(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電動機駆動制御装置および該方法ならびに電動機駆動制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20241111BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2021110802
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏明
(72)【発明者】
【氏名】野木 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御装置であって、
前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成部と、
前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合における所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、
前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択部と、
前記電圧パターン選択部で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部とを備え、
前記所定の物理量は、トルクに基づいて後記回転速度のモデル式によって求められる前記電動機の回転速度を含み、
前記トルクは、第1トルクと
負荷トルクと時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクとを含み、
前記予測部は、前記予測値を求める際に、予め求められた電流のモデル式によって前記電動機の電流を求め、予め求められ、前記電動機の電流を用いて表された前記第1トルクのモデル式によって前記第1トルクを求め、
予め求められた負荷トルクのモデル式によって前記負荷トルクを求め、予め求められ、前記電動機の電流を用いて表された前記脈動トルクのモデル式によって前記脈動トルクを求め、予め求められ、前記トルクを用いて表された回転速度のモデル式によって前記電動機の回転速度を求める、
電動機駆動制御装置。
【請求項2】
前記脈動トルクは、前記電動機の円周方向における起磁力分布の空間高周波成分に起因する第1脈動トルク、および、コギングトルクである第2脈動トルクのうちの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項3】
前記電圧パターン選択部は、前記回転速度において、目標値と予測値との偏差に基づき前記最も高い評価の予測値を選定する、
請求項1または請求項2に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項4】
前記所定の物理量は、前記電動機の駆動電流を含み、
前記電圧パターン選択部は、前記駆動電流において、目標値と予測値との偏差に基づき前記最も高い評価の予測値を選定する、
請求項1または請求項2に記載の電動機駆動制御装置。
【請求項5】
インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する電動機駆動制御方法であって、
前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成工程と、
前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合における
所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、
前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、前記予測工程で予測された前記電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択工程と、
前記電圧パターン選択工程で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御工程とを備え、
前記所定の物理量は、トルクに基づいて後記回転速度のモデル式によって求められる前記電動機の回転速度を含み、
前記トルクは、第1トルクと
負荷トルクと時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクとを含み、
前記予測工程は、前記予測値を求める際に、予め求められた電流のモデル式によって前記電動機の電流を求め、予め求められ、前記電動機の電流を用いて表された前記第1トルクのモデル式によって前記第1トルクを求め、
予め求められた負荷トルクのモデル式によって前記負荷トルクを求め、予め求められ、前記電動機の電流を用いて表された前記脈動トルクのモデル式によって前記脈動トルクを求め、予め求められ、前記トルクを用いて表された回転速度のモデル式によって前記電動機の回転速度を求める、
電動機駆動制御方法。
【請求項6】
電動機と、
前記電動機を駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御することで前記電動機を制御する電動機駆動制御部とを備え、
前記電動機駆動制御部は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動機駆動制御装置である、
