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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】重合体組成物、架橋重合体、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20241111BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20241111BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20241111BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L53/02
C08K3/011
B60C1/00 A
B60C1/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021003995
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2021123711
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020017736
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利充
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】千賀 寛文
(72)【発明者】
【氏名】坂上 裕人
(72)【発明者】
【氏名】福本 天斗
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊之
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-127623(JP,A)
【文献】特開平04-255708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)共役ジエン系ゴム(ただし、下記(B)成分に該当する重合体は除く。)及び、
(B)下記(1)~(3)を満たす重合体の水素添加物であり、ブタジエンに由来する構造単位の80%以上が水素添加された重合体、
を含有する、タイヤ用重合体組成物。
(1)ブタジエンを含む共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であること。
(2)ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックを有すること。
(3)共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなるブロックを有すること。
【請求項2】
前記(B)成分が、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記の数式(A)を満たす水添共役ジエン系重合体である、請求項1に記載のタイヤ用重合体組成物。
0.80≦(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)≦0.98
・・・(A)
【化1】
【請求項3】
更に、架橋剤を含有する、請求項1または請求項2に記載のタイヤ用重合体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のタイヤ用重合体組成物を用いて製造されたタイヤ用架橋重合体。
【請求項5】
請求項4に記載のタイヤ用架橋重合体を使用したタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物、架橋重合体、及び該架橋重合体を用いて作成されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
共役ジエン系ゴムを含有する重合体組成物は、耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、成形加工性等の各種特性が良好であることから、空気入りタイヤやホース、防振ゴムなどの各種用途に使用されている。
【0003】
このような重合体組成物に、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリオレフィン樹脂や、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックポリマー(SEBS)、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー(CEBC)等の水素添加樹脂を添加することにより、成形体の剛性を向上できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/014281号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの水素添加樹脂を添加した重合体組成物の成形体は、耐摩耗性と粘弾性特性とのバランスに問題があった。この特性バランスの悪化要因としては、いずれも低極性のオレフィン構造を含むために、共役ジエン系ゴムとの相容性が不良となることにより、十分な性能発現に至らないと考えられる。
【0006】
また、拘束層がスチレンブロックのみで構成されるSEBSにおいては、ポリスチレンブロックは例えばタイヤの常用温度域においてガラス状態であり、ガラス転移現象により高温/長時間において分子運動を十分に抑制できず、粘弾性特性(RR性)への悪影響が生じやすいという課題があった。
【0007】
このような課題を解決するために、剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスに優れた成形体を得ることができる重合体組成物が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る重合体組成物の一態様は、
(A)共役ジエン系ゴム(ただし、下記(B)成分に該当する重合体は除く。)及び、
(B)下記(1)~(3)を満たす重合体の水素添加物であり、ブタジエンに由来する構造単位の80%以上が水素添加された重合体、
を含有する。
(1)ブタジエンを含む共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であること。
(2)ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックを有すること。
