(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電子ノーズに基づく臭気物質の分析の利用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
G01N33/00 C
(21)【出願番号】P 2023174770
(22)【出願日】2023-10-06
(62)【分割の表示】P 2020530335の分割
【原出願日】2018-12-09
【審査請求日】2023-11-03
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516040109
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YEDA RESEARCH AND DEVELOPMENT CO.LTD.
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science, P.O.Box 95, 7610002 Rehovot, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ソーベル, ノアム
(72)【発明者】
【氏名】アグロン, シャニ
(72)【発明者】
【氏名】スニッツ, コビ
(72)【発明者】
【氏名】リヴネ, エタン
(72)【発明者】
【氏名】パール, オファー
(72)【発明者】
【氏名】ワイスラー, キネレット
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィア, アーロン
(72)【発明者】
【氏名】ホーニヒシュタイン, ダニエル リッカ
(72)【発明者】
【氏名】フィンケル, マヤ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0216244(US,A1)
【文献】特開2007-309752(JP,A)
【文献】特開平09-292824(JP,A)
【文献】特表2008-506958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気を評価する方法であって、
少なくともn個(nは1よりも大きい)の化学記述子を抽出することができる測定値を臭気から抽出する電子ノーズを用意することと、
前記電子ノーズを臭気に適用することと、
前記電子ノーズを使用して前記臭気の臭気情報を抽出することと、
前記抽出した臭気情報を、各々の次元が前記n個の化学記述子のうちの該当の1つに関係しているn次元のサンプル空間における第1の場所にプロットすることと、
前記第1の場所に基づいて評価を出力することであって、前記評価を出力することは、前記第1の場所上または前記第1の場所の近くに領域を有している1つ以上の臭気保持化学物質の詳細を出力することを含み、前記n次元のサンプル空間は、匂いのn個の軸に沿って分子へ適用された物理化学的記述子を含み、nは複数の整数であり、前記
サンプル空間内の前記分子は、
に従って重み付けされ、ここでxは、正規化された強度である、出力することと
を含む方法。
【請求項2】
前記電子ノーズから入手することができるm個(mはnよりも大きい)の化学記述子から前記n個の化学記述子を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
類似すると識別されたテスト臭気が互いに比較的近くに集まり、異なると識別されたテスト臭気が比較的遠く離れて位置するサンプル空間を構築する前記n個の化学記述子を選択することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
臭気を評価する方法であって、
少なくともn個(nは1よりも大きい)の化学記述子を抽出することができる測定値を臭気から抽出する電子ノーズを用意することと、
前記電子ノーズを臭気に適用することと、
前記電子ノーズを使用して前記臭気の臭気情報を抽出することと、
前記抽出した臭気情報を、各々の次元が前記n個の化学記述子のうちの該当の1つに関係しているn次元のサンプル空間における第1の場所にプロットすることであって、前記サンプル空間は、複数の領域を有している、プロットすることと、
前記サンプル空間のそれぞれの領域を対応する臭気保持化学物質に関連付けることであって、前記n次元のサンプル空間は、匂いのn個の軸に沿って分子へ適用された物理化学的記述子を含み、nは複数の整数であり、前記
サンプル空間内の前記分子は、
に従って重み付けされ、ここでxは、正規化された強度である、関連付けることと、
前記第1の場所に基づいて評価を出力することと、
所定数の最も一般的に生じる臭気表現用語を選択することであって、前記所定数は、少なくとも5であり、前記サンプル空間上に複数のテストサンプルがプロットされており、各々のサンプルに少なくとも1つの臭気表現用語が関連付けられており、当該方法は、前記第1の場所に最も近い所定の数のテストサンプルを見つけること、または前記第1の場所の所定の半径の範囲内のすべてのテストサンプルを見つけることを含み、前記評価を出力することは、前記見つけたテストサンプルに関連付けられた臭気表現用語を出力することを含む、選択することと
を含む、方法。
【請求項5】
前記サンプル空間は、複数の領域を有しており、
当該方法は、前記サンプル空間のそれぞれの領域を対応する臭気表現用語に関連付けることを含み、
前記評価を出力することは、前記第1の場所に関連付けられた臭気表現用語を出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記領域は、テスト臭気の前記サンプル空間内の場所であり、前記
臭気表現用語は、前記テスト臭気に関連付けられた用語である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所定数の最も一般的に生じる臭気表現用語を選択することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記所定数は、5である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
臭気関連の議論のためのテンプレートを用意し、前記第1の場所に関連付けられた臭気表現用語を前記テンプレートのうちの1つに挿入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプル空間は、複数の領域を有しており、
当該方法は、前記サンプル空間のそれぞれの領域を対応する臭気保持化学物質に関連付けることを含んでおり、
前記評価を出力することは、前記第1の場所上または前記第1の場所の近くに領域を有している1つ以上の臭気保持化学物質の詳細を出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記詳細に定められた前記臭気保持化学物質を使用して前記臭気を合成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
nは18である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
n次元知覚空間を構築することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記
n次元知覚空間上の臭気間の丁度可知距離を発見することを含み、
前記丁度可知距離は、1群のユーザにおける最小識別可能距離の平均値である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記丁度可知距離に基づいて前記
n次元知覚空間をデジタル化することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記デジタル化を使用して入力臭気の測定
値を提供することを含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記デジタル化を使用して異なる臭気の間の比較を提供することを含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項18】
丁度可知距離としてデジタル化されており、前記丁度可知距離は、1群のユーザにおける最小識別可能距離の平均値であるn次元デジタル化知覚空間であって、nは少なくとも5である、n次元デジタル化知覚空間と、
測定対象の臭気の入力と、
前記入力および前記n次元デジタル化知覚空間に接続され、
入力された前記臭気を前記n次元
デジタル化知覚空間上の第1の場所にマッピングし、前記第1の場所は、前記丁度可知距離に関してデジタル的に表現可能であり、前記n次元
デジタル化知覚空間は、匂いのn個の軸に沿って分子へ適用された物理化学的記述子を含み、nは複数の整数であり、前記
n次元デジタル化知覚空間内の前記分子は、
に従って重み付けられ、ここでxは、正規化された強度である、マッピングユニットと、
前記丁度可知距離に関して表現された前記第1の場所に基づいて、
入力された前記臭気のデジタル指標を出力するための出力と
を備えるデジタル電子ノーズ。
【請求項19】
前記n次元
デジタル化知覚空間は、電子的に格納される、請求項18に記載のデジタル電子ノーズ。
【請求項20】
それぞれの丁度可知距離が、前記n次元
デジタル化知覚空間上の角度である、請求項18に記載のデジタル電子ノーズ。
【請求項21】
前記n次元デジタル化知覚空間上の2つの臭気の間の角度は、
であり、
ここで
は、前記2つの臭気を表すそれぞれのベクトルの間のドット積であり、
および
は、それらのユークリッドノルムである、請求項20に記載のデジタル電子ノーズ。
【請求項22】
臭気を評価する方法であって、
臭気から化学的な特性評価を抽出する電子ノーズを用意することと、
前記電子ノーズを第1および第2の臭気に適用することと、
前記電子ノーズを使用し、前記第1および第2のそれぞれの臭気について、化学的な臭気の特性評価を抽出することと、
知覚空間上の臭気間の丁度可知距離を発見することであって、前記丁度可知距離は、1群のユーザにおける最小識別可能距離の平均値である、発見することと、
前記丁度可知距離に従ってデジタル化されたn次元空間における前記第1および第2の臭気のそれぞれの化学的な臭気の特性評価の間の距離を測定することであって、前記n次元空間は、匂いのn個の軸に沿って分子へ適用された物理化学的記述子を含み、nは複数の整数であり、前記知覚空間内の前記分子は、
に従って重み付けられ、ここでxは、正規化された強度である、測定することと、
前記距離を前記第1および第2の臭気の間の類似性の指標として出力することと
を含む方法。
【請求項23】
前記距離を丁度可知差異に関してデジタル化することを含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、電子ノーズに基づく臭気物質の分析の利用に関し、より詳細には、これに限られるわけではないが、臭気物質の分析結果を直接的に伝達し、あるいは間接的な伝達または他の目的のために臭気物質を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1968年に、Dravnieksが、悪臭空気の試料を検査し、人間の鼻の介入を必要とせずに臭気の強さおよび質を報告する計測器として、人工鼻または電子ノーズを考えた。以後、eノーズの開発が進められてきたが、主として臭気の検出および識別の目的に使用され、臭気の質の報告には使用されていない。
【0003】
eノーズの主なコンポーネントは、一般的な化学センサのアレイである。分析対象の臭気が、アレイ内のセンサの多くを刺激し、特徴的な応答パターンを生じさせる。eノーズ内のセンサはさまざまな技術で作製されてよいが、いずれの場合も、特定の物理的特性が測定され、一式の信号が生成される。認識プロセスの各段階は、生物学的嗅覚の各段階に似ており、センサは2つ以上の臭気物質に反応し、1つの臭気物質が2つ以上のセンサを作動させる。作動した一式のセンサおよびそれらの信号が、全体として、臭気の特徴を表現し、臭気の指紋と呼ばれることもある。したがって、eノーズとガスクロマトグラフなどの分析対象検出器との間の重要な差異は、後者が臭気の原因となる成分の特定を目的としているのに対し、eノーズは、臭気を協働して形成する成分の混合物を全体として特定するために使用できることである。嗅覚の代わりとなり得る人工システムの将来性にもかかわらず、検出および識別を超える目的にeノーズを使用するための努力は、ほとんど行われていない。注目すべき例外は、医療診断用のeノーズを開発する取り組みである。このような取り組みにおいて、eノーズは、疾患に関連する特定の分析対象ではなく、疾患全体を特定するために用いられていた。以前の提案において、本発明の発明者は、eノーズによる測定を嗅覚受容体ニューロンにおける嗅覚活動に関連付け、eノーズが生物学的受容体に関連する臭気属性を捕捉できることを示唆した。その後に、「Predicting Odor Pleasantness」という名称の米国特許第8,880,448号明細書が、eノーズによる測定を何らかのやり方で嗅覚に関連付けることができるか否かを尋ねることを企てた。この取り組みは、知覚は刺激の構造だけでなく、経験および学習などの高次の機構によっても支配されるため、eノーズの出力を受容体の応答に関連付けるよりも複雑になり得る。
【0004】
同様に、Burl et al 2001が、eノーズを用いた知覚的な質の報告を試みている。導電性ポリマー複合検出器のアレイを使用し、「リーブ・ワン・アウト」の仕組みおよび一連の予測アルゴリズムを使用することによって、20種類の臭気物質の各々について、17種類の臭気の質を予測している。臭気の質の一部についてかなりの予測率が得られているが、結果は新規な臭気物質には一般化されていない。Burlら(Burl et al.2001)は、この結果は、用いた臭気物質の数の少なさを反映している可能性があると主張している。
【0005】
Burlら(Burl et al.2001)は、例えばミントおよびフローラルなど、控え目な知覚特性の予測に注力している。上述の米国特許第8,880,448号明細書においては、電子ノーズを使用して臭気情報を抽出し、抽出された臭気情報を臭気快適性の軸上の位置にプロットすることを含む解決策が、臭気の電子ノーズ測定に適用されており、軸はニューラルネットワークを使用して形成されている。ニューラルネットワークは、人間のテスターが特定の臭気を評価した実験に従って形成される。
【0006】
上記における問題は、1次元の軸上の数または単語での説明は、臭気に関する情報の伝達についてあまり意味のあるやり方ではなく、所与の臭気の再現を可能にする充分な情報を決してもたらさないことである。一次元の軸は、いわゆる心地よさに基づく臭気の評価を可能にできるが、臭気には、心地よさよりもはるかに多くのものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
先行技術の問題は、多次元サンプル空間を使用して、電子ノーズによって測定された臭気を表すことによって対処される。多次元サンプリング空間は、電子ノーズによって測定された特徴に基づくことができ、あるいは電子ノーズによって測定された特徴に関して最適化されてよい。
次いで、サンプル空間における測定値の位置、あるいは具体的にはサンプル空間における測定値と既知のサンプルとの近さに基づいて、自然言語テンプレートを選択することにより、説明を提供することができる。
【0009】
同様に、多次元サンプル空間における測定値の場所によって示される化学物質の混合物を使用することによって、臭気の合成を得ることができる。
【0010】
