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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
F16F13/10 D
F16F13/10 G
F16F13/10 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021137378
(22)【出願日】2021-08-25
(65)【公開番号】P2023031717
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】黒田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-178251(JP,U)
【文献】特開2020-133743(JP,A)
【文献】特開2008-111486(JP,A)
【文献】特開2019-074173(JP,A)
【文献】特開2016-169764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、内部に流体が封入された主液室と副液室が設けられて、それら主液室と副液室が仕切部材によって隔てられていると共に、該仕切部材を貫通するオリフィス通路によってそれら主液室と副液室が相互に連通されている流体封入式防振装置において、
前記仕切部材が、仕切部材本体と該仕切部材本体に重ね合わされた移動体とを備え、
該仕切部材本体と該移動体との重ね合わせ面間には、前記主液室と前記副液室とを常時連通する狭窄通路が設けられていると共に、
該移動体が該仕切部材本体に対して重ね合わせ面の面方向で相対移動可能とされており、
大振幅振動の入力時に該移動体の該仕切部材本体に対する相対移動量を規制する移動規制部が設けられている流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記移動体が前記仕切部材本体に対して重ね合わせ面の面方向で相対回転可能とされた回転体とされている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記回転体が円板状とされており、該回転体が前記仕切部材本体の収容凹部に配されている請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記移動体が前記仕切部材本体に対して全体が離隔し得るフロート状態で取り付けられている請求項1~3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記仕切部材本体に対する前記移動体の移動方向の外方には、前記狭窄通路に連通する袋小路部が設けられており、
該移動体の該仕切部材本体に対する移動によって該移動体が該袋小路部に入り込むようにした請求項1~4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記オリフィス通路が前記仕切部材本体に形成されている請求項1~5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記狭窄通路の前記主液室と前記副液室の少なくとも一方に対する開口部分には、前記移動体の前記仕切部材本体に対する重ね合わせ面に対して傾斜して広がる傾斜面が設けられている請求項1~6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記第一の取付部材が筒状の前記第二の取付部材に対して軸方向一方側に配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が前記本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第二の取付部材の軸方向他方側の開口部が可撓性膜によって閉塞されて、該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の軸方向対向面間で軸直角方向に広がる板状の前記仕切部材本体の軸方向両側に前記主液室と前記副液室とが形成されており、
該仕切部材において、前記移動体が前記仕切部材本体に対して軸方向で重ね合わされていると共に、該移動体が該仕切部材本体に対する重ね合わせ面の面方向で該仕切部材本体に対して相対移動可能とされている請求項1~7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記仕切部材本体と前記移動体との重ね合わせ面間に形成された前記狭窄通路の通路長さ寸法が、該仕切部材本体と該移動体の重ね合わせ方向における該移動体の厚さ寸法よりも大きくされている請求項1~8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントなどに用いられる防振装置に係り、特に内部に流体が封入された流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントなどに適用される防振装置が知られている。防振装置は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有しており、第一の取付部材と第二の取付部材が防振連結対象の各部材に取り付けられることにより、それら防振連結対象部材を防振連結する。
【0003】
また、防振性能の向上等を目的として、内部に流体を封入した流体封入式防振装置も提案されている。流体封入式防振装置は、例えば、特開2008-111486号公報(特許文献1)に液封入式防振装置として示されており、本体ゴム弾性体としての防振基体とダイヤフラムとの間に液体封入室が形成されて、液体封入室が仕切り体によって第1液室と第2液室とに仕切られていると共に、第1液室と第2液室がオリフィスによって互いに連通された構造を有している。そして、振動入力に際して、第1液室と第2液室の間に相対的な圧力差が生じて、当該圧力差に基づいてオリフィスを通じた流体流動が生じることにより、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-111486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流体封入式防振装置において、オリフィス通路による防振効果は、オリフィス通路が予めチューニングされた周波数の振動に対して発揮される一方、オリフィス通路のチューニング周波数を外れた周波数の振動に対しては有効に発揮されないおそれがある。