電動機駆動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の駆動を制御する電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法に関する。そして、本発明は、前記電動機駆動制御装置を備える電動機駆動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の駆動制御には、例えばPI制御を用いたフィードバック制御が用いられることが多い。その速度制御では、目標速度に対する応答性は、電動機が用いられた製品の性能に影響するため、その高さが要求される。前記フィードバック制御では、フィードバックゲインを大きく設定することで、応答性を向上できるが、いわゆるオーバーシュートやハンチングが生じてしまう虞がある。
【0003】
このため、従来の前記フィードバック制御に較べて高い応答性を実現できることから、モデル予測制御(model predictive control、MPC)が電動機の駆動制御に提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。このモデル予測制御では、制御周期ごとに次の一連の処理が繰り返し実行されることで電動機が駆動制御される。前記一連の処理において、まず、電動機のモデルを用いることで複数の候補入力電圧ごとに、電動機における将来の挙動が予測される。次に、各予測結果(電動機の各挙動)が評価され、最も目標に近い予測結果が選択され、この選択された予測結果を与える候補入力電圧で電動機が駆動制御される。このようなモデル予測制御では、予測結果を基に最適化した候補入力電圧を決定できることから、従来の前記フィードバック制御を超える高い応答性が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-228419号公報
【文献】特開2013-062949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動機を駆動すると、トルクが脈動することがある(脈動トルク、トルク脈動)。前記特許文献1や特許文献2に開示されたモデル予測制御では、応答性の向上が期待できるが、モデル制御に用いられている電動機のモデルに、電動機自身で生じる、この脈動トルクが考慮されておらず、前記脈動トルクに起因する速度脈や振動(騒音)が生じる虞がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる電動機駆動制御装置、電動機駆動制御方法、および、前記電動機駆動制御装置を備える電動機駆動制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる電動機駆動制御装置は、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する装置であって、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧ターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合における前記電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧ターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択部と、前記電圧パターン選択部で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部とを備え、前記所定の物理量は、トルクに基づいて求められる前記電動機の回転速度を含み、前記トルクは、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを含む。好ましくは、上述の電動機駆動制御装置において、前記所定の物理量は、前記電動機の駆動電流を含む。好ましくは、上述の電動機駆動制御装置において、前記脈動トルクを表すモデル関数を用いることによって前記脈動トルクを求める脈動トルク処理部をさらに備える。
【0008】
このような電動機駆動制御装置は、予測値を求める場合に、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを考慮するので、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる。
【0009】
他の一態様では、上述の電動機駆動制御装置において、前記脈動トルクは、前記電動機の円周方向における起磁力分布の空間高周波成分に起因する第1脈動トルク、および、コギングトルクである第2脈動トルクのうちの少なくとも一方を含む。
【0010】
このような電動機駆動制御装置は、電動機自体に生じる第1および第2脈動トルクのうちの少なくとも一方を抑制できる。
【0011】
他の一態様では、これら上述の電動機駆動制御装置において、前記電圧パターン選択部は、目標速度との偏差に基づき前記最も高い評価の予測値を選定する。
【0012】
これによれば、速度制御しつつ脈動トルクを抑制できる電動機駆動制御装置が提供できる。
【0013】
他の一態様では、これら上述の電動機駆動制御装置において、前記所定の物理量は、前記電動機の駆動電流を含み、前記電圧パターン選択部は、目標駆動電流との偏差に基づき前記最も高い評価の予測値を選定する。好ましくは、上述の電動機駆動制御装置において、前記駆動電流は、q軸電流およびd軸電流で表され、前記偏差は、目標q軸電流との偏差である第1偏差および目標d軸電流との偏差である第2偏差を含み、前記目標d軸電流は、0である。
【0014】
これによれば、電流制御によるトルク制御しつつ脈動トルクを抑制できる電動機駆動制御装置が提供できる。
【0015】
