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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】圧電振動片、及び圧電振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/02 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
H03H9/02 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023210238
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2019124519の分割
【原出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2024015390
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】713005174
【氏名又は名称】エスアイアイ・クリスタルテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004244
【氏名又は名称】弁理士法人仲野・川井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市村 直也
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 元規
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-200648(JP,A)
【文献】特開2017-076910(JP,A)
【文献】特開2009-171553(JP,A)
【文献】特開2017-076911(JP,A)
【文献】特開2008-225169(JP,A)
【文献】特表2014-522260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0160295(US,A1)
【文献】特開2010-050499(JP,A)
【文献】特開2010-147667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に実装部を備えたパッケージ内に実装される、水晶で音叉型に形成された圧電振動片であって、
基部と、
前記基部から並んで延設された1対の振動腕部と、
前記1対の振動腕部に形成された2系統の電極と、
前記振動腕部における先端部に金属で形成された、第1厚さ部と、前記第1厚さ部と連続して前記基部側と先端側の少なくとも一方の側に形成された厚さが前記第1厚さ部よりも徐々に薄くなる傾斜面を備えた傾斜部と、を有する周波数調整用の重り膜と、
を具備し、
前記傾斜部は、複数の段差部で形成された、前記振動腕部の長手方向を向いた第1傾斜面と、前記振動腕部の長手方向及び幅方向に対して傾いた方向を向いた第2傾斜面により構成され、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面より緩やかな斜面に形成され、
前記段差部は、厚さ方向の上側端部が凸形状の湾曲面に形成され、下側端部が凹形状の湾曲面に形成されている、
ことを特徴とする圧電振動片。
【請求項2】
前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面の両側に、前記振動腕部の幅方向の左右対称に形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の圧電振動片。
【請求項3】
前記傾斜部は、前記第1傾斜面と、前記両側に形成された第2傾斜面により、凹形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の圧電振動片。
【請求項4】
前記重り膜は、前記振動腕部における先端部の少なくとも一方の主面に形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片。
【請求項5】
前記重り膜の傾斜部は、前記先端側に形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片。
【請求項6】
前記基部から前記振動腕部の外側に延出して形成された支持腕部で前記実装部に実装されるサイドアーム型、
前記基部から前記振動腕部の間に延出して形成された支持単腕部で前記実装部に実装されるセンターアーム型、又は、
前記基部が前記実装部に実装される片持ち型、
であることを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片。
【請求項7】
内側に実装部を備えたパッケージと、
前記実装部に実装された、請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片と、
前記実装部から前記パッケージの外部まで形成された外部電極部と、
を有することを特徴とする圧電振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動片、及び圧電振動子に係り、詳細には、音叉型水晶を用いた技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話や携帯情報端末機器等の電子機器には、時刻源や制御信号等のタイミング源、リファレンス信号源等に用いられるデバイスとして音叉型に形成した圧電振動片を使用した圧電振動子が用いられる。
このような音叉型の圧電振動片では、振動腕部の先端部分に金属の重り膜を形成し、この膜をトリミングすることで周波数調整を行っている(例えば、特許文献1)。すなわち、パッケージにマウントした圧電振動片を発振させ、周波数を測定しながら、パルス幅がナノ秒程度のレーザを照射して重り膜を溶融除去することで、その質量を減らすようにトリミングすることで、周波数調整を行っている(特許文献1)。
このレーザによりトリミングを行う場合、溶融させる重り膜の面を下向きにし、圧電振動片の上面側(重り膜と反対側)からレーザを当てることで溶融除去した重り膜をパッケージ底面に設けた凹み部分で受けるようにしている。
【0003】
図8は、従来のレーザにより重り膜を溶融除去した後の振動腕部先端の状態を表したものである。
図8に示すように、従来のトリミングでは、レーザを照射した領域の重り膜全体を除去しているため、除去されずに残った重り膜部分と除去部分との間で、急峻な段差が生じるため、振動(振幅)の追従が悪く、振動が不安定になるという問題がある。
また、従来のレーザによる周波数調整では、レーザLnを照射した領域の重り膜750全体が溶融除去されるため、さらなる周波数調整精度を向上させることはできなかった。
