(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
F16L 37/084 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
F16L37/084
(21)【出願番号】P 2021554920
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040807
(87)【国際公開番号】W WO2021090769
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2019202953
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151597
【氏名又は名称】株式会社東郷製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 貴則
(72)【発明者】
【氏名】大井 茂雄
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-163976(JP,A)
【文献】特開2015-048896(JP,A)
【文献】特開2004-125130(JP,A)
【文献】特開2002-310363(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106764182(CN,A)
【文献】特開2001-227692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 37/084
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管接続のためのコネクタであって、
中空路を備えるコネクタ本体と、
前記コネクタ本体の前記中空路に挿通されたパイプを前記コネクタ本体に抜け止めするリテーナを有し、
前記リテーナは、
前記コネクタ本体の外周面に沿って装着でき
かつ基端から先端部に向けて前記コネクタ本体の前記外周面に沿ったロック方向に弧状
に延出するリテーナ本体と、
前記リテーナ本体の
前記基端を前記コネクタ本体に回転可能に連結し
、かつ前記リテーナ本体の前記先端部が前記中空路を介して前記リテーナ本体の前記基端と対向する仮係止位置から前記コネクタ本体の前記中空路に向けて
、前記リテーナ本体の前記先端部が前記仮係止位置の際よりも前記ロック方向に位置する本係止位置へ
前記リテーナ本体を回転可能とする回転取付部と、
前記リテーナ本体が前記仮係止位置の際に前記リテーナ本体から前記コネクタ本体の検知孔を貫通して前記中空路へ張出す力受け片と、
前記コネクタ本体に前記パイプを挿入すると、前記力受け片が前記パイプのパイプ本体から径方向外方に張出すバルジによって前記パイプの軸方向に押され、その押された力を前記力受け片の径方向外方への力に変換するように前記軸方向に対して傾斜する前記力受け片または/および前記バルジに形成された傾斜面と、
前記傾斜面で変換された前記力受け片の径方向外方への力を前記リテーナ本体の前記仮係止位置から前記本係止位置への
前記ロック方向への回転エネルギに変換するエネルギ変換機構と、
前記リテーナが前記本係止位置に位置する際に前記コネクタ本体の係止孔を貫通して前記リテーナ本体から前記中空路へ張出して前記パイプの前記バルジに対して前記軸方向に隣接して前記パイプの前記コネクタ本体からの抜けを防止する抜け止め片を有
し、
前記リテーナ本体の前記先端部が前記コネクタ本体に設けられる移動規制縁と対向または係止することで前記リテーナは前記仮係止位置に保持されるコネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタであって、
前記リテーナは、前記仮係止位置に位置する際に前記コネクタ本体
の前記移動規制縁に仮係止する仮係止部を有し、
前記エネルギ変換機構は、前記力受け片の径方向外方への前記力によって前記リテーナ本体を弾性変形させて
前記回転エネルギを得て、前記回転エネルギを利用して前記仮係止部を前記コネクタ本体から解除して前記リテーナ本体を前記仮係止位置から前記本係止位置へ回転させるコネクタ。
【請求項3】
請求項2に記載のコネクタであって、
前記力受け片は、前記仮係止部を兼ねる検知片であり、前記パイプが前記コネクタ本体に挿入された際に径方向外方へ移動して前記検知孔の縁に仮係止する構造であるコネクタ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のコネクタであって、
前記力受け片は、前記リテーナ本体の
前記先端部に位置し、
前記リテーナは、前記力受け片が受けた力によって前記リテーナ本体が前記ロック方向と反対方向に回転することを防止するように前記回転取付部から延出して前記コネクタ本体に当接する回転規制部を有するコネクタ。
【請求項5】
請求項3または4に記載のコネクタであって、
前記リテーナは、前記回転取付部から径方向内方に突出する駆動片を有し、前記リテーナが前記仮係止位置の際に前記駆動片が前記コネクタ本体の第2検知孔を貫通して前記リテーナ本体から前記中空路へ張出し、
前記コネクタ本体に前記パイプを挿入した際に前記パイプの前記バルジによって前記駆動片が前記軸方向に押された力を前記駆動片の径方向外方への力に変換するように前記軸方向に対して傾斜して前記駆動片または前記バルジに第2傾斜面が形成され、
前記第2傾斜面で変換された前記駆動片の径方向外方への力を前記リテーナ本体の前記仮係止位置から前記本係止位置への前記ロック方向への回転エネルギに変換する第2エネルギ変換機構が設けられるコネクタ。
【請求項6】
請求項2に記載のコネクタであって、
前記力受け片は、前記回転取付部から径方向内方に突出して前記コネクタ本体の前記検知孔を貫通して前記中空路に張出す駆動片であるコネクタ。
【請求項7】
請求項5または6に記載のコネクタであって、
前記リテーナの前記回転取付部を前記コネクタ本体に対して径方向に移動可能に支持するように、前記リテーナの前記回転取付部と前記コネクタ本体の何れか1つに回転軸を有し、何れか他の1つに前記回転軸が挿通されかつ前記回転軸よりも大きい軸孔を有するコネクタ。
【請求項8】
請求項1に記載のコネクタであって、
前記エネルギ変換機構は、前記力受け片の径方向外方への前記力によって前記リテーナ本体を前記回転取付部を中心に前記仮係止位置から前記本係止位置へ回転させるトルクを発生させるように構成されたコネクタ。
【請求項9】
請求項8に記載のコネクタであって、
前記リテーナ本体は、前記リテーナが装着される前記コネクタ本体の
前記外周面を覆うことが可能な長さを有し、
前記力受け片は、前記基端から径方向内方に張出し、
前記回転取付部は、前記力受け片よりも前記リテーナ本体の径方向外方に設けられ、かつ前記基端よりも前記リテーナ本体の前記基端の反対側に位置する先端側に設けられ、
前記リテーナの前記回転取付部と前記コネクタ本体の何れか1つに回転軸を有し、何れか他の1つに前記回転軸が挿通される軸孔を有するコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、配管接続のためのコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2008-163976号公報,特開2015-48896号公報に配管接続に用いられるコネクタが開示されている。これらコネクタは、略円筒状のコネクタ本体と、コネクタ本体に移動可能に連結されたリテーナを有する。コネクタ本体の内部には、軸心に沿って中空路が形成される。中空路の第1端にパイプを挿入可能なパイプ収容部が設けられ、第2端にチューブを接続可能なチューブ接続部が設けられる。パイプには、先端寄りの位置において全周にわたって径方向外方に張出したバルジが形成される。パイプ収容部の内周には、径方向内方に張出しかつ周方向に沿った段差状の当接縁が形成される。パイプは、バルジが当接縁に当接または近接する位置まで挿入される。
【0003】
パイプ収容部の第2端寄り外周に、パイプが抜けることを防止するリテーナが装着される。リテーナは、略C字形状である。コネクタ本体の外周には軸方向に延出する回転軸が形成される。リテーナの端部が回転軸に回転可能に支持される。リテーナは、コネクタ本体に対して回転軸を中心にパイプの軸方向に直交する面上において回転可能である。
【0004】
