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  • 特許-波動歯車装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】波動歯車装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021035652
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135691
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅
(72)【発明者】
【氏名】浅川 雄一
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車の寸法を測定する工程と、
前記内歯歯車の径方向内側に配置され、前記内歯歯車に噛み合わされるとともに撓み性を有する外歯歯車の寸法を測定する工程と、
前記外歯歯車の径方向内側に配置され撓み性を有する軸受の寸法を測定する工程と、
前記内歯歯車、前記外歯歯車、及び前記軸受のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて、前記軸受の径方向内側に配置されて前記外歯歯車を非円形に撓ませる楕円カムを、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置が一定となるように加工する工程と、を有する波動歯車装置の製造方法。
【請求項2】
前記楕円カムを加工する工程において、複数の楕円研削加工プログラムから選択された楕円研削加工プログラムを使用して前記楕円カムが加工される請求項1に記載の波動歯車装置の製造方法。
【請求項3】
前記内歯歯車の測定箇所は、ビトゥイーンピン径である請求項1または2に記載の波動歯車装置の製造方法。
【請求項4】
前記外歯歯車の測定箇所は、オーバーピン径である請求項1~3のいずれか1項に記載の波動歯車装置の製造方法。
【請求項5】
前記楕円カムを加工する工程において、前記測定結果に基づいて前記楕円カムの長軸寸法を決定するとともに、前記楕円カムの周長を変えないように前記楕円カムの加工寸法が設定される請求項1~4のいずれか1項に記載の波動歯車装置の製造方法。
【請求項6】
内歯歯車の寸法を測定する工程と、
前記内歯歯車の径方向内側に配置され、前記内歯歯車に噛み合わされるとともに撓み性を有する外歯歯車の寸法を、測定する工程と、
前記外歯歯車の径方向内側に配置され撓み性を有する軸受の寸法を測定する工程と、
前記内歯歯車、前記外歯歯車、及び前記軸受のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて、前記軸受の径方向内側に配置されて前記外歯歯車を非円形に撓ませる楕円カムを、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置が一定となるように加工する工程と、を有し、
前記楕円カムを加工する工程において、複数の楕円研削加工プログラムから選択された楕円研削加工プログラムを使用して前記楕円カムが加工され、
前記内歯歯車の測定箇所は、ビトゥイーンピン径であり、
前記外歯歯車の測定箇所は、オーバーピン径であり、
前記楕円カムを加工する工程において、前記測定結果に基づいて前記楕円カムの長軸寸法を決定するとともに、前記楕円カムの周長を変えないように前記楕円カムの加工寸法が設定される波動歯車装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械等においては、モーター等の駆動源の回転を減速するために減速装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の減速装置は、ウェーブジェネレーター(WG)、サーキュラスプライン(CS)、フレックススプライン(FS)を有する波動歯車装置である。
