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特許7585274アルミニウム系金属樹脂複合構造体、アルミニウム系金属部材、アルミニウム系金属部材の製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法
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  • 特許-アルミニウム系金属樹脂複合構造体、アルミニウム系金属部材、アルミニウム系金属部材の製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】アルミニウム系金属樹脂複合構造体、アルミニウム系金属部材、アルミニウム系金属部材の製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/20 20060101AFI20241111BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241111BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20241111BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20241111BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C23F1/20
B29C45/14
B32B15/20
B32B27/06
B32B15/08 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022174968
(22)【出願日】2022-10-31
(62)【分割の表示】P 2020569697の分割
【原出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2023024979
(43)【公開日】2023-02-21
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019013396
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 絢也
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190412(JP,A)
【文献】国際公開第2008/114669(WO,A1)
【文献】特開2018-144475(JP,A)
【文献】国際公開第2008/069252(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/128595(WO,A1)
【文献】高橋 英明他,FTIRによるアルミニウム表面水和酸化物皮膜の分析,表面科学:日本表面科学会誌,1987年,第8巻第4号,279-281頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-4/04
B32B 15/00-15/20
B29C 45/00-45/84
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に樹枝状層が形成されたアルミニウム系金属部材と、
前記樹枝状層を介して前記アルミニウム系金属部材に接合されている、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材と、
を備えるアルミニウム系金属樹脂複合構造体であって、
前記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であり、
前記樹枝状層は前記主幹が林立した層であり、
前記樹脂部材を構成する前記熱可塑性樹脂組成物が、前記アルミニウム系金属部材の表面に形成された前記樹枝状層に侵入して前記アルミニウム系金属部材と前記樹脂部材が接合しており、
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイル観察から測定される、前記樹枝状層の平均厚みが20nm以上1000nm未満であり、
前記樹枝状層が、下記特性(1)および(2)を同時に満たす粗面上に形成されている、アルミニウム系金属樹脂複合構造体。
(1)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が2μm超えて50μm以下である
(2)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が10μm超えて400μm未満である
【請求項2】
請求項に記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリアリーレン系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含むアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体に用いられるアルミニウム系金属部材であって、
少なくとも前記樹脂部材との接合部表面に樹枝状層が形成されており、
前記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であり、
前記樹枝状層は前記主幹が林立した層であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイル観察から測定される、前記樹枝状層の平均厚みが20nm以上1000nm未満であり、
前記樹枝状層が、下記特性(1)および(2)を同時に満たす粗面上に形成されている、アルミニウム系金属部材。
(1)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が2μm超えて50μm以下である
(2)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が10μm超えて400μm未満である
【請求項4】
アルミニウム系金属基材を、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させてアルミニウム系金属基材の表面を化学粗化する工程を含む請求項に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化性酸性水溶液が第二銅イオンを含む請求項に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
【請求項6】
前記酸化性水溶液中の前記第二銅イオンの濃度が1質量%以上15質量%以下である請求項に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記酸化性水溶液中の酸化性酸が硝酸を含む請求項乃至のいずれか一項に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
【請求項8】
前記酸化性酸性水溶液が、前記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まない請求項乃至のいずれか一項に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載のアルミニウム系金属部材を射出成形金型にインサートし、次いで、前記射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出する工程を含むアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系金属樹脂複合構造体、アルミニウム系金属部材、アルミニウム系金属部材の製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・自動車分野を中心に、幅広い産業分野でアルミニウム系金属と樹脂とを一体化させるための技術の開発が盛んになっている。従来、アルミニウム系金属と樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的であり、このために多くの接着剤が開発されてきた。しかし、接着剤の使用は、生産工程数を増加させるばかりではなく製品のコストアップ要因になっていた。また、接着剤を使用すると、経時変化にともない接着力が低下したり、高温下において十分な接合強度が発現しない場合もあるので、自動車等の耐熱性が要求される用途への適用を難しくしていた。また、ねじ止め等の機械的な接合方法も従来から広く行われてきたが、軽量化の点で普及が限定されていた。
【0003】
