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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ボーリング装置
(51)【国際特許分類】
   E21B 3/02 20060101AFI20241111BHJP
   E21B 25/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
E21B3/02 B
E21B25/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021123623
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023019131
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599112113
【氏名又は名称】株式会社東亜利根ボーリング
(73)【特許権者】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡山 誠
(72)【発明者】
【氏名】大内 斉
(72)【発明者】
【氏名】林 健二
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝矢
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠
(72)【発明者】
【氏名】中澤 宏介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 公則
(72)【発明者】
【氏名】粂川 政則
(72)【発明者】
【氏名】三上 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅和
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一郎
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206906(JP,A)
【文献】特開平06-336719(JP,A)
【文献】特開2019-167728(JP,A)
【文献】実開昭54-034301(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔ロッドと、
前記削孔ロッドに回転力を付加して、前記削孔ロッドを回転駆動する回転駆動機構と、
前記削孔ロッドにその軸方向に沿って送り力を付加して、前記削孔ロッドを直線駆動する直線駆動機構と、
前記削孔ロッドが直線運動する送り速度を検知する送り速度検知部と、
前記回転駆動機構及び前記直線駆動機構の作動を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記削孔ロッドが前進する前記送り速度が所定の速度基準値を下回る場合には、前記送り力を増加させるように前記直線駆動機構を制御する速度制御を行うと共に、前記削孔ロッドの前記送り力が送り力上限閾値を上回ると、前記削孔ロッドの回転数を増加させるように前記回転駆動機構を制御する回復制御を行い
前記削孔ロッドの前記送り力に基づいて地盤の硬軟を判定し、
前記コントローラによって判定された硬軟の程度に応じて前記速度基準値及び前記送り力上限閾値の少なくとも一方が更新される、
ボーリング装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記削孔ロッドの前記送り速度と前記速度基準値との偏差に基づいて前記直線駆動機構をフィードバック制御することによって前記速度制御を実行する、
請求項1に記載のボーリング装置。
【請求項3】
前記削孔ロッドに取り付けられるコアバーレルと、
前記コアバーレルの先端に送水する送水ユニットと、をさらに備え、
前記コントローラは、判定した硬軟の程度に応じて前記送水ユニットの送水量を制御する、
請求項1又は2に記載のボーリング装置。
【請求項4】
削孔ロッドと、
前記削孔ロッドに回転力を付加して、前記削孔ロッドを回転駆動する回転駆動機構と、
前記削孔ロッドにその軸方向に沿って送り力を付加して、前記削孔ロッドを直線駆動する直線駆動機構と、
前記削孔ロッドが直線運動する送り速度を検知する送り速度検知部と、
前記回転駆動機構及び前記直線駆動機構の作動を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記削孔ロッドが前進する前記送り速度が所定の速度基準値を下回る場合には、前記削孔ロッドの前記送り力と回転数とを増加させるように前記直線駆動機構及び前記回転駆動機構を制御する回復制御を行い
