(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】船舶用筒型舵
(51)【国際特許分類】
B63H 25/38 20060101AFI20241111BHJP
B63H 1/14 20060101ALI20241111BHJP
B63H 11/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
B63H25/38 103
B63H1/14
B63H11/02
(21)【出願番号】P 2023172070
(22)【出願日】2023-10-03
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520240225
【氏名又は名称】山陽造船企業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082049
【氏名又は名称】清水 敬一
(74)【代理人】
【識別番号】100220711
【氏名又は名称】森山 朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-219391(JP,A)
【文献】特開昭59-075898(JP,A)
【文献】特開2010-013087(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110254677(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/38
B63H 1/14
B63H 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧枠及び円弧枠の一対の端縁を接続する弦板を有しかつ推進器軸に沿って配置されるD形断面の外枠と、
外枠の弦板を船舶の船底に回転可能に取り付ける舵軸とを備え、
外枠が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸に沿って離間し、
舵軸周りに外枠を回転して、推進器軸に対する外枠の舵角が変更され、
外枠の底壁と弦板とにリブが推進器軸に沿って固定され、リブの後縁には、軸筒が垂直に固定され、軸筒内には移動軸が配置されることを特徴とする船舶用筒型舵。
【請求項2】
円弧枠及び円弧枠の一対の端縁を接続する弦板を有しかつ推進器軸に沿って配置されるD形断面の外枠と、
外枠の弦板を船舶の船底に回転可能に取り付ける舵軸とを備え、
外枠が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸に沿って離間し、
舵軸周りに外枠を回転して、推進器軸に対する外枠の舵角が変更され、
外枠の後面又は前面に取り付けられる操板装置を備え、
操板装置は、外枠の舵軸から離間してかつ舵軸と平行にかつ回転可能に取り付けられる揺動軸と、外枠の後面又は前面に取り付けられる移動軸と、移動軸とに回転可能に取り付けられる板舵とを備えることを特徴とする船舶用筒型舵。
【請求項3】
円弧枠及び円弧枠の一対の端縁を接続する弦板を有しかつ推進器軸に沿って配置されるD形断面の外枠と、
外枠の弦板を船舶の船底に回転可能に取り付ける舵軸とを備え、
外枠が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸に沿って離間し、
舵軸周りに外枠を回転して、推進器軸に対する外枠の舵角が変更され、
外枠の底壁と弦板とにリブが推進器軸に沿って固定され、
移動軸は、外枠の後面にリブと平行に取り付けられることを特徴とする船舶用筒型舵。
【請求項4】
円弧枠及び円弧枠の一対の端縁を接続する弦板を有しかつ推進器軸に沿って配置されるD形断面の外枠と、
外枠の弦板を船舶の船底に回転可能に取り付ける舵軸とを備え、
