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特許7585292金ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】金ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20241111BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K8/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022504615
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2020074116
(87)【国際公開番号】W WO2021038063
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】19306052.2
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501436665
【氏名又は名称】ソシエテ ビック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
(73)【特許権者】
【識別番号】521172561
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ デ オート アルサス
(73)【特許権者】
【識別番号】521174152
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク(シー.エヌ.アール.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベンジ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】メティロン,ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】ムギン,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラル,フェリエル
(72)【発明者】
【氏名】スパンゲンベルグ,アルノー
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307638(JP,A)
【文献】特開平11-302587(JP,A)
【文献】特開2003-221543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスであって、
(i)クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または前記誘導体の塩、クエン酸または前記誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤を含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金属塩(Au3+)の溶液を添加するステップと、
(iii)鉄粉を添加するステップと、
(iv)ポリビニルピロリドンを添加して、固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含み、
前記ステップ(ii)およびステップ(iii)が、入れ替えられ得る、プロセス。
【請求項2】
前記還元剤が、クエン酸および/またはクエン酸のエステル、クエン酸またはクエン酸エステルの塩および溶媒和物、ならびにそれらの混合物から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(i)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中のクエン酸および誘導体の濃度が、0.10~0.50モルL-1の範囲である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(ii)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の金塩の濃度が、0.001~0.1モルL-1の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップ(iii)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の鉄粉の濃度が、0.01~0.05モルL-1の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ(iv)の前記水性ゲルインク中のポリビニルピロリドンの濃度が、0.005~0.1%の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセス、および本発明のプロセスにより取得された、クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、およびそれらの混合物、金ナノ粒子、ならびに鉄粉末からなる群から選択される還元剤を含む、固定色を有する水性ゲルインクに関する。本発明はまた、本発明による固定色の水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【0002】
本発明の主な目的のうちの1つは、高価であり、かつ高い製造コストを引き起こすという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。
【0003】
本発明の別の目的は、例えば、皮膚および眼などの生体膜を刺激し、アレルギーを引き起こす可能性があるという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの顔料を置き換えることである。
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、ナノ粒子ベースを含有する新しい水性ゲルインクはまた、UV光に耐性があり、それにより、経時的な光安定性を改善することを見出した。
【0005】
この目的のために、本発明者らは、染料および顔料を含有する従来の水性ゲルインクを、ナノ粒子ベースの新しいものと置き換えることにより、筆記時に固定色を有する新しい水性ゲルインクを取得することが可能である具体的なプロセスを開発した。本発明の枠組み内で開発されたプロセスはまた、水性媒体中で実施されるという利点を示し、したがって「環境に優しいプロセス」である。さらに、本発明の方法は、低温範囲で実施され、生態学的に実行可能な方法で機能し、また生態学的要件も考慮に入れる。
【0006】
それゆえ、本発明は、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスであって、
(i)クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤を含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金属塩(Au3+)の溶液を添加するステップと、
(iii)鉄粉を添加するステップと、
(iv)ポリビニルピロリドンを添加して、固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含み、
