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特許7585328焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板、並びにこれらの製造方法
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  • 特許-焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板、並びにこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241111BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241111BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/46 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022536684
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2020017650
(87)【国際公開番号】W WO2021125644
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171888
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ヨン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ハ、 ユ-ミ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 ソン-ホ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/008548(WO,A1)
【文献】特開2007-077510(JP,A)
【文献】特開2005-029867(JP,A)
【文献】特開2007-211338(JP,A)
【文献】特表2018-528323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%、及びCr:1.2%以下(0%を除く)を含み、残部はFe及び不可避不純物からなり、
微細組織として基地組織であるフェライトと残部の硬質組織からなり、
下記の関係式1により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)が70%以上であり、
下記の関係式2により定義されるHelが1.2~2.5の範囲を満たす、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板。
[関係式1]
V(%)={Vtp/(Vgb+Vtp)}×100
前記関係式1において、Vgbは観察領域内のフェライト粒界で観察される短軸が1nm以上の硬質組織の個数を意味し、Vtpは観察領域内のフェライト粒界三重点で観察される短軸が1nm以上の硬質組織の個数を意味する。
[関係式2]
Hel=[C]+0.5×[Mn]+0.75×[Cr]
前記関係式2において、[C]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれC、Mn及びCrの含量(重量%)を意味する。
【請求項2】
前記フェライトの分率は95面積%以上であり、
前記硬質組織はマルテンサイトを含む、請求項1に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板。
【請求項3】
前記冷延鋼板は、重量%で、0.1%以下(0%を含む)のシリコン(Si)をさらに含む、請求項1に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板。
【請求項4】
前記冷延鋼板は、
焼付硬化量(BH、170℃で20分間の熱処理後に引張試験)が30MPa以上であり、
降伏点伸び(YP-El、100℃で1時間の熱処理後に引張試験)が0.2%以下である、請求項1に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の冷延鋼板と、
前記冷延鋼板の少なくとも一側に形成されためっき層又は合金化めっき層と、を含む、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%及びCr:1.2%以下(0%を除く)を含み、残部はFe及び不可避不純物からなる
スラブを加熱する段階と、
前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、
前記熱延鋼板を巻き取る段階と、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を提供する段階と、
前記冷延鋼板を連続焼鈍する段階と、を含み、且つ
前記スラブは、下記の関係式2により定義されるHelが1.2~2.5の範囲を満たし、
前記連続焼鈍は1~10℃/sの昇温速度で(Ac1+5℃)~(Ac3-20℃)の温度範囲まで昇温した後30~240秒間保持する、請求項1に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法。
[関係式2]
Hel=[C]+0.5×[Mn]+0.75×[Cr]
