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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】高圧タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20241111BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20241111BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20241111BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
B29C70/32
F17C1/06
F16J12/00 A
B29C70/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021095399
(22)【出願日】2021-06-07
(65)【公開番号】P2022187386
(43)【公開日】2022-12-19
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】指田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】堀 公則
(72)【発明者】
【氏名】川島 広平
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-014019(JP,A)
【文献】特開2013-063584(JP,A)
【文献】特開2013-000887(JP,A)
【文献】特開2009-191927(JP,A)
【文献】特開2007-260976(JP,A)
【文献】特表2006-502929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
F17C 1/06
F16J 12/00
B29C 70/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のライナの外表面に補強層を有する高圧タンクの製造方法であって、
熱硬化性の樹脂を含浸させた繊維束を張力を付与した状態で前記ライナの前記外表面に巻き付ける巻回工程と、
前記外表面に巻回した前記繊維束に含まれる前記樹脂を熱硬化させて前記補強層を形成する補強層形成工程と、
を有し、
前記巻回工程は、前記繊維束に張力が付与されている状態で、圧着部材により、前記繊維束の巻き終わりである終端部を、前記ライナに巻き付けられた前記繊維束の外周部位と熱圧着させる圧着工程と、
前記終端部に近接して前記ライナに巻回されない前記繊維束の余剰部を切断具で切断する切断工程とを有
前記圧着工程では、前記繊維束のうち前記圧着部材によって押圧される部分の、前記繊維束の繊維方向に沿った両側を、押え部材によって押えた状態で、前記終端部を前記繊維束の前記外周部位と熱圧着させる、高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、
前記圧着工程では、前記ライナの外側から前記終端部を前記圧着部材によって前記ライナ側へと押圧することで、前記終端部と前記繊維束の前記外周部位を熱圧着させる、高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
中空状のライナの外表面に補強層を有する高圧タンクの製造方法であって、
熱硬化性の樹脂を含浸させた繊維束を張力を付与した状態で前記ライナの前記外表面に巻き付ける巻回工程と、
前記外表面に巻回した前記繊維束に含まれる前記樹脂を熱硬化させて前記補強層を形成する補強層形成工程と、
を有し、
前記巻回工程は、前記繊維束の巻き終わりである終端部を、前記ライナに巻き付けられた前記繊維束の外周部位と熱圧着させる圧着工程と、
前記終端部に近接して前記ライナに巻回されない前記繊維束の余剰部を切断具で切断する切断工程とを有し、
前記圧着工程では、前記繊維束に張力が付与されている状態で、前記ライナの外側から前記終端部を圧着部材によって前記ライナ側へと押圧することで、前記終端部と前記繊維束の前記外周部位を熱圧着させ、
前記巻回工程は、前記終端部における前記繊維束の繊維方向を検出する検出工程を含み、
前記検出工程により検出した前記繊維方向に応じて、前記圧着部材の押圧面の向き及び前記繊維束の切断方向の少なくともいずれか一方を変化させる、高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項記載の製造方法において、
