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特許7585224ポリアクリロニトリル系ポリマーの均一溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ポリアクリロニトリル系ポリマーの均一溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/11 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
C08J3/11 CEY
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021557931
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 US2020025339
(87)【国際公開番号】W WO2020205562
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】62/825,894
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クマール, ヴァルン
(72)【発明者】
【氏名】ミルズ, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】モスコヴィッツ, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】クック, ジョン デズモンド
(72)【発明者】
【氏名】スミス, ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ハーモン, ビリー
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038539(WO,A1)
【文献】特開2013-119202(JP,A)
【文献】特開2003-340253(JP,A)
【文献】特開2002-045671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
D01F 1/00-6/96;9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解されたポリアクリロニトリル系ポリマーを含む均一溶液の製造方法であって、
a)20℃~30℃の温度で、粉末形態の前記ポリアクリロニトリル系ポリマーを、非溶媒を含まない前記ポリマー用の溶媒と直接組み合わせること、
b)ステップa)で得られる組合せに、20℃~30℃の温度で少なくとも1つのローターステーターの剪断作用を受けさせて、実質的に均一な分散を製造すること、及び
c)ポリアクリロニトリル系ポリマーを完全に溶解するために十分な温度及び時間で、ステップb)で得られる分散体を加熱し、それによって、均一溶液を形成すること
を含み、
ステップa)及び/又はb)が、
粉末入口、
オーガー、
溶媒入口、
1つ以上の溶媒注入孔を含む注入マントル、
少なくとも1つのローターステーター、及び
生成物出口
を含む分散装置において実行され、
前記少なくとも1つのローターステーターが、前記注入マントルの下流に配置されている、方法。
【請求項2】
ステップa)が、ポリアクリロニトリル系ポリマーを分布させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)が、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマー流上に溶媒の1つ以上の微細流を噴霧することによって実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)及び/又はステップb)が、25℃~30℃の温度で実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアクリロニトリル系ポリマーが、アクリロニトリルと、ビニルベースの酸、ビニルベースのエステル、ビニルアミド、ハロゲン化ビニル、ビニル化合物のアンモニウム塩、スルホン酸のナトリウム塩、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーとから誘導される繰り返し単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアクリロニトリル系ポリマーが、アクリロニトリルと、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、メタクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソプロピルアセテート、ビニルアセテート(VA)、ビニルプロピオネート、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、ジアセトンアクリルアミド(DAAm)、塩化アリル、臭化ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAMPS)、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーとから誘導される繰り返し単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びエチレンカーボネート(EC)からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非溶媒が水である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのローターステーターの剪断作用が、約30,000秒-1~約46,000秒-1 