前記関係式2において、[C]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれC、Mn及びCrの含量(重量%)を意味する。
【請求項7】
前記スラブは、重量%で、0.1%以下(0%を含む)のシリコン(Si)をさらに含む、請求項6に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記スラブ加熱温度は1100~1300℃であり、
前記熱間圧延の仕上げ圧延温度は880℃以上であり、
前記巻取温度は400~700℃であり、
前記冷間圧延の圧下率は50~90%である、請求項6に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷延鋼板を440~480℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階と、
選択的に前記溶融亜鉛めっき後460~610℃の温度範囲で20秒以上保持して合金化処理する段階と、をさらに含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れ、自動車の外板用素材に特に適した物性を有する鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の外板用素材は、一定レベルの焼付硬化性及び耐時効性を有することが求められる。焼付硬化現象とは、鋼板の加工中に形成された電位に塗装焼付時に活性化した固溶炭素及び窒素が固着し、鋼板の降伏強度が増加する現象を意味する。焼付硬化性に優れた鋼板は、塗装焼付前の鋼板の成形が容易であり、最終製品では耐デント性が向上する特性を有するため、自動車の外板用素材として非常に理想的な素材と評価される。
【0003】
但し、鋼板の焼付硬化性が増加する場合、逆に鋼板の耐時効性が劣る傾向を示すため、鋼板の焼付硬化性を確保しても、一定の時間が経過するにつれて時効が発生し、それに伴い部品加工時の表面欠陥などが発生する可能性が高くなり得る。したがって、自動車の外板用素材は、適正レベル以上の焼付硬化性を確保するとともに適正レベル以上の耐時効性を備えることが求められる。
【0004】
特許文献1では、Snを添加して焼付硬化性を向上させる技術を提案しているが、焼付硬化性の上昇による耐時効性の劣化問題に対する根本的な解決策を提示してはいない。
【0005】
したがって、適正レベル以上の焼付硬化性及び常温耐時効性を同時に備え、自動車の外板用素材に特に適した物性を有する鋼板の供給が必要であるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本公開特許公報1994-306531号(1994.11.01公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板とこれらの製造方法を提供することができる。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全般的な内容から本発明の更なる課題を理解するのに何らの困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%、Cr:1.2%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物を含み、微細組織として基地組織であるフェライトと残部の硬質組織とを含み、下記の関係式1により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)が70%以上であることができる。
【0010】
[関係式1]
V(%)={Vtp/(Vgb+Vtp)}×100
上記関係式1において、Vgbは観察領域内のフェライト粒界で観察される硬質組織の個数を意味し、Vtpは観察領域内のフェライト粒界三重点で観察される硬質組織の個数を意味する。
【0011】
上記フェライトの分率は95面積%以上であり、上記硬質組織はマルテンサイトを含むことができる。上記冷延鋼板は、下記の関係式2により定義されるHelが1.2~2.5の範囲を満たすことができる。
【0012】
[関係式2]
Hel=[C]+0.5×[Mn]+0.75×[Cr]
上記関係式2において、[C]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれC、Mn及びCrの含量(重量%)を意味する。
【0013】
上記冷延鋼板は、重量%で、0.1%以下(0%を含む)のシリコン(Si)をさらに含むことができる。上記冷延鋼板は、焼付硬化量(BH、170℃で20分間の熱処理後に引張試験)が30MPa以上であり、降伏点伸び(YP-El、100℃で1時間の熱処理後に引張試験)が0.2%以下であることができる。
【0014】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板は、上記冷延鋼板と、上記冷延鋼板の少なくとも一側に形成されためっき層又は合金化めっき層と、を含むことができる。
【0015】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%、Cr:1.2%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物を含むスラブを加熱する段階と、上記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、上記熱延鋼板を巻き取る段階と、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を提供する段階と、上記冷延鋼板を連続焼鈍する段階と、を含み、且つ上記連続焼鈍は1~10℃/sの昇温速度で(Ac1+5℃)~(Ac3~20℃)の温度範囲まで昇温した後、30~240秒間保持して実施することができる。
