の樹高および樹勢を意味している。
【数1】
【0046】
具体的な式は特に限られないが、たとえば、所定期間の期末の樹高は、以下の式(2)により、取得される。以下の式(2)では、所定期間の期末の樹高は、現在の樹高、現在の樹勢に基づく樹高成長率、および、樹高の被害量に基づいて、取得される。具体的には、以下の式(2)では、所定期間の期末の樹高は、現在の樹高および樹高成長率から求まる樹高の成長量(増加量)から、樹高の被害量(減少量)を減算することにより、取得される。植栽木の樹高の成長量は、現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、取得される。
【数2】
【0047】
ここで、樹高の成長率は、たとえば、以下の式(3)により、取得される。
【数3】
【0048】
被害がない場合の樹高の成長率は、樹種、植栽本数、植栽面積、造林地の環境条件、造林期間および樹高などから推定するか、または、理想的な樹高の成長から計算することができる。また、被害がない場合の樹高の成長率は、たとえば、以下の式(4)または(5)により、樹高と樹勢との関数として具体的に表すことができる。なお、α、βおよびγは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。
【数4】
上記式(3)~(5)では、樹勢の強い植栽木ほど成長がよく、樹勢の弱い植栽木ほど成長が悪いことが表現されている。
【0049】
また、現在の樹勢は、後述する樹勢シミュレーションにおいて、取得することができる。また、標準樹勢は、後述する樹勢シミュレーションにおいて、植栽木が野生動物による被害を受けずに成長するとして計算した場合の樹勢を用いることができる。
【0050】
〈樹高被害量〉
樹高の被害量は、植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、取得される。樹高の被害量は、以下の式(6)により表される、現在の樹高および現在の樹勢によって決まる確率密度関数に従う。
【数5】
【0051】
具体的な式は特に限られないが、たとえば、樹高の被害量(野生動物による植栽木の被害量)は、以下の式(7)により表される確率密度関数により、取得される。以下の式(7)では、樹高の被害量は、現在の樹高、現在の樹勢に基づく樹高成長率、樹高の効果、および、正規分布乱数Eを指数とする指数関数exp(E)に基づいて、取得される。なお、正規分布乱数Eは、正規分布(0,δ
2)に従う。以下の式(7)は、正規分布を用いた確率密度関数である。また、以下の式(7)の確率密度関数は、野生動物が植栽木の新しく成長した部分を加害する(食べる)確率を高く見積もる関数として設定されている。
【数6】
【0052】
図3は、樹高成長(現在の樹高×(樹高成長率-1)の項)を1とした場合の上記式(7)による樹高の被害量の計算結果を表したグラフである。
図3のグラフでは、縦軸は頻度、横軸は樹高の被害量を表している。
図3のグラフでは、樹高の被害量は0~1の範囲において発生する確率が高くなっている。すなわち、樹高成長を1(新しく成長した部分を1)としたため、新しく成長した部分が食べられやすいことが表現されている。
図3のグラフから、上記式(7)が、野生動物が植栽木の新しく成長した部分を加害する(食べる)確率を高く見積もる関数として設定されていることが分かる。
【0053】
樹高の効果は、樹高の樹高被害量への影響を表すパラメータである。樹高の効果は、たとえば、以下の式(8)により、取得される。以下の式(8)では、樹高の効果は、現在の樹高に基づいて、取得される。なお、aおよびbは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(8)は、樹高が高くなるほど樹高の効果の値が小さくなり(すなわち、樹高による被害量の低減効果が大きくなり)、樹高の被害量を減少させる関数として設定されている。
【数7】
【0054】
図4は、上記式(8)による樹高ごとの樹高の効果の計算結果を表したグラフである。
図4のグラフでは、縦軸は樹高の効果、横軸は樹高を表している。
図4のグラフでは、樹高が低いほど樹高の効果の値が大きく(樹高による被害量の低減効果が小さく)、樹高が高いほど樹高の効果の値が小さく(樹高による被害量の低減効果が大きく)なっている。これは、樹高が低いうちは野生動物の口が頂芽に届きやすく、樹高が高くなると野生動物の口が頂芽に届きにくくなることを表している。また、
図4のグラフでは、樹高がある一定の樹高を超えると、樹高の被害量が一気に0に近づいている。これは、樹高がある一定の樹高を超えると、以後は、野生動物の口が頂芽に届かなくなることを表している。
【0055】
また、上記式(7)では、正規分布を用いた確率密度関数の例を示したが、確率密度関数はこれには限られない。たとえば、樹高の被害量は、以下の式(9)により表される確率密度関数により、取得されてもよい。以下の式(9)では、樹高の被害量は、現在の樹高、および、ベータ分布乱数Aに基づいて、取得される。なお、ベータ分布乱数Aは、ベータ分布(α,β)に従う。ただし、αおよびβは、以下の式(10)を満たすものとする。なお、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(9)は、ベータ分布を用いた確率密度関数である。また、上記式(7)および(9)は、特許請求の範囲の「確率密度関数」の一例である。
