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特許7585025歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241111BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241111BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
G01N33/543 501A
C07K14/195
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020210016
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096817
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦川 李花
(72)【発明者】
【氏名】安田 多賀子
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087087(JP,A)
【文献】特開昭63-139199(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131022(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150516(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129361(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/081306(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195871(WO,A1)
【文献】特開2017-111095(JP,A)
【文献】国際公開第2005/019249(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
C07K 14/195
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相とを接触させ、抗原ポリペプチドを固相に固定化する工程、
(2)固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)とを接触させる工程、
(3)溶液(II)と接触させた固相を、Tween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
(4)標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加する工程、及び
(5)前記標識物質を検出する工程
を含む、前記生体試料中の歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法であって;
工程(1)において、前記溶液(I)が、さらにBSAを含有し、前記溶液(I)中、BSAの含有量が0.1~1質量%であり、かつ
工程(3)において、洗浄液中、Tween20の含有量が0.05~1.5体積%であり;
工程(1)における前記抗原ポリペプチドが、
(A)配列番号に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
B)配列番号に示すアミノ酸配列において、1~77個のアミノ酸が欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列、又は1~17個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列を有し、かつ歯周病原菌に対する抗体と抗原抗体反応する抗原性を有するポリペプチド、
配列番号3に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
配列番号3に示すアミノ酸配列において、1~24個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ歯周病原菌に対する抗体と抗原抗体反応する抗原性を有するポリペプチド、
配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
配列番号4に示すアミノ酸配列において、1~28個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ歯周病原菌に対する抗体と抗原抗体反応する抗原性を有するポリペプチド、
配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは
配列番号5に示すアミノ酸配列において、1~47個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ歯周病原菌に対する抗体と抗原抗体反応する抗原性を有するポリペプチドである、方法。
【請求項2】
工程(1)の前に、(1’)固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
工程(1)の後に、(2’)抗原ポリペプチドが固定化された固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、又は
工程(4)の後に、(5’)標識物質を含む抗体と接触させた固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
を含み、
前記洗浄液中、Tween20の含有量が0.05~1.5体積%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体試料が、血液、唾液、又は歯肉溝滲出液である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ELISA法により測定することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記抗原ポリペプチドが、さらにタグを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯周病原菌が歯周組織に感染することによって発症する炎症性疾患である。一般に、歯周病の診断は、歯周ポケット検査、触診・出血検査、動揺度検査、X線写真検査等の結果を総合して行われているが、これらの検査手法は歯科医師等の経験・技能等に基づいて行われるため、検査結果及び診断結果に差異が生じる可能性があり、客観性に欠くという問題がある。そのため、客観的に歯周病の診断を行う手法の開発が望まれている。
【0003】
客観的に歯周病の診断を行う手法としては、例えば、歯周病原菌に対する血清中のIgG抗体価を歯周病の感染度又は重篤度の指標とする方法が報告されており、本発明者らが開発した手法では、歯周病原菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)から単離された特定の1次構造を有するポリペプチド又はその改変ポリペプチド(歯周病原菌抗原ポリペプチド)を用いることにより、多様な免疫型を有する広範囲の患者の歯周病を高い精度で検査することができ、かつ自動化された機器等により高速処理を行うことが可能となる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6310631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、歯周病原菌に対する抗体価の測定に適した方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の成分を用いることにより、測定感度が向上することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(1)抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相とを接触させ、抗原ポリペプチドを固相に固定化する工程、
(2)固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)とを接触させる工程、
(3)溶液(II)と接触させた固相を、Tween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
(4)標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加する工程、及び
(5)前記標識物質を検出する工程
を含む、前記生体試料中の歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法であって;
工程(1)において、前記溶液(I)が、さらにBSAを含有し、前記溶液(I)中、BSAの含有量が0.1~1質量%であり、かつ
工程(3)において、洗浄液中、Tween20の含有量が0.05~1.5体積%であり;
工程(1)における前記抗原ポリペプチドが、
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ抗原性を有するポリペプチドである、方法。
項2.