(3)共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなるブロックを有すること。
【0009】
前記重合体組成物の一態様において、
前記(B)成分が、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単
位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の構成比をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記の数式(A)を満たす水添共役ジエン系重合体であってもよい。
0.80≦(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)≦0.98
・・・(A)
【化1】
【0010】
前記重合体組成物のいずれかの態様において、
更に、架橋剤を含有してもよい。
【0011】
本発明に係る架橋重合体の一態様は、
前記いずれかの態様の重合体組成物を用いて製造されたものである。
【0012】
本発明に係るタイヤの一態様は、
前記一態様の架橋重合体を使用したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る重合体組成物によれば、剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0015】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0016】
1.重合体組成物
本発明の一実施形態に係る重合体組成物は、
(A)共役ジエン系ゴム(ただし、下記(B)成分に該当する重合体は除く。以下、「(A)成分」ともいう。)及び、
(B)下記(1)~(3)を満たす重合体の水素添加物であり、ブタジエンに由来する構造単位の80%以上が水素添加された重合体(以下、「(B)成分」ともいう。)、
を含有する。
(1)ブタジエンを含む共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であること。
(2)ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックを有すること。
(3)共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなるブロックを有すること。
【0017】
1.1.(A)成分
本実施形態に係る重合体組成物は、(A)共役ジエン系ゴムを含有する。(A)共役ジ
エン系ゴムとしては、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有し、かつ、後述する(B)成分に該当しない共役ジエン系ゴムであれば特に限定されない。
【0018】
(A)成分の具体例としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム以外の芳香族ビニル-共役ジエン共重合ゴム(例えば、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン-イソプレンゴム(SBIR))、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、水添ブタジエンゴム、水添スチレン-ブタジエンゴム等が挙げられる。これらの中でも、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水添スチレン-ブタジエンゴム、天然ゴム(NR)が好ましい。これらの(A)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
1.2.(B)成分
本実施形態に係る重合体組成物に含まれる(B)成分は、ブタジエンを含む共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であって、ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックと、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなるブロックとを有する共重合体の水素添加物である。
【0020】
本実施形態に係る重合体組成物中の(B)成分の含有割合は、(A)成分の合計量を100質量部としたときに、好ましくは1~50質量部であり、より好ましくは3~40質量部であり、更に好ましくは5~30質量部であり、特に好ましくは10~20質量部である。(B)成分の含有割合が前記範囲にあると、剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスにより優れた成形体を得ることができる。
【0021】
(B)成分の水添前の重合体は、分子中に重合体ブロックA及び重合体ブロックBを有するブロック共重合体(以下、単に「ブロック共重合体」ともいう。)であることが好ましい。ここで、前記重合体ブロックAは、ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックであり、前記重合体ブロックBは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなるブロックである。
【0022】
1.2.1.重合体ブロックA
重合体ブロックAは、ビニル基含量が20%以下のポリブタジエンブロックである。重合体ブロックAは、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む。
【0023】
重合体ブロックA中のビニル基含量は、20%以下であり、好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下である。重合体ブロックA中のビニル基含量の下限値は特に限定されるものではない。重合体ブロックA中のビニル基含量が前記範囲にあると、機械的強度が向上するため、成形体に剛性を付与しつつ粘弾性特性を含めた物性バランスが改善される。
【0024】
なお、本発明における「ビニル基含量」とは、水添前の重合体ブロック中に1,2-結合、3,4-結合及び1,4-結合の様式で組み込まれている共役ジエン化合物のうち、1,2-結合及び3,4-結合で組み込まれているものの合計割合(質量%)である。
【0025】
1.2.2.重合体ブロックB