近年では、接着剤を使用することなくアルミニウム系金属と樹脂とを一体化させる技術の研究開発が活発化している。例えば、特許文献1には、アルミニウム合金を温水に浸漬処理することによって、その表面上に5~100nm厚みの微多孔質の水酸基含有樹枝状層を形成させ、次いで処理面にポリブチレンフタレートやポリフェニレンサルファイドを主とする熱可塑性樹脂を射出成形して、アルミニウムと樹脂を一体化する技術が提案されている。この方法によれば、化学物質を用いることなくアルミニウム合金表面を微多孔質化でき、又その微多孔質面に樹脂を強力に一体接合化できるので産業上大いに魅力に富んだ技術であるといえる。
【0004】
このようなアルミニウム系金属と樹脂を接合又は一体化する別の技術としては、例えば、特許文献2には、陽極酸化法により形成された数平均内径10~80nmである孔の開口部で表面を覆われた金属部品と、上記金属部品に射出成形で固着されたポリフェニレンスルフィド70~99重量%及びポリオレフィン系樹脂1~30重量%を含む樹脂分組成の樹脂組成物部品とからなる複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-162115号公報
【文献】特開2007-50630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1に記載された発明内容に忠実に準拠して、その効果を検証したところ、同一のアルミニウム合金試験片を同一の表面処理条件で、且つ同一の成形条件で樹脂接合した場合であっても、そのアルミニウム合金-樹脂間の接合が母材破壊レベルの高い接合強度を示す場合もあれば、界面破壊してしまい接合強度は全く発現しない場合もあることを確認している。すなわち、同文献に記載された方法で製造した複合体の機械特性は、発明効果の再現性に乏しいという問題点が内在する。さらには、室内放置した粗化金属への樹脂射出で得られる複合体の接合強度は、室内放置時間とともに低下し、その傾向は高温・高湿度で顕著に表れることも確認している。すなわち、同文献に記載された方法で得られた粗化金属の可使時間(ポットライフ)を一定に保つためには、環境面において特別の管理・工夫が必要である。
【0007】
さらには、特許文献2に記載のような電気を用いて被膜を付与する方法では、大掛かりな電解装置が必要となること、電極表面のみが電子移動に関与し、しかも拡散律速のため処理量を多くすることができない等の弱点を持つのみならず、この方法で形成された金属部品と樹脂組成物部品との複合体は、金属材料と樹脂材料との接合強度が必ずしも十分なものではなかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム系金属部材と、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とを接着剤を用いることなく、直接接合することができ、かつアルミニウム系金属部材と樹脂部材との接合強度に優れたアルミニウム系金属樹脂複合構造体を提供するものである。
さらに、本発明はアルミニウム系金属部材と樹脂部材との接合強度に優れたアルミニウム系金属樹脂複合構造体を安定的に得ることが可能なアルミニウム系金属部材、その製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アルミニウム系金属樹脂複合構造体におけるアルミニウム系金属-樹脂間の接合強度のばらつきを最小化し、安定した接合強度を発現させるために鋭意検討した。その結果、処理されたアルミニウム系金属表面が特定の微細構造要件を満たすことによって接合強度の安定性が格段に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明によれば、以下に示すアルミニウム系金属樹脂複合構造体、アルミニウム系金属部材、アルミニウム系金属部材の製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法が提供される。
【0011】
[1]
表面の少なくとも一部に樹枝状層が形成されたアルミニウム系金属部材と、
上記樹枝状層を介して上記アルミニウム系金属部材に接合され、かつ、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材と、
を備えるアルミニウム系金属樹脂複合構造体であって、
上記アルミニウム系金属部材における少なくとも上記樹脂部材との接合部表面をフーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)分析し、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をAとし、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度をAとしたとき、吸光度差(A-A)が0.03以下の範囲であるアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
[2]
上記[1]に記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
上記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であるアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
[3]
表面の少なくとも一部に樹枝状層が形成されたアルミニウム系金属部材と、
上記樹枝状層を介して上記アルミニウム系金属部材に接合されている、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材と、
を備えるアルミニウム系金属樹脂複合構造体であって、
上記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であるアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイル観察から測定される、上記樹枝状層の平均厚みが20nm以上1000nm未満であるアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
上記アルミニウム系金属部材における上記樹枝状層が形成された表面が、下記特性(1)を満たすアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
(1)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が2μm超えて50μm以下である
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
上記アルミニウム系金属部材における上記樹枝状層が形成された表面が、下記特性(2)を満たすアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
(2)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が10μm超えて400μm未満である
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属樹脂複合構造体において、
上記熱可塑性樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリアリーレン系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含むアルミニウム系金属樹脂複合構造体。
[8]
熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材との接合に用いられるアルミニウム系金属部材であって、
少なくとも上記樹脂部材との接合部表面に樹枝状層が形成されており、
上記アルミニウム系金属部材における上記接合部表面をフーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)分析し、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をAとし、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度をAとしたとき、吸光度差(A-A)が0.03以下の範囲であるアルミニウム系金属部材。
[9]
上記[8]に記載のアルミニウム系金属部材において、
上記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であるアルミニウム系金属部材。
[10]
熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材との接合に用いられるアルミニウム系金属部材であって、
少なくとも上記樹脂部材との接合部表面に樹枝状層が形成されており、
上記樹枝状層の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であるアルミニウム系金属部材。
[11]
上記[8]乃至[10]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材において、
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイル観察から測定される、上記樹枝状層の平均厚みが20nm以上1000nm未満であるアルミニウム系金属部材。
[12]
上記[8]乃至[11]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材において、
上記アルミニウム系金属部材における上記樹枝状層が形成された表面が、下記特性(1)を満たすアルミニウム系金属部材。
(1)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が2μm超えて50μm以下である
[13]
上記[8]乃至[12]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材において、
上記アルミニウム系金属部材における上記樹枝状層が形成された表面が、下記特性(2)を満たすアルミニウム系金属部材。
(2)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が10μm超えて400μm未満である
[14]
アルミニウム系金属基材を、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させてアルミニウム系金属基材の表面を化学粗化する工程を含む上記[8]乃至[13]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
[15]
上記酸化性酸性水溶液が第二銅イオンを含む上記[14]に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
[16]
上記酸化性水溶液中の上記第二銅イオンの濃度が1質量%以上15質量%以下である上記[15]に記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
[17]
上記酸化性水溶液中の酸化性酸が硝酸を含む上記[14]乃至[16]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
[18]
上記酸化性酸性水溶液が、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まない上記[14]乃至[17]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材の製造方法。
[19]
上記[8]乃至[13]のいずれか一つに記載のアルミニウム系金属部材を射出成形金型にインサートし、次いで、上記射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出する工程を含むアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウム系金属部材と、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とを接着剤を用いることなく、直接接合することができ、かつアルミニウム系金属部材と樹脂部材との接合強度に優れたアルミニウム系金属樹脂複合構造体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、アルミニウム系金属部材と樹脂部材との接合強度に優れたアルミニウム系金属樹脂複合構造体を安定的に得ることが可能なアルミニウム系金属部材、その製造方法およびアルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る実施形態のアルミニウム系金属樹脂複合構造体の構造の一例を示した外観図である。
図2】本発明に係る実施形態のアルミニウム系金属樹脂複合構造体の接合部の構造の一例を概念的に示した断面図である。
図3】実施例1で得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体の接合部のSEM断面プロファイルを示した図である。
図4】比較例1で得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体の接合部のSEM断面プロファイルを示した図である。
図5】比較例3で得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体の接合部のSEM断面プロファイルを示した図である。
図6】本発明に係る実施形態の金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
図7】FTIRチャートから、本発明に係る吸光度差(A-A)を求める方法を概念的に示した図である。
図8】実施例1で得られたアルミニウム系金属部材の表面のSEMプロファイルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。アルミニウム系金属樹脂複合構造体について以下詳述する。
【0015】
<アルミニウム系金属樹脂複合構造体>
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106について説明する。
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、表面の少なくとも一部に樹枝状層103-2が形成されたアルミニウム系金属部材103と、樹枝状層103-2を介してアルミニウム系金属部材103に接合され、かつ、熱可塑性樹脂組成物(P)からなる樹脂部材105と、を備える。
ここで、本実施形態に係る樹枝状層103-2は、複数に枝分かれした幹が林立した層をいう。本実施形態に係る樹枝状層103-2において、アルミニウム系金属部材103の表面から林立している幹を「主幹」といい、主幹から分かれた枝を「主枝」といい、主枝から分かれた枝を「側枝」と呼ぶ。
図1は、本発明に係る実施形態のアルミニウム系金属樹脂複合構造体106の構造の一例を示した外観図である。図2は、本発明に係る実施形態のアルミニウム系金属樹脂複合構造体106の接合部の一例を概念的に示した断面図である。
【0016】
(アルミニウム系金属部材)
アルミニウム系金属樹脂複合構造体106を構成するアルミニウム系金属部材103は、表面微細組織(モルホロジー)を含む全ての点において、樹脂部材105が接合される前のアルミニウム系金属部材103に実質同一である。すなわち、本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103は、後掲する実施例でも述べるように、樹脂部材105の射出接合前後でアルミニウム系金属部材103の表面の微細組織が大きく変化するものではない。したがって、本実施形態では、特に断らない限りアルミニウム系金属部材103とは、樹脂部材105を接合する前のアルミニウム系金属部材のみならず、樹脂部材105が接合されたアルミニウム系金属樹脂複合構造体106を構成するアルミニウム系金属部材をも包含するものである。
【0017】
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106を構成するアルミニウム系金属部材103における少なくとも樹脂部材105との接合部表面をフーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)分析し、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をAとし、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度をAとしたとき、吸光度差(A-A)が0.03以下の範囲である。吸光度差(A-A)の下限は、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上であり、吸光度差(A-A)の上限は、好ましくは0.02以下である。
なお、吸光度差(A-A)をFTIRチャートから求める方法の例を図7に示した。また上記FTIR測定においては、高感度反射法(RAS法)を採用し、赤外光の入射角は85°である。