【0006】
そこで、可動板構造等の防振デバイスをオリフィス通路に加えて設けることも検討されている。可動板は、特許文献1において弾性仕切り膜として示されているように、仕切り体を貫通する開口部に対して接近/離隔方向へ移動可能とされており、開口部を開閉可能とされている。そして、オリフィスのチューニング周波数よりも高周波の小振幅振動入力に際して、第1液室と第2液室の開口部を通じた連通によって、低動ばね化による防振効果を発揮する。また、弾性仕切り膜は、オリフィスがチューニングされた低周波の大振幅振動入力に際して、開口部を塞ぐようになっており、開口部を通じた液圧の逃げが抑えられて、オリフィスによる防振効果が効率的に発揮される。このように、弾性仕切り膜は、開口部の開閉を入力振動に応じて切り替えることにより、防振特性を切り替えるようにされている。
【0007】
しかし、特許文献1の構造では、弾性仕切り膜が開口部を塞ぐ際に、弾性仕切り膜が開口部の周囲において仕切り体に打ち当たることから、打音の発生が問題となる。特許文献1の弾性仕切り膜は、ゴム状弾性材とされているが、変形し易い柔らかいものでは特性の切替えが有効に達成されない場合もあり、比較的に硬い材料で形成されることから、打音が問題になり易かった。
【0008】
本発明の解決課題は、特性の切替えによる優れた防振性能を得ながら、打音の発生を抑えることができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、内部に流体が封入された主液室と副液室が設けられて、それら主液室と副液室が仕切部材によって隔てられていると共に、該仕切部材を貫通するオリフィス通路によってそれら主液室と副液室が相互に連通されている流体封入式防振装置において、前記仕切部材が、仕切部材本体と該仕切部材本体に重ね合わされた移動体とを備え、該仕切部材本体と該移動体との重ね合わせ面間には、前記主液室と前記副液室とを常時連通する狭窄通路が設けられていると共に、該移動体が該仕切部材本体に対して重ね合わせ面の面方向で相対移動可能とされており、大振幅振動の入力時に該移動体の該仕切部材本体に対する相対移動量を規制する移動規制部が設けられているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、移動体が仕切部材本体に対して重ね合わせ面の面方向で相対移動することにより、主液室と副液室の間での実質的な流体流動が生じると共に、移動体の仕切部材本体に対する相対移動が移動規制部によって規制されることにより、移動体の移動による主液室と副液室の間での実質的な流体流動が制限乃至は阻止される。従って、例えば、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波の小振幅振動が入力された場合には、移動体の移動が許容されて、実質的な流体流動による防振効果が発揮されると共に、オリフィス通路のチューニング周波数以下の大振幅振動が入力された場合には、移動体の移動による実質的な流体流動が抑制されることから、オリフィス通路の流量が効率的に確保されて、オリフィス通路による防振効果が発揮される。
【0012】
移動体の仕切部材本体に対する移動方向が仕切部材本体に対する重ね合わせ面の面方向とされていることから、移動体の移動方向前方における仕切部材本体との当接面積を小さくすることができて、打音を低減することができる。
【0013】
移動体と仕切部材本体の間に常時連通状態の狭窄通路が設けられていることにより、狭窄通路を流れる流体と移動体との間に作用する流動抵抗力が、移動体を仕切部材本体に対して相対的に移動させる力として作用する。換言すれば、移動体と仕切部材本体との重ね合わせ面間の狭窄通路を流体が流れることによって、移動体と仕切部材本体との間に作用する摩擦抵抗力が低減されて、移動体の仕切部材本体に対するスムーズな移動が実現される。
【0014】
第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記移動体が前記仕切部材本体に対して重ね合わせ面の面方向で相対回転可能とされた回転体とされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、移動体が仕切部材本体に対して回転移動する回転体とされることによって、移動体が移動するために確保すべきスペースを小さくすることができて、移動体の移動ストロークを確保しながら、仕切部材の小型化を実現することができる。
【0016】
第三の態様は、第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記回転体が円板状とされており、該回転体が前記仕切部材本体の収容凹部に配されているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、円板状の回転体が仕切部材本体の収容凹部内に配されることにより、回転体の移動スペースが仕切部材本体の収容凹部内とされて、回転体の他部材への干渉や仕切部材本体よりも軸方向外側への突出などが抑制される。また、オリフィス通路を仕切部材本体の外周端部に設けながら、仕切部材本体の内周部分に設けられた収容凹部に回転体を配することが可能であり、回転体とオリフィス通路をスペース効率よく配することができる。
【0018】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記移動体が前記仕切部材本体に対して全体が離隔し得るフロート状態で取り付けられているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、移動体と仕切部材本体の間の摩擦抵抗がより低減されることから、移動体が仕切部材本体に対してスムーズに移動して、移動体の移動に伴う実質的な流体流動が効率的に生じるようにできる。
【0020】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材本体に対する前記移動体の移動方向の外方には、前記狭窄通路に連通する袋小路部が設けられており、該移動体の該仕切部材本体に対する移動によって該移動体が該袋小路部に入り込むようにしたものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、移動体が仕切部材本体に対して大きく移動する場合に、移動体が袋小路部に入り込むことによって、移動体が袋小路部内の流体によって制動されて、移動体が仕切部材本体に移動方向で勢いよく打ち当たるのを防ぐことができる。それゆえ、移動体と仕切部材本体の移動方向での当接による打音が低減されて、より優れた静粛性を実現することができる。