本発明の他の一態様にかかる電動機駆動制御方法は、インバータ回路の出力で駆動される電動機を制御する方法であって、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成工程と、前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧ターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合における前記電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測工程と、前記電圧パターン生成工程で生成した複数の時系列な電圧ターンの中から、前記予測工程で予測された前記電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択工程と、前記電圧パターン選択工程で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御工程とを備え、前記所定の物理量は、トルクに基づいて求められる前記電動機の回転速度を含み、前記トルクは、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを含む。
【0016】
このような電動機駆動制御方法は、予測値を求める場合に、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを考慮するので、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる。
【0017】
本発明の他の一態様にかかる電動機駆動制御システムは、電動機と、前記電動機を駆動するインバータ回路と、前記インバータ回路を制御することで前記電動機を制御する電動機駆動制御部とを備え、前記電動機駆動制御部は、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置である。
【0018】
これによれば、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置を備えた電動機駆動制御システムが提供できる。このような電動機駆動制御システムは、これら上述のいずれかの電動機駆動制御装置を備えるので、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる。本発明によれば、前記電動機駆動制御装置を備える電動機駆動制御システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態における電動機駆動制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】前記電動機駆動制御システムにおけるMPC制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】前記電動機駆動制御システムにおけるインバータ回路の構成を示す回路図である。
【
図4】前記インバータ回路で出力可能な電圧を示すベクトル図である。
【
図5】前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンの一例を説明するための図である。
【
図6】前記電動機駆動制御システムにおける動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0022】
実施形態における電動機駆動制御システムは、電動機を、制御しつつ、駆動するシステムであり、例えば、電動機と、前記電動機を駆動するインバータ回路と、前記インバータ回路を制御することで前記電動機を制御する電動機駆動制御部とを備える。この電動機駆動制御部は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧ターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが前記電動機に入力された場合における前記電動機の制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測部と、前記電圧パターン生成部で生成した複数の時系列な電圧ターンの中から、前記予測部で予測された前記電動機の各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択部と、前記電圧パターン選択部で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部とを備える。前記所定の物理量は、トルクに基づいて求められる前記電動機の回転速度を含み、前記トルクは、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを含む。以下、このような電動機駆動制御部とを備える電動機駆動制御システムについて、より具体的に説明する。
【0023】
図1は、実施形態における電動機駆動制御システムの構成を示すブロック図である。
図2は、前記電動機駆動制御システムにおけるMPC制御部の構成を示すブロック図である。
図3は、前記電動機駆動制御システムにおけるインバータ回路の構成を示す回路図である。
図4は、前記インバータ回路で出力可能な電圧を示すベクトル図である。
図5は、前記インバータ回路で出力可能な時系列な電圧パターンの一例を説明するための図である。
【0024】
実施形態における電動機駆動制御システムSは、例えば、
図1に示すように、電動機Mと、インバータ回路IVと、PWM変調器PWと、2相3相変換部CV1と、モデル予測制御部(MPC制御部)MCと、3相2相変換部CV2と、回転速度処理部RSCと、電流測定部CSと、回転角度測定部VSとを備える。
【0025】
