(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/26 20210101AFI20241111BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241111BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20241111BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20241111BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20241111BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241111BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B1/04
C25B1/23
C25B3/03
C25B3/07
C25B9/00 A
C25B9/00 G
C25B9/00 Z
C25B15/08 302
(21)【出願番号】P 2023096050
(22)【出願日】2023-06-12
(62)【分割の表示】P 2020050556の分割
【原出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
(72)【発明者】
【氏名】元茂 朝日
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-147679(JP,A)
【文献】特表2015-533944(JP,A)
【文献】特開2004-099927(JP,A)
【文献】特開2017-048087(JP,A)
【文献】国際公開第2019/157507(WO,A1)
【文献】特表2021-512598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00
C25B 3/00
C25B 9/00
C25B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応セルの第1の収容部に二酸化炭素を含むガス又は二酸化炭素を含む第1の電解液を供給すると共に、前記電気化学反応セルの第2の収容部に水を含む第2の電解液を供給する工程と、
前記ガス又は前記第1の電解液中の二酸化炭素を、
前記電気化学反応セルのカソードで還元して炭素化合物を生成し、かつ前記第2の電解液中の水を、前記電気化学反応セルのアノードで酸化して酸素を生成すると共に、前記第2の収容部から酸素及び二酸化炭素を含む排出物を排出する工程と、
前記第2の収容部から排出される前記酸素及び二酸化炭素を含む排出物を燃焼又は酸化装置に送り、前記排出物中の前記酸素を燃焼又は酸化により二酸化炭素に変換し、前記排出物中の二酸化炭素及び前記酸素の燃焼又は酸化により生じた二酸化炭素を排出する工程と、
前記燃焼又は酸化装置から排出された、前記第2の収容部の前記排出物中の二酸化炭素及び前記酸素の燃焼又は酸化により生じた二酸化炭素を、前記電気化学反応セルの前記第1の収容部に再送する工程とを具備
し、
前記電気化学反応セルは前記第1の収容部と前記第2の収容部との間に配置された隔膜又は隔壁を備える、二酸化炭素電解方法。
【請求項2】
前記第1の収容部から排出される排出物のガス成分から二酸化炭素を分離し、分離した二酸化炭素を前記第1の収容部に再送する、請求項1に記載の二酸化炭素電解方法。
【請求項3】
前記第1の収容部から排出される排出物のガス成分から水素を分離する工程を具備する、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解方法。
【請求項4】
前記排出物のガス成分からの水素の分離は、水素の化学吸収装置、水素の物理吸着分離装置、水素の膜分離装置、又は水素の深冷分離装置により実施される、請求項3に記載の二酸化炭素電解方法。
【請求項5】
前記第1の収容部から排出される前記炭素化合物を含む排出物の少なくとも一部を原料として有価物を合成する有価物製造部に送る工程を具備する、請求項1
又は請求項2に記載の二酸化炭素電解方法。
【請求項6】
前記有価物製造部は、前記有価物として燃料又は化学物質を合成する発酵反応装置を具備する、請求項5に記載の二酸化炭素電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二酸化炭素電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題、さらに環境問題の観点等から、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術の開発が進められている。人工光合成技術を実現する電解装置を含む二酸化炭素反応装置は、例えば水(H2O)を酸化して酸素(O2)を生成するアノードと、二酸化炭素(CO2)を還元して炭素化合物を生成するカソードとを備えている。二酸化炭素反応装置のアノード及びカソードは、太陽光発電、水力発電、風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギーに由来する電源に接続される。
【0003】
二酸化炭素反応装置のカソードは、例えばCO2が溶解した水中に浸漬されたり、流路中を流れるCO2と接するように配置される。カソードは、再生可能エネルギーに由来する電源からCO2の還元電位を得ることによって、CO2を還元して一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)、メタン(CH4)、エタノール(C2H5OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エチレングリコール(C2H6O2)等の炭素化合物を生成する。アノードは、水(H2O)を含む電解液と接するように配置され、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。このような二酸化炭素反応装置において、CO2の利用効率、さらにはCO2の還元生成物の利用効率や利用価値を高めることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-506165号公報
