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  • 特許-液状水中油型組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】液状水中油型組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20241111BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241111BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241111BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241111BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/06
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/46
A61K8/891
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/44
A61Q19/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021520756
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019369
(87)【国際公開番号】W WO2020235459
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2019093361
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 茜
(72)【発明者】
【氏名】早▲瀬▼ はるな
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-301847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(C);
(A)炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコール
(B)N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム及びN-ステアロイル-L-グルタミン酸よりなる群から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤
(C)液状油
を含有し、成分(B)に対する成分(A)の含有モル比(A/B)が2.8~6、成分(C)に対する成分(A)及び(B)の合計の含有質量比((A+B)/C)が0.3~0.75であって、平均乳化粒径が160nm以下である液状水中油型組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が100mPa・s以下である請求項1に記載の液状水中油型組成物。
【請求項3】
成分(C)液状油が、ミネラルオイル及びジメチコンよりなる群から選択される1種又は2種である請求項1または2に記載の液状水中油型組成物。
【請求項4】
成分(C)液状油における非極性油に対する極性油の含有質量割合((極性油)/(非極性油))が0.5以下である請求項1~3のいずれかの項記載の液状水中油型組成物。
【請求項5】
さらに成分(D)油溶性有効成分を含有する請求項1~4のいずれかの項に記載の液状水中油型組成物。
【請求項6】
示差走査熱量計により測定されるDSC曲線において、58~68℃の温度範囲に含まれる吸熱ピーク全体の面積から求められる熱量に対する余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量の割合が0.7以下である請求項1~5のいずれかの項に記載の液状水中油型組成物。
【請求項7】
成分(B)が、N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウムである請求項1~6のいずれかの項に記載の液状水中油型組成物。
【請求項8】
さらに、水性溶媒を含有し、水性溶媒に対する水の含有質量割合(水/水性溶媒)が、5~20である請求項1~7のいずれかの項に記載の液状水中油型組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状水中油型組成物に関し、さらに詳細には、液状でありながら経時的な粘度安定性及び乳化安定性に優れる液状水中油型組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中油型組成物において、油剤の含有量を高くすると、経時的に分離やクリーミングが生じるなど乳化安定性が低下するという問題があった。これに対し、親水性アニオン系界面活性剤と高級脂肪族アルコールを所定のモル比で配合し、ゲル転移温度が60℃以上となるαゲルを形成させる技術や(特許文献1)、高級アルコールとアニオン性界面活性剤を所定のモル比で混合した混合物と、特定のIOB値の水溶性溶媒と水を所定の質量比で混合した混合物とからなる両連続マイクロエマルション相のαゲル中間体組成物を調製し、この組成物に加温した油分を添加し、次いで水を添加、撹拌することによってαゲル形成を誘発させる技術など(特許文献2)、αゲルを利用して乳化安定性の向上を図る試みがなされている。
【0003】
αゲルは両親媒性物質の形成する自己組織体の一つで、固体の水和結晶(コアゲル)とラメラ液晶の中間に位置し、結晶状態を保ちながらもその親水基間に多量の水を保持した状態にある。コアゲルのようなほとんど水を保持できない結晶は、分子自体が傾いてより密に充填した状態であるのに対し、ラメラ液晶は2分子膜の構造が流動性に富み、液体状態であるため多くの水を保持できる。αゲルもラメラ液晶と同じように界面活性剤が層状に並んでいるが、六方晶に規則正しく充填されているため、回転運動は保持されているものの、ラメラ液晶と比べ疎水基の運動性に乏しく、分子の運動は制御されている。このような構造に基づく運動性の違いを示差走査熱量分析(DSC)などで観測すると、ゲル-液晶相転移として熱の移動が観測できる。
