(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】TRPC6阻害剤
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20241111BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20241111BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241111BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241111BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241111BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241111BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241111BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20241111BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241111BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C07D401/14 CSP
A61K31/501
A61P1/16
A61P9/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P21/00
A61P25/04
A61P35/00
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2021560094
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2020059854
(87)【国際公開番号】W WO2020208002
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-04-03
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ゴッチュリング ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ブーイスー ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ハイネ ニクラス
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/161010(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/081637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K 31/
A61P
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
(I)
(式中、
Aは、N
を表し、
Xは、CH又はNから選択され、
R
1は、H、-CH
3、及び-OCH
3からなる群から選択され、
R
2は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
R
3は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
R
4は、H、-CF
3、及び-OCH
3からなる群から選択され、
R
5は、H、-F、及び-OCH
3からなる群から選択される)
又はその塩。
【請求項2】
R
2は、Hを表し、
かつR
3は、H及び-CH
3からなる群から選択され
る、又は
R
2は、-CH
3を表し、
かつR
3は、Hを表
す、
請求項1に記載の化合物、
又はその塩。
【請求項3】
R
1は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
R
4は、-CF
3及び-OCH
3からなる群から選択される、
請求項1に記載の化合物、
又はその塩。
【請求項4】
R
1は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
R
4は、-OCH
3を示す、
請求項1に記載の化合物、
又はその塩。
【請求項5】
R
1は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
Xは、CHを表し、
R
4は、-OCH
3を表し、
R
5は、Hを表す、
請求項1に記載の化合物、
又はその塩。
【請求項6】
R
1は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
Xは、Nを表し、
R
4は、-OCH
3を表し、
R
5は、Hを表す、
請求項1に記載の化合物、
又はその塩。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6に記載の式(Ia)、(Ib)又は(Ic)の化合物:
【化2】
又はそれらの塩。
【請求項8】
以下からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物:
【表1】
【請求項9】
請求項8に記載の化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項10】
請求項1~8に記載の化合物のいずれか1つ又はその薬学的に許容される塩
を含み、及び任意選択で薬学的に許容される賦形剤を含
んでいてもよい、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~8の一項以上に記載の1つの化合物及び1つ以上の追加の治療剤を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
TRPC6阻害によって軽減することができる疾患又は障害を処置するための、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ヒト又は動物の身体を処置するための方法で使用するための、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ヒト又は動物の身体におけるTRPC6媒介性障害を処置するための方法で使用するための、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
TRPC6調節によって軽減することができる疾患又は障害の処置のための医薬組成物を調製するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓及び呼吸状態、腎疾患、肝疾患、筋ジストロフィー、線維性障害、疼痛、虚血又は虚血再灌流傷害、及びがんを処置するため、並びに一過性受容体電位C6イオンチャネル(TRPC6)を阻害するための医薬化合物、組成物、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜を通るイオン流束を媒介するために、様々なイオンチャネルタンパク質が存在する。イオンチャネルタンパク質の適切な発現及び機能は、細胞機能、細胞内コミュニケーションなどの維持に不可欠である。細胞恒常性を達成するための重要な一面は、発達中に及び多くの刺激に応答して、様々な細胞種で適切なイオン濃度を維持することである。非常に多くの様々な種類のイオンチャネルは、原形質膜を通ってイオンを細胞内及び細胞外に移動させることにより、かつ、細胞内では、例えば、小胞体、筋小胞体、ミトコンドリア、並びにエンドソーム及びリソソームを含むエンドサイトーシス小器官を含む、細胞内小器官の膜を通ってイオンを移動させることにより、細胞恒常性を維持するように作用する。多くの疾患は、膜電位の調節不全又は異常なカルシウムハンドリングの結果である。細胞における膜電位及びイオン流束の調節におけるイオンチャネルの中心的な重要性を考慮すると、特定のイオンチャネルを促進又は阻害することができる薬剤の同定は、研究ツール及び可能性のある治療剤として非常に興味深い。
そのようなチャネルの1つは、一過性受容体電位C6(TRPC6)チャネルである。TRPC6は、TRPイオンチャネルのより大きなファミリーに属している(Desai et al.,2005 Eur J Physiol 451:11-18;Clapham et al.,2001 Nat Rev.Neurosci 2:387-396;Clapham,2003 Nature 426:517-524)。TRPC6は、カルシウム透過性チャネル、具体的には、非選択的カルシウム透過性陽イオンチャネルである。カルシウムイオンに加えて、TRPC6チャネルは、他の陽イオン、例えばナトリウムに対して透過性である。従って、TRPC6チャネルは、細胞内カルシウム濃度だけでなく、カルシウム及びナトリウムイオンを含む陽イオンの流束を調節することによって膜電位も調節する。TRPC6などの非選択的陽イオンチャネルは、とりわけカルシウムイオン流束を調節するが、電位開口型カルシウムチャネルとは機構的に異なる。一般に、電位開口型カルシウムチャネルは、膜を通る電位差の脱分極に応答して、細胞外培地からのカルシウムの流入及び細胞内カルシウムレベル又は濃度の急速な増加を可能にするように開口することができる。対照的に、TRPC6などの非選択的陽イオンチャネルは、一般に、シグナル伝達により開口し、長期間持続し、イオン濃度の変化があまり急速ではない。それらは、セカンドメッセンジャーであるジアシルグリセロールの生成に応答して活性の増加を示す(Hofmann et al.,1999)。更に、TRPC6は、圧力の変化に対応することができる。これらの機構的差異は、電位開口型チャネルと陽イオン透過性チャネルとの間の構造の違いを伴う。従って、多くの様々なチャネルが、多くの刺激に応答して、様々な細胞種においてイオン流束及び膜電位を調節するように作用するが、異なるクラスのイオンチャネル間の重要な構造的、機能的、及び機構的差異を認識することが重要である。
【0003】
TRPC6機能は、とりわけ筋原性緊張の調節に関与している。TRPC6は、平滑筋細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、心筋細胞、肺動脈、大動脈、心臓、肝臓、脳、及び腎臓で高度に発現している。TRPC6の発現は、ノックアウトマウス及び培養中の細胞で実施された実験と併せて、TRPC6が高血圧、並びに他の心臓及び血管状態、妊娠高血圧腎症の処置の有用な標的を提供し得ることを示唆している。
ヒトTRPC6チャネルにおける変異は、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を引き起こし得る(Winn et al.,2005,Reiser et al.,2005)。機能獲得型であると報告されているこれらの変異(Reiser et al.,2005)は、疾患を誘発するのに十分である。更に、上昇したTRPC6発現は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、糖尿病性腎症(Moller et al.,2007,Thilo et al.,2011)、又は他の腎臓の状態に関連している。
【0004】
発現及びTGF-Bシグナル伝達に関係する研究に基づいて、TRPC6はまた、呼吸状態、再狭窄、肝疾患、筋ジストロフィー、線維性障害、疼痛、虚血、及び虚血再灌流傷害、及び特定の形態のがんにおいて重要であると考えられている。
Yuらは、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)を引き起こし得る肺動脈平滑筋細胞の増殖の媒介における役割についてTRPC6チャネルを研究した。過剰な肺動脈平滑筋細胞(PASMC)の増殖によって引き起こされる肺血管中膜肥厚は、IPAHを有する患者における高い肺血管抵抗性の主な原因である。著者らは、健常な肺組織由来のPASMCでは、TRPC6が高度に発現し、TRPC3が最小限に発現していることを見出した。しかしながら、IPAH患者由来の肺組織では、TRPC3及びTRPC6のmRNA及びタンパク質の発現は、正常血圧の患者のものと比較して有意に上昇していた。更に、IPAH患者由来のPASMC細胞の増殖は、TRPC6 siRNAとのインキュベーション後に著しく減少した。これらの結果に基づいて、著者らは、TRPC6が適切なPASMC増殖の媒介に重要であり得、TRPC6の調節不全が、IPAH患者において観察されるPASMC増殖の増加及び肺血管中膜肥厚をもたらし得ると結論付けた(Yu et al.,2004 Proc Natl Acad Sci 101(38):13861-6)。IPAH患者では、発現を増加させるTRPC6のプロモーター中の一塩基多型の頻度は、正常な対象と比較した場合に有意に高かったという観察による、更なる裏付けが提供される(Yu,et al.,2009 Circulation 119:2313-22)。
【0005】
IPAHにおけるTRPC6の調節不全を示唆する追加の証拠は、IPAHの処置に臨床的に使用されているデュアルエンドセリン受容体遮断薬であるボセンタンの研究から得られたものである。この阻害剤はPASMCの増殖を減少させるが、これが発生する作用機序は不明である。興味深いことに、ボセンタンは、IPAH患者の肺組織におけるPASMCの増殖を減少させ、かつ、TRPC6の発現も減少させる(Kunichika et al.,2004 Am J Respir Crit Care Med 170(10):1101-7)。
タバコの煙(CS)をラットに長期曝露することにより、遠位肺動脈においてTRPC6 mRNA及びタンパク質の発現が増加し、同様の効果がPASMCを使用してインビトロで観察された。培養したラットPASMCのニコチン処理により、TRPC6発現がアップレギュレートし、細胞内カルシウムレベルが増加したが、その両方がTRPC6 siRNAサイレンシングによって減少した(Wang et al.,2014 Am J Physiol Cell Physiol 306:C364-73)。これらの結果は、CS誘発性肺損傷におけるTRPC6の役割を示唆している。
証拠により、追加の肺障害におけるTRPC6の役割が裏付けられる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者由来の肺胞マクロファージでは、対照と比較した場合にTRPC6の発現が上昇していることが見出された(Finney-Hayward et al.,2010 Am J Respir Cell Mol Biol 43:296-304)。ヒト嚢胞性線維症上皮細胞では、TRPC6を介したカルシウム流入が異常に増加し、粘液の分泌過多に寄与し得る。siRNA-TRPC6は、この異常なカルシウム流入を減少させることができた(Antigny et al.2011 Am J Resp Cell Mol Biol,44:83-90)。マウス肺線維芽細胞では、PDGFの線維化促進活性はTRPC6の活性化に依存しており、このことは、TRPC6阻害により肺線維症が軽減されることを示唆している(Lei et al.,2014 Biomaterials 35:2868-77)。肺内皮細胞機能におけるTRPC6の役割は、虚血再灌流誘発性浮腫及びリポ多糖誘発性炎症のマウス肺モデルで実証され、TRPC6欠損により、内皮バリア機能を維持することによって急性肺損傷が軽減できた(Weissmann et al.,2011 Nat Comm,3:649-58及びTauseef et al.,2012 J Exp Med 209:1953-68)。
【0006】
最近の研究はまた、心臓肥大を含む他の心臓状態におけるTRPC6の役割を示唆している。拡張型心筋症を有する患者の心臓は、正常な心臓と比較した場合にTRPC6 mRNAの発現が上昇している(Kuwahara et al.,2006 J Clin Invest 116:3114-26)。心臓肥大のマウスモデルでは、TRPC6の心臓mRNAレベルは、圧力過負荷(Kuwahara et al.,2006 J Clin Invest 116:3114-26)、長期イソプロテレノール処置(Xie et al.,2012 Nat Commun 3:1238)、及び腎部分切除術によって誘発された尿毒症性心筋症(Xie et al.,2015 J Am Soc Nephrol 26:1150-60)によって上昇する。更に、トランスジェニックマウスの心筋細胞におけるTRPC6の心臓特異的過剰発現は、心臓肥大及び早死を誘発した(Kuwahara et al.,2006 J Clin Invest 116:3114-26)。
Wu及び同僚は、ドミナントネガティブTRPC6を心臓特異的に発現するトランスジェニックマウスが、神経内分泌アゴニスト注入又は圧過負荷シミュレーションのいずれかの後、減弱された心臓肥大反応を有することを見出し、このことは、TRPC6が、肥大の必須メディエーターであるチャネル複合体の成分であることを示している(Wu et al.,2010 Proc Natl Acad Sci.107:7000-05)。TRPC6を標的化する小分子薬はまた、最近、心臓の状態の処置に有望であることが示され始めている。例えば、Seo及び同僚は、TRPC6及びTRPC3アンタゴニスト(GSK2332255B及びGSK833503A)が、新生児及び成人心筋細胞における細胞肥大シグナル伝達の用量依存的な阻害を示すことを示した(Seo et al.,2014 Proc Natl Acad Sci 111:1551-1556)。同様に、TRPC6を欠損したマウスは、イソプロテレノール誘発性心臓肥大から保護された(Xie et al.,2012 Nat Commun 3:1238)。