前記削孔ロッドの前記送り力に基づいて地盤の硬軟を判定し、
前記コントローラによって判定された硬軟の程度に応じて前記速度基準値が更新される、
ボーリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボーリング装置としては、たとえば、特許文献1に開示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-278063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるようなボーリング装置には、作業者の技能と経験の違いによる作業効率及び精度のばらつきを抑制するために、自動化のニーズがある。特に、削孔ロッドによって地盤を削孔する送り速度を一定の範囲内で制御することが求められる。これに対し、一定の力で地盤に対して削孔したとしても、地盤の状況によって送り速度が異なってしまい、送り速度を安定させることは困難である。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、削孔ロッドの送り速度を精度よく制御可能なボーリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ボーリング装置であって、削孔ロッドと、削孔ロッドに回転力を付加して、削孔ロッドを回転駆動する回転駆動機構と、削孔ロッドにその軸方向に沿って送り力を付加して、削孔ロッドを直線駆動する直線駆動機構と、削孔ロッドが直線運動する送り速度を検知する送り速度検知部と、回転駆動機構及び直線駆動機構の作動を制御するコントローラと、を備え、コントローラは、削孔ロッドが前進する送り速度が所定の速度基準値を下回る場合には、送り力を増加させるように直線駆動機構を制御する速度制御を行うと共に、削孔ロッドの送り力が送り力上限閾値を上回ると、削孔ロッドの回転数を増加させるように回転駆動機構を制御する回復制御を行い、削孔ロッドの送り力に基づいて地盤の硬軟を判定し、コントローラによって判定された硬軟の程度に応じて速度基準値及び送り力上限閾値の少なくとも一方が更新されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、削孔ロッドの送り速度を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るボーリング装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るボーリング装置の各構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係るボーリング装置の制御を説明するためのフローチャート図である。
図4】本発明の実施形態に係るボーリング装置の再削孔制御を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るボーリング装置100について、図面を参照して説明する。ボーリング装置100は、試料(コア)の回収を行わずに地盤Gを削孔するノンコアボーリングを行う装置である。なお、ボーリング装置100は、ノンコアボーリングを行うものに限られず、試料を採取するコアボーリング(オールコアボーリング)を行う装置でもよい。
【0010】
ボーリング装置100は、図1及び図2に示すように、地盤Gを削孔する削孔ロッド10と、削孔ロッド10を回転駆動する回転駆動機構30と、削孔ロッド10をその軸方向に沿って直線駆動する直線駆動機構40と、削孔ロッド10の先端に対して送水するための送水ユニット50と、ボーリング装置100の作動を制御するコントローラ60と、ボーリング装置100の作動のために作業者によって操作される操作器70と、を備える。
【0011】
削孔ロッド10は、中空部を有する筒状であり、複数のロッド部材が軸方向に連結されることにより構成される。図1に示すように、削孔ロッド10は、その上部がチャック12によって把持され、チャック12を介して回転駆動機構30に連結される。削孔ロッド10の下部には、コアバーレル14が取り付けられる。コアバーレル14の下端には、地盤Gを掘削するビット16が設けられる。
【0012】
回転駆動機構30は、原動機としての電動モータ31と、電動モータ31によって回転駆動されるスピンドル32と、を有する。スピンドル32は、チャック12を介して削孔ロッド10と共に回転するように削孔ロッド10に連結される。
【0013】
