(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】スピネル粉末
(51)【国際特許分類】
C01F 7/162 20220101AFI20241111BHJP
C04B 35/443 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C01F7/162
C04B35/443
(21)【出願番号】P 2021508948
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009766
(87)【国際公開番号】W WO2020195721
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019062219
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 善久
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232871(JP,A)
【文献】特開平08-337467(JP,A)
【文献】特開2011-063467(JP,A)
【文献】特開平11-278833(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066636(WO,A1)
【文献】特開2018-052747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/16
C04B 35/443
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その純度が99.95質量%以上であるマグネシウム源と、その純度が99.95質量%以上であるアルミニウム源と、を混合して混合粉末を得る混合工程と、
上記混合粉末を粉砕して前駆体を得る粉砕工程と、
上記前駆体を温度1400℃以上1500℃以下で焼成してスピネル原料を得る焼成工程と、
上記焼成工程で得られたスピネル原料を解砕又は粉砕する工程と、を含み、
上記マグネシウム源及びアルミニウム源は、多数の粒子からなる粉末であり、このマグネシウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(1)と、このアルミニウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(2)との比D50(1)/D50(2)が、0.2以上5.0以下であ
り、
上記マグネシウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(1)が0.1μm以上1.0μm以下であり、
上記アルミニウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(2)が0.1μm以上1.0μm以下であり、
上記前駆体の体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1μm以上1.0μm以下である、スピネル粉末の製造方法。
【請求項2】
上記粉砕工程が湿式粉砕によりおこなわれる、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル粉末に関する。詳細には、本発明は、アルミン酸マグネシウムスピネル粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
化学組成がMgAl2O4で表されるアルミン酸マグネシウムスピネル(MgO-Al2O3系スピネル、以下、「スピネル」と称する)は、熱的安定性及び化学的安定性に優れたセラミックス焼結体として、種々の分野で利用されている。このスピネルを用いたセラミックス焼結体の用途として、光学材料、耐熱容器、絶縁材料、触媒担体、吸着剤、支持体、コーティング材等が例示される。
【0003】
通常、スピネルを用いたセラミックス焼結体は、スピネル粉末を焼結することにより得られる。スピネル粉末に含まれる微量元素が、各種用途に用いられるセラミックス焼結体としての特性に影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
特表2018-501178号公報(特許文献1)には、MgOと、少なくとも0.1質量%のドーパントと、Al2O3とを含み、総不純物含有率が0.7質量%未満の焼結セラミック構成要素が開示されている。WO2015/140459号(特許文献2)では、スピネル構造のマグネシウムアルミニウム酸化物MgAl2O4及び/又はMgO-MgAl2O4共晶混合物のマトリックスからなる融合粒子が提案されている。この融合粒子の重量の95.0%超がAl2O3及びMgOの化学組成を示し、CaO及びZrO2の累積含有量は4000質量ppm未満である。
【0005】
