(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電気抵抗スポット溶接部の疲労強度に優れた亜鉛めっき鋼板、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20241111BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241111BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241111BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20241111BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/60
C23C2/06
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2022532726
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 KR2020017532
(87)【国際公開番号】W WO2021112581
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0158895
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】カン、 キ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】イ、 チョン-ホワン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0073200(KR,A)
【文献】国際公開第2013/047836(WO,A1)
【文献】特表2019-521257(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199922(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171237(WO,A1)
【文献】特開2014-009399(JP,A)
【文献】特開昭61-279311(JP,A)
【文献】特開昭62-063687(JP,A)
【文献】特表2019-532172(JP,A)
【文献】特開2014-122379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00 - 38/60
C23C 2/06
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板、及び前記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、
前記素地鋼板の表面から深さ方向に測定された酸素とシリコン及びマンガンのうち1つまたは2つの濃度プロファイルが、表面から深さ方向に極大点が現れる形態を有し、
前記酸素の濃度プロファイルの極大点が形成される深さと前記シリコン及びマンガンのうち1つの濃度プロファイルの極大点が形成される深さの差が絶対値で0.5μm以下である、亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、
鋼スラブを950~1350℃の温度で加熱する段階、
前記鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を得る段階、
前記熱延鋼板を590~750℃の温度で巻き取って熱延鋼板を得る段階、
前記熱延鋼板を180~250mpmの通板速度で酸洗する段階、
前記熱延鋼板を35~60%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階、
650~900℃から-10~30℃の露点の雰囲気で前記冷延鋼板を再結晶焼鈍する段階、及び
前記焼鈍した冷延鋼板を溶融亜鉛めっきする段階を含む、亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記再結晶焼鈍する段階が、水素(H
2)を5~10体積%含む湿窒素ガス雰囲気で行われる、請求項
1に記載の亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記再結晶焼鈍時の通板速度が40~130mpmである、請求項
2に記載の亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記溶融亜鉛めっきが、420~500℃の鋼板引き込み温度でAl濃度が0.1~0.25質量%である溶融めっき浴に浸漬して行われる、請求項
1に記載の亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
溶融亜鉛めっき後に480~560℃の温度で合金化する段階をさらに含む、請求項
4に記載の亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼スラブが、質量%で、C:0.05~1.5%、Si:2.0%以下、Mn:1.0~30%、S-Al(酸可溶性アルミニウム):3%以下、Cr:2.5%以下、Mo:1%以下、B:0.005%以下、Nb:0.2%以下、Ti:0.2%以下、V:0.2%以下、Sb+Sn+Bi:0.1%以下、N:0.01%以下を含む組成を有する、請求項