リテーナは、軸受部と反対側の端部に検知片を有する。検知片はコネクタ本体の外周面から中空路に貫通する検知孔に係止される。コネクタ本体の中空路にパイプが挿入されることで、検知片がバルジによって径方向外方に押し出されて検知孔から外れる。これによりリテーナは、仮係止位置からコネクタ本体の中心側の本係止位置へ回転可能となる。リテーナは、内周縁から径方向内方へ張り出す抜け止め片を有する。リテーナが本係止位置に至ると、抜け止め片がコネクタ本体に形成された開口部を貫通して中空路へ進入する。これによりバルジの後面に位置し、パイプがコネクタ本体から抜けることを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2008-163976号公報,特開2015-48896号公報に記載のリテーナは、仮係止位置から本係止位置への作業者が手で回転させている。したがってパイプをコネクタ本体に挿入する第1操作と、リテーナを回転させる第2操作が必要であり、作業が煩雑であった。加えてパイプが正規の位置まで挿入されたことを確認してからリテーナを回転させる必要があった。そこでパイプをコネクタ本体に容易に抜け止めをすることのできるコネクタが従来必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの特徴によると配管接続のためのコネクタは、コネクタ本体とリテーナを有する。コネクタ本体は中空路を備える。リテーナは、コネクタ本体の中空路に挿通されたパイプをコネクタ本体に抜け止めする。リテーナは、リテーナ本体と回転取付部と力受け片を有する。リテーナ本体は、コネクタ本体の外周面に沿って装着できる弧状に形成される。回転取付部は、リテーナ本体の基端をコネクタ本体に回転可能に連結してリテーナ本体を仮係止位置からコネクタ本体の中空路に向けて本係止位置へ回転可能とする。力受け片は、リテーナ本体が仮係止位置の際にリテーナ本体からコネクタ本体の検知孔を貫通して中空路へ張出す。力受け片または/およびパイプのパイプ本体から径方向外方に張出すバルジには、傾斜面が形成される。コネクタ本体にパイプを挿入すると、力受け片がバルジによってパイプの軸方向に押される。傾斜面は、その押された力を力受け片の径方向外方への力に変換するように軸方向に対して傾斜する。
【0007】
さらにリテーナは、エネルギ変換機構と抜け止め片を有する。エネルギ変換機構は、傾斜面で変換された力受け片の径方向外方への力をリテーナ本体の仮係止位置から本係止位置へのロック方向への回転エネルギに変換する。抜け止め片は、リテーナが本係止位置に位置する際にコネクタ本体の係止孔を貫通してリテーナ本体から中空路へ張出す。これにより抜け止め片は、パイプのバルジに対して軸方向に隣接してパイプのコネクタ本体からの抜けを防止する。
【0008】
したがってパイプをコネクタ本体に挿入すると、力受け片がパイプのバルジに押されて径方向外方の力を受ける。径方向外方の力を利用してリテーナ本体が仮係止位置から本係止位置へとロック方向に自動的に回転する。抜け止め片がパイプのコネクタ本体からの抜けを防止する。かくしてコネクタ本体にパイプを挿入する1操作によって、パイプをコネクタ本体に対して抜け止めできる。
【0009】
しかも梃の原理を利用してリテーナ本体が仮係止位置から本係止位置に移動する移動量を大きくできる。力受け片がパイプのバルジに押される移動量は、バルジの張出し長さに依存する。リテーナ本体を回転させて梃の原理を利用することで、力受け片の小さい変位をリテーナ本体の大きい変位に変換できる。これによりコネクタの大型化を抑制しつつリテーナ本体の移動量を大きくできる。さらにリテーナ本体の見た目の変位が大きいため、本係止位置に移動したことを目視で確認し易い。
【0010】
しかもリテーナ本体の回転角度が同じであっても、例えばリテーナ本体の形状を変更することでコネクタ本体に対するリテーナ本体の一部の変位量を変更できる。例えばリテーナ本体の回転角度によってコネクタ本体から最も離間したリテーナ本体の部分が移動するようにリテーナ本体の形状を設定する。これによりリテーナ本体の回転角度が同じ状態でコネクタ本体に対するリテーナ本体の変位量(落差)を大きくできる。あるいはリテーナ本体が弾性変形する構造の場合は、リテーナ本体の弾性変形による変位量を変更できる。
【0011】
しかもパイプをコネクタ本体に挿入してリテーナ本体が仮係止位置から本係止位置に回転する際に作業者に節度感を伝えることができる。例えばパイプのバルジとリテーナの力受け片の当接面がパイプの軸方向で対向する際、パイプの挿入に抵抗感がある。リテーナの回転によって力受け片がパイプの挿入経路上から外方に押し出されていくと、バルジが力受け片の端部から外れるタイミングがある。このタイミングにおいて挿入の抵抗感が一瞬消える。そしてパイプは、力受け片の端部の厚み分を一気に進入して所定の正規位置で停止する。抵抗感が消えてから正規位置まで進入する際に作業者の手に節度感が伝わる。これにより作業者は、パイプが正規位置まで挿入されたこととリテーナが本係止位置へ回転したことを容易に確認できる。
【0012】
本開示の他の特徴によるとリテーナは、仮係止位置に位置する際にコネクタ本体に仮係止する仮係止部を有する。エネルギ変換機構は、力受け片の径方向外方への力によってリテーナ本体を弾性変形させて回転エネルギを得る。エネルギ変換機構は、回転エネルギを利用して仮係止部をコネクタ本体から解除してリテーナ本体を仮係止位置から本係止位置へ回転させる。
【0013】
したがってエネルギ変換機構は、リテーナ本体の弾性変形を利用して回転エネルギを得る。これによりリテーナが仮係止位置から本係止位置まで自動的に回転できる。リテーナ本体の弾性変形量は、力受け片の径方向外方への力が大きくなるほど大きくなる傾向にある。力受け片がバルジによって径方向外方に押され始める初期段階では、リテーナ本体の弾性変形量は小さい。力受け片がバルジによって径方向外方に押される量が多いほど、リテーナ本体の弾性変形量が大きくなる傾向にある。したがってパイプを軸方向に挿入する際にリテーナ本体の弾性変形によるエネルギが大きくなり、そのエネルギを利用することでリテーナを勢い良く回転させ得る。かくしてリテーナをより確実に仮係止位置から本係止位置へ回転させることができる。
【0014】
しかもリテーナ本体の弾性変形を利用して、リテーナ本体が仮係止位置から本係止位置に回転する際の節度感を大きくすることができる。例えばリテーナ本体の弾性変形によって蓄積されたエネルギの開放と、パイプのバルジが力受け片の端部から外れるタイミングを同期させることで節度感が大きくなる。
【0015】
本開示の他の特徴によると力受け片は、仮係止部を兼ねる検知片である。力受け片は、パイプがコネクタ本体に挿入された際に径方向外方へ移動しながらも検知孔の縁に仮係止する構造を有する。したがってパイプをコネクタ本体に挿入することで、力受け片が径方向外方に移動する。力受け片がコネクタ本体に仮係止してリテーナ本体の弾性変形による回転エネルギを保持する。所定の回転エネルギが得られた際、あるいは徐々に力受け片が抜ける方向に移動して力受け片がコネクタ本体から外れる。かくしてリテーナが仮係止位置から本係止位置まで回転エネルギを利用して回転できる。
【0016】
本開示の他の特徴によると力受け片は、リテーナ本体の先端部に位置する。リテーナは、回転取付部から延出した回転規制部を有する。回転規制部は、力受け片が受けた力によってリテーナ本体がロック方向と反対方向に回転することを防止するようにコネクタ本体に当接する。
【0017】
したがってパイプをコネクタ本体に挿入することで、力受け片が径方向外方に移動する。回転規制部がリテーナ本体のロック方向と反対方向への回転を防止する。回転取付部を支点としてリテーナ本体が弾性変形して回転エネルギを蓄える。回転エネルギは、回転取付部を支点として回転取付部から離間するリテーナ本体の先端部で梃の原理により大きく作用する。かくしてリテーナ本体の弾性変形を利用してリテーナが仮係止位置から本係止位置へ勢い良く回転できる。
【0018】
本開示の他の特徴によるとリテーナは、回転取付部から径方向内方に突出する駆動片を有する。駆動片は、リテーナが仮係止位置の際にコネクタ本体の第2検知孔を貫通してリテーナ本体から中空路へ張出す。駆動片またはバルジには、第2傾斜面が形成される。第2傾斜面は、コネクタ本体にパイプを挿入した際にパイプのバルジによって駆動片がパイプの軸方向に押された力を駆動片の径方向外方への力に変換するように軸方向に対して傾斜する。リテーナは、第2傾斜面で変換された駆動片の径方向外方への力をリテーナ本体の仮係止位置から本係止位置へのロック方向への回転エネルギに変換する第2エネルギ変換機構を有する。
【0019】
したがってパイプをコネクタ本体に挿入し、駆動片が径方向外方に移動することで、第2エネルギ変換機構によってロック方向への回転エネルギが得られる。第2エネルギ変換機構で得られる回転エネルギによって仮係止位置のリテーナがロック方向に強制的に回転する。しかも力受け片を利用する第1エネルギ変換機構で蓄積した回転エネルギも利用してリテーナが本係止位置まで付勢される。さらにパイプを正規位置まで進入させることで、リテーナが駆動片によって本係止位置まで確実に回転することができる。かくしてリテーナをより確実に仮係止位置から本係止位置まで回転させることができる。
【0020】
本開示の他の特徴によると力受け片は、回転取付部から径方向内方に突出してコネクタ本体の検知孔を貫通して中空路に張出す駆動片である。したがってリテーナ本体は両側に力受け片を有する。パイプをコネクタ本体に挿入することで、両側の力受け片が径方向外方に移動する。これによりリテーナ本体は、両側から開かれて、より大きい回転エネルギを蓄える。かくしてリテーナ本体の弾性変形を利用してリテーナが仮係止位置から本係止位置へ勢い良く回転できる。
