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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】セルフレベリング材の使用量予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20241111BHJP
   G01B 11/25 20060101ALI20241111BHJP
   E04F 15/12 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G01C15/00 104Z
G01B11/25 H
E04F15/12 E
G01C15/00 103C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021137140
(22)【出願日】2021-08-25
(65)【公開番号】P2023031572
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】兼久 定樹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 一真
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-19202(JP,A)
【文献】特開2020-76585(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131980(WO,A1)
【文献】特開2021-60317(JP,A)
【文献】特開2016-151113(JP,A)
【文献】特開昭63-67368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00-15/14
G01B 11/00-11/30
E04F 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地面に施工するセルフレベリング材の使用量を予測する方法であって、
前記下地面の上または周辺に、少なくとも3つのマーカーを同じ高さに、一直線上に並ばないように設置するマーカー設置工程と、
前記下地面の3次元形状および前記マーカーの3次元座標を取得する3次元計測工程と、
前記マーカーの3次元座標に基づいて前記下地面の上方に水平面と平行な計画仕上げ面を設定する工程と、
前記計画仕上げ面と前記下地面の3次元形状に基づいて前記セルフレベリング材の予測使用量を算出する工程と、
を有するセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項2】
前記マーカー設置工程において、前記マーカーは、前記下地面の上または周辺に配置された後、レーザー墨出し器を用いて同じ高さに調整される、
請求項1に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項3】
前記マーカーが透明容器に収容された液体の表面に浮かべた状態で設置される、
請求項1または2に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項4】
前記3次元計測工程は、内装仕上げの基準となる内装基準高さの表示の3次元座標をさらに取得し、
前記計画仕上げ面は、前記内装基準高さから所定の高低差を有する面として設定される、
請求項1~3のいずれか一項に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項5】
前記3次元計測工程は、可搬型の3次元計測器を用いて、前記下地面の部分ごとの3次元形状を結合することによって該下地面全体の3次元形状を取得する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項6】
下地面に施工するセルフレベリング材の使用量を予測する方法であって、
水平からの傾きを検知可能な3次元計測器を用いて、前記下地面の3次元形状を取得するとともに参照水平面を設定する3次元計測工程と、
前記下地面の上方に前記参照水平面と平行に計画仕上げ面を設定する工程と、
前記計画仕上げ面と前記下地面の3次元形状に基づいて前記セルフレベリング材の予測使用量を算出する工程と、
を有するセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項7】
前記3次元計測工程は、内装仕上げの基準となる内装基準高さの表示の3次元座標をさらに取得し、
前記計画仕上げ面は、前記内装基準高さから所定の高低差を有する面として設定される、
請求項6に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【請求項8】
