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特許7585240白金ベースの抗腫瘍剤に対する耳毒性保護のための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】白金ベースの抗腫瘍剤に対する耳毒性保護のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/04 20060101AFI20241111BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20241111BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241111BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K33/04
A61K33/243
A61K47/36
A61P27/16
A61P39/02
A61P35/00
A61K9/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021571025
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 US2020035271
(87)【国際公開番号】W WO2020243536
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】16/427,567
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/886,865
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520299511
【氏名又は名称】デシベル セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DECIBEL THERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ソグリア、ジョン アール.
(72)【発明者】
【氏名】フー、チー-イン
(72)【発明者】
【氏名】シー、フシン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0160094(US,A1)
【文献】Cecilia Engmer Berglin et al.,"Prevention of cisplatin-induced hearing loss by administration of a thiosulfate-containing gel to the middle ear in a guinea pig model",Cancer Chemotherapy and Pharmacology,2011年,Vol.68,p.1547-1556,DOI: 10.1007/S00280-011-1656-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における白金誘発の難聴を緩和する方法に使用するための高張医薬組成物であって、前記高張医薬組成物は、0.5M~1.5Mのチオ硫酸塩を含み、前記方法は、(i)有効量の前記高張医薬組成物を前記対象に鼓室内投与または経鼓膜投与するステップと、(ii)ステップ(i)の1~3時間後に、白金ベースの抗腫瘍剤を前記対象に投与するステップと、を含む、高張医薬組成物。
【請求項2】
前記チオ硫酸塩が、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物である、請求項1に記載の高張医薬組成物。
【請求項3】
200~1,000μLの前記高張医薬組成物は前記対象の蝸牛窓に投与されるものである、請求項1または請求項2に記載の高張医薬組成物。
【請求項4】
前記高張医薬組成物の算出重量オスモルが、1,500~5,000mOsm/Lである、請求項1~3のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項5】
前記有効量が、前記白金ベースの抗腫瘍剤が投与された時点で30μM以下である血漿チオ硫酸塩濃度をもたらす量である、請求項1~3のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項6】
前記有効量が、0.1~2.5mmolの前記チオ硫酸塩である、請求項1に記載の高張医薬組成物。
【請求項7】
前記有効量が、投与後1時間までに前記対象の蝸牛に0.6~10mmol/Lの最大チオ硫酸塩濃度をもたらす量である、請求項1~3のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項8】
前記有効量が、投与後7時間までに前記対象の蝸牛に0.1~2mmol/Lのチオ硫酸塩濃度をもたらす量である、請求項1~3のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の高張医薬組成物であって、前高張医薬組成物の投与は、(i)前記白金ベースの抗腫瘍剤の投与時に30μM以下である血漿のチオ硫酸塩のCmax および(ii)前記白金ベースの抗腫瘍剤の蝸牛のCmaxよりも少なくとも30倍大きい蝸牛のチオ硫酸塩のC max をもたらすものであり、前記蝸牛の白金濃度及び前記蝸牛のCmaxが、2コンパートメントモデルでの静脈内注入の薬物動態シミュレーションによってモデル化されるものである、高張医薬組成物。
【請求項10】
前記白金ベースの抗腫瘍剤はシスプラチンである、請求項1~9のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項11】
前記高張医薬組成物は、1.0Mのチオ硫酸塩を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項12】
前記チオ硫酸塩は、チオ硫酸ナトリウムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項13】
前記高張医薬組成物は、1%~2%(w/v)のヒアルロン酸をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項14】
前記高張医薬組成物は、1%(w/v)のヒアルロン酸を含む、請求項13に記載の高張医薬組成物。
【請求項15】
前記高張医薬組成物は、経鼓膜投与されるものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の高張医薬組成物。
【請求項16】
前記経鼓膜投与は、鼓膜を介する直接注射によるものである、請求項15に記載の高張医薬組成物。
【請求項17】
注射前に、中耳腔から空気を逃がすことができるように前記鼓膜に別の通気孔が作成されている、請求項16に記載の高張医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ベースの抗腫瘍剤に対する耳保護の方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
白金ベースの抗腫瘍剤(例えば、シスプラチン)は、がん及び腫瘍の治療に広く使用される化学療法剤である。これらの薬剤は毒性であり、ヒトと動物モデルの両方において難聴を誘発することが知られている。したがって、白金ベースの抗腫瘍剤による化学療法を受けている患者は、難聴を罹患する可能性がある。白金ベースの抗腫瘍剤を含む化学療法レジメンに伴う難聴を予防または緩和する耳毒性保護の組成物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概して、本発明は、その必要のある対象において白金誘発の耳毒性を緩和するための方法を提供する。方法は、有効量のチオ硫酸塩を対象に投与することを含む。
いくつかの実施形態では、対象は、チオ硫酸塩を投与する前の7時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていたか、または4時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である。特定の実施形態では、対象は、チオ硫酸塩を投与する前の7時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた。特定の実施形態では、対象は、4.5時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である。さらなる実施形態では、対象は、チオ硫酸塩を投与する前の2.5時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた。なおもさらなる実施形態では、対象は、チオ硫酸塩を投与する前の1時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた。
【0004】
いくつかの実施形態では、有効量のチオ硫酸塩の対象への投与は、白金ベースの抗腫瘍剤の投与時に30μM以下である血漿のチオ硫酸塩のCmaxをもたらす。特定の実施形態では、有効量のチオ硫酸塩の対象への投与は、蝸牛の白金ベースの抗腫瘍剤のCmaxよりも少なくとも30倍大きい蝸牛のチオ硫酸塩のCmaxをもたらす。蝸牛の白金濃度と蝸牛のCmaxは、典型的には、2コンパートメントモデルでの静脈内注入の薬物動態シミュレーションによってモデル化される。例えば、薬物動態シミュレーションは、WinNonlin(Phoenix 64)PKシミュレーションモデル9(IV注入、2コンパートメント)を使用して実行できる。
【0005】
さらに別の実施形態では、チオ硫酸塩は耳介に投与される。特定の実施形態では、チオ硫酸塩は、鼓室内、経鼓膜、または内耳注射によって投与される。特定の実施形態では、チオ硫酸塩は、経鼓膜または内耳注射によって投与される。
【0006】
いくつかの実施形態では、方法は、白金ベースの抗腫瘍剤を投与することをさらに含む。
特定の実施形態では、チオ硫酸塩は、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物である。さらなる実施形態では、有効量のチオ硫酸塩は、有効量のチオ硫酸塩を含む高張医薬組成物として投与される。なおもさらなる実施形態では、200~1000μL(例えば、200~900μL、200~800μL、200~700μL、200~600μL、200~500μL、200~400μL、200~300μL、300~900μL、300~800μL、300~700μL、300~600μL、300~500μL、300~400μL、400~900μL、400~800μL、400~700μL、400~600μL、または400~500μL)の高張医薬組成物が対象の蝸牛窓に投与される。
【0007】
なおもさらなる実施形態では、高張医薬組成物の算出重量オスモルは、500~5,000mOsm/L(例えば、600~5,000mOsm/L、700~5000mOsm/L、800~5,000mOsm/L、900~5,000mOsm/L、1,000~5,000mOsm/L、1,500~5,000mOsm/L、2,000~5,000mOsm/L、2,500~5,000mOsm/L、3,000~5,000mOsm/L、500~4,000mOsm/L、600~4,000mOsm/L、700~4,000mOsm/L、800~4,000mOsm/L、900~4,000mOsm/L、1,000~4,000mOsm/L、1,500~4,000mOsm/L、2,000~4,000mOsm/L、2,500~4,000mOsm/L、3,000~4,000mOsm/L、500~3,000mOsm/L、600~3,000mOsm/L、700~3,000mOsm/L、800~3,000mOsm/L、900~3,000mOsm/L、1,000~3,000mOsm/L、1,500~3,000mOsm/L、2,000~3,000mOsm/L、2,500~3,000mOsm/L、500~2,500mOsm/L、600~2,500mOsm/L、700~2,500mOsm/L、800~2,500mOsm/L、900~2,500mOsm/L、1,000~2,500mOsm/L、1,500~2,500mOsm/L、2,000~2,500mOsm/L、500~2,000mOsm/L、600~2,000mOsm/L、700~2,000mOsm/L、800~2,000mOsm/L、900~2,000mOsm/L、1,000~2,000mOsm/L、1,500~2,000mOsm/L、500~1,500mOsm/L、600~1,500mOsm/L、700~1,500mOsm/L、800~1500mOsm/L、900~1,500mOsm/L、または1,000~1,500mOsm/L)である。
