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特許7585125凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラム
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  • 特許-凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20240101AFI20241111BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20241111BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20241111BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20241111BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20241111BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20241111BHJP
   G01N 15/04 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G01N15/06 E
B01D21/00 C
B01D21/01 B
B01D21/01 D
B01D21/02 N
B01D21/30 A
G01N21/17 A
G01N15/04 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021066259
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161433
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 美意
(72)【発明者】
【氏名】村山 清一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 太
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】早見 徳介
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-81927(JP,A)
【文献】特開2021-32728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/1492
B01D 21/00
B01D 21/01
B01D 21/02
B01D 21/30
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から光が照射される撮影対象収容部と、
前記撮影対象収容部に収容された、凝集物を含む被処理水の画像を撮影する撮像部と、
前記画像における輝度の最大値と最小値との差に基づいて演算される前記凝集物の密度と、前記画像に基づいて演算される前記凝集物の粒径とを用いて、前記凝集物の沈降速度を演算する沈降速度演算部と、
を備えた凝集物測定装置。
【請求項2】
前記沈降速度演算部は、前記撮像部により撮影された前記画像を二値化し、前記凝集物の投影面積から前記凝集物の粒径を演算する、請求項1記載の凝集物測定装置。
【請求項3】
前記沈降速度演算部は、前記撮像部により撮影された前記画像に基づいて測定された前記凝集物の粒径を用いて算出される抗力係数を更に用いて、前記凝集物の前記沈降速度を演算する、請求項1記載の凝集物測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の凝集物測定装置と、
前記被処理水に凝集剤を注入する凝集剤注入機と、を備え、
前記沈降速度演算部は、演算した前記凝集物の前記沈降速度と前記凝集物の最小沈降速度とを比較した結果に基づいて、前記凝集剤注入機が注入する凝集剤の注入率を調整する、凝集剤注入装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の凝集物測定装置と、
前記被処理水を撹拌する撹拌機と、を備え、
前記沈降速度演算部は、演算した前記凝集物の前記沈降速度と前記凝集物の最小沈降速度とを比較した結果に基づいて、前記撹拌機の回転数を調整する、凝集剤注入装置。
【請求項6】
前記沈降速度演算部は、前記被処理水から前記凝集物を沈降分離するための沈殿池の出口において測定された濁度を取得し、前記濁度と管理基準値とを比較した結果に基づいて前記最小沈降速度を補正する、請求項4又は請求項5記載の凝集剤注入装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の凝集物測定装置と、