前記3次元計測器が水平からの傾きを検知可能な可搬型の3次元計測器であって、
前記3次元計測工程は、前記下地面の部分ごとの3次元形状を結合することによって該下地面全体の3次元座標を取得する、
請求項6または7に記載のセルフレベリング材の使用量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床の下地面を水平に仕上げるために用いるセルフレベリング材の使用量を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床スラブなどの表面には凹凸や傾斜といった不陸がある程度存在するので、その上にモルタル等の下地調整材を塗って水平面に仕上げることが行われる。
【0003】
特許文献1には、コンクリートスラブ等の構造物からなる床の周辺に、表面の高さが既知である基準盤を設置し、基準盤の表面と構造物の表面の3次元形状データを複数の計測点について取得し、基準盤の表面を含む仮想的な平面を基準として構造物の表面の高さを計測することにより、床表面の凹凸形状を計測する方法が記載されている。そして、この計測結果に基づいてコンクリート構造物の表面の形状を修正することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、コンクリートを打設しようとする領域の上面の周囲に、互いの離隔距離が知られた複数の基準点を設置し、2つの異なる位置から撮影した画像に写し込まれた基準点の位置からそれぞれの撮影位置を特定し、コンクリートを打設して上面を均すとともに、打設したコンクリートの上面を2つの異なる位置から撮影し、画像から上面の高さを演算して計画仕上げ高さと対比する方法が記載されている。そして、上面高さの計画仕上げ高さに対する高低を識別可能に表示することで、仕上げ作業の効率と正確性を向上させることが記載されている。
【0005】
一方、近年ではレベラー、レベリング材又はセルフレベリング材などと呼ばれるセルフレベリング性に優れた下地調整材(本発明において、それらを「セルフレベリング材」と総称し、以下「SL材」と略記する。)が用いられることがある。SL材は流動性に富み、下地面にスラリーを流し込んでトンボなどを用いて簡単に均すだけで、自然に流動して平滑な水平面を形成するという特長を有する。また、SL材は乾燥時間が短く、数時間の養生で施工面上を歩行可能となるので、工期を短縮できるという特長を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-060317号公報
【文献】特開2016-151113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SL材は上記特長を有する反面、材料の価格が高いので、原料粉を水と混練して調製したスラリーが余って無駄にすることは極力避けたい。しかし反対にスラリーが所要量に足りなかった場合は、乾燥時間が短いために、スラリーを追加で調製して施工面に打ち継ぐことは容易でない。このことから、SL材を用いる仕上げ作業では、施工前に、作業に必要な量をできる限り正確に予測することが求められる。
【0008】
特許文献1および2には、下地面の凹凸形状を3次元計測して不陸を可視化し、水平面への仕上げ作業を効率化する方法が記載されているが、仕上げ作業前に下地調整材の使用量を見積もる方法は記載されていない。
【0009】
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、SL材を用いて床下地面の不陸を修正する仕上げ作業に先立って、SL材の使用量を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセルフレベリング材の使用量予測方法は、下地面に施工するセルフレベリング材の使用量を予測する方法であって、前記下地面の上または周辺に、少なくとも3つのマーカーを同じ高さに、一直線上に並ばないように設置するマーカー設置工程と、前記下地面の3次元形状および前記マーカーの3次元座標を取得する3次元計測工程と、前記マーカーの3次元座標に基づいて前記下地面の上方に水平面と平行な計画仕上げ面を設定する工程と、前記計画仕上げ面と前記下地面の3次元形状に基づいて前記セルフレベリング材の予測使用量を算出する工程とを有する。
【0011】
ここでマーカーの高さが同じであるとは、下地面からの高さではなく、世界座標系における上下方向の位置が同じであることをいう。また、水平面とは、重力方向と垂直な方向の平面である。
【0012】
