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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】音響検査装置および音響検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20241111BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20241111BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241111BHJP
【FI】
G01H3/00 Z
G10K15/00 L
G01M99/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022024036
(22)【出願日】2022-02-18
(65)【公開番号】P2023120901
(43)【公開日】2023-08-30
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 明彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 達彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 修
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-047162(JP,A)
【文献】特開平10-082712(JP,A)
【文献】特開2012-181100(JP,A)
【文献】特開平11-248591(JP,A)
【文献】特開平11-270800(JP,A)
【文献】米国特許第4463453(US,A)
【文献】中国特許出願公開第111504446(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
G01N 29/00-29/52
G10K 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカから検査対象物に向けて加振音を放射する加振音源と、
前記検査対象物の表面に沿った方向に間隔を空けて配置された少なくとも3つのマイクロホンを具備し、
前記マイクロホンのうち一部のマイクロホンを基準のマイクロホンとして、当該基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記基準のマイクロホンと異なる第1のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記基準のマイクロホンと前記第1のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第1のマイクロホンと異なる第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記基準のマイクロホンと前記第2のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記算出したインパルス応答から前記加振音に相当する成分を除去する除去部と、
前記加振音が除去されたインパルス応答に基づいて、前記放射音のインテンシティを算出するインテンシティ算出部と、
前記算出されたインテンシティに基づいて、前記検査対象物における異常が発生した部位を推定する推定部と、を具備する
音響検査装置。
【請求項2】
前記第1のマイクロホンは、前記スピーカに対して前記第2のマイクロホンよりもさらに広い間隔を空けて配置され、
前記基準のマイクロホンは、前記スピーカに対して前記第1および第2のマイクロホンよりもさらに広い間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の音響検査装置。
【請求項3】
前記基準のマイクロホンは、前記スピーカに対して前記第1のマイクロホンよりもさらに広い間隔を空けて配置され、
前記第2のマイクロホンは、前記スピーカに対して前記基準のマイクロホンよりもさらに広い間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の音響検査装置。
【請求項4】
スピーカから検査対象物に向けて加振音を放射する加振音源と、
前記検査対象物の表面に沿った方向に間隔を空けて配置された少なくとも4つのマイクロホンと、を備え、
前記マイクロホンは、前記スピーカに隣接する第1のマイクロホンと、前記スピーカに対し前記第1のマイクロホンよりも広い間隔で配置される第2のマイクロホンと、および前記スピーカに対し前記第2のマイクロホンよりも広い間隔で配置される第3のマイクロホンと、前記スピーカに対し前記第3のマイクロホンよりも広い間隔で配置される第4のマイクロホンと、を含み、
前記第1のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記第1および第2のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記第1のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第3のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記第1および第3のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記算出したインパルス応答から前記加振音に相当する成分を除去し、さらに、前記第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第3のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記第2および第3のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第4のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記第2および第4のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記算出したインパルス応答から前記加振音に相当する成分を除去する除去部、