前記押圧面は、前記繊維束側へ向けて凸状となる断面円弧状に形成され、該押圧面が前記繊維束の前記繊維方向に沿った状態で前記繊維束を押圧する、高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項記載の製造方法において、
前記圧着部材によって前記繊維束を前記ライナ側へ向けて押圧する際、該繊維束を前記ライナ側へ押さえる押え部材を備え、該押え部材は、前記繊維方向に沿った前記押圧面の両側を押さえる、高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライナの外周面に繊維束が巻回された高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンクは、円筒状に形成される。高圧タンクは、水素ガス等の高圧のガスを内部に充填可能に形成される。特許文献1に開示される高圧タンクは、ライナと、補強層と、口金とを有する。ライナは、高圧のガスを充填するための空間を有する。補強層は、樹脂の含浸された繊維束を前記ライナに巻回することでライナを補強する。口金は、前記ライナに接合され前記ガスを流通可能な流路を有する。
【0003】
この高圧タンクを製造する場合には、ライナの外周面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維束を所定の張力をかけた状態で複数回巻回して保護層を形成する。そして、ライナの外周面への繊維束の巻回を終了する際に、切断工程において繊維束を切断する。その後、切断した繊維束の末端部を既にライナに巻回された繊維束の最外周部位に貼り付ける。この貼り付けた繊維束の末端部を、固着工程においてヒータにより加熱して前記最外周部位に固着する。その後、ライナに巻回された繊維束に含浸された熱硬化性樹脂を熱硬化工程で熱硬化させて保護層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-014019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した高圧タンクの製造方法では、繊維束の末端部となる位置を切断工程で切断した後に、該末端部を加熱して既にライナに巻回された繊維束の最外周部位に固着する。そのため、繊維束の末端部近傍に張力を付与した状態で、繊維束の末端部を前記最外周部位へと固着することができない。その結果、繊維束を熱硬化させて保護層を形成する際、末端部を含む張力が保持されていない繊維束の全体にわたって緩みによる巻き付けの乱れが発生する。その結果、保護層(補強層)の強度が低下したり、前記保護層の外周面が凸凹状に形成されて意匠性が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の態様は、中空状のライナの外表面に補強層を有する高圧タンクの製造方法であって、
熱硬化性の樹脂を含浸させた繊維束を張力を付与した状態でライナの外表面に巻き付ける巻回工程と、
外表面に巻回した繊維束に含まれる樹脂を熱硬化させて補強層を形成する補強層形成工程と、
を有し、
巻回工程は、繊維束に張力が付与されている状態で、圧着部材により、繊維束の巻き終わりである終端部を、ライナに巻き付けられた繊維束の外周部位と熱圧着させる圧着工程と、
終端部に近接してライナに巻き付けられない繊維束の余剰部を切断具で切断する切断工程とを有し、
圧着工程では、繊維束のうち圧着部材によって押圧される部分の、繊維束の繊維方向に沿った両側を、押え部材によって押えた状態で、終端部を繊維束の外周部位と熱圧着させる
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0009】
すなわち、圧着工程において、既にライナの外表面に巻き付けられた繊維束の外周部位に繊維束の終端部を熱圧着する。これにより、繊維束の複数巻き付けられた補強層の外周面は凹凸状に形成されない。また、終端部を圧着工程で固定した後に、切断工程において切断具で終端部に近接した繊維束の余剰部を切断する。
【0010】
その結果、高圧タンクの外周面を滑らかに形成して品質を高めることができる。また、繊維束の巻き始めから巻き終わり(終端部)までの全域にわたって張力がかかった状態で、繊維束をライナの外表面へと巻き付けて固定できる。そのため、高圧タンクの全域にわたって補強層の強度が略一定に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクを製造する製造装置を含む概略構成図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図2における圧着機構及び繊維束の終端部近傍を示す拡大断面図である。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】高圧タンクの製造過程における熱圧着工程を示す断面図である。