【0022】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路が前記仕切部材本体に形成されているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、オリフィス通路を仕切部材本体に形成することで、部品点数を少なくすることができる。特に、前記第三の態様と組み合わせて採用することにより、例えば、仕切部材本体の内周部分に回転体を収容する収容凹部を設けながら、仕切部材本体の外周端部にオリフィス通路を設けることで、オリフィス通路の通路長を効率的に確保して、オリフィス通路のチューニング自由度を大きく得ることができる。
【0024】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記狭窄通路の前記主液室と前記副液室の少なくとも一方に対する開口部分には、前記移動体の前記仕切部材本体に対する重ね合わせ面に対して傾斜して広がる傾斜面が設けられているものである。
【0025】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、例えば、主液室内の流体が流動する場合に、傾斜面が流体によって押されることで移動体に対して移動方向への分力が作用し、移動体の仕切部材本体に対する相対移動が生じ易くなることが期待できる。
【0026】
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第一の取付部材が筒状の前記第二の取付部材に対して軸方向一方側に配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が前記本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第二の取付部材の軸方向他方側の開口部が可撓性膜によって閉塞されて、該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の軸方向対向面間で軸直角方向に広がる板状の前記仕切部材本体の軸方向両側に前記主液室と前記副液室とが形成されており、該仕切部材において、前記移動体が前記仕切部材本体に対して軸方向で重ね合わされていると共に、該移動体が該仕切部材本体に対する重ね合わせ面の面方向で該仕切部材本体に対して相対移動可能とされているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、例えば第一の取付部材と第二の取付部材の間に軸方向の振動が入力される際に主液室内に生じる流体流動の方向と、移動体の仕切部材本体に対する相対移動方向とが、互いに異なる方向となる。それゆえ、従来の可動板構造のように可動板の移動方向が主たる振動入力時の主液室内での流体の流動方向と一致する構造に比して、打音の低減が図られ得る。
【0028】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材本体と前記移動体との重ね合わせ面間に形成された前記狭窄通路の通路長さ寸法が、該仕切部材本体と該移動体の重ね合わせ方向における該移動体の厚さ寸法よりも大きくされているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、狭窄通路の長さが長くされていることにより、狭窄通路を流れる流体と移動体との間の流動抵抗が大きくされて、移動体の仕切部材本体に対する相対移動が、狭窄流路を流動する流体から移動体へ作用する流動抵抗力によって効率的に生じ得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、特性の切替えによる優れた防振性能を得ながら、打音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図
図2図1に示すエンジンマウントの他の断面を示す断面図
図3図1に示すエンジンマウントを構成する仕切部材の斜視図
図4図2に示す仕切部材の分解斜視図
図5図2に示す仕切部材を構成する仕切部材本体の平面図
図6図2に示す仕切部材を構成する回転体の平面図
図7図6に示す回転体の正面図
図8図4に示すVIII断面線での断面を展開して示す断面展開図であって、狭窄通路の連通状態を示す図
図9図4に示すIX断面線での断面を展開して示す断面展開図であって、狭窄通路の遮断状態を示す図
図10】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図
図11図11に示すエンジンマウントを構成する仕切部材の平面図
図12図11に示す仕切部材の分解斜視図
図13】本発明の別の一実施形態としてのエンジンマウントの一部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1図2には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント中心軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0034】
第一の取付部材12は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、全体として円柱形状とされている。第一の取付部材12は、軸方向に延びて上面に開口するねじ穴17を備えている。第一の取付部材12は、上端部において全周にわたって外周へ突出するフランジ状部18を備えている。
【0035】
第二の取付部材14は、全体として円筒形状とされており、第一の取付部材12に比して大径とされている。第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に金属等によって構成されている。第二の取付部材14は、上部が大径筒部20とされていると共に、下部が大径筒部20よりも小径の小径筒部22とされている。
【0036】
第一の取付部材12は、第二の取付部材14に対して、略同一中心軸上で軸方向の上側に離隔して配されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に本体ゴム弾性体16が配されている。本体ゴム弾性体16は、下方へ向けて次第に大径となる略円錐台形状とされており、小径側である上端部に第一の取付部材12が固着されていると共に、大径側である下端部に第二の取付部材14が固着されている。本実施形態では、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16の成形時に加硫接着されており、本体ゴム弾性体16が第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。筒状とされた第二の取付部材14の上開口部は、本体ゴム弾性体16によって閉塞されている。