【0008】
いくつかの実施形態では、高張医薬組成物中のチオ硫酸塩の濃度は、0.5M~2.5M(例えば、約0.05M~約1.5M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.5M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.5M、約0.2M~約0.5M、約0.5M~約1.5M、0.05M~約1.0M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.0M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.0M、約0.2M~約0.5M、約0.5M~約1.0M、または約1.0M~約1.5M)である。
【0009】
特定の実施形態では、有効量は、白金ベースの抗腫瘍剤が投与された時点で30μM以下である血漿チオ硫酸塩濃度をもたらす量である。特定の実施形態では、有効量は、0.1~2.5mmolのチオ硫酸塩である。特定の実施形態では、有効量は、投与後1時間までに0.6~10mmol/Lの最大チオ硫酸塩濃度をもたらす量である。さらなる実施形態では、有効量は、対象の蝸牛に投与後7時間までに0.1~2mmol/Lのチオ硫酸塩濃度をもたらす量である。
【0010】
いくつかの実施形態では、対象は、約1時間~約6時間以内(例えば、チオ硫酸塩投与後、約1時間~約5時間以内、約1時間~約4時間以内、約1時間~約3時間、約1時間~約2時間、約2時間~約3時間、約2時間~約4時間、約2時間~約5時間、約2時間~約6時間、約3時間~約4時間、約3時間~約5時間、約3時間~約6時間、約4時間~約5時間、約4時間~約6時間、または約5時間~約6時間)に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である。
【0011】
いくつかの実施形態では、対象は、チオ硫酸塩投与後約1時間~約6時間以内(例えば、チオ硫酸塩投与後、約1時間~約5時間以内、約1時間~約4時間以内、約1時間~約3時間、約1時間~約2時間、約2時間~約3時間、約2時間~約4時間、約2時間~約5時間、約2時間~約6時間、約3時間~約4時間、約3時間~約5時間、約3時間~約6時間、約4時間~約5時間、約4時間~約6時間、または約5時間~約6時間)に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される。
【0012】
いくつかの実施形態では、対象は、チオ硫酸塩投与前約1時間~約6時間以内(例えば、チオ硫酸塩投与前、約1時間~約5時間以内、約1時間~約4時間以内、約1時間~約3時間、約1時間~約2時間、約2時間~約3時間、約2時間~約4時間、約2時間~約5時間、約2時間~約6時間、約3時間~約4時間、約3時間~約5時間、約3時間~約6時間、約4時間~約5時間、約4時間~約6時間、または約5時間~約6時間)に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される。
【0013】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の列挙された条項によって記載される。
1.それを必要とする対象における白金誘発の耳毒性を緩和する方法であって、有効量のチオ硫酸塩を前記対象に投与することを含み、前記対象は、前記チオ硫酸塩の投与の7時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されたか、または白金ベースの抗腫瘍剤を4時間以内に投与する予定である、前記方法。
【0014】
2.前記有効量が、前記白金ベースの抗腫瘍剤が投与された時点で30μM以下である血漿チオ硫酸塩濃度をもたらす量である、条項1の方法。
3.それを必要とする対象における白金誘発の耳毒性を緩和する方法であって、有効量のチオ硫酸塩を前記対象に投与して、(i)白金ベースの抗腫瘍剤の投与時に30μM以下である血漿のチオ硫酸塩のCmaxをもたらし、かつ(ii)蝸牛のチオ硫酸塩のCmaxが、前記白金ベースの抗腫瘍剤の蝸牛のCmaxよりも少なくとも30倍大きく、前記蝸牛の白金濃度及び前記蝸牛のCmaxが、2コンパートメントモデルでの静脈内注入の薬物動態シミュレーションによってモデル化される、前記方法。
【0015】
4.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の7時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていたか、または4時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項2の方法。
【0016】
5.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の7時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
6.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の6時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0017】
7.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の5時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
8.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の4時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0018】
9.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の3時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
10.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の2.5時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0019】
11.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の2時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
12.前記対象が、前記チオ硫酸塩を投与する前の1時間以内に白金ベースの腫瘍剤を投与されていた、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0020】
13.前記対象が、4.5時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項1~3のいずれか1つの方法。
14.前記対象が、4時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0021】
15.前記対象が、3時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項1~3のいずれか1つの方法。
16.前記対象が、2時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項1~3のいずれか1つの方法。
【0022】
17.前記対象が、1時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である、条項1~3のいずれか1つの方法。
18.前記チオ硫酸塩が耳介に投与される、条項1~16のいずれか1つの方法。
【0023】
19.前記チオ硫酸塩が鼓室内に投与される、条項17の方法。
20.前記チオ硫酸塩が経鼓膜投与される、条項17の方法。
21.前記チオ硫酸塩が内耳注射によって投与される、条項17の方法。
【0024】
22.前記白金ベースの抗腫瘍剤を投与することをさらに含む、条項1~20のいずれか1つの方法。
23.前記チオ硫酸塩が、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物である、条項1~21のいずれか1つの方法。
【0025】
24.前記有効量のチオ硫酸塩が、有効量のチオ硫酸塩を含む高張医薬組成物として投与される、条項1~22のいずれか1つの方法。
25.200~1,000μLの前記高張医薬組成物が前記対象の蝸牛窓に投与される、条項23の方法。
【0026】
26.前記高張医薬組成物の算出重量オスモルが、500~5,000mOsm/Lである、条項23または24の方法。
27.前記高張医薬組成物中の前記チオ硫酸塩の濃度が0.5M~2.5Mである、条項23~25のいずれか1つの方法。
【0027】
28.前記高張医薬組成物中の前記チオ硫酸塩の濃度が0.5M~1.5Mである、条項23~25のいずれか1つの方法。
29.前記高張医薬組成物中の前記チオ硫酸塩の濃度が0.5M~1.0Mである、条項23~25のいずれか1つの方法。
【0028】
30.前記有効量が少なくとも0.05mmolの前記チオ硫酸塩である、条項1~28のいずれか1つの方法。
31.前記有効量が少なくとも0.1mmolの前記チオ硫酸塩である、条項1~28のいずれか1つの方法。
【0029】
32.前記有効量が少なくとも0.2mmolの前記チオ硫酸塩である、条項1~28のいずれか1つの方法。
33.前記有効量が少なくとも0.3mmolの前記チオ硫酸塩である、条項1~28のいずれか1つの方法。
【0030】
34.前記有効量が少なくとも0.4mmolの前記チオ硫酸塩である、条項1~28のいずれか1つの方法。
35.前記有効量が少なくとも2.5mmol以下の前記チオ硫酸塩である、条項1~33のいずれか1つの方法。
【0031】
36.前記有効量が少なくとも2.0mmol以下の前記チオ硫酸塩である、条項1~33のいずれか1つの方法。
37.前記有効量が少なくとも1.5mmol以下の前記チオ硫酸塩である、条項1~33のいずれか1つの方法。
【0032】
38.前記有効量が少なくとも1.0mmol以下の前記チオ硫酸塩である、条項1~33のいずれか1つの方法。
39.前記有効量が少なくとも0.5mmol以下の前記チオ硫酸塩である、条項1~33のいずれか1つの方法。
【0033】
40.前記有効量が、投与後1時間までに0.6~10mmol/Lの最大チオ硫酸塩濃度をもたらす量である、条項1~38のいずれか1つの方法。
41.前記有効量が、前記対象の蝸牛に投与後7時間までに0.1~2mmol/Lのチオ硫酸塩濃度をもたらす量である、条項1~39のいずれか1つの方法。
【0034】
定義
「約」という用語は、本明細書で使用される場合、「約」という用語に続く値の±10%の範囲にある値を表す。
【0035】
「アルカリ塩」という用語は、本明細書で使用される場合、化合物のナトリウム塩またはカリウム塩を表す。アルカリ塩は、一塩基性、または、酸性部分(例えば、-COOH、-SOH、または-P(O)(OH)部分)の数が許す場合、二塩基性または三塩基性であり得る。
【0036】
「アンモニウム塩」という用語は、本明細書で使用される場合、化合物のNH 塩を表す。アンモニウム塩は、一塩基性、または、酸性部分(例えば、-COOH、-SOH、または-P(O)(OH)部分)の数が許す場合、二塩基性または三塩基性であり得る。
【0037】
「ゲル化剤」という用語は、本明細書で使用される場合、溶媒(例えば、水性溶媒)と混合するとゲルを生成する、当該技術分野で知られている薬学的に許容される賦形剤を指す。ゲル化剤の非限定的な例としては、ヒアルロナン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル、カルボマー(例、Carbopol(登録商標))、寒天-寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン(例、グアーガム、イナゴマメガム、またはタラガム)、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ペトロラタム、ケイ酸塩、フィブロイン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