特に、3mm×2mm以下といった小型の圧電振動片の場合には、トリミング対象となる重り膜の面積が小さくなるため、より細かく精度が高いトリミングが周波数調整に必要とされている。
【0004】
また、従来の周波数調整では、図8に示すように、レーザLnにより重り膜750を溶融除去させているため、溶融除去後に残った重り膜750の周囲には、主面や側面にデブリ751、752が発生していた。
このデブリの発生幅w1は、例えばレーザLnのスポット径が20μmであれば、ほぼ同程度のばらつき幅w1=20μmと大きいため、長手方向の中心線Pに対する左右のバランスが崩れる原因となっていた。図8(b)に示した例では、長手方向の中心線Pに対して、左側に発生したデブリ量が右側よりも多くなっている。
デブリ751、752は、振動腕部の中心線Pの左右だけでなく、両振動腕部での発生量が異なることで、振動腕部のバランスが崩れてしまい、振動漏れによる悪影響を及ぼしてしまうという課題がある。
【0005】
更に、重り膜750が下向きの状態で溶融するため、図8(a)に示すように、主面に形成されたデブリ751はめくれた状態となり、振動により・がれ落ちる可能性があった。デブリが振動によって落ちると、振動腕部の左右のバランスが崩れると共に、重さの変化で周波数に影響する可能性がある。
一般に、圧電振動片が小型化するほど、重量を確保するために重り膜750を厚くする必要があるため、レーザLnで重り膜750を溶融除去した際によりデブリ751が発生し易くなる。このため小型の圧電振動片ほど、デブリによる左右バランスの崩れや振動漏れといった課題も大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-133879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、音叉型の圧電振動片において、振動(振幅)の追従性による振動が不安定になることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1に記載の発明では、内側に実装部を備えたパッケージ内に実装される、水晶で音叉型に形成された圧電振動片であって、基部と、前記基部から並んで延設された1対の振動腕部と、前記1対の振動腕部に形成された2系統の電極と、前記振動腕部における先端部に金属で形成された、第1厚さ部と、前記第1厚さ部と連続して前記基部側と先端側の少なくとも一方の側に形成された厚さが前記第1厚さ部よりも徐々に薄くなる傾斜面を備えた傾斜部と、を有する周波数調整用の重り膜と、を具備し、前記傾斜部は、複数の段差部で形成された、前記振動腕部の長手方向を向いた第1傾斜面と、前記振動腕部の長手方向及び幅方向に対して傾いた方向を向いた第2傾斜面により構成され、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面より緩やかな斜面に形成され、前記段差部は、厚さ方向の上側端部が凸形状の湾曲面に形成され、下側端部が凹形状の湾曲面に形成されている、ことを特徴とする圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面の両側に、前記振動腕部の幅方向の左右対称に形成されている、ことを特徴とする請求項に記載の圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、前記傾斜部は、前記第1傾斜面と、前記両側に形成された第2傾斜面により、凹形状に形成されている、ことを特徴とする請求項に記載の圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、前記重り膜は、前記振動腕部における先端部の少なくとも一方の主面に形成されている、ことを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、前記重り膜の傾斜部は、前記先端側に形成されている、ことを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、前記基部から前記振動腕部の外側に延出して形成された支持腕部で前記実装部に実装されるサイドアーム型、前記基部から前記振動腕部の間に延出して形成された支持単腕部で前記実装部に実装されるセンターアーム型、又は、前記基部が前記実装部に実装される片持ち型、であることを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片を提供する。
)請求項に記載の発明では、内側に実装部を備えたパッケージと、前記実装部に実装された、請求項1から請求項のうちのいずれか1の請求項に記載の圧電振動片と、前記実装部から前記パッケージの外部まで形成された外部電極部と、を有することを特徴とする圧電振動子を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動腕部における先端部に形成された重り膜に、第1厚さ部と連続して基部側、先端側の少なくとも一方の側に傾斜部を形成することで、急峻な段差の存在が少なくなるため、振動をより安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧電振動片における振動腕部先端に形成した重り膜の形状を表した説明図である。
図2】非熱加工レーザLfによる重り膜の削除方法についての説明図である。
図3】非熱加工レーザLfにより重り膜の一部を除去した状態を表した説明図である。
図4】振動腕部先端に形成した重り膜の形状の変形例を表した説明図である。
図5】第2実施形態における重り膜の形状を表した説明図である。
図6】圧電振動片を収容した圧電振動子の分解斜視図である。
図7】圧電振動片の他の形状についての説明図である。
図8】従来のレーザにより重り膜を溶融除去した後の振動腕部先端の状態を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図1から図7を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
本実施形態の圧電振動片は、振動腕部7(7a、7b)の先端部に設けた重り膜75の所定領域全体(全厚さ分)を溶融除去するのではなく、非熱加工により除去する。
重り膜75を非熱加工により除去する場合、除去した端部(振動腕部7の長手方向の端部)が長手方向に沿って徐々に薄くなるように形成する。すなわち、元の厚さ部分(第1厚さ部C)と連続して徐々に厚さが薄くなる傾斜部Bを形成する。
傾斜部Bの第1厚さ部Cと反対側の端部は、振動腕部7と当接した状態、又は、第1厚さ部Cよりも非熱加工により薄くなるように除去された第2厚さ部Aと連続している。
これによって重り膜75は、領域によって異なる厚さと傾斜面が形成され、傾斜した段差のある形状に形成される。