【0004】
しかし、αゲルはラメラ液晶とコアゲルの中間相であるため通常不安定であり、上記特許文献1及び2の技術によって得られるαゲル含有水中油型乳化組成物も、経時的に粘度が上昇するなど粘度安定性に欠ける場合があった。また上記特許文献1及び2の技術は、αゲルの増粘作用に基づき乳化安定性を付与するものであり、製造直後から比較的高粘度となるため、化粧水などの液状の化粧料に当該技術を適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-348325号公報
【文献】特開2016-14011号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.30(3)310-320(1996)
【文献】Food Biophysics, September 2012,Volume 7,Issue 3,pp 227-235
【文献】J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.44(2)103-117(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、液状でありながら、経時的な粘度安定性及び乳化安定性に優れる水中油型乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、直鎖飽和高級アルコールに対し、N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム又はN-ステアロイル-L-グルタミン酸及びその塩など特定のアニオン性界面活性剤を所定量で組み合わせたうえで、形成される乳化滴の粒径を160nm以下に調整することによって、経時的に増粘することなく製造後から長期間にわたって液状の性状を保持できるとともに、クリーミングや分離等を生じることなく良好な乳化状態が安定的に維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、次の成分(A)~(C);
(A)炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコール
(B)N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム並びにN-ステ
アロイル-L-グルタミン酸及びその塩よりなる群から選択される
1種以上のアニオン性界面活性剤
(C)液状油
を含有し、成分(B)に対する成分(A)の含有モル比(A/B)が2.8~6、成分(C)に対する成分(A)及び(B)の合計の含有質量比((A+B)/C)が0.3~0.75であって、平均乳化粒径が160nm以下の液状水中油型組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中油型乳化組成物は、液状でありながら経時的な粘度安定性及び乳化安定性に優れるものであり、長期間にわたって増粘することなく液状の性状を保持し、かつクリーミングや分離等を生じることなく良好な乳化状態を安定して維持することができる。また組成物中に油溶性有効成分を含有させた場合には、その経時的安定性を向上させることができ、当該有効成分に基づく作用効果を安定的に維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1における平均乳化粒径80nm、110nm,170nm,1μmの組成物について示差走査熱量分析(DSC)の結果を示す図である。
図2】試験例1における平均乳化粒径80nm、110nmの組成物についてX線回折の結果を示す図である。
図3】試験例1における平均乳化粒径110nmの組成物についての電子顕微鏡写真である。
図4】参考例1におけるリポソームの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成分(A)炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール等が好ましく、特にセトステアリルアルコール、ステアリルアルコールが好ましい。本発明の水中油型組成物中(以下、単に「組成物」ということがある)の成分(A)の含有量は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から0.5~2質量%(以下、単に「%」という)が好ましく、1~1.7%がより好ましい。
【0013】
成分(B)は、アニオン性界面活性剤であるN-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸及びその塩であり、N-ステアロイル-L-グルタミン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、粘度安定性及び乳化安定性の観点からN-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸、N-ステアロイル-L-グルタミン酸ジナトリウムが好ましい。本発明の組成物中の成分(B)の含有量は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から0.4~1%が好ましく、0.5~0.9%がより好ましい。
【0014】
