(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電離放射線を使用したがん処置を増強させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20241111BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241111BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20241111BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20241111BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K31/728
A61K9/02
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/68
A61K51/00 100
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021525704
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 US2019060834
(87)【国際公開番号】W WO2020102137
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-09
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521201355
【氏名又は名称】グリコミラ セラピューティックス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GLYCOMIRA THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】675 Arapeen Drive Suite 302 Salt Lake City, Utah 84108, US
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ウォン ヨン リー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ピー. ケネディ
(72)【発明者】
【氏名】グレン ディ. プレストウィッチ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0035307(US,A1)
【文献】特表2011-516672(JP,A)
【文献】特表2013-529598(JP,A)
【文献】RADIOISOTOPES,2012年,Vol.61,pp.21-29
【文献】日放腫会誌,1998年,Vol.10,pp.195-204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に電離放射線を照射すると共に使用され、前記対象において腫瘍のサイズを低減又は維持する用途のための組成物であって、
前記組成物は、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩を含み、
前記修飾ヒアルロナンは、
(a)第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩[ここで、前記第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩は、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む];並びに
(b)ピリジンを含む、第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩[ここで、前記第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩は、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む]を含む混合物を含み、ピリジンが、前記第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩に共有結合しており、
前記混合物中に存在するピリジンの量が、前記混合物の0.1重量%~4.0重量%である、
組成物。
【請求項2】
対象に電離放射線を照射すると共に使用され、前記対象において腫瘍のサイズを低減又は維持する用途のための組成物であって、
前記組成物は、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容されるカルボン酸エステルを含み、
前記修飾ヒアルロナンは、
(a)第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される
カルボン酸エステル[ここで、前記第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される
カルボン酸エステルは、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む];並びに
(b)ピリジンを含む、第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される
カルボン酸エステル[ここで、前記第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される
カルボン酸エステルは、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む]を含む混合物を含み、ピリジンが、前記第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される
カルボン酸エステルに共有結合しており、
前記混合物中に存在するピリジンの量が、前記混合物の0.1重量%~4.0重量%である、
組成物。
【請求項3】
前記第1及び第2の修飾ヒアルロナン中のメチル化の程度が、二糖単位毎に0.03~0.3個のメチル基である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第1及び第2の修飾ヒアルロナンが、1kDa~10kDaの平均分子量を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1及び第2の修飾ヒアルロナン中の硫酸化の程度が、二糖単位毎に3.0~4.0個の硫酸基である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1及び第2の修飾ヒアルロナン中のメチル化の程度が、二糖単位毎に0.03~0.3個のアルキル基であり、前記第1及び第2の修飾ヒアルロナンが、1kDa~10kDaの平均分子量を有し、前記第1及び第2の修飾ヒアルロナン中の硫酸化の程度が、二糖単位毎に3.0~4.0個の硫酸基であり、前記混合物中に存在するピリジンの量が、前記混合物の0.1重量%~4.0重量%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記薬学的に許容される塩が、有機塩、金属塩、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記薬学的に許容される塩が、NH
4
+、Na
+、Li
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Fe
2+、Fe
3+、Cu
2+、Al
3+、Zn
2+、2-トリメチルエタノールアンモニウムカチオン、又はイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、及びヒスチジンの第四級塩からなる群から選択される塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記修飾ヒアルロナンが、前記腫瘍が電離放射線に曝露された後に前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記修飾ヒアルロナンが、前記腫瘍が電離放射線に曝露される前に前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項11】
前記修飾ヒアルロナンが、前記腫瘍が電離放射線に曝露される前及び後に前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項12】
前記修飾ヒアルロナンが、前記腫瘍が電離放射線に曝露される間に前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項13】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、非経口的に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項14】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、局所的に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項15】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、腫瘍内に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項16】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、鼻腔内、くも膜下腔内、皮下又は吸入によって前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項17】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、経口的、眼、経膣的、直腸、鼻腔内、口腔内頬側、又は耳に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項18】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、医薬組成物として投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、カプセル剤、錠剤、チューインガム、ロゼンジ剤、散剤、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ペースト剤、口内洗浄剤、スプレー剤、坐剤、浣腸、エアゾール、又は飲料を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、電離放射線への曝露の後の0.5時間~72時間以内に前記対象に最初に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項21】