電動モータ31は、コントローラ60から送信される制御指令信号(電流値、電圧値、周波数)によって回転数や回転力(トルク)等の作動が制御される。電動モータ31の回転は、図示しない伝達機構を介してスピンドル32に伝達される。よって、チャック12によってスピンドル32に連結される削孔ロッド10は、スピンドル32を介して電動モータ31により回転駆動される。なお、原動機は、電動モータ31に限定されず、油圧モータ等の他のモータや、エンジンなどであってもよい。
【0014】
直線駆動機構40は、スピンドル32、回転駆動機構30及び削孔ロッド10を鉛直上下方向に沿って直線移動する油圧シリンダ41(直線駆動部)を有する。なお、直線駆動部は、油圧シリンダ41に限定されず、その他の流体圧シリンダ、電動モータ31とボールねじとを有する直動機構、又はリニアアクチュエータ等であってもよい。
【0015】
油圧シリンダ41は、油圧制御装置(図示省略)の油圧ポンプから供給される油圧によって駆動される。油圧制御装置は、コントローラ60からの制御指令信号によって削孔ロッド10(及びビット16)に付加される荷重(送り力F)等の作動が制御される。油圧シリンダ41は、ブラケット部材45を介して回転駆動機構30及び削孔ロッド10を鉛直上下方向に沿って移動させる。
【0016】
送水ユニット50は、削孔ロッド10の先端に送水する送水ポンプ51と、送水ポンプ51が吐出する水を削孔ロッド10の先端に導く送水ライン52と、送水ポンプ51が送水する水を貯留するタンク53と、削孔ロッド10の先端からビット16を介して排出された削孔水と削孔スライムとを排水ライン56を通じて回収する排水ポンプ55と、排出された削孔水と削孔スライムを回収して貯留する排水タンク57と、を有する。
【0017】
詳細な図示は省略するが、送水ライン52は、配管パイプ又はホースによって構成され、削孔ロッド10の中空部に挿入されて削孔ロッド10の先端に臨んで設けられる。送水ポンプ51から吐出された水は、送水ライン52を通じてコアバーレル14の先端に供給される。
【0018】
排水ポンプ55は、送水ライン52を通じてコアバーレル14の先端に送水された水を、削孔ロッド10の外周と削孔した孔の内周との間の環状の隙間を通じて排出する。
【0019】
図2に示すように、ボーリング装置100は、スピンドル32の回転速度を検出する回転速度センサ80(回転速度検知部)と、削孔ロッド10の移動方向(鉛直方向)における削孔ロッド10の位置を検出する変位センサ81(送り速度検知部)と、地盤Gに対して削孔ロッド10を掘進させる力である送り力Fを検出する荷重センサ82(送り力検知部)と、送水ユニット50の送水ポンプ51からの送水される水の送水圧を検出する圧力センサ83(送水圧検知部)と、送水ポンプ51からの送水量を検出する流量センサ84(送水量検知部)と、ボーリング装置100に生じる振動を検出する加速度センサ85(振動検知部)と、をさらに備える。回転速度センサ80、変位センサ81、荷重センサ82、圧力センサ83、流量センサ84、及び加速度センサ85の検出結果は、コントローラ60に入力される。
【0020】
コントローラ60は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。コントローラ60は、少なくとも、本実施形態に係る制御を実行するために必要な処理を実行可能にプログラムされている。なお、コントローラ60は一つの装置として構成されていても良いし、複数の装置に分けられ、各制御を当該複数の装置で分散処理するように構成されていてもよい。
【0021】
回転駆動機構30、直線駆動機構40、及び送水ユニット50の作動は、コントローラ60によって制御される。
【0022】
操作器70は、作業者の操作入力を受け付ける入力部71と、画像を表示する表示部72と、を有する。作業者は、操作器70の入力部71を通じてボーリング装置100の操作や作動条件の設定を行う。表示部72は、設定された作動条件や、ボーリング装置100の現在の作動状態等を表示する。
【0023】
コントローラ60には、操作器70を通じてボーリング装置100による掘削条件が作業者によって入力される。掘削条件には、後述する削孔ロッド10の目標速度Vt及び掘削の目標値である目標深度が少なくとも含まれる。なお、本実施形態では、掘削条件には、後述する送り力Fの上限値である送り力上限閾値Fu、送水ユニット50による水の送水量の下限値である送水量下限閾値、水の送水圧力の上限値である送水圧上限閾値もさらに含まれる。
【0024】
コントローラ60は、変位センサ81の検出結果に基づいて、削孔ロッド10の移動速度を算出する。なお、移動速度とは、削孔ロッド10が地盤Gを掘進する(地盤Gに対して前進する)速度である送り速度と、削孔ロッド10が地盤Gから引き上げられる(地盤Gに対して後退する)速度である引き上げ速度と、を含むものである。
【0025】
