(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ピルボックス窓及びピルボックス窓の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/08 20060101AFI20241111BHJP
H01J 23/40 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
H01P1/08
H01J23/40 A
(21)【出願番号】P 2023563445
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043396
(87)【国際公開番号】W WO2023095284
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗本 尚也
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-101001(JP,A)
【文献】実開昭51-5336(JP,U)
【文献】特開平2-144828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/08
H01J 23/40
H01P 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の円形導波管と、前記円形導波管の一端に設けて高周波源から高周波を導入する四角筒形状の導入側矩形導波管と、前記円形導波管の他端に設けて高周波を導出する四角筒形状の導出側矩形導波管とを備え、
前記円形導波管は、誘電体気密窓を有し、前記誘電体気密窓で内部空間を導入側と導出側とに区画しており且つ導入側と導出側の少なくとも一方側の端面の外周に一方の溶接用つばを有し、
前記導入側矩形導波管及び前記導出側矩形導波管は、それぞれ前記円形導波管の端面に接続する円形の接続板に接続されており、且つ少なくとも一方の接続板は外周に、前記一方の溶接用つばに溶接される他方の溶接用つばを有し、
前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばとは共に、周方向の回転を規制する回転規制治具が篏合するための溝又は孔が形成されており、前記溝又は孔を含む周方向全体が溶接固定されているピルボックス窓。
【請求項2】
請求項1に記載のピルボックス窓の製造方法であって、前記回転規制治具は前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばの前記孔又は前記溝に嵌合する嵌合凸部を有し、前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばとを溶接固定する前に、前記嵌合凸部を前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばとに篏合して相対的に周方向の回転を規制する回転規制工程と、
前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばを、トルク付与治具により所定のトルクで締め付けるトルク付与工程と、
前記回転規制工程及びトルク付与工程の後に、前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばの前記孔又は前記溝を除く部分を溶接する第1溶接工程と、
前記第1溶接工程の後に、前記回転規制治具及びトルク付与治具を除去する治具除去工程と、
前記治具除去工程の後に前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばの前記孔又は溝の部分を溶接する第2溶接工程と、を備えるピルボックス窓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ピルボックス窓及びピルボックス窓の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空に保たれた加速空洞に、大電力高周波を導入する入力結合器や、クライストロンに代表される電力管から高周波電力を取り出す出力回路において、真空と大気、ガスまたは真空との間を分ける要素部品として、ピルボックス窓が公知である。
ピルボックス窓は、高周波源(RF源)からの導入側の矩形導波管と、円形導波管と、導出側矩形導波管とを備えており、円形導波管には内部空間に誘電体気密窓(セラミックス窓)が設けられており、この誘電体気密窓で導入側と導出側を区画している。
係るピルボックス窓において、各導波管の封止構造として、フランジ及びガスケットを用いた封止構造が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ピルボックス窓における導波管の他の封止構造として、Tig溶接による封止構造がある。
かかる溶接は、接合する導波管にそれぞれ溶接用つばを設け、溶接用つばどうしをTig溶接により固定するが、溶接用つばどうしを水準器等の測定器具で水平になるように測定したり、溶接用つばどうしが周方向に回転してずれないように高周波透過率(VSWR)を測定して管理しつつ溶接をおこなっていた。
しかし、各測定器具による測定作業では、測定に手間がかかると共に測定にばらつきが生じ、ピルボックスを設置した電子管・加速管の電気特性に悪影響を与える問題があった。
【0005】