「高張」という用語は、医薬組成物を参照して本明細書で使用される場合、300mOsm/L~7,000mOsm/L(例えば、300mOsm/L~2,500mOsm/L)の算出重量オスモルを有する医薬組成物を表し、0mOsm/Lの算出重量オスモルを有する1Lの溶媒中に白金不活性化剤及び任意のイオン性非高分子賦形剤の溶解によってもたらされる300mmol~7,000mmol(例えば、300mOsm/L~2,500mmol)のイオン及び/または中性分子に対応する。本開示の目的のため、算出重量オスモルは、高分子賦形剤(例えば、ゲル化剤)から生成されるイオン及び/または中性分子を含まない。本開示の目的のため、高分子賦形剤(例えば、ゲル化剤)は、本明細書に開示される組成物の算出重量オスモルに寄与しないとみなされる。
【0039】
「鼓室内」という用語は、投与経路を参照して本明細書で使用される場合、鼓膜を一時的に除去または持ち上げた状態での外耳道を通じて、または、耳嚢を介して生成された管を通じて、対象の中耳への注射または注入による蝸牛窓への送達を意味する。
【0040】
「医薬組成物」という用語は、本明細書で使用される場合、薬学的に許容される賦形剤で製剤化され、哺乳動物の疾患を治療するための治療レジメンの一部として政府監督官庁の承認を得て製造及び販売されている、組成物を表す。
【0041】
「医薬剤形」という用語は、本明細書で使用される場合、さらなる改変をすることなくそのまま(例えば、液体溶媒による希釈、液体溶媒中の懸濁、または液体溶媒中の溶解をすることなく)、対象に投与することを意図した医薬組成物を表す。
【0042】
「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、本明細書で使用される場合、患者内において実質的に無毒性かつ実質的に非炎症性であるという特性を有している、本明細書に記載される抗チオ硫酸塩及びゲル化剤以外の任意の成分(例えば、活性化合物を懸濁または溶解させることが可能なビヒクル)を指す。賦形剤としては、例えば、抗酸化剤、崩壊剤、染料(着色剤)、皮膚軟化剤、乳化剤、増量剤(希釈剤)、香味剤、香料、保存剤、印刷インク、吸着剤、懸濁剤または分散剤、甘味料、液体溶媒、及び緩衝剤が挙げられ得る。
【0043】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書で使用される場合、過度の毒性、刺激、アレルギー性応答などを有さず、及び、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、健全な医学的判断の範囲内においてヒト及び動物の組織に接触させて使用するのに適している塩を表す。薬学的に許容される塩は、当該技術分野でよく知られている。例えば、薬学的に許容される塩は以下に記載されている:Berge et al.,J.Pharmaceutical Sciences 66:1-19,1977、及びPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,(Eds.P.H.Stahl and C.G.Wermuth),Wiley-VCH,2008。塩は、本明細書に記載されている化合物の最終的な単離及び精製中にその場で、または遊離塩基基を適切な有機酸と反応させることにより別々に調製することができる。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバレート、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸、吉草酸塩などが挙げられる。代表的なアルカリまたはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、ならびに無毒のアンモニウム、第四級アンモニウム、及びアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどを含むがこれらに限定されないアミンカチオンが挙げられる。
【0044】
「薬学的に許容される溶媒和物」という用語は、本明細書で使用される場合、適切な溶媒の分子がその結晶格子の中に組み込まれている、本明細書に記載される化合物を意味する。適切な溶媒は、投与された投与量において生理学的に許容され得る。例えば、溶媒和物は、有機溶媒、水、またはそれらの混合物を含む溶液からの結晶化、再結晶化、または沈殿によって調製することができる。適切な溶媒の例は、エタノール、水(例えば、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物及び五水和物)、N-メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMEU)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2-(1H)-ピリミジノン(DMPU)、アセトニトリル(ACN)、プロピレングリコール、酢酸エチル、ベンジルアルコール、2-ピロリドン、安息香酸ベンジルなどである。溶媒和物が水である場合、溶媒和物は、「水和物」と称される。
【0045】
「白金ベースの抗腫瘍剤」という用語は、本明細書で使用される場合、Pt(II)またはPt(IV)の配位化合物を表す。白金ベースの抗腫瘍剤は、プラチンとして当該技術分野で公知である。典型的には、白金ベースの抗腫瘍剤は、窒素スペクテーター配位子(複数可)によって占有される白金中心に少なくとも2つの配位部位を含む。窒素スペクテーター配位子は、単座または二座配位子であり、ドナー原子は、配位子内でsp-またはsp-の混成窒素原子である。窒素スペクテーター配位子の非限定例は、アンモニア、1,2-シクロヘキサンジアミン、ピコリン、フェナンスリン、または1,6-ヘキサンジアミンである。白金ベースの抗腫瘍剤の非限定例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、及びサトラプラチンが挙げられる。
【0046】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、動物(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)を指す。本明細書に記載される方法に従って治療される対象は、(例えば、良性腫瘍、悪性腫瘍、またはがんの治療のための)白金ベースの抗腫瘍剤を含む治療レジメンで治療されるものであり得る。対象は、当該技術分野で公知の任意の方法または技術によって良性腫瘍、悪性腫瘍、またはがんと診断されていてもよい。当業者であれば、本発明に従って治療される対象が、標準試験を施されていてもよいし、または、白金ベースの抗腫瘍剤を含む治療レジメンを受けていることによる高リスクであると、試験することなく特定されていてもよいことが理解されるであろう。
【0047】
「実質的に中性」という用語は、本明細書で使用される場合、20℃で測定するときに、5.5~約8.5のpHレベルを指す。
「等張化剤」という用語は、本明細書で使用される場合、医薬組成物の重量オスモルの制御に使用される薬学的に許容される賦形剤の一種を指す。等張化剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。人工外リンパは、NaCl(120~130mM)、KCl(3.5mM)、CaCl(1.3~1.5mM)、MgCl(1.2mM)、グルコース(5.0~11mM)、及び緩衝剤(例えば、NaHCO(25mM)及びNaHPO(0.75mM)、またはHEPES(20mM)、ならびにNaOH(約7.5のpHに調整された))を含有する水溶液である。
【0048】
「経鼓膜」という用語は、投与経路を参照して本明細書で使用される場合、鼓膜全体への注射または注入による蝸牛窓への送達を意味する。経鼓膜注射は、鼓膜を通じて、または、鼓膜に埋め込まれた管を通じて(例えば、中耳腔換気用チューブまたはグロメットを通じて)直接行ってもよい。
【0049】
「内耳注射」という用語は、本明細書で使用される場合、内耳空間への薬物の直接注射を指す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】試験した各ヒトコホートの経時的な平均血漿チオ硫酸塩濃度のプロファイル(0~24時間)を示すチャートである。X軸は時間(時間)を示し、Y軸は平均血漿チオ硫酸塩濃度(ng/mL)を示す。
図2】試験した各ヒトコホートの経時的な平均血漿チオ硫酸塩濃度のプロファイル(0~4時間)を示すチャートである。示されるエラーバーは標準偏差である。X軸は時間(時間)を示し、Y軸は平均血漿チオ硫酸塩濃度(ng/mL)を示す。
図3】試験した各ヒトコホートの経時的な平均血漿チオ硫酸塩濃度のプロファイル(0~672時間)を示すチャートである。X軸は時間(時間)を示し、Y軸は平均血漿チオ硫酸塩濃度(ng/mL)を示す。
図4】シスプラチンに対するチオ硫酸塩投与のタイミングを示す図である。
図5A】対照モルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定された4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。X軸は音の周波数をkHzで示し、Y軸は音圧レベルのデシベルで応答閾値(dB SPL)を示す。
図5B】シスプラチンチャレンジに続いてチオ硫酸塩をそれぞれ1つの耳に投与されたモルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定された4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。X軸は音の周波数をkHzで示し、Y軸は音圧レベルのデシベルで応答閾値(dB SPL)を示す。示されているデータは、平均±平均の標準誤差(SEM)である。二元配置分散分析(ANOVA);**P<0.01;***P<0.001、処置された耳対未処置の耳(図5Aと比較)。
図6】15μMのシスプラチンで処理されたヒト腫瘍細胞株におけるチオ硫酸塩(DB-020)の濃度依存性を示すチャートである。以下の腫瘍細胞株を使用した:SH-N-AS(脳、神経芽細胞腫)、SNU899(喉頭、扁平上皮癌)、NCI-H23(肺、非小細胞)、HLF(肝臓、未分化肝細胞癌)、及びA2780(卵巣、がん腫)。
図7】ヒアルロナンゲル1(12%w/v、0.5Mチオ硫酸ナトリウム)投与後の血漿(ヒト)及び外リンパ(モルモット)における経時的な平均チオ硫酸塩濃度(mM)のプロファイル(0~8時間)を示すチャートである。水平の実線は、血漿チオ硫酸塩レベルがそれを下回るべきである30μMレベルを示す。水平の点線は、外リンパチオ硫酸塩レベルがそれを上回るべきである660μM(0.66mM)レベルを示す。
図8A】0.1Mチオ硫酸ナトリウム及び20%(w/v)ポロキサマー407を含有するゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
図8B】0.5Mチオ硫酸ナトリウム及び1%(w/v)ヒアルロナンを含有するゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
図9A】0.1Mチオ硫酸ナトリウム及び2%(w/v)ヒアルロナンを含有するゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
図9B】0.5Mチオ硫酸ナトリウム及び2%(w/v)ヒアルロナンを含有するゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
図10A】聴性脳幹反応試験中に5つのコホートのモルモット(n=27頭の動物)にわたって測定された、4、24、及び32kHzでの閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全てのモルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。
図10B】難聴を有するとみなされたモルモット(n=18頭の動物)の聴性脳幹反応試験中に測定された、4、24、及び32kHzでの閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全てのモルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。
