(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】車両用難燃性防音材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20241111BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20241111BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241111BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20241111BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20241111BHJP
C08G 18/79 20060101ALI20241111BHJP
C08G 18/72 20060101ALI20241111BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20241111BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
B60R13/08
C08L75/04
C08K3/04
C08G18/00 K
C08G18/76 057
C08G18/79 070
C08G18/72 010
C08G18/48
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2023538241
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009741
(87)【国際公開番号】W WO2023007807
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021121824
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219668
【氏名又は名称】東海化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康雄
(72)【発明者】
【氏名】金田 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】田口 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】大脇 潤己
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510837(JP,A)
【文献】特表2014-527093(JP,A)
【文献】特表2016-525613(JP,A)
【文献】特開2003-97645(JP,A)
【文献】特開2008-138032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/00- 75/16
C08K 3/00- 13/08
C08G 18/00- 18/87
C08G 101/00
B60R 13/00- 13/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂組成物を発泡成形して得られるポリウレタンフォームを備える車両用難燃性防音材であって、
該ウレタン樹脂組成物は、(A)イソシアネート成分と、(B)ポリオール成分と、(C)膨張黒鉛と、を有し、
(A)イソシアネート成分は、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物と、該混合物の少なくとも一方のカルボジイミド変性体およびウレトンイミン変性体から選ばれる一種以上の変性体と、を有し、該変性体の含有割合は、該ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の5.0質量%以上8.8質量%以下であり、
(B)ポリオール成分は、ポリエーテルポリオールを主成分とし、
(C)膨張黒鉛の膨張開始温度は170℃以上200℃以下であり、250℃における膨張倍率は10倍以上であり、含有割合は該ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の8質量%以上20質量%以下であり、
該ポリウレタンフォームの破断伸びは70%以上であり、
常態、150℃で168時間の熱老化後のいずれにおいても、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有することを特徴とする車両用難燃性防音材。
【請求項2】
前記(C)膨張黒鉛は、ふるい分けによる粒子径が250μm以上の粒子からなる請求項1に記載の車両用難燃性防音材。
【請求項3】
前記(C)膨張黒鉛は、ふるい分けによる粒子径が355μm以上の粒子からなる請求項1に記載の車両用難燃性防音材。
【請求項4】
前記(C)膨張黒鉛は、ふるい分けによる粒子径が425μm以上の粒子からなる請求項1に記載の車両用難燃性防音材。
【請求項5】
前記(C)膨張黒鉛の含有割合は、前記ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の13.5質量%以上である請求項1に記載の車両用難燃性防音材。