1~5のいずれか1項に記載の亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗スポット溶接部の疲労強度に優れた亜鉛めっき鋼板、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境汚染などの問題により自動車排出ガス及び燃費に対する規制は、日々強化されてきている。それにより、自動車鋼板の軽量化による燃料消耗量の減少に対する要求が強くなっており、これに伴って、単位厚さ当たりの強度が高い様々な種類の高強度鋼板が開発されて発売されている。
【0003】
高強度鋼とは、一般的に490MPa以上の強度を有する鋼を意味するが、必ずしもこれに限定するものではなく、変態誘起塑性(Transformation Inducced Plasticity;TRIP)鋼、双晶誘起塑性(Twin Induced Plasticity;TWIP)鋼、二相組織(Dual Phase;DP)鋼、複合組織(Complex Phase;CP)鋼などもこれに該当してよい。
【0004】
一方、自動車鋼材は、耐食性を確保するために表面にめっきを施しためっき鋼板の形態で供給されるが、その中でも亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)または合金化亜鉛めっき鋼板(GA)は、亜鉛の犠牲防食特性を用いて高い耐食性を有するため、自動車用素材として多く用いられる。
【0005】
ところで、高強度鋼板の表面を亜鉛でめっきする場合、スポット溶接性が脆くなるという問題がある。すなわち、高強度鋼の場合には、引張強度とともに降伏強度が高いため、溶接中に発生する引張応力を塑性変形によって解消しにくく、表面に微小クラックが発生する可能性が高い。高強度亜鉛めっき鋼板に対して溶接を行うと、融点の低い亜鉛が鋼板の微小クラックに浸透することがある。その結果、液相金属脆化(Liquid Metal Embrittlement;LME)という現象が起こり鋼板が破壊するようになるだけでなく、疲労強度も低下するという問題が発生する可能性があり、これは鋼板の高強度化に大きな障害となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面によると、電気抵抗スポット溶接部の疲労強度に優れた亜鉛めっき鋼板、及びその製造方法が提供される。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体的な内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面による亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含む亜鉛めっき鋼板であって、上記素地鋼板の表面から深さ方向に測定された酸素とシリコン及びマンガンのうち1つまたは2つの濃度プロファイルが、表面から深さ方向に極大点が現れる形態を有し、上記酸素の濃度プロファイルの極大点が形成される深さと上記シリコン及びマンガンのうち1つの濃度プロファイルの極大点が形成される深さの差が絶対値で0.5μm以下である亜鉛めっき鋼板であってよい。
【0009】
また、本発明の一側面による亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼スラブを950~1350℃の温度で加熱する段階、上記鋼スラブを熱間圧延して鋼板を得る段階、上記鋼板を590~750℃の温度で巻き取って熱延鋼板を得る段階、上記熱延鋼板を180~250mpmの通板速度で酸洗する段階、上記熱延鋼板を35~60%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階、650~900℃で-10~30℃の露点の雰囲気で上記冷延鋼板を再結晶焼鈍する段階、及び上記焼鈍された冷延鋼板を溶融亜鉛めっきする段階を含んでよい。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明は、めっき層を形成する素地鋼板の内部に形成されたO、Si、Mnの濃度プロファイルを適切に制御することで、素地鋼板の表面、すなわち、めっき層と素地鋼板の界面付近の素地鋼板の軟質化を図ることができる。表面に軟質層が形成されることで、スポット溶接時に発生する引張応力が軟質層の塑性変形によって解消され、亀裂の発生個数と長さが低減され、その結果、スポット溶接部の疲労強度に優れた高強度亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態による、極大点深さの差を測定するための酸素(O)とシリコン(Si)またはマンガン(Mn)のGDOESプロファイルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、いくつかの実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、亜鉛めっき鋼板とは、亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)だけでなく、合金化亜鉛めっき鋼板(GA)はもちろん、亜鉛が主に含まれた亜鉛系めっき層が形成されためっき鋼板の全てを含む概念であることに留意する必要がある。亜鉛が主に含まれるとは、めっき層に含まれた元素のうち亜鉛の割合が最も高いことを意味する。但し、合金化亜鉛めっき鋼板では、亜鉛より鉄の割合が高い場合があり、鉄を除いた残りの成分のうち亜鉛の割合が最も高い鋼板まで本発明の範囲に含めることができる。
【0014】