WO2014/119177号(特許文献3)には、スピネル焼結体からなる本体を備えたガスノズルが開示されている。このスピネル焼結体は、主成分として、90質量%以上99.9質量%以下のアルミン酸マグネシウムを含み、焼結助剤として、0.1質量%以上10質量%以下のCa、Mg又はZrを含んでいる。WO2013/038916号(特許文献4)では、Zn及びKの含有量がそれぞれZnO及びK2Oに換算した合計で30ppm以上500ppm以下のアルミン酸マグネシウム質焼結体が提案されている。特許文献4には、Si、Ca及びPの含有量をそれぞれSiO2、CaO及びP2O5に換算した合計で500ppm以上2500ppm以下に制御することが記載されている。
【0006】
特許文献1-4に開示されたように、微量元素により所望の特性を付与又は強化する場合、望ましくない他の元素を不純物として含まないことが重要である。また、不純物は、セラミックス焼結体の熱膨張率に影響する。不純物含量が多く、純度が低い場合、セラミックス焼結体の熱膨張率にばらつきが生じる。さらに、光学材料用途では、不純物による光の吸収又は分散が生じて、透明性が損なわれるという問題がある。このように、種々の用途において、純度の高いスピネルが要望されている。
【0007】
特開昭62-72556号公報(特許文献5)には、アルコキシド共沈法により得られた共沈物を仮焼して、純度99.9%以上の高純度MgAl2O4原料を得る技術が開示されている。特表2018-507156号公報(特許文献6)では、pH調整したアルミナ分散液を、マグネシウム化合物の水性分散液に添加して得られるスラリーを、乾燥後カ焼して、マグネシウムアルミネートスピネルを製造する技術が提案されている。特開2018-52747号公報(特許文献7)には、所定の粒子径を有するマグネシウム源粒子とアルミニウム源粒子を混合後、900~1400℃で仮焼する工程を有する、酸化マグネシウム含有スピネル粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-501178号公報
【文献】WO2015/140459号
【文献】WO2014/119177号
【文献】WO2013/038916号
【文献】特開昭62-72556号公報
【文献】特表2018-507156号公報
【文献】特開2018-52747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献5及び6に開示された方法では、操作が複雑になり、粒子径の制御が困難であるという問題がある。また、特許文献5の方法では、高価なアルコキシドを使用するため、コスト面でも課題がある。
【0010】
特許文献7のような固相法の場合、高純度のマグネシウム源粒子及びアルミニウム源粒子を原料とすることで、得られるスピネルが高純度化すると考えられる。しかし、固相法では、不純物である微量元素が、焼成によるMgAl2O4の生成を促進することが知られている。例えば純度99.95質量%以上の原料を用いる場合には、この促進効果が得られないため、900~1400℃程度の焼成温度では、十分なスピネル化が困難である。1600℃以上の高い温度で、長時間焼成することにより、スピネル化が進行する可能性はあるが、焼成中の不純物の混入の可能性が高くなるだけではなく、高温焼成による焼結性等活性低下が問題となる。また、高温で焼成後のスピネルは、強固に焼結しているため、所定の粒度とするために強力な解砕及び粉砕が必要となり、不純物混入の可能性がさらに高くなる。さらには、生産性、設備、エネルギーコスト等の工業的側面において非常に不利であり、実用化に問題がある。
【0011】
本発明者等の知見によれば、工業的に用いられているスピネル粉末のほとんどは、純度99.9%程度である。各種用途において、スピネルを用いたセラミックス焼結体をより高機能化し、高付加価値とするためには、その原料であるスピネル粉末のさらなる高純度化が必要である。
【0012】
本発明の目的は、高純度で、かつ高温焼成による活性劣化がないスピネル粉末及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、鋭意検討の結果、マグネシウム源とアルミニウム源との固相反応において、その粒子径を制御することにより、高純度であるにも関わらず、比較的低温での焼成が可能になることを見出すことにより、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明に係るスピネル粉末の純度は、99.95質量%以上である。このスピネル粉末の、酸化物換算により示されるMg及びAlの含有量は、MgOとして9質量%以上78質量%以下であり、Al2O3として22質量%以上91質量%以下である。
【0015】
好ましくは、このスピネル粉末の純度は、99.99質量%以上である。
【0016】
好ましくは、このスピネル粉末の、Caの含有量は30ppm未満であり、かつ、Siの含有量は30ppm未満である。好ましくは、このスピネル粉末のMg、Al及びO以外の元素の総含有量は500ppm未満である。
【0017】
好ましくは、このスピネル粉末は、その純度が99.95質量%以上であるマグネシウム源と、その純度が99.95質量%以上であるアルミニウム源と、を、反応温度1500℃以下で固相反応させてなる粉末である。