本実施形態は、以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、電気特性の悪影響を防止でき且つ簡易に組み立てできるピルボックス窓の提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態は、円筒形状の円形導波管と、前記円形導波管の一端に設けて高周波源から高周波を導入する四角筒形状の導入側矩形導波管と、前記円形導波管の他端に設けて高周波を導出する四角筒形状の導出側矩形導波管とを備え、前記円形導波管は、誘電体気密窓を有し、前記誘電体気密窓で内部空間を導入側と導出側とに区画しており且つ導入側と導出側の少なくとも一方側の端面の外周に一方の溶接用つばを有し、前記導入側矩形導波管及び前記導出側矩形導波管は、それぞれ前記円形導波管の端面に接続する円形の接続板に接続されており、且つ少なくとも一方の接続板は外周に、前記一方の溶接用つばに溶接される他方の溶接用つばを有し、前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばとは共に、周方向の回転を規制する回転規制治具が篏合するための溝又は孔が形成されており、前記溝又は孔を含む周方向全体が溶接固定されているピルボックス窓である。
【0007】
他の実施形態は、請求項1に記載のピルボックス窓の製造方法であって、前記回転規制治具は前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばの前記孔又は前記溝に嵌合する嵌合凸部を有し、前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばとを溶接固定する前に、前記嵌合凸部を前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばとに篏合して相対的に周方向の回転を規制する回転規制工程と、前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばを、トルク付与治具により所定のトルクで締め付けるトルク付与工程と、前記回転規制工程及びトルク付与工程の後に、前記一方の溶接用つばと他方の溶接用つばの前記孔又は前記溝を除く部分を溶接する第1溶接工程と、前記第1溶接工程の後に、前記回転規制治具及びトルク付与治具を除去する治具除去工程と、前記治具除去工程の後に前記一方の溶接用つばと前記他方の溶接用つばの前記孔又は溝の部分を溶接する第2溶接工程と、を備えるピルボックス窓の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るピルボックス窓の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す円形導波管ユニットを示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す矩形導波管ユニットの断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す一方及び他方の溶接用つばの図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る回転規制治具の図であり、(a)は正面図、(b)は(a)に示すA-A断面図である。
【
図6】
図6は、導入側接続板に一方の溶接用つばを篏合した図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【
図7】
図7は、円形導波管に他方の溶接用つば及び導出側接続板を篏合した図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る回転規制治具及びトルク付与治具を設置したピルボックス窓組立体の断面図である。
【
図9】
図9は、ピルボックス窓の適用例であり(a)ピルボックス窓が空洞の正面に設置されるアセンブリ例を示す断面図であり、(b)はピルボックス窓が空洞の垂直方向に設置されるアセンブリ例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る一方及び他方の溶接用つばの図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【
図11】
図11は、導入側接続板の図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る回転規制治具の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係る回転規制治具及びトルク付与治具を設置したピルボックス窓組立体の断面図である。
【
図14】
図14は、ピルボックス窓における導入側に対する導出側の回転角度を示す図である。
【
図15】
図15は、設計周波数に対する周波数とVSWRとの関係を回転角度毎に示すグラフである。
【
図16】
図16は、回転角度とVSWRとの関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、同一形状の空洞における、VSWRと空洞パラメータ特性(f、R、Q)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
まず、
図1~
図9、
図11を参照して、第1実施の形態について説明する。