【0016】
上記スラブは、下記の関係式2により定義されるHelが1.25~2.42の範囲を満たすことができる。
[関係式2]
Hel=[C]+0.5×[Mn]+0.75×[Cr]
【0017】
上記スラブは、重量%で、0.1%以下(0%を含む)のシリコン(Si)をさらに含むことができる。上記関係式2において、[C]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれC、Mn及びCrの含量(重量%)を意味する。上記スラブ加熱温度は1100~1300℃であり、上記熱間圧延の仕上げ圧延温度は880℃以上であり、上記巻取温度は400~700℃であり、上記冷間圧延の圧下率は50~90%であることができる。
【0018】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板の製造方法は、上記製造方法により製造された冷延鋼板を440~480℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階と、選択的に上記溶融亜鉛めっき後460~610℃の温度範囲で20秒以上保持して合金化処理する段階と、をさらに含むことができる。
【0019】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴及びそれによる利点と効果は、以下の具体的な説明を参照してより詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の好ましい一側面によると、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れ、自動車の外板用素材に特に適した物性を有する鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試片1-1の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板とこれらの製造方法に関するものであって、以下では、本発明の好ましい実現例を説明する。本発明の実現例は、様々な形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明される実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0023】
以下、本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板及びめっき鋼板についてより詳細に説明する。
【0024】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%、Cr:1.2%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物を含み、微細組織として基地組織であるフェライトと残部の硬質組織とを含み、下記の関係式1により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)が70%以上であることができる。
【0025】
[関係式1]
V(%)={Vtp/(Vgb+Vtp)}×100
上記関係式1において、Vgbは観察領域内のフェライト粒界で観察される硬質組織の個数を意味し、Vtpは観察領域内のフェライト粒界三重点で観察される硬質組織の個数を意味する。
【0026】
以下では、本発明の合金組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、合金組成の含量に関連する%及びppmは重量を基準とする。
【0027】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、重量%で、C:0.002~0.015%、Mn:1.5~3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.02~0.06%、Cr:1.2%以下(0%を除く)、残部Fe及び不可避不純物を含むことができる。
【0028】
炭素(C):0.002~0.015%
炭素(C)はマルテンサイトの形成に効果的に寄与する成分であって、本発明が目的とする複合組織鋼を製造するためには、一定レベル以上の炭素(C)が添加されなければならない。したがって、本発明は、複合組織鋼の実現による焼付硬化性及び常温耐時効性確保の観点から、炭素(C)含量の下限を0.002%に制限することができる。好ましい炭素(C)含量の下限は0.003%であってもよく、より好ましい炭素(C)含量の下限は0.004%であってもよい。但し、炭素(C)が過度に添加される場合、複合組織鋼の形成には有利であるのに対し、素材の強度が上昇して伸び率が低下し、クライアント社での部品加工時に、製品の表面に屈曲欠陥が発生する可能性が高くなるという問題点が存在する。したがって、本発明は、炭素(C)含量の上限を0.015%に制限することができる。好ましい炭素(C)含量の上限は0.013%であってもよく、より好ましい炭素(C)含量の上限は0.01%であってもよい。
【0029】
マンガン(Mn):1.5~3.0%