歯車は極小モジュールであることから、加工誤差の累積により噛み合い位置の変化量がモジュール比で大きくなるため、一般的には適正な噛み合い位置に調整して組み立てる必要がある。上記の特許文献1における波動歯車装置も同様の調整方法が採用されている。すなわち、波動歯車装置のサーキュラスプライン(内歯歯車)とフレックススプライン(外歯歯車)との噛み合い位置の調整方法の一例として、ウェーブジェネレーターが組み込まれ、楕円変形させた外歯歯車の長軸部におけるオーバーピン径を測定し、組み合わせとなる内歯歯車が理論通りの噛み合い位置となるように歯切りを狙い加工(転位量調整)する製造方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-41600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の内歯歯車と外歯歯車との噛み合い位置の調整方法の場合、内歯歯車の歯形は個体ごとに転位させた状態となる。すなわち、従来の場合には、内歯歯車は外歯歯車との歯形の噛み合い状態が異なるため、減速機性能のばらつきや歯面の耐久性が低下する可能性があった。
【0006】
本発明は、適正な噛み合い位置を調整する際の歯形転位による減速機性能のばらつきを抑制することができ、歯面の耐久性を向上させることができる波動歯車装置の製造方法提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る波動歯車装置の製造方法は、内歯歯車の寸法を測定する工程と、前記内歯歯車の径方向内側に配置され、前記内歯歯車に噛み合わされるとともに撓み性を有する外歯歯車の寸法を測定する工程と、前記外歯歯車の径方向内側に配置され撓み性を有する軸受の寸法を測定する工程と、前記内歯歯車、前記外歯歯車、及び前記軸受のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて、前記軸受の径方向内側に配置されて前記外歯歯車を非円形に撓ませる楕円カムを、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置が一定となるように加工する工程と、を有する。
【0008】
このように構成することで、先行して加工された内歯歯車、外歯歯車、及び軸受のそれぞれの測定結果の寸法から決定された楕円形状の狙い値に合わせた理論的な楕円形状の楕円カムを製造することができる。つまり、本発明では、従来のような歯形を狙い加工する方法ではなく、波動歯車装置毎に楕円の長軸形状が異なる楕円カムを加工することができる。そして、上記狙い値に合わせて加工した長軸形状が異なる楕円カムを外歯歯車に組み込み弾性変形量を変化させることで、理論的歯形を維持したまま外歯歯車の長軸部オーバーピン径の調整が可能となる。これにより、内歯歯車の転位の歯形変化による減速機性能のばらつきを抑制することができ、歯面の耐久性を向上させることができる。
【0009】
前記楕円カムを加工する工程において、複数の楕円研削加工プログラムから選択された楕円研削加工プログラムを使用して前記楕円カムが加工されるようにしても良い。
【0010】
前記内歯歯車の測定箇所は、ビトゥイーンピン径であることが望ましい。
【0011】
前記外歯歯車の測定箇所は、オーバーピン径であることが望ましい。
【0012】
前記楕円カムを加工する工程において、前記測定結果に基づいて前記楕円カムの長軸寸法を決定するとともに、前記楕円カムの周長を変えないように前記楕円カムの加工寸法が設定されることが望ましい。
【0013】
本発明の他の態様に係る波動歯車装置の製造方法は、内歯歯車の寸法を測定する工程と、前記内歯歯車の径方向内側に配置され、前記内歯歯車に噛み合わされるとともに撓み性を有する外歯歯車の寸法を、測定する工程と、前記外歯歯車の径方向内側に配置され撓み性を有する軸受の寸法を測定する工程と、前記内歯歯車、前記外歯歯車、及び前記軸受のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて、前記軸受の径方向内側に配置されて前記外歯歯車を非円形に撓ませる楕円カムを、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置が一定となるように加工する工程と、を有し、前記楕円カムを加工する工程において、複数の楕円研削加工プログラムから選択された楕円研削加工プログラムを使用して前記楕円カムが加工され、前記内歯歯車の測定箇所は、ビトゥイーンピン径であり、前記外歯歯車の測定箇所は、オーバーピン径であり、前記楕円カムを加工する工程において、前記測定結果に基づいて前記楕円カムの長軸寸法を決定するとともに、前記楕円カムの周長を変えないように前記楕円カムの加工寸法が設定される。