剪断速度を提供する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップb)が、10秒以下で実行される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)で得られる分散体が加熱されるステップc)における温度が、約60℃~約100℃である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)における加熱が、ホット/デッドスポットを形成することなく均一に実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップc)における加熱が、プラグフロー静的混合機熱交換器において実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)における加熱時間が、約1分~約5分である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
連続的に実行される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
製造された均一溶液が、ゲル及び/又は凝集ポリマーを含まない、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上の溶媒注入孔が、前記注入マントルによって形成されるチャンバーの側面に沿って位置される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の溶媒注入孔の直径が、1~5mmである、請求項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法に従って、均一溶液を製造するためのシステムであって、
i)前記分散装置、並びに
ii)プラグフロー静的混合機熱交換器
を含むシステム。
【請求項21】
前記分散装置において、粉末入口が垂直に配置されており、及び粉末入口の下流にある溶媒入口が、粉末入口に対して実質的に垂直に配置される1つ以上の溶媒注入孔を供給する、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記1つ以上の溶媒注入孔の直径が、1~5mmである、請求項20又は21に記載のシステム。
【請求項23】
iii)サージタンク、
iv)第1及び第2のポンプ、並びに
v)回収トート
をさらに含み、
サージタンクは、分散装置とプラグフロー熱交換器との間で連結されており、
第1のポンプは、分散装置とサージタンクとの間で連結されており、及び
第2のポンプは、サージタンクとプラグフロー静的混合機熱交換器との間で連結されている、請求項20~22のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月29日日出願の米国仮特許出願第62/825,894号の優先権を主張し、その全内容は、この参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般にポリアクリロニトリル系ポリマーの溶液の製造方法に関する。製造されたポリアクリロニトリル系ポリマーの溶液は、炭素繊維、典型的には複合材料の製造に使用される炭素繊維を製造するために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は、高い強度及び剛性、高い耐化学薬品性、並びに低い熱膨張などのそれらの望ましい特性のため、多種多様な用途に使用されてきた。例えば、炭素繊維は、同等特性の金属構成要素よりも著しく軽い重量を持ちながら、高い強度と剛性とを組み合わせている構造部品へ成形することができる。炭素繊維は、とりわけ航空宇宙及び自動車用途向けの複合材料における構造構成要素として、ますます使用されつつある。特に、炭素繊維が樹脂又はセラミックマトリックス中の強化材料として機能する複合材料が開発されてきた。
【0004】
アクリロニトリル由来の炭素繊維は、通常、重合、紡糸、延伸及び/又は洗浄、酸化、並びに炭化を含む一連の製造ステップ又は段階によって製造される。ポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーは、現在炭素繊維の最も幅広く使用されている前駆体である。一般に、PANポリマーは、ポリマーが可溶性である溶媒中で製造され得、それによって前駆体繊維へと容易に紡糸される、典型的にスピン「ドープ」と呼ばれる溶液中で作製される。或いは、PANポリマーは、得られるポリマーが難溶性又は不溶性である媒体、典型的には水性媒体中で作製されることができる。そのようなポリマーは単離され、前駆体繊維への紡糸のためのスピンドープを製造する際に使用される適切な形態へと加工される。
【0005】
