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特許7585045瘢痕形成の減少の為の接着斑キナーゼ阻害剤の制御されたヒドロゲル送達
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】瘢痕形成の減少の為の接着斑キナーゼ阻害剤の制御されたヒドロゲル送達
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20241111BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241111BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20241111BHJP
   A61L 15/28 20060101ALI20241111BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20241111BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20241111BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K31/045
A61K9/70
A61K47/36
A61K47/42
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/14
A61L15/28 100
A61L15/32 310
A61L15/44 100
A61L15/42 310
A61K45/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020564323
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 US2019032697
(87)【国際公開番号】W WO2019222520
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】62/672,513
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/848,515
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ガートナー,ジェフリー シー.
(72)【発明者】
【氏名】クォン,スン,ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ナズィール アハマッド,モハメッド,イナーヤトゥッラー
(72)【発明者】
【氏名】ラジャダス ジャヤクマール
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/063947(WO,A1)
【文献】特表2007-513693(JP,A)
【文献】特開2003-190206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165463(US,A1)
【文献】J. Invest. Dermatol. (May-15 2018) vol.138, issue 11, p.2452-2460
【文献】Wound Repair Regen. (2017) vol.25, issue 4, p.A7(右欄第1演題)
【文献】Wound Repair Regen. (Arp 2018) vol.26, issue 1, p.A33(P.FS08)
【文献】Tissue Eng, Part A (2011) vol.17, no.5-6, p.631-644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/50
A61K 31/045
A61K 9/70
A61K 47/36
A61K 47/42
A61P 17/00
A61L 15/28
A61L 15/32
A61L 15/44
A61L 15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織治癒を促進すると共に、新しい毛髪及び皮膚付属器を形成するために使用する為の組成物であって、
プルラン-コラーゲンヒドロゲルを含む多孔質足場と、
前記足場の孔内に配置された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤であって、当該組成物は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を前記組織に送達するように、前記足場の孔内に配置された当該FAK阻害剤の持続放出の為に構成されている、FAK阻害剤と、を含み、
前記FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)、PF-562271のベンゼンスルホン酸塩、PF573228、TAE226(NVP-TAE226)、PF-03814735、PF-562271 HCl、GSK2256098、PF-431396、PND-431396、PND-1186(VS-4718)、デファクチニブ(VS―6063、PF―04554878)、又はソラネソール(ノナイソプレノール)である、組成物。
【請求項2】
前記多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含む、請求項1に記載の使用する為の組成物。
【請求項3】
前記FAK阻害剤は、PF―562271のベンゼンスルホン酸塩を含む、請求項1又は2に記載の使用する為の組成物。
【請求項4】
前記多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含み、前記FAK阻害剤は、約1μg/cm~約500μg/cmの濃度、あるいは、約40μg/cm~約200μg/cmの濃度で前記組成物に含まれる、請求項2又は3に記載の使用する為の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、前記足場の孔内に配置された前記FAK阻害剤を最大約96時間の期間に亘って持続放出するように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、前記多孔質足場の形成の間の前記FAK阻害剤の分子インプリンティングによって作製される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項7】
前記組成物は更に、FAK阻害剤の迅速放出の為に作製される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、前記組成物の送達表面上にFAK阻害剤を更に含み、前記組成物は更に、前記組成物の前記送達表面からのFAK阻害剤の迅速放出の為に構成されている、請求項7に記載の使用する為の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、約24時間以内に前記組成物の送達表面からFAK阻害剤の迅速放出の為に構成されている、請求項8に記載の使用する為の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、前記治療時間の間に約30%の前記FAK阻害剤から約75%の前記FAK阻害剤迄を放出する様に作られており、あるいは、前記治療時間の間に実質上全ての前記FAK阻害剤を放出する様に作られている、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項11】
前記組成物は、複数の層であって、1つ以上の層が前記FAK阻害剤の持続放出のために作製され、1つ以上の層が前記FAK阻害剤の迅速放出のために作製される、複数の層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、前記FAK阻害剤の持続放出と前記FAK阻害剤の迅速放出の両方のために構成された層を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項13】
前記組成物は、前記治療時間の間に前記組織の瘢痕化を低減させるのに有効な用量の前記FAK阻害剤を送達する様に構成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【請求項14】
前記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用する為の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年5月16日に出願された米国仮特許出願第62/672,513号及び2019年5月15日に出願された米国仮特許出願第62/848,515号の利益を主張し、これらの各々の内容全体を、引用する事により本明細書に援用する。
【0002】
(引用による援用)
本明細書で挙げられた全ての刊行物及び特許出願の内容全体を、各個別の刊行物又は特許出願が引用により援用されると具体的且つ個別に示された場合と同じ程度で、引用する事により本明細書に援用する。
【0003】
(連邦政府による資金提供を受けた研究の記載)
本発明は、アメリカ国防総省により与えられた助成番号W81XWH-13-2-0052及びW81XWH-13-2-0054、アメリカ国立衛生研究所により与えられた助成番号DE026914、並びに米軍再生医療研究所(AFIRM DoD)により与えられた助成番号WFUHS441011SR01による政府支援によりなされたものである。アメリカ合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0004】
(分野)
本開示は、一般に、創傷の治療及び創傷の組織治癒の促進に関する。特に、本明細書には、多孔質足場と、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む組成物、並びにその様な組成物を作製する方法及び使用する方法が記載されている。
【背景技術】
【0005】
皮膚の瘢痕形成は、創傷及び瘢痕の治療に毎年数十億ドルが費やされる事をもって重大な医療負担を意味する。残念な事に、瘢痕を予防及び/又は治療する為の現在の方略は、根底にある病態生理学の包括的な理解が不足している為、殆ど成功に至っていない。本発明者等の研究室からの最近の報告により、肥厚性瘢痕(HTS)形成に関連する生物学的過程の調節における機械的応力の重要性が実証された。これらの研究では、治癒中の切開に加えられた持続的な機械的負荷により線維化反応及びHTS形成がもたらされた。
【0006】
この過程の主要な調節因子は、接着斑キナーゼ(FAK)、即ち機械的シグナルを伝達して線維化反応を惹起する際に中心的な役割を担う細胞質チロシンキナーゼである。インテグリン-FAK経路は又、様々な悪性腫瘍における腫瘍進行及び転移を媒介する。前臨床試験及び臨床試験において、FAKの薬理学的阻害剤が抗癌化学療法薬として浮上している。癌及び肥厚性瘢痕は、過増殖の線維増殖性事象及び細胞外基質修復事象がそれらの病因の根底にあるという点で類似点を共有している。
【0007】
この文脈において、FAKは、抗瘢痕的な療法の為の興味をそそる潜在的に有望な標的でもある。ノックアウトマウスにおけるFAKの線維芽細胞特異的欠失により、切開HTSモデルにおいて炎症及び線維症の大幅な低減が示された。しかしながら、ケラチノサイト限定FAKの欠損は、創傷慢性化に寄与すると思われる皮膚タンパク質分解の増加と関連していた。本発明者等の以前の研究では、局所皮下注射による小分子阻害剤によるFAKの阻害は、HTSマウスモデルにおいて局所炎症反応を無効にし、瘢痕発生を減少させた。
【0008】
前臨床試験及び臨床試験では、切開創及び切除創に応力遮蔽装置を使用する機械的歪みの負荷軽減は、大型動物及びヒトにおける瘢痕発生を抑止するのに有効である事が分かっている。しかしながら、機械的歪みを物理的に軽減するアプローチは、広範囲熱傷、外傷性爆傷、又は皮膚切除手術に起因する大面積の創傷には適用する事は出来ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、薬理学的阻害剤の狙いを絞った制御放出を可能にする局所用の生体材料ベースのドレッシング材に緊急の必要性が存在する。特に瘢痕の回復の為の治癒を改善する方法は非常に興味深い。本発明はこれを扱っている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、創傷の治療及び創傷の組織治癒の促進に関する。特に、本明細書には、多孔質足場と、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む組成物、並びにその様な組成物を作製する方法及び使用する方法が記載されている。
【0011】
本発明の一態様は、組織治癒を促進する為の組成物を提供する。幾つかの実施形態では、上記組成物は、多孔質足場を含み得る。幾つかの実施形態では、上記組成物は、足場の細孔内に配置された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を含み得る。幾つかの実施形態では、上記組成物は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達する様に構成される。
【0012】
幾つかの実施形態では、多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含む。幾つかの実施形態では、多孔質足場は、プルラン-コラーゲンヒドロゲルを含む。
【0013】
幾つかの実施形態では、FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)又はPF-562271のベンゼンスルホン酸塩を含む。幾つかの実施形態では、上記組成物は、約1μg/cm~約500μg/cmのFAK阻害剤を含む。幾つかの実施形態では、上記組成物は、約40μg/cm~約200μg/cmのFAK阻害剤を含む。
【0014】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、足場の細孔内に配置されたFAK阻害剤の持続放出の為に構成されている。幾つかの実施形態では、上記組成物は、足場の細孔内に配置されたFAK阻害剤の最大約96時間の期間に亘る持続放出の為に構成されている。
【0015】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、多孔質足場の形成の間のFAK阻害剤の分子インプリンティングによって作製される。幾つかの実施形態では、上記組成物は、FAK阻害剤の迅速放出の為に作製されている。幾つかの実施形態では、上記組成物は、該組成物の送達表面上にFAK阻害剤を含む。幾つかの実施形態では、上記組成物は更に、該組成物の送達表面からのFAK阻害剤の迅速放出の為に構成されている。幾つかの実施形態では、上記組成物は、該組成物の送達表面からのFAK阻害剤の約24時間以内での迅速放出の為に構成されている。
【0016】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、治療時間の間に実質上全てのFAK阻害剤を放出する様に作られている。幾つかの実施形態では、上記組成物は、治療時間の間に約30%のFAKI阻害剤から約75%のFAK阻害剤迄を放出する様に作られている。
