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特許7585252センサデバイス、センサ素子表面の修飾試薬、センサ素子表面の修飾方法およびセンサデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】センサデバイス、センサ素子表面の修飾試薬、センサ素子表面の修飾方法およびセンサデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20241111BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20241111BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20241111BHJP
   H01L 29/16 20060101ALI20241111BHJP
   C12N 11/14 20060101ALI20241111BHJP
   H10K 85/20 20230101ALI20241111BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20241111BHJP
【FI】
G01N27/414 301V
H01L29/78 625
H01L29/78 618B
H01L29/06 601N
H01L29/16
C12N11/14
H10K85/20
H10K10/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022029831
(22)【出願日】2022-02-28
(65)【公開番号】P2023125621
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-514478(JP,A)
【文献】特開2020-046316(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195707(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195708(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0331661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/414
H10K 85/20
H01L 29/786
H10K 10/40
H01L 29/06
H01L 29/16
C12N 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されているセンサ素子と、
前記センサ素子の表面に、アンカー部分を介して固相化されている修飾分子と、を具備し、
前記アンカー部分は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環を有する第一の部位と、前記第一の部位に直接結合したアミノ基とを有するセンサデバイス。
【請求項2】
前記第一の部位が、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、オバレン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、キサンテン、カルバゾールおよびベンゾ-C-シンノリンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のセンサデバイス。
【請求項3】
前記修飾分子が、アンカー部分に結合している機能性部分をさらに具備する請求項1又は2に記載のセンサデバイス。
【請求項4】
前記機能性部分が、特定の物質を捕捉する機能を有すること、特定の物質と特異的に結合する機能を有すること、または特定の物質の固着を阻害する機能を有する請求項3に記載のセンサデバイス。
【請求項5】
多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合したアミノ基とを有するアンカー部分を有する修飾分子を含み、
グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されているセンサ素子表面に、前記アンカー部分を介して修飾分子を固相化するためのセンサ素子表面修飾試薬。
【請求項6】
前記修飾分子が、アンカー部分に結合している機能性部分をさらに具備する請求項5に記載のセンサ素子表面修飾試薬。
【請求項7】
修飾分子を含む溶液を準備すること、および
センサ素子表面に対して、前記溶液を接触させることを含み、
前記センサ素子が、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されており、
前記修飾分子が、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合したアミノ基とを有するアンカー部分を含むセンサ素子表面を修飾する方法。
【請求項8】
センサ素子と、前記センサ素子表面に固相化された修飾分子とを備えるセンサデバイスを製造する方法であって、