工程(1)の前に、(1’)固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
工程(1)の後に、(2’)抗原ポリペプチドが固定化された固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、又は
工程(4)の後に、(5’)標識物質を含む抗体と接触させた固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
を含み、
前記洗浄液中、Tween20の含有量が0.05~1.5体積%である、項1に記載の方法。
項3.
前記生体試料が、血液、唾液、又は歯肉溝滲出液である、項1又は2に記載の方法。
項4.
ELISA法により測定することを特徴とする、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
前記抗原ポリペプチドが、さらにタグを含む、項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
歯周病原菌に対する抗体価の測定に適した方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示は、後述する工程を含む生体試料中の歯周病原菌に対する抗体価を測定する方法を包含する。本明細書において、当該測定方法を、「本開示の測定方法」と表記することがある。
【0010】
本開示の測定方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相とを接触させ、抗原ポリペプチドを固相に固定化する工程、
(2)固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)とを接触させる工程、
(3)溶液(II)と接触させた固相を、Tween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
(4)標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加する工程、及び
(5)前記標識物質を検出する工程
【0011】
工程(1)で用いられる抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)は、抗原ポリペプチドを含有する限り特に限定されない。抗原ポリペプチドとしては、例えば、以下の(A)又は(B)のポリペプチドが挙げられる。
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ抗原性を有するポリペプチド
【0012】
本明細書において、(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを、「本開示の(A)のポリペプチド」と表記することがある。
【0013】
本明細書において、(B)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドポリペプチドを、「本開示の(B)のポリペプチド」と表記することがある。
【0014】
本明細書において、本開示の(A)のポリペプチド、及び本開示の(B)のポリペプチドを総称して、「本開示のポリペプチド」と表記することがある。
【0015】
本開示の(B)のポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。配列番号1に示すアミノ酸配列において、欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸の個数の上限は、例えば、600個、550個、500個、450個、400個、350個、300個、250個、200個、150個、100個、50個、45個、40個、35個、30個、25個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、又は2個であってもよい。
【0016】
アミノ酸の欠失、置換、又は付加などの変異を特定のアミノ酸配列に加える技術は当該技術分野において公知であり、任意の手法を用いて行うことができる。例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法、ランダム突然変異導入法等を利用して行うことができる。
【0017】
本開示の(B)のポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列の第580位~第860位に相当するアミノ酸配列における、欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸の個数が、0~50個のポリペプチドであることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、又は49個であってもよい。より具体的には、例えば、1~49個であってもよい。また、本開示の(B)のポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列の第580位~第860位に相当するアミノ酸配列が保存されていてもよい。
【0018】
本開示の(B)のポリペプチドは、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列と85%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。同一性は、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
【0019】
アミノ酸配列の同一性は、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルトのパラメータを用いることにより、算出することができる。
【0020】
本開示の(B)のポリペプチドは、例えば、
配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号1に示すアミノ酸配列の24~860番目のアミノ酸配列に相当)、