外枠が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸に沿って離間し、
舵軸周りに外枠を回転して、推進器軸に対する外枠の舵角が変更され、
縦軸周りに舵軸を回転すると、外枠と移動軸とは、舵軸と共に同一角度で回転すると共に、舵軸周りの移動軸の公転と自転とにより、連結管に対し伸縮杆が伸縮して、板舵は、舵軸の回転角度に対応する角度で傾斜することを特徴とする船舶用筒型舵。
【請求項5】
揺動軸は、板舵が固定される連結管と、連結管に対し伸縮自在に接続される伸縮杆とに連結され、
揺動軸の回転により、連結杆と伸縮杆は、推進器軸に対する角度を変更して、板舵は、移動軸周りに揺動して、推進器軸に対する角度を変更する請求項2に記載の船舶用筒型舵。
【請求項6】
板舵の上端は、連結管に固定され、
外枠のリブは、円筒ブラケットを有し、
舵板は、円筒ブラケット内に配置される移動軸周りに回転する請求項5に記載の船舶用筒型舵。
【請求項7】
外枠、リブ及び移動軸は、舵軸の回転と共に回転すると同時に、舵板は、移動軸周りに揺動する請求項6に記載の船舶用筒型舵。
【請求項8】
推進器は、スクリュープロペラ、ウォータジェット推進器、フォイトシュナイダープロペラ又はポッドプロペラから選択される請求項1~4の何れか1項に記載の船舶用筒型舵。
【請求項9】
船舶を推進する推進器は、スクリュープロペラであり、
スクリュープロペラの後方に、筒型舵の外枠と舵軸とを船舶に取り付けた請求項1~4の何れか1項に記載の船舶用筒型舵。
【請求項10】
外枠が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸に沿って離間し、
舵軸周りに外枠が回転されて、推進器軸に対する外枠の舵角が変更される請求項1~4の何れか1項に記載の船舶用筒型舵。
【請求項11】
外枠の内径は、推進器を構成するスクリュープロペラの直径の0.8倍~1.5倍の範囲内に形成される請求項1~4の何れか1項に記載の船舶用筒型舵。
【請求項12】
船舶の推進器にスクリュープロペラを使用するとき、外枠が形成する円筒状領域は、スクリュープロペラの推進領域から推進器軸に沿って、スクリュープロペラの直径の0.1倍~7.0倍の距離だけ離間する請求項7に記載の船舶用筒型舵。
【請求項13】
外枠が形成する円筒状領域は、スクリュープロペラの推進領域から推進器軸に沿ってスクリュープロペラの直径の0.2倍~3.0倍の距離だけ離間する請求項10に記載の船舶用筒型舵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高舵力と高旋回モーメントを発生する操舵性に優れる船舶用筒型舵に関連する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、ヒンジ軸により舵板の後部に回転可能に連結したフラップ板を上ヒンジ軸と下ヒンジ軸とに分割して、各ヒンジ軸をフラップ板の前部に固設するベッカーラダーを示す。ベッカーラダーは、上ヒンジ軸を舵板に設けた上部軸受けによりラジアル荷重とスラスト荷重を受けて、フラップ板を回転自在に支持すると共に、下ヒンジ軸を同じく舵板に設けた下部軸受けによりラジアル荷重を受けて、フラップ板を回転自在に支持する構造を有する。上部及び下部軸受けで上下ヒンジ軸を支持してフラップ板のラジアル荷重とスラスト荷重を支持するベッカーラダーは、個別の支持構造と複雑な構造の上下部軸受けを要しない利点がある。
【0003】
特許文献2は、壁を形成して船のプロペラを包囲するノズルリングを備え、垂直軸線を中心に回転可能に構成されるルドウィッヒ・コルトが開発したコルトノズルを示す。コルトノズルの円筒壁の直径上実質的に対角位置に設けられる少なくとも二つの開口は、内側と外側の開口領域を有する。コルトノズルは、船長手方向軸線に対しどの角度位置でも再循環又は渦巻の発生を回避又は減少して全てを一様な流動パターンに形成して、再循環流又は渦巻の発生を阻止する利点がある。