理想的には、紡糸溶液は高濃度で所望のPANポリマーを含有しなければならず、且つ均質で、ゲルを含まないものでなければならない。しかしながら、工業規模で炭素繊維を製造するために十分な様式で固体ポリアクリロニトリル系ポリマーを溶媒と組み合わせることによる、そのような溶液の形成は難しい。溶媒によっては、ポリマー粒子が溶媒と接触する場合に、ポリマー粒子が互いに接着し、それによって凝集体を形成する傾向があり、これは好ましくない。いくつかの溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)は、PAN用の溶媒として有効であり、室温、すなわち、約20℃においても、DMSOの存在下でPANポリマーの粉末状粒子が互いに接着して凝集体を形成し、系の粘度が早期に増加することに加えて、溶媒に溶解するのが困難なゲル及び合体した塊を形成する。したがって、ゲル及び不溶性凝集体の形成は、他の課題の中でも、工業用フィルターの急速な詰まり、頻繁なスピナレット変更につながる。これは工業用プロセス、特に連続プロセスに適切ではない。
【0006】
米国特許第4,403,055号明細書及び同第9,296,889号明細書は、ポリマーに関してその可溶化容量を減少するために、DMSOに水を添加することを一般に開示する。しかしながら、そのようなプロセスには、減圧下での加熱によって関連する水の量を除去する必要性を有するという有意な欠点があり、これは長時間及び高エネルギーの支出を必要とする。
【0007】
固体ポリマーと液体溶媒との混合の間、低温(例えば5℃~10℃の範囲の温度)で操作することによって、溶媒中でのポリマーの溶解を限定することが可能である。しかしながら、DMSOの場合、そのような方法は、DMSOの高い融点(18.5℃)のために使用不可能である。室温よりわずかに低い温度においては、DMSOは典型的に固体相である。米国特許第4,324,707号明細書は、溶解の動力学を減少させるために低温(18℃未満、DMSOの凝固点未満)でポリアクリロニトリルポリマーをDMSOによって処理することを開示するが、ポリアクリロニトリルポリマーの溶液ではなく、ポリアクリロニトリルポリマー及びDMSOの遊離流動粒子が提供される。
【0008】
したがって、工業設定において、炭素繊維、例えば複合材料を製造する際に使用される炭素繊維を製造する際に使用される高い固体濃度を有し、透明な、凝集体を含まない及び/又はゲルを含まないポリアクリロニトリル系ポリマー溶液を製造するためのプロセスが、現在も必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示の目的は、ゲル及び/又は凝集ポリマーを含有しない均一な溶液を製造するためのプロセスであって、工業プロセス、特に連続プロセスで炭素繊維、例えば複合材料を製造する際に使用される炭素繊維を製造する際に使用するために適切なプロセスを提供することである。
【0010】
この目的及び以下の詳細説明から明らかにされる他の目的は、全体で、又は一部において、本開示のプロセスによって応じられる。
【0011】
第1の態様において、本開示は、溶解されたポリアクリロニトリル系ポリマーを含む均一な溶液を製造するためのプロセスであって、
a)周囲温度で、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーを、非溶媒を含まないポリマー用の溶媒と直接組み合わせること、
b)ステップa)で得られる組合せに、周囲温度で少なくとも1つのローターステーターの剪断作用を受けさせて、実質的に均一な分散を製造すること、及び
c)ポリアクリロニトリル系ポリマーを完全に溶解するために十分な温度及び時間で、ステップb)で得られる分散体を加熱し、それによって、均一な溶液を形成すること
を含むプロセスに関する。
【0012】
第2の態様において、本開示は、本明細書に記載される均一溶液を製造するためのシステムであって、
i)以下:
粉末入口、
オーガー、
溶媒入口、
1つ以上の溶媒注入孔を含む注入マントル、
少なくとも1つのローターステーター、及び
生成物出口
を含む分散装置、並びに
ii)プラグフロー静的混合機熱交換器
を含むシステムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本明細書で記載される分散装置の実施形態の切開図を示す。
図2】本明細書で記載される本発明のプロセスによって製造される均一なポリアクリロニトリル系ポリマー溶液の、圧力試験における時間の相関関係としての圧力上昇のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味し、互いに交換して使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」という用語は、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」を包含する。「含む(comprising)」という用語は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を包含する。
【0016】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語の全ては、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0017】