図6図5における圧着機構及び繊維束の終端部近傍を示す拡大断面図である。
図7図6に示す繊維束の終端部近傍を示す拡大平面図である。
図8図6のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9】高圧タンクの製造過程における切断工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高圧タンク10は、例えば、燃料電池車に搭載され、燃料電池システムに供給するための水素ガスを貯留する。この高圧タンク10は、図1及び図2に示されるように、ライナ12と、補強層14と、第1及び第2口金16、18とを含む。
【0013】
ライナ12は、内層である。ライナ12は、例えば、樹脂製材料から形成される中空体である。ライナ12の内部には、水素ガス等の高圧のガスが収容可能に形成される。このライナ12は、円筒状の胴部20と、該胴部20の両端を塞ぐ略半球状の閉塞部22とを有する。閉塞部22は、胴部20の軸方向(矢印A、B方向)に沿った軸方向一端及び軸方向他端に設けられる。2つの閉塞部22には、ライナ12の内部と外部とを連通するポート部24がそれぞれ設けられる。2つのポート部24には、水素ガスを流通させるための第1及び第2口金16、18がそれぞれ固定される。
【0014】
この胴部20は、ライナ12の軸方向(矢印A、B方向)に沿って直線状に延在する。閉塞部22は、胴部20の軸方向一端及び軸方向他端から径方向内側へ向かって湾曲する。
【0015】
補強層14は、例えば、繊維に樹脂基材(樹脂)の含浸された繊維強化樹脂Rから形成される。補強層14は、高圧タンク10の外層である。この補強層14は、ライナ12における胴部20及び閉塞部22の外表面12aの全体と、第1口金16の一部と、第2口金18の一部とを覆う。また、補強層14は、後述する製造装置26によるフィラメントワインディング工程において、未硬化である複数の繊維強化樹脂Rを束ねた繊維束Raとしてライナ12に巻き付けられる。その後、ライナ12に巻き付けられた繊維束Ra(繊維強化樹脂R)を熱硬化工程(補強層形成工程)において硬化させることで補強層14が形成される。
【0016】
第1及び第2口金16、18は、ライナ12の軸方向一端及び軸方向他端にそれぞれ連結される。第1及び第2口金16、18の各々には、給排孔(図示せず)が形成される。
【0017】
次に、上述した高圧タンク10を製造する製造装置26について説明する。
【0018】
この製造装置26は、図1に示されるように、回転機構30と、送出機構32と、圧着機構34と、検出機構36と、切断機構38(図9参照)とを備える。
【0019】
回転機構30には、シャフト28が連結される。シャフト28は、ライナ12の軸方向一端及び軸方向他端を貫通し、ライナ12を支持する。送出機構32は、ライナ12の外表面12aに巻き付けられる繊維束Raを送出する。圧着機構34は、ライナ12に巻き付けられた繊維束Raの終端部Reを補強層14に熱圧着する。検出機構36は、前記終端部Reにおける繊維方向(矢印D方向)を検出する。
【0020】
図9に示すように、切断機構38は、ライナ12に巻き付けられた繊維束Raの外周部位62に熱圧着された終端部Reに対して余剰となった前記繊維束Raの余剰部Rbを切断する。
【0021】
図1に示すように、シャフト28の軸方向一端に設けられた第1端部28aは、ライナ12の内部から軸方向一方(矢印A方向)へ突出する第1アタッチメント40を備える。第1アタッチメント40は、第1口金16に固定される。一方、シャフト28の軸方向他端に設けられた第2端部28bは、ライナ12の内部から軸方向他方(矢印B方向)へ突出する第2アタッチメント42を備える。第2アタッチメント42は、第2口金18に固定される。シャフト28の第1端部28a及び第2端部28bが回転機構30に取り付けられる。ライナ12の軸線が略水平方向(矢印A、B方向)に延在した状態でライナ12が保持される。この状態で回転機構30を駆動させる。これにより、シャフト28と共にライナ12が回転する。
【0022】
送出機構32は、回転中のライナ12に巻き付けられる繊維束Ra(繊維強化樹脂R)に所定の張力Tをかける。この状態で、送出機構32は、繊維束Raをライナ12から離間する方向(図1中、矢印B方向)へと送り出す。
【0023】
