(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20241111BHJP
B24B 23/04 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
B25F5/00 G
B24B23/04
(21)【出願番号】P 2021089801
(22)【出願日】2021-05-28
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 康政
(72)【発明者】
【氏名】トン バン ルェン
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/175009(WO,A1)
【文献】特開2016-087725(JP,A)
【文献】特開2015-229223(JP,A)
【文献】特開2017-075589(JP,A)
【文献】特開2021-024065(JP,A)
【文献】特開2010-194697(JP,A)
【文献】特開2002-254357(JP,A)
【文献】特開2019-111623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F1/00-5/02
B24B23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を揺動駆動させることにより被加工材を加工する電動工具であって、
一方向に回転駆動する回転シャフトを有するモータと、
前記回転シャフトの一端から延在し、前記回転シャフトの回転により、前記回転シャフトの回転中心軸から前記回転中心軸に直交する径方向にずれた位置において、前記回転中心軸を中心に回転運動するように構成された偏心シャフトと、
前記先端工具と前記偏心シャフトとを接続し、前記偏心シャフトの一周期分の回転運動を、前記先端工具を一往復させる揺動運動に変換するように構成された運動変換機構と、
前記回転シャフトの外周に設けられ、前記回転シャフトとともに回転するように構成されているバランサと、
を備え、
前記回転中心軸に沿って見たときに、前記バランサの重心は、前記偏心シャフトの中心軸である偏心軸と前記回転中心軸とを通る第1の仮想直線に対して垂直に交わり、前記回転中心軸を通る仮想垂線を挟んで、前記偏心軸とは反対側の領域に位置し、前記回転中心軸と前記バランサの重心とを通る第2の仮想直線は、前記第1の仮想直線に対して、前記回転シャフトの回転方向とは反対方向に、0°より大きく90°より小さい傾斜角度で傾斜している、電動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電動工具であって、
前記回転中心軸に沿って見たときに、前記バランサは、前記第1の仮想直線に対して非対称な形状を有している、電動工具。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の電動工具であって、
前記バランサは、前記回転シャフトが厚み方向に貫通する基部と、前記基部の側面から前記回転中心軸に沿った方向に突出している凸部とを有している、電動工具。
【請求項4】
請求項3記載の電動工具であって、
前記凸部は、前記基部のうち、前記径方向において前記回転中心軸から最も離れている外縁部、または、前記径方向において前記回転中心軸よりも前記外縁部に寄った位置に設けられている、電動工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動工具であって、
前記傾斜角度は、10°より大きく、60°より小さい、電動工具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電動工具であって、
前記モータと、前記偏心シャフトと、前記運動変換機構と、前記バランサと、を収容するハウジングを、さらに備え、
前記運動変換機構は、
前記先端工具が装着される工具取付部が端部に設けられ、周方向に往復回動することにより前記先端工具を揺動させるように構成されたスピンドルと、
一端が前記スピンドルに固定され、他端が前記偏心シャフトに接続され、前記偏心シャフトの回転運動によって前記スピンドルを支点として往復回動するように構成された連結アームと、
を有し、
前記スピンドルは、前記ハウジング内に設けられた第1軸受部と、前記ハウジング内に設けられ、前記第1軸受部と前記工具取付部との間に位置する第2軸受部とによって、前記周方向への往復回動が可能なように支持されており、
前記第1軸受部は、弾性部材を介して前記ハウジングに保持されている、電動工具。
【請求項7】
請求項6記載の電動工具であって、
前記第2軸受部は、ボールベアリングによって構成されている、電動工具。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電動工具であって、
前記モータは、前記回転中心軸が、前記先端工具を揺動させる支点となる軸に交差する姿勢で配置されている、電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
モータによって先端工具を揺動駆動させることにより被加工材を加工する電動工具が知られている。例えば、下記の特許文献1には、モータの出力軸に対して偏心して連結されている偏心軸をモータの出力軸を中心に回転させる偏心回転運動によって先端工具を揺動させる電動工具が開示されている。特許文献1の電動工具では、モータの出力軸に、重心位置を調整するための錘であるバランサを取り付けることにより、偏心軸の偏心回転運動において生じる遠心力の作用により駆動中の電動工具に生じる振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにバランサを用いていても、揺動駆動されている先端工具を被加工材に接触させると、被加工材と先端工具の間に先端工具の揺動を抑制する方向に働く抵抗が生じ、その抵抗の作用により、電動工具の振動が大きくなる場合があることを、本願発明の発明者らは見出した。このように、先端工具を揺動駆動させる電動工具においては、被加工材の加工中に発生する電動工具の振動を抑制することについて、依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、先端工具を揺動駆動させることにより被加工材を加工する電動工具として提供される。