(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子を含む可変色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20241111BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20241111BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K7/00
B43K8/02 110
(21)【出願番号】P 2022504616
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2020074117
(87)【国際公開番号】W WO2021038064
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-27
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501436665
【氏名又は名称】ソシエテ ビック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
(73)【特許権者】
【識別番号】521172561
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ デ オート アルサス
(73)【特許権者】
【識別番号】521174152
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク(シー.エヌ.アール.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベンジ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】メティロン,ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】ムギン,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラル,フェリエル
(72)【発明者】
【氏名】スパンゲンベルグ,アルノー
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307638(JP,A)
【文献】特開平11-302587(JP,A)
【文献】特開2003-221543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変色を有する水性ゲルインクを調製するプロセスであって、
(i)N-アシル-アミノフェノールを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された前記水性インクのゲルベースのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の可変色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記N-アシル-アミノフェノールが、N-アセチル-パラ-アミノフェノールである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(i)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の前記N-アシル-アミノフェノールの総濃度が、0.10~0.30モルL
-1の範囲である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(ii)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の銀塩の濃度が、0.03~0.06モルL
-1の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセス、およびN-アシル-アミノフェノールを含む、可変色を有する水性ゲルインクに関し、該ヒドロキシ基は、好ましくはベンゼン基上のメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にあり、好ましくは式HO-R1-NH-CO-R2のN-アシル-アミノフェノールであり、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、好ましくは1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含む、アルキル基であり、好ましくはヒドロキシル基は、好ましくはメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にあり、本発明のプロセスによって取得され、いかなる染料および顔料も含有しない、銀ナノ粒子である。本発明はまた、本発明による、可変色を有する水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【0002】
自然界では、カモフラージュのために、またはそれぞれ環境に溶け込むまたは環境から目立つことによる求愛のために、動物界では色の変化が頻繁に観察される。多くの生物は、環境の変化に応じてその外観を急速に変化させることができる。最もよく知られている例は、皮膚の色素胞内の色素を凝集または分散させることによって皮膚の色をすばやく変えることができるカメレオンである(J.Teyssier et al.,Nature Communications 6,2014,6368)。
【0003】
現在、自然界には2つのタイプの色の変化が存在し、研究は構造色およびプラズモン色に焦点を当てている。
【0004】
構造色は、モルフォ蝶の羽またはいくつかの植物および果物で観察できる。色の変化は、微細構造に反射する光によるものである。それらの特定の形状は、光が翼に当たる角度が、反射される色に影響を与えることを保証する。
【0005】
プラズモン色効果は、構造色よりも深い。実際、色における変化は、銀ナノ粒子による光吸収と、材料内のそれらの間の間隔と、の両方に起因する。この効果は、例えば、カメレオンの間で観察することができる。実際、カメレオンが興奮すると、カメレオンの肌の色は変化することができる。色の変化は、カメレオンの皮膚に含まれているグアニン結晶によるものであり、カメレオンが怒るとグアニン結晶は互いに離れていく。
【0006】
動物が色を変える方法を再現することは、一部のタイプの対象の場合には正確に実用的ではないが、他のマトリックスにおいて色の変化を生成する別のアプローチのインスピレーションになる可能性がある。これに基づいて、本発明者らは、驚くべきことに、染料および顔料を含有する以前の水性ゲルインクをナノ粒子ベースの新しいものと交換することにより、書くときに色を変えることができる新しい水性ゲルインクを取得することが可能であることを発見した。したがって、本発明の主な目的のうちの1つは、高価であり、かつ高い製造コストを引き起こすという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。本発明の別の目的は、例えば、皮膚および眼などの生体膜を刺激し、アレルギーを引き起こす可能性があるという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、ナノ粒子ベースを含有する新しい水性インクはまた、UV光に耐性があり、それにより、経時的な光安定性を改善することを見出した。
