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特許7585065真空バルブ用接点材料、その製造方法、及び真空バルブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】真空バルブ用接点材料、その製造方法、及び真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20241111BHJP
   H01H 33/662 20060101ALI20241111BHJP
   H01H 1/025 20060101ALI20241111BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20241111BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241111BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
H01H33/664 B
H01H33/662 F
H01H1/025
C22F1/08 Z
C22C9/00
C22F1/00 602
C22F1/00 630M
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021012969
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116670
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】垂井 洋静
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252550(JP,A)
【文献】特開平03-047931(JP,A)
【文献】特開2001-236865(JP,A)
【文献】特開平10-287939(JP,A)
【文献】特開平07-290247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00-1/04
H01H 11/00-11/06
H01H 33/60-33/68
C22F 1/08
C22F 9/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル、及びビスマスのうち少なくとも1つの添加元素を含有する銅クロム二元系合金であ
銅またはクロムと、前記添加元素との粒状の金属間化合物相を含有する晶出物を含み、前記晶出物は、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する真空バルブ用接点材料であって、
銅クロム二元系合金材料と、テルル及びビスマスのうち少なくとも1つの前記添加元素とを含む真空バルブ用接点材料用原料を、900ないし1050℃に加熱して溶体化処理し、
溶体化された前記原料を急冷し、及び
急冷された前記原料を400ないし800℃に加熱して時効熱処理することにより、銅クロム二元系合金中に、銅またはクロムと、前記添加元素との粒状の金属間化合物相を含有する晶出物を形成し、
時効熱処理された前記原料を、電極と相対的に回転しながら押し付けて、バリが発生するまで摩擦圧接接合を行って塑性変形させることにより、前記晶出物を細粒化して、前記晶出物の平均粒径を0.01ないし1.0μmとし、
前記バリを除去することにより作成されることを特徴とする真空バルブ用接点材料
【請求項2】
前記晶出物は、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する粒状のクロム相をさらに含む請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項3】
前記晶出物は、銅を含むマトリクス中に分散されている請求項1または2に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項4】
一対の電極と、各電極の表面に設けられた接触子とを含み、少なくとも一方の前記接触子の少なくとも一部に、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料を用いたことを特徴とする真空バルブ。
【請求項5】
前記接触子は、500ppm以下の酸素含有量、及び99.9%以上の相対密度を有する請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項6】
銅クロム二元系合金材料と、テルル及びビスマスのうち少なくとも1つの添加元素とを含む真空バルブ用接点材料用原料を、900ないし1050℃に加熱して溶体化処理し、
溶体化された前記原料を急冷し、及び
急冷された前記原料を400ないし800℃に加熱して時効熱処理することにより銅クロム二元系合金中に、銅またはクロムと、前記添加元素との粒状の金属間化合物相を含有する晶出物を形成し、
時効熱処理された前記原料を、電極と相対的に回転しながら押し付けて、バリが発生するまで摩擦圧接接合を行って塑性変形させることにより、前記晶出物を細粒化して、前記晶出物の平均粒径を0.01ないし1.0μmとし、