【0004】
特許文献3は、下端渦流制御板を設ける舵板の舵下端面の舵板の長手方向コード長を下端舵長さとし、舵下端面の前端の後方の下端舵長さの5%以上でかつ15%以下の範囲を下端第1領域とする船舶用舵を示す。この船舶用舵は、舵下端面の最後端の前方の下端舵長さの5%以上でかつ50%以下の範囲を下端第2領域とし、下端渦流制御板の前端を下端第1領域内に配置すると共に、下端渦流制御板の後端を下端第2領域内に配置し、下端渦流制御板の長手方向の少なくとも80%以上で、下端渦流制御板の幅を、その前後位置の舵下端面の舵幅の5%以上でかつ30%以下にして下端渦流制御板を形成する構造を有する。また、プロペラの先端部回転円の最上端部分に設ける上側水流制御板により、プロペラ先端からの先端渦(チップボルテックス)で乱水流を整流して、舵板の表面に流すので、舵板の舵力を増加しかつ舵板の抵抗力を減少する利点があり、上側水流制御板自体の小さい抵抗により、舵全体の抵抗力を減少して推進力を増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3769708号公報
【文献】特許第5184907号公報
【文献】特許第6643404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者は、従来提案されなかった画期的な船舶用筒型舵を開発した。新規な船舶用筒型舵は、従来の舵に比べて格段に大きな舵力と旋回モーメントを発生して、操舵性を改善すると共に、種々の優れた後述の作用効果を生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の船舶用筒型舵(1)は、円弧枠(3)及び円弧枠(3)の一対の端縁(4,5)を接続する弦板(6)を有しかつ推進器軸(7)に沿って配置されるD形断面の外枠(2)と、外枠(2)の弦板(6)を船体の底部に回転可能に取り付ける舵軸(10)とを備える。外枠(2)が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸(7)に沿って離間し、舵軸(10)周りに外枠(2)を回転して、推進器軸(7)に対する外枠(2)の舵角が変更される。
【発明の効果】
【0008】
船舶の推進器の推進領域から推進器軸(7)に離間して艤装されるD形断面の外枠(2)を備える本発明の船舶用筒型舵(1)は、下記利点を有する。
(1) 従来の平板状舵より有効面積の大きいD形断面、即ち筒状の外枠(2)を有する本発明の筒型舵(1)は、高舵力を発生する。
(2) 船体重心から舵中心までの大きい距離XRと高揚力FNとの積で表される船体旋回モーメントNRも大きく、小旋回半径で船舶航路を迅速かつ容易に変更する。
(3) 推進器後方の主水流は、筒型舵(1)の外枠(2)を通過して常に整流されるため、船舶の推進エネルギ損失が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付図面は、下記を示す。
【
図5】船底に回転可能に取り付けられる外枠と揺動軸とを示す平面図
【
図6】舵角0度の
図5から舵角35度に回転した外枠を示す平面図
【
図7】操舵時の船体の旋回移動と舵に作用する種々の力の力学図
【
図8】数値解析試験に使用した本発明の船舶用筒型舵の寸法を示す側面図
【
図9】数値解析試験に使用した比較舵Iの寸法を示す側面図
【
図10】数値解析試験に使用した比較舵IIの寸法を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面に示す本発明の船舶用筒型舵の実施の形態を以下説明する。
図1及び
