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▶ クエステック イノベーションズ リミテッド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】付加製造用自己焼戻し鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241111BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241111BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241111BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20241111BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20241111BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241111BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241111BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241111BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20241111BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20241111BHJP
   B22F 10/28 20210101ALN20241111BHJP
   B22F 10/25 20210101ALN20241111BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
B22F1/00 T
C22C33/02 B
B22F3/16
B22F9/08 A
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C38/44
C22C38/54
B22F10/28
B22F10/25
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021030507
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2021183718
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】63/015,802
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515057827
【氏名又は名称】クエステック イノベーションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】アミット ベヘラ
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ オルソン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-109209(JP,A)
【文献】特開2013-014812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
B22F 1/00
C22C 33/02
B22F 3/16
B22F 9/08
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
C22C 38/44
C22C 38/54
B22F 10/28
B22F 10/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量で:
0.05%~0.15%の炭素;
7.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のケイ素;
0.01%未満のアルミニウム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物、
からなる、合金。
【請求項2】
質量で:
最大0.1%のランタン;
最大0.004%のホウ素;及び
最大0.03%のチタン、
を更に含む、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
質量で、0.03%~0.06%のランタンを含む、請求項2に記載の合金。
【請求項4】
質量で、0.001%~0.003%のホウ素を含む、請求項3に記載の合金。
【請求項5】
質量で、0.001%~0.02%のチタンを含む、請求項4に記載の合金。
【請求項6】
質量で、0.001%未満のバナジウムを含む、請求項2に記載の合金。
【請求項7】
質量で、0.01%未満のバナジウムを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項8】
質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、請求項1に記載の合金。
【請求項9】
付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末であって、
質量で:
0.05%~0.15%の炭素;
7.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のケイ素;
0.01%未満のアルミニウム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物
からなる合金粒子
を含む、アトマイズ合金粉末。
【請求項10】
前記合金粒子は、質量で:
最大0.1%のランタン;
最大0.004%のホウ素;及び
最大0.03%のチタン
を更に含む、請求項9に記載のアトマイズ合金粉末。
【請求項11】
前記合金粒子は、質量で、
0.001%~0.003%のホウ素;
0.001%~0.02%のチタン;及び
0.01%未満のバナジウム
を含む、請求項9に記載のアトマイズ合金粉末。
【請求項12】
前記合金粒子は、質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、請求項9に記載のアトマイズ合金粉末。