【0018】
後述する実施例においても検証されるように、吸光度差が、このような範囲を満たすことによって、アルミニウム系金属部材を環境条件下で保管後に樹脂をインサート成形した場合において、保管時間とともに複合体の接合強度が低下する現象を食い止める、即ち可使時間を長くすることが可能となる。なお、FTIR測定で観測される、3400cm-1にピークトップを持つブロードな吸収ピークは、アルミニウム水酸化物またはアルミニウム水和酸化物に起因するピークと推定される。
吸光度差(A-A)は金属表面の水酸基の保有程度を示す指標である。金属表面の水酸基量と接合強度の関係については未だ不明確な点が多いが本発明者らは以下のように考えている。すなわち金属表面上により多くの水酸基がある場合、環境中の水分を吸着しやすくなり表面に水分子層を形成し易くなり、特に、高湿度環境下で顕著である。この結果、金属樹脂間の接合強度が低下すると考えている。従って、吸光度差(A-A)を上記範囲に調整することにより、環境中の湿度の影響を受けにくく、可使時間を長くすることが可能となると同時に、得られる複合体も優れた接合強度を発現すると考えられる。
【0019】
本実施形態に係る樹枝状層103-2の主幹の平均本数密度が5本/μm以上40本/μm以下であり、好ましくは7本/μm以上、より好ましくは10本/μm以上であり、好ましくは35本/μm以下、より好ましくは30本/μm以下である。
本実施形態に係る樹枝状層103-2の主幹の平均本数密度は、例えば、図8に示すように、アルミニウム系金属部材103の表面のSEM写真から一定のエリアを選択し、アルミニウム系金属部材103の表面から生えてきた「主幹の数」をカウントし、土台単位長さ当たりに換算することにより算出することができる。
本実施形態に係る樹枝状層103-2の主幹の平均本数密度は、一つの測定サンプルにおいて合計で10ヶ所測定し、それらの平均値を採用することができる。
【0020】
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106において、上記吸光度差(A-A)に係る構成と上記主幹の平均本数密度に係る構成のいずれか一方を満たせばよいが、上記吸光度差(A-A)に係る構成と上記主幹の平均本数密度に係る構成の両方を満たすのが好ましい。
【0021】
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、接合部表面104に樹枝状層103-2が介在するのでアルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との接合強度に優れる。特に樹枝状層103-2がミクロンオーダーの微細凹凸構造上に形成されている態様においては、該微細凹凸形状を例えば化学エッチングで形成する際の金属エッチング量を抑えたとしても、十分な接合強度を発現する。さらには、樹枝状層103-2がミクロンオーダーの微細凹凸構造上に形成されたアルミニウム系金属部材103に樹脂部材105を射出成形して金属樹脂複合構造体106を製造する場合は、樹枝状層103-2が存在しない場合に比べて大幅な金型温度低下を可能ならしめることが分かった。この性質は射出成形体の成形収縮に起因する反り低減に有効に利用される。
【0022】
本発明に係る好ましい実施形態において、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイルから算出される、樹枝状層103-2の平均厚みは、例えば20nm以上1000nm未満であり、好ましくは30nm以上900nm以下であり、より好ましくは50nm以上800nm以下であり、さらに好ましくは100nm以上700nm以下である。なお、本実施形態における平均厚みは、金属部材上の任意の10点について、SEM写真を撮影した後、各写真につき任意の2スポットについて1μm長さにおける平均厚みを計測し、他の9点についても同様な計測を行い、合計20点の測定値の平均値を求めたものである。樹枝状層103-2が、このような平均厚みを満たすことによってアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は高い接合強度を維持するとともに、長期間保管したとしても表面特性の変質を抑えられる。すなわち可使時間(ポットライフ)をより一層延長することができる。このような優れた性質は、例えば後述する方法で金属樹脂複合構造体を、粗化金属部材上への樹脂部材のインサート成形によって調製する場合、ある程度の量の粗化金属部材を一括調製しておき、可使時間内に順次使用すればよく、成形するたびに、その直前に粗化金属部材を調製しなければならないというプロセス上の煩わしさから解放される。
【0023】
本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103においては、樹枝状層103-2が形成されるアルミニウム系金属基面、すなわち上記樹枝状層103-2が形成された土台面の形状は、平面状であっても曲面状であっても凹凸上であっても、アルミニウム系金属製品そのものの平面形状であってもよく、特段の制限は受けるものではない。
本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103における樹枝状層103-2が形成された表面は、好ましくは、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、下記特性(1)および(2)のいずれかを満たし、より好ましくは下記要件(1)と(2)を同時に満たしている。換言すれば、本実施形態に係る樹枝状層103-2は、下記要件(1)と(2)を同時に満たすミクロンオーダーの粗面上に形成されていることが好ましい。以下このような粗面をダブル粗面と呼び、市販アルミニウム系金属表面そのものの上に樹枝状層103-2が形成された粗面(シングル粗面)と区別する場合がある。なおダブル粗面においては、土台となるミクロンオーダー粗面をベース粗面、該ベース粗面上に被覆された樹枝状層をファイン粗面と呼ぶ場合がある。
【0024】
(1)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が2μm超えて50μm以下、好ましくは5μm~30μm、より好ましくは8~25μm、さらに好ましくは10~20μmの範囲にある。なお、上記の十点平均粗さ(Rzjis)の平均値は、前述の任意の6直線部のRzjisを平均値である。
(2)JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が10μm超えて400μm未満、好ましくは50μm~350μm、より好ましくは70μm~330μm、さらに好ましくは70μm~250μm、さらにより好ましくは70μm~230μmの範囲にある。なお、上記粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値は、前述の任意の6直線部のRSの平均値である。
【0025】
アルミニウム系金属部材103表面がダブル粗面であることによって、これから得られるアルミニウム系金属樹脂複合体の接合強度は、シングル粗面から得られるアルミニウム系金属樹脂複合体の接合強度に比べて高められる場合がある。また、ダブル粗面から得られるアルミニウム系金属樹脂複合体においては、ベース粗面作製時の金属エッチング量を下げたとしても接合強度が低下する傾向を抑制できるので金属ロス量の低減につなげられ経済的である。さらには、アルミニウム系金属樹脂複合体をインサート成形によって製造する場合においては、ダブル粗面を利用することによってシングル粗面を利用する場合に比べて金型温度を大きく低下させることが可能となる。この結果、金型開放後に取り出された複合体が金型温度から環境温度に至る過程で発生する反り・変形量を抑制することが可能となる。
【0026】
図6は、金属部材103の接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部を説明するための模式図である。
上記6直線部は、例えば、図6に示すような6直線部B1~B6を選択することができる。まず、基準線として、金属部材103の接合部表面104の中心部Aを通る中心線B1を選択する。次いで、中心線B1と平行関係にある直線B2およびB3を選択する。次いで、中心線B1と直交する中心線B4を選択し、中心線B1と直交し、中心線B4と並行関係にある直線B5およびB6を選択する。ここで、各直線間の垂直距離D1~D4は、例えば、2~5mmである。
