(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】医療用筒状埋込材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20241111BHJP
A61F 2/04 20130101ALI20241111BHJP
A61F 2/07 20130101ALI20241111BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241111BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20241111BHJP
D04B 1/22 20060101ALI20241111BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61F2/06
A61F2/04
A61F2/07
A61L27/34
A61L27/50
D04B1/22
D06M15/564
(21)【出願番号】P 2023172913
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2020014011の分割
【原出願日】2020-01-30
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嵐 伸作
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-503320(JP,A)
【文献】特開2003-250880(JP,A)
【文献】特開2014-050412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0132996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
A61L 27/34
D04B 1/22
D06M 15/564
A61F 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用筒状埋込材の製造方法であって、
合成樹脂のヤーンを編み上げてループ状の複数の構成体要素を形成し、これらを軸周方向に連続して配置して構成体を構成し、
次いで、夫々構成された複数の構成体を、軸方向で、接続部を接続して筒状埋込材本体を製作し、
次いで、樹脂を、前記ヤーンが交差していない箇所よりも繊維が交差する前記接続部に貯留して被覆部を形成する、
医療用筒状埋込材の製造方法。
【請求項2】
前記被覆部を形成した後、
次いで、前記被覆部を乾燥して、前記構成体要素のヤーンの各繊維を軸周り方向で広げた状態で固定する、
請求項1記載の医療用筒状埋込材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂は、ウレタンエラストマーを有する、
請求項1または2に記載の医療用筒状埋込材の製造方法。
【請求項4】
前記筒状埋込材本体に前記樹脂を被覆する工程は、ウレタンエラストマーを水アルコールで希釈した溶液に浸漬して引き上げて前記ヤーンが交差していない箇所よりも繊維が交差する前記接続部に貯留する工程を含む、
請求項1または2に記載の医療用筒状埋込材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管等の医療用筒状埋込材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用筒状埋込材の一例である、人体に埋め込まれる人工血管(グラフト)は、ポリエステル等の合成繊維により、織り構造又は編み構造により形成されている。
【0003】
編み構造(編物ともいう)は、糸でループを作り、そのループに次の糸を絡めて連続してループを作ることで互いに繋ぎ合わせて形成される。編み構造の人工血管は、多孔度が高いことから、耐漏血性は低い。
【0004】