【文献】特開2018-070936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、CO2の利用効率を高めることを可能にした二酸化炭素電解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の二酸化炭素電解方法は、電気化学反応セルの第1の収容部に二酸化炭素を含むガス又は二酸化炭素を含む第1の電解液を供給すると共に、前記電気化学反応セルの第2の収容部に水を含む第2の電解液を供給する工程と、前記ガス又は前記第1の電解液中の二酸化炭素を、前記電気化学反応セルのカソードで還元して炭素化合物を生成し、かつ前記第2の電解液中の水を、前記電気化学反応セルのアノードで酸化して酸素を生成すると共に、前記第2の収容部から酸素及び二酸化炭素を含む排出物を排出する工程と、前記第2の収容部から排出される前記酸素及び二酸化炭素を含む排出物を燃焼又は酸化装置に送り、前記排出物中の前記酸素を燃焼又は酸化により二酸化炭素に変換し、前記排出物中の二酸化炭素及び前記酸素の燃焼又は酸化により生じた二酸化炭素を排出する工程と、前記燃焼又は酸化装置から排出された、前記第2の収容部の前記排出物中の二酸化炭素及び前記酸素の燃焼又は酸化により生じた二酸化炭素を、前記電気化学反応セルの前記第1の収容部に再送する工程とを具備し、前記電気化学反応セルは前記第1の収容部と前記第2の収容部との間に配置された隔膜又は隔壁を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態の二酸化炭素反応装置を示す図である。
【
図2】
図1に示す二酸化炭素反応装置における電気化学反応セルの第1の例を示す図である。
【
図3】
図1に示す二酸化炭素反応装置における電気化学反応セルの第2の例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態の二酸化炭素反応装置の第1の変形例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態の二酸化炭素反応装置の第2の変形例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態の二酸化炭素反応装置の第3の変形例を示す図である。
【
図7】第2の実施形態の二酸化炭素反応装置を示す図である。
【
図8】第2の実施形態の二酸化炭素反応装置の第1の変形例を示す図である。
【
図9】第2の実施形態の二酸化炭素反応装置の第2の変形例を示す図である。
【
図10】第2の実施形態の二酸化炭素反応装置の第3の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の二酸化炭素電解方法について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の二酸化炭素反応装置1を示す図である。
図1に示す二酸化炭素反応装置1は、二酸化炭素(CO
2)を含むガス又はCO
2を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部2と水(H
2O)を含む第2の電解液を収容するための第2の収容部3と隔膜4とを有する電気化学反応セル5と、第1の収容部2に前記ガス又は第1の電解液を供給する第1の供給部6と、第2の収容部3に前記第2の電解液を供給する第2の供給部7と、第2の収容部3から酸素(O
2)及びCO
2を含む排出物を排出する排出部に接続され、排出物中のガス成分からCO
2を分離する二酸化炭素分離部8とを具備する。第2の収容部3からの排出ガスについては、後に詳述する。
【0010】
第1の供給部(CO2供給部)6には、CO2発生源9が接続される。CO2発生源9にCO2分離回収装置10が付属している場合、CO2供給部6はCO2分離回収装置10に接続される。CO2分離回収装置10はCO2発生源9とは別に設置されていてもよい。CO2発生源9としては、例えば火力発電所、ゴミ焼却炉のような各種焼却炉や燃焼炉を有する施設、製鉄所、溶鉱炉を有する施設等が挙げられる。CO2発生源9はこれら以外のCO2を発生する各種工場等であってもよく、特に限定されるものではない。第1の収容部2から一酸化炭素(CO)等を含む排出ガスを排出する排出部には、有価物製造部11が接続されている。有価物製造部11は、第1の収容部2から排出されるCO等を原料として有価物を合成する合成部である。有価物製造部11は必要に応じて設けられ、それに代えてCOを含む排出ガスを貯蔵するタンク等であってもよい。
【0011】
電気化学反応セル5は、例えば
図2や
図3に示すような構造を有している。
図2に示す電気化学反応セル5(5A)は、カソード(還元電極)12と、アノード(酸化電極)13と、カソード12とアノード13との間に配置された隔膜4と、CO
2を含むガス又はCO
2を含む第1の電解液をカソード12と接するように流通させる第1の流路14と、水を含む第2の電解液をアノード13と接するように流通させる第2の流路15と、カソード12と電気的に接続された第1の集電板16と、アノード13と電気的に接続された第2の集電板17とを備えている。第1の流路14は第1の収容部2として機能し、第2の流路15は第2の収容部3として機能する。電気化学反応セル5Aの第1及び第2の集電板16、17は、電源18と電気的に接続されている。電気化学反応セルは、スタックされた複数のセルが一体化された状態を有していてもよい。複数のセルを一体配置する場合、単位敷地面積当たりの二酸化炭素反応量が増加するために処理量を増やすことができ、好ましくは10~150程度の積層が好ましい。
