(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】銀または金ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20241111BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20241111BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K7/00
B43K8/02 100
(21)【出願番号】P 2022506357
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2020074119
(87)【国際公開番号】W WO2021038066
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-27
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501436665
【氏名又は名称】ソシエテ ビック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
(73)【特許権者】
【識別番号】521172561
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ デ オート アルサス
(73)【特許権者】
【識別番号】521174152
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク(シー.エヌ.アール.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベンジ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】メティロン,ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】ムギン,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラル,フェリエル
(72)【発明者】
【氏名】スパンゲンベルグ,アルノー
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307638(JP,A)
【文献】特開平11-302587(JP,A)
【文献】特開2003-221543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスであって、
(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金または銀塩を以下:
-水、
-アルカリ土類金属の誘導体、
-式(I):
【化1】
式中、Rが、任意選択的に置換されたC
1-C
6脂肪族基、より具体的には、(C
1-C
6)アルキル基である、のレチノールのエステル、
-任意選択的に、炭酸塩、と混合することにより、固定色を有する金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の前記水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された前記水性インクのゲルベースのマトリックスに撹拌しながら添加し、それにより、内部に金または銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記水性懸濁液中の金または銀塩の総量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.05~1重量%の範囲内である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
アルカリ土類金属の前記誘導体が、アルカリ土類金属ハロゲン化物、具体的にはアルカリ土類金属塩化物、より具体的には塩化マグネシウムまたは塩化カルシウムである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記水性懸濁液中のアルカリ土類金属誘導体の総量が、
前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.01~0.1重量%の範囲内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記水性懸濁液中のレチノールのエステルの総量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.5~5重量%の範囲内にある、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記炭酸塩が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記水性懸濁液中の炭酸塩の総量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.05~0.2重量%の範囲内にある、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
ステップ(ii)において取得された前記金または銀ナノ粒子が、球形または多面体形状を有し、および/またはステップ(ii)において取得された前記金または銀ナノ粒子が、10~200nmの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀または金のナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセス、該プロセスによって取得可能であり、そのインクがいかなる染料および顔料も含まない、水性ゲルインク、および該固定色を有する水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