前記センサ素子が、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されており、
前記修飾分子が、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合したアミノ基とを有するアンカー部分を含み、
修飾分子を含む溶液を準備すること、およびセンサ素子表面に対して、前記溶液を接触させることを含むセンサデバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、センサデバイス、センサ素子表面の修飾試薬、センサ素子表面の修飾方法およびセンサデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな対象物質をセンシングや捕捉、或いは夾雑物を除去するセンサデバイスが知られている。
【0003】
そのようなセンサデバイスは、一般的に、その表面に色素やプローブなどの機能性部分を担持したセンサ素子を有している。その機能性部分と試料との接触により、対象物質のセンシングや捕捉を達成している。
【0004】
センサ素子表面への機能性部分の固相化は、例えば、機能性部分を含む試薬をセンサ素子表面に接触させることにより行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、センサ素子表面に安定的に修飾分子を固相化する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のセンサデバイスは、センサ素子と修飾分子とを備える。当該センサ素子は、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されている。修飾分子は、当該センサ素子の表面に、アンカー部分を介して固相化されている。当該アンカー部分は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環を有する第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有する。
【0007】
実施形態のセンサ素子表面の修飾試薬は、センサ素子表面に修飾分子を固相化するために使用される。修飾されるべきセンサ素子は、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されている。当該修飾試薬は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有するアンカー部分を含む修飾分子を含み、アンカー部分を介して当該修飾分子は、センサ素子表面に固相化される。
【0008】
実施形態のセンサ素子表面の修飾方法は、修飾分子を含む溶液を準備すること、センサ素子表面に対して、前記溶液を接触することを含む。当該修飾分子は、アンカー部分を含む。当該アンカー部分は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有する。
【0009】
実施形態のセンサデバイスの製造方法は、センサ素子表面に、修飾分子を固相化することを含む。当該センサ素子は、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されている。当該修飾分子は、アンカー部分を含む。当該アンカー部分は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有する。当該固相化は、修飾分子を含む溶液を準備すること、センサ素子表面に対して、前記溶液を滴下することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態のセンサデバイスの一例を示す模式図である。
図2】第2の実施形態のセンサデバイスの一例を示す模式図である。
図3】第3の実施形態のセンサデバイスの一例を示す模式図である。
図4】第4の実施形態のセンサ素子表面の修飾方法の一例を示すフローチャートである。
図5】第5の実施形態のセンサデバイスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図6】実施例1および比較例1の化学式とそれらを用いた実験結果を示すグラフである。
図7】実施例1~4を用いて行った実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態のセンサデバイスの1例について図1を用いて説明する。図1(a)は、センサデバイス10の模式図であり、図1(b)は、センサ素子上に固相化されている修飾分子15の構造を示す拡大模式図である。図1(a)に示すように、センサデバイス10は、センサ素子部11と、センサ素子部11と液絡している収容部12とを備える。センサ素子部11は、基材13と、基材13の第一の面に備えられたセンサ素子14と、センサ素子14の表面に固相化された修飾分子15とを備える。
【0013】
センサ素子14は、グラフェン、酸化グラフェンおよび/またはカーボンナノチューブのいずれか1つで構成されている。
【0014】