前記バリを除去することを含む真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項7】
前記摩擦圧接接合を行う前に、スエージング加工、または伸線加工による冷間加工を行うことをさらに含む請求項6に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項8】
前記冷間加工は伸線加工である請求項7に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブ用接点材料、その製造方法、及び真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
真空バルブ内の一対の電極表面には、接点材料を含む接触子がそれぞれ設けられている。接触子表面は、短時間通電におけるジュール熱や電流遮断時におけるアーク熱によって溶融し、これに開閉動作が加わると、電極の接触子同士が溶着し、さらに引き剥がされる。接点材料として一般的に用いられているCu-Cr2元系合金では、溶着した接触子を引き剥がすのに大きな力が必要であるため、遮断器全体が大型化し、コスト増大を招いていた。そこで、溶着引き剥がし力の小さな接点材料として、Cu-CrにTeやBi等の添加元素を添加して、耐溶着特性を付与した接点が開発された。添加元素は、接点材料のCuやCrと反応して脆い金属間化合物を形成することによって、接点材料の靭性を低下させる。これにより、接点材料全体が脆くなり、溶着引き剥がし力が低減される。
【0003】
真空バルブの電極は、通電軸と呼ばれる通電経路や電極支持を担う部材と接合され、一体化されている。電極と接触子の接合には、ろう付けが用いられている。通電軸及び電極には一般的に無酸素銅が用いられているため、接触子と電極の接合箇所は、接点材料と無酸素銅の異種材界面となる。ジュール熱やアーク熱によって境界面の温度が変化すると、材料の線膨張係数の差から生じる熱応力が発生する。従来のCu-Cr2元系合金は靭性に優れているため、熱応力によっても破壊は生じない。しかし、TeやBiを添加して靭性の低下した接点材料を接触子として用いると、熱応力によって発生した亀裂が容易に進展し、想定される寿命よりも著しく早く接合箇所が破壊する可能性がある。
このほか、TeやBiを添加した接点材料と真空バルブを構成する他の部材をろう付けすると、ろう材の主成分であるAgとTeやBiが容易に反応して金属間化合物形成するため、ろう層内では、想定される寿命よりも著しく早く破壊が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-307602号公報
【文献】特開平11-16454号公報
【文献】特開2015-41562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、接触子と電極の接合信頼性が良好であり、一対の電極の接触子同士の溶着の引き剥がし力が低減された真空バルブを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、テルル、及びビスマスのうち少なくとも1つの添加元素を含有する銅クロム二元系合金であ
銅またはクロムと、前記添加元素との金属間化合物相を含有し、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する晶出物を含む真空バルブ用接点材料であって、
銅クロム二元系合金材料と、テルル及びビスマスのうち少なくとも1つの前記添加元素とを含む真空バルブ用接点材料用原料を、900ないし1050℃に加熱して溶体化処理し、
溶体化された前記原料を急冷し、及び
急冷された前記原料を400ないし800℃に加熱して時効熱処理することにより、銅クロム二元系合金中に、銅またはクロムと、前記添加元素との粒状の金属間化合物相を含有する晶出物を形成し、
時効熱処理された前記原料を、電極と相対的に回転しながら押し付けて、バリが発生するまで摩擦圧接接合を行って塑性変形させることにより、前記晶出物を細粒化して、前記晶出物の平均粒径を0.01ないし1.0μmとし、
前記バリを除去することにより作成された真空バルブ用接点材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第2実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図である。
図2図1の固定側電極と固定側接触子の接合構造の一部を拡大した図である。
図3】第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法を表わすフロー図である。
図4】実施例1の製造工程を表すモデル図である。
図5】実施例2の製造工程を表すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、銅クロム二元系合金であって、銅(Cu)及びクロム(Cr)を主成分として、テルル(Te)、及びビスマス(Bi)のうち少なくとも1つを添加元素として含有する。また、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、Cu及びCrを含む相に晶出された0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する晶出物を含み、晶出物には、添加元素と、CuまたはCrとの金属間化合物相が含まれる。
