(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20241111BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241111BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241111BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2021542823
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031524
(87)【国際公開番号】W WO2021039602
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019156152
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019156160
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】小谷 享平
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 隆文
(72)【発明者】
【氏名】庄田 靖宏
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059826(JP,A)
【文献】特開2016-060789(JP,A)
【文献】特開2021-095661(JP,A)
【文献】特開2015-120804(JP,A)
【文献】特開2014-109019(JP,A)
【文献】特開2014-084410(JP,A)
【文献】特開2013-136745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の路面と接する部材として少なくとも用いられるゴム組成物であって、
天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が
17~40J/gであり、且つ、数平均分子量が
17.9×10
4
以上であり、
前記
シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して15~30質量部であり、
加硫後の、25%伸長時のモジュラス値(M25)、300%伸長時のモジュラス値(M300)及び400%伸長時のモジュラス値(M400)が、以下の関係式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする、ゴム組成物。
M400-M300≦5.80 (1)
M25*M300/(M400-M300)
2>0.39 (2)
【請求項2】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が17~31J/g、数平均分子量が17.9×10
4~34.7×10
4であることを特徴とする、請求項
1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点が、100~180℃であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの1,2-結合含有量が、80質量%以上であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
充填剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記充填剤が、少なくともカーボンブラックを含むことを特徴とする、請求項
6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であることを特徴とする、請求項
7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記加硫後の、M25、M300及びM400が、以下の関係式(3)を満たすことを特徴とする、請求項
1~8のいずれか1項に記載の加硫ゴム組成物。
M25/(M400-M300)
2>0.04 (3)
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤ等のゴム物品の製造に用いられるゴム組成物には、耐カット性等の高い耐久性が求められている。しかしながら、ゴム業界において従来から頻繁に用いられる、ブタジエンゴム(BR)やスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等のジエン系ゴムは、高歪の入力下における破壊特性、特に耐カット性が十分でないという問題があった。このような状況下、様々なゴム成分やゴム組成物が開発されている。
【0003】
ゴム組成物の耐久性向上を目的として、例えば特許文献1に開示されているように、第一のモノマー成分を重合し架橋することにより形成された網目構造中に、第二のモノマー成分を導入し、第二のモノマー成分を重合し場合により架橋することにより得られる、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲルにおいて、第一のモノマー成分の10モル%以上が、電荷を有する不飽和モノマーであり、第二のモノマー成分の60モル%以上が、電気的に中性である不飽和モノマーであり、第一のモノマー成分量:第二のモノマー成分量が、モル比で1:2~1:100であり、且つ、第二のモノマー成分を重合し架橋する場合には、第一のモノマー成分を重合し架橋する場合よりも架橋度を小さく設定する、セミ相互侵入網目構造ハイドロゲル又は相互侵入網目構造ハイドロゲル、即ち、ダブルネットワークゲルにより、高強度のゲルが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、本発明は、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができるゴム組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含むゴム組成物について検討を重ねた結果、ダブルネットワークという概念をゴム組成物に応用することにより、ゴム組成物の耐カット性を大幅に向上させることを着想した。そして、さらに鋭意研究を重ねた結果、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量及び分子量について適正化を図ることによって、低燃費性を良好に保ちつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
さらに、その過程で上述のダブルネットワークを形成しない場合であっても、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを加えることによって、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分の耐カット性を向上させることができることも見出した。
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が7~40 J/gであり、且つ、数平均分子量が6.5×104以上であることを特徴とする。