【0017】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、1つ以上の層がFAK阻害剤の持続放出の為に作製され、1つ以上の層がFAK阻害剤の迅速放出の為に作製されている複数の層を含む。幾つかの実施形態では、上記組成物は、FAK阻害剤の持続放出とFAK阻害剤の迅速放出の両方の為に構成された層を含む。
【0018】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、治療時間の間に組織の瘢痕化を低減させるのに有効な用量のFAK阻害剤を送達する様に構成されている。幾つかの実施形態では、上記組成物は、治療時間の間に組織において毛髪成長を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達する様に構成されている。
【0019】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている。
【0020】
本発明の更に別の態様は、組織治癒を促進する方法を提供する。幾つかの実施形態では、上記方法は、多孔性足場と、足場の細孔内に配置された制御放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む組成物を組織表面上に載置する事を含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を組織表面に送達する事を含む。
【0021】
幾つかの実施形態では、多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含む。幾つかの実施形態では、ヒドロゲルは、プルラン-コラーゲンヒドロゲルを含む。
【0022】
幾つかの実施形態では、上記方法は、組織の瘢痕化を低減させる事を更に含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、組織において毛髪成長を促進する事を更に含む。
【0023】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている。
【0024】
幾つかの実施形態では、FAK阻害剤は、上記組成物の送達表面上に配置される。幾つかの実施形態では、制御された速度は、迅速放出速度及び持続放出速度を含む。幾つかの実施形態では、上記方法の送達工程は、載置工程後約24時間以内に上記用量のFAK阻害剤を組織表面に送達する事を含む。幾つかの実施形態では、上記用量のFAK阻害剤は、最大約96時間の期間に亘って組織表面に送達される。
【0025】
幾つかの実施形態では、上記方法は、組織表面から上記組成物を取り除く事を更に含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、載置工程及び送達工程を少なくとも3回繰り返す事を含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、載置工程及び送達工程を少なくとも10回繰り返す事を更に含む。
【0026】
幾つかの実施形態では、FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)又はPF-562271のベンゼンスルホン酸塩である。
【0027】
幾つかの実施形態では、上記方法は、上記組成物中の約30%のFAKI阻害剤から上記組成物中の約75%のFAK阻害剤迄を組織に送達する事を含む。
【0028】
本発明の更に別の態様は、創傷を治療する為の多孔質足場を含む組成物を製造する方法を提供する。幾つかの実施形態では、上記方法は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤、プルラン、コラーゲン、及びポロゲンを含む混合物を形成する工程を含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、ポロゲンを除去する及び/又は上記混合物を脱水する事により、足場の細孔内に配置された制御された薬物放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を有する多孔質足場を含む組成物を作製する工程を含む。
【0029】
幾つかの実施形態では、多孔質足場は、ヒドロゲルを含む。幾つかの実施形態では、多孔質足場は、プルラン及びコラーゲンヒドロゲルを含む。
【0030】
幾つかの実施形態では、上記方法は、上記組成物の表面上にFAK阻害剤を載置する工程を含む。
【0031】
幾つかの実施形態では、上記方法は、プルランを架橋する工程を含む。幾つかの実施形態では、上記方法は、プルランをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)及び/又はトリポリリン酸ナトリウム(STPP)を用いて架橋する工程を含む。
【0032】
幾つかの実施形態では、上記方法は、上記除去工程の前にポロゲンを結晶化させる工程を含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、上記組成物は、FAK阻害剤の不均一な分布を含む。
【0034】
本発明の新規の特徴は、以下の特許請求の範囲に詳細に示されている。本発明の原理が利用される例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明及び添付の図面を参照する事によって、本発明の特徴及び利点のより良い理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1A乃至図1Cは、FAK阻害剤(「FAKI」)を放出するプルラン-コラーゲンヒドロゲルの構築及びin vitro放出プロファイルを示す図である。(図1A)プルラン-コラーゲンヒドロゲル足場内へのFAKIの分子インプリンティングの概略図。(図1B)乾燥プルラン-コラーゲンヒドロゲル(上方)及び吸水後にPBS中で膨潤したヒドロゲル(下方)のデジタル写真。(図1C)分子インプリンティング(青色)及び表面取り込み(赤色)により調製された50μgのFAKIを含むプルラン-コラーゲンヒドロゲルからのFAKIのin vitro放出プロファイル。N=示された時点毎に3回の実験。
図2図2A乃至図2Cは、スプリント装着された全層切除創モデルにおけるヒドロゲルで加速された創傷治癒を介して送達されたFAKIを示す図である。(図2A)FAKIヒドロゲルを用いて又は用いずに治療されたスプリント装着された全層切除創のデジタル写真。(図2B)損傷後の創傷閉鎖日数及び創傷面積の時間依存的変化の定量化。(図2C)群:足場又はFAKI無し(コントロール)、プルラン-コラーゲンヒドロゲル(ヒドロゲル)、及びFAKI放出プルラン-コラーゲンヒドロゲル(H+FAKI)。N=各状態毎に8つの創傷。統計的差異は、示された各時点についてコントロールに対してp<0.05で存在する。
図3図3A乃至図3Hは、スプリント装着された全層切除創モデルにおけるFAKI治療による線維化促進活性の減少を示す図である。(図3A)治癒した創傷の代表的なH&E染色画像及びマッソンのトリクローム染色画像。(図3B)損傷後17日目でのコントロール、ヒドロゲル、及びH+FAKIにおける治癒した創傷のマッソンのトリクローム染色画像の青色領域の定量化。H&E:細胞質と細胞外基質(赤色)及び細胞核(黒色)。マッソンのトリクローム染色:コラーゲン(青色)、細胞質と筋肉(赤色)及び細胞核(黒色)。スケールバー=100μm。(図3C)α-SMAの免疫蛍光染色、並びに(図3D)損傷後17日目でのコントロール、ヒドロゲル、及びH+FAKIにおける緑色領域の定量化。α-SMA(緑色)及び細胞核(青色)。スケールバー=50μm。(図3E)代表的なウエスタンブロッティング画像、並びに(図3F)損傷後10日目での創傷溶解物のFAK及びp-FAKの定量化。N=各状態毎に8つの創傷。(図3G)p-Aktの免疫蛍光染色、並びに(図3H)損傷後17日目でのコントロール、ヒドロゲル、及びH+FAKIにおける緑色領域の定量化。p-Akt(緑色)及び細胞核(青色)。スケールバー=100μm。全ての分析について、統計的差異は、p<0.05(コントロール対H+FAKI)、Δp<0.05(ヒドロゲル対H+FAKI)、及びp<0.05(コントロール対ヒドロゲル)で存在する。
図4図4A乃至図4Bは、FAKI治療により増強された機械的特性を示す図である。損傷後3週間でのコントロール群、ヒドロゲル群、H+FAKI群におけるヤング率(MPa)(図4A)及び極限引張応力(MPa)(図4B)。N=各状態毎に8つの創傷。全ての分析について、統計的差異は、p<0.05(コントロール対H+FAKI)、及びp<0.05(コントロール対ヒドロゲル)で存在する。
図5-1】図5A乃至図5Bは、接触熱傷創モデルにおけるFAKI治療による創傷治癒の改善及び筋線維芽細胞沈着の減弱を示す図である。(図5A)FAKIヒドロゲルを用いて及び用いずに治療された全層接触熱傷創のデジタル写真。(図5B)損傷後の創傷面積の時間依存的変化の定量化。
図5-2】図5C乃至図5Dは、接触熱傷創モデルにおけるFAKI治療による創傷治癒の改善及び筋線維芽細胞沈着の減弱を示す図である。(図5C)α-SMAの免疫蛍光染色、並びに(図5D)創面切除後24日目でのコントロール、ヒドロゲル、及びH+FAKIにおける緑色領域の定量化。N=各状態毎に7つの創傷。スケールバー=250μm。全ての分析について、統計的差異は、p<0.05(コントロール対H+FAKI)、及びΔp<0.05(ヒドロゲル対H+FAKI)で存在する。
図6図6A乃至図6Bは、FAKIの局所皮下注射がマウス切開の瘢痕形成を低減させる事を示す図である。(図6A)10%のDMSO中に溶解されたFAKIの濃度を漸増させて治療したマウス背側切開のマッソンのトリクローム染色により、15μM及び75μMのFAKIで瘢痕病変の低減が示された。N=各状態毎に5つの創傷。スケールバー=100μm。動物は150μMのFAKI注射で2日間より長く生存しなかった。(図6B)各状態毎の瘢痕面積(破線)の定量化。統計的差異は、コントロールに対してp<0.05で存在する。
図7図7A乃至図7Eは、本明細書に記載される様に、レッドデュロックブタモデルにおける深部皮膚創に対するヒドロゲルデバイス中に適用されたFAKIの局所治療の効果を分析する為に使用される構成及びタイムラインを示す図である。図7Aは、試験に使用される領域を示している。図7Bは、皮膚の除去を伴うブタの深部創の一例を示している。図7Cは、無傷のブタの皮膚の断面図を示している。図7Dは、0.06インチ(in)の創傷形成深さを有する創傷ブタの皮膚の断面図を示している。図7Eは、損傷日(D0)から術後180日(D180)迄のタイムラインを示している。
図8図8A乃至図8Cは、デュロックブタにおける皮膚深部創をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により創傷治癒が加速される事を示す図である。N=各状態毎に8つの創傷。初期創傷サイズ=25cm図8Aは、術後(POD)2日目から術後30日目(POD30)迄に撮影された創傷の写真を示している。POD11後にPOD21及びPOD30を経て、創傷はより一層治癒している様に見える。創傷面積を経時的に測定した。図8Bは、FAKIヒドロゲルで治療された創傷対ヒドロゲルで治療された創傷又は未治療の創傷についての経時的な結果を示している。ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷は、POD21及びPOD30で、未治療のままの創傷(コントロール)又はヒドロゲル単独で治療された創傷よりも加速された治癒を示す。POD14迄に、FAKIヒドロゲルで治療された創傷はほぼ完全に閉鎖したのに対して、未治療(コントロール)の創傷は依然として20%の開放創を有し、統計的有意差(で示される)があった。POD17迄に、FAKIヒドロゲルで治療された創傷は完全に閉鎖したのに対して、未治療(コントロール)の創傷は依然として約10%の開放創を有し、統計的有意差(図8Bにおいてで示される)があった。図8Cは、未治療の創傷又はヒドロゲル単独で治療された創傷が完全に閉鎖するのに25日間かかるのに対して、ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷はPOD14迄に閉鎖する事を示しており、統計的に有意な結果である。
図9図9A乃至図9Bは、デュロックブタにおける皮膚深部創をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により瘢痕の外見が有意に改善される事を示す図である。図9Aは、術後(POD)45日目から術後90日目迄に撮影された創傷の写真を示している。ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷(下段)は、術後45日目から術後90日目迄で、未治療のままの創傷(上段)又はヒドロゲル単独で治療された創傷(中段)と比較して顕著に改善された外見を示す。更に、ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷は、創傷領域内で著しくより多くの毛髪を示している。図9Bは、盲検化された瘢痕専門家によって評価された場合にヒドロゲルデバイス内のFAKIの局所適用で治療された創傷が90日で改善された外見を有する事を示している。4人の盲検化された瘢痕専門家はビジュアルアナログスケール(VAS)を使用して瘢痕を評価した。未治療のコントロールは100でスコア付けされ、ヒドロゲル単独での治療は95でスコア付けされ、ヒドロゲルデバイス内のFAKIでの治療は60の有意に改善されたスコアを示した:ヒドロゲルデバイス内のFAKIでの治療はビジュアルアナログスケール(VAS)を有し、スコアは4人の盲検化された瘢痕専門家によって評価された(p<0.001)。
図10図10A乃至図10Bは、デュロックブタにおける皮膚深部創をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により瘢痕の外見が改善され、瘢痕の外見の改善は6ヶ月で残っている事を示す図である。図10Aは、術後(POD)45日目から術後180日目(POD180)(6ヶ月)迄に撮影された創傷の写真を示している。ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷は、術後45日目から術後180日目迄で、未治療のままの創傷又はヒドロゲル単独で治療された創傷と比較して顕著に改善された外見を示す。更に、ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷は、創傷領域内に毛髪を示している。図10Bは、盲検化された瘢痕専門家によって評価された場合にヒドロゲルデバイス内のFAKIの局所適用で治療された創傷が改善された外見を有する事を示している。4人の盲検化された瘢痕専門家はビジュアルアナログスケール(VAS)を使用して瘢痕を評価した。未治療のコントロールは100でスコア付けされ、ヒドロゲル単独での治療は95でスコア付けされ、ヒドロゲルデバイス内のFAKIでの治療は60の有意に改善されたスコアを示した:FAKIヒドロゲルでの治療は、ΔP<0.0001(コントロール対H+FAKI)を有する。