本明細書で使用する場合、特に指示がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能なエラーを意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0018】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、そこに包含される全ての部分的な範囲を含むことを意図することが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間及びそれを含む全ての部分的な範囲を含むことを意図する;すなわち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定された様々な数値範囲は概算値である。
【0019】
「含まない」という句は、句によって修飾された材料の外部添加がないこと、及び/又は、例えば、気体又は液体クロマトグラフィー、分光光度法、光学顕微鏡法などの前記材料を検出するための当業者に公知の分析技術によって観察され得る検出可能な前記材料がないことを意味する。「本質的に含まない」という句は、句によって修飾された材料の不可避のレベルがあり得るが、それは、そのような材料を含有する組成物の特性などに物質的に影響を及ぼさないことを意味する。
【0020】
本開示の第1の態様は、溶解されたポリアクリロニトリル系ポリマーを含む均一な溶液を製造するためのプロセスであって、
a)周囲温度で、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーを、非溶媒を含まないポリマー用の溶媒と直接組み合わせること、
b)ステップa)で得られる組合せに、周囲温度で少なくとも1つのローターステーターの剪断作用を受けさせて、実質的に均一な分散を製造すること、及び
c)ポリアクリロニトリル系ポリマーを完全に溶解するために十分な温度及び時間で、ステップb)で得られる分散体を加熱し、それによって、均一な溶液を形成すること
を含むプロセスに関する。
【0021】
ステップa)のプロセスは、周囲温度で、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーを、非溶媒を含まないポリマー用の溶媒と直接組み合わせることである。
【0022】
粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーは、商業的供給源から得られてもよく、又は当業者に周知の方法に従って合成されてもよい。ポリアクリロニトリル系ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい。
【0023】
一実施形態において、ポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルと、ビニルベースの酸、ビニルベースのエステル、ビニルアミド、ハロゲン化ビニル、ビニル化合物のアンモニウム塩、スルホン酸のナトリウム塩、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーとから誘導される繰り返し単位を含む。
【0024】
別の実施形態において、ポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルと、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、メタクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソプロピルアセテート、ビニルアセテート(VA)、ビニルプロピオネート、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、ジアセトンアクリルアミド(DAAm)、塩化アリル、臭化ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAMPS)、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーとから誘導される繰り返し単位を含む。
【0025】
コモノマーの比率(アクリロニトリルの量に対する1種以上のコモノマーの量)は特に限定されない。しかしながら、適切なコモノマーの比率は、0~20%、典型的には1~5%、より典型的には1~3%である。
【0026】
上記プロセスによる使用のために適切なポリアクリロニトリル系ポリマーのモル重量は、60~500kg/モル、典型的に90~250kg/モル、より典型的に115~180kg/モルの範囲である。
【0027】
ポリマー用の溶媒は、ポリマーを典型的に完全に溶解することのできるいずれの化合物も指す。適切な溶媒の例としては、限定するものではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びエチレンカーボネート(EC)が挙げられる。一実施形態において、溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0028】
本開示のプロセスに従って、ポリアクリロニトリル系ポリマーと組み合わせられる溶媒は、非溶媒を含まない。本明細書で使用される場合、非溶媒とは、ポリアクリロニトリル系ポリマーを溶解しないいずれの化合物も指す。一実施形態において、ポリマーの溶媒は水を含まない。
【0029】
ステップa)の周囲温度で、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーを、ポリマー用の溶媒と直接組み合わせることは、当業者に周知のいずれの様式においても達成可能である。一実施形態において、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマーを、ポリマー用の溶媒と直接組み合わせることは、粉末形態のポリアクリロニトリル系ポリマー流上に溶媒の1つ以上の微細流を噴霧することによって実行することができる。
