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▶ 池尻 良治の特許一覧

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  • 特許-歯列矯正装置 図1
  • 特許-歯列矯正装置 図2
  • 特許-歯列矯正装置 図3
  • 特許-歯列矯正装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】歯列矯正装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/36 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
A61C7/36
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021004796
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109473
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】593085299
【氏名又は名称】池尻 良治
(74)【復代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】池尻 良治
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000720(JP,A)
【文献】特開2002-102255(JP,A)
【文献】特開2019-033948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0247148(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0013993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/36
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に装着した状態で使用するための歯列矯正装置(1)であって、
前記歯列矯正装置(1)は、口腔内に着脱自在に装備されるビムラー装置(2)と、このビムラー装置(2)に連結されたオクルーザルテーブル(3)と、からなり、
前記ビムラー装置(2)は、上顎用矯正部(22)と下顎用矯正部(23)とをワイヤー(24,25)により一体的に形成した一対のU字型矯正具と、患者の歯に接触して保持される床(21)を有し、
前記オクルーザルテーブル(3)は、前記ビムラー装置(2)の前記床(21)が一体的に延長されることにより形成され、前記患者の左右上下の任意の臼歯(50)の咬合面上を覆うように平板状に載置されてなる
ことを特徴とする歯列矯正装置。
【請求項2】
前記床(21)及び前記オクルーザルテーブル(3)がレジンからなる請求項1記載の歯列矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列(歯並び)矯正装置に関し、特に口腔内における歯の適正な咬合位置を確保することを可能とするためにオクルーザルテーブルを併設したビムラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、歯列矯正を行うために様々な器具が開発され、使用されている。
【0003】
従来よく行われてきた歯列矯正治療としては、例えば、マルチブラケット法がある。これは、ブラケットを動かしたい歯の表面に装着し、装着した各ブラケットにアーチ型ワイヤーを連結し、歯の移動を行うことで歯列を整える方法である。この方法は、ブラケットを歯に接合するため、矯正治療が完了するまで装置を取り外すことが出来ず汚れが溜まるという欠点がある。また、ワイヤーを少しずつ締めることにより歯を強制的に動かして歯列を矯正するため、装置を装着している間は歯に違和感があり最悪の場合痛みや痒みを生ずる。さらに、ブラケットを歯の外側面に装着する場合にはブラケットとワイヤーが外から視認でき、装着時の見栄えが悪いという問題もある。
【0004】
ブラケットを使用しない歯科矯正方法として、ビムラー(Bimler)装置を用いた矯正も知られている。この矯正法は、この装置を口腔内に装着することで、口腔周囲筋や舌の機能力を利用して顎関係を改善すると同時に、ワイヤーの弾性を利用して歯の移動を図るものである。特に顎が成長する小児の歯列矯正に効果的とされている。
【0005】
このビムラー装置を用いることにより、就寝中や日常生活を行いながらの矯正が容易となった。しかも、口腔内に着脱自在であることから汚れが溜まる等の問題もないため、患者にとって抵抗感や不快感を覚えることが少ないという大きなメリットがある。しかしながら、自然で正常な咬合位置を確保した状態で持続的に使用するという点に関してはまだ不十分であった。
【0006】
このような問題点を解消するための技術として、特開2018-000720号公報の発明が提案されている。この発明は、口腔内に着脱自在に装備されるビムラー装置と、このビムラー装置近傍に取り付けられる臼歯キャップ、とからなる歯列矯正装置である。