【0007】
TRPC6活性の低下は、心血管疾患の処置に有益であり得る。インビトロでは、アテローム促進性剪断応力は、アテローム保護性フロー状態と比較した場合、ヒト血管内皮細胞(EC)におけるTRPC6 mRNAレベルの増加を誘発した(Thilo,et al.,2012 Hypertension 59:1232-40)。EC遊走は、動脈損傷後の治癒に重要であり、リゾホスファチジルコリン媒介性EC遊走阻害は、TRPC6欠損マウスの細胞においてインビトロで妨げられた。更に、頸動脈損傷と高コレステロール食の組み合わせでも、野生型対照と比較した場合、TRPC6欠損マウスの治癒が損なわれることはなかった(Rosembaum et al.,2015 J Vasc Surg 62:1040-47及びChaudhuri et al.,2008 Mol Biol Cell 19:3203-11)。同様に、エクスビボでのヒト内胸動脈のバルーン拡張誘発性損傷は、拡張していない動脈と比較した場合、TRPC6mRNAレベルの増加をもたらした(Bergdahl et al.,2005 Am J Physiol Cell Physiol 288:C872-80)。内皮細胞のアポトーシスはアテローム性動脈硬化症の病変の開始及び進行に関与しており、ヒト大動脈ECの酸化低密度リポタンパク質誘導性アポトーシスはTRPC6に依存することが示された(Zhang et al.,2015 Sci Rep 5:9401-10)。前脳虚血のラットモデルでは、TRPC6 mRNAレベルは、血管SMCで増加し、脳血流の減少と相関していた(Johannson et al.,2015 Acta Physiol 214:376-89)。
【0008】
Reiser、Winn、及びSchlondorffによる研究により、患者におけるTRPC6の変異がFSGSの原因であることが同定された((Reiser et al.,2005 Nature Genet 37:739-744;Winn et al.,2005 Science 308:1801-1804;Schlondorff et al.,2009 Am J Physiol Cell Physiol 296:C558-69)。その後の研究により、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に関連する追加のTRPC6変異が同定された(C.Sadowski et al.,2014 J Am Soc Nephrol 26:1279-89)。更なる研究により、TRPC6は、カルシウム流入と、チャネルを通る電流の上昇が腎障害及びタンパク尿誘発に関連している活性化T細胞の活性化の核因子と、を制御することにより、正常なポドサイト機能に重要であることが示された(Moller et al.,2007 J Am Soc Nephrol 18:29-36 and Schlondorff et al.,2009 Am J Physiol Cell Physiol 296:C558-69)。機能獲得型変異に加えて、TRPC6の発現は、FSGS、微小変化型疾患、膜性糸球体腎炎、及び糖尿病性腎症を含むヒト慢性腎疾患(Moller et al.,2007 J Am Soc Nephrol 18:29-36 and Thilo et al.,2011 Nephrol.Dial.Transplant 27:921-9)、並びにポドサイト損傷のマウスモデル(Moller et al.,2007 J Am Soc Nephrol 18:29-36)で上昇することが示されている。TRPC6欠損マウスでは、アンジオテンシンII(AngII)誘発性アルブミン尿が軽減されることが示されているが(Eckel et al.,2011 J Am Soc Nephrol 22:526-35)、マウスにおけるヒトGoF変異のトランスジェニックポドサイト特異的発現は、アルブミン尿及び糸球体病変を誘発する(Krall et al.,2010 PLoS ONE e12859及びCanales et al.,2015 Brit J Medicine Med Res 5:1198-1212)。結果として、TRPC6の阻害は、慢性腎臓疾患の処置に役立ち得る。これらの発見は、TRPC6が適切な腎機能を維持するように正常に機能しているだけでなく、少なくとも特定のFSGS症例の特定の原因としてのTRPC6の関与を示唆している。腎臓機能におけるTRPC6の見込まれる役割に基づき、TRPC6阻害剤化合物は、TRPC6機能不全によって(全体的又は部分的に)引き起こされる慢性腎臓疾患又は状態の処置又は改善に使用することができる。更に、TRPC6阻害剤化合物は、疾患の原因に関係なく、腎疾患(例えば、高血圧、タンパク尿など)の症状の処置又は改善に使用することができる。
【0009】
TRPC6は、妊娠中の子宮筋層及び胎盤で発現する(Ku et al.,2006 J Soc Gynecol Investig 13:217-225;Clarson et al.,2003 J Physiol 550:515-528)。従って、TRPC6は、胎盤における適切な筋原性緊張の維持、及び/又は妊娠中の適切な胎児及び母体の血圧の維持に寄与し得る。
【0010】
TRPC6が特定の形態のがんに関係している最近の証拠が出てきている。いくつかのグループは、TRPC6発現が、最も頻繁に起こる不治の種類の脳がんである多形性膠芽腫を有する患者から採取した細胞において上昇することを確立している(Chigurupati,et al.,2010 Cancer Res,70:418-427;Ding et al.,2010 J Natl Cancer Inst.102:1052-1068))。同様に、Dingらは、ヒト神経膠腫細胞においてTRPC6のレベルが上昇することを見出し、薬理学的に又はドミナントネガティブ変異体を用いてTRPC6を阻害することにより、インビトロで細胞増殖が抑制された。ヒト神経膠腫の2つの異種移植モデルでは、皮下又は頭蓋内移植前の腫瘍細胞におけるレンチウイルス媒介性のドミナントネガティブTRPC6の発現により、対照と比較した場合に腫瘍体積が減少した(Ding et al.,J.Natl.Cancer Inst.2010,102,1052-1068)。TRPC6のレベルの増加はまた、とりわけ、子宮頸がん(Wan et al,2012 Onco Targets Ther 5:171-176)、乳がん(Dhennin-Duthille et al.,2011 Cell Physiol Biochem 28:813-822)、腎細胞癌(Song et al,2013 Mol Biol Rep 40:5115-5122)、頭頸部扁平上皮癌(de Quiros,et al.2013 BMC Cancer 13:116-127)、及び食道扁平上皮癌(ZZhang et al.,2013 Med Oncol 30:607)と関連していることが見出された。肝癌細胞では、ドキソルビシン、低酸素症、及び電離放射線によってTRPC6 mRNAの発現が増加し、TRPC6が腫瘍組織では非関与組織よりも高いレベルで見出されることが示された。TRPC6の上昇は薬剤抵抗性と関連しており、該薬剤抵抗性は、インビトロでのTRPC6 RNAサイレンシングによって低減された。マウス皮下異種移植モデルに移植する前に、TRPC6特異的ショートヘアピンRNAをHuh7腫瘍細胞にレンチウイルスで送達すると、腫瘍の増殖が低下し、腫瘍がドキソルビシンに対して感作された(Wen et al.,2016 Sci Rep 6:23269)。これらの発見は、TRPC6ががん処置の有望な治療標的であり得ることを示唆している。
【0011】
非アルコール性脂肪性肝炎を含む肝疾患は、TRPC6活性を低下させることによって処置され得る。低酸素症は、正常酸素状態と比較した場合、ヒト肝星細胞株におけるTRPC6発現を増加させた。これらの細胞を使用して、TRPC6 RNAサイレンシングは、低酸素に応答して、両方とも線維症に関連するアルファ平滑筋アクチン及びコラーゲン1A1の転写をダウンレギュレートする(Iyer et al,2015 Exp Cell Res 336:66-75)。
TRPC6の阻害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を有する患者に利益をもたらし得る。単離された心筋細胞を使用したDMDのmdx/utrn+/-モデルでは、TRPC6欠損により、野生型TRPC6遺伝子を有するマウスと比較した場合、ストレス刺激収縮力及びカルシウム過渡応答が正常に回復したが、このことは、TRPC6阻害により、DMD患者における心機能が維持されることを示唆している(Seo et al.,2014 Circ Res 114:823-32)。
線維性障害は、TRPC6阻害剤で処置され得る。TRPC6の過剰発現により、筋線維芽細胞の活性化が誘発された一方、TRPC6の欠失により、トランスフォーミング成長因子β誘発性の筋線維芽細胞の変形が低減した。更に、TRPC6欠損マウスは、皮膚及び心臓創傷治癒の低下を示した(Davis et al.,2012 Dev Cell 23:705-15)。
【0012】
全身性敗血症のマウスモデル(盲腸結紮穿刺、CLP)での生存率がTRPC6欠損マウスにおいて大幅に改善されたため(80%対ビヒクル群では10%)、TRPC6阻害剤は、ARDS、敗血症、重症敗血症、及び敗血症性ショックの死亡率を低下させるのに役立ち得る(Tauseef et al.,2012 J Exp Med 209:1953-1968)。
TRPC6阻害剤は、疼痛の処置に有用であり得る。TRPC6アンチセンスオリゴヌクレオチドの脊髄送達は、前臨床疼痛モデルでの機械的、低張性、及び熱的刺激によって誘発される痛覚過敏を軽減した(Alessandri-Haber et al.,2009 J Neurosci 29:6217-28)。
TRPC6の機能を調節することにより、カルシウム恒常性、ナトリウム恒常性、細胞内カルシウムレベル、膜分極(静止膜電位)、及び/又は細胞中の陽イオンレベルを調節するための手段が提供される。1つ以上のTRPC6機能を調節することができる化合物は、カルシウム恒常性の維持、ナトリウム恒常性の維持、細胞内カルシウムレベルの調節、膜分極(膜電位)の調節、陽イオンレベルの調節、並びに/或いはカルシウム恒常性、ナトリウム恒常性、カルシウム若しくはナトリウム恒常性不全、若しくは膜分極/過分極(低興奮性及び過興奮性を含む)に関連する疾患、障害、若しくは状態の処置若しくは予防、及び/又はTRPC6の発現若しくは機能の調節若しくは調節不全に関連する疾患、障害、若しくは状態の処置若しくは予防を含むがこれに限定されない、多くの態様において有用である。
TRPC6を調節することによって軽減することができる疾患又は障害を処置するための高度に選択的なTRPC6アンタゴニストが必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、TRPC6を調節する新規化合物を提供し、従って、高血圧、妊娠高血圧腎症、再狭窄、心臓又は呼吸状態、腎疾患、肝疾患、筋ジストロフィー、線維性疾患、疼痛、虚血又は虚血再灌流傷害、及びがんを含む、TRPC6を調節することによって軽減することができる様々な疾患及び障害を処置するのに有用である。本発明はまた、これらの化合物を含む医薬組成物、様々な疾患及び障害の処置においてこれらの化合物を使用する方法、これらの化合物を調製するためのプロセス、及びこれらのプロセスにおける有用な中間体に関する。
【0014】
第1の実施形態(実施形態1)において、本発明は、式(I)の化合物
【化1】
(I)
(式中、
Aは、CH又はNから選択され、
Xは、CH又はNから選択され、
R
1は、H、-CH
3、及び-OCH
3からなる群から選択され、
R
2は、H及び-CH
3からなる群から選択され、
R
3は、H及び-CH
3からなる群から選択され、又は
R
2及びR
3は一緒に、-(CH
2)n-架橋を表し、式中、
nは、2、3、4、又は5の数を表し、任意選択で、1つの-CH
2-メンバーが、O、S、-NH-、又は-N(CH)
3-によって置き換えられ、
或いは、式(I)中の-CH(R
3)-(R
2)CH-構造は、式(I)のピペリン環と縮合された、フラン、チオフェン、ピロール、及びN-メチル-ピロールからなる群から選択される5員のヘテロアリール基によって置き換えられ、
R
4は、H、-CF
3、及び-OCH
3からなる群から選択され、
R
5は、H、-F、及び-OCH
3からなる群から選択される)
及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0015】
第2の実施形態(実施形態2)において、本発明は、
Aは、CH又はNから選択され、
Xは、CH又はNから選択され、
R1は、H、-CH3、-OCH3からなる群、
好ましくはH及び-CH3からなる群から選択され、
R2は、Hを表し、R3は、H及び-CH3からなる群から選択され、又は
R2は、-CH3を表し、R3は、Hを表し、
好ましくは、R2は、Hを表し、R3は、H及び-CH3からなる群から選択され、
R4は、H、-CF3、及び-OCH3からなる群から選択され、
好ましくは、R4は、-CF3及び-OCH3からなる群から選択され、
R5は、H、-F、及び-OCH3からなる群から選択され、
好ましくは、R5は、H及び-OCH3からなる群から選択される、
式(I)の化合物、及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0016】
第3の実施形態(実施形態3)において、本発明は、
Aは、Nを表し、
R1は、H及び-CH3からなる群から選択され、
R4は、-CF3及び-OCH3からなる群から選択され、
X、R2、R3、及びR5は、実施形態2で述べた通りに定義される、
式(I)の化合物、及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0017】
第4の実施形態(実施形態4)において、本発明は、
Aは、Nを表し、
R1は、H及び-CH3からなる群から選択され、
R4は、-OCH3を表し、
X、R2、R3、及びR5は、実施形態2で述べた通りに定義される、
式(I)の化合物、及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0018】
第5の実施形態(実施形態5)において、本発明は、
Aは、Nを表し、
R1は、H及び-CH3からなる群から選択され、
Xは、CHを表し、
R4は、-OCH3を表し、
R5は、Hを表し、
R2及びR3は、実施形態2で述べた通りに定義される、
式(I)の化合物、及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0019】
第6の実施形態(実施形態6)において、本発明は、
Aは、Nを表し、
R1は、H及び-CH3からなる群から選択され、
Xは、Nを表し、
R4は、-OCH3を表し、
R5は、Hを表し、
R2及びR3は、実施形態2で述べた通りに定義される、
式(I)の化合物、及びそれらの塩、好ましくはそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0020】
式(I)の化合物は、以下の式(Ia)、(Ib)、及び(Ic):
【化2】
(式中、A、X、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、実施形態2、3、4、5又は6について前述したように定義される)によって特定される立体異性体を形成する。本発明は、実質的に純粋な形態の任意の立体異性体及びそれらの任意の混合物を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
表1は、以下の合成スキーム及び合成例の項目に示される例によって製造することができる本発明の化合物を示す。
【表1】
【0022】
一実施形態では、本発明は、上記の表1に示される化合物のいずれか及びそれらの薬学的に許容される塩に関する。
本発明は更に、表1に開示される化合物のいずれか1つ、及びそれらの薬学的に許容される塩、並びに薬学的に許容される賦形剤又は担体を含む医薬組成物に関する。
【0023】
一般的な定義
本明細書で具体的に定義されていない用語には、本開示及び文脈に照らして当業者によって該用語に付与されるであろう意味が付与されるべきである。しかしながら、本明細書で使用される場合、特段の記述がない限り、以下の用語が示された意味を有し、以下の規則が順守される。
本発明の化合物が化学名の形で表され、かつ、式として表されている場合、任意の不一致がある場合には式が優先する。
特に明記しない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲全体にわたって、所与の化学式又は名称は、互変異性体、及びすべての立体異性体、光学異性体、及び幾何異性体(例えば、エナンチオマー、ジアステレオマー、E/Z異性体など)並びにそれらのラセミ体、並びに異なる比率の別個のエナンチオマーの混合物、ジアステレオマーの混合物、又はそのような異性体及びエナンチオマーが存在する前述の形態のいずれかの混合物、並びにそれらの薬学的に許容される塩を含む塩及びそれらの溶媒和物、例えば遊離化合物の溶媒和物又は化合物の塩の溶媒和物を含む水和物などを包含する。