電動機Mは、インバータ回路IVに接続され、インバータ回路IVの交流出力で駆動される電動機である。例えば、電動機Mは、インバータ回路IVから出力されるU相、V相およびW相の三相交流電力で駆動される同期電動機、より具体的には、本実施形態では表面型永久磁石式同期電動機(Surface mounted permanent magnet synchronous motor、SPMSM)である。なお、電動機Mは、これに限定されるものではなく、例えば、例えば、誘導電動機(induction motor、IM)やSRモータ(Switched Reluctance motor、SRM)等の他の種類であっても良い。
【0026】
PWM変調器PWは、変更可能なパスル幅で矩形波を出力する回路であり、インバータ回路IVは、直流電力を交流電力に変換する回路であり、本実施形態では、PWM変調器PWおよびインバータ回路IVにより、三相交流電力で電動機を駆動する、いわゆる3相PWMインバータモータドライバが構成される。これらPWM変調器PWおよびインバータ回路IVは、2相3相変換部CV1を介してモデル予測制御部MCに接続され、モデル予測制御部MCの制御に従って、直流電源Vdcからの直流電力を、所定の周波数の交流電力へ変換する。より具体的には、PWM変調器PWは、モデル予測制御部MCの制御に従った周波数およびパルス幅の矩形波を後述の制御信号(IV制御信号)としてインバータ回路IVへ出力する回路である。インバータ回路IVは、PWM変調器PWに接続され、PWM変調器PWからのIV制御信号に従って、直流電源Vdcの直流電力を、所定の周波数の交流電力へ変換する回路である。インバータ回路IVは、例えば、
図3に示すように、直列に接続された2個のスイッチング素子Trを1組として、互いに並列に接続された3組Tr1、Tr4;Tr2、Tr5;Tr3、Tr6を備える。より具体的には、インバータ回路IVは、6個の第1ないし第6スイッチングTr1~Tr6を備える。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の、オンオフするスイッチ機能を持つ電力用半導体素子である。第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3の各一方端子(例えば各コレクタ端子)は、それぞれ、直流電源Vdcの一方端子に接続される。第1スイッチング素子Tr1の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第4スイッチング素子Tr4の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。第2スイッチング素子Tr2の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第5スイッチング素子Tr5の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。第3スイッチング素子Tr3の他方端子(例えばエミッタ端子)は、第6スイッチング素子Tr6の一方端子(例えば各コレクタ端子)に接続される。これら第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6の各他方端子(例えば各エミッタ端子)は、それぞれ、直流電源Vdcの他方端子に接続される。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6における、スイッチング素子TrをオンオフするためのIV制御信号が入力される各制御端子(例えばゲート端子)は、PWM変調器PWに接続される。これら第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6それぞれにおいて、その一方端子と他方端子との各間それぞれには、他方端子にアノード端子を接続した各ダイオードD1~D6が接続される。そして、第1スイッチング素子Tr1と第4スイッチング素子Tr4とを接続する第1接続点は、例えばU相の交流電流を出力し、電動機MのU相を接続する入力端子に接続される。第2スイッチング素子Tr2と第5スイッチング素子Tr5とを接続する第2接続点は、例えばV相の交流電流を出力し、電動機MのV相を接続する入力端子に接続される。第3スイッチング素子Tr3と第6スイッチング素子Tr6とを接続する第3接続点は、例えばW相の交流電流を出力し、電動機MのW相を接続する入力端子に接続される。このような構成では、インバータ回路IVは、いわゆる2レベル3相インバータ回路であり、各組の一方のスイッチング素子Tr1、Tr2、Tr3と他方のスイッチング素子Tr4、Tr5、Tr6とは、互いに逆のスイッチング態様(一方がオンの場合には他方がオフで、一方がオフの場合には他方がオンである態様)となるように、PWM変調器PWからのIV制御信号に従って制御され、直流電源Vdcの直流電力を変換してU相、V相およびW相の3相の交流電流を電動機Mへ出力する。
【0027】
電流測定部CSは、3相2相変換部CV2に接続され、インバータ回路IVから電動機Mへ流れる電流、本実施形態では、U相電流、V相電流およびW相電流それぞれを測定し、その各測定結果を3相2相変換部CV2へ出力する装置である。電流測定部CSは、例えば交流電流計を備えて構成される。
【0028】
回転角度測定部VSは、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および回転速度処理部RSCそれぞれに接続され、電動機Mにおける磁極位置を角度で測定し、その測定結果(回転角度、電気角(=機械角/電動機Mの極対数))を2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および回転速度処理部RSCそれぞれに出力する装置である。回転角度測定部VSは、例えば、ロータリエンコーダ(パルスジェネレータ)や、ホールIC等を備えて構成される。なお、センサレスの場合には、回転角度測定部VSは、電動機Mのモデルを用いて電流および電圧から電動機Mの回転角度を求めてもよい。