第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を用いると、溶着引き剥がし力の小さな接点材料の溶着引き剥がし特性を損なうこと無く、接触子と電極の接合部近傍の靭性低下を抑制して熱応力による破断を防ぎ、接合信頼性が良好な真空バルブを得ることができる。
【0010】
接合部近傍の晶出物が0.01μm未満であると、量産的な製造工程による晶出物の粒径制御が困難になり、1.0μmを超えると、靭性が大きく低下し接合部が破壊しやすくなる。
【0011】
接合部近傍の晶出物は、添加元素と、CuまたはCrとの金属間化合物相として、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する粒状の金属間化合物相を含むことができる。粒状の金属間化合物相が0.01μm未満であると、量産的な製造工程による晶出物の粒径制御が困難になり、1.0μmを超えると、靭性が大きく低下し接合部が破壊しやすくなる。
また、晶出物は、Cuマトリクス中に分散され得る。分散された晶出物は、各々、添加元素とCrの金属間化合物相、添加元素とCuの金属間化合物相、添加元素とCrおよびCuの金属間化合物相、およびこれらの複合相を含むことができる。
接合部近傍の晶出物は、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する粒状のCr相を含むことができる。粒状のCr相が0.01μm未満であると、量産的な製造工程による晶出物の粒径制御が困難になり、1.0μmを超えると、強度が低下する傾向がある。
【0012】
また、第2実施形態に係る真空バルブは、一対の電極と、一対の接触子とを含み、上記電極の一方の表面に、上記接触子の一方が設けられ、上記電極のもう一方の表面に、上記接触子のもう一方が設けられており、少なくとも一方の接触子の少なくとも一部に、上記第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料が用いられている。
第2実施形態に係る真空バルブによれば、溶着引き剥がし力の小さな接点材料の溶着引き剥がし特性を大きく損なうこと無く、接触子と電極の接合部近傍の靭性低下が抑制され、熱応力による破断を防ぎ、接合信頼性が良好となる。
【0013】
図1に、第2実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図を示す。
図示するように、真空バルブ100は、両端に開口部を有し、例えばアルミナ磁器等よりなる筒状のセラミックス容器1と、一方の開口部に封着された固定側封着金具2と、他方の開口部に封着された可動側封着金具3とを備えている。真空バルブ100内は真空が維持されている。固定側封着金具2には中央開口部が設けられ、一方の電路となる固定側通電軸4が貫通固定されている。固定側通電軸4のセラミックス容器1内の端部に固定側電極5が固着されている。固定側電極5の端面に、固定側接触子6が固着されることにより、固定側電極5と固定側接触子6の接合構造が形成される。固定側接触子6に対向し、切離自在の一対の接点となる可動側接触子7が、可動側電極8の端面に固着されることにより、固定側接触子6と可動側接触子7の接合構造が形成される。可動側電極8は可動側封着金具3に設けられた中央開口部を移動自在に貫通する他の電路となる可動側通電軸9の端部に固着されている。固定側接触子6及び可動側接触子7の少なくとも一方の少なくとも一部に、上記第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を用いることができる。
【0014】
この可動側通電軸9の中央部分より可動側封着金具3側の部分がセラミックス容器1の外に導出される部分となっており、その部分に、気密封止のためのベローズカバー10が設けられ、ベローズカバー10には伸縮自在の筒状のベローズ11の一方の端部が配設されている。ベローズ11の他方の端部は可動側封着金具3の中央開口部に封着されている。これにより、絶縁容器1の真空を保って、可動側通電軸9を軸方向に移動させることができる。固定側電極5、可動側電極8、固定側接触子6,及び可動側接触子7の周りには、開閉時に発生する金属蒸気や溶融金属が、絶縁容器1の内壁に付着して絶縁抵抗が低下することを防止するため、筒状のアークシールド12が設けられている。
【0015】
図2に、図1の固定側電極と固定側接触子の接合構造の一部を拡大した図を示す。