US8870998は、還元プロセスを通じて、金属イオンが、少なくとも1,000g/モルの重量平均分子量を有する少なくとも1つのポリマー安定剤の存在下で少なくとも1つの還元剤によって還元される金属ナノ粒子を生成するためのプロセスを開示する。還元剤は、無機水素化物、無機チオ硫酸塩またはチオ硫酸、無機硫化物または硫化水素、無機亜硫酸塩、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、水素、一酸化炭素、アセチレン、シュウ酸またはシュウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酒石酸または酒石酸塩、一価または多価アルコール、糖、および無機リン化物、のうちの1つである。
【0003】
WO2006/072959は、金属ナノ粒子の水性ベースの分散液を調製するための方法を開示し、(i)金属塩の水性懸濁液を提供することと、(ii)金属還元が可能な水溶性ポリマーによって該金属塩懸濁液を予備還元して、金属核を形成することと、(iii)化学還元剤を添加して、分散液中の金属ナノ粒子を形成することと、を含む。化学還元剤は、クエン酸三ナトリウム、アスコルビン酸、酒石酸二ナトリウム、ヒドラジン、および水素化ホウ素ナトリウムから選択される。
【0004】
JP-A-2008297323は、保護コロイドでコーティングされた金属ナノ粒子の分散液と、溶剤と、を含み、保護コロイドが、酸素または窒素原子含有ビニルポリマー、カルボン酸、およびチオールから選択される、書き込みに好適なインク組成物を開示する。金属ナノ粒子は、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤での金属塩の処理によって取得される。
【0005】
本発明の目的のうちの1つは、高価であり、かつ高い製造コストを引き起こすという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。本発明の別の目的は、例えば、皮膚および眼などの生体膜を刺激するという欠点を有し、アレルギーを引き起こし得る、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。本発明の別の目的は、水性ゲルインクを調製するときに毒性または腐食性試薬を使用することを可能な限り回避することである。
【0006】
この目的のために、本発明者らは、従来の水性ゲルインク中の染料および顔料を金属ナノ粒子で置き換えることにより、固定色を有するUV耐光性水性ゲルインクを取得することが可能な具体的なプロセスを開発した。本プロセスは、特定の還元剤を使用する金属ナノ粒子の分散液を調製することを含み、これは、安定剤、例えば、ポリマー安定剤を使用すること、またはそれらの合成中にナノ粒子をコーティングすることを回避する。さらに、本発明のプロセスは、低温範囲で実施され、生態学的に実行可能な方法で機能し、また生態学的要件も考慮に入れる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスに関し、
(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金または銀塩を以下:
-水、
-アルカリ土類金属の誘導体、
-式(I):
【化1】
式中、Rは、任意選択的に置換されたC
1-C
6脂肪族基、具体的には、(C
1-C
6)アルキル基である、のレチノールのエステル、
-任意選択的に、炭酸塩、と混合することにより、固定色を有する金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インクのゲルベースのマトリックスに撹拌しながら添加し、それにより、内部に金または銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0008】
本発明はまた、内部に分散された金または銀ナノ粒子を含む、上記のプロセスによって取得可能な固定色を有する水性ゲルインクに関する。
【0009】
本発明はまた、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された、固定色の水性インクの使用に関する。
【0010】
本発明はまた、(i)上記で定義された固定色を有する水性ゲルインクを含有する軸方向バレル、および(ii)軸方向バレル内に貯蔵された水性ゲルインクを送出するペン本体を含む、筆記具に関する。
【0011】
本発明によるプロセスは、プラズモン効果(プラズモニック効果とも呼ばれる)を呈する、水性インク組成物を取得することが可能である。したがって、使用される成分の含有量に応じて、組成物の異なるプラズモニック色が、取得され得る。
【0012】
プラズモニック色は、銀または金のナノ粒子による光の吸収、および/または組成物内のそれらの間の間隔に起因する。
【0013】
それらのサイズ、形状、および距離に応じて、金または銀ナノ粒子の分散体の色、ならびにその特性は変化する可能性がある。これはプラズモン共鳴によるものである。金または銀ナノ粒子を特定の周波数の波にさらすと、電子が特定の場所に集まり、金または銀ナノ粒子のサイズおよび形状に応じて変化する。この電子の凝集は、金または銀ナノ粒子の異方性を引き起こし、それが、次いで光の吸収および散乱の変化につながり、具体的な色をもたらす。プラズモン共鳴はまた、該金または銀ナノ粒子の結合に起因する金または銀ナノ粒子間の距離により影響を受ける。実際、金または銀ナノ粒子が近いほど、さらにそれらは互いに相互作用し、プラズモン効果とも呼ばれる、それらの結合効果を増加させる。同様に、形状はプラズモン共鳴に影響を与える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一態様では、本発明は、固定色を有する水性インクを調製するためのプロセスに関し、
(i)水性インクのマトリックス、より具体的にはゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金または銀塩を以下:
-水、
-アルカリ土類金属の誘導体、
-式(I):
【化2】
式中、Rは、任意選択的に置換されたC
1-C
