(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】加硫ブラダーおよびそれに用いるコーティング材
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20241111BHJP
B29C 33/40 20060101ALI20241111BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20241111BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/40
B29C35/02
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2021075747
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2022-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】齋木 丈章
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】土谷 修司
(72)【発明者】
【氏名】小出 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小須田 祐里
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】本田 博幸
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-275711(JP,A)
【文献】特開2020-175523(JP,A)
【文献】特開平11-198150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/02
B29C33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型するためのブラダーであって、その最外表面にシリコーンゴム層を有し、該シリコーンゴム層が、
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解した有機酸金属化合物を含む硬化物からなり、前記
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し前記有機酸金属化合物が、金属量として0.001~3質量部含有されてなる加硫ブラダー。
【請求項2】
前記シリコーンゴム層の厚さが1~100μmである請求項1に記載の加硫ブラダー。
【請求項3】
前記有機酸金属化合物が、亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する請求項1または2に記載の加硫ブラダー。
【請求項4】
前記有機酸金属化合物が、炭素数2~12の脂肪酸由来である請求項1~3のいずれかに記載の加硫ブラダー。
【請求項5】
ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型する加硫ブラダーに用いるコーティング材であって、
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解する有機酸金属化合物を含み、前記
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し前記有機酸金属化合物を、金属量として0.001~3質量部含有するコーティング材。
【請求項6】
前記コーティング材が、前記
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の有機溶剤溶液、または前記
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の水系エマルジョンであり、前記コーティング材100質量%中、前記
脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の合計が2~50質量%である請求項
5に記載のコーティング材。
【請求項7】
前記有機酸金属化合物が、亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する請求項
5または6に記載のコーティング材。
【請求項8】
前記有機酸金属化合物が、炭素数2~12の脂肪酸由来である請求項
5~7のいずれかに記載のコーティング材。
【請求項9】
請求項
5~8のいずれかに記載のコーティング材の硬化物からなるシリコーンゴム層をその最外表面に有する請求項1~5のいずれかに記載の加硫ブラダー。
【請求項10】
請求項1~
4および
9のいずれかに記載の加硫ブラダーを用いて、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドを加硫成型するゴム製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤を使用せずにゴム製品を加硫成型する加硫ブラダーおよびそれに用いるコーティング材に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫成型は、金型内に未加硫のゴムコンパウンドにより成形されたグリーンタイヤを入れ、そのタイヤ内腔に加硫ブラダーを挿入し、加硫ブラダーの内部に高温高圧の流体を充填して膨張させることにより、グリーンタイヤを金型に押し付けて加熱加圧することにより行われる。加硫されたタイヤから加硫ブラダーを円滑に取り外すため、グリーンタイヤの内側表面または加硫ブラダーの外側表面に、離型剤が加硫成型の1回毎に塗布することが多い。
【0003】
近年、タイヤ内腔のインナーライナー側に、スポンジ吸音材やセルフシーリング材、各種センサーなどの付加価値装置を密着させたタイヤが多くなっている。従来の離型剤を使用して加硫成型したタイヤでは、インナーライナーの内側表面に離型剤が残存するため、付加価値装置を密着して装着できないことがある。このため、加硫ブラダーの外側表面にシリコーン系離型コーティング材を硬化させたシリコーンゴム層を配置することにより、離型剤が加硫成型の度に塗布しなくても離型性を良好にすることが行われている(例えば特許文献1~3を参照)。このように加硫ブラダーの外側表面にシリコーンゴム層を形成するものは、パーマネントタイプまたはセミパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材と呼ばれている。