【0021】
本開示の他の特徴によるとコネクタは、リテーナの回転取付部とコネクタ本体の何れか1つに回転軸を有し、何れか他の1つに回転軸が挿通されかつ回転軸よりも大きい軸孔を有する。回転軸と軸孔によってリテーナの回転取付部は、例えばコネクタ本体に対して径方向に移動可能に支持される。したがって回転軸が軸孔内を例えば径方向に移動可能であることで、リテーナ本体の回転取付部の近傍領域が径方向外方に移動できる。これによりリテーナ本体の弾性変形量を大きくできる。そして弾性変形によって得られる回転エネルギを大きくできる。かくしてリテーナを仮係止位置から本係止位置までより勢い良く回転させることができる。
【0022】
本開示の他の特徴によるとエネルギ変換機構は、力受け片の径方向外方への力によってリテーナ本体を回転取付部を中心に仮係止位置から本係止位置へ回転させるトルクを発生させるように構成される。したがってコネクタ本体にパイプを挿入する操作をするだけでリテーナが仮係止位置から本係止位置まで強制的に回転する。これによりリテーナは、コネクタ本体に接続されたパイプを抜け止めできる。
【0023】
本開示の他の特徴によるとリテーナ本体は、リテーナが装着される前記コネクタ本体の外周面を覆うことが可能な長さを有する。力受け片は、リテーナ本体の基端から径方向内方に張出す。回転取付部は、力受け片よりもリテーナ本体の径方向外方に設けられ、かつ基端よりもリテーナ本体の基端の反対側に位置する先端側に設けられる。コネクタは、リテーナの回転取付部とコネクタ本体の何れか1つに回転軸を有し、何れか他の1つに回転軸が挿通される軸孔を有する。
【0024】
したがってリテーナが仮係止位置に位置する際にパイプをコネクタ本体に挿入すると力受け片が径方向外方に移動する。リテーナ本体の先端は、梃の原理によってリテーナ本体の基端側の回転軸を中心にして径方向内方に向けて回転する。この回転は、リテーナが仮係止位置から本係止位置に移動するロック方向の回転である。かくして力受け片が径方向外方に移動することによって、リテーナ本体を仮係止位置から本係止位置へ移動できる。リテーナ本体は、本係止位置に位置する際に、コネクタ本体の外周面を覆う。これによりリテーナは、コネクタ本体に対して保持される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係るコネクタの分解斜視図である。
【
図5】リテーナが仮係止位置に位置する際のコネクタの下面図である。
【
図7】リテーナが仮係止位置から本係止位置に移動する際の
図6に相当する断面図である。
【
図8】リテーナが本係止位置に位置する際の
図5中VIII-VIII線断面矢視図に相当する断面図である。
【
図10】第2実施形態に係るコネクタのリテーナが仮係止位置に位置する際の
図5中VI-VI線断面矢視図に相当する断面図である。
【
図11】第2実施形態に係るコネクタのリテーナが本係止位置に位置する際の
図8中IX-IX線断面矢視図に相当する断面図である。
【
図12】第3実施形態に係るコネクタのリテーナが仮係止位置に位置する際の
図5中VI-VI線断面矢視図に相当する断面図である。
【
図13】第3実施形態に係るコネクタのリテーナが本係止位置に位置する際の
図8中IX-IX線断面矢視図に相当する断面図である。
【
図14】他の形態に係るリテーナの左領域の部分拡大図である。
【
図15】他の形態に係るリテーナの左領域の部分拡大図である。
【
図16】他の形態に係る
図8に相当するコネクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1実施形態を
図1~9に基づいて説明する。
図1に示すようにコネクタ1は、共に例えば合成樹脂材にて一体に形成された略円筒状のコネクタ本体10と略C字形状のリテーナ20を有する。コネクタ本体10の一端に形成された開口からパイプ30がコネクタ本体10に挿入される。リテーナ20によってパイプ30がコネクタ本体10から抜けることが防止される。コネクタ本体10は、他端にチューブ接続部13を有し、チューブ接続部13に図示省略のチューブが接続される。これによりコネクタ本体10がパイプ30とチューブを流体的に接続する。以下の説明において、コネクタ本体10の開口側を後側とし、チューブ接続部13の延出方向を下側として、コネクタ1を後方から見た姿勢で左右方向を規定する。図中の方向は、説明の便宜上に用いており、コネクタ1の設置状態の方向は、図中の方向に限定されない。
【0027】
図1,8に示すようにコネクタ本体10は、内部に軸心に沿って中空路11を有する。コネクタ本体10は、L字状であって、パイプ収容部12とパイプ収容部12からほぼ直角に屈曲して連続するチューブ接続部13を有する。チューブ接続部13は、中央部に上下方向に延びる流路13aを有する。チューブ接続部13の外周面には、チューブの抜け止めのための凹凸状の抜け止め部13bが形成される。抜け止め部13bは、軸方向に連結された径の異なる環状部分を有する。流路13aの上端がパイプ収容部12の流路12hの前端と連通する。
【0028】
図1,8に示すようにパイプ収容部12は、中央部に前後方向に延びる流路12hを有する。パイプ収容部12は、後端に開口12iを有し、前端に底面12jを有する。流路12hの前部に位置する流路壁面の下部にチューブ接続部13内の流路13aと連通する連通口12kが形成される。
【0029】
図1に示すようにパイプ収容部12の後部外周には、前側フランジ14aと後側フランジ14bが前後に並列して設けられる。前側フランジ14aと後側フランジ14bの間のリテーナ装着部14にはリテーナ20が設置される。前側フランジ14aと後側フランジ14bの間隔は、リテーナ20の前後幅と略等しいかやや広めに形成される。前側フランジ14aと後側フランジ14bは、パイプ収容部12の径方向外方に張出して全周にわたって形成される。前側フランジ14aと後側フランジ14bは、円環状であって、例えば右側に他の部分よりも径方向に張出す張出部14eを有する。
【0030】
図1に示すようにリテーナ装着部14は、前側フランジ14aと後側フランジ14bの間に係止孔18を有する。係止孔18は、後側フランジ14bの前面に沿って円弧状であり、リテーナ装着部14の壁面を径方向に貫通する。係止孔18は、前側フランジ14aと後側フランジ14bの間で前後方向に延びる上部仕切り片14cと下部仕切り片14dによって区画される。係止孔18を区画して開口面積を抑えることにより、リテーナ装着部14の強度の低下を防止する。
【0031】
図1,3に示すようにリテーナ装着部14は、係止孔18の前方においてリテーナ装着部14の壁面を径方向に貫通して開口する検知孔16,17を有する。検知孔16,17は、それぞれ係止孔18と連通する。検知孔16は、リテーナ装着部14の右領域に形成される。検知孔(第2検知孔)17は、リテーナ装着部14の左領域に形成される。検知孔16,17は、上部仕切り片14cと下部仕切り片14dによって互いに区画される。リテーナ装着部14の左部には、前後方向に延びる円柱状の回転軸(回転取付部)15が設けられる。回転軸15は、前側フランジ14aと後側フランジ14bの間をコネクタ本体10の軸方向に沿って一体に連結する。回転軸15は、検知孔17と係止孔18よりも径方向外方に配置される。
【0032】
図2,7に示すように検知孔16の下端に移動規制縁16bが設けられる。移動規制縁16bは円弧状の面取りを有する。移動規制縁16bの下方には、リテーナ装着部14の周方向に弧状に張出した薄肉部16aが形成される。薄肉部16aは、移動規制縁16bと同幅を有しつつ係止孔18の下端に至るまでの周方向に沿った範囲に形成される。
【0033】
図1に示すようにパイプ30は、円筒状のパイプ本体31を有する。パイプ本体31には、先端寄りの位置において全周にわたって径方向に張出したバルジ32が形成される。パイプ本体31とバルジ32は、一体に形成され、例えばアルミニウム等の金属製である。パイプ本体31は、中心部に前後方向に連通する流路34を有する。流路34は、パイプ本体31の先端部33で前方に開口する。先端部33は、周側部にテーパを有して先端側の径が小さくなっている。パイプ本体31のバルジ32より前方の前部31aは、パイプ本体31のバルジ32より後方の後部31bより小径である。
【0034】
図8に示すようにパイプ収容部12の内周には、断面円形状で互いに異なる内径を有する第1領域12eと第2領域12fと第3領域12gが前後方向に並んで形成される。最も前方にある第1領域12eは、底面12jからパイプ収容部12の前後方向の略中央部の範囲に形成される。第1領域12eは連通口12kを有する。第1領域12eは、パイプ30の先端部33の前側略半分が進入可能かつ前部31aの外径より小さい内径を有する。第2領域12fは、第1領域12eの後端から、前後方向について前側フランジ14aと後側フランジ14bの中間まで延びる。第2領域12fは、パイプ30の前部31aの外径より大きくかつバルジ32の直径より小さい内径を有する。
【0035】