【0029】
2相3相変換部CV1は、モデル予測制御部MCに接続され、回転角度測定部VSから入力された測定結果(回転角度)およびモデル予測制御部MCで後述のように求められた電圧パターンに基づく目標電圧vd
*、vq
*から、この目標電圧vd
*、vq
*に対応する目標のU相電流、V相電流およびW相電流をインバータ回路IVから出力するようにPWM変調器PWを制御するための制御信号(PWM制御信号)を求め、このPWM制御信号をPWM変調器PWへ出力するものである。
【0030】
3相2相変換部CV2は、モデル予測制御部MCに接続され、電流測定部CSから入力された測定結果(U相電流、V相電流およびW相電流)および回転角度測定部VSから入力された測定結果(回転角度)から、いわゆるクラーク(Clarke)変換およびパーク(Park)変換によって、励磁電流(d軸電流)idおよびトルク分電流(q軸電流)iqを求め、この求めたd軸電流idおよびq軸電流iqをモデル予測制御部MCへ出力するものである。
【0031】
回転速度処理部RSCは、モデル予測制御部MCに接続され、回転角度測定部VSから入力された測定結果(回転角度)から、電動機Mの回転速度ωmを求め、この求めた回転速度ωmをモデル予測制御部MCへ出力するものである。例えば、回転角度測定部VSで測定された回転角度θeを時間微分して電動機Mの極対数pの逆数を乗じることによって回転速度ωmが求められる。
【0032】
モデル予測制御部MCは、モデル予測制御を用いたベクトル制御によって、電動機MをPWM変調器PWおよびインバータ回路IVを介して駆動制御するものである。モデル予測制御部MCは、より具体的には、例えば、
図2に示すように、制御部11と、電圧パターン生成部12と、予測部13と、電圧パターン選択部14と、PWMインバータ制御部15とを備える。
【0033】
制御部11は、電動機駆動制御システムSの各部を当該各部の機能に応じて制御し、電動機駆動制御システムS全体の制御を司るものである。
【0034】
電圧パターン生成部12は、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成するものである。すなわち、電圧パターン生成部12は、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する電圧パターン生成処理を実施する。インバータ回路IVは、本実施形態では、上述のように、2レベル3相インバータであるので、第1ないし第6スイッチング素子Tr1~Tr6のスイッチング態様に応じて、
図4に示すように、2
3=8通りの電圧V
0~V
7を出力できる。なお、電圧ベクトルV
0は、第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3がオフであって第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6がオンであり、電動機Mに給電されない場合(V
0=(0、0、0))である。電圧ベクトルV
7は、第1ないし第3スイッチング素子Tr1~Tr3がオンであって第4ないし第6スイッチング素子Tr4~Tr6がオフであり、電動機Mに給電されない場合(V
7=(0、0、0))である。時系列な電圧パターンは、予測する制御周期数である予測ホライズン、および、制御入力である電圧を可変とする制御周期数である制御ホライズンによって決定される。このため、モデル予測制御部MCには、予め予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値が、モデル予測制御の仕様等に応じて適宜に予め設定され、電圧パターン生成部12は、インバータ回路IVで出力可能な電圧(上述では8通り)、予測ホライズンの数値および制御ホライズンの数値に応じて互いに異なる複数の時系列な電圧パターンを生成する。
図5には、一例として、予測ホライズンN
pが2であり、制御ホライズンN
cが1である場合のインバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンが樹形図で図示されている。
図5では、現在のN番目の制御における電圧に対し、予測ホライズンN
pが2であるので、次の(N+1)番目の制御における電圧と、さらに次の(N+2)番目の制御における電圧とが予測され、制御ホライズンN
cが1であるので、インバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンは、現在のN番目の制御における電圧から、次の(N+1)番目の制御では、8通りの電圧V
0~V
8に分岐し、さらに次の(N+2)番目の制御では、各電圧V
0~V
8から、それぞれ当該電圧V
0~V
8に維持された8組の時系列な電圧パターンである。なお、他の一例として、予測ホライズンが2であり、制御ホライズンが2である場合、現在のN番目の制御における電圧に対し、予測ホライズンが2であるので、次の(N+1)番目の制御における電圧と、さらに次の(N+2)番目の制御における電圧とが予測され、制御ホライズンが2であるので、インバータ回路IVで出力可能な全ての時系列な電圧パターンは、(N+1)番目の制御および(N+2)番目の制御それぞれで8通りの電圧V
0~V
8に分岐し、64組の時系列な電圧パターンである。
【0035】