図11図11A乃至図11Cは、皮膚深部創をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により、毛包及び皮膚付属器が再生される事を示す図である。図11Aは、術後90日目での、未治療の創傷(上段)及びヒドロゲル単独で治療された創傷(中段)と比較した、FAKIヒドロゲルで治療された創傷(下段)のトリクローム染色を示している。矢印1は毛包を指している。矢印3は周囲の腺構造を有する毛包を指している。矢印2及び矢印4~6は皮膚腺(汗腺及び皮脂腺)を指している。図11B図11Cは、毛包(左側のグラフ)及び皮脂腺と汗腺(右側のグラフ)の数を計数した結果を示している。未治療の創傷は各グラフの左側にあり、ヒドロゲル単独で治療された創傷は中央にあり、FAKIヒドロゲルで治療された創傷は右側にある。術後90日目で、FAKIヒドロゲルで治療された創傷は平均約2.7個の毛包で有意により多くの毛包を有したのに対して、ヒドロゲル単独で治療された創傷は平均で約0.7個の毛包を有し、未治療の創傷は約0.6個の毛包を有した。
図12図12A乃至図12Cは、皮膚深部創をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により、筋線維芽細胞の動員及び活性化が遮断される事を示す図である。図12Aは、コントロールで治療した創傷及びFAKIヒドロゲルで治療した創傷をα平滑筋アクチンについて染色した結果を示している。図12B図12Cは、POD60(図12B)及びPOD90(図12C)についての瘢痕病変内の無作為に選択された領域内のα平滑筋アクチンの量を定量化する盲検化された観察者からの結果を示す。FAKIヒドロゲルで治療された創傷は、コントロールと比較して有意に少ないα平滑筋アクチンを示した(p<0.001)。
図13図13A乃至図13Cは、FAKIヒドロゲル治療により、創傷の無い正常な皮膚に似たより良好な皮膚構造がもたされる事を示す図である。図13Aの左側のパネルは、暗い背景に対する皮膚コラーゲン染色を示している。図13Aの右側のパネルは、CT-FIRE定量的繊維分析アルゴリズムによって抽出された自動化されたコラーゲン線維のセグメント化を示している。異なる色の線維は、コンピュータによる抽出によって生成された異なる線維メトリックを有する個々のコラーゲン線維を表す。図13Bは、図13Aに示される様なコラーゲン原線維の長さ(ピクセル)を示している。コラーゲン線維の平均サイズ及び中央値サイズは、FAKIヒドロゲルにおいて未治療のコントロールと比較して有意に小さい。図13Cは、CT-FIREアルゴリズムによって分析された画像毎の特定のタイプの個々のコラーゲン線維の絶対数を示している。
図14】組織の治癒を促進し、瘢痕化を低減させる為の、本明細書に記載されるデバイスを示す図である。このデバイスには、FAKIヒドロゲル足場を備えた植皮が含まれる。
図15図15A乃至図15Bは、皮膚に局所的に送達されたFAKIヒドロゲルの安全性を示す図である。図15Aは、FAKヒドロゲルの局所送達後の微々たるレベルの全身吸収を示している。図15Bは、創傷の無い皮膚への高濃度のFAKI溶液の毎日の適用でさえ、皮膚の刺激又は感作をもたらさなかった事を示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
組織治癒を促進する為の、例えば創傷部位での瘢痕形成を回復させ、新たな毛髪及び皮膚付属器を形成する為の組成物、並びに該組成物を使用するデバイス及び方法が提供される。該組成物は、足場、例えば多孔質足場と、有効な用量の制御された薬物放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)活性の阻害剤とを含む。足場は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達表面に送達する様に構成され得る。幾つかの例では、組成物は、例えば、本発明の方法によって治療されていない創傷と比較して組織治癒を促進する及び/又は瘢痕化を低減させるのに十分な期間に亘り創傷部位で皮膚と接触される様に構成される又は接触される。本開示の態様は、有効用量のFAK阻害剤が創傷と接触される、損傷の治療、創傷の再上皮化、皮膚の創傷の治癒の間の瘢痕の予防又は低減、新たな毛髪及び皮膚付属器の形成の為の方法を提供する。幾つかの実施形態では、被験体はヒト被験体である。幾つかの実施形態では、損傷は、表皮の切開、熱傷、開放型又は閉鎖型であり得る創傷等であり得る切り傷である。開放創の例には、限定されるものではないが、切開、裂傷、擦過傷、穿刺創、貫通創、銃創、及び/又は刺創が含まれる。幾つかの実施形態では、多孔質足場は、プルラン-コラーゲンヒドロゲル等の多孔質ヒドロゲルである。
【0037】
本発明は、特定の方法論、プロトコル、細胞系統、動物種又は属、及び記載される試薬に限定されず、全ては変化し得る事を理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する事のみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定する事を意図するものではない事も理解されたい。
【0038】
定義
細胞質タンパク質チロシンキナーゼ(PTK2)としても知られる接着斑キナーゼ(FAK)は、細胞外基質成分に付着する細胞間に形成する接着斑に集中する細胞質ゾルタンパク質チロシンキナーゼである(アンドレ等(Andre et al.)(1993年)バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)第190巻:第140頁~第147頁を参照)。FAKは、細胞間の接着斑のダイナミクスの関係物として動員され、運動性及び細胞生存に関与する125kDの高度に保存された非受容体型チロシンキナーゼである。FAKは、インテグリンの結合、成長因子の刺激、及び有糸分裂促進性神経ペプチドの作用に応答してリン酸化される。159アミノ酸のカルボキシ末端領域である接着斑標的ドメイン(FAT)は、FAKを接着斑に標的化する役割を担う事が分かっている。接着斑アダプタータンパク質であるパキシリンは、FATドメインと重複するカルボキシ末端ドメインでFAKに結合する。アミノ領域とカルボキシ領域との間には、触媒ドメインがある。このキナーゼドメイン内の活性化ループのリン酸化は、FAKのキナーゼ活性にとって重要である。
【0039】
FAKの例示的な阻害剤を以下の表1(表1A、表1B)に示す。関心が持たれる阻害剤はPF-562271であり、これは強力で、ATP競合的で、選択的且つ可逆的な1.5nMのIC50を有するFAKの阻害剤である。又、PF-562271のベンゼンスルホン酸塩であるPF-00562271も関心が持たれる。
【0040】
FAKの阻害剤。多くのFAK阻害剤が知られており、当該技術分野で使用されている。
【0041】
【表1A】
【表1B】
【0042】
多孔質足場。細孔又は開口を有する構造物。該構造物は、天然及び/又は合成のポリマー又はコポリマーを含み得る。多孔質足場を形成するのに適した材料の例には、アクリルポリマー、セルロース、キトサン、コラーゲン、セルロースポリマー、ゼラチン、ガム、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-ラクチド)/ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリビニル基ポリマー、プルラン、及びその他の多糖類が含まれる。細孔は、足場全体を通して延びて足場の第1の表面から第2の表面迄延びていても、又は少なくとも第1の表面が閉じられていても良い。細孔は、相互接続された小さな空隙を有し得る。細孔は不規則的又は規則的であり得る。不規則的な細孔は、サイズの観点(例えば、直径)又は長さの観点において不規則であり得る。規則的な細孔は、サイズ、形状、又は分布が互いに同様であり得る。細孔(特に規則的な細孔)は、足場が固まった後に溶出されるポロゲン又は粒子の塊を使用して形成され得る。利用され得るポロゲンの例には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、スクロース、グルコース、ラクトース、ソルビトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールが含まれる。細孔(特に、規則的な細孔)は、レーザー穿孔又は3D印刷によって形成され得る。多孔性は、薬物(例えば、FAK阻害剤)を所望の時間に亘り又は所望の速度で保持及び放出する為に最適化され得る。多孔性は、薬物(例えば、FAK阻害剤)を多孔質足場上の送達表面に保持及び放出する為に最適化され得る。多孔性は、薬物(例えば、FAK阻害剤)を多孔質足場上の送達表面から組織表面に保持及び放出する為に最適化され得る。多孔質足場はヒドロゲルであり、水等の流体を保持し得るか、又は水等の流体を保持する様に構成され得る。
【0043】
ヒドロゲル。創傷ドレッシング材は、創傷を被覆及び保護する為に創傷又は切開部に適用される材料である。例えば、炭水化物ベースのヒドロゲルは、架橋及び細孔形成を提供する条件下でプルラン及びコラーゲンを使用して作製され得る。コラーゲンは、プルラン、架橋剤、及び細孔形成剤(ポロゲン)の混合物に添加する事が出来、ここで、コラーゲンは、プルランの重量に対して少なくとも約1%で約12.5%以下の濃度で提供される。コラーゲンは、約1%、約2.5%、約5%、約7.5%、約10%の濃度で、通常は約2.5%~約10%の濃度で提供する事が出来、約4%~約6%であって良く、そのコラーゲンは通常、繊維状コラーゲン、例えば、タイプI、II、III等である。関心が持たれる架橋剤には、トリメタリン酸ナトリウム(STMP)又はトリメタリン酸ナトリウムとトリポリリン酸ナトリウムとの組み合わせ(STMP/STPP)が含まれ、例えば、これらはプルランと、約1:5、約1:2、約1:1、約1:2の重量/重量比である。ゲル内結晶化の為の関心が持たれるポロゲンは、あらゆる適切なポロゲン、例えば塩、例えばKClが含まれ、例えば、これらはプルランと、約1:5、約1:2、約1:1、約1:2の重量/重量比である。分子インプリンティングの為に、FAK阻害剤は、混合物中に約100μg/ml~約100mg/mlの濃度で添加する事が出来、約1mg/ml~約10mg/mlであり得る。表面取り込みの為に、ゲルが形成された後に適切な賦形剤中のFAK阻害剤の溶液、例えば水溶液、エタノール等を表面に適用する事が出来る。
【0044】
上記組成物を注入して圧縮する事で、シートを形成する事が出来る。好ましい厚さは、少なくとも約1mmで約5mm以下、通常は約3mm以下であり、約1.75mm~2.5mm、例えば、約2mmの厚さであり得る。
【0045】
細孔は、膨潤したヒドロゲルの転相による急速な乾燥によってヒドロゲル内に形成され得る。従って、幾つかの実施形態は、上記混合物又は膨潤したヒドロゲルを脱水する工程を含む。脱水は、ポロゲンの局所的な過飽和及び結晶化をもたらす。プルラン及びコラーゲンは、相互接続された網目構造内の結晶の周りに組織化する事が強いられ、KClの溶解後に網状の足場の形成がもたらされる。従って、幾つかの実施形態は、ポロゲンを除去する工程を含む。ポロゲンの添加は、ヒドロゲルの粘弾性を増強する。改善された足場の多孔性は、より大きな流体吸収、より高い水対ポリマー比、及びより効果的なヒドロゲル挙動を可能にする。
【0046】
上記フィルムは乾燥状態で保管する事が出来、任意の適切な水性媒体中で容易に再水和される。ヒドロゲル基質の水性の性質は、創傷治癒における細胞成長及び持続可能性の為の理想的な環境を提供する。
【0047】
ヒドロゲルの機械的特徴には、平均細孔サイズ及び足場の多孔性が含まれる。プルラン-コラーゲンヒドロゲルの場合に、両方の可変要素は、ヒドロゲル内に存在するコラーゲンの濃度に伴い変動する。5%のコラーゲンを含むヒドロゲルの場合に、平均細孔サイズは、通常、約25μm~約50μm、約30μm~約40μmの範囲であり、約35μmであり得る。10%のコラーゲンを含むヒドロゲルの場合に、平均細孔サイズは、通常、約10μm~約25μm、約12μm~約18μmの範囲であり、約15μmであり得る。当業者であれば、他のコラーゲン濃度での適切なヒドロゲルを容易に決定するであろう。足場の多孔性は通常、約50%~約85%の範囲であり、約70%~約75%の範囲であって良く、コラーゲンの濃度が増加するにつれて減少する。
【0048】
プルラン。真菌のアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)に由来する多糖類ポリマー。プルランは、α-(1-6)結合されたマルトトリオース単位を有する線状ホモ多糖であり、ヒドロゲル状態で保水能力を示し、それにより細胞と生体分子の両方にとって理想的な治療薬媒体となる。更に、プルランは、架橋及び遺伝物質と治療用サイトカインの送達を可能にする複数の官能基を含む。更に、プルランベースの足場は、in vitroで内皮細胞と平滑筋細胞の両方の挙動を強化する事が分かっている。
【0049】
コラーゲン。本明細書で使用される場合に、「コラーゲン」という用語は、存在するタンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上が三重らせん構造のコラーゲンである組成物を指す。コラーゲンは脊椎動物種に広く見られ、多くの異なる種について配列決定されている。種間の高度な配列類似性の為に、様々な種由来のコラーゲンを、例えば哺乳動物種間の生体医療目的に使用する事が出来る。典型的な市販の動物性供給源には、ウシのアキレス腱、カーフスキン、及び牛の骨が含まれる。幾つかの実施形態では、配向薄膜の調製に使用されるコラーゲンは、I型、II型又はIII型のコラーゲンであり、あらゆる適切な供給源、例えば、ウシ、ブタ等、通常は哺乳動物供給源に由来する。
【0050】
コラーゲンは三重鎖のロープ状のコイル状構造を有する。皮膚、腱、及び骨の主要なコラーゲンはコラーゲンIであり、2つのα-1ポリペプチド鎖及び1つのα-2鎖を含んでいる。軟骨のコラーゲンには、1種類のポリペプチド鎖α-1しか含まれていない。胎児には特徴的な構造のコラーゲンも含まれている。間質コラーゲンであるI型、II型、及びIII型のコラーゲンについての遺伝子は、三重らせんgly-X-Y部の長さに沿って進化的に保存された位置に多数の比較的小さなエクソン(54bp及び108bp)の珍しい特徴的な構造を示す。
【0051】
コラーゲンの型には、I型(COL1A1、COL1A2)、II型(COL2A1)、III型(COL3A1)、IV型(COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6)、V型(COL5A1、COL5A2、COL5A3)、VI型(COL6A1、COL6A2、COL6A3)、VII型(COL7A1)、VIII型(COL8A1、COL8A2)、IX型(COL9A1、COL9A2、COL9A3)、X型(COL10A1)、XI型(COL11A1、COL11A2)、XII型(COL12A1)、XIII型(COL13A1)、XIV型(COL14A1)、XV型(COL15A1)、XVI型(COL16A1)、XVII型(COL17A1)、XVIII型(COL18A1)、XIX型(COL19A1)、XX型(COL20A1)、XXI型(COL21A1)、XXII型(COL22A1)、XXIII型(COL23A1)、XXIV型(COL24A1)、XXV型(COL25A1)、XXVII型(COL27A1)、XXVIII型(COL28A1)が含まれる。当業者によれば、哺乳動物コラーゲン、例えば、ウシ、ブタ、ウマ等のコラーゲンを含む他のコラーゲンも同様に本発明の方法の為に適していると理解されるであろう。付加的に又は代替的に、コラーゲンを合成により作製する事も出来る。
【0052】
