(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】利用者検知システム、利用者検知方法、及びダム
(51)【国際特許分類】
G08B 31/00 20060101AFI20241111BHJP
E02B 7/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G08B31/00
E02B7/00 Z
(21)【出願番号】P 2021043509
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-08-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 令和 2年11月 5日 刊行物 「電力土木」No.410 2020年11月号,第76頁~第79頁、一般社団法人電力土木技術協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】角田 恵
(72)【発明者】
【氏名】土増 壯則
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 政行
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-204197(JP,A)
【文献】特開2020-013220(JP,A)
【文献】特開2020-190931(JP,A)
【文献】特開2007-193612(JP,A)
【文献】特開2013-093639(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111626162(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 31/00
E02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者を検知する利用者検知システムであって、
前記特定領域の撮影データを取得する撮影部と、
異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて、前記撮影データから前記利用者を検知する検知部と、
前記検知部で前記利用者が検知された場合に、前記特定領域に対して警告情報を出力する警告部とを備え、
前記学習モデルは、前記利用者の頭から足までのうち、頭からの可視範囲の異なるデータを学習データとして与えることにより作成された学習モデルを含むことを特徴とする利用者検知システム。
【請求項2】
前記検知部は、前記人工知能が前記利用者と誤検知する前記特定領域内の誤検知物が予め記憶された記憶部をさらに備え、
前記検知部は、前記人工知能によって検知された前記利用者の中から前記誤検知物に対応するものを除く請求項1に記載の利用者検知システム。
【請求項3】
前記記憶部は、前記特定領域に前記利用者が存在しない状態の前記撮影データを用いて、前記誤検知物のデータを更新する請求項2に記載の利用者検知システム。
【請求項4】
前記撮影部及び前記警告部は、前記特定領域の近傍位置に設置されると共に、前記検知部は、前記近傍位置よりも前記特定領域から離れた遠方位置の施設内に設置され、
前記撮影部及び前記警告部は、前記検知部と無線又は有線を通じて通信する請求項1~3のいずれか1項に記載の利用者検知システム。
【請求項5】
ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者を検知する利用者検知方法であって、
前記特定領域の撮影データを取得する撮影工程と、
異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて、前記撮影データから前記利用者を検知する検知工程と、
前記検知工程で前記利用者が検知された場合に、前記特定領域に対して警告情報を出力する警告工程とを備え、
前記学習モデルは、前記利用者の頭から足までのうち、頭からの可視範囲の異なるデータを学習データとして与えることにより作成された学習モデルを含むことを特徴とする利用者検知方法。
【請求項6】
ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者を検知する利用者検知方法であって、
前記特定領域の撮影データを取得する撮影工程と、
異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて、前記撮影データから前記利用者を検知する検知工程と、
前記検知工程で前記利用者が検知された場合に、前記特定領域に対して警告情報を出力する警告工程と、
前記人工知能が前記利用者と誤検知する前記特定領域内の誤検知物のデータを、洪水の発生後に更新する更新工程とを備え、
前記更新工程は、前記洪水の発生後の平水時、かつ、前記利用者が前記特定領域に存在しない状態の前記撮像データを用いて行うことを特徴とする利用者検知方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の利用者検知システムを備えたダムであって、