【0037】
本体ゴム弾性体16は、下面に開口する逆すり鉢状の凹所24を備えており、これによって本体ゴム弾性体16における第一の取付部材12と第二の取付部材14の連結部分の内周面と外周面の両方が下方に向けて外周へ傾斜するテーパー形状とされている。凹所24の開口周縁部から下向きに延び出す筒状のシールゴム層26が、本体ゴム弾性体16と一体形成されており、第二の取付部材14の小径筒部22の内周面がシールゴム層26で覆われている。
【0038】
第二の取付部材14には、可撓性膜28が取り付けられている。可撓性膜28は、薄肉のゴムや樹脂エラストマーによって形成されており、撓み変形が許容されている。可撓性膜28は、伸縮変形も許容されていることが望ましい。可撓性膜28の外周端部には、環状の固定部材30が固着されている。可撓性膜28は、固定部材30が固着された状態において、上下方向の弛みを有している。固定部材30は、第二の取付部材14の小径筒部22に挿入されており、第二の取付部材14の縮径加工によって、第二の取付部材14の内周面に対してシールゴム層26を介して間接的に押し当てられて、第二の取付部材14に固定されている。第二の取付部材14と固定部材30の間にシールゴム層26が介在していることにより、第二の取付部材14と固定部材30の間が液密に封止されている。
【0039】
第二の取付部材14に固定部材30が取り付けられることによって、第二の取付部材14の下開口部は、可撓性膜28によって閉塞されている。これにより、第二の取付部材14の内周側における本体ゴム弾性体16と可撓性膜28の軸方向対向間には、内部に流体が封入された流体室32が形成されている。流体室32に封入される流体は、非圧縮性流体であることが望ましく、例えば、水、エチレングリコール、アルキレングリコール、シリコーン油等の液体や、上記液体の混合液などが好適に採用される。また、流体室32の封入流体は、流体流動によって発揮される防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0040】
流体室32には、仕切部材34が配設されている。仕切部材34は、図3に示すように、全体として略円板形状とされており、金属や合成樹脂によって形成された硬質の部材とされている。仕切部材34は、図1図4に示すように、仕切部材本体36と、移動体としての回転体38と、連結部材40とを備えている。
【0041】
仕切部材本体36は、図1図5に示すように、略円板形状とされている。仕切部材本体36は、外周面に開口しながら周方向に一周に満たない長さで延びる周溝42を備えており、周溝42の周方向一方の端部には上方へ開口する上連通孔44が設けられていると共に、周方向他方の端部には下方へ開口する下連通孔46が設けられている。
【0042】
仕切部材本体36は、内周部分において上面に開口する収容凹部48を備えている。収容凹部48は、上面視において略円形とされており、周溝42よりも内周側に設けられている。収容凹部48の中央部分には、底面から上方へ向けて突出する略円柱形状の中央軸状部50が設けられている。中央軸状部50は、中心軸上を延びて上面に開口するねじ穴52を備えている。中央軸状部50の突出長さ寸法は、収容凹部48の深さ寸法よりも小さくされている。
【0043】
収容凹部48の底面には、中央軸状部50の周囲を囲む位置において開口する環状の取付溝部54が設けられている。収容凹部48の底面には、図5に示すように、周方向に半周に満たない長さで延びる一対の連通溝部56,56が設けられている。一対の連通溝部56,56は、径方向で対向する位置に設けられており、周方向で略均等に配置されている。各連通溝部56の底壁部には、長さ方向(周方向)の一部において上下方向に貫通する下開口部58が設けられている。下開口部58は、連通溝部56の長さ方向の両端から離れた位置に設けられていると共に、連通溝部56の長さ方向の中央を外れて周方向何れか一方へ偏倚しており、一対の連通溝部56,56の下開口部58,58が径方向一方向の両側に配置されている。なお、収容凹部48の底面における連通溝部56,56の周方向間には、連通溝部56,56の底面よりも上方へ突出した規制突部60,60が設けられている。
【0044】
回転体38は、図1図3に示すように、仕切部材本体36よりも小径の略円板形状とされており、中央部分を軸方向に貫通する中心孔62を備えている。回転体38は、後述する回転移動を効率的に生じさせるために軽量であることが望ましく、例えばアルミニウム合金等の軽量金属や合成樹脂などによって形成される。回転体38は、仕切部材本体36の収容凹部48の径方向内法寸法よりも僅かに小さい外径寸法とされて、収容凹部48の周壁に対して微小な隙間を有した状態で収容凹部48へ挿入可能とされている。回転体38は、図6図7に示すように、内周端部が軸方向両側へ突出する筒状の取付筒部64とされている。回転体38の外周端部には、一対の上開口部66,66が設けられている。上開口部66は、回転体38を上下方向に貫通していると共に、回転体38の外周へ向けて開放されている。上開口部66の周方向一方の側壁面は、上方へ向けて拡開方向へ傾斜する傾斜面68とされている。一対の上開口部66,66は、径方向の両側に配置されている。回転体38における一対の上開口部66,66を周方向に外れた部分には、下方へ向けて突出する一対の突出部70,70が設けられている。突出部70は、一対の上開口部66,66の周方向間に位置している。突出部70の周方向長さは、連通溝部56の長さ方向一方の端部から下開口部58までの周方向長さよりも短くされている。突出部70の周方向両端面は、一方が周方向に対して略直交して広がる第一制止面72とされていると共に、他方が突出部70の周方向長さ寸法が突出先端へ向けて徐々に短くなるように傾斜する第二制止面74とされている。
【0045】
連結部材40は、図1図4に示すように、回転体38よりも更に小径の略円環板形状とされており、中央部分には仕切部材本体36のねじ穴52と対応する貫通孔76が形成されている。連結部材40の下面には、内周部分において下方へ向けて開口する浅底円形の凹状部78が設けられており、凹状部78よりも外周側が凹状部78の形成部分よりも下方へ僅かに突出している。