【請求項6】
前記(A)イソシアネート成分は、さらにジフェニルメタンジイソシアネートとポリオールとが反応したプレポリマーを有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車両用難燃性防音材。
【請求項7】
前記(B)ポリオール成分における前記ポリエーテルポリオールは、官能基数が2以上8以下、質量平均分子量が1000以上10000以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の車両用難燃性防音材。
【請求項8】
150℃で336時間の熱老化後において、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有する請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の車両用難燃性防音材。
【請求項9】
前記ウレタン樹脂組成物は、前記(C)膨張黒鉛以外の難燃剤を含有しない請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の車両用難燃性防音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防音性および難燃性に優れる車両用難燃性防音材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両においては、車外や車室に漏れる騒音を低減するために、種々の対策が施される。例えば、車両のエンジンルームにおいては、騒音源であるエンジンからの放射音の低減を図るため、エンジンの周囲にエンジンカバー、サイドカバー、オイルパンカバーなどの防音カバーが配置される。また、エンジンとそれに近接して配置される部品などとの間にも緩衝材が配置されることが多い。これらの防音カバーや緩衝材には、軽量で振動吸収性が高いポリウレタンフォームなどの発泡体が使用されるが、エンジンルームという使用環境では、当該発泡体に防音性に加えて高い難燃性が要求される。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリエーテルポリオールおよび膨張性グラファイトを含むイソシアネート反応性成分と、イソシアネート含有化合物および非反応性リン化合物を含むイソシアネート成分と、の反応生成物を含むポリウレタンフォームであって、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有するポリウレタンフォームが記載されている。また、特許文献2には、膨張黒鉛と無機化合物の水和物とを有する車両用ポリウレタン発泡体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-510837号公報
【文献】特開2008-138032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているポリウレタンフォームは、難燃剤として膨張性グラファイト(膨張黒鉛)と非反応性リン化合物とを有する。難燃性を高めるために粉末状の膨張黒鉛の配合量を多くすると、ポリウレタンフォームが硬くなり、変形追従性が低下する。結果、防音性が低下する。難燃剤として非反応性リン化合物を併用することにより、膨張黒鉛の配合量を少なくすることも可能である。しかし、非反応性リン化合物は液体であるため(特許文献1の段落[0024])、配合するとポリウレタンフォームが軟らかくなりすぎるおそれがある。さらに本発明者が検討したところ、クローズドスキン層が形成されにくいことも確認された。このようなポリウレタンフォームは、形状保持性や意匠性が要求されるエンジンカバーなどの用途には適さない。
【0006】
特許文献2に記載されているポリウレタンフォームは、難燃剤として膨張黒鉛と、着色防止剤として無機化合物の水和物と、を有する。膨張黒鉛だけでなく無機化合物の水和物も粉体である(特許文献2の段落[0039])。粉体を使用すると、製造設備が摩耗しやすい上、詰まり解消などのメンテナンスも必要になることから生産性が低下するおそれがある。また、粉体の配合量が多くなると、前述したように、ポリウレタンフォームが硬くなり変形追従性が低下することに加えて、軽量化も難しくなる。このため、粉体を配合する場合には、できるだけ少量にすることが望ましい。特許文献2の実施例には、膨張黒鉛および無機化合物の水和物を有するポリウレタンフォームは、米国自動車安全基準(FMVSS302)に準拠した水平燃焼試験に合格するレベルの低燃焼性を有することが記載されているが、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有するかは不明である。特許文献2の段落[0036]には、難燃剤としてリン系難燃剤を配合してもよいことが記載されているが、液体を配合すると軟化して形状保持性や意匠性が低下するおそれがあることは前述したとおりである。
【0007】