重合体ブロックBは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とからなる重合体ブロックである。重合体ブロックBは、剛性を付与するための共役ジエン化合物に由来する構造単位と、柔軟性を付与して粘弾性特性を向上させるための芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、を含有する。
【0026】
重合に使用する共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。これらの共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
重合に使用する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。これらの中でも、スチレンが特に好ましい。
【0028】
重合体ブロックBにおける共役ジエン化合物に由来する構造単位は、重合体ブロックB中に50質量%以上含有されることが好ましく、65~95質量%含有されることがより好ましく、75~90質量%含有されることが特に好ましい。重合体ブロックBにおける共役ジエン化合物に由来する構造単位の含有割合が前記範囲にあると、成形体の剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスが改善される。
【0029】
重合体ブロックBにおける芳香族ビニル化合物に由来する構造単位は、重合体ブロックB中に50質量%未満含有されることが好ましく、5~35質量%含有されることがより好ましく、10~25質量%含有されることが特に好ましい。重合体ブロックBにおける芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合が前記範囲にあると、(A)成分との相容性を改善することができるため、剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスが改善される。
【0030】
なお、重合体ブロックB中の共役ジエン化合物に由来する構造単位の分布は、ランダム、テーパー(分子鎖に沿って共役ジエン化合物に由来する構造単位が増加又は減少するもの)、一部ブロック状、又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0031】
重合体ブロックB中のビニル基含量は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは20~90%であり、更に好ましくは25~80%であり、特に好ましくは25~70%である。重合体ブロックB中のビニル基含量が前記範囲であると、重合体ブロックAによって付与される剛性や耐摩耗性を損なうことなく、成形体の粘弾性特性を向上させることができる。
【0032】
1.2.3.ブロック構成
前記ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの合計量を100質量%とした場合、重合体ブロックAの含有割合は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは25~75質量%であり、更に好ましくは30~70質量%であり、特に好ましくは35~60質量%である。一方、前記ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの合計量を100質量%とした場合、重合体ブロックBの含有割合は、好ましくは80~20質量%であり、より好ましくは75~25質量%であり、更に好ましくは70~30質量%であり、特に好ましくは60~35質量%である。前記ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの含有割合が前記範囲にあると、成形体の剛性、耐摩耗性及び粘弾性特性のバランスが改善される。
【0033】
ブロック共重合体の構造は、上記要件を満たすものであれば特に制限されないが、例え
ば下記構造式(1)~(3)で表される構造が挙げられる。
・構造式(1):(A-B)n1
・構造式(2):(A-B)n2-A
・構造式(3):(B-A)n3-B
【0034】
構造式(1)~(3)中、Aは重合体ブロックAを示し、Bは重合体ブロックBを示し、n1~n3は1以上の整数を示す。ここで、上記構造式(1)~(3)で表されるブロック共重合体中、重合体ブロックA及び重合体ブロックBの少なくともいずれかが2以上存在する場合、それぞれの重合体ブロックは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
また、ブロック共重合体の構造は、例えば、下記構造式(4)~(7)で表される構造のように、カップリング剤残基を介して共重合体ブロックが延長又は分岐されたものであってもよい。
・構造式(4):(A-B)
・構造式(5):(B-A)
・構造式(6):(A-B-A)
・構造式(7):(B-A-B)
【0036】
構造式(4)~(7)中、Aは重合体ブロックAを示し、Bは重合体ブロックBを示し、mは2以上の整数を示し、Xはカップリング剤残基を示す。丸括弧によって囲まれ、かつXを有する構造は、括弧内で最もXに近い位置のブロックがXに直接結合することを示す。例えば、(A-B)Xにおいては、m個の(A-B)が重合体ブロックBによってXに直接結合することを示す。
【0037】
さらに、ブロック共重合体の構造は、例えば、下記構造式(8)、(9)のように、任意成分の重合体ブロックCやDを含んでもよい。
・構造式(8):A-B-C
・構造式(9):A-B-C-D
【0038】
ブロック共重合体の構造は、上記構造式(1)~(9)で表される構造の中でも、上記構造式(1)、(2)、(3)、(7)、(8)及び(9)で表される構造が好ましい。
【0039】
また、ブロック共重合体は、末端変性されていてもよい。ブロック共重合体が末端変性されることで、耐摩耗性や粘弾性特性のバランスが改善されることがある。ブロック共重合体を末端変性させる方法は、特に限定されないが、例えば、特開2014-177519号公報、特開2016-079217号公報、国際公開第2017/090421号、国際公開第2017/221943号に記載された方法を使用することができる。
【0040】
ブロック共重合体におけるカップリング率は、成形時の加工性を考慮すると、50~90%であることが好ましい。なお、カップリング剤を介して、分子が連結される割合をカップリング率とする。
【0041】