この態様の電動工具は、モータと、偏心シャフトと、運動変換機構と、バランサと、を備える。モータは、一方向に回転駆動する回転シャフトを有する。偏心シャフトは、回転シャフトの一端から延在し、回転シャフトの回転により、回転シャフトの回転中心軸から回転中心軸に直交する径方向にずれた位置において、回転中心軸を中心に回転運動するように構成されている。運動変換機構は、先端工具と偏心シャフトとを接続し、偏心シャフトの一周期分の回転運動を、先端工具を一往復させる揺動運動に変換するように構成されている。バランサは、回転シャフトの外周に設けられ、回転シャフトとともに回転するように構成されている。回転中心軸に沿って見たときに、バランサの重心は、偏心シャフトの中心軸である偏心軸と回転中心軸とを通る第1の仮想直線に対して垂直に交わり、回転中心軸を通る仮想垂線を挟んで、偏心軸とは反対側の領域に位置する。回転中心軸に沿って見たときに、回転中心軸とバランサの重心とを通る第2の仮想直線は、第1の仮想直線に対して、回転シャフトの回転方向とは反対方向に、0°より大きく90°より小さい傾斜角度で傾斜している。
【0006】
この態様の電動工具によれば、バランサの回転運動に伴って発生する遠心力を、揺動している先端工具と被加工材との接触によって生じる抵抗が大きくなる周期に合わせて、その抵抗を打ち消す方向に生じさせることができる。よって、被加工材の加工中に、先端工具と被加工材との間に生じる抵抗によって電動工具の振動が大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】回転中心軸RXと駆動軸DXとを通る切断面における電動工具の断面図である。
【
図2】
図1に示す先端領域2を抜き出して示す部分断面図である。
【
図3】
図2に示す3-3切断における電動工具の部分断面図である。
【
図5】回転駆動機構と運動変換機構の連結アームとを示す分解斜視図である。
【
図6】回転駆動機構と運動変換機構の連結アームとを示す斜視図である。
【
図7】回転シャフトに取り付けられたバランサを回転中心軸RXに沿って見たときの模式図。
【
図8】回転シャフトの回転によって先端工具が揺動する様子を示す第1の模式図である。
【
図9】回転シャフトの回転によって先端工具が揺動する様子を示す第2の模式図である。
【
図10】回転シャフトの回転によって先端工具が揺動する様子を示す第3の模式図である。
【
図11】回転シャフトの回転によって先端工具が揺動する様子を示す第4の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、電動工具のバランサは、回転中心軸に沿って見たときに、第1の仮想直線に対して非対称な形状を有していてよい。この構成の電動工具によれば、第2の仮想直線が第1の仮想直線に対して傾斜するような位置にバランサの重心を設けることが、より一層、容易になる。
【0009】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、電動工具のバランサは、回転シャフトが厚み方向に貫通する基部と、基部の側面から回転中心軸に沿った方向に突出している凸部とを有していてよい。この構成の電動工具によれば、凸部の分だけ、バランサの重量を増加させることができ、先端工具と被加工材との間に生じる抵抗を打ち消すための遠心力をさらに増大させることができる。よって、被加工材の加工中に先端工具と被加工材との間に生じる抵抗によって電動工具の振動が大きくなることを、より効果的に抑制できる。また、この構成の電動工具によれば、凸部を設けることによってバランサの重量を増大させることができるため、バランサの径方向の寸法を増大させなくとも、バランサの重量を増加させることができる。さらに、この構成の電動工具によれば、バランサの基部の側面に面する空間を、凸部の配置領域として有効活用することができ、電動工具内にデッドスペースが生じることを抑制できる。
【0010】
本開示の技術の1つ又はそれ以上の実施形態において、凸部は、基部のうち、径方向において回転中心軸から最も離れている外縁部、または、径方向において回転中心軸よりも外縁部に寄った位置に設けられてよい。この構成の電動工具によれば、バランサの重心位置を回転中心軸から離すことが容易にできるため、バランサの回転運動によって生じる遠心力を、さらに容易に増大させることができる。よって、被加工材の加工中に電動工具の振動が大きくなることを、より効果的に抑制できる。
【0011】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、第1の仮想直線に対する第2の仮想直線の傾斜角度は、10°より大きく、60°より小さくてよい。この構成の電動工具によれば、被加工材の加工中に先端工具と被加工材との間に生じる抵抗が大きくなる周期と、バランサの回転により、その抵抗を打ち消す方向に生じる遠心力が大きくなる周期とを、より近づけることができる。よって、被加工材の加工中に電動工具の振動が大きくなることを、より効果的に抑制することができる。
【0012】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、電動工具は、さらに、ハウジングを備えていてよい。ハウジングは、モータと、偏心シャフトと、運動変換機構と、バランサと、を収容してよい。運動変換機構は、スピンドルと、連結アームと、を有していてよい。スピンドルは、先端工具が装着される工具取付部が端部に設けられ、周方向に往復回動することにより先端工具を揺動させるように構成されていてよい。連結アームは、一端がスピンドルに固定され、他端が偏心シャフトに接続され、偏心シャフトの回転運動によってスピンドルを支点として往復回動するように構成されてよい。スピンドルは、ハウジング内に設けられた第1軸受部と、ハウジング内に設けられ、第1軸受部と工具取付部との間に位置する第2軸受部とによって、周方向に往復回動が可能なように支持されてよい。第1軸受部は、弾性部材を介してハウジングに保持されていてよい。この構成の電動工具によれば、先端工具の揺動によって生じるスピンドルの振動を弾性部材によって吸収できるため、スピンドルを通じてハウジングに振動が伝わることを抑制できる。よって、被加工材の加工中に電動工具の振動が大きくなることを、さらに抑制できる。