【0014】
このように構成することで、先行して加工された内歯歯車、外歯歯車、及び軸受のそれぞれの測定結果の寸法から決定された楕円形状の狙い値に合わせた理論的な楕円形状の楕円カムを製造することができる。つまり、本発明では、従来のような歯形を狙い加工する方法ではなく、波動歯車装置毎に楕円の長軸形状が異なる楕円カムを加工することができる。そして、上記狙い値に合わせて加工した長軸形状が異なる楕円カムを外歯歯車に組み込み弾性変形量を変化させることで、理論的歯形を維持したまま外歯歯車の長軸部オーバーピン径の調整が可能となる。これにより、内歯歯車の転位の歯形変化による減速機性能のばらつきを抑制することができ、歯面の耐久性を向上させることができる。
本発明では、内歯歯車、外歯歯車、及び軸受のそれぞれの測定結果の寸法から決定された楕円形状の狙い値に合わせた最適な楕円研削加工プログラムを選定し、その選定した楕円研削加工プログラムによって狙い値に対して公差が小さく精度の高い楕円カムを加工することができる。
本発明では、内歯歯車の測定箇所がトゥイーンピン径であるので、精度よく、かつ簡単に内歯歯車の寸法を測定することができる。
本発明では、外歯歯車の測定箇所がオーバーピン径であるので、精度よく、かつ簡単に外歯歯車の寸法を測定することができる。
本発明では、楕円カムを加工する工程において、測定結果に基づいて楕円カムの長軸寸法を決定するとともに、楕円カムの周長を変えないように楕円カムの加工寸法が設定されている。このため、内歯歯車、外歯歯車、及び軸受のそれぞれの測定結果の寸法から楕円形状の長軸部の長さを決定して楕円形状の狙い値を設定することができる。
【発明の効果】
【0018】
上述の波動歯車装置の製造方法は、適正な噛み合い位置調整する際の歯形転位による減速機性能のばらつきを抑制することができ、歯面の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の波動歯車装置を備えた産業用ロボットの側面図。
図2】実施形態の波動歯車装置の断面図。
図3】実施形態の波動歯車装置の製造方法を示すフローチャートの図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態と変形例においては、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0021】
図1は、駆動部に減速機付きモーターに設けられる波動歯車装置10を採用した産業用ロボット(以下、単にロボット1という)の側面図である。
本実施形態のロボット1は、例えば精密機器等の部品を供給、搬出、搬送、および組立等の作業に用いられる産業用ロボットである。ロボット1は、基台11と、第1アーム12と、第2アーム13と、作業ヘッド14と、エンドエフェクタ15と、を備えている。
【0022】
基台11には、軸線Jまわりに回動可能な第1アーム12が連結されている。第1アーム12には、軸線Jに平行な軸線まわりに回動可能な第2アーム13が連結されている。第2アーム13の先端部には、エンドエフェクタ15を連結させた作業ヘッド14が設けられている。基台11の内部には、サーボモーター等のモーター16と、モーター16の回転を減速する減速機である波動歯車装置10と、が設けられている。第1アーム12は、モーター16の駆動力によって回動される。波動歯車装置10の入力軸がモーター16の回転軸に連結され、波動歯車装置10の出力軸が第1アーム12に連結されている。モーター16の駆動力が波動歯車装置10を介して第1アーム12に伝達されると、第1アーム12が軸線Jまわりに水平面内で回動する。
【0023】
図2は、波動歯車装置10の断面図(軸線Jを含む平面に沿って切断した図)である。なお、図2に示す波動歯車装置10の形状、寸法は一例であって、実際の寸法とは一致しない。
【0024】
波動歯車装置10は、例えば減速機として用いられる。波動歯車装置10は、内歯歯車2と、内歯歯車2の内側に配置されているカップ型の外歯歯車3と、外歯歯車3の内側に配置されている波動発生器4Aと、を有している。波動歯車装置10の各部には、グリース等の潤滑剤が適宜充填されている。波動発生器4Aは、楕円カム4と、楕円カム4の外周面に嵌め込まれた軸受5とで構成されている。