【0030】
ステップa)は、ポリアクリロニトリル系ポリマーを分布させることをさらに含み得る。本明細書で使用される場合、ポリアクリロニトリル系ポリマーを分布させることは、ポリマー粒子がステップb)でより良好に分散し得るように、粉末状のポリマーの集合又は凝集体をより小さい粒子へと分解することを指す。
【0031】
本プロセスによると、ステップa)は周囲温度で実施される。一実施形態において、ステップa)は、20℃~40℃、典型的に25℃~30℃の温度で実施される。
【0032】
本開示のプロセスのステップb)は、a)で得られる組合せ、すなわち、ポリアクリロニトリル系ポリマー及びポリマー用の溶媒に、少なくとも1つのローターステーターの剪断作用を受けさせて、実質的に均一な分散を製造することである。
【0033】
本プロセスによると、ステップb)は周囲温度で実施される。一実施形態において、ステップb)は、20℃~40℃、典型的に25℃~30℃の温度で実施される。別の実施形態において、ステップa)及びステップb)は、20℃~40℃、典型的に25℃~30℃の温度で実施される。
【0034】
ポリアクリロニトリル系ポリマーとポリマー用の溶媒との組合せが受ける剪断作用は、少なくとも1つのローターステーターによって提供される。本明細書で使用される場合、ローターステーターは、その中に配置されるステーターと呼ばれる静止部分と、ローターと呼ばれる回転部分とを有するアセンブリである。ステーターはローターとそれ自体との間でクロースクリアランスギャップを作成し、このギャップで材料のための高剪断帯を形成する。材料の1つの領域が隣接した領域中の材料に対して異なる速度で移動する場合、材料は剪断を受ける。ローター及び/又はステーターは、ローター及びステーターの間のギャップに現れる乱流エネルギー及び剪断に影響を及ぼす歯の間の開口部を提供する歯の1つ以上の列又は環をそれぞれ含み得る。ローターは、ポリアクリロニトリル系ポリマーとポリマー用の溶媒との組合せの平滑なフローを容易にする特徴、例えばポンピングレッグも有し得る。ローター及び/又はステーター上の歯の列数及びそれぞれの列中の歯の数は、ポリマー及び溶媒のフローを妨げることなく適切な剪断作用が達成される限り、特に限定されない。例えば、歯の列が多いほど、より高い剪断速度が提供され得るが、ポリマー及び溶媒の詰まり、過熱、偏流及び渋滞が起こり得る。
【0035】
ローターステーターは、高いローターチップ速度を生じる高い回転速度で典型的に運転される。ローター及びステーターの間の速度が異なることによって、ローター及びステーターの間のギャップに極めて高い剪断及び乱流エネルギーが与えられる。ローター及びステーターの間のギャップの剪断の量は、方程式t=V/g(秒-1の単位)与えられる剪断速度(t)によって特徴づけられてよい。式中、Vはローターのチップ速度(m/秒)であり、そしてgはローター歯及びステーター歯の間のギャップ距離(m)である。ローターの外側円周における点の線形速度であるチップ速度(V)は、方程式V=πDnによって表される。式中、Dはローターの直径(メートル)であり、そしてnはローターの回転速度(回転/秒)である。当業者は、プロセスで使用される剪断作用を生じるために適切な剪断速度を得るために、上記パラメーターを調整する方法を理解する。
【0036】
本開示のプロセスにおいて、少なくとも1つのローターステーターの剪断作用は、約30,000秒-1~約46,000秒-1、典型的に約33,000秒-1~約38,000秒-1の剪断速度を提供する。
【0037】
ステップb)が実施される時間は、10秒以下、典型的に5秒以下、より典型的に3秒以下であり得る。
【0038】
ポリアクリロニトリル系ポリマーの実質的に均一な分散体は、次いで、次のステップ、ステップc)において、ポリアクリロニトリル系ポリマーを完全に溶解するために十分な温度及び時間(加熱時間とも呼ばれる)で加熱され、それによって均一な溶液が形成される。本明細書で記載されるプロセスでは、ステップc)の加熱は、当業者に周知のいずれかの方法を使用して実施され得る。有利には、加熱はホット及び/又はデッドスポットを形成することなく均一に実施される。ホットスポットはポリマー及び/又は溶媒の燃焼を導き、デッドスポットはポリマーの非溶解をもたらす。ステップc)における加熱は、例えばシェルアンドチューブ熱交換器において実施され得る。一実施形態において、ステップc)の加熱は、プラグフロー静的混合機熱交換器において実施される。
【0039】
一実施形態において、ステップb)で得られる分散が加熱されるステップc)の温度は、約60℃~約100℃、典型的に約65℃~約85℃、より典型的に約70℃~約80℃である。特に明記しない限り、ステップb)で得られる分散が加熱される温度は、分散体中で測定される温度を指す。
【0040】
一実施形態において、ステップc)の加熱時間は、約1分~約5分、典型的に約3分である。ステップc)における加熱がプラグフロー静的混合機熱交換器で実施される場合、当業者は、加熱時間が、熱交換器中での分散体のホールドアップ及び熱交換器による分散体のフロー速度の比率であることを理解する。
【0041】
本開示のプロセスは、バッチ式又は連続的に実施され得る。しかしながら、一実施形態において、プロセスは連続的に実施される。
【0042】