重り膜75は、溶融除去ではなく、非熱加工レーザLfを重り膜75に直接照射することで、非熱加工により除去する。ここで、非熱加工レーザLfは、重り膜75の非熱加工が可能なパルス幅、すなわち、パルス幅がピコ秒(2桁以下、例えば、15ピコ秒)~フェムト秒のレーザ、例えば、フェムト秒レーザを使用する。
【0012】
この非熱加工レーザLfにより、重り膜75の加工前の厚さNμmに対して、厚さnμm(n<N)分を残して上面側を除去することで第2厚さ部Aを形成すると共に、未加工部分である第1厚さ部C(厚さNμm)と第2厚さ部Aとの間に、厚さが徐々に薄くなる傾斜部Bを形成する。
第2厚さ部Aでは、当該領域を非熱加工レーザLfでスキャンする回数及び/又はパルス幅により除去する厚さを調整する。
一方、傾斜部Bでは、第2厚さ部A側から第1厚さ部C側にいく程、スキャン回数を少なくしたり、パルス幅を小さくしたり、出力エネルギーを小さくすることで形成する。
【0013】
このように、非熱加工レーザLfを用いた非熱的加工により、周波数調整用の重り膜75に、第1厚さ部Cに連続する傾斜部Bを形成することで、急峻な段差の存在が少なくなる。すなわち、重り膜75の断面形状を、傾斜した段差のある形状とすることで、振動をより安定化させることができる。
また、第2厚さ部Aが形成されることで、精度の高い周波数調整が可能になり、圧電振動片6の周波数精度を高くすることができる。
また、非熱的加工を非熱加工レーザLfにより行うので、溶融除去によるデブリの発生をなくすことができる。これにより、振動腕部7毎のバランスだけでなく、両振動腕部7a、7b間のバランスもとれた周波数調整を行うことができ、振動漏れを押さえることができる。
また、周波数調整後の重り膜75にデブリが存在しないため、振動によってデブリが取れて周波数が変化してしまう、ということが防止される。
【0014】
(2)第1実施形態の詳細
第1実施形態は、水晶を使用した音叉型の圧電振動片6であり、その詳細は図6で後述するが、基部8から1対の振動腕部7(7a、7b)が延設されると共に、圧電振動片6をパッケージ2内で支持するための支持腕部9(9a、9b)が形成されている。
1対の振動腕部7の長手方向には、その主面(裏表面)に一定幅の溝部72が形成されている。振動腕部7の外周面を構成する側面と主面、溝部72内には、第1励振電極、第2励振電極として機能する、異なる2系統の励振電極91、92が形成されている。
なお、後述の各変形例を含め、振動腕部7に溝部72を形成しないことも可能であるが、形成しない場合の第1、第2励振電極は主面に形成される。
そして、振動腕部7の長手方向の先端部(溝部72よりも先端側)には、周波数調整用の重り膜75が形成されている。
【0015】
図1は、本実施形態の圧電振動片における、振動腕部7の先端形状を表したものである。なお、図1~5では、1対の振動腕部7のうちの一方の先端部について表している。また、各図において塗りつぶした部分は、図5以外では重り膜75を表し、図5では重り膜75の断面を表している。
図1に示すように、振動腕部7の先端部には、周波数調整用の重り膜75が主面全体に形成されている。この重り膜75は、AuやAg等の金属材料が使用され、真空蒸着等の各種方法により所定の厚さNμmに形成される。本実施形態では、重り膜75を、所定の厚さNμm=3μmに形成しているが、厚さNμmは、製造する圧電振動片のサイズや、後述するセンターアーム型等の各種形式、振動腕部7の先端が横方向に拡幅しているか否か(重り膜75の形成領域の大きさ)等の各種条件によって適宜選択される。
なお、本実施形態では一方の主面だけに重り膜75が形成されているが、重り膜75に直接非熱加工レーザLfを照射するので、両面や側面に形成することも可能である。
【0016】
本実施形態による振動腕部7の先端の重り膜75は、図1(a)(b)に示すように、長手方向の先端側から基部8側(図面左側、図6参照)に向って、第2厚さ部A、傾斜部B、第1厚さ部Cの各部が形成されている。
図1(b)に示すように、第1厚さ部Cは、非熱加工レーザLfによる加工がされておらず、膜厚が当初のNμmのままの領域である。
一方、傾斜部Bと第2厚さ部Aは非熱加工レーザLfの加工により、重り膜75の一部を除去した部分である。非熱加工レーザLfを使用することで、重り膜75の厚さ方向に、全厚さ分削除したり、一部の厚さ分だけを削除したりすることが可能であり、本実施形態では、一部だけを除去している。
第2厚さ部Aは、振動腕部7の主面と平行に除去し、厚さnμm(n<N)だけ残した部分である。この第2厚さ部Aは、振動腕部7の先端側に位置する部分であるため、後述するように周波数調整の際に重り膜75の一部が除去された部分である。
【0017】
傾斜部Bは、基部8側が第1厚さ部Cと連続し、先端側が第2厚さ部Aと連続することで、基部8側から先端側にむけて徐々に厚さが薄くなる傾斜面が形成されている。
この傾斜部Bは、重り膜75の一部除去による周波数調整を行うとともに、第1厚さ部Cと第2厚さ部Aの間に生じる急峻な段差を解消することで振動腕部7による振動を安定化させるための部分である。
【0018】
図1(c)に示されるように、傾斜部Bの傾斜角度θは、0度よりも大きく90度よりも小さい(0°<θ<90°)範囲である。
この傾斜角度θは、第1厚さ部Cの厚さNから第2厚さ部Aの厚さnを引いた値(N-n)と、傾斜部Bの長手方向における長さによって決る。実際には、傾斜部Bを形成する時点での厚さ(N-n)は規定値なので、傾斜角度θは長さにより決る。
傾斜部Bの長手方向の長さは、非熱加工レーザLfによるレーザ光のスポット径p1の1/2よりも狭くても良いが、p/2以上であることが好ましく、スポット径p1の1倍~2倍の範囲とすることがより好ましい。この傾斜部Bの長さは、一定幅が選択され、周波数の調整量によって変化しない既定値(すなわち、削除重量も規定重量)であることが好ましい。
【0019】
一方、第2厚さ部Aと第1厚さ部Cにおける長手方向の長さについては、それぞれ周波数調整幅により変化する。すなわち、第2厚さ部Aの長さは、周波数調整量に応じて決る重り膜75の削除重量から、その後傾斜部Bで削除する規定重量を引いた重量から決る。第1厚さ部Cの長さは、第2厚さ部Aと傾斜部Bを削除した後の長さとなる。
【0020】
圧電振動子は各種サイズに形成されるが、特に、圧電振動片を収容する圧電振動子が、2.0mm×1.2mm、1.6mm×1.0mm、1.2mm×1.0mm、といった小型の圧電振動子ほど、本実施形態の効果が得られる。
そして、圧電振動片は圧電振動子のサイズに応じて形成されるが、例えば、1.6mm×1.0mmサイズの圧電振動子の場合、圧電振動片は、概略長さ1mm×幅0.5mm、厚さ0.1mに形成される。
一方、振動腕部7の先端部には、非熱加工レーザLfによる周波数調整前の状態では、重り膜75が第1厚さ部Cの厚さであるN=3μmに形成され、各領域に対する必要な周波数の調整量に応じて、削り取る重り膜75の面積と厚さが決められる。
【0021】
音叉型の圧電振動片は、振動腕部7の根元側から先端側にいくにつれて周波数感度が大きくなる。