マンガン(Mn)は硬化能向上に寄与する成分であるだけでなく、炭素(C)のようにマルテンサイトの形成に効果的に寄与する成分である。したがって、本発明は、複合組織鋼の実現による焼付硬化性及び常温耐時効性確保の観点から、マンガン(Mn)含量の下限を1.5%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含量の下限は1.6%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含量の下限は1.8%であってもよい。一方、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、伸び率が低下して加工性が劣り、組織内にバンド状のマンガン(Mn)酸化物の帯を形成して加工クラック及び板破断が発生する危険性が高くなるという問題点が存在する。また、マンガン(Mn)が過度に添加される場合、焼鈍時にマンガン(Mn)酸化物が鋼板の表面に溶出してめっき性を大きく阻害するという問題点が存在する。したがって、本発明は、マンガン(Mn)含量の上限を3.0%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含量の上限は2.6%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含量の上限は2.3%であってもよい。
【0030】
リン(P):0.03%以下
鋼中のリン(P)は成形性を大きく損なうことなく、強度確保に最も有利な元素である。但し、リン(P)が過度に添加される場合、脆性破壊の可能性が増加し、熱間圧延中にスラブの板破断を誘発し得るだけでなく、めっき鋼板の表面特性を大きく低下させる可能性がある。したがって、本発明はリン(P)含量の上限を0.03%に制限することができる。但し、不可避に流入するレベルを考慮して、本発明はリン(P)含量の下限から0%を除くことができる。
【0031】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は鋼中に不可避に流入する不純物元素であって、可能な限りその含量を低く管理することが好ましい。特に、鋼中の硫黄(S)は赤熱脆性を誘発する可能性があるため、本発明は硫黄(S)含量の上限を0.01%に制限することができる。但し、不可避に流入するレベルを考慮して、本発明は硫黄(S)含量の下限から0%を除くことができる。
【0032】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)も鋼中に不可避に流入する不純物元素である。したがって、可能な限りその含量を低く管理することが好ましいが、製鋼負荷及び操業条件を考慮して、本発明は窒素(N)含量の上限を0.01%に制限することができる。但し、不可避に流入するレベルを考慮して、本発明は窒素(N)含量の下限から0%を除くことができる。
【0033】
酸可溶アルミニウム(sol.Al):0.02~0.06%
アルミニウム(Al)は鋼の粒度微細化と脱酸のために添加される成分である。本発明は、安定した状態のアルミニウムキルド(Al-killed)鋼を製造するために、酸可溶アルミニウム(sol.Al)含量の下限を0.02%に制限することができる。好ましい酸可溶アルミニウム(sol.Al)含量の下限は0.025%であってもよい。一方、アルミニウム(Al)が過度に添加される場合、結晶粒微細化により強度は上昇するのに対し、製鋼連鋳操業時に介在物が過剰に形成されて鋼板の表面品質が劣るだけでなく、製造コストの上昇を招く可能性がある。したがって、本発明は、酸可溶アルミニウム(sol.Al)含量の上限を0.06%に制限することができ、より好ましい酸可溶アルミニウム(sol.Al)含量の上限は0.07%であることができる。
【0034】
クロム(Cr):1.2%以下(0%を除く)
クロム(Cr)は、上述したマンガン(Mn)と類似の特性を有するため、鋼の硬化能を向上させるだけでなく、マルテンサイトの形成に効果的に寄与する成分である。鋼中にクロム(Cr)が添加された場合、熱間圧延中にCr23のような粗大なクロム(Cr)系炭化物を形成し、鋼中の固溶炭素(C)量を適正レベル以下に制御して降伏点伸び(YP-El)の発生を抑制するため、降伏比の低い複合組織鋼を提供することができる。また、クロム(Cr)は、強度上昇に対する伸び率の低下を最小化して複合組織鋼の伸び率確保に効果的に寄与する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにクロム(Cr)を必須として添加することができる。一方、クロム(Cr)が過剰に添加される場合、マルテンサイトの形成割合を過度に増加させるため、伸び率が劣るだけでなく、耐食性が低下する可能性がある。したがって、本発明は、クロム(Cr)含量の上限を1.2%に制限することができ、より好ましいクロム(Cr)含量の上限は0.95%であることができる。
【0035】
また、本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、重量%で、0.1%以下のシリコン(Si)をさらに含むことができる。
【0036】
シリコン(Si):0.1%以下
シリコン(Si)は、固溶強化により鋼の強度上昇に寄与する成分ではあるが、本発明ではシリコンを意図的に添加しない。本発明の場合、シリコン(Si)を添加しなくても目的とする物性を確保することができる。一方、シリコン(Si)含量が一定レベルを超える場合、熱延段階から形成されたSi酸化物により最終めっき材の表面特性を劣化させるという問題点が存在するため、本発明ではシリコン(Si)含量の上限を0.1%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含量の上限は0.08%であってもよい。一方、不可避に流入するレベルを考慮して、本発明はシリコン(Si)含量の下限から0%を除くことができる。