予測部13は、電圧パターン生成部12で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合における前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測するものである。すなわち、予測部13は、電圧パターン生成部12で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合における前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する予測処理を実施する。より具体的には、本実施形態では、前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量は、トルクに基づいて求められる前記電動機Mの回転速度を含み、前記トルクは、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクを含む。このため、予測部13は、次式1によってd軸電流idを求め、次式2によってq軸電流iqを求める。そして、予測部13は、次式3によってトルクTeを求め、この求めたトルクTeを用いた次式4によって回転速度ωmを求める。この式4のトルクの項に脈動トルクTdistが含まれる。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【数4】
ここで、i
d(k)は、k番目の制御におけるd軸電流であり、i
q(k)は、k番目の制御におけるq軸電流であり、L
dは、d軸インダクタンスであり、L
qは、q軸インダクタンスである。なお、本実施形態では、電動機Mが表面型永久磁石式同期電動機であるので、L
d=L
q=Lとなる。T
sは、制御周期であり、Rは、電動機Mの巻線抵抗であり、ω
e(k)は、k番目の制御における、電気角回転速度(極対数p×ω
m(k))であり、ω
m(k)は、k番目の制御における、測定された回転速度(実績の回転速度)であり、pは、電動機Mにおける極対数であり、Ψは、電動機Mにおける永久磁石の鎖交磁束であり、Jは、電動機Mにおける回転子の慣性モーメントであり、Dは、電動機Mにおける回転子の動摩擦抵抗である。なお、現在、k番目の制御の場合、(k+1)、(k+2)、(k+3)、・・・は、予測値であることを表している。
【0040】
脈動トルクTdistのモデル(脈動モデル)は、本実施形態では、次式5のようにモデル化された。
【0041】
【数5】
ここで、φ
dh(θ
e)は、d軸の磁束高調波成分であり、φ
qh(θ
e)は、q軸の磁束高調波成分である。この式5の第1項は、電動機Mの円周方向における起磁力分布の空間高周波成分に起因する脈動トルク(第1脈動トルク)p
nを表し、その第2項は、いわゆるコギングトルク(第2脈動トルク)T
cogを表している。前記式5の第1脈動トルクp
nは、例えば、電動機Mの円周方向における起磁力分布がサインカーブとなる理想状態からのズレによって生じる。
【0042】
この第1脈動トルクpnにおけるφdh(θe)およびφqh(θe)は、例えば、無負荷で前記電動機Mを駆動して得られた逆起電圧値νd、νqを検出して次式6に用いることによって求められ、これによって第1脈動トルクpnが求められる。Ψは、永久磁石の差交磁束である。あるいは、例えば、φdh(θe)およびφqh(θe)は、同様の駆動状態を模擬したシミュレーションによって、もしくは、いわゆるFEM解析から求められる。
【0043】
【0044】
この第2脈動トルクTcogは、例えば、同様に、無負荷で前記電動機Mを駆動して得られた推力値を検出することによって求められる。あるいは、例えば、第2脈動トルクTcogは、同様の駆動状態を模擬したシミュレーションによって、もしくは、いわゆるFEM解析から求められる。
【0045】
なお、上述では、第1および第2脈動トルクpn、Tcogの両方を含むように脈動トルクTdistがモデル化されたが、例えば電動機駆動制御システムSの仕様等に応じて、一方が省略されて脈動トルクTdistがモデル化されてもよい。
【0046】
なお、負荷トルクは、一般に、未知のものであり、トルクを検出する検出器によって検出されてよく、あるいは、負荷トルク(推定値)Tl^は、次式7によって推定されてもよい。なお、記載の都合上、Tの上の^は、T^のように記載する。他も同様である。
【0047】
【数7】
ここで、ω
m^は、予測部13によって予測された回転速度であり、ω
mは、回転角度測定部VSで測定した回転角度から回転速度処理部RSCで求めた回転速度である。
【0048】
上述の例では、現在のk番目の制御において、8通りの[vdq(k+1)、vdq(k+2)]に対し、予測部13によって、8通りの2制御周期先までの[idq(k+1)、idq(k+2)]および2制御周期先までの[ωm(k+1)、ωm(k+2)]が各予測値として求められる。なお、電圧ベクトルvdq(k)は、[vd(k)、vq(k)]Tであり(vdq(k)=[vd(k)、vq(k)]T)、電流ベクトルidq(k)は、[id(k)、iq(k)]Tである(idq(k)=[id(k)、iq(k)]T)。
【0049】
本実施形態では、予測部13は、前記脈動トルクTdistを表すモデル関数Tdist(k)を用いることによって前記脈動トルクTdistを求める脈動トルク処理部を含む。
【0050】