図2に示すように、本発明の船舶用筒型舵(1)は、円弧枠(3)及び円弧枠(3)の一対の端縁(4,5)を接続する弦板(6)を有しかつ推進器軸(スクリュープロペラ軸)(7)に沿って配置されるD形断面の外枠(2)と、縦軸(8)に沿って外枠(2)の弦板(6)を水平面上で船底に回転可能に取り付ける舵軸(10)とを備える。船体の後方底部に回転可能に取り付けられて船舶を航行する
図4の推進器、即ちスクリュープロペラ(30)から後方に一定距離離間して、筒型舵(1)の舵軸(10)は、船底からの縦軸(8)の周りに回転(揺動)可能に取り付けられる。筒型舵(1)に隣接してスクリュープロペラ(30)が取り付けられる。
【0011】
本発明では、船舶を駆動する推進器を構成するスクリュープロペラ(30)の後方に外枠(2)と舵軸(10)とが船舶に取り付けられる。外枠(2)が形成する円筒状領域は、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸(7)に沿って離間する。舵軸(10)周りに外枠(2)を回転して、推進器軸(7)に対する外枠(2)の舵角が変更される。外枠(2)の底壁(2c)と弦板(6)の底面(6a)とにリブ(16)が推進器軸(7)に沿って固定され、リブ(16)の後縁(16a)には、軸筒(17)が垂直に固定され、軸筒(17)内には移動軸(13)が配置される。外枠(2)の内径は、スクリュープロペラ(30)の直径の0.8倍~1.5倍の範囲内が好ましい。また、船舶の推進器にスクリュープロペラ(30)を使用するとき、外枠(2)が形成する円筒状領域は、スクリュープロペラ(30)の推進領域から推進器軸(7)に沿ってスクリュープロペラ(30)の直径の0.1倍~7.0倍、特に0.2倍~3.0倍の距離だけ離間することが好ましい。
【0012】
外枠(2)の後面(2a)には、板舵(フラップ)(15)を揺動する操板装置(11)が取り付けられる。操板装置(11)が接続される揺動軸(12)は、移動不能、回転可能にかつ垂直に船底の固定位置に取り付けられる。操板装置(11)は、揺動軸(12)に半径方向にかつ水平に固定される一端を有する伸縮杆(25)と、揺動軸(12)に半径方向にかつ水平に配置されて伸縮杆(25)の他端が摺動自在に篏合される内部空洞を有する連結管(14)とを備える。伸縮杆(25)と連結管(14)との摺動可能な篏合構造には、公知の機構を利用できる。
【0013】
連結管(14)の底部には、板舵(15)の上端が固定されるので、舵軸(10)の回転により、外枠(2)が舵軸(10)周りに回転し、これにより、移動軸(13)も舵軸(10)周りに回転する。移動軸(13)が舵軸(10)周りに回転すると、連結管(14)と舵板(15)も揺動軸(12)周りに回転する。リブ(16)の後縁(16a)には、円筒ブラケット(17a)を有する軸筒(17)が設けられる。円筒ブラケット(17a)内には移動軸(13)が配置されて、舵板(15)の丁番(15a)は、移動軸(13)周りに舵板(15)が回転(揺動)可能に移動軸(13)に連結される。外枠(2)、リブ(16)及び移動軸(13)は、舵軸(10)の回転と共に一体に回転し、その回転と同時に連結管(14)、舵板(15)及び伸縮杆(25)が揺動軸(12)と共に回転するので、舵板(15)は、舵軸(10)周りに回転(公転)しかつ移動軸(13)周りを回転(揺動)する。
【0014】
図1、
図4及び
図5は、筒型舵(1)を操作する前の舵角0度の筒型舵(1)を示す。筒型舵(1)の舵角を変更するとき、手動操舵装置、電動若しくは油圧による動力操舵装置又は自動操舵装置等により船舶の操陀装置が駆動される。操陀装置により舵軸(10)を反時計方向に回転すると、筒型舵(1)の外枠(2)は、例えば、
図5の舵角0度状態から
図6の舵角35度の反時計方向に回転される。外枠(2)の回転と一体にリブ(16)と連結管(14)とが舵軸(10)周りに回転するので、揺動軸(12)周りに回転する連結管(14)と舵板(15)も舵軸(10)周りに回転(公転)すると同時に、移動軸(13)周りに回転(揺動)する。