【数8】
【0056】
(樹勢シミュレーション)
樹勢シミュレーションも、上記樹高シミュレーションと同様に行われる。すなわち、樹勢シミュレーションでは、植栽木の1本ごとに、所定期間当たりの植栽木の樹勢の成長と野生動物による植栽木の樹勢の被害がシミュレーションされることにより、所定期間の期末(たとえば、一か月後)の樹勢が取得(計算)される。また、所定期間の期末の樹勢に基づいて、同様のシミュレーションが行われることにより、次の所定期間の期末の樹勢が取得(計算)される。そして、所定期間の期末の樹勢に基づく次の所定期間の期末の樹勢の取得(計算)が繰り返し再帰的に行われることにより、所定期間ごとの樹勢が取得(計算)される。
【0057】
具体的には、所定期間の期末の樹勢は、現在の樹勢、現在の樹高および樹勢の被害量に基づいて、取得される。また、所定期間の期末の樹勢は、以下の式(11)により表される、現在の樹勢、現在の樹高および樹高の被害量の3つのパラメータの関数により表される。
【数9】
【0058】
具体的な式は特に限られないが、たとえば、所定期間の期末の樹勢は、以下の式(12)により、取得される。以下の式(12)では、所定期間の期末の樹勢は、現在の樹勢、樹勢成長指数、および、樹勢の被害量に基づいて、取得される。具体的には、以下の式(12)では、所定期間の期末の樹勢は、現在の樹勢および樹勢成長指数から求まる樹勢の成長量(増加量)から、樹勢の被害量(減少量)を減算することにより、取得される。樹勢の成長量は、少なくとも現在の樹勢に基づいて、取得される。
【数10】
【0059】
なお、たとえば、上記式(12)により、上記樹高シミュレーションにおいて用いる現在の樹勢を取得することができる。また、たとえば、上記式(12)において、樹勢の被害量を0として計算することにより、上記樹高シミュレーションにおいて用いる標準樹勢を取得することができる。
【0060】
植栽時の樹勢(最初の現在の樹勢)は、たとえば、植栽後1年以内に平均何回野生動物による被害を受けたら枯死するか、を基準に決定することができる。また、樹勢成長指数は、野生動物による一定の被害がある場合の樹高の成長具合(成長曲線など)から計算することができる。
【0061】
また、本実施形態の造林成果のシミュレーションでは、樹高の成長を表す上記式(2)による曲線(関数)と、樹勢の成長を表す上記式(12)による曲線(関数)とは、互いに異なっている。これにより、樹高および樹勢が互いに異なる特性で成長することを表現することができるので、各々の特性に合わせたシミュレーションを行うことが可能である。
【0062】
〈樹勢被害量〉
樹勢の被害量は、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、取得される。樹勢の被害量は、以下の式(13)により表される、少なくとも現在の樹高によって決まる確率密度関数に従う。
【数11】
【0063】
具体的な式は特に限られないが、たとえば、樹勢の被害量(野生動物による植栽木の被害量)は、以下の式(14)により表される確率密度関数により、取得される。以下の式(14)では、樹勢の被害量は、樹高の効果、および、正規分布乱数Eを指数とする指数関数a
Eに基づいて、取得される。なお、正規分布乱数Eは、正規分布(0,δ
2)に従う。また、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(14)は、正規分布を用いた確率密度関数である。
【数12】
【0064】
図5は、調整パラメータaを所定値とした場合の上記式(14)による樹勢の被害量の計算結果を表したグラフである。
図5のグラフでは、樹勢の被害量は0~1の間に中央値を有しており、中央値付近の被害量の発生確率が高いことが表現されている。また、上記式(14)では、調整パラメータaを調整することにより、樹勢の被害量の中央値を調整することができるので、たとえば、1回当たりの被害で減少する可能性が高い樹勢の被害量が中央値になるように、調整パラメータaを設定することにより、樹勢の被害量を適切に表現することが可能である。また、調整パラメータa(樹勢の被害量の中央値)は、野生動物による被害を何回受けたら枯死するかを基準に決めることができる。
【0065】
樹高の効果は、樹高の樹勢被害量への影響を表すパラメータである。樹高の効果は、たとえば、以下の式(15)により、取得される。以下の式(15)では、樹高の効果は、現在の樹高に基づいて、取得される。なお、a、bおよびcは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(15)は、樹高が高くなるほど樹高の効果の値が小さくなり(すなわち、樹高による被害量の低減効果が大きくなり)、樹勢の被害量を減少させる関数として設定されている。
【数13】
【0066】