カップリング剤としては、例えば、1,2-ジブロモエタン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、ベンゼン-1,2,4-トリイソシアナート、トリレンジイソシアナート、エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化アマニ油、テトラクロロゲルマニウム、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、ブチルトリクロロシラン、ジメチルクロロシラン、1,4-クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタンが挙げられる。
【0042】
ブロック共重合体は、例えば特許第3134504号公報、特許第3360411号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0043】
1.2.4.水素添加(水添)
(B)成分の水素添加率は、ブタジエンに由来する構造単位の80%以上、好ましくは81%以上、より好ましくは82%以上、特に好ましくは83%以上である。一方、(B)成分の水素添加率は、ブタジエンに由来する構造単位の、好ましくは98%以下、より好ましくは97%以下、特に好ましくは96%以下である。(B)成分の水素添加率が前記範囲であることにより、架橋性や相互作用を向上させることができるので、成形体の耐摩耗性や加工性が向上する。なお、(B)成分の水素添加率は、H-NMRで測定した、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記式(A)のαの値である。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) ・・・・・(A)
【化2】
【0044】
ブロック共重合体の水素添加方法、反応条件については特に制限はなく、通常は、20~120℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。この場合、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより適宜調整することができる。
【0045】
水添触媒としては、例えば、特開平1-275605号公報、特開平5-271326号公報、特開平5-271325号公報、特開平5-222115号公報、特開平11-292924号公報、特開2000-37632号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭63-5401号公報、特開昭62-218403号公報、特開平7-90017号公報、特公昭43-19960号公報、特公昭47-40473号公報に記載された水添触媒が挙げられる。なお、上記水添触媒は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0046】
水添後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系若しくはアミン系の老化防止剤を添加し、その後、水添ジエン系(共)重合体溶液から水添ジエン系(共)重合体を単離する。水添ジエン系(共)重合体の単離は、例えば、水添ジエン系(共)重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系(共)重合体溶液を熱湯中に撹拌下投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により行うことができる。
【0047】
重合体ブロックAは、ビニル基含量が20%未満のポリブタジエンブロックであるので、水素添加によりポリエチレンに類似の構造となり、結晶性のよい重合体ブロックとなる。一方、重合体ブロックBは、オレフィン構造部位に芳香族ビニル化合物を配列させることで、(A)成分との相容性を改善させることができる。これにより、成形体に剛性を付与しつつ粘弾性特性を含めた物性バランスを改善することができる。また、水素添加率を特定の範囲とすることで、オレフィン性ブロックに不飽和結合が適度に導入されて、(A
)成分と(B)成分との相容性や共架橋性が向上することで、成形体の耐摩耗性や粘弾性特性と、加工性とのバランスも向上する。
【0048】
1.2.5.重量平均分子量
(B)成分の重量平均分子量は、好ましくは10万~60万であり、より好ましくは10万~40万であり、更に好ましくは10万~30万であり、特に好ましくは10万~25万である。(B)成分の重量平均分子量が前記範囲にあると、加工性に優れ、粘弾性特性に優れた成形体が得られやすい。なお、ここでいう「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量のことを指す。
【0049】
1.2.6.物性
<貯蔵ヤング率E’>
(B)成分の25℃における貯蔵ヤング率E’は、好ましくは5~80MPaであり、より好ましくは10~70MPaであり、更に好ましくは15~60MPaであり、特に好ましくは15~50MPaである。25℃における貯蔵ヤング率E’が前記範囲にあると、成形体のベトツキやペレットの互着を防止することができ、加工性が良好となる場合がある。
【0050】
なお、本発明における「25℃における貯蔵ヤング率E’」は、動的粘弾性装置(レオメトリックス社製、型番「RSA」)を用いて、定速昇温引張モードにて昇温速度3℃/分、せん断速度6.28ラジアン/秒で動的粘弾性スペクトルを測定した際の、25℃の貯蔵ヤング率である。
【0051】
<tanδ>
(B)成分の25℃におけるtanδの高さは、好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.11以上であり、特に好ましくは0.12以上である。25℃におけるtanδが前記範囲にあると、剛性及び粘弾性特性のバランスに優れた成形体が得られる場合がある。
【0052】
(B)成分の50℃におけるtanδの高さは、好ましくは0.10未満であり、より好ましくは0.08未満であり、特に好ましくは0.06未満である。25℃におけるtanδが前記範囲にあると、剛性及び耐摩耗性に優れた成形体が得られる場合がある。
【0053】
(B)成分のtanδピークは、-70℃~+10℃の範囲にあることが好ましく、-60℃~+5℃の範囲にあることがより好ましく、-50℃~0℃の範囲にあることが特に好ましい。また、tanδピークの高さは、好ましくは0.20以上であり、より好ましくは0.25以上であり、特に好ましくは0.30以上である。(B)成分のtanδピークがこのような条件を満たすことにより、剛性及び耐摩耗性に優れた成形体が得られる場合がある。また、成形体がタイヤである場合、運転時の操縦安定性が向上する場合がある。