ステップ(ii)およびステップ(iii)は、入れ替えられ得る、プロセスに関する。
【0007】
本発明のプロセスは、使用および性能に関して柔軟性があり、生態学的に実行可能な形式で機能し、また生態学的要件を考慮に入れる。
【0008】
本発明の意味において、「その場で」という用語は、本発明の水性ゲルインク中に存在する金ナノ粒子が、水性インクのゲルベースのマトリックス中で直接合成されることを意味する。
【0009】
本発明の意味において、「固定色」という用語は、目視観察による水性ゲルインクの色が、具体的には紙、段ボールまたは織物の吸収性支持体上への塗布前、および吸収性支持体上への塗布後と、7暦日(1週間)以内同じであることを意味することを意図する。
【0010】
本発明の目的のために、「インク」という用語は、筆記具、特にペンで使用されることを意図された「筆記用インク」を意味することを意図している。筆記用インクは、印刷機で使用され、同じ技術的制約、したがって同じ仕様を有しない「印刷用インク」と混同してはならない。実際、筆記用インクは、筆記具のチャネルよりも大きいサイズの固体粒子を含有してはならず、これは、必然的に不可逆的に筆記が停止されることになる、筆記具の詰まりを回避するためである。さらに、使用される筆記具に好適なインク流量、特に100~500mg/200mの筆記流量、有利には150~400mg/200mの筆記流量を可能にしなければならない。また、筆記媒体を汚すことを回避するために、十分に急速に乾く必要がある。また、経時的な移染(出液)の問題を回避する必要がある。したがって、本発明によるインクは、それが意図される筆記具、特にペンに好適であろう。
【0011】
さらに、「筆記用インク」は、筆記中の漏出を回避するために、流動性が高すぎてはならない。しかしながら、筆記動作の流れを容易にするために、十分に流動的である必要がある。
【0012】
本発明の特定の場合では、筆記用インクは、より具体的に「ゲルインク」(したがってチキソトロピー性インクに相当する)であり得、特に20℃で、静止状態(0.01s-1のせん断速度)で測定された粘度は、例えば、60mmの円錐および1°の角度を有するMalvern KINEXUSなどのコーンプレート型レオメータなどの同じレオメータを使用して、20℃で100s-1のせん断速度で測定された粘度とは異なり、特により高くなる。特定の実施形態では、これらの条件下で測定された本発明によるゲルインクの粘度は、1s-1のせん断速度では、1,000~7,000mPa.s、有利には2,000~5,000mPa.s、より有利には2,500~3,500mPa.sの範囲であり、5,000s-1のせん断速度では、有利には5~50mPa.s、より有利には7~40mPa.s、さらにより有利には10~20mPa.sである。有利には、そのような粘度は、40℃および20%の相対湿度で少なくとも3ヶ月保管されている間安定であり、特に粘度は50%を超えて低下することはない。より有利には、筆記後数分での静的漏出を回避するために、せん断後の静止時の粘度への復帰は非常に迅速であり、有利には最大で数分である。
【0013】
好ましい実施形態によれば、本発明のプロセスは、上記の順序で、
(i)クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、クエン酸または該エステル誘導体の塩および溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群において選択される還元剤を含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩の溶液を添加するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された金ナノ粒子の分散液に鉄粉を添加するステップと、
(iv)ポリビニルピロリドンを添加して、固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含み、
ステップ(ii)およびステップ(iii)は、入れ替えられ得る、プロセスに関する。
【0014】
本発明において、ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスは、50~95重量%、好ましくは60~90重量%、より好ましくは70~85重量%の水を含み得る。
【0015】
ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスはまた、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー変性剤などの古典的なゲルインク成分を含み得る。ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するために使用されるゲルインク成分について、本発明の固定色の水性ゲルインクの主題に関連して、以下に大部分説明される。
【0016】
本発明では、ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックス中に存在する還元剤は、クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、およびチオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。還元剤は、金塩を金属元素(すなわち、酸化状態:0)に還元する。
【0017】
クエン酸は、式HOOCHC-C(OH)COOH-CHCOOHの弱有機酸である。クエン酸の誘導体は、クエン酸のエステル、アミドおよびチオエステル、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物から選択される。クエン酸および/または誘導体の供給業者は、Fluka(商標)、Sigma-Aldrich(商標)、TCI chemicals(商標)の中から選択される。
【0018】
クエン酸のエステルは、好ましくはアルキルエステル、好ましくはC1-30アルキルエステル、好ましくはC1-20アルキルエステル、好ましくはC1-6アルキルエステルである。クエン酸のエステルは、モノエステル、ジエステルおよび/またはトリエステル、好ましくはクエン酸のトリエステルであり得る。本発明において使用されるクエン酸のエステルは、クエン酸イソデシル、クエン酸イソプロピル、クエン酸ステアリル、クエン酸ジラウリル、クエン酸ジステアリル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリカプリリル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリエチルヘキシル、クエン酸トリヘキシルデシル、クエン酸トリイソセチル、クエン酸トリラウリル、クエン酸トリオクチルドデシル、クエン酸トリオレイル、クエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリステアリル、クエン酸エチル、クエン酸トリブチルまたはクエン酸トリエチルなどのクエン酸トリC12-15-アルキル、クエン酸トリカプリリル、クエン酸トリエチルへキシル、クエン酸トリイソセチル、クエン酸トリオクチルドデシル、クエン酸トリイソステアリル、クエン酸イソデシル、クエン酸ステアリル、クエン酸ジラウリル、およびクエン酸エチルを含む。好ましくは、本発明のクエン酸のエステルは、クエン酸トリブチルおよびクエン酸トリエチルである。