そのため、外周面の全体にウレタンエラストマーをコーティングした人工血管が用いられているが、ウレタンエラストマーによるコーティング層により人工血管の多孔性が損ないやすく、外周面の全体にウレタンエラストマーで覆われているために繊維同士の間に設けられた孔に針を選択的に穿刺することが難しい。そのため、縫合針や注射器による穿刺の際に生じたコーティング層の針孔は、針先のエッジが糸を切断した孔が生じやすくなってしまい、針孔が残りやすくなってしまう。このような多孔性である有孔性と漏血防止性との両立を図る手段として、例えば、特許文献1では、織り目或いは縫い目を形成する位置の糸の接合部の一部で溶着し、する血管補修材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1の血管補修材を人工血管として用いた場合、繊維同士の間に生じた孔が残っているために、その孔に針先が入りやすくなっているものの、穿刺された針を抜いた後の針孔は、繊維同士の絡み合いにより、開いた状態のままで維持されてしまい、耐漏血性を向上させることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、耐漏血性に優れた医療用筒状埋込材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用筒状埋込材の製造方法は、
医療用筒状埋込材の製造方法であって、
合成樹脂のヤーンを編み上げてループ状の複数の構成体要素を形成し、これらを軸周方向に連続して配置して構成体を構成し、
次いで、夫々構成された複数の構成体を、軸方向で、接続部を接続して筒状埋込材本体を製作し、
次いで、樹脂を、前記ヤーンが交差していない箇所よりも繊維が交差する前記接続部に貯留して被覆部を形成するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐漏血性に優れた医療用筒状埋込材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材を模式的に示す外観図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材の表面の部分拡大図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材の裏面の部分拡大図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材の表面を簡略的に示す部分拡大図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材の表面に針が穿刺された状態を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る医療用筒状埋込材の構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<医療用筒状埋込材1の動作>
図1~
図3に示す医療用筒状埋込材1は、人体等の生体に埋め込まれて使用される筒状部材である。医療用筒状埋込材1は、例えば、食道等の消化管といった生体管の代わりに用いたり、シャントとして用いることができる。本実施の形態では、医療用筒状埋込材1を、ステントグラフトも含む人工血管に適用した場合について説明する。
【0013】
医療用筒状埋込材1は、繊維により構成されている。医療用筒状埋込材1は、本実施の形態では、ヤーンを編み込むことよりに全体として筒状に形成されている。ヤーンは、複数の繊維を束ねて構成される。
【0014】
本実施の形態の医療用筒状埋込材1では、ヤーンが、ループ状に形成されて構成体要素3を形成する。構成体要素3は、医療用筒状埋込材1の軸周り方向に連続して形成されて第一の構成体2-1を構成する。また、構成体要素3は、第一の構成体2-1に隣接した位置において、軸周り方向に連続して形成されて第二の構成体2-2を構成する。ここで、第一の構成体21を構成する構成体要素3は、以下の説明において第一の構成体要素3-1といい、第二の構成体2-2を構成する構成体要素3は、以下の説明において第二の構成体要素3-2という。第一の構成体要素3-1にはそれぞれ、第二の構成体要素3-2におけるヤーンがループ状とされて引っ掛けられるようにして、軸周り方向に配置された個々の第一の構成体要素3-1に対してそれぞれ第二の構成体要素3-2が編み付けられている。第二の構成体2-2と第一の構成体2-1とは、互いに絡み合いにより連結した構造を有している。第二の構成体2-2は、第一の構成体2-1に対して軸方向で接続されている。本実施の形態の医療用筒状埋込材1は、所謂、メリヤス編み構造を有している。
【0015】
医療用筒状埋込材1は、複数の構成体要素3が軸回りで配置されており、それぞれ構成された複数の構成体2が、軸方向で接続されて構成されている。
【0016】
構成体要素3は、軸回り方向に連続して配置されることにより環状の構成体2を構成する。医療用筒状埋込材1は、本実施の形態では、複数の構成体要素3により環状に構成された構成体2が軸方向に連続して設けられている。
【0017】
複数の構成体要素3は、ヤーン31により形成されている。
【0018】