前記加振音が除去されたインパルス応答に基づいて、前記放射音のインテンシティを算出するインテンシティ算出部と、
前記算出されたインテンシティに基づいて、前記検査対象物における異常が発生した部位を推定する推定部と、を備える
音響検査装置。
【請求項5】
前記インテンシティ算出部は、
前記加振音が除去されたインパルス応答に基づいて、前記放射音のアクティブインテンシティを算出するアクティブインテンシティ算出部と、
前記加振音が除去されたインパルス応答に係る位相を変換する変換処理部と、
前記変換処理部による変換結果に基づいて、前記放射音のリアクティブインテンシティを算出するリアクティブインテンシティ算出部と、
前記アクティブインテンシティ算出部により算出されたアクティブインテンシティの方向、および前記リアクティブインテンシティにより算出されたリアクティブインテンシティの振幅に基づく合成インテンシティを算出する合成インテンシティ算出部と、を有し、
前記推定部は、
前記算出された合成インテンシティに基づいて、前記放射音のインテンシティベクトルを生成し、前記インテンシティベクトルにおける、大きさが最大で方向が反転する箇所を異常が発生した部位として推定する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の音響検査装置。
【請求項6】
スピーカから検査対象物に向けて加振音を放射する加振音源と、前記検査対象物の表面に沿った方向に間隔を空けて配置された少なくとも3つのマイクロホンを備える音響検査装置に適用される方法であって、
前記マイクロホンのうち一部のマイクロホンを基準のマイクロホンとして、当該基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記基準のマイクロホンと異なる第1のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記基準のマイクロホンと前記第1のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および前記第1のマイクロホンと異なる第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、前記基準のマイクロホンと前記第2のマイクロホンとの間のインパルス応答を算出し、前記算出したインパルス応答から前記加振音に相当する成分を除去することと、
前記加振音が除去されたインパルス応答に基づいて、前記放射音のインテンシティを算出することと、
前記算出されたインテンシティに基づいて、前記検査対象物における異常が発生した部位を推定することと、
を具備する音響検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、音響検査装置および音響検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物の異常を、音響波を利用して非破壊で検査するための技術が提案されてきている。このような技術では、検査対象物に向けて加振音を放射し、検査対象物からの放射音を収集することで異常の検査が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3488579号公報
【文献】特開2009-284097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、音響波を利用して精度良く検査対象物の異常を検査できる音響検査装置及び音響検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の音響検査装置は、加振音源と、少なくとも3つのマイクロホンと、除去部と、インテンシティ算出部と、推定部とを有する。除去部は基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および第1のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、マイクロホンの間のインパルス応答を算出し、基準のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧および第2のマイクロホンを介して収集された放射音の音圧に基づいて、マイクロホン間のインパルス応答を算出し、このインパルス応答から加振音に相当する成分を除去する。インテンシティ算出部は、加振音が除去されたインパルス応答に基づいて放射音のインテンシティを算出する。推定部は、算出されたインテンシティに基づいて検査対象物における異常が発生した部位を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る音響検査装置の動作を示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態に係る音響検査装置インテンシティ算出部の構成の一例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る音響検査装置のインテンシティ算出部の動作を示すフローチャートである。
図5図5は、インテンシティの一例を示す図である。
図6図6は、アクティブインテンシティの特性の一例を示す図である。
図7図7は、リアクティブインテンシティの特性の一例を示す図である。
図8図8は、合成インテンシティの特性の一例を示す図である。
図9図9は、音響検査装置の適用先の第1の例を示す図である。
図10図10は、音響検査装置の適用先の第1の例を示す図である。
図11図11は、音響検査装置の適用先の第2の例を示す図である。
図12図12は、音響検査装置の適用先の第3の例を示す図である。
図13図13は、第2の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