【0004】
上述したパーマネントタイプまたはセミパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材を硬化させたシリコーンゴム層を有するブラダーは、ブラダー寿命に達するまで離型剤を塗布することなく繰り返し加硫成型を行うことができるが、何故かハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるタイヤを加硫成型すると、シリコーンゴム層が劣化しやすくなり生産性が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平7-88015号公報
【文献】特公平8-5064号公報
【文献】特開2020-175523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型しても、離型性能が長続きしその寿命を維持向上させるブラダーおよびそれに用いるコーティング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の加硫ブラダーは、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型するためのブラダーであって、その最外表面にシリコーンゴム層を有し、該シリコーンゴム層が、脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解した有機酸金属化合物を含む硬化物からなり、前記脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し前記有機酸金属化合物が、金属量として0.001~3質量部含有されてなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のコーティング材は、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型する加硫ブラダーに用いるコーティング材であって、脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解する有機酸金属化合物を含み、前記脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し前記有機酸金属化合物を、金属量として0.001~3質量部含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加硫ブラダーによれば、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型したときでも、離型性能が長続きしその寿命を維持向上させることができる。これは、ハロゲン化ブチルゴムから生じた遊離ハロゲンが縮合硬化型シリコーンゴムを劣化させるのに対し、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解した有機酸金属化合物が遊離ハロゲンを捕捉するハロゲン捕捉剤として機能し、縮合硬化型シリコーンゴムの劣化を大幅に抑制するためと考えられる。本発明の加硫ブラダーを用いて、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドを加硫成型してゴム製品を製造すると、高品質のゴム製品を、通常の離型剤を使用せずに、安定して生産することができる。
【0010】
前記シリコーンゴム層の厚さは、好ましくは1~100μmであるとよく、良好な離型性能を長続きさせると共に、生産コストの観点からも有利である。
【0011】
前記有機酸金属化合物は、亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましく、また炭素数2~12の脂肪酸由来であるとよい。このような有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解し、遊離ハロゲンを捕捉する効果をより高くすることができる。
【0012】
前記縮合硬化型シリコーンゴムは、好ましくは脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムであるとよく、シリコーンゴム層の離型性能および耐久性能をより高くすることができる。
【0013】
また本発明のコーティング材を加硫ブラダーの表面に塗布し硬化させることにより、最外表面にシリコーンゴム層を有する上述した加硫ブラダーを容易に得ることができる。
【0014】
前記コーティング材は、前記縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の有機溶剤溶液、または前記縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の水系エマルジョンであり、前記コーティング材100質量%中、前記縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の合計が2~50質量%であるとよく、加硫ブラダーの表面へのスプレー・塗布性が良好で、斑なく均一なシリコーンゴム層を形成することができる。
【0015】
前記コーティング材の縮合硬化型シリコーンゴムは、好ましくは脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムであるとよく、シリコーンゴム層の離型性能および耐久性能をより高くすることができる。
【0016】