図11A】難聴を有するとみなされたモルモット(n=18頭の動物)の聴性脳幹反応試験中に測定された、4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全てのモルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。
図11B】シスプラチンチャレンジに続いてビヒクルまたはチオ硫酸塩をそれぞれ1つの耳に投与されたモルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定された4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。
図12】モルモットの片耳にビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウムを投与した後のシスプラチンチャレンジ試験を示す図である。
図13】シスプラチンチャレンジ後にビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウム(0.1M、0.5M、または1Mのチオ硫酸ナトリウムゲル)をそれぞれの片耳に投与したモルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定した、4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチンナイーブのモルモット(n=100の耳)での履歴聴性脳幹反応テストからのものであった。ベースライン閾値は、陰影面積曲線として示される。
【発明を実施するための形態】
【0051】
概して、本発明は、有効量のチオ硫酸塩を対象に投与することにより、対象における白金誘発の耳毒性を緩和する方法を提供する。好ましくは、チオ硫酸塩が耳介に(例えば、鼓室内または経鼓膜で)投与される。
【0052】
典型的には、チオ硫酸塩は、4時間以内(例えば、3時間以内、2時間以内、または1時間以内)に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定の対象に投与される。代替的に、チオ硫酸塩は、白金ベースの腫瘍剤の投与後7時間以内(例えば、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内)に投与される。好ましくは、チオ硫酸塩は、3時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定の対象に投与される。代替的に、チオ硫酸塩は、白金ベースの腫瘍剤の投与後4時間以内に投与される。より好ましくは、チオ硫酸塩は、1時間以内に白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定の対象に投与される。代替的に、チオ硫酸塩は、白金ベースの腫瘍剤の投与後1時間以内に投与される。
【0053】
有効量のチオ硫酸塩は、典型的には、白金ベースの抗腫瘍剤の投与時に、30μM以下(例えば、20μM以下、10μM以下、またはほぼ内因性濃度)の血漿チオ硫酸塩濃度をもたらす。追加的または代替的に、有効量のチオ硫酸塩は、典型的には、白金ベースの抗腫瘍剤の蝸牛のCmaxよりも少なくとも30倍大きい(例えば、30~1000倍、30~500倍、または30~150倍大きい)蝸牛のチオ硫酸塩濃度をもたらし、蝸牛の白金濃度及び蝸牛のCmaxが、2コンパートメントモデルでの静脈内注入の薬物動態シミュレーションによってモデル化される。
【0054】
白金誘発の耳毒性は、白金ベースの抗腫瘍剤を投与されている対象(例えば、腫瘍またはがんを患っている対象)で発生する可能性がある。白金ベースの抗腫瘍剤の非限定例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、及びサトラプラチンが挙げられる。
【0055】
チオ硫酸塩は、白金ベースの抗腫瘍薬を投与されている対象の難聴を、同じ白金ベースの抗腫瘍薬を投与されているがチオ硫酸塩を投与されていない対象と比較して、8kHz以上の周波数(例えば、8kHz~20kHz)での対象の音圧レベルの閾値の上昇の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%)の減少によって測定されるように、軽減(例えば、排除)することができる。
【0056】
チオ硫酸塩は、白金ベースの抗腫瘍剤に対して耳保護特性を示すことができ、それを必要とする対象における白金誘発の耳毒性を軽減する(例えば、排除する)方法において使用することができる。典型的には、チオ硫酸塩は、対象の蝸牛窓に投与される。対象は、白金ベースの抗腫瘍剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、またはサトラプラチン)による治療を受けていてもよい。
【0057】
チオ硫酸塩は、例えば、白金ベースの抗腫瘍剤を対象に投与する前またはその後に、対象に投与することができる。代替的に、チオ硫酸塩を、例えば、白金ベースの抗腫瘍剤の投与と同時に投与することができる。チオ硫酸塩は、4時間以内、例えば3時間以内、2時間以内、または1時間以内(例えば、白金ベースの抗腫瘍剤投与の少なくとも5分前、少なくとも15分前、または少なくとも30分前)に、白金ベースの抗腫瘍剤を投与される予定である対象に投与することができる。代替的に、チオ硫酸塩を、例えば、白金ベースの抗腫瘍剤投与後(例えば、少なくとも5分後、少なくとも15分後、または少なくとも30分後)、7時間以内(例えば、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内)で投与することができる。白金ベースの抗腫瘍剤の投与は、典型的には、水和組成物(例えば、任意選択で、例えば、マンニトールまたはフロセミドを含む生理食塩水)の投与が先行する。さらに、白金ベースの抗腫瘍剤の投与は、典型的には、少なくとも1時間(例えば、1~24時間、例えば、1~12時間、1~6時間、1~3時間、または1~2時間)持続する。当業者は、チオ硫酸塩と白金ベースの腫瘍剤の投与の間のタイミングを、一方の投与の完了と他方の投与の開始との間の時間であると認識するであろう。例えば、チオ硫酸塩の投与ステップの30分~4時間後の白金ベースの腫瘍剤の投与は、チオ硫酸塩投与の終了と白金ベースの腫瘍剤投与(例えば、シスプラチンの注入)の開始とを30分~4時間間隔を開けることを示す。
【0058】
典型的には、本発明の医薬組成物は、白金ベースの抗腫瘍剤とは異なる経路で投与することができる。本発明の方法は、局所投与経路を利用することができ、例えば、本発明の医薬組成物は、鼓室内または経鼓膜で投与することができる。経鼓膜投与は、有効量の本発明の医薬組成物の鼓膜を介した鼓室への注射または注入を含み得、それにより、蝸牛窓に抗白金化学保護剤を提供する。
【0059】
本発明の方法では、典型的には、針を使用して鼓膜を貫通して薬物を中耳腔に注入するか、または既存のPEチューブまたは鼓膜の穿孔を横断して薬物を注入する。鼓膜に別個の通気孔を作成して、中耳腔から空気を逃がすことができるようにしてもよいし、しなくてもよい。次に、注入された薬物は、中耳の構造、細胞を標的にするか、または特定の標的に影響を与えるために円形及び楕円形の膜を介して内耳に入るように設計され得る。これは、例えば、蝸牛窓膜、卵円窓、蝸牛開窓、または迷路切開術のアプローチを通して薬物を注入することによって達成することができる。これらの外科的処置は、鼓膜弁を上げ(鼓膜を持ち上げる)、蝸牛窓、アブミ骨/卵円窓、及び岬角を露出させることによって達成することができる。アブミ骨可動術の穴をアブミ骨板に作成し、ポンプ、注射、またはその他の方法で前庭に薬剤を注入することができる。代替的に、蝸牛窓(RW)の骨唇を(典型的にはドリルで)取り外して、RWを露出させる。次に、RWに針を刺して薬物を注入するか、またはRWに有窓を設けて、薬物を有窓から直接注入することができる。最後に、蝸牛に蝸牛開窓穴をドリルで開けることにより、蝸牛への完全に別個の入口穴を開けることができ、薬物を注入する。
【0060】
代替的に、鼓膜弁を上げる代わりに、乳突削開術を実施し、顔面神経窩を開いて、卵円窓及び蝸牛窓、ならびに岬角及び半規管に直接アクセスできるようにすることもできる。このアプローチにより、3つの部位全てを今説明したように使用できる。さらに、薬物を注入するために、蝸牛開窓術のように迷路を開くことができる。内耳の体液/圧力の蓄積を消散させるために、RWまたはOWへの別個の開口部を作成して、過剰な外リンパを漏出させることができる。
【0061】
チオ硫酸塩は、医薬組成物で提供され得る。医薬組成物は、例えば、高張性であり得る。理論に拘束されることを望まないが、本明細書に開示される医薬組成物のより高い張性は、より低い張性(例えば、低張または等張)を有する組成物と比較して、対象の蝸牛窓でのチオ硫酸塩のバイオアベイラビリティを改善すると考えられる。バイオアベイラビリティは典型的に、対象への投与後のチオ硫酸塩への曝露(AUC)を使用して計算される。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の算出重量オスモルは、例えば、少なくとも400mOsm/L(例えば、少なくとも500mOsm/L、少なくとも600mOsm/L、少なくとも700mOsm/L、少なくとも800mOsm/L、少なくとも900mOsm/L、少なくとも1,000mOsm/L、少なくとも1,500mOsm/L、少なくとも2,000mOsm/L、少なくとも2,500mOsm/L、または少なくとも3,000mOsm/L)、及び/または5,000mOsm/L以下(例えば、4,000mOsm/L以下、3,000mOsm/L以下、2,000mOsm/L以下、1,900mOsm/L以下、1,800mOsm/L以下、1,700mOsm/L以下、1,600mOsm/L以下、または1,500mOsm/L以下)であり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の算出重量オスモルは、例えば、1,500~4,500mOsm/Lであり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の算出重量オスモルは、例えば、3,000~4,500mOsm/Lであり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定容積モル濃度は、例えば、少なくとも0.3Osm/kg(例えば、少なくとも0.5Osm/kg、少なくとも0.6Osm/kg、少なくとも0.7Osm/kg、少なくとも0.8Osm/kg、少なくとも0.9Osm/kg、少なくとも1.0Osm/kg、少なくとも1.2Osm/kg、少なくとも1.4Osm/kg、または少なくとも1.8Osm/kg)であり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定容積モル濃度は、例えば、2.5Osm/kg以下(例えば、2.1Osm/kg以下)であり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定容積モル濃度は、例えば、0.3~2.5Osm/kg(例えば、0.5~2.5Osm/kg、0.6~2.5Osm/kg、0.7~2.5Osm/kg、0.8~2.5Osm/kg、0.9~2.5Osm/kg、1.0~2.5Osm/kg、1.2~2.5Osm/kg、1.4~2.5Osm/kg、1.8~2.5Osm/kg、0.5~2.1Osm/kg、0.6~2.1Osm/kg、0.7~2.1Osm/kg、0.8~2.1Osm/kg、0.9~2.1Osm/kg、1.0~2.1Osm/kg、1.2~2.1Osm/kg、1.4~2.1Osm/kg、または1.8~2.1Osm/kg)であり得る。「算出重量オスモル」とは、1LのDIまたは蒸留水に1種以上の化合物を溶解することによってもたらされるイオン及び/または中性分子のミリモル数を指し、算出重量オスモルには、高分子賦形剤から(例えば、ゲル化剤から)もたらされたイオン及び/または中性分子は含まれない。「測定容積モル濃度」とは、浸透圧計(典型的には、膜浸透圧計)を使用して測定された、組成物の容積モル濃度を指す。
【0062】
本発明の好ましい医薬剤形はゲルである。