図6は、上記式(15)による樹高ごとの樹高の効果の計算結果を表したグラフである。
図6のグラフでは、縦軸は樹高の効果、横軸は樹高を表している。
図6のグラフでは、樹高が低いほど樹高の効果の値が大きく(樹高による被害量の低減効果が小さく)、樹高が高いほど樹高の効果の値が小さく(樹高による被害量の低減効果が大きく)なっている。これは、樹高が低いうちは野生動物の口が枝葉に届きやすく、樹高が高くなると野生動物の口が枝葉に届きにくくなることを表している。また、
図6のグラフでは、樹高がある一定の樹高を超えると、樹勢の被害量が一気に0ではない所定値に近づいている。これは、樹高がある一定の樹高を超えると、以後は、野生動物の口が枝葉に届かなくなることを表している。また、樹高がある一定の樹高を超えても、野生動物の口が幹に届いて樹皮剥ぎが発生するため、樹勢の被害量が0にはならないことを表している。
【0067】
また、本実施形態の造林成果のシミュレーションでは、樹高の被害を表す上記式(7)による曲線(関数)と、樹勢の被害を表す上記式(14)による曲線(関数)とは、互いに異なっている。これにより、樹高および樹勢が互いに異なる特性で被害を受けることを表現することができるので、各々の特性に合わせたシミュレーションを行うことが可能である。
【0068】
また、本実施形態の造林成果のシミュレーションでは、樹高の樹高被害量への効果を表す上記式(8)による曲線(関数)と、樹高の樹勢被害量への効果を表す上記式(15)による曲線(関数)とは、互いに異なっている。これにより、樹高および樹勢で樹高の効果が互いに異なることを表現することができるので、各々の特性に合わせたシミュレーションを行うことが可能である。
【0069】
また、上記式(14)では、正規分布を用いた確率密度関数の例を示したが、確率密度関数はこれには限られない。たとえば、樹勢の被害量は、以下の式(16)により表される確率密度関数により、取得されてもよい。以下の式(16)では、樹勢の被害量は、現在の樹勢、および、現在の樹勢および現在の樹高に基づくベータ分布乱数Aに基づいて、取得される。なお、ベータ分布乱数Aは、ベータ分布(α,β)に従う。ただし、αおよびβは、以下の式(17)を満たすものとする。なお、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(16)は、ベータ分布を用いた確率密度関数である。また、上記式(14)および(16)は、特許請求の範囲の「確率密度関数」の一例である。
【数14】
【0070】
また、本実施形態の造林成果のシミュレーションでは、同じ乱数(1つの乱数)により、樹高の被害量および樹勢の被害量を取得することもできる。たとえば、樹高の被害量を表す上記式(7)と、樹勢の被害量を表す上記式(14)とにおいて、同じ正規分布乱数E(1つの乱数)により、各々の被害量を取得することもできる。この場合、樹高の被害量および樹勢の被害量に同じ乱数を引用することで、樹高に大きな被害があった場合は樹勢にも大きな被害があるというような、樹高の被害量と樹勢の被害量との対応関係を表現することが可能である。
【0071】
また、樹勢シミュレーションでは、植栽木の枯死の判定が行われる。具体的には、樹勢シミュレーションでは、樹勢がしきい値(たとえば、1)未満になった場合、植栽木が枯死すると判定される。しきい値は、たとえば、樹種および造林地の環境条件によって決めることができる。植栽木の枯死の判定は、所定期間ごとに行われる。
【0072】
(被害確率)
被害確率は、植栽木の密度、野生動物の密度、および、野生動物に対する防護の効果に基づいて、取得される。また、被害確率は、以下の式(18)により表される、植栽木の密度、野生動物の密度、および、野生動物に対する防護の効果の3つのパラメータの関数により表される。また、被害確率は、0から1までの値をとる。
【数15】
【0073】
具体的な式は特に限られないが、たとえば、被害確率は、以下の式(19)により、取得される。以下の式(19)では、被害確率は、植栽木の密度、野生動物の密度および防護の効果に基づく侵入指数に基づいて、取得される。侵入指数は、野生動物の造林地への侵入の程度を表す指数である。また、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。
【数16】
【0074】
また、たとえば、被害確率は、以下の式(20)により、取得されてもよい。以下の式(20)では、被害確率は、植栽木の密度および侵入指数(植栽木の密度、野生動物の密度および防護の効果)に加えて、下層植生(下草)の影響にも基づいて、取得される。なお、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。
【数17】
【0075】
植栽木の密度は、たとえば、以下の式(21)により、取得される。
【数18】
【0076】