第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、固定側接触子と可動側接触子のうち少なくとも一方の少なくとも一部に使用することが可能であり、例えば図2は、固定側接触子6に適用する場合を示す。上記真空バルブ用接点材料は、固定側接触子6のうち、少なくとも固定側電極5との接合部付近の領域102に用いることができる。あるいは、上記真空バルブ用接点材料は、固定側接触子6のうち、少なくとも可動側接触子7との接点となる表面6a付近の領域101に用いることができる。さらには、少なくとも領域101及び領域102に用いることもできる。さらにまた、少なくとも、固定側接触子6全体、あるいは可動側接触子7全体に上記真空バルブ用接点材料を用いることが可能である。また、少なくとも一方の接触子は、500ppm以下の酸素含有量、及び99.9%以上の相対密度を有することができる。
電極に使用される電極材料は、無酸素銅やクロム銅が用いられる。
【0016】
図3に、第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法を表わすフロー図を示す。
第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法は、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を製造するための方法の一例である。
図示するように、第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法は、まず、Te、及びBiのうち少なくとも1つの添加元素とを含むCu-Cr二元系合金材料を用意する。次に、合金材料を加熱して溶体化処理する(ST1)。
溶体化された合金材料を急冷し(ST2)、及び急冷された合金材料を400ないし800℃に加熱して時効熱処理する(ST3)。
時効熱処理された合金材料を塑性変形させる(ST4)ことにより、第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料を得ることができる。
【0017】
第3実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法によれば、まず、添加元素を含むCu-Cr二元系合金に、溶体化処理(ST1)、及び時効熱処理(ST3)の2段階加熱処理を、急冷(ST2)をはさんで行うことにより、Cu-Cr二元系合金中に、添加元素と、CuまたはCrとの金属間化合物相を有する晶出物が存在する合金材料が得られる。次に、この合金材料を塑性変形させる(ST4)ことにより、比較的大きな粒状の晶出物を、平均粒径が0.01ないし1.0μmになるまで細粒化して、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を得ることができる。
このようにして細粒化された晶出物を有する接点材料を、接触子の少なくとも一部に用いると、溶着引き剥がし力の小さな接点材料の溶着引き剥がし特性を損なうこと無く、接点材料と通電軸の靭性低下を抑制して熱応力による破断を防ぎ、接合信頼性が良好な真空バルブを得ることができる。
【0018】
塑性変形は、固相接合、または、冷間加工により行うことができる。
塑性変形を固相接合により行うために、例えば、合金材料を、固定側電極または可動側電極と、固相接合させることができる。これにより、合金材料から製造された接点材料を含む接触子と、固定側電極または可動側電極との接合構造が得られる。固相接合としては、例えば摩擦圧接、超音波接合、摩擦攪拌接合、及び拡散接合などが挙げられる。
【0019】
また、冷間加工としては、スエージング加工、及び伸線加工などがあげられる。冷間加工は、固相接合の前に行うことができる。あるいは、冷間加工により塑性変形を行った後、固相接合を行う代わりに、接触子と電極の間にろう材を適用してろう付けによる接合を行うことができる。
【0020】
晶出物の平均粒径は、接触子の複数箇所を切断して断面を鏡面研磨して、走査型電子顕微鏡で観察することにより、各断面の晶出物の粒径を測定して、算出することができる。接触子の接合部付近例えば、図2で表される接合構造において、可動側接触子7との接点となる表面6a付近の領域101、固定側電極との接合部付近の領域102などの複数箇所を切断して、断面を得ることができる。晶出物の平均粒径は、領域毎の断面で観察された晶出物から算出することができる。領域101においては、晶出物の平均粒径を0.1ないし1.0μmにすることができる。領域101の平均粒径が0.1ないし1.0μmであると、溶着引き剥がし力の小さな接点材料の溶着引き剥がし特性がわずかに損なわれる傾向にあるが絶縁破壊電圧や最大遮断可能電流などの電気的な特性が良好となる傾向にある。また、領域102においては、晶出物の平均粒径を0.01ないし1.0μmにすることができる。領域102の晶出物の平均粒径が0.01ないし1.0μmであると、接触子と電極の接合部近傍の靭性低下を抑制して熱応力による破断を防ぎ、接触子と電極の接合信頼性がより良好となる傾向がある。
【0021】
時効熱処理の温度が400℃未満であると、晶出が不十分なため未晶出の固溶成分によって電気伝導率の低下を招き、800℃を超えると、晶出物の粒成長が急速に生じるため数μm程度の粗大な晶出物が形成されてしまう。
急冷温度は室温にすることができる。
溶体化処理の加熱温度は、900℃ないし1050℃にすることができる。900℃未満であると、原料となる材料を製造した際の粗大な晶出物が残存する傾向があり、1050℃を超えると、材料が一部溶融する危険性が高くなる。