【0018】
さらに、本発明は、このスピネル粉末の製造方法に関する。この製造方法は
(1)その純度が99.95質量%以上であるマグネシウム源と、その純度が99.95質量%以上であるアルミニウム源と、を混合して混合粉末を得る混合工程、
(2)この混合粉末を粉砕して前駆体を得る粉砕工程、
及び
(3)この前駆体を温度1500℃以下で焼成する焼成工程と、
を含んでいる。
【0019】
好ましくは、このマグネシウム源及びアルミニウム源は、それぞれ多数の粒子からなる粉末である。このマグネシウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(1)と、このアルミニウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(2)との比D50(1)/D50(2)は、0.2以上5.0以下である。
【0020】
好ましくは、この粉砕工程は湿式粉砕によりおこなわれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るスピネル粉末の純度は、99.95質量%以上である。このスピネル粉末は、マグネシウム源とアルミニウム源とを混合後、温度1500℃以下で焼成する方法により得られる。このスピネル粉末は、高温焼成による活性低下がなく、不純物元素の含有量が十分に少ないため、高純度が要求される種々の用途に好適に用いられる。
【0022】
なお、背景技術において前述した通り、従来99.9質量%程度のスピネル粉末が用いられている。しかし、本発明が属する技術分野において、純度99.9質量%(3N)と、純度99.95質量%(3N5)とでは、単なる数値の差以上に、その技術的レベルが大きく異なっている。本発明は、その技術的困難性を超えて達成されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明されるが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。特に注釈のない限り、「%」は「質量%」であり、「ppm」は「質量ppm」である。
【0024】
また、本願明細書において、「スピネル」とは、MgAl2O4の化学組成を有するアルミン酸マグネシウムスピネルであり、MgO-Al2O3の2成分系化合物である。本発明に係るスピネル粉末は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの単なる混合物のように酸化マグネシウムのマトリックスと酸化アルミニウムのマトリックスが分離しているものでなく、全体的又は部分的にマグネシウムとアルミニウムが複合化した酸化物が形成されており、より均一性が高い組成を有している。
【0025】
本発明に係るスピネル粉末の純度は、99.95質量%以上であり、好ましくは99.99質量%以上である。ここで、純度とは、スピネル粉末に含まれる不純物の含有量を100%から減算した数値を指す。
【0026】
純度99.95質量%以上のスピネル粉末は、Mg、Al及びO以外の元素、即ち、不純物の含有量が、従来のスピネル粉末と比較して、十分に少ない。このスピネル粉末によれば、得られるセラミックス焼結体の熱膨張率のばらつきが低減される。また、このスピネル粉末を用いることにより、透明性の高いセラミックス焼結体が得られる。このスピネル粉末は、99.95質量%以上の高純度が要望される各種用途に、好適に用いられる。
【0027】
本発明に係るスピネル粉末の、酸化物換算により示されるMg及びAlの含有量は、MgOとして9質量%以上78質量%以下であり、Al2O3として22質量%以上91質量%以下である。この範囲内のスピネル粉末を用いて得られるセラミックス焼結体には、多様な用途で要望される種々の特性が付与されうる。この観点から、Mg及びAlの含有量は、好ましくは、MgOとして12質量%以上70質量%以下であり、Al2O3として30質量%以上88質量%以下であり、より好ましくは、MgOとして14質量%以上61質量%以下であり、Al2O3として39質量%以上86質量%以下である。好ましくは、このスピネル粉末のMgとAlとの化学量論比は、9:1~2:8の範囲にある。例えば、このスピネル粉末をセラミックス材料として用いる場合、Mgの割合が多くなると熱膨張率が大きくなり、耐スポーリング性が低下する傾向にある。Mgの割合が少なくなると、耐食性が低下する可能性がある。また、Alの割合が高くなると、スピネル粉末の硬度が高くなるため、粉砕時に不純物が混入する可能性が高くなる。なお、Mg及びAlの含有量の測定方法は、実施例にて後述する。
【0028】
本発明の効果が阻害されない範囲で、このスピネル粉末が、Mg、Al及びO以外の元素を含んでもよい。スピネル粉末に含まれるMg、Al及びO以外の元素として、Ca、Si、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Na等が例示される。P、S、B、Ti、Zr、Ba等が含まれる場合がある。
【0029】