次にボーリング装置100の作用について説明する。
【0026】
ボーリング装置100によるノンコアボーリングでは、コアバーレル14と共に削孔ロッド10を回転させ、地盤Gに向けて移動させる。そして、送水ユニット50の送水ポンプ51によってコアバーレル14の先端に水を供給しながら、コアバーレル14の先端のビット16によって地盤Gを削孔し、削孔ロッド10を地盤Gに対して掘進させる。ノンコアボーリングでは、メタルクラウンもしくはシングルダイヤモンドビット等のビット16に1.5~2.0m程度のコアバーレル14を使用して行う。ボーリング装置100は、1ステージ(通常5m)をコアバーレル14内に充填されるサンプル(試料)の回収なしで削孔する。ノンコアボーリングでは、サンプル(試料)は粉砕され、粉砕された削孔スライムが地上部へ排出されながら削孔される。このように、ノンコアボーリングでは、サンプル(試料)の回収なしで削孔することができる。
【0027】
なお、ボーリング装置100は、コアを採取するコアボーリングを行うものでもよい。ボーリング装置100によるコアの採取を伴うコアボーリングでは、削孔ロッド10の掘進に伴い、掘削された地盤Gの材料(地盤材料)がサンプル(試料)としてコアバーレル14内に充填される。コアボーリングにおいても、ノンコアボーリングと同様、送水ユニット50の送水ポンプ51によってコアバーレル14の先端に水を供給しながら地盤Gを削孔する。
【0028】
削孔ロッド10を掘進させてコアバーレル14内に掘削された地盤材料のサンプル(試料)が充填されたら、コアバーレル14と共に削孔ロッド10を後進させて地上に引き上げて、コアバーレル14内のコアを採取する。コアを採取した後は、削孔ロッド10を継ぎ足してさらに深い深度まで掘進して、コアを採取する。これらの工程を所定の深度までのコアが採取されるまで繰り返し実行する。以上により、掘削された地盤材料がサンプル(試料)として採取される。
【0029】
次に、ボーリング装置100の作動の制御について説明する。
【0030】
ボーリング装置100では、削孔ロッド10(及びビット16)が、自動で継続して地盤Gを掘進できるように、速度制御、回復制御、負荷制御、及び再削孔制御の4つの制御がコントローラ60によって実行される。速度制御及び再削孔制御は、直線駆動機構40に対する制御である。回復制御は、直線駆動機構40が速度制御によって制御されている状態において、回転駆動機構30に対して実行される制御である。負荷制御は、直線駆動機構40及び回転駆動機構30に対して実行される制御である。
【0031】
速度制御は、削孔ロッド10の送り速度が所定の速度基準値によって掘進するように直線駆動機構40を制御するものである。速度制御では、削孔ロッド10が地盤Gに対して前進する速度(以下、「送り速度V」と称する。)が所定の速度基準値を下回る場合には、送り力Fを増加させるように直線駆動機構40が制御される。反対に、削孔ロッド10の送り速度Vが速度基準値を上回る場合には、送り力Fを低下させるように直線駆動機構40が制御される。
【0032】
本実施形態では、速度制御は、目標速度Vtを速度基準値とし、削孔ロッド10の送り速度Vと目標速度Vtとの偏差に基づいて直線駆動機構40を制御するフィードバック制御によって実行される。直線駆動機構40のフィードバック制御は、PID制御によって実行される。PID制御は、周知の技術を採用できるため、本明細書では、詳細な説明は省略する。
【0033】
回復制御とは、直線駆動機構40によって発揮される削孔ロッド10の送り力Fが所定の送り力上限閾値Fuを上回った場合に、削孔ロッド10の回転数Rを増加させる制御である。速度制御によって送り力Fをそれ以上増加できないような場合であっても、回復制御によって回転数Rを増加させることで、地盤Gを掘削しやすくなる。このように、速度制御と共に回復制御を実行することで、削孔ロッド10の送り速度Vを容易かつ精度よく目標速度Vtに制御することができる。
【0034】
負荷制御とは、加速度センサ85によって検出されるボーリング装置100の振動が所定の大きさ以上となった場合に、振動を抑制するように削孔ロッド10の送り力F及び/又は回転数Rを制御するものである。このような負荷制御を実行することで、ボーリング装置100に過剰な負荷がかかることを抑制して、設備を保護することができる。
【0035】
再削孔制御とは、速度制御の実行中において、コア詰まりと呼ばれる現象の発生を検知した場合に実行される制御であって、コア詰まりを解消するような特殊な掘進動作である再削孔動作を行うように削孔ロッド10の作動を制御するものである。
【0036】