【0019】
本発明において使用されるクエン酸のアミドは、一級アミンとクエン酸との反応によって調製され得る。アミドを形成するためのアミノ化反応は、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,4th Ed.,Vol.2,p.348-351に記載されているように、有機化学技術でよく知られている様々な条件を使用して実施され得る。好ましい方法は、プロトン性溶剤中でクエン酸を3つ以上の等価物と反応させることを含む。すべての一級アミンまたは好ましくは必要なC1~C18のアルキル置換基を含有する一級アミンの混合物が、本発明のトリアルキルシトラミドの調製に利用され得る。シトラミド中のアルキル基は、同じであるか、または異なっていてもよく、直鎖状または分岐状であってもよい。好適なアルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、2-メチルブチル、3-メチル-2-ブチル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、シクロヘキシル、2-エチルブチル、4-メチル-2-ペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシルである。好ましくは、本発明のクエン酸のアミドは、トリブチルシトラミドおよびトリエチルシトラミドである。
【0020】
本発明において使用されるクエン酸のチオエステルは、チオールとクエン酸を有する誘導体との反応によって調製され得る。チオールおよび誘導体のいくつかの例は、アリルメルカプタン、2-アミノエタンチオール、2-アミノベンゼンチオール、3-アミノベンゼンチオール、4-アミノベンゼンチオール、1,3-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオールが使用され得る。好ましくは、クエン酸のチオエステルは、アリルメルカプタンとクエン酸との間の反応によって取得される。
【0021】
クエン酸塩としても知られているクエン酸の塩は、カルシウム、カリウム、またはナトリウムなどの様々なレベル(モノ、ジ、トリ)の異なる金属カチオンを伴う場合がある。クエン酸は、様々な果物および野菜、特に柑橘系の果物中に微量より多く存在する。クエン酸塩は、すべて、クエン酸とそれぞれの塩の水酸化物または炭酸塩との化学反応によって生成される。
【0022】
本発明において使用されるクエン酸の塩は、クエン酸アルミニウム、クエン酸カルシウム、クエン酸銅、クエン酸二アンモニウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸第二銅、クエン酸第二鉄、クエン酸マグネシウム、クエン酸マンガン、クエン酸一ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸亜鉛を含む。好ましくは、本発明のクエン酸の塩は、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、およびクエン酸二アンモニウムである。
【0023】
本発明におけるクエン酸または該誘導体の溶媒和物は、クエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウム塩二水和物、クエン酸二ナトリウム塩三水和物の中から選択される。好ましくは、本発明のクエン酸の溶媒和物は、クエン酸一水和物である。
【0024】
還元剤は、溶液の形態または粉末の形態で添加され得る。
【0025】
好ましい実施形態では、ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックス中の、クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、およびチオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤の濃度は、0.10~0.50モルL-1、好ましくは0.20~0.40モルL-1、およびより好ましくは0.25~0.35モルL-1の範囲である。
【0026】
本発明では、金塩の溶液は、好ましくは塩化金(III)三水和物HAuCl.3HOの溶液である。金ナノ粒子は、金塩を、クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤と接触させるときに形成される。
【0027】
好ましい実施形態では、ステップ(ii)の水性インクのゲルベースのマトリックス中の金属塩の濃度は、0.001~0.1モルL-1、好ましくは0.0015~0.08モルL-1、およびより好ましくは0.002~0.06モルL-1の範囲である。
【0028】
好ましい実施形態では、クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤との間のモル比は、0.005:1~0.05:1、好ましくは0.01:1~0.03:1の範囲である。より好ましくは、還元剤がクエン酸であるとき、金塩とクエン酸との間のモル比は、0.015:1~0.025:1の範囲である。
【0029】
本発明では、ステップ(iv)の水性ゲルインク中のポリビニルピロリドンの濃度は、0.005~0.1%、好ましくは0.01~0.05%の範囲である。
【0030】
本発明において、鉄粉は、有利には、20~100nm、好ましくは30~60nmの範囲の平均粒径を有する鉄ナノ粒子から構成される。この平均粒径は、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0031】
好ましい実施形態では、固定色を有する水性ゲルインク中の鉄粉の濃度は、0.01~0.05モルL-1、好ましくは0.02~0.04モルL-1の範囲である。
【0032】
本発明のプロセスは、広範囲の温度にわたって実施することができる。一般に、このプロセスは、0~100℃、好ましくは5~70℃、より好ましくは10~40℃の温度範囲内で実施される。比較的低いプロセス温度は、プロセス効率とプロセス経済性に貢献し、さらに現在の生態学的要求を満たす。実際、本発明のプロセスは水性媒体中で実施され、したがって「グリーンプロセス」である。加えて、低温には、より安定した分散液が取得され、金ナノ粒子がより優れた再分散性を呈するという利点がある。
【0033】
本発明はまた、本発明のプロセスによって取得された固定色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、クエン酸および誘導体、金ナノ粒子、ならびに鉄粉を含む。固定色を有するこの水性ゲルインクでは、クエン酸および誘導体、金ナノ粒子、ならびに鉄粉は、本発明のプロセスの主題に関して上記で定義されたとおりである。
【0034】
本発明によるプロセスは、プラズモン効果(プラズモン色)を呈する、水性インク組成物を取得することが可能である。
【0035】
それらのサイズ、形状、および距離に応じて、金ナノ粒子の分散体の色、ならびにその特性は変化する可能性がある。これはプラズモン共鳴によるものである。金ナノ粒子を特定の周波数の波にさらすと、電子が特定の場所に集まり、金ナノ粒子のサイズおよび形状に応じて変化する。この電子の凝集は、金ナノ粒子の異方性を引き起こし、それが、次いで光の吸収と散乱の変化につながり、具体的な色をもたらす。プラズモン共鳴はまた、該金ナノ粒子の結合に起因する金ナノ粒子間の距離により影響を受ける。実際、金ナノ粒子が近いほど、さらにそれらは互いに相互作用し、プラズモン効果とも呼ばれる、それらの結合効果を増加させる。同様に、形状はプラズモン共鳴に影響を与える。