図1に示すように、第1実施の形態に係るピルボックス窓1は、円筒形状の円形導波管3と、高周波源からの高周波を導入する四角筒形状の導入側矩形導波管5と、高周波を導出する四角筒形状の導出側矩形導波管7とを備えている。
円形導波管3は、円筒形状であり、円筒の内部に円形の誘電体気密窓(セラミックス窓)9が接続されている。誘電体気密窓9は、所定の高周波を透過するものであり、円形導波管3の内部空間を導入側と導出側とに区画している。
円形導波管3には、円形導波管及び、円形導波管に冷却構造等の付加的構造構を備えるものを含む。
円形導波管3の導入側端には円形の導入側接続板11が接続されており、導出側端には円形の導出側接続板13が接続されている。
導入側接続板11には中央に導入側矩形導波管5が接続されており、導出側接続板13には中央に導出側矩形導波管7が接続されている。
【0011】
導入側接続板11の外周にはリング状の一方の溶接用つば15が接続されており、円形導波管3の導入側端の各外周にはリング状の他方の溶接用つば17が接続されている。
図1及び
図4に示すように、一方の溶接用つば15及び他方の溶接用つば17は、それぞれ溶接される部分が同様の構造を持つ形状としてあり、同種のものが用いられている。各溶接用つば15、17はステンレス等の金属にNi(ニッケル)等がメッキされている。
一方及び他方の溶接用つば15、17は同じ構成であるから、以下の説明では一方の溶接用つば15にいて説明する。
また、一方の溶接用つば15は、内周側部19と外周側部21とを有し、内周側部19の厚みW1(
図1参照)を外周側部21の厚みW2(
図1参照)よりも大きくしている。一方の溶接用つば15の内周側部19を導入側接続板11の外周面に接続しており、他方の溶接用つば17の内周側部19を円形導波管3の外周面に接続している。
図4に示すように、外周側部21には、その周方向に間隔をあけて、複数の孔22が形成されている。この実施形態では、等間隔に3つの孔22が形成されている。
内周側部19には、内周側に突設する篏合用凸部19aが形成されている。篏合用凸部19aは、
図6に示すように、導入側接続板11に形成された篏合用凹部11b(
図11参照)に篏合して位置決めするものであるが、篏合用凸部19aと篏合用凹部11bとを設けないで、後述するケガキ線Kのみで、回転方向の位置調整をしても良い。
【0012】
図1に示すように、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17とは、対向して配置してあり、対向面23は平坦面であり、内周側部19から外周側部21に亘る寸法Hを有する。
尚、上述した各部材の接続は、金属ろう材を用いた接続がされている。
【0013】
一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17とは互いに対向面23を突き合わせてあり、外周縁を溶接部25により溶接固定している。溶接は、例えばアーク溶接である。
溶接部25は、各孔22に対しても孔22を埋めて溶接してある。
【0014】
次に、本実施形態に係るピルボックス窓1の製造方法について説明する。
図2及び
図3に示すように、本実施形態のピルボックス窓1は、円形導波管ユニット31(
図2参照)と、矩形導波管ユニット33(
図3参照)との2つのユニット31、33をそれぞれ組み立てて、これらのユニット31と33を溶接部25(
図1参照)により溶接固定して製造している。
【0015】
図2に示すように、円筒形状の円形導波管3の内周面に誘電体気密窓9を取り付け、円形導波管3の導入側端の外周面に他方の溶接用つば17を嵌め、導出側矩形導波管7を嵌めた導出側接続板13を、円形導波管3の導出側端に取り付けて円形導波管ユニット31を組み立てる。
円形導波管3に対する他方の溶接用つば17及び導出側接続板13の嵌め合い位置は、
図7に示すように、導出側矩形導波管7(
図1参照)の嵌め込み部7aを基準とした少なくとも2本のケガキ線K(図中破線で示す)を基準にしてアセンブリを実施し、又は各部品に少なくとも2点の凹部(又は凸部)13b(図中では3つある)を孔22の位置に対応させる様に配置し、円形導波管3のケガキ線Kと他方の溶接用つば17のケガキ線Kと導出側接続板のケガキ線Kとを一致させて、円形導波管3に組み付けることにより、各部品の加工寸法で回転方向の位置出しを行う。
このように組み立てた円形導波管ユニット31(
図2参照)について、取り付けた各部材を金属ロウ付けにより接続する。
【0016】
図3及び
図6に示すように、矩形導波管ユニット33は、導入側矩形導波管5(
図6では図示を省略している)を嵌めた導入側接続板11の外周に一方の溶接用つば15を嵌めて組み立てる。導入側接続板11に対する一方の溶接用つば15の嵌め合い位置は、導入側矩形導波管5の嵌め込み部5aを基準とした少なくとも2本のケガキ線K(図中破線で示す)を基準にしてアセンブリを実施し、又は導入側接続板11の篏合用凹部11bと一方の溶接用つば15の篏合用凸部19aを篏合することにより部品加工寸法で回転方向の位置出しを行う。
このように組み立てた矩形導波管ユニット33について、取り付けた各部材を金属ロウ付けにより接続する。
【0017】
次に、
図8に示すように、円形導波管ユニット31と矩形導波管ユニット33とを位置合わせして、所定のトルクで接合して、溶接により固定するが、まず、位置合わせを行うため回転規制治具35とトルク付与治具37とについて説明する。