図3及び図4は、コントローラ60によるボーリング装置100の制御の手順を示すフローチャートである。以下、図3及び図4を参照して、ボーリング装置100の制御を具体的に説明する。コントローラ60は、図3に示す処理を所定の時間間隔によって繰り返し実行する。
【0037】
図3に示すステップS11~S13が速度制御に対応する。図3に示すステップS14及びS15が回復制御に対応する。図3に示すステップS20からS25が負荷制御に対応する。図3に示すステップS30及び図4に示すステップS31からステップS33が再削孔制御に対応する。
【0038】
ステップS10では、ボーリング装置100の作動条件が、制御継続条件を満たしているかを判定する。制御継続条件を満たしている場合は、ステップS10からステップS11に進んで、直線駆動機構40に対して速度制御を実行する。制御継続条件を満たしていない場合には、ステップS10からステップS30に進んで、直線駆動機構40に対して再削孔制御を実行する。制御継続条件については、後に説明する。
【0039】
ステップS11では、変位センサ81から取得した削孔ロッド10の送り速度Vと掘削条件として取得した目標速度Vtとの偏差(送り速度V-目標速度Vt)を算出し、偏差の正負を判定する。
【0040】
偏差が正である場合には、ステップS11からステップS12に進み、偏差の大きさ(絶対値)に応じて削孔ロッド10に付加する送り力Fを減少させる。具体的には、直線駆動機構40への制御指令である電流値の大きさを偏差の大きさに応じて変化させて、直線駆動機構40により発揮される削孔ロッド10の送り力Fを減少させる。
【0041】
反対に、偏差が負である場合には、ステップS11からステップS13に進み、偏差の大きさに応じて削孔ロッド10への送り力Fを増加させる。具体的には、偏差が正である場合と同様に、直線駆動機構40への制御指令である電流値の大きさを偏差の大きさに応じて変化させて、直線駆動機構40により発揮される削孔ロッド10の送り力Fを増加させる。
【0042】
このように、ステップS11からS13にて、フィードバック制御による速度制御が実行されることで、削孔ロッド10の送り速度Vは、目標速度Vtに制御される。
【0043】
速度制御では、削孔ロッド10の送り速度Vが目標速度Vtを下回ると、送り力Fを増加するように直線駆動機構40が制御されるが、直線駆動機構40が発揮できる送り力Fには限界がある。そこで、送り力Fが所定の送り力上限閾値Fuを上回った場合には、削孔ロッド10の回転数Rを増加させるように回転駆動機構30を制御する回復制御が実行される。これにより、直線駆動機構40の送り力Fをそれ以上増加できない状態でも、送り速度Vを増加させて目標速度Vtに近づけることができる。
【0044】
具体的には、ステップS13で送り力Fを増加させると、ステップS14にて送り力Fが送り力上限閾値Fuを上回っていないかが判定される。送り力Fが送り力上限閾値Fu以下の場合には、後述する負荷制御のステップS20に進む。送り力Fが送り力上限閾値Fuを上回っている場合には、ステップS15に進み、回転数Rを増加させる回復制御を実行して、ステップS20に進む。
【0045】
このようにして速度制御及び回復制御によって削孔ロッド10を所望の送り速度で掘進させたとしても、ボーリング装置100には過剰な負荷が作用している場合があり、この状態で掘進を継続すると設備の耐久性が低下するおそれがある。このため、ボーリング装置100では、ボーリング装置100に生じる振動を監視して、振動に応じて設備の負荷を低減する負荷制御が実行される。
【0046】
具体的には、ステップS20において、加速度センサ85の出力値である加速度aが、予め定められる加速度閾値at以上であるかを判定する。加速度aが加速度閾値atよりも小さい場合には、ボーリング装置100の負荷は許容範囲内であるとして、そのまま処理を終了する。ステップS20において加速度aが加速度閾値at以上であると判定されると、ステップS21に進み、送り力Fを所定の大きさ又は割合で減少させるように直線駆動機構40を制御する。そして再びステップS22において、加速度aが加速度閾値at以上であるかを判定する。
【0047】
ステップS22において加速度aが加速度閾値atよりも小さいと判定されると、そのまま処理を終了する。ステップS22において加速度aが加速度閾値at以上であると判定されると、ステップS23進み、回転数Rを所定の大きさ又は割合で減少させるように回転駆動機構30を制御する。そして再びステップS24において、加速度aが加速度閾値at以上であるかを判定する。
【0048】
ステップS24において加速度aが加速度閾値atよりも小さいと判定されると、そのまま処理を終了する。ステップS24において加速度aが加速度閾値at以上であると判定されると、ステップS25において削孔ロッド10の回転を停止するように回転駆動機構30を制御し、処理を終了する。