【0037】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、上述の成分以外に残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書ではそのすべての内容を特に言及しない。なお、上記組成以外に有効な成分の添加が排除されるものではない。
【0038】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、下記の関係式2により定義されるHelが1.2~2.5の範囲を満たすことができる。
【0039】
[関係式2]
Hel=[C]+0.5×[Mn]+0.75×[Cr]
上記関係式2において、[C]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれC、Mn及びCrの含量(重量%)を意味する。
【0040】
本発明は炭素(C)含量の範囲を0.002~0.015%の範囲に制限するため、目的とする複合組織を実現するためには、硬化能向上元素であるMn及びCr等の適正な添加が必須であり、関係式2は、これらの硬化能向上元素であるC、Mn及びCrの最適な成分含量を規定する。本発明は、目的とする複合組織を形成するために、関係式2により規定されるHelの下限を1.2に制限することができる。関係式2のHel値が1.2未満の場合、低い硬化能により焼鈍後、急冷によってもマルテンサイトが形成されず、目的とする複合組織を形成することができない。好ましいHel値の下限は1.25であってもよく、より好ましいHel値の下限は1.5であってもよい。一方、Hel値が一定レベルを超える場合、複合組織を形成することができるが、多量の合金元素の添加によって降伏強度及び引張強度の上昇が伴われ、伸び率の低下を招くため、本発明はHel値の上限を2.5に制限することができる。好ましいHel値の上限は2.42であってもよく、より好ましいHel値の上限は2.0であってもよい。
【0041】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、フェライトが基地組織であり、硬質組織が残部組織である複合組織を備えることができる。フェライトの分率が少ないほど相対的に硬質相の分率が増加するため、複合組織を実現するには多少有利であるが、降伏強度及び降伏比の上昇が必然的に伴われ、部品加工時に表面屈曲欠陥の発生可能性が高くなるという問題点が存在する。したがって、本発明は、鋼板の全厚さ(t)を基準にして、フェライトの分率を95面積%以上に制限することができる。
【0042】
残部組織として含まれる硬質組織はマルテンサイトであってもよく、ベイナイト及びパーライトを一部含んでもよい。但し、ベイナイト及びパーライトの形成量はなるべく最小化することが好ましい。本発明のマルテンサイトは、平均直径が1μm以下の微細マルテンサイトであってもよい。マルテンサイトが微細化するほど、固溶炭素(C)又は窒素(N)が固着されるサイト(可動転位)が多量に形成されるため、本発明が目的とする焼付硬化性及び耐時効性をより効果的に確保することができる。一方、マルテンサイトが多量に形成される場合、伸び率が低下するだけでなく、部品加工時に表面屈曲が発生する可能性が存在するため、マルテンサイトの分率を一定レベル以下に制限することが好ましい。したがって、本発明のマルテンサイト分率は2面積%以下(0%を除く)であってもよい。
【0043】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、下記の関係式1により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)が70%以上であってもよい。
【0044】
[関係式1]
V(%)={Vtp/(Vgb+Vtp)}×100
【0045】
上記関係式1において、Vgbは観察領域内のフェライト粒界で観察される硬質組織の個数を意味し、Vtpは観察領域内のフェライト粒界三重点で観察される硬質組織の個数を意味する。
【0046】
一例として、光学又は電子顕微鏡を用いた微細組織を観察する際に、10,000μmサイズの観察領域を指定して当該観察領域内の微細組織を観察し、且つ当該観察領域内のフェライト粒界で観察されるマルテンサイト全体の個数をVgbと規定し、同じ観察領域内のフェライト粒界三重点で観察されるマルテンサイトの個数をVtpと規定して、粒界三重点の硬質組織占有比(V)を算出することができる。
【0047】
ここで、マルテンサイト全体の個数(Vgb)は、顕微鏡を用いて観察領域内の全てのフェライト粒界で観察可能なマルテンサイトの総個数を意味し、粒界三重点のマルテンサイト個数(Vtp)は観察領域内で3個以上のフェライト粒界が出会う点(point)を中心に直径50nm以内の領域を設定した後、当該領域を一部でも占めるマルテンサイトの個数を意味する。
【0048】
本発明の発明者は、鋼板の焼付硬化性及び常温耐時効性の同時確保に関して鋭意研究を行った結果、マルテンサイト全体の分率だけでなく、マルテンサイトの分布が焼付硬化性に多大な影響を及ぼすことが分かった。すなわち、本発明の発明者は、マルテンサイトの分布を制御することにより、マルテンサイト周辺の可動転位と固溶炭素(C)間の相互作用の頻度が制御できることを確認し、焼付硬化性及び常温耐時効性を同時に確保するためにマルテンサイトの分布を最適な条件に制御するという着目から本発明を導出した。