成分(C)液状油は、常温(25℃)で液状を呈するものであれば特に制限なく使用でき、例えば、イソドデカン、イソヘキサデカン、軽質イソパラフィン、流動パラフィン(ミネラルオイル)、スクワラン、スクワレン、α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ポリイソブチレン、水添ポリイソブテン等の炭化水素類;アブラナ種子油、アボカド油、アルモンド油、アンズ核油、エゴマ油、オレンジ油、オリーブ油、キウイ種子油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、コメヌカ油、サフラワー油、セージ油、大豆油、チャ種子油、トウモロコシ油、ナタネ油、月見草油、ツバキ油、パーシック油、ハトムギ油、ピーナッツ油、ひまわり油、ブドウ種子油、メドウフォーム油、ローズマリー油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ラベンダー油、ローズヒップ油、ミンク油等の動植物油;トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸-2-エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、デカイソステアリン酸デカグリセリル(デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10)、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、ペンタイソステアリン酸ジペンタエリトリット、炭酸ジアルキル、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、ダイマージリノレイル水添ロジン縮合物等のエステル類;オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール、2-デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、2-ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルトリメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラトリフロロプロピルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルペンタトリフロロプロピルシクロペンタシロキサン、ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、オレイル変性メチルポリシロキサン、ポリビニルピロリドン変性メチルポリシロキサン等のシリコーン油類;パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤類;酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体類;パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、サリチル酸エチルヘキシル等の液状の紫外線吸収剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
これらの中でも、粘度安定性及び乳化安定性の観点から非極性油が好ましく、例えば、イソドデカン、イソヘキサデカン、軽質イソパラフィン、流動パラフィン(ミネラルオイル)、スクワラン、スクワレン、α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ポリイソブチレン、水添ポリイソブテン等の炭化水素類、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルトリメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラトリフロロプロピルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルペンタトリフロロプロピルシクロペンタシロキサン、ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、オレイル変性メチルポリシロキサン、ポリビニルピロリドン変性メチルポリシロキサン等のシリコーン油類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。特に流動パラフィン(ミネラルオイル)、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)が好適に用いられる。本発明の組成物中の成分(C)の含有量は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、1~10%が好ましく、1.5~6.5%がより好ましい。また非極性油に対する極性油の含有質量割合((極性油)/(非極性油))は、油溶性有効成分や粘度・乳化の安定性向上の観点から、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。なお、成分(C)液状油には、後述する成分(D)油溶性有効成分は含まれない。
【0016】
本発明に用いる極性油は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、IOB(Inorganic-Organicbalance)が、0.05~0.8であることがより好ましく、0.05~0.6であることがさらにより好ましい。本発明に用いる非極性油のIOBは、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、0.05未満であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。
【0017】
ここで、本発明におけるIOBとは、下記(式1)で計算されるものである。
IOB=(Σ無機性値/Σ有機性)・・・(式1)
すなわち、IOBは、各種原子及び官能基毎に設定された「無機性値」、「有機性値」に基づいて、界面活性剤等の有機化合物を構成する原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することにより算出することができる(甲田善生著、「有機概念図-基礎と応用-」、11~17頁、三共出版、1984年発行参照)。
【0018】
また、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、液状油の混合IOBは、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらにより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。