支持体。変形可能な支持体を含む、様々な固体支持体又は基材を多孔質足場(ヒドロゲル)と共に使用する事が出来る。変形可能とは、支持体の形状を何か他の形状に変える事が出来る事を意味する。変形可能な固体支持体の例には、創傷ドレッシング材の作製に関する技術分野で知られている、ポリアクリルアミド、ナイロン、ニトロセルロース、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等が含まれる。
【0053】
創傷ドレッシング材。創傷ドレッシング材は、創傷を被覆及び保護する為に創傷又は切開部に適用される材料である。例えば、組織治癒を促進する為の(例えば、創傷部位での瘢痕及び/又はケロイドの形成を回復させる為の)ヒドロゲル等の多孔質基材は創傷ドレッシング材の1つの種類である。一般に、ヒドロゲル等の多孔質基材は、皮膚又は他の組織表面に着脱可能に固定される様に構成され、1種以上の活性剤(薬物)を含み得る。他の例では、創傷ドレッシング材又は創傷ドレッシング材の一部は生分解性であり得る。ヒドロゲルは、任意の適切な形状又はサイズを有し得る。
【0054】
生物学的に活性な創傷ドレッシング材の追加の基準には、載置後すぐの創傷への迅速な付着、創傷からの蒸発による流体損失を抑制し、創傷とドレッシング材との間に滲出液が集まるのを避けるのに適切な蒸気伝達の1つ以上が含まれ得る。生物学的に活性な創傷ドレッシング材は代用皮膚として機能する事が出来ると共に、微生物に対するバリアとして機能し、創傷中に既に存在する微生物の成長を制限し、柔軟性であり、耐久性があり、引裂に対して耐性がある事の1つ以上として機能し得る。代用皮膚は一般に組織適合性を示し、即ち、肉芽組織の形成につながり得る創傷内の炎症又は異物反応を誘発すべきではない。本明細書に記載されるヒドロゲル薄膜の内面構造が提供される事で、線維血管組織の内部成長が可能となり得る。外面構造が提供される事で、流体の伝達は最小限に抑えられ、上皮化が促進され得る。
【0055】
幾つかの例では、FAKI単独又はFAKIヒドロゲル(例えば、プルラン/コラーゲンヒドロゲル)は、移植片の一部であり得る。「移植片」という用語は、一般に、身体の一部から取り出された後に、同じ(又は異なる)身体上の新たな部位に移動される(及び取り付けられる)皮膚片を指す。図14は、FAKI多孔質足場植皮の一例を示している。患者は全層頭皮熱傷を負っている。皮膚片は、採取場所(この場合には右大腿)から採取され、FAKIを含む多孔質足場と共に層状化(この場合は重層化)される。説明を目的とするこの例では、移植片は、FAKIを含む多孔質基材で重層化されていない領域及びFAKIを含まない多孔質基材で重層化されている領域を含むコントロール領域も含んでいるが、移植用の移植片はより一般的には、殆どの側面又は全ての側面に沿ってFAKIを含むヒドロゲルによって大部分が成層される事となる。
【0056】
「創傷」という用語は、一般に、以下に説明される様に、開放創及び閉鎖創の両方を指す。創傷は更に、急性創又は慢性創として分類する事が出来る。急性創は、根本的な治癒欠陥を有さず、通常、健康な個体における手術又は外傷に続いて発生し、迅速且つ完全に治癒する創傷である。それに対して、慢性創は、組織完全性の損失を有し、長期間又は頻発する傷害又は損傷によって生じる創傷である。本明細書で使用される場合に、「皮膚創」という用語は、皮膚における破断を指す。
【0057】
「開放創」という用語は、通常、創傷を引き起こした物体に応じて分類される。開放創には、熱傷、切開、裂傷、擦過傷、穿刺創、貫通創、銃創等が含まれる。切開又は切開創は、ナイフ、剃刀、又はガラスの破片等の清潔で鋭利な物体によって引き起こされ得る。表皮のみを含む切開は、切り傷として分類され得る。裂傷は、硬組織の上にある軟組織への鈍的衝撃(例えば、頭蓋骨を覆う皮膚の裂傷)又は皮膚及び他の組織の裂傷(例えば、出産により引き起こされる)によって引き起こされる不規則な創傷である。結合組織又は血管が下にある硬表面にへばりつく為、裂傷は架橋を示す場合がある。擦過傷(擦り傷)は、皮膚の最上層(表皮)が削り取られる表面的な創傷であり、屡々、粗い表面上で滑って転ぶ事によって引き起こされる。穿刺創は、爪又は針等の皮膚に穴を開ける物体によって引き起こされ得る。貫通創は、ナイフ等の物体が身体内に入り込む事によって引き起こされ得る。銃創は、弾丸又は同様の発射体が身体内に飛び込む又は身体内を通過する事によって引き起こされ得る。従って、進入部位に1つ及び進出部位に1つの2つの創傷が存在する場合があり、これは一般的に貫通として知られている。
【0058】
「閉鎖創」という用語は、皮膚の下の組織に損傷を与える鈍器外傷によって引き起こされる、より一般的には打撲として知られる挫傷、血管への損傷により更に皮膚の下に血液が集まる事によって引き起こされる、血液腫瘍とも呼ばれる血腫、及び長期間に亘って加えられた大きな又は大量の力によって引き起こされ得る圧壊傷害を指す。
【0059】
「瘢痕」という用語は、以前の損傷又は創傷(例えば、切開、切除又は外傷)に起因する異常な形態学的構造を指す。瘢痕は、主にコラーゲン1型及び3型並びにフィブロネクチンの基質である結合組織から構成されている。瘢痕は、(皮膚の正常瘢痕に見られる様な)異常な組織のコラーゲン線維からなり得るか、又は(中枢神経系の瘢痕又は皮膚の病理学的瘢痕に見られる様な)結合組織の異常な蓄積であり得る。瘢痕の種類には、限定されるものではないが、萎縮性瘢痕、肥厚性瘢痕、及びケロイド性瘢痕、ならびに瘢痕拘縮が含まれる。萎縮性瘢痕は、周囲の皮膚より下に窪み又は穴として平らに窪んでいる。肥厚性瘢痕は、元の病変の境界内にとどまる隆起した瘢痕であり、屡々異常なパターンで配置された過剰なコラーゲンを含む。ケロイド性瘢痕は、元の創傷の縁を越えて広がり、部位特異的に周囲の正常な皮膚を侵害する隆起した瘢痕であり、屡々異常な様式で配置されたコラーゲンの渦巻きを含む。瘢痕拘縮は、関節又は皮膚の皺を直交する、短縮又は拘縮を起こしやすい瘢痕である。瘢痕拘縮は、瘢痕が完全に成熟していないときに発生し、屡々肥厚性となる傾向があり、典型的には不能状態又は機能不全となる。
【0060】
外科的創傷、熱傷、切り傷、銃創等を含む様々な状態が瘢痕を引き起こす場合がある。瘢痕は通常、限定されるものではないが、皺切除術、眼瞼形成術、鼻形成術、耳形成術、オガイト形成術、フェイスリフト、額リフト、眉リフト、顔面瘢痕修正、顔面瘢痕除去、レーザー手術、スキンリサーフェシング、皺の治療、プラズマ皮膚再生法、顔面脂肪移植、皮膚の引き締め、入れ墨の除去、及びヘアーリプレイスメントを含む顔面形成外科手術の結果として形成する。従って、本開示は、創傷治癒を早め、瘢痕形成を低減させる事によって、特に瘢痕化及び痣の手当の為に顔面形成外科を受ける患者にとって有利である。瘢痕は通常、限定されるものではないが、腹部形成術、乳房縮小術、豊胸手術、ボディリフト法、クモ状静脈治療、ストレッチマーク治療、脂肪吸引術、余剰皮膚除去手術、セルライト減少治療、体輪郭形成、ボディリサーフェシング、及びボディインプラントを含む全身形成外科手術の結果としても形成する。
【0061】
「投与する」とは、限定されるものではないが、局所的、皮内注射、静脈内、全身、皮下、筋肉内、舌下、及び吸入又は注射、潅注又は浸透圧ポンプを含む特定の経路を介して、被験体に薬学的治療薬又は製剤を投与又は適用する事を指す。
【0062】
組成物、デバイス、及び方法
本明細書には、治癒の間に組織の瘢痕化の低減を促進する為の組成物が記載されている。上記組成物は、多孔質足場と、有効用量の接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む。FAK阻害剤は制御された薬物放出の為に作製され、足場の細孔内に配置されており、足場は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達表面に送達する様に構成されている。多孔質足場は、プルラン-ヒドロゲルフィルム等のヒドロゲルフィルムを含み得る。上記組成物は、治療時間の間に組織の瘢痕化を低減させる及び/又は治療時間の間に組織における毛髪成長を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達表面に送達する様に構成され得る。上記組成物は、創傷ドレッシング材として構成され得、柔軟であり得る。
【0063】
本明細書には、瘢痕及び/若しくはケロイドの形成の治癒、例えば回復を促進する方法、並びに/又は毛髪を発生させる方法であって、瘢痕化を低減させる、毛髪を形成する、又は皮膚付属器を形成するのに十分な期間に亘って、創傷を本明細書に開示される有効用量のFAK阻害剤ヒドロゲルと接触させる工程を含む、方法が提供される。本明細書には、多孔質足場と、足場の細孔内に配置された制御された薬物放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む組成物を載置する事、上記組成物を組織表面に適用する事、及び上記組成物の送達表面から組織へと、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達する事を含む、組織治癒を促進する方法が提供される。幾つかの方法では、上記組成物は、プルラン-コラーゲンヒドロゲル等のヒドロゲルを含む。幾つかの方法では、FAK阻害剤の用量は、治療時間の間に組織の瘢痕化を低減させるのに有効である。幾つかの方法では、FAK阻害剤は、治療時間の後に、例えば身体内の治癒経路の活性化によって組織の瘢痕化を低減させるのに有効である。幾つかの方法では、FAK阻害剤の用量は、治療時間の間(又は後)に組織において毛髪成長を促進するのに有効である。例えば、多孔質足場が取り除かれた後でさえも、毛髪は成長し続ける事が出来る。幾つかの方法では、上記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている。幾つかの方法では、FAK阻害剤は、送達表面上に配置される。幾つかの方法では、制御された速度は、迅速放出速度(組織表面への放出の為)及び持続放出速度(組織表面への放出の為)を含む。幾つかの方法では、迅速放出の為のFAKIは、約12時間以内、約24時間以内、又はこれらの時間の間で組織表面に放出される。幾つかの方法では、持続放出の為のFAKIは、最大約24時間、48時間、72時間若しくは96時間、又はその間のあらゆる長さの時間の期間に亘って送達表面に放出される。幾つかの方法では、持続放出の為のFAKIは、最大約24時間、48時間、72時間若しくは96時間、又はその間のあらゆる長さの時間の期間に亘って組織表面に放出される。幾つかの方法は、例えば上記組成物を組織表面から持ち上げる又は引っ張る事によって組成物を組織表面から取り除く事を含む。幾つかの方法は、上記組成物を生分解させる事を含む。幾つかの方法は、載置工程及び送達工程を少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも10回、少なくとも20回、又は少なくとも30回繰り返す(例えば、新たな組成物を用いて)事を含む。幾つかの方法では、FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)又はPF-562271のベンゼンスルホン酸塩である。幾つかの方法では、組成物中に存在する総FAKIの約30%から組成物中に存在する総FAKIの約75%が送達される。
【0064】
ヒドロゲルは、一定期間、例えば、少なくとも約1日間、少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約1週間、少なくとも約10日、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、又はそれ以上の間、創傷(組織表面)との接触を維持する事が出来る。例えば、幾つかの変形形態では、損傷後約1日から約3日迄、即ち、増殖段階の早期部分等の初期期間の間に、ヒドロゲルを創傷部位に適用する事が望ましい。ヒドロゲルは、瘢痕除去処置によって引き起こされた新たな創傷に適用され得る。場合によっては、ヒドロゲルは損傷後7日迄、即ち、増殖段階の後期に適用される。例えば、腫脹及び創傷滲出液は、ヒドロゲルが損傷後3日より後に適用される事を指摘し得る。幾つかの用途では、第1のヒドロゲルを、損傷後の初期期間内に、例えば、最初の3日以内に適用した後に取り除く事が出来、その後に第2のヒドロゲルを適用する事が出来る。第2のヒドロゲルは、初期期間の後に起こり得る創傷を取り囲む皮膚及び組織の変化、例えば腫脹及び滲出液の減少に適合され得る。
【0065】
本明細書には、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤、プルラン、コラーゲン、及びポロゲンを含む混合物を形成する事、並びにポロゲンを除去する及び/又は上記混合物を脱水する事により、多孔質足場の細孔内に配置された制御された薬物放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を有する多孔質足場を含む組成物を作製する事を含む、創傷の治療の為の多孔質足場を含む組成物を製造する方法が提供される。幾つかの実施形態では、多孔質足場は、ヒドロゲル、例えばプルラン及びコラーゲンヒドロゲルを含む。幾つかの方法は、上記組成物の表面上にFAK阻害剤を載置する事を含む。幾つかのその様な方法は、プルランをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)及び/又はトリポリリン酸ナトリウム(STPP)又は別の架橋剤を用いて架橋する事を更に含む。
【0066】
幾つかの方法は、上記除去工程の前にポロゲンを結晶化させる事を含む。例えば、カリウム若しくはナトリウム等の塩のポロゲン、又は本明細書の他の箇所に記載されている別の塩を使用する事が出来る。幾つかの方法では、組成物は、FAK阻害剤の不均一な分布を含む。例えば、FAK阻害剤は、細孔に沿って集中し得る。FAK阻害剤は更に又はその代わりに、多層構造物内の特定の層に沿って又は組成物の外側表面(例えば、デバイスの外側表面)に集中し得る。
【0067】
主題の方法は、被験体の創傷の治療が望まれるあらゆる用途で使用される。一般に、その様な被験体は「哺乳類」又は「哺乳動物」であり、これらの用語は、食肉目(例えば、イヌ及びネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、及びラット)、及び霊長目(例えば、ヒト、チンパンジー、及びサル)を含む哺乳動物の範囲内の生物を記載する為に広範に使用される。多くの実施形態では、被験体はヒトである。
【0068】
従って、主題の方法は、広範な開放皮膚創及び閉鎖皮膚創を治療するのに使用され得る為、主題の方法は、様々な原因から、例えば、病態等の状態、転倒、掠り傷、刺創、銃撃、手術創、感染症等の身体外傷、爆弾、弾丸、破片等の戦時中の損傷の結果として引き起こされた創傷を治療する為に使用され得る。同様に、主題の方法は、様々な寸法の創傷を治療する事が出来る。例えば、主題の方法は、特定の創傷が筋肉に到達する深さを有する場合がある深部組織創と浅い創傷又は表在性創傷の両方で使用され得る。創傷は、真皮層へと貫入しない様に表皮に限定されても良く、真皮と同じ深さ又はそれより深くても良く、例えば、真皮に貫入又は真皮を貫通しても良く、更には皮下組織層に貫入又は皮下組織層を貫通しても又はより深くても良く、例えば、筋層以降を貫通又は筋層以降に貫入しても良い。例えば、主題の方法は、約0.005mm~約2.35mm、例えば、約0.007mm~約2.3mm、例えば、約0.01mm~約2mmの範囲の深さを有する創傷を創面切除する為に使用され得る。
【0069】