【0022】
実施例
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
実施例1
図4は、実施例1の製造工程を表すモデル図を示す。
真空溶解法によって溶製され、Cu及びCr10~40%を主成分として、Te0.1~5%を添加元素として含有する合金材料と無酸素銅原料を用意した。
合金材料と無酸素銅原料を、図4(a)に示すように、機械加工により、所定形状に加工し、合金材料を用いた接触子21-1と、無酸素銅原料を用いた電極22を得た。接触子21-1は、一対の円形の端面21-1a及び21-1bと、両端面21-1a及び21-1bの間に設けられた側面21-1cとを有する円柱形状であり、一方の端面21-1aの縁は面取りされた形状を有する。電極22は、接触子21-1の端面の直径と同様の直径を有する一対の円形の端面22a及び22bと、両端面22a及び22bの間に設けられた側面22cとを有する円柱形状であり、両端面22a及び22b間の距離は接触子21-1の両端面21-1a及び21-1b間の距離よりも長い。
【0023】
次に、図4(b)に示すように、加工後の接触子21-1を、加熱炉201内で950~1050℃で2時間以上加熱して、溶体化処理した。その後、接触子21-1を室温まで急冷し、さらに、加熱炉201内で400℃~800℃で2時間以上加熱して、時効熱処理を行った。加熱炉201内の雰囲気は10-3Pa台以下であった。この溶体化処理と時効熱処理による2段階熱処理によって、Cuマトリクス中に5μm以上の比較的粗大な粒状のTe金属間化合物相が晶出した。
【0024】
続いて、熱処理が完了した接触子21-1と、無酸素銅加工品からなる電極22とを摩擦圧接装置に設置し、図4(c)に示すように、固定された接触子21-1に対し、電極22を矢印202の方向へ回転数1500rpmで回転させ、及び矢印203及び204の方向に、押し付け荷重50kNで、1秒間、摩擦圧接接合を行なった。これにより、接触子21-1を塑性変形させて、塑性変形された接触子21-2と、電極22とが一体化された接合構造を得た。接合時の温度を計測したところ、接触子21-2と電極22の接合部の外周表面温度は400℃台であった。
【0025】
得られた接合構造から摩擦圧接接合により発生したバリ等を除去し、図4(d)に示すように、接触子21-2と電極22が一体化された接合構造20を仕上げた。
接触子と電極の接合部付近の接触子の複数箇所を切断し、樹脂包埋したのち、切断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、晶出物として、粒状のTe金属間化合物相を特定した。粒状のTe金属間化合物相は、Cuマトリクスに点在していた。また、粒状のTe金属間化合物相と共に粒状のCr相を特定した。
【0026】
走査型電子顕微鏡による観察結果から、接触子21-2における電極22との接合部付近のTe金属間化合物相の平均粒径を求めたところ、0.01~1μmであった。接合部付近の粒状のCr相の平均粒径は0.1~1μmであった。
実施例1で製造した接合構造を用いて、図1と同様の構成を有する真空バルブを作製した。
【0027】
実施例2
図5は、実施例2の製造工程を表すモデル図を示す。
真空溶解法により、Cu及びCr10~40%を主成分として、Te0.1~5%を添加元素として含有する合金材料のインゴットを溶製した。また、無酸素銅原料を用意した。
図5(a)に示すように、合金材料を真空溶解法でインゴット31-1を作製した。
【0028】
次に、図5(b)に示すように、インゴット31-1を加熱炉201内で950℃~1050℃で2時間以上加熱して溶体化処理を行った。その後、室温まで急冷し、さらに400℃~800℃で2時間以上加熱し、時効熱処理を行った。加熱炉内の雰囲気は10-3Pa台以下であった。この溶体化処理と時効熱処理による2段階熱処理によってマトリクス中に5μm以上の比較的粗大なTe金属間化合物が晶出した。
【0029】
続いて、例えば図5(c)に示すように、インゴット31-1をスエージング加工あるいは伸線加工により減面率90%以上で冷間加工された合金材料を得た。
その後、図5(d)に示すように、合金材料及び無酸素銅原料を各々所定形状に加工し、合金材料を用いた接触子31-2と、無酸素銅原料を用いた電極22に加工した。接触子31-2は、一対の円形の端面31-2a及び31-2bと、両端面31-2a及び31-2bの間に設けられた側面31-2cとを有する円柱形状であり、一方の端面21-1aの縁は面取りされた形状を有する。電極22は、図4の電極と同様の構成を有し、接触子31-2の端面31-2a及び31-2bの直径と同様の直径を有し、両端面22a及び22b間の距離は接触子21-1の両端面21-1a及び21-1b間の距離よりも長い。
【0030】
続いて、加工された接触子31-2と、無酸素銅加工品からなる電極22とを摩擦圧接装置に設置し、図5(e)に示すように、固定された接触子31-21に対し、電極22を矢印202の方向へ回転数1500rpmで回転させ、及び押し付け荷重50kNで、1秒間、摩擦圧接接合を行なった。これにより、接触子31-2を塑性変形させて、塑性変形された接触子31-3と、電極22とが一体化された接合構造を得た。接合時の温度を計測したところ、接触子31-3と電極22の接合部の外周表面温度は400℃台であった。