【0019】
ここで、N種の液状油の混合IOB(IOBtotal)は、下記(式2)で計算されるものである。
IBOtotal=IOB・W+IOB・W+・・・IOB・W
・・・(式2)
IOB、IOB、IOB:各液状油のIOB
、W、W:各液状油の重量分率(W+W+・・・+W=1)
【0020】
本発明の水中油型乳化組成物においては、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、成分(B)に対する成分(A)の含有モル比(A/B)が2.8~6であることが好ましく、2.8~4であることがより好ましい。
【0021】
また成分(C)に対する成分(A)及び(B)の合計の含有質量比((A+B)/C))が、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、0.3~0.75であることが好ましく、0.3~0.72であることがより好ましい。
【0022】
本発明の組成物における水の含有量は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、70~85%が好ましく、75~80%がより好ましい。
【0023】
本発明の組成物には、水の他に水性溶媒を使用することができる。水性溶媒としては、例えば、エチルアルコール、プロピルアルコール等の低級アルコール類、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセロール類等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも粘度安定性及び乳化安定性の観点から1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンが好ましい。水性溶媒を使用する場合、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、水に対する水性溶媒の含有質量割合(水/水性溶媒)を5~20とすることが好ましく、6~15がより好ましい。
【0024】
本発明の組成物には、さらに成分(D)油溶性有効成分を含有させることができる。油溶性有効成分としては、トコフェロール、カロチノイド、レチノール、セラミド及びグリチルレチン酸並びにこれらのエステル;油溶性甘草、油溶性ヨクイニンエキス、油溶性ローズマリーエキス、ユビデカレノンなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。成分(D)としては、カロチノイドおよびこのエステルからなる群から選ばれる1種または2種以上が好ましい。カロチノイドとしては、アクチニオエリスロール、アスタキサンチン、ビキシン、カンタキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、β-8’-アポ-カロテナール(アポカロテナール)、β-12’-アポ-カロテナール、α-カロチン、β-カロチン、”カロチン”(α-およびβ-カロチン類の混合物)、γ-カロチン、δ-カロチン、β-クリプトキサンチン、エキネノン、パーム油カロテン、ルティン、リコピン、ビオレリトリン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンなどが挙げられ、カロチノイドのエステルとしては、カロチノイドのうちヒドロキシル基またはカルボキシル基を含有するものと脂肪酸または脂肪アルコールとが1つまたは複数のエステル結合を形成したエステルなどを挙げることができる。特に成分(D)として、アスタキサンチンおよびこのエステルからなる群から選ばれる1種または2種以上が好ましい。エステルを形成する脂肪酸または脂肪アルコールは炭素数8~24の飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖を有する炭化水素鎖を有するものが好ましい。本発明の組成物における成分(D)の含有量は油溶性有効成分の種類によって適宜設定されるが、例えば、0.00001~1%が好ましく、0.00001~0.5がより好ましい。
【0025】
本発明の組成物には、上記成分の他に、必要に応じ本発明の効果を損なわない範囲において任意成分を使用することができる。任意成分としては、例えば、固形油、粉体、紫外線散乱剤、防腐剤、香料等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、上記必須成分及び必要に応じ配合される任意成分を公知の方法に従って乳化混合することによって調製することができる。例えば、成分(A)~成分(C)を含む油相と、水を含む水相とをそれぞれ加熱溶解し、水相に油相を添加してディスパーション等を用いて乳化混合した後、マイクロフルイダイザー、アルティマイザー、ナノヴェイタなどを用いて高圧乳化処理することにより本発明の水中油型組成物が調製される。
【0027】
本発明の水中油型組成物の平均乳化粒径は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、160nm以下であり、好ましくは60~130nm、より好ましくは70~120nmである。平均乳化粒径は、高圧乳化処理における圧力、処理時間、処理回数などによって調整することができる。本明細書において平均乳化粒径とは、実施例に記載の方法によって測定された値である。
【0028】
本発明の水中油型組成物は、このように平均乳化粒径を160nm以下とすることにより、液状でありながら経時的な粘度安定性に優れたものとなるが、その理由は次のように考えられる。すなわち、本発明の水中油型組成物の製造過程において、成分(A)及び(B)からαゲルが形成されるところ、乳化滴の粒径が大きいと、αゲルの一部は乳化滴の周囲に存在し乳化滴を被覆しているが、それ以外のαゲルは連続相中に分散して存在している状態にある。このような余剰のαゲルが経時的にゲルのネットワークを形成して粘度上昇を引き起こすと考えられる。これに対し乳化滴の粒径を小さくしていくと、乳化滴の周囲に存在するαゲルの割合が高くなり、平均乳化粒径が160nm以下の範囲では、ほとんどのαゲルが乳化滴を被覆して、余剰のαゲルが存在しなくなるため、経時的な粘度上昇が生じなくなる。なお、成分(B)以外のアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤を使用した場合には、平均乳化粒径を160nm以下にしたとしても、乳化滴を被覆するαゲル膜構造が形成されないため、経時的な粘度上昇が生じてしまう。