本発明の他のセルフレベリング材の使用量予測方法は、下地面に施工するセルフレベリング材の使用量を予測する方法であって、水平からの傾きを検知可能な3次元計測器を用いて、前記下地面の3次元形状を取得するとともに参照水平面を設定する3次元計測工程と、前記下地面の上方に前記参照水平面と平行に計画仕上げ面を設定する工程と、前記計画仕上げ面と前記下地面の3次元形状に基づいて前記セルフレベリング材の予測使用量を算出する工程とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のいずれかのセルフレベリング材の使用量予測方法を用いることにより、セルフレベリング材の施工作業に先立って、セルフレベリング材の予測使用量を算出できるので、必要最小限の材料で施工可能で、材料コストを低減できる。また、複数の下地面に対して、仕上げ面の高さを一定に揃えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法を実施するための装置の構成を示す図である。
図2】第1実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法の工程フロー図である。
図3】A、B:第1実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法に用いるマーカーの例である。
図4】第1実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法における下地面、参照水平面、計画仕上げ面、および内装基準高さの関係を説明するための図である。
図5】第2実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法の工程フロー図である。
図6】第2実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法において、固定型の3次元計測器による3次元計測工程を説明するための図である。
図7】A、B:第2実施形態のセルフレベリング材の使用量予測方法において、可搬型の3次元計測器による3次元計測工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルフレベリング材(SL材)の使用量予測方法の第1実施形態を図1図4に基づいて説明する。本実施形態では、施工対象である下地面の上または周辺にマーカーを設置して利用する。
【0016】
図1を参照して、下地面10は、例えば打設されたコンクリートや床スラブである。本実施形態の方法は、マーカー20と3次元計測器40を用いて実施される。レーザー墨出し器30はマーカー20の高さ調整に使用される。演算部43は3次元計測器40の測定結果を用いて、参照水平面の設定、計画仕上げ面の設定、予測使用量の算出など各種演算を行う。記録部44は各種データを記録する。各装置の詳細は以下に各工程を説明する中で述べる。
【0017】
本実施形態のSL材の使用量予測方法を図2に示した工程フローに沿って説明する。
【0018】
(S1)マーカー20を設置する。マーカー20は後の工程でその3次元座標に基づいて仮想の参照水平面を設定するのに利用される。そのため、マーカー20は下地面10の上または周辺に、少なくとも3つを、同じ高さに、かつ全部のマーカーが一直線上に並ばないように設置する。ここでマーカーの高さが同じであるとは、マーカーの下地面からの高さではなく、世界座標系における上下方向の位置が同じであることをいう。同様に、本明細書中で単に「高さ」というときは、世界座標系を基準とする高さをいう。
【0019】
マーカー20の3次元座標を用いる各種の演算処理は、実際には、マーカーに含まれる1点をマーカーを代表する点として選択して、その代表点の3次元座標を用いて行われる。以下、本明細書において、単にマーカーの3次元座標や高さというときは、マーカーの代表点の3次元座標や高さを意味する。
【0020】
マーカー20の形状は特に限定されないが、好ましくは上面が平面である。その平面上の1点を代表点として、その平面を水平に調整することで、マーカーの3次元座標の計測に伴う高さ方向の誤差を小さくすることができる。また、マーカー20の形状は、より好ましくは上面が正方形、長方形、ひし形または円形の平面である。この平面の中心をマーカーの代表点とすれば、3次元計測時に、2本の対角線の交点や、観測された楕円の長径の中点を取ることによって、代表点を容易にかつ精度よく認識することができる。図3Aには、好ましい例として、マーカー20が円板状で、上面の円の中心を代表点20Cとするものを示した。
【0021】
図3Aを参照して、マーカー20は、ベース21に支持されている。ベース21は、水平および高さが調整可能なものを用いることが好ましく、例えば三脚を用いることができる。図3Bを参照して、マーカー20を透明容器24に保持された液体25の表面に浮かべた状態で設置してもよい。これにより、下地面10の傾斜に依らず、ベース22の水平を調整しなくても、マーカー20の上面を常に水平に保つことができる。
【0022】