【0046】
仕切部材本体36の収容凹部48に回転体38が挿入されて、仕切部材本体36の中央軸状部50が回転体38の中心孔62に挿通されると共に、連結部材40が仕切部材本体36の中央軸状部50に上方から重ね合わされて、中央軸状部50の上端が連結部材40の凹状部78へ挿入される。そして、図1図2に示すように、連結部材40の貫通孔76に挿通されたボルト80が仕切部材本体36の中央軸状部50のねじ穴52に螺着されることによって、回転体38と連結部材40が仕切部材本体36に対して取り付けられて、仕切部材34が構成される。仕切部材34の回転体38は、仕切部材本体36の収容凹部48内に配されて、仕切部材本体36における収容凹部48の底面に軸方向で重ね合わされている。従って、仕切部材本体36と回転体38との重ね合わせ方向は、本実施形態において軸方向とされており、略軸直角方向に広がる回転体38の下面が仕切部材本体36に対する重ね合わせ面とされている。回転体38の取付筒部64は、上端部が連結部材40の凹状部78に挿入されていると共に、下端部が仕切部材本体36の取付溝部54に挿入されている。本実施形態の回転体38は、収容凹部48から上方へ突出していない。
【0047】
なお、本実施形態では、仕切部材本体36が単一の部材である。また、仕切部材本体36において後述する受圧室86に面する側の表面(上面)に対して、直接に回転体38が重ね合わされており、かかる回転体38は、受圧室86に対して、仕切部材本体36への重ね合わせ面と反対側の面(上面)が実質的に全体に亘って、より具体的には上開口部66,66が形成された外周部分の全体に亘って、直接に晒されている。
【0048】
回転体38は、仕切部材本体36及び連結部材40に対して相対回転可能に取り付けられている。即ち、回転体38は、中央軸状部50の径方向内法寸法が仕切部材本体36の中央軸状部50の外径寸法よりも僅かに大きくされていると共に、中央軸状部50の軸方向寸法が、仕切部材本体36の連通溝部56と連結部材40の凹状部78との上下方向の対向面間距離よりも僅かに小さくされている。また、回転体38の外径寸法は、仕切部材本体36の収容凹部48の径方向内法寸法よりも僅かに小さくされている。これらにより、回転体38は、仕切部材本体36に対する重ね合わせ面の面方向において、仕切部材本体36及び連結部材40に対して、仕切部材本体36の中央軸状部50を回転中心とする周方向の相対回転が許容されている。このように、本実施形態の回転体38は、仕切部材本体36及び連結部材40に対して、軸方向及び径方向において僅かな隙間を持って取り付けられており、仕切部材本体36及び連結部材40に対して全体が離隔し得るフロート状態で取り付けられている。
【0049】
回転体38が仕切部材本体36に対してフロート状態で取り付けられることにより、回転体38と仕切部材本体36の重ね合わせ面間には、狭窄通路82が設けられている。狭窄通路82は、図8において、回転体38の突出部70と仕切部材本体36との重ね合わせ面間と、回転体38と仕切部材本体36の規制突部60との重ね合わせ面間とに設けられており、仕切部材本体36と回転体38の他部分の重ね合わせ面間に比して、重ね合わせ方向での対向面間距離が小さくされている。なお、図8と後述する図9は、周方向に延びる図4のVIII,IX線に相当する仕切部材34の断面を平面的に展開して示したものであって、周方向が図8図9中の左右方向とされる。また、図8図9では、連結部材40が省略されており、仕切部材本体36と回転体38の位置関係が示されている。
【0050】
狭窄通路82の長さ寸法は、回転体38の軸方向での最大厚さ寸法よりも大きくされている。狭窄通路82は、通路長さ寸法が、回転体38と仕切部材本体36との重ね合わせ方向の通路幅寸法に対して、好適には5倍以上とされており、より好適には20倍以上とされている。また、狭窄通路82は、回転体38と仕切部材本体36との重ね合わせ方向の通路幅寸法が1mm以下とされていることが望ましい。なお、狭窄通路82の通路長さ寸法は、仕切部材本体36と回転体38との周方向での相対的な位置関係(向き)によって変化し得るが、ここで言う狭窄通路82の通路長さ寸法は、狭窄通路82の最大の通路長さ寸法である。
【0051】
回転体38の突出部70が仕切部材本体36の連通溝部56に挿入されており、回転体38の仕切部材本体36に対する周方向の相対回転量が、突出部70と連通溝部56の周方向端部である規制突部60との当接によって規制されている。このように本実施形態では、回転体38の仕切部材本体36に対する相対回転量を制限する移動規制部が、回転体38の突出部70と、仕切部材本体36の規制突部60とによって構成されている。
【0052】
回転体38が仕切部材本体36に対して周方向に回転移動して、突出部70が規制突部60に接近する際に、突出部70の移動方向前方には、袋小路部84が形成され、突出部70が袋小路部84に入り込んで規制突部60に当接することで、上記移動規制部が構成される。袋小路部84は、突出部70に移動方向前方に位置する連通溝部56の一部によって構成される。袋小路部84は、狭窄通路82に連通されており、上開口部66及び下開口部58に対して狭窄通路82を通じて断面積の小さな流路で連通されることから、袋小路部84に突出部70が入り込む際に緩衝器として機能して、突出部70の移動に対する抵抗力を発揮し、回転体38の仕切部材本体36に対する移動速度を低下させる。袋小路部84は、図8図9に示すように、突出部70の連通溝部56内での位置に応じて、周方向の両側に選択的に形成される。
【0053】
かくの如き構造とされた仕切部材34は、図1図2に示すように、流体室32に配設される。仕切部材34は、本体ゴム弾性体16と可撓性膜28の軸方向対向面間において第二の取付部材14の内周へ挿入されており、第二の取付部材14が縮径加工されることにより、外周面が第二の取付部材14の内周面に対してシールゴム層26を介して押し当てられて、第二の取付部材14によって支持されている。仕切部材34と第二の取付部材14との間にシールゴム層26が介在していることにより、仕切部材34と第二の取付部材14の間が液密に封止されている。
【0054】
仕切部材34は、流体室32内において軸直角方向に広がっており、流体室32を上下に二分している。これにより、仕切部材34の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される、主液室としての受圧室86が形成されている。また、仕切部材34の下側には、壁部の一部が可撓性膜28によって構成されて、可撓性膜28の変形による容積変化が許容される、副液室としての平衡室88が形成されている。受圧室86と平衡室88は、仕切部材34によって隔てられていると共に、それぞれ流体が封入されている。