本発明のエナンチオマー的に純粋な化合物又は中間体は、不斉合成によって、例えば、既知の方法(例えば、クロマトグラフィー分離又は結晶化)によって分離することができる適切なジアステレオマー化合物又は中間体の調製及びその後の分離によって、並びに/又はキラル出発物質、キラル触媒、又はキラル補助剤などのキラル試薬を使用することによって調製されてもよい。
更に、例えば、キラル固定相上での対応するラセミ混合物のクロマトグラフィー分離によるか;又は適切な分解剤を使用したラセミ混合物の分離によるか、例えば、光学活性な酸又は塩基でのラセミ化合物のジアステレオマー塩形成、その後の塩の分解及び塩からの所望の化合物の放出によるか;又は光学活性キラル補助試薬を用いた対応するラセミ化合物の誘導体化、その後のジアステレオマーの分離及びキラル補助基の除去によるか;又はラセミ体の速度論的光学分割によるか(例えば、酵素的分割によるか);好適な条件下での左右晶(enantiomorphous crystal)の集合体からのエナンチオ選択的結晶化によるか;又は光学活性なキラル補助剤の存在下での適切な溶媒からの(分別)結晶化による、対応するラセミ混合物からエナンチオマー的に純粋な化合物を調製する方法が当業者に既知である。
【0024】
「薬学的に許容される」という句は、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症なく、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適であり、かつ、合理的な利益/リスク比に見合った、化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために本明細書で使用される。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸又は塩基の塩を作ることによって修飾される、開示された化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩の例には、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩又は有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩又は有機塩などが含まれるが、これらに限定されない。
例えば、そのような塩には、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ゲンチシン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、4-メチル-ベンゼンスルホン酸、リン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸、及び酒石酸由来の塩が含まれる。
更に、薬学的に許容される塩は、アンモニア、L-アルギニン、カルシウム、2,2’-イミノビスエタノール、L-リジン、マグネシウム、N-メチル-D-グルカミン、カリウム、ナトリウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン由来の陽イオンで形成することができる。
本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性又は酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸又は塩基形態を、水中又はエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、若しくはアセトニトリルなど、又はそれらの混合物の有機希釈剤中で、十分な量の適切な塩基又は酸と反応させることによって調製することができる。
例えば、本発明の化合物を精製又は単離するのに有用である上記のもの以外の酸の塩(例えば、トリフルオロ酢酸塩)はまた、を含む。
【0025】
本出願は、TRPC6機能を調節することができる化合物を提供する。これらの化合物を使用する方法も提供される。特定の実施形態は、細胞又は動物におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を投与することを含み、該化合物は、TRPC6媒介性のイオン流束を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞又は動物におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を投与することを含み、該化合物は、TRPC6媒介性のカルシウム流入を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞又は動物におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を投与することを含み、該化合物は、TRPC6媒介性の細胞骨格再編成又は細胞形態の変化を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を細胞に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される外向き電流を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を細胞に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される内向き電流を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を細胞に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される内向き及び外向き電流の両方を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を細胞に投与することを含み、該化合物は、細胞内カルシウム濃度のTRPC6媒介性の増加を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、細胞におけるTRPC6機能を調節する方法であって、有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を細胞に投与することを含み、該化合物は、細胞形態の変化を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態はまた、対象におけるTRPC6機能に関連する疾患又は状態を予防又は処置する方法であって、治療有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を対象に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される内向き電流を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、対象におけるTRPC6機能に関連する疾患又は状態を予防又は処置する方法であって、治療有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を対象に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される外向き電流を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態はまた、対象におけるTRPC6機能に関連する疾患又は状態を予防又は処置する方法であって、治療有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を対象に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介される内向き及び外向き電流の両方を阻害する、方法を提供する。特定の実施形態は、対象におけるTRPC6機能に関連する疾患又は状態を予防又は処置する方法であって、治療有効量の、TRPC6機能を阻害する化合物を対象に投与することを含み、該化合物は、TRPC6によって媒介されるイオン流束を阻害する、方法を提供する。特定の電流の阻害は、インビトロ又はインビボアッセイのいずれかで、その電流(例えば、内向き及び/又は外向き)を阻害する化合物の能力を指すことに留意されたい。インビボ又はインビトロアッセイのいずれかでの特定の電流の阻害は、特定の化合物の特定の機能的活性の代用として機能する。
【0026】
本発明は、対象におけるTRPC6媒介性障害を処置する方法であって、有効量の本発明の化合物を投与することを含み、上記の変数のそれぞれは、本明細書、例えば、以下の詳細な説明に記載される、方法を提供する。
本発明は更に、対象におけるTRPC6媒介性障害を処置するための方法であって、本発明の化合物及び薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、又は担体を含む組成物を投与することを含む、方法を提供する。
本発明は更に、対象におけるTRPC6媒介性障害を処置するための方法であって、本発明の化合物及び薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、又は担体を含む組成物を投与することを含み、TRPC6媒介性障害は、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、心臓肥大、虚血、虚血性再灌流傷害、高血圧、肺動脈性高血圧、特発性肺動脈性高血圧症、再狭窄、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、外傷誘発性脳障害、喘息、疾患、関節リウマチ、骨関節炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ筋ジストロフィー、妊娠高血圧腎症及び妊娠誘発性高血圧症、非アルコール性脂肪性肝炎、微小変化型疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症又は糖尿病性腎疾患(DKD)、慢性腎疾患、腎不全、末期腎臓疾患、虚血又は虚血性再灌流傷害、がん、糖尿病、肺線維症、特発性肺線維症(IPF)、気腫及び急性呼吸器疾患症候群(ARDS)/重症急性呼吸器症候群(SARS)から選択される、方法を提供する。
【0027】
特に明記しない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲全体にわたって、所与の化学式又は名称は、互変異性体、及びすべての立体異性体、光学異性体、及び幾何異性体(例えば、エナンチオマー、ジアステレオマー、E/Z異性体など)並びにそれらのラセミ体、並びに異なる比率の別個のエナンチオマーの混合物、ジアステレオマーの混合物、又はそのような異性体及びエナンチオマーが存在する前述の形態のいずれかの混合物、並びにそれらの薬学的に許容される塩を含む塩及びそれらの溶媒和物、例えば遊離化合物の溶媒和物又は化合物の塩の溶媒和物を含む水和物などを包含する。
表1.1の化合物のいくつかは、2つ以上の互変異性体の形態で存在することができる。本発明は、そのようなすべての互変異性体を使用するための方法を含む。
【0028】
本発明は、本発明の化合物の薬学的に許容される誘導体を含む。「薬学的に許容される誘導体」は、患者に投与されたときに、本発明に有用な化合物又はその薬理学的に活性な代謝物若しくは薬理学的に活性な残基を(直接的又は間接的に)提供することができる、任意の薬学的に許容される塩若しくはエステル又は任意の他の化合物を指す。薬理学的に活性な代謝物は、酵素的又は化学的に代謝されることができる任意の本発明の化合物を意味すると理解されるべきである。これには、例えば、本発明のヒドロキシル化又は酸化された誘導体化合物が含まれる。
「薬学的に許容される」という句は、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症なく、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適であり、かつ、合理的な利益/リスク比に見合った、化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために本明細書で使用される。
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸又は塩基の塩を作ることによって修飾される、開示された化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩の例には、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩又は有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩又は有機塩などが含まれるが、これらに限定されない。
例えば、そのような塩には、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ゲンチシン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、4-メチル-ベンゼンスルホン酸、リン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸、及び酒石酸由来の塩が含まれる。
更に、薬学的に許容される塩は、アンモニア、L-アルギニン、カルシウム、2,2’-イミノビスエタノール、L-リジン、マグネシウム、N-メチル-D-グルカミン、カリウム、ナトリウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン由来の陽イオンで形成することができる。
本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性又は酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸又は塩基形態を水又はエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、若しくはアセトニトリルなどの有機希釈剤、或いはそれらの混合物中で十分な量の適切な塩基又は酸と反応させることによって調製することができる。
例えば本発明の化合物を精製又は単離するのに有用である、上記以外の酸の塩(例えば、トリフルオロ酢酸塩)もまた、本発明の一部を含む。
更に、本発明の化合物のプロドラッグの使用は、本発明の範囲内である。プロドラッグには、簡易な化学変換時に本発明の化合物を生成するように修飾されるものが含まれる。簡易な化学変換には、加水分解、酸化、及び還元が含まれる。具体的には、プロドラッグが患者に投与されたとき、プロドラッグは、上記に開示された化合物に変換され、それにより、所望の薬理学的効果を付与し得る。
【0029】
本発明の化合物はまた、それらの同位体標識された形態を含む。本発明の組み合わせの活性剤の同位体標識形態は、上記活性剤の1つ以上の原子が、天然で通常見出される原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有する原子によって置き換えられているという事実を除き、上記活性剤と同一である。容易に商業的に入手可能であり、かつ、十分に確立された手順に従って本発明の組み合わせの活性剤に組み込むことができる同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、及び塩素の同位体、例えば、それぞれ、2H、3H、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S,18F、及び36Clが含まれる。上記の同位体及び/又は他の原子の他の同位体の1つ以上を含む、本発明の組み合わせの活性剤、そのプロドラッグ、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩が、本発明の範囲内にあることが企図される。
本発明の化合物は、当業者によって理解されるように、「化学的に安定である」ことが企図されている化合物のみである。例えば、「ダングリング価(dangling valency)」又は「カルバニオン」を有する化合物は、本明細書に開示される本発明の方法によって企図される化合物ではない。
【0030】
【0031】
合成例
以下の例は例示であり、当業者によって認識されるように、特定の試薬又は条件は、過度の実験なしに、個々の化合物に対して必要に応じて変更することができる。
以下に報告される塩基性又は酸性基を有する中間体及び例は、使用される精製方法及び条件に応じて、対応する塩又は中性化合物として得てもよい。塩は、当業者に既知の標準的な手順によってその中性の対応物に変換することができる。
一般的な方法:特段で明記しない限り、すべての反応は、室温(約25℃)で、不活性雰囲気下(アルゴン、N2など)及び無水条件下で実施される。すべての化合物は、以下の方法:1H NMR、HPLC、HPLC-MSの少なくとも1つ、又は融点によって特性評価がなされる。