【0025】
本実施形態では、図1に示すように、内歯歯車2がロボット1の基台11に接続され、外歯歯車3が第1アーム12に接続され、楕円カム4が前述した不図示のモーターの回転軸に嵌め合い、ネジ止め等により接続されている。
【0026】
波動歯車装置10では、モーターの回転軸が回転すると、楕円カム4はモーターの回転軸と同じ回転速度で回転する。そして、内歯歯車2および外歯歯車3は、互いに歯数が異なるため、互いの噛み合い位置が周方向に移動しながら、これらの歯数差に起因して軸線J(回転軸)まわりに相対的に回転する。本実施形態では、内歯歯車2の歯数の方が外歯歯車3の歯数より多いため、モーターの回転軸の回転速度よりも低い回転速度で内歯歯車2に対して外歯歯車3を回転させることができる。これにより、楕円カム4を入力軸側、外歯歯車3を出力軸側とする減速機を実現することができる。
【0027】
内歯歯車2、外歯歯車3および楕円カム4の接続形態は、前述した形態に限定されることはない。例えば、外歯歯車3をロボット1の基台11に対して固定し、内歯歯車2を第1アーム12に対して接続しても、波動歯車装置10を減速機として用いることができる。また、外歯歯車3をモーターの回転軸に接続しても、波動歯車装置10を減速機として用いることが可能である。
【0028】
内歯歯車2は、内歯21を有し、剛体で構成されたリング状の歯車である。
【0029】
外歯歯車3は、内歯歯車2の内側に挿通されている。外歯歯車3は、内歯歯車2の内歯21に噛み合う外歯31を有している。外歯歯車3は、径方向に撓み変形可能な可撓性歯車である。すなわち、外歯歯車3は、撓み性を有している。外歯歯車3の歯数は、内歯歯車2の歯数よりも少ない。このように外歯歯車3および内歯歯車2の歯数が互いに異なることにより、減速機を実現することができる。
【0030】
本実施形態の外歯歯車3は、カップ型である。外歯歯車3の外周面には、外歯31が形成されている。外歯歯車3は、例えば、一端部(図2で紙面に直交する方向の一端部)が開口している筒状の胴部30と、胴部30の他端部から径方向内側に延びている底部と、を有する。胴部30は、軸線Jと同軸に配置され、内歯歯車2に噛み合う外歯31を有する。底部は、例えば出力側の軸体がねじ止め等により取り付けられる。
【0031】
波動発生器4Aは、外歯歯車3の内側に配置され、軸線Jまわりに回転可能である。波動発生器4Aは、外歯歯車3の胴部30の横断面を長軸Laおよび短軸Lbとする楕円形または長円形に変形させて外歯31を内歯歯車2の内歯21に噛み合わせる。ここで、外歯歯車3および内歯歯車2は、同一の軸線J回りに回転可能に互いに内外で噛み合わされている。
【0032】
楕円カム4の外周には、軸受5が装着されている。楕円カム4は、軸線J回りに回転する軸部41を有している。楕円カム4の外周面は、軸線Jに沿った方向から見たときに、図2中の上下方向を長軸Laとする楕円形または長円形をなしている。
【0033】
軸受5は、可撓性の内輪51および外輪52と、これらの間に配置されている複数のボール53と、を有している。内輪51は、楕円カム4の外周面4aに嵌め込まれ、楕円カム4の外周面4aに沿って楕円形または長円形に弾性変形している。それに伴って、外輪52も楕円形または長円形に弾性変形している。すなわち、軸受5は、撓み性を有している。ここで、撓み性とは、撓み変形可能であることである。外輪52の外周面は、胴部30の内周面に接触している。また、内輪51の外周面および外輪52の内周面は、それぞれ複数のボール53を軸線J回りに回転する方向である周方向に沿って案内させつつ転動させる軌道面となっている。また、複数のボール53は、互いの周方向での間隔を一定に保つように、図示しない保持器により保持されているが、軸受5が保持器を有しない構造であってもよい。
【0034】
波動発生器4Aは、楕円カム4が軸線J回りに回転することに伴って、その向き(長軸Laの向き)が変わり、それに伴って外輪52も変形し、内歯歯車2および外歯歯車3の互いの噛み合い位置を周方向に移動させる。なお、このとき、内輪51は、楕円カム4の外周面4aに対して固定的に設置されているため、変形状態は変わらない。すなわ、内輪51および外輪52の周長は、楕円カム4の回転によって変化しない構成となっている。