図14図14は、第3の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
図15図15は、第4の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
図16図16は、第4の実施形態に係る音響検査装置のインテンシティ算出部の動作を示すフローチャートである。
図17図17は、合成インテンシティ分布の算出について説明する図である。
図18図18は、リアルタイム相互相関処理について説明するための図である。
図19図19は、リアルタイムで得られたインパルス応答の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
第1の実施形態における音響検査装置100には、スピーカ11およびマイク群が一列に並べられて取り付けられる。
また、音響検査装置100は、加振音源としての音響加振信号発生部31、参照信号検出部32、第1ノイズ処理部33、第2ノイズ処理部34、およびインテンシティ算出部35を有する。音響検査装置100の外部には、インテンシティベクトル表示部41および異常発生部位推定部42が設けられる。これらのインテンシティベクトル表示部41および異常発生部位推定部42は音響検査装置100内に設けられてもよい。上記参照信号検出部32、第1ノイズ処理部33、第2ノイズ処理部34、およびインテンシティ算出部35をあわせて音響検査装置100内の各処理部と称することがある。音響検査装置100内にインテンシティベクトル表示部41および異常発生部位推定部42が設けられるときは、これらは音響検査装置100内の各処理部に含まれ得る。
【0008】
音響検査装置100の各処理部は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はDSP(Digital Signal Processor)等のディジタル信号処理器を有しており、音響検査装置100に関わる各種の処理を行う。音響検査装置100の各処理部は、単一のCPU等で構成されていてもよいし、複数のCPU等で構成されていてもよい。音響検査装置100の各処理部は、例えば音響検査装置100内の図示しないメモリに記憶されている音響検査プログラムを実行することによって、例えば上記の参照信号検出部32、第1ノイズ処理部33、第2ノイズ処理部34、およびインテンシティ算出部35として動作する。
【0009】
メモリは、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)である。ROMは、音響検査装置の起動プログラム、上記各処理部よって実行される音響検査プログラムといった各種のプログラムを記憶している。RAMは、上記各処理部における各種の演算等の際の作業メモリとして用いられ得る。
【0010】
音響検査装置100は、上記スピーカ11およびマイク群が検査対象物aに対向させて配置された状態で、この検査対象物aに向けて加振音を放射し、この検査対象物aにおける、音響検査装置100のマイク群の近傍の部位からの放射音を当該マイク群により収集することで、検査対象物aにおける異常の有無を検査する。検査対象物aにおける異常は、例えば検査対象物aに発生したき裂bである。
【0011】
音響加振信号発生部31は、検査対象物aに対して放射される加振音を発生させるための音響加振信号を生成する音源である。加振音は、例えば1点の打音でよい。音響加振信号は、任意の手法で生成されてよい。
【0012】
スピーカ11は、検査対象物aに対して向き合うように配置され、音響加振信号発生部31から入力された音響加振信号に従って検査対象物aに加振音を放射する。
加振音により、検査対象物aは、全体として加振音の伝搬方向に沿ったc方向に振動し、この振動に伴って検査対象物aからは放射音が放射される。
【0013】
マイク群は、加振音の放射方向に直交する方向に沿って間隔を有するように配置された少なくとも3本のマイクロホン(マイク)である。図1に示された例では、マイク群は、第1のマイク21、第2のマイク22、および第3のマイク23である。
【0014】
第1の実施形態では、第1のマイク21は、スピーカ11に対して間隔を空けて、かつ検査対象物aから2.5cmといった、検査対象物aの近傍に向き合うように配置される基準のマイクである。
第2のマイク22は、第1のマイク21に対して間隔を空けて、かつスピーカ11に対して第1のマイク21よりもさらに広い間隔を空けて、検査対象物aの近傍に向き合うように配置されたマイクである。
第3のマイク23は、スピーカ11および第1のマイク21に対して第2のマイク22よりもさらに広い間隔を空けて配置されたマイクである。すなわち、第2のマイク22および第3のマイク23は、第1のマイク21に対して加振音の放射方向に直交する方向に沿って異なる間隔を空けて配置されたマイクである。
【0015】
このように、第1の実施形態では、スピーカ11に対し、各マイクが、第1のマイク21、第2のマイク22、および第3のマイク23の順で互いに間隔を空けて配置される。
【0016】
第1のマイク21、第2のマイク22および第3のマイク23は、それぞれ、検査対象物aからの放射音を収集し、収集した放射音を電気信号に変換して音響検査装置100の各部に出力する。
詳しくは、第1のマイク21は、検査対象物aからの微弱振動成分S0およびノイズ(音響加振波)N0を収集し、この収集した結果を電気信号に変換して参照信号検出部32に出力する。参照信号検出部32は、第1のマイク21から出力された信号を参照用の音響信号である参照信号として検出して、第1ノイズ処理部33および第2ノイズ処理部34に出力する。このように、参照信号の出力に係るマイクを基準のマイクと称することがある。
【0017】
第2のマイク22は、検査対象物aからの微弱振動成分S1およびノイズN1を収集し、この収集した結果を電気信号に変換して、第1ノイズ処理部33に出力する。
第3のマイク23は、検査対象物aからの微弱振動成分S2およびノイズN2を収集し、この収集した結果を電気信号に変換して、第2ノイズ処理部34に出力する。
【0018】
第1ノイズ処理部33は、参照信号検出部32からの参照信号を入力するとともに、第2のマイク22からの信号を音響信号である第1のノイズ重畳信号として入力する。