なお、通常、金属部材103の表面110中の接合部表面104だけでなく、金属部材103の表面110全体に対して表面粗化処理が施されている。金属部材103の表面110全体に対して表面粗化処理が施されている場合は、金属部材103の接合部表面104と同一面の、接合部表面104以外の箇所から6直線部を選択してもよい。
【0027】
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、樹脂部材105を構成する熱可塑性樹脂組成物(P)が、アルミニウム系金属部材103の表面110に形成された樹枝状層に侵入してアルミニウム系金属と樹脂が接合し、アルミニウム系金属樹脂界面を形成することにより得られる。
【0028】
アルミニウム系金属部材103の表面には、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上に適した樹枝状層が形成されているため、接着剤を使用せずにアルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との間の接合性確保が可能となる。すなわち、アルミニウム系金属部材103の表面110の樹枝状層の中に熱可塑性樹脂組成物(P)が侵入することによって、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、通常では接合が困難なアルミニウム系金属部材103と熱可塑性樹脂組成物(P)からなる樹脂部材105とを強固に接合することが可能になったものと考えられる。
【0029】
このようにして得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105の界面への水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、アルミニウム系金属樹脂複合構造体106の付着界面における気密性や液密性を向上させることもできる。
【0030】
また、本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103は、窒素吸着におけるBET3点法による比表面積が0.01m/g以上1.0m/g以下であることが好ましく、0.05m/g以上0.5m/g以下であることがより好ましい。
上記比表面積が上記範囲内であると、アルミニウム系金属部材103への樹脂部材105の侵入量が増えるため、樹脂部材105とアルミニウム系金属部材103との接合強度を一層向上させることができる。
【0031】
以下、アルミニウム系金属樹脂複合構造体106を構成する各部材について説明する。
【0032】
<アルミニウム系金属部材>
以下、本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103について説明する。
本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103は、市販のアルミニウム系金属基材を後述する方法によって粗化して粗面を付与することによって得られる。市販のアルミニウム系金属基材としては、例えば、アルミニウム単体により構成されたアルミニウム基材、アルミニウム合金より構成されたアルミニウム合金基材等が挙げられる。
より具体的には、アルミニウム系金属基材としては、工業用純アルミニウム(アルミニウム単体)である1000系、Al-Cu系である2000系合金、Al-Mn系である3000系合金、Al-Si系である4000系合金、Al-Mg系である5000系合金、Al-Mg-Si系である6000系合金、Al-Zn-Mg系である7000系合金を例示できる。これらの中では、合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、6063、7075等が好ましく用いられる。
【0033】
アルミニウム系金属部材103の原材料であるアルミニウム系金属基材の形状は、樹脂部材105と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。
また、樹脂部材105と接合する接合部表面104を構成する金属基材表面の形状は、特に限定されないが、例えば平面、曲面等が挙げられる。
【0034】
アルミニウム系金属部材103は、アルミニウム系金属基材を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0035】
<樹脂部材>
以下、本実施形態に係る樹脂部材105について説明する。
樹脂部材105は熱可塑性樹脂組成物(P)からなる。熱可塑性樹脂組成物(P)は、樹脂成分として熱可塑性樹脂(A)と、必要に応じて充填材(B)と、含む。さらに、熱可塑性樹脂組成物(P)は必要に応じてその他の配合剤を含む。なお、便宜上、樹脂部材105が熱可塑性樹脂(A)のみからなる場合であっても、樹脂部材105は熱可塑性樹脂組成物(P)からなると記載する。
【0036】
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂(A)としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール-ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂やポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂等のポリアリーレン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
これらの中でも、熱可塑性樹脂(A)としては、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との高い接合強度をより一層安定的に得ることができるという観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリアリーレン系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0038】
(充填材(B))
熱可塑性樹脂組成物(P)は、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との線膨張係数差の調整や樹脂部材105の機械的強度を向上させる観点から、充填材(B)をさらに含んでもよい。
充填材(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0039】
充填材(B)の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。充填材(B)は、最大長さが10nm以上600μm以下の範囲にある充填材を数分率で5~100%有することが好ましい。当該最大長さは、より好ましくは30nm以上550μm以下、さらに好ましくは50nm以上500μm以下である。また、該最大長さの範囲にある充填材(B)の数分率は、好ましくは、10~100%であり、より好ましくは20~100%である。
【0040】
充填材(B)の最大長さが上記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(P)の成形時に溶融した熱可塑性樹脂(A)中を充填材(B)が容易に動くことができるので、後述するアルミニウム系金属樹脂複合構造体106の製造時において、アルミニウム系金属部材103の表面付近にも一定程度の割合で充填材(B)を存在させることが可能となる。そのため、上述したように充填材(B)と相互作用をする樹脂がアルミニウム系金属部材103の表面の凹凸形状に入り込むことで、より強固な接合強度を持つことが可能となる。また、充填材(B)の数分率が上記範囲にあると、アルミニウム系金属部材103表面の凹凸形状と作用するのに十分な数の充填材(B)が熱可塑性樹脂組成物(P)中に存在することになる。
【0041】
なお、熱可塑性樹脂組成物(P)が充填材(B)を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上90質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上80質量部以下である。
【0042】
(その他の配合剤)
熱可塑性樹脂組成物(P)には、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤を含んでもよい。このような配合剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0043】
なお、熱可塑性樹脂組成物(P)がその他配合剤を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.0001~5質量部であり、より好ましくは0.001~3質量部である。