【請求項13】
付加製造を実施する方法であって:
アトマイズ合金粉末を用いて付加製造を実施して製造物品を作製する工程であって、前記アトマイズ合金粉末は、質量パーセントで:
0.05%~0.15%の炭素;
7.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のケイ素;
0.01%未満のアルミニウム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物
からなる合金粒子を含む、工程と;
完成した製造物品を除去する工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
前記完成した製造物品は、-45.6℃で最大217ジュールの破壊靭性を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記完成した製造物品は、-84.4℃で最大190ジュールの破壊靭性を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記完成した製造物品は、1000MPa~1055MPaの降伏強さを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記製造物品を加熱された容器内でエージングする工程を更に含み、
前記完成した製造物品は、99.95%よりも高い密度を有する、
請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記合金粒子は、質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月27日に出願された米国仮特許出願第63/015,802号の優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
政府の権益
本発明は、米国海軍研究事務所によってQuesTek Innovations LLCに与えられた契約番号N00014-17-1-2565に基づき、政府の支援によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
本開示は、マルテンサイト系合金鋼のための材料、方法及び技術に関する。ニッケル(Ni)を含む例示的な低炭素合金鋼は、直接印刷付加製造の実施に好適な場合があり、高強度且つ高靭性となり得る。
【背景技術】
【0002】
付加製造(AM)は、伝統的な鋳型及び成形ダイの使用ではなく、コンピュータ-支援設計(CAD)情報の制御の下に、交互積層(layer-by-layer)法で部材を製造する方法である。粉末床レーザー融解法(LPBF)としても知られる選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting)(SLM)等の金属付加製造技術は、近年大幅に成熟してきた。
付加製造は、金型又は機械加工を用いずに非常に複雑な幾何形状のネットシェイプ製作を可能にすることによって、材料使用量、エネルギー消費、部材のコスト、及び製造時間の削減の可能性を与える。付加製造は、迅速な部材の製造、入手困難な部品の一度限りの製造、及び従来手段による製造が困難な部品(機械加工又は鋳造ができない複雑な幾何形状等)の製造を可能にする。結果として、付加製造は、特注部品又は交換部品を入手するエンドユーザーだけでなく、OEM業者(相手先ブランド名製造業者)にも、部品製造における融通性をもたらし得る。
【発明の概要】
【0003】
本明細書で開示及び企図される材料、方法及び技術は、付加製造用途に特に適応されたマルテンサイト系合金鋼に関する。場合によっては、合金鋼は、モリブデンフリーであることができ、炭素、ニッケル、マンガン、クロム、及び残部の鉄並びに偶発元素及び不純物を含み得る。
一態様において、合金が開示される。場合によっては、合金は、質量で、0.05%~0.15%の炭素、5.0%~10.0%のニッケル、0.2%~1.0%のマンガン、0.5%~1.5%のクロム、0.001%未満のモリブデン、及び残部の鉄並びに偶発不純物を含み得る。
別の態様では、付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末が開示される。アトマイズ合金粉末は、質量で、0.05%~0.15%の炭素、5.0%~10.0%のニッケル、0.2%~1.0%のマンガン、0.5%~1.5%のクロム、0.001%未満のモリブデン、及び残部の鉄並びに偶発不純物を含む合金粒子を含み得る。
別の態様では、付加製造を実施する方法が開示される。該方法は、付加製造をアトマイズ合金粉末を用いて実施して、製造物品を生成するステップを含む。アトマイズ合金粉末は、質量パーセントで、0.05%~0.15%の炭素、5.0%~10.0%のニッケル、0.2%~1.0%のマンガン、0.5%~1.5%のクロム、0.001%未満のモリブデン、及び残部の鉄並びに偶発不純物を含む合金粒子を含む。該方法は、完成した製造物品を除去するステップも含み得る。
本開示によるいくつかの利益を得るために、合金鋼に関する材料、技術又は方法が本明細書で特徴付けられる詳細の全てを含むことは特に要求されない。従って、本明細書で特徴付けられる特定の実施例は、記載された技術の例示的応用であることが意図され、代替方法が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】実験サンプルの「xy」ビルド(造形)、「z」ビルド、及び「45°」ビルドの概略図を示す。
図2図1に概略的に示した成果物ビルドの写真である。
図3】as-built(造形まま)の実験合金のミクロ構造(500x倍率)を示す光学顕微鏡写真であり、ビルド方向は垂直上方向である。
図4図3よりも高倍率(500x)で、as-built実験合金のミクロ構造を示す光学顕微鏡写真であり、ビルド方向は垂直上方向である。
図5A-B】炭化物析出物を有するマルテンサイト系ミクロ構造を示す実験合金の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6A-B】炭化物析出物を有するマルテンサイト系ミクロ構造を示す実験合金の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図7】実験合金のSEMにおけるエネルギー分散型X線分光法(EDS)ラインスキャンの画像及びプロットである。