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、電離放射線への曝露の後に10日まで毎日前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項22】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、最初の電離放射線への曝露に続いて28日まで前記対象に毎日投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項23】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、最初の電離放射線への曝露に続いて28日まで前記対象に1日おきに投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項24】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、1日当たり1回又は1日当たり複数回で投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項25】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、単回投与当たり0.1mg/kg~500mg/kgの量で前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項26】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、単回投与当たり3mg/kg~300mg/kgの量で前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項27】
前記修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩
、又は、前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容されるカルボン酸エステルが、単回投与当たり10mg/kg~100mg/kgの量で前記対象に投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項28】
(1)前記対象における前記腫瘍の最初の体積が、前記腫瘍の電離放射線への曝露及び前記修飾ヒアルロナンの投与の前に測定され、(2)処置された腫瘍の体積が、前記腫瘍の電離放射線への曝露及び前記修飾ヒアルロナンの投与の後に測定される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項29】
前記処置された腫瘍の体積が、前記腫瘍の前記最初の体積の0%~80%である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
電離放射線への前記腫瘍の曝露及び前記対象への前記修飾ヒアルロナンの投与の後に、前記対象において腫瘍再成長を予防又は低減させる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項31】
前記対象が、飼育動物、野生動物、又は家畜である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項32】
電離放射線が、外部ビーム放射線、近接照射療法放射線、又はこれらの組合せを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項33】
前記外部ビーム放射線が、常用電圧X線機器、コバルト60機器、線形加速器、陽子ビーム機器、ベータトロン放射線、中性子ビーム機器、ガンマナイフから送達される放射線、スプレー放射線、定位放射線、又は任意のこれらの組合せを含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記近接照射療法放射線が、組織内放射線、腔内放射線、管腔内放射線、静脈内投与される放射性リガンドタグ化分子、又は任意のこれらの組合せを含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
前記修飾ヒアルロナン又は前記その薬学的に許容される塩が、医薬組成物として前記対象に投与され、前記医薬組成物は、腫瘍成長を制御する薬剤を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項36】
前記腫瘍が、扁平上皮細胞癌である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項37】
前記薬学的に許容される
カルボン酸エステルが、アルキルエステルである、請求項2に記載の組成物。
【請求項38】
前記修飾ヒアルロナンは、修飾の前に10kDa~2,000kDaの分子量を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月13日に出願された米国仮特許出願第62/760,134号明細書に対する優先権を主張する。本出願は、参照によりその全体が組み込まれている。
【0002】
謝辞
本発明は、National Institute of Dental and Craniofacial Researchによって授与された認可番号2R44DE024024の下で政府支援により行われた。政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
放射線療法は手術と共に使用され、腫瘍退縮を誘発する強力なツールである。しかし、多くのタイプのがんは放射線に対する抵抗性を究極的に発生し、放射線療法は無効となる[1-6]。さらに、健常組織における照射によって誘発される損傷は、急性及び慢性疾患、例えば、放射線による皮膚のやけど、肺臓炎、及び口腔粘膜炎をもたらし、これは、放射線療法に対する耐性を悪化させ得る。健常組織への放射線によって誘発される損傷を低減させるために、照射は通常複数のより小さな線量で行われる。それにも関わらず、これらの分割照射戦略は、曝露された組織及び器官への損傷をやはりもたらす。これらの欠点のために、放射線の有効性を増進し、且つ副作用を低減させる放射線増感剤への増大する興味が存在する。様々なタイプの放射線増感剤、例えば、化学療法剤、アジュバント、及び修飾された配合物は、長年に亘って着実に用いられてきた[7-9]。現在、化学療法剤、例えば、5-FU及びシスプラチンは、放射線増感剤として一般に使用されている。これらの放射線増感剤はがん療法の有効性を増進させることができる一方、これらの化学療法剤の大部分はまた、多様な一連の有害な健康上の成り行きをもたらす。粘膜組織、例えば、口腔粘膜及び胃腸粘膜は放射線化学療法に対して高度に感受性であり、患者は著しく痛い口腔及び腸の粘膜炎を発生させることが多い。これらの放射線化学療法によって誘発される疾患の重症度はがん処置についての制限要因であり得、適正な治療介入が存在しないことは衰弱させる慢性疾病を引き起こし得る。重篤な副作用を伴わない放射線増感薬剤の開発は、がん療法の全体的な成功を改善させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書に記載されているのは、対象において腫瘍のサイズを低減又は維持する方法であり、ここで、この方法は、腫瘍を電離放射線に曝露させ、且つ対象に修飾ヒアルロナン又は薬学的に許容される塩若しくはエステルを投与することが関与する。修飾ヒアルロナンの使用は、がん処置において使用される電離放射線の効果を増進又は増強させる。さらに、本明細書に記載の方法は、電離放射線への腫瘍の曝露及び対象への修飾ヒアルロナンの投与の後で、対象における腫瘍再成長を予防又は低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の利点は、部分的に下記の記載内容において記載し、部分的に記載内容から明らかとなるか、又は下記に記載する態様の実行から学習し得る。下記に記載する利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘する要素及び組合せによって実現し、達成される。上記の概要及び下記の詳細な説明の両方は、単に例示的及び説明的なものであり、制限的ではないことを理解すべきである。
【0006】
本明細書に組み込まれており、且つ本明細書の一部を構成する添付図面は、下記に記載するいくつかの態様を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】確立した腫瘍の成長を示す。腫瘍体積は、移植したSCC-25-Luc2細胞からの発光を測定することによって決定した。2群の動物を、0日目に1回、X線(30Gy)で照射した。GM-1111(30mg/kg)及びビヒクル(リン酸緩衝食塩水、PBS)の両方を、1日目から20日目まで皮下に毎日1回投与した。左のパネルは、長期に亘る腫瘍体積の変化を例示し、右のパネルは、各群についての曲線下面積(日数に対する腫瘍体積の曲線)を示す。記号及びエラーバーは、平均±SEMを表す。**p<0.01及び***p<0.001、ビヒクル処置群と比較。
【
図2】SCC-25-Luc2細胞を移植した舌組織の顕微鏡画像(ヘマトキシリン及びエオシン染色、最初の拡大率2×)を示す。発生した腫瘍を有する領域を、点線で図示する。組織学的検査のために舌組織の前半分を研究の終わり(21日目)に採取した。X線を照射された動物からの組織は、照射されていない対照動物からの組織と比較して腫瘍退縮を示す。
【
図3】カリパスで測定したヒト咽頭腫瘍(FaDu細胞)の体積の変化を示す。GM-1111(30mg/kg)及びビヒクルの両方を、0日目から14日目まで皮下に毎日1回投与した。腫瘍体積の有意な低減が、GM-1111単独、GM-1111プラス照射、及びPBSプラス照射群において観察された。記号及びエラーバーは、平均±SDを表す。
【
図4】マウスの背中において成長したヒト咽頭腫瘍(FaDu細胞)の代表的な画像を示す。GM-1111(30mg/kg)及びビヒクル(PBS)の両方を、1日目から13日目まで皮下に毎日1回投与した。
【
図5】移植したがん細胞からの腫瘍の成長を示す(左のパネル:SCC-25-Luc2細胞;右のパネル:FaDu細胞)。発光を測定することによって(SCC-25-Luc2細胞)、又はカリパスで腫瘍体積を決定した。GM-1111(30mg/kg)及びビヒクルの両方を、細胞移植の日から19日間(SCC-25-Luc2細胞腫瘍)又は6日間(FaDu細胞腫瘍)皮下に毎日1回投与した。腫瘍成長/確立の両方において腫瘍体積の有意な低減は観察されなかった。記号及びエラーバーは、平均±SEM(SCC-25-Luc2細胞腫瘍)又は平均±SDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本化合物、組成物、及び/又は方法を開示及び記載する前に、下記に記載する態様は、特定の化合物、合成法、又は使用に限定されないことを理解すべきである。それは、これらが当然ながら変化し得るためである。本明細書において使用される用語法は、特定の態様のみを記載する目的のためであり、限定的なものではないことをまた理解すべきである。