【0015】
図5と
図6に示すように、舵軸(10)を回転すると、移動軸(13)が舵軸(10)周りに回転するので、揺動軸(12)と連結管(14)との間隔が変化する。従って、伸縮杆(25)は、連結管(14)内で摺動して、連結管(14)と揺動軸(12)との相対的長さが変更され、舵板(15)は、舵軸(10)周りに回転すると共に、移動軸(13)周りでリブ(16)に対し舵軸(10)の回転角度に対応する角度[例えば、舵軸(10)の回転角度と同一角度]の舵角に移動する。このように、移動軸(13)周りに揺動して、その舵角に保持される板舵(15)は、筒状舵(1)の舵力と船体旋回モーメントとを補強する。揺動軸(12)の回転時に、連結管(14)と舵板(15)は、舵軸(10)周りに回転しかつ移動軸(13)周りに揺動するが、伸縮杆(25)は、連結管(14)内で摺動して、揺動軸(12)と移動軸(13)との変化する間隔を吸収する。
【0016】
動力操舵装置が逆方向に駆動されると、舵軸(10)が逆転するので、外枠(2)、リブ(16)及び軸筒(17)は、
図5に示す舵角0度から逆の舵角-35度に向かって舵軸(10)と一体に舵軸(10)周りに回転する。
【0017】
このように、操板装置(11)の動力操舵装置が駆動されて、舵軸(10)を回転すると、外枠(2)、リブ(16)及び軸筒(17)は、
図5に示す舵角0度から舵角±35度に向かって舵軸(10)と一体に舵軸(10)周りに回転するため、軸筒(17)内の移動軸(13)又は舵板(15)は、舵軸(10)周りに回転、即ち公転すると同時に、軸筒(17)内で回転、即ち揺動する。このとき、移動軸(13)又は舵板(15)は、軸筒(17)内で回転、即ち揺動すると共に、揺動軸(12)から離間する方向に舵軸(10)周りに回転、即ち公転するため、連結管(14)は、揺動軸(12)に対し離間又は接近する。
【0018】
舵軸(10)周りの移動軸(13)の回転により、板舵(15)は、舵軸(10)の周りに回転すると共に、舵軸(10)の回転角度に対応する角度又は同一の角度で移動軸(13)の周りに回転(揺動)する。このとき、連結管(14)は、揺動軸(12)に対し離間又は接近するので、連結管(14)内の伸縮杆(25)は、連結管(14)内の篏合状態が保持されたまま、揺動軸(12)、移動軸(13)及び板舵(15)との連結状態が保持される。
【0019】
船舶の舵力学を
図7について説明する。舵に作用する揚力F
Nと抗力F
Tとのベクトル和を舵力(舵直圧力)F
Rとすると、小舵角δのとき、高揚力F
Nは、高舵力F
Rにほぼ等しい。A
Rを舵面積、ρを水の密度、C
FRを舵力係数、揚力をF
N、Uを舵に流入する相対的な水流速、舵力をF
R、舵直圧力をF
RY、舵角をδとすると、揚力F
Nと舵力F
Rは、式(A)及び(B)で表される。
(A) F
N=F
RY=N
R・cos δ
(B) F
R=(1/2)・ρ・A
R・U
2・C
FR
【0020】
また、船体の重心から舵の重心までの距離をXRとすると、小舵角のとき、船体の旋回モーメントNRは、実用式(C)で表される。
(C) NR=FN・XR・cos δ
従って、小舵角のとき、高揚力FNは、実質的に高舵力FRを意味し、船体重心から舵重心までの大きい距離XRと高揚力FNとの積で表される船体旋回時の高旋回モーメントNRを発生する。船舶の推進器が作用する推進領域から推進器軸(7)に沿って離間して取り付けられる筒型舵(1)の領域は、従来の舵より離間間隔が大きいとき、船体重心から舵中心までの大きい距離XRと高揚力FNとの積で表される船体旋回モーメントNRも大きく、小旋回半径で船舶航路を迅速かつ容易に変更する。
【0021】