本発明の発明者らは、溶接時に発生する液相金属脆化(LME)は鋼板の表面から発生する微小クラックにその原因があり、これによって疲労破壊にまで至る可能性があることに着目して、表面の微小クラックを抑制する手段に関して研究し、その手段として、鋼板表面を軟質化することが必要であることを見出して本発明に至った。
【0015】
一般的に、高強度鋼の場合には、鋼の硬化能やオーステナイト安定性などを確保するために、炭素(C)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)などの元素を多量に含むことができるが、これらの元素は鋼のクラックに対する感受性を高める役割を果たす。したがって、これらの元素が多量に含む鋼は、微小クラックが容易に発生して、最終的には溶接時に液相金属脆化の原因となる。
【0016】
本発明者らの研究結果によると、素地鋼板の表面から深さ方向に形成される酸素(O)の濃度プロファイルとシリコン(Si)及び/またはマンガン(Mn)の濃度プロファイルの関係を適切に制御した場合、スポット溶接部のLMEに対する抵抗性が増加し、それによりスポット溶接部の疲労強度が増加することがある。
【0017】
すなわち、
図1に例示したように、酸素(O)の濃度プロファイルで極大点が現れる深さ(素地鋼板の表面からの深さを意味する)とシリコン(Si)及び/またはマンガン(Mn)の濃度プロファイルで極大点が現れる深さの差は0.5μm以内に制御される必要がある。
【0018】
このように酸素とシリコン及び/またはマンガンの濃度プロファイルの極大点が現れる深さを一致させる場合、シリコン及び/またはマンガンが酸化物の形態で素地鋼板の内部の一定深さで固定されることを意味し、それにより表面のシリコン及び/またはマンガンの濃度を減少させることができる。
【0019】
通常は、焼鈍過程でシリコン及び/またはマンガンが表面に拡散して表面酸化物を形成するだけでなく、表面のシリコン及び/またはマンガンの活動度(activity)も高くなる。このように表面のシリコン及び/またはマンガンの活動度(含有量に比例)が高くなるということは、これらの元素の含有量が増加することを意味するだけでなく、表面の酸素の活動度を減少させて、表面に存在する炭素の除去を困難にすることを意味する。このように、表面のシリコン及びマンガンの含有量が増加し、脱炭が発生しない場合には、表面のクラックに対する感受性が増加して、亀裂が発生しやすくなり、それによってLMEが増加する可能性が高くなる。
【0020】
ところで、本発明のように酸素とシリコン及び/またはマンガンの濃度プロファイルの関係を制御した場合、表面のシリコン及び/またはマンガンの濃度を減少させるだけでなく、脱炭が円滑に起きて表面に軟質層を形成させることができる。軟質層を形成させた場合には、溶接時に引張応力が作用しても塑性変形が発生することによって応力を吸収することができ、これによってクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
したがって、本発明は、酸素(O)の濃度プロファイルの極大点が発生する深さ(以下、単に「極大点深さ」ともいう)とシリコン(Si)及び/またはマンガン(Mn)の濃度プロファイルの極大点が発生する深さの差を0.5μm以内に制御することで、表層部の軟質化を図り、LME発生を抑制する。本発明の一実施形態では、上記深さの差は、2つのプロファイルの極大値が形成される深さ間の差の絶対値を意味することができる。本発明の一実施形態によると、上記深さの差は0.3μm以内に制限することができ、他の一実施形態では、その値を0.2μm以内、または0.1μm以内に制限することができる。極大点は同じ位置で形成されてもよいため、その値の差の下限は特に定めず、0μmであってもよい。また、各元素ごとに濃度プロファイルの極大点は一つ以上形成されてもよいが、本発明でいう極大点とは、表面から一番目に近い極大点を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態では、上記酸素の極大点深さが上記シリコン及び/またはマンガンの極大点深さよりも小さいことがある。このように各元素の極大点深さを制御する場合には、シリコン及び/またはマンガンが表面に拡散することをより効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明の一実施形態によると、酸素の極大点深さとシリコン及びマンガンのうち1つまたは2つの元素の極大点深さとの差が上述の範囲を満たす場合、本発明の有利な効果を得ることができる。但し、本発明の効果をより確実に得るためには、上記酸素の極大点深さとシリコン及びマンガンの極大点深さとの差が上述の範囲に該当することができる。
【0024】
酸素、シリコン及びマンガンの濃度プロファイルは、技術分野で知られている様々な方法で測定することができるため、必ずしも制限しない。但し、本発明の一実施形態では、GDOES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)を用いて素地鋼板の表面から内部まで測定したプロファイルを利用することができる。
【0025】
本発明の一実施形態では、より確実に軟質層を形成するために、上記極大点での酸素濃度は0.3重量%以上であることがさらに有利である。酸素の極大点が高く現れるほど鋼板内部に存在するシリコンとマンガンを確実に固定して表面に移動することを防止することができるためである。また、本発明の一実施形態によると、上記極大点での酸素濃度は0.4重量%以上であってよく、場合によっては0.5重量%以上であってもよい。極大点での酸素濃度の上限を特に定める必要はないが、通常、極大点での酸素濃度の上限は1.0重量%以下、0.8重量%以下、または0.7重量%以下と定義することができる。
