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  • 特許-ガラス製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ガラス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/02 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
C03B19/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023211583
(22)【出願日】2023-12-14
【審査請求日】2024-05-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523472870
【氏名又は名称】吉井 こころ
(74)【代理人】
【識別番号】100157727
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 一
(72)【発明者】
【氏名】吉井 こころ
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-040659(JP,A)
【文献】特開2006-096645(JP,A)
【文献】特開2005-097020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性材料による原型にワックスを流し込み、硬化させた後に、前記原型を取り除くことでワックス凹型を成形するワックス凹型成形ステップと、
前記ワックス凹型に石膏を流し込み、硬化させた後に、前記ワックス凹型を取り除き、前記原型と同じ形状を有する石膏凸型を成形する石膏凸型成形ステップと、
前記石膏凸型を入れた型枠にガラス材を投入し、硬化させた後に、前記石膏凸型を取り除き、ガラス凹型を成形するガラス凹型成形ステップ
とを有するガラス製品の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス凹型成形ステップは、
前記型枠に、固体のガラス片を詰めて高温に溶融することでガラス材を投入する
請求項1記載のガラス製品の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス凹型成形ステップは、
前記型枠に、あらかじめ溶融したガラス材を流し込むことでガラス材を投入する
請求項1記載のガラス製品の製造方法。
【請求項4】
前記石膏凸型成形ステップは、さらに、
顔料と前記ガラス材を混ぜたもので前記石膏凸型に彩色し、
前記ガラス凹型成形ステップは、さらに
前記石膏凸型の彩色が前記ガラス凹型に転写される
請求項1~3記載のガラス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工芸品、彫刻作品、装飾品等のためのガラス鋳造内部の複雑な形状のガラス製品の製造方法とガラス内部への色彩焼き付けに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品の製造を行うために用いられる代表的な手法として、キルンキャスティングがある。キルンキャスティングとは、型に入れたガラス材料を電気炉で焼成して徐冷後、窯から出し、型を外して研磨する技術である。
【0003】
このキルンキャスティングを応用した方法として、特許文献1では、アルギンサン印象材に原型(手足など)を押し付けて凹版をとり、この凹版に1対1の割合のロウとセメントを混ぜて熱溶解したものを流し込んで、このロウとセメントの固まったものを凸版とし、この凸版をもとに焼入用石膏を材料として別の凹版をつくり、更にこの凹版に硝子材料を入れて炉にて焼成する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、人や動物の手や足等を軟質ゴム製の歯科用印象材に押し付けて第一の凹型を成形し、次いで硬化したこの第一の凹型内に石膏を流し込んで硬化させることにより第一の凸型を成形し、次いで硬化したこの第一の凸型を砂材に押し付けて第二の凹型を形成し、更にこの第二の凹型内に溶融したガラス材を流し込んで冷却硬化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭61-164796号公報