本発明による船舶用筒型舵(1)の作用効果を確認するコンピュータシュミレーションによる数値解析試験を徳島大学流体機械研究室で2022年12月に実施した。数値解析試験には、ANSYS 18.0 CFX解析ソフトウェアを使用した。スクリュープロペラの直径Dを、D=1100mm、外部流体領域を直径6Dの円筒とし、外部流体領域に流体が流入する流入口から4Dの位置にスクリュープロペラの流入面を配置し、外部流体領域から流体が流出する排出口から10Dだけ離間する位置にスクリュープロペラの流出面を配置した。X方向面積A=981754mm
2を有する数値解析試験に使用した本発明の船舶用筒型舵(1)形状を
図10に示す。また、X方向面積A
1をA
1=747864mm
2を有する比較舵Iの形状を
図9に示し、X方向面積A
2をA
2=253800mm
2を有する比較舵IIの形状を
図10に示す。
【0022】
数値解析試験の結果を下表1に示す。力学単位は、N(ニュートン)であり、X軸方向の力は、揚力FN、Z軸(スクリュープロペラ軸)方向の力は、抗力FTを表す。
【0023】
【0024】
実験の結果、操舵角20度では、本発明の筒型舵は、-4925Nの揚力FNに対し比較舵Iは、-3723N、比較舵IIは、-1264Nを発生するから、舵角をδとすれば、舵力NRは、NR=FN/cos δから容易に算出され、揚力FN、即ち舵直圧力FRYに比例する。本発明の筒型舵の揚力FNは、比較舵Iの1.3倍以上、比較舵IIの約3.9倍であることが判明した。発生する舵力NRは、発生する揚力FNに比例する。また、舵角35度では、本発明の筒型舵は、-8324Nの揚力FNに対し、比較舵Iは、-4127N、比較舵IIは、-1400Nを発生するから、舵角35度での本発明の筒型舵の揚力FNは、比較舵Iの2倍、比較舵IIの約6倍である。従って、本発明の筒型舵は、平板状の普通舵と比較して、格段に優れた揚力FN、即ち舵力NRを発生する。
【0025】
【0026】
X方向の揚力をFN[N]、水の密度をρ[kg/m3]、代表速度(プロペラチップ周速度)をU[m/s]、代表面積をS[m2]、Z軸方向の抗力をFT[N]、代表面積をA[m2]、代表速度(プロペラチップ周速)をU[m/s]とすると、揚力係数CLと抗力係数CDは、夫々式(D)及び式(E)で求められる。
(D) CL=FN/(1/2・ρ・U2・S)
(E) CD=FT/(1/2・ρ・U2・A)
【0027】
表2は、舵角の変化に対する揚力係数CLと抗力係数CDの変化を示す。本発明の筒型舵(1)の揚力係数CLは、表2に示す20度の操舵角で6.63×10-3、35度の舵取角で1.12×10-2であるのに対し、比較舵Iの20度の操舵角で6.58×10-3、35度の舵取角で7.29×10-3であるから、本発明の筒型舵(1)は、20度以上の操舵角で揚力係数が大きく、特に、舵角35度での円筒舵の揚力係数CLは、比較舵Iの1.5倍に達するため、筒型舵を艤装する船舶は、高速で水上走行できる。
【0028】
本発明の筒型舵(1)の抗力係数CDは、操舵角20度で2.81×10-3、舵取角35度で8.30×10-3に対し、比較舵Iの操舵角20度で3.36×10-3、舵取角35度で5.55×10-3であるから、本発明の筒型舵(1)は、操舵角35度の場合に大きな抗力係数CDで、舵力も大きく、旋回位置での船舶移動に対する大きな抗力と小さな旋回半径で旋回できる。作業船、牽引船、押船、タグボートでは、抗力係数CD、即ち制動力の大きいことが有利である。
【0029】
前記の実施の形態は、種々の変更が可能である。例えば、移動軸(13)を外枠(2)の後面(2a)に取り付ける例を示したが、操板装置(11)の移動軸(13)を外枠(2)の前面(2b)に取り付けることもできる。推進器としてスクリュープロペラを使用する例を示したが、スクリュープロペラの代わりに、ウォータジェット推進器、フォイトシュナイダープロペラ又はポッドプロペラを使用してもよい。
図1及び