基材13は、センサ素子14を担持し得る材質および形状であればよく、センサ素子における反応等に影響を及ぼさないものが好ましい。これらに限定するものではないが、例えば、ガラス、プラスティック、石英、シリコンなどであり得る。基材13の形状は、板状、球状、棒状など、或いは凹部、カップ構造、溝構造および/または流路構造などが形成されたプレート、または容器など、或いはそれらを組み合わせた形状であり得る。
【0015】
図1(b)に示すように、修飾分子15は、アンカー部分15aと任意の機能性部分15bとを含む。アンカー部分15aは、センサ素子14の表面との間での相互作用で吸着する。それによって、センサ素子14表面への修飾分子15の固相化が達成される。なお、図1(a)では、センサ素子14の表面に6分子の修飾分子15が固定化されている様子を例示したが、固定化される配置や数はこれに限定されるものではない。
【0016】
アンカー部分15aは、第一の部位と第二の部位を備える。第一の部位は、非局在化したπ電子を有する部分である。第二の部位は、第一の部位と、この第一の部位に直接に結合した電子供与性を有する部分である。
【0017】
第一の部位は、多環式芳香環および多環式ヘテロ芳香環などである。第一の部位は、センサ素子14の表面にπ―π相互作用によって吸着する。芳香環とは、4n + 2個(nは1以上の自然数)のπ電子を有する共役不飽和環構造である。
【0018】
例えば、多環式芳香環の例は、以下に列記するように、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネンおよびオバレンなどであるが、これらに限定するものではない。
【0019】
【化1】
【0020】
また多環式ヘテロ芳香環の例は、以下に列記するように、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン(ベンゾピラン)、イソクロメン(ベンゾピラン)、アクリジン、キサンテン、カルバゾールおよびベンゾ-C-シンノリンなどであるが、これらに限定するものではない。
【化2】
【0021】
第二の部位は、芳香族炭素に直接結合した電子供与性を有する部分あるいは官能基である。電子供与性を有する部分は、例えば誘起効果による電子供与性を示すアルキル基、フェニル基及びその誘導体である。第二の部位は、より好ましくは共鳴効果によって、電子供与性を発現する構造あるいは官能基である。
【化3】
【0022】
具体的には、第二の部位は、例えば、
【化4】

であり、ここでR、RおよびRは、水素、炭化水素およびそれらの誘導体などである。より具体的には、第2の部分は芳香族炭素に対して、酸素と窒素のいずれかが直接結合しており、且つこの酸素または窒素がR,R,Rのいずれとも単結合している構造である。第2の部分は、この酸素または窒素が、R,R,Rのいずれとも二重結合または三重結合を有していない構造である。第2の部分は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、アルコシキ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基などである。第2の部分は、化4に示す酸素または窒素が芳香環と共役することで、芳香環を構成する炭素と二重結合を形成した構造であってもよい。二重結合を形成した第2の部分は、R,R1,R2のいずれかが脱離した構造であってもよい。
【0023】
このようなアンカー部分15aの存在によって、センサ素子部との間に強固なππ相互作用が発揮される。このππ相互作用は、電気供与性の置換基の存在によって強化されており、且つ芳香族炭素に直接結合することによって共鳴効果が発現されたことによって、その効果が大きくなっている。
【0024】
上述したように、修飾分子15は、アンカー部分15aに加えて任意の機能性部分15bを含む。機能性部分15bは、センサデバイスの用途に合わせて選択されればよい。例えば、機能性部分15は、特定の物質を捕捉する部分であってもよく、或いは特定の化学反応に対して触媒作用を示す部分であってもよく、特定の物質が固着しにくい部分であってもよい。言い換えると、機能性部分15は、特定の物質を捕捉する機能を有する部分、特定の化学反応に対する触媒作用を示す機能を有する部分、或いは特定の物質が固着しにくいという機能を有する部分である。
【0025】
アンカー部分15aと機能性部分15bとの間にスペーサー部分をさらに存在させてもよい。アンカー部分15aと機能性部分15bとの結合は、上述したアンカー部分15aの特性を妨害しない位置に、即ち、π電子密度と共鳴効果に影響しない位置に、化学構造に応じて、それ自身公知の方法により化学的に達成される。また、電子吸引性の原子団は、電子供与性を相殺しない限り含まれてもよい。スペーサー部分は、例えば、アミノ基、アルコキシ基、ペプチド、ポリエチレングリコール、炭化水素基及びその誘導体である。
【0026】
特定の物質を捕捉する機能を有する場合、機能性部分15bの例は、DNAアプタマー、RNAアプタマーなどの核酸、ペプチド、抗体、レクチン、アビジン、ビオチン、シアル酸および糖鎖など、互いに特異的に親和性を有する結合対のいずれか一方であり得る。
【0027】
特定の化学反応に対して触媒作用を示す場合、機能性部分15bの例は、各種酵素などであってよい。また、酵素活性をもった核酸であるリボザイムおよびデオキシリボザイムであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0028】