創傷ドレッシング材は、プルラン/コラーゲンヒドロゲルにインプリント又は表面適用された有効用量のFAK阻害剤を含み得、そのヒドロゲルは、例えば、基材、例えば通気性のある保護層又は他の保護フィルムに取り付けられ又は接着され得る。代替的に、該ドレッシング材は、保護ドレッシング材と別個に構成され得る。支持体は、一般に、人体の動きに適合する事が出来るフレキシブルな材料で出来ており、それには、例えば、様々な非織布、織布、スパンデックス、フランネル、又はこれらの材料とポリエチレンフィルム、ポリエチレングリコールテレフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン-酢酸ビニルコポリマーフィルム、ポリウレタンフィルム等とのラミネートが含まれる。「フレキシブル」とは、支持体を、破断、引裂、裂け等なく、実質的に曲げる事が出来る又は折り畳む事が出来る事を意味する。支持体は、多孔質又は非多孔質であり得るが、典型的には、非多孔質であるか、又はヒドロゲル組成物、使用される場合は活性剤、及び流体、例えば、創傷部位から滲出するあらゆる流体に対して不浸透性である。
【0070】
支持体の長さ及び幅の寸法は、典型的には、関連するパッチ組成物の長さ及び幅の寸法と正確に等しい事を含めて実質的に等しい。支持体層は、典型的には、約10μm~約1000μmの範囲の厚さを有し得るが、特定の実施形態では、約10μm未満及び/又は1000μmを超えても良い。
【0071】
ヒドロゲル及び任意の支持体層に加えて、ドレッシング材は、環境からパッチ層を保護する裏張りの反対側のヒドロゲル組成物層の表面上に剥離フィルムも含み得る。剥離フィルムは、代表的な剥離フィルムが、PET又はPP等のポリエステルを含む、あらゆる適切な材料であり得る。
【0072】
ドレッシング材の形状は様々であり、代表的な形状には、正方形、長方形、楕円形、円形、三角形等が含まれる。ドレッシング材のサイズも様々であって良く、多くの実施形態では、ヒドロゲルのサイズは、約1cm以下から約1000cm以上の範囲であり、例えば、特定の実施形態では、約10cm~約300cmの範囲であり、例えば、約20cm~約200cm、例えば、約130cm~約150cmの範囲である。特定の実施形態では、表面積は、実質的な部分、又は更に全トラック、又は更に被験体の全身の実質的な部分、又は更に全身を覆うのに十分である。従って、表面積は、約1000cm~約5000cm以上の範囲であり得る。上記製造プロトコルは単なる代表的なものである事に留意されたい。上記の様に、主題のヒドロゲルパッチ組成物を製造する事が出来るあらゆる適切なプロトコルを使用する事が出来る。
【0073】
本明細書に記載されるデバイス及びバンデージは、任意の適切な形状を有し得る。例えば、デバイス又はバンデージは、長方形、正方形、円形、楕円形、トロイダル形、又はそれらの区分若しくは組み合わせであり得る。多くの変形形態では、デバイスはフレキシブルであり平坦であり、皮膚に対してコンフォーマルに載置する事が出来る。当然ながら、デバイス及びバンデージは、様々な創傷に対処する為に、あらゆる適切なサイズであっても良い。幾つかの変形形態では、デバイス及びバンデージは、創傷部位の適切な被覆を確実にする為に、バンデージのロール又はシートから使用の直前に切り出され得る。デバイス及びバンデージは、場合によっては創傷から約20cm(約8インチ)に迄達して良く、他の場合には、デバイス又はバンデージは、創傷から約2cm、4cm、6cm、8cm、10cm、12cm、14cm、16cm、又は18cmに達して良く、ここで、「約」は各距離を修飾している。更に他の変形形態では、バンデージは、創傷から約22cm、約24cm、約26cm、又は更にそれ以上に達しても良い。幾つかの変形形態では、デバイスは、ポリマー、例えば、形状記憶ポリマーから出来ている。あらゆる適切な形状記憶ポリマー、例えば、スチレンベース、エポキシベース、又はアクリレートベースの形状記憶ポリマーを使用する事が出来る。
【0074】
瘢痕及び/若しくはケロイドの形成を回復、並びに/又は毛髪及び皮膚付属器を発生させる為のキットも本明細書に記載されている。一般に、キットは、パッケージされた組合せ物において、本明細書に記載される有効量のFAKIを含むヒドロゲルの単位用量を含む。キット内の複数の用量は、並行して適用される様に設計され得る。例えば、幾つかのキットは、例えば、損傷後3日間迄の創傷治癒の増殖段階の早期部分等の初期期間の間に適用された後に取り除かれるべき1つのヒドロゲルと、その後に適用されるべき第2のヒドロゲルとを含み得る。幾つかのキットは、少なくとも1つの創傷ドレッシング材、又は少なくとも1つの創傷洗浄剤、又は創傷治癒用途に望ましい若しくは適切な他の構成要素を含み得る。キットは、デバイス及び/又はそこに含まれる他の構成要素を使用する為の説明書も含み得る。
【0075】
本発明は又、本発明の医薬組成物の1種以上の成分で満たされた1つ以上の容器を含む医薬品パック又はキットを提供する。医薬品又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の通知であって、製造、使用又は販売の機関によるヒトの投与についての承認を表す通知が、その様な1つ以上の容器に付属し得る。
【0076】
以下の実施例は、当業者に本発明をどの様に行い使用するかの完全な開示及び記載を提供する様に述べられており、本発明者等が発明とみなす範囲を制限するとは意図されず、以下の実験が、実施される全て又は唯一の実験である事を表すとも意図されない。使用される数値(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証する為の努力がなされたが、幾らかの実験誤差及び偏差が考慮に入れられるべきである。特段の指示が無い限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧であるか又は大気圧の近くである。
【0077】
本明細書で引用された全ての刊行物及び特許出願を、各個別の刊行物又は特許出願が引用により援用されると具体的且つ個別に示されたかの様に、引用する事により本明細書に援用する。
【0078】
本発明は、本発明者によって本発明の実施の為の好ましい形態を含む事が見出され又は提案された特定の実施形態に関して記載されている。当業者によれば、本開示を踏まえて、本発明の意図された範囲から逸脱する事なく、例示された特定の実施形態において多数の変更及び変化を加える事が出来ると理解されるであろう。
【0079】
実験
接着斑キナーゼ阻害剤の制御送達により、創傷閉鎖の加速と共に瘢痕形成の減少がもたらされる。
【0080】
創傷形成又は外傷後の瘢痕形成は、経済に毎年数十億ドルを費やす重大な医療負担を意味する。接着斑キナーゼ(FAK)の活性化は、機械的シグナルを伝達して、創傷修復の間に線維化反応及び瘢痕形成を誘発するに当たり極めて重要な役割を担う事が分かっている。本発明者等は以前に、小分子FAK阻害剤(FAKI)の局所注射を使用したFAKの阻害が、肥厚性瘢痕モデルの瘢痕発生を減弱し得る事を示した。しかしながら、FAKI療法の臨床的橋渡しは、広範囲の熱傷、爆傷、及び大規模な切除損傷に対する効果的な薬物送達システムの欠如の為困難であった。この問題に対処する為に、本発明者等は、FAKIをマウスにおける切除創及び熱傷創に送達するプルランコラーゲンベースのヒドロゲルを開発した。具体的には、熱傷創及び切除創をそれぞれ治療する為にFAKIを迅速放出又は持続放出する為に、2つの異なる薬物負荷ヒドロゲルを開発した。プルランコラーゲンヒドロゲルを介したFAKIの制御送達は、両方の創傷治癒モデルにおいて、創傷治癒を加速し、コラーゲン沈着と瘢痕形成性筋線維芽細胞の活性化を低減させた。本発明者等の研究は、重要な橋渡し的意義を有する創傷及び瘢痕管理の為の生体材料ベースの薬物送達アプローチを強調している。
【0081】
プルラン-コラーゲンベースのヒドロゲルシステムは、創傷治癒の為のFAKIの送達に使用される。FAKIヒドロゲル療法の有効性は、大きく深いマウスの切除創及び熱傷創モデルで評価された。2つの異なるタイプのヒドロゲル:i.)持続放出性ヒドロゲル、及びii.)迅速放出性ヒドロゲルが開発された。持続放出性ヒドロゲルを開発する為に、分子インプリンティング技術を使用して、FAKIを多孔質ヒドロゲルに組み込む事により、数日間に亘る創傷環境へのFAKIの徐放及び持続放出が可能となった。これらのヒドロゲルを、マウスにおけるスプリント装着された切除創へのFAKIの制御送達の為に使用した。しかしながら、熱傷創は漿液性排液の増加を伴い、より頻繁なドレッシング材の交換が必要とされる。これに対応する為に、本発明者等は、数時間以内でのFAKIの迅速放出を可能にするFAKI表面取り込み法を使用した。
【0082】
本明細書では、FAKIがマウスの創傷の創傷治癒を有意に改善し、創傷治癒後の線維形成活性を減弱させた事が報告される。本発明者等の研究は、創傷及び瘢痕管理の為の生体材料ベースの抗瘢痕的な薬物送達アプローチを強調している。
【0083】
プルラン-コラーゲンヒドロゲルからのFAKIのin vitro薬物放出プロファイル。本発明者等は以前に、細胞又は小分子薬物の取り込み能力を有する、柔らかく、真皮の様なプルラン-コラーゲンヒドロゲルマトリックスの作製方法及び特性評価を報告した(ウォン等(Wong et al.),2011c及び図1A)。ヒドロゲルの膨潤及びin vitro分解挙動は、FAKIの負荷によって変化しなかった(FAKI無しの膨潤比30.87±0.84に対して、FAKIありの膨潤比32.15±0.56)(図1B)。質量分析により、FAKIの構造的完全性がヒドロゲルへの組み込み後にも維持される事が確認された。
【0084】
損傷の種類に応じて、FAKIを効果的に送達する為に、2つの異なる薬物放出動態を採用した。分子インプリンティング技術により、創傷形成後の最初の数日間に最適な局所濃度のFAKIを示す持続放出動態がもたらされた(図1C)。以前に報告されたマウスHTSモデル(アーラビー等(Aarabi et al.),2007、ウォン等(Wong et al),2011a)を使用すると、このFAKI濃度は、10日間連続で毎日創傷部位に局所注射した場合に瘢痕形成を低減させるのに有効であった(図6)。持続放出性FAKIヒドロゲルを、スプリント装着された切除創に使用した。熱傷創はドレッシング材を汚損する創面切除後の大量の漿液性排液を生じる為、任意の感染症の予防の為にヒドロゲル及びバンデージの頻繁な交換が必要であり、迅速放出プロファイルが望ましい。両方の創傷タイプに適用されるFAKIの用量を標準化する為に、FAKIを迅速に放出する表面薬物取り込み法によって調製されたヒドロゲル足場を採用した。
【0085】
分子インプリンティングで製造されたヒドロゲルは、数日間に亘って絶え間なくFAKIを放出し、FAKIは凡そ4日目にほぼ完全に放出された。表面取り込み法は24時間以内に完了した。どちらのタイプのヒドロゲルも、最初に組み込まれた総量の約40%~45%を放出した(図1C)。迅速に放出されるFAKIの場合に、24時間以内に放出された薬物の総量は、その皮膚毒性レベルを超えなかった(図6)。in vitro実験では、ヒドロゲルの分解は視覚的に観察する事は出来なかった。ヒドロゲル及びドレッシング材は、in vivoで使用される場合に頻繁に交換される為、最初の72時間迄の本発明者等のin vitro放出研究は生物学的に関連している。
【0086】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、切除創の治癒を促進する。ヒトに見られる様な再上皮化を介した創傷治癒のメカニズムを再現するマウスにおけるスプリント装着創(ウォン等(Wong et al.),2011b)を、創傷が完全に閉鎖する迄、持続放出性のFAKI負荷ヒドロゲルで毎日治療した。0日目(創傷が作られたとき)から、切除創に、持続的にFAKIを放出するFAKIヒドロゲルを与えた。使用済みのヒドロゲルを取り除き、1日置きに新しいヒドロゲル及び接着バンデージと交換した。FAKIで治療された切除創は、無治療の創傷よりも有意に早く治癒し、コントロール創傷についての損傷後14日目に対して、損傷後11日目に完全に閉鎖された(P<0.05、図2)。ブランクのヒドロゲルも創傷閉鎖を加速した事から、以前の報告(ウォン等(Wong et al.),2011c、ウォン等(Wong et al.),2011d)と一致して、足場単独で切除創に対して有益な創傷治癒環境をもたらし得る事を示唆している。目視検査によって評価されたヒドロゲルのバルク分解は、試験された時間経過内では発生しなかった為、in vivoでの足場分解を伴う大量のFAKI放出はなかったと推測される。全ての動物は局所的なFAKI療法を許容し、全ての創傷は感染症の兆候を示さなかった。
【0087】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、切除創における瘢痕を形成する線維化促進活性を抑制する。瘢痕を促進する刺激(例えば、機械的歪み)が無いと、マウスの皮膚は典型的にはHTSの上昇を生じないが、損傷後の線維化促進事象は、コラーゲン沈着の量と、創傷が治癒した後の筋線維芽細胞の存在とによって測定され得る。損傷後17日目に、コラーゲン染色の組織学的分析により、コラーゲン沈着がコントロール創傷において最大であり、FAKIで治療された創傷において最小量のコラーゲンが観察される事が実証された。筋線維芽細胞分化及び線維形成のマーカーであるα-SMAのタンパク質発現は、FAKI治療により有意に減少した。これらの結果は、損傷後10日目に収集された創傷組織溶解物におけるFAK(p-FAK)のリン酸化レベルの減少と一致した(図3E及び図3F)。
【0088】
興味深い事に、10%のDMSO中に溶解されたFAKIを10日間に亘り毎日創傷部位に滴下した場合には、p-FAK阻害は検出されなかった事から、FAKIがインプリンティングされたヒドロゲル足場が、FAKIの局所部位への持続的且つ制御された送達を可能にして活性を改善した事を裏付けている。17日目に採取された組織において、Akt(p-Akt)の活性化及びFAKIに媒介されるAktリン酸化の阻害も調べた。Aktの活性化は、この修復段階の間に表皮層で顕著であり、局所的に送達されたFAKIはAkt活性化を実質的に阻害した(図3G及び図3H)。
【0089】
治癒した切除創の機械的特性は、FAKI治療によって改善される。創傷治癒後に形成される皮膚瘢痕は、屡々、構造的完全性の変化及び弱い皮膚の機械的特性を伴う。FAKI治療が、治癒した創傷の機械的プロファイルを改善し得るかどうかを試験した。治癒した皮膚のヤング率は、コントロールと比較して、ヒドロゲル単独及びFAKIヒドロゲルで治療された創傷において有意に高かった事から(図4)、治癒した皮膚の機械的完全性が改善され、従って外部の機械的応力に抵抗する能力が強化される事を裏付けている。ヤング率はFAKI治療で最も高かった。又、伸張されたときに皮膚が耐える事が出来る最大応力を測定する極限引張強さ(UTS)を調べたところ、FAKI治療された皮膚が最大のUTSを示した。まとめると、FAKIは、恐らく創傷治癒及び修復過程の間のコラーゲン沈着及び真皮の細胞外基質組成の調節を介して、治癒した皮膚の物理的完全性を改善するのに有益である。