多次元サンプリング空間および/または説明を使用して、丁度可知差異(JND)の問題に匂いの感覚をもたらすことができる。感覚系が検出することができる最小の摂動が、そのJNDである。JNDは、神経センサおよび回路の最小要件を意味するため、感覚神経生物学にとって重要である。また、JNDは、デジタル化に関する分解能を決定するため、テクノロジにとって重要である。JNDは、視覚的および聴覚的な質に関して識別されているが、臭気の質については識別されていない。臭気の質のJNDを定義するために、匂いの再現可能な物理化学的指標を使用することができ、本実施形態は候補を提供することができる。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、臭気を評価する方法であって、
少なくともn個(nは1よりも大きい)の化学記述子を抽出することができる測定値を臭気から抽出する電子ノーズを用意することと、
電子ノーズを臭気に適用することと、
電子ノーズを使用して臭気の臭気情報を抽出することと、
抽出した臭気情報を、各々の次元がn個の化学記述子のうちの該当の1つに関係しているn次元のサンプル空間上の第1の場所にプロットすることと、
第1の場所に基づいて評価を出力することと
を含む方法が提供される。
【0012】
一実施形態は、電子ノーズから入手することができるm個(mはnよりも大きい)の化学記述子からn個の化学記述子を選択することを含むことができる。
【0013】
一実施形態は、類似すると識別されたテスト臭気が互いに比較的近くに集まり、異なると識別されたテスト臭気が比較的遠く離れて位置するサンプル空間を構築するn個の化学記述子を選択することを含むことができる。
【0014】
一実施形態において、サンプル空間は、サンプル空間上にプロットされた複数のテストサンプルを有することができ、各々のサンプルに少なくとも1つの臭気表現用語が関連付けられている。本方法は、第1の場所に最も近い所定数のテストサンプルを見つけることができ、あるいは第1の場所の所定の半径の範囲内のすべてのテストサンプルを見つけることができ、評価の出力は、このようにして見つけたテストサンプルに関連付けられた臭気表現用語を出力することを含むことができる。
【0015】
あるいは、サンプル空間は、複数の領域を有することができ、本方法は、サンプル空間のそれぞれの領域を対応する臭気表現用語に関連付けることを含むことができる。評価の出力は、第1の場所に関連付けられた臭気表現用語を出力することを含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、領域は、テスト臭気のサンプル空間における場所であり、用語は、テスト臭気に関連付けられた用語である。
【0017】
いくつかの実施形態は、所定数の最も一般的に生じる臭気表現用語を選択することを含むことができる。
【0018】
所定数は、例えば5であってよい。
【0019】
一実施形態は、臭気関連の議論のためのテンプレートを用意し、第1の場所に関連付けられた臭気表現用語をテンプレートのうちの1つに挿入することを含むことができる。
【0020】
サンプル空間は、複数の領域を有することができ、本方法は、
サンプル空間のそれぞれの領域を対応する臭気保持化学物質に関連付けることを含み、評価の出力は、第1の場所上または第1の場所の近くに領域を有している1つ以上の臭気保持化学物質の詳細を出力することを含む。
【0021】
本方法は、詳細に定義された臭気保持化学物質を使用して臭気を合成することができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、nは18である。
【0023】
一実施形態は、知覚空間上の臭気間の丁度可知距離を発見することを含み、丁度可知距離は、1群のユーザにおける最小識別可能距離の平均値である。
【0024】
一実施形態は、丁度可知距離に基づいて知覚空間をデジタル化することを含む。
【0025】
一実施形態は、デジタル化を使用して入力臭気の測定値を提供することを含む。
【0026】
一実施形態は、デジタル化を使用して異なる臭気の間の比較を提供することを含む。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、
丁度可知距離に関してデジタル化されており、丁度可知距離は、1群のユーザにおける最小識別可能距離の平均値であるn次元デジタル化知覚空間と、
測定対象の臭気の入力と、
入力およびn次元デジタル化知覚空間に接続され、入力臭気をデジタル化n次元知覚空間上の第1の場所へマッピングし、第1の場所は、丁度可知距離に関してデジタル的に表現可能であるマッピングユニットと、
丁度可知距離に関して表現された第1の場所に基づいて、入力臭気のデジタル指標を出力するための出力と
を備えるデジタル電子ノーズが提供される。
【0028】
いくつかの実施形態において、n次元知覚空間は電子的に格納される。
【0029】
いくつかの実施形態において、n次元知覚空間は、匂いのn本の軸に沿って分子に適用される物理化学的記述子を含み、ここでnは複数の整数である。
【0030】
いくつかの実施形態において、それぞれの丁度可知距離は、n次元知覚空間上の角度である。
【0031】
いくつかの実施形態において、n次元のデジタル化された知覚空間上の2つの臭気の間の角度は、
であり、ここで
は、2つの臭気をそれぞれ表すベクトルの間のドット積であり、
および
は、それらのユークリッドノルムである。
【0032】
いくつかの実施形態において、知覚空間における分子は、
に従って重み付けされ、ここでxは、正規化された強度である。
【0033】
本発明の第3の態様によれば、臭気を評価する方法であって、
臭気から化学的な特性評価を抽出する電子ノーズを用意することと、
電子ノーズを第1および第2の臭気に適用することと、
電子ノーズを使用し、第1および第2のそれぞれの臭気について、化学的な臭気の特性評価を抽出することと、
第1および第2の臭気のそれぞれの化学的な臭気の特性評価の間の距離を測定することと、
この距離を第1および第2の臭気の間の類似性の指標として出力することと
を含む方法が提供される。
【0034】
実施形態は、丁度可知差異に関する距離のデジタル化を含むことができる。
【0035】
とくに定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および/または科学用語は、本発明に関係する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と同様または同等の方法および材料を、本発明の実施形態の実施またはテストに使用することができるが、以下では典型的な方法および/または材料が説明される。矛盾が存在する場合、定義を含む本特許明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、単なる例示にすぎず、必ずしも限定を意図するものではない。
【0036】
本発明の実施形態の方法および/またはシステムの実装は、選択されたタスクを手動、自動、または両者の組み合わせにて実行または完了することを含むことができる。さらに、本発明の方法および/またはシステムの実施形態の実際の計測器および設備によれば、いくつかの選択されたタスクを、ハードウェア、ソフトウェア、またはファームウェア、あるいはオペレーティングシステムを用いたこれらの組み合わせによって実装することができる。
【0037】
例えば、本発明の実施形態に従って選択されたタスクを実行するためのハードウェアは、チップまたは回路として実装されてよい。ソフトウェアとして、本発明の実施形態による選択されたタスクを、任意の適切なオペレーティングシステムを使用してコンピュータによって実行される複数のソフトウェア命令として実装することもできる。本発明の典型的な実施形態において、本明細書に記載の方法および/またはシステムの典型的な実施形態による1つ以上のタスクを、複数の命令を実行するコンピューティングプラットフォームなどのデータプロセッサによって実行することができる。随意により、データプロセッサは、命令および/またはデータを格納するための揮発性メモリ、ならびに/あるいは命令および/またはデータを格納するための不揮発性ストレージ、例えば磁気ハードディスクおよび/またはリムーバブルメディアを含む。随意により、ネットワーク接続も提供される。ディスプレイならびに/あるいはキーボードまたはマウスなどのユーザ入力デバイスも随意により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明のいくつかの実施形態が、あくまでも例として、添付の図面を参照して本明細書において説明される。ここで図面を具体的に詳しく参照すると、示されている詳細は、あくまでも例示であり、本発明の実施形態の実例を議論するためのものであることを、強調しておく。この点で、図面と併せて検討される説明が、本発明の実施形態をどのように実施できるかを、当業者にとって明らかにする。
【0039】
【
図1】説明を提供する一方法として、本発明の一実施形態による臭気の検出およびn次元サンプル空間へのプロットを示す概略のフローチャートである。
【
図2】
図1の方法を実行するための装置を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施形態による臭気のテキスト表現を提供するための方法を示す概略のフローチャートである。
【
図4】本実施形態を使用して適用された記述子を、人間であるテスターを使用して適用された記述子と比較して示すグラフである。
【
図5】本実施形態による臭気の合成のプロセスを示す概略図である。
【
図6】本実施形態による化学サンプル空間における類似の混合物のモデリングを示す概略図である。
【
図7】モデル化された結果と化学データとの間の角度距離を示す概略図である。
【
図8A】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図8B】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図8C】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図8D】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図8E】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図8F】本実施形態に従って測定された匂いの類似性が現実世界の臭気物質混合物の類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図9A】本実施形態による匂いの指標がバラ、スミレ、およびアサフェティダの知覚される類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図9B】本実施形態による匂いの指標がバラ、スミレ、およびアサフェティダの知覚される類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図9C】本実施形態による匂いの指標がバラ、スミレ、およびアサフェティダの知覚される類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図9D】本実施形態による匂いの指標がバラ、スミレ、およびアサフェティダの知覚される類似性をどのように予測するかを示す概略のグラフである。
【
図10A】本実施形態による匂いの指標が嗅覚識別タスクにおけるパフォーマンスをどのように予測するかを示す一連のグラフである。
【
図10B】本実施形態による匂いの指標が嗅覚識別タスクにおけるパフォーマンスをどのように予測するかを示す一連のグラフである。
【
図10C】本実施形態による匂いの指標が嗅覚識別タスクにおけるパフォーマンスをどのように予測するかを示す一連のグラフである。
【
図11A】本実施形態による臭気の質のJNDの数字にどのように到達できるのかを示す一連のグラフである。
【
図11B】本実施形態による臭気の質のJNDの数字にどのように到達できるのかを示す一連のグラフである。
【
図11C】本実施形態による臭気の質のJNDの数字にどのように到達できるのかを示す一連のグラフである。
【
図11D】本実施形態による臭気の質のJNDの数字にどのように到達できるのかを示す一連のグラフである。
【
図12A】本実施形態において実験を行うために使用した臭気を知覚空間に投影して示したグラフである。
【
図12B】本実施形態において実験を行うために使用した臭気を知覚空間に投影して示したグラフである。
【
図13A】本実施形態に従って測定された臭気間の角度距離が知覚される類似性にどのように変換されるかを示すグラフである。
【
図13B】本実施形態に従って測定された臭気間の角度距離が知覚される類似性にどのように変換されるかを示すグラフである。
【
図13C】本実施形態に従って測定された臭気間の角度距離が知覚される類似性にどのように変換されるかを示すグラフである。
【
図13D】本実施形態に従って測定された臭気間の角度距離が知覚される類似性にどのように変換されるかを示すグラフである。
【
図14】本発明の実施形態によるデジタルeノーズを示すブロック図である。
【
図15】デジタル出力またはアナログ出力のいずれかを生成するために使用することができる本発明の実施形態によるさらなるeノーズを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、電子ノーズから得ることができる臭気の測定値を利用するやり方に関する。
【0041】
臭気を評価する方法が、少なくともn個(nは1よりも大きい)の化学記述子を抽出することができる測定値を臭気から抽出する電子ノーズを用意することと、電子ノーズを臭気に適用することと、電子ノーズを使用して臭気の臭気情報を抽出することと、抽出した臭気情報を、各々の次元がn個の化学記述子のうちの該当の1つに関係しているか、あるいは特定のeノーズまたはそのeノーズによる測定値にその他のやり方で最適化されているn次元のサンプル空間上の第1の場所にプロットすることと、プロットの場所に基づいて評価を出力することとを含む。評価は、臭気表現用語に基づく説明であってよく、あるいはその臭気を合成することができる化学物質に関する化学的記述であってよく、したがって臭気を化学的記述に基づいて合成することができる。
【0042】
さらに、本実施形態は、例えばラジアンで表され、任意の2つの臭気物質間の知覚的類似性または差異をそれらの構造のみに基づいて正確に反映する指標の最適化に拡張可能である。試行において、166名の参加者が、この指標に沿った距離が体系的に変化する臭気物質混合物を評価する38,744件の試行を実施した。試行において、人間が検出できる臭気の質の最小の差、すなわち嗅覚のJNDが、臭気物質間の0.0125ラジアンであることが観察された。神経生物学およびテクノロジへの影響の他に、このフレームワークは、匂いを規定し、したがって特定の匂いについて著作権などの権利を主張する道を開く。
【0043】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明が、その適用において、以下の説明において述べられ、さらには/あるいは図面および/または実施例に示されるコンポーネントの構成および配置ならびに/あるいは方法の詳細に必ずしも限られないことを、理解すべきである。本発明について、他の実施形態も可能であり、あるいはさまざまな方法での実施または実行が可能である。
【0044】
ここで図面を参照すると、
図1は、電子ノーズ10を提供する、臭気の評価方法を示している。「電子ノーズ」という用語は、空気または他のガスのサンプルのガス状化学物質含有量を測定するように設計された任意のデバイスを指し、臭気の特定の成分を識別し、その化学成分を分析して臭気を識別するデバイスを含む。電子ノーズを、電子センサのアレイなどの化学的検出のための機構と、ニューラルネットワークなどのパターン認識のための機構とで構成することができる。次いで、臭気の記述子を、センサ自体またはパターン認識から抽出することができる。
【0045】