特定の物質が固着しにくいという機能を有する場合、機能性部分15bは、特定の物質がその部位に固着しにくい構造を有すればよい。その例は、例えば、ポリエチレングリコールなどの親水性の物質、例えば、リン脂質およびスルホベタインなどの双極性の物質であり得る。特定の物質がその部位に固着しにくい構造は、ブロッキング剤とも称する。
【0029】
収容部12は、センサ素子部11に反応部を提供するスペースであってもよい。さらに、収容部12は、センサ素子部11に検査対象、試薬および/または洗浄液などの液体、或いは気体を送る、あるいはセンサ素子部11から液体を回収するために使用される流路、それらの液体や気体を収容する収容手段、液体の押し出しや吸引によりそれらの液を動かす輸送機構、および/または液体の動きをコントロールする制御機構などを備えていてもよい。収容部12に収容される物質は、液体であっても、気体であってもよく、またその混合物であってもよい。
【0030】
上述の第1の実施形態によれば、修飾分子がセンサ素子部に強固に固相化されたセンサデバイスが提供される。このようなセンサデバイスは、夾雑物に対してロバストな効果も発揮し得る。
【0031】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のセンサデバイスの1例を図2に示す。センサデバイス20は、さらにシグナル回収部21を備える以外は、第1の実施形態のセンサデバイスと同様の構造であり得る。シグナル回収部21は、センサ素子部11から生じる信号を回収するための通信ライン、例えば、光路または伝導材などであり得る。また、シグナル回収部21が、センサデバイスからの信号を読み取る検出器と接続するための接続機構をさらに備えていてもよい。
【0032】
上述の第2の実施形態によれば、修飾分子がセンサ素子部に強固に固相化されたセンサデバイスを提供される。このようなセンサデバイスは、ロバスト効果も発揮し得る。
【0033】
(第3の実施形態)
第3の実施形態のセンサデバイスの1例を図3に模式的に示す。図3(a)は、センサデバイス30の斜視図であり、図3(b)は、センサ素子に固相化されている修飾分子15の拡大図であり、図3(c)は、図3(a)のセンサデバイス30を線c-cで切断して得られる断面図である。
【0034】
センサデバイス30は、基体32上に形成された基材13上にセンサ素子14を備える。センサ素子14の表面には固相化された修飾分子15が担持されている。センサ素子14はチャネルとして機能する。センサ素子14からの信号を取得するための導体例えば金属板34aおよび34bが、センサ素子14に接するようにその両端に配置されている。金属板34aおよび34bはソース電極又はドレイン電極として機能する。金属板34aおよび34bは、絶縁性の材料で形成された被覆材35aおよび35bで覆われている。センサデバイス30は、センサ素子14に電位を印加するゲート電極16を有する。ゲート電極16は、基体32に接続されたバックゲートとして設けられることができる。センサデバイス30がセンサ素子14に接する液体17を対象にセンシングする装置である場合、ゲート電極16は当該液体17を介してセンサ素子14に電圧印加されるようにセンサ素子14の上部に設けられることができる。センサデバイス30は、金属板34a、34b間に電圧印加した際に得られるドレイン電気特性の変化から、例えば、センサ素子14上で修飾分子15と検査対象との間で生じる相互作用を検出することが可能である。例えば、修飾分子15が、検査対象に含まれ極性を有する特定の物質と結合した場合、センサ素子に微小な電界が印加され、ドレイン電流特性が変化する。
【0035】
上述の第3の実施形態によれば、修飾分子がセンサ素子部に強固に固相化されたセンサデバイスを提供される。このようなセンサデバイスは、ロバスト効果も発揮し得る。
【0036】
(第4の実施形態)
第4の実施形態として、センサデバイスのセンサ素子表面に修飾分子を固相化するためのセンサ素子表面修飾試薬が提供される。センサ素子表面修飾試薬により修飾されるべきセンサ素子は、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1から構成されたセンサ素子である。
【0037】
当該センサ素子表面修飾試薬は、上述した通りのアンカー部分15aを有する修飾分子15を含む。即ち、当該センサ素子表面修飾試薬は、非局在化したπ電子を有する第一の部位15a-1と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位15a-2とを有するアンカー部分15aを含む修飾分子を含む。アンカー部分15aを介して当該修飾分子は、センサ素子14表面に固相化される。
【0038】
実施形態のセンサ素子表面修飾試薬によれば、アンカー部分15aの構成によって、従来よりも強力なππ相互作用を得ることができる。そのため、修飾されるべきセンサ素子14表面に夾雑物による汚染があった場合でも、修飾分子15をセンサ素子14表面に強力に固相化することが可能である。また、固相化密度を向上するために従来の技術では、例えばプローブ溶液などの試薬の濃度を高くする必要があったが、本実施例であれば、試薬濃度を高くすることなしに、修飾分子を高密度に固相化することが可能となる。