【0026】
したがって、本発明の一実施形態では、鋼の全体的な組成は、高強度のために高合金鋼の高い組成を有するようにするが、クラックが発生する地点である表層部では軟質層を形成すると同時に、内部酸化物の分布を制御することで、溶接時にLMEに対する抵抗性及び溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【0027】
本発明で各元素の極大点及び極大点における濃度は、次のように求めることができる。まず、
図1に示したように、GDOESプロファイルを求める。このとき、上記GDOESプロファイルは、10~30nmの深さ間隔で求めたものを用いることができ、本発明の一実施形態では、20nmの深さ間隔で求めたものを用いた。得られた最初のデータは、
図1に示したように、ほぼ極大点を有した形態を有するが、その正確な位置を決定することが少し困難なこともある。このとき、各地点の酸素濃度は、その地点及び前後の各2地点のデータ値を平均した5点平均値を用いて求めた場合、比較的平滑な形態を示すことができる。
【0028】
このような過程により求められた酸素濃度プロファイルから、極大点及びそれに該当する酸素濃度を求めることができる。極小点は、平滑化された酸素濃度プロファイルにおいて最低値を示す地点であり、極大点は、上記極小値の後の地点で最も高い値を示す部分を意味する。本発明の一実施形態において、上記酸素濃度プロファイルの極大点は、鋼板の表面から4μm後の深さで現れることがある。極大点が表面に近すぎる深さで現れる場合、表面に軟質層が形成され難い場合があるため、上記極大点は表面から一定深さ以上離れた地点で形成されることが有利である。逆に、極大点が表面から非常に遠く離れた場合にも、シリコンやマンガンなどの枯渇効果が十分でない可能性があるため、本発明の一実施形態によると、上記極大点は鋼板の表面から15μm以内の深さで現れることがある。本発明の他の一実施形態によると、上記酸素濃度プロファイルの極大点は表面から10μm以内の深さで現れ、より好ましくは表面から10μm以内の深さで現れることがある。
【0029】
本発明の一実施形態では、上記深さ方向のGDOESの酸素の濃度プロファイルは、鋼板の幅方向の中心部で測定したものを用いることができる。しかしながら、一般的に、鋼板の幅方向の中心部に比べて幅方向のエッジ部でより高い値を有する場合が多いため、スポット溶接性をより効果的に改善するためには、エッジ部で測定したプロファイルを用いることもできる。このとき、エッジ部とは、鋼板の両端部を意味しているが、上記地点に汚染が発生するなど、試験片の健全性に問題がある場合には、端部から幅方向に1mm内側の地点を意味してもよい。
【0030】
本発明で対象とする鋼板は、強度490MPa以上の高強度鋼板であれば、その種類は制限されない。但し、必ずしもこれに制限するものではないが、本発明で対象とする鋼板は、重量比率で、C:0.05~1.5%、Si:2.0%以下、Mn:1.0~30%、S-Al(酸可溶性アルミニウム):3%以下、Cr:2.5%以下、Mo:1%以下、B:0.005%以下、Nb:0.2%以下、Ti:0.2%以下、V:0.2%以下、Sb+Sn+Bi:0.1%以下、N:0.01%以下を含む組成を有することができる。残りの成分は、鉄及びその他の不純物であり、他にも上記には列挙されていないが、鋼中に含まれ得る元素を合計1.0%以下の範囲でさらに含むことまでは排除しない。本発明において、各成分元素の含有量は、特に断りのない限り、重量を基準として表示する。上述した組成は、鋼板のバルク組成、すなわち、鋼板厚さの1/4地点の組成を意味する(以下、同一)。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、上記高強度鋼板としてTRIP鋼などを対象とすることができる。これらの鋼は、細かく区分すると、以下の組成を有することができる。
【0032】
鋼組成1:C:0.05~0.30%(好ましくは0.10~0.25%)、Si:0.5~2.5%(好ましくは1.0~1.8%)、Mn:1.5~4.0%(好ましくは2.0~3.0%)、S-Al:1.0%以下(好ましくは0.05%以下)、Cr:2.0%以下(好ましくは1.0%以下)、Mo:0.2%以下(好ましくは0.1%以下)、B:0.005%以下(好ましくは0.004%以下)、Nb:0.1%以下(好ましくは0.05%以下)、Ti:0.1%以下(好ましくは0.001~0.05%)、Sb+Sn+Bi:0.05%以下、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物を含む。場合によっては、上記に記載されてはいないが、鋼中に含まれ得る元素を合計1.0%以下の範囲までさらに含むことができる。
【0033】
鋼組成2:C:0.05~0.30%(好ましくは0.10~0.2%)、Si:0.5%以下(好ましくは0.3%以下)、Mn:4.0~10.0%(好ましくは5.0~9.0%)、S-Al:0.05%以下(好ましくは0.001~0.04%)、Cr:2.0%以下(好ましくは1.0%以下)、Mo:0.5%以下(好ましくは0.1~0.35%)、B:0.005%以下(好ましくは0.004%以下)、Nb:0.1%以下(好ましくは0.05%以下)、Ti:0.15%以下(好ましくは0.001~0.1%)、Sb+Sn+Bi:0.05%以下、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物を含む。場合によっては、上記に記載されてはいないが、鋼中に含まれ得る元素を合計1.0%以下の範囲までさらに含むことができる。