第1ノイズ処理部33は、これら入力した参照信号および第1のノイズ重畳信号のそれぞれをサンプリング周波数に従ってサンプリングし、アナログ/ディジタル(AD)変換してディジタルの検査データを得る。
第1ノイズ処理部33は、参照信号のサンプリング結果に基づく第1の音圧(ディジタルデータ)と、第1のノイズ重畳信号のサンプリング結果に基づく第2の音圧(ディジタルデータ)とに基づいてディジタル演算処理を行ない、第1のマイク21と第2のマイク22との間のインパルス応答を算出する。例えば、第1ノイズ処理部33は、畳み込み演算を用いた適応同定処理により、インパルス応答を算出する。第1ノイズ処理部33は、相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することもできる。図1に示された構成にて、この相互相関処理を用いるときは、第1ノイズ処理部33は、正の相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することができる。
【0019】
第1ノイズ処理部33は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN1の成分を除去して、検査対象物aのき裂bの周辺部位の振動に伴う微弱振動成分S0およびS1を抽出する第1のノイズ除去処理を行ない、微弱振動成分S1をインテンシティ算出部35に出力する。
【0020】
上記算出されるインパルス応答には、加振音の成分と微弱振動成分が含まれる。
このため、インパルス応答に基づいて算出される周波数特性も、加振音の周波数特性と微弱振動成分の周波数特性の両方を含むことになる。
検査対象物aのき裂bの周辺部位の振動に伴う微弱振動成分は、加振音に比べて微弱である。
つまり、加振音は、微弱振動成分を励起するためには必要であるが、検査対象物aの異常の判定のためには不要なノイズである。
このため、第1ノイズ処理部33は、ノイズである加振音の成分を除去する。
ここで、第1のマイク21及び第2のマイク22で収集される加振音は、スピーカ11からの直接波の成分と、検査対象物aからの反射波の成分とを含み得る。
直接波の成分は、第1のマイク21の設定又は適応同定処理によって除去され得る。
一方、検査対象物aからの反射波の成分は、例えばインパルス応答の最大ピークを検出し、インパルス応答における、最大ピークを含む所定の時間幅の成分、すなわち時間幅相当のサンプリング点数分を除去することで除去され得る。
第1ノイズ処理部33は、このようなインパルス応答における、最大ピークを含む所定の時間幅の成分を除去する処理をする。
微弱振動成分の残響は加振音(直接波および反射波)に比べて長い。
したがって、インパルス応答における所定の時間幅の成分が除去されることにより、上記インパルス応答に基づいて算出される周波数特性は、微弱振動成分の周波数特性だけを含むことになる。
【0021】
検査対象物aに異常があるときと異常がないときとでは微弱振動成分の周波数特性に違いが生じることから、この違いにより、異常の有無が判定され得る。
【0022】
また、第2ノイズ処理部34は、参照信号検出部32からの参照信号を入力するとともに、第3のマイク23からの信号を音響信号である第2のノイズ重畳信号として入力する。
第2ノイズ処理部34は、これら入力した参照信号および第2のノイズ重畳信号のそれぞれをサンプリング周波数に従ってサンプリングし、アナログ/ディジタル(AD)変換してディジタルの検査データを得る。
第2ノイズ処理部34は、参照信号のサンプリング結果に基づく第1の音圧(ディジタルデータ)と、第2のノイズ重畳信号のサンプリング結果に基づく第2の音圧(ディジタルデータ)とに基づいてディジタル演算処理を行ない、第1のマイク21と第3のマイク23との間のインパルス応答を算出する。例えば、第2ノイズ処理部34は、畳み込み演算を用いた適応同定処理により、インパルス応答を算出する。第2ノイズ処理部34は、相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することもできる。図1に示された構成にて、この相互相関処理を用いるときは、第2ノイズ処理部34は、正の相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することができる。
【0023】
そして、第2ノイズ処理部34は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN2の成分を除去して、検査対象物aのき裂bの周辺部位の振動に伴う微弱振動成分S0およびS2を抽出する第2のノイズ除去処理を行ない、微弱振動成分S2をインテンシティ算出部35に出力する。
【0024】
インテンシティ算出部35は、第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S1および第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S2に基づいて、インテンシティを算出する。この算出の詳細は後述する。
【0025】
図2は、第1の実施形態に係る音響検査装置の動作を示すフローチャートである。
音響検査装置100の、音響加振信号発生部31は、検査対象物aに対して放射される加振音を発生させるための音響加振信号を生成する(S11)。
【0026】
第1ノイズ処理部33は、参照信号検出部32からの参照信号および第2のマイク22からの第1のノイズ重畳信号を入力する(S12)。
【0027】
第1ノイズ処理部33は、参照信号および第1のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第2のマイク22との間のインパルス応答を算出する。第1ノイズ処理部33は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN1の成分を除去して微弱振動成分S0およびS1を抽出する第1のノイズ除去処理を行なう(S13)。
【0028】
第2ノイズ処理部34は、参照信号検出部32からの参照信号および第3のマイク23からの第2のノイズ重畳信号を入力する(S14)。