【0036】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、還元剤は、クエン酸および誘導体の形態で存在する。
【0037】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、クエン酸および該クエン酸誘導体の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、5~15重量%、および好ましくは7~10重量%の範囲である。
【0038】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、金ナノ粒子は、ウニ形状を有する。
【0039】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、本発明の金ナノ粒子は、好ましくは10~200nm、およびより好ましくは50~100nmの範囲の平均粒子サイズを有する。この平均粒径は、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0040】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、金ナノ粒子の量は、有利には、水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~0.5重量%、およびより有利には0.1~0.2重量%の範囲である。
【0041】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、鉄粉は、有利には、20~100nm、および好ましくは30~60nmの範囲の平均粒子サイズを有する鉄ナノ粒子から構成される。この平均粒径は、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0042】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、鉄粉の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には0.01~0.1重量%、より有利には0.02~0.05重量%の範囲である。
【0043】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、水の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には50~95重量%、より有利には60~90重量%、さらにより有利には70~85重量%の範囲である。
【0044】
本発明の固定色の水性ゲルインクはまた、以下に記載されるように、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー変性剤などの古典的なゲルインク成分を含み得る。これらのゲルインク成分は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0045】
本発明の水性ゲルインクは、溶剤を含み得る。使用可能な溶剤の中で、以下の
-トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノールなどのグリコールエーテル、
-アルコール:イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのC-C15の直鎖または分枝鎖アルコール、
-酢酸エチルまたは酢酸プロピルなどのエステル、
-炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンなどの炭酸エステル、
-メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトンまたはシクロヘキサノンなどのケトン、および
-それらの混合物などの水に混和性の極性溶剤が挙げられる。
【0046】
好ましい実施形態では、溶剤は、少なくともグリコールエーテル、より具体的には、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、およびそれらの混合物からなる群から選択されるグリコールエーテルを含む。さらに有利な実施形態では、溶剤は、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0047】
有利には、溶剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して5~35重量%、より有利には9~30重量%、さらにより有利には11~25重量%の範囲の量で存在する。
【0048】
本発明の水性ゲルインクは、イソチアゾリノン(Thor製のACTICIDE(登録商標))などの、好ましくは1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、およびそれらの混合物からなる群から選択される抗菌剤を含み得る。
【0049】
有利には、抗菌剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.01~0.5重量%、より有利には0.1~0.2重量%の範囲の量で存在する。
【0050】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはトリトリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびそれらの混合物からなる群から選択される腐食防止剤を含み得る。
【0051】
有利には、腐食防止剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.07~0.5重量%、さらにより好ましくは0.08~0.15重量%の範囲の量で存在する。
【0052】
本発明の水性ゲルインクは、消泡剤、好ましくはポリシロキサン系消泡剤、より好ましくは変性ポリシロキサンの水性エマルジョン(Synthron製のMOUSSEX(登録商標)、Evonik製のTEGO(登録商標)Foamexなど)を含み得る。
【0053】
有利には、消泡剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.1~0.5重量%、さらにより有利には0.2~0.4重量%の範囲の量で存在する。
【0054】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはキサンタンガム、アラビアガム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、ゲル化効果を生じさせることができるレオロジー変性剤を含み得る。
【0055】
有利には、レオロジー変性剤は、水性ゲルインクの総重量に対して0.1~2重量%、より好ましくは0.2~0.8重量%、さらにより好ましくは0.3~0.6重量%の範囲の量で存在する。
【0056】
本発明の固定色の水性ゲルインクはまた、
-水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンなどのpH調整剤、
-潤滑剤、
-合体剤、
-架橋剤、