6脂肪族基、具体的には、(C
1-C
6)アルキル基である、のレチノールのエステル、
-任意選択的に、炭酸塩、と混合することにより、固定色を有する金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インク、より具体的には水性ゲルインクのマトリックスに撹拌しながら添加し、それにより、内部に金または銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性インク、より具体的には水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0015】
本発明の目的のために、「インク」という用語は、「筆記用インク」、すなわち、筆記具、特にペンで使用されることを意図されたインクを意味することを意図される。筆記用インクは、印刷機で使用され、同じ技術的制約、したがって同じ仕様を有しない「印刷用インク」と混同してはならない。実際、筆記用インクは、そのサイズが、筆記具のチャネルよりも大きい固体粒子を含有してはならず、これは、必然的に不可逆的に筆記が停止されることになる、筆記具の詰まりを回避するためである。さらに、使用される筆記具に好適なインク流量、特に100~500mg/200mの筆記流量、具体的には150~400mg/200mの筆記流量を可能にしなければならない。インクはまた、筆記媒体を汚すことを回避するために、十分に急速に乾く必要がある。インクはまた、経時的な移染(出液)の問題を回避する必要がある。
【0016】
さらに、「筆記用インク」は、筆記中の漏出を回避するために、流動性が高すぎてはならない。しかしながら、筆記動作の流れを容易にするために、十分に流動的である必要がある。
【0017】
本発明の特定の場合では、筆記用インクは、より具体的に「ゲルインク」(したがってチキソトロピー性インクに相当する)であり得、特に20℃で、静止状態(0.01s-1のせん断速度)で測定された粘度は、例えば、60mmの円錐および1°の角度を有するMalvern KINEXUSなどのコーンプレート型レオメータなどの同じレオメータを使用して、20℃で5000s-1のせん断速度で測定された粘度とは異なり、特により高くなる。特定の実施形態では、これらの条件下で測定された本発明によるゲルインクの粘度は、1s-1のせん断速度では、1,000~7,000mPa.s、具体的には2,000~5,000mPa.s、より具体的には2,500~3,500mPa.sの範囲であり、5,000s-1のせん断速度では、具体的には5~50mPa.s、より具体的には7~40mPa.s、さらにより具体的には10~20mPa.sの範囲である。具体的には、そのような粘度は、40℃および20%の相対湿度で少なくとも3ヶ月の間の貯蔵中安定的であり、特に粘度は、50%超で減少することはない。より具体的には、筆記後数分での静的漏出を回避するために、せん断後の静止時の粘度への復帰は、非常に迅速であり、具体的には最大で数分である。
【0018】
本発明の目的に関して、「固定色」という用語は、目視観察による水性ゲルインクの色が、具体的には紙、段ボールまたは織物の吸収性支持体上への塗布前と、吸収性支持体上への塗布後とで、7暦日(1週間)以内で同じであることを意味することを意図する。
【0019】
上記に示したように、本発明の固定色を有する水性ゲルインクは、水性インクのゲルベースのマトリックスを金または銀ナノ粒子の水性懸濁液と混合することによって取得される。水性ゲルインクは、水を含み、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、およびレオロジー改質剤のうちの少なくとも1つを含み得る。存在するとき、これらの原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスの調製中に有利には添加される。水性ゲルインクは、水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンなどのpH調整剤、潤滑剤、合体剤、架橋剤、湿潤剤、可塑剤、酸化防止剤、およびUV安定剤から選択される、1つ以上の添加剤をさらに含み得る。存在するとき、これらの添加剤は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスの調製中に添加される。
【0020】
水性ゲルインクは、その原料の単純な混合によるなど、当業者に周知のプロセスによって調製される。本発明の全体的なプロセス(すなわち、ステップ(i)~(iii))は、概して、広範囲の温度にわたって実施することができる。典型的に、プロセスは、0~100℃、具体的には5~70℃、より具体的には10~40℃の温度範囲内で実施される。比較的低いプロセス温度は、プロセス効率とプロセス経済性に貢献し、さらに現在の生態学的要求を満たす。実際、本発明のプロセスは水性媒体中で実施され、したがって「グリーンプロセス」である。加えて、低温は、より安定した分散液が取得され、金または銀ナノ粒子がより優れた再分散性を呈するという利点を有する。
【0021】
一実施形態では、水性ゲルインクは、助溶剤を含み、助溶剤は、具体的には、水に混和性の極性溶剤であり、より具体的には、以下:
-トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノールなどのグリコールエーテル、
-アルコール、具体的には、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのC1-C15の直鎖または分枝鎖アルコール、
-酢酸エチルまたは酢酸プロピルなどのエステル、
-炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンなどの炭酸エステル、
-メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトンまたはシクロヘキサノンなどのケトン、および
-それらの混合物から選択される助溶剤である。
【0022】