前記コーティング材の有機酸金属化合物は、亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましく、また炭素数2~12の脂肪酸由来であるとよい。このような有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解し、遊離ハロゲンを捕捉する効果をより高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の加硫ブラダーは、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型するのに好適に使用される。なお、当然ながら、ハロゲンを含まないブチルゴムからなる未加硫ゴムコンパウンドの加硫成型にも好適に使用される。
【0018】
加硫ブラダーは、その最外表面にシリコーンゴム層を有する。そのシリコーンゴム層は、縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解した有機酸金属化合物を含む硬化物である。ここで、縮合硬化型シリコーンゴムは、脱アミン、脱水、脱アルコール型、脱オキシム、脱酢酸、脱アルコール、脱アミン、脱ヒドロキシルアミン、脱水素、等のいずれのタイプでもよく、またシリコーンゴム層を形成するために適切な組成物であるとよい。なかでも、縮合硬化型シリコーンゴムは、脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムであると好ましく、シリコーンゴム層の離型性能および耐久性能をより高くすることができる。縮合硬化型シリコーンゴムとして、いわゆるパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材またはセミパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材として上市された製品を適用することができる。
【0019】
シリコーンゴム層は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解した有機酸金属化合物を含む。有機酸金属化合物が、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解することにより、シリコーンゴム層中に均質に分散させることができる。一方、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解しない有機酸金属化合物の場合、スプレー、塗布等によりブラダー表面に適用するとき、有機酸金属化合物が粒子状に存在するので分散性が劣る。また、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドから移行する遊離ハロゲンを捕捉する効果が小さい。
【0020】
有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解するものであれば特に制限されるものではないが、好ましくは脂肪酸金属塩であるとよい。有機酸金属化合物が含有する金属は、好ましくは亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種であるとよく、なかでも亜鉛および/またはマンガンを含むとよく、とりわけ亜鉛を含むとよい。
【0021】
好適な脂肪酸金属塩は、好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数4~10の脂肪酸由来であるとよい。また、脂肪酸は、直鎖脂肪酸、分岐脂肪酸、環式脂肪酸のいずれでもよく、更に炭素-炭素不飽和結合を有してもよい。脂肪酸として、例えば、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカノン酸、ドデカン酸、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、メチルヘキサン酸、エチルヘキサン酸、メチルヘプタン酸、エチルヘプタン酸、メチルオクタン酸、エチルオクタン酸、メチルノナン酸、エチルノナン酸、2,2-ジメチルプロパン酸(別称:ネオペンタン酸)、ジメチルオクタン酸(ネオデカン酸を含む)、3-(3-エチルシクロペンチル)プロピオン酸(別称:ナフテン酸)、等が挙げられる。
【0022】
上述した金属および/または脂肪酸に由来する有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解し、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドから移行する遊離ハロゲンをより効果的に捕捉することができる。
【0023】
シリコーンゴム層を構成する硬化物は、縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し、有機酸金属化合物を、金属量として0.001~3質量部、好ましくは0.01~2.7、より好ましくは0.02~2.5質量部、より好ましくは0.05~2.0質量部含有する。有機酸金属化合物を、このような金属量で含有することにより、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドから移行する遊離ハロゲンを確実に捕捉することができる。
【0024】
シリコーンゴム層の厚さは、好ましくは1~100μm、より好ましくは10~80μmであるとよい。シリコーンゴム層をこのような厚さにすることにより、良好な離型性能を長続きさせると共に、生産コストの観点からも有利である。
【0025】
本発明の加硫ブラダーを用いて、未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型すると、未加硫ゴムコンパウンドがハロゲン化ブチルゴムを含むときでも、加硫ブラダーと加硫製品との離型性能が優れ、しかもその離型性能を従来レベル以上に長続きさせることができる。これは、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解した有機酸金属化合物がハロゲン化ブチルゴムから生じた遊離ハロゲンを捕捉することにより、遊離ハロゲンが縮合硬化型シリコーンゴムを劣化させるのを大幅に抑制するためと考えられる。本発明の加硫ブラダーを用いて、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドを加硫成型してゴム製品を製造すると、高品質のゴム製品を、通常の離型剤を使用せずに、安定して生産することができる。未加硫ゴムコンパウンドは、含有するゴム成分100質量%中、ハロゲン化ブチルゴムが好ましくは40質量%以上、より好ましくは50~100質量%であると、本発明の加硫ブラダーの効果がより明らかになる。