【0090】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、接触熱傷創の治癒を促進する。重度の深部皮膚熱傷に関連する長期治癒は、一般的にHTS形成につながる可能性がある。マウスの全層接触熱傷創モデルを使用して、FAKIの抗線維化効果、及びFAKIが熱傷創の治癒を加速し得るかどうかを研究した。損傷後72時間で創面切除した後に、FAKIを迅速に放出するヒドロゲルを用いて熱傷創を治療した。切除創とは異なり、熱傷創は、創傷が再上皮化する迄、創傷部位及び隣接組織からの排液の増加を示した。その結果、より頻繁なドレッシング材の交換が必要であった。最初の治療後の最初の3日間は、ヒドロゲル及びバンデージを毎日交換し、その後は1日置きに交換した。ヒドロゲル単独又はコントロール創傷と比較して、FAKIで治療された熱傷創は合併症無しに創傷閉鎖の加速を示した(図5)。切除創での観察と同様に、ヒドロゲルのバルク分解は起こらなかった。完全な閉鎖後に、創傷病変におけるα-SMA発現が測定されたが、これはFAKI治療で有意に減少した(図5)。
【0091】
接着斑キナーゼ阻害剤の局所送達は、治癒の加速、瘢痕形成の減少をもたらすと共に、毛包及び皮膚付属器を再生させる。
【0092】
ここでは、プルラン-コラーゲンデバイス内のFAKIが、ヒトの皮膚に最も類似している事が分かっている大型動物モデルにおいて、創傷治癒を有意に加速し、瘢痕形成を減少させ、毛包及び皮膚付属器を再生させた事を報告する。レッドデュロックブタは、深部皮膚創が形成されると、厚い永続的なヒトの様な瘢痕を発生し得る。持続放出性FAKIヒドロゲル(図1A図1Cに示され、本明細書の他の箇所に記載される)を、レッドデュロックブタの深部皮膚創に使用した。図7A図7Dは、レッドデュロックブタモデルにおける深部皮膚創に対するヒドロゲルデバイス中に適用されたFAKIの局所治療の効果を分析する為の構成を示している。図7Aは、試験に使用されるブタの背部に沿った領域を示している。図7Bは、皮膚の除去を伴うブタの深部創を示している。図7Cは、無傷のブタの皮膚の断面図を示している。図7Dは、0.06インチ(in)の創傷深さを有する創傷ブタの皮膚の断面図を示している。図7Eは、損傷日(D0)から術後180日(D180)迄のタイムラインを示している。プルラン-コラーゲンデバイス内のFAKIを創傷上に載置し、最初の21日間は1日置きに交換した。22日目から90日目迄は、FAKIプルラン-コラーゲンデバイスを週に2回交換した。術後91日目から術後180日目迄は、プルラン-コラーゲンデバイスを適用せずに創傷を治癒させた。生検試料、写真、及び組織採取は指示通りに行われた。
【0093】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、深部皮膚創の創傷治癒を有意に加速させる。図8A図8Cは、デュロックブタにおける皮膚深創傷をFAKIヒドロゲルで局所的に治療する事により創傷治癒が加速される事を示している。N=各状態について試験された8つの創傷。初期創傷サイズ=25cm図8Aは、上記で図7A図7Eに記載される様に術後(POD)2日目から術後30日目(POD30)迄に撮影された創傷の写真を示している。FAKIヒドロゲルで治療された創傷は、未治療の創傷又はヒドロゲル単独で治療された創傷と比較して、POD11、POD21、及びPOD30で目に見えてより一層治癒している。目に見えて改善された外見に加えて、FAKIヒドロゲルで治療された創傷は有意により小さかった。ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで治療された創傷の残りの創傷領域を、未治療のコントロール創傷及びヒドロゲル単独で治療された創傷と比較した。創傷サイズを測定し、元の創傷面積の%としてグラフ化し、結果を図8Bに示す。FAKIヒドロゲルで治療された創傷は、POD4後にコントロールと比較してより小さく、POD14迄にFAKIヒドロゲルで治療された創傷のほぼ全てが閉鎖されたのに対して、未治療(コントロール)の創傷の約20%は閉鎖されておらず、開放したままであり、統計的有意差()があった。POD17迄に、FAKIヒドロゲルで治療された創傷の全ては閉鎖されたのに対して、未治療(コントロール)の創傷の約10%は依然として開放したままであり、統計的有意差()があった。ヒドロゲル単独が創傷治癒を加速させた事から、上記の様に、足場単独が切除創に有益な創傷治癒環境をもたらし得る事を示唆している。図8Cは、未治療の創傷又はヒドロゲル単独で治療された創傷が完全に閉鎖するのに25日間かかるのに対して、ヒドロゲルデバイス内のFAKIで治療された創傷はPOD14迄に閉鎖し、統計的に有意な結果(Δ)である。
【0094】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、瘢痕の外見を有意に改善する。図9A図9B及び図10A図10Bは、ヒドロゲルを介して送達されるFAKIにより深部皮膚創を局所的に治療すると、POD45、POD60、POD90(3ヶ月)、及びPOD180(6ヶ月)で瘢痕の外見を有意に改善する事を示している。図9Bは、瘢痕のビジュアルアナログスケール(VAS)分析からの結果を示している。ビジュアルアナログスケールスコアは、未治療のコントロール、ヒドロゲル治療、及びヒドロゲル治療を介したFAKIについて4人の盲検化された瘢痕の専門家によって評価された。コントロールにおける瘢痕形成を独断的に100に設定し、結果をコントロールに対して基準化した。ヒドロゲルを介したFAKIで治療された創傷は、未治療のコントロールと比較して、100のスケールに対して約58の有意により少ない瘢痕化及びより良好な視覚的外見を示した(図9BΔP<0.001)。ヒドロゲル治療単独では、未治療のコントロールと比較して僅かな改善しか見られなかった。その傾向はPOD180でも残っている(図10BΔP<0.001)。
【0095】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、顕著な毛髪形成並びに毛包及び皮膚付属器の再生につながる。驚くべき事に、ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで局所的に治療された深部皮膚創は、図10Bに示される様に、コントロール治療又はヒドロゲル単独で治療された創傷には見られない顕著な毛髪成長を示している。図11A図11Cは、POD90からの結果を示している。図11Aの画像は、POD90でのトリクローム染色を示している。矢印1は毛包を指している。矢印3は周囲の腺構造を有する毛包を指している。矢印2及び矢印4~6は皮膚腺(汗腺及び皮脂腺)を指している。ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで治療された創傷は、POD90で有意により多くの毛包を有し(コントロールでの0.6に対して平均約2.8、P<0.01(コントロール対H+FAKI))、この差はPOD180でも残っている。ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで治療された創傷は、POD90で有意により多数の腺(皮脂腺及び汗腺)を有し(コントロールでの0.1に対してヒドロゲル+FAKIで治療された創傷において約7、P<0.001(コントロール対H+FAKI))、この差はPOD180でも残っている(コントロールのXに対する概数)。
【0096】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、切除創における瘢痕を形成する線維化促進活性を抑制する。マウスの切除創について先に示されたのと同様に、図12Aは、ヒドロゲルを介して送達されたFAKIが、POD60及びPOD90で、未治療のコントロールに対して、ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで治療された創傷においてα平滑筋作用(α-SMA)の発現を有意に減少させる事を示している。図12B(POD60)は、α-SMA発現のレベルが、治療された創傷において有意により低い事を示しており(未治療のコントロールにおける約28%に対して、治療された試料において、領域の約2%が緑色(α-SMAの指標)に染色されている;p<0.001)、この傾向はPOD90でも残っている(図12C)。α平滑筋作用(α-SMA)は、盲検化された観察者によって瘢痕病変内の無作為に選択された領域について定量化された。
【0097】
ヒドロゲルを介して送達されるFAKIは、創傷の無い皮膚に似た皮膚コラーゲン構造をもたらす。図13A図13Cは、ヒドロゲルを介して送達されるFAKIで治療された創傷が、創傷の無い皮膚に似た皮膚コラーゲン構造をもたらす事を示している。図13Aは、ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで局所的に治療されたブタ由来の組織が、未治療のコントロール創傷又はヒドロゲルで治療された創傷のいずれかと比較してより短い原線維を有する事を示している(図13Aにおける3段目のパネルを最上段のパネル及び2段目のパネルと比較する)。むしろ、FAKIで局所的に治療されたブタ由来の組織からのコラーゲン原線維は、創傷の無い動物由来の組織に遙かにより良く似ている(最下段のパネル)。図13Bは、図13Aに示される様に染色された試料からのコラーゲン原線維の長さを定量化した結果を示している。ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで局所的に治療された創傷は、未治療のコントロール創傷と比較して有意により短い原線維を示した(p<0.01)。図13Cは、図13Aに示される様に染色されたパネルからのコラーゲン原線維の数を示している。ヒドロゲルを介して送達されたFAKIで局所的に治療された創傷は、未治療のコントロール創傷と比較して有意により多くの原線維を示した(p<0.05)。棒グラフの中央にある水平線は中央値を表し、Xは平均値を表している。N=コントロール、ヒドロゲル、及びヒドロゲル+FAKIについての9つの画像。N=創傷無しについての4つの画像。
【0098】
図15A図15Bは、ヒドロゲルを介して局所的に送達されたFAKIの安全性を示している。図15A図15Bは、ヒドロゲルを介して局所的に送達されたFAKIの毒物学及び薬物動態的研究を示している。FAKI分子の全身吸収を適用後の様々な時点で血清から調べ、結果は図15Aに示されている。局所的に送達されたFAKIの体表面全体の5%~7%への全身吸収は僅かであった(1ng/ml=2nMのFAKI)。FAKIヒドロゲル試料を、高濃度のFAKI(150μmのFAKI、1.5mMのFAKI)で創傷の無い皮膚に毎日適用し、これらの結果は図15Bに示されている。FAKIを毎日高濃度で適用したとしても、皮膚の炎症又は感作は生じなかった。
【0099】
現在、熱傷創及び外傷性創傷に関連する異常な治癒及び瘢痕化を抑える為の臨床的に利用可能な療法は、科学的根拠が弱く有効性は最小限である。インテグリン/FAKメカノトランスダクションシグナル伝達経路は、機械的応力シグナルを媒介して炎症性メディエーターにより線維形成過程を促進する事によって、損傷後の皮膚瘢痕形成において中心的な役割を担っている。従って、FAKシグナル伝達物質の抑制は、大きく深い皮膚創における瘢痕の無い創傷治癒の為の有望な方略である。VS-6062及び改良されたVS-6063/デファクチニブを含むFAKのより新世代の小分子阻害剤は、臨床試験で進行した固形腫瘍の治療に有効である事が証明されている。VS-6062は、これらの試験で望ましい薬物動態を示したが、経口投与された場合の潜在的な薬物間相互作用の為、抗癌剤としては打ち切られた。経口投与では、これらの試験で悪心/嘔吐及び胃腸関連の有害作用を伴う主要な全身毒性が観察された。この化合物の局在化された局所送達は全身吸収及びその後の毒性から免れ、本発明者等の研究で使用された。
【0100】
以前のマウスの研究では、小分子FAK阻害剤(PF573228)の皮内注射は炎症性ケモカイン経路を抑制し、切開HTSモデルにおいてin vivoで瘢痕化を減弱させた。しかしながら、大面積の深部皮膚創は皮膚注射によって治療する事が困難であり、薬理学的作用物質の狙いを絞った局所送達が、診療所において好まれる理学療法である可能性が高い。創傷治療の為の生体材料ベースのアプローチは、過去に広く研究されてきた。様々なキトサン又はヒアルロン酸ヒドロゲル複合材料が皮膚創に対して試験されており、皮膚の治癒及び再生に有益な効果を有した。
【0101】
以前、本発明者等のグループは、生分解性プルラン-コラーゲン皮膚ヒドロゲル単独で、マウスの創傷において早期の創傷治癒が増強され得る事を報告した。プルランヒドロゲルは無毒で修飾可能であり、理想的な保水能力を示す。多孔質マトリックスは又、架橋を可能にする複数の官能基を有し、様々な皮膚治癒障害の為の細胞ベース及び/又は生体分子送達の為の構造化されたテンプレートとして機能する可能性がある。この生体工学によって作られたマトリックスを使用して、間葉系幹細胞を高酸化ストレス創傷に送達し、皮膚細胞集団を再生させた。
【0102】
本研究の成果は、開放創用のプルラン-コラーゲンヒドロゲル内で抗瘢痕化剤を送達した最初のものである。独自のヒドロゲル製造方法と組み合わせたFAKIを封入する分子インプリンティング技術により、持続放出、迅速放出、又は2つの組み合わせの為に正確に制御されたヒドロゲル足場からのFAKIの持続放出が可能となった。本明細書に示される様に、FAKI療法は、全層切除及び熱傷創の治癒を有意に加速し、瘢痕形成を低減させた。創傷治癒の加速は、早期の免疫細胞応答(例えば、増殖及び遊走)及び炎症に対するFAKIの阻害効果による可能性が高い。
【0103】
本研究は、FAKに媒介されるメカノトランスダクション及び抗線維化治療薬への機構的洞察を与える。FAKIがAKTの活性化を阻害する事が裏付けられ、FAKは治癒中の皮膚において複数の下流のエフェクタータンパク質を介して作用し、線維化過程を増強し得る事が示唆される(図3)。プルラン-コラーゲンヒドロゲル単独は治癒を促進するのに有益である事が示されたが、熱傷創には殆ど又は全く効果がなかった。
【0104】
熱傷創は、外科的に切除された創傷とは病理学的に異なり、屡々代謝的及び炎症的変化を引き起こす為、これらの効果の差は、異なるタイプの損傷に対して生理学的応答が異なる事に起因し得ると想定している。更に、FAKI治療後に再構成された皮膚の機械的完全性も改善される。引張試験を使用した機械的完全性の直接的な調査を使用して、ヤング率及び極限引張強さを計算した(図4)。FAKIで治療された皮膚は、両者とも治癒した皮膚の物理的完全性の尺度である、最大のヤング率と共に極限引張強さを示した。従って、治癒した皮膚が外力又は応力に応じた変形及び破壊に耐える能力は、ヒドロゲル単独と比較して、FAKI治療によって強化される。
【0105】
結論として、プルラン-コラーゲンヒドロゲル足場を介したFAKI療法は瘢痕形成の低減に有効であると同時に、マウスモデルにおいて切除創及び熱傷創の治癒を促進する事が示された。本発明者等の生体材料ベースのFAKIの送達は、大きく深い皮膚創の瘢痕管理の為の効果的な治療方略として大きな可能性を秘めている。この研究の結果は、ヒトの臨床試験で使用する為の高度に橋渡し的な前臨床大型動物モデルにおけるFAKI瘢痕低減療法の橋渡しを可能にする。
【0106】
材料及び方法