【0054】
なお、本発明における「tanδ」は、(B)成分を測定用試料とし、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪1.0%、角速度100ラジアン毎秒、所期の温度条件で測定した値である。
【0055】
<融点ピーク温度及び融解熱量>
(B)成分の融点ピーク温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは65℃~130℃であり、特に好ましくは75℃~110℃である。融点ピーク温度が前記範囲にあると、剛性及び耐摩耗性のバランスに優れた成形体が得られる場合がある。
【0056】
(B)成分の融解熱量は、好ましくは20~90J/gであり、より好ましくは25~80J/gであり、特に好ましくは30~75J/gである。融解熱量が前記範囲にあると、成形体のベトツキやペレットの互着を防止することができ、加工性が良好となる場合がある。
【0057】
なお、(B)成分の融点ピーク温度及び融解熱量は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定される。具体的には、融点ピーク温度とは、示差走査熱量計(DSC)を使用し、サンプルとなるエラストマーを200℃で10分保持した後、-80℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで-80℃で10分間保持した後、10℃/分の速度で昇温したときの熱流量(これを「融解熱量」という。)のピーク温度である。
【0058】
<ヨウ素価>
(B)成分のヨウ素価は、好ましくは3~100であり、より好ましくは3~70であり、特に好ましくは4~40である。ヨウ素価が前記範囲にあると、(B)成分の反応性が適度となるため、架橋処理後の成形体の耐熱性が良好となる場合がある。
【0059】
なお、(B)成分のヨウ素価は、「JIS K 0070:1992」に記載された試験方法に準じて測定することができる。なお、ヨウ素価は、対象となる物質100gと反応するハロゲンの量をヨウ素のグラム数に換算して表した値である。
【0060】
<メルトフローレート(MFR)>
(B)成分の、230℃、21.2Nの荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.1~50g/10分であることが好ましく、0.2~10g/10分であることがより好ましく、0.5~5g/10分であることが特に好ましい。230℃、21.2N荷重で測定されるMFRが前記範囲にあると、成形時の負荷が小さくなり、加工性が良好となる傾向にあるため好ましい。なお、メルトフローレート(MFR)は、「JIS
K 7210」に記載された試験方法に準じて、230℃、21.2Nの荷重で測定して求めることができる。
【0061】
1.3.その他の成分
本実施形態に係る重合体組成物は、前記(A)成分及び前記(B)成分に加えて、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤としては、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂などが挙げられ、通常、硫黄が使用される。架橋剤の含有割合は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0062】
本実施形態に係る重合体組成物には、フィラーとして、シリカ、カーボンブラック、クレー、炭酸カルシウム等の補強性充填剤が配合されていてもよい。好ましくは、カーボンブラック、シリカ、又はカーボンブラックとシリカとの併用である。本実施形態に係る重合体組成物中におけるシリカ及びカーボンブラックの合計量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは20~130質量部、より好ましくは25~110質量部である。
【0063】
また、本実施形態に係る重合体組成物には、上記した成分の他に、例えば酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加硫促進剤、軟化剤、硫黄、シランカップリング剤、相溶化剤、加硫助剤、加工助剤、伸展油(プロセス油)、スコーチ防止剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各種成分に応じて適宜選択することができる。
【0064】
1.4.用途
本実施形態に係る重合体組成物は、重合体成分及び架橋剤の他、必要に応じて配合される成分を、開放式混練機(例えば、ロール)、密閉式混練機(例えば、バンバリーミキサー)等の混練機を用いて混練され、成形加工後に架橋(加硫)することによって、架橋重合体として各種ゴム製品に適用可能である。具体的には、例えばタイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング等のシール材;自動車、船舶、航空機、鉄道等の各種車両用の内外装表皮材;建築材料;産業機械用や設備用などの防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング;ダストブーツ;医療用機器材料;防舷材;電線用絶縁材料;その他の工業品等の用途に適用できる。特に、本実施形態に係る重合体組成物を用いて得られる架橋重合体は、剛性、耐摩耗性、及び粘弾性特性のバランスに優れているので、タイヤのトレッド及びサイドウォール用の材料として好適に用いることができる。
【0065】
2.実施例
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記製造例、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0066】
以下の実施例及び比較例において、各物性値の測定法は以下の通りである。
【0067】
2.1.物性測定方法
(1)ビニル基含量
水素添加前の重合体における、500MHz、H-NMRスペクトルから算出した。
【0068】
(2)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:東ソー(株)製、GMHHR-H)を用いて、ポリスチレン換算で求めた。