一実施形態では、助溶剤は、グリコールエーテルであり、より具体的には、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、およびそれらの混合物から選択される。さらに有利な実施形態では、助溶剤は、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物から選択される。
【0023】
水性ゲルインク中の助溶剤(存在するとき)の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約5~約35重量%、より具体的には約9~約30重量%、さらにより具体的には約11~約25重量%の範囲内である。
【0024】
一実施形態では、水性ゲルインクは、抗菌剤を含み、抗菌剤は、具体的には、イソチアゾリノンであり、より具体的には、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、およびそれらの混合物から選択される。
【0025】
水性ゲルインク中の抗菌剤(存在するとき)の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約0.01~約0.5重量%、より具体的には約0.1~約0.2重量%の範囲内である。
【0026】
一実施形態では、水性ゲルインクは、腐食防止剤を含み、腐食防止剤は、具体的には、トリトリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびそれらの混合物から選択される。
【0027】
水性ゲルインク中の腐食防止剤(存在するとき)の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約0.05~約1重量%、より具体的には約0.07~約0.5重量%、さらにより具体的には約0.08~約0.15重量%の範囲内である。
【0028】
一実施形態では、水性インクは、消泡剤を含み、消泡剤は、具体的にはポリシロキサン系消泡剤、より好ましくは変性ポリシロキサンの水性エマルジョン(Synthron製のMOUSSEX(登録商標)、Evonik製のTEGO(登録商標)Foamexなど)である。
【0029】
水性ゲルインク中の消泡剤(存在するとき)の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約0.05~約1重量%、より具体的には約0.1~約0.5重量%、さらにより具体的には約0.2~約0.4重量%の範囲内である。
【0030】
一実施形態では、水性インクは、ゲル化効果を生成することができるレオロジー改質剤を含み、レオロジー改質剤は、具体的には、キサンタンガム、アラビアガム、およびそれらの混合物などの多糖類であり得る。
【0031】
水性ゲルインク中のレオロジー改質剤(存在するとき)の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約0.08~約2重量%、より具体的には約0.2~約0.8重量%、さらにより具体的には約0.3~約0.6重量%の範囲内である。
【0032】
一実施形態では、水性ゲルインクは、いずれの還元剤またはいずれの酸化剤も含有しない。本発明のプロセスのステップ(ii)において調製される水性懸濁液は、水に加えて、金または銀ナノ粒子、アルカリ土類金属の少なくとも1つの誘導体、式(I)のレチノールのエステル、および任意選択的に、炭酸塩を含む。
【0033】
金または銀ナノ粒子は、典型的に、金塩(それぞれ、銀塩)と還元剤との反応によって取得される。一実施形態では、金塩は、任意選択的に、三水和物の形態のHAuCl4である。一実施形態では、銀塩は、AgNO3、AgClO4、Ag2SO4、AgCl、AgBr、AgOH、Ag2O、AgBF4、AgIO3、およびAgPF6のうちの少なくとも1つであり、より具体的には、銀塩は、AgNO3、特にAgNO3の水溶液である。
【0034】
一実施形態では、水性懸濁液中の金または銀塩の総量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、約0.05~約1重量%、具体的には約0.01~約0.05重量%の範囲である。
【0035】
金または銀ナノ粒子は、金または銀塩が還元剤と接触するときに形成される。
【0036】
還元剤は、アルカリ土類金属の誘導体、式(I)のレチノールのエステル、および任意選択的に、炭酸塩を含む。
【0037】
一実施形態では、アルカリ土類金属の誘導体は、アルカリ土類金属ハロゲン化物、具体的にはアルカリ土類金属塩化物、より具体的には塩化マグネシウムまたは塩化カルシウム、さらにより具体的には塩化マグネシウムである。
【0038】
一実施形態では、水性懸濁液中のアルカリ土類金属誘導体の総量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、約0.01~約0.1重量%、具体的には約0.02~約0.08重量%の範囲である。
【0039】
レチノールのエステルは、式(I):
【化3】
式中、Rは、任意選択的に、置換されたC
1-C
6脂肪族基である、の化合物である。
【0040】
一実施形態では、脂肪族基は、アルキル基、具体的には(C1-C6)アルキル基、より具体的には(C1-C4)アルキル基、さらにより具体的にはメチル基である。
【0041】
一実施形態では、脂肪族基の置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、(C1-C3)アルキル、および/または(C1-C3)アルコキシのうちの少なくとも1つである。
【0042】
一実施形態では、水性懸濁液中のレチノールのエステルの総量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、約0.5~約5重量%、具体的には約1~約4重量%の範囲である。
【0043】