【0029】
上述のとおり本発明の水中油型組成物においては、乳化滴の全部または一部がαゲルで被覆されていることが好ましい。このような乳化滴を被覆するαゲル膜構造(以下、「αゲル膜構造」ということがある)の存在の有無は、示差走査熱量分析(DSC)測定により確認することができる。すなわち、乳化滴が大きい場合(例えば平均乳化粒径1μm程度)、DSC測定において58℃~68℃の範囲には余剰のαゲルに基づく1つの吸熱ピークが観察されるが、乳化滴の粒径が小さくなるにしたがって、この吸熱ピークが徐々に縮小するとともに、より低温側に乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づく別の吸熱ピークが観察される。このようにDSC測定において、58~68℃の範囲に余剰αゲルとαゲル膜構造それぞれに基づく2つの吸熱ピークが観察されるか、より低温側のαゲル膜構造に基づく1つの吸熱ピークのみが観察される場合には、乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在が認められる。また乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在は、X線回折において15nm-1付近にピークが観察されることによっても確認することができる。すなわち、αゲルの面間隔は約4.15Åであるところ、面間隔と波数qの間にはq=2×π(円周率)/d(面間隔)の式が成り立つことから、その波数は15nm-1となる(非特許文献1及び2、図2参照)。さらに、乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在は電子顕微鏡観察によっても確認することができる(図3参照)。
【0030】
このような乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在は、油溶性有効成分の安定性向上に寄与すると考えられる。すなわち、水中油型乳化組成物に油溶性有効成分を含有させた場合、油溶性有効成分は主として乳化滴中に存在するが、常に同じ場所に留まることなく、連続相である水相への分子拡散が生じており(オストワルドライプニング(Ostwald ripening)、非特許文献3参照)、油溶性有効成分が連続相の水等と接触することによって油溶性有効成分の劣化が引き起こされる。これに対し本発明では、乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在によって乳化滴界面がより強固となるため、油溶性有効成分のオストワルドライプニングに伴う水等への接触が抑制され、その結果油溶性有効成分の経時安定性が向上するものと推測される。
【0031】
上記したとおり、DSC測定において58℃~68℃の範囲には、より高温側(60℃以上68℃以下)の余剰のαゲルに基づく吸熱ピーク及びより低温側(58℃以上~60℃未満)の乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づく吸熱ピークのいずれか一方又は双方のピークが含まれ得る。58℃~68℃の温度範囲に含まれる吸熱ピーク全体の面積から求められる熱量(J/g)をQ、余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量をQ、乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量をQとすると、吸熱ピーク全体の面積から求められる熱量に対する余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量の割合Q/Qは、粘度安定性の観点から、0.7以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。吸熱ピークの面積から求められる熱量Q,Q,Qは、それぞれ次のようにして求められる。すなわち、得られたDSC曲線の微分値であるDDSC曲線を作成し、DDSC曲線に傾きが生じ始めた温度をベース点とする。DSC曲線に対して、ベース点とベース点を結ぶことで(ベースライン)、ピーク面積を求めることができる。58℃~68℃の温度範囲に含まれる吸熱ピーク全体の面積(cm)をA、余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積(cm)をA、乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づく吸熱ピークの面積(cm)をAとすると、熱量Q,Q,Qは以下の式で表される。
ここで、miは試料量(g)、cは記録データの送り速度(cm/s)、PはDSC曲線の縦軸1cmが1秒間で何ジュールに相当するかという値(J/cm・s)である。
【0032】
αゲル膜構造におけるαゲル膜の膜厚は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、5~20nmが好ましく、5~10nmであることがより好ましい。本明細書において、αゲル膜の膜厚は、電子顕微鏡観察により測定される乳化滴100個のαゲル膜の膜厚の平均値を意味する。
【0033】
本発明の水中油型乳化組成物は、化粧料、医薬部外品、医薬品等として利用することができ、その形態は化粧水、美容液、スプレー剤原液、毛髪保護料、リキッドファンデーション等のメーキャップ製剤等液状のものである。本明細書において液状とは、実施例に記載の方法によって測定された粘度が100mPa・s以下であり、好ましくは50~0mPa・sであることを意味する。
【実施例
【0034】
次に実施例等を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0035】