従って、周波数調整では、重り膜75の先端側の領域を対象として粗調整を行い、基部8側の領域を対象として微調整を行うのが効率的である。
本実施形態では、図1(b)に示すように、第2厚さ部Aと傾斜部Bの削除により、周波数の調整が完了した状態である。
ただし、第2厚さ部Aと傾斜部Bの削除による周波数調整の後に、さらに周波数の微調整を行う場合には、第1厚さ部Cの基部8側を削除することで行う。この場合、基部8側に傾斜部だけ(傾斜部Bとは逆の傾斜)を形成したり、厚さn2μm(n2<N)の第3厚さ部と傾斜部とを形成するようにしてもよい。
また、重り膜75の先端部を、振動腕部7の主面が露出するまで更に削除することで周波数の粗調整を行い、その手前を第2厚さ部Aと傾斜部Bとで微調整を行うようにしてもよい。この場合、第2厚さ部Aの先端側と振動腕部7の主面との間にも傾斜部を形成することも可能であり、これにより急峻な段差を更に少なくすることができる。
図1に示した実施形態に対する各種変形の詳細については後述する。
【0022】
次に、本実施形態による振動腕部7の先端に形成した重り膜75の加工方法について説明する。
図2は、非熱加工レーザLfによる重り膜75の削除方法についての説明図であり、図2(a)は平面図、(b)~(d)は長手方向の断面図である。
図2(a)に示すように、振動腕部7の先端部には、所定厚さN(=3μm)の重り膜75が形成される。なお、図2で示した本実施形態の重り膜75は、振動腕部7における一方の主面に形成されるが、両面に形成する場合や、側面を含めた全周囲に形成するようにしてもよい。
この重り膜75を上側に向け、図2(b)に示すように、非熱加工レーザLfを重り膜75に直接(振動腕部7を透過させることなく)照射することで、非熱的加工により所定厚さ(N-n)μm分の重り膜75を削り取る。
本実施形態で使用する非熱加工レーザLfは、例えば、波長515nm、スポット径p1=10μm、パルス幅100fsのフェムト秒レーザである。この非熱加工レーザLfを、幅方向に往復方向及び長さ方向に、移動ピッチp2(例えば、p2=p1/2=5μm)でスキャンすることで、所定面積の重り膜75を除去する。図2(a)において、重り膜75の先端に表した円は、非熱加工レーザLfのスポット径p1を表し、p1のスポットの一部が重なるように、移動ピッチp2で幅方向に移動している状態を表している。そして、移動ピッチp2で幅方向に移動しながら、長手方向に移動することで所定領域の重り膜75を除去する。
【0023】
このトリミング加工では、第2厚さ部Aが形成される領域Aにおいて、非熱加工レーザLfのスキャンを行い、重り膜75の厚さNμmに対して、厚さ(N-n)μmだけ削り取ることで、周波数調整を行う。その際、周波数測定による目標周波数からのズレ量の測定と、ズレ量に応じた領域(重量)の削除とを繰返すことで、徐々に目標となる周波数に追込んでいく。なお、本実施形態では、第2厚さ部Aの形成に引き続いて形成する傾斜部Bの重量を考慮した重量が領域Aで削除される。
なお、所望周波数(狙い周波数)からのズレ量が大きい場合には、第2厚さ部Aの領域Aを広くすると共に厚さをより薄くすることで対応する。更にズレ量が大きい場合には、より周波数調整の効果が大きい最先端部の重り膜75を振動腕部7の主面まで全て削除し、全削除した部分の手前側を一部削除して第2厚さ部Aと傾斜部Bを形成することでより細かな調整を行う。更に微調整が必要な場合には、重り膜75の基部8側の削除により周波数の微調整を行う。
【0024】
第2厚さ部Aの削除が終了した後、図2(c)に示すように、第2厚さ部Aと第1厚さ部Cとの間に傾斜面を有する傾斜部Bを形成する。
図2(d)は、傾斜部Bを形成する状態を拡大して表したものである。
図2(d)に示すように、実際の傾斜部Bは平らな平面状態ではなく、小さな段差(少なくとも第1厚さ部Cと第2厚さ部Aとの間に2以上の段差)と斜面とによる段差で形成されている。
この傾斜部Bにおける連続する小さな段差は、非熱加工レーザLfによる上側加工側面の利用と、スキャン回数の変更により形成さる。
【0025】
図2(d)において、非熱加工レーザLfの後にカッコで示した数字は1ラインをスキャンする往復回数を例示したものであり、例えば、Lf(3)は当該ラインを3往復スキャンしていることを表している。
この図2(d)に示すように、例えば、非熱加工レーザLf(3)を各ラインに対して3往復ずつスキャンすることで第2厚さ部Aを形成する。その後、所定の移動ピッチp3だけ移動したラインにおいて、非熱加工レーザLf(2)により2往復スキャンし、更に移動ピッチp3だけ移動したラインに非熱加工レーザLf(1)を1往復スキャンする。
これにより、3往復スキャンによる第2厚さ部Aと、未加工の第1厚さ部Cとの間に、2往復スキャンと1往復スキャンによる小さな段差が形成されて、急峻な厚さの変化を抑制している。
【0026】
更に、各段差の上側と下側の両部分にはわずかではあるが湾曲した傾斜面により小さな段差による急峻な厚さ変化を更に抑制している。
例えば、非熱加工レーザLfによる加工では、図2(d)の断面に示したように、加工端が加工面(照射側の面)に対して直角ではなく、エネルギー分布によりわずかに傾斜面(湾曲面)が形成される。この傾斜面は、加工端の上側では凸形状の湾曲、下側(振動腕部7側)では凹形状の湾曲になる。この上側と下側の湾曲面を利用して傾斜部Bの一部が形成される。
但し、図2(d)ではスポット径外側の傾斜面を概念的に説明するために、誇張して表している。
【0027】
なお、図2(d)に示した例では、非熱加工レーザLf(2)、非熱加工レーザLf(1)による長手方向の移動回数(移動ピッチp3による移動回数)を1回ずつとしているが、この移動回数を増やすことにより図1(c)で示した傾斜角度θが小さくなるように調整することが可能である。また、非熱加工レーザLfによる移動ピッチp3を狭くしたり、非熱加工レーザLf(2)と非熱加工レーザLf(1)のいずれか一方を省略することにより、傾斜角度θが大きくなるように調整可能である。
【0028】
図3は、非熱加工レーザLfにより重り膜75の一部を除去した状態について、(a)は側断面を(b)は上面を表したものである。
従来のナノ秒~ピコ秒(3桁)のパルス幅のレーザLnでは、照射領域の重り膜全体を熱により溶融除去しているため、図8に示すように、照射領域の境界面にデブリが発生し、より小型化した圧電振動片の周波数調整が困難であると共に、デブリが原因で振動腕部間のバランスが崩れて振動漏れの可能性がある。
これに対して本実施形態による非熱加工レーザLfは、フェムト秒単位のパルスレーザを重り膜75表面に照射することで、固体構成物質が原子、分子、プラズマ状態となって爆発的に放出され(アブレーション)、非熱的加工により除去している。
これにより、図3(a)に示すように、非熱加工レーザLfの照射領域において重り膜75の厚さ方向の一部を除去して第2厚さ部Aや傾斜部Bを形成することが可能になる。その結果、より小型化した圧電振動片に対しても、精度の高い周波数調整が可能である。