【0029】
第2ノイズ処理部34は、参照信号および第2のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第3のマイク23との間のインパルス応答を算出する。第2ノイズ処理部34は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN2の成分を除去して微弱振動成分S0およびS2を抽出する第2のノイズ除去処理を行なう(S15)。
【0030】
インテンシティ算出部35は、第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S1および第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S2に基づいて、インテンシティを算出 する(S16)。
【0031】
図3は、インテンシティ算出部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3に示すように、インテンシティ算出部35は、アクティブインテンシティ(AI)算出部35-1、sin・cos変換処理部35-2、リアクティブインテンシティ(RI)算出部35-3、および合成インテンシティ算出部35-4を有する。
【0032】
図4は、第1の実施形態に係る音響検査装置のインテンシティ算出部の動作を示すフローチャートである。
アクティブインテンシティ算出部35-1は、第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S1および第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S2に基づくアクティブインテンシティを算出する(S16-1)。
【0033】
sin・cos変換処理部35-2は、第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S1および第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S2に対するsin・cos変換処理を行なうことで、微弱振動成分S1および微弱振動成分S2の一方の位相を90度遅らせる(S16-2)。
【0034】
リアクティブインテンシティ算出部35-3は、sin・cos変換処理部35-2から出力された、微弱振動成分S1および微弱振動成分S2に基づくリアクティブインテンシティを算出する(S16-3)。
【0035】
合成インテンシティ算出部35-4は、アクティブインテンシティ算出部35-1からのアクティブインテンシティの極性、およびリアクティブインテンシティ算出部35-3からのリアクティブインテンシティの振幅に基づく、第2のマイク22と第3のマイク23との間のインテンシティベクトル(図1の符号d)である合成インテンシティを算出して、これをインテンシティベクトル表示部41に出力する(S16-4)。
【0036】
図5は、インテンシティの一例を示す図である。
図5に示されるように、インテンシティベクトル(符号d)は、検査対象物の異常発生位置(符号b)に近づくほど大きくなり、その真上で最大となり、これを境にして極性が反転して、異常発生位置から離れるほど小さくなる。
これが理想的なインテンシティの検知結果になる。そこで、壁に沿ったマイク群でインテンシティ計測を実施する提案が以下となる。
【0037】
通常のインテンシティ、すなわち、アクティブインテンシティは図6にその特性の一例が示される。
アクティブインテンシティ算出部35-1により算出されるアクティブインテンシティは、検査対象物の異常発生位置からある程度離れた位置で最大となり、異常発生位置の真上(符号a)に近づくにつれて減少し、異常発生位置の真上でゼロとなり、極性が反転する。そして、この異常発生位置からある程度離れた位置で最小、すなわち逆位相にて最大となる。
上記のように、本来はエネルギーが最も高い異常発生位置でインテンシティの振幅が最小になるのでは、精度よい計測が行なえなくなる。この異常発生位置から少し離れた位置では、上記アクティブインテンシティの振幅が最大にはなるが、本実施形態のような微弱振動する検査対象物では、異常発生位置から離れた位置では距離による減衰により振幅低減も否めない課題がある。
【0038】
そこで、この問題を解決するために、本実施形態では、リアクティブインテンシティの特性も利用する。図7は、リアクティブインテンシティの特性の一例を示す図である。
図7に示されるように、リアクティブインテンシティ算出部35-3により算出されるリアクティブインテンシティは、異常発生位置の真上(符号a)に近づくにつれて増加し、異常発生位置の真上で最大となり、この異常発生位置から離れるにつれて同位相にて減少する。
【0039】
そこで、本実施形態では、異常発生位置の真上で振幅が最大になるリアクティブインテンシティの特性と、異常発生位置の真上で極性が反転するアクティブインテンシティの特性を合わせたインテンシティを算出することにより、上記課題の解決を図る。
図8は、合成インテンシティの特性の一例を示す図である。
図8に示されるように、合成インテンシティ算出部35-4により算出される合成インテンシティは、検査対象物の異常発生位置からある程度離れた位置から最大となり異常発生位置(符号b)の真上に近づくにつれて増加し、異常発生位置の真上で最大となり、極性が反転する。そして、この異常発生位置から離れるにつれて減少、すなわち逆位相にて増加する。
【0040】
上記のS16の後、インテンシティベクトル表示部41は、合成インテンシティ算出部35-4からの合成インテンシティに基づく、位置に対するインテンシティのゲインと極性が示される一次元インテンシティ分布を、図示しない表示装置に表示するとともに、異常発生部位推定部42に出力する(S17)。
異常発生部位推定部42は、一次元インテンシティ分布で示される、ゲインが最大、かつ極性が反転するベクトル場を計測することにより、異常発生部位を推定する(S18)。
【0041】