【0034】
また、上述した各成分元素のうち、その含有量の下限を限定しない場合は、これらを任意元素と見なしても構わず、その含有量が0%になってもよいことを意味する。
【0035】
本発明の一実施形態によると、上記鋼板の表面には、1層以上のめっき層を有することができ、上記めっき層は、GI(Galvanized)またはGA(Galva-annealed)などを含む亜鉛系めっき層であってよい。本発明では、上述したように、酸素の極大点深さとシリコン及び/またはマンガンの極大点深さとの差を適切に制御したため、亜鉛系めっき層が鋼板の表面に形成されても、スポット溶接時に発生する液相金属脆化(LME)の問題を抑えることができる。
【0036】
本発明の一実施形態により上記亜鉛系めっき層がGA層である場合には、合金化度(めっき層内のFe含有量を意味する)を8~13重量%、好ましくは10~12重量%に制御することができる。合金化度が十分でない場合には、亜鉛系めっき層中の亜鉛が微小クラックに浸透して液相金属脆化の問題を引き起こす可能性が残ることがあり、逆に合金化度が高すぎる場合には、パウダリングなどの問題が発生することがある。
【0037】
また、上記亜鉛系めっき層のめっき付着量は、30~70g/m2であってよい。めっき付着量が少なすぎる場合には、十分な耐食性が得られ難く、一方、めっき付着量が多すぎる場合には、製造原価上昇及び液相金属脆化の問題が発生する可能性があるため、上述した範囲内に制御する。より好ましいめっき付着量の範囲は40~60g/m2であってよい。当該めっき付着量は、最終製品に付着しためっき層の量を意味しており、めっき層がGA層である場合には、合金化によりめっき付着量が増加するため、合金化前には、その重量が少し減少することがある。合金化度によって異なるため、必ずしもこれに制限するものではないが、合金化前の付着量(すなわち、めっき浴から付着するめっきの量)は、それより約10%程度減少した値であってよい。
【0038】
以下、本発明の鋼板を製造する一実施形態例について説明する。但し、本発明の鋼板は必ずしも下記の実施形態によって製造される必要はなく、下記の実施形態は本発明の鋼板を製造する好ましい一方法であることに留意する必要がある。
【0039】
まず、上述した組成の鋼スラブを提供し、熱間圧延した後に巻き取る過程によって熱延鋼板を製造することができる。熱間圧延などの条件については特に制限しないが、本発明の一実施形態では、スラブ加熱温度及び巻取り温度を次のように制限することができる。
【0040】
スラブ加熱:950~1350℃
固溶元素を十分に溶体化し、圧延抵抗を減らすためにスラブを950℃以上の温度で加熱する必要がある。本発明の場合には、合金元素が多量含まれることがあるため、上記スラブ加熱温度は1000℃以上であり、好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1150℃以上である。但し、スラブ加熱温度が高すぎる場合には、固溶元素の酸化などの問題が発生することがあり、オーステナイト結晶粒の大きさが粗大になることがあり、エネルギー面でも有利でない。そのため、上記加熱温度の上限は1,350℃、好ましくは1,300℃、より好ましくは1,280℃以下とすることができる。
【0041】
巻取り温度:590~750℃
熱間圧延された鋼板は、この後にコイル状に巻き取られて保管されるが、巻き取られた鋼板は、徐冷過程を経るようになる。このような過程によって鋼板表層部に含まれた酸化性元素が除去されるようになるが、熱延鋼板の巻取り温度が低すぎる場合には、これらの元素の酸化除去に必要な温度より低い温度でコイルが徐冷するため、十分な効果を得ることが難しい。
【0042】
酸洗処理:通板速度180~250mpmで実施
上述した過程を経た熱延鋼板に対して熱延スケールを除去するために、塩酸浴に投入して酸洗処理を行う。酸洗時の塩酸浴の塩酸濃度は10~30体積%の範囲で行い、酸洗の通板速度は180~250mpmで行う。酸洗速度が250mpmを超過する場合には、熱延鋼板表面スケール(scale)が完全に除去されない場合があり、酸洗速度が180mpmより低い場合、素地鉄の表層部が塩酸によって腐食する可能性があるため、180mpm以上で行う。
【0043】
冷間圧延:圧下率35~60%
酸洗を行った後に冷間圧延を行う。冷間圧延時の冷間圧下率は35~60%の範囲で行う。冷間圧下率が35%未満であると、特別な問題はないが焼鈍時の再結晶駆動力が不足して、十分に微細組織を制御し難い点が発生することがある。冷間圧下率が60%を超えると、熱延時に確保した内部酸化層の厚さが薄くなって、焼鈍後に十分な内部酸化の深さ及び酸素濃度の極大値を有することが難しい。
【0044】
上述の冷間圧延過程の後には、鋼板を再結晶焼鈍する過程が続くことができる。鋼板の焼鈍過程でも表層部のGDOESの酸素、シリコン及びマンガンの濃度プロファイルが大きく異なることがある。そのため、本発明の一実施形態では、表層部のGDOESの各元素の深さ方向の濃度プロファイルを適切に制御する条件で焼鈍工程を制御することができ、そのうち、通板速度及び焼鈍炉内の露点は、次のような条件で制御できる。
【0045】
通板速度:40~130mpm
十分な生産性を確保するために、上記冷延鋼板の通板速度は40mpm以上である必要がある。但し、通板速度が過度に速い場合には、材質確保の側面から不利であるため、本発明の一実施形態では、上記通板速度の上限を130mpmに定めることができる。