図8に示すように第3領域12gは、第2領域12fの後端からコネクタ本体10の後端まで延びる。第3領域12gは、バルジ32よりわずかに大きい内径を有する。第1領域12eと第2領域12fの間には、径方向の段差によって段差部12cが形成される。第2領域12fと第3領域12gの間には、径方向の段差によって当接縁12dが形成され、当接縁12dは後方に向く。
【0036】
図8に示すように第2領域12fは、Oリング12aとブッシュ12bを内装する。Oリング12aは、段差部12cの後面に沿って配置される。Oリング12aは,先端部33の外周面をシールできる。ブッシュ12bは、Oリング12aの後方に配置されてOリング12aを抜け止めする。ブッシュ12bは、前部31aの外径よりわずかに大きい内径を有する。パイプ30は、バルジ32の前面が当接縁12dの後面に当接または近接する位置(正規深さ)まで挿入できる。正規深さに挿入されたパイプ30のバルジ32は、前側フランジ14aと後側フランジ14bの中間に位置する。
【0037】
図1に示すようにリテーナ20は、略C字形状のリテーナ本体21を有する。リテーナ本体21は、前側フランジ14aと後側フランジ14bの間に適合する幅である。
図9に示すようにリテーナ本体21は、リテーナ20が本係止位置に移動した際にリテーナ装着部14の外周面に沿った状態でリテーナ装着部14に装着できる。リテーナ本体21は、リテーナ装着部14の外周面の半周以上を覆うことが可能な長さを有する。
【0038】
図4に示すようにリテーナ20は、リテーナ本体21の基端(
図4において左側)に軸受部22を有し、軸受部22が
図1に示す回転軸15に嵌め入れられる。リテーナ20は、リテーナ本体21の基端の内周側に駆動片(力受け片)24を有する。リテーナ20は、軸受部22と反対側の先端(
図4において右下端)に検知片(力受け片)23を有する。リテーナ20は、リテーナ本体21の内周縁から径方向内方へ張出した抜け止め片26を有する。
【0039】
図4に示すように軸受部22は、リテーナ20の前後幅にわたって形成された断面略C字形状に形成される。軸受部22の断面略C字形状の開口部は、回転軸15を挿入できる差込口22bとして形成される。軸受部22は、差込口22bから内方に凹んだ軸孔22aを有する。軸孔22aは、リテーナ本体21の径方向に長径が沿った長円形状、あるいは長方形状である。リテーナ20は、コネクタ本体10に対して回転軸15を中心に回転可能で、パイプ30の軸方向に直交する面上において回転する。リテーナ20は、
図6に示す仮係止位置と、
図7に示す仮係止位置と本係止位置の間の中間位置と、
図9に示す本係止位置へと回転できる。軸受部22は、回転軸15に対して軸孔22aの長径方向に沿って径方向に移動できる。
【0040】
図5に示すように駆動片24は、リテーナ本体21の前後幅の略半分の幅を有して後側フランジ14b寄りに位置する。駆動片24は、リテーナ本体21から径方向内方に張出し、かつリテーナ本体21の周方向中央部に向けてくさび状に張出す。駆動片24は、張出した先端に張出部24bを有する。
図6,7に示すように駆動片24は、リテーナ20が仮係止位置から本係止位置まで回転する間において、検知孔17から進入して中空路11に突出する。したがって駆動片24は、中空路11内に挿入されたパイプ30のバルジ32と当接できる。
【0041】
図5に示すように駆動片24の後面には、前方から後方にかけて径方向内方から外方に向いてテーパ状に傾斜した傾斜面(第2傾斜面)24aが形成される。傾斜面24aは、バルジ32と当接することで、パイプ30を前方に押す力の分力を、駆動片24を検知孔17の径方向外方へ押し出す径方向の力に変換する勾配を備える。
【0042】
図5に示すように検知片23は、リテーナ本体21の前後幅の略半分の幅を有して後側フランジ14b寄りに位置する。検知片23は、リテーナ本体21から径方向内方に向けてくさび状に張出す。検知片23は、張出した先端に先端部23bを有する。
図6,7に示すように先端部23bの端縁の中間位置には、分岐部23cが設けられる。先端部23bの端縁は、分岐部23cより右方ではリテーナ本体21の周方向に沿ってかつ径方向外方に延びる。先端部23bの端縁は、分岐部23cより左方ではリテーナ本体21の径方向内方へ延びる。検知片23は、リテーナ20が仮係止位置からバルジ32によって押し出されるまでの間において、検知孔16から進入して中空路11に突出する。したがって検知片23は、中空路11内に挿入されたパイプ30のバルジ32と当接できる。検知片23は、リテーナ20をリテーナ装着部14に仮係止する仮係止部25としても構成される。
【0043】
図5に示すように検知片23の後面には、前方から後方にかけて径方向内方から外方に向いてテーパ状に傾斜した傾斜面23aが形成される。傾斜面23aは、バルジ32と当接することでパイプ30を前方に挿入させる力の分力を、検知片23を検知孔16の外方へ押し出す径方向の力として作用する勾配を備える。
【0044】
図1,4に示すように抜け止め片26は、リテーナ本体21の前後幅の略半分のさらに半分の幅を有してリテーナ本体21の後縁に沿って位置する。抜け止め片26はリテーナ本体21と一体に形成される。抜け止め片26は、リテーナ20が本係止位置に移動した際に、バルジ32の後面側に隣接しかつパイプ本体31の後部31bの外周面にほぼ達する張出し長さを有する。抜け止め片26は、リテーナ20が仮係止位置に位置する際にはパイプ収容部12の外側に退避しており、パイプ30の進入または離脱を許容する。抜け止め片26の周方向の中央部には、逃がし凹部26aが形成される。逃がし凹部26aは、リテーナ20が仮係止位置から本係止位置へ移動する際に抜け止め片26が上部仕切り片14cと干渉することを回避する。逃がし凹部26aは、リテーナ本体21の弾性変形を起こしやすくする起点としても利用される。
【0045】
図6に示すようにリテーナ本体21は、第1エネルギ変換機構27を有する。第1エネルギ変換機構27は、検知片23と駆動片24を利用してロック方向(
図6において時計回り方向)への回転エネルギを得る。リテーナ本体21は、傾斜面23aで変換された検知片23の径方向外方への力によってロック方向と反対方向の回転力を得る。リテーナ本体21は、傾斜面24aで変換された駆動片24の径方向外方への力によってロック方向と反対方向への回転が規制される。リテーナ本体21の右領域は、ロック方向と反対方向の回転が規制されかつロック方向と反対方向の回転力を受けることで、径方向外方に拡がるように弾性変形する。第1エネルギ変換機構27は、リテーナ本体21の弾性変形によって蓄積される力をリテーナ本体21のロック方向への回転エネルギに変換する。
【0046】
図9に示すようにリテーナ本体21は、第2エネルギ変換機構28を有する。第2エネルギ変換機構28は、傾斜面24aで変換された駆動片24の径方向外方への力をロック方向への回転エネルギに変換する。リテーナ本体21は、ロック方向に回転することで仮係止位置から本係止位置へ移動できる。第2エネルギ変換機構28は、例えば弾性変形するリテーナ20と、リテーナ20の弾性変形の起点となる回転軸15により構成される。すなわち駆動片24が力を受け、回転軸15を起点にしてリテーナ20が弾性変形する。弾性変形を利用して、リテーナ20が回転軸15を中心にロック方向に回転する。
【0047】
コネクタ本体10に対するリテーナ20の係止構造について説明する。
図6に示すようにリテーナ20は、検知片23が移動規制縁16bと係止することによって仮係止位置でリテーナ装着部14に仮保持される。検知片23は、先端部23bの分岐部23cよりも右方で移動規制縁16bと係止する。移動規制縁16bは、リテーナ20が仮係止位置から本係止位置へと不用意に回転することを規制する。回転軸15は、リテーナ20が仮係止位置にある際、軸孔22aの左側の略半周面と当接する。そのためリテーナ本体21の左領域は、径方向外方に拡げられる弾性変形が小さい、あるいは弾性変形していない。したがって第1エネルギ変換機構27で得られる回転エネルギが小さい。これにより検知片23を仮係止位置で仮保持できる。
【0048】
図7に示すようにパイプ30が中空路11内に挿入されていくと、バルジ32が検知片23の傾斜面23aおよび駆動片24の傾斜面24aと当接する。検知片23は、バルジ32によって検知孔16から径方向外方に押し出される。これによりリテーナ本体21の右領域は、径方向外方に拡がるように弾性変形する。弾性変形による力がリテーナ本体21の逃がし凹部26a付近に蓄積される。検知片23は、先端部23bの分岐部23cよりも左方で移動規制縁16bと係止する。すなわち先端部23bが移動規制縁16bと係止する位置が分岐部23cより右方から左方へと切替わる。
【0049】
図7に示すように駆動片24は、中空路11内に挿入されるパイプ30のバルジ32によって検知孔17から径方向外方に押し出される。これによりリテーナ本体21の左領域には、リテーナ本体21をロック方向へと回転させる小さい回転力が作用する。ロック方向への回転力は、検知片23の先端部23bと移動規制縁16bの係止状態を外すのに十分な力をまだ有しない。そのためリテーナ本体21が仮係止位置で係止する。リテーナ本体21は、ロック方向と反対方向への回転が規制されかつ右領域が弾性変形する。これにより第1エネルギ変換機構27は、リテーナ本体21をロック方向に回転させる回転エネルギを得る。