上記構成を具えることで、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができる。
【0008】
本発明のゴム組成物では、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が15~40J/g、数平均分子量が8.9×104以上であることが好ましく、結晶量が17~40J/g、数平均分子量が17.9×104以上であることがより好ましく、結晶量が17~31J/g、数平均分子量が17.9×104~34.7×104であることが特に好ましい。この場合、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより高いレベルで両立できる。
【0009】
本発明のゴム組成物では、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部であることが好ましい。この場合、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより高いレベルで両立できる。
【0010】
本発明のゴム組成物では、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点が、100~180℃であることが好ましい。この場合、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより高いレベルで両立できる。
【0011】
本発明のゴム組成物では、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの1,2-結合含有量が、80質量%以上であることが好ましい。この場合、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより高いレベルで両立できる。
【0012】
本発明のゴム組成物では、充填剤をさらに含むことが好ましく、該充填剤が、少なくともカーボンブラックを含むことがより好ましく、該カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であることがさらに好ましい。この場合、ゴム組成物の耐摩耗性及び耐カット性をより向上できる。
なお、カーボンブラックを含むがシリカを含まないゴム組成物とすることもできる。
【0013】
本発明のゴム組成物では、加硫後の、25%伸長時のモジュラス値(M25)、300%伸長時のモジュラス値(M300)及び400%伸長時のモジュラス値(M400)が、以下の関係式(1)及び(2)を満たすことが好ましく、関係式(3)を満たすことがより好ましい。
M400-M300≦5.80 (1)
M25*M300/(M400-M300)2>0.39 (2)
M25/(M400-M300)2>0.04 (3)
【0014】
また、本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を用いたことを特徴とする。
上記構成を具えることで、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができる。
【0015】
さらに、本発明のタイヤは、前記ゴム組成物を、トレッド部の路面と接する部材として少なくとも用いることが好ましい。この場合、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができるゴム組成物を提供できる。また、本発明によれば、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性に優れたタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のゴム組成物及びタイヤの一実施形態について、例示説明する。
【0018】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が7~40 J/gであり、且つ、数平均分子量が6.5×104以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のゴム組成物は、好適には、加硫後、天然ゴムや合成イソプレンゴムのゴム成分マトリクス中に、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(以下、「sPB」ということがある。)が網目状の3次元ネットワークを形成した構造、いわゆるダブルネットワーク構造が形成される。前記sPBは、結晶性高分子の一つであり、高歪み下でその結晶が犠牲破壊することで入力エネルギーを散逸効果が得られ、さらに、前記sPBは天然ゴムや合成イソプレンゴムと相溶する特性も有するため、sPBを天然ゴムや合成イソプレンゴムを含むゴム成分中に一部固定化させることが可能となり、加硫ゴム中に、sPBの結晶部分とゴム成分/sPB相溶部分とからなる3次元ネットワーク(ダブルネットワーク)を形成することができる。
そして、このダブルネットワーク構造によって、前記sPBの結晶部分に起因した高いエネルギー散逸効果、及び、ゴム成分/sPB相溶部分に起因した柔軟性が得られるため、本発明のゴム組成物は、優れた耐摩耗性及び耐カット性を実現できる。また、本発明のゴム組成物では、前記sPBとして、高い結晶性を有し、分子量が大きなものを用いているため、転がり抵抗に寄与するような低歪みの入力において結晶崩壊が起こらず、さらに他の汎用性樹脂と比べて分子量が大きく末端鎖の運動も少ないため、低燃費性の悪化も抑えることができる。
【0020】
(ゴム成分)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)からなる。前記ゴム成分が天然ゴム及び合成イソプレンゴムのうちの一種以上から構成されることによって、加硫後のゴム組成物中に上述したsPBによるダブルネットワークが形成されるため、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができる。
天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)は、イソプレンをモノマーとし、cis-1,4-ポリイソプレン構造を主な成分とする。天然ゴムは、ゴムノキ由来のほか他の植物資源由来であってもよい。合成イソプレンゴムを合成するためのイソプレンモノマーは、石油由来のほかバイオマス由来のイソプレンを使用することができる。
【0021】
なお、本発明のゴム組成物では、前記ゴム成分中に占める天然ゴム及び合成イソプレンゴムが基本的に100%であるが、本発明の効果を害しない範囲で、他の種類のゴムを少量含有することもできる。
【0022】
(シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン)
また、本発明のゴム組成物は、結晶量が7~40 J/gであり、且つ、数平均分子量が6.5×104以上であるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(sPB)を含む。このsPBを、前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとともに含むことによって、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークを形成でき、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができる。