【0013】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、第2軸受部は、ボールベアリングによって構成されていてよい。この構成の電動工具によれば、第2軸受部の転動体であるボールを支点としてスピンドルが動きやすくなる。よって、先端工具の揺動により生じるスピンドルの振動を、第1軸受部を保持する弾性部材によって吸収させやすくでき、先端工具の揺動によって生じる振動がハウジングに伝わることを、さらに抑制できる。
【0014】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、モータは、回転中心軸が、先端工具を揺動させる支点となる軸に交差する姿勢で配置されてよい。この構成の電動工具によれば、先端工具の揺動の支点となる軸に対してモータの回転シャフトが横になる姿勢でモータを配置することができる。
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の代表的、かつ、非限定的な実施形態について、具体的に説明する。
【0016】
図1~
図3を参照し、本実施形態の電動工具10の概略構成を説明する。電動工具10は、先端工具100を揺動駆動させることにより、図示しない被加工材を加工する電動式の作業工具の一例である。
図1に示すように、電動工具10は、長尺状の形状を有しており、その長手方向における一端に、先端工具100が取り付けられている。先端工具100は、電動工具10に対して取り外しおよび交換が可能である。
図1および
図2に示すように、先端工具100は、後述するスピンドル60の下端部に取り付けられており、電動工具10は、
図3に示すように、スピンドル60を支点として先端工具100を揺動させる。
【0017】
電動工具10は、いわゆるマルチツールとも呼ばれる。電動工具10には、複数の種類の先端工具100が用意されており、使用者は、被加工材に対して行う加工の種類に応じて、任意の先端工具100を選択して電動工具10に取り付けることができる。先端工具100としては、例えば、ブレードや、スクレーパ、研削パッド、研磨パッド等、先端部や外周縁部を被加工材に接触させて加工する工具や、下面を被加工材に接触させて加工する工具がある。それらの先端工具100を用いて被加工材に対して行う加工としては、例えば、切断や、剥離、研削、研磨等がある。
【0018】
図1~
図3では、電動工具10に、主に切削加工を目的として用いられる先端工具100の一例として、先端部に切削歯が形成されている長尺状のブレードが取り付けられた状態が例示されている。以下の説明において参照される各図においても、先端工具100の一例としてブレードを図示してあるが、電動工具10に取り付けられる先端工具100はブレードに限定されない。
【0019】
以下、
図1~
図3に加え、他の図も順次参照しながら、電動工具10の構成の詳細を説明する。
【0020】
ここで、説明の便宜上、電動工具10に関する方向として、互いに直交する三方向である「前後方向」、「上下方向」、および、「左右方向」を、次のように定義する。
図1を参照する。電動工具10の長手方向に沿った方向を「前後方向」と定義する。電動工具10の前後方向において、先端工具100が取り付けられている一端側を「前側」と定義し、その反対の他端側を「後側」と定義する。
図1および
図2を参照する。先端工具100が取り付けられるスピンドル60の中心軸DXに沿った方向を「上下方向」と定義する。スピンドル60において先端工具100が取り付けられる一端側を「下側」と定義し、その反対の他端側を「上側」と定義する。
図3を参照する。前述の前後方向および上下方向に直交する方向を「左右方向」と定義する。前後方向、上下方向、および、左右方向を示す矢印は、以下において参照する各図においても適宜、
図1~
図3に対応するように図示されている。
【0021】
図1を参照する。電動工具10は、ハウジング11と、電力供給部20と、回転駆動機構30と、運動変換機構50と、を備える。ハウジング11は、電動工具10の外郭を構成する。ハウジング11は、長尺状の中空部材によって構成され、内部に、電力供給部20や、回転駆動機構30、運動変換機構50等の構成要素を収容している。電動工具10では、ハウジング11の長手方向における中央部は、使用者が把持する把持部として機能する。ハウジング11の外側には、工具取付部62と、操作部27と、変速操作部28と、レバー68とが設けられているが、それらについては追って説明する。
【0022】
電力供給部20は、ハウジング11の後端部に設けられている。電力供給部20は、電動工具10の電源部としての機能を有する。本実施形態では、電力供給部20は、ハウジング11の後端部から延び出ている電源コード22に接続されており、電源コード22を通じて外部電源から取り入れた電力を回転駆動機構30に供給する。他の実施形態では、電動工具10は、ハウジング11に充電式のバッテリが着脱可能に構成され、電力供給部20は、当該バッテリの電力を回転駆動機構30に供給するように構成されていてもよい。
【0023】
電力供給部20は、回転駆動機構30に供給される電力を制御するように構成された制御回路25を備えている。制御回路25は、電動工具10の駆動を制御するコントローラとして機能する。制御回路25は、ハウジング11の上面に設けられたスライド式の操作部27の使用者によるオン/オフ操作に従って、回転駆動機構30への電力の供給開始/供給停止を制御する。また、制御回路25は、回転駆動機構30のモータ31に供給する電力を制御することにより、モータ31の回転数を制御する。電動工具10では、ハウジング11の後端部の下端に、使用者によって操作されるダイヤル式の変速操作部28が設けられている。制御回路25は、変速操作部28の回転角度に応じてモータ31に供給される電力を変更し、モータ31の回転数を制御する。電動工具10では、モータ31の回転数に応じて、先端工具100が揺動する速度が変化する。
【0024】