【0026】
本発明のコーティング材は、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドからなるゴム製品を加硫成型する加硫ブラダーに用いられる。このコーティング材は、縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解する有機酸金属化合物を含み、縮合硬化型シリコーンゴム100質量部に対し有機酸金属化合物を、金属量として0.001~3質量部、好ましくは0.02~2.5質量部、より好ましくは0.05~2.0質量部含有する。コーティング材を加硫ブラダーの表面に塗布し硬化させることにより、最外表面にシリコーンゴム層を有する上述した加硫ブラダーを容易に得ることができる。なお、縮合硬化型シリコーンゴムの100質量部は、その固形分の質量に基づくものとする。
【0027】
縮合硬化型シリコーンゴムは、脱アミン、脱水、脱アルコール型、脱オキシム、脱酢酸、脱アルコール、脱アミン、脱ヒドロキシルアミン、脱水素、等のいずれのタイプでもよく、またシリコーンゴム層を形成するために適切な組成物であるとよい。なかでも、縮合硬化型シリコーンゴムは、脱アミン縮合硬化型シリコーンゴムであると好ましく、シリコーンゴム層の離型性能および耐久性能をより高くすることができる。縮合硬化型シリコーンゴムとして、いわゆるパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材またはセミパーマネントタイプのシリコーン系離型コーティング材として上市された製品を適用することができる。
【0028】
コーティング材は、縮合硬化型シリコーンゴムおよびそれに溶解した有機酸金属化合物を含む。有機酸金属化合物が、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解することにより、シリコーンゴム中に均質に分散することができる。一方、有機酸金属化合物が縮合硬化型シリコーンゴムに溶解しない場合、スプレー、塗布等によりブラダー表面に適用するとき、有機酸金属化合物が粒子状に存在するので分散性が劣る。また、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドから移行する遊離ハロゲンを捕捉する効果が小さい。
【0029】
有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解するものであれば特に制限されるものではないが、好ましくは脂肪酸金属塩であるとよい。有機酸金属化合物が含有する金属は、好ましくは亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種であるとよく、なかでも亜鉛および/またはマンガンを含むとよく、とりわけ亜鉛を含むとよい。
【0030】
有機酸金属化合物は、亜鉛、マンガン、鉄、セリウム、銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましく、また炭素数2~12の脂肪酸由来であるとよい。このような有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解し、遊離ハロゲンを捕捉する効果をより高くすることができる。
【0031】
好適な脂肪酸金属塩は、好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数4~10の脂肪酸由来であるとよい。また、脂肪酸は直鎖脂肪酸、分岐脂肪酸、環式脂肪酸のいずれでもよく、更に炭素-炭素不飽和結合を有してもよい。脂肪酸として、例えば、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカノン酸、ドデカン酸、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、メチルヘキサン酸、エチルヘキサン酸、メチルヘプタン酸、エチルヘプタン酸、メチルオクタン酸、エチルオクタン酸、メチルノナン酸、エチルノナン酸、2,2-ジメチルプロパン酸(別称:ネオペンタン酸)、ジメチルオクタン酸(ネオデカン酸を含む)、3-(3-エチルシクロペンチル)プロピオン酸(別称:ナフテン酸)、等が挙げられる。
【0032】
上述した金属および/または脂肪酸に由来する有機酸金属化合物は、縮合硬化型シリコーンゴムに溶解し、ハロゲン化ブチルゴムを含む未加硫ゴムコンパウンドから移行する遊離ハロゲンをより効果的に捕捉することができる。
【0033】
コーティング材は、縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の有機溶剤溶液、または縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の水系エマルジョンであり、コーティング材100質量%中、縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の合計が好ましくは2~50質量%、より好ましくは5~40質量%であるとよい。縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の合計をこのような範囲にすることにより、加硫ブラダーの表面へのスプレー・塗布性が良好で、斑なく均一なシリコーンゴム層を形成することができる。なお、コーティング材中の縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の質量は、それぞれの固形分の質量とする。
【0034】
有機溶剤は、縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物を溶解するものであれば特に限定されるものではない。有機溶剤として、例えば、工業用ガソリン、ゴム揮発油、ミネラルスピリット、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0035】