生体適合性のFAKI放出ヒドロゲル足場の構築。FAKIであるVS-6062(以前はPF-562271)は、ベラステム社(Verastem, Inc.)(マサチューセッツ州、ニーダム)によって供給された。多孔質プルランコラーゲンヒドロゲルを、以前に記載された様に作製した(ウォン等(Wong et al.),2011c)。FAKIを含むヒドロゲル構築物を、分子インプリンティング(持続放出)又は表面取り込み(迅速放出)のいずれかによって調製した。簡単に説明すると、1gのプルラン(東京化成工業株式会社(TCI)、日本、東京)を、1gのトリメタリン酸三ナトリウム(STMP)(シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、ミズーリ州、セントルイス)及び1gの塩化カリウム(フィッシャー・サイエンティフィック社(Fisher Scientific)、ニューハンプシャー州、ハンプトン)と混合した。該混合物に50mgのラット尾コラーゲンI型、5%(重量/重量)の重量のプルランを含有するコラーゲン溶液(コーニング社(Corning)、ニューヨーク州、コーニング)を添加した。分子インプリンティング(図1A)の為に、該混合物に1mlの5%のジメチルスルホキシド(DMSO)中の10mgのVS-6062(FAKI)を添加した。次いで、水酸化ナトリウム(0.65mlの1Nの溶液)を加え、引き続き、脱イオン水を加えて合計10mlにした。該混合物を均質分布の為に15分間穏やかにボルテックスに掛けた。プルランの架橋により混合物の粘度が上昇したら、該混合物をテフロン(登録商標)シート上に注ぎ、圧縮して2mm厚のフィルムを作製した。フィルムを乾燥させ、洗浄液のpHが7.0になる迄水で洗浄した。この洗浄工程の後に、凡そ50%のFAKIがヒドロゲル中に存在していた。膨潤したヒドロゲルを-80℃で凍結させた後に、凍結乾燥させた。表面取り込み法の為に、最初にブランクのヒドロゲルを作製し、その後にエタノール中に溶解された5mgのFAKIを、乾燥したヒドロゲル上に均一に広げ、引き続き溶剤を蒸発させた。最後に、ヒドロゲルフィルムを水分を含まない容器中で使用する迄4℃で保管した。
【0107】
吸水/膨潤特性:FAKIを用いて及び用いずに構築されたヒドロゲルを、PBS中での膨潤挙動について試験した。FAKIを含む又は含まない5%のコラーゲンを含有する凍結乾燥されたヒドロゲルを、0.8mmの生検パンチを使用して円形パッチに切り出し、秤量し、PBS中で25℃でインキュベートした。余分な溶液を穏やかに除去し、膨潤比を次の式:膨潤比=(ヒドロゲルの湿重量-ヒドロゲルの乾燥重量)/ヒドロゲルの乾燥重量を使用して計算した。
【0108】
ヒドロゲルからのFAKIの抽出:2.5mgの重量の乾燥ヒドロゲルを0.5mlの水と混合した後に、Bullet Blenderビーズミルホモジナイザー(ネクストアドバンス社(Next Advance)、ニューヨーク州、アベリルパーク)を使用して均質化した。均質物を0.5mLのメタノールで希釈し、FAKIを抽出し、次いで5000gで5分間遠心分離した。90%超の試料回収率が達成され、それは以下に記載されるHPLC法及び質量分析(LC-MS)法によって分析された。
【0109】
プルラン-コラーゲンヒドロゲルからのFAKIについてのin vitro薬物放出プロファイル。2つの異なるテンプレート調製方法を比較する為に、FAKIのin vitro放出動態を研究した。50μgのFAKIを含む2.5mgの重量の乾燥ヒドロゲルを、1mlのPBSを含む25000MWCOの透析膜チューブに入れた。透析チューブの両側を密閉した後に、バイアル内で9mlのPBSに浸した。バイアルを穏やかに撹拌しながら37℃でインキュベートした。少量のアリコートを定期的に抜き出して、ヒドロゲルから放出されたFAKIの完全性を定量化して測定した。
【0110】
LC-MS分析:実験はAB SCIEX 4000 QTRAP(登録商標)LC-MS/MSシステムで実施した。HPLC装置は、システムコントローラーCBM-20A、バイナリLC-20ADポンプ、及びSIL-20ACオートサンプラーを備えた株式会社島津製作所(Shimadzu)製のProminenceのLCシステムであった。HPLCは、次の仕様を使用して実施した:移動相:90%のメタノール/10%の水/0.1%のギ酸、カラム:ダイオネクス社(Dionex)のAcclaim 120 C8、5μm、50×2.1mm、流速:0.3ml/分、及び注入容量:10μL。HPLCは、エレクトロスプレーイオン化によるAB SCIEX 4000 QTRAP(登録商標)トリプル四重極質量分析計に直接接続した。質量分析計は、正の多重反応モニタリング(MRM)モード、イオン源:ターボスプレー、分解能:Q1ユニット、Q3ユニット、質量MRMトランジション(m/z):508.30>121.00において作動させた。
【0111】
データ分析:FAKIの構造的完全性を、分子量及びHPLC保持時間によって決定した。3連で実施されたin vitro実験からの累積放出を、平均±SD.3として表現した。
【0112】
動物並びにスプリント装着された切除創モデル及び接触熱傷創モデル
動物(マウス):全ての動物処置法は、スタンフォード大学の実験動物管理に関する行政パネル及び米国陸軍医学研究司令部の動物管理使用評価室(Animal Care and Use Review Office)によって承認された。8週齢~10週齢の野生型の雌C57BL/6Jマウス(ジャクソン研究所(The Jackson Laboratory)、メイン州、バーハーバー)を使用して、公開された方法(ワン等(Wang et al.),2013、ウォン等(Wong et al.),2011b、スルタン等(Sultan et al.),2012)に従って、スプリント装着された全層切除創又は第3度熱傷創のいずれかを作成した。
【0113】
切除創形成:外科手術により作成された切除創については、6mmのパンチ生検ツールを用いて2つの全層創傷(背側正中線の各側に1つの創傷)が作られた。創傷を取り囲むシリコーンリングを皮膚に縫合する事で、創傷の収縮を防止したが(齧歯類の創傷治癒の主な手段)、再上皮化によって創傷を閉鎖させた(ヒトの創傷治癒と同様に)。
【0114】
熱傷創形成:熱湯浴中で100℃で20秒間加熱されたアルミニウム棒を用いて背側の片側にのみに接触熱傷創を作成した。創傷を直ちに冷水で30秒間冷却した。全層のヒト熱傷の通常の臨床現場をシミュレートする為に、最初の損傷から72時間後に、壊死組織を創傷縁に沿って下にある皮下脂肪のレベル迄切除した。両方のモデルにおいて、創傷を負った動物を無作為に3つの群に分け、標準的なドレッシング材(テガダーム)又はブランクのヒドロゲル又はFAKI負荷されたヒドロゲルのいずれかを与えた。ドレッシング材及びヒドロゲルは2日~3日毎に交換した。熱傷創をスプリント装着せずに治癒させ、ヒドロゲル及びバンデージを最初の3日間は毎日交換し、その後は1日置きに交換した。一部の切除創については、10%のDMSO中に溶解されたFAKIを10日間毎日創傷部位に直接滴下した後に、細胞溶解物をウエスタンブロッティング用に収集した。全てのデジタル写真は、2人の盲検化された調査者によって米国国立衛生研究所(NIH)のImageJソフトウェアを使用して分析された。
【0115】
肥厚性瘢痕モデル及びFAKIの局所皮下注射:マウスの背側の切開創形成及び肥厚性瘢痕の発生は、以前に記載された方法(アーラビー等(Aarabi et al.),2007、ウォン等(Wong et al.),2011a)によって実施された。動物を無作為に割り当てて、創傷部位に隣接する毎日の局所皮下注射を介して10%のDMSO中に溶解された15μM、75μM、又は150μMの濃度のFAKIを与えた。150μMのFAKIが与えられた動物は、未確認の全身合併症の為2日より長く生存しなかった。組織学の為に損傷後14日目に標本を採取し、瘢痕面積を定量化した(図6)。
【0116】
動物(マウス):レッドデュロックブタを使用して、公開された方法(チュー KQ等(Zhu KQ et al.),バーンズ(Burns)2003年11月;第29巻(第7号):第649頁~第664頁.バーンズ(Burns);チュー KQ等(Zhu KQ et al.),ワウンド・リペアー・アンド・リジェネレーション(Wound Repair Regen.)2007年9月~10月;第15巻補足1:第32頁~第39頁)に従って、深部皮膚創形成時に厚い永続的なヒトの様な瘢痕を生成した。ブタの皮膚はヒトの皮膚に最も類似している事が分かっている(例えば、同様の表皮の厚さ、同様の真皮-表皮の厚さ比、毛包及び血管のパターン)。6週齢~8週齢の16kg~20kgの重量の7頭の雌のレッドデュロックブタを使用した。複数の5×5cmの0.07インチの切除創(図7B及び図7Eの挿入図)を電動デルマトームで作成した。創傷は中央がほぼ全層創傷であり、周辺に向かって深い部分層創傷であった。創傷をコントロール(治療無し)、ヒドロゲルのみ(プラセボ)、又はFAKI治療薬を伴うヒドロゲルに無作為に割り当てた。
【0117】
組織学的染色及び免疫蛍光染色。それぞれ切除創及び熱傷創について、損傷後17日目及び創面切除後24日目に標本を採取し、4%のパラホルムアルデヒド中で固定し、脱水した後に、パラフィン包埋した。ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色及びマッソンのトリクローム染色を、通常のプロトコルに従って実施した。マッソンのトリクローム染色の画像の青色領域のパーセンテージを、ImageJを使用して定量化した。マウスα平滑筋アクチン(α-SMA)に対する一次抗体を使用して免疫蛍光染色を行った。FITCにコンジュゲートさせた二次抗体を使用し、画像を蛍光顕微鏡下で観察した。緑色領域のパーセンテージを、ImageJを使用して定量化した。
【0118】
ウエスタンブロッティング。ウエスタンブロッティングを実施して、切除創溶解物中のFAK発現及びチロシン-397でのリン酸化を研究した。タンパク質を収集し、BCAアッセイを使用して定量化した。等量のタンパク質をプレキャスト4%ゲルの各ウェルにロードし、SDS-PAGEにかけた。タンパク質を転写した後に、ニトロセルロースメンブレンをFAK(セルシグナリング社(Cell Signaling)、マサチューセッツ州、ダンバース)又はp-FAK(アブカム社(Abcam)、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)のいずれかに対する一次抗体と一緒にインキュベートし、引き続きHRPコンジュゲート二次抗体とインキュベートした。抗体の化学発光検出は、製造業者のプロトコルに従って実施した。バンド強度をImageJを使用して定量化した。
【0119】
CT-FIRE。切片をコラーゲンについて染色し、CT-FIREソフトウェアを使用して分析した。CT-FIREソフトウェアにより、ユーザーは画像からコラーゲン線維を自動的に抽出し、線維の角度、長さ、真直度、及び幅を含む記述統計学を用いて線維を定量化する事が出来る。このプログラムは、MATLAB(登録商標)によりサポートされている画像ファイルを読み取り、CT-FIRE(ソフトウェア実装ではctFIREと呼ばれる)と呼ばれる組み合わせ法を介して個々のコラーゲン線維を抽出する。CT-FIREのアプローチは、ブレッドフェルト JS(Bredfeldt JS),リュー Y(Liu Y),ペールケ CA(Pehlke CA)等著(2014年)「乳癌の第二次高調波発生画像からのコラーゲン線維のコンピュータによるセグメンテーション(Computational segmentation of collagen fibers from second-harmonic generation images of breast cancer)」ジャーナル・オブ・バイオメディカル・オプティクス(J Biomed Opt)第19巻:第16007頁~第16007頁に記載されており、これは、画像のノイズ除去及び線維エッジ特徴を増強する為の離散カーブレット変換(カンデス E(Candes E),デマネット L(Demanet L),ドノホ D(Donoho D)、イン L(Ying L)著(2006年)「高速離散カーブレット変換(Fast discrete curvelet transforms)」マルチスケール・モデリング・アンド・シミュレーション(Multiscale Model Simul)第5巻:第861頁~第899頁)の利点と、個々の線維の抽出の為の線維抽出(FIRE)アルゴリズム[3]の利点とを兼ね備えている。
【0120】
皮膚の機械的試験。スプリント装着された切除創を作成してから3週間後に、創傷組織を収集し、機械的試験用のMTS Bionix(登録商標)引張試験機(エムティエスシステムズ社(MTS Systems)、ミネソタ州、エデンプレイリー)に取り付けた。試料ゲージの距離を10mmに設定し、試料の厚さ及び幅を手動で測定した。皮膚組織を、破断する迄100□m/秒の一定速度で延伸した後に、真応力対真歪み曲線をプロットした。極限引張強さ(UTS)を、破断前に達成された最大応力として決定し、UTSに対応する歪みを臨界歪みとして定義した。ヤング率を、線形最小二乗回帰(R2≧0.99)を介して計算した。
【0121】
データ解析。結果は平均±SDとして報告される。統計的差異は、一元配置ANOVAと共に多重比較の為のテューキーの事後検定を使用して決定した。差異はp<0.05で統計学的に有意とみなした。
【0122】
特徴又は要素が本明細書で別の特徴又は要素の「上にある(on)」と言及される場合に、その特徴又は要素は他の特徴若しくは要素上に直接存在しても良く、又は介在する特徴及び/若しくは要素が存在しても良い。それに対して、特徴又は要素が別の特徴又は要素の「直上にある(directly on)」と言及される場合には、介在する特徴及び/若しくは要素は存在しない。又、特徴又は要素が別の特徴又は要素に「接続される(connected)」、「取り付けられる(attached)」又は「カップリングされる(coupled)」と言及される場合に、その特徴又は要素は他の特徴若しくは要素に直接接続され、取り付けられ、若しくはカップリングされても良く、又は介在する特徴若しくは要素が存在しても良い。それに対して、特徴又は要素が別の特徴又は要素に「直接的に接続される(directly connected)」、「直接的に取り付けられる(directly attached)」又は「直接的にカップリングされる(directly coupled)」と言及される場合には、介在する特徴又は要素は存在しない。一実施形態に関して記載され又は示されているが、こうして記載され又は示された特徴及び要素は他の実施形態に適用する事が出来る。別の特徴に「隣接して(adjacent)」配置されている構造又は特徴についての言及は、隣接する特徴と重複する部分又は隣接する特徴の下にある部分を有し得る事も当業者には理解されるであろう。
【0123】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する事のみを目的とし、本発明を限定する事を意図するものではない。例えば、本明細書で使用される場合に、単数形("a"、"an"、及び"the")は、文脈上特に明記されていない限り、複数形も同様に含む事が意図される。本明細書で使用される場合に、「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、指定された特徴、工程、操作、要素、及び/又は構成要素が存在する事を特定するが、1つ以上の他の特徴、工程、操作、要素、構成要素、及び/又はそれらの群が存在する事又は追加される事を排除するものではない事が更に理解されるであろう。本明細書で使用される場合に、「及び/又は」という用語は、関連する列挙された事項の1つ以上のあらゆる全ての組み合わせを含み、「/」として略記する事も出来る。
【0124】