【0049】
マルテンサイトは鋼板の冷却中に形成され、マルテンサイトの周辺には体積膨張によって多量の可動転位が形成される。焼付硬化性を向上させる一つの方案として、マルテンサイトの分率を増加させる方案があるが、この場合、常温耐時効性の劣位が必然的に伴われるため、焼付硬化性及び常温耐時効性を同時に確保するという目的を達成することは非常に難しい。
【0050】
フェライトの粒界には、フェライトの結晶粒内に比べて多量の炭素(C)が濃化し、フェライトの粒界三重点はフェライト粒界の中でも高い炭素(C)濃化度を示す。鋼板に通常の焼付熱処理条件(170℃、20分)を適用する場合、フェライトの粒界三重点からの炭素(C)の拡散が最も活発に起こるため、フェライトの粒界三重点に存在する可動転位に炭素(C)がより容易に固着できることを意味する。一方、人工時効条件(100℃、1時間)では、相対的に温度が低く粒界及びマルテンサイトからの炭素(C)拡散が制限されるため、マルテンサイトの分布度による大きな差異点は発生しない。すなわち、フェライトの粒界三重点に多量のマルテンサイトを分布させる場合、鋼板の常温耐時効性を保持しながらも、焼付硬化性をさらに向上させることができることを意味する。
【0051】
したがって、本発明は関係式2により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)を70%以上に制限するため、常温耐時効性を一定レベルに保持しながらも、焼付硬化性を効果的に向上させることができる。
【0052】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板は、焼付硬化量(BH、170℃で20分間の熱処理後に引張試験)が30MPa以上であり、降伏点伸び(YP-El、100℃で1時間の熱処理後に引張試験)が0.2%以下であることができる。
【0053】
本発明の他の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板は、上述した冷延鋼の少なくとも一側に形成されためっき層又は合金化めっき層を含むことができる。上記めっき層及び合金化めっき層は、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層であってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、自動車の外板用素材として好適な全てのめっき層及び合金化めっき層を含む概念として解釈されることができる。
【0054】
以下では、本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法についてより詳細に説明する。
【0055】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れた冷延鋼板の製造方法は、所定の合金組成で備えられるスラブを加熱する段階と、上記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、上記熱延鋼板を巻き取る段階と、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を提供する段階と、上記冷延鋼板を連続焼鈍する段階と、を含み、且つ上記連続焼鈍は1~10℃/sの昇温速度で(Ac1+5℃)~(Ac3-20℃)の温度範囲まで昇温した後、30~240秒間保持することができる。
【0056】
スラブ加熱
所定の合金組成で備えられるスラブを準備した後、スラブ再加熱を行うことができる。本発明のスラブは、上述の冷延鋼板と対応する合金組成を有するため、スラブの合金組成に対する説明は、上述した冷延鋼板の合金組成に対する説明に代える。
【0057】
スラブ再加熱は、後続する熱間圧延を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われるため、本発明では、このようなスラブ再加熱工程条件について特に制限しない。したがって、本発明のスラブ再加熱は通常の条件であればよく、一例として1100~1300℃の温度範囲でスラブ再加熱を行うことができる。
【0058】
熱間圧延及び巻取
再加熱されたスラブを880℃以上の温度範囲で仕上げ圧延した後、400~700℃の温度範囲で巻き取ることができる。
【0059】
仕上げ熱間圧延はオーステナイト単相域で行うことが好ましい。仕上げ熱間圧延をオーステナイト単相域で行う場合、パンケーキ(pancake)状のオーステナイト及び変形帯(deformation band)を形成するため、最終組織の微細化において有利であるためである。また、オーステナイトとフェライトの二相域で仕上げ熱間圧延が行われる場合、材質不均一性を誘発し、過度な圧延負荷を招く可能性がある。したがって、本発明は、オーステナイト単相域で仕上げ熱間圧延が行われるように、仕上げ熱間圧延の温度範囲を880℃以上に制限することができる。本発明では、仕上げ圧延温度の上限を特に限定してはいない。但し、異常粗大粒の形成による材質不均衡を防止するために、仕上げ熱間圧延温度範囲の上限を950℃に制限することができる。
【0060】
その後、熱間圧延が終了した鋼板を熱延コイルとして巻き取ることができる。巻取温度が一定レベルに達しない場合、マルテンサイト又はベイナイトなどの硬質相が多量に形成され、鋼板の過度な強度上昇を招くことがある。したがって、本発明は、巻取後に後続する冷間圧延における圧延負荷の低減及び形状不良防止の観点から、巻取温度を400℃以上に制限することができる。一方、巻取温度が一定範囲を超える場合、鋼中の酸化性元素の表面濃化が激しくなるという問題点が存在する。したがって、本発明は、鋼板の表面品質及びめっき品質を確保するために巻取温度の上限を700℃に制限することができる。