【0046】
焼鈍炉内の露点制御:650~900℃から-10~30℃の範囲に制御
適切な範囲の表層部の脱炭率値を得るために、焼鈍炉内の露点を制御することが有利である。露点が低すぎる場合には、内部酸化ではなく表面酸化が発生して表面にSiやMnなどの酸化物が形成されるおそれがある。これらの酸化物は、めっきに悪影響を及ぼす。したがって、露点は-10℃以上に制御する必要がある。一方、露点が高すぎる場合には、Feの酸化が発生するおそれがあるため、露点は30℃以下に制御される必要がある。このように露点制御のための温度は、十分な内部酸化効果が奏される温度である650℃以上であってよい。本発明の一実施形態において、上述した焼鈍炉内の温度及び露点は、均熱帯の温度及び露点を基準に定めることができる。但し、温度が高すぎる場合には、Siなどの表面酸化物が形成されて酸素が内部に拡散することを妨げるだけでなく、均熱帯の加熱中にオーステナイトが過度に発生して炭素拡散速度が低下し、それにより内部酸化レベルが減少することがあり、均熱帯のオーステナイトの大きさが過度に成長して材質軟化を発生させる。また、焼鈍炉への負荷が生じて設備の寿命を短縮し、工程費用を増加させるという問題を引き起こす可能性があるため、上記露点を制御する温度は900℃以下であってよい。
【0047】
このとき、露点は、水蒸気を含む含湿窒素(N2+H2O)ガスを焼鈍炉内に投入することで調節することができる。本発明の一実施形態によると、上記窒素ガスは5~10%の水素(H2)を含むことができ、これによって露点を適切な範囲内に制御することができる。
【0048】
このような過程によって焼鈍された鋼板は、直ちにめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行い、めっきされた溶融亜鉛めっき鋼板は、この後、必要に応じて合金化熱処理の過程を経ることができる。めっき及び合金化熱処理の好ましい条件は、以下のとおりである。
【0049】
めっき浴鋼板の引き込み温度:420~500℃
めっき浴内の鋼板の引き込み温度が低いと、鋼板と液相亜鉛との接触界面内の濡れ性が十分に確保できないため、420度以上の温度を維持する必要がある。温度が過度に高い場合、鋼板と液相亜鉛との反応が起こりすぎて、界面にFe-Zn合金相であるゼータ(Zetta)相が発生し、めっき層の密着性が低下し、めっき浴内の鋼板のFe元素の溶出量が過度になって、めっき浴内でドロスが発生するという問題がある。
【0050】
めっき浴内のAl濃度:0.10~0.25%
めっき浴内のAl濃度は、めっき層の濡れ性及びめっき浴の流動性の確保のために、適正濃度を維持する必要がある。このために、本発明では、めっき浴内のAl濃度を0.10~0.25%の範囲に制御する。また、合金化処理の有無によってGA(合金化溶融亜鉛めっき、Galvannealed)鋼板と、GI(溶融亜鉛めっき、Galvanized)鋼板に分けられるが、本発明の一実施形態では、めっき浴内のドロス(dross)形成を適正水準に維持し、めっき表面品質及び性能を確保するために、GA鋼板の場合は、Al含有量を0.10~0.15%とすることができ、GI鋼板の場合は、Al含有量を0.2~0.25%に制御することができる。
【0051】
合金化(GA)温度:480~560℃
480℃未満ではFe拡散量が少なく、合金化度が十分でないため、めっき物性が良くないことがあり、560℃を超える場合、過度な合金化によるパウダリング(powdering)問題が発生し、残留オーステナイトのフェライト変態によって材質が劣化することがあるため、合金化温度を上述の範囲に定める。
【0052】
このようにすることで、本願発明の亜鉛めっき鋼板を得ることができる。但し、本発明の一実施形態では、エッジ部の溶接性をさらに改善させるために、エッジ部の加熱過程をさらに含むこともできる。
【0053】
熱延コイルのエッジ部の加熱:600~800℃で5~24時間実施
本発明の一実施形態では、エッジ部のGDOESの酸素の深さプロファイルにおいて極小値と極大値との差値をさらに大きくするために、熱延コイルのエッジ部を加熱することもできる。熱延コイルのエッジ部の加熱とは、巻き取られたコイルの幅方向の両端部、すなわち、エッジ部を加熱することを意味しており、エッジ部の加熱によってエッジ部が酸化に適した温度で先に加熱される。すなわち、巻き取られたコイルの内部は高温で維持されるが、エッジ部は比較的迅速に冷却され、これによりエッジ部は内部酸化に適した温度で維持される時間がより短くなる。したがって、幅方向の中心部に比べてエッジ部では酸化性元素の除去が活発に行われない。エッジ部の加熱は、エッジ部の酸化性元素を除去するための一方法として用いることができる。
【0054】
すなわち、エッジ部の加熱を行う場合、巻き取り後の冷却の場合とは逆に、エッジ部がまず加熱され、これに伴って幅方向のエッジ部の温度が内部酸化に適合するように維持される。その結果、エッジ部の内部酸化層の厚さが増加するようになる。このためには、上記エッジ部の加熱温度は600℃以上(鋼板エッジ部の温度を基準とする)である必要がある。但し、温度が高すぎる場合には、加熱中にエッジ部にスケールが過度に形成されるか、多孔質の高酸化スケール(hematite)が形成されて酸洗後の表面状態が悪くなることがあるため、上記エッジ部の温度は800℃以下であってよい。より好ましいエッジ部の加熱温度は600~750℃である。
【0055】