典型的には、反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)又はHPLC-MSによって監視される。中間体及び生成物は、以下の方法の少なくとも1つを使用して精製される:シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィー、再結晶、10×250mm又は20×250mmカラムを使用した超臨界流体(SCF)キラルHPLC、MeOHと20mM NH3とのアイソクラティック混合物、EtOHと20mM NH3とのアイソクラティック混合物、又はイソプロパノール(IPA)と20mM NH3とのアイソクラティック混合物での溶出、及び150bar、60~80mL/分での超臨界二酸化炭素を使用、並びに/或いは以下の勾配で溶出するC18セミ分取カラムを使用した逆相HPLC:
・ACN並びにH2O及び0.1%TFA、
・ACN並びにH2O及び0.1%NH3(水溶液)、
・ACN及びH2O+0.1%TFA、
・ACN及びH2O+0.1%NH3(水溶液)、
・MeCN+0.1%TFA及びH2O+0.1%TFA、
・MeCN+0.1%ギ酸及びH2O+0.1%ギ酸、
・MeCN及び2.5mM NH4HCO3を含むH2O、
・MeCN及びH2O+0.1%NH3(水溶液)、
・MeOH及びH2O+0.1%TFA、
・MeCN+0.08%TFA及びH2O+0.1%TFA
【0032】
分析データ
報告した質量分析(MS)データは、観測された質量(例えば[M+H]
+)についてのものである。本発明の化合物の特徴評価を行うために使用されるHPLC法は、表2.1及び表2.2に記載されている。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0033】
NMR法:
NMRスペクトルは、Bruker Topspinソフトウェアを使用したBruker Advance 400MHz又はBruker Avance 600MHzで記録される。化学シフトは、内部参照トリメチルシランから低磁場での百万分率(ppm)でδ単位で与えられる。選択された1H-NMRデータは、以下の様式で報告される:化学シフト(多重度、結合定数(J)、水素数)。略語は以下の通りである:s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、spt(セプテット)、m(マルチプレット)、br(ブロード)。
【0034】
一般的な方法
本発明の化合物は、以下に提示される一般的な方法及び実施例、並びに当業者に既知の方法によって調製してもよい。最適な反応条件及び反応時間は、使用する特定の反応物に応じて異なってもよい。特に明記しない限り、溶媒、温度、圧力、及び他の反応条件は、当業者によって容易に選択され得る。特定の手順は、合成例の項目に記載されている。以下の合成で使用される中間体は、商業的に入手可能であるか、又は当業者に既知の方法によって容易に調製されるかのいずれかである。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)や高圧液体クロマトグラフィー-質量分析(HPLC-MS)などの従来の方法で監視されてもよい。中間体及び生成物は、カラムクロマトグラフィー、HPLC、分取TLC、又は再結晶を含む、当該技術分野で既知である方法によって精製されてもよい。
以下及び合成例の項目に記載されている方法を使用して、本発明の化合物を調製し得る。
合成例の項目に記載されている中間体のいくつかは、簡潔性のために遊離塩基として描かれ得るが、記載される反応手順に従って、これらの化合物は実際に塩を形成してもよい。
以下に報告される塩基性基又は酸性基を有する中間体及び例は、使用される精製方法及び条件に応じて、対応する塩又は中性化合物として得てもよい。塩は、当業者に既知の標準的な手順によってそれらの中性の対応物に変換することができる。
【0035】
調製
本発明による化合物及びそれらの中間体は、当業者に既知であり、かつ、有機合成の文献に記載される合成方法を使用して得てもよい。好ましくは、化合物は、特に実験の項目に記載されるように、後述においてより詳細に説明される調製方法と同様にして取られる。いくつかの場合では、反応スキームを実施する際に採用される順序を変えてもよい。当業者には既知であるが、ここでは詳細に説明されていない、これらの反応の変形も使用することができる。本発明による化合物を調製するための一般的なプロセスは、以下のスキームを検討することにより当業者に明らかになるであろう。出発化合物は、商業的に入手可能であるか、又は文献又若しくは本明細書に記載されている方法によって調製してもよく、又は類似若しくは同様の方法で調製してもよい。反応を実施する前に、出発化合物中の任意の官能基は、従来の保護基を使用して保護してもよい。これらの保護基は、当業者に熟知されており、文献、例えば、「Protecting Groups」,第3版,Philip J.Kocienski,Thieme,2005及び「Protective Groups in Organic Synthesis」,第4版,Peter G.M.Wuts,Theodora W.Greene,John Wiley&Sons,2006に記載される方法を使用して、反応シーケンス内の好適な段階で再度切断されてもよい。
スキーム1に示されるように、本発明の一般式(I)の化合物は、好適な結合剤(例えば、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N、N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N-N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、カルボジイミド試薬など)及び塩基(例えば、トリメチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなど)の存在下、好適な溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリジノン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなど)中で、式INT-1の好適なカルボン酸(遊離酸又はLi+、Na+、K+などの好適な金属陽イオンとの塩のいずれかとして)と一般式INT-2の好適なアミン中間体(遊離アミン又は塩酸塩、臭化水素酸塩などの塩のいずれかとして)とを反応させて、アミド結合を形成することによって調製されてもよい。スキーム1におけるR1~R5、X及びAの基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する。
或いは、好適な塩基(例えば、トリメチルアミン、N,N-ジイソプロピル-エチルアミン、ピリジンなど)の存在下、適切な溶媒中で、カルボン酸INT-1をカルボン酸塩化物に変換し(例えば、ジクロロメタン中の塩化チオニル又は塩化オキサリルを使用して)、それによりアミンINT-2と結合させてもよい。スキーム1におけるR1~R5、X及びAの基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する。或いは、好適な塩基(例えば、トリメチルアミン、N,N-ジイソプロピル-エチルアミンなど)の存在下、適切な溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなど)中で、カルボン酸INT-1をジ(イミダゾール-1-イル)メタノン(CDI)で活性化し、それによりアミンINT-2と結合させることができる。中間体INT-1及びINT-2は、当技術分野で既知であるか、又は以下若しくは有機化学の文献に記載される方法によって調製することができる。
中間体INT-2は、立体異性体の混合物として、又は立体異性体の純粋な化合物として使用されてもよい。INT-2が立体異性体混合物として使用される場合、得られる一般式(I)の化合物はまた、立体異性体の混合物であってもよい。一般式(I)の化合物の立体異性体の混合物は、当業者に既知の方法によって、立体異性的に純粋な化合物に分離することができる。スキーム1におけるR1~R5、X及びAの基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する。
【0036】
【化3】
スキーム1に示される一般式INT-2の中間体は、スキーム2に従って調製されてもよい。スキーム2におけるR
1~R
3及びAの基/用語は、前述及び後述に定義される意味を有する。
中間体INT-5は、ボロン酸誘導体INT-3及びハロゲン含有ヘテロ芳香族誘導体INT-4から調製されてもよい。反応は、パラジウム触媒(例えば、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-フェロセン]-ジクロロパラジウム(II)-CH
2Cl
2錯体(PdCl
2(dppf)*CH
2Cl
2)、又はクロロ(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル)[2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)]パラジウム(II)(XPhosPd第2世代触媒)、又はリガンドとして追加のXPhosを含むトリス(ジベンジリデンアセトン)-ジパラジウムPd
2(dba)
3など)を使用し、塩基(例えば、リン酸カリウム、炭酸ナトリウムなど)の存在下、適切な溶媒(例えば、水/テトラヒドロフラン、水/1,4-ジオキサン、水/n-ブタノール、1,4-ジオキサン、又はN,N-ジメチルホルムアミドなど)中、高温、例えば80℃~150℃で行われる。反応は、任意選択でマイクロ波で行ってもよい。
ヘテロ芳香族中間体INT-4が、保護又はマスクされたアミノ基(NL
2はNH
2ではない)を用いて使用される場合、この基を、その後、有機化学の文献で報告されている標準的な手順を適用して保護基を切断することによってNH
2基に変換することができる。tert-ブチルカルボニル基(Boc保護基など)は、好ましくは、酸性条件下で、例えば、トリフルオロ酢酸又は塩酸を使用して、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、イソプロパノール、1,4-ジオキサン中のHCl、又は酢酸エチルなどの溶媒中で切断される。パラジウム炭素などの遷移金属の存在下で水素を使用することにより、ベンジル基を除去してもよい。芳香環上にメトキシなどの電子供与基を有するベンジル基をまた、酸性条件下で(例えば、トリフルオロ酢酸又は塩酸を使用して)除去してもよい。2,5-ジメチルピロール環を、エタノールと水の混合物などの好適な溶媒中、高温、好ましくは80~100℃で、ヒドロキシルアミン塩酸塩及びトリメチルアミンによって切断し、アミノ官能基を放出させてもよい。
中間体INT-3のピペリジン環の窒素原子を、好適な保護基PG1(例えば、tert-ブチル-オキシカルボニル(Boc)、ベンジル-オキシカルボニル(Cbz)、ベンジル(Bn)など)で保護してもよい。保護基PG1は、当業者に既知の方法によって導入することができる。スキーム2に示されるように、INT-6から保護基PG1を除去してINT-2を生成することは、当業者に既知の方法又は前述及び後述で記載する方法によって行うことができる。好ましくは、tert-ブチルカルボニル基(Boc保護基など)は、酸性条件下で、例えば、トリフルオロ酢酸又は塩酸を使用して、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、イソプロパノール、1,4-ジオキサン中のHCl、又は酢酸エチルなどの溶媒中で切断することができる。スキーム2におけるR
1~R
3及びAの基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する。
【0037】
【化4】
スキーム2での中間体INT-3のテトラヒドロピリジン部分における二重結合の位置は、INT-3の形成をもたらす反応条件及び/又はINT-3の正確な置換パターンに依存し得る。簡単にするために、INT-3は、前述及びスキーム3に示される後述のように、INT-3aとINT-3bとの混合物を表すか、又はINT-3a若しくはINT-3bのいずれかを表してもよい。R
1~R
3、PG
1、及びB(OR)
2の基/用語は、スキーム2又は前述若しくは後述で示される意味を有する。
【0038】
【化5】
中間体INT-5のテトラヒドロピリジン部分における二重結合の位置は、INT-5の形成をもたらす反応条件及び/又はINT-5の正確な置換パターンに依存し得る。簡単にするために、INT-5は、前述及びスキーム4に示される後述のように、INT-5aとINT-5bとの混合物を表すか、又はINT-5a又はINT-5bのいずれかを表してもよい。R
1~R
3 A、PG
1、及びNL
2の基/用語は、スキーム2又は前述若しくは後述で示される意味を有する。
【0039】
【化6】
スキーム2に示すように、中間体INT-5のテトラヒドロフラン部分における二重結合は、遷移金属、好ましくはパラジウム(又は例えばPd(OH)
2)炭素の存在下、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メタノール/酢酸などの溶媒中で、水素を使用することにより水素化して、INT-6を生成してもよい。好ましくは、水素を1~5barの圧力で適用し、反応を50℃以下の室温で行ってもよい。
スキーム2に示すように、中間体INT-5の水素化により、R
2及びR
3に応じて立体中心が生成されてもよい。INT-6は、立体異性体の混合物であってもよい。立体異性体のこれらの混合物は、当業者に既知の方法によって、立体化学的に純粋なINT-6の化合物に分離してもよい。或いは、INT-6の立体異性体の混合物を次の工程に進めて、INT-2の立体異性体の混合物を得てもよい。INT-2の立体異性体の混合物は、当業者に既知の方法によって、一般式INT-2の立体化学的に純粋な化合物に分離してもよい。或いは、INT-2の立体異性体の混合物をスキーム1に示される次の工程に進めてもよい。
反応条件及び全体的な脱保護戦略(INT-6からの保護基PG
1の除去及びNL
2からNH
2への変換)に応じて、中間体INT-2は、スキーム2において、遊離塩基又は塩酸塩、トリフルオロ酢酸塩、臭化水素酸塩などの塩のいずれかとして得てもよい。中間体INT-2の塩は、当業者に既知の標準的な手順によってそれらの中性の対応物に変換されてもよい。
スキーム5に示すように、中間体INT-7は、様々な前駆体から出発して、酸素を介してINT-8に結合されてもよい。2つの部分(INT-7及びINT-8の芳香族/ヘテロ芳香族部分)は、ヒドロキシル基(V又はWはOHを表す)で修飾されたもののうちの1つ及びボロン酸誘導体(例えば、W又はVはB(OH)
2、B(OCMe
2CMe
2O)などを表す)で修飾された他のものを使用して結合させてもよい。それにより具備された2つのビルディングブロックINT-7及びINT-8は、銅(酢酸塩)を使用して、塩基(例えば、ピリジン又はトリメチルアミン)、モレキュラーシーブ、任意選択で共酸化剤(例えば、酸素)の存在下、溶媒、例えばジクロロメタン中、0~60℃で結合されてもよい。スキーム5におけるV、W、X、PG
2、R
4~R
5の基/用語は、前述又は後述で定義される意味を有する。
或いは、酸素を介したINT-7とINT-8との間の結合は、OH基(V=OH)を有するINT-7と脱離基(W=例えば、F、Cl、Br)を有するINT-8のピリジン部分とを結合したときに形成される。INT-7のOH基の酸素は、求核置換反応又は遷移金属触媒反応によって脱離基と置き換わる。INT-8は、塩基(例えば、Cs
2CO
3、K
2CO
3、KOH、トリメチルアミン、又はNaHなど)の存在下、好ましくは溶媒(例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、アルコール、水、又はそれらの混合物など)中、0~220℃で、ヒドロキシル化INT-7と結合される。
式INT-1のスキーム5に示されるように、式INT-1のカルボン酸(式中、X、R
4~R
5の基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する)は、好ましくは、保護基PG2の性質に応じて、加水分解又は水素化分解により、一般式INT-9の対応するエステルから調製される。INT-9のエステル基は、塩酸又は硫酸などの酸、又は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の存在下で加水分解されて、カルボン酸が生成されてもよい。加水分解は、好ましくは、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロパノール)、又はジメチルスルホキシドと組み合わせた水などの水性溶媒中、0~120℃で行われる。INT-9の保護基PG2がエチル又はメチルエステルなどの低級アルキル基エステルを表す場合、それらは、水と好適な混和性溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1,4-ジオキサンなど、又はこれらの混合物)との混合物中で、必要に応じて加熱して、NaOH、LiOH、KOHなどの水酸化塩基を使用して切断される。tert-ブチルエステルは、好ましくは、好適な溶媒(例えば、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、又はこれらの混合物)中、酸性条件下(例えば、塩酸又はトリフルオロ酢酸)で処理することによって切断される。ベンジルエステルは、好ましくは、遷移金属(好ましくは、例えばパラジウム炭素など)の存在下、好適な溶媒(例えば、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、酢酸エチル)中、水素雰囲気下で(好ましくは1~5bar)、水素を使用して切断される。メトキシなどのフェニル環上に電子供与基を有するベンジルエステルもまた、酸化条件下で除去されてもよく、例えば、硝酸セリウムアンモニウム(CAN)又は2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノキノン(DDQ)は、このアプローチに一般的に使用される試薬である。スキーム5における酸INT-1は、反応条件に応じて、金属陽イオンとの塩又は遊離酸のいずれかとして単離されてもよい。