【0012】
第1の流路14には、CO2を含むガス又はCO2を含む第1の電解液を供給する第1の供給流路19と生成ガスを排出する第1の排出流路20とが接続されている。第1の流路14はCO2供給部6と接続されている。第1の流路14にCO2を含むガスを供給する場合、CO2供給部6はCO2分離回収装置10から送られたCO2ガスを直接又は一旦貯蔵した上で第1の供給流路19に供給する。第1の流路14にCO2を含む第1の電解液を供給する場合、CO2供給部6はCO2分離回収装置10から送られたCO2ガスを第1の電解液と混合した上で第1の供給流路19に供給する。第1の流路14にCO2を含む第1の電解液を供給する場合、アノード13側と同様な循環経路及びポンプを第1の流路14に接続してもよい。この場合、循環経路に気液分離部が接続される。電気化学反応セル5Aは、第1の流路(ガス流路)14とは別に、第1の電解液(CO2を含んでいてもよいし、含んでいなくてよい)をアノード13と接するように流通させる第3の供給(液流路)を有していてもよい。
【0013】
第2の流路15は電解液供給部7に接続されている。電解液供給部7は、第2の流路15を介して第2の電解液を循環される循環経路21及びポンプ22を有している。循環経路21には気液分離部23が接続されている。気液分離部23で第2の電解液を含む液体成分と生成物を含むガス成分とが分離され、液体成分はポンプ22により第2の流路15を含む循環経路21内を循環する。気液分離部23で分離されたガス成分は、アノード13での生成物である酸素(O2)を含んでいる。さらに、後に詳述するように、第1の流路14に供給されたCO2が第2の流路15に移動するため、ガス成分はCO2も含んでいる。気液分離部23のガス成分排出部はCO2分離部8に接続される。
【0014】
図3に示す電気化学反応セル5(5B)は、CO
2を含む第1の電解液を収容する第1の収容槽24と、H
2Oを含む第2の電解液を収容する第2の収容槽25と、第1の収容槽24と第2の収容槽25との間に配置された隔壁4と、第1の収容槽24内に第1の電解液と接するように配置されたカソード12と、第2の収容槽25内に第2の電解液と接するように配置されたアノード13とを備えている。第1の収容槽24は第1の収容部2として機能し、第2の収容槽25は第2の収容部3として機能する。電気化学反応セル5Bのカソード12及びアノード13は、電源18と電気的に接続されている。
【0015】
第1の収容槽24には、CO2を含むガス又はCO2を含む第1の電解液を供給する第1の供給流路19と、生成ガスを排出する第1の排出流路20が接続されている。第1の供給流路19はCO2供給部6と接続されている。第1の収容槽24の上部には生成ガスを溜める空間があり、この空間に第1の排出流路20が接続されている。第1の収容槽24内にCO2を含む第1の電解液を供給するにあたって、CO2供給部6はCO2分離回収装置10から送られたCO2ガスを第1の電解液と混合した上で第1の収容槽24に供給する。CO2供給部6は、CO2分離回収装置10から送られたCO2ガスを第1の収容槽24内に収容された第1の電解液内に供給してもよい。第1の収容槽24には第2の収容槽25と同様な循環経路及びポンプが接続されていてもよい。
【0016】
第2の収容槽25は電解液供給部7に接続されている。電解液供給部7は、第2の収容槽25を介して第2の電解液を循環される循環経路21及びポンプ22を有している。第2の収容槽25の上部には生成ガスを溜める空間があり、この空間に第2の排出流路26が接続されている。第2の排出流路26から排出されるガス成分は、上述したようにアノード13での生成物である酸素(O2)を含んでおり、さらに第1の収容槽24に供給されたCO2が第2の収容槽25に移動するためにCO2も含んでいる。従って、第2の排出流路26はCO2分離部8に接続されている。
【0017】
第1の収容槽24と第2の収容槽25とは、水素イオン(H+)や水酸化物イオン(OH-)等のイオンを移動させることが可能な隔膜4により分離されており、これにより2室構造の反応槽を構成している。2室構造の反応槽(24、25)は、例えば石英白板ガラス、ポリスチロール、ポリメタクリレート等で形成されていてもよい。2室構造の反応槽(24、25)の一部に光を透過する材料を用いて、残部に樹脂材料を用いてもよい。樹脂材料の例は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアセタール(POM)(コポリマー)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を含む。
【0018】
第1の流路14又は第1の収容槽24に供給される第1の電解液は、カソード溶液として機能するものであり、還元される物質としてCO2を含んでいる。ここで、第1の電解液中に存在するCO2の形態としては、ガス状である必要はなく、溶存したCO2であったり、炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3-)等の形態であってもよい。第1の電解液は、水素イオンを含んでいてもよく、また水溶液であることが好ましい。第2の流路15又は第2の収容槽25に供給される第2の電解液は、アノード溶液として機能するものであり、酸化される物質としてH2Oを含んでいる。第1及び第2の電解液に含まれる水の量や電解液成分を変えて反応性を変化させ、還元物質の選択性や生成物質の割合を変えることができる。第1及び第2の電解液は、必要に応じて酸化還元対を含有していてもよい。酸化還元対としては、Fe3+/Fe2+やIO3-/I-等が挙げられる。
【0019】