前記被処理水と凝集剤とを混ぜ合わせる混和池と、
前記混和池から排出された前記被処理水に含まれる前記凝集物を成長させるフロック形成池と、
前記被処理水から前記凝集物を沈降分離する沈殿池と、
前記沈殿池から排出された前記被処理水をろ材によってろ過するろ過池と、
前記凝集剤を注入する凝集剤注入機と、
前記混和池と前記フロック形成池との少なくとも一方において前記被処理水を撹拌する撹拌機と、を備え、
前記沈降速度演算部は、演算した前記凝集物の前記沈降速度と前記凝集物の最小沈降速度とを比較した結果に基づいて、前記凝集剤注入機が注入する前記凝集剤の注入率と前記撹拌機の回転数とを調整する、水処理システム。
【請求項8】
コンピュータに、
凝集物を含む被処理水の画像を取得し、
前記画像における輝度の最大値と最小値との差に基づいて演算される前記凝集物の密度と、前記画像に基づいて演算される前記凝集物の粒径とを用いて、前記凝集物の沈降速度を演算する、凝集物測定方法を実行させる凝集物測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
凝集は、浄水施設や産業排水処理施設などにおいて、水を清澄化するために広く使われている技術である。上水施設を例に挙げると、粘土鉱物やプランクトンといったような水中の濁質は、水中では分散した状態にある。凝集剤やpH調整剤、塩類などの薬剤を処理対象水に添加すると、粒子表面の荷電状態が中和され、粒子同士が互いに接触しやすい表面状態となる。さらに、処理対象水に対して撹拌によるせん断速度を加えると、粒子同士が衝突合一されて粗粒化し、大きな凝集物へと成長する。成長した凝集物は重力沈降によって分離され、上澄水は砂ろ過などの分離工程を経て清澄水となる。
【0003】
上記のように、凝集物は重力によって沈降分離するので、凝集物の粒径と密度が重要となる。凝集物は、凝集剤の注入率や撹拌機の撹拌強度の影響を受け、粒径や密度が変化するため、流入する原水の水質変動に合わせて凝集剤の注入率や撹拌強度を調整する必要がある。例えば、凝集剤注入率を増加させると凝集物の粒径は大きくなるが、同時に凝集物の密度が低下する。すなわち、凝集剤によって造粒した凝集物は、網目構造の間に水を取り込み、粒径が大きくなるほど凝集物の密度が低下する特性を持っている。このため、沈殿池における凝集物の重力沈降に関わる沈降速度を適切に維持する凝集剤注入率と撹拌強度は、原水の水質変動に応じてリアルタイムに変化し得る。
【0004】
従来、凝集物の密度を簡易的に推定する方法として、例えば、凝集物の存在する水槽に水中カメラを設置し、撮影した凝集物の画像を輝度で二値化し、それぞれの輝度の平均径と個数を算出して、投影面積から体積を概算し、凝集物の密度を概算する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-194443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、水源の水質変動に対して、沈殿池における凝集物の沈降速度を一定以上に維持し、処理水の水質を清澄に保つには、凝集剤注入率と撹拌強度を適切に調整する必要がある。しかし、凝集物の粒径と密度は、相反する関係にあって目標値の設定が難しいことだけでなく、従来の手法では密度の測定が困難であるため、凝集物の粒径と密度から沈降速度を予測し、凝集剤注入率と撹拌強度を調整するのは難しかった。
【0007】
上水施設の運用は、現状、熟練技術者の経験値や、それまでの運用実績に基づいて行われている。しかしながら、熟練技術者から経験の浅い技術者へ、経験値に基づく技術を継承することは困難である。また、気候の変動に伴い経験したことのない水質変動が起こりつつあり、近い将来、これまでの運用実績では適切な運用ができなくなる可能性があった。
【0008】
本発明の実施形態は、上記事情を鑑みて成されたものであって、原水の水質変動に対して適切な処理水質を維持する凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態による凝集物測定装置は、光源と、前記光源から光が照射される撮影対象収容部と、前記撮影対象収容部に収容された、凝集物を含む被処理水の画像を撮影する撮像部と、前記画像における輝度の最大値と最小値との差に基づいて演算される前記凝集物の密度と、前記画像に基づいて演算される前記凝集物の粒径とを用いて、前記凝集物の沈降速度を演算する沈降速度演算部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態の水処理システムの構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、一実施形態の凝集物測定装置の凝集物撮影部の一構成例を概略的に示す図である。