一実施形態では、炭酸塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩、具体的には、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、およびそれらの混合物のうちの少なくとも1つ、より具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、および炭酸バリウムのうちの少なくとも1つ、さらにより具体的には、炭酸カルシウムである。
【0044】
一実施形態では、水性懸濁液中の炭酸塩の総量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、約0.05~約0.2重量%、具体的には約0.1~約0.15重量%の範囲である。
【0045】
一実施形態では、水性懸濁液は、炭酸塩を含む。
【0046】
ステップ(ii)において取得された金銀ナノ粒子の水性懸濁液は、固定色を有し、その色は、ナノ粒子のタイプ(金または銀)および使用される還元剤の量に応じて変化し得る。
【0047】
一態様では、本発明はまた、ステップ(ii)により固定色を有する金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するためのプロセス、およびステップ(ii)により取得可能な水性懸濁液に関する。
【0048】
一態様では、本発明はまた、金または銀ナノ粒子を含む、上記で定義された本発明のプロセスによって取得可能な固定色を有する水性ゲルインクに関する。
【0049】
一実施形態では、水の総量は、水性ゲルインクの総重量に対して、約50重量%~約95重量%、具体的には約60重量%~約90重量%、より具体的には約70重量%~約85重量%の範囲である。
【0050】
一実施形態では、水性インク中の金または銀ナノ粒子の総量は、水性ゲルインクの総重量に基づいて、約0.05~約5重量%、具体的には約0.05~約0.5重量%、より具体的には約0.07~約0.4重量%の範囲である。
【0051】
一実施形態では、本発明の固定色を有する水性ゲルインク中に存在する金または銀ナノ粒子は、球の形状または多面体形状、具体的には多面体形状を有する。
【0052】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、本発明の金または銀ナノ粒子は、具体的には約10~200nm、およびより好ましくは約50~約150nmの範囲の平均粒子サイズを有する。この平均粒径は、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0053】
一実施形態では、本発明の固定色を有する水性ゲルインクで吸収支持体上に書き込んだ後、吸収支持体上に塗布される水性ゲルインク内の金または銀ナノ粒子間の距離は、3μmより低く、具体的には100nm~2μm、より具体的には500nm~1.5μmである。
【0054】
より具体的には、本開示の固定色を有する水性インクおよびステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の水性懸濁液は、アルカリ土類金属塩、より具体的にはマグネシウムまたはカルシウム塩を含む。
【0055】
本発明の水性ゲルインクの固定色は、ステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の水性懸濁液の固定色と同じである。したがって、具体的には、金または銀ナノ粒子は、本発明の水性ゲルインクの唯一の着色剤である。この場合、本発明による水性ゲルインクは、金または銀ナノ粒子以外のいずれの着色剤を含有しない。
【0056】
一態様では、本発明は、固定色を有する水性インクを調製するためのプロセスに関し、
(i)水性インクのマトリックスを調製するステップと、
(ii)金または銀塩を以下:
-水、
-アルカリ土類金属の誘導体、
-式(I):
【化4】
式中、Rは、任意選択的に置換されたC
1-C
6脂肪族基、具体的には、(C
1-C
6)アルキル基である、のレチノールのエステル、
-任意選択的に、炭酸塩、と混合することにより、固定色を有する金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された金または銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インクのマトリックスに撹拌しながら添加し、それにより、内部に金または銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性インクを取得するステップと、を含む。
【0057】
一態様では、本発明はまた、特に内部に分散された金または銀ナノ粒子を含み、特に本開示において定義される、上記のプロセスにより取得可能な固定色を有する水性インクに関する。
【0058】
本発明の固定色を有する水性インクはまた、前述のように、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なインク原料を含み得る。これらの原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0059】
一態様では、本発明は、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された、固定色の水性インク、より具体的には固定色の水性ゲルインクの使用に関する。一実施形態では、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0060】
一態様では、本発明は、本発明による、固定色を有する水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクを用いて、具体的には上記で定義した、吸収支持体上に書き込むことを含む、書き込み方法に関する。
【0061】
一態様では、本発明は、
-本発明による水性インク、より具体的には水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-軸方向バレル内に貯蔵された水性インク、より具体的には水性ゲルインクを送出するペン本体と、を含む、筆記具に関する。
【0062】