図5に示すように、回転規制治具35は、リング状の治具本体35aと、嵌合突部35bを備えている。治具本体35aは、一方の溶接用つば15の外周側部21に重合する形状に形成されている(
図8参照)。嵌合突部35bは、一方及び他方の溶接用つば15、17に形成されている孔22(
図4参照)に嵌合するピンであり、治具本体35aの一面から突設されている。
この実施形態では、嵌合突部35bは、治具本体35aの周方向において、等間隔で3カ所に設けている。
【0018】
図8に示すように、トルク付与治具37は、一対の挟持体39a、39bと、トルク規制部材41と、締付具43とから構成されている。トルク付与治具37は、回転規制治具35の嵌合突部35bの位置に対応して3か所に設けてある。
一対の挟持体39a、39bにおいて、一方の挟持体39aは導入側接続板11の導入側面11aに、他方の挟持体29bは導出側接続板13の導出側面13aに当接して配置される。
トルク規制部材41は導入側端部41aと導出側端部41bの径を中間部41cの径よりも小さくしてある。導入側端部41aと導出側端部41bとは、それぞれ対応する導入側接続板11の挿入孔と導出側接続板13の挿入孔に移動自在に挿入されるようにしてある。これにより、導入側接続板11と導出側接続板13との間隔が所定以上に狭くなった場合には、中間部41cに当接して、付与するトルクが過大にならないように規制している。
締付具43は、全体にネジが形成されたネジ軸43aと、ネジ軸43aの両端部にそれぞれ螺合するナット43bとを備えており、ネジ軸43aの両端部は、それぞれ導入側接続板11と導出側接続板13とに挿通している。
そして、トルク付与治具37では、ナット43bの締め付けにより所定のトルクを付与する。
【0019】
次に、円形導波管ユニット31(
図2参照)と矩形導波管ユニット33(
図3参照)との位置合わせについて説明する。
図8に示すように、円形導波管ユニット31に固定した他方の溶接用つば17(
図2参照)と矩形導波管ユニット33に固定した一方の溶接用つば15(
図3参照)を突き合わせて、各溶接用つば15、17の孔22(
図4参照)を一致させて、回転規制治具35の嵌合突部35bを両溶接用つば15、17の孔22に嵌合する。これにより、円形導波管ユニット31の一方の溶接用つば15と矩形導波管ユニット33の他方の溶接用つば17との回転が規制される(回転規制工程)。
その後、導入側接続板11の導入側面11aに一方の挟持体39aを当て、導出側接続板13の導出側面13aに他方の挟持体39bを当てるが、一方の挟持体39aと他方の挟持体39b間にはトルク規制部材41とネジ軸43aを挿入しておく。
次に、ネジ軸43aをナット54bで締め付けて、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17とを所定のトルクで突き合わせる(トルク付与工程)。
【0020】
その後、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17の孔22を除く外周側部21を溶接により、固定する(第1溶接工程)。
次に、ナット43bを緩めてトルク付与治具37を外し、回転規制治具35を外す(治具除去工程)。
その後、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17の孔22(
図4参照)及びその周囲を溶接する(第2溶接工程)。尚、孔22には同径の溶接棒を差し込んで溶接する。
【0021】
第1実施形態の作用効果について説明する。
第1実施形態によれば、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17とは、孔22に嵌合する回転規制治具35(
図5参照)により、周方向の回転が規制された状態で溶接するので、溶接時に回転方向の位相がずれるのを防止できる。
また、回転規制治具35を除いた後に、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17との孔22の部分を溶接するので、一方の溶接用つば15と他方の溶接用つば17の全周に亘って真空封じを確実に行うことができる。
回転規制治具35により回転のずれを防止し及びトルク付与治具37により所定のトルクでピルボックス窓1を製造できるので、電気特性の悪影響を防止でき且つ簡易に組み立てできる。
【0022】
このように、組み立てたピルボックス窓1(
図1参照)は、導入側矩形導波管5に対する導出側矩形導波管7の回転角(ずれ)θ(
図14参照)を防止でき、回転角(ずれ)θを1°以下に制限することができた。
【0023】
即ち、
図9(a)に示すように、ピルボックス窓1(
図1参照)は、空洞50に対して水平方向に設置される場合や、
図9(b)に示すように空洞50に対して垂直に設置される場合があり、
図9(a)の水平に設置される場合には、導入側矩形導波管5と導出側矩形導波管7を水準器等で平行となるように管理しつつ組み立てており、
図9(b)に示すように垂直に設置される場合には、水準器等の測定が不可能であり、目視のみで設置される。その際、高周波透過率(VSWR)の測定及び管理をしつつ組み立てて設置することになり、従来は組み立てや設置に手間がかかっていた。しかし、本願発明にかかるピルボックス窓1によれば、導入側矩形導波管5と導出側矩形導波管7の回転方向の誤差の原因を溶接用つば17の孔22と治具本体35aのピンの径の誤差及び、部品公差またはケガキ線の公差のみに限定することができ、確実に、回転方向の取り付けずれ(誤差)θを1°以下に確実に制限する事を可能となる。これにより、高周波透過率(VSWR)の変動を設計値±0.01以内に抑え、ピルボックス窓を接続する空洞50の品質の安定化が可能となる。