図1に戻り、複数のマーカー20の高さは同一に調整される。マーカーの高さは、前述のとおり、世界座標系における上下方向の位置が同じになるように調整される。マーカー20の高さを特定の値に揃えることまでは不要で、複数のマーカー20の高さが同じであれば、任意の高さであってよい。マーカー20の高さの調整は、トランシットやセオドライトなどの公知の装置を用いて公知の方法で行うことができる。好ましくは、レーザー墨出し器30を用いて、すべてのマーカー20の高さを同一に調整する。レーザー墨出し器30を用いると、装置の全周方向に水平ラインを照射できるので、複数のマーカー20の高さを揃える作業が容易になる。
【0023】
マーカー20の数は、前述のとおり、3つ以上が必要である。マーカーは、施工する下地面10が広い場合には、マーカー20が下地面全体に散在するように、より多くのマーカーを設置することが好ましい。下地面10の水平面からの変位はマーカー20の3次元座標との比較によって求められるので、下地面のうち、マーカーとの距離が近い領域ほど、計測誤差をおさえられるからである。
【0024】
(S2)3次元計測器40を用いて、下地面10の3次元形状およびマーカー20の3次元座標を取得する。後述する内装基準高さ13を示す墨出し線等の表示が周囲の壁や柱に描かれているときは、その表示の3次元形状も同時に取得する。
【0025】
3次元形状の表現方法は、計算機で処理可能なものであれば特に限定されず、例えば、ポリゴンメッシュ、平面/曲面の数式やパラメータ表現、ボリュームデータ表現(ボクセル等)であってもよいが、好ましくは、3次元座標の集合(点群データ)を用いる。3次元計測器40による測定結果は、計測器40の解像度等に応じて、下地面10上の複数の点の3次元座標の集合として求められるので、この点群データをそのまま下地面の3次元形状として用いることができる。
【0026】
3次元計測器40の形式は特に限定されず、LiDAR方式、ステレオ方式などの各種装置を用いることができる。ステレオ方式を採用する場合は、好ましくは、アクティブステレオ方式の装置を用いる。アクティブステレオ方式は、通常のステレオカメラ(パッシブステレオ方式)の2台のカメラの一方をプロジェクターに置き換えたもので、プロジェクターから直線や幾何学的図形のパターンを対象面に投影し、カメラで撮像して、三角測量の原理によってパターン上の各計測点までの距離を求める方式である。図1に示したアクティブステレオ方式の3次元計測器40は、プロジェクター(投影部)41から直線や幾何図形のパターンを下地面10に投影し、下地面をカメラ(撮像部)42で撮像することで、計測点までの距離を求める。LiDAR方式では下地面10をレーザーでスキャンすることによって、アクティブステレオ方式では下地面10にパターンを投影することによって、下地面10が特徴的な模様を有しない場合でも精度の高い3次元計測が可能となる。
【0027】
3次元計測器40は、作業場所中の1か所に固定して下地面の全体を計測する固定型であってもよいし、計測器を手で持つなどして移動させながら計測を行う可搬型であってもよい。固定型の例としては、LiDAR方式の距離計を搭載し水平基準を備えたFARO Technologies,Inc.製のレーザースキャナなどが挙げられる。可搬型の例としては、アクティブステレオ方式を採用するMantisVision社製のF6シリーズなどが挙げられる。
【0028】
3次元計測器40は、好ましくは取扱いの容易な可搬型のものを用いる。可搬型の3次元計測器は、下地面10との適切な距離を保ちながら、下地面に沿って移動させて、下地面の部分ごとの3次元計測を行い、得られた3次元形状を結合することによって下地面10全体の3次元形状を取得する。固定型の3次元計測器では、1か所に固定した3次元計測器から遠い領域での測定精度が下がるのに対して、可搬型の3次元計測器では、計測器と計測領域の距離が大きく変化しないので、下地面の全領域を一定の精度で測定できる。下地面10が広い場合は、下地面の全体的な傾斜がSL材の使用量に大きく影響することから、可搬型の3次元計測器を用いることが特に好ましい。なお、可搬型の3次元計測器を用いる場合は、計測可能な領域である計測器の「視野」に常に1つ以上のマーカー20が含まれるように、マーカーを配置しておくことが好ましい。
【0029】
(S3)図4を参照して、マーカー20の3次元座標に基づいて参照水平面11を設定する。すべてのマーカー20が同じ高さを有するので、すべてのマーカーを通る平面は水平面である。参照水平面は、マーカーを通る水平面、または当該水平面と平行な任意の高さの水平面に設定できるが、通常はマーカーを通る水平面を参照水平面11として設定すればよい。下地面10の3次元形状だけを取得しても、下地面と水平面との相対的な位置関係が分からず、例えば下地面の3次元形状の水平からの傾きを知ることはできない。しかし、本実施形態では、一つ前の3次元計測工程(S2)で下地面10の3次元形状とマーカー20の3次元座標を同時に取得しているので、下地面10の3次元形状と参照水平面との相対的な位置関係を知ることができる。