一実施形態では、筆記具は、ジェルペン、フェルトペン、修正液、マーカから選択され、具体的にはジェルペンである。
【0063】
したがって、本発明は、ステップ(i)において水性インクのマトリックスを調製する、水性インクを調製するためのプロセスに関する。したがって、本発明はまた、そのようなプロセスを通じて取得可能な水性インクに関する。水性ゲルインクの調製のプロセスに関して、およびこのプロセスを通じて取得することができる水性ゲルインクに関して、本明細書に記載の様々な実施形態は、特に成分の性質および/または含有量に関して、水性インクの調製のプロセス、およびそのように取得された水性インクについても同様に考慮することができる。水性インク、その調製プロセス、および水性インクのマトリックスに関するこれらの実施形態もまた、本発明の一部である。
【0064】
本発明は、例示のみとして与えられた以下の実施例に照らしてよりよく理解されるであろう。
【0065】
実施例1:本発明のプロセスによる、ビタミンA酢酸塩および金ナノ粒子に基づく、固定色を有する水性ゲルインクの調製
水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。
【0066】
別のステップにおいて、1mLの蒸留水を、0.025gのビタミンA酢酸塩(商品名:酢酸レチニルSigma Aldrich)と混合した。混合物を、ホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。50μLの塩化マグネシウム(100mM)(塩化マグネシウム無水物-Merck)の溶液および100μLの炭酸カルシウム(150mM)(炭酸カルシウム-Prolabo)の溶液を、混合物に添加し、400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0067】
50μLの塩化金(III)三水和物(Sigma-Aldrich製の520918-1G)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で、10分間撹拌された混合物に添加した。塩化金(III)三水和物の溶液の(連続的な)添加が完了するとき、茶色の水性懸濁液が取得された。
【0068】
次いで、取得された金ナノ粒子の水性懸濁液を、水性インクのゲルベースのマトリックスと混合して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の固定色(茶色)を有する水性ゲルインクを取得した。
【0069】
取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込むと、茶色が、即座に現れた。さらに、水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。表1から見られ得るように、水性ゲルインクの色は、経時的に変化しなかった。
【表1】
【0070】
実施例2:本発明のプロセスによる、ビタミンA酢酸塩および銀ナノ粒子に基づく、固定色を有する水性ゲルインクの調製
水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。
【0071】
別のステップにおいて、1mLの蒸留水を、0.025gのビタミンA酢酸塩(商品名:酢酸レチニルSigma Aldrich)と混合した。混合物を、ホモジナイザミキサで400rpmの速度で、5分間均質化した。50μLの塩化マグネシウム(100mM)(塩化マグネシウム無水物-Merck)の溶液および100μLの炭酸カルシウム(150mM)(炭酸カルシウム-Prolabo)の溶液を、混合物に添加し、400rpmの速度で、5分間均質化した。
【0072】
次いで、50μLの硝酸銀(200mM)の溶液を、400rpmの速度で、10分間撹拌された混合物に導入した。硝酸銀の溶液の(連続的な)添加が完了するとき、暗色の水性懸濁液が取得された。
【0073】
次いで、取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液を、水性インクのゲルベースのマトリックスと混合して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色(暗い茶色)を有する水性ゲルインクを取得した。
【0074】
取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込むと、暗い茶色が、即座に現れた。さらに、水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。表2から見られ得るように、水性ゲルインクの色は、経時的に変化しなかった。
【表2】
【0075】
比較例1:金ナノ粒子を含む水性ゲルインクの調製
水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で、15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。
【0076】
50μLの塩化マグネシウム(100mM)(無水塩化マグネシウム-Merck)の溶液を、400rpmの速度で、5分間撹拌された混合物に添加した。
【0077】
次いで、50μLの塩化金(III)三水和物(Sigma-Aldrich製の520918-1G)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で、10分間撹拌された混合物に導入した。塩化金(III)三水和物の溶液の(連続的な)添加が完了するとき、不透明な水性懸濁液が取得された。
【0078】
次いで、取得された金ナノ粒子の水性懸濁液を、水性インクのゲルベースのマトリックスと混合して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の不透明な水性ゲルインクを取得した。
【0079】
取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、変化せず、不透明のままであった。色は、紙上で見ることができなかった。