【0023】
さらに、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量は、7~40 J/gである。前記sPBの結晶量を7J/g以上とすることで、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上できるためである。同様の観点から、前記sPBの結晶量は、15J/g以上であることが好ましく、17J/g以上であることがより好ましい。一方、sPBの結晶量が大きすぎると、sPBの融点が高くなりすぎてダブルネットワークを形成するための加硫温度とすることが難しくなる場合や、結晶量が大きくなりすぎると結晶が破壊核となることでゴムの破断伸度が低下傾向とる場合があり、この観点から40J/g、好ましくは36J/g以下、より好ましくは31J/g以下とする。
なお、前記sPBの結晶量とは、融解熱量のことであり、sPBがどれくらいの割合で結晶化しているかを示す指標である。示差走査熱量計で測定される融解ピークから導出することができる。
【0024】
また、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの数平均分子量は、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上できる観点から、6.5×104以上であることを要する。
また、同様の観点から、前記sPBの数平均分子量は、8.9×104以上、10.0×104以上、11.0×104以上、12.0×104以上、13.0×104以上、14.0×104以上、15.0×104以上、16.0×104以上、17.0×104以上、17.9×104以上、18.0×104以上、19.0×104以上、20.0×104以上とすることができる。一方、前記sPBの数平均分子量は、耐亀裂成長性や、タイヤへ適用した際の乗り心地性の低下を防ぐ観点から、50.0×104以下とすることが好ましい。同様の観点から、前記sPBの数平均分子量は、40.0×104以下、39.0×104以下、38.0×104以下、37.0×104以下、36.0104以下、35.0×104以下、34.7×104以下、34.0×104以下、33.0×104以下、32.0×104以下、31.0×104以下、30.0×104以下とすることができる。
【0025】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、sPBの1,2-結合の量(sPBのミクロ構造における1,2-結合の量)が、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上できるためである。同様の観点から、sPBの1,2-結合の量は、90質量%以上、91質量%以上、92質量%以上、93質量%以上、94質量%以上又は95質量%以上とすることもできる。
なお、本発明では、sPBの1,2-結合の量を、1H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めることができる。
【0026】
また、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティが、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、タイヤへ適用した際の低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上できるためである。同様の観点から、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティは、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上又は100%とすることができる。
なお、本発明では、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティを、1H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めることができる。
【0027】
なお、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、1,3-ブタジエンの他に、1,3-ペンタジエン、1-ペンチル-1,3-ブタジエンなどの共役ジエンが少量、共重合した共重合体であってもよいし、1,3-ブタジエンの単独重合体であってもよい。
前記sPBが、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン由来の単位を含む場合、一実施形態では、sPBの全繰り返し単位中の1,3-ブタジエン由来の単位の割合は、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上とすることができる。
【0028】
さらに、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点については、特に限定はされないが、ゴム組成物の耐摩耗性や耐カット性をより向上させる観点から、100~180℃であることが好ましい。前記sPBの融点を180℃以下とすることで、ゴム組成物の加硫時に前記sPBの結晶化が進みやすくなり、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成できる。同様の観点から、前記sPBの融点を、170℃以下、160℃以下とすることができる。一方、前記sPBの融点を100℃以上とすることで、加硫ゴムの耐熱性や強度が低下するのを抑えることができる。同様の観点から、前記sPBの融点を、110℃以上、120℃以上とすることができる。
【0029】
本発明のゴム組成物における前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量については、特に限定はされず、要求される耐カット性やその他の性能に応じて適宜変更することができる。例えば、ゴム組成物をタイヤへ適用した際の、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性をより向上させる観点からは、前記sPBの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部であることが好ましい。前記sPBの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上あることで、エネルギー散逸効果が高まり、より優れた耐摩耗性及び耐カット性が得られる。同様の観点から、前記sPBの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して15質量部以上、20質量部以上とすることができる。一方、前記sPBの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以下であることで、低燃費性の悪化を抑えることができる。