回転駆動機構30は、モータ31と、偏心シャフト40と、バランサ45と、を備える。モータ31は、電動工具10の駆動力源に相当し、電力供給部20から供給される電力によって駆動する。本実施形態では、モータ31として、整流子モータが採用されている。他の実施形態では、モータ31として、ブラシレス直流モータが採用されてもよい。モータ31は、回転駆動力を出力する出力シャフトに相当する回転シャフト32と、回転シャフト32の周囲に固定されたロータ33と、ロータ33の周囲を囲むように配置されたステータ34と、を備える。
【0025】
回転シャフト32は、金属製の円柱状の部材によって構成される。回転シャフト32は、ハウジング11内のほぼ中央部において前後方向に沿って配置されている。回転シャフト32の先端部と後端部とはステータ34から延び出ている。回転シャフト32は、電磁力によってステータ34内でロータ33とともに回転駆動する。回転シャフト32の回転中心軸RXは、回転シャフト32の中心軸と一致する。電動工具10では、回転シャフト32は、予め定められた一方向にのみ回転駆動する。回転シャフト32には、ステータ34より前方に、回転シャフト32とともに回転し、放熱のための空気流を発生させるファン36が設けられている。
【0026】
回転シャフト32は、ハウジング11内の所定の位置に固定された前側軸受部37と後側軸受部38とによって回転可能に支持されている。前側軸受部37と後側軸受部38は、例えば、ボールベアリングによって構成される。前側軸受部37は、回転シャフト32のうち、ステータ34から前方に延び出ている先端部分を支持する。前側軸受部37は、ファン36より前方に設けられている。後側軸受部38は、回転シャフト32のうち、ステータ34から後方に延び出ている後端部分を支持する。
【0027】
図2、および、
図3を参照する。偏心シャフト40は、回転シャフト32よりも径が小さい略円柱状の金属製の部材によって構成されている。偏心シャフト40は、回転シャフト32に一体的に連結されており、回転中心軸RXから径方向にずれた位置において、回転シャフト32の一端である先端から前方に向かって延在している。「径方向」とは、回転中心軸RXに直交する方向を意味する。以下では、偏心シャフト40の中心軸を「偏心軸EX」とも呼ぶ。偏心軸EXは、回転中心軸RXとほぼ平行である。なお、
図3では、回転中心軸RXと偏心軸EXとは上下方向に重なっている。偏心シャフト40は、モータ31が駆動したときの回転シャフト32の回転により、回転中心軸RXから径方向にずれた位置において、回転中心軸RXを中心に回転運動する。後述するように、電動工具10では、偏心シャフト40のこの偏心回転運動によって、先端工具100が揺動される。
【0028】
バランサ45は、回転シャフト32の外周に設けられた錘であり、回転シャフト32とともに回転する。バランサ45は、偏心シャフト40と前側軸受部37との間において、回転シャフト32に固定されている。バランサ45の重心位置は、回転中心軸RXから径方向にずれた位置に設定されている。バランサ45の重心位置は、モータ31が駆動したときのバランサ45の回転により、偏心シャフト40の偏心回転運動によって生じる遠心力を打ち消す方向に遠心力が生じるように調整されている。また、バランサ45の重心位置は、モータ31が駆動したときのバランサ45の回転により、電動工具10によって被加工材を加工するときに、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗を低減する方向に遠心力が生じるように調整されている。バランサ45の形状や重心位置、その重心位置によって得られる効果についての詳細は後述する。
【0029】
図2、および、
図3を参照する。運動変換機構50は、先端工具100と偏心シャフト40とを接続し、偏心シャフト40の一周期分の回転運動を、先端工具100を一往復させる揺動運動に変換するように構成されている。運動変換機構50は、ベアリング52と、連結アーム53と、スピンドル60と、を備える。
【0030】
ベアリング52は、偏心シャフト40の外周を囲むように取り付けられており、偏心シャフト40と連結アーム53との連結を媒介する。ベアリング52は、例えば、ボールベアリングによって構成される。ベアリング52の介在によって、偏心シャフト40が偏心回転運動するときに連結アーム53との間に生じる摩擦が軽減される。また、本実施形態では、ベアリング52の外周面は、ベアリング52の中心軸に沿った方向における中央部位が、その中心軸に直交する径方向外側に向かって隆起するように、球面状に湾曲している。こうした湾曲した外周面を有するベアリングは、スフィアベアリングとも呼ばれる。
【0031】
図3を参照する。連結アーム53は、一端がスピンドル60に固定され、他端が偏心シャフト40に接続された構成を有し、偏心シャフト40の回転運動によってスピンドル60を支点として往復回動するように構成されている。連結アーム53は、前方の環状部54と、環状部54の後方に設けられた一対のアーム部55と、を有する。連結アーム53において、環状部54は、前述の「一端」に相当し、一対のアーム部55は、前述の「他端」に相当する。
図2および
図3に示すように、環状部54の中央の貫通孔には、本体部が円筒状の金属部材によって構成されたスピンドル60が挿通される。環状部54はスピンドル60の上端部における外周に固定される。
図3に示すように、一対のアーム部55は、左右方向に配列されており、それぞれが環状部54の後端部から後方へ延び出ている。本実施形態では、各アーム部55は、四角柱形状を有している。連結アーム53は、一対のアーム部55が、偏心シャフト40に取り付けられた上述のベアリング52を左右方向に挟むことにより、偏心シャフト40に連結される。一対のアーム部55は、ベアリング52の左右の側面に対して、接合等によって固定されず、単に接した状態にされる。連結アーム53が偏心シャフト40の回転運動によってスピンドル60を支点として往復回動する機構については後述する。
【0032】
図2を参照する。スピンドル60の下端部は、ハウジング11から延び出ており、スピンドル60の下端に設けられた工具取付部62はハウジング11の外部に位置する。スピンドル60は、工具取付部62において先端工具100を保持し、先端工具100の揺動運動の支点として機能する。
【0033】