実施形態では、上記のスピーカ11およびマイク群でなる検査用音響機器を一組とした複数組の検査用音響機器を音響検査装置100に設け、検査対象物aにおける広範囲のエリアの異常の有無を検査可能な構成としてもよい。
また、一組または少数の組の上記検査用音響機器を音響検査装置100に設け、音響検査装置100自体を検査対象物aで走査するように移動させて、検査対象物aにおける各エリアの異常の有無を順次検査可能な構成としてもよい。
【0042】
図9および図10は、音響検査装置の適用先の第1の例を示す図である。
図9図10に示された例では、音響検査装置100に複数の上記検査用音響機器(図9、10の符号e)を取り付けて(図10)、このマイク群を検査対象物aの長手方向(図9の符号f)に沿って移動させて、検査対象物aにおける各エリアの異常発生位置(符号b1,b2)有無を順次検査することができる。
【0043】
図11は、音響検査装置の適用先の第2の例を示す図である。
図11に示された例のように、音響検査装置100を、中空部を有する円筒状の部材の内周面に上記検査用音響機器(符号e)を取り付けた装置として、検査対象物aが円筒状の部材であるときに、この検査対象物aの外周面を検査用音響機器が覆うように、当該検査対象物aが音響検査装置100の上記中空部に挿入されるように配置して、検査対象物aにおける異常発生位置(符号b1,b2)を検査することができる。
【0044】
図12は、音響検査装置の適用先の第3の例を示す図である。
図12に示された例のように、音響検査装置100を、車両(符号g)の底面側に搭載されて上記検査用音響機器(符号e)を取り付けた装置として、当該車両を検査対象物aの長手方向(符号f)に沿って移動させて、検査対象物aにおける各エリアの異常の有無を順次検査することができる。
【0045】
以上のように、第1の実施形態では、検査対象物にスピーカと第1乃至第3のマイクを対向させ、スピーカ11から検査対象物に加振音を放射し、第1のマイクからの参照信号と第2のマイクからのノイズ重畳信号に基づくインテンシティと、第1のマイクからの参照信号と第3のマイクからのノイズ重畳信号に基づくインテンシティとに基づくインテンシティベクトルを算出し、このインテンシティベクトルに基づいて、検査対象物における異常発生位置を推定する。これにより、音響波を利用して精度良く検査対象物の異常を検査できる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。以降の各実施形態については、第1の実施形態と同一の構成についての詳細な説明は省略する。
図13は、第2の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
【0047】
図13に示されるように、第2の実施形態では、第1の実施形態と比較して、第1のマイク21、第2のマイク22、第3のマイク23の配置が異なる。
【0048】
具体的には、第2の実施形態では、スピーカ11からみて、各マイクが、第3のマイク23、第2のマイク22、および第1のマイク21の順で互いに間隔を空けて設けられる。各マイクと各処理部との入出力の関係は第1の実施形態と同じである。
【0049】
図13に示された構成にて、第1ノイズ処理部33および第2ノイズ処理部34は、負の相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することができる。
【0050】
図13に示された構成では、インテンシティ算出部35により算出される、第2のマイク22と第3のマイク23との間のインテンシティベクトルである合成インテンシティは、図13中の符号dに対応し、図1に示された合成インテンシティと比較してスピーカ11寄りの位置に変更されることとなる。
このように、第2の実施形態では、第1の実施形態と比較して、各マイクの配置を変更したことにより、インテンシティベクトルの位置を変更することができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図14は、第3の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
【0052】
図14に示されるように、第3の実施形態では、第1および第2の実施形態と比較して、第1のマイク21、第2のマイク22、第3のマイク23の配置が異なる。
【0053】
具体的には、第3の実施形態では、スピーカ11からみて、各マイクが、第2のマイク22、第1のマイク21、および第3のマイク23の順で互いに間隔を空けて設けられる。よって、この第3の実施形態では、第2のマイク22と第3のマイク23との間隔が、第1および第2の実施形態と比較して広い。各マイクと各処理部との入出力の関係は第1および第2の実施形態と同じである。
【0054】
図13に示された構成にて、第1ノイズ処理部33は、負の相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することができ、第2ノイズ処理部34は、正の相互相関処理を用いてインパルス応答を算出することができる。
【0055】
図14に示された構成では、インテンシティ算出部35により算出される、第2のマイク22と第3のマイク23との間のインテンシティベクトルである合成インテンシティは、図13中の符号dに対応し、図1に示された合成インテンシティと比較して、その範囲が拡大されることとなる。
このように、第3の実施形態では、第1の実施形態と比較して、各マイクの配置を変更したことにより、インテンシティベクトルの範囲を拡大することができるので、例えば対象周波数に応じた、インテンシティベクトルの検出精度を変更することができる。
【0056】
(第4の実施形態)
図15は、第4の実施形態に係る音響検査装置の構成の一例を示す図である。
【0057】
図15に示されるように、第4の実施形態では、第1乃至第3の実施形態で説明した第1のマイク21、第2のマイク22、および第3のマイク23に加えて、第4のマイク24が音響検査装置100にさらに取り付けられる。
【0058】