試験例1:乳化滴の粒径による構造変化及び安定性
下記の処方及び製法により平均乳化粒径80nm,110nm,170nm,1μmの水中油型組成物を調製した。得られた各組成物について下記条件によるDSC測定を行った。また平均乳化粒径80nm,110nmの組成物について、下記方法によりX線回折を行った。さらに平均乳化粒径110nmの組成物について、下記方法により電子顕微鏡観察を行った。結果を図1~3に示す。
【0036】
(処方)
(成分) (%)
1.ジメチコン(25℃ 6mPa・s) 5.0
2.セチルアルコール 1.5
3.N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム 1.0
4.1,3-ブチレングリコール 12.0
5.メチルパラベン 0.15
6.フェノキシエタノール 0.15
7.精製水 80.2
【0037】
(製法)
A:No.1~3を均一に加熱混合溶解した。
B:No.4~7を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した後冷却した。
D-1:Cについてマイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力130MPa)を2回行って、平均乳化粒径80nmの水中油型乳化組成物を調製した。
D-2:Cについてマイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力100MPa)を3回行って、平均乳化粒径110nmの水中油型乳化組成物を調製した。
D-3:Cについてマイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力80MPa)を2回行って、平均乳化粒径170nmの水中油型乳化組成物を調製した。
D-4:Cについてデスパーにより2000rpmにて撹拌を行い、平均乳化粒径1μmの水中油型乳化組成物を調製した。
【0038】
(平均乳化粒径測定方法)
測定原理 動的散乱法
溶媒 水
測定温度 20℃
測定装置 リアルタイム ナノ粒子径測定装置 DelsaMax CORE
光源 100 mW DPSS 単一縦モードレーザー
レーザー波長 658 nm
検出器 粒子径測定 アバランシェフォトダイオード(APD)
検出器角度 粒子径測定 90°
粒径算出方法 マルチタウ方式よる自己相関係数を算出し、粒径を計算
(DSC測定方法)
使用機器;EXSTAR DSC6200(セイコーインスツル社製)
リファレンス;AIR
上昇温度速度;5Cel/min,
パン;P/N SSC000E031 AL15-CAPSULE
解析ソフトウェア;EXSTAR6000 熱分析・レオロジーシステム (セイコーインスツル社製)
【0039】
(X線回折方法)
測定機器;SAXSess(AntonPaar社製)
測定条件;25℃、20min
【0040】
図1に示すとおり、平均乳化粒径1μmの組成物では、61℃付近に余剰のαゲルによる吸熱ピークが認められた。このピークは乳化滴の粒径が小さくなるにしたがって縮小するが、平均乳化粒径110nmの組成物では、このピークに加え58℃付近に乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づくピークが認められた。平均乳化粒径80nmの組成物では、61℃付近のピークは消失し、58℃付近のピークのみとなった。このことから平均乳化粒径1μm~170nmでは、αゲルは主に余剰のαゲルとして連続相中に分散しているが、110nmでは乳化滴を被覆するαゲルと余剰のαゲルが併存した状態となり、80nmになるとαゲルは主として乳化滴を被覆するものとして存在することが示唆された。平均乳化粒径110nm,80nmの組成物において、乳化滴を被覆するαゲル膜構造が形成されていることは、X線回折において15nm-1にピークが存在すること(図2)及び電子顕微鏡写真(図3)からも裏付けられる。
【0041】
図1に基づき、吸熱ピーク全体の面積から求められる熱量Q、余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量Q及び乳化滴を被覆するαゲル膜構造に基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量Qを上記解析ソフトウェアEXSTAR6000を用いて求め、吸熱ピーク全体の面積から求められる熱量に対する余剰のαゲルに基づく吸熱ピークの面積から求められる熱量の割合Q/Qを算出した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
各組成物について、製造直後及び50℃1ヶ月保存後の粘度及び乳化状態を下記測定方法及び判定基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0044】
(性状(粘度)の測定・評価方法)
製造直後及び50℃で1か月保管した後、25℃における各試料の粘度を測定し、下記判定基準に従って評価した。粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いた化粧品原料基準・粘度測定法第二法に従って測定した。
(判定):(測定結果)
◎:10mPa・s以下
〇:10mPa・sを超え100mPa・s以下
×:100mPa・sを超える
【0045】
(性状(乳化状態)の評価方法)
各試料について、製造直後及び50℃で1か月保管した後の乳化状態を目視により確認し、下記判定基準にしたがって評価した。
(判定):(状態)
〇:クリーミング、分離が認められない
△:分離は認められないが、クリーミングが認められる
×:分離が認められる
【0046】
【表2】
【0047】
表1及び2より、平均乳化粒径が170nmであり、割合Q/Qが0.783である試験例に比べて、平均乳化粒径が110nmであり、割合Q/Qが0.136である試験例および平均乳化粒径が80nmであり、割合Q/Qが0である試験例が、50℃1ヶ月保存後も増粘することなく100mPa・s以下の粘度を維持しており、経時的な粘度安定性に優れることが確認された。