図3図3は、一実施形態の凝集物測定装置の凝集物撮影部で撮影された画像の一例を概略的に示す図である。
図4図4は、一実施形態の凝集物測定装置における凝集物の密度の測定方法の一例について説明するための図である。
図5図5は、凝集物の輝度と背景部分の輝度との輝度差と、凝集物の密度との関係の一例を概略的に示す図である。
図6図6は、凝集物の粒径と密度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムについて、図面を参照して説明する。
本実施形態の凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムは、降雨や台風、ダム放流などの河川上流側の水量の変化によって生じる水源の水質変動に対して、安定的に水を清澄化させる技術に関するものである。
【0012】
図1は、一実施形態の水処理システムの構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の水処理システムは、着水井1と、混和池2と、フロック形成池3と、沈殿池4と、ろ過池5と、配水池6と、凝集剤注入機7と、撹拌機8と、凝集物測定装置と、流量計11と、濁度計12と、を備えている。凝集物測定装置は、凝集物撮影部9と、沈降速度演算部10と、を備えている。
【0013】
着水井1は、水源から取水した原水を一時的に貯留する設備であって、水処理システムに流入する原水の量を調整する。原水にはプランクトンなどから構成される懸濁物質が含まれており、後段の凝集沈殿処理によって清澄水と沈降汚泥とに分離される。
流量計11は、着水井1から混和池に流入する原水の流量を測定し、測定値を凝集物測定装置に供給する。
【0014】
混和池2は、着水井1から送出された原水と薬品とを混ぜ合わせる設備である。混和池2には、凝集剤注入機7から所定の量の凝集剤が注入され、撹拌機8により凝集剤と原水とが撹拌混合される。
【0015】
凝集剤注入機7は、例えば薬品を注入するためのポンプを備え、ポンプを駆動するインバーターや薬品を注入するバルブの開度によって、凝集剤注入率を調整する。凝集剤は、水中の凝集対象の物質を荷電中和してファンデルワールス力によって接触しやすい状態とし、さらに架橋作用によって微細な凝集物を集め、大きな粒子へと成長させる。
【0016】
撹拌機8は、凝集剤と原水とを撹拌混合し、微細な凝集物を形成する。撹拌機8は、例えば、フラッシュミキサーやハドル型撹拌機などを適用することができる。撹拌機8は、例えばインバーターを搭載し、例えば単位時間当たりの回転数等を変更することにより撹拌強度を調整できる。
【0017】
フロック形成池3は、混和池2から排出された被処理水に含まれる微細な凝集物を衝突合一させ、さらに大きな粒径の凝集物へ成長させる設備である。フロック形成池3は、例えば、フロキュレーターなどの緩い回転流を与えて凝集物を成長させる撹拌機や、迂流のように凹凸のある構造物に水を流し、直線部と、屈曲部とで得られる流れの反転の作用によって凝集物を大きく成長する構成を備えていてもよい。
なお、フロック形成池3は、通常、プロセスの後段にいくにしたがって、撹拌機器の回転数が小さくなるように、インバーターや減速機によって回転数を調整可能に設計されている。
【0018】
沈殿池4は、フロック形成池3において成長した凝集物を含む被処理水が流入し、重力によって凝集物を沈降分離するための設備である。
濁度計12は、沈殿池4出口の上澄水の濁度を測定し、測定値を凝集物測定装置に供給する。
【0019】
ろ過池5は、沈殿池4で固液分離しきれず水中に残存する微粒子を、砂や、ガーネットや、アンスラサイトなどのろ材によってろ過する設備である。ろ過池5で清澄化された水は、配水池6を経由して配水される。
【0020】
図2は、一実施形態の凝集物測定装置の凝集物撮影部の一構成例を概略的に示す図である。
凝集物撮影部9は、光源91と、撮影対象収容部92と、光学系93と、イメージセンサ(撮像部)94と、を備えている。
【0021】
光源91は、撮影対象収容部92を照らすように配置される。光源91は、例えば、LED光源、ハロゲンランプ、蛍光ランプなどの光源や、光ファイバーなど発光部を有するものなど、測定対象の粒子濃度や色彩に応じて波長や照度を選定、調整できるものが望ましい。光源91の形状は、例えば、点光源や、点光源が水平に並んでいるライン光源や、面から光を発する面光源であっても良く、必要に応じて拡散板を併用して照度を均一化し、照射範囲を大きくするように構成されてもよい。
【0022】