圧着機構34は、図1図8に示されるように、例えば、ライナ12における胴部20の外周部に設けられる。圧着機構34は、例えば、シリンダ装置48が駆動することによりライナ12に接近及び離間するように上下方向(矢印C1、C2方向)に移動可能である。図2に示すように、圧着機構34は、圧着部材44と、押え部材46とを備える。
【0024】
圧着部材44は、繊維束Raの巻き終わりである終端部Reを既に前記ライナ12に巻回された繊維束Raの外周部位62に熱圧着する。押え部材46は、圧着部材44から離間して終端部Re近傍をライナ12に向けて押圧する。換言すれば、圧着部材44及び押え部材46は、ライナ12の軸線と直交方向に進退可能である。
【0025】
圧着部材44は、該圧着部材44からライナ12に向かう方向の先端部に押圧面50を備える。押圧面50は、該ライナ12へ向けて凸状となる断面円弧状に形成される。圧着部材44の内部には、ヒータ等の加熱器52が収容される。加熱器52へ通電することによって圧着部材44の先端部を加熱器52によって加熱する。
【0026】
圧着部材44は、ライナ12の外表面12aに直交して配置される。圧着部材44は、シリンダ装置48が駆動することによって前記ライナ12に接近及び離間する。
【0027】
圧着部材44がライナ12へ向けて移動すると、図5図8に示されるように、圧着部材44の押圧面50が繊維束Raの終端部Reに当接する。その後、圧着部材44は、ライナ12に巻き付けられた繊維束Raの外周部位62へ向けて終端部Reを押圧する。また同時に、圧着部材44の先端部を加熱器52によって加熱する。これにより、終端部Reは、圧着部材44によって、ライナ12に巻き付けられた繊維束Raの外周部位62に熱圧着される。このとき、圧着部材44は、図2及び図3に示されるように、繊維束Raの繊維方向(矢印D方向)と直交する方向から見て、押圧面50が断面円弧状となるように配置される。
【0028】
さらに、圧着部材44は、図6に示されるように、先端部の押圧面50が繊維束Raの終端部Reに当接する。この状態で、圧着部材44は、押圧面50と終端部Reとの当接部位を支点として揺動可能である。
【0029】
押え部材46は、圧着部材44の移動方向と直交する方向(矢印D方向)に該圧着部材44から離間した環状の保持部54を備える。押え部材46は、シリンダ装置48が駆動することによって前記圧着部材44と同様に前記ライナ12に接近及び離間する。押え部材46は、圧着部材44とは独立して移動可能である。
【0030】
保持部54は、押え部材46の移動方向と直交する略平坦状に形成される。保持部54は、圧着部材44を中心として前記移動方向と直交する方向に圧着部材44から離間する。保持部54は、繊維束Ra(繊維強化樹脂R)をライナ12へ向けて押さえる。
【0031】
検出機構36は、図1に示されるように、ライナ12の外側に配置される。検出機構36は、終端部Reにおける繊維方向(矢印D方向)を検出可能である。検出機構36は、照射部56と、検出器58とを備える。照射部56は、繊維束Raにおける終端部Reに光L1を照射する。終端部Reで前記光L1が反射すると反射光L2が生じる。検出器58は、反射光L2を検出する。検出器58で検出された反射光L2に基づいて、ライナ12の外表面12aに螺旋状に巻き付けられる繊維束Raの終端部Reの繊維方向(矢印D方向)が判定される。
【0032】
切断機構38は、図9に示されるように、ライナ12の外周側に配置される。切断機構38は、図示しない移動機構によって前記ライナ12の外周側に移動可能である。切断機構38は、カッター等の切断具60を有する。この切断具60をライナ12へ向けて接近させて終端部Re近傍となる繊維束Raの余剰部Rbを切断する。
【0033】
切断機構38の切断具60は、検出機構36で検出された終端部Reの繊維方向(矢印D方向)に基づいて、前記繊維方向と直交する方向へ移動する。
【0034】
次に、上述した製造装置26によって高圧タンク10を製造する場合について説明する。
【0035】
先ず、高圧タンク10において、図1に示されるように、ライナ12の2つのポート部24に第1及び第2口金16、18をそれぞれ組み付ける。そして、ライナ12の外表面12aに繊維束Ra(繊維強化樹脂R)を巻き付けるフィラメントワインディング工程(巻回工程)を行う。これにより、ライナ12の外表面12aに補強層14を形成する。
【0036】
このフィラメントワインディング工程では、ライナ12の第1及び第2口金16、18に装着された第1及び第2アタッチメント40、42にシャフト28をセットする。そして、シャフト28が水平方向となるようにライナ12を回転機構30に取り付ける。回転機構30を駆動させてシャフト28と共にライナ12を一体的に回転させる。これにより、樹脂基材の含浸された複数本の繊維強化樹脂Rが束ねられた繊維束Raを、ライナ12の外表面12aに巻き付けていく。