好ましくは、このスピネル粉末の、Caの含有量は30ppm未満であり、かつ、Siの含有量は30ppm未満である。Si及びCaをごく微量まで低減することにより、不純物による特性の変化がごく小さくなるため、スピネル粉末の特性をより精密に制御することが可能となる。これにより、高機能化及び高付加価値化が達成される。この観点から、Caの含有量は25ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。同様の観点から、Siの含有量は25ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。
【0030】
好ましくは、このスピネル粉末のMg、Al及びO以外の元素の総含有量は500ppm未満である。Mg、Al及びO以外の元素の総含有量がこの範囲であることにより、99.95質量%以上の高純度が達成される。この観点から、Mg、Al及びO以外の元素の総含有量は、100ppm以下がより好ましく、70ppm以下がさらに好ましい。なお、この総含有量は、Mg、Al及びO以外の他の元素の含有量の合計として求められる。この「他の元素」の種類は特に限定されず、実施例にて後述する測定方法にて検出されるMg、Al及びO以外の元素が、「他の元素」として総含有量の算出に用いられる。「他の元素」の具体例として、Ca、Si、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Na、P、S、B、Ti、Zr、Ba等が挙げられる。
【0031】
好ましくは、このスピネル粉末は、原料である純度99.95質量%以上のマグネシウム源と、純度99.95質量%以上のアルミニウム源とを混合後、1500℃以下の温度で固相反応させてなる生成物である。1500℃以下の固相反応では、得られるスピネル粉末の強固な焼結が抑制される。このスピネル粉末は、焼成後の強力な解砕及び粉砕に起因する不純物の混入が回避される。さらにこのスピネル粉末は、過剰な高温処理を受けないため、焼結性等の活性が維持されうる。
【0032】
以下、本発明に係るスピネル粉末の製造方法について詳細に説明する。
【0033】
この製造方法は、混合工程と、粉砕工程と、焼成工程とを含んでいる。混合工程は、その純度が99.95質量%以上であるマグネシウム源と、その純度が99.95質量%以上であるアルミニウム源と、を混合して混合粉末を得る工程である。粉砕工程は、この混合粉末を粉砕して前駆体を得る工程である。焼成工程は、この前駆体を温度1500℃以下で焼成する工程である。この製造方法が、焼成工程後に、粒度調整工程を含んでもよい。本発明の目的が達成される限り、この製造方法はさらに他の工程を含みうる。
【0034】
この製造方法において、原料として用いるマグネシウム源の純度は、99.95質量%以上である。この純度のマグネシウム源を用いることにより、得られるスピネル粉末の高純度化が達成される。この観点から、好ましいマグネシウム源の純度は99.99質量%以上である。
【0035】
本発明の効果が阻害されない限り、マグネシウム源の種類は、特に限定されない。マグネシウム源の具体例として、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムが好ましく、水酸化マグネシウムがより好ましい。水酸化マグネシウムは、焼成中に、高比表面積の酸化マグネシウムに変化する。この高比表面積の酸化マグネシウムがアルミニウム源の周囲に存在することにより、MgAl2O4の生成反応が促進され、比較的低い焼成温度領域で十分なスピネル化が達成される。
【0036】
純度99.95質量%以上のマグネシウム源を製造する方法も、特に限定されない。例えば、純度99.95質量%以上の水酸化マグネシウムの製造方法の一例としては、塩化マグネシウム含有水溶液にアンモニア、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性水溶液を添加して反応させた後、乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得る方法が挙げられる。さらに、このようにして得られた水酸化マグネシウム粉末を焼成した後、所望の粒度まで粉砕してなる酸化マグネシウム粉末を、マグネシウム源として使用することもできる。また、金属マグネシウムを燃焼酸化させる気相法により、酸化マグネシウム粉末を得る方法が挙げられる。
【0037】
マグネシウム源は、多数の微細粒子からなる粉末であることが好ましい。マグネシウム源の粒度として、体積基準の累積50%粒子径D50(1)が0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。マグネシウム源の粒度がこの範囲内であることにより、得られるスピネル粉末において、酸化マグネシウムのマトリックスが残留することなく、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとが複合化したスピネル相が十分に形成される。この観点から、マグネシウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(1)は、0.2μm以上0.9μm以下がより好ましく、0.2μm以上0.8μm以下がさらに好ましい。なお、マグネシウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(1)の測定方法は、実施例にて後述する。