【0029】
また、図3(b)に示すように、非熱加工レーザLfの照射領域の境界におけるデブリの発生がないため、第2厚さ部Aと傾斜部Bとの境界部や、傾斜部Bと第1厚さ部Cとの境界部における幅方向の境界面の粗さ(中心線Pと直交する幅方向の仮想直線に対する、非熱加工レーザLfの照射による加工端のばらつき幅)は、ほぼ非熱加工レーザLfのスポット径の1/2程度に抑制されている。
本実施形態では、上述したようにスポット径が10μmの非熱加工レーザLfを使用しているため、実際のばらつき幅w2=5μm程度に抑制され、図8で示した従来の幅w1=20μmに比べて大きく抑制されている。
このように、本実施形態によれば、デブリの発生をなくすと共に、振動腕部7の中心線Pに対する左右のバランスや、両振動腕部7のバランスを取ることができる。
この圧電振動片を使用することで、より振動漏れが小さい圧電振動子を形成することができる。
なお、境界面のばらつき幅は、非熱加工レーザLfのスポット径や移動ピッチp2によるが、振動腕部7のバランス精度の向上や振動漏れの抑制の観点から、ばらつき幅w2は10μm以下、好ましくは5μm以下とする。
【0030】
次に本実施形態の重り膜75の変形例について説明する。
図1で説明した実施形態では、振動腕部7の先端部の主面に形成した所定厚さNの重り膜75の形成面に対し、直交する方向(上方)から非熱加工レーザLfを照射することで、第2厚さ部A、傾斜部B、第1厚さ部Cが形成されている。
これに対して、次の変形(イ)~(ホ)と、これらの組合せによる各種変形が可能である。
変形(イ)傾斜部Bによる傾斜面が先端側ではなく、基部8(図6参照)側を向くように形成する。
変形(ロ)傾斜部Bの下側の端部が水晶と当接するように形成する。すなわち、傾斜部Bの下側端部よりも先端側/基部8側の重り膜75を振動腕部7の主面まで全て削除する。
変形(ハ)傾斜部Bを複数形成する。
変形(ニ)重り膜75における傾斜部Bを除いた部分の厚さが、3種類以上となるように形成する。この場合、必ず傾斜部Bは複数形成される。
変形(ホ)重り膜75が両面に形成され、その少なくとも一方に傾斜部Bが形成されている。
【0031】
図4は、上記変形(イ)~変形(ホ)のいずれか1以上を採用した変形例による、重り膜75の形状を表したものである。
図4(a)は、上記変形(ロ)を採用した場合で、図1に示した重り膜75において先端側に形成した第2厚さ部Aを残さずに全て除去することで形成される。例えば、図2(d)で説明した先端側のスキャンにおいて、フェムト秒レーザLfの往復回数を3回から、4回以上(図2(d)の場合には4回)とすることで、領域Aの重り膜75の全てを除去する。
【0032】
図4(b)は、上記変形(イ)を採用した場合である。
この図4(b)の例では、重り膜75の基部8側から先端側に向ってスキャンを移動しながら、基部8側に第2厚さ部Aを形成し、その後基部8側を向いた傾斜部Bを形成している。
なお、図2で説明した実施形態、全ての変形例を含め、より厚さが薄い部分(例えば、第2厚さ部A)を先に係止した後に、より厚い部分(例えば、第1厚さ部C)に向って傾斜部Bを形成する場合について説明しているが、その逆も可能である。すなわち、図2(d)の例において、より厚い部分の第1厚さ部C側から、非熱加工レーザLf(1)、非熱加工レーザLf(2)の順に傾斜部Bを上側から下側に向って形成し、その後第2厚さ部Aを形成するようにしてもよい。
【0033】
図4(c)は、上記変形(ハ)と変形(イ)を採用した場合である。
この図4(c)の例では、先端側と基部8側の両側の2箇所に第2厚さ部Aが形成されるとともに、両第2厚さ部Aから中央の第1厚さ部Cにむけて、互いに逆方向を向く傾斜部B1と傾斜部B2が形成されている。
図4(c)の例では、非熱加工レーザLfを先端側から基部8側に移動することで、先端側の第2厚さ部A、傾斜部B1、第1厚さ部Cを飛ばして傾斜部B2、第2厚さ部Aを形成する。他に、先端側の第2厚さ部A、傾斜部B1の順に形成した後、非熱加工レーザLfを位置と移動方向を変更し、基部8側の第2厚さ部A、傾斜部B2を形成するようにしてもよい。
なお、図4(c)に表した変形例において、変形(ロ)を適用することで、先端側の第2厚さ部Aと基部8側の第2厚さ部Aの少なくとも一方の部分を全て削除するようにしてもよい。
【0034】
図4(d)は、上記変形(ハ)と変形(イ)を採用した場合である。
図4(d)は、(c)の変形例と逆に、中央の1箇所に第2厚さ部Aを形成し、その両側に対向するように逆向きの傾斜部B1と傾斜部B2を形成、更に外側(先端側と基部8側)の2箇所に第1厚さ部Cを形成したものである。
【0035】
図4(e)は、上記変形(ハ)、変形(イ)、変形(ニ)を採用した場合である。
図4(e)は、(c)の変形例と同様に、中央に形成した第1厚さ部Cの先端側と基部8側に傾斜部B1と傾斜部B2を形成しているが、(c)と異なる点として、基部8側に第2厚さ部A2を形成すると共に、第2厚さ部A2よりも厚さが厚い第2厚さ部A1(第3厚さ部)を端側に形成したものである。なお、基部8側に第2厚さ部A1、先端側に第2厚さ部A1を形成するようにしてもよい。
【0036】
図4(f)は、上記変形(イ)、変形(ハ)、変形(ニ)を採用した場合である。
図4(f)は、先端側から基部8に向って順番に、第1厚さ部C、傾斜部B1、第2厚さ部A1、傾斜部B2、第2厚さ部A2が形成されている。図に示すように、この変形例では、2箇所の傾斜部B1と傾斜部B2が同一方向(基部8方向)に形成されている。
なお、図4(f)に示した第1厚さ部C~第2厚さ部A2の形成順番を逆にし、先端側から基部8に向って順番に、第2厚さ部A2、傾斜部B2、第2厚さ部A1、傾斜部B1、第1厚さ部C、を形成するようにしてもよい。
【0037】
図4(g)は、上記変形(イ)と変形(ホ)を採用した場合である。
図4(g)の変形例は、振動腕部7の先端側から基部8側に向けて、一方側の主面に、第1厚さ部C1、傾斜部B1、第2厚さ部A1を形成し、他方の側の主面に第1厚さ部C2、傾斜部B2、第2厚さ部A2を形成している。
なお、一方側の第2厚さ部A1と他方側の第2厚さ部A2の厚さは同じであるが、一方の厚さを他方よりも厚く形成するようにしてもよい。
また、第2厚さ部A、傾斜部B、第1厚さ部Cの形成順番を逆にし、基部8側に第1厚さ部Cを形成するようにしてもよい。
【0038】
次に、重り膜75の形状における第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、傾斜部Bの傾斜面が振動腕部7の長手方向を向いている場合(図2参照)について説明した。
これに対して第2実施形態では、傾斜部Bの傾斜面が、振動腕部7の長手方向の傾斜面と、長手方向に対して傾いた方向の傾斜面とにより形成されている。