いくつかの実施形態では、少なくとも50μL(好ましくは少なくとも100μL;より好ましくは少なくとも200μL)の医薬組成物が対象の蝸牛窓に投与される。特定の実施形態では、1mL以下(例えば、0.8mL以下または0.5mL以下)の医薬組成物が、対象の蝸牛窓に投与される。特定の実施形態では、100μL~1mL(例えば、200μL~1mL、100μL~0.8mL、200μL~0.8mL、100μL~0.5mL、200μL~0.5mL、0.5mL~1.0mL、0.5mL~0.8mL、または0.8mL~1.0mL)の医薬組成物が、対象の蝸牛窓に投与される。
【0063】
チオ硫酸塩は、例えば、医薬組成物の重量オスモルに寄与する唯一の化合物であり得る。代替的に、例えば、等張化剤の使用により、チオ硫酸塩の所望の濃度によって得られるものよりも高い容積モル濃度達成することができる。等張化剤は、高張性、等張性、または低張性の賦形剤(例えば、低張性液体溶媒)中に存在し得る。等張化剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、グリセロール、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。
【0064】
チオ硫酸塩
理論に拘束されることを望まないが、チオ硫酸塩は、白金ベースの抗腫瘍剤に存在する白金中心を競合的に結合し、それを実質的に錯化飽和することによって、白金ベースの抗腫瘍剤の毒性を低減または排除すると考えられている。医薬組成物(例えば、医薬剤形)中のチオ硫酸塩の濃度は、例えば、少なくとも約0.05M(例えば、少なくとも約0.1M、少なくとも約0.2M、少なくとも約0.3M、少なくとも約0.4M、少なくとも約0.5M、または少なくとも約1M)であり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)中のチオ硫酸塩の濃度は、例えば、約2.5M以下(例えば、2.0M以下、1.5M以下、1.0M以下、0.5M以下、約0.3M以下、または約0.2M以下)であり得る。医薬組成物(例えば、医薬剤形)中のチオ硫酸塩の濃度の非限定的な例は、0.5M~2.5M(例えば、約0.05M~約1.5M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.5M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.5M、約0.2M~約0.5M、約0.5M~約1.5M、0.05M~約1.0M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.0M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.0M、約0.2M~約0.5M、約0.5M~約1.0M、または約1.0M~約1.5M)であり得る。好ましくは、医薬組成物(例えば、医薬剤形)中のチオ硫酸塩剤の濃度は、約0.5M~約1.5Mである。より好ましくは、医薬組成物(例えば、医薬剤形)中のチオ硫酸塩剤の濃度は、約0.5M~約1.0Mである。
【0065】
好ましくは、チオ硫酸塩は、アルカリチオ硫酸塩またはアンモニウムチオ硫酸塩である。より好ましくは、チオ硫酸塩はチオ硫酸ナトリウムである。
ゲル化剤
本明細書に開示される医薬組成物は、ゲル化剤を含む。ゲル化剤を使用して、医薬組成物の粘度を増加させることによって、標的部位での医薬組成物の保持を改善させることができる。医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、溶媒に対して、例えば、約0.1%~約25%(w/v)(例えば、約0.1%~約20%(w/v)、約0.1%~約10%(w/v)、約0.1%~約2%(w/v)、約0.5%~約25%(w/v)、約0.5%~約20%(w/v)、約0.5%~約10%(w/v)、約0.5%~約2%(w/v)、約1%~約20%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約1%~約2%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、または約7%~約10%(w/v))のゲル化剤を含み得る。好ましくは、医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、溶媒に対して、例えば、約0.5%~約25%(w/v)(例えば、約0.5%~約20%(w/v)、約0.5%~約10%(w/v)、約0.5%~約2%(w/v)、約1%~約20%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約1%~約2%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、または約7%~約10%(w/v))のゲル化剤を含み得る。
【0066】
本明細書に開示される医薬組成物に使用することができるゲル化剤は、当該技術分野で知られている。ゲル化剤の非限定的な例としては、ヒアルロナン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル、カルボマー(例、Carbopol(登録商標))、寒天-寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン(例、グアーガム、イナゴマメガム、またはタラガム)、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ペトロラタム、ケイ酸塩、フィブロイン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。本明細書に記載のゲル化剤は当該技術分野で知られている。好ましくは、ゲル化剤はヒアルロナンである。
【0067】
医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約0.5%~約2%(w/v)(例えば、約1%~約2%(w/v))のヒアルロナンを含み得る。医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約5%~約10%(w/v)(例えば、約6%~約8%(w/v))のメチルセルロースを含み得る。医薬組成物は、例えば、ゲル化剤としてヒアルロナン及びメチルセルロースを含み得る(例えば、溶媒に対して、約0.5%~約2%(w/v)のヒアルロナン及び約5%~約10%(w/v)のメチルセルロース)。医薬組成物は、例えば、ゲル化剤として、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得る。医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約1%~約20%(w/v)(例えば、約1%~約15%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約15%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、約10%~約20%(w/v)、または約10%~約15%(w/v))のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得る。ポロキサマーは、ポロキサマー407、ポロキサマー188、またはそれらの組み合わせであり得る。医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約0.5%(w/v)~約20%(w/v)のフィブロインをゲル化剤として含み得る。
【0068】
ヒアルロナンは、ヒアルロン酸またはその塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)である。ヒアルロナンは当該技術分野で知られており、典型的には、様々な細菌(例えば、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus equi、もしくはStreptococcus pyrogenes)または他の供給源、例えば、ウシ硝子体液またはオンドリのとさかから単離される。ヒアルロナンの重量平均分子量(M)は、典型的には、約50kDa~約10MDaである。好ましくは、ヒアルロナン(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)のMは、約500kDa~6MDa(例えば、約500kDa~約750kDa、約600kDa~約1.1MDa、約750kDa~約1MDa、約1MDa~約1.25MDa、約1.25~約1.5MDa、約1.5MDa~約1.75MDa、約1.75MDa~約2MDa、約2MDa~約2.2MDa、約2MDa~約2.4MDa)である。より好ましくは、ヒアルロナン(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)のMは、約620kDa~約1.2MDaまたは約1.2MDa~約1.9MDaである。ヒアルロナンの他の好ましい分子量範囲には、例えば、約600kDa~約1.2MDaが含まれる。
【0069】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは当該技術分野で知られている。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの非限定的な例は、単一のポリオキシプロピレンブロックが2つのポリオキシエチレンブロックに隣接しているポロキサマーである。ポロキサマーは、例えば、Synperonic(登録商標)、Pluronic(登録商標)、Kolliphor(登録商標)、及びLutrol(登録商標)のさまざまな商品名で市販されている。医薬組成物は、例えば、約1,100g/モル~約17,400g/モル(例えば、約2,090g/mol~約2,360g/mol、約7,680g/mol~約9,510g/mol、6,830g/mol~約8,830g/mol、約9,840g/mol~約14,600g/mol、または約12,700g/mol~約17,400g/mol)の数平均分子量(M)を有するポリオキシプロピレンを含む、例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得る。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、約1,100g/モル~約4,000g/モルの数平均分子量(M)を有し、約30%~約85%(w/w)の計算されたポリオキシエチレン含有量を有するポリオキシプロピレンブロックを含み得る。好ましくは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、例えば、約1,800g/モル~約4,000g/モルの計算された分子量を有するポリオキシプロピレンブロックを含み得る。好ましくは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)の計算されたポリオキシエチレン含有量は、例えば、約70%~約80%(w/w)であり得る。好ましくは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、例えば、約7,680g/モル~約14,600g/モルの数平均分子量を有し得る。ポロキサマーの非限定的な例は、ポロキサマー407及びポロキサマー188である。
【0070】
セルロース及びセルロースエーテルは当該技術分野で知られている。セルロース及びセルロースエーテルは、Avicel(登録商標)、Methocel(商標)、Natrosol(登録商標)、及びTylose(登録商標)のさまざまな商標で市販されている。セルロースエーテルの非限定的な例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース)は、例えば、約5kDa~約300kDaの数平均分子量(M)を有し得る。メチル置換セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはメチルヒドロキシエチルセルロース)は、例えば、19%~35%(例えば、19%~30%)のメチル含有量を有し得る。
【0071】
フィブロインは、多くの昆虫によって作られる絹に存在するタンパク質である。フィブロインは当該技術分野で知られており、例えば、Jiangsu SOHO International Group;Simatech,Suzhou,China;Xi’an Lyphar Biotech,Ltd.;Xi’an Rongsheng Biotechnology;Mulberry Farms、Treenway Silks、Sharda Group、Maniar Enterprises、及びWild Fibresの様々なベンダーから市販されている。絹フィブロインの分子量は、典型的には約10kDa~約500kDaである。フィブロインは、WO2017/139684に記載されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