スピンドル60は、電動工具10の先端部において、その中心軸DXが回転中心軸RXに交差する姿勢で、スピンドル保持機構70に保持されている。本実施形態では、スピンドル60の中心軸DXは、回転中心軸RXにほぼ直交する。スピンドル保持機構70は、スピンドル60を、中心軸DXを中心に回動可能なように保持する。工具取付部62に取り付けられた先端工具100は、スピンドル60が中心軸DX周りに往復回動することによって揺動する。スピンドル60の中心軸DXを「駆動軸DX」とも呼ぶ。
【0034】
上記のように、電動工具10では、回転中心軸RXが、先端工具100を揺動させる支点となる軸に相当する駆動軸DXに交差する。これによって、モータ31を、駆動軸DXに対してモータ31の回転シャフト32が交差する姿勢で配置することが可能になる。モータ31を、そうした姿勢で配置すれば、上述した把持部として機能するハウジング11の中央部の内部空間を、モータ31の収容部として有効に活用することが可能になる。
【0035】
スピンドル60の工具取付部62には、先端工具100が次のように取り付けられる。工具取付部62は、スピンドル60の下端において開口し、スピンドル60の内部空間に連通している下端開口63と、下端開口63の周囲に設けられ、下方に突出している複数の突起部65と、を有している。工具取付部62への先端工具100の固定には締結シャフト110が用いられる。締結シャフト110は、工具取付部62の下端開口63を通じてスピンドル60の内部空間に挿入される。締結シャフト110は、スピンドル60内部において、その上端がクランプ部材66に挟持された状態で、コイルばね67から上方への付勢力を受けることにより、スピンドル60に対して固定される。
【0036】
先端工具100の基端部には、締結シャフト110が挿通される貫通孔102と、工具取付部62の上記の突起部65に嵌合する篏合穴103と、が設けられている。また、締結シャフト110の下端には、局所的に拡径されて側方に張り出しているヘッド部112が設けられている。締結シャフト110が、先端工具100の貫通孔102を介してスピンドル60の内部に挿通されて固定されると、先端工具100の貫通孔102の周縁部は、締結シャフト110のヘッド部112と、スピンドル60の下端面との間に挟まれる。これにより、先端工具100は、スピンドル60から下方に脱落することが規制される。
【0037】
なお、詳細な説明は省略するが、電動工具10では、
図1および
図2において示すハウジング11の先端面に沿って配置されているレバー68を、前方に引き上げるように回動させることにより、スピンドル60内のコイルばね67を収縮させる方向に弾性変形させることができる。これにより、コイルばね67の付勢力による締結シャフト110の固定状態が解除され、スピンドル60から締結シャフト110および先端工具100を取り外すことが可能になる。なお、スピンドル60に対する締結シャフト110の固定方式としては、例えば、ネジ留め式や、本実施形態とは異なるクランプ方式など、他の任意の固定方式が採用されてもよい。
【0038】
図3を参照して、偏心シャフト40の偏心回転運動によって先端工具100を揺動運動させるメカニズムを説明する。偏心シャフト40の偏心回転運動では、偏心シャフト40は、回転中心軸RXに対して左右方向に往復移動する。偏心シャフト40のこの左右方向への往復移動によって、連結アーム53の一対のアーム部55は左右方向に回動し、環状部54に嵌められているスピンドル60を駆動軸DX回りの周方向に往復回動させる。これによって、スピンドル60の下端の工具取付部62に固定されている先端工具100は、駆動軸DXを支点として駆動軸DX周りに揺動する。先端工具100が駆動軸DXを支点として揺動する角度は、例えば、1~5°程度である。
【0039】
図2を参照する。スピンドル保持機構70は、ハウジング11の先端部内に設けられており、スピンドル60を、駆動軸DXを中心として周方向に回動可能な状態で保持する。スピンドル保持機構70は、第1軸受部73と、弾性部材75と、第2軸受部76と、を備える。
【0040】
第1軸受部73は、スピンドル60の上端部に設けられており、スピンドル60を周方向に回動可能に支持する。第1軸受部73は、例えば、ボールベアリングによって構成される。第1軸受部73の外周には弾性部材75が配置されており、第1軸受部73は弾性部材75を介してハウジング11に保持されている。弾性部材75は、例えば、ゴム又は樹脂製のOリングによって構成される。弾性部材75によって、電動工具10の駆動中に先端工具100の揺動によって生じるスピンドル60の振動が吸収されるため、スピンドル60を通じてハウジング11に、先端工具100の揺動によって生じる振動が伝わることを抑制できる。
【0041】
第2軸受部76は、第1軸受部73と工具取付部62との間においてハウジング11に固定されており、スピンドル60を周方向に回動可能に支持する。第2軸受部76は、連結アーム53より下方に設けられている。第2軸受部76は、スピンドル60の上下方向における中央部のあたりを支持している。
【0042】
本実施形態では、第2軸受部76は、ボールベアリングによって構成されている。ボールベアリングでは、転動体であるボールは、内輪及び外輪に点接触している。スピンドル60は、第2軸受部76の内輪に固定されるため、スピンドル60は、実質的には、第2軸受部76において、転動体であるボールに点接触により支持された状態となる。これに対して、第2軸受部76を、ボールベアリングに代えて、例えば、ニードルベアリング等のローラベアリングで構成した場合、転動体がローラであるため、スピンドル60は、そのローラに線接触で支持された状態となる。スピンドル60は、第2軸受部76の転動体に点接触で支持されていた方が線接触で支持されている状態よりも、第2軸受部76の転動体を支点としてハウジング11に対して動きやすくなる。よって、第2軸受部76をボールベアリングによって構成すれば、先端工具100の揺動により生じるスピンドル60の振動を、第1軸受部73とハウジング11との間に配置された弾性部材75によって吸収させやすくできる。よって、先端工具100の揺動によって生じる振動がハウジング11に伝わることを、さらに抑制できる。
【0043】
【0044】