【0007】
この目的のために、本発明者らは、染料および顔料を含有する従来の水性ゲルインクを、ナノ粒子ベースの新しいものと置き換えることにより、筆記時に可変色を有する新しい水性ゲルインクを取得することが可能である具体的なプロセスを開発した。本発明の枠組み内で開発されたプロセスはまた、水性媒体中で実施されるという利点を示し、したがって「環境に優しいプロセス」である。さらに、本発明のプロセスは、低温範囲で実施され、生態学的に実行可能な方法で機能し、また生態学的要件も考慮に入れる。
【0008】
本発明は、可変色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスであって、
(i)N-アシル-アミノフェノールを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップであって、該ヒドロキシル基は、好ましくはベンゼン基上のメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にあり、好ましくは式HO-R1-NH-CO-R2のN-アシル-アミノフェノールであり、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、好ましくは1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含む、アルキル基であり、好ましくはヒドロキシル基は、好ましくはメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にある、調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の可変色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含むプロセス。
【0009】
本発明の意味において、「その場で」という用語は、本発明の水性ゲルインク中に存在する銀ナノ粒子が、水性インクのゲルベースのマトリックス中で直接合成されることを意味する。
【0010】
本発明の意味において、「可変色」という用語は、目視観察による水性ゲルインクの色が、具体的には紙、段ボールまたは織物の吸収性支持体上への塗布前、および吸収性支持体上への塗布後と、同じではないことを意味することを意図する。
【0011】
実際、本発明による水性ゲルインクが吸収支持体上に堆積されるとき、色の変化は、好ましくは、目視観察によって即座に(特に5秒未満、好ましくは1秒未満で)観察される。
【0012】
本発明の目的のために、「インク」という用語は、筆記具、特にペンで使用されることを意図された「筆記用インク」を意味することを意図している。筆記用インクは、印刷機で使用され、同じ技術的制約、したがって同じ仕様を有しない「印刷用インク」と混同してはならない。実際、筆記用インクは、筆記具のチャネルよりも大きいサイズの固体粒子を含有してはならず、これは、必然的に不可逆的に筆記が停止されることになる、筆記具の詰まりを回避するためである。さらに、使用される筆記具に好適なインク流量、特に100~500mg/200mの筆記流量、有利には150~400mg/200mの筆記流量を可能にしなければならない。また、筆記媒体を汚すことを回避するために、十分に急速に乾く必要がある。また、経時的な移染(出液)の問題を回避する必要がある。したがって、本発明によるインクは、それが意図される筆記具、特にペンに好適であろう。
【0013】
さらに、「筆記用インク」は、筆記中の漏出を回避するために、流動性が高すぎてはならない。しかしながら、筆記動作の流れを容易にするために、十分に流動的である必要がある。
【0014】
本発明の特定の場合では、筆記用インクは、より具体的に「ゲルインク」(したがってチキソトロピー性インクに相当する)であり得、特に20℃で、静止状態(0.01s-1のせん断速度)で測定された粘度は、例えば、60mmの円錐および1°の角度を有するMalvern KINEXUSなどのコーンプレート型レオメータなどの同じレオメータを使用して、20℃で100s-1のせん断速度で測定された粘度とは異なり、特により高くなる。特定の実施形態では、これらの条件下で測定された本発明によるゲルインクの粘度は、1s-1のせん断速度では、1,000~7,000mPa.s、有利には2,000~5,000mPa.s、より有利には2,500~3,500mPa.sの範囲であり、5,000s-1のせん断速度では、有利には5~50mPa.s、より有利には7~40mPa.s、さらにより有利には10~20mPa.sである。有利には、そのような粘度は、40℃および20%の相対湿度で少なくとも3ヶ月保管されている間安定であり、特に粘度は50%を超えて低下することはない。より有利には、筆記後数分での静的漏出を回避するために、せん断後の静止時の粘度への復帰は非常に迅速であり、有利には最大で数分である。
【0015】
本発明において、ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスは、50~95重量%、好ましくは60~90重量%、より好ましくは70~85重量%の水を含み得る。
【0016】
ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスはまた、溶媒、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー調整剤などの従来のゲルインク成分を含み得る。ステップ(i)の水性インクのゲルベースマトリックスを調製するために使用されるゲルインク成分は、本発明の可変色を有する水性ゲルインクの主題に関連して、以下に大部分説明される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、可変色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスは、
(i)Nーアシルーアミノフェノールを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップであって、該ヒドロキシル基は、ベンゼン基上のパラ位にある、調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の可変色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、可変色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスは、