【0009】
本明細書及び下記の特許請求の範囲において、下記の意味を有すると定義すべきいくつかの用語に言及する。
【0010】
明細書及び添付の特許請求の範囲において使用するように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈によって明らかにそれ以外のことの指示がない限り、複数の参照対象を含むことに留意しなくてはならない。このように、例えば、「医薬担体」への言及は、2つ若しくはそれより多いこのような担体などの混合物を含む。
【0011】
「任意の」又は「任意に」は、それに続いて記載された事象又は状況が起こっても、又は起こらなくてもよく、且つ記載が、事象又は状況が起こる実例、及びこれが起こらない実例を含むことを意味する。例えば、語句「任意に置換されている低級アルキル」は、低級アルキル基が置換されていても、又は置換されていなくてもよく、記載が非置換低級アルキル、及び置換が存在する低級アルキルの両方を含むことを意味する。
【0012】
本明細書を通して、文脈が他のことも指示しない限り、単語「含む」又はバリエーション、例えば、「含めた」若しくは「含むこと」は、記述した要素、整数、ステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の別の要素、整数、ステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を除外することを意味しないと理解される。
【0013】
範囲は、本明細書において、「約」である1つの特定の値から、及び/又は「約」である別の特定の値までとして表現し得る。このような範囲が表現されるとき、別の態様は、1つの特定の値から、及び/又は別の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」の使用によって値が近似値として表現されるとき、特定の値が別の態様を形成すると理解される。範囲のそれぞれのエンドポイントは、別のエンドポイントに関連して、及び別のエンドポイントとは無関係の両方において、意味があることがさらに理解される。
【0014】
明細書及び結びの特許請求の範囲における、組成物又は物品中の特定の要素又は構成要素の重量部への言及は、組成物又は物品中の、そのために重量部が表現される要素又は構成要素と任意の別の要素又は構成要素との間の重量関係を示す。このように、2重量部の構成要素X及び5重量部の構成要素Yを含有する化合物において、X及びYは、2:5の重量比で存在し、さらなる構成要素が化合物中に含有されるかどうかに関わらず、このような比で存在する。
【0015】
本明細書において使用する場合、複数の項目、構造要素、組成上の要素、及び/又は材料は、便宜上、共通リストにおいて提示し得る。しかし、これらのリストは、リストのそれぞれのメンバーが別々で固有のメンバーとして個々に同定されるかのように解釈すべきである。このように、任意のこのようなリストの個々のメンバーは、共通の群におけるその提示にもっぱら基づいて、逆のことを示すことなく、同じリストの任意の別のメンバーと事実上同等として解釈すべきでない。
【0016】
濃度、量、及び別の数値データは、本明細書において範囲のフォーマットで表現又は提示し得る。このような範囲のフォーマットは、単に便宜及び簡潔さのために使用され、このように、それぞれの数値及び部分的範囲が明確に列挙されているかのように、範囲の限定として明確に列挙された数値を含むだけでなく、その範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分的範囲もまた含むように柔軟に解釈すべきであることを理解すべきである。一例として、「約1」~「約5」の数値範囲は、約1~約5の明確に列挙された値を含むだけでなく、示した範囲内の個々の値及び部分的範囲もまた含むと解釈すべきである。このように、この数値範囲に含まれるのは、個々の値、例えば、2、3、及び4、部分的範囲、例えば、1~3、2~4、3~5、約1~約3、1~約3、約1~3など、並びに個々に、1、2、3、4、及び5である。同じ原則は、最小又は最大として1つの数値のみを列挙する範囲に適用される。さらに、このような解釈は、記載されている文字の幅又は範囲に関わらず適用すべきである。
【0017】
開示するのは、開示されている組成物及び方法のために使用することができるか、開示されている組成物及び方法と併せて使用することができるか、開示されている組成物及び方法のための調製において使用することができるか、又は開示されている組成物及び方法の産物である、材料及び構成要素である。これら及び別の材料は本明細書において開示され、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されるとき、これらの化合物のそれぞれの様々な個々及び集合的な組合せ及び並べ換えへの特定の言及が明確に開示され得ない一方で、それぞれは、本明細書において特に意図され、記載されていることが理解される。例えば、分子A、B、及びCのクラスが開示され、並びに分子D、E、及びFのクラス、並びに組合せA+Dの一例が開示されている場合、たとえそれぞれが個々に列挙されていなくても、それぞれは、個々に及び集合的に意図されている。このように、この例において、組合せA+E、A+F、B+D、B+E、B+F、C+D、C+E、及びC+Fのそれぞれが、特に意図されており、A、B、及びC;D、E、及びF;並びにA+Dの例の組合せの開示から開示されると考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセット又は組合せがまた、特に意図され、開示されている。このように、例えば、A+E、B+F、及びC+Eの部分群が、特に意図されており、A、B、及びC;D、E、及びF;並びにA+Dの例の組合せの開示から開示されると考えるべきである。この概念は、これらに限定されないが、開示された組成物を作製及び使用する方法におけるステップを含めた本開示の全ての態様に適用される。このように、開示された方法の任意の特定の実施形態又は実施形態の組合せによって行うことができる種々のさらなるステップが存在する場合、それぞれのこのような組合せが特に意図されており、開示されると考えるべきである。
【0018】
化学種の残基は、明細書及び結びの特許請求の範囲において使用するように、部分が化学種から実際に得られるかどうかに関わらず、特定の反応スキームにおける化学種のこのように得られた生成物、又は引き続く配合物若しくは化学生成物である部分を指す。例えば、少なくとも1個の-OH基を含有するヒアルロナンは、式Y-OH(式中、Yは、ヒアルロナン分子の残部(すなわち、残基)である)によって表すことができる。
【0019】
用語「処置する」は、本明細書において使用する場合、本明細書に記載の方法を使用して、本明細書に記載の方法を使用することを伴わない同じ状態と比較したときに、既存の状態(例えば、腫瘍体積)の症状を維持又は低減させることと定義される。用語「予防する」は、本明細書において使用する場合、本明細書に記載の方法を使用して、本明細書に記載の方法を使用することを伴わない同じ症状と比較したときに、1つ若しくは複数の症状(例えば、腫瘍成長、腫瘍再成長など)の出現の可能性を排除又は低減させることと定義される。用語「阻害する」は、本明細書において使用する場合、本明細書に記載の方法を使用することを伴わない同じ活性と比較したときに、活性(例えば、腫瘍成長、腫瘍再成長など)を完全に排除するか、又は活性を低減させる本明細書に記載の方法の能力である。
【0020】
「対象」は、これらに限定されないが、ヒト、ヒトではない霊長類、ヒツジ、イヌ、げっ歯類(例えば、マウス、ラットなど)、モルモット、ネコ、ウサギ、ウシ含めた哺乳動物、並びにニワトリ、両生類、及び爬虫類を含めた非哺乳動物を指す。
【0021】
本明細書に記載されているのは、電離放射線及び本明細書に記載のような修飾ヒアルロナンの使用を伴う、対象において腫瘍のサイズを低減又は維持する方法である。この方法は、腫瘍を電離放射線に曝露させ、対象に修飾ヒアルロナン又は薬学的に許容される塩若しくはエステルを投与することが関与し、ここで、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、(a)硫酸化されたヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル、或いは(b)アルキル基若しくはフルオロアルキル基を含むN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の硫酸基及び少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシル位を含むヒアルロナンを含む。
【0022】
電離放射線と組み合わせた修飾ヒアルロナンの使用は、がん患者における腫瘍を処置することに関していくつかの予想外の特性を有する。本明細書において示すように、腫瘍サイズ及び体積は、腫瘍が電離放射線に曝露され、且つ対象が修飾ヒアルロナンを投与されるとき、電離放射線にのみに曝露された腫瘍のサイズと比較して、有意に減少する。当技術分野で公知の技術を使用して、腫瘍のサイズ(例えば、体積)を測定することができる。このように、修飾ヒアルロナンは、電離放射線の化学療法効果を増進する。がん処置の間の抗炎症性又は細胞保護的薬物の使用は、放射線化学療法の細胞毒性効果からがん組織を保護することができるため、これは予想外である。
【0023】
本明細書に記載の方法の別の利点は、電離放射線の適用及び修飾ヒアルロナンの投与の前の腫瘍の最初の体積と比較したとき、これらが対象において腫瘍再成長を予防又は低減させることができることである。多くのタイプのがんは放射線に対する抵抗性を究極的に発生し、放射線療法は無効となる。本明細書に記載の方法は、電離エネルギー又は腫瘍再成長に対する腫瘍抵抗性の可能性を予防又は低減させることができる。
【0024】
本明細書において有用な電離放射線は、がん患者における腫瘍に適用することができる任意の放射線である。用語「電離放射線」は、本明細書において使用する場合、原子又は分子から1個若しくは複数の軌道電子をはじき出すのに十分なエネルギーを有する放射線(例えば、アルファ粒子、ベータ粒子、ガンマ線、X線、中性子、陽子、及び問題のイオン対を生じさせるのに十分なエネルギーを有する別の粒子)と定義される。吸収線量は典型的には、「グレイ」(Gy)で測定される。
【0025】
一態様において、電離放射線は、外部ビーム放射線、近接照射療法放射線、又はこれらの組合せである。一態様において、外部ビーム放射線は、常用電圧X線機器、コバルト60機器、線形加速器、陽子ビーム機器、ベータトロン放射線、中性子ビーム機器、ガンマナイフから送達される放射線、スプレー放射線、定位放射線、又は任意のこれらの組合せを含む。別の態様において、近接照射療法放射線は、組織内放射線、腔内放射線、管腔内放射線、静脈内投与される放射性リガンドタグ化分子、又は任意のこれらの組合せを含む。
【0026】