図4を参照する。バランサ45は、基部80を有している。基部80には、貫通孔である挿通孔81が形成されており、回転シャフト32は、挿通孔81を介して基部80を貫通する。本実施形態では、バランサ45は、金属製の板状部材によって構成され、基部80は、平板状を有している。基部80は、その厚み方向に沿って見たときに概ね扇形形状を有する。回転シャフト32は、挿通孔81を介して基部80を厚み方向に貫通する。
【0045】
バランサ45には、基部80の側面から回転中心軸RXに沿った方向に突出する凸部83が設けられている。本明細書において、基部80の側面とは、基部80において回転中心軸RXに沿った方向に向く一対の面のうちの少なくとも一方を意味する。本実施形態では、凸部83は、基部80の円弧を構成する外縁部82上に設けられている。凸部83は、外縁部82に沿って円弧形状に延在しており、外縁部82より径方向外側に張り出している部位を有している。また、本実施形態では、凸部83は、前方に向かって突出している。なお、他の実施形態では、凸部83は、後方に突出していてもよいし、凸部83は、前方に突出するものと、後方に突出するものの両方が設けられてもよい。
【0046】
バランサ45では、基部80の扇形形状の2本の直線状の辺に挟まれた角部は、丸められて角丸部84を構成している。角丸部84における扇形形状の中心角に相当する角は80°~110°程度である。挿通孔81は、円弧を構成する外縁部82よりも角丸部84に寄った位置に設けられている。挿通孔81の開口断面は、円形の一部を切り欠いた略D字型の形状を有しており、挿通孔81の内周面には平面状の切欠部85が形成されている。
【0047】
図5、および、
図6を参照する。電動工具10の組み立ての際には、回転シャフト32には、前側軸受部37が取り付けられた後に、バランサ45が取り付けられる。
図5に示すように、回転シャフト32の先端部には、当該先端部がバランサ45の挿通孔81に嵌合するように、円柱側面の一部を平面状に切り欠いた切欠壁面32sが設けられている。挿通孔81の切欠部85と回転シャフト32の切欠壁面32sとの係合により、回転中心軸RXの軸周り方向におけるバランサ45の取り付け角度が規定され、偏心シャフト40の偏心軸EXに対するバランサ45の重心位置が後述する位置に規定される。
【0048】
バランサ45が取り付けられた後、バランサ45の前方に、ワッシャ86を挟んで、ベアリング52が、回転シャフト32の先端に設けられている偏心シャフト40に取り付けられる。偏心シャフト40の先端外周には、偏心シャフト40からのベアリング52の脱落を規制するためのスナップリング87が嵌められる。続いて、偏心シャフト40に取り付けられたベアリング52の外周側面を、一対のアーム部55が左右方向に挟むように連結アーム53が取り付けられる。
【0049】
図7を参照する。ここで、回転中心軸RXに沿って見たときの状態を想定する。「回転中心軸RXに沿って見たとき」とは、「バランサ45を前側または後側から見たとき」を意味する。
図7は、バランサ45を前側から見たときの状態を示している。このとき、バランサ45は、回転中心軸RXよりも、偏心軸EXから回転中心軸RXに向かう方向側の領域GAに重心CGを有している。言い換えると、バランサ45の重心CGは、偏心軸EXと回転中心軸RXとを通る第1の仮想直線L1に対して垂直に交わり、回転中心軸RXを通る仮想垂線VLを挟んで、偏心軸EXとは反対側の領域GAに位置する。この領域GAに重心CGを有していることにより、モータ31を回転駆動させたときに、偏心シャフト40の偏心回転運動によって生じる遠心力とは反対の方向の成分を有する遠心力を、バランサ45の回転運動によって生じさせることができる。よって、偏心シャフト40の回転運動によって生じる遠心力の作用によって電動工具10に振動が生じることが抑制される。
【0050】
ここで、回転中心軸RXとバランサ45の重心CGとを通る第2の仮想直線L2は、第1の仮想直線L1に対して傾斜している。第2の仮想直線L2は、第1の仮想直線L1に対して、回転シャフト32の回転方向RDとは反対方向に、0°より大きく90°より小さい傾斜角度θで傾斜している。これにより、電動工具10を駆動させて先端工具100により被加工材を加工しているときに、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗が大きくなる周期に合わせて、バランサ45の回転運動によって生じる遠心力を、その抵抗を打ち消す方向に生じさせることができる。
【0051】
以下に、バランサ45の回転運動によって生じる遠心力の作用の詳細を説明する。
【0052】
図8~
図11を参照する。
図8~
図11には、回転シャフト32が一周期分の回転駆動をし、先端工具100が一往復の揺動をするときの様子が、回転シャフト32の回転角度90°ごとに、順に示されている。
図8~
図11の各図では、紙面上段に、回転中心軸RXに沿って前側から見たときの回転シャフト32に取り付けられたバランサ45が図示されており、紙面下段には、駆動軸DXに沿って上側から見たときの先端工具100が図示されている。
【0053】
図8~
図11の紙面上段には、電動工具10での回転シャフト32、偏心シャフト40、および、バランサ45の配置姿勢に対応させた上下方向および左右方向を示す矢印を図示してある。また、
図8~
図11の各図の紙面下段には、電動工具10の駆動中に先端工具100が揺動する範囲である揺動範囲SAを二点鎖線で図示してある。なお、
図8~
図11では、先端工具100が揺動している様子を解りやすくするために、先端工具100が駆動軸DXを支点として揺動する角度を敢えて極端に大きく図示してある。
【0054】
図8は、回転中心軸RXが偏心軸EXの上に位置し、偏心軸EXがその下に位置して、回転中心軸RXと偏心軸EXとが上下方向に重なり合う位置にあるときの様子を示している。このとき、先端工具100は、その揺動範囲SAの中央位置に位置する。
図8の状態から、回転シャフト32がモータ31の回転方向RDに90°回転すると、
図9に示すように、偏心軸EXは、回転中心軸RXを中心に偏心回転して、回転中心軸RXに対して左右方向に並ぶ位置に移動する。
図9では、偏心軸EXは、回転中心軸RXの左側に移動している。すると、先端工具100は、