電圧パターン選択部14は、電圧パターン生成部12で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、予測部13で予測された電動機Mの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択するものである。すなわち、電圧パターン選択部14は、電圧パターン生成部12で生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、予測部13で予測された電動機Mの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する電圧パターン選択処理を実施する。より具体的には、電圧パターン選択部14は、電圧パターン生成部12で生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、予測部13で予測された電動機Mの電流予測値[idq(k+1)、idq(k+2)]および回転速度予測値[ωm(k+1)、ωm(k+2)]を、例えば次式8の評価式gに用いることによって、前記時系列な電圧パターンを定量的に評価し、前記複数の時系列な電圧パターンの中から、最も高い評価の電流予測値[idq(k+1)、idq(k+2)]および回転速度予測値[ωm(k+1)、ωm(k+2)]に対応する時系列な電圧パターンを選択する。式8の評価式gでは、評価値が小さいほど、評価が高い。したがって、前記複数の時系列な電圧パターンの中から、最も小さい評価値を与える電流予測値[idq(k+1)、idq(k+2)]および回転速度予測値[ωm(k+1)、ωm(k+2)]に対応する時系列な電圧パターンが最適な時系列な電圧パターンとして選択される。なお、モデル予測制御部MCには、外部から制御目的の目標値の回転速度ωm
*が入力され、設定される。
【0051】
【0052】
上記式8の評価式gは、速度制御の上で重要となることから、速度偏差を第1項とし、表面型永久磁石式同期電動機の場合、無駄な給電を防止するために、トルクの発生に寄与しないd軸電流idを0に保持することが重要であることから、電流偏差を第2項とし、これら第1項および第2項を係数a、bで線形結合することで構成されている。したがって、第1項と第2項とにおける相対的な重要度に応じて係数a、bが予め適宜に決定される。言い換えれば、係数a、bで第1項と第2項とにおける相対的な重要度が調整できる。すなわち、電動機Mの制御で、速度偏差が電流偏差より相対的に重要である場合には、係数aは、係数bより大きく設定され(a>b)、逆に、電動機Mの制御で、電流偏差が速度偏差より相対的に重要である場合には、係数bは、係数aより大きく設定され(b>a)、両者が等しく重要である場合には、係数aは、係数bと同値に設定される(a=b)。
【0053】
PWMインバータ制御部15は、電圧パターン選択部14で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、インバータ回路IVを制御するものである。すなわち、PWMインバータ制御部15は、電圧パターン選択部14で選択された時系列な電圧パターンに基づいて、インバータ回路IVを制御するPWMインバータ制御処理を実施する。より具体的には、本実施形態では、PWMインバータ制御部15は、現在、k番目の制御である場合に、電圧パターン選択部14で選択された時系列な電圧パターンにおける次回の(k+1)番目の制御でのd軸電圧vd(k+1)およびq軸電圧vq(k+1)それぞれをd軸目標電圧vd
*およびq軸目標電圧vq
*それぞれとして、この目標電圧vd
*、vq
*に対応する目標のU相電流、V相電流およびW相電流をインバータ回路IVから出力するように、2相3相変換部CV1にPWM制御信号を生成させてこのPWM制御信号でPWM変調器PWにIV制御信号を生成させ、この生成させたIV制御信号をPWM変調器PWからインバータ回路IVへ出力させる。
【0054】
そして、制御部11は、前記電圧パターン生成処理、前記予測処理、前記電圧パターン選択処理および前記インバータ制御処理を、電圧パターン生成部12、予測部13、電圧パターン選択部14およびPWMインバータ制御部15に、所定の制御周期で繰り返し実施させる。
【0055】
このようなモデル予測制御部MC、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および回転速度処理部RSCは、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよびその周辺回路を備えて構成されるマイクロプロセッサで構成可能であり、モデル予測制御部MCにおける制御部11、電圧パターン生成部12、予測部13、電圧パターン選択部14およびPWMインバータ制御部15、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2、ならびに、回転速度処理部RSCは、所定のプログラムの実行により、前記CPUに機能的に構成される。
【0056】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図6は、前記電動機駆動制御システムにおける動作を示すフローチャートである。
【0057】
このような電動機駆動制御システムSでは、電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。そして、例えば、プログラムの実行によって、前記CPUには、モデル予測制御部MC、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および回転速度処理部RSCが機能的に構成され、モデル予測制御部MCには、制御部11、電圧パターン生成部12、予測部13、電圧パターン選択部14およびPWMインバータ制御部15が機能的に構成される。
【0058】
そして、
図6に示す処理S11ないし処理S16の各処理が、電動機Mの駆動が停止されるまで、制御部11によって所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
【0059】