【0040】
【化7】
式INT-1のカルボン酸(式中、X、R
4~R
5の基/用語は、前述及び後述で定義される意味を有する))は、スキーム6に従って合成することができる。中間体INT-12は、OH基を有するヘタリル(hetaryl)部分INT-10と脱離基(W=例えば、F、Cl、Br)を有するINT-11とを結合して合成されてもよい。INT-10のOH基の酸素は、求核置換又は遷移金属触媒反応によって脱離基と置き換わり、INT-12を提供する。INT-10は、塩基(Cs
2CO
3、K
2CO
3、KOH、トリメチルアミン、NaHなど)の存在下、好ましくは溶媒(トルエン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、アルコール、水、又はそれらの混合物)中、0~220℃で、INT-11と結合される。INT-12のシアノ基は、当業者に既知の方法に従って、対応するカルボン酸基に変換されて、一般式INT-1の酸を得ることができる。好ましくは、INT-12のシアノ基は、水、メタノール、エタノール、又はこれらの混合物などの溶媒中、20~120℃の高温で、水酸化ナトリウムで処理され、対応するカルボン酸INT-1が生成される。W、X、及びR
4~R
5の基/用語は、前述及び後述で定義される意味又はスキーム6で定義される意味を有する。
【0041】
【化8】
示された合成経路は、保護基の使用に依存し得る。例えば、ヒドロキシル、カルボニル、カルボキシル、アミノ、アルキルアミノ、又はイミノなどの存在する潜在的に反応性の基は、反応後に再び切断される従来の保護基によって反応中に保護されてもよい。各々の官能基の好適な保護基及びそれらの除去は、当業者に周知であり、有機合成の文献に記載されている。
一般式Iの化合物を得るために、立体化学混合物を、以下に述べるように、それらのエナンチオマー及び/又はジアステレオマーに分解してもよい。従って、例えば、シス/トランス混合物をそれらのシス及びトランス異性体に分解してもよく、ラセミ化合物をそれらのエナンチオマーに分離してもよい。
シス/トランス混合物は、例えば、クロマトグラフィーにより、それらのシス及びトランス異性体に分解されてもよい。ラセミ体として生じる一般式Iの化合物は、それ自体が既知の方法によってそれらの光学対掌体に分離されてもよく、一般式Iの化合物のジアステレオマー混合物は、それ自体が既知の方法、例えばクロマトグラフィー及び/又は分別結晶を使用して、それらの異なる物理化学的特性を利用することによってそれらのジアステレオマーに分解されてもよく、その後に得られる化合物がラセミ体である場合、それらは、以下に述べるように、エナンチオマーに分解されてもよい。
ラセミ化合物は、好ましくは、キラル相上でのカラムクロマトグラフィーによって、又は光学活性溶媒からの結晶化によって、又はエステル若しくはアミドなどの塩若しくは誘導体を形成する光学活性物質をラセミ化合物と反応させることによって分解される。塩は、塩基性化合物の場合はエナンチオマー的に純粋な酸を使用して形成されてもよく、酸性化合物の場合はエナンチオマー的に純粋な塩基を使用して形成されてもよい。
ジアステレオマー誘導体は、エナンチオマー的に純粋な補助化合物、例えば、酸、及びそれらの活性化誘導体又はアルコールを使用して形成される。このようにして得られた塩又は誘導体のジアステレオマー混合物の分離は、それらの異なる物理化学的特性の違い、例えば、溶解度の違いを利用することによって達成することができ、遊離の対掌体は、好適な薬剤の作用により、純粋なジアステレオマー塩又は誘導体から放出されてもよい。そのような目的のために一般的に使用される光学的に活性な酸、及び補助残基として適用可能な光学的に活性なアルコールは、当業者に既知である。
【0042】
合成例
中間体の合成
中間体1.1
tert-ブチル(6S)-6-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート、及びtert-ブチル(2S)-2-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化9】
反応をアルゴン雰囲気下で行う。THF(50mL)中のtert-ブチル(2S)-2-メチル-4-オキソピペリジン-1-カルボキシレート(3.00g;14.07mmol)を-70℃に冷却する。LiHMDS(THF中1mol/L;19.69mL;19.69mmol)を滴下して添加する。-70℃で1時間撹拌した後、1,1,1-トリフルオロ-N-フェニル-N-トリフルオロメタンスルホニルメタンスルホンアミド(6.03g;16.88mmol)を添加する。反応混合物を-70℃で30分間及び0℃で3時間撹拌する。反応混合物をDCMで希釈し、NaOH(1mol/L;水溶液)で洗浄する。有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣を更に精製せずに使用する。
収量:5.0g(定量的)
【0043】
中間体1.2
tert-ブチル(6S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-6-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート、及びtert-ブチル(2S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化10】
EtOH(75mL)中のtert-ブチル(6S)-6-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート及びtert-ブチル(2S)-2-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(4.00g;11.58mmol)、4,4,5,5-テトラメチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロラン(3.36g;13.24mmol)、Xphos(0.55g;1.16mmol)、XphosPd第2世代触媒(0.46g;0.58mmol)、並びに酢酸カリウム(3.87g;39.38mmol)の混合物をアルゴンでパージし、90℃で1.5時間撹拌する。6-クロロ-5-メチルピリダジン-3-アミン(1.66g;11.58mmol)及び炭酸ナトリウム(2mol/L;水溶液;20.85mL;41.70mmol)添加し、反応混合物を4時間還流撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。残渣を水に溶解し、EtOAcで数回抽出する。合わせた有機層を水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をMeOHに溶解し、濾過し、減圧下で濃縮する。残った残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(DCM/MeOH)によって精製する。
収量:1.8g(51%)R
t(HPLC):0.83分(方法1)
【0044】
中間体1.3及び中間体1.4
tert-ブチル(2S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート、及びtert-ブチル(2S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート
【化11】
水素雰囲気下で(Parr装置;3bar)、MeOH(30mL)中のtert-ブチル(6S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-6-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート及びtert-ブチル(2S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(1.8g、5.91nnmol)、並びにPd/C(10%;0.25g)の混合物を室温で23時間撹拌する。追加の触媒を添加し、3barの水素雰囲気で、室温で、更に21時間水素化する。濾過により触媒を除去した後、母液を減圧下で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(DCM/MeOH)によって精製して、ジアステレオマーの混合物を得る。キラルHPLC(Chiralpak(登録商標)IG20×250mm、5μM;scCO
2/MeOH+20mM NH
3 75%/25%、150bar、40℃、60mL/分)により、ジアステレオマーを分離する。
中間体1.3:tert-ブチル(2S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート:収量:0.46g(25%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):2.99分(方法T)
中間体1.4:tert-ブチル(2S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート:収量:0.66g(36%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):4.10分(方法T)
【0045】
中間体1.5
5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン
【化12】
tert-ブチル(2S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート(0.45g;1.47mmol)及びTFA(20%;DCM中の溶液;10.0mL)を室温2時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮し、RP-HPLC(ACN/水/NH
4OH、カラム:xbridge)によって精製する。残渣をジエチルエーテルに溶解し、減圧下で濃縮する。
収量:0.30g(99%)ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.68分(方法3)
【0046】
中間体1.6
5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二臭化水素酸塩
【化13】
バイアル中で、5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(35mg、0.17mmol)をMeOH(280μL)に溶解し、HBr(48%水中、38μL、0.34mmol)を添加する。バイアルを密封し、反応混合物を50℃で1時間撹拌する。撹拌を停止させ、反応混合物を0.4℃/分で室温に冷却する。反応混合物を撹拌せずに室温で一晩放置する。反応混合物を、2回、撹拌せずに0.4℃/分で50℃に加熱し、0.4℃/分で25℃に冷却し、5日間撹拌せずに室温で放置する。形成された結晶をX線結晶学によって分析し、絶対立体化学を決定する。
【0047】
中間体1.7
5-メチル-6-[(2S,4R)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化14】
tert-ブチル(2S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-2-メチルピペリジン-1-カルボキシレート(1.20g;3.92mmol)及びTFA(20%;DCM中の溶液;20.0mL)を室温2時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮し、RP-HPLC(ACN/水/NH
4OH、カラムxbridge)によって精製する。残渣をHCl(1.25モル/L;MeOH中の溶液)に溶解し、減圧下で濃縮する。
収量:0.80g(73%)ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.69分(方法3)
【0048】
中間体2.1
tert-ブチル3-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化15】
反応をアルゴン雰囲気下で行う。THF(170mL)中のtert-ブチル3-メチル-4-オキソピペリジン-1-カルボキシレート(10.0g;46.9mmol)を-70℃に冷却する。LiHMDS(1mol/L;THFの溶液;65.6mL;65.6mmol)を滴下して添加する。-70℃で1時間撹拌した後、THF(50mL)中の1,1,1-トリフルオロ-N-フェニル-N-トリフルオロメタンスルホニルメタンスルホンアミド(20.1g;56.3mmol)を滴下して添加する。反応混合物を-70℃で1時間及び0℃で3時間撹拌する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物を水で希釈し、EtOAcで数回抽出する。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣を更に精製せずに使用する。
収量:16g(99%)ESI-MS:m/z=290[M+H-tert.-Butyl]+Rt(HPLC):1.21分(方法3)
【0049】
中間体2.2
tert-ブチル3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化16】
反応をアルゴン雰囲気下で行う。tert-ブチル3-メチル-4-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(16.0g;46.3mmol)及び4,4,5,5-テトラメチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロラン(13.5g;52.9mmol)、酢酸カリウム(15.5g;157.5mmol)、並びにXphos(2.2g;4.6mmol)をEtOH(300mL)中で撹拌する。Xphosパラジウム第2世代触媒(1.8g;2.3mmol)を添加する。80℃で一晩撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮する。残渣をDCMに溶解し、濾過し、減圧下で蒸発させる。残渣を更に精製せずに使用する。
収量:15.0g(定量的)ESI-MS:m/z=268[M+H-tert-ブチル]
+R
t(HPLC):1.22分(方法3)
【0050】
中間体2.3
tert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化17】
反応をアルゴン雰囲気下で行う。tert-ブチル3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(15.00g;46.41mmol)、6-クロロ-5-メチルピリダジン-3-アミン(8.00g;55.69mmol)、リン酸カリウム(34.48g;162.42mmol)及びパラジウム(0)テトラキス(トリフェニルホスフィン)(5.36g;4.64mmol)を1,4-ジオキサン/水(300mL/50mL)中で撹拌する。100℃で一晩撹拌した後、反応混合物を濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をEtOAc及び水に溶解する。水層をEtOAcで数回抽出する。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAC/MeOH)によって精製する。
収量:8.30g(59%)ESI-MS:m/z=305[M+H]
+R
t(HPLC):0.90分(方法3)
【0051】
中間体2.4
tert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート
【化18】
水素雰囲気下で(Parr装置;50psi)、MeOH(250mL)中のtert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(8.30g;27.27mmol)及びPd/C(10%;0.85g)を40℃で合計70時間撹拌する。追加の触媒を19時間後、42時間後、及び67時間後に添加し、更に水素化する。濾過により触媒を除去した後、母液を減圧下で濃縮する。残渣を更に精製せずに使用する。
収量:8.30g(99%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):0.90分(方法3)
【0052】
中間体2.5~中間体2.8