また、巻き取り時に発生した幅方向のエッジ部と中心部との間の表層部のGDOESの酸素の深さプロファイルで極小値と極大値との間の差値の不均一性を解消するためには、上記エッジ部の加熱時間は5時間以上である必要がある。但し、エッジ部の加熱時間が長すぎる場合には、スケールが過度に形成されるか、却ってエッジ部の表層部のGDOESの酸素の深さプロファイルで極小値と極大値との間の差値が高すぎることがある。したがって、エッジ部の加熱時間は24時間以下であってよい。
【0056】
本発明の一実施形態によると、上記エッジ部の加熱は、空燃比の調節を介した燃焼加熱方式によって行うことができる。すなわち、空燃比の調節によって雰囲気中の酸素分率が変わることがあるが、酸素分圧が高いほど鋼板の表層と接する酸素濃度が増加して、脱炭や内部酸化が増加することがある。必ずしもこれに限定するものではないが、本発明の一実施形態では、空燃比の調節を介して酸素を1~2%含む窒素雰囲気に制御することができる。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、格別の困難なく空燃比の調節を介して酸素分率を制御することができるため、これについては別途説明しない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0058】
(実施例)
下記表1に記載された組成を有する鋼スラブ(表に記載されていない残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。なお、表中のB及びNは、ppm単位で表し、残りの成分は重量%単位で表し、表に示されていない成分の含有量は0重量%であることを意味する。)を1,230℃で加熱して熱間圧延した後、熱延コイルに対してエッジ部の加熱を行い、その後、長さ100mmの酸洗ラインにおいて210mpmの通板速度で鋼板を19.2体積%の塩酸溶液で酸洗してから冷間圧延し、得られた冷延鋼板を焼鈍炉で焼鈍した後、直ちにGAはAlが0.13%であるめっき浴に、GIはAlを0.24重量%含む456℃の亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った。得られた溶融亜鉛めっき鋼板に必要に応じて合金化(GA)熱処理を行い、最終的に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0059】
全ての実施例において、溶融亜鉛めっき浴に引き込む鋼板の引き込み温度を475℃とした。その他の各実施例の別の条件は、表2に記載したとおりである。
【0060】
【0061】
【0062】
上述の過程によって製造された溶融亜鉛めっき鋼板の特性を測定し、スポット溶接時に液相金属脆化(LME)が発生したか否かを観察した結果を表3に示した。スポット溶接は鋼板を幅方向に切断した後、切断されたそれぞれの周縁部位に沿って実施した。スポット溶接電流を2回加えて通電した後、1サイクル(cycle)の保持時間(hold time)を維持した。スポット溶接は、異種3枚重ねで行った。評価素材-評価素材-GA 980DP 1.4t(C 0.12重量%、Si 0.1重量%、Mn 2.2重量%の組成を有する)材の順に積層してスポット溶接を行った。スポット溶接時に新しい電極を軟質材に15回溶接した後、電極を摩耗させてからスポット溶接の対象素材で飛散(expulsion)が発生する上限電流を測定する。上限電流を測定した後、上限電流より0.5及び1.0kA低い電流でスポット溶接を溶接電流別に8回行い、スポット溶接部の断面を放電加工で精密に加工した後、エポキシマウンティングして研磨し、光学顕微鏡でクラック長さを測定した。光学顕微鏡による観察時の倍率は100倍に指定し、当該倍率でクラックが発見されなかった場合には液相金属脆化が発生しなかったものと判断し、クラックが発見された場合にはイメージ分析ソフトウェアで長さを測定した。スポット溶接部の肩部で発生するB-typeクラックは100μm以下、C-typeクラックは未観察時に良好であると判断した。
【0063】
酸素、シリコン及びマンガンの表層部のGDOESの濃度プロファイルにおいて極大点深さ及びその時の濃度は、GDOESプロファイルから求めたデータを5点平均して求めた深さ別の濃度値を用いて計算した。すなわち、表層部のGDOESの酸素、シリコン及びマンガンの濃度プロファイルを得て、上記プロファイルで各元素別の極大点が現れる深さを求めた後、酸素とシリコン及びマンガンの極大点深さの差のうち小さい値を深さの差とした。
【0064】
引張強度はJIS-5号規格のC方向サンプルを製作し、引張試験によって測定した。合金化度及びめっき付着量は、塩酸溶液を用いた湿式溶解法を用いて測定した。
【0065】
GA鋼板については、パウダリング試験及びFlaking試験を行った。パウダリングは、めっき材を90に曲げた後、テープを曲げた部位に接着して剥がし、テープにめっき層の脱落物が何mm付着したかを確認した。テープから剥離するめっき層の長さが10mmを超える場合、不良と確認した。Flaking試験では、逆「コ」状に加工した後、加工部でめっき層が脱落するかを確認した。
【0066】
GI鋼板については、自動車用構造用接着剤を表面に付着して、鋼板を90度に曲げたときにシーラー脱落面にめっき層が剥離して付着されたかを確認するシーラーベンディングテスト(Sealer bending test、SBT)を行った。鋼板の未めっきなどの欠陥があるか否かを目視で表面品質を確認し、目視観察時に未めっきなどの欠陥が見えたら不良と判定した。
【0067】
【0068】