【0038】
この製造方法において、原料として用いるアルミニウム源の純度は、99.95質量%以上である。この純度のアルミニウム源を用いることにより、得られるスピネル粉末の高純度化が達成される。この観点から、好ましいアルミニウム源の純度は99.99質量%以上である。
【0039】
本発明の効果が阻害されない限り、アルミニウム源の種類は、特に限定されない。アルミニウム源の具体例として、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。好ましいアルミニウム源は酸化アルミニウムである。
【0040】
純度99.95質量%以上のアルミニウム源を製造する方法も、特に限定されない。例えば、純度99.95質量%以上の水酸化アルミニウムの製造方法の一例としては、例えば、ボーキサイトを加圧及び加熱下で水酸化ナトリウム水溶液と反応させた後、得られた溶液を濾過してアルミン酸ナトリウム溶液を抽出し、冷却することで水酸化アルミニウムを得る方法が挙げられる。また、このようにして得られた水酸化アルミニウムを焼成した後、所望の粒度まで粉砕してなる酸化アルミニウムを、アルミニウム源として使用することもできる。
【0041】
アルミニウム源は、多数の微細粒子からなる粉末であることが好ましい。アルミニウム源の粒度として、体積基準の累積50%粒子径D50(2)が0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。マグネシウム源の粒度がこの範囲内であることにより、得られるスピネル粉末において、酸化アルミニウムのマトリックスが残留することなく、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとが複合化したスピネル相が十分に形成される。この観点から、アルミニウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(2)は、0.2μm以上0.9μm以下がより好ましく、0.2μm以上0.8μm以下がさらに好ましい。なお、アルミニウム源の体積基準の累積50%粒子径D50(2)の測定方法は、実施例にて後述する。
【0042】
好ましくは、マグネシウム源の粒子径D50(1)と、アルミニウム源の粒子径D50(2)との比D50(1)/D50(2)は、0.2以上5.0以下である。混合工程において、比D50(1)/D50(2)がこの範囲内であるマグネシウム源とアルミニウム源とを混合することにより、比較的均一な粒度分布を有する混合粉末が得られる。この混合粉末を粉砕して得られる前駆体(焼成前混合物)の粒度分布も、均一である。粒度分布が均一な前駆体では、比較的低い焼成温度でマグネシウム源とアルミニウム源との反応が進行し、スピネル相の形成が促進される。この観点から、比D50(1)/D50(2)は、0.4以上4.0以下がより好ましく、0.3以上3.0以下が特に好ましい。
【0043】
混合工程において混合するマグネシウム源とアルミニウム源との配合比は、得られるスピネル粉末のMg及びAlの含有量(組成比とも称する)が、前述した範囲となるように、調整される。この製造方法において、マグネシウム源とアルミニウム源とを混合する方法は特に限定されず、既知の混合装置が適宜選択されて用いられる。その具体例としては、V型混合機等の容器回転型混合機、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、プロシェアミキサー、スーパーミキサー、乾式ボールミル等が挙げられる。できるだけ均一に混合することが好ましい。
【0044】
混合工程で得た混合粉末は、焼成前に、粉末工程において所定の粒度になるように粉砕される。この粉砕工程により、比較的低い焼成温度領域でのスピネル相の形成がさらに促進される。
【0045】
この製造方法において、混合粉末の粉砕方法は特に限定されず、湿式粉砕でも乾式粉砕でもよい。より均一な粒度分布が得られやすいとの観点から、湿式粉砕が好ましい。湿式粉砕の場合、混合粉末は、溶媒中に分散した状態で粉砕される。使用する溶媒としては、水及びアルコールが例示される。水及びアルコールを混合して用いてもよい。
【0046】
粉砕工程で使用される粉砕装置の例として、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、サイクロンミル等が挙げられる。粉砕条件は、特に限定されない。混合粉末の粒度、使用する粉砕装置の種類等に応じて、粉砕時間、回転数等を適宜調整することにより、所望の粒度分布を達成することができる。
【0047】