配列番号3に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号1に示すアミノ酸配列の227~860番目のアミノ酸配列に相当)、
配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号1に示すアミノ酸配列の580~860番目のアミノ酸配列に相当)、
配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号1に示すアミノ酸配列の404~860番目のアミノ酸配列に相当)
等が挙げられる。
【0021】
本開示の(B)のポリペプチドは、抗原性を有することが好ましい。
【0022】
本明細書において、「抗原性を有する」とは、歯周病原菌に対する抗体と、抗原抗体反応することを意味する。抗体としては、例えば、IgG抗体、IgM抗体、IgA抗体等のイムノグロブリン抗体が挙げられ、イムノグロブリン抗体のいずれかと抗原抗体反応すればよい。中でもIgG抗体が好ましい。
【0023】
抗原性は、ELISA法により評価することができる。より具体的には、後述する実施例に示すように、抗原性を評価するポリペプチドを抗原、歯周病原菌に対する抗体を含む歯周病患者の陽性血清を1次抗体として、これらの抗原抗体反応がELISA法により検出された場合には、当該ポリペプチドは抗原性を有すると判断される。
【0024】
本開示のポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的なタンパク質の化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することができる。また、上述したポリペプチドは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。
【0025】
本開示のポリペプチドは、さらに、タグを含んでいてもよい。タグとしては、例えば、Hisタグ、SBP(Streptavidin Binding Peptide)タグ等のペプチドタグ;GST(Glutathione-S-transferase)タグ、MBP(Maltose Binding Protein)タグ等のポリペプチドタグ等が挙げられる。中でもポリペプチドタグが好ましく、GSTタグがより好ましい。
【0026】
タグは、本開示のポリペプチドのN末端側に結合していてもよく、C末端側に結合していてもよい。中でも、タグは、本開示のポリペプチドのN末端側に結合していることが好ましい。
タグを含む好ましいポリペプチドとしては、例えば、本開示の(A)、及び(B)のポリペプチドのN末端側又はC末端側に、更にタグを含むポリペプチドが挙げられる。
【0027】
タグを付加する方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。
【0028】
本開示のポリペプチドは、さらに、標識物質を有していてもよい。標識物質としては、例えば、ビオチンなどが挙げられる。
【0029】
工程(1)で用いられる抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)中、抗原ポリペプチドの含有量は、適宜設定することができる。例えば、0.1pg/100μl~100ng/100μl程度とすることができる。
【0030】
抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)は、さらにBSAを含むことが好ましい。溶液(I)中、BSAの含有量は、例えば、0.1~1質量%程度であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9質量%程度であってもよい。より具体的には、0.2~0.9質量%程度であってもよい。
【0031】
工程(1)で用いられる抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)の溶媒としては、例えば、生理食塩水、PBS、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good Bufferなどが挙げられる。中でもPBSが好ましい。
抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)は、抗原ポリペプチド及び溶媒の他、カゼイン、スキムミルク、ゼラチン、血液タンパク質又は植物タンパク質を有効成分とするもの、マウス、ウサギ、ヤギ、牛胎児等の正常動物血液成分、正常ヒト血清成分などのタンパク成分安定化剤;各種防腐剤;Tween20などの界面活性剤;亜鉛やマグネシウム等の金属の塩などの酵素の活性化剤などを含むものであってもよい。
抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)が、BSAを含有し、溶液(I)中、BSAの含有量が上述した範囲であることにより、抗体価測定の感度が向上することが期待される。
【0032】
工程(1)で用いられる固相としては、例えば、プラスチック、ガラス、シリコン、ニトロセルロース等が挙げられる。中でもプラスチックが好ましい。
工程(1)で用いられる固相は、例えば、グルタチオン、抗GST抗体、ニッケル等の金属イオン、マルトース、ストレプトアビジン、抗ビオチン抗体等が固定化されているものであってもよい。
【0033】
工程(1)における、抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相との接触方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。適宜、振盪等を行ってもよい。
接触時間は、適宜選択することができ、例えば、15分~2時間程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は、例えば、30分、1時間、又は1時間30分程度であってもよい。より具体的には、30分~1時間程度であってもよい。