【文献】特開2018-000720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特開2018-000720号発明は、ビムラー装置と臼歯キャップという2つの装置を必要とする。2つの装置を調製するために多くの時間や費用を要し、患者(多くは小児)にとっては必ずしも使いやすいものではなかった。例えば、ある実例によると、レントゲン撮影と口腔内の型取りをして、その2~4週間後に臼歯キャップを装着し、その約1か月後に再び型取りをして、その2~4週間後にビムラー装置を取り付けていた。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みて行われた歯列矯正装置である。特に、ビムラー装置に、臼歯キャップに代わるオクルーザルテーブルを一体化させることにより、時間や費用を節約するとともに、上記従来発明と同様またはそれ以上の効果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、口腔内に装着した状態で使用するための新規な歯列矯正装置を提供する。
【0010】
この歯列矯正装置は、口腔内に装着した状態で使用するための歯列矯正装置であって、前記歯列矯正装置は、口腔内に着脱自在に装備されるビムラー装置と、このビムラー装置に連結されたオクルーザルテーブルと、からなり、前記ビムラー装置は、上顎用矯正部と下顎用矯正部とをワイヤーにより一体的に形成した一対のU字型矯正具と、患者の歯に接触して保持される床を有し、前記オクルーザルテーブルは、前記ビムラー装置の前記床が一体的に延長されることにより形成され、前記患者の左右上下の任意の臼歯の咬合面上を覆うように平板状に載置されてなることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記床及びオクルーザルテーブルはレジンからなる。レジンとしては義歯床用アクリル系レジンを用いることができる。
【0012】
オクルーザルテーブルは、前記咬合面上に載置されるだけの平面的なものであってもよいし、内側が空洞で前記臼歯の前記咬合面を覆うだけでなく、前記臼歯の側部を少なくとも部分的に覆う立体的なものであってもよい。
【0013】
平面的なオクルーザルテーブルを使用する場合は、各患者の症状に合わせて咬合面上に約1~4mm、好ましくは約1~2mm程度の高さを有するように形成される。
【0014】
立体的なオクルーザルテーブルを使用する場合は、咬合面上に約1~4mm、好ましくは約1~2mm程度の高さを有するだけでなく、臼歯の咬合面から臼歯側面に沿って顎側に約1~4mm、好ましくは約2~3mm程度伸びるように形成される。
【0015】
オクルーザルテーブルを取り付ける臼歯は、乳臼歯、小臼歯、大臼歯の場合がある。小臼歯の場合は左右各2本ずつ取り付けることが好ましいが、大臼歯の場合は左右各1本でもよい。小臼歯と大臼歯の両方を使用することもできる。要は、患者の口腔内形状や歯列の症状により使い分ければよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記詳述した構成を有するので、以下のような効果が得られる。
【0017】
・ 従来のビムラー装置のみを使用する方法では、水平方向の矯正が中心になりがちで、垂直方向の矯正という面では不十分であった。しかし、本発明の装置ではオクルーザルテーブルを使用することにより、この垂直方向への効果が期待できる。すなわち、オクルーザルテーブルにより臼歯が咬合挙上されるので、上下顎位置を調整し正常な咬合となるように誘導することができる。
【0018】
・ 従来のビムラー装置と臼歯キャップを併用する方法と比べ、本装置は単一の装置なので、装着のための時間と経費を軽減できる。そのため、乳歯列から混合歯列そして永久歯列まで幅広く使用でき、小児から大人まで幅広い年齢に広く対応することができる。
【0019】
・ 本装置による歯列矯正では、様々な症例に対応することができる。例えば、上下顎の位置関係が不適切な場合(例:下顎前突(受け口)、上顎前突(出っ歯)、ディープバイト(噛み合わせが深い)、交差咬合(上下の歯が不正に噛み合っている)などに対応可能である。
【0020】
・ 従来のビムラー装置ではスチールワイヤーを使用して咬合挙上していたので歯牙を咬耗させてしまうことがあった。本発明では、床及びオクルーザルテーブルをレジンで製作することにより、歯牙を咬耗させずに治療可能であるので、歯にやさしい。特に咬合において重要な第一大臼歯(6番目の歯)の上下顎の咬合面を咬耗させずに治療可能である。
【0021】
・ 本装置は、着脱自在なので取り外し可能である。その結果、日中の活動時間や就寝中など使用時間を柔軟に選択できる。
【0022】
・ 本装置は、食事の時は取り外せるので、食事以外の日常生活には支障がない。
【0023】
・ 本装置は、洗浄可能で衛生的管理できるので、虫歯リスクを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の1実施例である歯列矯正装置を取り付けた口腔内の状態を仮想的に開口して示す正面図である。
図2】小臼歯の左右2本ずつにオクルーザルテーブルを設けた本発明の実施例1である。
図3】大臼歯の左右1本ずつにオクルーザルテーブルを設けた本発明の実施例2である。