「~の下方(under)」、「~の下(below)」、「~より低い(lower)」、「~の上方(over)」、「~より上(upper)」等の様な空間的に相対的な用語は、本明細書では説明を容易にする為に、図面に示されている或る要素又は特徴と1つ以上の別の要素又は特徴との関係を説明する為に使用され得る。空間的に相対的な用語は、図面に示される方向に加えて、使用中又は動作中のデバイスの異なる方向を包含する事が意図されると理解されるであろう。例えば、図中のデバイスが反転している場合に、他の要素又は特徴の「下方(under)」又は「下(beneath)」と記載される要素は、他の要素又は特徴の「上方(over)」に向きが合わせられる事となる。従って、「下方(under)」という例示的な用語は、上方(over)及び下方(under)の両方の方向を包含し得る。該デバイスは、それ以外に方向付けられ(90度又は他の方向に回転され)る場合もあり、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子がそれに応じて解釈され得る。同様に、「上向き(upwardly)」、「下向き(downwardly)」、「垂直(vertical)」、「水平(horizontal)」等の用語は、本明細書では、特段の具体的な指示が無い限り、説明の目的でのみ使用される。
【0125】
本明細書では「第1」及び「第2」という用語を使用して様々な特徴/要素(工程を含む)が説明され得るが、これらの特徴/要素は、文脈上特に指示が無い限り、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、或る特徴/要素を別の特徴/要素と区別する為に使用され得る。従って、本発明の教示から逸脱する事なく、以下で論じられる第1の特徴/要素は、第2の特徴/要素と呼ぶ事が出来、同様に、以下で論じられる第2の特徴/要素も第1の特徴/要素と呼ぶ事が出来る。
【0126】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の解釈を必要としない限り、「含む(comprise)」という単語、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の別形は、様々な構成要素を方法及び物品(例えば、組成物及びデバイスを含む装置及び方法)において一緒に使用する事が出来る事を意味する。例えば、「含む(comprising)」という用語は、任意の指定された要素又は工程を包含する事を意味するが、任意の他の要素又は工程を排除する事を意味するものではないと理解されるであろう。
【0127】
一般に、本明細書に記載される装置及び方法のいずれかも包括的であると理解されるべきであるが、その一方で構成要素及び/又は工程の全て又は部分集合は排他的である場合があり、様々な構成要素、工程、部分構成要素又は部分工程「からなる(consisting of)」或いは「実質的にからなる(consisting essentially of)」として表現され得る。
【0128】
実施例で使用されるものを含めて本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合に、特段の明示的な指示が無い限り、全ての数は、明示的に見られないとしても、「約」又は「凡そ」という単語が前置きされるかの様に読む事が出来る。「約」又は「凡そ」という語句は、大きさ及び/又は位置を記載する場合に、記載される値及び/又は位置が値及び/又は位置の合理的な期待範囲内にある事を示す為に使用する事が出来る。例えば、数値は、指定された値(又は値の範囲)の±0.1%、指定された値(又は値の範囲)の±1%、指定された値(又は値の範囲)の±2%、指定された値(又は値の範囲)の±5%、指定された値(又は値の範囲)の±10%等である値を有し得る。本明細書に示される任意の数値は又、文脈上別段の指示が無い限り、その値の約の値又は凡その値を含むと理解されるべきである。例えば、「10」という値が開示される場合に、「約10」も開示されている。本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に含まれる全ての部分範囲を含む事が意図される。当業者によって適切に理解される様に、値が開示されている場合に、その値「以下」、「その値以上」及び値間の可能な範囲も開示されていると理解される。例えば、「X」という値が開示される場合に、「X以下」と共に「X以上」(例えば、Xが数値である場合)も開示されている。又、本出願全体を通して、データは多くの様々な形式で示され、このデータは終点及び開始点、並びに該データ点の任意の組み合わせについての範囲を表すとも理解される。例えば、特定のデータ点「10」及び特定のデータ点「15」が開示される場合に、10及び15より大きい、10及び15以上、10及び15未満、10及び15以下、並びに10及び15と等しい事だけでなく、10から15の間も開示されているとみなされる事が理解される。又、2つの特定の単位間の各単位も開示されているとも理解される。例えば、10及び15が開示される場合に、11、12、13、及び14も開示されている。
【0129】
様々な例示的な実施形態が先に記載されているが、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱する事なく、様々な実施形態にあらゆる多くの変更を加える事が出来る。例えば、記載された様々な方法工程が実施される順序は、屡々代替的な実施形態では変更されても良く、他の代替的な実施形態では1つ以上の方法工程が完全に飛ばされても良い。様々なデバイス及びシステムの実施形態の任意の特徴は、幾つかの実施形態では含まれる場合があるが、その他では含まれない場合がある。従って、上述の説明は、主に例示的な目的で提供されており、特許請求の範囲に示されている様に、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0130】
本明細書に含まれる例及び図は、限定するものではなく例示的なものとして、主題が実施され得る特定の実施形態を示している。上述の様に、他の実施形態を利用し、そこから他の実施形態を導き出す事が出来、こうして、本開示の範囲から逸脱する事なく、構造的及び論理的な置換及び変更を加える事が出来る。本発明の主題のその様な実施形態は、本明細書において、単に便宜の為に、そして実際に2つ以上が開示されているのであれば、本出願の範囲を任意の単一の発明又は発明の概念に自発的に限定する事を意図する事なく、「発明」という用語によって個別に又は集合的に参照され得る。従って、特定の実施形態が本明細書で例示及び記載されているが、同じ目的を達成する様に計算された任意の構成を、示された特定の実施形態に置き換える事が出来る。この開示は、様々な実施形態のあらゆる全ての適応又は変形を対象に含める事が意図される。上記の実施形態、及び本明細書に具体的に記載されていない他の実施形態の組み合わせは、上記の説明を検討すれば、当業者には明らかであろう。
〔付記1〕
多孔質足場と、
前記足場の細孔内に配置された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤と、
を含む、組織治癒を促進する組成物であって、前記組成物は、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量のFAK阻害剤を送達する様に構成されている、組成物。
〔付記2〕
前記多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含む、付記1に記載の組成物。
〔付記3〕
前記多孔質足場は、プルラン-コラーゲンヒドロゲルを含む、付記1又は2に記載の組成物。
〔付記4〕
前記FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)又はPF-562271のベンゼンスルホン酸塩を含む、付記1~3のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記5〕
前記組成物は、約1μg/cm ~約500μg/cm の前記FAK阻害剤を含む、付記1~4のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記6〕
前記組成物は、約40μg/cm ~約200μg/cm の前記FAK阻害剤を含む、付記1~4のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記7〕
前記組成物は、前記足場の細孔内に配置された前記FAK阻害剤の持続放出の為に構成されている、付記1~6のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記8〕
前記組成物は、前記足場の細孔内に配置された前記FAK阻害剤の最大約96時間の期間に亘る持続放出の為に構成されている、付記7に記載の組成物。
〔付記9〕
前記組成物は、前記多孔質足場の形成の間の前記FAK阻害剤の分子インプリンティングによって作製される、付記1~8のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記10〕
前記組成物は更に、FAK阻害剤の迅速放出の為に作製されている、付記1~8のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記11〕
前記組成物は更に、該組成物の送達表面上にFAK阻害剤を含む、付記10に記載の組成物。
〔付記12〕
前記組成物は更に、該組成物の前記送達表面からのFAK阻害剤の迅速放出の為に構成されている、付記11に記載の組成物。
〔付記13〕
前記組成物は、該組成物の送達表面からのFAK阻害剤の約24時間以内での迅速放出の為に構成されている、付記12に記載の組成物。
〔付記14〕
前記組成物は、前記治療時間の間に実質上全ての前記FAK阻害剤を放出する様に作られている、付記1~13のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記15〕
前記組成物は、前記治療時間の間に約30%の前記FAKI阻害剤から約75%のFAK阻害剤迄を放出する様に作られている、付記1~13のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記16〕
前記組成物は、1つ以上の層が前記FAK阻害剤の持続放出の為に作製され、1つ以上の層が前記FAK阻害剤の迅速放出の為に作製されている複数の層を含む、付記1~15のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記17〕
前記組成物は、前記FAK阻害剤の持続放出と前記FAK阻害剤の迅速放出の両方の為に構成された層を含む、付記1~15のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記18〕
前記組成物は、前記治療時間の間に前記組織の瘢痕化を低減させるのに有効な用量の前記FAK阻害剤を送達する様に構成されている、付記1~17のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記19〕
前記組成物は、前記治療時間の間に前記組織における毛髪成長を促進するのに有効な用量の前記FAK阻害剤を送達する様に構成されている、付記1~18のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記20〕
前記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている、付記1~19のいずれか一項に記載の組成物。
〔付記21〕
組織治癒を促進する方法であって、
前記組織の表面上に、多孔質足場と、前記足場の細孔内に配置された制御放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤とを含む組成物を載置する事、及び
前記組織の表面へと、治療時間の間に制御された速度で組織治癒を促進するのに有効な用量の前記FAK阻害剤を送達する事、
を含む、方法。
〔付記22〕
前記多孔質足場は、ヒドロゲルフィルムを含む、付記21に記載の方法。
〔付記23〕
前記ヒドロゲルは、プルラン-コラーゲンヒドロゲルを含む、付記22に記載の方法。
〔付記24〕
組織の瘢痕化を低減させる事を更に含む、付記21~23のいずれか一項に記載の方法。
〔付記25〕
前記組織における毛髪成長を促進する事を更に含む、付記21~24のいずれか一項に記載の方法。
〔付記26〕
前記組成物は、創傷ドレッシング材として構成されている、付記21~25のいずれか一項に記載の方法。
〔付記27〕
FAK阻害剤は、前記組成物の送達表面上に配置される、付記21~26のいずれか一項に記載の方法。
〔付記28〕
前記制御された速度は、迅速放出速度及び持続放出速度を含む、付記21~27のいずれか一項に記載の方法。
〔付記29〕
前記送達工程は、載置工程後約24時間以内に前記用量の前記FAK阻害剤を前記組織の表面に送達する事を含む、付記21~28のいずれか一項に記載の方法。
〔付記30〕
前記用量の前記FAK阻害剤は、最大約96時間の期間に亘って前記組織表面に送達される、付記21~28のいずれか一項に記載の方法。
〔付記31〕
前記組織表面から前記組成物を取り除く事を更に含む、付記21~30のいずれか一項に記載の方法。
〔付記32〕
前記載置工程及び前記送達工程を少なくとも3回繰り返す事を更に含む、付記21~31のいずれか一項に記載の方法。
〔付記33〕
前記載置工程及び前記送達工程を少なくとも10回繰り返す事を更に含む、付記21~31のいずれか一項に記載の方法。
〔付記34〕
前記FAK阻害剤は、VS-6062(PF-562271)又はPF-562271のベンゼンスルホン酸塩である、付記21~33のいずれか一項に記載の方法。
〔付記35〕
前記組成物中の約30%の前記FAKI阻害剤から前記組成物中の約75%の前記FAK阻害剤迄を前記組織に送達する事を更に含む、付記21~34のいずれか一項に記載の方法。
〔付記36〕
創傷の治療の為の多孔質足場を含む組成物を製造する方法であって、
接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤、プルラン、コラーゲン、及びポロゲンを含む混合物を形成する事、並びに
前記ポロゲンを除去する及び/又は前記混合物を脱水する事により、多孔質足場の細孔内に配置された制御された薬物放出の為に作製された接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤を有する多孔質足場を含む組成物を作製する事と、
を含む、方法。
〔付記37〕
前記多孔質足場は、ヒドロゲルを含む、付記36に記載の方法。
〔付記38〕
前記多孔質足場は、プルラン及びコラーゲンヒドロゲルを含む、付記36又は37に記載の方法。
〔付記39〕
前記組成物の表面上にFAK阻害剤を載置する事を更に含む、付記36~38のいずれか一項に記載の方法。
〔付記40〕
前記プルランを架橋する事を更に含む、付記36~39のいずれか一項に記載の方法。
〔付記41〕
前記プルランをトリメタリン酸ナトリウム(STMP)及び/又はトリポリリン酸ナトリウム(STPP)で架橋する事を更に含む、付記36~40のいずれか一項に記載の方法。
〔付記42〕
前記除去工程の前に前記ポロゲンを結晶化させる事を更に含む、付記36~41のいずれか一項に記載の方法。
〔付記43〕
前記組成物は、FAK阻害剤の不均一な分布を含む、付記36~42のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15