【0061】
冷間圧延
巻き取られた熱延鋼板は通常の条件で酸洗処理することができ、その後、冷間圧延を適用して冷延鋼板を提供することができる。本発明の冷間圧延は、50~90%の圧下率で行うことが好ましい。もし、冷間圧延の圧下率が一定レベル未満の場合、目標とする鋼板の厚さを確保しにくく、鋼板の形状校正が難しいという問題点が存在するため、本発明は冷間圧延の圧下率の下限を50%に制限することができる。一方、冷間圧延の圧下率が一定レベルを超える場合、鋼板のエッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、過度な圧延負荷が問題となり得るため、本発明は冷間圧延の圧下率の上限を90%に制限することができる。
【0062】
連続焼鈍
本発明が目的とする微細組織、特にフェライトとマルテンサイトの分率及びマルテンサイトの分布度を制御するためには、連続焼鈍条件の厳格な管理が必須である。本発明の目的とする微細組織を確保するために、冷間圧延が完了した冷延鋼板を1~10℃/sの昇温速度で(Ac1+5℃)~(Ac3-20℃)の温度範囲まで昇温した後、30~240秒間保持する連続焼鈍を行うことができる。
【0063】
連続焼鈍時に昇温速度が一定レベル未満の場合、遅すぎる昇温により組織間のサイズ不均一性が深化し、初期のフェライトサイズが必要以上に粗大に形成され、鋼板の強度低下を誘発する恐れがある。すなわち、フェライトの結晶粒サイズが増加するにつれて、フェライト結晶粒界のうちフェライト粒界三重点が占める割合が減少し、目的とするフェライト粒界三重点のマルテンサイト占有比(V)を確保しても、マルテンサイトの全含量が低くなり、目標とする物性を確保し難くなる可能性がある。したがって、本発明は、昇温速度の下限を1℃/sに制限することができ、より好ましい昇温速度の上限は2℃/sであることができる。一方、本発明では、連続焼鈍時に昇温速度の上限を特に規定してはいない。但し、昇温速度が過度に高い場合、現場設備に過度な負担を招くことがあるため、本発明では昇温速度の上限を10℃/sに制限することができる。
【0064】
焼鈍温度は(Ac1+5℃)~(Ac3-20℃)の範囲が好ましい。本発明は、最終鋼板におけるフェライトとマルテンサイトの分率及びマルテンサイトの分布を制御しようとするため、二相域の温度区間で一定時間保持する連続焼鈍を行うことができる。焼鈍温度が過度に低い場合、二相域温度でのオーステナイト分率が過度に低くなることにより、最終鋼板で目的とするレベルのマルテンサイト分率を実現できないという問題点が存在する。したがって、本発明は、目的とするマルテンサイト分率を確保するために、焼鈍温度の下限を(Ac1+5℃)に制限することができる。好ましい焼鈍温度の下限は(Ac1+10℃)であってもよく、より好ましい焼鈍温度の下限は(Ac1+15℃)であってもよい。
【0065】
一方、一般的な590MPa級の二相組織鋼(DP)では、焼鈍温度が高くなる場合、二相域温度でのオーステナイト分率が増加し、これにより最終鋼板で粗大なマルテンサイトが多量に形成されるという問題点が発生することがある。しかし、490MPa級以下の低強度二相組織及び複合組織鋼では、焼鈍温度が高くなる場合、二相域温度でのオーステナイト分率が増加するが、これが最終鋼板においてマルテンサイト分率が高いことを意味するものではない。二相域温度でオーステナイト分率が多くなるというのは、鋼板内に存在する硬化能元素(代表的にC、Mn)がより多いオーステナイト領域に拡散することを意味し、低い二相域温度(少ない二相域オーステナイト分率を意味)に対してオーステナイト内の硬化能元素の濃度が低いことを意味する。すなわち、焼鈍温度が高くなる場合、オーステナイトの安定度を低めて焼鈍後の冷却中、フェライトへの変態が容易になるため、最終的に生成されるマルテンサイト含量がむしろ減少するようになり、目標とするマルテンサイト含量を確保しにくい。すなわち、本発明が目的とする490MPa級以下の低強度複合組織鋼では、焼鈍温度が過度に高い場合、二相域オーステナイトの安定度が過度に低くなるため、最終マルテンサイト分率が低くなり、目的とするレベルの焼付硬化性が確保できないという問題点が存在する。
【0066】
また、本発明の連続焼鈍は、二相域温度区間で行うことを目標とするが、なるべくフェライトの形成に有利な温度区間で連続焼鈍を行うことが好ましい。フェライトの形成に有利な温度区間で連続焼鈍を行う場合、初期フェライトの形成を促進して結晶粒成長においてより有利な環境を提供することができるためである。また、フェライトの形成に有利な温度区間で連続焼鈍を行う場合、オーステナイト内の炭素(C)及びマンガン(Mn)の濃度を増加させるため、マルテンサイトの開始温度(Ms)を下げることができ、後続する冷却工程又はめっき後の冷却工程において、微細かつ均一なマルテンサイトがフェライトの結晶粒に多量に分布して形成されるように誘導することができる。したがって、本発明は、目的とするフェライト粒界三重点のマルテンサイト占有比(V)を確保するために焼鈍温度の上限を(Ac3-20℃)に制限することができる。好ましい焼鈍温度の上限は(Ac3-25℃)であってもよく、より好ましい焼鈍温度の上限は(Ac3-30℃)であってもよい。
【0067】