このように、特許文献1、2には、膨張黒鉛を有するポリウレタンフォームが記載されているが、膨張黒鉛や原料のイソシアネート成分などについてはまだ検討の余地があり、車両用難燃性防音材として使用するためには、防音性を確保しつつ難燃性のさらなる向上が求められる。本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、防音性および難燃性に優れる車両用難燃性防音材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の車両用難燃性防音材は、ウレタン樹脂組成物を発泡成形して得られるポリウレタンフォームを備える車両用難燃性防音材であって、該ウレタン樹脂組成物は、(A)イソシアネート成分と、(B)ポリオール成分と、(C)膨張黒鉛と、を有し、(A)イソシアネート成分は、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物と、該混合物の少なくとも一方のカルボジイミド変性体およびウレトンイミン変性体から選ばれる一種以上の変性体と、を有し、該変性体の含有割合は、該ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の5.0質量%以上8.8質量%以下であり、(B)ポリオール成分は、ポリエーテルポリオールを主成分とし、(C)膨張黒鉛の膨張開始温度は170℃以上200℃以下であり、250℃における膨張倍率は10倍以上であり、含有割合は該ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の8質量%以上20質量%以下であり、該ポリウレタンフォームの破断伸びは70%以上であり、常態、150℃で168時間の熱老化後のいずれにおいても、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の車両用難燃性防音材においては、原料として使用するイソシアネート成分を特定の成分にし、膨張黒鉛の特性を限定して含有量を比較的少量の範囲に最適化することにより、ポリウレタンフォームにおける防音性と難燃性との両立を実現している。ポリウレタンフォームの難燃性については、UL94規格の垂直燃焼試験を実施して判定される。UL94規格の垂直燃焼試験において、次の五つの基準を全て満足する場合は、V-0レベルと判定される。(1)二回の接炎のいずれにおいても試料が10秒より長く燃焼しない。(2)五つの試料に対する各々二回の接炎による合計の燃焼時間が50秒を超えない。(3)固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない。(4)試料の下方に置かれた綿を発火させる、燃焼する粒子を滴下させる試料がない。(5)二回目の接炎の後、試料が30秒より長く赤熱を続けない。本開示の車両用難燃性防音材を構成するポリウレタンフォーム(以下適宜、「本開示のポリウレタンフォーム」と称す)は、常態、すなわち製造された状態と同じ状態においてのみならず、150℃下で168時間保持した熱老化後の状態においても、UL94規格のV-0レベルの優れた難燃性を有する。
【0010】
(A)のイソシアネート成分としては、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物と、該混合物の少なくとも一方のカルボジイミド変性体およびウレトンイミン変性体から選ばれる一種以上の変性体と、を用いる。以下適宜、ジフェニルメタンジイソシアネートを「MDI」と称し、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを「2,4’-MDI」、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを「4,4’-MDI」と称す。混合物および変性体の両方を用いることにより、ポリウレタンフォームの難燃性を高めることができる。すなわち、変性体は熱分解しにくいため、加熱時に分子が切断されにくく、可燃性ガスの発生が抑制される。これにより、常態だけでなく熱老化後においても難燃性が向上する。変性体による難燃性向上効果を発揮させるため、変性体の含有割合は、ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の5.0質量%以上にする。反対に、変性体の含有割合が多すぎると、ポリウレタンフォームを形成することが難しくなる。このため、変性体の含有割合は、ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の8.8質量%以下にする。
【0011】
変性体は、二つのMDIのNCO基同士が縮合するカルボジイミド化反応により、さらには、生じたカルボジイミド化物(カルボジイミド変性体)にさらに一分子のMDIが付加するウレトンイミン化反応により製造される。MDIのカルボジイミド化反応の二次反応として、化学平衡反応的にウレトンイミン化物(ウレトンイミン変性体)も生成する。一般的には、カルボジイミド化反応の進行により、反応生成物中のほとんどがウレトンイミン変性体であると考えられる。本明細書においては、変性体に、2,4’-MDIおよび4,4’-MDIのいずれか、または両方のカルボジイミド化反応により得られた生成物が全て含まれるように、「カルボジイミド変性体およびウレトンイミン変性体から選ばれる一種以上の変性体」と称している。これは、「カルボジイミド変性体および/またはウレトンイミン変性体」と表現することもできる。カルボジイミド変性体やウレトンイミン変性体は、公知の手法、例えば、単一成分のMDIや異性体を含む複数成分のMDIを、有機リン酸エステルなどの触媒を用いて反応させることにより得ることができる。