【0030】
(S4)参照水平面11と平行に計画仕上げ面12を設定する。計画仕上げ面12はSL材を施工した後の仕上がりの表面である。計画仕上げ面は、後の内装仕上げとの関係で所定の高さに設定する必要がある場合と、特に制限なく自由な高さに設定できる場合がある。
【0031】
建築工事では、内装仕上げ後の床面高さを設計図のスラブ上面から何mmなどと定める場合が多い。その場合、SL材の計画仕上げ面12も、それに合わせて所定の高さに設定する必要がある。言い換えると、世界座標系の原点を設計図のスラブ上面に取って、計画仕上げ面の高さをその座標系で所定の値に合わせる必要がある。参照水平面11の世界座標における高さの絶対値は不明である。しかし、内装仕上げに対して設計図のスラブ等からの距離が指定される場合は、内装基準高さ13として壁や柱に墨出し線等が、例えば設計図のスラブ上面から1m上の高さに引かれるので、計画仕上げ面12を内装基準高さ13から所定の高低差Lを有する面として設定することができる。
【0032】
一方、計画仕上げ面12を特に制限なく自由に設定できる場合は、SL材の使用量が少なくなるように計画仕上げ面を設定することができる。SL材の塗厚は標準的には10mm程度であるが、SL材の製品毎に塗厚の推奨範囲が、例えば5~20mmなどと定められている。計画仕上げ面12は、下地面10の最も高い山から計画仕上げ面12までの距離t1が推奨塗厚の最少値となるように設定することができる。下地面10の凹凸の高さは塗厚の推奨範囲に比べて小さいことが通常であるので、これにより下地面の最も低い谷から計画仕上げ面までの距離t2が推奨塗厚の最大値を超えることは極めて稀である。仮に下地面10の最も低い谷から計画仕上げ面12までの距離t2が推奨塗厚の最大値を超える場合は、その下地面に直接SL材を施工することは好ましくないので、予めモルタル等で下地面の凹凸を小さくするように修正して、その上にSL材を塗工する。
【0033】
(S5)計画仕上げ面12と下地面10の3次元形状からSL材の予測使用量を算出する。具体的には、演算部43が計画仕上げ面12と下地面10の距離tを下地面10の全体に亘って積算することによって、SL材の予測使用量を算出する。下地面10の3次元形状が点群データで表現されている場合は、点群の密度(1点がカバーする領域の面積)を考慮し、各点から計画仕上げ面12までの距離を積算することによってSL材の予測使用量が算出できる。あるいは、下地面10全体における距離tの平均値(平均厚さ)を求め、この平均厚さに下地面の面積を掛け合わせることでSL材の予測使用量を算出してもよい。
【0034】
以上の工程S1~S5によって、本実施形態のSL材の使用量予測方法が完了する。
【0035】
(S6)SL材を調製して施工する。SL材の種類は特に限定されず、例えば、セメント系であっても石膏系であってもよい。SL材の品質は、一般社団法人日本建築学会によるセルフレベリング材の品質基準(JASS15M-103)に従う。
【0036】
マーカー設置工程(S1)でマーカー20を下地面10上に設置したときは、3次元計測(S2)の終了後、本工程前までのどこかの段階でマーカーを取り除いておく。SL材の調製および塗工は、公知の方法によって行う。例えば、下地面10を清掃し、必要に応じてプライマーを塗布し、SL材の原料粉を水と混練して予測使用量のスラリーを調製し、スラリーをポンプで圧送してホースから下地面上に流し込み、トンボ等で簡単に均して養生する。SL材上の軽歩行が可能となった時点で仕上げ面の欠陥の有無を点検する。
【0037】
(S7)各種データを記録する。例えば、下地面10の3次元形状の測定結果、SL材の使用量の予測結果、実際に使用したSL材の量などを記録部44に記録する。記録部44の構造や設置場所は特に限定されず、記録部44は、例えば演算部43に接続されたハードディスク装置などの副記憶装置であってもよいし、演算部43と有線または無線で接続されたインターネット上のサーバーであってもよい。記録したデータは、SL材を用いた仕上げ作業の品質保証に利用することができ、例えば、高価なSL材が必要な量だけ適正に使用されているかを施工管理者が確認することができる。
【0038】
次に、本発明のSL材の使用量予測方法の第2実施形態を図5図7に基づいて説明する。本実施形態は、計測点までの距離と方向を同時に検知可能な3次元計測器を用い、高さを揃えたマーカーを設置することなく実施される。なお、第1実施形態と同じ要素については説明を省略し、同じ符号を用いる。
【0039】
本実施形態のSL材の使用量予測方法の工程フローを図5に示す。第1実施形態でのマーカー設置工程(図2のS1)は実施しない。