tert-ブチル(3R,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート、及びtert-ブチル(3S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート、及びtert-ブチル(3S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート、並びにtert-ブチル(3R,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート
【化19】
tert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート(8.40g;27.41mmol)をキラルRP-HPLC(Lux(登録商標)Cellulose-4、21.2×250mm、5μM;scCO
2/MeOH+20mM NH
3 75%/25%、40℃、背圧150bar、流量60mL/分、温度40℃)によって分離する。分離した異性体の相対的立体化学をNMRによって決定し、中間体5.7及び中間体5.8の絶対的立体化学をX線によって決定する。
中間体2.5:最初に溶出するトランスジアステレオ異性体tert-ブチル(3R,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート:収量:0.52g(6%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):3.63分(方法E)
中間体2.6:2番目に溶出するトランスジアステレオ異性体tert-ブチル(3S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート:収量:0.55g(7%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):4.01分(方法E)
中間体2.7:最初に溶出するシスジアステレオ異性体:tert-ブチル(3S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート):収量:2.35g(28%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):4.66分(方法E)
中間体2.8:2番目に溶出するシスジアステレオ異性体:tert-ブチル(3R,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート):収量:2.38g(28%)ESI-MS:m/z=307[M+H]
+R
t(HPLC):6.23分(方法E)
【0053】
中間体2.9
5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化20】
DCM/MeOH(10mL/1mL)中のtert-ブチル(3R,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート(中間体2.8、2.10g;6.85mmol)及びHCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;3.00mL;12.00mmol)を室温で1時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。
収量:1.81g(95%)ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.62分(方法3)
5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン
【化21】
5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(0.26g;0.93mmol)をMeOHに溶解し、RP-HPLC(ACN/水+NH3、からム:XBridge)によって数回精製する。
収量:0.13g(68%)ESI-MS:m/z=207[M+H]
+
5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化22】
バイアル中で、5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(30.0mg;0.15mmol)をMeOH(150μL)中で攪拌し、HCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;73μL;0.29mmol)を添加する。バイアルを密封し、5℃/分で50℃に加熱する。反応混合物を50℃で1時間放置し、その後、撹拌せずに1℃/分で室温に冷却する。反応混合物を室温で25日間放置する。形成された結晶をX線結晶学によって分析し、絶対立体化学を決定する。
【0054】
中間体2.10
5-メチル-6-[(3S,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化23】
DCM/MeOH(30mL/10mL)中のtert-ブチル(3S,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート(中間体2.7、2.07g;6.76mmol)及びHCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;15.00mL;60.00mmol)を室温1時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。
収量:定量的ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.62分(方法3)
5-メチル-6-[(3S,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン
【化24】
5-メチル-6-[(3S,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(1.90g;6.81mmol)をMeOHに溶解し、NaOH(4mol/L;水溶液)を使用して塩基性pHに設定する。反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3、カラム:XBridge)によって精製する。
収量:1.40g(100%)ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.62分(方法3)
5-メチル-6-[(3S,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化25】
バイアル中で、5-メチル-6-[(3S,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(30.0mg;0.15mmol)をMeOH(150μL)中で攪拌し、HCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;73μL;0.29mmol)を添加し、室温で撹拌する。反応混合物を5℃/分で50℃に加熱する。反応混合物を50℃で90分間撹拌し、その後、撹拌せずに0.5℃/分で室温に冷却する。反応混合物を撹拌せずに室温で一晩放置する。形成された結晶をX線結晶学によって分析し、絶対立体化学を決定する。
【0055】
中間体2.11
5-メチル-6-[(3R,4S)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化26】
中間体2.4のキラル分離から最初に溶出するトランスジアステレオ異性体(中間体2.5)。DCM/MeOH(5mL/1mL)中の(tert-ブチル(3R,4S)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート)(0.45g;1.47mmol)及びHCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;1.50mL;6.00mmol)を室温で1時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。
収量:定量的ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.66分(方法3)
【0056】
中間体2.12
5-メチル-6-[(3S,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化27】
中間体2.4のキラル分離からの2番目に溶出するトランスジアステレオ異性体(中間体2.6)。DCM/MeOH(5mL/2mL)中の(tert-ブチル(3S,4R)-4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-3-メチルピペリジン-1-カルボキシレート)(0.48g;1.58mmol)及びHCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;1.50mL;6.00mmol)を室温で1時間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。
収量:定量的ESI-MS:m/z=207[M+H]
+R
t(HPLC):0.66分(方法3)
中間体2.9、5-メチル-6-[(3S,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩について記載した類似体をRP-HPLC(ACN/水/NH
3)により精製して、5-メチル-6-[(3S,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミンを得る。バイアル中で、5-メチル-6-[(3S,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(30.0mg;0.15mmol)をMeOH(150μL)中で攪拌し、HCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;73μL;0.29mmol)を添加する。バイアルを密閉し、反応混合物を50℃に加熱する。反応混合物を50℃で90分間放置する。その後、キャップを開け、反応混合物を撹拌せずに室温で一晩放置する。形成された結晶をX線結晶学によって分析し、絶対立体化学を決定する。
【0057】
中間体3.1
tert-ブチル4-(6-アミノピリダジン-3-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化28】
反応をアルゴン雰囲気を使用して行う。1,4-ジオキサン(350mL)中の6-クロロピリダジン-3-アミン(5.20g;40.14mmol)、tert-ブチル4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(13.65g;44.15mmol)、及び炭酸ナトリウム(2mol/L;水溶液;80.28mL;160.56mmol)をアルゴンでパージする。5分後、XphosPd第2世代触媒(0.95g;1.20mmol)を添加し、混合物を100℃で一晩撹拌する。反応混合物を濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をMeOHに溶解し、水で沈殿させ、濾過する。沈殿物を乾燥オーブン中で50℃で乾燥させる。生成物を更に精製せずに使用する。
収量:定量的ESI-MS:m/z=277[M+H]
+R
t(HPLC):0.78分(方法2)
【0058】
中間体3.2
tert-ブチル4-(6-アミノピリダジン-3-イル)ピペリジン-1-カルボキシレート
【化29】
水素雰囲気下で(Parr装置;50psi)、MeOH(250mL)中のtert-ブチル4-(6-アミノピリダジン-3-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(12.0g;43.43mmol)及びPd/C(10%;1.0g)を室温で20時間撹拌する。濾過により触媒を除去した後、母液を減圧下で濃縮する。生成物をシリカクロマトグラフィー(DCM/MeOH)によって精製する。
収量:9.1g(75%)ESI-MS:m/z=279[M+H]
+R
t(HPLC):0.86(方法3)
【0059】
中間体3.3
6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミン二塩酸塩
【化30】
ACN(6mL)中のtert-ブチル4-(6-アミノピリダジン-3-イル)ピペリジン-1-カルボキシレート(1.00g;3.59mmol)及びHCl(4mol/L;1,4-ジオキサン中の溶液;2.96mL;11.84mmol)を40℃で2時間撹拌する。沈殿物を濾過し、酢酸イソプロピルで洗浄する。固体材料を乾燥させる。
収量:0.35g(39%)ESI-MS:m/z=179[M+H]
+R
t(HPLC):0.28分(方法3)
【0060】
中間体4.1
tert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート
【化31】
反応をアルゴン雰囲気を使用して行う。1,4-ジオキサン(150mL)中の6-クロロ-5-メチルピリダジン-3-アミン(3.00g;20.90mmol)、tert-ブチル4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(7.11g;22.98mmol)、及び炭酸ナトリウム(2mol/L;水溶液;41.79mL;83.58mmol)をアルゴンでパージする。XphosPd第2世代触媒(0.49g;0.63mmol)を添加し、混合物を100℃で一晩撹拌する。有機溶媒を蒸発させ、水及びEtOAcを添加する。水層をEtOAcで数回抽出する。合わせた有機層を食塩水で洗浄する。有機層を分離し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(DCM/MeOH)によって精製する。
収量:5.20g(86%)ESI-MS:m/z=291[M+H]
+R
t(HPLC):0.79分(方法2)
【0061】
中間体4.2
tert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)ピペリジン-1-カルボキシレート
【化32】
水素雰囲気下で(Parr装置;50psi)、MeOH(100mL)中のtert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-1-カルボキシレート(5.20g;17.91mmol)及びPd/C(10%;0.75g)を室温で17時間撹拌する。濾過により触媒を除去した後、母液を減圧下で濃縮する。生成物を更に精製せずに使用する。
収量:5.00g(96%)ESI-MS:m/z=293[M+H]
+R
t(HPLC):0.79(方法2)
【0062】
中間体4.3
5-メチル-6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミンビストリフルオロ酢酸
【化33】
1,4-ジオキサン(3.5mL)中のtert-ブチル4-(6-アミノ-4-メチルピリダジン-3-イル)ピペリジン-1-カルボキシレート(0.5g;1.71mmol)及びHCl(4mol/L、1,4-ジオキサン中の溶液、7.5mL、30.0mmol)を室温で一晩撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮し、EtOAcで粉砕する。残渣を収集し、乾燥させる。
収量:0.46g(定量的)ESI-MS:m/z=193[M+H]
+R
t(HPLC):0.61(方法3)
【0063】
中間体5
4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸
【化34】
MeOH(5mL)中の4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸メチル(0.27g;1.06mmol)及びNaOH(4モル/L;水溶液;0.53mL;2.11mmol)を室温で一晩撹拌する。反応が完了していないので、追加のNaOH(4mol/L;水溶液;0.30mL)を添加し、3時間撹拌する。反応混合物を水で希釈し、HCl(4mol/L;水溶液)を使用して中和する。得られた沈殿物を濾別し、乾燥オーブン中で45℃で乾燥させる。
収量:0.26g(100%)ESI-MS:m/z=246[M+H]
+R
t(HPLC):0.59(方法3)
【0064】
中間体6.1
3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾニトリル
【化35】
DMF(10mL)中の4-フルオロ-3-メトキシベンゾニトリル(0.50g;3.31mmol)、6-メトキシピリジン-3-オール(0.42g;3.32mmol)、及び炭酸カリウム(0.92g;6.62mmol)を100℃で一晩撹拌する。反応混合物を濾過し、母液をRP-HPLC(ACN/水+TFA、カラム:SunFire)によって精製する。
収量:0.12g(14%)ESI-MS:m/z=257[M+H]
+R
t(HPLC):1.00(方法1)
【0065】
中間体6.2
3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸
【化36】