架橋ゲル化剤
医薬組成物は、非架橋または架橋のゲル化剤を含み得る。ゲル化剤は、当該技術分野で知られている架橋剤を使用して架橋することができる。好ましくは、架橋ゲル化剤は共有結合的に架橋されている。架橋ゲル化剤を含む医薬組成物(例えば、医薬剤形)を使用して、抗白金化学保護剤の放出プロファイルを制御することができる。例えば、架橋ゲル化剤を含む医薬組成物(例えば、医薬剤形)からの抗白金化学保護剤の放出は、参照組成物中のゲル化剤における架橋の欠如によってのみ医薬組成物と異なる参照組成物と比較して徐放性であり得る。抗白金化学保護剤の放出の延長は、医薬組成物と参照組成物のTmax値を比較することによって評価することができる。
【0073】
特定のゲル化剤、例えば、カルボン酸部分を有するもの(例えば、ヒアルロナン、アルギン酸、及びカルボキシメチルセルロース)は、イオン性架橋剤(例えば、多価金属イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、またはAl3+)を使用してイオン的に架橋することができる。ゲル化剤のイオン性架橋の技術は当該技術分野で知られている(例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,497,902号明細書及び同第7,790,699号明細書を参照されたい)。典型的には、ゲル化剤は、イオン性架橋剤として多価金属イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、またはAl3+を使用して、水溶液中でイオン的に架橋することができる。理論に拘束されることを望まないが、金属イオンは、ゲル化剤の異なる分子に(例えば、ゲル化剤の異なる分子に存在するペンダントカルボン酸塩に)配位し、それにより、ゲル化剤のこれらの異なる分子間に結合を形成すると考えられる。
【0074】
反応性官能基、例えば、-OH、-COOH、または-NHを有する特定のゲル化剤は、共有結合的に架橋され得る。ゲル化剤の共有結合架橋の技術は当該技術分野で知られている(例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれるKhunmanee et al.,J. Tissue Eng.,8:2041731417726464,2017を参照されたい)。共有結合架橋剤の非限定的な例としては、以下が挙げられる:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジビニルスルホン、グルタルアルデヒド、臭化シアン、オクテイルコハク酸無水物、酸塩化物、ジイソシアネート、無水メタクリル酸、ホウ酸、及び過ヨウ素酸ナトリウム/アジピン酸ジヒドラジド。
【0075】
他の賦形剤
医薬組成物は、ゲル化剤以外の医薬賦形剤を含み得る。例えば、医薬組成物は、例えば、液体溶媒、等張化剤、緩衝剤、及び/または着色剤を含み得る。ある特定の賦形剤は、多面的な役割を果たし得る。例えば、担体としてのその機能に加えて液体溶媒は、等張化剤及び/または緩衝剤として使用され得る。そのような溶媒は、当該技術分野で公知であり、例えば、生理食塩水(例えば、高張生理食塩水、低張生理食塩水、等張生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水)及び人工外リンパである。
【0076】
液体溶媒は、ビヒクルとして医薬組成物(例えば、医薬剤形)で使用され得る。液体溶媒は、当該技術分野で公知である。液体溶媒の非限定例としては、水、生理食塩水(例えば、高張生理食塩水、低張生理食塩水、等張生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水)、人工外リンパ、及びトリス緩衝液が挙げられる。人工外リンパは、NaCl(120~130mM)、KCl(3.5mM)、CaCl(1.3~1.5mM)、MgCl(1.2mM)、グルコース(5.0~11mM)、及び緩衝剤(例えば、NaHCO(25mM)及びNaHPO(0.75mM)、またはHEPES(20mM)、ならびにNaOH(約7.5のpHに調整された))を含有する水溶液である。
【0077】
等張化剤は、医薬組成物(例えば、医薬剤形)中に含まれて、抗白金化学保護剤によって得られるものと比べて重量オスモルを増加させ得る。等張化剤は、当該技術分野で公知である。等張化剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、高張医薬剤形(例えば、少なくとも400mOsm/L(例えば、少なくとも500mOsm/L、少なくとも600mOsm/L、または少なくとも700mOsm/L)、及び/または2,500mOsm/L以下(例えば、2,000mOsm/L、1,900mOsm/L以下、1,800mOsm/L以下、1,700mOsm/L以下、1,600mOsm/L以下、または1,500mOsm/L以下)の算出重量オスモルを有する医薬剤形)を対象に投与するために、十分な量の等張化剤を含む。例えば、医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の等張化剤の標的濃度は、例えば、(i)抗白金化学保護剤及び他の非高分子賦形剤の算出重量オスモル寄与を総標的算出重量オスモルから差し引いて、等張化剤からの標的算出重量オスモル寄与を得ることと、(ii)等張化剤からの標的算出重量オスモル寄与を、液体溶媒中に等張化剤が溶解した際にもたらされたイオン及び/または分子の数で割ることによって、等張化剤の濃度を決定することと、によって決定することができる。したがって、適切な量の等張化剤を医薬組成物(例えば、医薬剤形)中に含めることができる。
【0078】
緩衝剤を使用して、医薬組成物(例えば、医薬剤形)のpHを実質的に中性のpHレベルに調整してもよい。緩衝剤は、当該技術分野で公知である。緩衝剤の非限定例として、例えば、リン酸緩衝液及びグッドの緩衝液(例えば、トリス、MES、MOPS、TES、HEPES、HEPPS、トリシン、及びビシン)が挙げられる。pH制御に加えて、緩衝剤を使用して、医薬組成物(例えば、医薬剤形)の重量オスモルを制御してもよい。
【0079】
調製方法
本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、抗白金化学保護剤、ゲル化剤、及び液体溶媒から調製してもよい。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の調製方法は、(i)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を提供することと、(ii)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を液体溶媒と混合して、医薬組成物を生成することと、を含む。
【0080】
抗白金化学保護剤及びゲル化剤は、例えば、混合物または別々の成分として提供してもよい。抗白金化学保護剤及びゲル化剤を別々に提供する場合、ステップ(ii)は、例えば、
(a)液体溶媒を最初にゲル化剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物を抗白金化学保護剤と混合すること、
(b)液体溶媒を最初に抗白金化学保護剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物をゲル化剤と混合すること、または
(c)液体溶媒の一部分を抗白金化学保護剤と混合して、第1の混合物を提供することと、液体溶媒の別の部分をゲル化剤と混合して、第2の混合物を提供することと、第1及び第2の混合物を組み合わせること、
を含み得る。
【0081】
以下の実施例は、本発明を例示することを意味する。それらは、いかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0082】
実施例1:チオ硫酸塩製剤の調製
ヒアルロナンゲル1(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(619.75mg)を、滅菌バイアル中で滅菌蒸留水(5mL)中に溶解し、透明な溶液をもたらした。ヒアルロナン(50.30mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を溶液に加え、得られた混合物を4℃で8~10分間攪拌した。得られた溶液を0.22μmのMillex-GV滅菌フィルターを介して濾過した。
【0083】
ヒアルロナンゲル2(0.1MのSTS、2%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(124.87mg)を滅菌蒸留水(3.031mL)中に溶解した。メチルセルロース(351.01mg、Methocel(登録商標)A15 Premium LV、Dow Chemical Company)を滅菌蒸留水(2.0mL)中に溶解し、得られた溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液と混合した。ヒアルロナン(100.10mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を得られた混合物に加え、4℃で10~15分間混合した。
【0084】
ヒアルロナンゲル3(0.5MのSTS、2%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(620.35mg)を滅菌蒸留水(3mL)中に溶解した。メチルセルロース(350.23mg、Methocel(登録商標)A15 Premium LV、Dow Chemical Company)を滅菌蒸留水(2.0mL)中に溶解し、得られた溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液と混合した。ヒアルロナン(100.65mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を得られた混合物に加え、4℃で10~15分間混合した。
【0085】
ヒアルロナンゲル4(0.1MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン、マンニトール)
ヒアルロナン(50.09mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を水(5mL)に加えた。チオ硫酸ナトリウム五水和物(124.9mgs)を加えた。水酸化ナトリウム(1N、およそ0.5μL)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.12に調節した。適切な量のマンニトールをバイアルに加えて、重量オスモルを1.046Osm/kgに調整した。粘性溶液を0.22μmのMillex-GVフィルターを介して濾過した。
【0086】
ヒアルロナンゲル5(0.1MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル5は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0087】
ヒアルロナンゲル6(0.2MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル6は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.2M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0088】
ヒアルロナンゲル7(0.3MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル7は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.3M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0089】