【文献】特開2005-97020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献の技術はいずれも、作りたい原型をそのままガラスで表現する場合には良いが、潮だまりを覗き込む時のように、向こうが見えそうで見えない複雑なモチーフをガラスに内包させるようなデザインを作りこむことはできない。
【0007】
特許文献1では、ロウとセメントで固めた凸版をもとに焼入用石膏で別の凹版をつくるため、製品が凸版と同じ形態になるのみで、ガラスにデザインを内包させる部分となる中子が無いため、内部空間を作成できない。
【0008】
特許文献2では、石膏を硬化させた凸版をもとに砂材で凹版を作るため、製品が凸版と同じ形態になり、同様に中子が無いため、内部空間を作成できない。
【0009】
また、アルギンサン印象材や軟質ゴム製の歯科用印象材による型取りではテーパー(抜き勾配)の限界があり、中子構造の形状の自由度が少ない。更には、アルギンサン印象材、軟質ゴム製の歯科用印象材はいずれも、使用後はリサイクルができず、廃棄時の処理にも問題がある。
【0010】
通常、粘土などの不透明な素材で原型を作っていくと、出来上がった透明なガラスでは、粘土の「凹み」「陰」の形態でも、見る角度により「でっぱり」「陽」の形になり得て、複雑なモチーフを表現できる可能性がある。しかし、これを予想しつつ粘土原型を彫っていくのは難しく、複雑なモチーフをガラスに内包させるための簡易な技術は存在しなかった。
【0011】
よって本発明は、複雑なモチーフをガラスに内包させるための簡易的な技術を提供し、また、公共空間に於けるガラス工芸品設置の場合の安全性向上のため、凹凸を反転してガラス内部に空間として彫刻を施す安価な製造技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の製造方法は、可塑性材料による原型にワックスを流し込み、硬化させた後に、前記原型を取り除くことでワックス凹型を成形するステップと、前記ワックス凹型に石膏を流し込み、硬化させた後に、前記ワックス凹型を取り除き、前記原型と同じ形状を有する石膏凸型を成形するステップと、前記石膏凸型にガラス材を埋め込み、硬化させた後に、前記石膏凸型を取り除き、ガラス凹型を成形するガラス凹型成形ステップとを有する構成である。
また、別の方法として、前記石膏凸型成形ステップは、さらに、顔料と前記ガラス材を混ぜたもので前記石膏凸型に彩色し、前記ガラス凹型成形ステップは、さらに、前記石膏凹型の彩色が前記ガラス凹型に転写される構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は上述したような構成をとる結果、製品の外形が平滑になるため強度に優れ、接触時の破損、危険性が無く公共空間への設置における安全性の向上が見込まれる。
【0014】
また、原型の凹凸反転が容易になるため、作成者は子供から大人まで年齢性別や、造形技術の優劣、練度を問わず、自由に作成した原型の反転形態をガラスの中に作成する事が可能である。
【0015】
そして、この製法では使い捨てのシリコンゴム型、ジルコンサン印象材、歯科用印象材などを使用せず、何度でも使える粘土や陶土などの可塑性材料とワックスのみで反転させることが出来るため、環境負荷の軽減が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】可塑性材料による原型を示した図である。
図2図1にワックスを注入・塗布したところを示した図である。
図3図2から原型を取り除いたところを示した図である。
図4図3に石膏を注入したところを示した図である。
図5図4からワックスを取り除いたところを示した図である。
図6図5にガラスを注入したところを示した図である。
図7図6から石膏を取り除いた最終的なガラス製品を示した図である。
図8図5の石膏型に彩色したところを示した図である。
図9】今回の発明により作成したガラス製品例である
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法について説明する。
【0018】
まず、図1に示すように、後に中子となりガラス内部の空間形態となる、原形1を作る。原型1を作るために用いる材料は粘土とする。この材料は、可塑性材料であれば粘土以外のものでもよく、例えば、陶土を用いてもよい。粘土などの可塑性材料による原型1の作成は、形状の変更にも対応可能であり、ガラス内部空間の形態が自由にできるという利点がある。また、粘土や陶土は、繰り返し使えて環境に負荷がかからない。