【0030】
なお、前記sPBを得る方法としては、特に限定はされず、自ら製造することもできるし、市販のものを用いることも可能である。
例えば、1,3-ブタジエンモノマーを、脂肪族系溶媒を含む有機溶媒中で、鉄系触媒組成物、クロム系触媒組成物、コバルト系触媒組成物等を用いて重合して得ることができる。具体的には、特開2006-063183号公報、特開2000-119324号公報、特表2004-528410号公報、特表2005-518467号公報、特表2005-527641号公報、特開2009-108330号公報、特開平7-25212号公報、特開平6-306207号公報、特開平6-199103号公報、特開平6-92108号公報、特開平6-87975号公報等に記載された重合方法により調製することができる。
これらの触媒組成物の中でも、前記sPBの結晶量を7~40 J/g、数平均分子量を6.5×104以上の範囲に、より確実に制御できる点からは、前記鉄系触媒組成物を用いることが好ましい。
【0031】
前記鉄系触媒組成物としては、例えば、(a)鉄含有化合物、(b)α-アシルホスホン酸ジエステル及び(c)有機アルミニウム化合物を混合してなる触媒組成物、(a)鉄含有化合物、(b)α-アシルホスホン酸ジエステル、(c)有機アルミニウム化合物及び他の有機金属化合物又はルイス塩基を混合してなる触媒組成物、又は(a)鉄含有化合物と(b)ジヒドロカルビル水素ホスファイトと(c)有機アルミニウム化合物を含んで成る触媒組成物等が挙げられる。
なお、前記(a)鉄含有化合物としては、特に限定されるものではないが、好適な例としては、カルボン酸鉄、有機リン酸鉄、有機ホスホン酸鉄、有機ホスフィン酸鉄、カルバミン酸鉄、ジチオカルバミン酸鉄、キサントゲン酸鉄、鉄α-ジケトネート、鉄アルコキシド又はアリールオキシド、及び有機鉄化合物等が挙げられる。
また、これらの化合物の中でも、sPBの結晶量を7~40 J/g、数平均分子量を6.5×104以上の範囲に、より確実に制御できる点からは、前記鉄系触媒組成物が、トリス(2-エチルヘキサン酸)鉄(III)、亜りん酸ビス(2-エチルヘキシル)、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム及びトリ-n-オクチルアルミニウムを含むことがより好ましい。
【0032】
前記クロム系触媒組成物としては、(a)クロム含有化合物、(b)水素化アルキルアルミニウム化合物及び(c)亜リン酸水素エステルを含んで成る3成分触媒系が例示される。本発明に係るクロム系触媒組成物の成分(a)としては、種々のクロム含有化合物を用いることができる。一般的には、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素又は脂環族炭化水素のような炭化水素溶媒に可溶なクロム含有化合物を用いるのが有利であるけれども、重合媒体中に単に分散した不溶性のクロム含有化合物が触媒活性種を生成することも可能である。従って、溶解性を確保するために、クロム含有化合物に何らかの限定を設けるべきではない。
また、(a)クロム含有化合物中のクロムの例として、これには限定されないが、カルボン酸クロム、クロムβ-ジケトナート、クロムアルコキシド又はアリーロキシド、ハロゲン化クロム、疑似ハロゲン化クロム、及び有機クロム化合物が挙げられる。
【0033】
前記コバルト系触媒組成物としては、可溶性コバルト、例えばコバルトオクトエート、コバルト1-ナフテート、コバルトベンゾエート等と、有機アルミニウム化合物、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム等と、二硫化炭素とからなる触媒系等が挙げられる。
【0034】
また、sPBの市販品としては、例えば、JSR社のJSR RB(登録商標)810、820、830、840等のJSR RB(登録商標)シリーズ等を、用いることも可能である。
【0035】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分及びシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンに加えて、充填剤をさらに含むことが好ましい。
前記充填剤を含むことによって、ゴム組成物の耐摩耗性及び耐カット性をより高いレベルで両立できる。
【0036】
前記充填剤については、特に制限はなく、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの中でも、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの充填剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、これらの充填剤としてカーボンブラックのみを有していてもよい。
また、前記充填剤の含有量については、例えば、ゴム成分100質量部に対して10~160質量部であることが好ましく、15~140質量部であることがより好ましく、15~120質量部であることがさらに好ましく、20~120質量部であることが特に好ましい。また、充填剤の含有量を45部以上55部以下とすることもできる。
【0037】
前記カーボンブラックとしては、特に制限はなく、例えば、SAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEF、GPFグレードのカーボンブラックなどが用いることができる。また、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)は、20~160m2/gであることが好ましく、より好ましくは25~160m2/g、さらに好ましくは25~150m2/g、特に好ましくは30~150m2/gである。また、前記カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP、JIS K 6217-4:2008に準拠して測定する)は、40~160ml/100gであることが好ましく、40~150ml/100gであることがより好ましく、50~150ml/100gであることがさらに好ましく、60~150ml/100gがよりさらに好ましく、60~140ml/100gが特に好ましい。なお、カーボンブラックは、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
さらに、前記カーボンブラックの含有量は、ゴム組成物の補強性を高める観点から、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。一方、前記カーボンブラックの含有量は、低ロス性の悪化、ひいては低燃費性の悪化を抑える観点から、前記ゴム成分100質量部に対して70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
また、前記シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられるが、中でも湿式シリカを用いることが好ましい。