図8に示した揺動範囲SAの中央位置から揺動範囲SAの一方の端、
図9では揺動範囲SAの紙面左側の端へと駆動軸DXを中心に回動する。
【0055】
図9の状態から、回転シャフト32がモータ31の回転方向RDに90°回転すると、
図10に示すように、偏心軸EXは、回転中心軸RXを中心に偏心回転して、回転中心軸RXの上に移動し、回転中心軸RXと上下方向に重なり合う。これに伴って、先端工具100は、
図9に示した位置から揺動範囲SAの中央位置へと回動する。
図10の状態から、回転シャフト32がモータ31の回転方向RDに90°回転すると、
図11に示すように、偏心軸EXは、回転中心軸RXを中心に偏心回転して、回転中心軸RXに対して、左右方向において
図9のときとは反対側に並ぶ位置に移動する。
図11では、偏心軸EXは、回転中心軸RXの右側に移動している。先端工具100は、
図10に示した揺動範囲SAの中央位置から揺動範囲SAの他方の端、
図11では揺動範囲SAの紙面右側の端へと駆動軸DXを中心に回動する。モータ31が駆動している間、
図8~
図11の運動が繰り返される。
【0056】
図9、および、
図11を参照する。
図9、および、
図11の状態のときには、バランサ45の回転運動による遠心力は、矢印CFに示すように、偏心シャフト40の偏心回転運動によって生じる遠心力EFを打ち消す方向の成分を有するように生じる。よって、電動工具10の駆動中に、偏心シャフト40の偏心回転運動によって生じる遠心力によって振動が大きくなることが、バランサ45の回転運動によって抑制される。
【0057】
図8、および、
図10を参照する。電動工具10による被加工材の加工中に先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗は、矢印REで示すように、先端工具100に対しては、その揺動方向ODとは反対の方向に働き、偏心シャフト40に対しては、矢印REaで示すように、その偏心回転運動を妨げる方向に働く。当該抵抗は、先端工具100が揺動範囲SAの中央に位置するときに最も大きくなる。上述したように、本実施形態では、バランサ45の重心CGは、第1の仮想直線L1に対して第2の仮想直線L2が回転シャフト32の回転方向RDとは反対の方向に、0°より大きく、90°より小さい傾斜角度θで傾斜する位置に位置する。バランサ45の重心CGがそのような位置にあれば、
図8や
図10に示す周期では、バランサ45の回転運動による遠心力は、矢印CFに示すように、偏心シャフト40の偏心回転運動を促進する方向、つまり、偏心シャフト40に対して働く前述の抵抗を打ち消す方向の成分を有するように生じる。このように、電動工具10によれば、被加工材を加工しているときに、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗が大きくなる周期に合わせて、バランサ45の偏心回転運動によって生じる遠心力を、その抵抗を打ち消す方向に生じさせることができる。よって、被加工材の加工中に、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗によって電動工具10の振動が大きくなることが抑制される。
【0058】
ここで、本実施形態の構成に対する第1の比較例として、バランサ45の重心CGが、第1の仮想直線L1に対する第2の仮想直線L2の傾斜角度θが、0°となる位置にある構成を仮定する。この場合には、バランサ45によって生じる遠心力は、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗の影響を打ち消す方向の成分をほとんど有しなくなる。よって、この比較例の構成では、被加工材の加工中に生じる振動はほとんど低減されない。
【0059】
また、第2の比較例として、バランサ45の重心CGが、傾斜角度θが、90°または、270°となる位置にある構成を仮定する。この場合には、バランサ45の重心によって生じる遠心力が、偏心シャフト40によって生じる遠心力に作用する方向の成分をほとんど有しなくなる。よって、この比較例の構成では、先端工具100が被加工材に接していないときの振動が大きくなる可能性がある。
【0060】
第3の比較例として、バランサ45の重心CGが、傾斜角度θが、90°より大きく、270°より小さくなる位置にある構成を仮定する。この場合には、バランサ45によって生じる遠心力は、偏心シャフト40の偏心回転運動によって生じる遠心力の影響を大きくする方向に働く成分を有することになる。よって、この比較例の構成では、先端工具100が被加工材に接していないときの振動が大きくなる可能性がある。
【0061】
第4の比較例として、バランサ45の重心CGが、傾斜角度θが、180°より大きく、360°より小さくなる位置にある構成を仮定する。この場合には、バランサ45によって生じる遠心力は、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗と同じ方向の成分を有することになり、先端工具100の揺動が阻害され、被加工材の加工性能が低下してしまう可能性がある。
【0062】
本実施形態のように、バランサ45の重心CGが、傾斜角度θが、0°より大きく90°より小さい値となる位置にあれば、
図8~
図11で説明したように、先端工具100が被加工材に接触していないときに生じる振動と、被加工材に接触しているときに生じる振動の両方を低減することができる。ここで、傾斜角度θは、10°より大きく60°より小さいことが好ましく、15°より大きく、50°より小さいことがより好ましい。これにより、先端工具100が被加工材に接触していないときの振動抑制効果と、先端工具100が被加工材に接触しているときの振動抑制効果の両方を、よりバランスよく得ることができる。傾斜角度θは、例えば、20°より大きく、45°よりも小さい値としてもよいし、25°より大きく、40°より小さい値としてもよい。傾斜角度θは、例えば、バランサ45の重さや、回転中心軸RXに対する偏心軸EXの位置、モータ31の回転数の範囲などの諸条件を考慮して、適宜定められればよい。
【0063】