この製造方法では、粉砕後の混合粉末が、前駆体(焼成前混合物)として焼成工程に供される。本発明の目的が達成される限り、焼成工程に供される前駆体の粒度は特に限定されない。比較的低い焼成温度で、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとの複合化が促進されるとの観点から、前駆体の粒度として、体積基準の累積50%粒子径(D50)は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.2μm以上0.9μm以下がより好ましく、0.2μm以上0.8μm以下がさらに好ましい。なお、前駆体の粒度は、マグネシウム源及びアルミニウム源と同様の方法にて測定される。
【0048】
粉砕工程における粉砕が、湿式粉砕の場合、粉砕後の混合粉末と溶媒とを含む粉砕物スラリーが得られる。この粉砕物スラリーを乾燥して、溶媒を除去した乾燥粉末が、前駆体として焼成工程に供される。粉砕スラリーの乾燥方法は特に限定されず、真空乾燥機、噴霧乾燥機、凍結乾燥機等既知の乾燥機が適宜選択して用いられる。乾燥方法についても特に制限はなく、使用する乾燥装置及び粉砕物スラリーの性状等に併せて調整される。
【0049】
この製造方法において、焼成工程で前駆体を焼成する温度は、1500℃以下である。前駆体が温度1500℃以下で焼成されることにより、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとが複合化したスピネル原料が得られる。また、焼成温度1500℃以下の場合、焼成後に強固な焼結が生じないため、粉砕操作にともなう異物混入の可能性が低減される。所望の高純度が達成され、かつ高温焼成による活性劣化が生じないとの観点から、焼成温度は1500℃以下が好ましく、1470℃以下がより好ましく、1450℃以下がさらに好ましい。スピネル相形成の反応効率の観点から、好ましい焼成温度は1400℃以上である。
【0050】
焼成時間は、焼成温度により適宜調整される。例えば、温度1450℃以上1500℃以下の場合、好ましい焼成時間は1時間以上12時間以下であり、温度1400℃以上1450℃以下の場合、好ましい焼成時間は3時間以上18時間以下である。焼成時間をこの範囲内とすることにより、スピネル相が十分に形成されつつ、かつ強固な焼結が回避される。
【0051】
前駆体の焼成には、通常、焼成容器が用いられる。焼成容器の種類は特に限定されず、一般的なアルミナ匣鉢、マグネシア匣鉢等の部材が使用される。好ましくは、焼成工程では、前駆体が投入された焼成容器の天面が蓋で覆われる。これにより、焼成中に、外部からの不純物の混入が回避されうる。この焼成容器及び蓋の材質が、純度99.99質量%以上の高純度マグネシアであることが好ましい。焼成容器及び蓋の材質を高純度マグネシアとすることにより、焼成容器及び蓋からの不純物の移動及び混入が回避され、得られるスピネル粉末のさらなる高純度化が達成される。
【0052】
焼成に使用する装置は、1500℃以下で焼成できるものであればよく、特に限定されない。箱型炉、坩堝炉、管状炉、トンネル炉、真空炉、炉底昇降炉、抵抗加熱炉、誘導加熱炉、直通電型電気炉等既知の焼成炉が用いられ得る。
【0053】
焼成工程で得られたスピネル原料を解砕又は粉砕して、粒子径及び粒度分布を調整することにより、スピネル粉末を得てもよい。解砕又は粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、ボールミル、サイクロンミル等の粉砕機を使用することができる。
【0054】
解砕又は粉砕条件は特に限定されず、使用する装置の種類、前駆体の組成及び粒度、焼成条件等に応じて、適宜調整される。例えば、解砕及び粉砕時の回転数、処理時間等を調整することにより、不純物の混入が回避され、スピネル粉末の純度が維持される。これにより、所望の粒子径及び粒度分布の高純度スピネル粉末が得られる。例えば、乾式ボールミルを用いて粉砕する場合、好ましい粉砕時間は24時間であり、好ましい回転数は80rpmである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。なお、後述する実施例及び比較例において、各種物性は、以下の方法に従って測定した。
【0056】
[粒子径]
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製の商品名「MT3300」)を用いて、スピネル粉末の体積基準の累積10%粒子径(D10)、体積基準の累積50%粒子径(D50)及び体積基準の累積90%粒子径(D90)を測定した。測定試料は、各スピネル粉末をメタノールに投入した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製の商品名「US-300T」)にて、120Wで3分間分散処理することにより、準備した。
【0057】
[スピネル粉末の組成比]
多元素同時蛍光X線分析装置(株式機会社リガク製の商品名「Simultix12」)を用いて、ガラスビード法にてスピネル粉末の組成分析をおこなった。Al及びMgの含有量を酸化物換算で算出して、MgOとAl2O3との組成比を求めた。
【0058】