本実施形態による電子ノーズは、臭気を検出し(12)、それから記述子が得られる測定値を抽出する(14)。本実施形態において、測定値は、抽出され得る少なくともn個の化学記述子をもたらすために使用され、ここで、nは、1より大きい整数である。使用され得る記述子の典型的な数は、18である。一般に、使用する記述子の数をより少なくすると、結果として意味が少なくなり、より多くの記述子を使用すると、有用な意味はあまり増えずに、処理が遅くなる。18という数が、特定のノーズから得られた測定に基づき、最適であることが明らかになっている。しかしながら、使用されるノーズに応じて、他の数の記述子が最適である可能性があり、他の考慮事項に応じて、次善の解決策が当業者によって選択されてもよい。
【0046】
ひとたび記述子が利用可能になると、臭気は、n次元のサンプル空間の第1の場所にプロットされ(16)、ここで各次元は、n個の化学記述子のうちの特定の1つに関連している。次いで、サンプル空間内の場所に基づいて、評価が出力される(18)。
【0047】
電子ノーズは、一般に、多数の測定値を抽出するが、一部は人間にあまり知覚されない臭気成分に関係し、一部は人間により強く知覚される臭気成分に関係する。さらに、一部の記述子は他の記述子にきわめて類似している可能性があり、したがって省略しても全体的な影響はきわめて少ないかもしれない。いずれにせよ、可能な記述子のすべてが必要なわけではなく、本実施形態は、電子ノーズから入手可能なm個の化学記述子からなるより大きなグループから、n個の化学記述子を選択することを含むことができる。以下でより詳細に論じられるように、サンプル空間を、事前に定義された一式の臭気および一群の人間のテスターを使用して最初に構築することができる。人間のテスターが、どの臭気が似ており、どの臭気が似ていないのかを決定し、次いで、n個の記述子のさまざまな組み合わせがテストされ、どの組み合わせが、類似の臭気を互いに集め、異なる臭気を互いに離すうえで最良であるかが調べられる。テスターの評価に最もよく一致するn個の記述子の組が、n次元のサンプル空間の基礎として選択される。
【0048】
ひとたびサンプル空間が定義されると、テストサンプルがサンプル空間において定義され、各々のテストサンプルにはいくつかの説明用語が関連付けられる。新たなサンプルが空間にプロットされ、最も近いテストサンプルが発見される。最も近いテストサンプルは、最も近いk個のサンプルであってよく、あるいは所与の半径内の任意のサンプルであってよい。発見されたテストサンプルに関連付けられた用語を、現在の臭気を説明するために使用することができる。
【0049】
あるいは、サンプル空間を領域に分割してもよい。領域は、任意であってよく、あるいは例えばテストなどからすでに知られたクラスタリングに基づいてもよい。次に、種々の領域に、臭気を説明する用語が提供され、例えば特定の領域に集まる臭気を表現するとテスターが判断した用語が提供される。所与の領域にいくつかの用語が関連付けられてもよく、同様に、1つの用語がいくつかの領域に関連付けられてもよいことを、強調しておく。次いで、後に測定される臭気の評価出力は、その臭気がプロットされるサンプル空間内の領域に関連付けられた用語に基づくことができる。
【0050】
以下でより詳細に説明されるように、臭気関連議論のテンプレートを用意することができる。これらのテンプレートは、臭気に関する議論に使用される文を含み、実際の臭気を説明する用語のための空白を有している。その場合、評価は、抽出された(1または複数の)用語を適切なテンプレートに挿入することを含むことができる。このようにして、評価が、人間によって生み出されているという印象を与える。
【0051】
以下で説明されるように、代案は、領域を臭気を有する化学物質に関連付けることである。上述のように、単一の領域に2つ以上の化学物質を関連付けることができ、所与の化学物質を2つ以上の領域に関連付けることができる。入力臭気がサンプル空間にプロットされ、次いで入力臭気を、プロットの場所に関連付けられた化学物質またはすぐ近くにある化学物質に関して表現することができる。次いで、表現内の化学物質を使用することによって、入力臭気を合成することができる。
【0052】
図2を参照すると、電子ノーズ20がサンプルを測定し、測定値22を生成する。測定値22は、記述子24(記述子1、・・・、n)を生成し、記述子24は、n次元のサンプル空間26へマッピングされ、次いで、n個の記述子に基づくサンプル空間内の臭気のプロットの場所に基づいて、評価出力がもたらされる(28)。
【0053】
次に、実施形態をより詳細に説明する。まず、言葉による表現をもたらす実施形態を論じるが、目的は、臭気の説明が実際には機械からもたらされていることを人間が見破ることができないというノーズのチューリング(Turing)テストに合格することである。
【0054】
実施形態の目的は、未知のサンプルを電子ノーズ(eノーズ)に提示することである。機械がサンプルを分析し、あたかも人間がもたらしたかのようなフリーテキストでのサンプルの臭気の表現を生成する。機械によって生成された表現は、被験者によってもたらされた表現と区別できないように意図されてよい。結果の確認は、機械がチューリングテストの嗅覚バージョン、いわゆるイミテーションゲームに合格することに相当する。
【0055】
次に
図3を参照するが、
図3は、表現をもたらすための3ステップのプロセスを説明する簡略図である。第1に、新たなサンプルが与えられ、サンプルがeノーズで分析され(30)、関連するeノーズ特徴が抽出され、既知のサンプルのライブラリに対するサンプルの知覚される類似性が計算される(32)。第2に、サンプルの既知のライブラリに対する類似性に基づいて、サンプルライブラリについて知られた知覚的な質が組み合わせられ、新たなサンプルについて最も適切な知覚的な質が計算される(34)。プロセスの第3の部分は、サンプルについて発見された知覚記述子のリストを翻訳し、自然言語で表現することである(36)。
【0056】
本実施形態をもたらした研究においては、AirSenseのPEN3という電子ノーズを、ガラスバイアルから臭気物質をサンプリングするためのオートサンプラーに接続した。
【0057】
DravnieksのAtlas of Odor character profilesで使用されたセットから抽出された77個の単一分子サンプルの集合からもたらされ、本明細書においてデータセットAと呼ばれる初期データセットを、サンプル空間を設定するために使用した(分子のリストについては追加資料を参照)。この混合物のセットを、eノーズにおいて、電子ノーズを通る350ml/分の流速でサンプリングし、サンプルをオートサンプラーによって30℃に加熱した。eノーズの10個のセンサで79秒にわたってサンプリングを行い、したがって各々のサンプルについて、10個の79秒の時系列で構成されたデータを集めた。各々のサンプルについて、最後の時間段階におけるセンサの読み取り値である10個の特徴を抽出した。その理由は、その時点で信号が安定しており、その時点のサンプルが最もロバストな特徴を提供するはずだからである。すべてのeノーズサンプルを、プロピレングリコールで希釈し、シリコーン膜で密閉された専用のガラスバイアル内で調製した。
【0058】
データセットAはDravnieksのAtlasからのサンプルで構成されているため、各々のサンプルについて、146個の知覚表現のリスト、およびDravnieksの実験において評価されたそれらの妥当度のレベルが存在する。
【0059】
データセットA内の分子の化学的特性を、Dragon v6と呼ばれる市販のソフトウェアプログラムから取得した。
【0060】
プロジェクトの自然言語部分は、臭気物質のサンプルの数百のフリーテキスト記述子の集合を利用する。テキスト表現を、被験者に対して臭気物質を提示し、それらを自然言語を用いて表現するように求める臭気記述子の意味論に関する研究に関して、本発明の発明者のうちの一名が収集した。これらのテキストは、臭気物質の自然言語表現を生成する本プロセスのテンプレートとして使用される。テキスト表現のセットは、データセットBと標記される。
【0061】
自然言語表現を生成するプロセスは、嗅覚サンプルの自然言語表現を生成するプロセスを示している
図3に関して上述したステップを含む。
【0062】
プロセスの第1の段階は、テストされたサンプルと既知の臭気サンプルのライブラリとの知覚距離のモデリングからなる。データセットAが、既知の臭気のライブラリとして機能するだけでなく、テストサンプルのソースとしても機能し、各々のサンプルがライブラリの残りの部分を使用してモデル化される(リーブ・ワン・アウト・プロセス)。
【0063】
77個のサンプルのそれぞれがeノーズによってサンプリングされ、そのeノーズ特徴が、ライブラリ内の各サンプル(この場合には、残りの76個のサンプル)からの知覚距離を計算するために使用される。距離の計算を実行できるさまざまなやり方が存在するが、以下の段階は、この計算を実行するために使用される方法に厳密に依存するわけではない。本方法は、最初にeノーズ特徴を選択されたDragon化学記述子の化学空間にマッピングする。次に、テストサンプルおよびライブラリサンプルの化学空間表現を使用して、サンプルとライブラリサンプルとの知覚的類似性が計算される。このプロセスは、以下でさらに詳細に説明されるように次元がeノーズ特徴に基づいて選択された特別に最適化された化学空間を使用する。類似の臭気を最良にクラスタリングし、似ていない臭気を遠く離しておくn個の記述子のセットが選択される。
【0064】
プロセスの第2の部分は、臭気サンプルの所与のライブラリへ計算された類似性を使用し、それらからテストサンプルの最も適切な知覚記述子を抽出することからなる。これを行うために、新たなサンプルに最も近い15個のライブラリサンプルが取得される。15個のライブラリ臭気サンプルのそれぞれが、サンプルに近いほど重みが大きくなるように、テストサンプルまでの距離で重み付けされる。15個のライブラリサンプルに計算されたそれぞれの重みを掛け、それらを足し合わせる。得られた合計は、重みおよび構成要素の15個のライブラリサンプルを反映する知覚特性のベクトルである。この結果としてのベクトルにおいて、特定の特性における係数のサイズは、サンプルとの関連性を反映している。テストサンプルのコンパクトな知覚表現を生成するために、計算された知覚ベクトルの係数が最大である5つの特性が選択される。最終結果は、テストサンプルに関連付けられた5つの最も適切な知覚特性のリストである。
【0065】
本手順のパフォーマンスをテストするために、テストサンプルにおける最も関連性の高い上位5つの知覚特性の選択を、(Dravniekの実験において)被験者によって与えられた実際の評価と比較した。各々のテストサンプルについて、予測される上位5つの知覚特性の実際の順位を調べた。結果が
図4に示されており、
図4は、77個の分子について146個の言葉による記述子のうちの上位5つの予測結果を示しており、データセットA内の臭気サンプルについて予測された上位5つの知覚記述子の順位の位置を示している。
【0066】
図4に見られるように、予測された上位5つの記述子は、記述子の実際の順位の上位付近にランクされている。77個の分子のうちの62個の分子について、上位5つの記述子のうちの少なくとも1つが予測されたことが分かった。このような結果が偶然に得られる確率は、p<e-50である。さらに、77個の分子のうちの47個については、上位5つの記述子のうちの2つ以上が予測され、77個の分子のうちの30個については、最上位の記述子を的中させた。一般に、77個の分子全体で、予測された5つの記述子の平均順位は(可能な146のうちの)11であった。これらの結果の各々の確率は、p<e-30である。
【0067】
本プロセスの第3のステップは、計算された上位5つの記述子を使用して、臭気物質の自然言語による表現を生成することである。生成すべきテキストは、すべて同じトピックについてであるため、これを達成する最も簡単なやり方は、被験者によってもたらされた実際の表現のテンプレートを使用することである。このようなテンプレートは、以下のデータセットBから生成される。
【0068】
本実施形態の困難な部分は、eノーズにおいてサンプリングされた臭気物質間の知覚距離の予測である。しかしながら、示されているように、利用可能なデータに対する記述子の選択は非常に正確である。記述子の予測が実際の評価に近いため、人間が、計算された上位5つの記述子を実際の記述子から区別できる可能性は、ほとんどない。その意味で、本アルゴリズムでチューリングテストの難解なバージョンに合格できると期待される。ひとたび上位の予測子がテンプレート(補足資料を参照)に挿入されると、得られた表現は、実際の人間の表現からの区別はさらに難しくなると考えられる。
【0069】
補足情報
1)データセットAに含まれる分子のCIDのリスト。
263
307
326
342
460
957
1049
1127
1140
1146
2758
3314
4133
5144
6054
6054
6184
6501
6544
6654
7059
7410
7519
7600
7685
7710
7714
7731
7749
7762
7770
7888
7921
7966
7991
8030
8103
8118
8129
8130
8148
8797
8892
8918
9609
10722
10821
10890
11002
11552
12178
14286
18827
19310
22201
22311
24915
26331
31252
31266
31276
31277
61016
61138
61199
62336
62433
62444
67285
91497
93009
439570
637563
638011
1550884
5281515
5283349
【0070】
2)自然言語テンプレートのサンプル。バンクは、形容詞については__として、名詞については___としてコード化されている。
この匂いは__すぎるので好みでない。
私にとって__のような匂いがする。
これは__を思い出させる。
これはとても__だ。
これは私の子供時代を思い出させる。
これはとても__であり、___に似ている。
何か__だ。
___または___のような少し__の匂いがする。
これらの__ __の匂いのうちの1つだ。
___と___との組み合わせのようだ。
父は___をよく食べていたが、それは___のような匂いであった。
目を閉じると___が見える。
祖母がこのような匂いのする___を持っていたので、祖母の家を思い出す。
私はそれが何であるか知っており、それは___である。
これは___の香りがする。
___のように少し__だ。
はっきりしないが、___かもしれない。
___を思い出させるが、もっと__だ。
理由は不明だが___を思い出させる。
クレイジーと言われても、これは___だと思う。
それはあなたが店で買う___と全く同じだ。
それは私の母がよく持ってきた___だ。
私の兄がかつてこのような匂いがする___を見せてくれた。
これは___に似ているが、より人工的だ。
これは___の改良版のようだ。
少し__で__ ___の匂いだが__だ。
これは___のような匂いがし、私は好きだ。
これは強い___のようだ。
これは弱い___のようだ。
これは非常にかすかで、少し__だ。
__ __ __の匂いだ。
分からないが、多分___だ。
これは私が好む何かであり、多分___だ。
___を思い出す。
多分___だ。
これは実際には__な___の繊細なバージョンのようだ。
分からないが、多分___だ。
認識するのにしばらく時間がかかったが、___のようだとかなり確信する。
正確には___でなく、__ ___の可能性が高い。
ほぼ___のようだ。
私にとって本当に__および__の匂いがする。
これは分かるはずで、多分___だ。
冬の匂いのようだ。
私の舌先にある。
___と___との混合物のようだ。
知っているが思い出せない。
職場の辺りでよく使用していた。
少し__だが__だ。
___に似ているが、もっと__だ。
___に似ているが、あまり__でない。
___のような___ __ __ __の匂いだ。
___を思い出させる__の臭気の__だ。
こんな匂いのボディクリームがある。
___だが、それほど__でなく、比較的__だ。
多分___だ。
これは___ですか?