【0049】
このように、加速度aが加速度閾値atよりも大きく、ボーリング装置100の負荷が大きい場合には、振動を低減するように送り力F及び回転数Rを減少させ、ボーリング装置100の負荷を低減させる。削孔ロッド10の送り力F及び回転数Rを減少させても加速度aが加速度閾値atを下回らない場合には、削孔ロッド10の回転を一旦停止して削孔を停止させることで、より確実に設備保護が図られる。このようにして削孔ロッド10の回転を停止した場合には、例えば、回転が停止されたことを作業者に報知し、作業者が作業条件の見直し等を行ってもよい。以上のようにして、設備を保護する負荷制御が実行される。
【0050】
また、ボーリング装置100による削孔では、上記の速度制御及び回復制御によっても削孔ロッド10を目標速度Vtにすることができない場合がある。その原因の一つとして、いわゆる「コア詰まり」という現象がある。コア詰まりとは、ビット16の先端、若しくはコアバーレル14内に地盤Gを掘削した地盤材料が噛み掘進ができなくなる状態である。コア詰まりが発生すると、削孔ロッド10及びビット16が予め定められた目標速度Vtや適性速度範囲で掘削を継続することが困難となるので、作業効率の低下を招く。このため、削孔ロッド10による掘進速度を目標速度Vtに維持して継続させるためには、コア詰まりの発生を事前に検知して、回避する必要がある。
【0051】
そこで、ボーリング装置100では、コア詰まりの発生を検知すると、削孔ロッド10の動作の制御(直線駆動機構40の制御)が、速度制御から、コア詰まりを解消するための再削孔動作を行う再削孔制御へと切り換えられる。
【0052】
具体的には、ステップS10においてコア詰まりの発生が検知される。つまり、ステップS10における制御継続条件は、コア詰まりの発生を検知するための判定条件であり、制御継続条件を充足しない場合にコア詰まりが発生したと判断される。
【0053】
コア詰まりが発生した場合、削孔ロッド10が掘進できなくなると共に、送水ポンプ51から削孔ロッド10の先端へ充分に送水ができなくなる。そこで、本実施形態では、制御継続条件が充足されない状態として、(1)削孔ロッド10の送り速度Vが所定の速度下限閾値を下回る状態が所定時間を超えて継続されている、(2)送水ポンプ51の送水圧が所定の送水圧上限閾値を上回る状態が所定時間を超えて継続されている、(3)送水ポンプ51の送水量が所定の送水量下限閾値を下回る状態が所定時間を超えて継続されている、(4)送水ポンプ51の送水圧が送水圧上限閾値を上回り、かつ、送水ポンプ51の送水量が送水量下限閾値を下回る状態が、所定時間を超えて継続されている、といった4つの状態が設定される。これらの状態(1)、状態(2)、状態(3)、及び状態(4)のいずれかが検知されると、ボーリング装置100の制御は、速度制御から再削孔制御に切り換えられ、コア詰まりの解消が図られる。上記の4つの状態のいずれにも該当しない状態が、制御継続条件を充足した状態である。
【0054】
なお、状態(4)を判定する所定時間は、例えば状態(2)及び状態(3)における所定時間より短く設定してもよい。また、状態(4)における送水圧上限閾値及び送水量下限閾値は、それぞれ状態(2)及び状態(3)での値とは異なる値に設定されてもよい。状態(4)は、状態(2)及び状態(3)を満たさないコア詰まりを検知できるように、閾値や判定する所定時間の少なくとも一部を状態(2)や状態(3)とは異なるように設定することが望ましい。
【0055】
以下、図4を参照して、再削孔制御について説明する。
【0056】
図4に示すように、再削孔制御では、まず、ステップS31において切換位置がコントローラ60に記憶される。切換位置とは、制御継続条件を充足しないと判定されコア詰まりが検知された際の削孔ロッド10の位置、言い換えると、ボーリング装置100の制御が速度制御から再削孔制御に切り換えられる際の削孔ロッド10の位置である。
【0057】
次に、ステップS32において、再削孔動作を行うように直線駆動機構40を制御する。再削孔動作とは、地盤Gに対する削孔ロッド10の掘進を一旦停止し、短時間の間に所定量だけ後進させて再び掘進させる動作のことである。
【0058】
以下、再削孔動作について具体的に説明する。まず、コア詰まりが検知されると、所定の後進速度によって所定の移動量だけ削孔ロッド10が切換位置から後進するように直線駆動機構40が制御される。なお、切換位置から所定の移動量だけ後進した削孔ロッド10の位置を退避位置とする。次に、削孔ロッド10を退避位置にて所定時間だけ待機させる。そして、退避位置から所定の再削孔送り力によって削孔ロッド10を再び前進させる。このような一連の動作が、再削孔動作である。なお、再削孔動作では、退避位置における待機は必須ではなく、退避位置に達すると直ちに削孔ロッド10を前進させるものでもよい。再削孔動作において、切換位置から後進する速度、後進する移動量、退避位置にて待機する時間、及び再削孔送り力は、操作器70によって予め設定されるものである。