侵入指数は、たとえば、野生動物の密度および防護の効果に基づいて、以下の式(22)により、取得される。なお、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。以下の式(22)では、野生動物が生息していない場合、野生動物の密度が0となり、侵入指数が0となるため、上記式(19)または(20)の被害確率も0と計算される。また、以下の式(22)では、防護の効果が完璧である場合(防護柵が完璧な状態を保っている場合)、防護の効果が1となり、侵入指数が0となるため、上記式(19)または(20)の被害確率も0と計算される。
【数19】
【0077】
野生動物の密度は、たとえば、以下の式(23)により、取得される。以下の式(23)では、実際の目撃情報に基づいて野生動物の密度が取得されるので、広域の推定生息密度よりも、造林地の状況を適切に表すことが可能である。なお、造林地の野生動物の密度のデータが存在する場合には、そのデータが利用(入力)されてもよい。
【数20】
【0078】
防護の効果は、たとえば、以下の式(24)により、取得される。以下の式(24)では、防護の効果は、単位面積当たり(たとえば、1ha当たり)の防護柵(野生動物の造林地への侵入防止用の柵)の破損数に基づいて、取得される。なお、aは、造林成果のシミュレーションを行う作業者が適宜調整することが可能な調整パラメータである。
【数21】
【0079】
図7は、上記式(24)による防護柵の破損数ごとの防護の効果の計算結果を表したグラフである。
図7のグラフでは、縦軸は防護の効果、横軸は防護柵の破損を表している。
図7のグラフでは、防護柵の破損数が少ないうちは、防護柵の破損数の増加による防護の効果の減少が大きく、防護柵の破損数が大きくなると、防護柵の破損数の増加による防護の効果の減少が小さくなり、防護の効果が次第に0に近づくようになっている。防護柵に少しでも破損(穴)があれば、野生動物はその穴から造林地に侵入しようとするため、防護柵の破損数が少ないうちは、防護柵の破損数の増加による防護の効果の減少が大きく、防護柵の破損数が大きくなると、防護柵の破損数の増加による防護の効果の減少が小さくなると考えられる。
【0080】
また、本実施形態の造林成果のシミュレーションでは、被害確率に基づいて、被害量が調整される。たとえば、被害確率が0となった場合、樹高の被害量、および、樹勢の被害量は0となる。また、たとえば、被害確率が1となった場合、上記式(7)または(9)により計算された樹高の被害量、および、上記式(14)または(16)により計算された樹勢の被害量が、被害量として用いられる。
【0081】
また、上記式(22)では、野生動物の密度および防護の効果に基づいて、侵入指数が取得される例を示したが、実際の造林地では、十分なデータが存在せず、野生動物の密度が分からない場合も多い。一方、造林地の周辺の林のデータが存在し、このデータから、造林地の周辺の林の野生動物の密度および造林地の周辺の林の侵入指数などが分かることもある。この場合、本実施形態の造林成果のシミュレーションにおいて、造林地の周辺の林の野生動物の密度を代替して用いたり、造林地の周辺の林の侵入指数を代替して用いたりすることもできる。
【0082】
(造林成果シミュレーションのフロー)
次に、
図8を参照して、本実施形態の造林成果シミュレーション装置100による造林成果シミュレーションをフローチャートに基づいて説明する。なお、フローチャートの各処理は、制御部14により行われる。
【0083】
図8に示すように、まず、ステップS1において、入力データが入力される。入力データとしては、たとえば、計算期間、植栽時の樹高、被害を受けない場合の樹高の成長曲線、植栽時の樹勢、標準樹勢、樹勢成長指数、植栽面積、植栽本数、植栽密度、野生動物の密度、防護の効果、防護柵の破損数、侵入指数、および、下層植生の影響などが入力される。なお、これらの全部を入力する必要はなく、他のデータから取得(計算)することができるものは入力する必要はない。たとえば、植栽密度は、植栽面積と植栽本数から取得(計算)することができる。また、たとえば、上記式(19)により被害確率を取得(計算)する場合、下層植生の影響を入力する必要はない。また、造林成果のシミュレーションに用いる関数(式)および調整パラメータが、適宜設定される。
【0084】
そして、ステップS2において、植栽木ループ処理が開始される。植栽木ループ処理では、植栽木ループ内の処理が、植栽本数分だけ(N回)繰り返される。たとえば、植栽本数が1000本であれば、植栽木ループ内の処理が、1000回繰り返される。
【0085】
そして、ステップS3において、期間ループ処理が開始される。期間ループ処理では、期間ループ内の処理が、計算期間分(所定期間の数分)だけ(T回)繰り返される。たとえば、計算期間が10年(120ヶ月)で所定期間が1ヶ月であれば、期間ループ内の処理が、120回繰り返される。
【0086】
そして、ステップS4~S8において、樹高シミュレーションが行われるとともに、ステップS6およびS9~S13において、樹勢シミュレーションが行われる。まず、樹高シミュレーションについて説明する。
【0087】
ステップS4において、所定期間の期首の樹高が取得される。期間ループ処理の最初のステップS4では、所定期間の期首の樹高として、植栽時の樹高が取得される。また、期間ループ処理の2回目以後のステップS4では、所定期間の期首の樹高として、1つ前の所定期間の期末の樹高の計算結果が取得される。