【0040】
(S2A)計測点までの距離と方向を同時に測定可能な3次元計測器を用いて、下地面10の3次元形状および参照水平面11の位置を取得する。3次元計測器は固定型であっても可搬型であってもよい。
【0041】
図6を参照して、固定型の3次元計測器45としては、例えば水平基準を備え、LiDAR等の測距機能を搭載したトータルステーションを用いることができる。固定型の3次元計測器45は下地面10の周辺に水平に設置される。3次元計測器45は計測点Tまでの距離dと方向(θ、φ)を同時に測定できるので、3次元計測器45を基準とする座標系で計測点Tの3次元座標(x、y、z)を求めることができ、下地面10全体をスキャンすることによって下地面の3次元形状が取得できる。また、3次元計測器45を通る水平面を参照水平面11として設定すれば、下地面10の3次元形状と参照水平面との相対的な位置関係を知ることができる。
【0042】
図7を参照して、可搬型の3次元計測器46を用いる場合は、下地面10との適切な距離を保ちながら、下地面に沿って計測器46を移動させて、下地面の部分ごとの3次元計測を行い、得られた3次元形状を結合することによって下地面10全体の3次元形状を取得する。3次元計測器46を移動させながら3次元計測を行うので、下地面10の3次元形状を取得しただけでは、水平との相対的な位置関係が分からない。そのため、本実施形態の可搬型の3次元計測器46は、計測器自身の姿勢を検出可能な機能を備える必要がある。そのような3次元計測器46としては、例えば、ジャイロセンサーとLiDAR機能を搭載した携帯端末機や、ジャイロセンサーを搭載したアクティブステレオ方式の計測器などを用いることができる。
【0043】
図7Aを参照して、3次元計測器46がある位置M1から計測点T1までの距離と方向を計測した場合、測定結果は位置M1およびその時点での計測器46の姿勢を基準として得られる。具体的には、距離はM1とT1の間の距離dであり、方向は計測器46の基準方向Zからの変位角が得られる。3次元計測器46が別の位置M2から計測点T2までの距離dと方向を計測した場合も同様に、測定結果は位置M2およびその時点での計測器46の姿勢を基準として得られる。3次元計測器46が内蔵するジャイロセンサー等によって、計測器46の位置M1からM2への移動経路と姿勢の変化が得られれば、位置M1およびM2からの測定結果を、計測器46が位置M1またはM2にあるときを基準とするデータに変換することができる。そして、高さがM1またはM2に等しい水平面を参照水平面11として設定することで、下地面10の3次元形状と参照水平面11との相対的な位置関係を求めることができる。
【0044】
あるいは、図7Bを参照して、3次元計測器46の移動経路と姿勢の変化を直接得ることができない場合は、同一計測点に対する異なる位置からの測定結果を利用して、計測器46の移動経路と姿勢の変化を求めることができる。3次元計測器46が位置M1から複数の計測点T1、T2を計測した測定結果の方向と距離dをそれぞれの計測点から逆向きに辿ることで、計測器46の位置M1と計測時の姿勢(基準方向Zの向き)を求めることができる。3次元計測器46が位置M2から同じ複数の計測点T1、T2を計測した測定結果から、同様に、計測器46の位置M2と計測時の姿勢を求めることができる。これにより、計測器46がM1およびM2にあったときの位置と姿勢の変化が求められる。そして、高さがM1またはM2に等しい水平面を参照水平面11として設定することで、下地面10の3次元形状と参照水平面11との相対的な位置関係を求めることができる。なお、計算に用いる計測点T1、T2の目印として、下地面10上に十字等の墨出し線を描いておいてもよい。
【0045】
工程S4~S7は第1実施形態と同様である。
【0046】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想の範囲内で、その他種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 下地面
11 参照水平面
12 計画仕上げ面
13 内装基準高さ
20 マーカー
20C マーカーの代表点
21、22 ベース
24 透明容器
25 液体
30 レーザー墨出し器
40 3次元計測器
41 プロジェクター(投影部)
42 カメラ(撮像部)
43 演算部
44 記録部
45、46 3次元計測器
d 3次元計測器から計測点までの距離
L 内装基準高さと計画仕上げ面の高低差
M1、M2 3次元計測器46の位置
t、t1、t2 セルフレベリング材の塗厚
T1、T2 計測点
θ、φ 3次元計測器から計測点までの方向
Z 3次元計測器46の基準方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7