前記検知部で前記利用者が検知された場合は、前記警告部で前記警告情報を出力した後に前記ダムの放流を行うように構成されていることを特徴とするダム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者検知システム、利用者検知方法、及びダムに関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所とダムとを備えた水力発電システムでは、ダムにより形成された貯水池への流入水量や貯水池の貯水位の状況、発電機の運転状況等を総合的に判断して、貯水池の貯水位が予め設定したダムの運用水位の範囲に収まるようにダムのゲートからの放流量を決定している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダムのゲートからの放流(以下、「ゲート放流」という場合もある)を開始する際、事前に次のようなパトロール員による確認作業及び警告作業が行われるのが一般的である。すなわち、確認作業として、パトロール員が車で巡回し、ダムの下流側の河川を含む所定の領域(以下、「特定領域」という)における釣り人等の利用者の有無を目視により確認する。また、特定領域に利用者が確認された場合には、警告作業として、パトロール員は、利用者に対して特定領域からの退去警告を行う。
【0005】
上記のパトロール員による確認作業及び警告作業は人手によるものであるため、その作業時間は必然的に長くなる。特に、パトロール員が常駐していない水力発電所の場合、パトロール員による確認作業及び警告作業の作業時間には、パトロール員の自宅からの移動時間も加算されるため、より長い時間を要する。そして、例えば発電機が急停止(トリップ)して緊急的にゲート放流に切り替える必要が生じた場合でも、ゲート放流の開始には、パトロール員による確認作業及び警告作業の完了を待つ必要がある。したがって、従来の水力発電所では、パトロール員による確認作業及び警告作業の間も、河川水や雨水等の流入水を貯水池で貯留できるよう、ダムの運用水位を普段から一定量下げて運用するのが一般的である。
【0006】
しかしながら、水力発電所における発電量は流量と有効落差で決まるため、ダムの運用水位を下げて運用した場合には、発電量が有効落差の低下に伴って低下するという問題が生じる。
【0007】
したがって、水力発電システムでは、河川を含む特定領域における利用者の確認作業及び警告作業を迅速かつ確実に行うことが望まれている。なお、このような要望は、水力発電所とダムとを備えた水力発電システムに限らず、水力発電所を有さない治水や灌漑用のダムなどにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明は、ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者の確認作業及び警告作業を迅速かつ確実に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者を検知する利用者検知システムであって、特定領域の撮影データを取得する撮影部と、異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて、撮影データから利用者を検知する検知部と、検知部で利用者が検知された場合に、特定領域に対して警告情報を出力する警告部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、検知部によって、撮影部で取得された撮影データから利用者が自動的に検知される。詳細には、この検知部では、異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて撮影データから利用者を検知する。そのため、各人工知能(各学習モデル)の特性に応じて様々な角度から利用者を検知することができ、特定領域における利用者の検知漏れを防ぐことができる。また、検知部で利用者が検知された場合には、警告部によって、特定領域に対して警告情報が自動的に出力される。したがって、特定領域における利用者の確認作業及び警告作業を自動で迅速かつ確実に行うことが可能となる。換言すれば、パトロール員などの人手による確認作業及び警告作業の省力化を図ることができる。
【0011】
(2) 上記(1)の構成において、検知部は、人工知能が利用者と誤検知する特定領域内の誤検知物が予め記憶された記憶部をさらに備え、検知部は、人工知能によって検知された利用者の中から誤検知物に対応するものを除くことが好ましい。
【0012】
このようにすれば、人工知能によって検知された利用者の中から、人工知能が誤検知する誤検知物が除かれるため、特定領域における利用者の検知精度が向上する。
【0013】
(3) 上記(2)の構成において、記憶部は、特定領域に利用者が存在しない状態の撮影データを用いて、誤検知物のデータを更新することが好ましい。
【0014】
河川を含む特定領域の状況は、時間の経過と共に変化し得る。具体的には、洪水(豪雨)の後などには、岩や木などの物体が数多く流されることにより、人工知能が誤検知する誤検知物の位置や大きさなどが変化する場合がある。したがって、上記の構成のように、記憶部は、誤検知物のデータを更新することが好ましく、このようにすれば、特定領域における利用者の検知精度がさらに向上する。
【0015】
(4) 上記(1)~(3)の構成において、撮影部及び警告部は、特定領域の近傍位置に設置されると共に、検知部は、近傍位置よりも特定領域から離れた遠方位置の施設内に設置され、撮影部及び警告部は、検知部と無線又は有線を通じて通信することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、検知部による検知結果を特定領域から離れた遠方位置の施設(例えば、水力発電所やダム管理所)内で一括管理することができる。また、人工知能の機能維持又は機能向上のための更新作業なども、特定領域まで直接行くことなく施設内で簡単に行うことができる。