また、前記湿式シリカのBET比表面積(ISO 5794/1に基づき測定する)は40~350m2/gであるのが好ましい。BET比表面積がこの範囲であるシリカは、ゴム補強性とゴム成分中への分散性とを両立できるという利点がある。この観点から、BET比表面積が80~300m2/gの範囲にあるシリカが更に好ましい。このようなシリカとしては東ソー・シリカ(株)社製「ニプシルAQ」、「ニプシルKQ」、エボニック社製「Ultrasil VN3」等の市販品を用いることができる。なお、前記シリカは1種類を用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、前記充填剤としてカーボンブラックを含むものの、シリカを含まない配合とすることもできる。この場合、転がり抵抗の低減効果をより向上できる点で好ましい。
【0040】
さらに、前記充填剤としてシリカを用いる場合には、加硫前のゴム組成物中に、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及び3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィド等のシランカップリング剤をさらに含むことが好ましい。加硫前のゴム組成物における前記シランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤の種類などにより異なるが、前記シリカ100質量部に対して、好ましくは2~20質量部の範囲で選定される。
【0041】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン及び充填剤以外にも、要求される性能に応じて、通常ゴム工業界で用いられるその他の成分を適宜含むことができる。
前記その他の成分としては、加硫前のゴム組成物中に、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、オイル等を含むことができる。これらは、それぞれ、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
前記加硫剤としては、硫黄架橋の場合は、硫黄(粉末硫黄等)、モルホリン・ジスルフィド、高分子多硫化物等の含硫黄架橋剤等が挙げられる。非硫黄架橋の場合は、tert-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、di-tert-ブチルペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド等のパーオキサイド架橋が挙げられる。
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン系加硫促進剤、キサントゲン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。
また、前記パーオキサイド架橋における共架橋剤としては、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム等が挙げられる。
【0043】
なお、加硫前のゴム組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、各配合成分を、同時又は任意の順序で添加して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって得られる。
【0044】
<加硫ゴム組成物の製造方法>
本発明の加硫ゴム組成物を製造する方法については、特に限定はされない。
例えば、加硫ゴム組成物中に上述したダブルネットワークを確実に形成できる観点からは、未加硫ゴム組成物の調製において、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとを混練する際(マスターバッチ練り段階の混練時)の温度を、前記sPBの融点より10~100℃高い温度に設定し、各成分を混練する工程と、得られた未加硫ゴム組成物を、前記sPBの融点以上の温度で加硫する工程と、を具える製造方法を用いることができる。
【0045】
前記製造方法において、前記sPBと天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時の温度を限定する理由としては、前記混錬時の温度を、前記sPBの融点より10~100℃高い温度、好ましくは10~50℃高い温度、より好ましくは12~50℃高い温度で混練することによって、前記sPBをゴム成分に相溶させることができるためである。
【0046】
さらに、その後、前記製造方法において、ダブルネットワークを形成するためには、前記sPBの融点以上の温度で加硫することが重要と考えられる。得られた未加硫ゴム組成物を、前記sPBの融点以上の温度で加硫することによって、前記sPBが前記ゴム成分に半相溶状態となり、ゴム成分中のネットワークとして固定化される結果、加硫ゴム組成物中に上述したダブルネットワークを形成できる、と考えられるためである。ただし、このことは、前記sPBの融点未満の温度で加硫した場合には、全くダブルネットワークを形成しないという意味ではない。sPBの融点未満の温度で加硫した場合であっても、sPBの一部が溶解しダブルネットワークを少なくとも部分的には形成しうるためであり、例えば、融点より-15℃の温度以上かつ融点未満であっても、少なくとも部分的にはダブルネットワークを形成しうると考えられる。
その結果、得られた加硫ゴム組成物は、低発熱性を悪化させることなく、耐カット性に優れたものとなる。
【0047】
なお、上述したダブルネットワークが加硫ゴム組成物中に形成されていることを確認する方法については、特に限定はされない。例えば、原子間力顕微鏡(AFM)の位相像から、マトリックスポリマーである天然ゴム及び/又はイソプレンゴム中で、前記sPBがネットワーク共連続構造を形成していることを確認することによって、ダブルネットワークの形成を確認することができる。
【0048】
前記製造方法における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時(マスターバッチ練り段階の混練時)において、混練時の温度が前記sPBの融点より10℃高い温度に達することで、前記sPBを前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムに相溶させることがより確実にできる。
一方、前記製造方法における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時(マスターバッチ練り段階の混練時)において、混練時の温度が前記sPBの融点より100℃高い温度以下、好ましくは50℃高い温度以下であれば、前記ゴム成分及び前記sPBが熱劣化することを好適に防止することができる結果、得られた加硫ゴム組成物の耐カット性の向上に寄与できる。
なお、前記製造方法における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練は、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機等を用いることができる。
【0049】