ヤーン31は、例えば、ポリエステル、ポリアミドやウレタン等の繊維が用いられ、複数の合成繊維31a、31bを束ねて構成されている。
【0019】
構成体要素3は、ヤーン31が所定の内側空間を形成するように、内側を囲むように構成された囲み部32を有する。囲み部32は、その内側に繊維が含まれていても空間を有していてもよい。
【0020】
囲み部32を囲むヤーンを構成する複数の繊維のそれぞれは、軸周り方向に広がりを有し、医療用筒状埋込材1の内側から液体の漏れを防止可能な間隔で配置されている。すなわち、囲み部32は、これを囲むヤーン31の複数の繊維のそれぞれにより塞がれ、囲み部32から液体が漏れ難くなっているものの、繊維が移動可能な間隔が設けられている。なお、
図6に、医療用筒状埋込材1の表面においてヤーンの繊維が軸周り方向に広がっている状態の一例を示す。
【0021】
ここで、
図4を用いて、医療用筒状埋込材1における各構成体2の構成体要素3同士の接続関係について説明する。
図4は、医療用筒状埋込材の表面を簡略的に示す部分拡大図であり、
図2に示す構成体要素3のヤーン同士の接続を簡略的に示す図である。
【0022】
構成体2において、軸方向で隣接する第一の構成体2-1及び第二の構成体2-2における第一の構成体要素3-1及び第二の構成体要素3-2は、互いに溶着されることなく接続部5により接続されている。
【0023】
接続部5は、軸方向で隣接する第一の構成体2-1及び第二の構成体2-2における第一の構成体要素3-1及び第二の構成体要素3-2が、互いに接触する部分である。接続部5は、構成体要素3-1と構成体要素3-2との接触部分に樹脂が入り込むことにより被覆部6により被覆されている。
【0024】
囲み部32は、繊維同士(
図4では、複数の合成繊維のうち便宜上、合成繊維31a、31bを模式的に示す)が構成体2の軸周り方向に広がりを有する状態に離間する間隔部34を有する。本実施の形態の囲み部32は、ヤーン31により形成されるループの内側部分であり、ループは、構成体要素3を構成する。
【0025】
囲み部32を構成するヤーン31の複数の繊維は、囲み部32の根元、つまりループの根元で被覆部6によりその移動が規制されている。
【0026】
被覆部6は、囲み部32と接続部5とを被覆する。被覆部6は、ウレタンエラストマー等の樹脂により形成されている。
【0027】
被覆部6は、囲み部32におけるヤーン31の複数の繊維を、繊維同士が軸方向で離間する間隔部34を有するように被覆する。
【0028】
被覆部6は、接続部5を被覆することにより、構成体要素3に外力が加わっていない状態において、構成体要素3-1と構成体要素3-2の各繊維は、それぞれ軸周り方向に広がりを有して、囲み部32等を塞ぐように配置された耐漏血性の高い状態となる。
【0029】
被覆部6は、外力が構成体要素3に負荷されたときに、間隔部34を狭くする繊維の移動を可能とし、かつ、外力が解除されたとき、移動した繊維の位置を復元可能とする、弾性を有している。外力が構成体要素3に負荷されるとは、例えば、人工血管として用いたときの縫合時の縫合針や、注射器等の注射針が医療用筒状埋込材1に穿刺される場合等のように、複数の繊維を移動させる力が負荷される場合である。
【0030】
被覆部6は、外力が負荷されないときに、繊維が間隔部34によって構成体2の軸周り方向に広がりを有する状態を維持する剛性を有する。これにより、被覆部6は、医療用筒状埋込材1の内部から外部に体液、例えば、血液が漏出しない耐漏血性の高い構造を構成している。
【0031】
被覆部6は、本実施の形態では、構成体要素3のヤーン31が交差する交差部52に設けられている。これにより交差部52から導出する繊維が外力により変位しても外力が解除された際に、変位した繊維は元の位置に復帰する。
【0032】
被覆部6は、樹脂で接続部5、つまりヤーン31の交差部52を被覆し、第一の構成体2-1の構成体要素3-1と第一の構成体2-1に隣接する第二の構成体2-2の構成体要素3-2とを接続することで、複数の構成体2を接続する。被覆部6は、ヤーン31の有する複数の繊維が間隔部34により軸周り方向に広がりを有するように離間した状態で、第一の構成体2-1の構成体要素3-1及び第二の構成体2-2の構成体要素3-2のそれぞれのヤーン31の繊維を保持する。
【0033】
被覆部6は、樹脂により接続部5を被覆するので、医療用筒状埋込材1が切断された場合、例えば、切断により、所定長の医療用筒状埋込材1が形成される場合でも、その切断面において、ヤーンが解けることがなく、その部位が延びた場合でも、好適に元の位置に復元する。また、被覆部6は、縫合や治療時において、接続部5よりも小さい径の針が穿刺される場合、囲み部32或いは囲み部32同士の間に案内する外面を有して、囲み部32及び接続部5を被覆する構成としてもよい。