電離放射線の量及び期間は、腫瘍のサイズ及び性質によって変化し得る。電離放射線は、単回線量又は複数回線量で長期に亘り適用することができる。一態様において、腫瘍は、0.5~100Gy、又は0.5、1、2、2.5、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100Gyの投与量でX線照射に曝露され、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、20~40Gy)でよい。
【0027】
電離放射線の適用のタイミングに関連する修飾ヒアルロナンの投与は、変化させることができる。一態様において、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露された後に対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露される前に対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露される前及び後に対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露されている間に対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露される間に対象に投与され、修飾ヒアルロナンは、腫瘍が電離放射線に曝露された後にそれに続いて投与される。
【0028】
一態様において、修飾ヒアルロナンは、電離放射線への腫瘍の最初の曝露の後0.5時間~72時間以内に対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、電離放射線へと腫瘍を曝露させた0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、30時間、36時間、42時間、48時間、60時間、又は72時間後に対象に最初に投与され、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、12時間~24時間)でよい。
【0029】
修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、腫瘍を電離放射線に曝露させた後で、1日1回又は1日当たり複数回(例えば、毎日又は1日おきに、2×、4×、8×)投与することができる。修飾ヒアルロナンは、腫瘍のサイズ及び電離放射線の量によってある期間に亘って投与することができる。一態様において、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、腫瘍を電離放射線に曝露させた後28日まで毎日対象に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、腫瘍を電離放射線に曝露させた後に、毎日又は1日おきに、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、12日間、14日間、16日間、18日間、20日間、22日間、24日間、26日間、又は28日間対象に投与され、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、2日~8日)でよい。
【0030】
一態様において、修飾ヒアルロナンは、硫酸化されたヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルである。一態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、二糖単位毎に0.1~4.0の硫酸化の程度を有する。別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、二糖単位毎に0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、又は4.0の硫酸化の程度を有し、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、3.0~4.0、3.2~3.8など)でよい。
【0031】
別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンの平均分子量は、1,000kDa未満、900kDa未満、800kDa未満、700kDa未満、600kDa未満、500kDa未満、400kDa未満、300kDa未満、200kDa未満、100kDa未満、50kDa未満、25kDa未満、10kDa未満、又は5kDa未満である。別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、0.5kDa~50kDa未満、2Da~20kDa、又は3kDa~10kDaの平均分子サイズを有する。さらなる態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、0.5kDa~10kDa又は1kDa~10kDaの平均分子サイズを有する。反応条件によって、低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖中に存在する1個若しくは複数の異なるヒドロキシル基は、硫酸化されていてもよい。一態様において、低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖のN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンは、硫酸化されている。別の態様において、ヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、並びにウロン酸残基の少なくとも1個のC-2ヒドロキシルプロトン又はC-3ヒドロキシルプロトン、又はN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個のC-4ヒドロキシルプロトンは、硫酸基で置換されている。別の態様において、低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖のN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、並びにウロン酸残基の少なくとも1個のC-2ヒドロキシルプロトン及びC-3ヒドロキシルプロトン、並びにN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個のC-4ヒドロキシルプロトンは、硫酸基で置換されている。別の態様において、低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖上に存在するヒドロキシルプロトンの0.001%、0.01%、0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくは100%未満、又はその任意の範囲は、脱プロトン化され、それに続いて硫酸化されることができる。
【0032】
別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、(1)硫酸化されたヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンの90%は、硫酸基で置換されている、(2)3.0~4.0の硫酸化の程度、及び(3)1kDa~10kDaの平均分子量を有する。別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンは、(1)硫酸化されたヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンの100%は、硫酸基で置換されている、(2)3.0~4.0の硫酸化の程度、及び(3)1kDa~10kDaの平均分子量を有する。
【0033】
硫酸化されたヒアルロナンを生成するために使用されるヒアルロナン出発材料は、遊離酸又はその塩として存在することができる。ヒアルロナン出発材料の誘導体をまた、本明細書において使用することができる。誘導体は、硫酸化の前及び/又は後に、ヒアルロナンの任意の修飾を含む。多種多様の分子量のヒアルロナンを、解重合ステップのために本明細書において使用することができる。一態様において、ヒアルロナンは、解重合の前に1,000kDa超の分子量を有する。別の態様において、ヒアルロナンは、解重合の前に10kDa~1,000kDaの分子量を有することができる。多種多様のヒアルロナン分子量をまた、硫酸化ステップのために用いることができる。一態様において、ヒアルロナン出発材料は、硫酸化の前に低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖へと変換され、部分的又は完全に硫酸化されたヒアルロナンを生成させることができる。下記にさらに詳細に考察するように、低分子量ヒアルロナンは、酸若しくは塩基で分解されているか、又はこれらに限定されないが、超音波、オゾン分解、剪断応力若しくはラジカルによって媒介される鎖切断を含めた当技術分野で公知の技術によって脱重合されているヒアルロナンである。代わりに、ヒアルロナンオリゴ糖は、制御された様式でヒアルロナンを酵素、例えば、ヒアルロン酸シンターゼ又はヒアルロニダーゼで分解することによって生成される。それに続いて、異なる分子量を有するヒアルロナンオリゴ糖は、GPC又はイオン交換分離によって分離することができる。低分子量ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖をヒアルロナンから生成するための例示的な手順は、国際公開第2011/156445号パンフレットにおいて提供されている。
【0034】
一態様において、硫酸化されている低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖は、1kDa~2,000kDaの分子量を有する。別の態様において、硫酸化されている低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖は、5kDa~500kDa、10kDa~200kDa、又は20kDa~100kDa、又は200kDa未満、150kDa未満、100kDa未満、75kDa未満、50kDa未満、若しくは20kDa未満の分子量を有する。低分子量ヒアルロナンを調製するための例示的な手順は、国際公開第2011/156445号パンフレットにおいて提供されている。上記で考察するように、ヒアルロナンの分子量は、ヒアルロナンを酸又は塩基で切断することによって修飾し、より低い分子量のヒアルロナンを生成することができる。ある特定の態様において、ヒアルロナン出発材料又はその誘導体は、動物源に由来しない。これらの態様において、ヒアルロナンは、別の源、例えば、細菌に由来し得る。例えば、組換え枯草菌(B.subtilis)発現系を使用して、ヒアルロナン出発材料を生成することができる。
【0035】