(i)式HO-R1-NH-CO-R2のN-アシル-アミノフェノールを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップであって、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ヒドロキシル基は、パラ位にある、調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の可変色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、可変色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスは、
(i)式HO-R1-NH-CO-R2のN-アシル-アミノフェノールを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップであって、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、1~3個の炭素原子を含むアルキル基であり、ヒドロキシル基は、パラ位にある、調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の可変色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0020】
本発明の最も好ましい実施形態では、該N-アシル-アミノフェノールは、N-アセチル-パラ-アミノフェノールである。この好ましい実施形態によれば、式HO-R1-NH-CO-R2において、R1は、ベンゼン環であり、R2は、メチルラジカルであり、ヒドロキシル基は、パラ位にある。
【0021】
N-アセチル-パラ-アミノフェノール(CAS番号:103-90-2)は、パラセタモールまたはアセトアミノフェンとして知られ、Doliprane、Tylenol、Calpol、Panadol、Dafalgan、Efferalganなどの異なる商品名で購入され得る。N-アセチル-パラ-アミノフェノールは、通常、痛みおよび熱を治療するために使用されるが、その使用が、インクの分野で言及されたことはない。N-アセチル-パラ-アミノフェノールは、本発明のプロセスにおいて、溶液の形態または粉末の形態で添加され得る。
【0022】
特に、本発明によるN-アシル-アミノフェノールは、銀塩を元素銀(すなわち、酸化状態:0)に還元する。
【0023】
好ましい実施形態では、ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックス中の本発明によるN-アシル-アミノフェノールの濃度は、0.10~0.30モルL-1、および好ましくは0.15~0.25モルL-1の範囲である。
【0024】
本発明では、銀塩(Ag+)の溶液は、有利には、硝酸銀AgNO3の溶液である。銀ナノ粒子は、銀塩を本発明によるN-アシル-アミノフェノールと接触させるときに形成される。
【0025】
好ましい実施形態では、ステップ(ii)の水性インクのゲルベースのマトリックス中の銀塩の濃度は、0.03~0.06モルL-1、および好ましくは0.035~0.045モルL-1の範囲である。
【0026】
ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスへの銀塩の溶液の添加は、連続注入によって成され得る。
【0027】
好ましい実施形態では、銀ナノ粒子は、球形状または多面体形状、好ましくは多面体形状、より好ましくは三角形、正方形、長方形の形状を有する。
【0028】
好ましい実施形態では、本発明による銀塩とN-アシル-アミノフェノールとの間のモル比は、0.18:1~0.30:1、好ましくは0.20:1~0.24:1の範囲である。
【0029】
本発明はまた、本発明のプロセスによって取得された可変色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、本発明によるN-アシル-アミノフェノールを含む。
【0030】
本発明によるプロセスは、プラズモン効果(プラズモン色)を呈する、水性インク組成物を取得することが可能である。
【0031】
好ましい実施形態によれば、本発明は、可変色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、式HO-R1-NH-CO-R2の該N-アシル-アミノフェノールを含むインクを含み、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、好ましくは1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含むアルキル基であり、好ましくはヒドロキシル基は、好ましくはメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にあり、銀ナノ粒子である。
【0032】
好ましい実施形態によれば、本発明は、可変色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルインクは、N-アセチル-パラ-アミノフェノールおよび銀ナノ粒子を含む。
【0033】
本発明の水性ゲルインクのN-アシル-アミノフェノール、および銀ナノ粒子は、本発明のプロセスの主題に関連して上記で定義されたとおりである。
【0034】
それらのサイズ、形状、および距離に応じて、銀ナノ粒子の分散体の色、ならびにその特性は変化する可能性がある。これはプラズモン共鳴によるものである。銀ナノ粒子を特定の周波数の波にさらすと、電子が特定の場所に集まり、銀ナノ粒子のサイズおよび形状に応じて変化する。この電子の凝集は、銀ナノ粒子の異方性を引き起こし、それが、次いで光の吸収と散乱の変化につながり、具体的な色をもたらす。プラズモン共鳴はまた、該銀ナノ粒子の結合に起因する銀ナノ粒子間の距離により影響を受ける。実際、銀ナノ粒子が近いほど、さらにそれらは互いに相互作用し、プラズモン効果とも呼ばれる、それらの結合効果を増加させる。同様に、形状はプラズモン共鳴に影響を与える。
【0035】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクにおいて、本発明によるN-アシル-アミノフェノールの量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には2~5重量%、より有利には3~4重量%の範囲である。
【0036】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクにおいて、銀粒子は、好ましくは球形状または多面体形状、好ましくは多面体形状、およびより好ましくは三角形、正方形、長方形の形状を有する。
【0037】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクにおいて、本発明の銀ナノ粒子は、好ましくは20~200nm、より好ましくは75~150nmの範囲の平均粒径を有する。この平均粒径は、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0038】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクにおいて、銀ナノ粒子の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には0.5~0.8重量%、より有利には0.6~0.7重量%の範囲である。