ヒアルロナンゲル8(0.4MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル8は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.4M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0090】
ヒアルロナンゲル9(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン、トリス(5x))
ヒアルロナン(79.99mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)をトリス緩衝液(8mL、AMRESCO-0497-500G)に加えた。HCl(5N)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.13に調節した。チオ硫酸ナトリウム五水和物(992.60mg)を上述の溶液に加えた。粘性溶液を0.22μmのMillex-GVフィルターを介して濾過した。
【0091】
ヒアルロナンゲル10(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン、リン酸緩衝生理食塩水(5x))
ヒアルロナン(70.38mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)をPBS緩衝液(7mL、5×)に加えた。チオ硫酸ナトリウム五水和物(868.46mg)を加えた。NaOH(1N)を加えることで、得られた混合物のpHをpH6.99に調節した。粘性溶液を0.22μM Millex-GVフィルターを介して濾過した。
【0092】
ヒアルロナンゲル11(0.8MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル11は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.8M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0093】
ヒアルロナンゲル12(1MのSTS、0.8%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル12は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことと、ヒアルロナンの量を調節して0.8%(w/v)濃度のヒアルロナンを得たことと、を除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0094】
ヒアルロナンゲル13(0.5MのSTS、0.82%(w/v)ヒアルロナン(HYALGAN))
ヒアルロナンゲル13は、チオ硫酸ナトリウム五水和物をヒアルロナン(HYALGAN、Fidia Pharma USA、Florham Park,NJ)と混合して、0.82%(w/v)濃度のヒアルロナンを有する最終的な製剤と得ることで調製した。
【0095】
ヒアルロナンゲル14(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン(SINGCLEAN))
ヒアルロナンゲル14は、ヒアルロナン(SINGCLEAN、Hangzhouh Singclean Medical Products Co.,Ltd.、Hangzhou,China)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0096】
ヒアルロナンゲル15(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン(EUFLEXXA))
ヒアルロナンゲル15は、ヒアルロナン(EUFLEXXA、Ferring Pharmaceuticals Inc.、Parsippany,NJ)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0097】
ヒアルロナンゲル16(0.5MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン(HEALON))
ヒアルロナンゲル16は、ヒアルロナン(HEALON、Johnson & Johnson、New Brunswick,NJ)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0098】
ヒアルロナンゲル17(1MのSTS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル17は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0099】
ヒアルロナンゲル18(10%(w/v)N-アセチル-L-システイン、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナン(39.38mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を水(4mL)に加えた。N-アセチル-L-システイン(399.14mg)を加えた。NaOH(10N、240μL)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.21に調節した。粘性溶液を0.22μM Millex-GVフィルターを介して濾過した。浸透圧は、1.107Osm/kgとして測定した。
【0100】
他のヒアルロナンゲルを、本明細書に記載される手順を用いて調製することができる。例えば、1M及び1.5Mヒアルロナンゲルを、例えば、ヒアルロナンゲル1及びヒアルロナンゲル12に記載のものと同じ手順に従って調製することができる。加えて、ゲルのpHレベルを、ブレンステッド酸(例えば、塩酸)及び塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて、pH6.5~8.5に調製することができる。
【0101】
実施例2:外リンパ濃度の薬物動態モデリング
高用量シスプラチン処置(100mg/m)後のヒトの最大蝸牛白金レベルは、ヒトのシスプラチン分布の薬物動態(PK)シミュレーションを使用してモデル化された。シミュレーションに使用された動態パラメーターは、シスプラチン集団PK(Urien et al,Br.J.Clin.Pharmacol.,57:756-63,2004)及び高用量シスプラチン処置後のPK(Andersson et al,J.Pharm.Sci.,85:824-27,1996)に関する文献報告から得られた。PKシミュレーションは、WinNonlin(Phoenix 64)PKシミュレーションモデル9(IV注入、2コンパートメント)を使用して実行された。動物実験の以前の結果に基づいて、血漿と蝸牛の濃度比を1:1と仮定した。この仮定は、シスプラチンの組織分布特性を示す文献レポートによってさらに裏付けられている(Johnsson et al,Cancer Chemother. Pharmacol.,37:23-31,1995)。
【0102】
シスプラチン処置後の予測最大血漿白金濃度は、約22μMであると決定された。30倍のモル化学量論比を適用すると、660μM(0.66mM)の濃度になり、チオ硫酸塩の分子量を使用すると、74μg/mLのチオ硫酸塩濃度になる。ヒトの蝸牛でこのレベルのチオ硫酸塩を達成することは、高用量(例えば、100mg/m)のシスプラチン処置後のシスプラチン誘発の耳毒性に対する完全な(最大の)保護を提供することが期待される。
【0103】
実施例3:インビボでの薬物動態研究
ヒアルロナンゲル#1を、12%w/v(0.5M、6.2mg)の用量でオスのHartleyモルモットに投与した。投与量は固定された(10μL)。外リンパを各時点(n=5動物/時点)でサンプリングし、タンデム質量分析(LC-MS/MS)法を備えた液体クロマトグラフィーを使用してチオ硫酸塩の濃度を定量した。
【0104】
ヒアルロナンゲル1は、最初のサンプリング時点(1時間)で最大外リンパ濃度868.5μg/mL(約7.8mM)を達成した。この最大外リンパ濃度は、シスプラチン誘発の耳毒性から100%の保護をもたらすと予測されるヒアルロナンゲル1濃度(最小有効濃度;74μg/mL、0.66mM)の約10倍である。外リンパt1/2は2.7~6.4時間の範囲であった。比較的長い半減期と組み合わされた高い外リンパヒアルロナンゲル1濃度は、シスプラチン治療の3時間前から4時間後の治療ウィンドウを提供する。別の薬物動態研究では、健康な対象を4つの用量コホートに分けた:コホート1、コホート2、コホート3、及びコホート4。各用量コホートには、DB-020またはプラセボのいずれかを投与するように無作為化された8人の対象が含まれていた(6/2無作為化、6人の対象にDB-020を投与、2人の対象にプラセボを投与)。コホート1には、ヒアルロナンゲル1について記載されたように調製された、0.15Mチオ硫酸ナトリウム/ヒアルロナンゲルとして19mgのチオ硫酸ナトリウムを片側に鼓室内投与した。コホート2には、ヒアルロナンゲル1としてチオ硫酸ナトリウム62mgを片側に鼓室内投与した。コホート3には、ヒアルロナンゲル17としてチオ硫酸ナトリウム124mgを片側に鼓室内投与した。コホート4には、ヒアルロナンゲル1について記載されたように調製された、1.5Mチオ硫酸ナトリウム/ヒアルロナンゲルとして186mgのチオ硫酸ナトリウムを片側に鼓室内投与した。プラセボ対象には、1%w/vのヒアルロナン水溶液を投与した。
【0105】
研究の結果を表1及び2、ならびに図1~3に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
実施例4:インビボでの薬力学的研究
シスプラチン投与に関連するチオ硫酸ナトリウムゲルの治療期間を評価するために、1.24mgのヒアルロナンゲル1の単回投与を、シスプラチン(単回、10mg/kg IVボーラス、図4)の24時間前、6時間前、3時間前、もしくは1時間前、またはシスプラチンの1時間後、4時間後、または24時間後のいずれかでモルモットの左耳に鼓室内(IT)投与した。ヒアルロナンゲル1で処置されなかった全ての右の対照耳は、ナイーブ動物と比較して顕著な閾値シフト(すなわち、難聴)を示した(図5A)。シスプラチン投与の3時間前から4時間後に投与されたヒアルロナンゲル1は、ヒアルロナンゲル1で治療されていない対照耳と比較して、シスプラチン誘発性難聴からの保護を提供した(図5B)。ヒアルロナンゲル1は、シスプラチン処置のより遠い時点で投与した場合(例えば、シスプラチン投与の6時間を超えて前または24時間後)、シスプラチン誘発性難聴からの保護が中程度低い効果であった。シスプラチン投与の1時間前にヒアルロナンゲル1を投与した場合に最大の保護が観察され、シスプラチン処置の前に、好ましくは近い時点でヒアルロナンゲル1を投与した場合に最高レベルの保護を達成できることを示している。
【0109】
実施例5:例示的なヒドロゲルの薬物動態学的性能
モルモット、研究1
体重250~350gのアルビノモルモット(Hartley)を研究に使用した。投与のため、動物の肩を上にして、手術用の耳を上にした状態にして、経耳後法を用いて耳嚢を最初に露出した。直径2~3mmの穴を耳嚢にドリルで開けて、蝸牛窓小窩を直接見えるようにした。次いで、0.5Mチオ硫酸ナトリウム/2%(w/v)ヒアルロナン(STS組成物)の水性組成物10μLを、10μLハミルトンシリンジ及び26ゲージ針を用いて、RWM上に塗布した。塗布した後、モルモットをこの位置に30分間留めて、化合物を蝸牛に拡散させた。耳嚢の開口を筋移植で密封し、切開を縫合で閉じた。
【0110】
サンプリング取手順は、要約すると以下の通りである。全ての試料採取手順は、終末においてである。動物をCO2で安楽死させた。血液の0.5mLサンプルを心臓穿刺で収集した。4℃で10分間、5,000rpmの遠心分離によって血漿を分離し、別の管に収集した。50μLの脳脊髄液を、大槽を介して収集した。外リンパをエクスビボで収集し、蝸牛水管を介して脳脊髄液が流入する汚染を回避した。側頭骨を迅速に単離し、耳嚢を除去して、蝸牛を露出した。目に見える残り全ての投与組成物を、手術用顕微鏡下の吸収点で注意深く除去してから、外リンパのサンプリングを行った。小さな穴を頂点に開けた後、ガラスピペットを引いて、5~7μLの外リンパをサンプリングした。全サンプルをドライアイスで直ちに凍結し、分析するまで-80℃で保存した。試料中のチオ硫酸の濃度は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、Togawa et al.、Chem.Pharm.Bull.,40:3000-3004,1992に開示された方法を用いて測定した。この研究の結果を図8A、8B、9A、及び9B、及び表3に示す。