図3には、単一の円筒材で形成する軸筒(17)を示すが、単一の円筒材の代わりに、同軸上に配置される複数の円筒材で軸筒(17)を形成してもよい。また、1艘の船舶に複数のスクリュープロペラ又は他形式の推進器を設置し、推進器の後方に複数の筒型舵(1)を設けると、筒型舵(1)の舵力と旋回モーメントは、更に強化される。前記の実施の形態では、伸縮杆(25)を揺動軸(12)に固定して、伸縮杆(25)を伸縮自在に篏合する連結管(14)を板舵(15)に固定する例を示したが、逆に、連結管(14)を揺動軸(12)に固定して、連結管(14)に伸縮自在に篏合される伸縮杆(25)を板舵(15)に固定してもよい。
【0030】
本発明の実施の形態では、段落0008に示す作用効果(1)~(3)に加えて、更に下記の作用効果を発生する。
(4) 舵本体の舵板面積に外枠(2)の直径長さの3.14倍を加えた約4.14倍の舵板面積を備える筒型舵(1)は、従来の単板状舵に比べて、約4倍の推力を受けるので、操舵時に旋回力を向上できる。
(5) 通常の平板状舵よりも舵の前部の長さを短くして、環状枠を通過する水流の抵抗を最小限とするため、水流がより円滑に外枠(2)内を流動する。
(6) 舵軸(10)の回転に伴い回転する揺動軸(12)が回転し、それにより移動軸(13)周りに揺動する板舵(15)は、筒状舵(1)の舵力と船体旋回モーメントを補強する。
(7) 推進器の旋回流れの影響により、舵の両面に加わる揚力FNの向きが変化して、舵に振動が発生するため、通常の平板状舵は、製品寿命約10年で交換する必要があるのに対し、本発明の船舶用筒型舵(1)は、推進器の旋回流れの影響を受けても振動が発生せず、10年を超える製品寿命を有する。
(8) 推進器シャフトを舵と同一芯上に設ける船舶でも、筒状舵(1)の脱着作業を行わずに、推進器シャフトを効率的に着脱できる。
(9) 単板状舵では、推進器後流の水流は、船体後方で跳ね上がりエネルギ損失を発生する難点があるが、本発明では、筒状舵(1)内を流動させて推進器が発生する推進力を無駄なく活用できる。
(10) 左右どちらに筒型舵(1)を切っても、舵の素早い応答性が得られ、しかも左右どちらも同程度の旋回円で旋回できるので、船舶の直進安定性が良いのに対し、単板舵は、左右で旋回特性が異なる。
(11) 後進時にも舵を切る方向に船体が旋回する特性を持つ。
(12) 鋼材で形成される筒状舵(1)の外枠(2)の前部先端に面取り又はアール(R)加工を行って、水流抵抗を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の船舶用筒型舵は、小型の船から大型の動力駆動船まで広範囲な船舶に取り付けて、大きい揚力を発生して船の操舵を行うことができる。
【符号の説明】
【0032】
(1)・・船舶用筒型舵、 (2)・・外枠、 (2a)・・後縁、 (2b)・・前縁、 (2c)・・底部、 (3)・・円弧枠、 (4,5)・・端縁、 (6)・・弦板、 (6a)・・底面、 (7)・・推進器軸、 (8)・・縦軸、 (10)・・舵軸、 (11)・・操板装置、 (12)・・揺動軸、 (13)・・移動軸、 (14)・・連結管、 (15)・・板舵(フラップ)、 (16)・・リブ、 (16a)・・後縁、 (17)・・軸筒、 (18)・・補強板、 (19)・・下軸、 (25)・・伸縮杆、 (30)・・推進器(スクリュープロペラ)、
【要約】
【課題】従来の舵に比べて格段に大きな舵力と旋回モーメントを発生する船舶用筒型舵を提供する。
【解決手段】
推進器軸(7)を有する円弧枠(3)及び円弧枠(3)の一対の端縁(4,5)を接続する弦板(6)を有するD形断面の外枠(2)と、外枠(2)の弦板(6)を船舶の船底に回転可能に取り付ける舵軸(10)とを船舶用筒型舵に設け、外枠(2)が形成する円筒状領域を、船舶の推進器が形成する推進領域から推進器軸(7)に沿って完全に離間して、舵軸(10)周りに外枠(2)を回転して、推進器軸(7)に対する外枠(2)の舵角が変更される。
【選択図】
図1