【0039】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクにおいて、水の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には50~95重量%、より有利には60~90重量%、さらにより有利には70~85重量%の範囲である。
【0040】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクはまた、以下に記載されるように、溶媒、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー調整剤などの従来のゲルインク成分を含み得る。これらのゲルインク成分は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0041】
本発明の水性ゲルインクは、溶剤を含み得る。使用可能な溶剤の中で、以下の
-トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノールなどのグリコールエーテル、
-アルコール:イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのC1-C15の直鎖または分枝鎖アルコール、
-酢酸エチルまたは酢酸プロピルなどのエステル、
-炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンなどの炭酸エステル、
-メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトンまたはシクロヘキサノンなどのケトン、および
-それらの混合物などの水に混和性の極性溶剤が挙げられる。
【0042】
好ましい実施形態では、溶剤は、グリコールエーテルからなる群から選択され、より好ましくは、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。さらに有利な実施形態では、溶剤は、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0043】
有利には、溶剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して5~35重量%、より有利には9~30重量%、さらにより有利には11~25重量%の範囲の量で存在する。
【0044】
本発明の水性ゲルインクは、イソチアゾリノン(Thor製のACTICIDE(登録商標))などの、好ましくは1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、およびそれらの混合物からなる群から選択される抗菌剤を含み得る。
【0045】
有利には、抗菌剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.01~0.5重量%、より有利には0.1~0.2重量%の範囲の量で存在する。
【0046】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはトリトリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびそれらの混合物からなる群から選択される腐食防止剤を含み得る。
【0047】
有利には、腐食防止剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.07~0.5重量%、さらにより好ましくは0.08~0.15重量%の範囲の量で存在する。
【0048】
本発明の水性ゲルインクは、消泡剤、好ましくはポリシロキサン系消泡剤、より好ましくは変性ポリシロキサンの水性エマルジョン(Synthron製のMOUSSEX(登録商標)、Evonik製のTEGO(登録商標)Foamexなど)を含み得る。
【0049】
有利には、消泡剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.1~0.5重量%、さらにより有利には0.2~0.4重量%の範囲の量で存在する。
【0050】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはキサンタンガム、アラビアガム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、ゲル化効果を生じさせることができるレオロジー変性剤を含み得る。
【0051】
有利には、レオロジー変性剤は、水性ゲルインクの総重量に対して0.08~2重量%、より好ましくは0.2~0.8重量%、さらにより好ましくは0.3~0.6重量%の範囲の量で存在する。
【0052】
本発明の可変色を有する水性ゲルインクはまた、以下のような他の添加剤を含み得る。
-水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンなどのpH調整剤、
-潤滑剤、
-合体剤、
-架橋剤、
-湿潤剤、
-可塑剤、
-酸化防止剤、および
-UV安定剤などの他の添加剤を含み得る。
【0053】
存在する場合、これらの添加剤は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0054】
一態様では、本発明は、可変色を有する水性インクをその場で調製するためのプロセスに関し、
(i)N-アシル-アミノフェノールを含む、水性インクのマトリックスを調製するステップであって、該ヒドロキシル基は、好ましくはベンゼン基上のメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にあり、好ましくは式HO-R1-NH-CO-R2のN-アシル-アミノフェノールであり、式中、R1は、ベンゼン環であり、R2は、好ましくは1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含む、アルキル基であり、好ましくはヒドロキシル基は、好ましくはメタまたはパラ位にあり、好ましくはパラ位にある、調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのマトリックスに銀塩の溶液を添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された可変色を有する水性インクを取得するステップと、を含む。
【0055】
一態様では、本発明は、特に本開示で定義されるように、特にN-アシル-アミノフェノールを含む、上記のプロセスに従って取得された可変色を有する水性インクに関する。
【0056】