3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾニトリル(0.12g;0.47mmol)及びNaOH(1mol/L;水溶液;3.00mL;3.00mmol)を100℃で4時間撹拌する。室温に冷却した後、反応混合物を水で希釈し、HCl(1モル/L;水溶液)を使用して約pH2に酸性化する。水層をEtOAcで数回抽出する。合わせた有機層を水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。
収量:0.12g(93%)ESI-MS:m/z=276[M+H]
+R
t(HPLC):0.90(方法1)
【0066】
中間体7.1
5-フルオロ-4-メトキシピリジン-2-カルボニトリル
【化37】
反応を窒素雰囲気下で行う。DMF(10mL)中の2-クロロ-5-フルオロ-4-メトキシピリジン(500.0mg;3.10mmol)、シアン化亜鉛(365.0mg;3.11mmol)、及びdppf(170.0mg;0.31mmol)を窒素でパージする。Pd
2(dba)
3(280.0mg;0.31mmol)を添加する。150℃で3時間及び室温で一晩撹拌した後、反応混合物をNaHCO
3(水溶液;半飽和)に注ぎ、EtOAcで数回抽出する。合わせた有機層を水及びNaHCO
3水溶液で洗浄する。有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残渣をRP-HPLC(ACN/水+TFA、カラム:SunFire)によって精製する。
収量:120.0mg(26%)ESI-MS:m/z=153[M+H]
+R
t(HPLC):0.76分(方法1)
【0067】
中間体7.2
4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニトリル
【化38】
DMF(10mL)中の5-フルオロ-4-メトキシピリジン-2-カルボニトリル(0.50g;3.29mmol)、6-メトキシピリジン-3-オール(0.42g;3.32mmol)、及び炭酸カリウム(0.92g;6.62mmol)を100℃で一晩撹拌する。反応混合物を濾過し、減圧下で濃縮する。残渣を更に精製せずに使用する。
収率:定量的ESI-MS:m/z=258[M+H]
+R
t(HPLC):0.93(方法1)
【0068】
中間体7.3
4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸
【化39】
4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニトリル(0.85g;3.30mmol)及びNaOH(4mol/L;水溶液;5.00mL;20.00mmol)を100℃で2.5時間撹拌する。室温に冷却した後、反応混合物を水で希釈し、HCl(1モル/L;水溶液)を使用して約pH2に酸性化する。水層をEtOAcで数回抽出する。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。
収量:0.56g(61%)ESI-MS:m/z=277[M+H]
+R
t(HPLC):0.69(方法1)
【0069】
中間体8.1
3-メトキシ-4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル]オキシ}安息香酸メチル
【化40】
DMF(5mL)中の5-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)ピリジン(0.15g;0.91mmol)、4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸メチル(0.18g;0.99mmol)、及び炭酸カリウム(0.38g;2.75mmol)を120℃で一晩撹拌する。反応混合物を濾過し、母液をRP-HPLC(ACN/水+TFA、カラムSunFire)によって精製する。
収量:0.21g(71%)ESI-MS:m/z=328[M+H]
+R
t(HPLC):1.10(方法1)
【0070】
中間体8.2
3-メトキシ-4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル]オキシ}安息香酸
【化41】
MeOH(10mL)中の3-メトキシ-4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル]オキシ}安息香酸メチル(0.21g;0.64mmol)及びNaOH(4mol/L;水溶液;1.00mL;4.00mmol)を室温で一晩撹拌する。HCl(4モル/L;水溶液;1.00mL;4.00mmol)を添加し、反応混合物を減圧下で濃縮する。残渣をMeOHに溶解し、不溶性物質を濾別し、母液を減圧下で濃縮する。
収率:定量的ESI-MS:m/z=314[M+H]
+R
t(HPLC):0.99(方法1)
【0071】
中間体9.1
メチル5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボキシレート
【化42】
DMF(5mL)中の6-メトキシピリジン-3-オール(0.20g;1.59mmol)、メチル5-フルオロピリジン-2-カルボキシレート(0.25g;1.61mmol)、及び炭酸カリウム(0.67g;4.85mmol)を120℃で一晩撹拌する。反応混合物を濾過し、母液をRP-HPLC(ACN/水+TFA、カラム:SunFire)によって精製する。
収量:0.14g(34%)ESI-MS:m/z=261[M+H]
+R
t(HPLC):0.88(方法1)
【0072】
中間体9.2
5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸
【化43】
MeOH(10mL)中のメチル5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボキシレート(0.14g;0.52mmol)及びNaOH(4mol/L;水溶液;0.70mL;2.80mmol))を室温で一晩撹拌する。HCl(4モル/L;水溶液;0.70mL;2.80mmol)を添加し、反応混合物を減圧下で濃縮する。残渣をMeOHに溶解し、不溶性物質を濾別し、母液を減圧下で濃縮する。
収量:0.12g(94%)ESI-MS:m/z=247[M+H]
+R
t(HPLC):0.76(方法1)
【実施例】
【0073】
化合物の合成
実施例1
6-[(2S,4S)-1-{4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾイル}-2-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミントリフルオロ酢酸
【化44】
DMF(2mL)中の4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸(23.8mg;0.10mmol)、5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(20.0mg;0.10mmol)、及びDIPEA(68.4μL;0.40mmol)を室温で撹拌し、HATU(36.9mg;0.10mmol)を添加する。一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+TFA)によって精製する。
収量:33.8mg(64%)ESI-MS:m/z=434[M+H]
+R
t(HPLC):0.58(方法11)
【0074】
実施例2
6-[(2S,4S)-1-{3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾイル}-2-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミン
【化45】
DMF(2mL)中の3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸(20.0mg;0.07mmol)、HATU(30.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol)を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(15.0mg;0.07mmol)を添加する。3時間撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3)によって精製する。
収量:6.4mg(19%)ESI-MS:m/z=464[M+H]
+R
t(HPLC):0.81(方法1)
【0075】
実施例3
6-[(2S,4S)-1-{4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニル}-2-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミン
【化46】
DMF(2mL)中の4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸(20.0mg;0.07mmol)、HATU(30.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol)を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(15.0mg;0.07mmol)を添加する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3)によって精製する。
収量:2.0mg(6%)ESI-MS:m/z=465[M+H]
+R
t(HPLC):0.76(方法1)
【0076】
実施例4
6-[(2S,4S)-1-(3-メトキシ-4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル]オキシ}ベンゾイル)-2-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミン
【化47】
DMF(2mL)中の3-メトキシ-4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル]オキシ}安息香酸(20.0mg;0.06mmol)、HATU(25.0mg;0.07mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol)を室温30分間撹拌する。5-メチル-6-[(2S,4S)-2-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン(15.0mg;0.07mmol)を添加する。室温で2時間撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3)によって精製する。
収量:16.2mg(51%)ESI-MS:m/z=502[M+H]
+R
t(HPLC):0.86(方法1)
【0077】
実施例5
6-(1-{4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニル}ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミントリフルオロ酢酸
【化48】
DMF(3mL)中の4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸(60.0mg;0.22mmol)、HATU(85.0mg;0.22mmol)、及びDIPEA(150.0μL;0.88mmol)を室温で30分間撹拌する。6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(60.0mg;0.24mmol)を添加する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+TFA)によって精製する。
収量:71.4mg(60%)ESI-MS:m/z=437[M+H]
+R
t(HPLC):0.72(方法1)
【0078】
実施例6
6-[(3R,4R)-1-{3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾイル}-3-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミン
【化49】
DMF(2mL)中の3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸(20.0mg;0.07mmol)、HATU(30.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol))を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(22.0mg;0.08mmol)を添加する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3)によって精製する。
収量:20.3mg(60%)ESI-MS:m/z=464[M+H]
+R
t(HPLC):0.79(方法1)
【0079】
実施例7
6-(1-{4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾイル}ピペリジン-4-イル)-5-メチルピリダジン-3-アミントリフルオロ酢酸
【化50】
DMF(2mL)中の4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸(18.5mg;0.08mmol)、5-メチル-6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(20.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(53.2μL;0.31mmol)を室温で撹拌する。HATU(28.7mg;0.08mmol)を添加する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+TFA)によって精製する。
収量:34.2mg(85%)ESI-MS:m/z=420[M+H]
+R
t(HPLC):0.55(方法11)
【0080】
実施例8
6-(1-{3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ベンゾイル}ピペリジン-4-イル)-5-メチルピリダジン-3-アミントリフルオロ酢酸
【化51】
DMF(2mL)中の3-メトキシ-4-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]安息香酸(20.0mg;0.07mmol)、HATU(30.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol))を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(20.0mg;0.08mmol)を添加する。室温で3時間撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+TFA)によって精製する。
収量:11.8mg(29%)ESI-MS:m/z=450[M+H]
+R
t(HPLC):0.79(方法1)
【0081】
実施例9
6-(1-{4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニル}ピペリジン-4-イル)-5-メチルピリダジン-3-アミントリフルオロ酢酸
【化52】
DMF(2mL)中の4-メトキシ-5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸(20.0mg;0.07mmol)、HATU(30.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol)を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-(ピペリジン-4-イル)ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(20.0mg;0.08mmol)を添加する。室温で一晩撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+TFA)によって精製する。
収量:14.5mg(36%)ESI-MS:m/z=451[M+H]
+R
t(HPLC):0.74(方法1)
【0082】
実施例10
6-[(3R,4R)-1-{5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボニル}-3-メチルピペリジン-4-イル]-5-メチルピリダジン-3-アミン
【化53】
DMF(2mL)中の5-[(6-メトキシピリジン-3-イル)オキシ]ピリジン-2-カルボン酸(20.0mg;0.08mmol)、HATU(31.0mg;0.08mmol)、及びDIPEA(60.0μL;0.35mmol))を室温で30分間撹拌する。5-メチル-6-[(3R,4R)-3-メチルピペリジン-4-イル]ピリダジン-3-アミン二塩酸塩(25.0mg;0.09mmol)を添加する。室温で3日間撹拌した後、反応混合物をRP-HPLC(ACN/水+NH