図5は、第2実施形態における重り膜75の形状を表した説明図である。図5(a)は重り膜75が形成されている振動腕部7の先端の平面を、(b)は長手方向に沿ったP1-P1段面を、(c)は長手方向に沿ったP2-P2段面を、(d)は幅方向に沿ったP3-P3段面を表している。なお、(b)~(d)の断面において、重り膜75の断面部分を塗りつぶして表示している。
【0039】
図5に示すように、周波数の粗調整を行う先端側では、非熱加工レーザLfの照射により、振動腕部7の主面A0が露出するまで、重り膜75を幅方向の全体にわたって削除し、途中からの微調整を行う中間領域では、幅方向の両端側を残して中央部分を削除している。
この微調整を行う中間領域では、図5(a)に示すように、非熱加工レーザLfのスキャン位置が基部8側に移動するに従って、スキャンの幅を徐々に狭くすることで、傾斜部Bの一部がV字形状の凹部に形成されている。
図5に示すように、V字形状の凹部は、振動腕部7の幅方向の左右対象に形成されることで、振動のバランスを変化することが抑制されている。
【0040】
図5(a)(b)に示されるように、第2実施形態の傾斜部Bは、長手方向の先端側における左右(幅方向)両側、及び長手方向の基部8側における中央部分に、長手方向を向いた傾斜面B1が形成されている。
一方、V字形状の凹部では、長手方向と幅方向の断面を表した図5(c)、(d)に示すように、傾斜部Bは、長手方向に対して傾いた方向を向いた傾斜面B2、傾斜面B3が形成されている。
そして、長手方向に対して傾いた方向を向いた傾斜面B2、B3の傾斜角度は、長手方向を向いた傾斜面B1と比較して、より緩やかになる。
そのため、本実施形態によれば、第1実施形態に比較して、第1厚さ部Cと主面A0(又は、後述する第2厚さ部A)との間の段差をより緩やかな傾斜面で形成することができ、これにより振動腕部7による振動をより安定化させることができる。
【0041】
なお、説明した第2実施形態では、長手方向を向いた傾斜面B1、及び、長手方向に対して傾いた方向を向いた傾斜面B2、B3で傾斜部Bを形成する場合について説明した。これに対して、傾斜面Bの傾斜面を長手方向に対して傾いた方向だけで形成することも可能である。この場合の傾斜面は、両振動腕部7a、7b(図6参照)の中央側を向くように形成し、外側を向くように形成し、又は、何れか一方の外側(同じ方向)を向くように形成してもよい。
また、傾斜部Bの傾斜面が、平面視でV字形状、すなわち振動腕部7の幅方向の中心が凹んでいる形状になっているが、この逆に凸形状(逆V形状)に形成するようにしてもよい。
【0042】
また第2実施形態の傾斜部Bは、第1厚さ部C側と反対側の端部が振動腕部7の主面A0と当接する場合について説明した。すなわち、重り膜75の厚さの一部を残して第2厚さ部Aを形成せずに、厚さ方向の全てを削除することで主面A0を露出させている。これに対して、粗調整の先端領域と微調整の中間領域に第2厚さ部Aを形成するようにしてもよい。この場合、平面視でV字形状に形成されることで、長手方向に対して傾いた方向の傾斜面(B2、B3部分)が、第1厚さ部Cと第2厚さ部Aとの間に形成されることになる。
さらに、図4で説明したように第1実施形態における上記(イ)~(ホ)と、これらの組合せによる各種変形については、第2実施形態と第2実施形態の変形例に対しても適用することが可能である。
【0043】
以上、第1、第2実施形態、変形例における圧電振動片の先端に形成した重り膜75の形状とその形成について説明した。
次に、このように形成された圧電振動片、及び、圧電振動片を収容した圧電振動子について説明する。
図6は、圧電振動片を収容した圧電振動子の分解斜視図である。
図6に示すように、本実施形態の圧電振動子1は、内部に気密封止されたキャビティCを有するパッケージ2と、キャビティC内に収容された圧電振動片6と、を備えたセラミックパッケージタイプの表面実装型振動子とされている。
なお、本実施形態の圧電振動子1は左右対称な構造となっているため、振動腕部7aと振動腕部7bというように、対称配置された両部分を同一の数字で表すと共に、両部分を区別するため、一方に区別符合a、A、他方に区別符合b、Bを付して説明する。ただし、区別符号を適宜省略して説明するが、この場合には各々の部分を指しているものとする。
【0044】
圧電振動片6は、水晶やタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電材料から形成された、いわゆる音叉型の振動片であり、所定の電圧が印加されたときに振動するものである。本実施形態では、圧電材料として水晶を使用して形成した圧電振動片のうちの、いわゆるサイドアーム型の圧電振動片6を例に説明する。
圧電振動片6は、基部8から平行に延びる振動腕部7a、7bと、この振動腕部7a、7bの外側に同方向に基部8から延びる支持腕部9a、9bを備え、この支持腕部9a、9bによりキャビティC内に保持される。
【0045】
一対の振動腕部7a、7bは、互いに平行となるように配置されており、基部8側の端部を固定端とし、先端が自由端として振動する。
一対の振動腕部7a、7bの先端側には、全長のほぼ中央部分よりも両側に広くなるように形成された拡幅部71a、71bを備えている。この振動腕部7a、7bに形成した拡幅部71a、71bは、振動腕部7a、7bの重量及び振動時の慣性モーメントを増大する機能を有している。これにより、振動腕部7a、7bは振動し易くなり、振動腕部7a、7bの長さを短くすることができ、小型化が図られている。
そして、この拡幅部71a、71b主面には、図1で説明した、厚さが異なる重り膜75が形成されている。
なお、本実施形態の圧電振動片6は、振動腕部7a、7bに拡幅部71a、71bを形成し、この拡幅部71a、71bに、傾斜した段差のある重り膜75が形成されるが、振動腕部7の先端部の幅を略中央部分と同じ幅に形成した、拡幅部71a、71bがない圧電振動片を使用することも可能である。
【0046】
振動腕部7a、7bの両主面には、基部8側から拡幅部71a、71bの手前まで伸びる溝部72a、72bが形成されている。その結果、振動腕部7a、7bの断面形状がH型となっている。
一対の振動腕部7a、7bの外表面上(外周面)には、振動腕部7aの外側の両側面と、振動腕部7bの溝部72bに形成された第1系統と、振動腕部7bの外側の両側面と、振動腕部7aの溝部72aに形成された第2系統からなる、一対の(2系統の)励振電極(図示しない)が形成されている。
また図示しないが、第1系統の励振電極に接続する第1マウント電極が、基部8から支持腕部9aの外表面上(外周面)まで形成され、第2系統の励振電極に接続する第2マウント電極が、基部8から支持腕部9bの外表面上(外周面)まで形成されている。
なお、励振電極とマウント電極は、1層目のクロム(Cr)層と2層目の金(Au)層からなる積層膜で、電極スパッタ等で形成されている。
【0047】
パッケージ2は、概略直方体状に形成され、パッケージ本体3と、パッケージ本体3に対して接合されるとともに、パッケージ本体3との間にキャビティCを形成する封口板4と、を備えている。