低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖を塩基で処理した後、これを硫酸化剤と反応させ、部分的又は完全に硫酸化されたヒアルロナンを生成する。有機合成において一般に使用される硫酸化剤を、本明細書において使用することができる。硫酸化剤の例には、これらに限定されないが、ピリジン-三酸化硫黄錯体、クロロスルホン酸、又はトリエチルアミン-三酸化硫黄錯体が含まれる。一態様において、低分子ヒアルロナン又はヒアルロナンオリゴ糖をトリブチルアミン塩へと変換し、凍結乾燥し、ジメチルホルムアミドに再懸濁し、それに続いて硫酸化剤(例えば、ピリジン-三酸化硫黄錯体)で処理し、1つ若しくは複数のヒドロキシルプロトンを硫酸化することができる。
【0036】
一態様において、硫酸化剤がピリジン-三酸化硫黄錯体であるとき、硫酸化されたヒアルロナンのピリジニウム付加体が生成され、ここで、ピリジンは、硫酸化されたヒアルロナンに共有結合的に付着している。理論に束縛されるものではないが、ヒアルロナンが、溶媒、例えば、DMF中のピリジン-三酸化硫黄錯体と反応するとき、少量の酸がin situで存在する微量の水から生成され、これは部分的解重合をもたらし、遊離還元性末端基がもたらされる。ヘミケタールのヒドロキシル基は、究極的に硫酸化され、硫酸化された中間体を生成することができ、これは、それに続いてin situで生成された遊離ピリジンと反応し、ピリジニウム付加体が生成する。このように、本明細書において使用される硫酸化されたヒアルロナンは、分子に共有結合的に付着しているピリジンを有さない硫酸化されたヒアルロナンと、分子に共有結合的に付着しているピリジンを有する硫酸化されたヒアルロナンとの混合物を含むことができる。一態様において、0.01%~100%、0.1%~10%、又は0.15%~2.5%の硫酸化されたヒアルロナンは、分子に共有結合的に付着しているピリジンを有する。別の態様において、硫酸化されたヒアルロナンのピリジニウム付加体の分子量は、10kDaと等しいか若しくはこれ未満である。別の態様において、分子量は、0.1kDa、0.5kDa、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、7kDa、8kDa、9kDa、又は10kDaであり、ここで、任意の値は、分子量範囲の下端及び上端のエンドポイントでよい。
【0037】
別の態様において、修飾ヒアルロナンは、アルキル基若しくはフルオロアルキル基を含むN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の硫酸基及び少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシル位を有するヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルである。
【0038】
一態様において、ヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトンは、アルキル基で置換されている。用語「アルキル基」は、本明細書において使用する場合、1~24個の炭素原子の分岐状若しくは枝分かれしていない飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどである。一態様において、アルキル基は、C1~C10分岐状若しくは直鎖アルキル基である。さらなる態様において、アルキル基は、メチルである。アルキル基は、非置換であるか、又は置換されていてもよい。アルキル基が置換されている場合、アルキル基上に存在する1個若しくは複数の水素原子は、これらに限定されないが、アルキニル、アルケニル、アリール、ハライド、ニトロ、アミノ、エステル、ケトン、アルデヒド、ヒドロキシ、カルボン酸、アラルキル、又はアルコキシを含めた1個若しくは複数の基で置き換えられていてもよい。
【0039】
別の態様において、ヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトンは、フルオロアルキル基で置換されている。用語「フルオロアルキル基」は、本明細書において使用する場合、1~24個の炭素原子の分岐状若しくは枝分かれしていない飽和炭化水素基であり、ここで、水素原子の少なくとも1つは、フッ素で置換されている。ある特定の態様において、フルオロアルキル基は、少なくとも1個のトリフルオロメチル基を含む。別の態様において、フルオロアルキル基は、式-CH2(CF2)nCF3を有し、式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の整数である。一態様において、フルオロアルキル基は、-CH2CF2CF3又は-CH2CF2CF2CF3である。
【0040】
一態様において、メチル化された/硫酸化されたヒアルロナンは、下記で示した式
【化1】
を有し、式中、R
1は、メチル基であり、一方、残りのR基は、単独又は水素と組み合わせた硫酸基である。一態様において、nは、5~20、5~15、5~10、又は7~9である。
【0041】
別の態様において、修飾ヒアルロナンは、第1のメチル化された/硫酸化されたヒアルロナン及び第2のメチル化された/硫酸化されたヒアルロナンからなる混合物でよく、メチル化された/硫酸化されたヒアルロナンに共有結合されたピリジンは、本明細書に記載の方法において使用することができる。
【0042】
一態様において、混合物は、
(a)第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル[ここで、前記第1の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む];並びに
(b)第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル[ここで、前記第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、(i)メチル基で置換されている、少なくとも1個のN-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトン、(ii)1kDa~15kDaの平均分子量、(iii)二糖単位毎に0超~0.5個のメチル基のメチル化の程度;及び(iv)二糖単位毎に2.5~4.0個の硫酸基の硫酸化の程度を含む]を含み、ここで、ピリジンは、第2の修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルに共有結合している。
【0043】
一態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナン中のメチル化の程度は、二糖単位毎に0.030、0.050、0.075、0.100、0.125、0.150、0.175、0.200、0.225、0.250、0.275、0.300、0.325、0.350、0.375、0.400、0.425、0.45、0.475、又は0.500個のメチル基であり、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、0.030~0.300、0.100~0.200など)でよい。一態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンのみは、メチル基で置換されている(すなわち、メチル基は、この位置のみにある)。別の態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナンのN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンの1%~100%、5%~100%、10%~100%、20%~100%、50%~100%、60%~100%、70%~100%、80%~100%、90%~100%、又は95%~100%は、メチル基で置き換えられている。
【0044】
別の態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナンは、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、7kDa、8kDa、9kDa、10kDa、11kDa、12kDa、13kDa、14kDa、又は15kDaの平均分子量を有し、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、1kDa~10kDa、3kDa~7kDaなど)でよい。
【0045】
別の態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナンは、二糖単位毎に2.5、2.75、3.00、3.25、3.50、3.75、又は4.00個の硫酸基の硫酸化の程度を有し、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、1.5~3.5、3.~4.0など)でよい。
【0046】
別の態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナンの混合物中のピリジンの量は、混合物の0.10、0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50、1.75、2.00、2.25、2.50、2.75、3.00、3.25、3.50、3.75、又は4.00重量%であり、ここで、任意の値は、範囲の下端及び上端のエンドポイント(例えば、0.500~3.00、1.00~2.00など)でよい。ピリジンの量は、1H NMR及びUV分光法によって定量化することができる。
【0047】
別の態様において、第1及び第2の修飾ヒアルロナン中のメチル化の程度は、二糖単位毎に0.03~0.3個のメチル基であり、第1及び第2の修飾ヒアルロナンは、1kDa~10kDaの平均分子量を有し、第1及び第2の修飾ヒアルロナン中の硫酸化の程度は、二糖単位毎に3.0~4.0個の硫酸基であり、組成物中に存在するピリジンの量は、組成物の0.1重量%~4.0重量%である。
【0048】
ヒアルロナン出発材料は、遊離酸又はその塩として存在することができる。ヒアルロナン出発材料の誘導体をまた、本明細書において使用することができる。誘導体は、アルキル化若しくはフルオロアルキル化ステップの前に、ヒアルロナンの任意の修飾を含む。多種多様の分子量のヒアルロナンを、本明細書において使用することができる。一態様において、ヒアルロナンは、アルキル化若しくはフルオロアルキル化の前に、10kDa超の分子量を有する。別の態様において、ヒアルロナンは、アルキル化若しくはフルオロアルキル化の前に、25kDa~1,000kDa、100kDa~1,000kDa、25kDa~500kDa、25kDa~250kDa、又は25kDa~100kDaの分子量を有する。ある特定の態様において、ヒアルロナン出発材料又はその誘導体は、動物源に由来しない。これらの態様において、ヒアルロナンは、別の源、例えば、細菌に由来し得る。例えば、組換え枯草菌(B.subtilis)発現系を使用して、ヒアルロナン出発材料を生成することができる。
【0049】