電気化学反応セル5(5A、5B)の温度は、室温(例えば25℃)から150℃までの範囲で電解液が気化しない温度とすることが好ましい。より好ましくは60℃から150℃までの範囲の温度であり、さらに好ましくは80℃から150℃までの範囲の温度である。室温未満の温度とするためには、チラー等の冷却装置が必要となり、総合的なシステムのエネルギー効率が低下するおそれがある。150℃を超える温度の場合、電解液の水が蒸気となって抵抗が上昇し、電解効率が低下するおそれがある。カソード12の電流密度は特に限定されないが、単位面積当たりの還元生成物の生成量を上げるためには電流密度は高いほうが好ましい。電流密度は100mA/cm2以上1.5A/cm2以下が好ましく、さらに好ましくは300mA/cm2以上700mA/cm2以下である。100mA/cm2未満では単位面積当たりの還元生成物の生成量が低く、大きな面積を必要とする。1.5A/cm2を超えると水素発生の副反応が増加し、還元生成物の濃度が低下する。電流密度を上げることによりジュール熱も増加する場合、適切な温度以上に上昇してしまうため、電気化学反応セル5又はその付近に冷却機構を設けてもよい。冷却機構は水冷でも空冷でもよい。電気化学反応セル5の温度が室温よりも高い場合であっても、150℃以下の温度であればそのままの温度としてもよい。
【0020】
第1の電解液と第2の電解液とは、異なる物質を含む電解液であってもよいし、同じ物質を含む同じ電解液であってもよい。第1の電解液と第2の電解液とが同じ物質及び同じ溶媒を含む場合、第1の電解液と第2の電解液は1つの電解液であると見なされてもよい。第2の電解液のpHは、第1の電解液のpHより高いことが好ましい。これによって、水素イオンや水酸化物イオン等のイオンが隔膜4を介して移動しやすくなる。また、pHの差による液間電位差により酸化還元反応を効果的に進行させることができる。
【0021】
第1の電解液は、CO2の吸収率が高い溶液であることが好ましい。CO2の第1の電解液中における存在形態は、必ずしも溶解した状態に限られるものではなく、気泡状のCO2が第1の電解液中に混合されて存在していてもよい。CO2を含む電解液としては、例えば炭酸水素リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素セシウム(CsHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)のような炭酸水素塩や炭酸塩、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液が挙げられる。CO2を含む電解液は、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトンのようなケトン類を含んでいてもよいし、アルコール溶液やケトン溶液であってもよい。第1の電解液は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、CO2を吸収するCO2吸収剤を含む電解液であってもよい。
【0022】
第2の電解液としては、水(H2O)を用いた溶液、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。この溶液は水の酸化反応を促進する水溶液であることが好ましい。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
-)、水酸化物イオン(OH-)等を含む水溶液が挙げられる。
【0023】
上述した電解液としては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4
-やPF6
-等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
【0024】
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
【0025】
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0026】
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリへキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
【0027】
イオン液体の陽イオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾールイオン、1-メチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0028】
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0029】
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオン及びピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されていてもよく、不飽和結合が存在してもよい。
【0030】
アニオンとしては、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、BF4
-、PF6
-、CF3COO-、CF3SO3
-、NO3
-、SCN-、(CF3SO2)3C-、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で接続した双生イオンでもよい。なお、リン酸カリウム溶液等の緩衝溶液を第1及び第2の収容槽24、25に供給してもよい。
【0031】
隔膜4には、アニオン又はカチオンを選択的に流通させることができる膜等が用いられる。これによって、カソード12及びアノード13のそれぞれに接する電解液を、異なる物質を含む電解液とすることができ、さらにイオン強度の違い、pHの違い等によって、還元反応や酸化反応を促進させることができる。隔膜4を用いて、第1の電解液と第2の電解液とを分離することができる。隔膜4は、カソード12及びアノード13が浸漬されている電解液に含まれる一部のイオンを透過させる機能、すなわち電解液に含まれる1種以上のイオンを遮蔽する機能を有していてもよい。これによって、例えば2つの電解液の間でpH等を異ならせることができる。また、イオンの遮蔽については、一部のイオンを完全に遮蔽せず、イオン種による移動量を制限する程度の効果を発揮する隔膜でもよい。