-湿潤剤、
-可塑剤、
-酸化防止剤、および
-UV安定剤などの他の添加剤を含み得る。
【0057】
存在する場合、これらの添加剤は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0058】
一態様では、本発明は、固定色を有する水性インクをその場で調製するためのプロセスに関し、
(i)クエン酸ならびに/またはクエン酸のエステル、アミド、および、チオエステルから選択されるクエン酸の誘導体、クエン酸または該誘導体の塩、水和物などのクエン酸または該誘導体の溶媒和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤を含む、水性インクのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金属塩(Au3+)の溶液を添加するステップと、
(v)鉄粉を添加するステップと、
(vi)ポリビニルピロリドンを添加して、水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含み、
ステップ(ii)およびステップ(iii)は、入れ替えられ得る、プロセスに関する。
【0059】
一態様では、本発明はまた、特に本開示において定義される、クエン酸ならびに誘導体、金ナノ粒子、および鉄粉を特に含む、上記のプロセスによって取得された固定色を有する水性インクに関する。
【0060】
本発明の固定色を有する水性インクはまた、前述のように、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なインク原料を含み得る。これらの原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0061】
一態様では、本発明は、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された、固定色の、水性インク、より具体的には水性ゲルインクの使用に関する。一実施形態では、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0062】
本発明はまた、固定色の、水性インク、より具体的には水性ゲルインクで書き込む方法に関し、本発明による固定色を有する水性インクで、吸収性支持体上に書き込むステップを含み、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0063】
本発明の固定色の水性インク、具体的には本発明の固定色の水性ゲルインクで吸収性支持体上に書き込んだ後、吸収性支持体上に塗布された水性ゲルインク内の金ナノ粒子間の距離は、2μmより低く、好ましくは50nm~1.5μmで変化し、およびより好ましくは200nm~1μmで変化する。
【0064】
最後に、本発明は、筆記具に関し、この筆記具は、
-本発明による水性インク、より具体的には水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-軸方向バレル内に貯蔵された水性インクを送出するペン本体と、を含む。
【0065】
本発明の筆記具は、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカ、好ましくはゲルペンからなる群から選択することができる。
【0066】
上記に加えて、本発明はまた、以下に続き、本発明のプロセスによる固定色を有する水性ゲルインクの調製に関する他の規定、および比較例を含む。
【実施例
【0067】
実施例1:本発明のプロセスによる、クエン酸、金ナノ粒子および鉄粉に基づく固定色を有する水性ゲルインクの調製
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.1gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.11gのクエン酸(Fluka製の27491)と混合した。混合物をホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0068】
第2のステップ(ii)において、50μLの塩化金(III)三水和物(Sigma-Aldrich製の520918-1G)(200mM)の溶液を混合物に導入し、400rpmの速度で10分間均質化した。
【0069】
連続注入による塩化金(III)三水和物の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、黄色になった。
【0070】
第3のステップ(iii)において、0.01gの鉄粉(球状鉄粉、<10μm、参照:00170、Alfa Aesar製)を、ステップ(ii)の終わりに取得された金ナノ粒子の分散液に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで400rpmの速度で、5~10分間均質化した。
【0071】
連続注入による硝酸銀の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、青色になった。
【0072】
水性ゲルインク内に存在する金ナノ粒子の平均粒子サイズは、標準ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析により50nmである。
【0073】
取得された固定色を有する水性ゲルインクをセルロース紙に書き込んだとき、色は即座に青色が現れ、結局変化しなかった。
【0074】
したがって、インクの色は、セルロース紙に塗布する前と、セルロース紙に塗布した後とで同じである。
【0075】
さらに、この水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。
【0076】
表1から見られ得るように、水性ゲルインクの色は、経時的に変化しなかった。
【0077】
【表1】
【0078】
比較例1:鉄粉を含まない、クエン酸と金ナノ粒子に基づく水性ゲルインクの調製
第1のステップにおいて、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.1gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.11gのクエン酸(Fluka製の27491)と混合した。混合物をホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0079】
第2のステップにおいて、50μLの塩化金(III)三水和物(Sigma-Aldrich製の520918-1G)(200mM)の溶液を混合物に導入し、400rpmの速度で10分間均質化した。連続注入による塩化金(III)三水和物の溶液の添加後、色は、黄色が現れた。
【0080】
取得された水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、変化せず、黄色のままであった。
【0081】
さらに、セルロース紙上のこの水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。
【0082】
表2から見られ得るように、セルロース紙上の水性ゲルインクの色は、1週間後茶色が現れる。
【0083】
したがって、インクの色は、セルロース紙上への塗布前と、セルロース紙上への塗布後で経時的に同じではない。
【0084】
【表2】