図8図7よりも高倍率の、実験合金のSEMにおけるエネルギー分散型X線分光法(EDS)ラインスキャンの境界をまたぐ画像及びプロットである。
図9】3次元アトムプローブトモグラフィ(3D-APT)から作成したイオンマップ再構成であり、炭素原子は黒色、鉄原子はピンク色で示されている。
図10】微細ナノ炭化物全体の平均組成変動を示す近接ヒストグラムであり、挿入図はナノメートルサイズの炭化物を示す。
図11A-B】実験zビルドサンプルの代表的な光学顕微鏡(LOM)画像部分である。
図12A-C】実験zビルドサンプルの頂部部分、中央部部分、及び底部部分をそれぞれエッチングした後に取得した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図13】10Ni鋼(xy-ビルド)、BA-160(xy-ビルド)、表1の例示の合金(xy-ビルド)及び表1の例示の合金(z-ビルド)について、各々as-built状態における、実験サンプルの温度とシャルピーVノッチ衝撃試験結果の関係を示す。
図14図13に示した実験サンプル並びに鍛錬BA-160及び推定される10Ni鋼鍛錬品について、引張強さとシャルピーVノッチ衝撃試験結果との関係を示す。
図15】3種類の試験温度で採取した実験合金の破壊表面の一連の立体鏡画像及び顕微鏡画像である。
図16A-B】XYビルドサンプル(2.54cm(1インチ)立方)をXY方向(ビルド方向に垂直)の面及びXZ方向(ビルド方向に平行)の面からそれぞれ見たX線回折(XRD)スペクトルを示す。
図17】表1に示す合金の実験サンプルについて、as-built状態及び200℃で1時間、4時間、及び16時間の焼戻し後に取得した硬度測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本明細書で開示及び企図される材料、方法及び技術は、合金鋼に関する。本明細書で開示及び企図される合金は、付加製造用途に特に適している。例えば、付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末は、本明細書で開示及び企図される種々の合金を含む合金粒子を含み得る。
多数の金属AM部品は、標的特性を達成するため、ビルドプロセスの後、部品の大規模な熱処理を必要とし、これはリードタイム、部品コスト、及び資本要件を増大し得る。AM部品をas-built状態で使用できることで、後処理装置へのアクセスが極めて少ない環境における使用の可能性が生じる。as-built状態では、急速な溶融/凝固及びビルド材料が経験する複雑な熱サイクルにより、重要なAM製造部材の高性能要件を達成することは、非常に困難である。これらの急速凝固作用の利用及び付加製造プロセス下で材料が経験する複雑な熱サイクルを利用して、そのas-built特性を強化でき、その結果、その産業用途向けの需要が容易に増加し得る。
高強度及び高靭性のLPBF鋼は、様々な海軍用途において取得が困難な部材の一時交換品の有望な候補として識別されている。Navy10Ni鋼は有望な候補とみなされるが、Navy10Niは鍛錬用途向けに設計された合金であり、最適性能に達するには二次的熱処理を必要とする。二次的熱処理は、改善された機械的特性をもたらし得る安定な(Mo,V)2C炭化物の析出を促進できる。例示的合金は、印刷したままの(as-printed)付加製造状態において、高強度、高靭性の鋼となり得、いかなる二次的熱処理も必要としない。例示的合金ミクロ構造は、主にナノスケール炭化物析出物を有するマルテンサイト系であり、強度及び靭性を改善し得る。これらのナノスケール炭化物は、析出に二次的熱処理を必要とするM2C(Mは、Cr、Mo又はVであり得る)とは異なる可能性が高い。
【0006】
「自己焼戻し」と呼ばれる現象は、冷却サイクル中にマルテンサイトの焼戻しを引き起こし、いかなる二次的熱処理も必要としない。付加製造の間に、自己焼戻し効果現象は、レーザー溶融粉末の凝固後、ビルドサンプルを室温まで冷却する固有冷却サイクルの間に起こる。自己焼戻し効果は、合金におけるマルテンサイト変態の開始温度に密接に依存する。Ms温度が高いと、新たに変態したマルテンサイトが、冷却サイクル中に、より高い時効(aging)温度で、より長い時間を費やし、その結果自己焼戻し効果が大きくなる。マルテンサイトの自己焼戻しは、ナノスケール炭化物析出、及び靭性改善をもたらし得る焼入応力の回復を生じ得る。場合によっては、市場価格決定により、例示的合金は、Navy10Ni及び/又はBlastAlloy160合金と比べて、合金化元素に関わる原料コストが低下し得る。
【0007】
I.例示の合金鋼
例示の合金鋼を、例示の成分及び量、相及びナノ構造の特徴、並びに物理的特性に関して、以下に開示する。例示的合金鋼は、as-printed付加製造状態で、高強度と高靭性の組合せを示す、ナノ炭化物強化鋼であってもよい。合金ミクロ構造は、主にマルテンサイト系で、ナノスケール炭化物析出物を有し、強度及び靭性の改善を招き得る。結果として、例示的合金は、直接印刷状態において、より優れた強度及び靭性特性を有することができ、それは二次的熱処理の適用を伴う鍛錬状態において、有望な海軍用鋼(Navy10Ni鋼及びBlastAlloy160(BA160))よりも優れる。
場合によっては、例示的合金は、延性-脆性転移温度を低下させ、それによって耐開裂破壊性を改善するためにニッケル(Ni)を使用する。例示的合金の炭素(C)含有量は、溶接性の維持に必要な十分に低い炭素当量(CE)を得るために炭素(C)含有量を制限しながら、ナノスケール炭化物析出に起因し得る更なる強化の効果をもたらし得る。例示的合金のクロム(Cr)及びマンガン(Mn)含有量は、十分な硬化性及びマルテンサイトにおける自己焼戻し効果を確実とする十分に高いマルテンサイト開始温度の維持に役立ち得る。
【0008】
一部の実施形態は、ランタン(La)、ホウ素(B)、及びチタン(Ti)のうちの1つ以上を含んでもよく、これは、例示的合金に含まれたとき、硫黄(S)及びリン(P)等の有害不純物を捕獲でき、且つ結晶粒ピニング粒子分散ももたらし得る。ランタンは、鋼中の有害な硫黄、酸素及びリン含有物を、結晶粒径の微細化のための結晶粒界のピニングに役立つと考えられる安定なリン酸塩(LaPO4)及びオキシスルフィド(La22S)化合物の形で捕獲するために添加されてもよい。ホウ素は、鋼の硬化性を更に改善してL-PBF堆積の終了時のマルテンサイト形成を確実とするために添加されてもよい。チタンは、合金中の溶存窒素を微細窒化チタン析出物の形態で捕獲するのに役立てるために添加されてもよい。