【0055】
仕切部材34が第二の取付部材14に取り付けられた状態において、仕切部材本体36に設けられた周溝42の外周開口が、シールゴム層26を介して第二の取付部材14によって液密に覆われている。また、周溝42の一端に設けられた上連通孔44が受圧室86に向けて開放されていると共に、周溝42の他端に設けられた下連通孔46が平衡室88に向けて開放されている。これらにより、仕切部材34を貫通して受圧室86と平衡室88を相互に連通するオリフィス通路90が、上下連通孔44,46を含む周溝42を利用して仕切部材本体36に形成されている。オリフィス通路90は、通路断面積と通路長の比によって流動流体の共振周波数(チューニング周波数)が設定されており、当該チューニング周波数の振動に対して流体の流動作用による防振効果を発揮する。オリフィス通路90のチューニング周波数は、問題となる防振対象振動の周波数に応じて適宜に設定されるが、例えば、エンジンシェイクに相当する10Hz以下の低周波数に設定される。
【0056】
仕切部材34の狭窄通路82は、上開口部66を通じて受圧室86に連通されていると共に、下開口部58を通じて平衡室88に連通されており、受圧室86と平衡室88が狭窄通路82を通じて相互に連通されている。狭窄通路82は、通路断面積の通路長に対する比が、オリフィス通路90の通路断面積の通路長に対する比よりも大きくされており、より高周波の振動入力時に流体が流動し得るようになっている。
【0057】
狭窄通路82が受圧室86と平衡室88とを常時連通する状態で設けられていることにより、仕切部材本体36の連通溝部56に挿し入れられた回転体38の突出部70は、周方向一方の端面である第一制止面72に平衡室88の液圧が及ぼされていると共に、周方向他方の端面である第二制止面74に受圧室86の液圧が及ぼされている。それゆえ、受圧室86と平衡室88の間に相対的な圧力差が生じると、回転体38が当該圧力差に基づいて仕切部材本体36に対して周方向に回転移動するようになっている。
【0058】
具体的には、例えば、図8に示す状態で振動入力によって受圧室86内の圧力が平衡室88内の圧力よりも大きくなると、回転体38が仕切部材本体36に対して図8中の左方となる周方向へ回転移動する。また、例えば、図9に示す状態で振動入力によって受圧室86内の圧力が平衡室88内の圧力よりも小さくなると、回転体38が仕切部材本体36に対して図9中の右方となる周方向へ回転移動する。
【0059】
回転体38が仕切部材本体36に対して相対的に回転移動することにより、回転体38の突出部70が仕切部材本体36の連通溝部56内を周方向に移動する。これにより、実質的に受圧室86の一部を構成する連通溝部56における突出部70よりも上開口部66側の領域の容積が、受圧室86内の圧力変動に応じて変化する。その結果、受圧室86内の圧力変動が緩和される。なお、連通溝部56における突出部70よりも上開口部66側の領域の容積変化に伴って、連通溝部56における突出部70よりも下開口部58側の領域の容積も変化するが、当該下開口部58側の領域は、実質的に平衡室88の一部を構成することから、当該下開口部58側の領域の容積変化による圧力変動は生じない。回転体38の仕切部材本体36に対する回転移動による受圧室86と平衡室88の容積変化は、狭窄通路82を含む仕切部材本体36と回転体38との重ね合わせ面間の隙間を通じた受圧室86と平衡室88の間での実質的な流体流動として捉えることもできる。
【0060】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、それらパワーユニットと車両ボデーを防振連結する。なお、第一の取付部材12とパワーユニットとの間に第一のブラケットが配されていてもよいし、第二の取付部材14と車両ボデーとの間に第二のブラケットが配されていてもよい。
【0061】
エンジンマウント10の車両装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動によって、低周波にチューニングされたオリフィス通路90を通じた流体流動が生じる。その結果、流体の流動作用に基づく防振効果(高減衰作用)が発揮される。
【0062】
低周波大振幅振動の入力時には、図9に示すように、回転体38の突出部70が仕切部材本体36の規制突部60に当接することによって、回転体38の仕切部材本体36に対する回転移動量が制限されて、回転体38の回転移動が実質的に拘束される。その結果、受圧室86の圧力変動が、回転体38の回転移動によって逃がされることなく、効率的に惹起される。
【0063】
突出部70が規制突部60に当接する前に、上開口部66が規制突部60によって覆われる(図8参照)、或いは、下開口部58が突出部70によって覆われる(図9参照)。これにより、突出部70の移動方向には、袋小路部84が形成される。袋小路部84は、上開口部66及び下開口部58に対して、狭窄通路82を構成する断面積の小さな流路によって連通されていることから、突出部70が袋小路部84へ入り込んで移動しようとすると、袋小路部84の液圧上昇によるダンパー作用によって突出部70の移動速度が低減される。その結果、突出部70と規制突部60の当接に際して、突出部70と規制突部60の相対速度が小さくされて、当接時の打音が低減される。
【0064】
例えば、上下方向の振動入力によって受圧室86内に上下方向の液の流れが生じて、液の流れによって回転体38に下向きの力が作用したとしても、回転体38の仕切部材本体36に対する移動方向が、略軸直角方向に広がる回転体38の下面の面方向(周方向)とされていることから、回転体38と仕切部材本体36が上下方向において長いストロークで打ち当たることがなく、打音の発生を防ぐことができる。要するに、主たる振動の入力方向である上下方向に対して、回転体38の仕切部材本体36に対する移動方向が異なる方向(周方向)とされており、それによって、振動荷重の入力に際して、回転体38と仕切部材本体36の打ち当たりによる異音が発生し難くなっている。
【0065】
なお、狭窄通路82が常時連通状態であることからも分かるように、受圧室86に正圧が作用して、回転体38が仕切部材本体36に押し付けられる場合にも、上開口部66と下開口部58とを連通する狭窄通路82を含む流路が維持される。要するに、回転体38の下面全体が仕切部材本体36に密着することなく、回転体38と仕切部材本体36との間には隙間が維持される。