【0037】
この繊維束Raは、送出機構32によって回転中のライナ12の外表面12aに該ライナ12の軸線に対して所定角度傾斜した螺旋状で巻き付けられる。さらに、繊維束Raは、その繊維方向(矢印D方向)に沿って所定の張力Tが付与された状態でライナ12の外表面12aに巻き付けられる。
【0038】
そして、ライナ12における胴部20及び2つの閉塞部22の全体を覆うように繊維束Raが巻き付けられる。その後、繊維束Raの巻き付け終わりとなる終端部Reの位置を決定する。検出機構36によって終端部Reにおける繊維束Raの繊維方向(矢印D方向)を検出する(検出工程)。
【0039】
この検出工程では、繊維束Raの終端部Reに照射部56から光L1を照射する。光L1が終端部Reで反射し、反射光L2が発生する。そして、終端部Reに照射された光L1が反射した反射光L2を検出器58によって検出する。なお、この繊維方向とは、繊維束Raにおける各繊維強化樹脂Rの延在方向(図2及び図7中、矢印D方向)を示す。この反射光L2は、該終端部Reにおける繊維強化樹脂Rの繊維方向によって異なる角度で反射される。反射光L2に基づいて終端部Reにおける繊維強化樹脂Rの繊維方向が検出される。
【0040】
そして、検出機構36によって終端部Reにおける繊維強化樹脂Rの繊維方向(矢印D方向)が検出される。その後、終端部Reを、既にライナ12の外表面12aに巻き付けられた繊維束Raの外周部位62へと熱圧着する(圧着工程)。
【0041】
この圧着工程(熱圧着工程)では、送出機構32によって繊維束Raがライナ12の外表面12aに所定の張力Tで巻き付けられる。その状態で、図3に示されるように、先ず、既に前記外表面12aに巻き付けられた繊維束Raの外周部位62へ圧着機構34の圧着部材44及び押え部材46を接近させる。圧着部材44は、加熱器52に通電することで所定温度まで加熱させる。
【0042】
この押え部材46は、終端部Reの繊維方向(矢印D方向)に基づき、保持部54の延在方向が前記繊維方向と略平行となるように回転する(図3及び図7参照)。同時に、圧着部材44が押え部材46と共に一体的に回転する。図3に示されるように、圧着部材44の押圧面50が繊維方向に沿うように配置される。その後、図3に示されるように、圧着部材44及び押え部材46をライナ12に向かって移動させる。そして、押え部材46の保持部54が終端部Reの近傍となる繊維束Raの表面に当接する。具体的には、保持部54が、繊維方向(矢印D方向)に沿った終端部Reの前後位置を保持する。この状態で、押え部材46の保持部54で繊維束Raの終端部Reをライナ12へ向けて押圧し、終端部Reを保持する。
【0043】
これにより、繊維束Raにおける複数の繊維強化樹脂Rがライナ12へと押圧され、複数の繊維強化樹脂Rは互いに密着する。また、環状の保持部54の内側に終端部Reを保持する。この状態で、終端部Reが、例えば、ライナ12の軸方向に沿った略中央近傍の外周部位62に位置決めされ保持される。
【0044】
その後、圧着部材44がライナ12へ向けて移動し、この圧着部材44の先端部を、図5及び図6に示されるように、保持部54の径方向内側に位置する繊維強化樹脂Rの終端部Reと略直交させる。そして、図7に示されるように、圧着部材44の押圧面50が、該終端部Reの繊維方向(矢印D方向)と略直交するように終端部Reへ当接する。これにより、圧着部材44の押圧面50から伝達される熱によって、終端部Reに含浸された樹脂基材が溶融する。溶融した前記樹脂基材が、繊維束Raの繊維方向に沿って流動する。
【0045】
圧着部材44による終端部Reの押圧及び加熱が完了した後、前記終端部Reの樹脂基材は溶融を経て、次第に架橋反応によって硬化する。この終端部Reは、繊維束Raにおける外周部位62の所望の部位に固定される。このとき、終端部Reは、送出機構32によって繊維方向(矢印D方向)に沿って所定の張力Tがかかった状態で固定される。
【0046】
そして、繊維束Raの外周部位62への終端部Reの固定が完了した後、シリンダ装置48を駆動させ圧着部材44をライナ12から離れる方向へ移動させる。これにより、圧着部材44が終端部Reから離間する。次に、押え部材46をライナ12から離れる方向へ移動させる。これにより、押え部材46が終端部Reの近傍から離間して終端部Reの近傍の保持状態が解除される。このとき、終端部Reは、図5図6及び図8に示されるように、押え部材46を離間させても終端部Reが外周部位62から径方向外側へと浮き上がらない。
【0047】