【0044】
(熱可塑性樹脂組成物(P)の調製方法)
熱可塑性樹脂組成物(P)の調製方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により調製することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、上記熱可塑性樹脂(A)、必要に応じて上記充填材(B)、さらに必要に応じて上記その他の配合剤を、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、熱可塑性樹脂組成物(P)が得られる。
【0045】
<アルミニウム系金属部材の製造方法>
本実施形態に係るアルミニウム系金属部材103は、上記したようにダブル粗面とシングル粗面に分類される。ダブル粗面は、化学エッチング剤や陽極酸化法、機械的切削法等公知の方法を用いて金属部材103の表面110にミクロンオーダーの微細凹凸構造を持つベース粗面を付与し、次いでベース粗面上にファイン粗面を付与することによって形成することができる。シングル粗面は市販のアルミニウム系金属基材上にベース粗面を付与することなく直ちにファイン粗面を付与する方法で形成することができる。以下、ダブル粗面を例にとって、その形成方法を詳細に述べる。
【0046】
(ベース粗面の付与)
ミクロンオーダーの微細凹凸構造を持つベース粗面は、公知の金属表面粗化方法によって形成することが可能である。例えば、薬液処理法;陽極酸化法;サンドブラスト、ローレット加工、レーザー加工等の機械的切削法等を挙げることができる。これらの公知方法は単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
これらの公知方法の中では、酸系エッチング剤による処理が好ましい。酸系エッチング剤を用いる公知処理方法としては、例えば国際公開第2015/8847号、特開2001-348684号公報、国際公開第2008/81933号等に開示された処理方法を採用することができる。
【0047】
本実施形態においては、酸系エッチング剤による処理前に、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理を付加すると、金属/樹脂複合構造体106の接合面の気密性向上、表面粗化された金属表面の平滑性が損なわれる現象を防止することができるので好ましい。なお、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液との処理については、例えば国際公開第2013/47365号に開示された処理方法を採用することができる。
【0048】
本実施形態において、金属部材103の表面110に微細凹凸構造を持つベース粗面を形成させる特に好ましい方法は、次の工程(1)~(4)をこの順に実施することである。
【0049】
(1)前処理工程
金属部材103における樹脂部材105との接合側の表面に存在する酸化膜や水酸化物等からなる被膜を除去する工程である。通常、機械研磨や化学研磨処理が行われる。接合側表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なってもよい。
(2)亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理工程
水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1~100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中に、前処理後の金属部材103を浸漬し、金属部材表面に亜鉛含有被膜形成させる工程である。なお、前記MOHのMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。
(3)酸系エッチング剤による処理工程
上記工程(2)終了後の金属部材103を、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含む酸系エッチング剤により処理して金属部材103の表面上の亜鉛含有被膜を溶離させると共に、ミクロンオーダーの微細凹凸形状を形成させる工程である。
(4)後処理工程
上記工程(3)の後に行われる洗浄工程である。通常は、水洗および乾燥操作からなる。スマット除去のために超音波洗浄操作を含めてもよい。
【0050】
(ファイン粗面の付与)
上の方法で得られた、ミクロンオーダーの微細凹凸構造を持つベース粗面が付与された金属部材は、次いで25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させて金属部材の表面を化学粗化することによってファイン粗面が付与される。また、上記酸化性酸性水溶液は、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとは、具体的にPb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等を例示することができる。これらの中では、金属の希少性の視点、対応金属塩の安全性・毒性の視点からはCu2+であることが好ましい。Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機化合物を例示でき、これらの化合物は本発明において制限なく使用できるが、当該無機化合物の安全性、毒性の視点、樹枝状層の付与効率の視点からは酸化銅が好ましく用いられる。
酸化性酸性水溶液としては、硝酸または硝酸に対し塩酸、弗酸、硫酸のいずれかを混合した酸を例示することができる。さらに、過酢酸、過ギ酸に代表される過カルボン酸水溶液を用いてもよい。本実施形態において、酸化性酸性水溶液として硝酸を用い、金属カチオン発生化合物として酸化第二銅を用いる場合、水溶液を構成する硝酸濃度は、例えば10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~38質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。また、水溶液を構成する銅イオン(第二銅イオン)濃度は、例えば1質量%~15質量%、好ましくは2質量%~12質量%、より好ましくは2質量%~8質量%である。硝酸濃度が10質量%未満では銅イオンが十分に溶解しきれない場合があるので好ましくなく、また40質量%を超える場合は水溶液そのものの粘性が上がるので金属面に対して十分な粗化効果を与えることができない場合があり、また安全性の点からも好ましくない。銅イオン濃度が1質量%未満では金属の粗化効率が十分でなく複合体とした場合の接合強度低下をもたらす恐れがあり、15質量%を超えると酸化第二銅が十分に溶解せず金属面上に赤い銅残渣を残す可能性があるので好ましくない。
【0051】
ミクロンオーダーの微細凹凸構造を持つベース粗面が付与された金属部材と、上記金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触する際の温度は特に制限されないが、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで粗化を完結するために、例えば常温~60℃、好ましくは30℃~50℃の処理温度が採用される。この際の処理時間は、例えば1分~15分、好ましくは2分~10分の範囲にある。
このようにして形成された、ベース粗面上にファイン粗面を有するアルミニウム系金属部材は、必要に応じて水洗、乾燥処理が施されて樹脂接合用のアルミニウム系金属部材103が提供される。
【0052】
<アルミニウム系金属樹脂複合構造体の製造方法>
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、例えば、上記方法で得られたアルミニウム系金属部材103を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、次いで、射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物(P)を射出する射出成形法によって樹脂部材105を成形することによって得ることができる。
この製造方法は、具体的には、以下の[1]~[3]の工程を含んでいる。
[1]所望の熱可塑性樹脂組成物(P)を調製する工程
[2]上記方法で得られたアルミニウム系金属部材103を射出成形用の金型の内部に設置する工程
[3]射出成形機を用いて、アルミニウム系金属部材103と接するように上記金型内に熱可塑性樹脂組成物(P)を射出成形し、樹脂部材105を形成する工程
【0053】
熱可塑性樹脂組成物(P)の調製工程については前述したとおりである。以下、[2]および[3]の工程による射出成形方法について説明する。