【0088】
そして、ステップS5において、樹高成長の計算が行われる。ステップS5では、たとえば、上記式(2)に基づいて、現在の樹高(期首の樹高)×樹高成長率で表される樹高の成長量が計算される。
【0089】
そして、ステップS6において、被害確率の計算が行われる。ステップS6では、たとえば、上記式(19)または(20)に基づいて、被害確率が計算される。
【0090】
そして、ステップS7において、樹高の被害量が計算される。ステップS7では、たとえば、上記式(7)または(9)に基づいて、樹高の被害量が計算される。また、ステップS7では、被害確率の計算結果に基づいて、樹高の被害量が調整される。
【0091】
そして、ステップS8において、所定期間の期末の樹高が取得される。ステップS8では、たとえば、上記式(2)に基づいて、ステップS5で計算した樹高の成長量から、ステップS7で計算した樹高の被害量が減算されることで、所定期間の期末の樹高が計算される。
【0092】
次に、樹勢シミュレーションについて説明する。
【0093】
ステップS9において、所定期間の期首の樹勢が取得される。期間ループ処理の最初のステップS9では、所定期間の期首の樹勢として、植栽時の樹勢が取得される。また、期間ループ処理の2回目以後のステップS9では、所定期間の期首の樹勢として、1つ前の所定期間の期末の樹勢の計算結果が取得される。
【0094】
そして、ステップS10において、樹勢成長の計算が行われる。ステップS10では、たとえば、上記式(12)に基づいて、樹勢成長指数を指数とする現在の樹勢(期首の樹勢)で表される樹勢の成長量が計算される。
【0095】
そして、ステップS6において、被害確率の計算が行われる。ステップS6では、たとえば、上記式(19)または(20)に基づいて、被害確率が計算される。
【0096】
そして、ステップS11において、樹勢の被害量が計算される。ステップS11では、たとえば、上記式(14)または(16)に基づいて、樹勢の被害量が計算される。また、ステップS11では、被害確率の計算結果に基づいて、樹勢の被害量が調整される。
【0097】
そして、ステップS12において、所定期間の期末の樹勢が取得される。ステップS12では、たとえば、上記式(12)に基づいて、ステップS10で計算した樹勢の成長量から、ステップS11で計算した樹勢の被害量が減算されることで、所定期間の期末の樹勢が計算される。
【0098】
そして、ステップS13において、枯死の判定が行われる。ステップS13では、たとえば、ステップS12で計算した所定期間の期末の樹勢が、しきい値以下である場合、植栽木が枯死すると判定される。
【0099】
そして、期間ループ内の処理が終了すると、期間ループ処理がT回繰り返されたか否かが判定される。期間ループ処理がT回繰り返されていない場合、次の所定期間の樹高および樹勢のシミュレーションが行われる。また、期間ループ処理がT回繰り返されている場合、次の植栽木の樹高および樹勢のシミュレーションが行われる。その後、植栽木ループ内の処理がN回繰り返されると、ステップS14に進む。この際、植栽木の1本ごとの所定期間ごとの造林成果が取得されている。
【0100】
そして、ステップS14において、造林成果が出力される。造林成果は、たとえば、表示部11において確認することが可能である。ステップS14では、たとえば、植栽木の1本ごとの枯死の有無、植栽木の枯死率、植栽木の1本ごとの樹高、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量(体積)などが、造林成果として出力される。なお、植栽木の1本ごとの樹高、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布は、樹高シミュレーションの結果に基づいて、取得することができる。また、植栽木の枯死の有無、および、植栽木の枯死率は、樹勢シミュレーションの結果に基づいて、取得することができる。また、植栽木の材積量は、樹高シミュレーションの結果と、その樹高における標準の幹の太さ(直径)とに基づいて、取得することができる。また、植栽木の樹高の空間分布は、樹高シミュレーションの結果と、造林地の場所情報とに基づいて、取得することができる。
【0101】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0102】
本実施形態では、上記のように、植栽木の成長に関するデータおよび野生動物による植栽木の被害の発生に関するデータを含む入力データを入力するステップ(S1)と、入力データに基づいて、植栽木の成長および野生動物による植栽木の被害を考慮して、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップ(S2~S13)と、を設ける。これにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測を行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0103】