また、圧着部材44の押圧面50を終端部Reへと当接させた後、図6の二点鎖線で示されるように、圧着部材44を、押圧面50と終端部Reとの接触面を支点として繊維方向(矢印D方向)に沿って揺動させてもよい。この場合、終端部Reは、図6に示されるように、圧着部材44の先端部が略直交して当接した部位から繊維方向(矢印D方向)に沿った所定範囲Eに当接する。これにより、圧着部材44の押圧面50が、終端部Reの所定範囲Eを押圧すると共に加熱する。そのため、圧着部材44を略直交するように終端部Reへ当接させた場合と比較し、終端部Reをより広域な所定範囲Eで繊維束Raの外周部位62に固定可能となる。
【0048】
上述した圧着工程では、繊維束Raの終端部Reが、図5及び図6に示されるように、押え部材46によってライナ12に向かって押圧される。終端部Reは、圧着部材44によって前記ライナ12に向かって押圧された状態で熱圧着される。そのため、繊維強化樹脂Rの固定部位(終端部Re)がライナ12の径方向外側へ浮き上がらず、凹凸状に形成されない。
【0049】
また、圧着部材44の押圧面50が断面円弧状に形成される。そのため、図7に示されるように、既にライナ12に巻回された繊維束Raの外周部位62に繊維束Raの終端部Reを熱圧着する際、終端部Reにおける各繊維強化樹脂Rが、繊維方向(矢印D方向)と直交する方向へ拡がることが防止される。さらに、圧着部材44の先端部で繊維束Ra(繊維強化樹脂R)が加熱された際、該繊維束Raに含浸された樹脂基材が溶融して繊維方向に沿って流動する。そのため、終端部Reにおける各繊維強化樹脂Rが近接した状態で、終端部Reが繊維束Raの外周部位62へと熱圧着される。
【0050】
次に、圧着工程において固定された繊維束Raの終端部Reよりも送出機構32に近い部位(余剰部Rb)を切断する(切断工程)。
【0051】
この切断工程では、図9に示されるように、送出機構32によって繊維束Raの張力Tが緩められた後、ライナ12を反時計回りに回転させる。そして、終端部Reと送出機構32との間において、余剰部Rbとライナ12との間に台座64が挿入される。台座64の平坦面が余剰部Rbの下面に当接して配置される。
【0052】
次に、検出機構36によって検出された終端部Reの繊維方向(矢印D方向)に基づき、切断具60が前記繊維方向と略直交するように回転する。切断具60は、余剰部Rbを挟んで台座64の上方となる位置に配置され、その後、切断具60が余剰部Rb及び台座64側(切断方向)へ向けて移動する。そして、終端部Reから送出機構32へ向けて所定距離だけ離れた余剰部Rbと前記終端部Reとの境界位置で、繊維束Raの余剰部Rbを、切断具60によって繊維束Raの繊維方向と略直交する方向に切断する。これにより、終端部Reは、繊維束Raの外周部位62に固定された状態で、繊維束Raの余剰部Rbが切断される。終端部Reは、繊維束Raに張力Tの維持された状態で、ライナ12に巻き付けられた繊維束Raの外周部位62に固定される。
【0053】
最後に、切断工程において繊維強化樹脂Rの余剰部Rbが切断された後、ライナ12の外表面12aに巻き付けられた繊維強化樹脂Rを熱硬化させて補強層14を形成する(熱硬化工程)。
【0054】
この熱硬化工程では、製造装置26における回転機構30からシャフト28と共にライナ12を取り外す。その後、繊維束Raの巻回されたライナ12を図示しない加熱炉に搬入する。この加熱炉でライナ12を所定温度に加熱して繊維束Ra(繊維強化樹脂R)を硬化させる。これにより、補強層14は、ライナ12の外表面12aに繊維束Raの積層され終端部Reを含んだ滑らかな面で形成される。そして、ライナ12の外周部が補強層14で覆われた高圧タンク10の製造が完了する。
【0055】
上述した高圧タンク10の製造方法では、フィラメントワインディング工程においてライナ12に巻き付けられる繊維束Raに張力Tが付与された状態とする。この状態で、圧着工程において繊維束Raの終端部Reを既にライナ12の外表面12aに巻き付けられた繊維束Raの外周部位62に熱圧着する。そのため、高圧タンク10において、複数の繊維束Raが巻回された補強層14の外周面が凹凸状に形成されず滑らかな面となる。
【0056】
また、終端部Reに張力Tの付与された状態で、該終端部Reを繊維束Raの外周部位62へと固定できる。そのため、終端部Reとその近傍における補強層14の強度を該終端部Re以外の部位の強度と同等に確保することが可能となる。その結果、ライナ12に巻回される補強層14の全域にわたって補強層14の強度を略一定に維持することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、フィラメントワインディング工程(巻回工程)において熱硬化性の樹脂基材を含浸させた繊維強化樹脂Rを束ねた繊維束Raを張力Tを付与した状態で中空状のライナ12の外表面12aに巻き付ける。その後、熱硬化工程において、ライナ12の外表面12aに巻回した繊維束Raに含まれる樹脂基材を熱硬化させて補強層14を形成する。