ヒアルロナン出発材料又はその誘導体は、十分な量の塩基と最初に反応して、N-アセチル-グルコサミン残基の少なくとも1個の第1級C-6ヒドロキシルプロトンを脱プロトン化する。塩基の選択は、変化させることができる。例えば、水酸化アルカリ、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを本明細書において使用することができる。塩基の濃度又は量は、アルキル化若しくはフルオロアルキル化の望ましい程度によって変化し得る。一態様において、塩基の量は、ヒアルロナン出発材料又はその誘導体のN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンの少なくとも0.001%を脱プロトン化するのに十分である。別の態様において、塩基の量は、ヒアルロナン出発材料又はその誘導体のN-アセチル-グルコサミン残基の第1級C-6ヒドロキシルプロトンの0.001%~50%、1%~50%、5%~45%、5%~40%、5%~30%、5%~20%、10%~50%、20%~50%、又は30%~50%を脱プロトン化するのに十分である。溶液がより塩基性であるほど、鎖切断反応の可能性がより高く、達成することができるアルキル化/フルオロアルキル化の程度はより高いことが理解される。例えば、別のヒドロキシル基は、ヒアルロナン上に存在する(例えば、2-OH及び/又は3-OHは、アルキル化若しくはフルオロアルキル化することができる)。一態様において、ヒアルロナン上に存在するヒドロキシル基の全ては、アルキル化若しくはフルオロアルキル化し得る。別の態様において、ヒアルロナン上に存在するヒドロキシルプロトンの0.001%、0.01%、0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、又はその任意の範囲は、脱プロトン化し、それに続いてアルキル化若しくはフルオロアルキル化することができる。
【0050】
ヒアルロナン出発材料又はその誘導体を塩基で処理した後、脱プロトン化されたヒアルロナンはアルキル化剤若しくはフルオロアルキル化剤と反応して、修飾ヒアルロナンが生成される。アルキル化剤の例には、これらに限定されないが、ハロゲン化アルキルが含まれる。臭化アルキル及びヨウ化アルキルが特に有用である。同様に、フルオロアルキル化剤は、フルオロハロゲン化アルキルを含むことができる。有機合成において一般に使用されるアルキル化剤及びフルオロアルキル化剤を、本明細書において使用することができる。
【0051】
ある特定の態様において、上記のアルキル化若しくはフルオロアルキル化されたヒアルロナンを硫酸化することが望ましい。一態様において、アルキル化若しくはフルオロアルキル化されたヒアルロナンは、アルキル化若しくはフルオロアルキル化されたセージと硫酸化剤とを反応させることによって硫酸化され、硫酸化された生成物が生成する。硫酸化の程度は、部分的な硫酸化から完全な硫酸化まで変化させることができる。一般に、アルキル化若しくはフルオロアルキル化されたヒアルロナン又はその誘導体上に存在する遊離ヒドロキシル基は、硫酸化されることができる。一態様において、少なくとも1個のC-2ヒドロキシルプロトン及び/又はC-3ヒドロキシルプロトンは、硫酸基で置換されている。別の態様において、硫酸化の程度は、アルキル化若しくはフルオロアルキル化されたヒアルロナンの二糖単位毎に0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5又はその任意の範囲である。一態様において、アルキル化若しくはフルオロアルキル化されたセージを塩基で処理して、1個若しくは複数のヒドロキシルプロトンを脱プロトン化することができ、それに続いて硫酸化剤を添加する。硫酸化剤は、ヒドロキシル基又は脱プロトン化されたヒドロキシル基と反応して硫酸基を生成させる任意の化合物である。ヒアルロナンの分子量は、反応条件によって変化させることができる。一態様において、セージの分子量は、2kDa~500kDa、2kDa~250kDa、2kDa~100kDa、2kDa~50kDa、2kDa~25kDa、又は2kDa~10kDaである。
【0052】
一態様において、セージのアルキル基は、メチルであり、ヒアルロナンの少なくとも1個のC-2ヒドロキシルプロトン及び/又はC-3ヒドロキシルプロトンは、硫酸基で置換されている。別の態様において、セージのアルキル基は、メチルであり、ヒアルロナンの少なくとも1個のC-2ヒドロキシルプロトン及び/又はC-3ヒドロキシルプロトンは、硫酸基で置換されており、化合物は、アルキル化の後に2kDa~200kDaの分子量を有する。
【0053】
本明細書において有用な硫酸化され、アルキル化され/フルオロアルキル化されたヒアルロナンのいずれかは、その薬学的に許容される塩若しくはエステルでよい。薬学的に許容される塩は、遊離酸を適当な量の薬学的に許容される塩基で処理することによって調製される。代表的な薬学的に許容される塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、ヒスチジンなどである。一態様において、反応は、単独で又は不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせて、約0℃~約100℃の温度、例えば、室温にて水中で行われる。構造式Iの化合物と使用される塩基のモル比は、任意の特定の塩のために望ましい比を実現するために選択される。例えば、遊離酸出発材料のアンモニウム塩を調製するために、出発材料を概ね1当量の薬学的に許容される塩基で処理して、中性塩を生じさせることができる。
【0054】
エステル誘導体は典型的には、化合物の酸形態の前駆体として調製され(下記の実施例において例示されているような)、したがって、プロドラッグとしての役割を果たすことができる。一般に、これらの誘導体は、低級アルキルエステル、例えば、メチル、エチルなどである。アミド誘導体-(CO)NH2、-(CO)NHR及び-(CO)NR2(式中、Rは、上で定義したようなアルキル基である)は、カルボン酸含有化合物とアンモニア又は置換アミンとの反応によって調製することができる。また、エステルは、脂肪酸エステルでよい。例えば、パルミチン酸エステルは、代替のエステラーゼ活性化プロドラッグとして調製され、使用することができる。
【0055】
本明細書に記載されている修飾ヒアルロナンは、生物系又は生物学的存在が許容することができる任意の添加剤中で配合され、医薬組成物を生成することができる。このような添加剤の例には、これらに限定されないが、水、水性ヒアルロン酸、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、ハンクス液、及び別の生理学的平衡塩類水溶液が含まれる。非水性ビヒクル、例えば、不揮発性油、植物性油、例えば、オリーブ油及びゴマ油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及び注射可能な有機エステル、例えば、オレイン酸エチルをまた使用することができる。別の有用な配合物は、粘度増進剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランを含有する懸濁液を含む。添加剤はまた、微量の添加物、例えば、等張性及び化学的安定性を増進させる物質を含有することができる。緩衝液の例は、リン酸緩衝液、重炭酸緩衝液及びトリス緩衝液を含み、一方、保存剤の例は、チメロソール、クレゾール、ホルマリン及びベンジルアルコールを含む。ある特定の態様において、pHは、投与のモードによって変更することができる。例えば、組成物のpHは、約5~約6であり、これは局所適用に適している。さらに、医薬組成物は、本明細書に記載されている化合物に加えて、担体、増粘剤、賦形剤、保存剤、表面活性剤などを含むことができる。
【0056】
医薬組成物はまた、本明細書に記載されている修飾ヒアルロナンと組み合わせて使用される1種若しくは複数の活性成分を含むことができる。このように得られた医薬組成物は、薬物及び別の生物活性のある薬剤を、適用部位に隣接した組織又は離れた組織へと持続、連続送達するための系を提供することができる。生物活性のある薬剤は、これが適用される生物系において局所的又は全身的な生物学的、生理的又は治療効果を実現することができる。例えば、薬剤は、別の機能の中で、感染症又は炎症を制御及び/又は予防し、細胞成長及び組織再生を増進し、腫瘍成長を制御し、鎮痛剤として作用し、抗細胞付着を促進し、歯槽骨及び歯を失うことを低減させ、軟骨組織及び体重を支える関節の変性を阻害し、骨成長を増進するように作用させることができる。さらに、本明細書に記載されている化合物のいずれかは、2種若しくはそれより多い薬学的に許容される化合物の組合せを含有することができる。このような化合物の例には、これらに限定されないが、抗微生物剤、抗炎症剤、麻酔剤などが含まれる。これらの組成物を薬物送達装置として使用するための方法を、下記で詳細に記載する。
【0057】
医薬組成物は、当技術分野で公知の技術を使用して調製することができる。一態様において、組成物は、修飾ヒアルロナンと、薬学的に許容される化合物及び/又は担体とを混和することによって調製される。用語「混和すること」は、化学反応又は物理的相互作用がないように2つの構成要素を一緒に混合すると定義される。用語「混和すること」はまた、化合物及び薬学的に許容される化合物の間の化学反応又は物理的相互作用を含む。反応性治療薬、例えば、求核基を有するものへの共有結合は、化合物上で行うことができる。第2に、架橋多糖類中の薬理学的活性剤の非共有結合的な捕捉がまた可能である。第3に、静電気的又は疎水的相互作用は、本明細書に記載されている化合物における薬学的に許容される化合物の保持を促進することができる。
【0058】
修飾ヒアルロナンは、局所的又は全身的処置が望ましいかどうかによって、及び処置される領域によって、多くの方法で投与することができる。投与は、局所的(眼、経膣的、直腸、鼻腔内、経口的、口腔内頬側、耳、又は皮膚若しくは粘膜へと直接を含めた)でよい。局所投与のための配合物は、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、ドロップ剤、坐剤、噴霧剤、液剤及び散剤を含むことができる。通常の医薬担体、水性、粉末又は油性基剤、増粘剤などは、必要又は望ましくてもよい。投与はまた、エアゾール又は乾燥微粉化粉末の吸入によって肺へと直接でよい。
【0059】
修飾ヒアルロナンはまた、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、鼻腔内、くも膜下腔内、皮下、又は吸入によって非経口的に注入することができる。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、浣腸、坐剤、カテーテル、無針注射器、又はバルブ注射器によって直腸に投与される。別の態様において、修飾ヒアルロナンは、エアゾール、微粒子化粉末、スプレー、洗浄液、灌注、若しくは吸入による経鼻適用又は投与において典型的には使用される別の適切な配合物として配合される。別の態様において、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、当技術分野で公知の技術を使用して腫瘍内に投与される。