【0017】
(5) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者を検知する利用者検知方法であって、特定領域の撮影データを取得する撮影工程と、異なる学習モデルに基づいて構築された複数の人工知能を用いて、撮影データから利用者を検知する検知工程と、検知工程で利用者が検知された場合に、特定領域に対して警告情報を出力する警告工程とを備えていることを特徴とする。
【0018】
このようにすれば、既に述べた対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【0019】
(6) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、上記(1)~(4)に記載の利用者検知システムを備えたダムであって、検知部で利用者が検知された場合は、警告部で警告情報を出力した後にダムの放流を行うように構成されていることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、特定領域における利用者の確認作業及び警告作業を迅速かつ確実に行うことができることから、ダムの運用水位を上げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ダムの下流側の河川を含む特定領域における利用者の確認作業及び警告作業を迅速かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る水力発電システムを示す概略斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る利用者検知システムを示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る利用者検知システムに含まれる学習モデル(AI)で検知された利用者候補の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る利用者検知システムに含まれる学習モデルで検知された利用者候補の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る利用者検知システムに含まれる学習モデルで検知された利用者候補の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る利用者検知システムの全ての学習モデルで検知された利用者候補から誤検知物を除いた最終的な利用者の検知結果の一例を示す図である。
【
図7】誤検知物のデータの更新方法を示すフロー図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る水力発電システムによるゲート放流方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る水力発電システム1は、水力発電所2と、ダム3とを備えている。水力発電所2は、ダム式であり、ダム3によって形成された貯水池4から導水路5を通じて、発電所2内の発電機(不図示)に水を供給して発電するように構成されている。このときの発電量は、流量と有効落差で決まる。また、水力発電システム1は、発電機が急停止した場合などには、貯水池4の水位がダム3の設計最高水位を超えるのを防ぐために、貯水池4の水をダム3のゲート3aから河川6に放流するように構成されている。
【0025】
水力発電システム1は、このようなゲート放流前に、ダム3の下流側の河川6を含む特定領域7における利用者8の確認作業及び警告作業を自動で行うための利用者検知システム11をさらに備えている。
【0026】
図1及び
図2に示すように、利用者検知システム11は、撮影部12と、検知部13と、警告部14とを備えている。
【0027】
撮影部12及び警告部14は、特定領域7の近傍位置に設置される。検知部13は、近傍位置よりも特定領域7から離れた遠方位置のダム管理所9(あるいは水力発電所5などの施設)内に設置される。撮影部12及び警告部14は、検知部13と無線又は有線を通じて通信する。この場合、検知部13は、例えばダム管理所9などの遠方位置の施設内に設置されたサーバから構成される。
【0028】
ここで、特定領域7は、河川6のみから構成されていてもよいし、河川6を含む河原などの周辺領域を含んでいてもよい。特定領域7は、ゲート放流を行った場合に、水位が増加して利用者8に危険が及ぶ可能性があるエリアを全て網羅するように設けられることが好ましい。本実施形態では、特定領域7は、河川6を上流から下流に向かって複数の領域に区分するように、河川6に沿った複数箇所に設けられている。一つの特定領域7の大きさは、一つの撮影部12で撮影可能な範囲によって決定される。なお、特定領域7は、平面視で矩形状に限定されず、河川6の形状に応じて任意の形状に設定できる。つまり、撮影部12の撮影範囲の中で利用者8の検知を行わない領域をマスキング処理し、利用者8の検知を行う特定領域7の形状を限定することができる。
【0029】
撮影部12は、特定領域7の撮影データを取得するものである。撮影部12は、取得した撮影データを検知部13に送信する。検知部13は、各撮影データを各特定領域7の情報と紐づけて保存する。撮影部12は、例えば、Webカメラで構成される。本実施形態では、撮影データは、特定領域7の静止画データである。
【0030】