【0069】
(3)水素添加率
四塩化エチレンを溶媒とし、100MHz、H-NMRスペクトルから算出した。
【0070】
(4)メルトフローレート(MFR)
「JIS K 7210」に記載された試験方法に準じて、230℃、21.2Nの荷重で測定して求めた。
【0071】
2.2.製造例
<水添触媒の製造(触媒Eの合成)>
撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、無水テトラヒドロフラン200ml及びテトラヒドロフルフリルアルコール0.2モルを加えた。その後、n-ブチルリチウム/シクロヘキサン溶液(0.2モル)を三つ口フラスコ中に15℃にて滴下して反応を行い、テトラヒドロフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を得た。
次に、撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド49.8g(0.2モル)及び無水テトラヒドロフラン250mlを加えた。そして、上記記載の方法により得られたテトラヒドロフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を室温撹拌下にて約1時間で滴下した。約2時間後、赤褐色液を濾過し、不溶部をジクロロメタンで洗浄した。
その後、ろ液及び洗浄液を合わせて減圧下にて溶媒を除去することにより、触媒E[ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロライド](「[クロロビス(2,4-シクロペンタジエニル)チタン(IV)テトラヒドロフルフリルアルコキシド]」ともいう。)を得た。なお、収率は95%であった。
【0072】
<重合体(A-1)の製造例>
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25900g、テトラヒドロフラン26g、スチレン1273g、1,3-ブタジエン2361gを仕込んだ。反応器内容物の温度を45℃に調整した後、n-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は80℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、ブタジエン111gを追加し、更に5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。得られた反応液に四塩化ケイ素2mmolを加えて10分間反応させ、さらにN,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン28mmolを加え、20分間反応させた。
次いで、反応液を80℃以上にして系内に水素を導入した後、ジエチルアルミニウムクロライドを3.2g、触媒E2.4g、n-ブチルリチウム(15mmol)を加え、水素圧0.7MPa以上を保つようにして、所定の水素積算値となるまで水素を供給して水添反応させた後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
得られた水添共役ジエン系共重合体を含む重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを1.4g添加した。次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、更に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、上記水溶液1000質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)を行うことにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことで、共役ジエン系重合体(A-1)を得た。得られた共役ジエン系重合体(A-1)の、結合スチレン量は34質量%、ビニル基含量は27モル%、1stピーク重量平均分子量は20×10、重量平均分子量(トータル重量平均分子量)は34×10、水添率は93%、ガラス転移温度は-34℃であった。
【0073】
<重合体(A-2)の製造例>
重合体(A-1)の製造例において、テトラヒドロフラン67g、スチレン370g、1,3-ブタジエン3264gを使用し、重合開始剤として添加するn-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液に27mmolのピペリジンを添加した以外は、同様の操作を行い、共役ジエン系重合体(A-2)を得た。得られた共役ジエン系重合体(A-2)の結合スチレン量は10質量%、ビニル基含量は35モル%、1stピーク重量平均分子量は22×10、重量平均分子量(トータル重量平均分子量)は38×10、水添率は92%、ガラス転移温度は-52℃であった。
【0074】
<重合体(B-1)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン50部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン42.5部、スチレン7.5部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が12%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が35%の重合体ブロックBとを有するブロック共重合
体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は23万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が83%であるブロック共重合体(B-1)を得た。得られたブロック共重合体(B-1)の各種物性値等を下表1に示す。
【0075】
<重合体(B-2)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン34部、スチレン6部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン30部を加えて重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が14%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が33%の重合体ブロックBと、スチレンに由来する構造単位からなる重合体ブロックCとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は11万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が86%であるブロック共重合体(B-2)を得た。得られたブロック共重合体(B-2)の各種物性値等を下表1に示す。