また、本実施形態では、上記のように、入力データは、野生動物に対する防護に関するデータをさらに含む。また、造林成果をシミュレーションするステップは、入力データに基づいて、植栽木の成長と、野生動物による植栽木の被害とに加えて、野生動物に対する防護の効果を考慮して、時系列的に造林成果をシミュレーションするステップ(S2~S13)を含む。ここで、造林地では、通常、野生動物の造林地への侵入を防ぐことにより、野生動物による植栽木の被害(食害)を防ぐための防護柵などが設置されている。そこで、上記のように構成すれば、防護柵などによる野生動物に対する防護の効果(被害の低減効果)をさらに考慮して造林成果をシミュレーションすることができるので、野生動物の影響を見込んだ造林成果の予測をより正確に行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害が発生する場合にも、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0104】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、野生動物による植栽木の被害量を取得するステップ(S7、S11)を含む。これにより、野生動物による植栽木の被害量に基づいて、植栽木が野生動物による被害を受けた場合にどの程度の被害量になるかを考慮して造林成果をシミュレーションすることができる。
【0105】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、確率密度関数により、野生動物による植栽木の被害量を取得するステップ(S7、S11)を含む。これにより、野生動物による植栽木の被害量が大きくなりやすい所定の条件の確率を高く見積もるように確率密度関数を設定することにより、野生動物による植栽木の被害量を精度よく取得することができる。
【0106】
また、本実施形態では、上記のように、確率密度関数は、野生動物が植栽木の新しく成長した部分を加害する見積もる関数として設定されている。これにより、野生動物が、植栽木の新しく成長した柔らかい葉の部分を好んで食べるという性質を利用(反映)して、確率密度関数により、野生動物による植栽木の被害量をより精度よく取得することができる。
【0107】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、野生動物による植栽木の被害量を取得するステップ(S7、S11)を含む。これにより、現在の樹高に基づいて、樹高が高いほど野生動物による植栽木の被害の影響が大きく、樹高が低いほど野生動物による植栽木の被害の影響が小さいことを考慮して被害量を取得することができる。その結果、野生動物による植栽木の被害量を精度よく取得することができる。
【0108】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、植栽木の樹高をシミュレーションするステップ(S4~S8)と、植栽木の枯死および成長に反映させるための植栽木の樹勢をシミュレーションするステップ(S6、S9~S13)と、を含む。これにより、植栽木の樹高と、植栽木の枯死および成長に関する樹勢とを独立してシミュレーションすることができるので、樹高が低くても樹勢が強いためになかなか枯死しない植栽木、および、樹高が高くても樹勢が弱いためにいきなり枯死する植栽木などを考慮したシミュレーションを行うことができる。また、同じ樹高でも、過去の成長および被害の蓄積などを反映した樹勢により、その後の成長の仕方を異なるものにすることができる。これらの結果、造林成果をより精度よくシミュレーションすることができる。
【0109】
また、本実施形態では、上記のように、植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、植栽木の樹高の成長量を取得するステップ(S5)を含む。また、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、植栽木の現在の樹勢に基づいて、植栽木の樹勢の成長量を取得するステップ(S10)を含む。これにより、現在の樹高だけでなく現在の樹勢にも基づいて、樹勢が強いほど植栽木が成長しやすく(樹高が高くなりやすく)、樹勢が弱いほど植栽木が成長しにくい(樹高が高くなりにくい)ことを考慮して樹高の成長量を取得することができる。その結果、樹高の成長量を精度よく取得することができる。また、現在の樹勢に基づいて、樹勢の成長量を精度よく取得することができる。
【0110】
また、本実施形態では、上記のように、植栽木の樹高をシミュレーションするステップは、植栽木の現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、野生動物による植栽木の樹高の被害量を取得するステップ(S7)を含む。また、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップは、少なくとも植栽木の現在の樹高に基づいて、野生動物による植栽木の樹勢の被害量を取得するステップ(S11)を含む。これにより、野生動物による植栽木の樹高の被害量および樹勢の被害量を独立して取得することができるので、野生動物による植栽木の被害の樹高への影響および樹勢への影響が異なることを考慮したシミュレーションを行うことができる。その結果、野生動物による植栽木の被害を考慮して造林成果をより一層精度よくシミュレーションすることができる。