検知部13は、異なる学習モデルM1~Mnに基づいて構築された複数の人工知能(以下、「AI」という)を用いて、撮影データから利用者8を検知するものである。撮影データは、画像分割により、各学習モデルM1~Mnによる解析に最適なサイズにリサイズしてもよい。
【0031】
警告部14は、検知部13で利用者8が検知された場合に、特定領域7に対して警告情報を出力するものである。具体的には、検知部13で利用者8が検知された場合、検知部13は、利用者8が検知された特定領域7に対応する警告部14に対して、警告情報の出力を指示する信号を送信する。警告部14は、例えば、警告情報を音声出力するスピーカで構成される。なお、警告部14は、利用者8に対して適切な注意喚起を行い得るものであれば、その構成や警告情報の出力形式は特に限定されない。警告部14としては、例えば、スピーカに代えて或いは併用して、警告灯(例えば回転灯)などを用いてもよい。
【0032】
図2に示すように、検知部13は、各AIの学習モデルM
1~M
nが記憶された第一記憶部15と、各AIの学習モデルM
1~M
nが利用者8と誤検知する特定領域7内の誤検知物10のデータ(位置、大きさ等)が予め記憶された第二記憶部16とを備えている。
【0033】
学習モデルM1~Mnは、利用者(人)8を検知するための強化学習モデルであり、検知部13の各AIの機能を特徴付けるパラメータ群である。
【0034】
学習モデルM1~Mnは、例えば、AIのニューラルネットワークN1~Nnの構造を決定するパラメータ群であってもよい。AIのニューラルネットワークN1~Nnの構造を決定するパラメータ群には、例えば、ニューラルネットワークN1~Nnのユニット間の接続関数を示す情報又は重み係数などが含まれる。なお、学習モデルは、学習済みモデル、AIモデル等と称される場合もある。
【0035】
学習モデルM1~Mnには、例えば、YOLOv3を使用することができる。
【0036】
学習モデルM1~Mnは、(1)利用者8の状態、(2)利用者8の背景、(3)利用者8の可視範囲、(4)特定領域7の明るさ、(5)特定領域7の天候などを学習データとして与えることにより作成される。各学習モデルは、利用者8および特定領域7の特徴に応じ学習するもので、例えば釣竿(竹竿)装着の利用者8を漏れなく検出するモデルや、しゃがんだ姿勢の利用者8を漏れなく検出するモデルなど、検出が難しい状態を漏れなく検出するため、特徴に対応できる学習モデルを用意する。詳細には、(1)利用者8の状態には、利用者8の姿勢及び服装が含まれる。利用者8の姿勢には、直立、座位、お辞儀、しゃがみ、うずくまり等が含まれる。利用者8の服装には、服の色調、ベースボールキャップ、ハット、釣竿(竹竿)等が含まれる。(2)利用者8の背景には、河川、河原、草及び森、石及び砂、コンクリート護岸等が含まれる。(3)利用者8の可視範囲には、全身、膝から上、上半身、胸から上等が含まれる。(4)特定領域7の明るさには、明るい状況(例えば日中)、薄暗い状況(例えば朝夕)等が含まれる。(5)特定領域7の天候には、晴れ、曇り、雨、霧等が含まれる。このうち、(1)~(3)が重要であり、(4)及び/又は(5)は省略してもよい。
【0037】
検知部13は、利用者8の検知精度を向上させるために、各AIの学習モデルM
1~M
nによって検知された利用者8の中から、第二記憶部16に記憶された誤検知物10に対応するものを自動的に除くようになっている。つまり、検知部13は、まず、
図3~
図5に示すように、各学習モデルM
1~M
nによって検知された全ての利用者8を利用者候補(例えば、検知枠A、B、C)として抽出し、その結果を合成する。次に、この利用者候補の中から、誤検知物10に対応するもの(例えば、検知枠C)を除き、
図6に示すように、最終的な利用者8(例えば、検知枠Cが除かれた検知枠A、B)を決定する。
【0038】
本実施形態では、第二記憶部16は、利用者8の検知精度を向上させるために、特定領域7に利用者8が存在しない状態の撮影データを用いて、各AIの学習モデルM1~Mnが誤検知する誤検知物10のデータを更新する。これは、特定領域7の木や岩等の状況は、洪水等により変化し、誤検知物10の位置や大きさなどが変化し得るためである。
【0039】
図7は、誤検知物10のデータを更新するフローの一例である。同図に示すように、誤検知物10のデータの更新フローは、洪水が発生して収束した後などの平水時、かつ、釣り人など入川者を含む利用者8が特定領域7に存在しない状態で開始する(S1)。次に、この状態で、特定領域7の撮影及びその撮影データの保存を開始する(S2)。その後、撮影データを各学習モデルM
1~M
nに入力する(S3)。そして、それぞれの学習モデルM
1~M
nにより出力された検知結果を合成すると共に(S4)、その合成検知結果を任意の時間分蓄積する(S5)。この蓄積された合成検知結果から誤検知物10を自動的に抽出する(S6)。誤検知物10が自動的に抽出された後は、職員(人)によって、誤検知物10の抽出結果を確認する(S7)。最後に、誤検知物10を第二記憶部16に登録する(S8)。これにより、誤検知物10のデータの更新が完了する。
【0040】
なお、上記の工程S2では、撮影部12を用いて特定領域7の撮影データを取得することが好ましいが、別のカメラ等を用いて特定領域7の撮影データを取得してもよい。また、上記の工程S6では、同一箇所において、設置時間内に設定回数以上検知された場合に、その検知物を誤検知物10として自動的に抽出する。設定時間及び設定回数は、任意であり、特定領域7の環境や学習モデルM1~Mnの特性などに応じて変更できる。さらに、上記の工程S7は、省略してもよい。この場合、自動的に抽出された誤検知物10のデータが、職員の確認を経ることなく、そのまま第二記憶部16に登録される。