【0009】
A.例示の成分及び量
本明細書で開示及び企図される例示的合金鋼は、様々な成分を様々な量で含む。例えば、例示の合金鋼は、鉄と、炭素(C)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、及びクロム(Cr)のうちの1つ以上とを含み得る。場合によっては、例示の合金鋼は、ランタン(La)、ホウ素(B)、及びチタン(Ti)のうちの1つ以上を追加的に含み得る。例示の合金鋼は、通常はモリブデンフリーである。
例示の合金鋼は、炭素を含み得る。例えば、例示的合金鋼は、質量で、0.05%~0.15%の炭素(C)を含み得る。種々の実施において、例示的合金鋼は、質量で、0.05%~0.13%のC;0.07%~0.15%のC;0.05%~0.11%のC;0.07%~0.13%のC;0.09%~0.15%のC;0.05%~0.09%のC;0.06%~0.10%のC;0.07%~0.11%のC;0.11%~0.15%のC;0.05%~0.07%のC;0.07%~0.09%のC;0.09%~0.11%のC;0.11%~0.13%のC;0.13%~0.15%のCを含み得る。
例示の合金鋼は、ニッケルを含み得る。例えば、例示的合金鋼は、質量で、5.0%~10.0%のニッケル(Ni)を含み得る。種々の実施において、例示的合金鋼は、質量で、5.0%~9.0%のNi;6.0%~10.0%のNi;5.0%~8.0%のNi;6.0%~9.0%のNi;7.0%~10.0%のNi;6.5%~9.0%のNi;7.0%~9.5%のNi;5.0%~7.0%のNi;7.0%~9.0%のNi;8.0%~10.0%のNi;8.0%~9.0%のNi;8.5%~9.5%のNi;又は8.75%~9.25%のNiを含み得る。
例示の合金鋼は、マンガンを含み得る。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.2%~1.0%のマンガン(Mn)を含み得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、0.2%~0.9%のMn;0.3%~1.0%のMn;0.2%~0.8%のMn;0.3%~0.9%のMn;0.4%~1.0%のMn;0.2%~0.7%のMn;0.3%~0.8%のMn;0.4%~0.9%のMn;0.5%~1.0%のMn;0.2%~0.5%のMn;0.3%~0.5%のMn;0.4%~0.7%のMn;0.6%~0.9%のMn;0.2%~0.4%のMn;0.4%~0.6%のMn;0.6%~0.8%のMn;又は0.8%~1.0%のMnを含み得る。
例示の合金鋼は、クロムを含み得る。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.5%~1.5%のクロム(Cr)を含み得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、質量で、0.5%~1.3%のCr;0.6%~1.4%のCr;0.7%~1.5%のCr;0.5%~1.1%のCr;0.7%~1.3%のCr;0.9%~1.5%のCr;0.5%~0.9%のCr;0.7%~1.1%のCr;0.8%~1.2%のCr;1.1%~1.5%のCr;0.5%~0.7%のCr;0.7%~0.9%のCr;0.9%~1.1%のCr;1.1%~1.3%のCr;1.3%~1.5%のCr;又は0.8%~0.9%のCrを含み得る。
場合によっては、例示の合金鋼は、ランタンを含んでもよい。例えば、例示の合金鋼は、質量で、最大0.1%のランタン(La);最大0.075%のLa;最大0.05%のLa;最大0.025%のLa;又は最大0.01%のLaを含んでもよい。特定の場合には、例示の合金鋼は、質量で、0.01%~0.1%のLa;0.01%~0.05%のLa;0.05%~0.1%のLa;0.03%~0.06%のLa;又は0.025%~0.075%のLaを含んでもよい。場合によっては、例示の合金は、質量で、0.05%以下のLa;0.01%以下のLa;又は0.001%以下のLaを含んでもよい。
場合によっては、例示の合金鋼は、ホウ素を含んでもよい。例えば、例示の合金鋼は、質量で、最大0.004%のホウ素(B);最大0.003%のB;最大0.002%のB;又は最大0.001%のBを含んでもよい。特定の場合には、例示の合金鋼は、0.001%~0.004%のB;0.001%~0.003%のB;又は0.002%~0.004%のBを含んでもよい。場合によっては、例示の合金鋼は、質量で、0.001%以下のB;0.002%以下のB;又は0.003%以下のBを含んでもよい。
場合によっては、例示の合金鋼は、チタンを含んでもよい。例えば、例示の合金鋼は、質量で、最大0.03%のチタン(Ti);最大0.02%のTi;最大0.01%のTi;又は最大0.001%のTiを含んでもよい。特定の場合には、例示の合金鋼は、0.005%~0.03%のTi;0.001%~0.02%のTi;又は0.01%~0.03%のTiを含んでもよい。場合によっては、例示の合金鋼は、0.02%以下のTi;0.01%以下のTi;又は0.001%以下のTiを含んでもよい。
典型的には、例示の合金鋼は、モリブデンフリーである。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.01%未満のモリブデン(Mo);0.001%未満のMo;及び0.0001%未満のMoを含み得る。
典型的には、例示の合金鋼は、バナジウムフリーである。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.01%未満のバナジウム(V);0.001%未満のV;及び0.0001%未満のVを含み得る。
典型的には、例示の合金鋼は、ケイ素フリーである。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.01%未満のケイ素(Si);0.001%未満のSi;及び0.0001%未満のSiを含み得る。
【0010】