上記表3において、1)は酸素濃度プロファイルとシリコン及び/またはマンガンプロファイルの極大点深さの差のうち小さい値を、2)はパウダリング長さ(mm)、3)は電気抵抗スポット溶接時に発生したB-type LMEクラック長さ(μm)を、4)は電気抵抗スポット溶接時に発生したC-type LMEクラック長さ(μm)を意味する。表中のNDは、未検出(Not Detected)を意味する。
【0069】
発明例1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10は、鋼組成が本発明で提示する範囲を満たし、製造方法も本発明の範囲を満たしており、引張強度、めっき品質、めっき付着量、及びスポット溶接のLMEクラック長さも良好であった。
【0070】
比較例3及び9は、焼鈍炉内の水素濃度が非常に低かった場合である。比較例3及び9は、その結果、表層部の表面酸化量が過度であり、表層部のGDOESの酸素とSiまたはMnの最大値深さとの間の差値が大きくなかった。これにより、十分な脱炭層を形成できず、めっき層及び素地鉄界面に合金化抑制層が十分に形成できず、LMEクラックが基準を満たせず、表面に未めっきが発生して表面品質が劣化し、SBT剥離が発生してめっき密着性が劣化した。
【0071】
比較例1及び6は、熱延工程中の巻取り温度が本発明で提示する範囲を満たせなかった。比較例1は、熱延巻取り温度が本発明が提示する範囲より低く、熱延発生する内部酸化の量が十分でないため、GDOESによる表層部の酸素濃度の極大点深さとSiまたはMn濃度の極大点深さとの間の差値が0.5μmを超え、その結果、LMEクラックが基準を満たせなかった。比較例6は、本発明が提示する熱延巻取り温度を超過して製作され、熱延過程中に発生する内部酸化量が十分でLME特性は良好であったが、熱延スケールが過度に発生してスケールが酸洗時に完全に除去されず、未めっきが発生して表面品質が不良であり、flaking評価時にめっき剥離が発生し、熱延巻取り温度が過度に高くて熱延材質の軟化が発生し、焼鈍後にも回復できず材質が劣化した。
【0072】
比較例12は、焼鈍中の炉内露点が本発明が提示する範囲より低く制御された場合である。熱延加熱工程中に全幅に十分な内部酸化層を発生させても、冷間圧延後の焼鈍過程中に露点が十分高くなくて内部酸化が十分に行えず、GDOESによる表層部の酸素濃度の極大点深さとSiまたはMn濃度の極大点深さとの間の差値のうち小さい値が0.5μm以上であり、表面脱炭の程度が十分でなくてスポット溶接のLMEクラック長さが不良であった。
【0073】
比較例8は、焼鈍炉内の露点が本発明が提示する範囲を超過した場合である。露点が過度に高くなることで内部酸化は十分に発生してLMEクラック長さは良好であったが、過度な内部酸化により材質が劣化して引張強度の基準を満たせず、過度な露点により表面酸化物の発生量も多くなってSBT結果、めっき剥離が発生した。
【0074】
比較例10は、焼鈍炉内の鋼板の通板速度が本発明が提示する範囲より高かった場合である。焼鈍炉内の水蒸気と鋼板が反応する脱炭反応に対する十分な時間が与えられず焼鈍後の鋼板表層部の内部酸化が十分に形成されず、GDOESによる酸素濃度の極大点深さとSiまたはMn濃度の極大点深さとの間の差値が0.5μm以上であり、スポット溶接のLMEクラック評価時の基準を超過して不良であった。
【0075】
比較例2は、焼鈍内の鋼板の通板速度が本発明が提示する範囲より低い場合である。焼鈍炉内の水蒸気と鋼板が反応する脱炭反応時間が過度に与えられて、Siの内部酸化物が素地鉄内に深く形成された。表層部のGDOESによる酸素濃度の極大点深さとSiまたはMn濃度の極大点深さとの間の差値が0.5μm以上であり、スポット溶接のLMEクラック評価時の基準を満たしたが、過度の脱炭によって材質が満足できなかった。
【0076】
比較例5では、焼鈍炉内の均熱帯温度が本発明が提示する範囲を超えた場合である。焼鈍温度が過度になって外部酸化量が増加して十分な内部酸化が行われず、表層部のGDOESの酸素濃度の極大点深さとSiまたはMn濃度の極大点深さとの間の差値が0.5μmを超え、その結果、LMEクラックが基準を満たせず、スポット溶接性が不良であった。また、均熱帯でオーステナイトが過度に形成及び成長して引張強度などの材質が基準を満たせなかった。
【0077】
比較例11では、焼鈍炉内の均熱帯温度が本発明が提示する範囲より低く制御された場合である。焼鈍温度が低く、水蒸気と鋼板との間の酸化反応が十分でないため、内部酸化が十分に行われず、その結果、表層部のGDOESの酸素とSiまたはMnの最大値深さとの間の差値が0.5μmを超過し、したがってLMEクラックが基準を満たせず、スポット溶接性が不良であった。また、焼鈍中に再結晶が十分に行われなくなって、目標とする微細組織が形成されず、引張強度などの材質が基準を満たせなくて不良であり、SBT評価の結果、剥離が発生した。
【0078】
比較例7は、冷間圧延時の圧下率が本発明が提示する基準を超過した場合である。熱延中に形成される内部酸化層が過度の冷間圧延により表面に近い位置であるほど薄くなって極大点が深いところで形成され、極大点間の差が0.5μm以上であり、LMEクラックが基準を満たせなくて不良であった。
【0079】
比較例4は、焼鈍炉内の水素濃度が5体積%未満であって焼鈍炉内の還元雰囲気組成が不十分である場合である。露点の上昇により内部酸化及び脱炭は十分に形成され、元素の極大点深さの差が本発明の基準を充足して、LMEクラック長さは基準を満たしたが、過度の表面酸化物の形成によって未めっきが発生して表面品質が劣化し、SBTめっき剥離が発生した。
【0080】
以上のことから、本発明の有利な効果が確認できた。