【0050】
図7に示すようにパイプ30がさらに押し込まれると、検知片23と駆動片24がバルジ32によってさらに径方向外方に押し出される。これによりリテーナ本体21の右領域の弾性変形量が大きくなる。しかもリテーナ本体21をロック方向と反対方向に回転させる回転力がより大きくなる。リテーナ本体21のロック方向への回転力は、駆動片24が径方向外方に押し出されることで大きくなるものの、ロック方向と反対方向への回転力を上回らない。そのためリテーナ本体21は、両方向の回転が規制される。リテーナ本体21の左領域は、回転が規制されることで径方向外方に拡がるように弾性変形する。これにより回転軸15は、軸孔22a内の相対位置が左方から右方に移動する。リテーナ本体21の左右両領域が弾性変形することにより、第1エネルギ変換機構27で得られる回転エネルギがより大きくなる。
【0051】
図7に示すようにパイプ30がさらに押し込まれると、検知片23の全体が検知孔16から径方向外方に押し出される。これにより検知片23の先端部23bと移動規制縁16bとの係止状態が外れる。この際にリテーナ本体21の右領域の弾性変形量が最大となり、第1エネルギ変換機構27によって蓄積されるロック方向への回転エネルギが最大となる。駆動片24がさらに径方向外方に押し出されると、回転軸15が軸孔22aの右側の略半周面と当接する。これによりリテーナ本体21の左領域は、弾性変形が規制されてロック方向への回転のみが許容される。そのためリテーナ本体21の左領域にロック方向への回転力が蓄積される。かくしてリテーナ本体21のロック方向への回転力がロック方向と反対方向への回転力を上回る。
【0052】
図9に示すようにパイプ30が正規深さに到達する際に、駆動片24の膨出部24bがバルジ32の最外周面と当接する。第2エネルギ変換機構28で得られた回転エネルギによって、リテーナ20が回転軸15を中心にして
図7に示す位置から
図9に示す本係止位置まで回転する。さらに第1エネルギ変換機構27で蓄積されたロック方向への回転エネルギが瞬間的に解放される。これによりリテーナ本体21は、径方向外方に開いた状態から閉じた状態に変形しかつ本係止位置まで勢い良く回転できる。
【0053】
図9に示すように本係止位置に回転したリテーナ20の外周部は、前側フランジ14aと後側フランジ14b(
図1参照)の外周部に倣った形状になる。これによりリテーナ20が本係止位置にあることを視認等によって容易に確認できる。抜け止め片26は、リテーナ20が本係止位置に回転する際に、係止孔18へと進入してバルジ32の後面側に隣接しかつパイプ本体31の後部31bの外周面の近くまで達する。これによりバルジ32が抜け止め片26より後方へ抜け出ることが防止される。駆動片24は、検知孔17から押し出されてバルジ32の最外周面と当接する状態ではリテーナ本体21のロック方向と反対方向への回転を規制する。かくしてパイプ30がコネクタ1に正規深さで保持される。
【0054】
上述するようにコネクタ1は、
図1に示すようにコネクタ本体10とリテーナ20を有する。コネクタ本体10は中空路11を備える。リテーナ20は、中空路11に挿通されたパイプ30をコネクタ本体10に抜け止めする。リテーナ20は、リテーナ本体21と軸受部22と検知片23を有する。リテーナ本体21は、コネクタ本体10のリテーナ装着部14の外周面に沿って装着できるように弧状に形成される。軸受部22は、リテーナ本体21の基端をコネクタ本体10に回転可能に連結してリテーナ本体21を仮係止位置から中空路11に向けて本係止位置へ回転可能とする。
図6に示すように検知片23は、リテーナ本体21が仮係止位置の際にリテーナ本体21からコネクタ本体10の検知孔16を貫通して中空路11へ張出す。検知片23には傾斜面23aが形成される。コネクタ本体10にパイプ30を挿入すると検知片23は、パイプ30のパイプ本体31から径方向外方に張出すバルジ32によってパイプ30の軸方向に押される。
図5に示すように傾斜面23aは、その押された力を検知片23の径方向外方への力に変換するように軸方向に対して傾斜する。
【0055】
さらに
図9に示すようにリテーナ20は、第1エネルギ変換機構27と抜け止め片26を有する。第1エネルギ変換機構27は、傾斜面23aで変換された検知片23の径方向外方への力をリテーナ本体21の仮係止位置から本係止位置へのロック方向への回転エネルギに変換する。抜け止め片26は、リテーナ20が本係止位置に位置する際にコネクタ本体10の係止孔18を貫通してリテーナ本体21から中空路11へ張出す。これにより抜け止め片26は、バルジ32に対して軸方向に隣接してパイプ30のコネクタ本体10からの抜けを防止する。
【0056】
したがってパイプ30をコネクタ本体10に挿入すると、検知片23がバルジ32に押されて径方向外方の力を受ける。径方向外方の力を利用してリテーナ本体21が仮係止位置から本係止位置へとロック方向に自動的に回転する。バルジ32と隣接する抜け止め片26がパイプ30のコネクタ本体10からの抜けを防止する。かくしてコネクタ本体10にパイプ30を挿入する1操作によって、パイプ30をコネクタ本体10に対して抜け止めできる。
【0057】
しかも梃の原理を利用してリテーナ本体21が仮係止位置から本係止位置に移動する移動量を大きくできる。駆動片24がパイプ30のバルジ32に押される移動量は、バルジ32の径方向の張出し長さに依存する。リテーナ本体21を回転させて梃の原理を利用することで、駆動片24の径方向に沿った小さい変位をリテーナ本体21の周方向に沿った大きい変位に変換できる。これによりコネクタ1の大型化を抑制しつつリテーナ本体21の移動量を大きくできる。さらにリテーナ本体21の見た目の変位が大きいため、リテーナ本体21が本係止位置に移動したことを目視で確認し易い。
【0058】
しかもリテーナ本体21の回転角度が同じであっても、例えばリテーナ本体21の形状を変更することでコネクタ本体10に対するリテーナ本体21の弾性変形量または突出量を変更できる。例えば
図6に示すようにリテーナ本体21の外周部21aは、径方向に比較的高い高位部21eと、高位部21eより右側の右領域21cと、高位部21eより左側の左領域21dを有する。左領域21dの左側には、角部21bを介して第2左領域21fが位置する。リテーナ20が仮係止位置で仮保持される場合、高位部21eが一番径方向に高い場所に位置する。
図9に示すようにリテーナ20が仮係止位置から本係止位置に回転した場合、角部21bと第2左領域21fが径方向に比較的高い場所に位置する。つまりリテーナ本体21が回転して変位することによって、径方向外方にリテーナ本体21の表出する面が入れ替わる。これによりリテーナ本体21が仮係止位置から本係止位置に移動したことを容易に確認できる。例えば、高位部21eが径方向に高い場所に位置することを確認することで、リテーナ本体21が仮係止位置に位置することを確認できる。角部21bまたは第2左領域21fが径方向に高い場所に位置することを確認することで、リテーナ本体21が本係止位置に位置することを確認できる。
【0059】
しかもパイプ30をコネクタ本体10に挿入してリテーナ本体21が仮係止位置から本係止位置に回転する際に作業者に節度感を伝えることができる。例えばパイプ30のバルジ32とリテーナ20の駆動片24の傾斜面24aがパイプ30の軸方向で対向する際、パイプ30の挿入に抵抗感がある。リテーナ本体21の回転によって駆動片24がパイプ30の挿入経路上の検知孔17から外方に押し出されていくと、バルジ32が傾斜面24aの端部から外れるタイミングがある。このタイミングにおいてパイプ30の挿入の抵抗感が一瞬消える。そしてパイプ30は、駆動片24の端部の厚み分を一気に進入して正規位置で停止する。抵抗感が消えてから正規位置まで進入する際に作業者の手に節度感が伝わる。これにより作業者は、パイプ30が正規位置まで挿入されたこととリテーナ20が本係止位置へ回転したことを容易に確認できる。
【0060】
図6,7に示すようにリテーナ20は、仮係止位置に位置する際にコネクタ本体10に仮係止する仮係止部25を有する。第1エネルギ変換機構27は、検知片23の径方向外方への力によってリテーナ本体21を弾性変形させて回転エネルギを得る。第1エネルギ変換機構27は、回転エネルギを利用して仮係止部25をコネクタ本体10から解除してリテーナ本体21を仮係止位置から本係止位置へ回転させる。
【0061】
したがって第1エネルギ変換機構27は、リテーナ本体21の弾性変形を利用して回転エネルギを得る。これによりリテーナ20が仮係止位置から本係止位置まで自動的に回転できる。リテーナ本体21の弾性変形量は、検知片23の径方向外方への力が大きくなるほど大きくなる傾向にある。検知片23がバルジ32によって径方向外方に押され始める初期段階では、リテーナ本体21の弾性変形量は小さい。検知片23がバルジ32によって径方向外方に押される量が多いほど、リテーナ本体21の弾性変形量が大きくなる傾向にある。したがってパイプ30を軸方向に挿入する際にリテーナ本体21の弾性変形によるエネルギが大きくなり、そのエネルギを利用することでリテーナ20を勢い良く回転させ得る。かくしてリテーナ20をより確実に仮係止位置から本係止位置へ回転させることができる。