昇温後の保持時間も、本発明が目的とする微細組織の確保において主要な工程変数である。昇温後の保持時間が一定レベル未満の場合、炭素(C)及びマンガン(Mn)が二相域区間で形成されたオーステナイトに十分に拡散しないため、オーステナイトの安定度を低下させ、焼鈍後の冷却中にオーステナイトが目的のマルテンサイトではなく、他の微細組織に変態する可能性が高くなる。したがって、本発明では、昇温後の保持時間の下限を30秒に制限し、より好ましい昇温後の保持時間の下限は60秒であることができる。一方、昇温後の保持時間が一定レベルを超える場合、初期に形成されたフェライトが必要以上に粗大に形成されるため、最終冷却後に形成されたフェライト及びその他の組織との組織サイズ不均衡を招く可能性がある。このような組織サイズ不均衡は、引張物性、焼付硬化性及び耐時効性を劣らせる原因となるため、本発明では、昇温後の保持時間の上限を240秒に制限することができる。より好ましい昇温後の保持時間の上限は180秒であってもよい。
【0068】
上述の製造工程により製造された冷延鋼板は、微細組織として95面積%以上のフェライト及び残部のマルテンサイトを含むことができ、下記の関係式1により規定される粒界三重点の硬質組織占有比(V)が70%以上を満たすことができる。
【0069】
[関係式1]
V(%)={Vtp/(Vgb+Vtp)}×100
上記関係式1において、Vgbは観察領域内のフェライト粒界で観察される硬質組織の個数を意味し、Vtpは観察領域内のフェライト粒界三重点で観察される硬質組織の個数を意味する。
【0070】
また、上述した製造工程により製造された冷延鋼板は、30MPa以上の焼付硬化量(BH、170℃で20分間の熱処理後に引張試験)及び0.2%以下の降伏点伸び(YP-El、100℃で1時間の熱処理後に引張試験)を満たすことができる。
【0071】
本発明の一側面による焼付硬化性及び常温耐時効性に優れためっき鋼板は、上述した製造方法により製造された冷延鋼板に対してめっき工程を適用することにより提供されることができる。めっき工程の溶融亜鉛めっき工程又は合金化溶融亜鉛めっき工程であってもよいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、通常の自動車外板用素材に適用されるめっき工程は全て適用可能であると解釈されてもよい。
【0072】
めっき工程の非制限的な例として、通常の温度範囲である440~480℃の溶融亜鉛めっき浴(Pot)に上述の冷延鋼板を浸漬する溶融亜鉛めっき工程を適用することができる。また他のめっき工程の非制限的な例として、通常的な温度範囲である440~480℃の溶融亜鉛めっき浴(Pot)に上述の冷延鋼板を浸漬した後、460~610℃の温度範囲で20秒以上保持して合金化処理する合金化溶融亜鉛めっき工程を適用することができる。
【実施例
【0073】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示してより具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。
【0074】
(実施例)
表1の合金組成を有するスラブを準備した後、表2の工程条件を適用して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。それぞれの試片は、1200℃のスラブ再加熱温度条件及び70%の冷間圧延の圧下率が共通的に適用された。各試片における微細組織の観察結果及び物性の測定結果を表2に併せて記載した。
【0075】
粒界三重点の硬質組織占有比(V)は、走査電子顕微鏡(SEM、JEOL JSN-7001F、分解能:1nm)を用いて測定した。具体的に、各試片の厚さ方向の1/4t地点に10,000μmの観察領域を指定した後、観察領域内でフェライトの粒界に存在するマルテンサイトの個数を測定して粒界三重点の硬質組織占有比(V)を算出した。ここで、マルテンサイト全体の個数は、走査電子顕微鏡を用いて観察領域内の全てのフェライト粒界で観察可能なマルテンサイトの総個数を意味する。なお、粒界三重点のマルテンサイト個数は、観察領域内で3個以上のフェライト粒界が出会う点(point)を中心に直径50nm以内の領域を設定した後、当該領域を一部でも占めるマルテンサイトの個数を意味する。
【0076】
焼付硬化性(BH)は、各試片を2%pre-strainして2%であるときのflow-stressを測定し、同試片を170℃で20分間熱処理した後、引張試験を行って測定した。降伏点伸び(YP-El)は、100℃で1時間熱処理した後、引張試験を実施して測定した。このとき、引張試験条件はASTM-e8/e8m-16a規格を適用した。
【0077】
【表1】
【0078】
*Ac1=739-22×[C]-7×[Mn]+2×[Si]+14×[Cr]+13×[Mo]-13×[Ni]
**Ac3=902-255×[C]-11×[Mn]+19×[Si]-5×[Cr]+13×[Mo]-20×[Ni]+55×[V]
【0079】
【表2】
【0080】
本発明が制限する合金組成及び工程条件ともに満たす試片は、本発明が目的とする焼付硬化性及び常温耐時効性のどちらも満たしているのに対し、本発明が制限する合金組成又は工程条件のうちいずれか一つ以上を満たさない試片は、本発明が目的とする焼付硬化性及び常温耐時効性を同時に満たしていないことが確認できる。
【0081】
以上のように、実施例を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載されている特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
図1