【0059】
ステップS33において削孔ロッド10が切換位置を超えて前進したと判定されるまでステップS32の再削孔動作が繰り返し実行される。ステップS33において削孔ロッド10が切換位置を超えて前進したと判定されると、図4に示す再削孔制御の処理を終了する。つまり、再削孔動作によって削孔ロッド10が切換位置を超えて地盤Gを掘進すると、コア詰まりが解消されたとして、ボーリング装置100の制御が、再削孔制御から再び速度制御に切り換えられる。
【0060】
このように、所定の再削孔動作によって削孔ロッド10を移動させることで、コア詰まりした地盤材料を衝撃で振るい落すことができるので、効率的にコア詰まりを解消することができる。衝撃でふるい落とされた地盤材料(サンプルまたは試料)は、ビット16によって切削され、切削により粉砕された削孔スライムを地上部へ排出しながら再び削孔が行われる。
【0061】
以上のように動作が制御されることによって、ボーリング装置100は、自動で地盤Gを掘進することができる。
【0062】
次に、地盤Gの硬軟判定について説明する。コントローラ60は、直線駆動機構40を速度制御している状態において、掘進する地盤Gの硬軟を削孔ロッド10の動作に基づいて判定する。判定された硬軟の程度は、コントローラ60に記憶されると共に、掘削条件の更新に利用される。
【0063】
地盤Gの硬軟判定は、削孔ロッド10の送り力Fに基づいて行われる。削孔ロッド10の送り速度Vは、フィードバック制御によって実行される速度制御により、目標速度Vtとなるように制御される。このため、目標速度Vtにするために必要な送り力Fを評価することで、掘進する地盤Gの硬軟を判定することができる。
【0064】
コントローラ60は、例えば、図3に示す一連の処理が完了する毎などの所定のタイミングで、削孔ロッド10の送り力Fを取得する。コントローラ60には、送り力Fと地盤Gの硬軟の程度との関係が目標速度Vtに応じてマップや関数といった形式で予め記憶される。コントローラ60は、取得した送り力Fと現在の目標速度Vtとの関係から、掘進する地盤Gの硬軟の程度を判定する。判定した地盤Gの硬軟は、掘削条件等と共にコントローラ60に記憶される。
【0065】
地盤Gの硬軟に応じて更新される掘削条件としては、例えば、速度制御における目標速度Vt、回復制御における送り力上限閾値Fu、送水ユニット50による送水量などがある。地盤Gの硬軟に応じて目標速度Vtと送り力上限閾値Fuとの少なくとも一方を更新することで、作業効率を向上させることができる。また、ノンコアボーリング及びコアボーリングのいずれにおいても硬軟判定が行われてもよいが、コアボーリングでは、地盤Gの硬軟に応じて送水ユニット50の送水量を更新することで、コア詰まりの発生を防止すると共にコアの採取率を向上させることができる。このように、地盤Gの硬軟の程度に応じて掘削条件を更新することで、掘削する地盤Gに対する掘削条件を最適化して作業効率を向上させることができる。
【0066】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0067】
ボーリング装置100では、送り速度Vが目標速度Vtを下回ると送り力Fを増加するように直線駆動機構40が制御されるため、送り速度Vを目標速度Vtに近づけることができる。また、送り力Fが送り力上限閾値Fuを上回るまで増加すると、削孔ロッド10の回転数Rが増加される。削孔ロッド10の回転数Rを増加させることで、送り力Fをそれ以上増加させることが困難になった場合であっても、削孔ロッド10の掘進量を増加させて送り速度Vを増加させることができる。これにより、送り速度Vが速度基準値を下回る一方で送り力Fを増加させることが困難な場合でも、送り速度Vを速度基準値に近づけることができる。したがって、ボーリング装置100の削孔ロッド10の送り速度Vを精度よく制御することができる。
【0068】
また、ボーリング装置100では、送り速度Vと目標速度Vtとの偏差に基づいて直線駆動機構40をフィードバック制御することで、速度制御が実行されると共に、削孔ロッド10の送り力Fに基づいて地盤Gの硬軟が判定される。このように、削孔ロッド10は速度制御によって目標速度Vtに制御された状態であるから、削孔ロッド10の送り力Fのみによって地盤Gの硬軟を容易に判定することができる。
【0069】