【0062】
しかもリテーナ本体21の弾性変形を利用して、リテーナ本体21が仮係止位置から本係止位置に回転する際の節度感を大きくすることができる。例えばリテーナ本体21の弾性変形によって蓄積されたエネルギの開放と、パイプ30のバルジ32が駆動片24の端部から外れるタイミングを同期させることで節度感が大きくなる。節度感をより向上させるには、例えばリテーナ本体21の右領域の肉厚を大きくする。あるいは検知片23の傾斜面23aの傾斜角度を大きくする。すなわち、前後方向に延出する軸線に対する傾斜面23aの角度を大きくする。これによりリテーナ20を仮係止位置で抵抗感を増すことができる。かくしてリテーナ本体21の弾性変形によるエネルギの開放と、バルジ32が駆動片24の端部から外れるタイミングを同期させて節度感を補うことができる。
【0063】
図6,7,9に示すように検知片23は、仮係止部25を兼ねる。検知片23は、パイプ30がコネクタ本体10に挿入された際に径方向外方へ移動して検知孔16の移動規制縁16bに仮係止する構造を有する。したがってパイプ30をコネクタ本体10に挿入することで、検知片23が径方向外方に移動する。検知片23がコネクタ本体10に仮係止してリテーナ本体21の弾性変形による回転エネルギを保持する。所定の回転エネルギが得られた際、あるいは徐々に検知片23が抜ける方向に移動して検知片23がコネクタ本体10から外れたときリテーナ20が仮係止位置から本係止位置まで回転エネルギを利用して回転できる。
【0064】
図6,7,9に示すようにリテーナ20は、軸受部22から径方向内方に突出する駆動片24を有する。駆動片24は、リテーナ20が仮係止位置の際に検知孔17を貫通してリテーナ本体21から中空路11へ張出す。駆動片24には、傾斜面24aが形成される。傾斜面24aは、コネクタ本体10にパイプ30を挿入した際にバルジ32によって駆動片24がパイプ30の軸方向に押された力を駆動片24の径方向外方への力に変換するように傾斜する。例えば、前後方向に延出する中心軸線に直交する仮想面に対して傾斜面24aは、傾斜し、かつ中心軸線に向く。リテーナ20は、傾斜面24aで変換された駆動片24の径方向外方への力をリテーナ本体21の仮係止位置から本係止位置へのロック方向への回転エネルギに変換する第2エネルギ変換機構28を有する。
【0065】
したがってパイプ30をコネクタ本体10に挿入し、駆動片24が径方向外方に移動することで、第2エネルギ変換機構28によってロック方向への回転エネルギが得られる。第2エネルギ変換機構28で得られる回転エネルギによって仮係止位置のリテーナ20がロック方向に強制的に回転する。しかも検知片23を利用する第1エネルギ変換機構27で蓄積した回転エネルギも利用してリテーナ20が本係止位置まで付勢される。さらにパイプ30を正規位置まで進入させることで、リテーナ20が駆動片24によって本係止位置まで確実に回転することができる。かくしてリテーナ20をより確実に仮係止位置から本係止位置まで回転させることができる。例えば
図5に示すように傾斜面24aの前端が傾斜面23aの前端よりも前側に位置する。そのため検知片23の傾斜面23aがバルジ32から外れた後においても、駆動片24の傾斜面24aがバルジ32によって押される。その結果、リテーナ20が確実に仮係止位置から本係止位置へ回転できる。
【0066】
図6,7,9に示すように駆動片24は、軸受部22から径方向内方に突出して検知孔17を貫通して中空路11に張出す。したがってリテーナ本体21は、力受け片として検知片23と駆動片24を両側それぞれに有する。パイプ30をコネクタ本体10に挿入することで、両側の検知片23と駆動片24が径方向外方に移動する。これによりリテーナ本体21は、両側から開かれて、より大きい回転エネルギを蓄える。かくしてリテーナ本体21の弾性変形を利用してリテーナ20が仮係止位置から本係止位置へ勢い良く回転できる。
【0067】
図6,7,9に示すようにコネクタ1は、コネクタ本体10に回転軸15を有し、リテーナ20の軸受部22に回転軸15が挿通される軸孔22aを有する。軸孔22aは、径方向に長い円形状または長方形である。回転軸15と軸孔22aによって軸受部22は、コネクタ本体10に対して径方向に移動できるように支持される。したがって回転軸15が軸孔22a内を径方向に移動できることで、リテーナ本体21の軸受部22の近傍領域(左領域)が径方向外方に移動できる。これによりリテーナ本体21の弾性変形量を大きくできる。そして弾性変形によって得られる回転エネルギを大きくできる。かくしてリテーナ20を仮係止位置から本係止位置までより勢い良く回転させることができる。
【0068】
第2実施形態を
図10,11に基づいて説明する。
図10に示すコネクタ40は、
図1に示すコネクタ本体10とリテーナ20に代えて、コネクタ本体50とリテーナ60を有する。コネクタ本体50とリテーナ60は、共に合成樹脂材にて一体に形成される。コネクタ本体50は、内部に軸心に沿って中空路51を有する。コネクタ本体50は、L字状であって、
図8に示すコネクタ本体10と同様にパイプ収容部12とチューブ接続部13を有する。
【0069】
図10に示すようにパイプ収容部12の後部外周には、リテーナ60を設置して装着できるリテーナ装着部54が設けられる。リテーナ装着部54は、前後に並列する前側フランジ54aと図示省略の後側フランジ54bの間に設けられる。前側フランジ54aと後側フランジ54bは、円環状であって、右側に他の部分よりも径方向に張出す張出部54eを有する。リテーナ装着部54は、後側フランジ54bの前面に沿って円弧状であり、リテーナ装着部54の壁面を径方向に貫通する係止孔58を有する。係止孔58は、前側フランジ54aと後側フランジ54bの間で前後方向に延びる上部仕切り片54cと下部仕切り片54dによって区画される。
【0070】
図10に示すようにリテーナ装着部54は、右方の係止孔58の前においてリテーナ装着部54の壁面を径方向に貫通して開口する検知孔56を有する。検知孔56は、右方の係止孔58と連通する。検知孔56の下部には、
図6に示す薄肉部16aと移動規制縁16bと同様にして、薄肉部56aと移動規制縁56bが設けられる。リテーナ装着部54の左部には、前後方向に延びる円柱状の回転軸(回転取付部)55が設けられる。回転軸55は、係止孔58よりも径方向外方に配置される。係止孔58の左端には、前後方向に延びかつ上下方向に延びる平板状の回転規制壁57が設けられる。回転規制壁57は、回転軸55と係止孔58の間に設けられる。
【0071】
図10に示すようにリテーナ60は、
図6に示すリテーナ20の軸受部22に代えて軸受部(回転取付部)62を有する。リテーナ60は、他の構成については
図6に示すリテーナ20と同様の構成を有する。リテーナ60は、リテーナ装着部54に適合する幅を有しかつ全体が略C字形状のリテーナ本体61を有する。リテーナ60は、リテーナ本体61の径方向内方へ張出した抜け止め片66を有する。抜け止め片66は、リテーナ本体61の前後幅の略半分の幅を有してリテーナ本体61の後縁に沿って位置する。抜け止め片66の周方向の中央部には、上部仕切り片54cと干渉することを回避する逃がし凹部66aが形成される。
【0072】
図10に示すようにリテーナ本体61の先端(
図10において右端)には、仮係止部65としても機能する検知片(力受け片)63とエネルギ変換機構67が設けられる。検知片63は、リテーナ本体61の径方向内方に向けてくさび状に張出し、リテーナ本体61の前後幅の略半分の幅を有して後側フランジ54b寄りに位置する。検知片63は、張出した先端に先端部63bを有する。先端部63bは、先端部23b(
図6参照)と同様に端縁の中間位置に分岐部63cを有する。検知片63の後面には、前方から後方にかけて径方向内方から外方に向いてテーパ状に傾斜した傾斜面63aが形成される。傾斜面63aは、バルジ32と当接することでパイプ30を前方に挿入させる力の分力を、検知片63を検知孔56の外方へ押し出す径方向の力として作用する勾配を備える。
【0073】
図10に示すようにリテーナ本体61の基端(
図10において左側)には、回転軸55を挿入できる軸受部62が設けられる。軸受部62は、リテーナ60の前後幅にわたって断面略C字形状に開口した差込口62bを有する。軸受部62は、差込口62bから内方に円形状に凹んだ軸孔62aを有する。軸孔62aは、回転軸55よりもわずかに大きい内径を有する。リテーナ60は、コネクタ本体50に対して回転軸55を中心にパイプ30の軸方向に直交する面上において回転できる。リテーナ60は、リテーナ本体61の基端の内周側に回転規制部64を有する。回転規制部64は、軸受部62の先端の延出方向に沿って直線状に形成される。回転規制部64は、回転規制壁57と対向しており、リテーナ60がロック方向と反対方向に回転する際に回転規制壁57と当接できる。