【0035】
本実施形態の波動歯車装置10は、後述する製造方法によって製造される。楕円カム4は、製造方法によって寸法が測定された内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて加工されることにより製造される。
ここで、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い位置を基準値(設計値)に対して±5μm程度の範囲内に調整される。
後述する波動歯車装置10の製造方法を採用することにより、内歯歯車2、外歯歯車3および波動発生器4Aの各部品の加工精度を数μmレベルまで高めることができ、前述したような範囲内の噛み合い位置を実現することが可能となる。
【0036】
次に、上述した構成の波動歯車装置10の製造方法について、図3に示す波動歯車装置10の製造方法を示すフローチャートと図2に示す波動歯車装置10の断面図を用いて詳細に説明する。
【0037】
波動歯車装置10の製造方法は、主に、内歯歯車2(CS)の寸法を測定する工程と、外歯歯車3(FS)の寸法を測定する工程と、軸受5の寸法を測定する工程と、内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて(WGの)楕円カム4を加工する工程と、を有する。
【0038】
先ず、準備工程として、内歯歯車2、外歯歯車3および軸受5を製造し、図3に示すステップS1~S4の測定工程を行う。これら3つの部品の製造時には、寸法ばらつきが極力無いように製造管理を行う。
第1ステップS1では、外歯歯車3(FS)の寸法を測定する。第1ステップS1における外歯歯車3の測定箇所は、オーバーピン径である。オーバーピン径とは、歯溝にボールやピンを入れ、隣り合うピンの外側寸法である。外歯歯車3は、オーバーピン径を測定することにより外径L2を求めることができる。外歯歯車3の測定箇所は、オーバーピン径であることに限定されることはなく、他の測定箇所としてもよい。例えば、非接触歯車歯形測定装置を用いた測定方法を採用することも可能である。
第2ステップS2は、外歯歯車3の軸受穴32の直径(内径)を測定する。
【0039】
第3ステップS3では、内歯歯車2(CS)の寸法を測定する。第3ステップS3における内歯歯車2の測定箇所は、ビトゥイーンピン径である。ビトゥイーンピン径とは、歯溝にボールやピンを入れ、隣り合うピンの内側寸法である。内歯歯車2は、ビトゥイーンピン径を測定することにより内径L1を求めることができる。内歯歯車2の測定箇所は、ビトゥイーンピン径であることに限定されることはなく、他の測定箇所としてもよい。例えば、非接触歯車歯形測定装置を用いた測定方法を採用することも可能である。
【0040】
第4ステップS4では、軸受5の厚さ寸法を測定する。測定される軸受5の厚さL3は、内輪51の外周面と外輪52の内周面との間の距離である。軸受5の厚さL3の測定には、マイクロメーターを用いることができる。
【0041】
内歯歯車2の内径L1および外歯歯車3の外径L2のそれぞれの公差(基準値に対して許容される誤差の最大寸法と最小寸法との差)は、例えば±10μmに設定される。一方、軸受5の厚さL3の公差は、例えば±15μmに設定される。内歯歯車2、外歯歯車3および軸受5の寸法ばらつきを後述する楕円カム4の寸法によって吸収して、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い位置を基準値(設計値)に対して例えば±5μm程度の範囲内に調整することができる。また、内歯歯車2および外歯歯車3は、それぞれ単一の部品で構成されるため、軸受5に比べて寸法ばらつきを小さくすることが容易である。なお、各部品の寸法の基準値は、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い位置が基準値となる設計値である。
【0042】
これら3つの部品の形成方法としては、特に限定されず、各種機械加工および各種成形方法を用いることができる。外歯歯車3、内歯歯車2および軸受5の構成材料としては、金属材料で構成されていることが好ましい。特に、機械的特性および加工性に優れ、比較的安価であることから、鉄系材料を用いることが好ましい。鉄系材料としては、特に限定されないが、例えば、鋳鉄、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼(SCM)、マルエージング鋼、析出硬化型ステンレス鋼等が挙げられる。