【0060】
修飾ヒアルロナンの実際の好ましい量は、特定の場合において、利用される特定の化合物、配合される特定の組成物、適用のモード、並びに処置される特定の場所及び対象によって変化することを認識されたい。所与の宿主のための投与量は、例えば、対象化合物及び公知の薬剤の他と異なる活性の通例の比較によって、例えば、適当な通常の薬理学的プロトコルを用いて、通常の検討材料を使用して決定することができる。医薬化合物の用量を決定する技術分野において熟練している医師及び配合者は、標準的な推奨(Physicians Desk Reference, Barnhart Publishing (1999)によって用量を決定するのに問題を有さない。例えば、静脈内に投与されるとき、修飾ヒアルロナンの投与量は、25mg/kg~500mg/kgでよい。別の態様において、経口的に投与されるとき、修飾ヒアルロナンの投与量は、500mg/kg~3,000mg/kgでよい。別の態様において、局所的に投与されるとき、修飾ヒアルロナンの投与量は、1%w/v~20%w/vでよい。別の態様において、修飾ヒアルロナン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルは、単回投与当たり0.1mg/kg~500mg/kg、単回投与当たり3mg/kg~300mg/kg、又は単回投与当たり10mg/kg~100mg/kgの量で対象に投与される。
【実施例】
【0061】
下記の実施例は、本明細書において記載し、特許請求する化合物、組成物、及び方法をどのように作製及び評価するかの完全な開示及び説明を当業者に提示するために示し、純粋に例示的であることを意図し、本発明者らがそれらの発明としてみなすものの範囲を限定することを意図しない。数(例えば、量、温度など)に関する正確さを確実にするために努力がなされてきているが、いくつかのエラー及び偏差は説明されるべきである。他に示さない限り、部は、重量部であり、温度は、℃であるか、又は周囲温度であり、圧力は、大気圧であるか、又は概ね大気圧である。反応条件、例えば、構成要素濃度、望ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、並びに記載されたプロセスから得られる生成物の純度及び収率を最適化するために使用することができる別の反応範囲及び条件の多数のバリエーション及び組合せが存在する。
【0062】
材料及び方法
動物及び動物飼育
SCC-25-Luc2細胞腫瘍研究:6~8週齢の雄性免疫不全NCr-ヌード(NCr-Foxn1nu/nu)マウスは、Taconic Biosciences(Rensselaer、NY)から購入し、12時間の明/暗サイクルを伴う環境的に制御した施設において管理した。マウスを無菌のBed-o’-Cobs(登録商標)敷料を有するフィルター付きケージに収容した。無菌の食物(LabDiet(登録商標)5053)及び水を自由に与えた。最低3日の順応期間の後、全ての動物を、それらの健康及び研究への適合性について検査した。
【0063】
FaDu細胞腫瘍研究:60匹の雄性CD1ヌードマウスをCharles River(UK)から4~6週齢で購入し、2週間順応させた。全ての動物は、SPF(特定病原体除去)バリアユニットにおける個々に換気されているケージ(IVC)において保持した。研究、用量、動物数及び処置群を同定するのに必要とされる適当な情報を標識したケージにおいて、動物を耳パンチによって同定した。動物にB & KからのRat and Mouse Expanded飼料を与えた。餌及び水の両方を自由に与えた。動物の健康を毎日モニターした。規則的な間隔でケージを清掃し、敷料を変更した。21±2℃の一定の室温及び55%±10%の平均相対湿度であった。昼夜サイクルは、それぞれ、午前7時及び午後7時に開始するそれぞれ12時間の明相及び暗相を伴って一定であった。
【0064】
薬物
メチル化された/硫酸化されたヒアルロナン(下記でGM-1111と称される)は、下記の手順を使用して合成した。
【0065】
低分子量ヒアルロナンの調製
1.20gの850kDaのHA(1%w/v)を1.7LのddH2Oにゆっくりと溶解し、その間、熱(約40℃)上で激しく撹拌する。20gのHA全てを加えたとき、熱から取り除き、室温へと冷却されるまで撹拌し、次いで、撹拌しながら、333mLの6N HClをゆっくりと加える。室温にて概ね2週間撹拌する。
2.HPLC、GPC、又はSECを使用して、14日における分解反応をモニターする。分析の前に各試料を中和し、反応を停止させ、メチル化された/硫酸化されたヒアルロナンの従前のバッチと比較して232nmでのUV検出による分析を行う。
3.3~5kDaの分子量範囲で、40%(w/v)NaOHを氷上にゆっくりと加えることによって反応物をpH7.0まで中和する。
4.1000MWCO透析チュービング中でddH2Oに対して24時間透析し、水を6時間毎に変えて、1kDa超のヒアルロナンフラグメントを得る。
5.凍結乾燥し、白色のふわふわした固体を得る。収率:12.032g、60.2%
【0066】
メチル化ヒアルロナンの調製
1.6.0g(NaOH溶液中の4%w/v HA)の低分子量ヒアルロナンを、ddH2O中の150mLのNaOHの40%w/v溶液に溶解し、混合物を室温にて2時間撹拌し、粘稠溶液を生じさせる。
2.225mLのイソプロパノールを加え、撹拌を続ける。
3.6mL(6当量)のヨードメタンを加え、混合物を室温にて24時間撹拌する。
4.24時間後、分離漏斗を使用して、有機溶媒層を粘性の水層から取り出し、300mLのddH2Oを加え、粗メチル化ヒアルロナンを希釈する。
5.氷上の6NのHClで溶液をpH7.0に調節する。
6.中和された溶液を室温に温め、撹拌しながら3LのMeOH:EtOH(1:2v/v)を加え、メチル化ヒアルロナン中間体を沈殿させる。生成物を濾過によって集め、これを真空オーブン中で乾燥させる。
【0067】
GM-1111を生成するメチル化ヒアルロナンの硫酸化
1.2.5gの粗メチル化ヒアルロナンを200mLの無水DMFに加え、1時間撹拌し、その後、1.56mLのトリブチルアミン(1当量)を加える。溶液を室温にて20分間撹拌する。
2.5gを一度に加えることによって、25gのピリジン-三酸化硫黄(24当量)を加える。
3.混合物を40℃にて3時間撹拌する。
4.氷上で反応物を冷却し、50mLのddH2Oを加え、反応物をクエンチする。
5.無水酢酸ナトリウムで飽和した250mLの冷たい95%エタノールを加えることによって、粗材料を沈殿させる。
6.粗生成物を4,500rpmにて5~10分間遠心し、液体をデカントし、明るい茶色のゴム状固体を集める。
7.粗生成物をddH2Oに溶解し、20Lの100mMのNaClに対して透析し、24時間に亘り溶液を1日4回交換し、それに続いて、24時間に亘り4回20Lの蒸留水に対する透析を行う。
8.透析した材料を凍結乾燥する。最終収率:42.0%のメチル化された/硫酸化されたヒアルロナン(GM-1111)
【0068】
メチル化された/硫酸化されたヒアルロナンは、下記の特徴を有した:平均分子量は、3kDa~7kDaである;二糖単位毎の平均メチル基は、0.3~0.3である;3.0~4.0の硫酸化の平均程度;及び平均ピリジン含量は、0.1~4.0重量%である(下記の実験において使用されるピリジン含量は、0.69重量%である)。
【0069】
腫瘍細胞培養及び移植
SCC-25-Luc2細胞(Luc2ルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現しているヒト舌扁平上皮細胞癌)は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)の推奨によって培養密度未満で培養した。1.2g/Lの炭酸水素ナトリウム、2.5mMのL-グルタミン、15mMのHEPES及び0.5mMのピルビン酸ナトリウムを含有し、且つ400ng/mLのヒドロコルチゾン及び10%ウシ胎仔血清(DMEM:F12+10%FBS)及び標準的な1×ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した、DMEM及びハムF12培地の1:1混合物。継代及び移植のために、細胞をトリプシン処理した。腫瘍細胞を動物に移植するために、SCC-25-Luc2細胞をトリプシンで剥がし、107個の細胞/mL(無血清DMEM:F12培地)で単細胞懸濁液を調製した。次いで、0.1mLの腫瘍細胞(106個の細胞)を、イソフルラン麻酔下で舌の前先端へと接種した。
【0070】
FaDu細胞(ヒト咽頭扁平上皮細胞癌)を、10%FBS、L-グルタミン(2mM)、ペニシリン(100U/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)を補充したDMEM中で解凍し、培養した。-7日目に、5×106個のFaDu細胞を、マウス毎に100μlの注入量で25Gニードルを使用して60匹のマウスの左側腹部中に皮下(s.c.)注入した。s.c.移植及びそれに続く腫瘍体積測定、薬物処置及び麻酔剤の注入を、クラスIIキャビネットにおいて行った。
【0071】
実験群及び薬物投与
SCC-25-Luc2細胞腫瘍:事前無作為化日0に、動物に腫瘍細胞を接種した(PR0日目;推定日(-20))。腫瘍の平均全放射フラックス(TRF)が約8×107ph/sで測定されたとき、群1~4における動物を、それぞれ最小で10匹の動物からなる4つの処置群にランダムに分配し、各群における動物は、同様の平均TRF及び範囲の腫瘍を担持した。無作為化日は、研究の0日目と考えた。2つの別々の群(5及び6)の動物を、腫瘍細胞移植の日から実験の前の日までビヒクル(群5)又はGM-1111(群6)で処置した。群5~6における動物は無作為化せず、群毎に8匹の動物からなった。
【0072】
GM-1111は、6mg/mLの濃度でGM-1111の乾燥粉末形態をリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解することによって投薬のために調製した。群5における動物にビヒクル(PBS、5mL/kg)を投与し、群6における動物にGM-1111(30mg/kg)を投与した。群5及び6の両方は、PR0日目(-17日目)から-1日目まで毎日1回処置した。1~20日目に毎日1回、群1及び3にビヒクルを投与し、群2及び4にGM-1111を投与した。ビヒクル及びGM-1111の両方を、動物の背中において皮下(s.c.)に投与した。
【0073】
FaDu細胞腫瘍:腫瘍細胞移植の後-7日目に、20匹のマウスを、5ml/kgの用量を使用して皮下注射によってPBS(群1)又は30mg/kgでのGM-1111(群2)を毎日受ける、10匹の2群に無作為化した。0日目に(腫瘍細胞移植の7日後)、群毎の平均腫瘍体積が115~124mm3であるように、残りの40匹のマウスを腫瘍体積に基づいて10匹の動物の4群に無作為化した。群3及び5におけるマウスは対照ビヒクルとしてPBSの毎日の注入を受け、群4及び6におけるマウスは、GM-1111を30mg/kgで毎日投与された。PBS及びGM-1111を、5ml/kgの用量を使用して腹部の皮下に投与した。