【0111】
また、植栽木の樹高をシミュレーションするステップでは、現在の樹高に基づいて、樹高が高ければ野生動物の口が届きにくいことから野生動物により頂芽を食べられにくく(被害量が小さく)、樹高が低ければ野生動物の口が届きやすいことから野生動物により頂芽を食べられやすく(被害量が大きく)なることを考慮して被害量を取得することができる。また、現在の樹勢に基づいて、樹勢が弱ければ新芽が少なくなることから野生動物により食べられにくく(被害量が小さく)、樹勢が強ければ新芽(食べられやすい部分)が多くなることから野生動物により食べられやすく(被害量が大きく)なることを考慮して被害量を取得することができる。これらの結果、樹高の被害量を精度よく取得することができる。
【0112】
また、植栽木の樹勢をシミュレーションするステップでは、現在の樹高に基づいて、樹高が高いほど植栽木の成長が悪くなりにくく植栽木が枯死しにくく(被害量が小さく)、樹高が低いほど植栽木の成長が悪くなりやすく枯死しやすい(被害量が大きい)ことを考慮して被害量を取得することができる。その結果、樹勢の被害量を精度よく取得することができる。
【0113】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を取得するとともに、被害確率に基づいて、被害量を調整するステップ(S6、S7、S11)を含む。これにより、野生動物による植栽木の被害確率に基づいて、植栽木が野生動物による被害を受けるか否かを考慮して造林成果をシミュレーションすることができる。また、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を独立して取得することができるので、被害量および被害確率にそれぞれ異なる要因が影響していることを考慮したシミュレーションを行うことができる。また、被害確率を考慮して被害量を調整することができるので、被害量をより精度よく取得することができる。これらの結果、野生動物による植栽木の被害を考慮して造林成果をより一層精度よくシミュレーションすることができる。
【0114】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、植栽木の密度、および、野生動物の造林地への侵入の程度を表す侵入指数に基づいて、被害確率を取得するステップ(S6)を含む。これにより、植栽木の密度に基づいて、周りの植栽木が多いほど(植栽木の密度が高いほど)個々の植栽木が野生動物のターゲットになりにくく(被害確率が小さく)、周りの植栽木が減るほど(植栽木の密度が低いほど)、個々の植栽木が野生動物のターゲットになりやすい(被害確率が大きい)ことを考慮して被害確率を取得することができる。また、侵入指数に基づいて、野生動物が造林地へ侵入しにくいほど(侵入指数が低いほど)植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、野生動物が造林地へ侵入しやすいほど(侵入指数が高いほど)植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。これらの結果、被害確率を精度よく取得することができる。
【0115】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、植栽木の密度、野生動物の密度、および、野生動物に対する防護の効果に基づいて、被害確率を取得するステップ(S6)を含む。これにより、植栽木の密度に基づいて、周りの植栽木が多いほど(植栽木の密度が高いほど)個々の植栽木が野生動物のターゲットになりにくく(被害確率が小さく)、周りの植栽木が減るほど(植栽木の密度が低いほど)、個々の植栽木が野生動物のターゲットになりやすい(被害確率が大きい)ことを考慮して被害確率を取得することができる。また、野生動物の密度に基づいて、造林地の野生動物が少ないほど(野生動物の密度が低いほど)植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、造林地の野生動物が多いほど(野生動物の密度が高いほど)植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。また、野生動物に対する防護の効果に基づいて、野生動物に対する防護の効果が高いほど植栽木が野生動物による被害を受けにくく(被害確率が小さく)、野生動物に対する防護の効果が低いほど植栽木が野生動物による被害を受けやすく(被害確率が大きく)なることを考慮して被害確率を取得することができる。