図4】(a)は実施例1及び2で使用するタイプの平板状オクルーザルテーブルの側面図であり、(b)は実施例3で使用するタイプの立体型のオクルーザルテーブルの側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に示す実施例に基づいて、本発明に係る歯列矯正装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に示すように、本発明に係る歯列矯正装置1は、ビムラー装置2と、このビムラー装置2の床21と一体不可分となったオクルーザルテーブル3とからなる。本明細書において、「オクルーザルテーブル」とは、口腔内における歯の適正な咬合位置を確保することを目的として、単数または複数の臼歯(乳臼歯、小臼歯及び/又は大臼歯)の咬合面を覆うことのできる器具をいう。
【0027】
この歯列矯正装置1のうちビムラー装置2は、本発明による改良部分を除けば、従来から使用されてきたビムラー装置とほぼ同じであり、主に就寝中に口腔内に装着した状態で使用することが多い。しかし、ビムラー装置は食事以外の日常生活を送る上で支障のない構造となっているため、就寝中の他、日中の活動時間においても装着することはもちろん可能であり、そうすることにより、より高い歯列矯正の効果を得ることが可能となる。
【0028】
図1図2に示すように、このビムラー装置2は、上顎用矯正部22と下顎用矯正部23とが一体化した形状であり、それぞれを口腔内の正しい位置に装着することで、上下顎の位置を調整しつつ歯列矯正を図る。
【0029】
ビムラー装置は、基本的にはワイヤーを用いた構成であり、上顎用矯正部22と下顎用矯正部23のワイヤー24,25が一体的に形成されている。簡単に言えば、楕円形状のワイヤーを折り畳んで上下で一対のU字型の矯正部材を構成する。
【0030】
上顎側のU字型ワイヤー24からなる上顎用矯正部22は、図1図2に示すように、上顎の左右両側にある乳臼歯、小臼歯及び大臼歯の位置に、レジン製の左右2つの床21を有する。後に詳述するように、これがオクルーザルテーブル3と一体化する。この床21には凹溝26(図2)が設けられており、この凹溝26が左右2か所にある上顎側の小臼歯50a、大臼歯50bに嵌ることにより、ビムラー装置1は口腔内にしっかりと固定される。図示しないが、患者の口腔内形状や歯列の症状によっては、臼歯50だけでなく、犬歯51、中切歯52に床を設けることもできる。
【0031】
下顎用矯正部23は、U字型ワイヤー端部にレジン製の下顎接触部27を設けた構成である。これにより、ビムラー装置1の装着時には、この下顎接触部27が下顎側の中切歯52を内側から押す状態となる。
【0032】
このビムラー装置1は、口腔周囲筋や舌の機能力を利用して顎関節を改善する。同時に、ワイヤー24,25の弾性によって上顎側の中切歯52に対し、内側へ向う圧力が掛かるので、上顎中切歯52を後方へ移動させる。その結果、下顎接触部27が前方へ押し出されて下顎側の中切歯52を口腔内側から押圧し、下顎の前方への成長を促進させる。これにより、適正な咬合を実現して歯列矯正を達成することができる。
【0033】
前記したように、床21は上顎の左右両側にある臼歯50(及び必要があれば犬歯51)の位置に左右2つ設けられる。ここまでは従来例と同じであるが、本実施例では、そこからさらに床21が拡大延長されて、小臼歯50aの左右2本の咬合面をほぼ覆うオクルーザルテーブル3を構成している。
【0034】
この実施例では、図4(a)に示すように、オクルーザルテーブル3は、各患者の症状に合わせて咬合面上に約1~2mm程度の高さを有するように形成されている。形状はほぼ平板状であるが、歯側の下面は臼歯上面形状に沿うようにわずかな凹凸を有する。
【0035】
このオクルーザルテーブル3は小臼歯50aの上に載置されているだけであり、接着剤などで固定されているのではない。固定してしまうと、外すことが困難となり、取り外しを頻繁に行うことができなくなってしまうからである。
【0036】
床21及びオクルーザルテーブル3はレジンにより形成するのが好ましい。レジンとしては義歯床用アクリル系レジンを用いることができる。
【0037】
この歯列矯正装置は、患者それぞれの口腔内の形状及び症状に合わせて個別に製作される。
【実施例2】
【0038】
図3に示す実施例2の歯列矯正装置はオクルーザルテーブル3Aの位置が左右の大臼歯1本ずつである点で実施例1と異なる。その他の点は実施例1と同じであるので、実施例1の符号に「A」を付して詳細な説明は省略する。
【実施例3】
【0039】
図4(b)に示す実施例3のオクルーザルテーブル3Bは、内側が空洞で臼歯の前記咬合面を覆うだけでなく、臼歯の側部も部分的に覆う立体的なものである。咬合面上に約1~2mm程度の高さを有するだけでなく、臼歯の咬合面から臼歯側面に沿って顎方向に約1~2mm程度伸びるように形成されている。オクルーザルテーブル3Bがそれ以上深く側面を覆うと、外すことが困難となり、取り外しを頻繁に行うことができなくなってしまうからである。
【符号の説明】
【0040】
1 歯列矯正装置
2 ビムラー装置
21 床
22 上顎用矯正部
23 下顎用矯正部
24,25 ワイヤー
26 凹溝
27 下顎接触部
3 オクルーザルテーブル
50 臼歯
50a 小臼歯
50b 大臼歯
51 犬歯
52 中切歯

図1
図2
図3
図4