【0032】
隔膜4としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)、旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等のイオン交換膜を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。第1の電解液と第2の電解液との間にpH差がある場合、カチオン交換膜とアニオン交換膜を積層させたバイポーラ膜を用いることで、それぞれの電解液のpHを安定に維持したまま使用することができる。
【0033】
隔膜4はイオン交換膜以外に、例えばシリコーン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)等のフッ素系樹脂、セラミックスの多孔質膜、ガラスフィルタや寒天等を充填した充填物、ゼオライトや酸化物等の絶縁性多孔質体等を用いることができる。特に、親水性の多孔質膜は、気泡による目詰まりを起こすことがないため、隔膜4として好ましい。
【0034】
カソード12は、ガスとして供給されるCO2、又は第1の電解液中に含まれるCO2を還元して炭素化合物を生成する電極である。カソード12は、電化セル5Aでは第1の流路14と接するように配置され、電化セル5Bでは第1の収容槽24内に配置され、第1の電解液に浸漬される。カソード12は、CO2の還元反応により炭素化合物を生成するための還元触媒を含んでいる。還元触媒としては、CO2を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が用いられる。言い換えると、CO2の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が用いられる。
【0035】
カソード12としては、例えば金属材料や炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、亜鉛、水銀、インジウム、ニッケル、チタン等の金属、当該金属を含む合金等を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、ケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これらに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体又はRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。還元触媒は複数の材料の混合物であってもよい。カソード12は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の還元触媒を設けた構造を有していてもよい。
【0036】
カソード12での還元反応により生成される炭素化合物としては、還元触媒の種類等によって異なり、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール(C2H6O2)等が挙げられる。また、カソード12においては、CO2の還元反応と同時に、H2Oの還元反応により水素(H2)を発生する副反応が生起される場合がある。
【0037】
アノード13は、第2の電解液中の物質やイオン等の被酸化物質を酸化する電極である。例えば、水(H2O)を酸化して酸素や過酸化水素水を生成したり、塩化物イオン(Cl-)を酸化して塩素を生成する。アノード13は、電気化学反応セル5Aでは第2の流路13と接するように配置され、電気化学反応セル5Bでは第2の収容槽25内に配置され、第2の電解液に浸漬される。アノード13は、H2O等の被酸化物質の酸化触媒を含んでいる。酸化触媒としては、被酸化物質を酸化する際の活性化エネルギーを減少させる材料、言い換えると反応過電圧を低下させる材料が用いられる。
【0038】
酸化触媒材料としては、例えばルテニウム、イリジウム、白金、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン等の金属が挙げられる。また、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、四元系金属酸化物等を用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi-Fe-O、Ni-Co-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等が挙げられる。なお、これらに限定されず、酸化触媒としてコバルト、ニッケル、鉄、マンガン等を含む金属水酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合して用いてもよい。
【0039】
アノード13は酸化触媒と導電性材料の両方を含んだ複合材料でもよい。導電性材料としては、例えばカーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素がドープされた酸化錫(Fluorine-doped Tin Oxide:FTO)、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛(Aluminum-doped Zinc Oxide:AZO)、アンチモンがドープされた酸化錫(Antimony-doped Tin Oxide:ATO)等の透明導電性酸化物、Cu、Al、Ti、Ni、Ag、W、Co、Au等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金が挙げられる。アノード13は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の酸化触媒を設けた構造を有していてもよい。導電性基材としては、例えばチタン、チタン合金、又はステンレス鋼を含む金属材料が用いられる。