なお、前記製造方法における混練時の温度とは、未加硫ゴム組成物のマスターバッチが混練装置から排出される時点でのマスターバッチの温度をいい、具体的には、マスターバッチ練りにおいて、混練装置から排出された直後のマスターバッチの内部温度を温度センサー等で測定した温度である。但し、混練装置内に未加硫ゴム組成物の温度測定手段がある場合は、排出される時点のマスターバッチの温度を測定してもよい。
ここで、マスターバッチとは、架橋剤及び加硫促進剤を配合しない混練段階で、前記ゴム成分と、前記sPBとを混練する段階で得られるゴム組成物のことである。
【0050】
前記製造方法における加硫温度は、前記sPBの融点以上の温度であることが好ましい。前記加硫温度が、前記sPBの融点以上であれば、熱力学的に前記ゴム成分中の前記sPBが結晶状態となったドメイン構造を取り難くなり、上述したダブルネットワークをより確実に形成できるためである。
【0051】
なお、前記製造方法における加硫時の温度とは、加硫開始から加硫が進行し、到達した最高温度(通常は、加硫装置の設定温度である。)のことである。
また、前記製造方法における加硫は、公知の加硫系を用いることができ、硫黄加硫系でもよいし、非硫黄加硫系でもよい。
【0052】
また、前記加硫後のゴム組成物は、上述したダブルネットワークが形成され、耐久性が改善されるが、好ましくは、25%伸長時のモジュラス値(M25)、300%伸長時のモジュラス値(M300)及び400%伸長時のモジュラス値(M400)が、以下の関係式(1)及び(2)を満たすことが好ましい。
M400-M300≦5.80 ・・・(1)
M25*M300/(M400-M300)2>0.39 ・・・(2)
【0053】
上述したダブルネットワーク構造が形成されているか否かについては、加硫ゴム組成物の組成や、組織の単純な観察だけでは判別するのが難しいという問題もあるため、加硫ゴム組成物が、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとsPBとを含み、且つ、関係式(1)及び(2)を満たすことによって、ダブルネットワーク構造が形成されていることを把握することを可能にしている。
これは、sPBのような結晶性の材料が組織中に含有されると、M25(MPa)が大きくなる傾向があり、さらに、sPBの一部がゴム成分と相溶するとゴム成分の伸長結晶性を阻害するため、高歪み領域(300%以上)での応力の立ち上がりが緩慢になることから、M400(MPa)-M300(MPa)の値は小さくなる。その結果、加硫ゴム組成物中にダブルネットワーク構造が形成されている場合には、M25*M300/(M400-M300)2が大きくなるためである。
その結果、前記加硫ゴム組成物は、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるゴム成分と、sPBとを含み、且つ、関係式(1)及び(2)を満たすことによって、低発熱性の悪化を招くことなく、耐カット性等の耐久性を向上できる。
また、同様の観点から、加硫後のゴム組成物は、以下の関係式(3)を満たすことが好ましい。
M25/(M400-M300)2>0.04 ・・・(3)
【0054】
<タイヤ>
本発明に係るタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を用いたタイヤである。
これにより、本発明のタイヤは、優れた低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性を有することができる。
【0055】
なお、本発明の加硫ゴム組成物を用いるタイヤの部位については、特に限定されない。例えば、前記加硫ゴム組成物を、トレッド及びサイドウォールなど高い耐久性(特に、耐摩耗性や耐カット性)が求められる部位に好適に用いることができる。
タイヤトレッドに使用する場合は、トレッドゴム全体を本発明の加硫ゴム組成物とすることができる。また、トレッド部のうち、路面と接する部材を少なくとも本発明の加硫ゴム組成物とすることもできる。
特に本開示のゴム組成物の適用が期待できるタイヤとしては、トラックバス用タイヤ、鉱山用の大型タイヤなどがあげられる。特に耐久性が期待できることから、悪路での使用を想定したタイヤに使用が期待できる。このような典型的な使用例としては、加硫ゴム組成物は発泡ゴムではない。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
実施例1に用いるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン-1(以下、「SPB-1」と略称することがある。)~シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン-8(以下、「SPB-8」と略称することがある。)は、以下のものを用いた。
【0058】
(sPB-1、sPB-2)
sPB-1については、JSR社製の「JSR RB(登録商標)840」を用いた。なお、sPB-1の、1,2-結合量は84質量%、融点は122℃、数平均分子量は6.6×104、結晶量は21J/gであった。
sPB-2については、JSR社製の「JSR RB(登録商標)820」を用いた。なお、sPB-2の、1,2-結合量は86質量%、融点は95℃、数平均分子量は8.9×104、結晶量は15J/gであった。
【0059】
(sPB-3~sPB-7の製造)
オーブンで乾燥した1L(1000CC)のガラスボトルに、密閉用ゴムライナー及び孔の開いた金属キャップで栓をした。ボトルを乾燥窒素ガス流で完全にパージした後、該ボトルにヘキサン類 94gと、1,3-ブタジエンを21.8質量%含む1,3-ブタジエン/ヘキサン類混合物206gとを加えた。
次に、該ボトルに表1に示した条件で触媒成分を加えた。
該ボトルを、表1に示す反応温度となるように保持した水浴中で4時間撹拌した。生成した重合反応混合物は、流動性のある若干濁った溶液であった。室温に冷却するとすぐに、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの析出に伴い、溶液の流動性はなくなった。重合反応混合物を、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを酸化防止剤として含有するイソプロパノール3リットルで凝集させた。生成した固形分を濾過で単離し、60℃で減圧乾燥して一定重量にし、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを得た。
【0060】
(sPB-8の製造)
乾燥窒素ガス流で完全にパージした76L(760000CC)ステンレス製のリアクターに、ヘキサン類 9764gと、1,3-ブタジエンを20.6質量%含む1,3-ブタジエン/ヘキサン類混合物26423gとを加え、リアクター内温度を52℃に設定した。
次に、該リアクターに表1に示した条件で触媒成分を加えた。
該リアクターを、表1に示す反応温度に設定し、1時間撹拌した。生成した重合反応混合物は、流動性のある若干濁った溶液であった。室温に冷却するとすぐに、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの析出に伴い、溶液の流動性はなくなった。重合反応混合物を、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを酸化防止剤として含有するイソプロパノール9.5リットルで凝集させた。生成した固形分を濾過で単離し、60℃で減圧乾燥して一定重量にし、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを得た。