【0043】
外歯歯車3を測定する第1ステップS1と第2ステップS2、内歯歯車2を測定する第3ステップS3および軸受5を測定する第4ステップS4の順序は特に限定されることなく、これらのステップS1、S2、S3、S4を並行に行うことも可能である。
【0044】
次に、第5ステップS5において、上述した内歯歯車2、外歯歯車3および軸受5のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて楕円カム4を加工する。具体的には、第5ステップS5における楕円カム4を加工する工程では、測定結果に基づいて楕円カム4の長軸寸法L4を狙い値として決定するとともに、楕円カム4の周長を変えないように楕円カム4の加工寸法を設定する。楕円カム4の短軸寸法L5は、長軸寸法L4と周長から求められる。
このように設定され加工される楕円カム4は、軸受5の圧入部である周長を維持しつつ長軸寸法L4を変化させることで、外歯歯車3の組み込み後の弾性変形量が変わり、外歯歯車3と内歯歯車2の噛み合い位置を調整することができる。そのため、第5ステップS5では、内歯歯車と外歯歯車との噛み合い位置の従来の調整方法、すなわちウェーブジェネレーターが組み込まれ、楕円変形させた外歯歯車の長軸部におけるオーバーピン径を測定し、組み合わせとなる内歯歯車が理論通りの噛み合い位置となるように歯切りを狙い加工を行う調整が不要となる。
【0045】
続いて、第6ステップS6では、第5ステップS5で設定された楕円カム4の加工寸法に対応する最適な楕円カム4を切削により加工する。
なお、楕円カム4の加工は、楕円形状で理論的な噛み合い位置に調整するため、歯形は内歯歯車2や外歯歯車3と同じ加工条件とすることが好ましい。
【0046】
楕円カム4の構成材料としては、金属材料で構成されていることが好ましい。特に、機械的特性および加工性に優れ、比較的安価であることから、鉄系材料を用いることが好ましい。鉄系材料としては、特に限定されないが、例えば、鋳鉄、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼(SCM)、マルエージング鋼、析出硬化型ステンレス鋼等が挙げられる。
【0047】
次に、第7ステップS7では、第6ステップS6で加工した楕円カム4の長軸部の長さ(長軸寸法L4)を測定し、その長軸寸法L4が第5ステップS5で決定した狙い値と比較する。そして、測定した長軸寸法L4が狙い値に対して許容公差内の場合(S7:YES)には、第8ステップS8において波動歯車装置10の組み立てが行われる。一方、測定した長軸寸法L4が狙い値に対して許容公差外の場合(S7:NO)には、第6ステップS6に戻り、再び第5ステップS5で設定された楕円カム4の加工寸法に対応する最適な楕円カム4を切削により加工する。
これにより、楕円カム4は、ステップS1~S4で先行して測定した内歯歯車2、外歯歯車3および軸受5の寸法に対する公差が例えば±2μmの高精度な楕円カム4を製造することができる。
【0048】
第8ステップS8の組立工程では、第6ステップS6および第7ステップS7で加工された楕円カム4の中心軸(軸線J)から遠ざかる方向に向かって、楕円カム4、軸受5、外歯歯車3、内歯歯車2をこの順で内外に並ぶように組み立てる。すなわち、図2に示す波動歯車装置10を組み立てる。
【0049】
以上のように、本実施形態の波動歯車装置10の製造方法では、内歯歯車2の寸法を測定する工程と、外歯歯車3の寸法を測定する工程と、軸受5の寸法を測定する工程と、内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法に基づいて楕円カム4を加工する工程と、を有している。