【0039】
上述した通り、修飾分子は、アンカー部分15aに加えて任意の機能性部分15bをさらに含み得る。
【0040】
センサ素子表面修飾試薬は、溶液中に修飾分子14を含んだ状態で提供されてもよく、乾燥した状態の修飾分子として提供されてもよい。それらは、適切な容器に収容されて提供されてもよい。また、センサ素子表面修飾試薬は、機能性部分の安定性を考慮した成分、例えば、塩類、ペプチドなどの安定剤をさらに含んでいてもよい。例えば、センサ素子表面修飾試薬のための溶液は、修飾分子14に応じて水溶液、有機溶液またはその混合物であってもよい。
【0041】
上述の第4の実施形態によれば、センサ素子14に対して修飾分子15を安定して固相化することができるセンサ素子表面修飾試薬が提供される。このようなセンサ素子表面修飾試薬を使用することにより、提供されるセンサデバイスは、夾雑物に対してロバストな効果も発揮し得る。
【0042】
(第5の実施形態)
第5の実施形態として、実施形態のセンサ素子表面の修飾方法が提供される。図4に示すように、当該センサ素子表面の修飾方法は、修飾分子を含む溶液を準備すること(S41)、センサ素子表面に対して、前記溶液を滴下すること(S42)を含む。当該修飾分子は、アンカー部分を含む。当該アンカー部分は、非局在化したπ電子を有する第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有する。詳しくは上述した通りである。
【0043】
センサ素子表面は、当該溶液を滴下した後に室温放置され、その後、必要に応じて洗浄、乾燥が行われてもよい。
【0044】
実施形態の実施形態のセンサ素子表面の修飾方法によれば、アンカー部分の構成によって、従来よりも強力なππ相互作用を得ることができる。そのため、修飾されるべきセンサ素子表面に汚染があった場合でも、修飾分子を強力にセンサ素子表面に固相化することが可能である。例えばセンサ素子表面に形成するポリイミド保護膜からの残差が表面に存在する場合であっても安定した固相化が可能である。また、固相化密度を向上するために従来の技術では、例えばプローブ溶液などの試薬の濃度を高くする必要がある。しかしながら、試薬濃度を高くすることなしに、修飾分子を高密度に固相化することが可能となる。
【0045】
このように、上述の第5の実施形態によれば、センサ素子に対して修飾分子を安定して固相化することができるセンサ素子表面の修飾方法が提供される。このようなセンサ素子表面の修飾方法により、提供されるセンサデバイスは、夾雑物に対してロバストな効果も発揮し得る。
【0046】
(第6の実施形態)
第6の実施形態として、センサデバイスの製造方法が提供される。図5に示すように、センサデバイスの製造方法は、基材上にセンサ素子部を備える未修飾センサデバイスを用意すること(S51)、修飾分子を含む溶液を準備すること(S51)、センサ素子表面に溶液を滴下すること(S53)とを含む。
【0047】
未修飾センサデバイスとは、センサ素子部に当該修飾分子が固相化されていない状態のものであればよく、所望に応じて、それ自体公知のいずれかの手段および工程によって準備されればよい。
【0048】
第6の実施形態の製造方法によって、例えば、上述したような第1の実施形態~第3の実施形態などを例とする、実施形態のセンサデバイスが提供される。これにより、修飾分子がセンサ素子部に強固に固相化されたセンサデバイスが提供される。このような製造方法によって提供されるセンサデバイスは、夾雑物に対してロバストな効果も発揮し得る。
【0049】
センサ素子表面に、修飾分子を固相化することを含む。当該センサ素子は、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1からなる。当該修飾分子は、アンカー部分を含む。当該アンカー部分は、非局在化したπ電子を有する第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有する。詳しくは、上述した通りである。当該固相化は、修飾分子を含む溶液を準備すること、センサ素子表面に対して、前記溶液を接触させる(例えば、滴下する)ことを含む。
【0050】
(実施例1)
蛍光色素であるキサンテン環で固相化されたグラフェンのFET応答の測定
ローダミン6G(R6G)水溶液とAlexa488水溶液をそれぞれ調製した。水溶液は、HEPES1mM+KCL1mMを含む。
【化5】

【化6】
【0051】
グラフェンで形成したセンサ素子の表面にポリイミド保護膜を形成し、グラフェンが露出した表面をHEPES1mM+KCL1mMで処理した。グラフェンが露出した表面を先に調製したローダミン6G(R6G)水溶液とAlexa488の水溶液を滴下した。その後、室温で15分間放置してローダミン6GとAlexa488をそれぞれ修飾分子としてセンサ素子表面に固相化した。
【0052】