本当に__だ。
これはまさに___のような匂いだ。
___の異様な変種だ。
少し__かつ__だ。
こんな匂いの男とデートしたことがある。
17番のバスの匂いだ。
___を__ ___と混ぜたようだ。
正確ではないが、___の腐敗物のようだ。
以前に嗅いだことがある。
個人的には嫌いだ。
それを嫌いな人もいるかもしれないが、私は好きだ。
これを香水としてつけたくはない。
___には__すぎる。
この匂いですぐに___を思い出した。
【0071】
本発明の第2の実施形態は、検出された臭気の合成に関する。電子ノーズで分析した所与の臭気物質混合物との区別が不可能であるように意図された臭気物質混合物を合成する方法を開発した。本プロセスは、電子ノーズでサンプリングした未知の臭気物質混合物から始まる。次に、以下で説明されるように、選択された化学空間におけるサンプルの化学的表現がモデル化される。最後に、既知の分子および化学空間におけるそれらの表現の大規模なデータベースが使用される。このデータベースを検索して、サンプリングされた混合物に区別不可能であるほどに充分に近い化学的表現を有する混合物を生成するように組み合わせることができる分子の選択が発見される。
【0072】
先の実施形態と同様に、AirSenseのPEN3という電子ノーズを使用し、ガラスバイアルから臭気物質をサンプリングするためのオートサンプラーに接続した。2セットのサンプルが関係する。第1のセットは、本明細書においてデータセットBと呼ばれるDravnieksのAtlas of Odor character profilesで使用されたセットから抽出された86個の単一分子および小混合物サンプルの集合である(分子のリストについては追加資料を参照)。この混合物のセットを、eノーズにおいて、電子ノーズを通る350ml/分の流速でサンプリングし、サンプルをオートサンプラーによって30℃に加熱した。eノーズの10個のセンサで79秒にわたってサンプリングを行い、したがって各々のサンプルについて、10個の79秒の時系列で構成されたデータを集めた。各々のサンプルについて、最後の時間段階におけるセンサの読み取り値である10個の特徴を抽出した。その理由は、その時点で信号が安定しており、その時点のサンプルが最もロバストな特徴を提供するはずだからである。すべてのeノーズサンプルを、プロピレングリコールで希釈し、シリコーン膜で密閉された専用のガラスバイアル内で調製した。
【0073】
サンプルの第2のセットは、4~10個の分子の14個の混合物で構成される(分子のリストについては追加資料を参照)。これらの混合物は、知覚される類似性を評価する被験者によって直接テストされ、データセットCと標記される。
【0074】
このプロジェクトで使用される第3のデータセットは、データセットDと標記される。これは、データセットCと同様の設計であるが、分子の選択が異なり、データセットCの混合物とは異なり、これらの混合物の成分は強度が等しくない。データセットCの混合物の成分のCIDは、補足資料に挙げられる。
【0075】
使用した分子の化学的特性を、Dragon v6と呼ばれる市販のソフトウェアプログラムから取得した。
【0076】
合成混合物を計算するプロセスは、
図5に示すいくつかの段階を含む。
図5は、合成混合物を計算するプロセスを説明する簡略化されたフローチャートである。以前の研究において、臭気物質を表現し、化学データから知覚距離をモデル化するために、化学空間を使用した。この研究においては、同様の段階を使用するだけでなく、それらの化学座標をeノーズ特徴によってモデル化することも望まれる。これを可能にするために、特別な化学空間を発見する。この化学空間は、eノーズ特徴から良好にモデル化される化学特性で構成される。
【0077】
出発点は、Dragonによって生成された4870個のすべての化学的特性(すべてのサンプルについて一定であったものを除く)の大規模リストである。したがって、データセットAの各々のサンプルについて4870個の化学的特性のリストが存在した。次いで、単純な線形最小二乗法を使用して、eノーズ特徴からの各々の化学的特性のモデル化を試みた。しきい値(p=0.01)よりも下で有意にモデル化された化学的特徴のみを、モデル化の第2の部分のために保持した。化学的特性のこの初期のスクリーニングにより、各々をeノーズ特徴から個別に良好にモデル化できる648個の化学的特性のセットが得られた。
【0078】
モデル化の第2の段階において、臭気物質混合物の知覚的類似性を予測する一連の記述子が発見される。モデル化は、eノーズ特徴によって良好にモデル化された化学的特性に制限される。データセットCを使用して、この段階のトレーニングおよびテストを行った。まず、データセット内の混合物間の比較のセットをテストセットおよびトレーニングセットに分割した。テストセットは48個の比較で構成され、トレーニングセットは47個の比較で構成されている。化学空間としてのパフォーマンスについて、18個の化学記述子の2000000個のランダムな選択をテストした。すなわち、これらの2000000個の選択のそれぞれについて、それらを座標として化学空間を作成し、トレーニングセット内の比較間の角度距離を計算した。パフォーマンスが最も良好であった選択は、角度距離と実際の被験者により評価にされた混合物の類似性との相関が最大であった選択である。結果は18個の記述子のセットであり、その後に、これらを比較の別個のテストセットにおいてテストした。テストセットにおける角度距離のパフォーマンスは、(r=-0.62、p=1.79e-6)の相関であった。記述子のこの選択をより厳しいテストにかけるために、記述子が選択されたデータベースCと共通の混合物を持たないデータベースDの混合物を使用した。データセットCとは異なり、混合物成分がすべて同じ強度ではないため、データセットDのテストはより困難でもあり、テストは異なる条件のセットで実行される。それにもかかわらず、18個の化学記述子の選択は、データセットDの臭気物質混合物の知覚的類似性の予測においてきわめて良好なパフォーマンスであった。
【0079】
結果を
図6に示す。
図6は、やはりeノーズ特徴によって良好にモデル化される18個の化学的特性を使用するデータセットDの14個の複合混合物の間のすべての比較のモデル化された知覚的類似性を示している(r=0.72、p<10-16)。
【0080】
18個の良好なパフォーマンスの化学記述子のセットを見つけたので、それらを化学空間のパラメータとして固定する(記述子のリストについては、補足資料を参照)。
【0081】
今回の取り組みにおける次の段階は、選択した化学空間における混合物の表現を、それらのeノーズ特徴からどれだけうまくモデル化できるかを確認することである。結果を
図7に示す。
図7は、データベースBの86個のeノーズサンプルの最適化された化学空間におけるモデル化された化学表現と実際の化学表現との間の角度距離を示す簡略図である。
【0082】
図2を観察すると、臭気物質の類似性における丁度可知差異が、0.033未満の角度距離に対応すると推定できる。元の化学表現に0.033よりも近いと予測できた類似性の数は、86個の分子のうちの63個であり、73%である。さらなる7個の分子は、まさに丁度可知差異のレベルであり、したがって合計81%が検出可能な差異以下である。
【0083】
手元にあるデータから、2つのことを推論することができる。第1に、eノーズで新規サンプルをサンプリングし、それらから関連の特徴を抽出し、これらの特徴を使用して化学空間におけるサンプルの表現をモデル化することが可能である。第2に、この化学空間を使用して、被験者によって評価されたサンプルの知覚された類似性をモデル化することが可能である。これらの結果はどちらもきわめて重要であり、さらなるテストのための強固な基盤を提供するはずである。
【0084】
計算の残りの部分は、モデル化されたサンプルを近似する合成混合物を計算することである。
図5に示されるように、未知のサンプルが与えられると、それを化学空間においてモデル化することができる。次に、Dragonを使用して、既知の成分およびそれらの18次元の化学空間における表現のライブラリが生成される。この部分は、ライブラリに含まれる分子の選択以外のさらなる作業を必要としない。このライブラリを使用し、線形代数を使用して、サンプルの化学表現を近似するベクトルを生成すべく組み合わせられるライブラリベクトルの組み合わせが発見される。近似の精度は、実際には、いくつの成分が合成混合物に含まれてよいかに応じて、所望のとおりに高めることができる。さらに、所望の特性を有する合成混合物を得るための検索に、さらなる好みおよび制限を追加することができる。例えば、LD50または価格が特定のしきい値を下回る化学物質のみに検索を制限することができる。
【0085】
補足資料
1)データセットBの単一のDravnikes分子および小混合物からなる86個のサンプルのCIDのリスト。
混合物1 91497
混合物2 12178
混合物3 263
混合物4 6184
混合物5 8118
混合物6 62336
混合物7 8103
混合物8 67285
混合物9 6054
混合物10 8129
混合物11 61016
混合物12 26331
混合物13 20859
混合物14 7770
混合物15 8103 91497
混合物16 5144 6184
混合物17 7888 7770
混合物18 1127 7888
混合物19 7762 3314
混合物20 6054 7770
混合物21 19310 8797
混合物22 7762 62336 3314
混合物23 61016 4133 1049
混合物24 67285 8635 263
混合物25 62336 6054 460
混合物26 61016 62444 460
混合物27 8118 62444 7059
混合物28 263 1049 61016
混合物29 3314 67285 20859 8797
混合物30 7762 8797 62336 3314
混合物31 1550884 62336 8797 4133
混合物32 20859 8130 3314 61016
混合物33 7762 8797 8635 26331
混合物34 1049 67285 62444 19310
混合物35 26331 7762 8103 240
混合物36 20859 7770 1550884 240 62433
混合物37 8118 1127 19310 6184 7059
混合物38 26331 7770 7519 19310 1550884
混合物39 3314 1049 61016 7059 1550884
混合物40 61016 8129 7762 3314 8635
混合物41 61016 19310 1550884 8129 3314
混合物42 8129 22201 7685 7888 8635
混合物43 61199
混合物44 7410
混合物45 14286
混合物46 98403
混合物47 6501
混合物48 7710
混合物49 31266
混合物50 31276
混合物51 10890
混合物52 7600
混合物53 62433
混合物54 637563
混合物55 7519
混合物56 240
混合物57 93009
混合物58 263
混合物59 11002
混合物60 439570
混合物61 5281515
混合物62 307
混合物63 638011
混合物64 342
混合物65 8797
混合物66 7685
混合物67 7731
混合物68 326
混合物69 7966
混合物70 8148
混合物71 9609
混合物72 24915
混合物73 22201
混合物74 31252
混合物75 12265
混合物76 19310
混合物77 7762
混合物78 7749
混合物79 26331
混合物80 2758
混合物81 3314
混合物82 460
混合物83 8130
混合物84 8129
混合物85 6184
混合物86 8892
【0086】
2)データセットCの14個の混合物で使用される分子のCIDのリスト。
混合物1:326 26331 1140 6544
混合物2:7410 240 93009 8635
混合物3:7710 62433 7519 7685 3314
混合物4:31276 8148 7762 18827 7714
混合物5:7519 8148 31252 8103 5281168 6544
混合物6:7410 326 2758 62444 7770 1140
混合物7:240 307 7731 2758 12178 62336 8635
混合物8:31276 62433 8129 12178 7519 18827 10722
混合物9:7710 93009 8130 8103 5281168 7059 8918 7714
混合物10:7410 11002 8797 7519 8129 5281168 6654 8030
混合物11:62433 8797 2758 3314 8635 61138 6544 6054 10722
混合物12:11002 307 7685 12178 4133 7991 6054 7770 7714
混合物13:8797 7731 7966 3314 62336 7059 7991 61138 6054 6544
混合物14:240 2758 8130 8129 5281168 7059 4133 8918 957 6654