まず、射出成形用の金型を用意し、その金型を開いてその一部にアルミニウム系金属部材103を設置する。
その後、金型を閉じ、熱可塑性樹脂組成物(P)の少なくとも一部がアルミニウム系金属部材103の表面110の樹枝状層103-2の形成領域と接するように、上記金型内に工程[1]で得られた熱可塑性樹脂組成物(P)を射出して固化する。その後、金型を開き離型することにより、アルミニウム系金属樹脂複合構造体106を得ることができる。
【0054】
また、上記[2]および[3]の工程による射出成形にあわせて、射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM,ヒート&クール成形)を併用してもよい。射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材105が発泡体であるアルミニウム系金属樹脂複合構造体106を得ることができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。
【0055】
高速ヒートサイクル成形は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施することができる。急速加熱冷却装置は、一般的に使用されている方式で構わない。加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導過熱式のいずれか1方式またはそれらを複数組み合わせた方式を用いることができる。冷却方法としては、冷水式、冷油式のいずれか1方式またはそれらを組み合わせた方式を用いることができる。高速ヒートサイクル成形法の条件としては、例えば、射出成形金型を100℃以上250℃以下の温度に加熱し、熱可塑性樹脂組成物(P)の射出が完了した後、上記射出成形金型を冷却することが望ましい。金型を加熱する温度は、熱可塑性樹脂組成物(P)を構成する熱可塑性樹脂(A)によって好ましい範囲が異なり、結晶性樹脂で融点が200℃未満の熱可塑性樹脂であれば、100℃以上150℃以下が好ましく、結晶性樹脂で融点が200℃以上の熱可塑性樹脂であれば、140℃以上250℃以下が望ましい。非晶性樹脂については、100℃以上180℃以下が望ましい。
【0056】
<アルミニウム系金属樹脂複合構造体の用途>
本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、生産性が高く、形状制御の自由度も高いので、様々な用途に展開することが可能である。
さらに、本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106は、高い気密性、液密性が発現するので、これらの特性に応じた用途に好適に用いられる。
【0057】
例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等が挙げられる。
【0058】
より具体的には、樹脂だけでは強度が足りない部分をアルミニウム系金属がサポートする様にデザインされた次のような部品である。車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、ピラー、座席シート、ラジエータ、オイルパン、ステアリングホイール、ECUボックス、電装部品等が挙げられる。また、建材や家具類として、ガラス窓枠、手すり、カーテンレール、たんす、引き出し、クローゼット、書棚、机、椅子等が挙げられる。また、精密電子部品類として、コネクタ、リレー、ギヤ等が挙げられる。また、輸送容器として、輸送コンテナ、スーツケース、トランク等が挙げられる。
【0059】
また、アルミニウム系金属部材103の高い熱伝導率と、樹脂部材105の断熱的性質とを組み合わせ、ヒートマネージメントを最適に設計する機器に使用される部品用途、例えば、各種家電や各種の冷却装置にも用いることができる。具体的には、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、エアコン、照明機器、電気湯沸かし器、テレビ、時計、換気扇、プロジェクター、スピーカー等の家電製品類、パソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレット型PC、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、充電器、電池等電子情報機器、CPUやリチウムイオン二次電池等の発熱体の冷却ユニット等を挙げることができる。
【0060】
これらについては、アルミニウム系金属部材の表面を粗化することによって表面積が増加するため、アルミニウム系金属部材103と樹脂部材105との間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができることに由来する。
【0061】
その他の用途として、玩具、スポーツ用具、靴、サンダル、鞄、フォークやナイフ、スプーン、皿等の食器類、ボールペンやシャープペン、ファイル、バインダー等の文具類、フライパンや鍋、やかん、フライ返し、おたま、穴杓子、泡だて器、トング等の調理器具、リチウムイオン2次電池用部品、ロボット等が挙げられる。
【0062】
以上、本実施形態に係るアルミニウム系金属樹脂複合構造体106の用途について述べたが、これらは本発明の用途の例示であり、上記以外の様々な用途に用いることもできる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0064】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(表面粗化工程)
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム合金板を脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを19.0質量%と酸化亜鉛を3.2質量%とを含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された処理槽1に2分間浸漬(以下の説明では「亜鉛前処理」と略称する場合がある)後、水洗した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽2に、30℃下で6分間浸漬し搖動させた(以下の説明では「処理1」と略称する場合がある)。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行った。
【0066】
次いで、このような処理が行われたアルミニウム合金板を、酸化第二銅を6.3質量%(Cu2+として5.0質量%)と、硝酸を30.0質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽3に、40℃下で5分間浸漬し搖動させた(以下の説明では「処理2」と略称する場合がある)。次いで流水で洗浄した後、80℃で15分間乾燥させてアルミニウム合金板を得た。なお、処理2で用いたCu2+の標準電極電位Eは、+0.337(V vs. SHE)である。
【0067】
得られた表面処理済みのアルミニウム合金板の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601(対応ISO4287)に準拠して測定される表面粗さのうち、十点平均粗さ(Rzjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RS)をそれぞれ測定した。その結果、Rzjis平均値は14μm、RSの平均値は135μmであった。なお、Rzjis平均値およびRS平均値は、測定場所を変えた6点の測定値の平均である。なお、測定場所は、図6に示すように、金属部材103の接合部表面104上の任意の3直線部、および当該直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について行ったものである。
また、表面粗さ測定条件は以下のとおりである。
・触針先端半径:5μm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・測定速度:0.06mm/sec
また、以下の方法により、得られた表面処理済みのアルミニウム合金板の比表面積を測定した。その結果、比表面積は0.21m/gであった。
[比表面積の測定方法]
試験片を真空加熱脱気(100℃)した後、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、液体窒素温度下(77K)における窒素ガス吸着法にて吸着等温線を測定し、BET法によって比表面積を求めた。