この例では、スピーカ11、第1のマイク21、第2のマイク22、および第3のマイク23の位置関係および間隔は第1の実施形態と同じである。そして、第4のマイク24は、スピーカ11および第1のマイク21に対して第3のマイク23よりもさらに広い間隔を空けて配置されたマイクである。すなわち、第4の実施形態では、スピーカ11に対し、各マイクが、第1のマイク21、第2のマイク22、第3のマイク23、および第4のマイク24の順で互いに間隔を空けて配置される。
【0059】
また、第4の実施形態では、音響検査装置100の処理部は、第1の実施形態で説明した参照信号検出部32、第1ノイズ処理部33、および第2ノイズ処理部を有する2つの信号処理部を含む。
【0060】
図15に示された例では、音響検査装置100には、第1信号処理部30aおよび第2信号処理部30bが設けられる。第1信号処理部30aおよび第2信号処理部30bは、ともに参照信号検出部32、第1ノイズ処理部33、および第2ノイズ処理部を有する。
【0061】
また、この音響検査装置100には、第1の実施形態で説明したインテンシティ算出部35に代えて第1インテンシティ算出部35aおよび第2インテンシティ算出部35bが設けられる。
【0062】
図16は、第4の実施形態に係る音響検査装置のインテンシティ算出部の動作を示すフローチャートである。
【0063】
音響検査装置100の、音響加振信号発生部31は、検査対象物aに対して放射される加振音を発生させるための音響加振信号を生成する(S41)。
第1信号処理部30aの参照信号検出部32は、第1のマイク21から出力された信号を参照用の音響信号である参照信号として検出して、第1信号処理部30aの第1ノイズ処理部33および第2ノイズ処理部34に出力する。
第1信号処理部30aの第1ノイズ処理部33は、第1信号処理部30aの参照信号検出部32からの参照信号および第2のマイク22からの第1のノイズ重畳信号を入力する(S42)。
第1信号処理部30aの第1ノイズ処理部33は、参照信号および第1のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第2のマイク22との間のインパルス応答を算出する。この第1ノイズ処理部33は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN1の成分を除去して微弱振動成分S0およびS1を抽出する第1のノイズ除去処理を行なう(S43)。
【0064】
第1信号処理部30aの第2ノイズ処理部34は、第1信号処理部30aの参照信号検出部32からの参照信号および第3のマイク23からの第2のノイズ重畳信号を入力する(S44)。
第1信号処理部30aの第2ノイズ処理部34は、参照信号および第2のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第3のマイク23との間のインパルス応答を算出する。この第2ノイズ処理部34は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN2の成分を除去して微弱振動成分S0およびS2を抽出する第2のノイズ除去処理を行なう(S45)。
【0065】
第1インテンシティ算出部35aは、第1信号処理部30aの第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S1および第1信号処理部30aの第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S2に基づいて、第2のマイク22と第3のマイク23との間のインテンシティベクトル(図15の符号d1)である合成インテンシティを算出する第1のインテンシティ算出処理を行なう(S46)。
【0066】
また、 第2信号処理部30bの参照信号検出部32は、第2のマイク22から出力された信号を参照用の音響信号である参照信号として検出して、第2信号処理部30bの第1ノイズ処理部33および第2ノイズ処理部34に出力する。
このように、第4の実施形態では、第1信号処理部30aと第2信号処理部30bとで、参照信号の検出元のマイクが異なる。言い換えると、第4の実施形態では、第2のマイク22は、第1信号処理部30aに対しては、参照信号の出力に係る基準のマイクであり、第2信号処理部30bに対しては、インテンシティベクトルの算出に係る信号の出力元となる。
【0067】
第2信号処理部30bの第1ノイズ処理部33は、第2信号処理部30bの参照信号検出部32からの参照信号および第3のマイク23からの第3のノイズ重畳信号を入力する(S51)。
第2信号処理部30bの第1ノイズ処理部33は、参照信号および第3のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第3のマイク23との間のインパルス応答を算出する。この第1ノイズ処理部33は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN2の成分を除去して微弱振動成分S0およびS2を抽出する第3のノイズ除去処理を行なう(S52)。
【0068】
第2信号処理部30bの第2ノイズ処理部34は、第2信号処理部30bの参照信号検出部32からの参照信号および第4のマイク24からの第4のノイズ重畳信号を入力する(S53)。
第2信号処理部30bの第2ノイズ処理部34は、参照信号および第4のノイズ重畳信号に基づいて、第1のマイク21と第4のマイク24との間のインパルス応答を算出する。この第2ノイズ処理部34は、上記算出されたインパルス応答のうち、ノイズN0およびN3の成分を除去して微弱振動成分S0およびS3を抽出する第4のノイズ除去処理を行なう(S54)。
【0069】
第2インテンシティ算出部35bは、第2信号処理部30bの第1ノイズ処理部33から出力された微弱振動成分S2および第2信号処理部30bの第2ノイズ処理部34から出力された微弱振動成分S3に基づいて、第3のマイク23と第4のマイク24との間のインテンシティベクトル(図15の符号d2)である合成インテンシティを算出する第2のインテンシティ算出処理を行なう(S55)。
【0070】
上記のS55の後、インテンシティベクトル表示部41は、第1インテンシティ算出部35aからの合成インテンシティと第2インテンシティ算出部35bからの合成インテンシティに基づく一次元インテンシティ分布を表示装置に表示するとともに、異常発生部位推定部42に出力する(S61)。