【0040】
電源18は、電気化学反応セル5に酸化還元反応を生起する電力を投入するものであって、カソード12及びアノード13と電気的に接続される。電源18から供給される電気エネルギーを用いて、カソード12による還元反応及びアノード13による酸化反応が行われる。電源18とカソード12との間、及び電源18とアノード13との間は、例えば配線で接続されている。電気化学反応セル5と電源18との間には、必要に応じてインバータ、コンバータ、電池等の電気機器を設置してもよい。電気化学反応セル5の駆動方式は、定電圧方式でもよいし、定電流方式でもよい。
【0041】
電源18は、通常の商用電源や電池等であってもよいし、また再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して供給する電源であってもよい。このような電源の例としては、風力、水力、地熱、潮汐力等の運動エネルギーや位置エネルギーを電気エネルギーに変換する電源、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を有する太陽電池のような電源、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池や蓄電池等の電源、音等の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置等の電源が挙げられる。光電変換素子は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。光電変換素子の例としては、pin接合型太陽電池、pn接合型太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、多接合型太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む。また、光電変換素子は、反応槽の内部でカソード12及びアノード13の少なくとも一方と積層されていてもよい。
【0042】
次に、二酸化炭素反応装置1の動作について説明する。ここでは、CO2を還元して主として一酸化炭素(CO)を生成し、かつH2Oを酸化して酸素を生成する場合について述べる。カソード12とアノード13との間に電解電圧以上の電圧を印加すると、第2の電解液と接するアノード13付近でH2Oの酸化反応が生じる。下記の(1)式に示すように、第2の電解液中に含まれるH2Oの酸化反応が生じ、電子が失われ、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。生成された水素イオン(H+)の一部は、隔膜4を介して第1の収容部2内の電解液中に移動する。
2H2O → 4H++O2+4e- …(1)
【0043】
アノード13側で生成された水素イオン(H+)がカソード12付近に到達すると共に、電源18からカソード12に電子(e-)が供給されると、CO2の還元反応が生じる。下記の(2)式に示すように、カソード12付近に移動した水素イオン(H+)と電源18から供給された電子(e-)とによって、電解液中に含まれるCO2が還元されて、一酸化炭素(CO)が生成される。
2CO2+4H++4e- → 2CO+2H2O …(2)
なお、CO2の還元反応は、COの生成反応に限らず、エタノール(C2H5OH)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、酢酸(CH3COOH)、プロパノール(C3H7OH)等の生成反応であってもよい。
【0044】
上記した(1)式に示すように、アノード13側の第2の流路15又は第2の収容槽25から排出されるガス成分は、酸素(O2)ガスを主としているものと考えられてきた。O2ガスと考えられていたアノード13側の排出ガスは、再利用しない限り、大気中に放出されてきた。上記したカソード12及びアノード13における反応において、カソード12側に供給されたCO2は、カソード12で還元反応されるものの、その一部はCO2として、又は炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3
-)等としてアノード13側に流入する。アノード13側に移動した炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3
-)は、アノード溶液(第2の電解液)のpHが例えば6以下になると、化学平衡反応によりCO2として存在するようになり、一部はアノード溶液に溶存する。このようなアノード溶液に溶存しきれないCO2ガスは、アノード13側から排出されるガス中にO2ガスと共に含まれることになる。一般的な電気化学反応セル5の動作条件において、アノード13側からの排出ガス中のCO2とO2との存在比は、例えば3:1まで上昇する場合がある。CO2とO2との比率(体積比)は動作条件により異なり、おおよそCO2:O2=4:6~8:2程度になると考えられる。
【0045】
上記したようなCO2とO2とを含むガスをアノード13側の排出ガスとして大気中に放出した場合、環境への負荷が増大すると共に、CO2の利用効率、CO2の還元生成物の利用効率や利用価値を低下させることになる。そこで、実施形態の二酸化炭素反応装置1においては、電気化学反応セル5の第2の収容部からガス成分(O2及びCO2を含むガス成分)を排出する排出部に、排出ガス中のCO2を分離して取り出すCO2分離部8を接続している。具体的には、電気化学反応セル5Aの場合には、第2の電解液を循環される循環経路21に接続された気液分離部23のガス成分排出部にCO2分離部8が接続される。電気化学反応セル5Bの場合には、第2の収容槽25の上部に設けられた生成ガスの貯留空間に接続された第2の排出流路26にCO2分離部8が接続される。