パッケージ本体3は、互いに重ね合わされた状態で接合された第1ベース基板10および第2ベース基板11と、第2ベース基板11上に接合されたシールリング12と、を備えている。
【0048】
第1ベース基板10の上面は、キャビティCの底面に相当する。
第2ベース基板11は、第1ベース基板10に重ねられており、第1ベース基板10に対して焼結などにより結合されている。すなわち、第2ベース基板11は、第1ベース基板10と一体化されている。
なお、第1ベース基板10と第2ベース基板11の間には、両ベース基板10、11に挟まれた状態で接続電極(図示せず)が形成されている。
【0049】
第2ベース基板11には、キャビティCの側壁の一部を構成する貫通部11aが形成されている。
貫通部11aの短手方向で対向する両側の内側面には、内方に突出する実装部14A、14Bが設けられている。
この実装部14A、14Bの上面には、圧電振動片6との接続電極である一対の電極パッド(電極部)20A、20Bが形成されている。また、第1ベース基板10の下面には、一対の外部電極21A、21Bがパッケージ2の長手方向に間隔をあけて形成されている。電極パッド20A、20Bおよび外部電極21A、21Bは、例えば蒸着やスパッタ等で形成された単一金属による単層膜、または異なる金属が積層された積層膜である。
電極パッド20A、20Bと外部電極21A、21Bとは、第2ベース基板11の実装部14A、14Bに形成された第2貫通電極(図示せず)、第1ベース基板10と第2ベース基板11の間に形成された接続電極(図示せず)、及び、第1ベース基板10に形成された第1貫通電極(図示せず)を介して互いにそれぞれ導通している。
一方、電極パッド20A、20B上には、導電性接着剤51が塗布され、支持腕部9a、9bのマウント電極と接合している。
【0050】
シールリング12は、第1ベース基板10および第2ベース基板11の外形よりも一回り小さい導電性の枠状部材であり、第2ベース基板11の上面に接合されている。具体的には、シールリング12は、銀ロウ等のロウ材や半田材等による焼付けによって第2ベース基板11上に接合、あるいは、第2ベース基板11上に形成(例えば、電解メッキや無電解メッキの他、蒸着やスパッタ等により)された金属接合層に対する溶着等によって接合されている。
【0051】
封口板4は、シールリング12上に重ねられた導電性基板であり、シールリング12に対する接合によってパッケージ本体3に対して気密に接合されている。そして、封口板4、シールリング12、第2ベース基板11の貫通部11a、および第1ベース基板10の上面により画成された空間が、気密に封止されたキャビティCとして機能する。
【0052】
図6に示した圧電振動子1は次の各工程で形成される。
(1)圧電振動片6の製造
(a)外形形成工程では、水晶を使用して振動腕部を有する音叉型の圧電振動片の外形を形成する。
(b)電極形成工程では、2系統の励振電極とマウント電極を形成する。
(c)重り形膜成工程では、振動腕部7の先端側の主面に厚さNμmの重り膜75を形成する。この重り膜形成工程は、電極形成工程の前後いずれでも、同時にでもよい。
(d)周波数調整工程では、非熱加工レーザLfを重り膜75に直接照射し、周波数の調整幅に応じた領域と厚さ分を除去することで、第2厚さ部Aと傾斜部Bを形成する。周波数調整工程では、先端側を除去する粗調整と、基部8側を除去する微調整を行う。
【0053】
(2)圧電振動子1の製造
(e)圧電振動片製造工程では、(1)の各工程により圧電振動片6を製造する。
(f)実装工程では、製造した圧電振動片6を、パッケージ本体3に形成された実装部14の電極パッド20に導電性接着剤51で支持腕部9を接着することで実装する。
(g)封止工程では、圧電振動片6を実装したパッケージ本体3に封口板4により封止する。
【0054】
なお、圧電振動子1を製造する場合、実装工程と封止工程の間に、最終周波数調整工程を行うようにしてもよい。
(f-2)最終周波数調整では、実装した圧電振動片6の重り膜75に対してイオンリミングを行う。
すなわち、実装後の圧電振動片6の周波数を計測し、所望周波数となるように、重り膜75全体(第1厚さ部C、傾斜部B、第2厚さ部A)の表面をイオンリミングすることで周波数の最終調整を行う。
なお、イオンリミングでは、重り膜75以外の部分をマスクし、数KVに加速した収束させないアルゴンイオンを照射し、スパッタリング現象を利用して重り膜75の表面を研磨(薄く削除)する。
【0055】
本実施形態では、主面に形成した重り膜75を、厚さ方向の全体を溶融除去するのではなく、非熱加工レーザLfを照射して厚さ方向の一部を薄く削除することで第2厚さ部Aと傾斜部Bを形成している。即ち、(c)重り膜形成工程で主面に形成した重り膜75は、その領域に応じて厚さが薄くなっているが、主面上における面積は同じである。
このため、イオンリミングにより研磨する対象面積が大きい(当所の形成面積のままである)ため、短い時間のイオンリミングにより、所定重量分の重り膜75を削除することが可能になる。
【0056】
以上、サイドアーム型の圧電振動片6と、この圧電振動片6を使用した圧電振動子1の構成について説明したが、音叉型であれば他の形式の圧電振動片に、傾斜した段差のある重り膜75を形成することも可能である。
図7は他の型の圧電振動片について、(a)が片持ち型の圧電振動片61、(b)がセンターアーム型の圧電振動片62を表した説明図である。
図7(a)に示す圧電振動片61は、基部8から長手方向に平行に延出する振動腕部7a、7bが形成され、支持腕部は存在しない。一方、図7(b)に示す圧電振動片62は、基部8から長手方向に平行に延出する振動腕部7a、7bの間に、支持単腕部9cが形成されている。
【0057】
両圧電振動片61、62における、一対の振動腕部7a、7bの両主面には、図6で説明した圧電振動片6と同様に、溝部72a、72bが形成されている。
また振動腕部7aの外側の両側面と、振動腕部7bの溝部72bに形成された第1系統の励振電極92と、振動腕部7bの外側の両側面と、振動腕部7aの溝部72aに形成された第2系統の励振電極91が形成されている。
【0058】
そして、片持ち型の圧電振動片61は、図7(a)に示すように、第1系統の励振電極92に接続する第1マウント電極92mと、第2系統の励振電極91に接続する第2マウント電極91mが、基部8に形成されている。
一方、センターアーム型の圧電振動片62は、図7(b)に示すように、第1系統の励振電極92に接続する第1マウント電極92mが基部8から支持単腕部9cの先端部まで形成され、第2系統の励振電極91に接続する第2マウント電極91mが基部8から支持単腕部9cの中央部まで形成されている。
【0059】
圧電振動片61、62は、共に、図6で説明した圧電振動片6と同様に、パッケージ2内に収容されることで、圧電振動子が構成される。