なお、図2では1つの光源91を示しているが、光源91は複数あってもよい。また、図2では、光源91は、イメージセンサ94側から見て撮影対象収容部92の後方に配置されているがこれに限定されるものではない。光源91は、イメージセンサ94側から見て、撮影対象収容部92より手前の位置(例えば撮影対象収容部92とレンズ93との間)や、撮影対象収容部92の底部や、底部と対向する位置(上部)の少なくとも1か所に配置されてもよい。いずれの場合も、光源91は、イメージセンサ94による凝集物の撮影を妨げない位置に配置される。
【0023】
撮影対象収容部92は、例えば、凝集物を収容する透明な容器や、プレパラートなどを備える。撮影対象収容部92に収容される凝集物は、例えば、混和池2の出口付近から採取されてもよく、混和池2とフロック形成池3とを接続する配管を分岐させることにより採取されてもよく、フロック形成池3から採取されてもよく、沈殿池4の入口付近の配管を分岐させることにより採取されてもよい。採取の方法は、例えば、定積容量ポンプや自然流下のように、凝集物が壊れないように移送する方法を採用することが望ましい。
【0024】
レンズ93は、撮影対象収容部92とイメージセンサ94との間に配置されている。レンズ93は、撮影対象収容部92に収容された凝集物100の実像をイメージセンサ94の受光面に結像させる。なお、レンズ93は例えば凸レンズであって、イメージセンサ94と一体に形成されていてもよい。
【0025】
イメージセンサ94は、例えば、高速カメラ、webカメラ、産業用のモニタリングカメラ、マシンビジョンカメラ等のカメラを少なくとも1つ備える。また、イメージセンサ94は、撮影した画像のデータを沈降速度演算部10へ通信する手段を含む。
【0026】
沈降速度演算部10は、凝集物撮影部9で撮影された画像のデータを用いて、を解析処理する。沈降速度演算部10は、例えば、演算された凝集物の沈降速度と、沈殿池の設計データと、流入流量と、に基づいて、凝集剤注入機7から混和池2に注入される凝集剤の注入率や、撹拌機8の撹拌強度(例えば単位時間当たりの回転数)を調整することができる。凝集剤の注入率を調整するときには、沈降速度演算部10は、例えば、凝集剤の注入率の値を演算し、凝集剤注入機7へ演算した注入率の値を供給してもよく、凝集剤注入率の増減量を演算し、凝集剤注入機7へ演算した増減量の値を供給してもよい。また、撹拌強度を調整するときには、沈降速度演算部10は、例えば、撹拌強度の値を演算し、撹拌機8へ演算した撹拌強度の値を供給してもよく、撹拌強度の増減量(例えば単位時間当たりの回転数の増減数)を演算し、撹拌機8へ演算した増減量の値を供給してもよい。
【0027】
沈降速度演算部10は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されるメモリと、を備えた演算装置であって、ソフトウエアにより又はソフトウエアとハードウエアとの組み合わせによりコンピュータに種々の機能を実現させることができる。また、沈降速度演算部10はメモリに記録されたプログラムを実行してもよく、記録媒体に記録されたプログラムを読み出して実行することにより、コンピュータに種々の機能を実現させてもよい。
【0028】
以下に、本実施形態の凝集物測定装置の動作の一例について説明する。
図3は、一実施形態の凝集物測定装置の凝集物撮影部で撮影された凝集物の画像の一例を概略的に示す図である。
凝集物100は、懸濁物質100Bからなる粒子群と、凝集剤が水中で水酸化物となった透明なゲル部100Aとを含む。ゲル部100Aは、架橋作用を持つ。光源91から照射される光を撮影対象収容部92に当てて、イメージセンサ94により凝集物100を撮像すると、粒子群は黒色に映り、ゲル部100Aは水中で透明であるため光を透過し、画像にはほとんど映らない。凝集物100は、空気中に取り出すと内部の水分が滲出して変形してしま。このため、凝集物100の水中における密度を測定するためには、水中での凝集物100の画像を撮影する必要がある。このため、本実施形態では、水中の凝集物100の画像を用いて、凝集物100の密度を測定する。
【0029】
図4は、一実施形態の凝集物測定装置における凝集物の密度の測定方法の一例について説明するための図である。
例えば1粒の凝集物100をモノクロで撮影した画像PICについて検討すると、凝集物100の密度が大きいときには、凝集物100全体に対する粒子群(光を透過し難い部分)の存在割合が多く粒子群は密集して存在し、ゲル部100A(光を透過し易い部分)の割合が少ないため、凝集物100は全体的に濃い黒色(濃い灰色)に映る。反対に、凝集物100の密度が小さいときには、凝集物100全体に対する粒子群の存在割合が少なく粒子群は散らばって存在し、ゲル部100Aの割合が多いため、凝集物100は全体的に薄い黒色(薄い灰色)に映る。
【0030】