【0066】
エンジンマウント10の車両装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にアイドリング振動や走行こもり音等に相当するエンジンシェイクよりも高周波の小振幅振動が入力されると、オリフィス通路90は、反共振によって流体が流れず、実質的に遮断される。
【0067】
小振幅振動の入力時には、回転体38の突出部70が、仕切部材本体36の規制突部60に当接することなく連通溝部56内を周方向に移動する。これにより、実質的に受圧室86の一部を構成する連通溝部56における突出部70よりも上開口部66側の領域の容積が変化する。そして、当該上開口部66側の領域を実質的に含む受圧室86の圧力変動が、当該上開口部66側の領域の容積変化によって低減されることにより、オリフィス通路90の実質的な遮断による受圧室86の密閉化が回避されて、低動ばね化による防振効果(振動絶縁作用)が発揮される。
【0068】
本実施形態では、回転体38が仕切部材本体36及び連結部材40に対して全体が離隔し得るフロート状態で取り付けられていることから、回転体38と仕切部材本体36及び連結部材40との間に作用する摩擦抵抗力が低減されて、回転体38の回転移動による防振効果が効率的に発揮される。また、回転体38と仕切部材本体36との間を常時連通状態で延びる狭窄通路82を通じて流体が周方向に流動することにより、回転体38と狭窄通路82を流動する流体との間に作用する流動抵抗力等が、回転体38を回転移動させる力として作用し得る。なお、狭窄通路82を通じて受圧室86と平衡室88の間で流体が流動することによっても、受圧室86の圧力変動が低減されて、低動ばね化による防振効果が発揮される。
【0069】
本実施形態の狭窄通路82は、通路長さ寸法が回転体38における受圧面の軸方向長さ寸法である軸方向の厚さ寸法よりも大きくされている。これにより、狭窄通路82を流れる流体から回転体38に及ぼされる回転移動方向の力が大きく発揮されて、回転体38の仕切部材本体36に対する相対的な回転移動が効率的に生じる。特に、狭窄通路82は、通路長さ寸法は、軸方向の通路幅寸法に対して 倍以上とされていることから、流動抵抗が大きく、流動流体から回転体38へ及ぼされる力が大きく発揮される。
【0070】
また、上開口部66の周方向一方の側壁面が傾斜面68とされている。これにより、例えば、第一の取付部材12が第二の取付部材14に対して下向きに相対移動して、受圧室86に正圧が作用する際に、第一の取付部材12の移動に伴って受圧室86内に下向きの液の流れが発生すると、傾斜面68に作用した当該液の流れによる力の分力が、回転体38を図8中の左方へ回転移動させるように作用し、回転体38の回転移動による防振効果が速やかに且つ効率的に発揮される。
【0071】
本実施形態において、回転体38は仕切部材本体36の収容凹部48内に収容されており、回転体38が収容凹部48の周壁の上面よりも下方に位置していると共に、回転体38の外周側が収容凹部48の周壁によって囲まれている。それゆえ、回転体38の回転移動が他部材との干渉によって阻害され難く、回転体38の回転移動による防振効果が安定して発揮される。また、回転体38が、仕切部材本体36に対して軸方向外側へ突出することなく、収容凹部48内に配置されていることから、仕切部材34の軸方向の厚さ寸法を小さくすることができる。
【0072】
特に本実施形態では、仕切部材本体36にオリフィス通路90が形成されており、仕切部材本体36は、オリフィス通路90の通路断面積と通路長を確保するために、軸方向及び径方向の大きさを確保する必要がある。それゆえ、オリフィス通路90と干渉しない仕切部材本体36の内周部分には、回転体38を収容する収容凹部48の形成スペースを十分に確保することが可能であり、仕切部材34全体の大型化を回避しながら、オリフィス通路90と回転体38とを、何れも優れた防振性能を実現し得る態様で配することができる。
【0073】
図10には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント100が示されている。エンジンマウント100は、図11に示すような仕切部材102を備えている。仕切部材102は、図12に示すように、仕切部材本体104と、蓋体106と、移動体108とを、備えている。以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0074】
仕切部材本体104は、上面に開口する収容凹部110を備えている。収容凹部110は、図11に示すように、周溝42よりも内周側に設けられており、図12にも示すように、開口端部である上端部分が上面視で円形の嵌合部112とされていると共に、嵌合部112よりも下部が径方向一方向に直線的に延びる連通溝部114とされている。連通溝部114の長さ方向一方の端部付近には、連通溝部114の底壁を貫通する下開口部116が形成されている。
【0075】
蓋体106は、円板形状とされており、収容凹部110の嵌合部112に圧入固定される。蓋体106は、連通溝部114の長さ方向他方の端部付近の上方を覆う部分に、上開口部118が貫通形成されている。なお、蓋体106の仕切部材本体104への固定方法は、圧入に限定されず、例えばボルトやピンかしめ等の手段で固定されてもよい。
【0076】
移動体108は、直方体であって、仕切部材本体104の連通溝部114に配されている。移動体108は、後述するスライド移動を容易にするために軽量であることが望ましく、例えば、合成樹脂やゴム弾性体等によって形成される。移動体108は、本実施形態では中実とされているが、例えば中空構造として軽量化を図ることもできる。
【0077】
移動体108は、連通溝部114の幅方向において連通溝部114よりも小さくされており、連通溝部114に嵌合されることなく、連通溝部114の長さ方向にスライド移動可能とされている。移動体108の軸方向の高さ寸法は、連通溝部114の底面と蓋体106の下面との対向面間距離よりも小さくされており、移動体108が、仕切部材本体104と蓋体106に対して、全体が離隔し得るフロート状態で取り付けられている。
【0078】