接触時の温度は、室温であってもよく、適宜加温することもできる。
【0034】
工程(1)において、抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相とを接触させることによって、抗原ポリペプチドが固定化された固相を調製することができる。
固定の具体的態様としては、特に制限されないが、例えば共有結合を介した固定、アビジンまたはストレプトアビジンとビオチンとの結合を介した固定、物理吸着による固定等が挙げられる。
【0035】
工程(2)で用いられる生体試料を含有する溶液(II)は、生体試料を含有する限り特に限定されない。
【0036】
生体試料としては、特に限定されず、例えば、歯周病原菌に対する抗体(例えば、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体等)を含み得る試料が挙げられる。採取の容易さ、取扱い易さ等の観点からは、生体試料としては、血液、唾液、歯肉溝滲出液、糞便、涙液、鼻腔ぬぐい液、又は羊水が好ましい。また、歯周病原菌に対する抗体を含み得る試料としては、肝臓などの臓器を用いることもできる。
血液を生体試料として用いる場合には、血漿又は血清がより好ましく、血清がさらにより好ましい。血漿を生体試料として用いる場合には、ろ紙や血漿分離機等により分離された血漿であってもよい。なお、対象から採取した生体試料を保存する方法、条件等については特に制限されず、常法に従って行うことができる。
【0037】
生体試料を採取される対象としては、ヒトのみならず、歯周病原菌の感染が起こり得る生体であれば特に制限されず、非ヒト哺乳動物であってもよい。ヒトとしては特に制限されず、健常者であってもよく、歯周病に罹患したヒト(歯周病患者)であってもよく、歯周病の罹患が疑われるヒトであってもよい。歯周病または歯周病原菌との関連性のある疾患(例えば、関節リウマチ、心疾患、動脈硬化性疾患、糖尿病、認知症、非アルコール性脂肪肝(NASH/NAFLD)、肥満、早産など)を有するヒトやその疑いがあるヒトであってもよい。また、非ヒト哺乳動物としては、ペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物が例示される。例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0038】
対象から生体試料を採取する方法としては特に制限されず、常法に従って行えばよい。また、採取した生体試料は、そのまま用いてもよく、凍結乾燥等して保存した後、当該凍結乾燥物を後述する適当な溶媒に溶解して用いてもよく、また、採取した生体試料を、そのまま冷凍保存した後、あるいは後述する適当な溶媒に溶解する等して冷凍保存した後、使用時に解凍して用いてもよい。
【0039】
工程(2)で用いられる生体試料を含有する溶液(II)中、生体試料の含有量は、適宜設定することができる。
【0040】
工程(2)で用いられる生体試料を含有する溶液(II)の溶媒としては、例えば、生理食塩水、PBS、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good Bufferなどが挙げられる。中でもPBSが好ましい。
生体試料を含有する溶液(II)は、生体試料及び溶媒の他、カゼイン、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチン、血液タンパク質又は植物タンパク質を有効成分とするもの、マウス、ウサギ、ヤギ、牛胎児等の正常動物血液成分、正常ヒト血清成分などのタンパク成分安定化剤;各種防腐剤;Tween20などの界面活性剤;亜鉛やマグネシウム等の金属の塩などの酵素の活性化剤などを含むものであってもよい。
生体試料を含有する溶液(II)がBSAを含む場合、溶液(II)中、BSAの含有量は、例えば、0.1~1質量%程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9質量%程度であってもよい。より具体的には、0.2~0.9質量%程度であってもよい。
生体試料を含有する溶液(II)が、BSAを含有し、溶液(II)中、BSAの含有量が上述した範囲である場合には、非特異的な結合が低減することが期待される。
【0041】
工程(2)における、固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)との接触方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。適宜、振盪等を行ってもよい。
接触時間は、適宜選択することができ、例えば、15分~2時間程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は、例えば、30分、1時間、又は1時間30分程度であってもよい。より具体的には、30分~1時間程度であってもよい。
接触時の温度は、室温であってもよく、適宜加温することもできる。
【0042】
工程(2)において、固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)とを接触させることによって、生体試料中に歯周病原菌に対する抗体(例えば、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体等)が存在する場合には、当該抗体と固相に固定された抗原ポリペプチドとの抗原抗体反応物(抗体及び本開示のポリペプチドを含む複合体)を調製することができる。
【0043】
工程(3)で用いられる洗浄液としては、例えば、生理食塩水、PBS、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good Bufferなどが挙げられる。中でもPBSが好ましい。
【0044】
工程(3)で用いられるTween20を含有する洗浄液中、Tween20の含有量は、例えば、0.05~1.5体積%程度であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、又は1.4体積%程度であってもよい。より具体的には、0.08~1.5体積%程度であってもよい。