[スピネル粉末の純度及び各種元素含有量]
スピネル粉末を完全に溶解させた後、超純水で希釈したものを測定試料として準備した。この測定資料中の各種元素含有量を、ICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製の商品名「PS3520 VDD」)を用いて測定した。検出されたMg及びAl以外の元素は、Ca、Si、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Na、P、S、B、Ti、Zr及びBaであった。これら元素の含有量の合計を、総含有量(ppm)として求めた。なお、含有量が1ppm未満(<1)の場合、検出限界以下であるため、総含有量に算入しなかった。この総含有量を%に換算して、100%から減算することにより、スピネル粉末の純度(質量%)を算出した。
【0059】
[酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムの純度]
多元素同時蛍光X線分析装置(株式機会社リガク製の商品名「Simultix12」)を用いて、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムを測定した。検出されたMg、Al及びO以外の元素の総含有量(ppm)を%に換算して、100%から減算することにより、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムの純度を求めた。なお、検出されたMg及びAl以外の主要な元素は、Ca、Si、Fe、Mn、Ni、Cu、Znであった。
【0060】
[実施例1]
Mgイオン濃度が2.0mol/Lになるように調整した塩化マグネシウム水溶液と、濃度2.7mol/Lに調整した水酸化ナトリウム水溶液とを、それぞれ定量ポンプで反応槽に送液して、連続化合反応を実施した。塩化マグネシウムに対する水酸化ナトリウムの反応率が90mol%となるように制御した。得られた反応スラリーを、反応槽より、滞留時間30分でオーバーフローさせて回収した。この反応スラリー(水酸化マグネシウムスラリー)を、濾過、水洗、乾燥することにより、水酸化マグネシウム乾燥粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム乾燥粉末の純度は99.99%以上であり、体積基準の累積50%粒子径(D50)は0.58μmであった。
【0061】
上記の方法で得られた水酸化マグネシウム乾燥粉末に、純度が99.99%以上、体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.20μmの水酸化アルミニウム粉末を、MgとAlの組成比が酸化物換算でMgO:Al2O3が1:1になるように配合した後、乾式で均一になるように十分に混合することにより、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムの混合粉末を得た。
【0062】
得られた混合粉末と溶剤(工業用アルコール)とを、質量比1:1となるように、ポットミルに充填(充填率35%)し、ボールミル湿式粉砕(回転数80rpm/24時間)をおこなった。その後、内容物のスラリーを回収して、防爆式乾燥機で十分に乾燥することにより、焼成前混合物(前駆体)を得た。
【0063】
この焼成前混合物を、角型アルミナ匣鉢に充填して、1400℃で3時間加熱焼成後、冷却することによりスピネル原料を得た。このスピネル原料と溶剤(工業用アルコール)とを、質量比1:1となるように、ポットミルに充填(充填率35%)し、ボールミル湿式粉砕(回転数80rpm/24時間)をおこなった。その後、内容物のスラリーを回収して、500mesh篩を通した後、防爆式乾燥機で乾燥させることにより、実施例1のスピネル粉末を得た。実施例1のスピネル粉末の組成比、粒子径及び純度が、下表1に示されている。このスピネル粉末中の各種元素の含有量及び総含有量が下表2に示されている。
【0064】
[比較例1]
純度が99.99%以上、体積基準の累積50%粒子径(D50)が8.3μmの水酸化アルミニウム粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のスピネル粉末を得た。比較例1のスピネル粉末の組成比、粒子径及び純度が、下表1に示されている。このスピネル粉末中の各種元素の含有量及び総含有量が下表2に示されている。
【0065】
【0066】
【0067】
表1及び2に示されるように、実施例1では、純度99.95質量%以上であり、不純物含有量が極めて少ないスピネル粉末が得られた。このスピネル粉末中のCa及びSiの含有量は、いずれも30mm未満であった。これに対し、比較例1では、純度99.95質量%未満であって、かつCa及びSiの含有量が、いずれも30ppm以上であった。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明されたスピネル粉末は、高純度のセラミックス焼結体が求められる種々の分野で好適に使用される。