【0116】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、植栽木の密度および侵入指数、または、植栽木の密度、野生動物の密度および野生動物に対する防護の効果に加えて、下層植生の影響にも基づいて、被害確率を取得するステップを含む。これにより、野生動物が嗜好する下層植生が多いほど野生動物による被害(食害)が発生しにくいことを考慮して、被害確率を精度よく取得することができる。
【0117】
また、本実施形態では、上記のように、造林成果をシミュレーションするステップは、植栽木の1本ごとに造林成果をシミュレーションするステップ(S2)を含み、植栽木の1本ごとの枯死の有無、および、植栽木の1本ごとの樹高を出力する。これにより、植栽木の1本ごとに枯死の有無および樹高の造林成果を取得することができるので、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより一層正確に行うことができる。
【0118】
また、本実施形態では、上記のように、植栽木の枯死率、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量のうちの少なくとも1つを、造林成果として出力するステップ(S14)をさらに備える。これにより、植栽木の枯死率、植栽木の平均樹高、植栽木の樹高の頻度分布、植栽木の樹高の空間分布、および、植栽木の材積量のうちの少なくとも1つに基づいて、ユーザが造林成果の費用対効果の予測をより正確に行うことができる。
【0119】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0120】
たとえば、上記実施形態では、造林成果シミュレーション装置が、ユーザから造林成果のシミュレーションの依頼を受けた作業者が操作するパーソナルコンピュータである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、造林成果シミュレーション装置が、造林成果シミュレーションのウェブアプリケーションを実行するサーバ装置であってもよい。この場合、ユーザは、ウェブアプリケーションを利用して自ら造林成果のシミュレーションを行う。
【0121】
また、上記実施形態では、植栽木の樹高のシミュレーションと、植栽木の樹勢のシミュレーションとを独立して行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、植栽木の樹高のシミュレーションのみを行ってもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、野生動物による植栽木の被害に関するパラメータとして、野生動物による植栽木の被害量および被害確率を取得(計算)する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、野生動物による植栽木の被害に関するパラメータとして、野生動物による植栽木の被害量のみを取得(計算)してもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、樹高の被害量を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、現在の樹高のみに基づいて、樹高の被害量を取得してもよい。また、現在の樹高および現在の樹勢以外の造林地の環境条件などのパラメータにも基づいて、樹高の被害量を取得してもよい。
【0124】
また、上記実施形態では、現在の樹高、または、現在の樹高および現在の樹勢に基づいて、樹勢の被害量を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、現在の樹勢のみに基づいて、樹勢の被害量を取得してもよい。また、現在の樹高および現在の樹勢以外の造林地の環境条件などのパラメータにも基づいて、樹勢の被害量を取得してもよい。
【0125】
また、上記実施形態では、正規分布またはベータ分布を用いた確率密度関数により、樹高の被害量および樹勢の被害量を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、正規分布またはベータ分布以外の分布を用いた確率密度関数により、樹高の被害量および樹勢の被害量を取得してもよい。また、確率密度関数以外の関数により、樹高の被害量および樹勢の被害量を取得してもよい。
【0126】
また、上記実施形態では、植栽木の密度、野生動物の密度、および、防護の効果に基づいて、被害確率を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、植栽木の密度、野生動物の密度、および、防護の効果のいずれか1つまたは2つに基づいて、被害確率を取得してもよい。
【0127】
また、上記実施形態では、防護柵の破損数に基づいて、防護の効果を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、防護柵の破損数以外の防護柵の設置数および防護柵の点検と補修との計画などに基づいて、防護の効果を取得してもよい。
【符号の説明】
【0128】
12 入力部
13a 造林成果シミュレーションプログラム
14 制御部
14a 制御手段
100 造林成果シミュレーション装置(コンピュータ)