その後、それぞれのセンサ素子を洗浄した後にローダミン6G(実施例1)とAlexa488(比較例1)に関してドレイン電流変化率を測定した。ドレイン電流変化率の測定は、ゲート電圧を変えてグラフェンの電流値を測定した。グラフェンのドレイン電流はゲート電圧に対してプロットするとV字の特性を示し、V字の底の部分が電荷中性点と呼ばれ、電荷中性点より低電圧においては正孔がキャリアとして伝導していることが知られている。本実験では正孔伝導領域においてゲート電圧依存性が最も高くなるゲート電圧を用いて評価した。具体的には電荷中性点より100mV低いゲート電圧での測定結果を用いており、ローダミン6Gでは400mV、Alexa488では500mVである。修飾分子が固相化するとドレイン電流が変化する。
【0053】
その結果を図6のグラフに示した。三角形で示したローダミン6G(実施例1)からのドレイン電流変化率には、ローダミン6Gの濃度の増加に依存して大きな増加が観察された。一方、グラフ中、丸印で示したAlexa488の場合では、ドレイン電流の変化がほとんど検出されず、また濃度によるドレイン電流変化もほとんど見られなかった。
【0054】
図6(b)にローダミン6G(R6G)の化学構造を、図6(c)にAlexa488の化学構造を示した。そこに示すようにローダミン6G(R6G)では、点線(----)で囲んだ部分に電子供与基が2つ存在している。それに対してAlexa488では、点線(----)で囲んだ部分の電子供与基と、電子吸引基としてSO とが存在している。SO は、点線(--・・--)で囲んでいる。
【0055】
即ち、ローダミン6Gでは、キサンテン環に共鳴効果で電子供与性を示すアミンが2つ直接結合している。アミンを点線(----)で囲んでいる。さらに2つ結合しているメチル基は、誘起効果で電子供与性を示す。図中点線(-・-・-)で囲んでいる。この構造により、ローダミン6Gは、キサンテン環のπ電子密度はさらに高くなっている。
【0056】
他方、Alexa488では、キサンテン環に共鳴効果で電子供与性を示すアミン2つと、同じく共鳴効果で電子吸引性を示すスルホン酸基が2つ結合している。そのため、Alexa488では共鳴効果によって電子供与基(アミン)からキサンテン環(芳香環)に供与された電子対が電子吸引基(スルホン酸基)に偏在し、キサンテン環のπ電子密度が相殺されてしまう。その結果、キサンテン環とグラフェンとのππ相互作用がローダミン6Gの方が強くなると考えられた。これらの結果から、グラフェンのセンサ素子表面に汚染がある場合、比較例では十分な固相化が得られなかったのに対して、実施例では強固な固相化ができることが明らかになった。この結果は、実施例により発揮されるロバスト性についても確認された。芳香環に共鳴効果で電子吸引を示す官能基(カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基)が結合している場合でも、当該芳香環に結合した共鳴効果で電子供与性を示す官能基(あるいは第二の部位)の数が、当該芳香環に結合した共鳴効果で電子吸引を示す官能基の数よりも多いことで、共鳴効果による電子吸引効果が打ち消され、芳香環の電子密度を高まると考えられる。
【0057】
(実施例2、比較例2~比較例4)
種々のピレン誘導体を修飾分子として固相化したグラフェンのFET応答の測定
先の実験結果から、ローダミン6Gはカチオン、Alexa488はアニオンであるため、ローダミン6Gにはグラフェンとの間でカチオン-π相互作用も生じてしまうことが考えられた。そこでπ電子密度の影響とカチオン‐π相互作用の影響を調査するために、多環芳香族であるピレンに対して、アミノ基とカルボン酸基を結合させてカチオンとアニオンとして実験をさらに行った。また、アミノ基とカルボン酸基をピレンに直接結合させて共鳴効果を起こさせて、π電子密度を大きく変えた場合と、炭素を1つ挟んで結合することによって共鳴効果を阻害してπ電子密度の変化を抑制した場合とでグラフェンFETの応答の違いについて確認をした。具体的には次のような実験を行った。
【0058】
ピレンカルボン酸(比較例2)、アミノピレン(実施例2)、ピレン酢酸(比較例3)、ピレンメチルアミン(比較例4)の水溶液を作製し、実施例1と同様の方法により、それらをグラフェンで形成したセンサ素子14表面に修飾分子15としてそれぞれ固相化した。これらの化合物の化学式と幾つかの特徴を表1に示す。
【表1】
【0059】
得られた実施例2、比較例2、比較例3および比較例4について、それぞれドレイン電流を測定した。
【0060】
結果を図5に示した。図5では、横軸に各ピレン誘導体の濃度(μM)を、縦軸にはドレイン電流変化率(%)を両対数グラフとして表した。図中、ピレンカルボン酸(比較例2)からの結果を三角形、アミノピレン(実施例2)からの結果を四角形、ピレン酢酸(比較例3)からの結果を丸印、ピレンメチルアミン(比較例4)からの結果を十字型で示した。
【0061】