【0111】
カニクイザル
カニクイザルにトルフェジン(4mg/kg)を皮下投与した。30分後、プロポフォール(5.5mg/kg)の静脈内ボーラスを介して動物に麻酔をかけた。その後、2~3%のイソフルラン吸入を使用して、動物を麻酔状態に維持した。次いで、動物を固定し、逆トレンデレンブルグ体位で横置きにして、蝸牛窓へのアクセスを確保した。手術プロセス中、動物を暖かい毛布の上に保持した。
【0112】
動物が麻酔状態に到達すると、右耳に鼓室内注射を行った。1.1mLの塩酸エピネフリン-生理食塩水(10mL生理食塩水中で0.1mg)及び0.5mLのリドカイン塩酸塩(20mg/mL)を、局所麻酔薬として、各耳の外耳道後壁の皮膚にそれぞれ皮下注射した。その後、耳介後部の皮膚に切開を行い、側頭骨の一部をドリルで開けて、中耳を露出した。50μLのSTS組成物を、25G針を用いて蝸牛窓膜に注射した。投与後、頭部を上にした状態で動物を直線上にして、投与溶液を鼓膜腔に30分間なじませた。次いで、反対側の耳に対しても同じ手順を繰り返した。
【0113】
血漿及びCSFは、第1の耳(右側)に投与した約2時間後に収集した。右耳蝸牛外リンパのサンプリングは、右耳投与の約3時間後に実施した。11mg/kgのプロポフォールをIV投与して動物を安楽死させた後、大腿動脈を介して失血させた。次いで、動物を横臥に置いた。耳介後部の皮膚切開を行い、外耳道を抽出して、中耳を露出した。次いで、側頭骨の一部をドリルで開けて、蝸牛の基底回転を露出した。中耳の残りの用量(見える場合)を、綿棒で掃除した。組織接着剤を蝸牛底に一滴広げて、投与組成物からの汚染を最小限にした。
【0114】
0.5~1mmの先端の丸いバリまたはかぎ針編みを用いて、蝸牛の基底回転に穴を開けた。次いで、蝸牛鼓室階に挿入された毛細管を用いて、外リンパ(約10μL)を収集した。左耳の投与の約2時間後に、左耳の蝸牛外リンパのサンプリングについても同じ手順を繰り返した。この研究の結果を表3に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
モルモット、研究2
おおよそ5~7週齢の体重200~300gのオスのモルモットを対象として使用した(群あたりN=5)。いずれかの処置の前に、腹腔内経路を介して手術前に10分間、ゾラゼパム塩酸塩(Zoletil50;20mg/kg)を用いて、動物に麻酔をかけた。必要な場合、術中の追加用量を、本来の用量の10分の1で腹腔内投与した。
【0117】
鼓室内注射:
1.顕微鏡倍率下で、鋭利なハサミを使用して、耳介頭筋溝のひだのおおよそ6~8mm尾方にある、0.5~1.5cmの耳介後部皮膚の切開を作成した。深く切り込まないように注意を払って、下にある血管構造を保護した。
【0118】
2.皮下脂肪層、筋肉及び組織を介した慎重な鈍的切開を鉗子で行った。鼓室胞骨膜の光沢のあるドームが見えてくるまで、乳様突起筋体を優しく収縮させた。耳嚢の尾側で、深頸筋に挿入すると、胸筋乳頭が見えてきた。耳嚢ドームの背側及び吻側に見える顔面神経は、手術中に保護した。
【0119】
3.小さな穴(0.5mm直径)を開ける前に自己保持開創器を置いて、耳嚢の後部にドリルで開けた。宝石用先端のピンセットを用いて、背側と尾側の方向において耳嚢骨の蓋を外した。骨を高倍率下で少しずつ除去した。耳嚢蓋の真下にあるアブミ骨動脈からの出血は手順を損ない得るので、この動脈を穿刺しないように注意を払った。良好な視覚化及び蝸牛窓小窩へのアクセスを可能にしながら、中耳への過度の水分流入を防ぐために、除去する骨量を最小限に留めた。
【0120】
4.25~26G鈍針を有する滅菌ガラスハミルトンシリンジを用いて、10μLまたは90μLのゲル製剤を蝸牛窓小窩に送達した。
5.送達された剤を蝸牛窓小窩内に最大で30分間静置した。小さな穴を筋組織及び組織接着剤で覆った。
【0121】
6.切開を縫合(4~0非吸収性モノフィラメントまたは5~0非吸収性ナイロン)及び組織接着剤または創傷クリップで閉じた。全ての手順は、薬剤仕様に応じておおよそ3~5分かかった。
【0122】
7.手順中、及び回復するまで、動物を、温度調節した(38℃)ヒーティングパッド上に置き、その後意識を取り戻したら、動物をホームケージに戻した。
代替的に、動物にゲル製剤を経鼓膜的に投与した。
【0123】
サンプルの収集:
血液の収集:
1.安楽死ボックスにおいて予備膨張することなく、モルモットをボックス中に置いて、100%二酸化炭素を導入して、動物の意識を失わせて、動物の苦しみを軽減した。息が止まってから最低1分間、二酸化炭素流を維持した。死亡を確認後、モルモットを安楽死ボックスから取り出した。
【0124】
2.安楽死直後に血液を収集した。
3.作業者が動物の背中の位置を固定した後、4~6または少し前方の軟骨条の前側に針を挿入した。
【0125】
4.針を引き戻し、血液を戻した。
5.容量:血液収集ごとに、約1mLの血液を収集した。
CSFの収集:
安楽死後にCSFを収集した。0.5×20の静脈内注入針を90°から大後頭孔にゆっくりと下げた。針が皮膚下の4.5~5mmの距離に到達すると、50~200μlの透明な組織液を抜いた。
【0126】
外リンパ収集:
安楽死後、動物の余分な皮膚及び筋組織を剥がして、完全な耳嚢を得て、耳嚢壁を小鉗子で切って、蝸牛を露出した。耳嚢の基底回転を小さな綿ボールを使用してきれいにした。蝸牛底円及び蝸牛窓をバイオ接着剤で被覆した。乾燥後、蝸牛頂円に、特有の微小穴を手で空けた。次いで、蝸牛頂円に挿入したマイクロキャピラリーを使用して、2μL容量の外リンパを収集した。外リンパサンプルを、18μLのウシ血清アルブミン(BSA、1M)を含有するバイアルに入れ、分析まで-80℃で保存した。
【0127】
モルモット、研究2の結果を表4及び5に提供する。
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】
【0130】
実施例6:例示的なヒドロゲルの薬力学的性能
シスプラチンを0.9%(w/v)生理食塩水で希釈し、5mg/mLの最終濃度にした。体重250~350gのアルビノモルモット(Hartley)を研究で使用した。最低3日間の新環境順応の後、28頭の動物を研究に登録した。無菌状態下で、シスプラチンをボーラス注射で腹腔内に投与した。5つのコホートを種々の研究開始日で互い違いとなるようにした。
【0131】
シスプラチン投与の7日後、TDT RZ6マルチI/Oプロセッサーを用いて、動物の聴性脳幹反応(ABR)について記録した。履歴ABRデータを使用して、ベースラインを定義した。チレタミン塩酸塩及びゾラゼパム塩酸塩(Zoletil)で動物に麻酔をかけた。音響刺激を、イヤホンを介して供給した。尾腹部位置の外耳道、頭頂、及び下腿の地面の近くに針電極を置いた。刺激レベルは、5dB刻みで10~90dBであり、トーンピップ周波数は、4kHz、24kHz、及び32kHzであった。天井音圧レベルは、90dBであった。ABR閾値は、最低音圧レベルとして重合波形の目視検査によって観察し、この波形は、ノイズフロアを上回った。
【0132】
シスプラチン試験前に、各動物の両方の耳(ナイーブn=100)について、50頭の動物からのABRデータを記録した。ナイーブ動物における32kHzの閾値は、39.8dBであった。通常の聴力の範囲は、平均±2SDとして定義し、27.9~51.6dBであった。シスプラチンは主に、高周波数で難聴を誘発する。シスプラチン後の難聴の明確なパターンは、32kHzでの60dB以上の閾値として定義する。
【0133】
この研究では、28頭の動物のうちの1頭が、測定の7日前に死亡した。残りの27頭の動物では、18頭の動物が、32kHzでの60dBを超える閾値で難聴であった(図10A)。32kHzでの難聴の範囲は、65dB~90dBの閾値であった(図10B)。90dBは、測定天井である。波形がないかまたは波形が90dBでのみ見られる場合、閾値は、両方とも90dBとして定義した。32kHzでの平均閾値は、82dBであり、これは、39.8dBのナイーブ閾値からの平均42.2dBシフトに対応する(図11A)。
【0134】
局所鼓室内投与及び蝸牛サンプリング
局所鼓室内投与及び蝸牛サンプリングは、実施例5に記載されるように実施した。
局所送達した抗白金化学保護剤は、白金ベースの抗腫瘍剤から聴覚保護をもたらす
局所送達した抗白金化学保護剤の白金ベースの抗腫瘍剤からの聴覚保護に対する効果の評価を、以下のように実施した。
【0135】
0.5Mチオ硫酸ナトリウム/2%(w/v)ヒアルロナン(STS組成物)の水性組成物またはビヒクルを、上述のように、モルモットの左耳(LE)の蝸牛窓上に鼓室内投与し、右耳(RE)は、非処置のままとした(図12)。STS組成物またはビヒクル投与の60分後、10mg/kgのシスプラチンを動物の腹腔内に注射した。4kHz、24kHz、及び32kHzでのABRは、シスプラチン投与の7日後に両方の耳で測定した。
【0136】
シスプラチンチャレンジ後の難聴の異質性のため、非処置の右耳を使用して、難聴の動物を選択した。32kHzで60dBを超える右耳の閾値を有する動物は、21頭であった。これらの21頭の動物のうち、中耳炎を有する3頭は除外し、18頭の動物を最終分析に残した。10頭の動物にビヒクルを投与し、8頭の動物にSTS組成物を投与した(図11B)。STS組成物群及びビヒクル群の両方の非処置の右耳では、ABR閾値に差異はなく、4kHzで73dB、24kHzで71dB、及び32kHzで80dBの平均閾値であった。ビヒクル処置した左耳は、非処置の右耳と比較して有意差はなく、4kHzで74dB、24kHzで70dB、及び32kHzで74dBの閾値を示した。
【0137】
STS組成物処置の耳は、ビヒクル処置の耳及び非処置の右耳と比較して、32kHzと24KHzの両方で有意に低い閾値を有した(***P<0.001、2元配置分散分析)。4kHzで、平均閾値は、STS組成物処置の耳で61dBであり、非処置の反対側の右耳で75dBであり、保護は統計的に有意でなかった(P=0.089)。STS組成物処置の耳の平均閾値は、24kHz及び32kHzで、反対側の非処置の右耳の69dB及び80dBとは対照的に、それぞれ40dB及び48dBであった。通常の聴覚閾値は、ナイーブ動物において、24kHz及び32kHzで、それぞれ35dB及び40dBであった。ナイーブ耳に対して、シスプラチン後の非処置の耳は、24kHz及び32kHzで、平均でそれぞれ、34dB及び40dBの閾値上昇を有したが、STS組成物処置の耳は、5dB及び8dBのみのシフトであった。したがって、チオ硫酸ナトリウムは、24kHzと32kHzの両方で、平均で80%の保護をもたらした。
【0138】
本明細書で上述と同様に設計された研究では、4、24、及び32kHzでの音圧レベルは、片耳ごとにビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウム(0.1M、0.5M、または1Mチオ硫酸ナトリウムゲル)を投与して、その後にシスプラチンチャレンジ(シスプラチン10MPK、静脈内注射)を投与したモルモットについて、ABR試験中に測定した。異なる用量のヒアルロナンゲルを、シスプラチン投与の1時間前に、10μLのIT注射として左耳に投与した。動物の反対側の耳(右耳)は非処置であった。ヒアルロナンゲル5(0.1M)、ヒアルロナンゲル1(0.5M)、及びヒアルロナンゲル17(1M)を試験した。非処置の耳は、ナイーブ動物(灰色の陰影面積)と比較して有意な閾値シフトを示した。ヒアルロナンゲル1(0.5M)及びヒアルロナンゲル17(1M)で処置した群は、試験した全周波数で、非処置の反対側の対照耳と比較して聴覚保護を示した。保護は、ビヒクル処置の耳で見られなかった。結果を図13にまとめる。
【0139】
他の実施形態
記載された発明の様々な改変及び変形は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の実施形態に関連して説明してきたが、特許請求される本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないと理解されるべきである。実際、当業者にとって明らかな、本発明を実施するための記載されたモードの様々な改変は、本発明の範囲内にあることを意図している。
【0140】
他の実施形態は、特許請求の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13