【0087】
3)データセットCの14個の混合物で使用される分子のCIDのリスト。
混合物1:520296 9012 24834 8180
混合物2:62351 5367698 6050 7765
混合物3:5365049 14104 170833 1550470 31219
混合物4:11086 17121 8180 61670 7194
混合物5:170833 17121 2214 6560 10925 23642
混合物6:126 520296 5273467 6997 7657 24834
混合物7:9012 556940 61670 5273467 61331 7601 7765
混合物8:11086 14104 807 61331 170833 18554 31219
混合物9:5365049 6050 11980 6560 10925 325 8077 7194
混合物10:62351 5364231 7593 444972 807 10925 565690 126
混合物11:14104 7593 2214 6998 7765 89440 23642 637776 31219
混合物12:5364231 556940 1550470 61771 778574 61293 637776 7657 7194
混合物13:7593 61670 61771 6998 7601 325 61293 89440 637776 23642
混合物14:5367698 5273467 11980 807 6997 325 778574 8077 444972 565690
【0088】
4)本化学空間を定義するために使用される18個の化学記述子のリスト。
「P_VSA_e_5」:Sandersonの電気陰性度のbin 5におけるP_VSA様の記述子
「Eig05_EA(ed)」:エッジ度数で重み付けされたエッジ隣接行列からの固有値n.5
「Mor15e」:信号15/Sandersonの電気陰性度によって重み付け
「MATS7i」:イオン化ポテンシャルによって重み付けされたラグ7のMoran自己相関
「L3u」:第3のコンポーネントサイズの方向性WHIMインデックス/重み付けなし
「Eig02_EA(ed)」:エッジ度数で重み付けされたエッジ隣接行列からの固有値n.2
「Ho_G」:幾何行列からのHosoya様のインデックス(対数関数)
「SpAbs_B(p)」:分極率によって重み付けされたBurden行列からのグラフエネルギ
「SpAD_EA(bo)」:結合次数で重み付けされたエッジ隣接行列からのスペクトル絶対偏差
「VR1_B(m)」:質量で重み付けされたBurden行列からのRandic様の固有ベクトルに基づくインデックス
「WiA_RG」:逆二乗幾何行列からの平均Wiener様インデックス
「CID」:RandicのID番号
「Mor24m」:信号24/質量で重み付け
「H0e」:ラグ0のH自己相関/Sandersonの電気陰性度によって重み付け
「SP01」:形状プロファイル番号1
「Eta_betaS」:eta sigma VEMカウント
「Mor01s」:信号01/Iステートで重み付け
「R2v」:ラグ2のR自己相関/ファンデルワールスボリュームで重み付け
【0089】
上記のように、測定に基づく異なる匂いの特性評価および区別の方法が提供される。以下の実施形態においては、匂いの指標が、嗅覚に関する丁度可知差異(JND)を定めるために使用される。JNDに基づいて、匂いの再現可能な測定のためのデジタルシステムを提供することができる。
【0090】
丁度可知差異(JND)は、感覚システムのセンサおよび回路の最小要件を知らせ、視覚および聴覚の感覚神経生物学を調べる実験を形作る。これらのJNDは、例えば、テレビおよび電話などのデジタル化デバイスの設計にとって重要である。色および音色のJNDは、それぞれ波長および周波数の物理的指標に沿って系統的に変化する刺激の識別可能性をテストすることによって特定されているが、臭気の質に関してはどの物理的指標を変化させることが可能だろうか。このような指標の欠如は、Alexander Graham Bellによって100年ほど前に提起された課題において適切に捕らえられているとおり、嗅覚科学に大きな妨げをもたらしている。
「或る種類の匂いと他の種類の匂いとの間の差異を測定することが可能か。スミレおよびバラの臭気からアサフェティダに到るまで、多数のさまざまな種類の匂いが存在することは明らかである。しかしながら、それらの類似点および差異点を測定できるようになるまで、臭気の科学はあり得ない。」
【0091】
この声明に一致して、嗅覚の質のJNDを定義するために、臭気の刺激を変化させるための匂いの指標を手にする必要がある。そのような指標は、この10年において発表され、その一例を上述した嗅覚の知覚の質の空間のいくつかのおおむね収束するモデルのいずれかに基づくことができる。最も基本的なモデルは、典型的には、臭気物質の構造を臭気の知覚に結び付ける数学的なルールを見つけることに依存する。臭気物質の構造は、典型的には、分子に適用される多数の物理化学的記述子から導き出される。これらの物理化学的記述子は、ほぼ常にDragonソフトウェアを使用して取得され、臭気の知覚は、典型的には、臭気物質に適用された多数の言語記述子から導き出される。より単純なモデルは、臭気物質の構造のみ成功裏に使用して、匂いの主要な知覚軸を予測し、嗅覚的白色(olfactory white)などの知覚現象を予測し、個々の臭気物質の記述子を予測し、実際に臭気物質の知覚的類似性を臭気物質の構造へ結び付けるメトリックを提供する。このモデルによってBellの課題の解決に近づいたものの、これまでのところ、分子成分が知覚強度に関して等しくされた研究室の臭気物質にのみ当てはまるという限界が存在する。Bellのバラ、スミレ、およびアサフェティダなどの現実世界の臭気物質は、強度が大きく異なる多数の成分でできているという点で、研究室の臭気物質とは大きく異なる。嗅覚のJNDを明らかにしたい場合、最初にこの限界を克服する必要がある。この目的のために、最初に、さまざまな強度の成分を有する現実世界の臭気物質に適用できる類似性アルゴリズムの生成に着手した。これを達成した後に、この新規な指標を使用して、人間が検出できる臭気の質における最小の差異、または臭気の質のJNDを特定した。
【0092】
匂いの指標は、臭気物質の構造のみから現実世界の臭気物質の知覚的類似性を予測する。
【0093】
補足データ1に詳述されているように、44個の単分子を選択した。これらの分子は、物理化学的(
図8A)および知覚的(
図12A,B)嗅覚空間の効果的なスパンを提供する。実験1において、23名の参加者(女性16名、年齢27.7±3.3)に、単独の各々の単分子の知覚強度を評価するように依頼した。単分子の知覚強度が幅広い範囲にあること(
図8B)を確認した後で、これらの分子を使用して、成分数が4~10の範囲である14個のさまざまな強度の複合混合物を生成した。次いで、実験1bにおいて、参加者に、14個の混合物のすべての間のすべてのペアごとの知覚的類似性(すなわち、混合物#1と混合物#2との類似性、混合物#1と混合物#3との類似性、など)(各々の臭気物質混合物をそれ自身と比較する4つの事例を含む)を評価するように依頼し、95個のペアごとの混合物の類似性評価を得た(この原稿におけるすべての類似性評価は、補足データ2で詳しく説明される)。
【0094】
ここで
図8Aを参照すると、実験全体で使用した148個の分子が、物理化学的空間の第1および第2の主成分内の4046個の分子に重ねられている。
図8Bは、実験1で使用された44個の臭気物質について22名の参加者によって提供された強度評価のヒストグラムである。
図8C~
図8Fは、各ドットが2つの臭気物質のペアごとの比較である散布図であり、Y軸に参加者(n=22、それぞれ2回の繰り返し)によって評価された実際の類似性が与えられ、X軸にそれらの距離がテスト中のモデルに応じて示されている。
図8Cは、知覚強度について最初に同等化された臭気物質に適用された元の類似性モデルを示している。
図8Dは、さまざまな強度の臭気物質による実験1の結果に適用された元の類似性モデルを示している。
図8Eは、予測された知覚的類似性と実際の知覚的類似性の間の相関の変動を、αおよびβにおける変動の関数として示している。最適パフォーマンスの点が、黒色の十字によって示されている。
図8Fは、さまざまな強度の臭気物質をもたらす実験1に適用された新規の類似性モデルを示している。データを通る赤色の線は、線形フィットである。
【0095】
以前に行ったように、混合物間の差を計算する。要約すると、混合物を表すベクトルuと混合物を表すベクトルvとの間の距離関数を、21個の物理化学的記述子空間におけるそれらの間の角度として計算した(補足表1)。角度は
によって与えられ、ここで
は、ベクトル間のドット積であり、
および
は、それらのユークリッドノルムである。
【0096】
同じ混合物を、最初にそれらの各成分を同じ知覚強度となるように個別に希釈した後で使用するとき(すなわち、研究室の混合物)、以前の類似性モデルは、研究室の混合物の構造からの予測および実際の知覚的類似性との間にr=-0.57、p<2・10
-9の相関をもたらす(
図8Cの赤色の線)。しかしながら、この以前のモデルを、同じ成分を含むが強度が異なる現在の混合物(すなわち、現実世界の混合物)について行われた推定に適用すると、相関はr=-0.57からr=-0.48、p<7・10
-7に低下する(図
8Dの赤色の線)。とくに、予測および実際の臭気物質の類似性の間のそのような全体的な相関を計算してプロットする2つの方法が存在し、それらは、同一の混合物の間の比較があるか、あるいはないかのいずれかである(各々の手法について議論が存在する)(方法を参照)。上記はそのような比較がある場合であるが、それらを削除した場合、相関は、等強度の研究室混合物を使用したr=-0.50、5・10
-7(
図8Cの色の線)から、さまざまな強度の現実世界の混合物を使用したr=-0.30、p=0.005(
図8Dの黒色の線)へ変化する。換言すると、モデルのパフォーマンスに対する強度の影響が、さらに大きくなる可能性がある。
【0097】
現実世界の混合物に適用できるようにモデルのパフォーマンスを回復させるために、普遍的な強度係数を開発して適用した。この係数で、混合物の各成分の重みを、その知覚強度を指数関数的に反映するように調整した(方法を参照)。要約すると:混合物におけるベクトルの重み付けの非線形の性質を表すために、シグモイド関数モデルをフィットさせた。単分子の知覚強度を混合物モデルにおけるベクトル長に最良にフィットさせる普遍的なパラメータの特定に着手した。あるいは、換言すると、実験1の結果について、実際の類似性評価と重み付き角度距離との間の相関を最適化するパラメータを求めた。成分の強度をベクトル長に組み込むために、式
においてαおよびβを体系的に変化させた。次いで、各々のパラメータセット(αおよびβ)について、重み付き角度距離と知覚される類似性との間の相関を再計算した。最良の相関(最大の負の値)をもたらしたパラメータのペアを選択した。これらの普遍的なパラメータがα=-1.3、β=0.07(
図8E)であることが明らかになり、これは
をもたらし、ここでxは、正規化された強度を表す。
【0098】
モデルにおいてこの重み付けを使用すると、そのパフォーマンスが、予測(構造から)と実際の現実世界の混合物の知覚的類似性との間でr=-0.48からr=-.59、p<3・10
-10へ回復し(
図8Fの赤色の線)、以前のモデルを強度を等しくした混合物に適用したときのパフォーマンスレベルに等しいパフォーマンスレベルになった(Z(両側)=0.20、p=0.84)。これは、さまざまな強度の現実世界の混合物を使用したとき、古いモデルと比較して、新しいモデルによる相関の23%の改善または説明分散(R2統計)の51%の増加を反映している。さらに、同一の混合物のペアごとの比較を無視すると、新たなモデルによってもたらされる改善は、r=-0.30、p=0.005(
図8Dの黒色の線)からr=-0.41、7・10
-5(
図8Fの黒色の線)へさらに大きくなり、あるいは予測における36%の改善、および説明分散の86%の増加である。
【0099】
開発時のデータと同じデータを使用してモデルをテストしたため、次に、この新しいモデルの新規データへの一般化の検証に着手した。実験2において、実験1の手順を再現したが、これまでに使用したことがない44個の新しい単分子のセットから14個の新しい混合物を使用した(
図8A、
図12A、図12B)。ここで、元の研究室の臭気類似性モデルはr=-0.58(p=7・10
-10)での構造のみからの知覚的類似性の予測のために提供されているが(
図9Bの赤色の線)、新しい重み付けされた現実世界の類似性モデルは、構造からの予測と実際の知覚的類似性の間のr=-0.76、p<5・10
-19のさらに強力な注目すべき相関を提供した(
図9Cの赤色の線)。これは大幅な改善(Z(両側)=2.26、p=0.024)であり、相関の31%の改善、または説明分散の70%の改善を反映している。さらに、やはり新しいモデルによってもたらされる改善は、同一の混合物の比較を削除すると、古いモデルを使用したr=-0.38、3・10
-4(
図9Bの黒色の線)から新しいモデルを使用したr=-0.69、p<4・10