【0034】
<医療用筒状埋込材1の動作>
医療用筒状埋込材1は、軸方向及び軸周り方向に囲み部32を有する複数の構成体要素3が連続して配置され、各構成体要素3は、軸方向で隣り合う構成体要素と、編み目となる接続部5で、被覆部6により被覆されることにより接続されている。
【0035】
医療用筒状埋込材1は常態時では、各構成体2及び各構成体要素3を構成するヤーンは、複数の繊維の軸周り方向の広がりにより、軸周り方向で囲み部32を含む空隙部分を閉塞した状態となっている。
【0036】
図5に示すように、医療用筒状埋込材1に外力として、医療用筒状埋込材1に針9が穿刺されると、針9は、構成体要素3のヤーン31に当接するか、ヤーン同士の間或いは、ヤーン31の繊維間、例えば、囲み部32に案内される。
【0037】
針9が、囲み部32等のヤーンの繊維間に穿刺されると、穿刺された力が針9を介して、針9に接する繊維に伝わり、この繊維は針9に押されることになり変位(
図5の矢印参照)する。また、この変位した繊維は、隣接する繊維を更に押して変位する。
【0038】
すなわち、繊維の束に囲まれる囲み部32では、間隔部34が狭くなり、穿刺した部位が針穴となりこの針穴に針9が挿通された状態となる。針9は、囲み部32を被覆する被覆部6の付勢力に抗して医療用筒状埋込材1に挿通されることになる。
【0039】
そして、針9が針穴抜けて、構成体2への外力が解除されると、被覆部6の付勢力により、繊維は元の位置に戻り、針穴部分は、元々存在した繊維により覆われるような状態になり、耐漏血性は保持される。
【0040】
また、被覆部6は、針9が被覆部6に当接した場合に囲み部32に案内する形状に構成されてもよい。これにより、医療用筒状埋込材1において、針9を刺したく無い箇所へ針が案内されることがなく、好適な縫合を行うことができる。
【0041】
<製造方法>
合成樹脂のヤーンを編み上げて複数の構成体要素3が軸回りで配置されてそれぞれ構成された複数の構成体2が、軸方向で接続された筒状埋込材本体を製作する。製作した筒状埋込材本体を、被覆部6を形成する樹脂、例えば、ウレタンエラストマーを水アルコールで希釈した溶液に所定時間浸漬して引き上げる。
【0042】
これにより、ウレタンエラストマーは、毛細管現象により、囲み部32等を囲むヤーン(ヤーンにおける繊維)が交差していない箇所よりも、繊維が交差する部分、本実施の形態で接続部5に貯留する。ウレタンエラストマーは、繊維同士が少ない本数で隣接する部分には塗布されるものの、構成体要素3-1、3-2同士が軸方向で接続する箇所である接続部5、言い換えればヤーンにおける繊維同士が交差する箇所に貯留する。
【0043】
この状態で筒状埋込材本体を乾燥することにより、筒状埋込材本体の構成体要素3-1、3-2は、ウレタンエラストマーとしての被覆部6により、構成体要素3-1、3-2のヤーンの各繊維が軸周り方向で広がった状態で固定される。これにより、ヤーンの各繊維は、内部の液体を外部に漏らさない状態で、移動可能に固定されることになり、医療用筒状埋込材1が製造される。
【0044】
本実施の形態の形態によれば、外力が構成体要素3に負荷され、囲み部32において繊維の間隔部34を狭くする繊維の移動があっても、被覆部6の弾性により、外力が解除されたときに、移動した繊維の位置を復元できる。移動前の繊維同士は、互いに離間して、構成体の軸周り方向に広がりを有し、軸周りで隙間無いように配置されるので、耐漏血性の高い構成体する状態にすることができる。これにより、穿刺される等のように針穴が形成されても、繊維を移動させることで自己修復して、塞ぐことができ、耐漏血性が高い形状で維持できる。
【0045】
本実施の形態の医療用筒状埋込材1は、合成樹脂製のヤーンをメリヤス編みすることにより構成されているが、これに限らず、上記構成を有するものであれば、どのような編み方で形成されてもよい。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記医療用筒状埋込材の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る医療用筒状埋込材は、耐漏血性に優れ、扱いやすいという効果を有し、ステントグラフト、人工血管等に適用されるものとして有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 医療用筒状埋込材
2 構成体
3 構成体要素
5 接続部
6 被覆部
32 囲み部
34 間隔部