【0074】
群5及び6における腫瘍に、連続5日(月曜日~金曜日)で2Gyを照射し、一方、群3及び4はシャム照射した(すなわち、麻酔し、拘束するが、照射しない)。
【0075】
腫瘍体積測定のためのIVISイメージング
SCC-25-Luc2細胞腫瘍:腫瘍細胞接種に続いて、Lumina Series III In-Vivo Imaging System(IVIS;PerkinElmer)でイメージングすることによって、それぞれの動物において腫瘍成長を毎週2回モニターした。腫瘍体積は、全放射フラックス(TRF;光子/秒(ph/s))を測定することによって決定した。イメージングの日に、動物に腹腔内(i.p.)注入によって150mg/kg(体重)のD-ルシフェリン基質を投与した。全身イメージングをルシフェリン注入の約15~20分後に行った。
【0076】
FaDu細胞腫瘍:処置が開始すると、マウスを毎日秤量し、腫瘍をカリパスで0日目から週3回測定した。
【0077】
放射線療法
SCC-25-Luc2細胞腫瘍:0日目に、群3~4における動物を、腹腔内(i.p.)注入によるキシラジン(5mg/kg)/ケタミン(100mg/kg)で麻酔した。照射の前に、マウスを4mmのポリメチルメタクリレートプレート上に置いた。上部の小さな窓のカットアウトを有する鉛のシールドを動物の上に置き、舌における腫瘍の領域を曝露させながら動物の体の残りの部分をシールドした。腫瘍を標的とする電離放射線を、30cmの焦点距離で160kVp(15-ma)X線源によって生じさせ、3.2Gy/分(30Gy)の割合での0.35mm Cu濾過系で硬化させた。加熱パッド上で麻酔から回復しているときに動物をモニターし、ホームケージに戻した。
【0078】
FaDu細胞腫瘍:300kV、10mAで動作するXStrahl RS320X線セットを使用して、動物に5日間毎日2Gyを照射した。X線チューブはさらなる濾過を有し、2.3mm Cu半価層(HVL)の放射線の性質を与えた。腹腔内(i.p.)注入ケタミン(Vetquinol、France)及びRompun/キシラジン(Bayer、UK)によってマウスを麻酔し、X線チューブの焦点から700mmの距離に位置するプレキシガラスジグ中に置いた。放射線の単回均一線量を使用して、放射線を0.696Gy/分の線量率で送達し、体を腫瘍部位の上の鉛における1cmの穴を除いて鉛でシールドした。線量測定装置(イオンチャンバー)を照射チャンバー中に置き、受けた線量を確認した。予想される線量からの平均分散は、3.6%であった。照射の後、アチパメゾールをs.c.(首の皮膚の下)に注射することによって麻酔を逆転させ、マウスをIVCに戻した。
【0079】
動物福祉の許容限界及び支持的ケア
動物の体重変化及び身体全体の健康を毎日モニターした。食物摂取を助けるために、動物に非常に美味の柔らかい食物を提供した。無菌の食塩水の形態の支持的ケアを、動物がそれらの最初の体重の15%超を失った場合、毎日1回、又は体重減少が20%超であった場合、毎日2回、s.c.によって投与した。体重減少が30%超であった場合、腫瘍が1000mm3に達する場合(FaDu細胞腫瘍)、動物が食するか若しくは水を飲むことができなかった場合、又は動物が痛がっているか、苦しんでいることが観察されるか、若しくは瀕死の状態であった場合、動物福祉の許容限界を、安楽死及びエンドポイント収集を始動させるように設定した。全ての手順は、BiomodelsのIACUCによって承認された(18-0619-1)手順(SCC-25-Luc2腫瘍研究)に従い、UK Animal (Scientific Procedures) Act 1986(FaDu腫瘍研究)によって保証された。BiomodelsのOffice of Laboratory Animal Welfare (OLAW)保証番号は、A4591-01である。
【0080】
組織学的検査
実験の終わりに(21日目)、舌組織の前半分を長手方向に切開し、4%ホルマリン中で固定した。切除したFaDu細胞腫瘍を、Carnoy固定剤で固定した。次いで、固定した組織をパラフィン包埋のために加工し、3~4μm厚さで切開した。パラフィン切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。調製したスライドを、顕微鏡下で検査した。
【0081】
データ分析
全ての測定した腫瘍体積(全放射フラックス、TRF)データを、平均及び平均の標準誤差として表現した。群の間及び群内の平均差は、スチューデントt検定(群5及び6)並びに一元配置分散分析(ANOVA)検定、それに続く事後多重比較検定としてダネットT検定(SCC-25-Luc2細胞腫瘍研究における群1~4)又はチューキー多重比較検定(FaDu細胞腫瘍研究)によって決定した。
【0082】
結果及び考察
GM-1111は照射によって誘発される腫瘍退縮を増進する
GM-1111ががん療法に悪影響を与えたかを調査するために、免疫力が低下したNCr-ヌード(NCr-Foxn1nu/nu)マウスに、luc2ルシフェラーゼレポーター遺伝子(SCC-25-Luc2)を発現しているヒト扁平上皮細胞癌細胞を同所的に移植した。腫瘍がその標的平均サイズ(TRF、概ね8×107ph/s)に達すると、2群の動物をX線(30Gy)で1回照射し、腫瘍退縮を誘発し、一方で、GM-1111(30mg/kg、s.c.、毎日1回)又はそのビヒクルを照射の24時間後から実験の終わりの前日まで受けた。2つのさらなる群の動物をまた、対照として照射を伴わずにGM-1111又はビヒクルで処置した。次の3週間の間、体内のTRFを測定することによって腫瘍のサイズを週2回モニターした。
【0083】
照射の1週間後、X線/GM-1111処置群における腫瘍は、非X線/ビヒクル処置群より顕著により小さかった(
図1)。X線/GM-1111群における腫瘍退縮は、実験の残りの時間の間続き、減少は、10日目から実験の終わりまで統計的に有意であった。X線/GM-1111における腫瘍退縮は顕著である。これは、X線/ビヒクル処置群における腫瘍が、非X線/ビヒクル処置群より僅かにより小さく、17日目にのみ有意な変化が留意されたからである。さらに、ビヒクル処置群とは異なり、X線照射及びGM-1111処置群は、完全な腫瘍退縮をもたらした。腫瘍に対するX線照射とのGM-1111の相乗効果は、予想外及び顕著であった。これは、X線照射を伴わないGM-1111による処置が、動物における腫瘍のサイズの有意な減少をもたらさなかったからである。
【0084】
研究の終わりにおいて収集した舌組織の組織学的検査は、照射によって誘発される腫瘍退縮(
図2)及び照射によって誘発される腫瘍退縮の増進におけるGM-1111の有意な効果を確実にした。照射していないビヒクル処置対照群と比較して、腫瘍組織によって占められた領域は、X線照射群において著しく低減し(
図2において点で描いた領域)、30Gy/GM-1111処置群におけるこれらの腫瘍は、30Gy/ビヒクル処置群より非常に小さいように思われた。
【0085】
GM-1111のこれらの抗腫瘍又は放射線増進効果を試験するために、別のヒト腫瘍異種移植モデルを研究した。FaDu細胞は、ヒト咽頭がんに由来した。雄性CD1ヌードマウスに、FaDu細胞を異所的に移植した。これらの動物は、7日以内に概ね115~124mm
3の測定値である腫瘍を発生させた。次いで、これらの動物の半分は、2Gy/日の投与量で0日目から4日目まで連続5日間X線照射を受け、動物の残りの半分はシャム処置された。それぞれの放射線又はシャム照射処置群について、腫瘍担持動物を、GM-1111又はビヒクル(PBS)を受ける2群に分割した。シャム照射しPBS処置した対照腫瘍は、研究が終了したとき、最初の4日に亘りサイズが殆ど2倍となり(×1.8)、14日目までに開始体積の×6.6であった(
図3及び4)。照射を伴わないGM-1111による処置は、10日目(多重比較のためのチューキー検定を伴う混合モデル分析を使用してp=0.0154)から14日目に研究が終了するまで(p≦0.001)、照射されていないPBS処置された対照と比較して腫瘍成長の有意な低減をもたらした。さらに、分割照射は、PBS処置群において腫瘍成長を4日目に開始体積の×1.4及び14日目に×2.2へと低減させた。その結果、試験アイテムGM-1111によって誘発されるさらなる成長阻害の検出は困難であった。しかし、照射されたGM-1111処置群においてより長い潜伏期間(より遅い再成長)であるように思われた。
【0086】
同様の薬物RGTA-OTR4131(ヘパリン模倣ポリマー)の従前の研究は、このような放射線増感効果を示さなかったため、GM-1111の放射線増進効果は予想外である[10]。全体的に、これらのデータは、GM-1111が放射線の効果を増進して、腫瘍退縮を誘発することができることを示唆する。
【0087】
GM-1111は、移植した腫瘍成長に影響を与えない
従前の実験において、GM-1111は、X線照射によって誘発される腫瘍退縮を増進した。GM-1111が、照射を伴わずに腫瘍成長及び確立を阻害することができたるかをさらに試験するために、GM-1111を、舌の前端部におけるSCC-25-Luc-2細胞の移植の1日後から、免疫不全ヌードマウスの群(30mg/kg、s.c.、毎日1回)に投与した。これらの動物における腫瘍成長を、ビヒクル単独を投与された動物における腫瘍成長と比較した。GM-1111処置群において7日目に僅かに腫瘍成長の減少が存在した(p=0.34)一方で、2つの群の間に有意差は観察されなかった(
図5、左)。また、FaDu細胞を移植したヌードマウスを、細胞播種の日からGM-1111(30mg/kg、s.c.、毎日1回)又はビヒクルで処置し、腫瘍成長を観察した。SCC-25-Luc-2細胞腫瘍研究と同様に、FaDu細胞腫瘍成長はGM-1111投与によって妨げられなかった(
図5、右)。
【0088】
これらのデータは、GM-1111が、移植したヒト舌腫瘍細胞の成長を直接的に阻害しないようであることを示唆する。
【0089】
結論
本研究は、GM-1111が、X線照射と共に使用されるとき、腫瘍退縮を増進したことを示す。GM-1111は、照射を伴わずに腫瘍成長に対して殆ど効果を示さなかったため、これらの抗腫瘍効果は、放射線によって誘発される細胞毒性効果と相乗的であるように思われる。これらのデータから、GM-1111は、放射線療法と組み合わせて使用されるとき腫瘍退縮を誘発する、安全及び有効な放射線増感薬物として可能性を有する。
【0090】
様々な改変及び変形を、本明細書に記載されている化合物、組成物及び方法に行うことができる。本明細書に記載されている化合物、組成物及び方法の別の態様は、明細書の考察、並びに本明細書において開示されている化合物、組成物及び方法の実践から明らかである。明細書及び実施例は例示的なものと考えられることを意図する。
【0091】
参考文献
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