工程(3)で用いられるTween20を含有する洗浄液中、Tween20の含有量が上述した範囲(好ましくは0.08~1.5体積%程度)である場合には、抗体価測定の感度が向上することが期待される。
【0045】
工程(3)で用いられるTween20を含有する洗浄液は、Tween20の他、カゼイン、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチン、血液タンパク質又は植物タンパク質を有効成分とするもの、マウス、ウサギ、ヤギ、牛胎児等の正常動物血液成分、正常ヒト血清成分などのタンパク成分安定化剤;各種防腐剤;界面活性剤;亜鉛やマグネシウム等の金属の塩などの酵素の活性化剤などを含むものであってもよい。
【0046】
工程(3)における、洗浄方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。適宜、振盪等を行ってもよい。
洗浄時間は、適宜選択することができ、例えば、5秒~5分程度とすることができる。
洗浄時の温度は、室温であってもよく、適宜加温することもできる。
洗浄回数は、適宜選択することができ、例えば、1~5回程度とすることができる。1~3回程度であってもよい。
【0047】
工程(4)で用いられる抗イムノグロブリン抗体としては、例えば、抗IgG抗体、抗IgA抗体、抗IgM抗体等が挙げられる。中でも、抗IgG抗体が好ましい。抗イムノグロブリン抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて取得したものであってもよく、商業的に入手可能なものであってもよい。
【0048】
工程(4)で用いられる抗イムノグロブリン抗体は、標識物質を含むことが好ましい。標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて取得したものであってもよく、商業的に入手可能なものであってもよい。
【0049】
標識物質としては、特に限定されず、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、β-D-ガラクトシダーゼなどが例示される。
【0050】
工程(4)において、標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加する方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。
添加時の温度は、室温であってもよく、適宜加温することもできる。
工程(4)において、標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加後、必要に応じて、振盪等を行ってもよい。振盪時間は、適宜選択することができ、例えば、15分~2時間程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は、例えば、30分、1時間、又は1時間30分程度であってもよい。より具体的には、30分~1時間程度であってもよい。
【0051】
工程(4)において、標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加することによって、生体試料中に歯周病原菌に対する抗体(例えば、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体等)が存在する場合には、当該抗体と固相に固定された抗原ポリペプチドとの抗原抗体反応物(抗体及び本開示のポリペプチドを含む複合体)に、さらに標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を結合させることができる。
【0052】
工程(5)において、標識物質を検出する方法としては、特に限定されず、慣用の方法および反応条件を採用することができる。
【0053】
工程(5)において、標識物質を検出することによって、当該検出の有無により、生体試料中の歯周病原菌に対する抗体(例えば、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体等)の有無を評価することができる。また、工程(5)において、標識物質を検出することによって、当該検出の強度に応じて、生体試料中の歯周病原菌に対する抗体価を評価することができる。
【0054】
本開示の測定方法は、ELISA法やドットブロット法などの免疫学的手法が好ましく用いられる。中でも、ELISA法をより好適に用いることができる。
【0055】
本開示の測定方法は、上述した(1)~(5)の工程の他、以下の工程を含んでいてもよい。
【0056】
本開示の測定方法は、例えば、工程(1)の前に、(1’)固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0057】
本開示の測定方法は、例えば、工程(1)の後に、(2’)抗原ポリペプチドが固定化された固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0058】
本開示の測定方法は、例えば、工程(4)の後に、(5’)標識物質を含む抗体と接触させた固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0059】
工程(1’)(2’)又は(5’)で用いられる洗浄液としては、例えば、生理食塩水、PBS、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good Bufferなどが挙げられる。中でもPBSが好ましい。
【0060】
工程(1’)(2’)又は(5’)で用いられるTween20を含有する洗浄液中、Tween20の含有量は、例えば、0.05~1.5体積%程度とすることができる。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、又は1.4体積%程度であってもよい。より具体的には、0.08~1.5体積%程度であってもよい。