このため、先行して加工された内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法から決定された楕円形状の狙い値に合わせた理論的な楕円形状の楕円カム4を製造することができる。つまり、本実施形態では、従来のような歯形を狙い加工する方法ではなく、波動歯車装置10毎に楕円の長軸形状が異なる楕円カム4を加工することができる。そして、上記狙い値に合わせて加工した長軸形状が異なる楕円カム4を外歯歯車3に組み込み弾性変形量を変化させることで、理論的歯形を維持したまま外歯歯車3の長軸部オーバーピン径の調整が可能となる。これにより、内歯歯車2の転位の歯形変化による減速機性能のばらつきを抑制することができ、歯面の耐久性を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態の波動歯車装置10の製造方法では、内歯歯車2の測定箇所がトゥイーンピン径であるので、精度よく、かつ簡単に内歯歯車2の寸法を測定することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の波動歯車装置10の製造方法では、外歯歯車3の測定箇所がオーバーピン径であるので、精度よく、かつ簡単に外歯歯車3の寸法を測定することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、楕円カム4を加工する工程において、測定結果に基づいて楕円カム4の長軸寸法L4を決定するとともに、楕円カム4の周長を変えないように楕円カム4の加工寸法が設定されている。このため、内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法から楕円形状の長軸部の長さを決定して楕円形状の狙い値を設定することができる。
【0053】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、楕円カム4の形状は上述した実施形態(図2)に限定されることはなく、上述した実施形態のような標準楕円でもよいし、特殊楕円であってかまわない。
【0054】
また、波動歯車装置としては、上記実施形態では外歯歯車3がカップ型であるカップタイプに適用したものを一例としているが、外歯歯車3がハット型であるシルクハットタイプや、これら以外の形状の外歯歯車である波動歯車装置にも適用することができる。
【0055】
また、上述した実施形態では、波動歯車装置10の適用対象として産業用ロボットについて説明したが、本発明の波動歯車装置は、これに限定されず、例えば、工作機械や自動車等に適用することができる。
【0056】
例えば、楕円カム4を加工する工程において、予め用意された複数の楕円研削加工プログラムから選択された楕円研削加工プログラムを使用して楕円カム4が加工される製造方法を採用してもよい。
具体的には、上述した実施形態の波動歯車装置10の製造方法において、第5ステップS5と第6ステップS6との間に、楕円カム4を加工する工程で複数の楕円研削加工プログラムから1つの楕円研削加工プログラムを選択するステップ(以下、第10ステップS10とする)を設けることができる。この場合、複数の楕円研削加工プログラムを予め加工機に設定しておく。この第10ステップS10では、第5ステップS5で設定された楕円カム4の加工寸法に対応する最適な楕円研削加工プログラムが選定される。そして、第6ステップS6において、第10ステップS10で選択された楕円研削加工プログラムを使用して楕円カム4を切削により加工することができる。
この場合には、内歯歯車2、外歯歯車3、及び軸受5のそれぞれの測定結果の寸法から決定された楕円形状の狙い値に合わせた最適な楕円研削加工プログラムを選定し、その選定した楕円研削加工プログラムによって狙い値に対して公差が小さく精度の高い楕円カム4を加工することができる。
【0057】
さらに、楕円カム4を加工する工程において、測定結果に基づいて楕円カム4の長軸寸法L4を決定するとともに、楕円カム4の周長を変えないように楕円カム4の加工寸法を設定してこれを狙い値とする製造方法としているが、楕円カム4の楕円形状の狙い値の決定方法はこれに限定されることはなく、他の決定方法を採用することも可能である。
であっても良い。
【符号の説明】
【0058】
1…ロボット、2…内歯歯車、3…外歯歯車、4A…波動発生器、4…楕円カム、5…軸受、10…波動歯車装置、21…内歯、31…外歯、41…軸部、51…内輪、53…ボール、52…外輪、L1…内歯歯車の内径、L2…外歯歯車の外径、L3…軸受の厚さ、L4…長軸寸法、L5…短軸寸法、La…長軸、Lb…短軸、J…軸線
図1
図2
図3