なお、凝集物100に含まれる実際の粒子群は3次元の状態で存在するため、所定の方向から撮影した2次元画像では粒子同士が重なって写る。粒子が重なった部分はより濃い黒色に映る。したがって、凝集物100の輝度は、撮影条件によって簡単に変化するため、撮影画像PICにおける凝集物100の輝度のみを指標として凝集物100の密度を判断することは難しい。
【0031】
そこで、本実施形態では、沈降速度演算部10は、凝集物100を撮影した画像の背景にあたる周囲の液体の画像の輝度(最大値)を基準とし、凝集物100の画像の輝度(最小値)と背景部分との輝度(最大値)との差から凝集物100の密度を演算し、凝集物100の密度の値を用いて凝集物100の沈降速度を更に演算する。
【0032】
図5は、凝集物の輝度と背景部分の輝度との輝度差と、凝集物の密度との関係の一例を概略的に示す図である。
沈降速度演算部10は、画像解析により撮影画像PICの輝度の最大値と最小値とを取得し、最小値と最大値との差(輝度差)ΔBに対応する密度の値を演算する。沈降速度演算部10は、輝度差ΔBに対応する密度の値の複数組を格納したテーブルを備えていてもよく、予め測定された輝度差ΔBの値に対する密度の値から求められた数式を利用してもよい。
【0033】
沈降速度演算部10は、算出した密度の値を用いて、水中の凝集物100の沈降速度を演算する。下記式(1)は、例えば水中の凝集物100の沈降速度vを演算する、ストークスの沈降方程式である。
【0034】
【数1】
v:凝集物の沈降速度
Cd:抗力係数
d:凝集物半径
ρs:凝集物密度
ρw:被処理水の密度
【0035】
上記式(1)の抗力係数Cdは、下記式(2)で表される。
Cd=24/Re…式(2)
上記式(2)のレイノルズ数は、下記式(3)で表される。
Re=ν/vL …式(3)
Re:レイノルズ数
ν:動粘性係数
v:沈降速度
L:代表径
【0036】
沈降速度演算部10は、上記式(1)-(3)と、凝集物撮影部9で撮影された画像の解析結果とを用いて、凝集物100の沈降速度vを算出できる。
凝集物100の粒径(代表径L)は、例えば、凝集物撮影部9で撮影された画像を二値化して、凝集物100の投影面積を積算し、円であると仮定したときの円相当径でもよく、撮影された画像から凝集物100の形状を考慮して長径あるいは短径を用いてもよい。沈降速度演算部10は、重力加速度や周囲の液体の密度として既知の値を用い、凝集物100の密度を算出することにより凝集物100の沈降速度vを演算することができる。
【0037】
なお、沈降速度演算部10は、例えば、沈殿池4の有効容積や底面積といった土木設計条件と、着水井1から混和池2に流入する流入流量(流量計11から取得される値)から、沈殿池4における被処理水の滞留時間を計算し、沈殿池4で沈み切らない凝集物100がろ過池5へ漏出しないような、凝集物100の最小の沈降速度(最小沈降速度)を演算することができる。
【0038】
沈降速度演算部10は、凝集物100の密度に基づいて演算された沈降速度vの値と最小沈降速度の値とを比較し、沈降速度vが最小沈降速度の値よりも小さい場合は、凝集剤注入機7による凝集剤注入率、および、撹拌機8の回転数とフロック形成池3の撹拌機の回転数との少なくともいずれか一方を調整して、凝集物100の沈降速度を大きくする。
【0039】
図6は、凝集物の粒径と密度との関係の一例を示す図である。
凝集剤注入機7による凝集剤注入率を大きくすると、凝集物100の粒径は大きくなるが凝集物100の密度は低下し、凝集物100の沈降速度を大きくすることができない場合がある。凝集物100の沈降速度vが小さく、沈殿池4で凝集物100が沈み切らずにろ過池5へ漏出してしまう場合は、一般に、凝集剤注入率を増加させることが多い。これは、凝集物100の粒径を大きくして、沈降速度vを増加させるためである。しかしながら、実際には、凝集剤注入率の増加により凝集物100の粒径が大きくなると、凝集物100の密度が低下するため、想定よりも沈降速度vは増加しない。このため、凝集物100の密度を演算することが重要となる。
【0040】
本実施形態では、例えば凝集物100の沈降速度vを大きくするときには、沈降速度演算部10は、例えば、凝集剤注入率を減らしつつ、撹拌機8とフロック形成池3の撹拌機と少なくとも一方の単位時間当たりの回転数を調整する。例えば撹拌機8の単位時間当たりの回転数が増加すると、撹拌機8の周辺に発生するせん断速度は大きくなり、凝集物100にも大きなせん断速度が加わる。凝集物100の内部の水分が滲出することで、凝集物100の密度を増加することができる。このことにより、凝集物100の沈降速度を大きくすることができる。
【0041】