なお、この場合のパッケージ2には、圧電振動片61の場合には基部8の位置に、圧電振動片62の場合には支持単腕部9cの位置に、図6で説明した実装部14A、14Bに対応する実装部が形成され、この実装部に形成されている2系統の電極パッドに導電性接着剤で接着、固定されている。
【0060】
そして、図7(a)の片持ち型の圧電振動片61では、振動腕部7の先端に拡幅部71が存在せず、(b)のセンターアーム型の圧電振動片62は、振動腕部7の先端に拡幅部71が形成されている。いずれの圧電振動片61、62においても、振動腕部7の先端部には重り膜75が形成され、その長手方向に沿った断面は、図1で説明したように、非熱加工レーザLfの照射により周波数調整が行われる。これによって重り膜75は、領域によって異なる厚さと傾斜面が形成され、傾斜した段差のある形状に形成される。
なお、本実施形態については、次のように構成することが可能である。
(1)構成1では、内側に実装部を備えたパッケージ内に実装される、水晶で音叉型に形成された圧電振動片であって、基部と、前記基部から並んで延設された1対の振動腕部と、前記1対の振動腕部に形成された2系統の電極と、前記振動腕部における先端部に金属で形成された、第1厚さ部と、前記第1厚さ部と連続して前記基部側と先端側の少なくとも一方の側に形成された厚さが前記第1厚さ部よりも徐々に薄くなる傾斜面を備えた傾斜部と、を有する周波数調整用の重り膜と、を具備したことを特徴とする圧電振動片を提供する。
(2)構成2では、前記傾斜部は、前記振動腕部の長手方向を向いた傾斜面、及び前記長手方向に対して傾いた方向を向いた傾斜面の少なくとも一方の傾斜面により構成されている、ことを特徴とする構成1に記載の圧電振動片を提供する。
(3)構成3では、前記重り膜は、前記第1厚さ部よりも薄く形成された第2厚さ部を備え、前記傾斜部は一方の側が前記第1厚さ部と連続し、他方の側が前記第2厚さ部と連続している、ことを特徴とする構成1、又は構成2に記載の圧電振動片を提供する。
(4)構成4では、前記重り膜の傾斜部は、前記振動腕部の長手方向における一方の側が前記第1厚さ部と連続し、他方の側が前記振動腕部の主面と当接している、ことを特徴とする構成1、又は構成2に記載の圧電振動片を提供する。
(5)構成5では、前記傾斜部は、前記長手方向における前記一方の側から前記他方の側の間に、1以上の傾斜した段部を備えている、ことを特徴とする構成1から構成4のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片を提供する。
(6)構成6では、前記傾斜面方向における前記傾斜部の長さは、前記傾斜部を形成するレーザ光のスポット径の半分以上である、ことを特徴とする構成1から構成4のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片を提供する。
(7)構成7では、前記重り膜は、前記振動腕部における先端部の少なくとも一方の主面に形成されている、ことを特徴とする構成1から構成6のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片を提供する。
(8)構成8では、前記重り膜の傾斜部は、前記先端側に形成されている、ことを特徴とする構成1から構成7のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片を提供する。
(9)構成9では、前記基部から前記振動腕部の外側に延出して形成された支持腕部で前記実装部に実装されるサイドアーム型、前記基部から前記振動腕部の間に延出して形成された支持単腕部で前記実装部に実装されるセンターアーム型、又は、前記基部が前記実装部に実装される片持ち型、であることを特徴とする構成1から構成8のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片を提供する。
(10)構成10では、内側に実装部を備えたパッケージと、前記実装部に実装された、構成1から構成9のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片と、前記実装部から前記パッケージの外部まで形成された外部電極部と、を有することを特徴とする圧電振動子を提供する。
(11)構成11では、少なくとも基部と前記基部から並んで延設された1対の振動腕部を有する音叉型の圧電振動片の外形を形成する外形形成工程と、前記振動腕部に2系統の電極を形成する電極形成工程と、前記振動腕部の先端側の主面に周波数調整用の重り膜を形成する重り膜形成工程と、前記重り膜を除去し、少なくとも一部に厚さが徐々に薄くなる傾斜面を備えた傾斜部を形成することで、周波数を調整する周波数調整工程と、を備えたことを特徴とする圧電振動片の製造方法を提供する。
(12)構成12では、前記周波数調整工程は、前記重り膜の一部を非熱加工により除去する、ことを特徴とする構成11に記載の圧電振動片の製造方法を提供する。
(13)構成13では、前記周波数調整工程は、前記重り膜の除去が非熱加工となるパルス幅の非熱加工レーザを直接照射する、ことを特徴とする構成12に記載の圧電振動片の製造方法を提供する。
(14)構成14では、前記非熱加工レーザは、パルス幅が2桁以下のピコ秒レーザ、又は、フェムト秒レーザである、ことを特徴とする構成13に記載の圧電振動片の製造方法を提供する。
(15)構成15では、前記周波数調整工程は、前記振動腕部の先端側の第1領域に対して粗調整を行い、その後、前記第1領域よりも前記基部側の第2領域で微調整を行う、ことを特徴とする構成11から構成14のうちのいずれか1の構成に記載の圧電振動片の製造方法を提供する。
(16)構成16では、構成11から構成15のうちのいずれか1の構成の各工程により圧電振動片を製造する工程と、前記圧電振動片を、パッケージ内に形成された実装部に実装する実装工程と、前記パッケージを封止する封止工程と、を有することを特徴とする圧電振動子の製造方法を提供する。
(17)構成17では、前記実装工程と前記封止工程の間に、前記実装した圧電振動片の前記重り膜に対してイオンリミングを行う最終周波数調整工程、を有することを特徴とする構成16に記載の圧電振動子の製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0061】
1 圧電振動子
2 パッケージ
3 パッケージ本体
4 封口板
6 圧電振動片
7、7a、7b 振動腕部
8 基部
9、9a、9b 支持腕部
9c 支持単腕部
10 第1ベース基板
11 第2ベース基板
14、14A、14B 実装部
20、20A、20B 電極パッド
21、21A、21B 外部電極
51 導電性接着剤
61、62、 圧電振動片
72 溝部
75 重り膜
91、92 励振電極
91m、92m マウント電極
C キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8