場合によっては、例示の合金鋼は、1つ以上の偶発元素及び不純物を含み得る。開示される合金鋼中の偶発元素及び不純物としては、原材料に付着しているケイ素、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅元素、又はこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。偶発元素及び不純物は、本明細書に開示される合金中に、合計で0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下で存在し得る。
本明細書に記載される合金は、上記の構成成分のみからなってもよく、本質的にこのような構成成分からなってもよく、又は他の実施形態においては、追加の構成成分を含んでもよいことは理解される。
例示の合金鋼は、上記の成分を様々な量の組合せで含むことができる。例えば、例示の合金鋼は、質量で、0.05%~0.15%の炭素、5.0%~10.0%のニッケル、0.2%~1.0%のマンガン、0.5%~1.5%のクロム、0.001%未満のモリブデンを含み、質量%の残部は鉄及び偶発不純物を含む。場合によっては、例示の合金鋼は、質量で、0.07%~0.09%の炭素、8.0%~10.0%のニッケル、0.4%~0.6%のマンガン、0.8%~1.2%のクロム、0.001%未満のランタン、0.001%未満のホウ素、0.001%未満のチタン、0.0001%未満のモリブデン、0.001%未満のケイ素、及び0.001%未満のバナジウムを含み得る。その他の量が企図される。
【0011】
B.例示の相及びナノ構造の特徴
例示的合金は、粉末形態、及び付加製造工程を施された後(「as-built」とも呼ばれる)で、様々な相及びナノ構造の特徴を有し得る。
例示的合金鋼の特定の場合は、10-Ni合金に対して、高いマルテンサイト開始温度(Ms)を有し得る。一例として、10-Ni合金で報告されているMs温度が約330℃であるのに対し、特定の例示的合金鋼は400℃を超えるMs値を有し得る。より高いマルテンサイト開始温度は、付加製造プロセスの冷却サイクル中の自己焼戻し効果を増大することができ、その結果、靭性等の機械的特性が増進される。より高いMs温度はまた、合金中の最終的な残留オーステナイト量を低減し、より高い降伏強さを得るための極低温処理の必要性をなくす。場合によっては、例示的合金は、ASTM E975-13により決定したときに5体積%未満の残留オーステナイト量を有し得る。
場合によっては、付加製造工程を施された後、例示的合金は、主にマルテンサイト系の構造を有し得る。場合によっては、付加製造工程を施された後、マルテンサイト系構造は、イプシロン(ε)炭化物又はその他の前駆体炭化物の微細分布を含み得る。
例示的合金は、非常に微細なマルテンサイト系ラスサイズが得られる付加製造工程により、非常に微細な結晶粒径を有し得る。as-built状態下の合金は、いかなる合金化添加物の大きな偏析もない均質な組成分布を有し得る。
【0012】
C.例示の機械的特性
例示的合金は、粉末形態で、及び付加製造工程を施された後(「as-built」又は「as-printed」状態とも呼ばれる)、様々な機械的特性を有し得る。以下に論じる機械的特性は、出力、スキャン速度、スキャン間隔、ビルド高さ、ビルド厚等の付加製造工程の仕様に応じて変動し得る。以下の機械的特性は、レーザー出力200W、スキャン速度600mm/s、及びスキャン間隔0.1mmでの付加製造の後に得られ得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、99.95%よりも高い密度、すなわち、0.05%未満の気孔率を有し得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、観察可能な熱間割れのないビルドを生成できる。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、1000MPa~1055MPaの降伏強さを有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、as-built状態で、少なくとも1000MPa;少なくとも1010MPa;少なくとも1020MPa;少なくとも1030MPa;少なくとも1040MPa;又は少なくとも1050MPaの降伏強さを有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、as-built状態で、1000MPa~1055MPa;1010MPa~1050MPa;1010MPa~1055MPa;又は1030MPa~1055MPaの降伏強さを有し得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、最大19%の伸びを有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、少なくとも15%;少なくとも17%;又は少なくとも19%の伸びを有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、15%~19%;17%~19%;又は18%~19%の伸びを有し得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-17.8℃で最大217ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-17.8℃で少なくとも190ジュール;-17.8℃で少なくとも197ジュール;-17.8℃で少なくとも203ジュール;-17.8℃で少なくとも210ジュール;又は-17.8℃で少なくとも217ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-17.8℃で190~217ジュール;-17.8℃で197~217ジュール;-17.8℃で203~217ジュール;又は-17.8℃で210~217ジュールの破壊靭性を有し得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-45.6℃で最大217ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-45.6℃で少なくとも190ジュール;-45.6℃で少なくとも197ジュール;-45.6℃で少なくとも203ジュール;-45.6℃で少なくとも210ジュール;又は-45.6℃で少なくとも217ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-45.6℃で190~217ジュール;-45.6℃で197~217ジュール;-45.6℃で203~217ジュール;又は-45.6℃で210~217ジュールの破壊靭性を有し得る。