【0019】
次に、図2に示すように、粘土原型1に、熱したワックス2を塗布、または流し込み、冷やし固める。この時ワックスの成分が軟らかめに調合してあると、ワックス型に傷をつけてしまうおそれがあるため、注意を要する。
【0020】
次に、図3に示すように、ワックス2から粘土原型1を取り除き、空洞3を作り、これで「凹」の形態が完成する。取り除いた粘土は、再利用が可能である。この段階でワックスを加工することで、ここから「凸」の形態、ガラスの外側の造形制作に移行することも可能である。もしくは、最終的なガラスの形状の造形制作をすることも可能である。
【0021】
次に、図4に示すように、石膏を掛け、石膏硬化後、図5に示すように脱蝋(ロストワックス)して、ワックスが取り除かれた空間5に、最終的に中子を形成することとなる石膏中子型4が出来上がる。粘土を取り除くことが出来て、かつ、鋳造後のガラスから石膏を外すことができる限り、どんな形でもガラスに封入できる石膏中子型4が作成できるということになる。なお、このとき取り出したワックス2も再利用が可能である。
【0022】
この石膏中子型4に着彩したい場合はこの段階で専用の顔料を使用し彩色するが、詳細は後述する。
【0023】
この型に、図6に示すようにガラス6を鋳造し、徐冷後、図7に示すように石膏中子型4を外して空洞7を作り、表面を研磨して、最終的なガラス製品の完成となる。
【0024】
ここで、粘土原型1に流し込むワックス2について説明する。内側の粘土原型1を傷つけない流動体であり、中子型として機能することになる、繊細な石膏型を傷めない材料としてワックスが適している。ワックスは、今回の発明において、ロストワックス技法と呼称されている技術で用いられており、ワックスの凹型に石膏をかけて、石膏硬化後に、加熱によりワックスを溶かしだして除去することにより、石膏の中子型4を作り出すために機能している。
【0025】
ワックスの調合例としては、パラフィンワックス、マイクロワックス、ロジン(松脂)を混ぜ合わせ、冬季にはさらに蜜蝋を調合したものも使用される。鍋に融点の高いロジンから溶かし、パラフィン、マイクロ、蜜蝋の順に入れ、全てをよく混ぜる。ロジンは沈殿しやすいが、このロジンが入っていることで、手びねり原型の制作にワックスを利用する際には、伸びが良く、薄いシート状のものや花びら状の薄物でも割れにくくなるという効果がある。また、ワックスを硬めにするためには、パラフィンワックスを多めに調合する。
【0026】
次にガラスの鋳造方法について説明する。ガラス内部の空気を自由に造形出来る石膏型4に、ガラス6を鋳造する方法は二通りあり、一つは型にガラスカレットを詰めて電気炉の中で鋳造するキルンキャスティングで、もう一つは予熱しておいた型に溶けたガラスを坩堝からレードルですくって流し込むホットキャスティングである。
【0027】
ホットキャスティング方法の利点は、坩堝からダイレクトに鋳造するためガラスに不純物が少なく、ガラスが高温の為気泡もほとんど入らない点(坩堝のガラスの状態による)、型に触っていない水面の研磨が不要な点であり、何よりもガラス自体の透明度が美しい。これは炉内雰囲気などによりガラス表面に不純物が付着する機会が少ないためである。欠点としては、(1)大きなものを作る作業は一人では不可能なためチーム編成が必要なこと、(2)上蓋式の徐冷炉に型を設置しダイレクトに流し込めるが、誤って熱源に溶けたガラスが付着し徐冷炉を破壊する危険性があるため、専用の徐冷炉(レール式ハットキルンなど)が望ましいこと、(3)ガラスの色が単色になること、(4)ガラスを流し込む際の温度差と衝撃で石膏型が破損することなどが挙げられよう。
【0028】
一方、キルンキャスティングの利点は、(1)大規模な設備やチーム編成が不要なこと、(2)型とガラスの温度上昇が同じなため型の破損が少ないこと、(3)コストがかからないこと、(4)多彩な色ガラスをコントロールし混合させられることである。
【0029】
キルンキャスティングではガラスカレットを用いるが、中子の形状が複雑になればなるほど、繊細な石膏は当然破損しやすくなり、比重2.3~3.0であるガラスカレットを型に詰めた時点で重さに耐えられず石膏が破損することもある。しかしこれを低減させるためにガラス材料の粒子を細かくすると、気泡が発生しやすい。
【0030】