また、ボーリング装置100では、速度制御によって削孔ロッド10の送り速度Vを目標速度Vtとするように直線駆動機構40を制御しつつ、コア詰まりが検知されると、コア詰まりを解消するために、直線駆動機構40の制御が速度制御から再削孔制御に切り換えられる。これにより、ボーリング装置100によって、自動で継続して地盤Gを掘進することができる。
【0070】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の各実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。また、上記実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0071】
上記実施形態では、速度制御は、削孔ロッド10の送り速度Vと目標速度Vtとの偏差に基づいて直線駆動機構40をフィードバック制御することによって実行される。これに対し、速度制御は、上記実施形態のようなフィードバック制御に限定されない。速度制御は、少なくとも、削孔ロッド10の送り速度Vが速度基準値を下回ると、送り速度Vを増加するように直線駆動機構40が制御されるものであればよい。
【0072】
例えば、速度制御は、削孔ロッド10の送り速度Vが速度基準値を下回ると、所定の量又は割合によって送り速度Vが増加するように直線駆動機構40が制御されるものでもよい。送り力Fの変更の度合い(増減量)は、例えば、関数やマップ等の形式によって規定されて予めコントローラ60に記憶されるように構成すればよい。
【0073】
また、上記実施形態では、速度制御において一つの目標速度Vtを速度基準値として設定したが、これに代えて、例えば、速度基準値として上限速度基準値と下限速度基準値とを設定してもよい。この場合、削孔ロッド10の送り速度Vが下限速度基準値を下回ると送り速度Vを増加させるように、削孔ロッド10の送り速度Vが上限速度基準値を上回ると送り速度Vを減少させるようにして、直線駆動機構40を制御してもよい。これによれば、削孔ロッド10の送り速度Vは、上限速度基準値と下限速度基準値との間の範囲内となるように制御される。
【0074】
また、上記実施形態では、送り力Fが送り力上限閾値Fuを上回ると、削孔ロッド10の回転数Rを増加させる回復制御が実行される。これに対し、送り力下限閾値を設定し、送り力Fが送り力下限閾値を下回ると、削孔ロッド10の回転数Rを減少させる回復制御を実行してもよい。
【0075】
また、回復制御は、送り力Fと送り力上限閾値Fu又は送り力下限閾値との大小関係を判定して行うのではなく、速度制御において送り力Fを増加又は減少させるのと同時に行ってもよい。つまり、削孔ロッド10の送り速度Vが速度基準値を下回る場合には、削孔ロッド10の送り力Fと回転数Rとを増加させるように直線駆動機構40及び回転駆動機構30を制御する速度回復制御を行ってもよい。同様に、削孔ロッド10の送り速度Vが速度基準値を上回る場合には、削孔ロッド10の送り力Fと回転数Rとを減少させるように直線駆動機構40及び回転駆動機構30を制御する速度回復制御を行ってもよい。
【0076】
また、フィードバック制御による速度制御では、偏差の大きさによって、偏差に対する制御指令の変化の割合(偏差に対する制御指令の感度)が異なるように設定してもよい。例えば、削孔ロッド10の送り速度Vと目標速度Vtとの偏差を、偏差の絶対値が第1偏差量以下であるスロー範囲、絶対値が第1偏差量よりも大きく第2偏差量以下であるミドル範囲、及び絶対値が第2偏差量よりも大きい通常制御範囲の3つに分ける。そして、通常制御範囲における偏差に対する制御指令の割合(単位偏差量当たりの制御指令値の変化量)を基準(100%)とすると、ミドル範囲ではその割合が100%よりも小さいP1(0%<P1<100%)、スロー範囲ではその割合がP1%よりも小さいP2(0%<P2<P1)とする。つまり、この変形例では、実速度が目標速度Vtに近づくにつれて、速度の変化が緩やかになるように(偏差に対する速度の感度が小さくなるように)制御される。このような変形例によれば、実速度が目標速度Vtを超えて速度変化する、いわゆるオーバシュートの発生を抑制できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0078】
100 ボーリング装置
10 削孔ロッド
14 コアバーレル
30 回転駆動機構
40 直線駆動機構
51 送水ポンプ
60 コントローラ
80 回転速度センサ(回転速度検知部)
81 変位センサ(送り速度検知部)
82 荷重センサ(送り力検知部)
83 圧力センサ(送水圧検知部)
84 流量センサ(送水量検知部)
85 加速度センサ(振動検知部)
図1
図2
図3
図4