例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-84.4℃で最大190ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-84.4℃で少なくとも125ジュール;-84.4℃で少なくとも176ジュール;-84.4℃で少なくとも133ジュール;-84.4℃で少なくとも183ジュール;又は-84.4℃で少なくとも139ジュールの破壊靭性を有し得る。種々の実施において、例示の合金鋼は、付加製造工程を施された後、-84.4℃で125~190ジュール;-84.4℃で176~190ジュール;-84.4℃で125~183ジュール;又は-84.4℃で183~190ジュールの破壊靭性を有し得る。
【0013】
II.合金粉末の例示の調製方法
本明細書で開示及び企図される例示の合金鋼は、対象とする付加製造システムに適した様々な供給原料形態に二次加工することができる。例えば、本明細書で開示及び企図される例示の合金鋼を、不活性ガス噴霧等の利用可能なアトマイズ技術を使用して、アトマイズ合金粉末に製造することができる。得られるアトマイズ合金粉末は、粉末床融解又は指向性エネルギー堆積システムに使用できる。
アトマイズ合金粉末の例示の製造方法は、元素金属供給原料又は所望の化学品が製造されるように予め合金化した供給原料を溶融するステップを含む。上に開示した元素のいくつかの組み合わせでは、所望の化学品の温度が溶融物中に固体材料部分がない温度以上に達すると、アトマイズ工程が起こる必要がある。
例示のアトマイズ合金粉末は、特定の使用及び/又は製造システムに合わせたサイズの粒子を有し得る。いくつかの実施形態では、例示のアトマイズ合金粉末は、20μm~63μmの直径を有する粒子を含む。
【0014】
III.例示の製造方法
本明細書で開示及び企図される例示の合金鋼は、付加製造システムにおいて使用できる。付加製造法は、コンピュータ制御されたエネルギー源(例えば、レーザー、電子ビーム、溶接トーチ等)を用いて金属を選択的に融解することにより、製品を層状に造形する方法である。付加製造は、ASTM F2792-12a「Standard Terminology for Additively Manufacturing Technologies」にも定義されている。
例示の付加層製造方法は、以下のものを含む:レーザーを使用して、正確に制御された位置において粉末媒体を焼結する、選択的レーザー焼結法(粉末床レーザー融解法とも呼ばれる);ワイヤ状供給原料がレーザーによって溶融され、次いで正確な位置に堆積され、且つ凝固されて製品を造形する、レーザーワイヤ堆積法;電子ビーム溶解法;レーザー加工ネットシェイピング;及び直接金属堆積法。一般的に、付加製造技術は、幾何学的制約のない自由形状造形における融通性、迅速な材料加工時間及び革新的な接合技術を与える。好適な付加製造システムとしては、EOS GmbH(Robert-Stirling-Ring 1,82152 Krailling/Munich(ドイツ))から入手可能な、EOSINT M280直接金属レーザー焼結(DMLS)付加製造システムが挙げられる。
例示的な方法は、本明細書に記載のアトマイズ合金粉末を用いた付加製造を実施するステップを含む。例えば、限定するものではないが、合金粒子は、質量パーセントで、0.05%~0.15%の炭素、5.0%~10.0%のニッケル、0.2%~1.0%のマンガン、0.5%~1.5%のクロム、0.001%未満のモリブデン、並びに残部の鉄及び偶発不純物を含み得る。付加製造の実施後、完成した製造物品は除去されてもよい。
いくつかの実施において、直接金属レーザー焼結法(DMLS)を使用して、開示及び企図された例示の合金鋼を含む物品が製造される。例示の工程の間に、アトマイズ合金粉末を床状に拡げてもよく、レーザーを使用して該床の領域を選択的に溶融及び融解する。製造物品は、複数の粉末層を連続的に展開及び融解することにより、交互積層様式で造形できる。
典型的には、物品は、付加製造後にすぐに使用できる状態であり、後処理操作は不要である。すなわち、例示的な方法は、加熱されたエンクロージャ又は容器(例えば、炉)内で製造物品をエージングするステップを含んでもよい。
いくつかの実施において、1つ以上の後処理操作を、付加製造ビルド工程の後に実施できる。例えば、as-built製造物品に、応力緩和のための基本的熱処理を施してもよい。例えば、as-built製造物品に、StageI焼戻しを施してもよく、これは、物品を200℃の環境に最大1時間置いた後、空冷する。
【0015】
IV.実験例
例示の実験合金を製造し、その結果を以下に論じる。場合によっては、例示の実験合金を、十分に研究された合金と比較して評価した。
【0016】
A.例示の実験合金サンプル調製及び組成分析
下の表1に示す例示の実験合金組成物を、付加製造粉末製造業者に提供した。AM粉末製造業者は、選択的レーザー溶融による付加製造に好適なアルゴンガスアトマイズ粉末を75kg供給した。供給された粉末の化学分析を、下の表1に示す。
【表1】
【0017】
次いで、調達した粉末を付加製造業者に供給して、機械的試験及びミクロ構造特性評価用の試験片を造形した。付加製造業者は、供給された加工パラメータ(レーザー出力200W、スキャン速度600mm/s、スキャン間隔0.1mm)を用いて試験片を造形した。供給された粉末を使用して、XY方向、Z方向、及び45度方向に:シャルピー試験用試験片8点、引張試験用サンプル3点、及びミクロ構造検査用立方体2点を造形した。図1は、実験サンプルの「xy」ビルド、「z」ビルド、及び「45°」ビルドの概略図を示す。試験した例示の「zビルド」合金はビルドプレートに垂直に方向付けされ、45°ビルドはビルドプレートに対して45°の角度で方向づけされた。
実際のビルド試験片の写真を図2に示す。as-built材料の化学的性質を、ICP/IGA分析を用いて評価し、上の表1に記載した。化学組成は、設計組成に十分に近いと考えられる。サンプルの窒素及び酸素含有量も、予想量に近い。