【0031】
得られた接合構造から摩擦圧接接合により発生したバリ等を除去し、図5(f)に示すように、接触子31-3と電極22が一体化された接合構造30を仕上げた。
実施例1と同様にして接合構造30の接触子31-3と電極22の接合部付近の接触子31-3の複数箇所を切断し、樹脂包埋したのち、切断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、晶出物として、粒状のTe金属間化合物相を特定した。粒状のTe金属間化合物相は、Cuマトリクスに点在していた。また、粒状のTe金属間化合物相と共に粒状のCr相を特定した。
【0032】
また、走査型電子顕微鏡による観察結果から、接触子31-3における電極22との接合部付近のTe金属間化合物相の平均粒径を求めたところ、0.01~1μmであった。また、接触子31-3における接合部と対向する表面の粒状のTe金属間化合物相の平均粒径は0.1~1μmであった。
実施例2で製造した接合構造を用いて、図1と同様の構成を有する真空バルブを作製した。
なお、実施例1及び2では、溶体化処理と時効熱処理において、説明を簡素化するため同じ加熱炉201を用いているが、別々の加熱炉を使用することも可能である。
【0033】
実施例1および実施例2で得られた真空バルブの効果を確認するため2つの試験を実施した。
実施例1及び実施例2で得られた真空バルブを用いて、JEC-2300規格に準拠して試験した。比較として、接触子21-2と電極22の摩擦圧接接合を行なう代わりに、接触子21-2と電極22を銀ろうを用いてろう接したこと以外は実施例1と同様の真空バルブを用意し、同様に試験した。試験後の真空バルブを分解し、接触子と電極の接合部を切断し樹脂包埋したのち研磨して接合部付近を観察したところ、実施例1および2の接合部にはいかなる割れも見られず健全であった。一方、比較の構造では銀ろう層に外周からわずかに割れが発生していることが確認された。このことから、実施例1および2の接合構造の信頼性を確認できた。
【0034】
実施例1及び実施例2から得られる真空バルブを用いて、100Nの荷重をかけながら固定側電極と可動側電極とを閉じた状態で10kA通電し、ジュール発熱によって電極表面を意図的に溶着させた。比較として、接点材料として一般的に用いられているCu-Cr2元系合金を接触子とし電極と銀ろうを用いてろう接したこと以外は実施例1と同様の真空バルブを用意し、同様にして、固定側電極と可動側電極とを閉じた状態で10kA通電し、ジュール発熱によって電極表面を意図的に溶着させた。
【0035】
この後、溶着した電極を開いた際の接点同士の溶着引き剥がし力を測定したところ、実施例2で製造した接合構造、実施例1で製造した接合構造、比較の接合構造の順で高くなった。しかしながら、実施例1と2の差はわずかであった。
以上の2つの試験から添加元素の溶着力低減効果を損なうこと無く、接合部の信頼性を向上させることを確認した。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
テルル、及びビスマスのうち少なくとも1つの添加元素を含有する銅クロム二元系合金であって、
銅またはクロムと、前記添加元素との粒状の金属間化合物相を含有する晶出物を含み、前記晶出物は、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有することを特徴とする真空バルブ用接点材料。
[2]
前記晶出物は、0.01ないし1.0μmの平均粒径を有する粒状のクロム相をさらに含む[1]に記載の真空バルブ用接点材料。
[3]
前記晶出物は、銅を含むマトリクス中に分散されている[1]または[2]に記載の真空バルブ用接点材料。
[4]
一対の電極と、各電極の表面に設けられた接触子とを含み、少なくとも一方の前記接触子の少なくとも一部に、[1]ないし[3]のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料を用いたことを特徴とする真空バルブ。
[5]
前記接触子は、500ppm以下の酸素含有量、及び99.9%以上の相対密度を有する[4]に記載の真空バルブ。
[6]
銅クロム二元系合金材料と、テルル及びビスマスのうち少なくとも1つの添加元素とを含む真空バルブ用接点材料用原料を、900ないし1050℃に加熱して溶体化処理し、
溶体化された前記原料を急冷し、及び
急冷された前記原料を400ないし800℃に加熱して時効熱処理し、
時効熱処理された前記原料を塑性変形させることを含む真空バルブ用接点材料の製造方法。
[7]
前記摩擦圧接を行う前に、スエージング加工、または伸線加工による冷間加工を行うことをさらに含む[6]に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【符号の説明】
【0037】
5,8,22…電極、6,7,21-2,31-3…接触子、100…真空バルブ
図1
図2
図3
図4
図5