【0048】
参考例1:リポソーム含有化粧水の調製
下記に示す組成の化粧水を下記製造方法により調製した。得られた化粧水について、電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0049】
参考例1:化粧水
(成分) (%)
1.リン脂質 1.0
2.キサンタンガム 0.1
3.カルボキシビニルポリマー 0.05
4.1,3-ブチレングリコール 20.0
5.グリセリン 4.5
6.水酸化ナトリウム 0.02
7.パラオキシ安息香酸エステル 0.1
8.香料 微 量
9.精製水 残 量
【0050】
(製造方法)
A:No.1、8、及び9の一部をリポソーム化した。
B:残りの成分をすべて混合した。
C:AとBを混合し、化粧水を得た。
【0051】
図3における本発明のαゲル膜構造を有する乳化滴は内部に油相を有するのに対し、図4におけるリポソームは、内部に油相を有さず、明らかに相違する。また、リポソームはマルチラメラ膜を形成しているため、複数の層状に膜構造が存在していることが見て取れるが、本発明のαゲル膜構造は層状の膜構造が観察されず、ラメラ膜数が少ないことが分かる。
また、本発明のαゲル膜の厚さは、炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコールが、おおよそ3分子分であること(αゲル膜が高級アルコール3分子膜であること)が分かる。αゲル膜構造をとるためには、他には5分子膜、7分子膜、9分子膜等となることも考えられるが、その場合、膜数の増加によりネットワーク構造が形成され、増粘する可能性がある。したがって、αゲル膜の膜厚は、粘度安定性及び乳化安定性の観点から、5~20nmが好ましく、5~10nmであることがより好ましく、炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコールが、おおよそ3分子分であること(αゲル膜が高級アルコール3分子膜であること)がさらに好ましい。
【0052】
実施例1~14及び比較例1~12
下記表3~6に示す組成の化粧水を下記製造方法により調製した。得られた化粧水について、製造直後及び50℃1ヶ月保存後の粘度及び乳化状態を下記測定方法及び判定基準に従って評価した。また乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在について、下記方法により評価した。結果を併せて表3~6に示す。なお、表3~6の組成中の数値は%を意味する。
【0053】
【表3】
*1 ニッコールSMT(日光ケミカルズ社製)
*2 アミソフトHA-P(香栄興業社製)
*3 ニッコールDDP-8(日光ケミカルズ社製)
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
<製造方法>
(実施例1、7、8、10)
A:No.1~15を均一に加熱混合溶解した。
B:No.16~19を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力200MPa)を2回行い、化粧水を得た。
【0058】
(実施例2、11~14)
A:No.1~15を均一に加熱混合溶解した。
B:No.16~19を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力200MPa)を1回行い、化粧水を得た。
【0059】
(実施例3~6、9、比較例1~12)
A:No.1~15を均一に加熱混合溶解した。
B:No.16~19を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力100MPa)を2回行い、化粧水を得た。
【0060】
<評価方法>
(乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在)
各化粧水について、下記条件によるDSC測定により吸熱ピークを観察し、以下の基準にしたがって判定した。
[DSC条件]
使用機器;EXSTAR DSC6200(セイコーインスツル社製)
リファレンス;AIR
上昇温度速度;5Cel/min,
パン;P/N SSC000E031 AL15-CAPSULE
[判定基準]
(判定):(状態)
◎:58℃付近のみに1つのピークが観察された
〇:58℃付近、61℃付近にそれぞれ2つのピークが観察された
△:61℃付近のみに1つのピークが観察された
×:ピークが観察されなかった
-:測定不可であった
【0061】
上記DSC測定により◎又は〇と判定された試料について、電顕顕微鏡観察により、αゲル膜構造が乳化滴を被覆する様子が観察された(図3参照;図中の丸で囲った部分)。さらにX線回折(測定機器;SAXSess(AntonPaar社製)、測定条件;25℃、20min)を行ったところ、15nm-1にαゲル膜構造に由来するピークが認められた(図2参照)。
【0062】
(性状(粘度)の測定・評価方法)
製造直後及び50℃で1か月保管した後、25℃における各試料の粘度を測定し、下記判定基準に従って評価した。粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いた化粧品原料基準・粘度測定法第二法に従って測定した。
(判定):(測定結果)
◎:10mPa・s以下
〇:10mPa・sを超え100mPa・s以下
×:100mPa・sを超える
【0063】
(性状(乳化状態)の評価方法)
各試料について、製造直後及び50℃で1か月保管した後の乳化状態を目視により確認し、下記判定基準にしたがって評価した。
(判定):(状態)
〇:クリーミング、分離が認められない
△:分離は認められないが、クリーミングが認められる
×:分離が認められる
【0064】