【0018】
B.堆積まま(as-deposited)サンプルのミクロ構造特性
図3及び図4はxyビルド堆積サンプルの5%ナイタールエッチングした断面の光学顕微鏡(LOM)画像である(堆積方向は上)。図3及び図4は、as-deposited状態における層状のミクロ構造を明らかにしている。平均メルトプール深さは、サンプル作製に使用された層厚の40μmよりもわずかに大きいことがわかる。LOMにおいて、エッチングされたミクロ構造は、メルトプールの境界において、内部と比べて異なる色合いを示す。これは、ミクロ構造特徴部の異なるサイズスケール(例えば、マルテンサイトラスサイズ)に起因する可能性、又は異なる量の焼戻し/炭化物析出に起因する可能性がある。
5%ナイタールエッチングした試験片で実施した走査型電子顕微鏡により、図5A図5B図6A、及び図6Bに示すように、炭化物析出物を有するマルテンサイト系ミクロ構造が明らかになった。ラスマルテンサイトミクロ構造は、ラス内側の微細炭化物と共にラス境界の近くにわずかな割合の残留オーステナイトを有する。炭化物のサイズスケールは、約50nmであり、設計したナノ炭化物強化鋼のミクロ構造を実証している。
SEMでのエネルギー分散型X線分光法(EDS)ラインスキャンを実施し、AM方法の急速な凝固に起因し得るミクロ偏析を検査した。ロングレンジスキャン(長さ約50μm、図7A及び図7B)は、合金化元素のニッケル、クロム、又はマンガンの大きな偏析を示さなかった。
境界をまたいでスキャンした、より高倍率且つより微細なEDSラインススキャンも、図8に示すように、重大な組成変動を示さなかった。しかし、これらは計器の解像能力によって制限される可能性がある。
3次元アトムプローブトモグラフィー(3D-APT)実験を実施して、マルテンサイトマトリックスの内部のより微細な炭化物の析出/析出物を識別した。図9のイオンマップ再構成は、炭素原子を黒色、鉄原子をピンク色で示す。炭素原子のおそらくはラス境界までの偏析及び転位が観察される。イプシロン炭化物析出の初期段階に類似した、より微細なスケールのナノ炭化物がこれらの条件下で観察された。
【0019】
ナノスケール炭化物全体の平均組成変動を示す近接ヒストグラムを図10に示す。ここで、平均組成変動は、挿入図に示す3.5質量%等濃度表面に垂直である。図10の挿入図は、微細ナノスケール炭化物が約10nmのサイズであることを示す。炭化物の内部の炭素含有量は、約12原子%と測定された。ナノ炭化物は、Niがわずかに不足し、Cr及びMnに富むことも確認された。ATP分析で、同様の炭素含有量が、低温エージングしたFe-Ni-C及び4340鋼で報告されている。より微細スケールの析出物は、報告された鋼においてイプシロン炭化物析出物の前駆体であることが示唆された。
表1の合金組成を有する長さ8.9cmのzクーポンを、ほぼ等しい形状及び体積の6枚の薄片にした。名目上、6枚の薄片を、ビルドプレートから出発して、B2、B1、M2、M1、T2、及びT1とラベリングした(「B」は底部3分の1、「M]は中央3分の1、及び「T」は頂部3分の1)。zクーポンのビルド方向は、図1に示すように、上方向である。気孔率分析は、画像分析プログラムImageJを使用して50x倍率で実施し、1つのサンプルにつき12枚の画像を分析した。結果を下の表2に示す。
【表2】
【0020】
図11A及び図11Bは、それぞれz-ビルドサンプルのT1及びB2部分の代表的な光学顕微鏡(LOM)画像である。z方向クーポン全体に低い気孔率が観察された。
長さ8.9cmのzクーポンの頂部、中央、及び底部部分をナイタール1%(1質量%の硝酸とアルコールとの混合物)で数秒間エッチングした。図12A図12B、及び図12Cは、それぞれ頂部、中央部、及び底部部分のエッチング後に取得した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。クーポンの底部に向かって、より微細なミクロ構造が存在することが観察され得る。
【0021】
C.as-depositedサンプルの機械的特性
1.引張及びシャルピー試験
as-depositedの例示実験合金サンプルの単軸引張試験を実施して、その室温降伏、極限強さ及び延性を測定した。試験は、ASTM E8(2016)に従って、0.635cm(0.25インチ)ゲージ直径の試験片で実施した。
シャルピーVノッチ衝撃試験は、ASTM E23(2018)に従って、BA-160(xy-ビルド)、10Ni鋼(xy-ビルド)、及び表1に示す合金(xy-ビルド及びz-ビルドの両方)の実験サンプルについて、実施した。各実験サンプルをas-built状態で試験した。結果を図13に示す。シャルピー試験を、3種類の試験温度で実施して、靭性及びその試験温度による変動を測定した。
測定値を、表3に報告する。表3には、次の2種類の合金を用いて調製した付加製造サンプルの結果も示す:BlastAlloy160(BA160)鋼及び10Ni鋼。粉末床レーザー製造法を用いて、AM物品を作製した。
【表3】
【0022】
鍛錬サンプルも、BA160鋼及び10-Ni鋼を用いて調製した。強度及び靭性の値は、両方のサンプルについて実験的に取得した。結果を図13に示す。該図には例示の実験合金の強度及び靭性の値も含む。
図14に、10-Ni鋼及びBA-160鋼の測定値と共に、例示の実験合金について、シャルピーエネルギーの変動を、試験温度の関数としてプロットしている。10Ni-鋼鍛錬品のデータポイントは、-84℃のデータに基づいた予測である。例示の実験合金の測定強度は10-Ni鋼及びBA160合金とほぼ同じであるが、延性は、より高いことがわかる。例示の実験合金のシャルピー衝撃エネルギー値は、非常に有望である10-Ni鋼又はBA160合金よりもはるかに高いことが確認される。
最低試験温度の-84.4℃まで高い靭性値が保持されることから、例示の実験合金の延性-脆性転移温度(DBTT)温度がきわめて低いこともわかる。図15に示す例示の実験合金の破壊表面の顕微鏡写真は、全ての試験温度において完全延性破壊を示す。
【0023】
2.残留オーステナイト測定