【0058】
このフィラメントワインディング工程は、圧着工程において、繊維束Raの巻き終わりである終端部Reを、既にライナ12の外表面12aに巻き付けられた繊維束Raの外周部位62と熱圧着する。従って、複数の繊維束Raが巻回された補強層14の外周面は凹凸状に形成されない。
【0059】
フィラメントワインディング工程では、既にライナ12に巻き付けられた繊維束Raの外周部位62に張力Tのかかった終端部Reを圧着工程で固定した後、繊維束Raを切断工程で切断する。そのため、繊維束Raを、ライナ12への繊維束Raの巻き始めから巻き終わりとなる終端部Reまでの全域にわたって張力Tがかかった状態で、ライナ12へと巻き付けて確実に固定できる。
【0060】
その結果、高圧タンク10の外周面を滑らかに形成して品質を高めることができる。高圧タンク10の全域にわたって補強層14の強度が略一定に維持される。そのため、高圧タンク10における高圧ガスの供給又は排出に伴ってライナ12が膨張又は収縮した場合であっても、終端部Reを基点とした繊維束Ra(繊維強化樹脂R)の剥離を抑制することができる。
【0061】
圧着工程において、加熱された圧着部材44によって繊維束Raの終端部Reをライナ12の径方向内方に向かって押圧する。これにより、既にライナ12の外表面12aに巻き付けられた繊維束Raと前記終端部Reとを熱圧着させている。そのため、終端部Reを圧着部材44によって繊維束Raの外周部位62に効果的に熱圧着して固定することが可能となる。
【0062】
フィラメントワインディング工程は、繊維束Raの終端部Reにおける各繊維強化樹脂Rの繊維方向(矢印D方向)を検出する検出工程を有する。この検出工程で検出した繊維方向に基づいて、圧着工程における圧着部材44の押圧面50による繊維束Raの押圧方向と、切断工程における切断具60による繊維束Raの切断方向とを変化させる。これにより、圧着工程において、圧着部材44を終端部Reの繊維方向(矢印D方向)に応じて前記終端部Reと略直交するように当接させ、確実に終端部Reを熱圧着できる。また、切断工程において、切断具60を終端部Reの繊維方向と直交に配置し、前記終端部Reに近接する繊維束Raの余剰部Rbを前記繊維方向と直交する方向に確実に切断できる。
【0063】
圧着部材44の先端部に断面円弧状の押圧面50を備え、該押圧面50が繊維束Raの繊維方向(矢印D方向)に沿って配置された状態で終端部Reを押圧する。また、終端部Reに押圧面50を当接させ、圧着部材44を繊維方向に沿って揺動させて終端部Reを押圧する。これにより、終端部Reにおいて、各繊維強化樹脂Rの繊維方向と略直交する方向への終端部Reの拡がりが抑制される。また、終端部Reにおいて、繊維束Raに含浸された樹脂基材が溶融して繊維方向(矢印D方向)に沿って流動する。そのため、終端部Reにおける各繊維強化樹脂R同士の乖離の発生が抑制され、繊維束Raの外周部位62に終端部Reを確実に熱圧着できる。
【0064】
これに対し、例えば、平坦状の先端部を有した圧着部材44で繊維束Raを熱圧着させる場合には、繊維束Raが繊維方向(矢印D方向)と略直交方向に拡がって各繊維強化樹脂Rの間に隙間が生じる。さらに、繊維束Raに含浸された樹脂基材が溶融して繊維方向と直交する方向へ流動する。これにより、熱圧着される部位において各繊維強化樹脂R同士が乖離しやすくなる。その結果として、終端部Re近傍における補強層14の強度が低下する。
【0065】
圧着工程において、圧着機構34の押え部材46によって終端部Reの近傍をライナ12へ向けて押圧する。これにより、終端部Reの近傍を、押え部材46によって確実に外周部位62へと密着させることができる。また、終端部Reの近傍の各繊維強化樹脂R同士を近接させることができる。そのため、圧着部材44によって終端部Reを熱圧着する際、終端部Reにおいて、各繊維強化樹脂R同士の乖離の発生が抑制され、繊維束Raの外周部位62に終端部Reを確実に熱圧着できる。
【0066】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【符号の説明】
【0067】
10…高圧タンク 12…ライナ
14…補強層 26…製造装置
32…送出機構 34…圧着機構
36…検出機構 38…切断機構
44…圧着部材 46…押え部材
50…押圧面 62…外周部位
R…繊維強化樹脂 Ra…繊維束
Re…終端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9