【0012】
(C)の膨張黒鉛は、鱗片状の黒鉛の層間に加熱によりガスを発生する物質が挿入されたものである。膨張黒鉛は、加熱されると層間物質から発生するガスにより層間が広がり膨張する。そして、熱や化学品に対して安定した固相が形成され、それが断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。膨張黒鉛としては、膨張開始温度が170℃以上200℃以下、250℃における膨張倍率が10倍以上のものを用いる。膨張開始温度が170℃以上200℃以下であるため、150℃で熱老化させても膨張を開始しない。前述したように、加熱時に分子が切断されにくいため、本開示のポリウレタンフォームの熱分解温度は高く、例えば250℃を超える程度になる。このため、250℃における膨張倍率が10倍以上であると、より難燃効果を発揮しやすい。難燃効果を充分に発揮させるため、膨張黒鉛の含有割合は、ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の8質量%以上にする。また、ポリウレタンフォームの硬さ、伸び、軽量化などを考慮すると、膨張黒鉛の含有量はできるだけ少量にすることが望ましい。よって、膨張黒鉛の含有割合は、ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の20質量%以下にする。これにより、破断伸びが70%以上であるポリウレタンフォームを実現することができる。結果、本開示のポリウレタンフォームは、振動による変形追従性が良好で、防音性に優れる。
【0013】
以上説明したように、本開示の車両用難燃性防音材によると、ポリウレタンフォームの難燃性を高めても防音性の低下を回避することができる。また、ポリウレタンフォームの成形性も良好であり、形状保持性や意匠性が要求される用途にも適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の車両用難燃性防音材の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0015】
本開示の車両用難燃性防音材において、ポリウレタンフォーム以外の構成は特に限定されない。本開示の車両用難燃性防音材は、ポリウレタンフォームのみから構成されてもよいし、ポリウレタンフォームと他の部材とを組み合わせて構成されてもよい。例えば、本開示の車両用難燃性防音材をエンジンカバーに具現化する場合、エンジンカバーは、ポリウレタンフォームの単層構造でもよく、ポリウレタンフォームからなる防音層と、その表面を被覆する表皮層と、を有する多層構造でもよい。また、用途としての「車両」には、自動車の他、飛行機、電車なども含まれる。
【0016】
<ポリウレタンフォームの成分>
本開示のポリウレタンフォームは、(A)イソシアネート成分と、(B)ポリオール成分と、(C)膨張黒鉛と、を有するウレタン樹脂組成物の発泡成形体である。
【0017】
(A)イソシアネート成分
イソシアネート成分は、2,4’-MDIおよび4,4’-MDIの混合物と、該混合物の少なくとも一方のカルボジイミド変性体およびウレトンイミン変性体から選ばれる一種以上の変性体と、を有する。混合物における2,4’-MDIと4,4’-MDIとの含有比は、破断伸び、成形性などを考慮して適宜決定すればよい。変成体は、前述したように、2,4’-MDIまたは4,4’-MDIのカルボジイミド化反応により得られた生成物、2,4’-MDIおよび4,4’-MDIのカルボジイミド化反応により得られた生成物を含む。ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合、変性体の含有割合は、ポリウレタンフォームの熱分解温度を高くして、加熱時に可燃性ガスの発生を抑制することにより難燃性を高めるという観点から、5.0質量%以上、さらには5.3質量%以上であることが望ましい。他方、ポリウレタンフォームを形成しやすくするという観点から、8.8質量%以下、さらには8.5質量%以下であることが望ましい。
【0018】
イソシアネート成分は、混合物および変性体に加えて、MDIとポリオールとが反応したプレポリマーを有してもよい。プレポリマーを有する場合には、有しない場合と比較して、ウレタン樹脂組成物の粘度が高くなり、成形性が向上する。プレポリマーの含有割合は、ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上5質量%以下であることが望ましい。例えば、MDIを、官能基数3のポリオールと反応させると、三つのウレタン結合を有するプレポリマーが得られる。なかでも、MDIと2官能のポリエーテルポリオールとを反応させて得られる、イソシアネート末端のプレポリマーが好適である。ここで、2官能のポリエーテルポリオールとしては、分子量が1000程度のポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0019】