【0074】
図10に示すようにリテーナ本体61は、エネルギ変換機構67を有する。エネルギ変換機構67は、検知片63と回転規制部64と回転規制壁57を利用してロック方向(
図6において時計回り方向)への回転エネルギを得る。リテーナ本体61は、検知片63の径方向外方への力によってロック方向と反対方向の回転力を得る。リテーナ本体61は、回転規制部64と回転規制壁57が当接することでロック方向と反対方向への回転が規制される。リテーナ本体61の右領域は、ロック方向と反対方向への回転が規制されかつロック方向と反対方向の回転力を受けることで、径方向外方に拡がるように弾性変形する。エネルギ変換機構67は、リテーナ本体61の弾性変形によって蓄積される力をリテーナ本体61のロック方向への回転エネルギに変換する。
【0075】
コネクタ本体50に対するリテーナ60の係止構造について説明する。
図10に示すリテーナ60は、検知片63の先端部63bが移動規制縁56bと係止することでリテーナ装着部54に仮係止位置で仮保持できる。検知片63は、検知孔56から進入して中空路51内に突出する。回転規制部64は、仮係止の状態で回転規制壁57と対向して当接する。抜け止め片66は、リテーナ60が仮係止位置に位置する際には係止孔58からパイプ収容部12の外側に退避しており、パイプ30の進入または離脱を許容する。
【0076】
図10に示すようにパイプ30が中空路51内に挿入されていくと、バルジ32が傾斜面63aと当接して検知片63が検知孔56から押し出される。検知片63の先端部63bが移動規制縁56bと係止する位置が分岐部63cより右方から左方へと切替わる。リテーナ本体61の右領域は、検知片63の径方向外方への力によって回転軸55を中心にしてロック方向と反対方向の回転力を得る。回転規制部64は、リテーナ本体61がロック方向と反対方向に回転する際に回転規制壁57と当接する。リテーナ本体61は、回転規制部64が回転規制壁57と当接することでロック方向と反対方向の回転を規制する。これによりリテーナ本体61の右領域は、径方向外方に開いた状態に弾性変形する。かくしてエネルギ変換機構67は、リテーナ本体61をロック方向に回転させる回転エネルギを蓄積できる。
【0077】
図10に示すようにパイプ30がさらに前方に押し込まれると、検知片63が検知孔56の径方向外方に押し出される。これにより検知片63の先端部63bと移動規制縁56bの係止状態が解除される。リテーナ本体61は、径方向外方に最大に開いた状態でロック方向への回転の規制が外れる。この際にエネルギ変換機構67に蓄積される回転エネルギが最大になる。検知片63がバルジ32の最外周面に至り検知孔56との干渉が解消されると、エネルギ変換機構67で蓄積された回転エネルギによって、リテーナ60が
図10に示す仮係止位置から
図11に示す本係止位置まで回転する。回転規制部64は、回転規制壁57から離間する。
【0078】
図11に示すように抜け止め片66は、リテーナ60が本係止位置に回転する際に、係止孔58へと進入してバルジ32の後面側に隣接しかつパイプ本体31の後部31bの外周面の近くまで達する。抜け止め片66は、リテーナ装着部54の外周面とリテーナ60の前部の内周面69が密接してバルジ32を抜け止めし保持する。しかもリテーナ60の右領域の内周面69は、半周以上本係止位置へ回り込んだ位置で密接する。これによりリテーナ60をロック方向と反対方向に回転しないようにして抜け止め状態を保持できる。内周面69は、リテーナ装着部54の外周面と密接できるように径方向に肉盛りされている。これにより本係止位置で回転規制部64と回転規制壁57が当接しなくても、ロック方向と反対方向への回転は規制され、リテーナ60がぐらつかないようにリテーナ装着部54に保持できる。
【0079】
上述するようにコネクタ40のリテーナ60は、
図10に示すようにリテーナ本体61の先端に検知片63を有する。リテーナ60は、リテーナ本体61の基端の軸受部62から延出した回転規制部64を有する。回転規制部64は、検知片63が受けた力によってリテーナ本体61がロック方向と反対方向に回転することを防止するようにコネクタ本体50の回転規制壁57に当接する。
【0080】
したがってパイプ30をコネクタ本体50に挿入することで、検知片63が径方向外方に移動する。回転規制部64がリテーナ本体61のロック方向と反対方向への回転を防止する。回転軸55を支点としてリテーナ本体61が弾性変形して回転エネルギを蓄える。回転エネルギは、回転軸55を支点としてリテーナ本体61の基端の軸受部62から離間するリテーナ本体61の先端で梃の原理により大きく作用する。かくしてリテーナ本体61の弾性変形を利用してリテーナ60が仮係止位置から本係止位置へ勢い良く回転できる。なおリテーナ60の先端の検知片63とバルジ32との当接位置を、中空路51に挿入されるパイプ30の軸中心よりも下側に設定しても良い。この構成であっても検知片63がバルジ32に当接して、リテーナ本体61が径方向外方へ弾性変形する。その反力を利用してリテーナ本体61がロック方向へ回転し、本係止位置へ移動する。
【0081】
第3実施形態を
図12,13に基づいて説明する。
図12に示すコネクタ70は、
図1に示すリテーナ20に代えて、リテーナ90を有する。リテーナ90は、
図6に示すリテーナ20の軸受部22と検知片23に代えて軸受部92と先端部93を有する。リテーナ90は、他の構成については
図6に示すリテーナ20と同様の構成を有する。リテーナ90は、リテーナ装着部14に適合する幅を有しかつ全体が略C字形状のリテーナ本体91を有する。リテーナ90は、リテーナ本体91の径方向内方へ張出した抜け止め片95を有する。抜け止め片95は、リテーナ本体91の前後幅の略半分の幅を有してリテーナ本体91の後縁に沿って位置する。抜け止め片95の周方向の中央部には逃がし凹部95aが形成される。
【0082】
図12に示すようにリテーナ本体91の基端(
図12において左側)には、回転軸15を挿入できる軸受部92が設けられる。軸受部92は、リテーナ90の前後幅にわたって断面略C字形状に開口する差込口92bを有する。軸受部92は、差込口92bから内方に円形状に凹んだ軸孔92aを有する。軸孔92aは、回転軸15よりもわずかに大きい内径を有する。リテーナ90は、コネクタ本体10に対して回転軸15を中心にパイプ30の軸方向に直交する面上において回転できる。
【0083】
図12に示すようにリテーナ90の基端には、径方向内方にくさび状に突出する駆動片(力受け片)94が設けられる。駆動片94は、軸受部92よりもさらにリテーナ本体91の端側に設けられる。駆動片94は、リテーナ90が仮係止位置の際に検知孔17から進入して中空路11に突出する。駆動片94は、張出した先端に張出部94bを有する。駆動片94には、前方から後方にかけて径方向内方から外方に向いてテーパ状に傾斜した傾斜面94aが形成される。傾斜面94aは、コネクタ本体10にパイプ30を挿入する際にバルジ32と当接する。傾斜面94aは、バルジ32によってパイプ30の軸方向に押される力を駆動片94の径方向外方への力に変換できるように軸方向に対して傾斜する。リテーナ90は、傾斜面94aで変換された駆動片94の径方向外方への力をロック方向(
図12において時計回り方向)への回転エネルギに変換するエネルギ変換機構96を有する。
【0084】
図12に示すようにリテーナ本体91の先端(
図12において右側)には、先端部93が設けられる。リテーナ本体91は、先端部93から駆動片94まで弧状に延びることでリテーナ装着部14の外周面の半周以上を覆う。コネクタ本体10とリテーナ90の間には、初期位置保持部材81が設けられる。初期位置保持部材81は、パイプ30をパイプ収容部12に挿入できるようにリテーナ90を初期位置で係止する。リテーナ90の初期位置は、本係止位置からロック方向と反対方向に回転した位置である。初期位置保持部材81は、例えばコネクタ本体10とリテーナ90の間に介在されるダストシールである。初期位置保持部材81は、例えばリテーナ装着部14とリテーナ90のそれぞれに設けられて互いに引き寄せ合う一対のマグネットである。また、図示のように移動規制縁16bと先端部93を対向させることでリテーナ90を仮係止位置に保持することもできる。
【0085】
コネクタ本体10に対するリテーナ90の係止構造について説明する。
図12に示すリテーナ90が仮係止位置に位置する状態から、パイプ30を中空路11内に挿入する。抜け止め片95は、リテーナ90が仮係止位置に位置する際には係止孔18からパイプ収容部12の外側に退避しており、パイプ30の進入または離脱を許容する。駆動片94の傾斜面94aがバルジ32と当接することで、駆動片94が検知孔17からバルジ32より外方へ押し出される。傾斜面94aがバルジ32の最外周面と当接する際に、駆動片94が径方向外方に押される移動量は最大になる。エネルギ変換機構96によってリテーナ本体91をロック方向へ回転させる回転エネルギが得られる。先端部93は、移動規制縁16bと対向する位置から径方向外方に移動する他、回転エネルギを妨げない状態になることで移動可能になる。これによりリテーナ本体91のロック方向への回転の規制が解除される。エネルギ変換機構96で得られた回転エネルギによって、リテーナ90が回転軸15を中心にして