【0024】
ここで、
図14~
図17を参照して、導入側矩形導波管5と導出側矩形導波管7とのずれ角(回転角)θと、高周波透過率(VSWR)の変動との関係について、説明する。
図14は、導入側矩形導波管5と導出側矩形導波管7とにおける回転方向のずれ角θを示している。
図15には、ずれ角θが0の場合、θが2.5°の場合、θが5°の場合、θが7.5°の場合、θが10°の場合の各回転位置において、VSWRの周波数依存性のシミュレーション結果を示している。この
図15では、横軸を周波f、縦軸をVSWRとしたものであり、設計周波数(Design frequency)上におけるVSWRの設置角度依存性を示すものである。
図16には、横軸にずれ角(回転角)θ、縦軸にVSWRを取り、
図15に示す設計周波数(Design frequency)での各VSWRをプロットしたものである。
これらの
図15及び
図16からずれ角(回転角)θが大きくなると、それに伴ってVSWRが基準となる1から大きく変動することがわかる。
【0025】
図17に空洞50(
図9参照)の幾何構造を一定とし、誘電体気密窓(RF窓)9(
図1参照)のVSWRを振った場合の空洞パラメータのQ値(クオリティー値)、シャントインピーダンスR、共振周波数fをそれぞれVSWR=1の値で、1に規格化した値のグラフを示す。横軸にVSWR、縦軸に各f、R,Qの各相対比を取っている。
【0026】
これらの結果より、ピルボックス窓1(
図1参照)は導入側矩形導波管5に対する導出側矩形導波管7の回転方向の取り付け角度(ずれ角)θによりVSWRが変化し、
図17に示すように、ピルボックス窓のVSWRの変動は空洞50のQ値及びシャントインピーダンスRに大きく影響を与える問題が発生する事が確認できる。
【0027】
したがって、本実施形態にかかるピルボックス窓1によれば、ずれ角θを1°以内に抑えることができるから、回転方向のずれ角θに起因するVSWRの変動を±0.01以内に抑制するとともに、アセンブリに時間をかけずに一定内の品質で仕上げる事ができる。
【0028】
以下に他の実施の形態について説明するが、以下に説明する実施の形態において、上述した第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付して、その部分の詳細な説明を省略する。
図10~
図13を参照して、第2実施の形態について説明する。
図10に示すように、この第2実施の形態では、一方及び他方の溶接用つば15、17に第1実施形態の孔22に変えて溝24を形成している。
溝24は、矩形の凹み状に形成されており、この実施形態では周方向に等間隔で3か所に形成されている。
図11に示すように、導入側接続板11には、第1実施形態と同様に、導入側矩形導波管5の嵌め込み部5aを基準とした少なくとも2本のケガキ線K(図中破線で示す)が形成され、一つのケガキ線は篏合用凹部11bに対応する位置に形成されている。
【0029】
図12に示すように、回転規制治具35は、板状の治具本体35aと、溝24に嵌合する嵌合突部35bとを備えている。治具本体35aには、溶接用つば15、17の外周に沿う円弧状部35cが形成されている。嵌合突部35bは円弧状部35cから突設して形成されている。
また、治具本体35aには、トルク規制部材41の中間部41c(
図13参照)が挿通される大径の規制部材挿通孔45aと、締付具43のネジ軸43a(
図13参照)が挿通される小径のネジ軸挿通孔45bが形成されている。
【0030】
第2実施形態におけるピルボックス窓1の製造方法では、
図13に示すように、一方の溶接用つば15と、他方の溶接用つば17とを互いに溝24(
図10参照)が一致するように重ね合わせ、対向する溝24、24に回転規制治具35の嵌合突部35bを溶接用つば15、17の外周側から嵌合させる。
【0031】
次に、治具本体35aのネジ軸挿通孔45b(
図12参照)にネジ軸43aを挿通し、規制部材挿通孔45a(
図12参照)にトルク規制部材41の中間部41cを挿通し、一方の挟持体39aを導入側接続板11の導入側面11aに配置し、他方の挟持体39bを導出側接続板13の導出側面13aに配置して、各挟持体39a、39bに対応するトルク規制部材41の端部41a、41bを挿通すると共にネジ軸43aの端部を挿通して、ナット43bで締め付ける。
その後、第1実施形態と同様に、溶接用つば15、17の溝24(
図10参照)及びその周囲を除いて溶接し(第1溶接工程)、次に、トルク付与治具37及び回転規制治具35を溶接用つば15、17から外し(治具除去工程)、溶接用つば15、17の溝24(
図10参照)及びその周囲を溶接する(第2溶接工程)。
この第2実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0032】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0033】
例えば、溶接用つば15、17に形成する孔22や溝24の数は3つに限らず、周囲方向に4つ、6つ等、いくつ形成しても良い。また、孔22の形状は丸に限らず、矩形や六角形であっても良く形状は制限されない。同様に、溝24は矩形に限らず、円弧であっても良い。