本発明の可変色を有する水性インクはまた、前述のように、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なインク原料を含み得る。これらの原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0057】
一態様では、本発明は、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された、可変色の、水性インク、より具体的には水性ゲルインクの使用に関する。一実施形態では、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0058】
本発明はまた、可変色の水性インク、より具体的には水性ゲルインクで書き込む方法に関し、本発明による可変色を有する水性インクで、吸収性支持体上に書き込むステップを含み、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0059】
本発明の可変色の水性インクで吸収性支持体上に書き込んだ後、吸収性支持体上に塗布された水性ゲルインク内の銀ナノ粒子間の距離は、500nmより低く、好ましくは10nm~100nmで変化し、より好ましくは10~50nmで変化する。
【0060】
最後に、本発明は、筆記具に関し、この筆記具は、
-本発明による水性インク、より具体的には水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-軸方向バレル内に貯蔵された水性インクを送出するペン本体と、を含む。
【0061】
本発明の筆記具は、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカ、および好ましくはゲルペンからなる群から選択することができる。
【0062】
上記に加えて、本発明はまた、以下に続き、本発明のプロセスによる可変色を有する水性ゲルインクの調製に関する追加の説明から出てくる他の規定を含む。
【実施例】
【0063】
実施例1:本発明のプロセスによる、N-アセチル-パラ-アミノフェノールおよび銀ナノ粒子に基づく、可変色を有する水性ゲルインクの調製
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.40gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.30gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.047gのN-アセチル-パラ-アミノフェノール(Sanofi製のDoliprane(登録商標)1000mg)と混合した。混合物をホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0064】
第2のステップ(ii)において、300μLの硝酸銀(Carl Roth)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で10分間混合物に導入した。
【0065】
連続注入による硝酸銀の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、透明から灰に変化した。
【0066】
水性ゲルインク内に存在する銀ナノ粒子の平均粒子サイズは、標準ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析により100nmである。
【0067】
取得された可変色を有する水性ゲルインクは、セルロース紙上に書いたとき、セルロース紙上への銀ナノ粒子の拡散プロセスにより、色が灰から暗い茶色に即座に(<1秒)変化した。
【0068】
したがって、インクの色は、セルロース紙上への塗布前と、セルロース紙上への塗布後で同じではない。
【0069】
比較例1:N-アセチル-パラ-アミノフェノールおよび金ナノ粒子を有する水性ゲルインクの調製
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.40gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.30gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.047gのN-アセチル-パラ-アミノフェノール(Sanofi製のDoliprane(登録商標)100mg)と混合した。混合物をホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0070】
第2のステップ(ii)において、100μLの塩化金(III)三水和物(Sigma-Aldrich製の520918-1G)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で15分間混合物に導入した。
【0071】
連続注入による塩化金(III)三水和物の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、茶色になった。
【0072】
取得された水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、変化せず、茶色のままであった。
【0073】
したがって、インクの色は、セルロース紙上への塗布前と、セルロース紙上への塗布後で同じである。
【0074】
比較例2:鉄粉を含まないヒドロキシルアミンと金ナノ粒子に基づく水性ゲルインクの調製
最初のステップにおいて、水性インクのゲルベースのマトリックスを、180gのトリエチレングリコール(溶剤)、48gのポリエチレングリコール(溶剤)、2.3gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および1.20gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次に、5gのキサンタンガム(レオロジー変性剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。960gの脱イオン水を混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次に、3.60gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次に、取得された水性インクのゲルベースのマトリックス1mLを、塩酸ヒドロキシルアミン(55459 Honeywell Fluka(商標))(100mM)の溶液500μLと混合した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で2分間均質化した。
【0075】
第2のステップにおいて、200μLの硝酸銀(9370.1 Carl Roth)(200mM)を混合物に導入し、400rpmの速度で5~10分間均質化した。混合物の色が透明から不透明に変化した。
【0076】
取得された可変色を有する水性ゲルインクは、セルロース紙上に書いたとき、色は変化せず、不透明のままであった。色は、紙上で見られなかった。