【0076】
<重合体(B-3)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン50部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン42.5部、スチレン7.5部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が12%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が35%の重合体ブロックBとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は23万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が98%であるブロック共重合体(B-3)を得た。得られたブロック共重合体(B-3)の各種物性値等を下表1に示す。
【0077】
<重合体(B-4)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn
-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン34部、スチレン6部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン30部を加えて重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が14%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が33%の重合体ブロックBと、スチレンに由来する構造単位からなる重合体ブロックCとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は11万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が98%であるブロック共重合体(B-4)を得た。得られたブロック共重合体(B-4)の各種物性値等を下表1に示す。
【0078】
<重合体(B-5)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン34部、スチレン6部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン30部を加えて重合を行った。さらに、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを0.2部加えて60分反応させた。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が14%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が33%の重合体ブロックBと、スチレンに由来する構造単位からなる重合体ブロックCとを有する末端変性ブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は11万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が98%であるブロック共重合体(B-5)を得た。得られたブロック共重合体(B-5)の各種物性値等を下表1に示す。
【0079】
<重合体(B-6)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン50部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン50部及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が13%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含むビニル基含量が40%の重合体ブロックCとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は25万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し
、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が98%であるブロック共重合体(B-6)を得た。得られたブロック共重合体(B-6)の各種物性値等を下表1に示す。
【0080】
<重合体(B-7)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、スチレン65部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン28部、スチレン7部及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。得られた重合体は、スチレンに由来する構造単位を含む重合体ブロックCと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が36%の重合体ブロックBとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は12万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、共役ジエン部の水素添加率が98%であるブロック共重合体(B-7)を得た。得られたブロック共重合体(B-7)の各種物性値等を下表1に示す。
【0081】