工程(1’)(2’)又は(5’)で用いられるTween20を含有する洗浄液中、Tween20の含有量が上述した範囲(好ましくは0.08~1.5体積%程度)である場合には、抗体価測定の感度が向上することが期待される。
【0061】
工程(1’)(2’)又は(5’)で用いられるTween20を含有する洗浄液は、Tween20の他、カゼイン、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチン、血液タンパク質又は植物タンパク質を有効成分とするもの、マウス、ウサギ、ヤギ、牛胎児等の正常動物血液成分、正常ヒト血清成分などのタンパク成分安定化剤;各種防腐剤;界面活性剤;亜鉛やマグネシウム等の金属の塩などの酵素の活性化剤などを含むものであってもよい。
【0062】
工程(1’)(2’)又は(5’)おける、洗浄方法、洗浄時間、洗浄時の温度、又は洗浄回数は、上述した工程(3)における記載を援用することができる。
【0063】
好ましい一実施形態としては、本開示の測定方法は、以下の工程を含む。
(1’)固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程
(1)抗原ポリペプチドを含有する溶液(I)と固相とを接触させ、抗原ポリペプチドを固相に固定化する工程、
(2’)抗原ポリペプチドが固定化された固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程
(2)固相に固定された抗原ポリペプチドと、生体試料を含有する溶液(II)とを接触させる工程、
(3)溶液(II)と接触させた固相を、Tween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、
(4)標識物質を含む抗イムノグロブリン抗体を添加する工程、
(5’)標識物質を含む抗体と接触させた固相をTween20を含有する洗浄液で洗浄する工程、及び
(5)前記標識物質を検出する工程
【0064】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0065】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0066】
本開示の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「体積%」を意味する。
【0067】
実験例1:ELISA
抗原のタンパク質濃度を5ng/100μlとなるよう調製しELISAに付した。
35N(配列番号1)(なお、N末端側にGSTタグを付加したものを使用した)
【0068】
Glutathione を固相した96wellプレートをwash液にて3回洗浄した後、調製した抗原(35N)タンパク溶液100μlを添加し室温で1時間反応させた。wash液にて3回洗浄した後、620倍に希釈した陽性血清(歯周病患者の血清)を100μl添加し室温で1時間反応させた。wash液にて3回洗浄した後、2000倍に希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRP)結合ヤギ抗ヒトIgG抗体反応液(MILLIPORE)を100μl添加し室温で反応させた。wash液にて3回洗浄した後、発色基質のABTS150μlを添加し、室温で反応させた後、プレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。
【0069】
なお、wash液、又は陽性血清の溶媒としては、下記の6種を使用した。
PBS(表中、Pと示す)
BSA(0.5%)を含むPBS(表中、P+Bと示す)
Tween20(0.05%)を含むPBS(表中、P+Tと示す)
Tween20(0.1%)を含むPBS(表中、P+T(0.1%)と示す)
Tween20(0.05%)かつBSA(0.5%)を含むPBS(表中、P+T+Bと示す)
Tween20(0.1%)かつBSA(0.5%)を含むPBS(表中、P+T(0.1%)+Bと示す)
【0070】
また、抗原(35N)タンパクの溶媒としては、PBS(表中、Pと示す)、BSA(0.5%)を含むPBS(表中、P+Bと示す)の2種を使用した。
【0071】
タンパク質5ngを添加した場合の吸光度(表中、5ngと示す)から、タンパク質を添加しないバックグラウンドの吸光度(表中、0ngと示す)を引いた値(表中、5-0ngと示す)を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実験例2:ELISA
以下の4種の抗原タンパク質をELISAに付した。なお、いずれの抗原タンパク質もN末端側にGSTタグを付加したものを使用した。
No. 7(配列番号3)(35Nにおける227~860番目のアミノ酸に相当)
No. 8(配列番号4)(35Nにおける580~860番目のアミノ酸に相当)
No. 13(配列番号5)(35Nにおける404~860番目のアミノ酸に相当)
No. 15(配列番号2)(35Nにおける24~860番目のアミノ酸に相当)
【0074】
抗原タンパク質の量は35N(配列番号1)を0.5ng/100μlに調製した場合と同等のモル数となるように調製した。
【0075】
実験例1と同様の手順で吸光度を測定した。なお、wash液としては、Tween20(0.1%(v/v))を含むPBSを、陽性血清及び抗原タンパク質の溶媒としては、BSA(0.5%)を含むPBSを用いた。
【0076】
吸光度は、それぞれ以下の通りであった。
No. 7(配列番号3):0.161
No. 8(配列番号4):0.191
No. 13(配列番号5):0.174
No. 15(配列番号2):0.663
【0077】
いずれの抗原タンパク質を用いた場合にも、当該条件において、歯周病原菌に対する抗体価の測定が可能であることが確認された。
【配列表】
0007585025000001.app