-14(
図9Cの黒色の線)へさらに大きくなる。これは、相関の圧倒的な82%の改善と、新しいモデルによる説明分散の330%の増加を反映している。
【0100】
ここで
図9A~
図9Dを参照すると、これは、匂いの指標がバラ、スミレ、およびアサフェティダの知覚される類似性をどのように予測するかを示す一連のグラフである。より具体的には、
図9Aは、実験2で使用された43個の臭気物質(それぞれ3回の繰り返し)について30名の参加者によって提供された強度評価のヒストグラムである。
図9Bおよび
図9Cは散布図であり、各点は2つの臭気物質のペアごとの比較であり、Y軸に参加者(n=31、それぞれ2回の繰り返し)によって評価されたそれらの実際の類似性が示され、X軸にテスト対象のモデルによるそれらの距離が示され、
図9Bは、さまざまな強度の臭気物質による実験2の結果に適用された元の類似性モデルであり、
図9Cは、さまざまな強度の臭気物質による実験2の結果に適用された新たな類似性モデルである。
図9Dは、Bellの課題の解決を示している。すなわち、実験3におけるバラ、スミレ、およびアサフェティダの予測(水色)対実際(濃い青色)のペアごとの類似性(n=30、それぞれ2回の繰り返し)。換言すると、実験1で特定されたパラメータは、構築セットの一部ではない新しいデータに一般化可能であり、そこで今や改善された予測をもたらしている。新しいデータを使用する場合、予測モデルのパフォーマンスが良好にならず、典型的にはパフォーマンスが低下することを考えると、これはうれしい驚きである。実験間の強度係数によってもたらされたパフォーマンス向上の差異は、分子固有の濃度-知覚強度曲線を反映していると推測される。急峻な濃度-強度曲線を有する成分で混合物が構成されている場合、係数の影響は大きくなる。急峻でない濃度-強度曲線を有する成分で混合物が構成されている場合、係数の影響は小さくなる。
【0101】
今や、分子構造と成分強度の評価のみから、さまざまな知覚強度の成分を含んでいる現実世界の臭気物質混合物の知覚的類似性を予測できる手持ちのモデルが得られた。これにより、Bellの課題を最終的に解決することができるかどうかという問いに着手した。それぞれ10または11個の成分を含むバラ、スミレ、およびアサフェティダのための詳細なレシピを、Master Perfumerから得た(補足表2)。実験3において、最初に参加者は各々の成分の知覚強度を評価した。次いで、モデルを使用して、これらの混合物の知覚的類似性(Bellの言葉では「類似点および差異点」)を、それらの構造および成分強度のみから予測した。最後に、31名の異なる参加者が混合物の匂いを嗅ぎ、実際の知覚的類似性を評価した。予測と実際の類似性との間に顕著なフィットが見られた。実験1および2の結果に従って、角度距離を0~1の範囲のスケールで正規化された予測類似性に変換した(補足
図2を参照)。
スミレ/バラ予測=0.72±0.06、観測=0.79±0.18、t=-0.41、p=0.68、
バラ/アサフェティダ予測=0.10±0.13、観察=0.21±0.17、t=-0.59、p=0.56、
スミレ/アサフェティダ予測=0.12±0.13、観測=0.24±0.20、t=-0.58、p=0.57)(
図9D)、あるいは換言すると、Bellの104年前の課題が解決されたといえる。これらのアルゴリズムを容易に実装して、任意の2つの臭気物質混合物の間の知覚的類似性または差異を計算することをユーザにとって可能にするウェブベースのプロトタイプが、本実施形態に従って提供される。ユーザは、事前に構築された混合物(例えば、バラ、スミレ、およびアサフェティダ)をテストするか、あるいは最大4,000個の分子の構築セットからの任意の数の分子の組み合わせを使用して独自の混合物を構築するかを選択することができる。
【0102】
匂いの指標は、臭気物質の識別におけるパフォーマンスを予測する。
【0103】
臭気が互いに類似しているほど識別が困難になるため、類似性を予測する指標は、識別タスクのパフォーマンスも予測するはずである。標準的な識別タスクは、参加者に3つの臭気物質サンプルが提示され、そのうちの2つは同一であり、1つは異なっているトライアングルテストである。タスクは、この片方の臭気物質を識別することである。本指標を、成分数が10~30の範囲の混合物について26名の参加者が260回のトライアングル判定を行ったトライアングル実験の大規模セットであるBushdidデータセットに適用した。本指標による混合物の予測された類似性と参加者の識別能力との間に、r=0.56(p<5E-23)の相関を観測した。さらに、混合物中の成分が多いほど、本指標のパフォーマンスは良好になり、30成分の混合物についてr=0.68(p=3E-12)に達した(
図9A)。30成分の混合物は10成分の混合物よりも現実世界の臭気に類似しているため、後者の値は、より現実的なパフォーマンスの反映であると考えられる。
【0104】
ここで
図10A~
図10Cを参照すると、匂いの指標が嗅覚識別タスクにおけるパフォーマンスをどのように予測するかが示されている。
図10Aおよび
図10Bは、各ドットが26名の参加者によって実行されたトライアングルテストである散布図である。Y軸は%精度であり、X軸は本モデルによる臭気物質の間の距離である。
図10Aは、30成分の混合物を使用した角度距離の関数としてのトライアングルタスクにおけるパフォーマンスを示している。赤色の線は線形フィットであり、黒色の線は移動平均値である。
図10Bは、すべてのデータを使用した角度距離の関数としてのトライアングルタスクにおけるパフォーマンスを示している。黒色の太い線は移動平均値であり、濃い青色の細い線は最良のパフォーマンスの者であり、水色の細い線は最悪のパフォーマンスの者である。赤色の破線は41.8%の精度、またはd’=1を示している。
【0105】
図10Cは、臭気物質の比較によってではなく、個々の参加者によって表示されたパフォーマンスであり、パフォーマンスによって並べ替えられている。Z軸および色の両方は、対象者のパフォーマンス精度を符号化している。41.8%の精度、またはd’=1は、白色に符号化され、赤色はd’<1であり、青色はd’>1である。
【0106】
匂いの指標は、臭気の質の丁度可知差異(JND)を明らかにする。
【0107】
本指標が識別可能性に明らかに関連している(
図9A)ことに鑑み、今やタスクの転換点に関連する本指標の値、すなわち人々が最初に確実に区別する臭気間の最小距離を尋ねることが可能である。この値は、実際に、嗅覚の質における丁度可知差異(JND)である。嗅覚においては、臭気の強度にJNDが存在するが、臭気の質にJNDのフレームワークは存在しない。したがって、より現実的な30成分の混合物に集中して、BushdidデータにおけるJNDの特定に着手した。さらに、30成分の混合物だけでなく、すべての混合物を使用してすべての分析を再現したが、結果に大きな変化は生じない。
【0108】
JNDは、典型的には、「1」のdプライム(d’)スコアに起因する。トライアングルテストにおいて、d’=1は41.8%の精度にある。Bushdidデータにおいて、臭気物質間の角度距離が0.051ラジアンであるときに41.8%の精度が得られることが観測された(
図9B)。換言すると、Bushdidのトライアングルデータは、嗅覚の質の空間におけるJNDが0.051ラジアンであることを示唆している。この値の変動の可能性を把握するために、このデータにおけるきわめて最良およびきわめて最悪のパフォーマンスの者を反映するパフォーマンス上位5%の者およびパフォーマンス下位5%の者を調べる。最良パフォーマンスの者のJNDは0.02ラジアン(
図10B)であり、最悪パフォーマンスの者のJNDは0.14ラジアン(
図10B)であった。最悪は無嗅覚であったため、これは実際には2番目に最悪である。これらの両極端の間で、JNDが参加者全体で比較的安定であることを見て取ることができる(
図10C)。したがって、このトライアングルデータのJNDは、0.02という最小値と最大0.14という最大値との間の範囲にあり、その平均値は0.051ラジアンであると結論付けられる。
【0109】
このJNDの見積もりのばらつきを減らすために、分解能の向上を追求した。Bushdidデータの強みは、データがまたがる可能性のあるJNDの範囲である。その結果として生じる弱点は、所与のJNDでの相対的な力の欠如である。これを念頭に、追加の個人をテストして、所与の角度距離ごとの対象者の数を増やすことを企てた。実験4において、以下の角度距離、すなわち
0.0125、0.025、0.05、0.2、および0.4ラジアン
の各々に10個ずつ、50個のペアごとの比較をもたらすように選択された100個の新しい臭気混合物を設計および生成した。
【0110】
これらの距離は、人間の嗅覚JNDの初期推定値の近くにあるために選択された。次いで、各々の比較について~27名の参加者(27±10.4)を2回テストし、合計2,720個のトライアングル判定をもたらした。この原稿におけるすべての区別結果は、補足データ3に詳述されている。対数角度距離とトライアングルパフォーマンスとの間に明確な心理測定的関係が観測され、41.8%の精度は0.025ラジアンのすぐ下にあった(図10C)。
【0111】
換言すると、トライアングル結果は、混合物間の角度距離の関数としてのパフォーマンスに関して比較すると、Bushdidのトライアングルの結果にきわめて似ていた。これらの実験においては、刺激が角度距離の対数目盛に沿って設計されているため、対数目盛での報告およびプロットに移行する。
【0112】
次に
図11Aおよび
図11Bを参照すると、各ドットが参加者のグループによって実行されたトライアングルテストである散布図が示されている。Y軸は%精度であり、X軸は本モデルによる臭気物質の間の距離である。
図11Aは、実験4においてテストされた混合物につき約27名の参加者のパフォーマンスを示している。小さな円は、具体的な混合物の組み合わせを反映しており、大きな円は、所与の角度距離における平均値を反映している。青色の実線は移動平均値へのフィットであり、赤色の破線は41.8%の精度またはd’=1である。
図11Bは、角度距離の関数としてのトライアングルタスクにおける組み合わせられた両方の研究(Bushdidおよび実験4)からのすべての参加者のパフォーマンスを示している。青色の実線は移動平均値へのフィットであり、赤色の破線は41.8%の精度またはd’=1である。
図11Cは、角度距離の関数としてプロットされた実験5、すなわち同一-別個タスクにおけるパフォーマンスを示している。小さな円は、具体的な混合物の組み合わせを反映しており、大きな円は、所与の角度距離における平均値を反映している。青色の実線は移動平均値へのフィットであり、赤色の破線はd’=1である。
図11Dは、臭気物質の比較によってではなく、個々の参加者によって表示された実験5におけるパフォーマンスを、パフォーマンスによって並べ替えて示している。色分けは、対象者のパフォーマンス精度を示しており、d’=1は白色に色分けされ、赤はd’<1であり、青はd’>1である。
【0113】
判定値を生成するために、両方の研究(本研究およびBushdidの研究)のすべてのデータを組み合わせ、0.026ラジアンというJNDを観測した(
図11B)。しかしながら、この結論にはいくつかの制限がある。第1に、本実験(Bushdidではないが)は、混合物ごとに1つの濃度で行われている。これにより、識別スコアを高め、あるいは識別スコアに影響を及ぼす強度の手掛かりまたは三叉神経性(trigeminality)が可能になる可能性がある。第2に、より重要なことに、トライアングル実験は、やはり結果に影響を及ぼす可能性がある固有のメモリ成分を有するため、JNDの決定に関して最適な方法ではない。実際に、色を区別するタスクにおいて、色が同時にではなく連続して提示される場合、パフォーマンスが驚くほど低いレベルに低下するが、嗅覚においては、異なる臭気物質を同時に提示することは不可能である。これらの問題に対処するために、30名の参加者が2択の同一-別個タスクの合計12,000回の試行を行う実験5の実行に着手した。このタスク設計は、対象者にとって実行がより容易であり、より大きな統計的検出力でJNDを導出することができ、その1つの理由は、トライアングルタスクとは異なり、トライアングルタスクでの導出と比較してd’のより伝統的な導出を可能にする「正しい拒否」と呼ばれる試行が存在することである。0.0125、0.025、0.05、0.1、および0.2ラジアンだけ異なる臭気物質混合物の組を50組使用し、異なる10組を各々の値について使用した。さらに、強度の手掛かりを防ぐために、各々の臭気物質を2つの異なる濃度で使用した。各々の実験において、各参加者は、平均して半分が「同一」混合物の組であり、半分が「別個」混合物の組である400回の試行(8日間に分散)を行った。角度距離が増加するとd’が増加することが再び観察され(F(4,29)=17.07、p<0.0001)(
図11C)、したがって、さらに別の新しいデータセットにおける本指標および新規なモデルの有効性が再び確認された。さらに、参加者間のばらつきにも関わらず(