【0061】
なお、前記sPB-1~sPB-8の融点、数平均分子量(Mn)及び結晶量については、以下の方法によって測定し、測定結果を表1に示す。
(シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点)
示差走査熱量測定(DSC)装置内にシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンのサンプルを入れ、10℃/分の昇温速度で昇温した時のDSC曲線の融解ピーク温度を融点とする方法で測定した。
(数平均分子量(Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製、HLC-8220/HT]により検出器として示差屈折計を用いて測定し、単分散ポリスチレンを標準としたポリスチレン換算で示した。なお、カラムはGMHHR-H(S)HT[東ソー製]で、溶離液はトリクロロベンゼン、測定温度は140℃である。
(結晶量)
示差走査熱量測定(TAインスツルメント製)を用い、融点測定時に得られる、-100℃~200℃までに観測された融解ピークの面積を算出することで、結晶量(J/g)を得た。
【0062】
【0063】
<サンプル1~8、10~12>
表2に示す配合で、非生産混練工程を行った。その混練時の最高温度は150℃であった。次いで、非生産混練工程から得られたマスターバッチに表2に示す成分を加えて、生産加硫工程を行い、加硫ゴム組成物を得た。加硫時の温度は160℃であった。
<サンプル9>
表2に示す配合で、非生産混練工程を行った。その混練時の最高温度は177℃であった。次いで、非生産混練工程から得られたマスターバッチに表2に示す成分を加えて、生産加硫工程を行い、加硫ゴム組成物を得た。加硫時の温度は160℃であった。
【0064】
得られた加硫ゴム組成物の各サンプルに対して、下記の方法で、低燃費性に対する、耐摩耗性及び耐カット性のバランスについて、評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
(1)低燃費性と耐摩耗性とのバランス
まず、加硫ゴム組成物の各サンプルについて、粘弾性測定装置(上島製作所製)を使用して、周波数15Hz、引張歪み2%、温度50℃の条件で、正接損失tanδを測定し、このtanδを、引張試験(JIS 7試験片)から得られた、室温、50%歪における応力(M50)を0.4乗したもので割る(tanδ/M500.4)ことによって、低燃費性の評価値を算出した。なお、低燃費性の評価については、算出値の逆数をとり、サンプル1の評価値の逆数を100としたときの指数値として表示し、数値が大きい程良好であることを示す。
また、耐摩耗性については、加硫ゴム組成物の各サンプルから、円板状(直径16.2mm×厚さ6mm)に切り抜いた試験片を用い、JIS-K6264-2:2005に準じて、ランボーン摩耗試験を行い、40℃、スリップ率25%での摩耗量(mm3)を測定した。なお、耐摩耗性の評価については、測定値の逆数をとり、サンプル1の摩耗量の逆数を100としたときの指数値として表示し、数値が大きい程良好であることを示す。
そして、低燃費性と耐摩耗性とのバランスについては、低燃費性の評価値を横軸、耐摩耗性の摩耗量を縦軸に取り、サンプル1及び2の結果をプロットした点を結ぶ直線上の値を100とした。そして、各サンプルの結果をプロットし、上記直線からの向上した幅又は低下した幅を指数にして示した。指数値が大きいほど、低燃費性に対する耐摩耗性が優れることを意味する。
【0066】
(2)低燃費性と耐カット性とのバランス
まず、加硫ゴム組成物の各サンプルについて、粘弾性測定装置(上島製作所製)を使用して、周波数15Hz、引張歪み2%、温度50℃の条件で、正接損失tanδを測定し、このtanδを、引張試験(JIS 7試験片)から得られた、室温、50%歪における応力(M50)を0.4乗したもので割る(tanδ/M500.4)ことによって、低燃費性の評価値を算出した。なお、低燃費性の評価については、算出値の逆数をとり、サンプル1の評価値の逆数を100としたときの指数値として表示し、数値が大きい程良好であることを示す。
また、耐カット性については、引張試験装置(株式会社島津製作所)を使用し、pure shear型の試験片を引張した状態で切り込みを入れてき裂が進展する様子を観察する試験を行い、エネルギー解放率の常用対数を取った値が4.8のときの亀裂進展速度を測定した。なお、耐カット性の評価については、サンプル1におけるき裂進展速度を100としたときの指数値として表示し、指数値が大きいほど、耐カット性に優れることを示す。
そして、低燃費性と耐摩耗性とのバランスについては、低燃費性の評価値を横軸、耐カット性の移転エネルギーを縦軸に取り、サンプル1及び2の結果をプロットした点を結ぶ直線上の値を100とした。そして、各サンプルの結果をプロットし、上記直線からの向上した幅又は低下した幅を指数にして示した。指数値が大きいほど、低燃費性に対する耐カット性が優れることを意味する。
【0067】
【0068】
*1 カーボンブラック: ISAF級カーボンブラック、旭カーボン社製「旭#80」
*2 ワックス: マイクロクリスタリンワックス、精工化学社製
*3 老化防止剤6C: N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製「ノクラック(登録商標)6C」
*4 老化防止剤TMQ: 2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、大内新興化学工業社製「ノクラック(登録商標)224」
*5 加硫促進剤:1,3-ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業社製「ノクセラー(登録商標)D」
【0069】
[実施例2]
実施例2に用いるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン-9(以下、「SPB-9」と略称することがある。)及びシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン-10(以下、「SPB-10」と略称することがある。)は、以下のものを用いた。
【0070】
(sPB-9)
sPB-9として、JSR社製の「JSR RB(登録商標)840」を用いた。なお、sPB-1の、1,2-結合量は84質量%、融点は122℃、数平均分子量は66,000、結晶量は21J/gであった。
【0071】
(sPB-10の製造)
オーブンで乾燥した1L(1000CC)のガラスボトルに、密閉用ゴムライナー及び孔の開いた金属キャップで栓をした。ボトルを乾燥窒素ガス流で完全にパージした後、該ボトルにヘキサン類94gと、1,3-ブタジエンを21.8質量%含む1,3-ブタジエン/ヘキサン類混合物206gとを加えた。次に、該ボトルに次の順番で以下の触媒成分(i)~(iii)を加えた。