異常発生部位推定部42は、一次元インテンシティ分布で示される、ゲインが最大、かつ極性が反転するベクトル場を計測することにより、異常発生部位を推定する(S62)。
【0071】
このように、第4の実施形態では、検査対象物aに対する音響検査装置100の検査用音響機器の位置が動かない状態で、参照信号の出力に係る基準のマイクの位置をずらしながら、幅広い範囲のインテンシティベクトルを同じタイミングで算出することができる。
【0072】
図17は、合成インテンシティ分布の算出について説明する図である。
図17に示された例では、スピーカ11からみて、第1のマイク21、第2のマイク22、第3のマイク23、第4のマイク24、第5のマイク25、…の順でマイク群が設けられる。
【0073】
この例では、第1のマイク21が参照信号の出力に係る基準のマイクであるときの、第1のマイク21と第2のマイク22との間の相互相関により算出されたインテンシティと第1のマイク21と第3のマイク23との間の相互相関により算出されたインテンシティとに基づくインテンシティベクトル(符号d1)である合成インテンシティが算出される。
【0074】
また、この例では、第2のマイク22が参照信号の出力に係る基準のマイクであるときの、第2のマイク22と第3のマイク23との間の相互相関により算出されたインテンシティと第2のマイク22と第4のマイク24との間の相互相関により算出されたインテンシティとに基づくインテンシティベクトル(符号d2)である合成インテンシティが算出される。
【0075】
さらに、この例では、第3のマイク23が参照信号の出力に係る基準のマイクであるときの、第3のマイク23と第4のマイク24との間の相互相関により算出されたインテンシティと第3のマイク23と第5のマイク25との間の相互相関により算出されたインテンシティとに基づくインテンシティベクトル(符号d3)である合成インテンシティが算出される。
このように、マイク群が5本またはそれ以上でも、参照信号の出力に係る基準のマイクの位置をずらしながら、幅広い範囲のインテンシティベクトルを同じタイミングで算出することができる。
【0076】
<リアルタイム処理について>
ここで、インパルス応答をリアルタイムで算出する処理について説明する。例えば、走行する車両から道路に向けて探知音を照射し、反射音を含む音響情報をマイクで集音して道路を検査する検査車両が知られている。この種の技術分野においては、インパルス応答をリアルタイムで算出できる技術が高く要望されている。
【0077】
2つの信号からインパルス応答を算出するための処理として、適応フィルタ処理 と、相互相関処理とが著名である。このうち相互相関処理が、リアルタイムでの処理に有利である。
【0078】
図18は、リアルタイム相互相関処理について説明するための図である。例えば2本のマイクロホンを用いて音響信号を収集することを考える。チャネル1(ch1)のマイクとチャネル2(ch2)のマイクとで、ADの各点ごとにそれぞれサンプリングされた音響信号を時系列(n,n-1,…)で配列してメモリ(図示せず)に格納する。そして、各チャネルのデータから、現在時刻nを基準とするチャネル間の正相関データを取得し、時系列での相互相関を順次算出する。このような処理により、マイク移動に伴って時々刻々と変化する相互相関出力が得られ、2つの信号間のインパルス応答をリアルタイムで算出することができる。
【0079】
図19は、リアルタイムで得られたインパルス応答の一例を示す波形図である。インパルス応答は、点線で示される加振音の波形と、一点鎖線で示される振動放射音の波形とを含む。このうち加振音の波形は、第1のピークと第2のピークとを含む。第1のピークのレベルは、チャネル1のマイクとチャネル2のマイクとの間隔の関数になる。第2のピークの出現位置は、第1のピークの起点から、検査対象物と基準マイク(例えば検査対象物に近いほう:チャネル1)との間隔の関数になる。
【0080】
そこで、リアルタイム処理では、図19の点線の矩形領域に示すように、第1のピークの起点から第2のピークの起点までを処理対象(検知窓)とする。そして、この区間に対して実施形態で説明したように、第1のピークである不要成分の除去を適用し、周波数解析を行う。このような処理により、微弱音を捉えて異常の有無を検知する処理を、リアルタイムで行うことが可能になる。
【0081】
もちろん、相互相関処理は系が停止している状態でも同様に適用することができる。つまり実施形態によれば、相互相関処理を用いることで、バッチ処理、リアルタイム処理のいずれにも適用可能な音響検査技術を提供することが可能である。
【0082】
さらに、2本マイクで得られたインパルス応答に限らず、振動センサとマイクロホンとで個別に収集した情報から得られたインパルス応答に対しても、相互相関処理を適用してリアルタイム処理を行うことができる。つまり、マイクロホンおよび振動センサは、それぞれ第1の信号を出力する第1のセンサ、第2の信号を出力する第2のセンサとして捉えることができる。
【0083】
そこで、第1の信号と第2の信号との相互相関により得られたインパルス応答から、第1のピークの起点から第2のピークの起点までを処理対象とする。第1のピークは、第1のセンサと第2のセンサとの間隔で求まり、第2のピークの起点は、検査対象物と基準センサとの間隔に応じた時間幅で求まる。そして、第1のピークを除去したインパルス応答波形を周波数解析することで、センサの種別によらず、リアルタイムの非破壊検査を実現することができる。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
100…音響検査装置、11…スピーカ、21~25…マイク、30a…第1信号処理部、30b…第2信号処理部、31…音響加振信号発生部、32…参照信号検出部、33…第1ノイズ処理部、34…第2ノイズ処理部、35…インテンシティ算出部、41…インテンシティベクトル表示部、42…異常発生部位推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19