【0046】
CO
2分離部8で分離されたCO
2ガスは、二酸化炭素反応装置1とは別の装置等で再利用してもよいが、二酸化炭素反応装置1の第1の収容部2で再利用することが好ましい。具体的には、
図4に示すように、CO
2分離部8のCO
2排出口に接続されたCO
2再送流路27をCO
2供給部6に接続することができる。これによって、アノード13側から排出されたCO
2を二酸化炭素反応装置1で再利用することができ、CO
2の利用効率、CO
2の還元生成物の利用効率や利用価値を高めることができる。CO
2再送流路27は、電気化学反応セル5の第1の収容部2に直接接続してもよい。さらに、CO
2再送流路27はCO
2発生源9やCO
2分離回収装置10にCO
2分離部8で分離されたCO
2を再送するように構成してもよい。
【0047】
CO2分離部8としては、CO2の化学吸収装置、CO2の物理吸着分離装置、CO2の膜分離装置、CO2の膜分離装置、燃焼又は酸化装置等を適用することができる。CO2の化学吸収装置としては、アミン溶液を吸収液として使用し、排出ガス中のCO2を吸収液に吸収させた後、加熱することでCO2を吸収液から分離・回収する装置が挙げられる。CO2の化学吸収装置におけるアミンを溶液として用いることに代えて、化学吸収剤であるアミンを多孔質支持体に担持させた固体吸収剤を用いて化学吸収装置を構成することもできる。CO2の物理吸着分離装置としては、ゼオライトやモレキュラーシーブ等の吸着材にCO2又はO2を吸着し、圧力や温度等を変化させることで、主成分又は不純物成分を分離する装置が挙げられる。CO2の膜分離装置としては、活性炭やモレキュラーシーブ等を含む分離膜、分子ゲート膜のような高分子膜等を用いて、CO2を選択的に分離して回収する装置が挙げられる。いずれのCO2分離部8においても、排出ガス中に含まれるCO2濃度はCO2排出源9の排出ガスより高いため、少ないエネルギー投入量でCO2を分離することができる。
【0048】
CO
2分離部8は、
図5に示すように、CO
2と共に排出されるO
2を燃焼させるボイラー等であってもよい。CO
2分離部8としてのボイラーにCO
2とO
2とを含むガスを導入すると、O
2は燃焼によりCO
2となり、当初のCO
2と共に燃焼ガスとして排出される。従って、ボイラーとしての機能を向上させた上で、CO
2を回収することができる。CO
2分離部8としてのボイラーに代えて、各種の燃焼又は酸化装置等を用いることができる。これらは燃焼又は酸化により生じるCO
2を、当初のCO
2と共に分離・回収するものであり、CO
2分離部8として使用することができる。ボイラー等の燃焼又は酸化装置によれば、O
2を有効利用した上で、CO
2を効率よく分離・回収することができる。
【0049】
ここでは、電気化学反応セル5の水を含む第2の電解液を収容する第2の収容部3の排出部にCO2分離部(第1のCO2分離部)8に接続する場合について説明したが、CO2を収容する第1の収容部2の排出部にも、第2のCO2分離部(図示せず)を接続してもよい。第2のCO2分離部の構成は、第1のCO2分離部8と同様であり、同様な構成を備えるCO2分離装置を適用することができる。さらに、第1の収容部2の排出部には、後述するように水素分離部(図示せず)をさらに接続してもよい。
【0050】
有価物製造部11は、第1の収容部2から排出されるCO等を原料として有価物を化学合成する化学合成装置である。電気化学反応セル5の第1の収容部2から排出された生成ガスは、直接利用もしくは消費してもよいが、電気化学反応セル5の後段に化学合成装置を設けることで付加価値の高い有価物を製造することができる。有価物製造部11は、第1の収容部2から生成ガスを排出する第1の排出流路28に接続される。第1の排出流路28には、排出ガスから余剰のCO2を分離したり、排出ガス中の水分を除去することで、生成物であるCO等を分離する生成物分離器等を接続してもよい。有価物製造部11には、第1の収容部2から第1の排出流路28を介してCO等の生成ガスが供給される。例えば、電気化学反応セル5で上記した(2)式によりCOガスが生成されるとき、生成したCOガスと還元反応の副生成物としてのH2ガスとが混合された混合ガスを原料とすることで、メタノール合成によりメタノールを製造したり、またフィッシャー・トロプシュ合成によりジェット燃料や軽油等を製造することができる。
【0051】
有価物製造部11は、上記した化学合成装置に限らず、第1の収容部2で生成された還元生成物から他の物質を反応・合成することができれば、特に限定されるものではない。有価物製造部11による還元生成物の反応は、化学反応、電気化学反応、藻類、酵素、酵母、細菌(バクテリア)等の生物を用いた生物的変換反応等を含む。化学反応、電気化学反応、細菌等の生物的変換反応は、室温よりも温度が高い場合、反応効率及び反応速度の少なくとも一つのパラメータが向上する場合がある。有価物製造部11に導入する還元生成物を60℃以上150℃以下の温度とした場合、二酸化炭素反応装置1のエネルギー変換効率を向上させることができる。細菌等の生物的変換反応は80℃付近で最も効率的に反応が進行するために、60℃以上100℃以下の温度で還元生成物を有価物製造部11に導入すると、さらに効率が向上する。有価物製造部11は反応効率を向上させるために外部からエネルギーを加えて昇温してもよいし、加圧してもよい。
【0052】