【0068】
また、上記表面処理済みのアルミニウム合金板の断面構造をSEMで観察した結果、平均厚み490nmの樹枝状層が確認された。
さらに、上記表面処理済みのアルミニウム合金板の表面のFT-IRスペクトルを島津製作所製フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)と高感度反射測定装置(RAS-8000)を組み合わせた装置を用いて、赤外光の入射角を85°の条件で測定した。図7に例示されるように、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をA、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における仮想吸光度をAとした場合、吸光度差(A-A)値は0.01であった。
また、得られた表面処理済みアルミニウム合金板の表面のSEMプロファイルを図8に示す。これによれば、樹枝状層の主幹の平均本数密度は28本/μmと算出された。
ここで、樹枝状層の主幹の平均本数密度は、一つの測定サンプルにおいて合計で10ヶ所測定し、それらの平均値を採用した。
【0069】
上記表面処理済のアルミニウム合金板の保存安定性を以下の方法により調べた。はじめに、表面処理済のアルミニウム合金板5枚を、お互いが重ならないようにチャック付きポリ袋(製品名:ユニパック)に二重に封入したものを3セット準備した。次いで、3セットの封入体を40℃、90%RHの恒温恒湿槽中に保管した。セット前(0日目)のアルミニウム合金板、並びに14日間、28日間、および56日間保管後のアルミニウム合金板封入体から5枚のアルミニウム合金板を取り出し、後述する射出成形工程によってアルミニウム系金属樹脂複合構造体を5検体製造した。次いで、5検体のアルミニウム系金属樹脂複合構造体のせん断強度を後述する方法で測定し、その平均値を接合強度とした。その結果、56日間保管後のサンプルの接合強度はセット前のサンプルの接合強度からの低下率が5%以内であることが分かった。
【0070】
(射出成形工程)
上記方法で得られた表面処理済み直後のアルミニウム合金板を、日本製鋼所製の射出成形機J55-ADに装着された小型ダンベル金属インサート金型内に直ちに設置した。次いで、その金型内に樹脂組成物(P)として、ガラス繊維強化ポリプロピレン〔プライムポリマー社製V7100;ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg荷重):18g/10min)80質量%とガラス繊維20質量%から構成〕を、シリンダー温度230℃、金型温度80℃、一次射出圧93MPa、保圧80MPa、射出速度25mm/秒の条件にて射出成形してアルミニウム系金属樹脂複合構造体を得た。
【0071】
得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体の接合部断面のSEM写真の一例を図3に示す。これによれば、樹枝状層の平均厚みは500nmと算出された。ミクロンオーダーの凹凸形状に追随するようにナノオーダーの樹枝状層が覆っていることが確認された。なお、この樹枝状層は、前述の通り射出成形前のアルミニウム合金板の表面のSEM分析においても同様に観測されており(図8参照)、その平均厚みは490nmであった。以下の実施例と比較例においては、樹枝状層の平均厚みは特に断らない限り、射出成形前のアルミニウム系金属部材の断面SEM写真から求めた。
【0072】
上記射出成形工程で得られたアルミニウム系金属樹脂複合構造体について接合部の引っ張りせん断強度測定試験を実施した。具体的には、引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて接合強度の測定をおこなった。破断荷重(N)をアルミニウム合金板と樹脂部材との接合部分の面積で除することにより接合強度(MPa)を得た。接合強度は23.6(MPa)であった。また標準偏差σは0.2MPaであった(N=5)。破壊面の形態は母材破壊のみが認められた。これらの結果を表1にまとめた。
【0073】
[実施例2]
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板の代わりに、合金番号A2024のアルミニウム合金板を用いた以外は実施例1と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0074】
[実施例3]
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板の代わりに、合金番号A6063のアルミニウム合金板を用いた以外は実施例1と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0075】
[実施例4]
射出成形工程で用いる樹脂組成物(P)として、ガラス繊維強化ポリプロピレン(プライムポリマー社製V7100)の代わりに、ガラス繊維強化ポリアミド6(東レ社製GM1011G30;ガラス繊維含有量30質量%、表中ではPA6と略称)を用い、射出成形工程時の金型温度を90℃とした以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0076】
[実施例5]
射出成型工程時の金型温度を70℃まで低下させた以外は実施例1と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0077】
[実施例6]
射出成型工程時の金型温度を120℃まで上昇させた以外は実施例1と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0078】
[比較例1]
処理2を行わなかった以外は実施例6と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0079】
[比較例2]
処理2を行わなかった以外は実施例4と同様な操作を行った。結果を表1にまとめた。
【0080】
[比較例3]
(表面粗化工程)
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム合金板を実施例1と同様な処理1を行い、次いで30質量%硝酸水溶液中に65℃下5分間浸漬後、十分水洗を行った。その後、70℃の温水槽に10分間浸漬し搖動させた(以下の説明では「処理3」と略称する場合がある)後、流水で超音波洗浄(水中、1分間)を行い、その後乾燥させることによって表面処理済みのアルミニウム合金板を得た。エッチング量を測定した結果、8.0質量%であった。
表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用して実施例1に記載の方法と同様にして測定した結果、Rzjis平均値は13μm、RSの平均値は137μmであった。また、上記表面処理済みのアルミニウム合金板の断面SEM写真を観察した結果、ミクロンオーダーの凹凸形状に追随するようにナノオーダーの樹枝状層が覆っていることが確認された。樹枝状層の平均厚みは210nmと見積もられた。断面SEM写真においては、樹枝状層に明瞭な主幹が観測されず本数をカウントすることができなかった。また、FTIR測定における吸光度差(A-A)値は0.04であった。40℃、90%RHにおける保存安定性を調べたところ14日であった。
【0081】
(射出成形工程)
上記方法で得られた表面処理済みアルミニウム合金板に対して、金型温度が120℃である点を除いて実施例1とまったく同様にして射出成形を行い、アルミニウム系金属樹脂複合構造体を得た。複合体の接合強度は、22.0MPaであった(母材破壊)。また標準偏差σ(N=5)は3.8MPaであった。
【0082】
[実施例7]
処理1を行わなかった以外は実施例1と同様な操作を行い、シングル粗面からなる表面処理済みのアルミニウム合金板を得た。結果を表1にまとめた。この表面処理済みアルミニウム合金板に対して、実施例1とまったく同様にして射出成形を行い、アルミニウム系金属樹脂複合構造体を得た。結果を表1にまとめた。
【0083】
【表1】
【0084】
この出願は、2019年1月29日に出願された日本出願特願2019-013396号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0085】
103 アルミニウム系金属部材
103-1 アルミニウム系金属基材
103-2 樹枝状層
104 接合部表面
105 樹脂部材
106 アルミニウム系金属樹脂複合構造体
110 アルミニウム系金属部材の表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8