イソシアネート成分として、混合物、変性体、プレポリマーを説明したが、これらの成分による作用効果を阻害せず、本開示のポリウレタンフォームを実現することができれば、これらの成分以外のイソシアネート化合物の含有が排除されるものではない。当該イソシアネート化合物としては、例えば、一分子中にイソシアネート基とベンゼン環とを三個ずつ以上有するポリメリックMDI(多核体)が挙げられる。しかし、ポリメリックMDIを含有すると、破断伸びが小さくなり、難燃性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0020】
(B)ポリオール成分
ポリオール成分としては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリアミン、ポリエステルポリアミン、アルキレンポリオール、ウレア分散ポリオール、メラミン変性ポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、フェノール変性ポリオールなどが知られている。本開示のポリウレタンフォームを製造する場合には、ポリエーテルポリオールを主成分として用いる。「主成分」とは、ポリオール成分の全体を100質量%とした場合に60質量%以上を占める成分であることを意味する。したがって、ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオールのみを用いるか、またはポリエーテルポリオールを主成分として他のポリオールを適宜組み合わせて用いればよい。例えば、成形性を向上させるという観点から、ポリエステルポリオールを併用することが望ましい。
【0021】
ポリエーテルポリオールの官能基数は、2以上8以下であることが望ましい。官能基数が2未満の場合には、イソシアネート成分との連鎖反応が途切れやすく、高分子化しにくくなるため、成形性が低下する。官能基数が8を超えると、ポリウレタンフォームの伸びが小さくなるため、防音性の低下を招く。また、ポリエーテルポリオールの質量平均分子量は、1000以上10000以下であることが望ましい。質量平均分子量が1000未満の場合には、ポリウレタンフォームが硬くなり、防音性の低下を招く。質量平均分子量が10000を超えると、ウレタン樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、イソシアネート成分との反応、発泡作業が難しくなる。
【0022】
(C)膨張黒鉛
膨張黒鉛は、黒鉛の層間に加熱によりガスを発生する物質が挿入されたものであり、加熱されると層間物質に応じた所定の温度で膨張する。本開示のポリウレタンフォームを製造する場合には、膨張開始温度が170℃以上200℃以下であり、250℃における膨張倍率が10倍以上の膨張黒鉛を用いる。層間物質は、硫酸、硝酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどが挙げられるが、膨張開始温度、膨張倍率などを考慮すると硫酸が望ましい。また、ポリウレタンフォームの硬さ、伸びなどへの影響を少なくするという観点から、膨張黒鉛のふるい分けによる粒子径は、45μm以上1000μm以下であることが望ましい。本明細書において、膨張黒鉛のふるい分けは、JIS Z8801-1:2019に準拠した金属製網ふるいを用いて行うものとする。
【0023】
本発明者が検討したところ、膨張黒鉛においては、粒子径が大きくなると、高温下での膨張倍率が大きくなることが確認された。したがって、膨張黒鉛の粒子径が大きいほど、より大きな断熱層が形成され、難燃効果が向上すると考えられる。膨張黒鉛による難燃効果を高めるという観点から、膨張黒鉛をふるい分けして、粒子径が250μm以上の粒子を用いることが望ましい。より好適には、粒子径が355μm以上の粒子、さらには粒子径が425μm以上の粒子を用いることが望ましい。
【0024】
ウレタン樹脂組成物の全体を100質量%とした場合、膨張黒鉛の含有割合は、難燃効果を充分に発揮させるという観点から、8質量%以上、13.5質量%以上、さらには15.0質量%以上であることが望ましい。他方、ポリウレタンフォームの硬さ、伸び、軽量化などを考慮して、含有量をできるだけ少量にするという観点から、20質量%以下、さらには18.0質量%以下であることが望ましい。前述したように、膨張黒鉛の粒子径が大きくなると、高温下での膨張倍率が大きくなるため、より少量の膨張黒鉛で高い難燃効果を発揮させることができる。例えば、膨張黒鉛の粒子径が250μm以上の場合には、膨張黒鉛の含有割合を10質量%以下にすることができる。
【0025】
(D)その他の成分