X線回折(XRD)を、as-built状態の2.54cm(1インチ)立方のクーポンで、ASTM E975-13に従って実施した。この分析は、xyサンプル(ビルド方向に垂直な平面)及びzサンプル(ビルド方向に平行な平面)を含んだ。測定値は、40kV/20mA Cu-Κ-α源を備えたScintagXDS2000回折計を用いて取得した。図16Aは、xy-ビルドサンプルのXRDパターンを示し、図16Bは、z-ビルドのXRDパターンを示す。Round1ビルド立方体のXY及びXZ平面で測定した残留オーステナイトのパーセンテージは、それぞれ3.77体積%及び4.08体積%と測定された。
【0024】
3.マルテンサイト開始(Ms)温度測定
膨張率測定実験を、10ミリメートル(mm)の長さ及び4mmの直径を有する円筒形状の実験サンプルで実施した。BA-160、10Ni-鋼、及び上の表1に示す合金の3種類の合金を試験した。BA-160及び10Ni-鋼サンプルはxy-ビルド、表1に示す実験合金はz-ビルドであり、頂部部分、中央部分、及び底部部分に切り出した。試験中、各サンプルに、850℃で最大60分のオーステナイト化を3サイクル施し、次いで制御急冷した。次いで、長さの変化を温度の関数として測定した。マルテンサイト開始(Ms)温度は、3回の測定の平均として計算した。結果を下の表4に示す。
【表4】
【0025】
4.as-built引張特性
xy-ビルド、45°ビルド及びz-ビルドの構成で作製した種々の実験サンプルについて、引張特性を評価した。各サンプルの合金組成を上の表1に示す。0.635cmゲージ直径の引張試験片については、ASTM E8(2016)に従った。引張試験は室温で実施し、異なるビルド方向間でわずかな異方性が観察された。引張試験の結果を下の表5に示す。
【表5】
【0026】
5.熱処理応答
表1に示す合金のXY-ビルドサンプルを、200℃(StageI焼戻し)で1時間、4時間、及び16時間熱処理した。1時間、4時間、及び16時間の熱処理後のas-builtサンプルについて、硬度測定を実施した(ロックウェルC、5つのデータポイントの平均)。硬度試験の結果を図17に示す。硬度は、経時的に維持されていることが観察される。
【0027】
本明細書における数値範囲の記述に関して、該数値範囲の間に介在する各数値は、同一の正確度で企図されている。例えば、6~9という範囲に対して、数値7及び8が、6及び9に加えて企図されており、また6.0~7.0という範囲に対して、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9及び7.0が企図されている。別の実施例では、圧力範囲が大気圧と別の圧力との間として記載されるとき、大気圧である圧力は明示的に想到される。
上記詳細な説明及び付随する実施例は、単に例示的なものであり、本開示の範囲の制限として理解されるべきではないことは理解される。開示された実施形態に対する様々な変更及び修正は、当業者にとっては明らかであろう。このような変更及び修正は、化学構造、置換基、誘導体、中間体、合成、組成、処方、又は使用方法に関連するものを含むがこれらに限定されることなく、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく実施されてもよい。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕質量で:
0.05%~0.15%の炭素;
5.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物、
を含む、合金。
〔2〕質量で:
最大0.1%のランタン;
最大0.004%のホウ素;及び
最大0.03%のチタン、
を更に含む、前記〔1〕に記載の合金。
〔3〕質量で、
0.03%~0.06%のランタン;
0.001%~0.003%のホウ素;
0.001%~0.02%のチタン;
0.001%未満のバナジウム;及び
0.01%未満のケイ素、
を含む、前記〔2〕に記載の合金。
〔4〕質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、前記〔1〕に記載の合金。
〔5〕付加製造に使用可能なアトマイズ合金粉末であって、
質量で:
0.05%~0.15%の炭素;
5.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物
を含む合金粒子
を含む、アトマイズ合金粉末。
〔6〕前記合金粒子は、質量で:
最大0.1%のランタン;
最大0.004%のホウ素;
最大0.03%のチタン;
0.01%未満のケイ素;及び
0.01%未満のバナジウム、
を更に含む、前記〔5〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔7〕前記合金粒子は、質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、前記〔5〕に記載のアトマイズ合金粉末。
〔8〕付加製造を実施する方法であって:
アトマイズ合金粉末を用いて付加製造を実施して製造物品を作製する工程であって、前記アトマイズ合金粉末は、質量パーセントで:
0.05%~0.15%の炭素;
5.0%~10.0%のニッケル;
0.2%~1.0%のマンガン;
0.5%~1.5%のクロム;
0.001%未満のモリブデン;並びに
残部の鉄及び偶発不純物
を含む合金粒子を含む、工程と;
完成した製造物品を除去する工程と、
を含む、方法。
〔9〕前記完成した製造物品は、-45.6℃で最大217ジュールの破壊靭性を有し:
前記完成した製造物品は、-84.4℃で最大190ジュールの破壊靭性を有し:且つ
前記完成した製造物品は、1000MPa~1055MPaの降伏強さを有する、
前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕前記製造物品を加熱された容器内でエージングする工程を更に含み、
前記完成した製造物品は、99.95%よりも高い密度を有する、
前記〔8〕又は〔9〕に記載の方法。
〔11〕前記合金粒子は、質量で:
0.07%~0.09%の炭素;
8.0%~10.0%のニッケル;
0.4%~0.6%のマンガン;
0.8%~1.2%のクロム;
0.001%未満のランタン;
0.001%未満のホウ素;
0.001%未満のチタン;
0.0001%未満のモリブデン;
0.001%未満のケイ素;及び
0.001%未満のバナジウム、
を含む、前記〔8〕~〔10〕のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17