(i)2-エチルヘキサン酸鉄(III) 0.045ミリモル
(ii)2-オキソ-(2H)-5-ブチル-5-エチル-1,3,2-ジオキサホスホリナン0.18ミリモル
(iii)トリイソブチルアルミニウム0.59ミリモル
該ボトルを80℃に保持した水浴中で3時間撹拌した。生成した重合反応混合物は、流動
性のある若干濁った溶液であった。室温に冷却するとすぐに、シンジオタクチック1,2
-ポリブタジエンの析出に伴い、溶液の流動性はなくなった。重合反応混合物を、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを酸化防止剤として含有するイソプロパノール3リットルで凝集させた。生成した固形分を濾過で単離し、60℃で減圧乾燥して一定重量にした。
なお、得られたsPB-2の収量は41.1g(収率91%)であり、融点(示差走査熱量測
定にて実測した融解ピーク温度)は136℃であった。また、このsPB-2を1H及び1
3C核磁気共鳴(NMR)で分析した結果、1,2-結合含有量は82%、1,2-結合中のシンジオタクチシティは78%であった。さらに、sPB-2の重量平均分子量は40万、結晶化度は33%、結晶量は19J/gであった。
【0072】
なお、前記sPB-9及びsPB-10の融点及び結晶量については、実施例1と同様の方法によって測定した。
また、前記sPB-9及びsPB-10の重量平均分子量(Mw)、1,2-結合含有量、1,2-結合中のシンジオタクチシティ及び結晶化度については、以下の方法によって測定した。
(重量平均分子量(Mw))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製、HLC-8220/HT]により検出器として示差屈折計を用いて測定し、単分散ポリスチレンを標準としたポリスチレン換算で示した。なお、カラムはGMHHR-H(S)HT[東ソー製]で、溶離液はトリクロロベンゼン、測定温度は140℃である。
(ブタジエンの1,2-結合含有量、1,2-結合中のシンジオタクチシティ)
シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの1H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めた。
(結晶化度)
結晶化度0%の1,2-ポリブタジエンの密度を0.889g/cm3、結晶化度100%の1,2-ポリブタジエンの密度を0.963g/cm3として、水中置換法により測定した密度から換算して算出した。
【0073】
<サンプル2-1~2-9>
表1に示す配合で、非生産混練工程を行った。その混練時温度は160℃であった。次いで、非生産混練工程から得られたマスターバッチに表1に示す成分を加えて、生産加硫工程を行い、加硫ゴム組成物を得た。加硫時の温度は表1に示す。
【0074】
得られた加硫ゴム組成物の各サンプルに対して、下記の方法で、低発熱性及び耐カット性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(1)低発熱性
加硫ゴム組成物の各サンプルについて、粘弾性測定装置(上島製作所製)を使用して、周波数15Hz、引張歪み2%、温度24℃の条件で、正接損失tanδを測定した。
評価については、tanδの測定値の逆数をとり、サンプル2-1の逆数値を100としたときの、指数として表示した。指数値が大きいほど、tanδが小さく、低発熱性に優れることを示す。
【0076】
(2)耐カット性
引張試験装置(株式会社島津製作所)を使用し、pure shear型の試験片を引張した状態で切り込みを入れてき裂が進展する様子を観察する試験を行い、き裂進展速度が不連続に増大するエネルギー解放率(転移エネルギー)を測定した。評価については、サンプル2-1のサンプルにおける転移エネルギーを100としたときの指数値として表示し、指数値が大きいほど、耐カット性に優れることを示す。
【0077】
【0078】
*11 カーボンブラック: ISAF級カーボンブラック、旭カーボン社製「旭#80」
*12 ワックス: マイクロクリスタリンワックス、精工化学社製
*13 老化防止剤6C: N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製「ノクラック(登録商標)6C」
*14 老化防止剤TMQ: 2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、大内新興化学工業社製「ノクラック(登録商標)224」
*15 加硫促進剤:N-(シクロヘキシル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、大内新興化学工業社製「ノクセラー(登録商標)CZ」
【0079】
表2から、本発明に従う実施例の加硫ゴム組成物は、低燃費性と耐摩耗性とのバランス、及び、低燃費性と耐カット性とのバランス、のいずれも優れた効果を示すことがわかる。
【0080】
(分子量の効果)
また、結晶量が比較的近い値であるSPB-1、2、8、4、6(それぞれ表2の実施例3、4、10、6、8)の結果からは、数平均分子量の差による効果について検討した。表2の結果より、数平均分子量の大きい実施例群(SPB-8、4、6、それぞれ表2の10、6、8)は、数平均分子量の小さい実施例群(SPB-1、2、それぞれ表2の実施例3、4)よりも耐摩耗性と低燃費性のバランスに優れていることがわかる。
【0081】
(結晶量の効果)
さらに、数平均分子量が比較的近い値であるSPB-3、4、6、8、5(それぞれ表2の比較例5、実施例6、8、10、7)の結果から、結晶量の差による効果について検討した。なお、SPB-7(表2の実施例9)も数平均分子量はSPB-3、4、6、8、5と近い値ではあるものの、後述する通りダブルネットワークを形成していないと考えられるため、ダブルネットワークを形成していると考えられるSPB-3、4、6、8、5とは、本欄で結晶量の効果を見る上での比較対象には含めていない。
表2の結果より、結晶量の小さいSPB-3(表2中の比較例5);結晶量の大きいSPB-4、6、8(表2中の実施例6、8、10);結晶量のさらに大きいSPB―5(表2中の実施例7)の順番で、耐摩耗性と低燃費性のバランスの値が向上していることがわかる。
【0082】
(SPB-7を用いた実施例9について)
なお、SPB-7を用いた実施例9については、SPBの融点よりも13℃低い温度で加硫しており、ダブルネットワークを形成していないか、もしくは形成しているとしても一部分に留まると考えられるものの、耐カット性に優れていることがわかる。
【0083】
また、表3の結果から、本発明に従う加硫ゴム組成物のサンプルは、特定の加硫ゴム物性を有し、低発熱性及び耐カット性のいずれも優れた効果を示すことがわかる。特に、実施例のサンプルの耐カット性は、各比較例に比べて優れた結果を示しており、加硫ゴム組成物中にダブルネットワークが形成された効果であると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、タイヤへ適用した際に、良好な低燃費性を有しつつ、耐摩耗性及び耐カット性を向上させることができるゴム組成物を提供できる。また、本発明によれば、低燃費性、耐摩耗性及び耐カット性に優れたタイヤを提供できる。