ドレイン電流変化率が0.1%以下の範囲はノイズ範囲であり、検出感度に相当するレベルは得られない範囲である。検出感度は、有効なドレイン電流変化率を検出したピレン誘導体濃度条件の中で最も低濃度の条件を指す。アミノピレン(実施例2:四角形)は、4つの誘導体のうち最も成績がよく、0.01μMという低い濃度から良好に検出感度が得られ、0.1μM、1μM、10μMと濃度依存的にドレイン電流変化率は両対数のグラフにおいてほぼ直線的に上昇した。ここから、アミノピレンが、低濃度から安定して固相化を達成できることが明らかである。ピレン酢酸(比較例3:丸印)とピレンメチルアミン(比較例4:十字型)は同程度のドレイン電流変化率が観察された。ピレン酢酸(比較例3:丸印)は1μMでピークとなり、10μMでドレイン電流変化率は低下した。ピレンメチルアミン(比較例4:十字型)は、0.1μM以上で検出感度に至り、1μMまでドレイン電流変化率はほぼ変わらず、10μMでドレイン電流変化率がやや上昇した。ピレンカルボン酸(比較例2)は、0.01μM~0.1μMまでの濃度範囲ではドレイン電流変化率はノイズ範囲に留まり、1μMで検出感度に至るものの10μMの範囲でさえもドレイン電流変化率は1.0%と低いままであった。
【0062】
アミンを直接結合してピレンのπ電子密度を上げたアミノピレンが最もグラフェンFETの応答が強かった。カルボン酸を直接結合してピレンのπ電子密度を下げたピレンカルボン酸がグラフェンFETの応答が最も弱かった。また、炭素を1つ挟んで共鳴効果を抑制したピレンメチルアミンとピレン酢酸についてもともにアミノピレンの反応には及ばず、ピレン酢酸では10倍以上の差、ピレンメチルアミンも2倍程度の差が存在した。
【0063】
これらの結果から、共鳴効果によってπ電子密度を上げた原子団がグラフェンに対して非常に強く結合する能力を示すことが確認された。
【0064】
以上のことから、本実施形態によれば、修飾分子がセンサ素子部に強固に固相化されたセンサデバイスを提供されることができることが証明された。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されているセンサ素子と、
前記センサ素子の表面に、アンカー部分を介して固相化されている修飾分子と、を具備し、
前記アンカー部分は、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環を有する第一の部位と、
前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有するセンサデバイス。
[2]
前記第二の部位は、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、からなる群より選択される少なくとも1つを含む[1]に記載のセンサデバイス。
[3]
前記第一の部位が、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、オバレン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、キサンテン、カルバゾールおよびベンゾ-C-シンノリン(en)からなる群から選択されることを特徴とする[1]又は[2]に記載のセンサデバイス。
[4]
前記修飾分子が、アンカー部分に結合している機能性部分をさらに具備する[1]~[3]の何れか1つに記載のセンサデバイス。
[5]
前記機能性部分が、特定の物質を捕捉する機能を有すること、特定の物質と特異的に結合する機能を有すること、または特定の物質が固着しにくい機能を有する[4]に記載のセンサデバイス。
[6]
多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有するアンカー部分を有する修飾分子を含み、
グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されているセンサ素子表面に、前記アンカー部分を介して修飾分子を固相化するためのセンサ素子表面修飾試薬。
[7]
前記修飾分子が、アンカー部分に結合している機能性部分をさらに具備する[67]に記載のセンサ素子表面修飾試薬。
[8]
修飾分子を含む溶液を準備すること、および
センサ素子表面に対して、前記溶液を接触させることを含み、
前記センサ素子が、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されており、
前記修飾分子が、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有するアンカー部分を含むセンサ素子表面を修飾する方法。
[9]
センサ素子と、前記センサ素子表面に固相化された修飾分子とを備えるセンサデバイスを製造する方法であって、
前記センサ素子が、グラフェン、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つで構成されており、
前記修飾分子が、多環式芳香環または多環式ヘテロ芳香環である第一の部位と、前記第一の部位に直接結合した電子供与性の第二の部位とを有するアンカー部分を含み、
修飾分子を含む溶液を準備すること、および
センサ素子表面に対して、前記溶液を接触させることを含むセンサデバイスを製造する方法。
【符号の説明】
【0066】
10, 20, 30…センサデバイス、11…センサ素子部、12…収容部、13…絶縁材、14…センサ素子、15…修飾分子、15a…アンカー部分、15a-1…第一の部位、15a-2…第二の部位、15b…機能性部分、16…ゲート電極、17…液体、21…シグナル回収部、32…基体、34a, 34b…金属板、35a, 36b…被覆材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7