ウレタン樹脂組成物は、上記(A)~(C)に加えて、ポリウレタンフォームを製造する際に使用される公知の材料、例えば触媒、発泡剤、整泡剤、架橋剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤などを適宜有してもよい。このうち、触媒としては、テトラメチルエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサン-1、6-ジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチル-ジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレン-テトラアミン、N,N’,N’-トリメチルアミノエチルピペラジンなどのアミン系触媒、蟻酸、クエン酸、ブチル酸、2エチルヘキサン酸などの酸、ラウリン酸錫、オクタン酸錫などの有機金属系触媒が挙げられる。発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、CO2ガスなどが挙げられる。整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはジエチレングリコール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが好適である。
【0026】
なお、本開示のポリウレタンフォームは、主にイソシアネート成分および膨張黒鉛を限定することにより所望の難燃性を実現している。このため、膨張黒鉛とは別に、従来より用いられているリン系、ハロゲン系、金属水酸化物系などの難燃剤を用いる必要はない。膨張黒鉛以外の難燃剤を有しないため、ポリウレタンフォームは形状保持性や意匠性に優れる。よって、ポリウレタンフォーム単独で、車両用難燃性防音材として外部に表出するカバー部材などを構成することができる。
【0027】
<ポリウレタンフォームの特性>
(1)破断伸び
本開示のポリウレタンフォームの破断伸びは、70%以上である。破断伸びは、ASTM D 3574-11に規定される切断時伸び(Eb)と同義であり、同規格の測定方法に準じて測定すればよい。試験片には、ダンベル状ASTM D 3574(平行部分の厚さは12.7mm)を使用して、試験速度は500mm/minとする。
【0028】
(2)難燃性
本開示のポリウレタンフォームの難燃性は、常態、150℃で168時間の熱老化後のいずれにおいても、UL94規格のV-0レベルである。さらに、150℃で336時間の熱老化後においても、UL94規格のV-0レベルの難燃性を維持することが望ましい。熱老化は、試料を150℃のオーブンに入れ、所定時間保持すればよい。難燃性は、前述したように、UL94規格の垂直燃焼試験を実施して判定される。
【0029】
<ポリウレタンフォームの製造方法>
本開示のポリウレタンフォームは、ウレタン樹脂組成物を発泡成形して製造される。まず、ポリオール成分に、膨張黒鉛、および触媒、発泡剤、整泡剤などのその他の成分を予め混合して、プレミックスポリオールを調製する。次に、調製したプレミックスポリオールに、イソシアネート成分を混合し、発泡成形する。例えば、プレミックスポリオールとイソシアネート成分とを、プロペラなどを用いて機械的に攪拌した後、成形型に注入して発泡成形すればよい。あるいは、高圧ジェット噴射発泡装置などを使用して、プレミックスポリオールとイソシアネート成分とを各々高圧で噴射し、両成分を衝突させて混合して、発泡成形してもよい(衝突攪拌法)。衝突攪拌法によると、連続生産が可能になる。このため、大量生産に好適である。また、衝突攪拌法によると、機械的に攪拌する方法と比較して、混合するごとに必要であった容器の洗浄工程が不要となり、歩留まりも向上する。よって、製造コストを低減することができる。
【0030】
プレミックスポリオールとイソシアネート成分とは、イソシアネートインデックス(イソシアネート基/活性水素基の当量比)が1.0以上1.5以下、好適には1.0以上1.2以下となるように配合することが望ましい。イソシアネートインデックスが1.0未満の場合には、難燃性が低下する。また1.5を超えると、成形性が低下する。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
<ポリウレタンフォームの製造>
まず、(B)のポリオール成分としてのポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン(株)製「SBUポリオール0265」、平均分子量6000、官能基数3)100質量部に対して、(C)の膨張黒鉛を適宜配合し、さらに発泡剤の水3.2質量部、アミン系触媒0.9質量部、シリコーン系整泡剤0.3質量部、架橋剤のグリセリン1.5質量部を加えて混合し、プレミックスポリオールを調製した。膨張黒鉛としては次の四種類を使用した。
[実施例1~4、7、8、比較例1、3]
NYACOL NANO TECHNOLOGIES, Inc.製「NYACOL Nyagraph 251」
250℃における膨張倍率:10倍
膨張開始温度:170℃
[実施例5、9~13]
富士黒鉛工業(株)製「EXP-42S160」
250℃における膨張倍率:13倍(ふるい分けしない場合)
膨張開始温度:200℃
[実施例6]
NYACOL NANO TECHNOLOGIES, Inc.製「NYACOL Nyagraph FP」
250℃における膨張倍率:11倍
膨張開始温度:180℃
[比較例2]
Shijiazhuang ADT Trading Co., Ltd.製「SYZR 502FP」
250℃における膨張倍率:8.5倍
膨張開始温度:175℃
【0032】
このうち、実施例9~13については、膨張黒鉛(富士黒鉛工業(株)製「EXP-42S160」)をふるい分けして、所定の粒子径以上の粒子のみを使用した。ふるい分けには、アズワン(株)製のステンレス製ふるいを用いた。使用したふるいの目開きは、以下のとおりである。