本明細書で記載されるプロセスによって製造される均一な溶液は、ゲル及び/又は凝集ポリマーを典型的に含まない。ゲル及び/又は凝集ポリマーの存在は、当業者に周知のいずれかの方法を使用して決定され得る。例えば、ヘグマン(Hegman)ゲージを使用して、ゲル及び/又は凝集ポリマーの存在を決定してもよい。本明細書で記載されるプロセスによって製造される均一な溶液は、一般に安定であり、経時的にゲル形成を示さない。
【0043】
製造される均一な溶液は、炭素繊維に変換されることが可能な炭素繊維前駆体繊維を製造するためのスピンドープとして使用され得る。均一溶液は、溶液の総重量を基準として少なくとも10重量%、典型的には約16重量%~約28重量%、より典型的には約19重量%~約24重量%のポリマー濃度を有し得る。
【0044】
本明細書で記載されるプロセスは、少なくとも600ポアズ、典型的に600~2000ポアズの範囲の粘度を有する、ポリアクリロニトリル系ポリマーの均一な溶液を製造するために適切である。
【0045】
第2の態様において、本開示は、本明細書に記載される均一溶液を製造するためのシステムであって、
i)以下:
粉末入口、
オーガー、
溶媒入口、
1つ以上の溶媒注入孔を含む注入マントル、
少なくとも1つのローターステーター、及び
生成物出口
を含む分散装置、並びに
ii)プラグフロー静電気混合機熱交換器
を含むシステムに関する。
【0046】
一実施形態において、本明細書で記載されるプロセスのステップa)又はステップb)を実行するために分散装置が使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるプロセスのステップa)及びステップb)を実行するために分散装置が使用される。
【0047】
本明細書で記載されるプロセスの1つ以上のステップを実行するためにそれが使用され得るシステム及び様式は、さらに詳細に記載される。しかしながら、以下の記載は、上記と同様に例証となることを意味し、並びに、それらが添付の請求の範囲に含まれる限り、及びその範囲まで、そのような詳細が開示の対象の範囲を制限するものとして考えられるようには意図されない。
【0048】
一般に、図1で示すように、ポリアクリロニトリル系ポリマーは、粉末形態で、分散装置(100)の粉末入口(101)に供給される。粉末入口の直後にあるオーガー(102)、典型的にスクリューオーガーは、非溶媒を含まないポリマー用の溶媒がそれを通して噴霧される1つ又はそれ以上の溶媒注入孔を含む、実質的に円柱形の注入マントル(103)によって形成されるチェンバー中にポリマー粉末を機械的に供給する。1つ以上の溶媒注入孔は、注入マントル中に、したがって、それによって形成されるチェンバーの側面に沿って位置し、溶媒入口(104)によって供給される。ポリマー粉末は、注入マントルによって提供される1つ以上の溶媒注入孔を通して注入される溶媒と組み合わせられる。典型的に、溶媒の1つ以上の微細流は、ポリアクリロニトリル系ポリマー粉末流上へ噴霧される。
【0049】
一実施形態において、粉末入口は垂直に配置され、及び粉末入口の下流にある溶媒入口は、粉末入口に対して実質的に垂直に配置される1つ以上の溶媒注入孔を供給する。
【0050】
1つ以上の溶媒注入孔の直径は、特に限定されない。しかしながら、ポリマー粉末が詰まる可能性を減少するために、1つ以上の溶媒注入孔の直径は、1~5mm、典型的に1~2mmである。
【0051】
ポリマー粉末及びポリマーの溶媒の組合せにさらに付け加えると、溶媒の中でのポリマー粉末の分布は、システムによっても達成され得る。
【0052】
本明細書で記載される分散装置は、注入マントルの下流に配置される少なくとも1つのローターステーター(105)を含む。組み合わせたポリマー粉末/溶媒は、少なくとも1つのローターステーターに提供される。ローターステーターは、高いローターチップ速度を生じる高い回転速度で運転する。ローター及びステーターの間の速度が異なることによって、ローター及びステーターの間のギャップに極めて高い剪断及び乱流エネルギーが与えられる。少なくとも1つのローターステーターの剪断作用は、約30,000秒-1~約46,000秒-1、典型的に約33,000秒-1~約38,000秒-1の剪断速度を提供する。組み合わせたポリマー粉末/溶媒は、ポリマー粉末粒子がポリマー用の溶媒を通して均一に分散するが未溶解のままである、実質的に均一な分散体を生じるように、上記の少なくとも1つのローターステーターの剪断作用を受ける。次いで、ポリマー分散体は、生成物出口(106)から回収される。
【0053】
次いで、分散装置の生成物出口から回収されるポリマー分散体は、溶媒中にポリアクリロニトリル系ポリマーを溶解し、それによって均一溶液が形成されるように分散体を加熱するために使用される、プラグフロー静的混合機熱交換器に移される。生成物出口から回収されるポリマー分散体は、当業者に周知のいずれの装置及び/又は方法を使用して、プラグフロー静的混合機熱交換器へ移されてよい。例えば、ポリマー分散体は、分散装置の生成物出口からサージタンク中にポンプ輸送され得、次いで、プラグフロー静的混合機熱交換器にポンプ輸送され得る。
【0054】
したがって、一実施形態において、本開示のシステムは、
iii)サージタンク、
iv)第1及び第2のポンプ、並びに
v)回収トート
をさらに含み、
サージタンクは分散装置とプラグフロー熱交換器との間で連結されており、
第1のポンプは分散装置とサージタンクとの間で連結されており、及び
第2のポンプはサージタンクとプラグフロー静的混合機熱交換器との間で連結されている。