<重合体(B-8)の製造例>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン34部、スチレン6部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン30部を加えて重合を行った。得られた重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が14%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構造単位及びスチレンに由来する構造単位を含み、ビニル基含量が33%の重合体ブロックBと、スチレンに由来する構造単位からなる重合体ブロックCとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は11万であった。このようにして、共役ジエン部の水素添加率が0%であるブロック共重合体(B-8)を得た。得られたブロック共重合体(B-8)の各種物性値等を下表1に示す。
【0082】
2.3.実施例1~10及び比較例1~7
2.3.1.重合体組成物及び架橋重合体の製造
下表2に示す配合処方により各成分を配合し、それらを混練することによって重合体組成物を製造した。混練は以下の方法で行った。
【0083】
温度制御装置を付属したプラストミル(内容量:250ml)を使用し、一段目の混練として、充填率72%、回転数60rpmの条件で、下表2に示す重合体成分、シリカ、シランカップリング剤、伸展油、ステアリン酸、酸化亜鉛を混練した。次いで、二段目の混練として、上記で得られた混練物を室温まで冷却後、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤を混練することにより、実施例1~10及び比較例1~7の各重合体組成物を得た。
【0084】
次に、得られた各重合体組成物を成形し、160℃で所定時間、加硫プレスにて加硫して、下記の評価試験に供する所定の形状を有する各架橋重合体を得た。
【0085】
2.3.2.重合体組成物及び架橋重合体の評価
得られた各重合体組成物及び各架橋重合体について、以下の評価試験を行った。結果を下表2に示す。
【0086】
<耐摩耗性>
上記で得られた各架橋重合体を測定用試料とし、JIS K6264-1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(株式会社岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗減量を測定した。下表2においては、比較例1の測定値を基準として100とした場合の指数によって示しており、その指数が大きいほど摩耗量が小さく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れることを示す。
【0087】
<操縦安定性>
上記で得られた架橋重合体を測定用試料とし、ARES粘弾性試験装置(TAインスツルメント社製)を使用し、引張動歪0.1~10%、角速度100ラジアン毎秒、50℃の条件で測定した。下表2においては、比較例1の測定値を基準として100とした場合の指数によって示しており、その指数が大きいほど剛性が高く、タイヤにしたときに操縦安定性に優れることを示す。
【0088】
<低RR性(50℃tanδ)>
上記で得られた各架橋重合体を測定用試料とし、ARES粘弾性試験装置(TAインスツルメント社製)を使用し、引張動歪0.7%、角速度100ラジアン毎秒、温度50℃の条件でΔG’を測定した。下表2においては、比較例1の測定値を基準として100とした場合の指数によって示しており、その指数が大きいほど粘弾性特性(RR)に及ぼす悪影響が小さく良好であることを示す。
【0089】
<ウェットグリップ性能(0℃tanδ)>
上記で得られた各架橋重合体を測定用試料とし、ARES粘弾性試験装置(TAインスツルメント社製)を使用し、引張動歪0.14%、角速度100ラジアン毎秒、温度0℃の条件で測定した。下表2においては、比較例1の測定値を基準として100とした場合の指数によって示しており、その指数が大きいほどウェットグリップ性能が大きく良好であることを示す。
【0090】
<加工性(配合ムーニー粘度)>
加硫前の各重合体組成物を測定用試料とし、JIS K6300-1:2013に準拠し、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件でムーニー粘度ML1+4を測定した。下表2においては、比較例1の測定値を基準として100とした場合の指数によって示されており、その指数が大きいほど加工性が良好であることを示す。
【0091】
2.4.評価結果
下表1に、上記で製造した(B)成分の構造及び物性値を示す。下表2に、各実施例及び各比較例で使用した重合体組成物の組成及び評価結果を示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上表2中、重合体組成物の組成中の各成分の数値は質量部を表す。なお、上表2に示す各材料には、それぞれ以下の商品を用いた。
・SBR:JSR社製、商品名「JSR 1500」、スチレン・ブタジエンゴム
・IR:JSR社製、商品名「JSR IR2200」、ポリイソプレンゴム
・LLDPE:日本ポリエチレン社製、商品名「ノバテックLL UJ990」、リニア低密度ポリエチレン
・シリカ:ローディア社製、商品名「ZEOSIL 1165MP」
・シランカップリング剤:エボニック社製、商品名「Si75」
・伸展油:新日本石油製、商品名「T-DAE」
・酸化亜鉛:ハクスイテック社製、商品名「酸化亜鉛二種」
・ステアリン酸:日油社製、商品名「ビーズステアリン酸つばき」
・老化防止剤:精工化学社製、商品名「オゾノン6C」、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
・加硫促進剤CZ:住友化学工業社製、商品名「ソクシノールCZ」、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド
・加硫促進剤D:住友化学工業社製、商品名「ソクシノールD」、1,3-ジフェニルグアニジン
・硫黄:鶴見化学工業社製、商品名「金華印油入微粉硫黄」
【0095】
上表2の結果から、実施例1~10に係る重合体組成物は、比較例1に係る重合体組成物に比べて、操縦安定性を向上させつつ、耐摩耗性及び粘弾性特性のバランスに優れた架橋重合体が得られることが確認された。また、ブタジエンに由来する構造単位の80~97%が水素添加された重合体(B-1)や重合体(B-2)を添加重合体として使用した場合には、ブタジエンに由来する構造単位の98%が水素添加された重合体(B-3)や重合体(B-4)を添加重合体として使用した場合と比べて、耐摩耗性、粘弾性特性及び加工性の物性バランスがより向上することが確認された。
【0096】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。