移動体108と仕切部材本体104との間に隙間が設けられることにより、図10に示すように、上開口部118と下開口部116を常時連通状態で連通する狭窄通路120が設けられている。また、下開口部116が連通溝部114の長さ方向一方の端部から離れた位置に設けられており、下開口部116の開口位置と連通溝部114の長さ方向一方の端部との間に袋小路部122が設けられている。同様に、上開口部118が連通溝部114の長さ方向他方の端部から離れた位置に設けられており、上開口部118の開口位置と連通溝部114の長さ方向他方の端部との間に袋小路部122が設けられている。
【0079】
かくの如き構造とされた仕切部材102は、前記第一の実施形態の仕切部材102と同様に、流体室32に配されて、第二の取付部材14によって外周端部を支持されている。仕切部材102の狭窄通路120は、上下開口部118,116を通じて受圧室86と平衡室88の各一方に連通されている。
【0080】
移動体108は、連通溝部114の長さ方向の両端面に対して、受圧室86と平衡室88の各一方の液圧が及ぼされている。そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に振動が入力されて、受圧室86と平衡室88の間に相対的な圧力差が生じることにより、移動体108が当該圧力差に基づいて連通溝部114の長さ方向へ直線的に移動する。これにより、実質的に受圧室86の一部を構成する連通溝部114の上開口部118側の領域が、受圧室86の圧力変動に応じた容積変化を生じるようになっている。なお、連通溝部114の上開口部118側の領域において移動体108の移動による容積変化が生じると、それに伴って、実質的に平衡室88の一部を構成する連通溝部114の下開口部116側の領域においても容積変化が生じるが、連通溝部114の下開口部116側の領域における容積変化は、平衡室88の内圧に影響しない。
【0081】
移動体108の移動量は、連通溝部114の長さ方向端部における収容凹部110の壁内面に対する移動体108の当接によって規制される。従って、本実施形態の移動規制部は、移動体108と当該収容凹部110の壁内面との当接によって構成される。
【0082】
移動体108が連通溝部114の長さ方向に移動して袋小路部122,122に入り込む際に、下開口部116又は上開口部118が移動体108によって覆われることから、袋小路部122,122と受圧室86及び平衡室88との間の流体流動が制限される。これにより、移動体108の移動速度が、移動規制部による移動体108の移動制限よりも前に、袋小路部122,122の液圧によって低減されて、移動体108が仕切部材本体104に移動方向で打ち当たることによる打音が低減される。
【0083】
本実施形態のエンジンマウント100によれば、移動体108の直線的な移動によって、前記第一の実施形態のエンジンマウント10と同様の防振効果を得ることができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、移動体と仕切部材本体の重ね合わせ面(前記第一の実施形態における突出部70の先端面及び/又は連通溝部56の底面)に溝を形成して、移動体と仕切部材本体の重ね合わせ面間を延びる狭窄通路の通路断面積を調節することもできる。
【0085】
移動体は、必ずしも仕切部材本体の収容凹部に収容配置されず、例えば、仕切部材本体の軸方向端面に重ね合わされて、仕切部材本体よりも軸方向外側に露出して配置されていてもよい。また、移動体は、仕切部材本体に対して主液室側に配されていてもよいし、副液室側に配されていてもよい。
【0086】
前記第一の実施形態では、仕切部材本体36の中央軸状部50が連結部材40の貫通孔76の周縁部に突き当てられて、貫通孔76に挿通されたボルト80が中央軸状部50のねじ穴52に螺着されることによって、仕切部材本体36と連結部材40が固定されていたが、仕切部材本体と連結部材の固定方法は、特に限定されない。例えば、仕切部材本体と連結部材の連結構造は、前記第一の実施形態のボルト80のような別体の部品によるものではなく、仕切部材本体に一体的に設けられていてもよい。具体的には、例えば、図13に示す仕切部材130のように、仕切部材本体132の中央軸状部134の先端部分に外周へ突出する逆鉤状の係止部136を設けると共に、中央軸状部134の先端部分を周方向に4分割した構造が採用され得る。これによれば、係止部136が、連結部材40の貫通孔76を通過して、貫通孔76の開口周縁部において連結部材40と軸方向で係止されることにより、仕切部材本体132と連結部材40が連結されることから、前記第一の実施形態のようなボルト80が不要になって、部品点数の削減が図られる。なお、仕切部材本体から上向きに突出したピンを連結部材の貫通孔に挿通した後、ピンの先端部分を潰して拡径させるピンかしめによって、仕切部材本体と連結部材を連結することもできる。
【0087】
また、図13に示す上述の如き仕切部材本体132の中央軸状部134に係止部136を設けた構造において、中央軸状部134を回転体38の取付筒部64に挿通して、係止部136によって取付筒部64の中央軸状部134から上方への抜けを阻止することによって、連結部材40を省略することもできる。
【符号の説明】
【0088】
10 エンジンマウント(流体封入式防振装置 第一の実施形態)
12 第一の取付部材
14 第二の取付部材
16 本体ゴム弾性体
17 ねじ穴
18 フランジ状部
20 大径筒部
22 小径筒部
24 凹所
26 シールゴム層
28 可撓性膜
30 固定部材
32 流体室
34 仕切部材
36 仕切部材本体
38 回転体(移動体)
40 連結部材
42 周溝
44 上連通孔
46 下連通孔
48 収容凹部
50 中央軸状部
52 ねじ穴
54 取付溝部
56 連通溝部
58 下開口部
60 規制突部(移動規制部)
62 中心孔
64 取付筒部
66 上開口部
68 傾斜面
70 突出部(移動規制部)
72 第一制止面
74 第二制止面
76 貫通孔
78 凹状部
80 ボルト
82 狭窄通路
84 袋小路部
86 受圧室(主液室)
88 平衡室(副液室)
90 オリフィス通路
100 エンジンマウント(流体封入式防振装置 第二の実施形態)
102 仕切部材
104 仕切部材本体
106 蓋体
108 移動体
110 収容凹部
112 嵌合部
114 連通溝部
116 下開口部
118 上開口部
120 狭窄通路
122 袋小路部
130 仕切部材(別の一実施形態)
132 仕切部材本体
134 中央軸状部
136 係止部
図1
図2
図3
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図10
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図13