【0055】
本明細書で記載されるプロセス及びシステムは、以下の非限定的な実施例で示される。
【実施例
【0056】
実施例1.均一PAN(2%のMAA)ポリマードープの形成
多数の試験で、粉末形態の2%メタクリル酸コモノマー(MW 188,000g/mol)を有するPANポリマーを、水を含まないDMSOと周囲温度で直接組み合わせ、そして組み合わせたものを周囲温度で剪断し、実質的に均一な分散を製造した。DMSOは、使用前に0.5ミクロンフィルターで濾過された。実質的に均一な分散体を製造するために使用される装置は、1mmの溶媒注入孔を複数含む注入マントル、及びローターがポンピングレッグとともに1列の4歯を有し、ステーターが1列の15歯を有するローターステーターが取り付けられたIKA MHD-2000/5分散装置であった。製造される実質的に均一な分散体は、IKA MHD-2000/5分散装置からサージタンクにポンプ輸送され、次いで、それに連結したプラグフロー静的混合機熱交換器(HX)へ移された。次いで、得られた分散体を、完全にポリマーを溶解するために熱交換器中で加熱し、そして、それによって均一な溶液が形成された。試験条件を表1に要約する。
【0057】
【0058】
剪断データを表2に要約する。
【0059】
【0060】
HAN勾配分析によって決定されたポリマードープのレオロジーに基づく変化は、4日間の老化後にポリマードープ中に観察されなかった。これは、本プロセスによって形成されるドープが、経時的にゲルを形成することなく、安定であることを示す。
【0061】
実施例2.均一PAN(2%のMAA)ポリマードープの紡糸
多数の試験において、実施例1で製造された均一PANポリマードープを湿式紡糸又はエアギャップ紡糸し、そして各試験のフィルター圧力上昇を記録した。紡糸の前に、実施例1で製造された均一PANポリマードープを、種々の温度及び減圧下で維持されたトート中に貯蔵した。種々のフィルターを使用してドープを事前に濾過した。フィルターの入口と出口との間の圧力の差異から、100リットルのポリマードープあたりの平均的圧力上昇を算出した。結果を下記の表3に要約する。フィルターを通るフラックス速度は、20~30L/m時間で様々であった。フラックス速度は、フィルターの単位表面積あたりのポリマー流速である。下記の紡糸試験の実行時間は、12~36時間の間で様々であった。フィルターを通してポンプ輸送される全ドープは、500lb~700lbの間で様々であった。
【0062】
【0063】
表3に示すように、無視できる程度の圧力上昇があるか、又は圧力上昇がなかった。これは、完全な溶解があり、溶解していない粒子がないことを示す。
【0064】
実施例3.均一PAN(8%のMAA)ポリマードープの形成
多数の試験で、粉末形態の8%メタクリル酸コモノマー(MW 140,000g/mol;固有粘度1.5)を有するPANポリマーを、水を含まないDMSOと周囲温度で直接組み合わせ、そして組み合わせたものを周囲温度で剪断し、実質的に均一な分散を製造した。DMSOは、使用前に0.25ミクロンフィルターで濾過された。下記のポリマーの濃度は、22.8~24.7%であった。使用された装置は、実施例1で使用されたものと同一であった。剪断データ及び加熱条件は、それぞれ、下記の表4及び5に要約される。
【0065】
【0066】
【0067】
本実施例によって製造されたポリマードープのレオロジーは、製造されたそれぞれのポリマードープのHAN勾配を決定することによって評価された。HAN勾配は、貯蔵弾性率対クロスオーバー弾性率をプロットすることによって決定される。溶液重合によって製造され、したがって均一であるPAN系ポリマー溶液のHAN勾配は、典型的に1.7のHAN勾配を有する。本発明の溶解プロセスによって製造される試料(実施例F~M)は、全て1.68~1.7の範囲のHAN勾配を有した。このことから、製造された溶液の全てが溶液重合によって製造されたポリマーと同等に均一であると結論づけることができ、また記載された条件ではゲルが形成されなかったことが確認される。
【0068】
次いで、圧力試験機を使用して試料を試験した。圧力試験機は、試験で使用されるフィルターの表面積が小さいため、非常に高いフラックス速度(1800L/m時間)を有する装置である。高いフラックス速度のために、フィルターは速く詰まる傾向があり、そして少量の試料が必要とされる状態で、種々の異なる溶液をより迅速に試験することができる。この試験の2時間は、連続紡糸ラインでの実施の7日間に等しい。圧力試験機から結果は、溶解していない粒子の指標を提供して、フィルター寿命を評価する。より低い圧力低下は、より長いフィルター寿命を示す。全ての試料は、10ミクロンフィルターを使用して試験された。この試験に関して、フィルターブロック温度は45℃に設定され、そして15cc/分の流速が使用された。
【0069】
圧力上昇を時間の相関関係として記録し、プロットして、それから勾配を得た。プロットを図2に示す。種々の試験に関する勾配の要約を下記の表6に示す。
【0070】
【0071】
勾配が小さいほど、フィルター寿命が長く、そして溶解していない粒子が低いことを示す。表6に示すように、ローター速度が低く(4350RPM)、加熱温度が高く(80℃)、且つ加熱時間が短い(2.36分)実施例Kが最良の結果を与えた。この結果は、特に連続プロセスにおいて、ローター速度が低いほど、溶解の温度が高いほど、そして熱交換器の滞留時間が短いほど、最適フィルター寿命が提供されることを示す。
図1
図2