還元生成物は、CO2とCOとH2Oの電気分解によるH2を含んでいてもよい。H2濃度は使用形態により任意に調整できる。有価物製造部11でH2を使用する場合、COとH2の混合物として使用するために、CO2を分離して使用してもよい。H2を使用しない場合、COのみを分離する。還元生成物中のCO2やH2を分離する装置としては、化学吸収装置、物理吸着分離装置、膜分離装置、燃焼又は酸化装置等を適用することができる。H2の分離に関しては、深冷分離装置を用いてもよい。また、COのみを分離する場合でも、化学吸収装置、物理吸着分離装置、膜分離装置を適用可能である。この際、各種分離装置は、二酸化炭素反応装置1と有価物製造部11の間に配置される。メタノール等を生成する場合、COのモル数に対してH2のモル数を2倍程度に調整することで、電気化学反応セル5の第1の収容部2における副反応物であるH2を有価物として使用することができる。一方、第1の収容部2では反応条件によりH2の副反応を抑制して、還元生成物中のH2の濃度を体積百分率で0.1%以上5%以下の範囲に調整することもできる。これにより、高濃度なCOを提供するCO製造装置として使用することができる。
【0053】
有価物製造部11は、さらに様々な形態で使用することができる。例えば、CO
2発生源9としての火力発電所や高炉等の種類によっては、例えば
図6に示すように、排出ガス中の各成分が特定の比率で含まれる場合がある。例えば、火力発電所や高炉等から排出されるガスは、N
2とCO
2とを主として含み、さらに副成分としてH
2を含み、CO
2の含有率が15%程度である場合がある。このような排出ガスを直接第1の収容部2に送り、第1の収容部2でCO
2の還元反応を実施すると、生成したCOと副生成物としてのH
2と余剰のCO
2とN
2とを含む混合ガスが第1の収容部2から排出される。このようなCOとCO
2とH
2とN
2とを含む混合ガスは、有価物製造部11として発酵反応装置(ガス発酵や嫌気呼吸)、すなわち嫌気性微生物により燃料又はメタノール、エタノール、ブタノール等の化学物質を生成するバイオ合成装置の原料ガスとして好適な場合がある。このようなバイオ合成装置に上記した第1の収容部2から排出される混合ガスを原料ガスとして供給することによって、CO
2の還元生成物の利用効率や利用価値を高めることができる。さらに、二酸化炭素反応装置1の前段としてのCO
2分離回収装置10も不要になることから、より安価で高効率のシステムを提供することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電気化学反応装置31について、
図7ないし
図10を参照して説明する。
図7は第2の実施形態の二酸化炭素反応装置31を示す図である。
図7に示す二酸化炭素反応装置31は、CO
2を含むガス又はCO
2を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部2とH
2Oを含む第2の電解液を収容するための第2の収容部3と隔膜4とを有する電気化学反応セル5と、第1の収容部2に前記ガス又は第1の電解液を供給する第1の供給部6と、第2の収容部3に前記第2の電解液を供給する第2の供給部7とを具備する。電気化学反応セル5、第1の供給部6、及び第2の供給部7の具体的な構成は、第1の実施形態と同様であり、前述した通りである。
【0055】
第1の供給部(CO2供給部)6には、第1の実施形態と同様に、CO2発生源9又はCO2発生源9に付属するCO2分離回収装置10に接続される。CO2発生源9の具体例は、第1の実施形態と同様である。第1の収容部2からCO等を含む排出ガスを排出する排出部には、有価物製造部11が接続されている。有価物製造部11の具体例も、第1の実施形態と同様であり、それに代えてCO等を含む排出ガスを貯蔵するタンク等を第1の収容部2のガス排出部に接続してもよい。
【0056】
第2の実施形態の二酸化炭素反応装置31においては、第2の収容部3からO2及びCO2を含む排出ガスを排出する排出部を、第1の実施形態で用いたCO2分離部8に接続することなく、直接CO2供給部6に接続している。すなわち、第2の収容部3のガス排出部にCO2再送流路27の一端を接続し、他端をCO2供給部6に接続している。このような構成を採用しても、前述したように第2の収容部3の排出ガスはCO2を比較的高濃度に含むため、第1の収容部2におけるCO2の還元反応の原料として有効に利用することができると共に、第2の収容部3からのCO2の排出を抑制することができる。従って、CO2の利用効率、CO2の還元生成物の利用効率や利用価値を高めると共に、環境への負荷を低減した二酸化炭素反応装置31を提供することができる。
【0057】
第2の収容部3から排出されるガスを再送するCO
2再送流路27は、
図8に示すように、CO
2分離回収装置10に接続してもよい。さらに、CO
2再送流路27は、
図9に示すように、CO
2発生源9に接続してもよい。この際、
図10に示すように、CO
2発生源9が石炭ガス化複合発電プラント(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)のような火力発電装置の場合、燃料として石炭をガス化して使用するにあたって、石炭のガス化反応にO
2を用いている。そこで、第2の収容部3から排出されるO
2及びCO
2を含む排出ガスをCO
2発生源9に再供給することによって、排出ガス中のO
2をCO
2に変換し、排出ガス中のCO
2と共にCO
2供給部6に送ることができる。従って、CO
2の利用効率の向上に加えて、O
2の利用可能性及び利用効率を高めた上で、環境への負荷を低減した二酸化炭素反応装置31を提供することが可能となる。
【0058】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1…二酸化炭素反応装置、2…第1の収容部、3…第2の収容部、4…隔膜、5,5A,5B…電化学反応セル、6…二酸化炭素供給部(第1の供給部)、7…第2の電解液供給部(第2の供給部)、8…二酸化炭素分離部、9…二酸化炭素発生源、11…有価物製造部、12…カソード、13…アノード、14…第1の流路、15…第2の流路、18…電源、24…第1の収容槽、25…第2の収容槽、27…二酸化炭素再送流路。