3)によって精製する。
収量:7.9mg(22%)ESI-MS:m/z=435[M+H]
+R
t(HPLC):0.75(方法1)
【0083】
生物学的活性の評価
生物学的アッセイ
化合物の生物学的活性は、以下の方法で決定される。
【0084】
アッセイA:TRPC6阻害の測定
ヒトTRPC6を発現するプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞をパッチクランプアッセイに使用する。パッチクランプ実験により、上記の細胞系でのTRPC6チャネルを通る電流の検出が可能となる。全細胞パッチクランプの記録のために、電解質を充填したガラスキャピラリー電極を単一の細胞と接触させ、細胞膜との高抵抗(ギガオーム(gigaohm))シールを確立する。次いで、膜を破壊して全細胞構成を達成し、電極に接続された増幅器を使用して、細胞内電位の制御及び細胞膜を通る電流の測定が可能となる。灌流システムにより、TRPC6チャネルの阻害剤及び活性剤の添加を含む、細胞外溶液の制御が可能となる。TRPC6電流は、細胞外溶液中の10μMのエチル8-フルオロ-1H,2H,3H,4H,5H-ピリド[4,3-b]インドール-2-カルボキシレート(市販、MFCD02930345)によって活性化することができる。
【化54】
TRPC6阻害剤の特性評価のために、TRPC6発現を20~48時間誘発し、細胞を増殖プレートから取り出し、測定用の小皿中で低密度で再度プレーティングした(良好な単一の細胞の物理的分離を達成するため)。パッチクランプ記録を-40mVの保持電位で全細胞構成で行った。1.5秒ごとに400ミリ秒のランプ電圧を-80~+80mVで適用し、それぞれ-80及び+80mVで50ミリ秒の一定セグメントを置いた。TRPC6媒介性の電流を-80mV及び+80mVでのそれらの一定のセグメントで定量化した。内部(ピペット)溶液は、140mMアスパラギン酸セシウム、10mM EGTA、1.91mM CaCl
2、2.27mM MgCl
2、及び10mM HEPES、CsOHを用いてpH7.2、40nMの計算された遊離Ca
2+から構成された。外部(浴)溶液は、145mM NaCl、4.5mM KCl、3mM MgCl
2、10mM HEPES、10mMグルコース、1mM EGTA、NaOHを用いてpH7.4から構成された。TRPC6発現細胞を、30nM又は様々な濃度(濃度応答曲線について)のいずれかの潜在的な阻害剤又はビヒクルと共に少なくとも3時間プレインキュベートし、エチル8-フルオロ-1H,2H,3H,4H,5H-ピリド[4,3-b]インドール-2-カルボキシレートの添加後に、最大の内向き電流及び外向き電流の両方を測定した。電流阻害パーセントは、処理された細胞及びビヒクル細胞の平均内向き電流密度から計算した。電流密度は、細胞表面積の代理パラメータとしての個々の細胞膜キャパシタンスに関して正規化された絶対電流として計算した。各群について測定された細胞数は、ビヒクル群に関して平均50%の電流抑制が、細胞間の電流発現の変動に基づき、90%の場合で統計的に有意な差(p<0.05)をもたらすように選択した。半阻害濃度を推定するために、ヒルの式を、特定の化合物の一連の濃度での平均%パーセント阻害値に適合させた。
【表9】
本発明の化合物は、ヒトミクロソームでの好ましい代謝安定性を示す。
【0085】
治療的使用の方法
TRPC6の阻害は、TRPC6活性によって悪化する様々な疾患又は状態を予防及び処置するための魅力的な手段である。本明細書に開示される化合物は、TRPC6活性を効果的に阻害する。特に、本発明の化合物は、選択的イオンチャネル阻害剤であり、ヒトミクロソームにおいて良好な代謝安定性を有する。より具体的には、本発明の化合物は、TRPC3、TRPC5、及びTRPC7を含む他のTRPチャネルと比較して、TRPC6チャネルに対して非常に良好な効力及び選択性を有する。従って、本発明の化合物は、以下の状態及び疾患:心臓の状態(例えば、心臓肥大)、高血圧(例えば、一次性又は二次性)、肺動脈性高血圧(例えば、IPAH)、神経変性疾患又は障害(例えば、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及び外傷又は加齢を含む他の傷害によって引き起こされる他の脳障害)、炎症性疾患(例えば、喘息、気腫、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、骨関節炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ筋ジストロフィー、及び免疫系の障害)、妊娠高血圧腎症及び妊娠誘発性高血圧、腎臓疾患(巣状分節性糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症又は糖尿病性腎臓疾患、慢性腎臓疾患(CKD)、腎不全、末期腎臓疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、微小変化型疾患、虚血又は虚血性再灌流傷害、がん、糖尿病などの代謝障害、特発性肺線維症(IPF)、急性呼吸器疾患症候群(ARDS)/重症急性呼吸器症候群(SARS)、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックを含む、背景技術及び詳細な説明の項目に記載される疾患及び状態の処置に有用である。前述又は以下の疾患及び状態のいずれかを予防又は処置するための方法には、これらの疾患又は状態に関連する症状のいずれかを処置することが含まれる。例えば、腎疾患を処置するための方法は、二次性高血圧、タンパク尿、脂肪尿、高コレステロール血症、高脂血症、及び血液凝固異常を含むがこれらに限定されない症状の処置を企図する。
カルシウム調節が細胞活性化、細胞骨格再構成、遺伝子発現、細胞輸送及びアポトーシス細胞死を含む多くの細胞プロセスにおいて果たす重要な役割のために、カルシウム恒常性不全は多くの疾患及び障害に関係している。これらの疾患及び障害には、神経及び神経変性疾患及び障害:炎症性腸疾患や及びクローン病などの炎症性疾患及び障害;高カルシウム血症、腎結石、多発性嚢胞腎疾患などの腎疾患;肥満及び糖尿病を含む代謝性疾患及び障害;肝臓及び腎臓の疾患及び障害;高血圧を含む心血管疾患及び障害;COPD、IPAH、喘息を含む呼吸器疾患、並びに脳がん、乳がん、腎臓がん、子宮頸がん、前立腺がん、消化菅がん、皮膚がん、上皮がんを含むがんが含まれる。
これらの障害は、ヒトで十分に特徴評価がなされているが、他の哺乳動物でも同様の病因で存在し、本発明の医薬組成物によって処置することができる。
従って、本明細書に記載の本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩は、上記並びに背景技術及び詳細な説明の項目に記載されたものを含む、TRPC6によって媒介される疾患又は障害を処置するための医薬の調製に使用されてもよい。
【0086】
治療的使用のために、本発明の化合物は、任意の従来の様式で、任意の従来の医薬剤形での医薬組成物を介して投与されてもよい。従来の剤形は、典型的には、選択された特定の剤形に好適な薬学的に許容される担体を含む。投与経路には、静脈内、筋肉内、皮下、滑液嚢内、注入、舌下、経皮、経口、局所、又は吸入が含まれるが、これらに限定されない。好ましい投与様式は、経口及び静脈内である。
本発明の化合物は、単独で、又は阻害剤の安定性を増強し、特定の実施形態においてそれらを含む医薬組成物の投与を容易にし、増加した溶解性又は分散性を提供し、阻害活性を増加させ、補助療法を提供するなどの、他の有効成分を含む補助剤と組み合わせて投与されてもよい。一実施形態では、例えば、複数の本発明の化合物を投与することができる。有利なことに、そのような組み合わせ治療はより低い投与量の従来の治療剤を利用し、従って、それらの薬剤が単剤療法として使用されるときに生じる可能性のある毒性及び有害な副作用が回避される。本発明の化合物は、従来の治療剤又は他の補助剤と物理的に組み合わせて単一の医薬組成物にしてもよい。有利なことに、次に、化合物は単一の剤形で一緒に投与されてもよい。いくつかの実施形態において、化合物のそのような組み合わせを含む医薬組成物は、少なくとも約5%、しかしより好ましくは少なくとも約20%の本発明の化合物(w/w)又はそれらの組み合わせを含む。本発明の化合物の最適なパーセンテージ(w/w)は変動してもよく、当業者の範囲内である。或いは、本発明の化合物及び従来の治療剤又は他の補助剤は、別々に(連続的に又は並行して)投与されてもよい。別々の投与は、投与レジメンをより柔軟にすることが可能である。
上記のように、本発明の化合物の剤形は、当業者に既知であり、剤形に好適な薬学的に許容される担体及び補助剤を含んでもよい。これらの担体及び補助剤には、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、緩衝物質、水、塩又は電解質、及びセルロースベースの物質が含まれる。好ましい剤形には、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、液体、溶液、懸濁液、乳剤、ロゼンジ剤、シロップ剤、再構成可能な散剤、粒剤、坐剤、及び経皮パッチが含まれる。そのような剤形を調製するための方法は既知である(例えば、H.C.Ansel and N.G.Popovish,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,第5版,Lea and Febiger(1990)を参照)。本発明の化合物の投与量レベル及び要件は、特定の患者に好適な利用可能な方法及び技術から当業者によって選択されてもよい。いくつかの実施形態において、投薬量レベルは、70kgの患者では約1~1000mg/用量の範囲である。1日あたり1用量で十分であってもよく、1日あたり最大5回投与してもよい。経口投与の場合、最大2000mg/日が必要であってもよい。当業者が理解するように、特定の要因に応じて、より低い又はより高い用量が必要とされてもよい。例えば、特定の投与量及び処置レジメンは、患者の全身健康プロファイル、患者の障害又はその性質の重症度及び経過、並びに処置する医師の判断などの要因に依存するであろう。
【0087】
本発明の化合物は、単独で、又は1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて使用されてもよい。追加の治療剤の非限定的な例には、以下が含まれてもよい:
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB))、例えば、カンデサルタン、エプロサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、アジルサルタン、及びメドキソミル;
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(例えば、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、及びペリンドプリル);
抗糖尿病薬、例えば、α-グルコシダーゼ阻害剤(例えば、ミグリトール及びアカルボース)、アミリン類似体(例えば、プラムリンチド)、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害剤(例えば、アログリプチン、シタグリプチン、サキサグリプチン、及びリナグリプチン)、インクレチン模倣薬(例えば、リラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、エキセナチド、デュラグルチド、アルビグルチド、及びリキシセナチド)、インスリン、メグリチニド(例えば、レパグリニド及びナテグリニド)、ビグアニド(例えば、メトホルミン);SGLT-2阻害薬(例えば、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、及びダパグリフロジン)、スルホニル尿素(例えば、クロルプロパミド、グリメピリド、グリブリド、グリピジド、グリブリド、トラザミド、及びトルブタミド)、及びチアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン及びピオグリタゾン);
短時間作用型及び長時間作用型ベータアゴニスト(例えば、アルブテロール、レバルブテロール、サルメテロール、ホルモテロール、及びアルホルモテロール)、並びに短時間作用型及び長時間作用型抗コリン作用薬(イプラトロピウム、チオトロピウム、ウメクリジニウム、グリコピロレート、及びアクリジニウム)を含む、気管支拡張薬。
ステロイド、例えば、フルチカゾン及びブデソニド。
医薬組成物の組み合わせ処置として使用される場合、本発明の化合物及び1つ以上の追加の薬剤は、同じ剤形又は異なる剤形で投与することができる。本発明の化合物及び1つ以上の追加の薬剤は、レジメンの一部として、同時に又は別々に投与することができる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕式(I)の化合物
【化1】
(I)
(式中、
Aは、CH又はNから選択され、
Xは、CH又はNから選択され、
R
1
は、H、-CH
3
、及び-OCH
3
からなる群から選択され、
R
2
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、
R
3
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、又は
R
2
及びR
3
は一緒に、-(CH
2
)n-架橋を表し、式中、
nは、2、3、4、又は5の数を表し、任意選択で、1つの-CH
2
-メンバーが、O、S、-NH-、又は-N(CH)
3
-によって置き換えられ、
或いは、式(I)中の-CH(R
3
)-(R
2
)CH-構造は、式(I)のピペリン環と縮合された、フラン、チオフェン、ピロール、及びN-メチル-ピロールからなる群から選択される5員のヘテロアリール基によって置き換えられ、
R
4
は、H、-CF
3
、及び-OCH
3
からなる群から選択され、
R
5
は、H、-F、及び-OCH
3
からなる群から選択される)
及びその塩。
〔2〕Aは、CH又はNから選択され、
Xは、CH又はNから選択され、
R
1
は、H、-CH
3
、-OCH
3
からなる群から選択され、
R
2
は、Hを表し、R
3
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、又は
R
2
は、-CH
3
を表し、R
3
は、Hを表し、
R
4
は、H、-CF
3
、及び-OCH
3
からなる群から選択され、
R
5
は、H、-F、及び-OCH
3
からなる群から選択される、
前記〔1〕に記載の化合物、及びその塩。
〔3〕Aは、Nを表し、
R
1
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、
R
4
は、-CF
3
及び-OCH
3
からなる群から選択される、
前記〔1〕に記載の化合物、及びその塩。
〔4〕Aは、Nを表し、
R
1
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、
R
4
は、-OCH
3
を示す、
前記〔1〕に記載の化合物、及びその塩。
〔5〕Aは、Nを表し、
R
1
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、
Xは、CHを表し、
R
4
は、-OCH
3
を表し、
R
5
は、Hを表す、
前記〔1〕に記載の化合物、及びその塩。
〔6〕Aは、Nを表し、
R
1
は、H及び-CH
3
からなる群から選択され、
Xは、Nを表し、
R
4
は、-OCH
3
を表し、
R
5
は、Hを表す、
前記〔1〕に記載の化合物、及びその塩。
〔7〕前記〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、5又は6に記載の式(Ia)、(Ib)又は(Ic)の化合物:
【化2】
及びそれらの塩。
〔8〕以下からなる群から選択される、前記〔1〕に記載の化合物:
【表1】
〔9〕前記〔8〕に記載の化合物の薬学的に許容される塩。
〔10〕前記〔1〕~〔8〕に記載の化合物のいずれか1つ又はその薬学的に許容される塩、及び任意選択で薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
〔11〕前記〔1〕~〔8〕の一項以上に記載の1つの化合物及び1つ以上の追加の治療剤を含む、前記〔10〕に記載の医薬組成物。
〔12〕TRPC6阻害によって軽減することができる疾患又は障害を処置する方法であって、治療有効量の前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法。
〔13〕ヒト又は動物の身体を処置するための方法で使用するための、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
〔14〕ヒト又は動物の身体におけるTRPC6媒介性障害を処置するための方法で使用するための、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
〔15〕TRPC6調節によって軽減することができる疾患又は障害の処置のための医薬組成物を調製するための、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。