沈降速度演算部10は、上記のように、演算された沈降速度vの値に応じて、凝集剤注入機7による凝集剤注入率、および、撹拌機8の単位時間当たりの回転数とフロック形成池3の撹拌機の単位時間当たりの回転数との少なくとも一方を適切な値に調整するように、凝集剤注入機7と撹拌機8とフロック形成池3の撹拌機とに制御信号を送信することができる。凝集剤の注入率を調整するときには、沈降速度演算部10は、例えば、凝集剤の注入率の値を演算し、演算した注入率の値を制御信号として凝集剤注入機7へ供給してもよく、凝集剤注入率の増減量を演算し、演算した増減量の値を制御信号として凝集剤注入機7へ供給してもよい。撹拌強度(例えば単位時間当たりの回転数)を調整するときには、沈降速度演算部10は、例えば、撹拌機8とフロック形成池3の撹拌機との各々について撹拌強度の値を演算し、演算した撹拌強度の値を制御信号として各々に供給してもよく、撹拌機8とフロック形成池3の撹拌機との各々について撹拌強度の増減量(例えば単位時間当たりの回転数の増減数)を演算し、演算した増減量の値を制御信号として各々に供給してもよい。
【0042】
一般的な浄水場の多くは、例えば濁度計12で測定される沈殿池4出口の上澄水の濁度を管理指標としている。フロック形成池3と沈殿池4とにおける被処理水の滞留時間は、流量にも依るが、略3時間程度である。そのため、濁度計12の濁度が上昇したときに、凝集剤注入率や撹拌強度が適切でないと判断できるが、判断した時点の後3時間は適切な凝集条件で凝集されない水がろ過池5に流入し続けることとなる。
【0043】
本実施形態では、原水の水質変動に合わせて凝集物の沈降速度を演算することで、凝集剤注入率や撹拌強度(例えば撹拌機の単位時間当たりの回転数)を調整することができるため、濁度が上昇したと判断した時点で凝集条件を変更することが可能であって、適切な凝集条件で凝集された水をろ過池5に流入させることができる。
【0044】
上記のように、本実施形態の凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムによれば、凝集剤使用量の削減や、沈殿池4で沈降した汚泥の減容、汚泥の乾燥に要する時間の短縮、原水の水質変動に対して適切な処理水質を維持できるなどの効果を得ることができる。
【0045】
次に、第2実施形態の凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムについて説明する。
本実施形態の凝集物測定装置では、沈降速度演算部10が濁度計12で測定された値を用いて沈降速度vをする点において上述の第1実施形態と異なっている。
濁度計12は、沈殿池4で沈降分離されずに上澄水に残存した懸濁物質による濁度を測定する。濁度計12は、測定した濁度の値を沈降速度演算部10に伝送する。
【0046】
沈降速度演算部10は、取得した濁度の値に基づいて、凝集物100の最小沈降速度(沈殿池4で沈み切らない凝集物100がろ過池5へ漏出しないような、凝集物100の最小の沈降速度)を補正する。沈降速度演算部10は、濁度計12で測定された濁度の値と浄水場の管理基準値とを比較して、測定された濁度の値が管理基準値を超過する場合は、最小沈降速度に補正値Δv1を加算し、管理基準値を下回る場合は最小沈降速度に補正値Δv2(ただし、補正値Δv1>補正値Δv2>0)を減算する。
【0047】
沈降速度演算部10は、流量計11で測定された流量と、沈殿池4の有効容積や底面積と、から沈殿池4における被処理水の滞留時間を演算し、演算した滞留時間に基づいて最小沈降速度の値を演算することができる。しかしながら、実際の浄水場の沈殿池4では、ろ過池5に向かう水平流だけでなく、水面と底面の水温差による上下方向の対流が発生するため、最小沈降速度では沈殿池4の出口に到達するまでに沈降しないことがある。
【0048】
本実施形態では、濁度計12で測定された濁度の値に基づいて最小沈降速度を補正し、原水水質の変動や沈殿池4の流動の状態に応じて、適切な凝集剤注入率や撹拌強度を維持することを可能としている。
【0049】
すなわち、本実施形態の凝集物測定装置、凝集剤注入装置、水処理システム、および、凝集物測定プログラムによれば、上述の第1実施形態と同様に、凝集剤使用量の削減や、沈殿池4で沈降した汚泥の減容、汚泥の乾燥に要する時間の短縮、原水の水質変動に対して適切な処理水質を維持できるなどの効果を得ることができる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1…着水井、2…混和池、3…フロック形成池、4…沈殿池、5…ろ過池、6…配水池、7…凝集剤注入機、8…撹拌機、9…凝集物撮影部、91…光源、92…撮影対象収容部、93…レンズ(光学系)、94…イメージセンサ、10…沈降速度演算部、11…流量計、12…濁度計、100…凝集物、100A…ゲル部、100B…懸濁物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6