この気泡が発生するメカニズムをここで簡単に説明する。まず、炉内温度が上昇しガラスが転移点を通過するとガラスが動き出す。ここからの温度上昇速度が速いとガラスの粒と粒の隙間にある空気が封じ込められ気泡となる。反対に遅いとガラス粒一つ一つが失透し透明度が失われる。
【0031】
よって、これを軽減させるにはガラス粒の大きさに合わせた昇温速度を設定し、ガラスを軟化させながらも空気を逃していけば良いということになる。
【0032】
次に彩色方法について、説明する。彩色する場合、エナメル絵付けやラスター彩の焼き付け温度は580℃で、それ以上昇温すると色が焼き飛んでしまう。しかし現代では高温で焼き付ける顔料もあり、吹きガラスの作業温度800℃~830℃で焼き付けられるエナメル材料も入手することができる。
【0033】
今回の方法を使用してガラスに直接彩色する場合、ガラス内部が複雑すぎるために、中子部分に筆もスプレーも届かなかったり、ガラスの厚みの差がありすぎるため再加熱で割れたりする、というエナメル絵付けを断念するに足る問題があった。
【0034】
そこで、型の段階で石膏の中子4に高温エナメルで彩色し、ガラス6をキャストすることとした。この方法なら筆が届くため彩色可能である。
【0035】
しかし高温エナメルでも、鋳造温度870℃では、ほとんどの色が焼き飛んでしまった。これ以下の鋳造温度では、圧力をかけない限り複雑な石膏型にはガラスが流れ込みづらい。また、パート・ド・ヴェールなどに使用するパウダーガラスは本体のガラスと軟化温度が同じであるため、このパウダーを石膏中子に絵付けしてもガラスの軟化とともに押し流される。また、陶芸用下絵の具、上絵の具、陶芸絵の具ではガラスに流されはしないものの、石膏に染み込み、焼き付かなかった。
【0036】
上記のような実験をする場合の多くは、小さなテストピースでは成功することが多い。これはガラスの膨張と収縮、重量に対する昇温スピードに必要な熱量の大小、ガラスの外殻と中心の温度差などが、小さなテストピースでは許容範囲内でも、大きくなると誤差が顕著になる為である。しかし、使用したあらゆる陶芸用上絵の具はガラスに定着しなかった。
【0037】
顔料の色、つなぎとして、CMC(カルボキシメチルセルロース)を塗布する、ふのりを入れる、などの方法を試してみたが、なかなかうまくいかず、焼成後、石膏を外さない状態では陶器と釉薬との関係と同様なので、しっかり焼き付いているように見えるが、石膏を外すと転写されていないのである。
【0038】
最終的に、膨張係数の違いに起因するこれを改善するには、キャスティングに使用する予定のガラス6を少量、顔料に混ぜる事で全ての問題点が解決できた。これにより、顔料や鉱物を完全にガラスに転写させる技法が確立した。
【0039】
なお、このガラス転写を実現させるための材料としては、例えば、呉須60%、ガラス素地40%を配合する。呉須は、例えば、福島長石40%、合成土灰60%の配合である。
【0040】
また、ガラス転写を実現させるための他の材料として、例えば、陶芸下絵具(乾燥)65%、ガラス素地(#100篩通)35%を配合しても良い。この配合したものを乳鉢でよく擦りまぜたものを用いる。
【0041】
以上のようにガラス鋳造と同時に絵柄を転写焼成することによって二次元と三次元の融和をガラス内に完成させることで、制作の幅を大きく拡張できる。今回の発明により、彩色まで施したガラス製品の例を図9に示す。複雑なモチーフをガラスに内包させるという目的を簡易的に実現できている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
複雑なモチーフを簡易的にガラスに内包させることができ、公共空間におけるガラス工芸品設置の場合の安全性を向上できる。
【符号の説明】
【0043】
1 粘土原型
2 ワックス
3 空洞
4 石膏中子
5 ワックスが取り除かれた空間
6 ガラス
7 空洞
8 石膏中子への彩色

【要約】
【課題】複雑な内部構造を持つガラス製品を、安価で精度良く簡単に成形できるようにする。
【解決手段】可塑性材料による原型にワックスを流し込み、硬化させた後に、原型を取り除くことでワックス凹型を成形し、そのワックス凹型に石膏を流し込み、硬化させた後に、ワックス凹型を取り除き、原型と同じ形状を有する石膏凸型を成形し、そこにガラス材を埋め込み、硬化させた後に、石膏凸型を取り除くことでガラス凹型を成形するガラス製品の製造方法である。
【選択図】図7


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9