【0041】
次に、上記のように構成された水力発電システム1によるゲート放流方法を説明する。
【0042】
本実施形態に係る水力発電システム1によるゲート放流方法は、ゲート放流原因検知工程T1と、撮影工程T2と、利用者検知工程T3と、警告工程T4と、ゲート放流工程T5とを、この順に備えている。ここで、撮影工程T2、利用者検知工程T3及び警告工程T4が、利用者検知システム11を用いた利用者検知方法に相当する。
【0043】
ゲート放流原因検知工程T1では、発電所2の発電機の急停止などの異常信号を検知することにより、ゲート放流原因を検知する。ゲート放流原因には、その他、洪水等による貯水池4の水位の異常上昇などが挙げられる。
【0044】
撮影工程T2では、各撮影部12により、全ての特定領域7の撮影データを取得する。
【0045】
利用者検知工程T3では、検知部13によって、各撮影部12で取得された撮影データから各特定領域7における利用者8を自動的に検知する。この際、検知部13では、異なる学習モデルM1~Mnに基づいて構築された複数のAIを用いて、各撮影データから利用者8を検知する。そのため、各学習モデルM1~Mnの特性に応じて様々な角度から利用者8が検知され、各特定領域7における利用者8の検知漏れを防ぐことができる。したがって、全ての特定領域7における利用者8の確認作業を、パトロール員などの人手によらず迅速かつ確実に行うことができる。
【0046】
警告工程T4では、検知部13で利用者8が検知された場合、利用者8が検知された特定領域7に対応する警告部14により、利用者8が検知された特定領域7に対して警告情報を自動的に出力する。したがって、各特定領域7における利用者8に対する警告作業を、パトロール員などの人手によらず自動で迅速かつ確実に行うことができる。なお、利用者検知工程T3において、全ての特定領域7で利用者8が検知されなかった場合は、警告工程T4は省略してもよい。
【0047】
ゲート放流工程T5では、検知部13で利用者8が検知された場合、警告部14で警告情報を出力してから設定時間経過後に、ゲート放流を行う。もちろん、ゲート放流工程T5の直前に、利用者検知システム11により、特定領域7に利用者8が存在しないことを再度確認するようにしてもよい。
【0048】
ここで、従来のようにパトロール員等の人手によって、特定領域7における利用者8の確認作業及び警告作業を行う場合には、これらの作業に長時間を要するため、ダム2の運用水位は、一定程度下げることが一般的である。これに対し、上記の水力発電システム1によるゲート放流方法であれば、特定領域7における利用者8の確認作業及び警告作業を迅速に行うことができるため、ダム3の運用水位を、ダム3の設計最高水位の90%以上とすることができる。したがって、ダム3の運用水位を上げて水力発電所2における発電量を増加させることができる。具体的には、効果見込みのある発電所で試算した場合、約24GWh/年の発電量の増加が図られる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
上記の実施形態では、水力発電所2としてダム式のものを例示したが、水力発電所は、水路式やダム水路式などであってもよい。
【0051】
上記の実施形態では、水力発電所2とダム3とを備えた水力発電システム1に対して利用者検知システム11を適用する場合を例示したが、当該システム11は、例えば、水力発電所2を有さない治水や灌漑用のダムなどにも適用可能である。
【0052】
上記の実施形態では、撮影部12によって特定領域7の静止画データを取得し、検知部13の複数のAI(学習モデルM1~Mn)を用いて、静止画データから利用者8を検知する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、撮影部12によって特定領域7の動画データを取得し、検知部13の複数のAIを用いて、動画データから利用者8を検知するようにしてもよい。この場合、検知部13で利用者8を検知すると共に、その検知された利用者の動きを追跡するようにしてもよい。このようにすれば、検知された利用者8が、特定領域7から退去したか否かを、動的に判定することができる。
【0053】
上記の実施形態では、検知部13が、水力発電所2やダム管理所9などの施設内に設置されたサーバにより構成される場合を説明したが、検知部13は、分散型サーバにより構成されていてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、複数組の撮影部12及び警告部14に対して一つの検知部13を設ける場合を説明したが、一組の撮影部12及び警告部14に対して一つの検知部13を設けるようにしてもよい。この場合、各検知部13は、撮影部12及び警告部14と共に、特定領域7の近傍に設置してもよい。具体的には、例えば、撮影部12が、検知部13を内蔵する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 水力発電システム
2 水力発電所
3 ダム
3a ゲート
4 貯水池
5 導水路
6 河川
7 特定領域
8 利用者
10 誤検知物
11 利用者検知システム
12 撮影部
13 検知部
14 警告部
15 第一記憶部
16 第二記憶部
M1~Mn 学習モデル(AI)