表3及び4に示すとおり、実施例1~14の化粧水はいずれも、乳化滴を被覆するαゲル膜構造の存在が認められ、製造直後から液状を呈し、50℃1ヶ月保存後も増粘することなく100mPa・s以下の粘度を維持していた。また分離やクリーミングが生じることもなく、良好な乳化状態を保持していた。これに対し、平均乳化粒径170nm以上の比較例1~2の化粧水は、αゲル膜構造の存在が確認されず、経時的な粘度上昇が認められた。また成分(A)炭素数16以上の直鎖飽和高級アルコールに代えて、分岐のあるものや炭素数が16未満のものを使用した比較例3~5の化粧水は、いずれも製造直後から分離が認められた(初期分離)。成分(B)に代えてノニオン性界面活性剤を使用した場合も同様に初期分離が生じ(比較例6)、カチオン性界面活性剤や成分(B)以外のアニオン性界面活性剤を用いた場合には、αゲル膜構造の存在が確認されず、平均乳化粒径を160nm以下としても、50℃1ヶ月保存後に分離したり、経時的に粘度が上昇するなど乳化安定性及び粘度安定性に劣るものとなった(比較例11,12)。また成分(A)及び(B)の合計に対する成分(C)の含有質量比が0.3~0.75の範囲外にある場合にも、同様に乳化安定性や粘度安定性に劣るものとなった(比較例7~10)。
【0065】
試験例2:油溶性有効成分の安定性試験
下記表7に示す組成の化粧水を下記製造方法により調製した。得られた化粧水について、下記の方法により油溶性有効成分の安定性を評価した。
【0066】
【表7】
*4 アスタキサンチン―5C(オリザ油化社製)
*5 β-カロチン(三共製薬)
*6 カネカ・コエンザイムQ10(カネカ)
【0067】
(製造方法)
A:No.1~8を均一に加熱混合溶解した。
B:No.9~12を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力130MPa)を2回行って、化粧水を得た。
【0068】
(アスタキサンチン、β-カロチンおよびユビデカレノンの安定性評価方法)
各化粧水について製造直後及び50℃で1か月保管した後の吸光度を測定した。分光光度計UV-2500PC UV-VIS REDCORDING SPECTROPHOTOMETER(SHIMADZU社製)を用い、光路長10mm×光路幅10mmのガラスセルにて、リファレンスには精製水を使用し、アスタキサンチンにおいては波長480nm付近、β-カロチンにおいては波長450nm付近、ユビデカレノンにおいては280nm付近で吸光度を測定した。吸光度残存率を下記式により算出し、下記基準に従ってアスタキサンチン、β-カロチン、ユビデカレノンの安定性を評価した。
吸光度残存率(%)=(50℃で1か月保管した後の試料の吸光度)
×100/(製造直後の試料の吸光度)
【0069】
<安定性判定基準>
(判定):(吸光度残存率)
◎:吸光度残存率が60%以上
〇:吸光度残存率が50%以上60%未満
×:吸光度残存率が50%未満
【0070】
表7に示すとおり、実施例15の化粧水では、比較例13と比較して50℃1ヶ月保存後におけるアスタキサンチンの退色が明らかに抑制された。これは、実施例15ではαゲル膜構造が乳化滴を被覆して、乳化滴界面がより強固となるため、アスタキサンチンのオストワルドライプニングに伴う水等への接触が抑制され、その結果アスタキサンチンの分解等が抑制されるのに対し、比較例13の化粧水では乳化滴の周囲にαゲル膜構造が形成されないため、アスタキサンチンの水等への接触とそれに伴う分解等が生じるためと考えられる。β-カロチン及びユビデカレノンについても同様に、50℃1ヶ月保存後でも安定して維持されることが確認された。
【0071】
試験例3:非極性油に対する極性油の比と安定性
下記表8に示す組成の化粧水を下記製造方法により調製した。得られた化粧水について、実施例1~14と同様にして製造直後及び50℃1カ月保存後の粘度及び乳化状態を評価した。またアスタキサンチンの安定性について試験例2と同様にして評価した。結果を表6に併せて示す。
【0072】
【表8】
*7 ハイコールK-230(カネダ)
*8 Myritol GTEH(BASF)
【0073】
(製造方法)
A:No.1~5を均一に加熱混合溶解した。
B:No.6~9を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力130MPa)を2回行って、化粧水を得た。
【0074】
表8に示すとおり、実施例19~21および実施例25の化粧水は、実施例27の化粧水と比較して50℃1ヶ月保存後における粘度安定性および乳化安定性がより良好であった。さらに、実施例22~24および実施例26の化粧水は、実施例28の化粧水と比較して50℃1ヶ月保存後における粘度安定性、乳化安定性および油溶性有効成分の安定性がより良好であった。これは、非極性油に対する極性油の含有質量割合((極性油)/(非極性油))は、低いほど、直鎖飽和高級アルコールとの相溶性が下がり、αゲル膜構造の高温経時安定性が良好になるためと考えられる。
【0075】
実施例27:化粧水
(成分) (%)
1.ジメチコン(25℃ 6mPa・s) 4.5
2.パルミチン酸エチルヘキシル*9 0.5
3.セトステアリルアルコール 1.5
4.ベヘニルアルコール 0.8
5.セトステアリルアルコール 0.8
6.N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム 0.7
7.グリセリン 1.0
8.1,3-ブチレングリコール 12.0
9.トリプロピレングリコール 0.5
10.クエン酸 0.01
11.クエン酸Na 0.01
12.精製水 残量
*9 サラコス P-8(日清オイリオグループ社製)
(製造方法)
A:No.1~5を均一に加熱混合溶解した。
B:No.6~12を均一に加熱混合溶解した。
C:BにAを添加し、乳化混合した。
D:Cを冷却し、マイクロフルイダイザーによる高圧分散処理(圧力130MPa)を2回行って、化粧水を得た。
【0076】
以上のようにして得られた実施例27の化粧水は、製造直後は30mPa・sの液状であり、平均乳化粒径が80nmで乳化状態も良好であった。50℃、1ヶ月経過時点の粘度安定性、乳化安定性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水中油型乳化組成物は、液状でありながら経時的な粘度安定性及び乳化安定性に優れるものであるため、液状の化粧料や医薬部外品等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4