水系エマルジョンは、縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物に、好ましくは水および界面活性剤を配合し、さらにpH調整剤を配合することが好ましい。水は、特に限定されるものではなく、例えば水道水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよく、イオン交換水や蒸留水等が好ましい。界面活性剤として、特に限定されるものではなく、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0036】
ノニオン性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0037】
アニオン性界面活性剤として、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、N-アシルタウリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ジアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0038】
カチオン性界面活性剤として、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルジメチルアンモニウム塩、ジポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、トリポリオキシエチレンアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、モノアルキルアミン塩、モノアルキルアミドアミン塩等が挙げられる。
【0039】
両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルジメチルカルボキシベタイン、アルキルアミドプロピルジメチルカルボキシベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0040】
中でもノニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が特に好ましい。
【0041】
pH調整剤は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩類、リン酸水素二ナトリウムなどその他燐酸塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類及びそれらの変成物等が挙げられる。
【0042】
コーティング材には、本発明の技術的効果を損なわない範囲で、任意の添加剤を加えてもよい。すなわち、増粘剤、消泡剤、浸透剤、帯電防止剤、無機粉体、防腐剤、シランカップリング剤、pH調整剤、緩衝剤、紫外線吸収剤、硬化触媒、水溶性樹脂、有機樹脂エマルジョン、顔料、染料などを適宜配合することができる。
【0043】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
縮合硬化型シリコーンゴム(脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム、固形分15質量%、ランクセス社製レノディブBC-638)に有機金属化合物を、表1に記載した縮合硬化型シリコーンゴムの固形分に対する有機金属化合物の金属量の比率で含有するように溶解させると共に、縮合硬化型シリコーンゴムおよび有機酸金属化合物の合計が15質量%になるように、ゴム揮発油で希釈し、有機溶剤溶液からなるコーティング材を調製した。
【0045】
上記で得られたコーティング材を、アルミカップ(開口部直径51mm、底部直径45mm、深さ12mm)中に、固形分が約1.5gとなるように入れ、室温で1日静置し溶剤を除去、乾燥させた後、150℃で1時間硬化させ、シリコーンゴム層を得た。比較例1,2および実施例1について、シリコーンゴム層の質量を測定した。
【0046】
別に、臭素化ブチルゴムを40質量%含むBr-IIR加硫ゴム片(30mm×30mm×3mm)およびハロゲン化ブチルゴムを含まず未変性ブチルゴムからなるIIR加硫ゴム片(30mm×30mm×3mm)を作成した。
【0047】
表1に記載したように、シリコーンゴム層の上に、Br-IIR加硫ゴム片またはIIR加硫ゴム片を重ねて、180℃で168時間、静置した。168時間後、Br-IIR加硫ゴム片およびIIR加硫ゴム片を取り外し、シリコーンゴム層の状態を目視、指触により観察し、初期との変化の有無を表1に記載した。また、比較例1,2および実施例1について、シリコーンゴム層の質量を測定し、初期の質量に対する質量%を算出した。
【0048】
【0049】
表1において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・縮合硬化型シリコーンゴム、(脱アミン縮合硬化型シリコーンゴム、固形分15質量%、ランクセス社製レノディブBC-638)
・2-エチルヘキサン酸セリウム、(金属含有量24.4質量%、ホープ製薬社製)
・ネオデカン酸銅、(金属含有量5.0質量%、日本化学産業社製)
・2-エチルヘキサン酸マンガン、(金属含有量8.0質量%、日本化学産業社製)
・2-エチルヘキサン酸鉄、(金属含有量6.0質量%、日本化学産業社製)
・ナフテン酸亜鉛、(金属含有量8.0質量%、東京化成社製)
【0050】
表1において、比較例1のシリコーンゴム層は、目視で劣化が観察され、指触で軟化、べたつきが認められた。また、初期の質量に対し94質量%と質量減少が大きかった。
これに対し、ハロゲン化ブチルゴムを含まないIIR加硫ゴム片と接触させた比較例2のシリコーンゴム層は、目視および指触による変化が認められず、初期の質量に対し97質量%と質量減少が小さかった。
実施例1のシリコーンゴム層は、臭素化ブチルゴムを含むBr-IIR加硫ゴム片と接触させたにもかかわらず、目視および指触による変化が認められず、かつ初期の質量に対し97質量%と質量減少が小さかった。
実施例2~7のシリコーンゴム層は、臭素化ブチルゴムを含むBr-IIR加硫ゴム片と接触させたにもかかわらず、目視および指触による変化が認められなかった。