図11D)、新しい同一-別個タスクにおける0.0125ラジアンよりも大きいすべての角度距離が、「1」を大幅に上回るd’を有するが(すべての平均値>1.38、すべてのt>2.5、すべてのp<0.02)、角度距離=0.0125の場合に、d’は「1」を下回るが「1」との違いは大きくないことが観察された(平均値=0.97、t=0.29、p=0.77)(
図11C)。総合すると、これらの大量のデータセットが組み合わさって、人間の臭気の質のJNDが、臭気物質の物理化学的空間内で0.0125ラジアンの角度距離にあることを示唆している(
図11C)。
【0114】
したがって、本実施形態は、2つのステップを含む。第1に、現実世界の臭気物質混合物に適用でき、それらの知覚的類似性をそれらの構造のみから予測する匂いの物理化学的指標を開発する。第2に、この指標を使用して、臭気の質のJNDを明らかにする。これら2つのステップの組み合わせは、神経生物学、テクノロジ、および社会に大きな影響を及ぼすことができる。
【0115】
神経生物学に関して、この指標は、嗅覚系を調査するための体系的なフレームワークを提供する。これまでは、そのような調査は、刺激をどのように構築するか、およびそれらをどのように順序付けるかという2つの要因によって制限されていた。第1に、刺激がどのように構築されるかに関して、ほとんどの分野は単分子に対する脳の反応を研究した。単分子は自然界には存在せず、すなわち換言すると、脳が解読するように進化したのではない刺激に対する、脳の反応を調べてきた。脳は臭気物質混合物を解読するように進化し、ここでは、そのような混合物を体系的に生成するためのフレームワークを提供する。第2に、刺激がどのように順序付けられるかに関して、科学者は、多くの場合に、刺激を順序付けるために、炭素鎖長、官能基、などの標準的な化学的分類を使用した。しかしながら、late Larry Katzによる講演において述べられたように、「嗅覚システムはSigma-Aldrichのカタログを解読するように進化したのではなく」、すなわち換言すると、刺激の順序付けの場合も、脳が解読のために進化したのではない順序について、脳の反応を調べてきた。本フレームワークは、知覚的類似性を反映する物理化学的指標によって臭気物質混合物を順序付け、これにより、(化学的にではなく)生物学的にもっともらしい刺激の順序付けを提供する。したがって、現実的に構築され(混合物)、(類似性によって)現実的に順序付けられた刺激の知覚的にインスパイアされたフレームワークが提供される。上記が指標の神経生物学的影響を反映している一方で、JND自体にも影響が存在する。JNDは、嗅覚の受容器および回路が有さなければならない最小感度を決定する。これは、嗅覚の実験および神経モデリングの両方に影響を与える。最後に、嗅覚モデルを構築した者が経験した苛立たしい制限は、たとえ誰かが臭気物質の構造の態様を臭気物質の知覚の態様に結び付ける再現可能なルール(この一例は、臭気物質の構造を臭気物質の心地よさに結び付ける多くの収束モデルである)を生み出した場合でも、これらのルールが、それらを生成した小さなコミュニティの外では牽引力を得ることができないことである。これは主に、これらのモデルの実装が、多くの場合に、潜在的なユーザを妨げ得る計算の素養のレベルを必要とするからである。
【0116】
神経生物学の他に、本取り組みは、テクノロジ、とくには匂いのデジタル化という強く求められている目的について、大きな意味を有することができる。明らかになったJND(0.0125ラジアン)は、人間における匂いの精巧な感覚のさらなる証拠を提供する(13、27-30)。これは、一種の良い知らせと理解することができる一方で、実際には、臭気のデジタル化の取り組みに関して悪い知らせである。そのようなデジタル化は、本実施形態の電子ノーズまたはeノーズなどの臭気レコーダ、デジタルコード、および臭気エミッタの組み合わせ(現時点において、典型的には嗅覚計と呼ばれる)に依存する。本結果は、嗅覚シーンの忠実な再現を達成するために、レコーダおよびエミッタの両方が少なくとも0.0125ラジアンの感度を必要とすることを示唆している。この分解能は、現在の検知テクノロジの到達範囲内であるかもしれないが、さらに近づくことができる臭気エミッタが存在しないことも知られている。したがって、JNDは、匂いの忠実なデジタル化が、少なくとも記録された臭気から区別することができない放出される臭気という意味で、不可能である可能性を示唆している。次いで、区別不可能性の程度が、まず第1に、デジタル化には高すぎる可能性がある。この仮定の下で、匂いの本指標は、再現された臭気物質とその目標とする臭気との間の知覚距離の推定を可能にする、すなわち臭気物質の比較のためのフレームワークを提供できるため、実際にデジタル化を助けることができる。
【0117】
最後に、嗅覚JNDは、重要な社会的に意味を有することができる。香水産業は、秘密主義で知られた数十億ドル規模の業界である。
【0118】
成功した香料処方は、感情的な法廷闘争の材料となることも多い企業秘密として厳重に守られてきた。しかしながら、この秘密への依存に、現代の分析手法、とくにはガスクロマトグラフィ質量分析(GCMS)の出現が挑んだ。後者は、匂いの処方について比較的容易なリバースエンジニアリングを可能にした。秘密が失われ、香水業界は、商標、特許、および著作権の法的保護に目を向けている。商標登録が比較的簡単であるのに対し、匂いの特許および著作権の両方には大きな制限が存在する、すなわち処方(特定の比の成分のリスト)の特許または著作権は潜在的には可能であるが、結果としての匂いの特許はどのように可能だろうか。実際、処方の特許または著作権を望む場合、処方を公表しなければならない。これにより、他者が処方を知り、成分を類似の匂いの異なる成分で置き換え、特許または著作権を侵害することなく同じ最終的な匂いを得ることができる。これが実際に妨げとなり、大部分の香水会社は特許/著作権の途を選んでいない。本指標およびJNDは、これをすべて変える可能性がある。今や、新規の臭気組成物を嗅覚空間における位置に関して主張できる可能性があり、質に関してこの位置のJNDの範囲内のあらゆる地点を、その分子の内容に関係なく、特許または著作権に違反していると言うことができる。現状の問題、およびJNDがそれをどのように変えることができるのかを明らかにするケーススタディとして、歴史上最も売れている香水であるChanel No.5(登録商標)という象徴的な臭気を使用することができる。当然ながら、その処方は決して公開されていないが、これまでに存在した多数のテイクオフのうちの1つを使用することができる。12成分の処方を使用し、Imitation Chanel No.5と呼ぶことにする。今や本指標およびJNDを使用して、各成分を異なる成分で置き換え、Ravia No.5と呼ぶ最終的な混合物がImitation Chanel No.5の0.0119ラジアンの範囲内となるように、これらの置き換え物をバランスさせることができる。したがって、Ravia No.5は、Imitation Chanel No.5との化学的な重なり合いが0%(共通の分子が存在しない)であり、したがって現在の法律の下ではいかなる知的財産も侵害せず、それでいてImitation Chanel No.5とまさに同じ匂いがするコンピュータで作られた香水である。対照的に、やはり本指標を使用し、Imitation Chanel No.5(登録商標)の1つの成分のみの相対比率/強度を変更して、LV No.5と呼ぶ最終的な混合物がImitation Chanel No.5の0.2ラジアンとなるようにバランスさせることができる。したがって、LV No.5は、Imitation Chanel No.5との化学的な重なり合いが100%(すべての分子が共通)であり、したがって現在の法律の下では知的財産の侵害である可能性が高く、それでいて匂いがImitation Chanel No.5に全く似ていないコンピュータで作られた香水である。この例について、香水以外の同等の例が、化学的な重なり合いはゼロ%であるが、0.0125ラジアンの範囲内にあり、実際に同一の(区別できない)匂いを有する混合物の事例である補足データ3の臭気物質#86対#96の組または#88対#98の組など、データにすでに存在することに注意すべきである)。この論証は、臭気に関連する知的財産の問題のある現状および臭気の質のJNDがこの現状をどのように変えることができるのかの両方を示している。このように、嗅覚神経生物学および臭気テクノロジへの明らかな影響に加えて、嗅覚JNDは社会への有意義な影響も得ることができると結論付けられる。
【0119】
JNDに関する実験の詳細。
【0120】
方法
参加者:19~42歳の合計166人の参加者(女性105人)が、ここで行われた5つの実験に参加した。ここでの実験のデータ収集が約4年間続いたため、複数の種類の実験に参加した者もいる。参加者は全員がおおむね健康で、神経疾患または精神疾患の病歴は報告されておらず、嗅覚障害も、気道に関する慢性または急性の症状もなかった。すべての参加者は、Weizmann InstituteのIRB委員会によって承認された手順への書面によるインフォームドコンセントを提供し、すべての参加者は参加に対して支払いを受けた。
【0121】
場所:すべての実験は、Weizmann InstituteのOlfaction Labの人間の嗅覚実験用に特別に作られた部屋で行われた。これらの部屋は、臭気の経時的付着を防止するためにステンレス鋼で覆われ、湿度および温度の制御ならびにHEPAおよびカーボンろ過を備える迅速な空気交換を有する。これらすべてが、試行間の汚染を最小限に抑えることを約束する。
【0122】
臭気物質:すべての識別タスクを、臭気物質混合物を使用して行った。3つを除くすべての混合物を、148個の単分子成分を使用して、これらの実験のために特別に調製した(補足データ1を参照)。すべての混合物のレシピは、補足データ2にある。バラ、スミレ、およびアサフェティダの臭気を模倣するために3つの混合物を調製した。単分子はSigma-Aldrichから購入した。すべての臭気物質を1,2-プロパンジオールまたはミリスチン酸イソプロピル(IPM)のいずれかで希釈した。
【0123】
タスク:すべてのタスクにおいて、参加者を実験室に1人にし、隣接する制御室から監視した。すべてのやり取りをコンピュータ制御とし、コンピュータコマンドによって匂いを嗅ぐべき瓶を選択し、視覚アナログスケール(VAS)をマークし、あるいは正しい答えを選択するために用いられるコンピュータマウスによって、評価を入力した。強度および類似性の実験を、Dropalでコーディングされた内部Webサイトで実行した。Psychophysics Toolbox拡張機能(35-37)を使用して、識別実験(トライアングルタスクおよび同一-別個タスク)をコード化し、MATLAB(登録商標)で実行した。すべての実験セッションを、最長で1時間に制限し、数日にわたって続けた。
【0124】
強度評価:各々の試行において、参加者は任意にマークされた匂い瓶を受け取った。参加者は、瓶の匂いを一度だけ嗅ぎ、次いでVASで知覚強度評価を入力するように指示された。試行間の間隔(ITI)を30秒とした。臭気の順序を無作為とした。
【0125】
類似性評価:各々の試行において、参加者は2つの任意にマークされた匂い瓶を受け取った。参加者に対し、所定の順序(参加者間で相殺される)でそれらの匂いを嗅ぎ、VASで知覚された類似性評価を入力するように指示した。ITIを40秒とした。
【0126】
トライアングルタスク:各々の試行において、参加者は3つの任意にマークされた匂い瓶を受け取り、2つは同一の臭気物質混合物を含んでおり、1つは異なる臭気物質混合物を含んでいた。参加者に対し、臭気物質ごとに1回のサンプリングのみを許可し、この片方の臭気物質を選択するように指示した。刺激間の間隔は自由にしたが、ITIは30秒を超えていた(試行時間を反映する追加のばらつき)。
【0127】
同一-別個タスク:各々の試行において、参加者は、同一の臭気物質混合物または別個の臭気物質混合物のいずれかを含む2つの任意にマークされた匂い瓶を受け取った。参加者に対し、臭気物質の無制限のサンプリングを許可し、ペアが「同一」であるか、あるいは「別個」であるかを判断するように指示した。刺激間の間隔は自由にし、ITIは30秒を超えていた。
【0128】
化学記述子の取得:各々の臭気物質について、4,885個の物理化学的記述子をDRAGONソフトウェアを使用して計算した。これらの記述子から、以前に混合物のモデリングに有効であることが示された21個の記述子(補足表1を参照)を抽出した。記述子は異なるスケールで特性を測定するので、21個の記述子の各々を、0~1の連続スケールに正規化した。これを以下のように行った。すなわち、値vdのリストを各々の記述子に関して抽出した。各々の記述子についての最小値および最大値を、匂いがあると表現された4,064個の分子のリストにおいて発見した。各々の臭気について、その記述子の正規化された値を、
として計算した。
【0129】
したがって、その記述子の臭気の最大値は正確に1であり、最小値は正確に0であり、他の臭気は中間の値であった。このようにして、各々の臭気を、各々の値が0~1の間である長さが21のベクトルで表した。
【0130】
混合物のモデル化:各々の混合物を、その成分の加重ベクトル和としてモデル化し、各々の混合物の新たな21次元表現を作成した。各々の単分子の重みを、それらの知覚強度に従って決定した。知覚強度をベクトルの重みに変換する関数を、