図7を参照する。本実施形態では、回転中心軸RXに沿って見たときに、バランサ45は、第1の仮想直線L1に対して非対称な形状を有している。こうした形状であれば、バランサ45の重心CGを、第1の仮想直線L1からずれた位置に位置させることが容易である。よって、バランサ45の重心CGを、傾斜角度θが、0°より大きく90°より小さい値となる位置に調整することが容易にできる。また、本実施形態では、バランサ45は、回転中心軸RXと偏心軸EXとで規定される仮想平面の両側の領域に含まれる部位のそれぞれの体積が異なる形状を有している。これによって、バランサ45の重心CGを、傾斜角度θが、0°より大きく90°より小さい値となる位置に調整することが、さらに容易になっている。
【0064】
図4を参照する。上述したように、本実施形態では、バランサ45は、基部80から回転中心軸RXに沿った方向に突出している凸部83を有している。このバランサ45によれば、凸部83を有している分だけ、その重量が増加されているため、回転運動によって生じる遠心力が、凸部83がない場合よりも大きくなる。よって、被加工材の加工中に先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗を、より効果的に低減することができる。また、凸部83を設けることによってバランサ45の重量を増加できているため、バランサ45の重量増加のために、バランサ45の径方向の寸法を大きくしなくてもよい。つまり、凸部83を設けることによって、バランサ45の径方向の寸法を増大させることなく、バランサ45の重量を増加させることができるため、バランサ45の径方向の寸法が増加することを回避できる。
【0065】
さらに、本実施形態のバランサ45を用いれば、ハウジング11内においてバランサ45の基部80の側面が面する空間を、凸部83の配置領域として有効活用できる。本実施形態では、凸部83は、基部80の側面から偏心シャフト40のある方向に向かって突出しており、偏心シャフト40に取り付けられたベアリング52の外周の空間が、デッドスペースとなることなく、凸部83の配置領域として有効活用されている。
【0066】
図7を参照する。本実施形態では、凸部83は、回転中心軸RXに直交する径方向において回転中心軸RXから最も離れている外縁部82に設けられている。本実施形態では、外縁部82は円弧状の部位である。本実施形態のバランサ45によれば、凸部83の重量によって、バランサ45の重心CGの位置と回転中心軸RXとの間の距離を増大させやすく、バランサ45の回転によって生じる遠心力を増大させやすい。よって、被加工材の加工中に電動工具10の振動が大きくなることが、より効果的に抑制される。なお、他の実施形態では、凸部83は、外縁部82に設けられていなくてもよく、回転中心軸RXよりも外縁部82に寄った位置に設けられていてもよい。この構成であっても、凸部83の重量によって、バランサ45の重心CGの位置を、回転中心軸RXから離すことが容易にでき、バランサ45の回転によって生じる遠心力を増大させやすい。
【0067】
以上のように、本実施形態の電動工具10によれば、バランサ45の重心CGが、被加工材の加工中に先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗の影響を打ち消す方向に遠心力を生じさせる位置に規定されている。よって、被加工材の加工中に、先端工具100と被加工材との間に生じる抵抗によって電動工具10の振動が大きくなることが抑制される。
【0068】
[他の実施形態]
本開示の技術は、上記の実施形態の構成および上記実施形態中において他の実施形態として説明された構成に限定されることはない。上記の実施形態の構成は、例えば、以下のように改変することも可能である。以下に説明する実施形態の構成は、上記の実施形態で説明された構成と同様に、本開示の技術を実施するための一形態として位置づけられる。
【0069】
上記実施形態において、バランサ45は、回転中心軸RXに沿って見たときに、扇形形状を有していなくてもよく、例えば、正円形状や楕円形状を有していてもよいし、略三画形状を有していてもよい。バランサ45は、上記実施形態で説明したように、重心CGの位置が第1の仮想直線L1と第2の仮想直線L2との間の傾斜角度θが、0°より大きく90°より小さい値となる位置に調整された構成を有していればよい。また、上記実施形態において、バランサ45は、例えば、円弧上の外縁部82に向かってなだらかに厚みが増加するように、全体が球面状に構成されていてもよい。
【0070】
上記実施形態において、モータ31は、例えば、回転中心軸RXと駆動軸DXとがほぼ平行になる姿勢で配置されてもよい。この場合には、モータ31は、スピンドル60の上方に配置されてもよい。モータ31は、回転中心軸RXが駆動軸DXからずれた位置に位置するように配置されてもよい。上記実施形態において、モータ31は、回転中心軸RXが駆動軸DXに対してほぼ直交する姿勢で配置される代わりに、回転中心軸RXが駆動軸DXに対して斜めに交差する姿勢で配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10:電動工具、11:ハウジング、20:電力供給部、22:電源コード、25:制御回路、27:操作部、28:変速操作部、30:回転駆動機構、31:モータ、32:回転シャフト、32s:切欠壁面、33:ロータ、34:ステータ、36:ファン、37:前側軸受部、38:後側軸受部、40:偏心シャフト、45:バランサ、50:運動変換機構、52:ベアリング、53:連結アーム、54:環状部、55:一対のアーム部、60:スピンドル、62:工具取付部、63:下端開口、65:突起部、66:クランプ部材、67:コイルばね、68:レバー、70:スピンドル保持機構、73:第1軸受部、75:弾性部材、76:第2軸受部、80:基部、81:挿通孔、82:外縁部、83:凸部、84:角丸部、85:切欠部、86:ワッシャ、87:スナップリング、100:先端工具、102:貫通孔、103:嵌合穴、110:締結シャフト、112:ヘッド部、CF:遠心力が働く方向を示す矢印、CG:重心、DX:駆動軸、EF:偏心シャフトの遠心力、EX:偏心軸、GA:領域、L1:第1の仮想直線、L2:第2の仮想直線、OD:揺動方向、RD:回転方向、RE,REa:抵抗が働く方向を示す矢印、RX:回転中心軸、SA:揺動範囲、VL:仮想垂線