実施例9:目開き250μm(品番:5-3293-37)
実施例10:目開き300μm(品番:5-3293-36)
実施例11:目開き355μm(品番:5-3293-35)
実施例12、13:目開き425μm(品番:5-3293-34)
膨張黒鉛をふるいに100~150g投入し、それをふるい機(レッチェ社製「ふるい振とう機 AS200 basic」)に取り付けて5分間振動させた。そして、ふるいに残った粒子を使用した。ふるい分け後の膨張黒鉛について、250℃における膨張倍率を測定したところ、いずれも14.5倍であった。
【0033】
次に、(A)のイソシアネート成分として、2,4’-MDIおよび4,4’-MDIの混合物、4,4’-MDIをカルボジイミド化して得られた変性体(カルボジイミド変性体および/またはウレトンイミン変性体)、およびMDIと2官能のポリエーテルポリオールとを反応させて得られたプレポリマーなどを適宜組み合わせたイソシアネート原料を準備した。
【0034】
そして、調製したプレミックスポリオールとイソシアネート原料とを、イソシアネートインデックスが1.0~1.1になるように混合し、ウレタン樹脂組成物を調製した。ウレタン樹脂組成物におけるイソシアネート成分および膨張黒鉛の含有割合、イソシアネート成分(イソシアネート原料)の組成は、後出の表1、表2に示すとおりである。それから、ウレタン樹脂組成物を成形型のキャビティに注入、密閉し、成形型の温度50℃で5分間発泡成形して、ポリウレタンフォームを得た。表1、表2に示す実施例1~13は、本開示のポリウレタンフォームの概念に含まれる。
【0035】
<ポリウレタンフォームの評価>
製造したポリウレタンフォームについて、密度を測定し、破断伸び、難燃性および防音性を評価した。
【0036】
[評価方法]
(1)破断伸び
ASTM D 3574-11に規定される測定方法に準じて切断時伸び(Eb)を測定し、当該測定値をポリウレタンフォームの破断伸びとした。試験片には、ダンベル状ASTM D 3574(平行部分の厚さは12.7mm)を使用して、試験速度は500mm/minとした。
【0037】
(2)難燃性
製造後のポリウレタンフォームから長さ127mm、幅12.7mm、厚さ7mmの短冊状の試験片(常態の試験片)を作製した。まず、当該常態の試験片について、UL94規格に規定される垂直燃焼試験を実施した。次に、常態の試験片を150℃のオーブンに入れ、168時間保持することにより熱老化させた後(第一の熱老化)、同試験を実施した。これとは別に、常態の試験片を150℃のオーブンに入れ、336時間保持することにより熱老化させた後(第二の熱老化)、同試験を実施した。常態、第一の熱老化後、および第二の熱老化後の各試験片に対する垂直燃焼試験の結果に基づいて、各々の難燃性のレベルを判定した。なお、後出の表1の評価欄には、UL94規格のV-0、V-1、V-2のうち、いずれにも該当しなかった場合を「NG」と示している。
【0038】
(3)防音性
ポリウレタンフォームの断面をマイクロスコープを用いて観察し、連続気泡が形成されていれば所望の防音性を有すると評価した。後出の表1、表2の評価欄には、連続気泡が形成されている場合を防音性「あり」と示している。
【0039】
[評価結果]
表1および表2に、ウレタン樹脂組成物の成分および評価結果をまとめて示す。表1、表2の総合判定欄においては、(i)破断伸び70%以上、(ii)常態、第一の熱老化後、および第二の熱老化後の難燃性が全てV-0レベル、(iii)防音性あり、の三つの特性を全て備える場合を「合格」、一つでも不足する場合を「不合格」と示している。
【表1】
【表2】
【0040】
表1、表2に示すように、実施例1~13のポリウレタンフォームは、破断伸びが70%以上であり、所望の防音性を有していた。また、常態、および第一、第二の熱老化後のいずれにおいても、UL94規格のV-0レベルの難燃性を有していた。すなわち、実施例1~13のポリウレタンフォームの総合判定は「合格」となった。なかでも、ふるい分けをして所定の粒子径以上の膨張黒鉛を用いた実施例9~13のポリウレタンフォームは、膨張黒鉛の含有量が少なくても、所望の難燃性を有していた。
これに対して、比較例1のポリウレタンフォームは、(A)のイソシアネート成分中、変性体の含有割合が少ない。このため、常態における難燃性はV-1レベルであり、V-0レベルにならなかった。比較例2のポリウレタンフォームは、250℃における膨張倍率が小さい膨張黒鉛を使用した。このため、難燃性は低く、V-0、V-1、V-2のいずれにも該当しなかった。比較例3のポリウレタンフォームは、(A)のイソシアネート成分において、混合物を含まず、変性体の含有割合が多く、さらにポリメリックMDIを含む。このため、常態における難燃性はV-0レベルになったものの、第一の熱老化後の難燃性は低く、V-0、V-1、V-2のいずれにも該当しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示の車両用難燃性防音材は、エンジンルームにおいて、エンジンの周囲に配置されるエンジンカバー、サイドカバー、オイルパンカバーなどの防音カバーとして、また、エンジンとそれに近接して配置される部品などとの間に配置される緩衝材として有用である。