の形態の精神測定になると仮定した。
【0131】
そのパラメータを、実験1のデータを使用してフィットさせた。
【0132】
臭気間の距離:混合物
を表すベクトルと混合物
を表すベクトルとの間の距離関数を、21次元空間におけるそれらの間の角度として計算した。これは、
によって与えられ、ここで
は、ベクトル間のドット積であり、
および
は、それらのユークリッドノルムである。
【0133】
統計分析
すべての統計分析を、米国マサチューセッツ州ネイティックのMathWorks,Inc.のMATLAB(登録商標)リリース2017bにて行った。
【0134】
密度推定:グラフィックの目的のすべての密度推定を、カーネル法(Epanechnikovカーネル)を使用して実行した。
【0135】
ピアソンの相関係数:この原稿で言及されているすべての相関は、ピアソンの相関係数である。それらから導出されたp値は、相関がゼロに等しいというH0仮説に対してテストされる。
【0136】
同一混合物の比較がある場合またはない場合の相関の計算:角度距離からの知覚される類似性の予測の推定において、同一混合物間の比較あり(図中の赤色の線)、または比較なし(図中の黒色の線)のいずれかで相関を計算することができる。どちらの経路にも議論が存在する。すなわち、臭気物質の構造からの知覚される類似性の予測の生成において、人間間の差異および分子間の差異という2つの分散の原因の捕捉が試みられる。同一の混合物間の比較においては、分子に関連する分散が打ち消され、したがってこの相関を考慮すべきではないと主張することができる。これは、人々が同一の混合物の知覚的類似性を常に100%と評価し、あるいは最低でも同一の混合物の知覚的類似性を常に同じに評価するならば、議論の余地はない。しかしながら、これらの結果はどちらも発生していない。したがって、これらの比較を含めることは、嗅覚の知覚空間の表現を捕捉するうえで有益であると主張することができる。いずれにせよ、本実施形態においては、両方の結果が提示され、とくには実際に新しいアルゴリズムの影響が小さくなる方法を前面に出す。換言すると、実りの少ない方の結果を強調した。
【0137】
トライアングルタスクでのパフォーマンス推定:角度距離の関数としてトライアングルテストにおけるパフォーマンスを推定するために、計算された角度距離に従ってデータを並べ替え、移動平均法を使用して各点でのパフォーマンスを推定した。次いで、連続関数を生成するために3次補間を実行した。トライアングルテストでは、満足できる統計的検出力を達成するために比較的多数の試行が必要なため、点の推定ごとに47回の試行を使用した。
【0138】
dプライムの導出:強制選択実験を分析するために、信号検出理論からの方法を使用した。dプライム(d’)は、2つの異なる刺激の識別可能性の標準的な指標である。d’を使用する利点の1つは、異なるパラダイム間で一貫しており、異なる識別タスクの比較を可能にすることである。
【0139】
データの可用性
すべての生の行動データは補足資料として公開されている。使用したすべての臭気物質はデータファイル#1にあり、すべての行動の類似性結果はデータファイル#2にあり、すべての行動の識別結果はデータファイル#3にある。
【0140】
次に
図12Aおよび
図12Bを参照すると、使用した臭気物質が知覚空間に投影されて示されている。
図12Aは、実験全体で使用した148個の分子に関し、それらが物理化学的空間の第1および第2の主成分内の4046個の分子に重ねられている。
図12Bは、知覚空間の第1および第2の主成分内の分子を示している。背景としての470個の分子のみについて、知覚空間データが示されており、これらは使用した148個の分子のうち115個を含んでいる。本組み合わせは、混合物に使用した臭気物質分子が、物理化学的空間と知覚空間の両方の有効な範囲を提供したことを示唆している。
【0141】
次に
図13A~
図13Dを参照すると、角度距離と知覚された類似性との間の相関が示されている。
【0142】
図13A~
図13Cは、各ドットが2つの臭気物質のペアごとの比較である散布図であり、Y軸に参加者によって評価された実際の類似性が示され、X軸にモデルによるそれらの距離が示されている。
図13Aは、バラ、スミレ、アサフェティダ、および11個の追加の臭気物質混合物を含む実験からのデータを示している。バラを含むすべての比較は赤色で表示され、スミレを含むすべての比較は紫色で示され、アサフェティダを含むすべての比較はからし色で表示されている(n=30)。
【0143】
図13Bは、この実験におけるバラ、スミレ、およびアサフェティダの比較の間の評価された類似性対角度距離を示している
図13Cは、モデル構築に使用された実験1および2からのデータを示している。
図13Dは、バラ、スミレ、およびアサフェティダの予測対実際の類似性の最終結果を示している。
【0144】
上記の実験において、角度距離は知覚される類似性に直接関連しているが、この結び付きの正確な変換は、参加者による報告が完全にコンテクスト依存であるため、決定論的に定式化することが不可能である。類推により、光の色における波長と知覚される類似性との間の結び付きが注目される。2つの刺激、すなわち575nm対595nmの知覚的類似性を推定したいと仮定する。参加者に光のペアごとの比較を提供する。実験1においては、次の6ペアの刺激(すべて単位はnm)、すなわち519-520、575-577、580-581、575-595、600-601、610-612を使用する。この実験の参加者は、575-595のペアの知覚的類似性を、実験において遭遇する最も似ていないペアであるため、きわめて低いと評価する可能性が高い。対照的に、刺激ペアが519-620、475-577、480-581、575-595、500-601、510-612である実験においては、参加者は、575-595のペアの知覚的類似性を、実験において遭遇する最も類似したペアであるため、きわめて高いと評価する可能性が高い。換言すると、臭気物質のペアについて報告される類似性の間の結び付きは、一方ではそれらの角度距離によって決定されるが、これは実験における臭気物質の他のペアによってスケーリングされる。
【0145】
したがって、角度距離(
図13B)から、知覚され評価された類似性(
図13D)へ変換するために、それらが組み合わせられた特定の臭気物質の組を調べる(
図13A)。ここで、これは3段階の計算である。
【0146】
(1)最初に、実験3の3つのペアごとの混合物の比較について、角度距離を計算した。
【0147】
(2)次に、線形モデルを使用して、実験1および2の両方の結果に基づいて、角度距離ごとの知覚強度を予測した(
図13C)。信頼区間も線形モデル推定から導出した。
【0148】
(3)
図13Aで得られた3つのペアごとの角度距離に、このモデルを適用した。最後に、これらの評価を実験3で使用した評価のスケールに関連付けるために、実験3で使用した3つの臭気(バラ、スミレ、およびアサフェティダ)を含む比較のための実験全体で得られた最小および最大の類似性の値の間でデータを正規化した(
図13A)。これにより、0~1の間の予測された類似性の値が得られた(
図13D)。これらすべての結論として、ペアごとの差がバラとスミレの間で0.27ラジアンであり、バラとアサフェティダとの間で0.85ラジアンであり、スミレとアサフェティダとの間で0.83ラジアンであると、モデルは常に予測する。これは決定論的である。しかしながら、これから0~1の範囲の報告された類似性スコアへの変換は、実験における他の臭気物質の関数である。
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
次に
図14を参照すると、本実施形態によるデジタル電子ノーズ40が示されている。デジタル電子ノーズ40は、n次元のデジタル化された知覚空間42を備え、これは、実際には、典型的には臭気物質の知覚に対する臭気物質の構造に基づいて匂いの知覚を格納する任意のモデルであってよい。上述したモデルが適切な例である。このようなモデルは、典型的には、複数の臭気化学物質およびn軸の匂いを使用して構築される。次に、結果として生じる知覚空間は、丁度可知距離に関してデジタル化され、丁度可知距離は、ユーザのグループにおける最小識別可能距離の平均値である。
【0153】
ノーズは、測定すべき臭気を感知するための化学センサを含む入力41を有する。マッピングユニット44が、入力およびn次元のデジタル化された知覚空間に接続され、化学センサの出力を使用して、入力臭気をデジタル化されたn次元の知覚空間上の位置へマッピングする。場所は、丁度可知距離に関してデジタル的に表現される。
【0154】
次いで、出力46が、丁度可知距離に関して表現された場所に基づいて、入力臭気のデジタル化された測定値を出力する。出力は、別のマシンへの出力であってよく、その場合、デジタル表現を直接利用することができ、あるいは出力は、人間への出力であってよく、その場合、臭気の自然言語表現を随意により使用することができる。
【0155】
n次元の知覚空間は、ノーズ内に電子的に格納されてもよい。例えば、ROMなどに配線されても、RAMに揮発性の様相で格納されてもよく、あるいはフラッシュメモリに保持されても、任意の他の適切な形態で保持されてもよい。
【0156】
n次元の知覚空間は、匂いのn本の軸に沿って分子に適用される物理化学的記述子を含むことができ、ここで、nは複数の整数であり、例えば18または22である。
【0157】
それぞれの丁度可知距離は、n次元の知覚空間上の角度である。ここで使用される特定の知覚空間の場合、丁度可知距離は、対象者に応じて0.02ラジアン~0.14ラジアンの間の範囲であり、平均値、すなわちここで採用される値は、0.051ラジアンである。
【0158】
n次元のデジタル化された知覚空間上の2つの臭気の間の角度は、
と定義することができ、ここで
は、これら2つの臭気をそれぞれ表すベクトルの間のドット積であり、
および
は、それらのユークリッドノルムである。
【0159】
知覚空間における分子を、
に従って重み付けることができ、ここでxは、正規化された強度である。
【0160】
ここで
図15を参照すると、知覚空間またはサンプル空間が使用されていないeノーズの実施形態50が示されている。代わりに、サンプルがeノーズ化学入力センサによって入力52において検出され、2つの臭気がサンプリングされたときに、それらの間の距離を測定ユニット54において直接eノーズ類似性計算を使用して測定することができ、すなわち類似性は、eノーズ入力サンプリングに直接基づく。この実施形態は、第1の実施形態のようにアナログ測定値を生成するために使用されてよく、あるいは指標をデジタル実施形態に従ってデジタル化してもよい。上述のように、出力を測定値として提供することができ、あるいは記述子を使用して提供することができる。
【0161】
この出願から成熟する特許の存続期間中に、多数の関連の電子ノーズおよび他の臭気サンプリング技術が開発されると予想され、電子ノーズおよびeノーズという用語の範囲は、すべてのそのような新技術を先験的に含むように意図される。
【0162】
「・・・を備える」、「・・・を備えている」、「・・・を含む」、「・・・を含んでいる」、および「・・・を有している」という用語、ならびにこれらの活用形は、「・・・を含むが、・・・に限られない」ことを意味する。
【0163】
「・・・からなる」という用語は、「・・・を含みかつ・・・に限られる」を意味する。
【0164】
本明細書において使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈からそのようでないことが明らかでない限り、対象が複数である場合を含む。
【0165】
分かりやすくするために別個の実施形態の文脈において説明された本発明の特定の特徴を、単一の実施形態に組み合わせて備えてもよいことを、理解できるであろう。反対に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈において説明された本発明の種々の特徴を、単独または任意の適切な部分的組み合わせにて備えてもよく、あるいは本発明の任意の他の上述の実施形態に適するように備えてもよい。種々の実施形態の文脈において説明された特定の特徴は、実施形態がそれらの要素を欠いては機能できない場合を除き、それらの実施形態の不可欠な特徴と見なされるべきでない。
【0166】
本発明を本発明の特定の実施形態に関連して説明してきたが、多くの代案、変更、および変種が当業者にとって明らかであることは明白である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲に含まれるそのようなすべての代案、変更、および変種を包含するように意図される。
【0167】
本明細書において言及されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、ここでの言及によって、あたかも各々の個別の刊行物、特許、または特許出願が本明細書に援用されると具体的かつ個別に示された場合と同程度に、その全体が本明細書に援用される。さらに、本出願におけるあらゆる参考文献の引用または特定を、そのような参考文献を本発明の先行技術として利用可能であると認めたものと解釈してはならない。各項の見出しが使用されている限りにおいて、それらを必ずしも限定と解釈してはならない。