図6において、まず、今回(k番目)において、電流測定部CSによって測定された各相の電流値が取得され、回転角度測定部VSによって測定された回転角度の値が取得される(S11)。電流測定部CSは、この取得した各相の電流値を、3相2相変換部CV2へ出力し、回転角度測定部VSは、この取得した回転角度値を、2相3相変換部CV1、3相2相変換部CV2および回転速度処理部RSCそれぞれへ出力する。
【0060】
続いて、3相2相変換部CV2は、処理S11で取得された各相の電流値および回転角度値から、d軸電流idおよびq軸電流iqを求め、この求めたd軸電流idおよびq軸電流iqをモデル予測制御部MCへ出力し、回転速度処理部RSCは、処理S11で取得された各相の電流値および回転角度値から、回転速度ωmを求め、この求めた回転速度ωmを、モデル予測制御部MCへ出力する(S12)。
【0061】
続いて、モデル予測制御部MCは、電圧パターン生成部12によって、予め設定された予測ホライズンの値および制御ホライズンの値に応じて、インバータ回路IVで出力可能な時系列な電圧パターンを、互いに異なるように複数、生成する(S13、電圧パターン生成処理)。
【0062】
続いて、モデル予測制御部MCは、予測部13によって、処理S13で電圧パターン生成部12によって生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、当該時系列な電圧パターンが電動機Mに入力された場合における前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量の値を予測値として予測する(S14、予測処理)。より具体的には、本実施形態では、予測部13は、次式1によってd軸電流idを求め、次式2によってq軸電流iqを求め、次式3によってトルクTeを求め、次式4によって回転速度予測値ωmを求める。
【0063】
続いて、モデル予測制御部MCは、電圧パターン選択部14によって、処理S13で電圧パターン生成部12によって生成した複数の時系列な電圧パターンの中から、処理S14で予測部13によって予測された電動機Mの各予測値の中で最も高い評価の予測値に対応する時系列な電圧パターンを選択する(S15、電圧パターン選択処理)。
【0064】
続いて、モデル予測制御部MCは、PWMインバータ制御部15によって、処理S15で電圧パターン選択部14によって選択された時系列な電圧パターンに基づいて、PWM変調器PWおよびインバータ回路IVを制御して電動機Mを駆動する(S16、PWMインバータ制御処理)。
【0065】
このように電動機Mが、制御目的の目標値の回転速度ωm
*となるように、モデル予測制御で制御され、駆動される。
【0066】
以上説明したように、本実施形態における電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置およびこれに実装された電動機駆動制御方法は、予測値を求める場合に、時間経過に従ってトルクの大きさが増減する脈動トルクTdistを考慮するので、前記脈動トルクに起因する速度脈等の現象を低減できる。
【0067】
上記電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法は、電動機自体に生じる第1および第2脈動トルクのうちの少なくとも一方、上述の実施形態では両方を抑制できる。
【0068】
本実施形態によれば、速度制御しつつ脈動トルクを抑制できる速度制御できる電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法が提供できる。
【0069】
なお、上述の実施形態では、速度制御するために、前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量は、回転速度であったが、これに限定されるものではなく、他であってもよい。例えば、トルク制御するために、前記電動機Mの制御目的に関する所定の物理量は、駆動電流であってもよい。これによれば、電流制御によるトルク制御しつつ脈動トルクを抑制できる電動機駆動制御システムS、電動機駆動制御装置および電動機駆動制御方法が提供できる。
【0070】
この場合では、予測部13は、処理S14において、前記式1によってd軸電流idを求め、前記式2によってq軸電流iqを求める。そして、電圧パターン選択部14は、処理S15において、処理S13で電圧パターン生成部12によって生成した複数の時系列な電圧パターンそれぞれについて、予測部13で予測された電動機Mの電流予測値[idq(k+1)、idq(k+2)]を、例えば次式9の評価式gに用いることによって、前記時系列な電圧パターンを定量的に評価し、前記複数の時系列な電圧パターンの中から、最も高い評価の電流予測値[idq(k+1)、idq(k+2)]に対応する時系列な電圧パターンを選択する。式9の評価式gでは、評価値が小さいほど、評価が高い。
【0071】
【0072】
上記式9の評価式gは、トルク制御の上で重要となることから、q軸電流iqの電流偏差を第1項とし、上述のように、表面型永久磁石式同期電動機の場合、無駄な給電を防止するために、トルクの発生に寄与しないd軸電流idを0に保持することが重要であることから、d軸電流idの電流偏差を第2項とし、これら第1項および第2項を係数a、bで線形結合することで構成されている。したがって、第1項と第2項とにおける相対的な重要度に応じて係数a、bが予め適宜に決定される。
【0073】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0074】
S 電動機駆動制御システム
M 電動機
IV インバータ回路
PM PWM変調器
MC モデル予測制御部
CS 電流測定部
VS 回転角度測定部
CV1 2相3相変換部
CV2 3相2相変換部
RSC 回転速度処理部
11 制御部
12 電圧パターン生成部
13 予測部
14 電圧パターン選択部
15 PWMインバータ制御部