図12に示す仮係止位置から
図13に示す本係止位置まで回転する。
【0086】
図13に示すようにパイプ30が挿入されて正規深さに達すると、駆動片94の全体が検知孔17から径方向外方に押し出される。抜け止め片95は、リテーナ90が本係止位置に回転する際に、係止孔18へと進入してバルジ32の後面側に隣接しかつパイプ本体31の後部31bの外周面の近くまで達する。駆動片94は、検知孔17から押し出されてバルジ32の最外周面と当接する状態ではリテーナ本体91のロック方向と反対方向への回転を規制する。かくしてパイプ30がコネクタ70に正規深さで保持される。
【0087】
上述するようにコネクタ70のエネルギ変換機構96は、
図12,13に示すように駆動片94の径方向外方への力によってリテーナ本体91を回転軸15を中心に仮係止位置から本係止位置へ回転させるトルクを発生させるように構成される。したがってコネクタ本体10にパイプ30を挿入する操作をするだけでリテーナ90が仮係止位置から本係止位置まで強制的に回転する。これによりリテーナ90は、コネクタ本体10に接続されたパイプ30を抜け止めできる。
【0088】
図12に示すようにリテーナ本体91は、リテーナ装着部14の外周面を覆うことが可能な長さを有して延びる。駆動片94は、リテーナ本体91の基端から径方向内方に張出す。軸受部92は、駆動片94よりもリテーナ本体91の径方向外方に設けられ、かつリテーナ本体91の基端よりもリテーナ本体の先端側に設けられる。コネクタ70は、コネクタ本体10に回転軸15を有し、軸受部92に回転軸15が挿通される軸孔92aを有する。
【0089】
したがってリテーナ90が仮係止位置に位置する際にパイプ30をコネクタ本体10に挿入すると駆動片94が径方向外方に移動する。リテーナ本体91の先端は、梃の原理によってリテーナ本体91の基端側の回転軸15を中心にして径方向内方に向けて回転する。この回転は、リテーナ90が仮係止位置から本係止位置に移動するロック方向の回転である。かくして駆動片94が径方向外方に移動することによって、リテーナ本体91を仮係止位置から本係止位置へ移動できる。このようにリテーナ本体91は、パイプ30を正規位置まで進入させることで強制的に変位して本係止位置まで確実に回転することができる。かくしてリテーナ90は、リテーナ装着部14に対して保持される。
【0090】
以上説明した第1~第3実施形態のコネクタ1,40,70には種々変更を加えることができる。コネクタ本体10,50とリテーナ20,60,90は、例えばアルミニウム等の金属製であっても良い。パイプ本体31とバルジ32は、例えば合成樹脂で一体に形成されていても良い。例えば、リテーナ20,60,90に回転軸を設け、コネクタ本体10,50に回転軸を支持する軸受部を設ける構成としても良い。
【0091】
検知片23,63の傾斜面23a,63aと駆動片24,94の傾斜面24a,94aに代えて、パイプ30のバルジ32の前面の外周部にテーパ状の傾斜面が設けられていても良い。換言すると、検知片23,63は、先端部に後面を有し、後面は、前後方向に延びる軸線に対して直交する面と略平行である。検知片23,63の後面は、パイプ30のバルジ32の前領域に形成された傾斜面によって径方向外方に押される。検知片23と駆動片24が径方向外方に移動するタイミングは、傾斜面23a,24aの勾配によって自由に設定できる。例えば検知片23と駆動片24が同時に径方向外方に移動しても良く。例えば検知片23が先に径方向外方に移動しても良い。
【0092】
軸孔22aは、上述するようにリテーナ本体21の径方向に長径が沿った長円形状である。これに代えて例えば
図14に示すリテーナ100のように、回転軸15より大きい略円形状の軸孔102aを設けても良い。リテーナ100のリテーナ本体101は、左領域の軸受部102に回転軸15を挿入できる差込口102bと、差込口102bの図示上方に設けられた軸孔102aを有する。軸孔102aは、差込口102bと連結して図示下方が断面略C字形状に開口した軸孔102aを有する。軸孔102aの内径は、回転軸15の外径より大きい。そのため回転軸15の相対位置が軸孔102a内において例えばリテーナ本体101の径方向に移動できる。駆動片24がパイプ30(
図7参照)のバルジ32によって径方向外方に押し出されることにより、回転軸15が軸孔102a内において例えば径方向に移動する。これによりリテーナ本体101の左領域が径方向外方に開くことができる。
【0093】
軸孔22aは、上述するように長円形状である。これに代えて例えば
図15に示すリテーナ105のように、回転軸15より大きい略長方形状の軸孔107aを設けても良い。リテーナ105のリテーナ本体106は、左領域の軸受部107に回転軸15を挿入できる差込口107bと、差込口107bの図示上方に設けられた軸孔107aを有する。軸孔107aは、下側中央部において差込口107bと連結している。軸孔107aは、回転軸15の外径とほぼ同じ短辺と、回転軸15の外径よりも大きい長辺を有する。そのため回転軸15が軸孔107a内において例えばリテーナ本体106の径方向に相対的に移動できる。駆動片24がパイプ30(
図7参照)のバルジ32によって径方向外方に押し出されることにより、回転軸15が軸孔107a内において例えば径方向に移動する。これによりリテーナ本体106の左領域が径方向外方に開くことができる。
【0094】
また、パイプ30が正規位置に達した際にバルジ32の最外周面以外の箇所が駆動片24,94を押し出し、バルジが駆動片24,94を押し出した状態を維持する構成であっても良い。例えばバルジ32の外周縁が前後方向に見て非円形でない構成であっても良い。バルジ32の径方向長さが一番長い箇所と異なる箇所が検知片23または駆動片24を押す構成であっても良い。あるいはバルジ32を軸方向に移動させるのではなく、バルジ32を軸中心に回転させて、バルジ32の外周縁の一部が検知片23または駆動片24を押す構成であっても良い。例えば駆動片24,94は、上記するように前方から後方にかけて径方向内方から外方に向いて傾斜した傾斜面24a,94aを後面に有する。これに代えて傾斜面24a,94aとは逆に前方から後方にかけて径方向外方から内方に向いて傾斜した傾斜面を駆動片24,94の前面に設ける構成としても良い。これによりパイプ30を挿入方向と反対方向に引っ張る際に駆動片24,94の前面の傾斜面とバルジ32が当接してリテーナ本体21,91をロック方向に強制的に回転させることができる。
【0095】
図8に示すようにパイプ30は、パイプ本体31から径方向に張出したバルジ32を有する。バルジ32の前領域には、前方ほど径が小さくなる傾斜面が形成されている。
図1に示すようにパイプ30をコネクタ本体10の中空路11内に挿入した際、バルジ32の傾斜面が検知片23または駆動片24を押す。傾斜面は、検知片23と駆動片24をバルジ32の外周面へガイドする。
図8に示すパイプ30に代えて、
図16に示すパイプ110を利用しても良い。
【0096】
図16に示すようにパイプ110は、中空円筒状のパイプ本体111と、パイプ本体111の外周面から径方外方に突出するバルジ112を有する。バルジ112の前領域と後領域に傾斜面が形成されていない、あるいは小さな傾斜面が形成されている。小さな傾斜面は、例えばパイプ110をコネクタ本体120の中空路(流路120h)に挿入した際に、
図1に示すリテーナ20の検知片23または駆動片24に接触しない程度に径が小さい。
【0097】
図16に示すようにパイプ本体111の前方には、先細り状の先端部
113が形成される。パイプ110は、
図8に示すコネクタ本体10と
図16に示すコネクタ本体120のいずれにも装着可能である。
図16に示すコネクタ本体120は、
図8に示すコネクタ本体10に似た構成であり、チューブ接続部123とリテーナ装着部124を有する。チューブ接続部123の流路123aとリテーナ装着部124の流路124cは、連通口120kを介して連通し、連通口120kは、流路123a,124cの径と略同じ大きさの径を有する。コネクタ本体120の外周には、前側フランジ124aと後側フランジ124bが前後に並列して設けられる。前側フランジ124aと後側フランジ124bの間のリテーナ装着部124にリテーナ20が装着される。コネクタ本体120の前領域
内周には、Oリング120aとブッシュ120bが装着される。
【0098】
添付の図面を参照して詳細に上述した種々の実施例は、本発明の代表例であって本発明を限定するものではありません。詳細な説明は、本教示の様々な態様を作成、使用および/または実施するために、当業者に教示するものであって、本発明の範囲を限定するものではありません。更に、上述した各付加的な特徴および教示は、改良されたコネクタおよび/またはその製造方法と使用方法を提供するため、別々にまたは他の特徴および教示と一緒に適用および/または使用され得るものです。